以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態のハイブリッド車に用いる複リンク型レシプロ式エンジンの概略構成図である。
このエンジンは圧縮比可変機構、具体的にはピストン行程を変化させて圧縮比を変更する機構を備えている。なお、圧縮比可変機構を備えるこのエンジンは、本出願人が先に提案したものであるが、例えば特開2001−227367号公報等によって公知となっているので、その概要のみを説明する。
クランクシャフト2には、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック1内の主軸受(図示しない)に回転可能に支持されるクランクジャーナル3が各気筒毎に設けられている。各クランクジャーナル3は、その軸心Oがクランクシャフト2の軸心(回転中心)と一致しており、クランクシャフト2の回転軸部を構成している。
また、クランクシャフト2は、軸心Oから偏心して各気筒毎に設けられたクランクピン4と、クランクピン4をクランクジャーナル3へ連結するクランクアーム4aと、軸心Oに対してクランクピン4と反対側に配置され、主としてピストン運動の回転1次振動成分を低減するカウンターウェイト4bとを有している。クランクアーム4aとカウンターウェイト4bとは、この実施形態では一体的に形成されている。
そして本実施形態では、各気筒毎に形成されたシリンダ10に摺動可能に嵌合するピストン9と、上記のクランクピン4とが、複数のリンク部材、すなわちアッパーリンク6(第1のリンク)とロアーリンク5(第2のリンク)とにより機械的に連携されている。アッパーリンク6の上端側は、ピストン9に固定的に設けられたピストンピン8(第1のピン)に、軸心Oc周りに相対回転可能に外嵌している。また、アッパーリンク6の下端側とロアーリンク5の、ほぼ二等分された一方の本体5aとは、両者を挿通する連結ピン7(第2のピン)によって、軸心Od周りに相対回転可能に連結されている。
ロアーリンク5は、クランクピン4を狭持するように、2つの本体5a、5bを取付けて構成されており、この狭持部分でクランクピン4と軸心Oe周りに相対回転可能に装着されている。ほぼ2等分された他方のロアーリンク本体5bと制御リンク11(第3のリンク)の上端側とは、両者を挿通する連結ピン12(第3のピン)によって軸心Of周りに相対回転可能に連結されている。
この制御リンク11の下端側は、シリンダブロック1に回動可能に支持される、偏心カム部14を有するコントロールシャフト13に、その軸心Ob(シリンダブロックに設けられた支点)周りに揺動可能に外嵌,支持されている。すなわち、コントロールシャフト13の外周には偏心カム部14が回転可能に設けられており、偏心カム部14の軸心Oaは、コントロールシャフト13の軸心Obに対して所定量偏心している。この偏心カム部14は、ウォームギア15を介して圧縮比制御アクチュエータ16によって、機関の運転状態に応じて回動制御されるとともに、任意の回動位置で保持されるようになっている。圧縮比制御アクチュエータ16としては電動機を使用することが好ましい。高温条件での動作が必要な場合は電動機をSRM(スイッチドリラクタンスモータ)とし、電動機負荷として高トルクが必要な場合はIPM(インターナルパーマネントモータ)とすることが好ましい。
このような構成により、クランクシャフト2の回転に伴って、クランクピン4,ロアーリンク5,アッパーリンク6及びピストンピン8を介してピストン9がシリンダ10内を昇降するとともに、ロアーリンク5に連結する制御リンク11が、下端側の揺動軸心Obを支点として揺動する。
また、上記の圧縮比制御アクチュエータ16により偏心カム部14を回動制御することにより、制御リンク11の揺動軸心となるコントロールシャフト13の軸心Obが偏心カム部14の軸心Oa周りに回転し、つまり制御リンク11の揺動中心位置Obが機関本体(及びクランクシャフト回転中心O)に対して移動する。これにより、ピストン9の行程が変化して、エンジンの各気筒の圧縮比が可変制御される。参考として、図2に、ピストン上死点位置における3つのリンク6、5、11の姿勢を模式的に示すと、図2上段左側は高圧縮比位置での、図2上段右側は低圧縮比位置での各リンク姿勢である。高圧縮比時において、コントロールシャフト13の挙動により、制御リンク11は比較的下げられた位置にある。ロアーリンク5は傾斜が大きく、アッパーリンク6を持ち上げている。低圧縮比化する場合、コントロールシャフト13を制御リンク11を下げる方向に回転させる。ロアーリンク5の傾斜が小さくなり、アッパーリンク6が下がり、上死点位置も下がり圧縮比が下がる。
図2下段に高圧縮比時と低圧縮比時の制御リンク11とコントロールシャフト13の拡大図を示す。燃焼圧によりピストン9が推力を受けるとコントロールシャフト13に図2下段において反時計回りに負荷トルクが発生する。負荷発生時に低圧縮比から高圧縮比へ変更する場合、圧縮比制御アクチュエータ16(電動機)により負荷トルク以上のトルクを時計回りに発生させる。逆に、負荷発生時に高圧縮比から低圧縮比へ変更する場合において摩擦抵抗以上の負荷トルクが発生しているとき、圧縮比制御アクチュエータ16(電動機)でトルクを発生することなく低圧縮比へと変化する。
この圧縮比可変機構の最大の特長はコントロールシャフト13の角位置制御により、ピストン9の上死点位置(燃焼室容積)を変えられる点に有り、いわゆる圧縮比可変機構としての機能を発揮する。また、図3に示すように、ピストンストローク特性が単振動に近づけられるため、上下死点での加速度が略同一となり、バランサシャフトが不要(4気筒)となるような振動低減効果がある。あるいはピストンストローク特性として、上死点側のピストン加速度が下死点側のピストン加速度よりも小さくなるような設定が可能となる。このようなピストン加速度特性は、前述のような複数のリンク部材からなるマルチリンク機構であれば得られるものであって、圧縮比(ピストン上死点位置)を可変とするか否かによるものではない。このようなピストンストローク特性は、単一のコンロッドによりクランクシャフトとピストンとが連結された従来の一般的なエンジンに比べて、上死点近傍のピストン滞在時間を長くすることになっている。
図4は、圧縮比可変機構を有するエンジンを用いたミラーサイクルエンジンの制御システムの概略構成図である。エンジンの負荷と回転速度の信号が入力されるエンジンコントロールユニット39では、その入力されるエンジンの負荷と実エンジン回転速度から目標圧縮比のマップ51を検索することにより、そのときの負荷と実エンジン回転速度に応じた目標圧縮比を算出し、その算出した目標圧縮比が得られるように、圧縮比制御アクチュエータ16に与える制御量(圧縮比可変機構への駆動量)を制御する。図5は目標圧縮比のマップ内容を示すものである。図5に示したように、低負荷になるほど燃費の向上を狙い目標圧縮比として最大で22を設定している。ノックの発生しやすい全負荷領域になると、目標圧縮比として最低の10を設定する。なお、本発明のエンジンはガソリンエンジンであるため、エンジンコントロールユニット39では、点火進角制御装置52を介して所定のタイミングで燃焼室内の混合気に対して火花点火を実行する。
ミラーサイクルを実現するための可変動弁機構は、図6、図7に示したように、吸気弁のリフトを変化させ得るリフト可変機構21(可変バルブリフト機構)と、吸気弁が最大リフトを迎えるクランク角度位置(この吸気弁のクランク角度位置を、以下「吸気弁のリフト中心角」という。)の位相(図1に示したクランクシャフト2に対する位相)を進角側もしくは遅角側に変化させ得る位相可変機構41(可変バルブタイミング機構)とが組み合わされて構成されている。このうち、図6はリフト可変機構21及び位相可変機構41の概略斜視図である。
図7はリフト可変機構21の概略断面図である。ここで、図7上段は吸気弁のゼロリフト時に、後述する揺動カム29が最小揺動時と最大揺動時とでどのような位置にあるのか、また図7下段は吸気弁のフルリフト時に、後述する揺動カム29が最小揺動時と最大揺動時とでどのような位置にあるのかをそれぞれ示している。ここで、吸気弁のゼロリフトとは、吸気弁31がリフトしない(つまり吸気弁のリフトはゼロ)ことを、また吸気弁のフルリフトとは、吸気弁31が最大のリフトとなることをいう。
なお、この可変動弁機構は、本出願人が先に提案したものであるが、例えば特開2002−256905号、特開平11−107725号公報等によって公知となっているので、その概要のみを説明する。
まず、リフト可変機構21を説明する。リフト可変機構21は、シリンダヘッド(図示しない)に摺動自在に設けられる吸気弁31と、シリンダヘッド上部のカムブラケット(図示しない)に回転自在に支持される駆動軸22と、この駆動軸22に、圧入等により固定される偏心カム23と、上記駆動軸22の上方位置に同じカムブラケットによって回転自在に支持されると共に駆動軸22と平行に配置される制御軸32と、この制御軸32の偏心カム部38に揺動自在に支持されるロッカアーム26と、吸気弁31の上端部に配置されているバルブリフタ30に当接する揺動カム29とを備えている。上記偏心カム23とロッカアーム26とはリンクアーム24によって、またロッカアーム26と揺動カム29とはリンク部材28よってそれぞれ連係されている。
なお、図6には1気筒当たり2つの吸気弁を備える多気筒内燃機関のうち一気筒分で代表させて示している。従って、吸気弁31とバルブリフタ30と揺動カム29とが2つずつ描かれている。
上記の駆動軸22は、後述するように、タイミングチェーンないしはタイミングベルトを介して図1に示したエンジンのクランクシャフト2によって駆動されるものである。
円形外周面を有する上記偏心カム23はその外周面の中心が駆動軸22の軸心から所定量だけオフセットされ、偏心カム23の外周面にリンクアーム24の環状部が回転可能に嵌合している。
上記のロッカアーム26は、略中央部が上記偏心カム部38によって揺動可能に支持され、その一端部(図7上段左側の図において右端部)に連結ピン25を介して上記リンクアーム24のアーム部が連係し、他端部(図7上段左側の図において左端部)に連結ピン27を介して上記リンク部材28の上端部がそれぞれ連係している。上記偏心カム部38は、制御軸32の軸心から偏心し、従って制御軸32の回転角度位置に応じてロッカアーム26の揺動中心が変化することとなる。
上記の揺動カム29は、駆動軸22の外周に嵌合して回転自在に支持され、側方へ延びた端部に連結ピン37を介して上記リンク部材28の下端部が連係している。この揺動カム29の下面には、駆動軸22と同心状の円弧をなす基円面と、その基円面から所定の曲線を描いて延びるカム面とが連続して形成され、これらの基円面ならびにカム面が、揺動カム29の揺動位置に応じてバルブリフタ30の上面に当接している。すなわち、上記基円面はベースサークル区間として、吸気弁31のリフト量(及び吸気弁の作動角)がゼロとなる区間であり、揺動カム29が揺動してカム面がバルブリフタ30に接触すると、徐々に吸気弁31が下方にリフトしていくことになる。なお、ベースサークル区間とリフト区間との間には若干のランプ区間が設けられている。
上記の制御軸32は、図6に示すように、一端部に設けられたリフト制御用アクチュエータ33によって所定角度範囲内で回転するように構成されている。このリフト制御用アクチュエータ33は、例えば制御軸32の後端部に設けられている部材34の一部であって制御軸32の軸心から所定量オフセットされた位置より突出するピン34aと、プランジャ35bの先端に設けられたくちばし状の爪35aとの係合を介して、制御軸32を回転させる油圧アクチュエータ35と、この油圧アクチュエータ35への供給油圧を制御する第1油圧装置(例えば油圧制御弁)36とからなり、第1油圧装置36は、エンジンコントロールユニット39からの制御信号によって制御される。なお、制御軸32の回転角度は、図示しないリフト量センサ(回転角センサ)によって検出される。
このリフト可変機構21の作用は次のようなものである。
駆動軸22がクランクシャフト2により回転すると、偏心カム23のカム作用によってリンクアーム24が上下動し、これに伴ってロッカアーム26が揺動する。このロッカアーム26の揺動は、リンク部材28を介して揺動カム29へ伝達され、この揺動カム29が揺動する。この揺動カム29のカム作用によって、バルブリフタ30が押圧され、吸気弁31が下方にリフトする。
ここで、リフト制御用アクチュエータ33を介して制御軸32の回転角度が変化すると、ロッカアーム26の初期位置が変化し、ひいては揺動カム29の初期揺動位置が変化する。
例えば、図7上段にも示したように、偏心カム部38が図の上方へ位置している場合には、ロッカアーム26は全体として上方へ位置し、揺動カム29の連結ピン37側の端部が相対的に上方へ引き上げられた状態となる。つまり、揺動カム29の初期位置は、そのカム面がバルブリフタ30から離れる方向に傾く(図7上段の左側参照)。従って、駆動軸22の回転に伴って揺動カム29が揺動した際に、基円面が長くバルブリフタ30に接触し続け、カム面がバルブリフタ30に接触する期間は短い。従って、吸気弁31のリフト量が全体として小さくなり(図7上段の右側参照)、かつ吸気弁31の開時期から閉時期までのクランク角度区間(つまり吸気弁の作動角)も縮小する。
この逆に、図7下段にも示したように、偏心カム部38が図の下方へ位置している場合には、ロッカアーム26は全体として下方へ位置し、揺動カム29の連結ピン37側の端部が相対的に下方へ押し下げられた状態となる。つまり、揺動カム29の初期位置は、そのカム面がバルブリフタ30に近付く方向に傾く(図7下段の左側参照)。従って、駆動軸22の回転に伴って揺動カム29が揺動した際に、バルブリフタ30と接触する部位が基円面からカム面へと直ちに移行する。従って、吸気弁31のリフト量が全体として大きくなり(図7下段の右側参照)、かつ吸気弁の作動角も拡大する。
上記の偏心カム部38の初期位置は連続的に変化させ得るので、これに伴って、吸気弁31のバルブリフト特性は連続的に変化する。つまり、図8に示したように吸気弁31のリフト(吸気弁31のリフト量及び吸気弁31の作動角)を、両者同時に連続的に拡大、縮小させることができる。各部のレイアウトによるが、例えば、吸気弁31のリフト量及び吸気弁31の作動角の大小変化に伴い、吸気弁31の開時期と閉時期とがほぼ対称に変化する。
次に、位相可変機構41は、図6に示すように、上記の駆動軸22の前端部に設けられるスプロケット42と、このスプロケット42と上記駆動軸22とを、所定の角度範囲内において相対的に回転させる位相制御用アクチュエータ43とから構成されている。上記スプロケット42は、図示しないタイミングチェーンもしくはタイミングベルトを介して、図1に示したクランクシャフト2に連動している。
上記位相制御用アクチュエータ43は、例えば油圧式の回転型アクチュエータ44と、この油圧アクチュエータ44への供給油圧を制御する第2油圧装置(例えば油圧制御弁)45とからなり、第2油圧装置45は、エンジンコントロールユニット39からの制御信号によって制御される。この位相制御用アクチュエータ43の作用によって、スプロケット42と駆動軸22とが相対的に回転し、吸気弁31のリフト中心角がクランク角に対して遅れたり進んだりする。つまり、吸気弁31のリフト特性の曲線自体は変わらずに、全体が進角もしくは遅角する。また、このときの進角側や遅角側への各変化も、連続的に得ることができる。この位相可変機構41の制御状態は、駆動軸22の回転位置に応答する図示しない吸気弁位相角センサによって検出される。
なお、リフト可変機構21ならびに位相可変機構41の制御としては、リフト量センサ(回転角センサ)、吸気弁位相角センサの各センサの検出値に基づくクローズドループ制御に限らず、運転条件に応じて単にオープンループ制御するだけでもかまわない。
上記のバルブリフタ30は、公知の油圧式バルブクリアランス調整機構を内蔵しており、実質的にバルブクリアランスが常にゼロに維持される。
このようなリフト可変機構21と位相可変機構41とからなる可変動弁機構を備えた本発明のエンジンは、スロットル弁に依存せず、吸気弁31の開閉を制御することによって吸入空気量が制御される。なお、実用エンジンでは、ブローバイガスの還流等のために吸気系に若干の負圧が存在していることが好ましいので、図示していないが、吸気通路の上流側に、スロットル弁に代えて、負圧生成用の適宜な絞り機構を設けることが望ましい。
さて、上記のリフト可変機構21によれば、原理的に図8に示すように吸気弁31の閉時期の変化に伴い、吸気弁31の開時期も変化する(吸気弁31の閉時期を早めると、吸気弁31の開時期が遅れる)特性となるため、位相可変機構41と組み合わせて用いることにより、任意のクランク角度位置における吸気弁31の開閉制御が可能となっている。
そこで、リフト可変機構21及び位相可変機構41からなる可変動弁機構を用いて、低負荷時に吸気弁閉時期を制御することにより、吸気弁31の作動角を吸気弁閉時期が固定されているエンジンの場合より大幅に縮小し、吸気弁31の閉時期を早め、吸気行程の半ばに吸入を停止して下死点BDC前後では吸気を膨張・圧縮させることにより、実際に有効な吸入ストロークを変化させ、吸入時の吸気圧力を有効ストロークに略反比例させる形で大気圧に近づけ、ポンプ損失の低減を図る。これはミラーサイクルであり、既に良く知られている。
このとき、吸気弁31の閉時期が下死点BDCよりも大幅に早くなるため、シリンダ内の吸気は吸入行程にも拘わらず、下死点BDCまで断熱膨張をすることになり、シリンダ内圧力の低下に伴い、図示しないシリンダ内温度も低下する。下死点BDCを過ぎると圧縮行程が開始するが、断熱膨張が開始したシリンダ内圧力までは断熱膨張、圧縮に近く、単なるシリンダ内圧力の復帰に過ぎないから、シリンダ内圧力の復帰時点から圧縮が実際には開始することになる。そのため、実圧縮比としては吸気弁閉時期が早まるにつれて大幅に低下する。この実圧縮比の低下は圧縮上死点TDCでの大幅なシリンダ内混合気温度の低下を伴うため、そのままでは燃焼状態が悪化し、燃焼速度が低下する。このため、ポンプ損失が低下したほどには燃費の改善効果が得られない。このように可変動弁機構を用いて吸気弁閉時期を早めたときにはポンプ損失が低減される一方で、圧縮温度が低下して燃焼状態が悪化する。つまり、ポンプ損失の低減と、圧縮温度低下による燃焼悪化とはトレードオフの関係に立っている。
そこで、可変動弁機構を用いて吸気弁31の閉時期を早めた場合にも、ポンプ損失の低減効果が損なわれないようにするため、図1に示した圧縮比可変エンジンを用いて、低負荷時に圧縮比を高くする一方、熱負荷の高い条件で圧縮温度が上昇しノッキングが発生することが懸念されるため高負荷時に圧縮比を下げることとする。つまり、図4に示したようにミラーサイクルに圧縮比可変機構を有するエンジンを組み合わせた全体としても、図5に示した目標圧縮比のマップを用いる。
図9はエンジンコントロールユニット39(エンジンコントローラ)に入力されるセンサ信号と、エンジンコントローラ39から出力される制御信号とをまとめたものである。
ここでは圧縮比制御アクチュエータ16を電動機で構成しているので、電動機の電流と電圧を制御することで電動機の回転速度とトルクを制御する。この場合に、電動機回転角センサからのコントロールシャフト13の回転角(電動機回転角)と、電動機負荷センサからの電動機負荷(電動機の負荷状態である電流値Amや電圧値Vm)とをフィードバック信号として用いる。電動機負荷としては圧縮比制御アクチュエータ16に与える電流指令値を使用することも考えられる。
また、リフト量センサからのリフト可変機構21のリフト量と、吸気弁位相角センサからの吸気弁31の位相角とは、前述のようにリフト可変機構21ならびに位相可変機構41の制御に際してフィードバック信号として用いられる。上記負圧生成用の適宜な絞り機構としての常開のスロットル弁61が吸気通路に設けられ、負圧生成が必要なときに必要な開度まで閉じられる。スロットルセンサからのスロットル開度の信号は、このスロットル弁61の開度制御に際してフィードバック信号として用いられる。残りの構成は、圧縮比可変機構と可変動弁機構とをいずれも備えないエンジンの場合と同じである。すなわち、エアフローメータからの吸入空気量の信号、アクセルセンサからのアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)の信号、クランク角センサのクランクシャフトの回転角の信号、水温センサからの冷却水温の信号、空燃比センサからの空燃比の信号、ノックセンサからの信号がエンジンコントローラ39に入力されており、エンジンコントローラ39では、これらの信号に基づいて点火プラグ62に対し点火時期制御信号を出力することにより点火時期を、燃料噴射弁63に対し空燃比制御信号を出力することにより燃料噴射量、燃料噴射タイミングを制御する。センサ信号から制御信号を生成するエンジンコントローラ39は各アクチュエータを操作するためのドライバーを備えることが一般的である。
図10はハイブリッド車の概略構成図である。図10において201は上記圧縮比可変機構を有するエンジンを用いたミラーサイクルエンジンである。このエンジン201はスタータと発電機の機能を有するスタータ・ジェネレータ(図では「S/G」で表記)202により始動される。このスタータ・ジェネレータ202は主にエンジン201の始動に用いられる。
211は有段自動変速機で、第一入力軸212、第二入力軸213、ツインクラッチ、変速段からなっている。
ツインクラッチは第一クラッチ215と第二クラッチ216とで構成される。第二クラッチ216はエンジン201と第二入力軸213との間の動力を伝達したり遮断したりする。第一クラッチ215はエンジン201と第一入力軸212との間の動力を伝達したり遮断したりする。また、第一入力軸212はモータジェネレータ221(図では「MG」で表記)とも接続し、第一クラッチ215はエンジン201とモータジェネレータ221との動力の伝達および遮断も行う。
変速段F1は1速段、変速段F3は3速段、変速段F5は5速段である。3つの変速段F1、F3、F5は第一入力軸212に配置され奇数段を構成し、モータジェネレータ221の変速段としても利用する。奇数段にモータジェネレータ221を配置することでモータジェネレータ221の発生するトルクに対して大きな減速比を設定できるため、車両発進時の駆動トルクを大幅に向上させることが可能となり運転者の意図する車両駆動力を実現できる。また、高速走行時のモータジェネレータ221による駆動力アシストまたは最高車速時の最高回転速度に対応できるモータジェネレータとして高回転型のものを適用できるため、従来よりも体格が小さくなり重量、車両搭載能力が大幅に向上可能となる。
変速段F2は2速段、変速段F4は4速段、変速段F6は6速段、変速段Rはリバース段である。3つの変速段F2、F4、F6は第二入力軸213に配置され偶数段を構成する。リバース段Rは奇数段または偶数段の車両構成で邪魔にならないように配置する。
なお、奇数段(F1、F3、F5)を用いるときには第一クラッチ215を接続すると共に第二クラッチ216を切断し、また偶数段(F2、F4、F6)やリバース段を用いるときには第二クラッチ216を接続すると共に第一クラッチ215を切断することとなる。
7つの各変速段F1、F2、F3、F4、F5、F6、Rは同期装置を持ったクラッチ要素により第一入力軸212または第二入力軸213と回転速度を同期させつつ締結される。
7つの各変速段F1、F2、F3、F4、F5、F6、Rで減速されたエンジン201の動力はデファレンシャルギア222に伝達され左右輪223で路面に駆動力を伝達する。各変速段F1、F2、F3、F4、F5、F6、Rで減速されたエンジン201の動力を前後輪に配分することで大きな車両駆動力を発生する4WD構成としてもかまわない。偶数段内の各変速段の順序は搭載性を考慮して変更してもかまわない。奇数段に関しても同様である。
上記のモータジェネレータ221はバッテリ226(蓄電装置)の直流をインバーター227で交流にした電力で運転する。車両制動時はモータジェネレータ221に奇数段(F1、F3、F5)を介して制動トルクを伝達させ、モータジェネレータ221で制動エネルギを回収する。回生制動時は第一クラッチ215と第二クラッチ216はともに開放し、エンジンブレーキ相当の減速力を発生させる。
さて、このようなハイブリッド車において、低負荷状態から高負荷状態への加速を行うと圧縮比が高圧縮比から低圧縮比へと変化する。このとき、圧縮比可変機構の応答遅れに伴い実圧縮比が目標圧縮比から大きく離れていると、ノッキングが発生することが考えられる。このため、従来例では、車両の走行中において圧縮比が大から小へと変更される加速時に、所定時間変速機のギヤ比を加速直前のギヤ比から低速度側(1速段側)のギヤ比へと切換えて実エンジン回転速度を上昇させ、これによってノッキングを防止するようにしている。
これについて図11を参照して説明すると、図11はゼロでない所定の速度でハイブリッド車を走行させている状態からt1のタイミングでアクセル開度APOをステップ的に大きくした加速時の変化をモデル的に示している。図11はあくまでモデルであるので、簡単のため無段変速機の場合で考える。また、従来例を一点鎖線で、後述する本発明の場合を実線で示している。
t1でのアクセル開度APOのステップ変化により車両駆動力は、アクセル開度のステップ変化前の値である所定値T1からステップ変化後のアクセル開度に応じた値である所定値T2へと大きくなる。目標圧縮比tCRは、ステップ変化前の値である所定値CR1から小さくなりt3のタイミングでステップ変化後のアクセル開度に応じた値である所定値CR2へと落ち着く。
しかしながら、圧縮比可変機構には応答遅れがあるため、実圧縮比rCRは破線で示したように目標圧縮比tCRから、t1よりt5の直前までの期間で乖離している。なお、t5のタイミングで実圧縮比rCRと目標圧縮比tCRの差が許容範囲に収まるものとしているので、実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRから乖離する期間の終期は実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRと一致するt7のタイミングではなくt5のタイミングである。
このように、実圧縮比が目標圧縮比より大きく乖離しているt1〜t5の期間で実エンジントルクを急激に上昇させたのでは、ノッキングが生じることが考えられるため、従来例では、変速機の変速でノックを回避するようにしている。すなわち、t1のタイミングから実エンジントルクを抑制しつつ変速機のギヤ比を加速前より大きくしてゆき(1速段側にする)、実エンジン回転速度Neをノッキングが起こり難い高回転速度である所定値N2へと急上昇させている。
そして、実車両駆動力が目標車両駆動力に落ち着くt3のタイミングからはノッキングが生じることはないので、t3のタイミングより加速前のギヤ比に戻すためギヤ比を小さくしてゆくこととなる。これにより実エンジン回転速度Neも徐々に低下してゆく。
しかしながら、このような従来例の方法だと、変速機構の作動に伴う機械的な遅れにより、t1〜t3の期間で加速が遅れてしまう(図11最上段の一点鎖線参照)。また、t1〜t3の期間で変速機の変速幅が大きいため変速機アクチュエータの損失が大きくなり燃費が悪化する。
そこで本発明では、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態であるか否かを検出し、この検出した圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態に応じて、エンジン出力の一部をモータジェネレータ221に分担させるモータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)と、このモータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)だけ少ないエンジン201への出力分担量(tPw1)とを決定し、このモータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)に応じてモータジェネレータ221を制御すると共に、エンジン201への出力分担量(tPw1)に応じてエンジン運転状態の目標値(tNe、tTe2)を決定し、この決定したエンジン運転状態目標値となるようにエンジン201を制御する。
この本発明におけるノッキング防止制御を図12、図13の制御ブロック図を参照して詳述する。
図10に示したハイブリッド車に対して、図示しないがハイブリッド車の制御系は、上記のエンジンコントローラ39と、モータコントローラと、パワーコントローラと、バッテリ226と、ブレーキコントローラと、自動変速機コントローラと、統合コントローラとを有して構成されている。図12、図13はいずれも統合コントローラにおいて行われる制御動作をブロックで示すものである。ここで、エンジンコントローラ39からは吸気弁閉時期IVC、アクセルセンサにより検出されるアクセル開度APO、クランク角センサにより検出される実エンジン回転速度Ne、エアフローメータにより検出される吸入空気量の各情報が、自動変速機コントローラからは車速センサにより検出される車速Vsp、変速比の各情報が、モータコントローラからはバッテリ226の充電状態を表すSOC(State of Charge)、回転速度センサにより検出されるモータジェネレータ221の回転速度Nmの各情報が統合コントローラにもたらされている。
実施形態では、有段の自動変速機211を備えるハイブリッド車で説明するが、これに限定されるものでなく、ベルト式やトロイダル式の無段自動変速機を備えるハイブリッド車に対しても適用がある。
まず、図12は、定常運転状態、過渡運転状態に関係なく、目標車両駆動力を実現する、目標エンジントルクtTe及び目標モータジェネレータパワーtPmを演算するためのものである。
図12において、目標車両駆動力演算部81では、車速Vspとアクセル開度APOとから所定のマップを検索することにより、目標車両駆動力を演算する。目標車両駆動力は、車速Vspが一定の条件でアクセル開度APOが大きくなるほど大きくなり、またアクセル開度APOが一定の条件で車速Vspが高くなるほど小さくなる値である。
車両トルク換算部82ではこの目標車両駆動力に所定値を乗算することにより目標車両トルクを演算する。エンジン配分率演算部83ではこの目標車両トルクからエンジン配分率を演算する。エンジン配分率は、目標車両トルクが第1所定値Pv0未満でゼロ(最小値)である。また、第1所定値Pv0以上の領域になると目標車両トルクに比例して大きくなり、目標車両トルクが第2所定値Pv1以上で1(最大値)となる。
乗算器84ではこのようにして求められるエンジン配分率に目標車両トルクと1/変速比とを乗算することによってエンジン配分トルクを求める。ここで、変速比は、自動変速機コントローラにおいて車速Vspとアクセル開度APOから所定の変速比マップを検索することにより演算されている。
エンジン最大トルク演算部85では実エンジン回転速度Neから所定のテーブルを検索することにより、そのときの実エンジン回転速度Neで発生し得るエンジン最大トルクを演算する。小側選択部86では、このエンジン最大トルクと上記のエンジン配分トルクとを比較し、小さい側のトルクを目標車両駆動力を実現するための目標エンジントルクtTeとして出力する。これは、エンジン配分トルクがエンジン最大トルクを超えている場合には、エンジン配分トルクがエンジン最大トルクに制限されてしまうため、エンジン配分トルクを目標エンジントルクtTeとすることはできず、エンジン最大トルクを目標エンジントルクtTeとするしかないためである。
従って、エンジン配分トルクがエンジン最大トルクを超えている場合には、エンジン配分トルクよりエンジン最大トルクを差し引いたトルク分だけ小さい値が目標エンジントルクtTeとなってしまうため、このときには目標車両駆動力が得られなくなる。そこで、減算器89ではエンジン配分トルクが目標エンジントルクtTeを上回っている場合にだけエンジン配分トルクから目標エンジントルクtTeを差し引いて差分トルクを算出し、乗算器90でこの差分トルクにエンジン回転速度Neを乗算して差分パワーを算出する。すなわち、差分パワーは、エンジン配分トルクがエンジン最大トルクに制限されるために不足するパワー分を表すので、加算器91ではこの差分パワーを、乗算器88からのモータジェネレータ配分パワーに加算した値を目標モータジェネレータパワーtPm(第1モータジェネレータパワー)として出力する。これにより、エンジン配分トルクがエンジン最大トルクに制限されることがあっても、目標車両駆動力を実現することができる。
一方、減算器87では1からエンジン配分率を差し引くことによってモータジェネレータ配分率を算出し、乗算器88でこのモータジェネレータレータ配分率に目標車両トルク、1/変速比、モータジェネレータ回転速度Nmを乗算することにより、モータジェネレータ配分パワーを算出する。
このようにして、定常運転状態、過渡運転状態に拘わらず、目標車両駆動力を実現する目標エンジントルクtTe及び目標モータジェネレータパワーtPmが得られる。
次に、図13は本発明のノッキング防止装置のブロック図である。ここでは、実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRから大きく乖離することになる加速時を例にとり説明する。
ただし、本発明は加速時に限定されるものでない。例えば、圧縮比制御アクチュエータ16に低圧縮とすることの指令が出ているのに圧縮比可変機構の劣化で低圧縮比にならない状態のときにも実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRから大きく乖離するので、本発明の適用がある。
図13において、101は、実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRから大きく乖離する加速時にノックしないエンジントルクまで下げ、このエンジントルクの低下で加速初期に不足することになる車両駆動力の分をモータジェネレータ221により発生させる処理を行う処理部である。エンジンントルクリミット演算部102、小側選択部103、乗算器104、乗算器105、減算器106から構成されている。
エンジンントルクリミット演算部102では、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態を検出するためのパラメータである実圧縮比rCRと、実エンジン回転速度Neとから所定のトルクリミットマップを検索することにより、エンジントルクリミットtTe lmtを演算する。ここで、エンジントルクリミットtTe lmtは、実エンジン回転速度Neと実圧縮比rCRのときにノックが発生しない最大のエンジントルクである。実エンジン回転速度Neが一定の条件のとき、実圧縮比rCRが大きくなるほどエンジントルクリミットtTe lmtは小さくなる。その理由は、実圧縮比rCRが高いほどノックが発生しやいので、エンジントルクを下げる必要があるためである。また、実圧縮比rCRが一定の条件のとき、実エンジン回転速度Neが小さくなるほどエンジントルクリミットtTe lmtは小さくなる。その理由は、実エンジン回転速度Neが低いほどノックが発生し易いので、エンジントルクを下げる必要があるためである。
これにより、加速時に圧縮比可変機構の応答遅れにより実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRより遅れて小さくなる場合であっても、その遅れて小さくなる実圧縮比rCRに対してエンジン201がノッキングを起こさないで発生できるエンジントルク(tTe lmt)を演算することが可能となっている。
上記の実圧縮比rCRは統合コンローラが図示しないフローにより算出している。これについて説明すると、実圧縮比rCRは次式により定義される値である。
rCR=IVCでのシリンダ容積/TDCでのシリンダ容積…(1)
吸気弁閉時期IVCが分かれば、エンジン仕様を用いて計算により吸気弁閉時期IVCでのシリンダ容積を求めることができる。吸気弁閉時期IVCは可変動弁機構に与える制御信号により知り得る。一方、上死点TDCでのピストン位置は圧縮比可変機構に与える指令値より知り得る。上死点TDCでのピストン位置が分かれば、エンジン仕様を用いて計算により上死点TDCでのシリンダ容積を求めることができる。従って、エンジンコントローラ39より吸気弁閉時期IVCの信号と圧縮比可変機構に与える指令値とを統合コントローラに入力させておけば、この吸気弁閉時期IVCと圧縮比可変機構に与える指令値とから吸気弁閉時期IVCでのシリンダ容積とTDCでのシリンダ容積を求め、これら吸気弁閉時期IVCでのシリンダ容積、TDCでのシリンダ容積を上記(1)式に代入することによって実圧縮比rCRを求めることができる。
小側選択部103ではこのエンジントルクリミットtTe lmtと実エンジントルクrTeを比較し、小さい側のトルクを目標エンジントルクtTe1として出力する。これは、実エンジントルクTeがエンジントルクリミットtTe lmtより大きいときにはノックが生じかねないので、エンジントルクをエンジントルクリミットtTe lmtに制限する、つまりエンジントルクの小さい側を選択させることが必要であるためである。ここで、実エンジントルクrTeは、エアフローメータにより検出される吸入空気量と実エンジン回転速度Neとから所定のエンジントルクマップを検索することにより演算すればよい。
乗算器104ではこの目標エンジントルクtTe1に実エンジン回転速度Neを乗算して目標エンジンパワーtPw1(第1目標エンジンパワー)を算出する。この目標エンジンパワーtPw1はノッキングを起こさないで発生できるエンジンパワーを与えることとなる。
一方、乗算器105では、目標エンジントルクtTe(図12により演算済み)に変速機入力回転速度Ncvt in(=Ne)を乗算して目標基本エンジンパワーtPw0を算出する。この目標基本エンジンパワーtPw0は目標車両駆動力が得られるエンジンパワーであり、ノッキングのことはまったく考慮していないため、実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRから大きく乖離する加速時に、この目標基本エンジンパワーtPw0をそのままエンジン201で発生させたのではノックが生じる。そこで、減算器106でこの目標基本エンジンパワーtPw0から目標エンジンパワーtPw2を差し引いて、目標モータジェネレータパワーtPm1(=tPw0−tPw2)を算出する。すなわち、目標基本エンジンパワーtPw0が目標エンジンパワーtPw2より大きい場合に、目標基本エンジンパワーtPw0をエンジン201に発生させたのではノッキングが生じてしまうので、目標エンジンパワーをtPw0−tPw2(=tPm1)の分だけ制限し、制限するtPw0−tPw2のパワー分はモータジェネレータ221により発生させるため、目標モータジェネレータパワーtPm1(第2目標モータジェネレータパワー)を算出するようにしたものである。目標基本エンジンパワーtPw0が目標エンジンパワーtPw2より小さい場合はノックは生じ得ないので、ここでは考えない。
上記の目標エンジンパワーtPw2は、実は乗算器104より出力される目標エンジンパワーtPw1から減算器134でエンジンロスパワーを差し引いた値であるが、この点は後述する。なお、エンジンロスパワーがなければ、目標エンジンパワーtPw2は目標エンジンパワーtPw1に一致するので、とりあえずは、目標エンジンパワーtPw2=目標エンジンパワーtPw1であるとして考えればよい。
次に、111はバッテリ226の充電状態であるSOCに応じてノック回避制御時のモータジェネレータ分担量を制限することにより、不必要な高回転速度でのゼロトルク制御電力による損失を軽減する処理を実行する処理部である。モータジェネレータパワーリミット演算部112、小側選択部113、減算器114、加算器115から構成されている。さらに、この処理部111によりモータジェネレータアシストによる加速時の加速性能低下を防ぐことができる。
モータジェネレータパワーリミット演算部112では、SOCからモータジェネレータパワーリミットtPm lmtを演算する。SOCが第1所定値SOC1以下でモータジェネレータパワーリミットtPm lmtをゼロとしているが、この理由はSOCが小さいのときにモータジェネレータパワーを大きくすると、SOCが不足してモータジェネレータ221を電動機として駆動できなくなるので、モータジェネレータパワーを制限するためである。SOCが第1所定値SOC1以上になるとSOCに比例してモータジェネレータパワーリミットtPm lmtを大きくする。また、SOCが第2所定値SOC2以上の領域ではモータジェネレータパワーリミットtPm lmtを一定値に制限する。この理由は、本実施形態のモータジェネレータ221の容量はそれほど大きくないため、SOCは十分であってもこれ以上のモータジェネレータパワーを発生させることができないためである。
小側選択部113では、モータジェネレータパワーリミットtPm lmtと上記の目標モータジェネレータパワーtPm1とを比較し、小さい側のパワーを目標モータジェネレータパワーtPm2(第4目標モータジェネレータパワー)として出力する。これは、目標モータジェネレータパワーtPm1がモータジェネレータパワーリミットtPm lmtより大きいときに目標モータジェネレータパワーtPm1を発生させたのではSOCの不足が生じてしまうので、モータジェネレータパワーをモータジェネレータパワーリミットtPm lmtに制限する、つまりモータジェネレータパワーの小さい側を選択させることが必要であるためである。
このように、モータジェネレータパワーリミットtPm lmtは、バッテリ226の充電状態であるSOCが低下するような電力不足の場合にモータジェネレータ221への電力分担(駆動力分担)を制限するものである。これにより、モータジェネレータ221とエンジン201の両方のパワー(出力)が同時に必要な場合などにおいてもバッテリ電力不足による車両駆動力不足を抑制することができる。
出力分担量制限割合演算部121ではモータジェネレータ221への出力分担量制限割合Rateをアクセル開度APOに基づいて演算し、乗算器122でこのモータジェネレータ221への出力分担量制限割合Rateを上記の目標モータジェネレータパワーtPm2に乗算して、目標モータジェネレータパワーtPm3(第3目標モータジェネレータパワー)を算出する。
ここで、モータジェネレータ221への出力分担量制限割合Rateは、最大値を1、最小値を0としており、アクセル開度APOが大きいほど大きくなる値である。これは、アクセル開度APOが大きいほどモータジェネレータ221への出力分担量制限割合を大きくして良好な加速性が得られるようにする必要があるためである。ただし、アクセル開度APOから求めたモータジェネレータ221への出力分担量制限割合Rateを、加速中ずっと維持するのではなく、アクセル開度APOから求めたモータジェネレータ221への出力分担量制限割合Rateを初期値として、加速直後からの時間経過と共にモータジェネレータ221への出力分担量制限割合を徐々に小さくして最終的にゼロとするようにしている。この操作のためには公知のウォッシュアウトフィルタを用いればよい。
このようにしてアクセル開度APOに応じてモータジェネレータ221への出力分担量制限割合を決定すると共に、ウォッシュアウトフィルターにより加速直後からの時間経過と共にモータジェネレータ221への出力分担量制限割合を少なくする。
減算器123では目標モータジェネレータパワーtPm3から目標モータジェネレータパワーtPm(図12により算出済み)を差し引いて差パワーΔtPmを算出する。この差パワーΔtPmは加速時には正の値をもつ。
この差パワーΔtPmは目標モータジェネレータパワーtPmと共に統合コントローラからモータコントローラに送られる。モータコントローラでは、加速時にモータジェネレータパワーが目標モータジェネレータパワーtPmよりも差パワーΔtPmだけ大きくなるようにモータジェネレータ221を制御する。
例えば、モータジェネレータパワーリミット演算部112、小側選択部113、出力分担量制限割合演算部121、乗算器122がなければ目標モータジェネレータパワーtPm1が目標モータジェネレータパワーtPm3と一致する。この場合で考えると、目標モータジェネレータパワーtPm1が目標モータジェネレータパワーtPmが超えている場合にも、モータジェネレータ221で目標モータジェネレータパワーtPmを発生させたのでは、車両駆動力が不足する。そこで、この場合には、減算器123で両者の差分を差パワーΔtPmとして求めて、加速時にはこの差パワーΔtPmの分だけ余計にモータジェネレータ221で発生させようとするものである。
一方、減算器114では、目標モータジェネレータパワーtPm1から目標モータジェネレータパワーtPm3を差し引いてモータジェネレータパワー制限減少分dPm(=tPm1−tPm3)を算出し、加算器115で目標エンジンパワーtPw1にこのモータジェネレータパワー制限減少分dPmを加算して目標エンジンパワーtPw(=tPw1+dPm)(第2目標エンジンパワー)を算出する。
上記のモータジェネレータパワー制限減少分dPmはゼロまたは正の値を採る。例えば、前述のようにモータジェネレータパワーリミット演算部112、小側選択部113、出力分担量制限割合演算部121乗算器122がなければtPm1=tPm3となり、モータジェネレータパワー制限減少分dPm=0となる。つまり、モータジェネレータパワー制限減少分dPmが正の値を持つということは、加速時のノック防止のためエンジンパワーの一部をモータジェネレータ221に肩代わりさせようとしているのに、出力分担量制限割合RateやSOCからの制限(モータジェネレータパワーリミットtPm lmt)によってモータジェネレータ221に肩代わりさせるはずのモータジェネレータパワーの一部が実際には制限されてしまうことを意味している。従って、このときにはモータジェネレータパワー(tPm3)とエンジンパワー(tPw1)の合計を発生させたとしても目標車両駆動力が得られなくなるので、減算器114と加算器115とを追加することによって、モータジェネレータパワーが制限された分(=tPm1−tPm3)を再び、エンジンパワーに戻してエンジンパワーを増加させることとしている。例えば、目標基本エンジンパワーtPw0が10で、目標エンジンパワーtPw1が7であれば、目標モータジェネレータパワーtPm1が3(=10−7)となり、目標モータジェネレータパワーtPm3が2であると、モータジェネレータパワー制限減少分dPmは1(=2−1)となり、目標エンジンパワーtPwは8(=7+1)となる。
131は実エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度tNeから大きく乖離して低い場合に、第一クラッチ215、第二クラッチ216を滑らせるか切るかしてエンジン201と変速機211の連結を弱めるか切り離し、実エンジン回転速度Neを速やかに上昇させるようにする処理を行う処理部である。クラッチ締結率演算部132、エンジンロスパワー演算部133、減算器134から構成されている。ただし、ここでのクラッチはエンジン201の動力を変速機211に伝達している側のクラッチである。例えば、図10において第一クラッチ215を接続してエンジン201と第一入力軸212とを連結している場合には第一クラッチ215、これに対して第二クラッチ216を接続してエンジン201と第二入力軸213とを連結している場合には第二クラッチ216である。
クラッチ締結率演算部132では、実エンジン回転速度Neと目標エンジン回転速度tNeから所定のテーブルを検索することにより、クラッチ締結率CLTを演算する。ここで、ノックが生じ得るのは、ノックを回避するため実エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度tNeまで上昇させる必要があるのに実エンジン回転速度Neは目標エンジン回転速度tNeよりも低い場合である。つまり、実エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度tNeより高い場合はノックが生じ得ないので扱わない。目標エンジン回転速度tNeの演算については後述する。
クラッチ締結率CLT=0のときはクラッチを切断した状態(つまりエンジン201と変速機211とが切り離されている状態)を、これに対してクラッチ締結率CLT=1のときはクラッチを完全に締結している状態(つまりエンジン201と変速機211とが直結している状態)を表す。
目標エンジン回転速度tNeと実エンジン回転速度Neの差が小さいときクラッチ締結率CLT=1(つまりクラッチ完全締結)とし、目標エンジン回転速度tNeと実エンジン回転速度Neの差が大きくなるほどクラッチ締結率CLTを小さくし最終的にゼロ(つまりクラッチ切断)とする。つまり、クラッチ締結率CLTは、目標エンジン回転速度tNeと実エンジン回転速度Neの差が大きい場合に、目標エンジン回転速度tNeと実エンジン回転速度Neの差が小さい場合よりも小さな値である。これは、目標エンジン回転速度tNeと実エンジン回転速度Neの差が大きい場合には、目標エンジン回転速度tNeと実エンジン回転速度Neの差が小さい場合よりも素早く実エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度tNeへと上昇させてノックを回避する必要があるところ、変速機211とエンジン201とが締結されていると、直ぐには実エンジン回転速度Neを上昇させることができないので、目標エンジン回転速度tNeと実エンジン回転速度Neの差が大きい場合には、目標エンジン回転速度tNeと実エンジン回転速度Neの差が小さい場合よりもクラッチをより開放することによってエンジン201を身軽にし、実エンジン回転速度Neを応答良く上昇させるためである。
エンジンロスパワー演算部133では、このクラッチ締結率CLTからエンジンロスパワーPw lossを演算する。エンジンロスパワーPw lossは、クラッチ締結率CLTが小さくなるほど大きくなる値である。このエンジンロスパワーPw lossの特性は適合により予め定めておけばよい。
減算器134では上記の目標エンジンパワーtPw1からこのエンジンロスパワーPw lossを差し引いた値を改めて目標エンジンパワーtPw2(=tPw1−Pw loss)(第3目標エンジンパワー)とする。クラッチ締結率CLT=1のときにはエンジンロスパワーPw loss=0であるので、目標エンジンパワーtPw2は目標エンジンパワーtPw1に一致する。
このようにして目標エンジン回転速度tNeと実エンジン回転速度Neとの差が大きい場合には変速機211とエンジン201とを連結している側のクラッチ(第一クラッチ215、第二クラッチ216のいずれか)を開放もしくは滑らせることで実エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度tNeへと急速に上昇させることができる。これにより目標車両駆動力に対してモータジェネレータパワー(tPm3)が不足する場合などでもエンジンパワー(tPw1)で車両駆動力を補うことが可能となる。
141は従来装置と同様に、加速時にノック回避のため実エンジン回転速度Neを自動変速機211でノック回避回転速度である目標エンジン回転速度tNeへと上昇させる処理を実行する処理部である。エンジン回転速度リミット演算部142、大側選択部143、割算器144、減算器145、減算器146、割算器147から構成されている。
エンジン回転速度リミット演算部142では、乗算器115からの目標エンジンパワーtPwと実圧縮比rCRとから所定の回転速度リミットマップを検索することにより、エンジン回転速度リミットtNe lmtを演算する。エンジン回転速度リミットtNe lmtは、目標エンジンパワーtPwと実圧縮比rCRのときにノックが発生しない最小のエンジン回転速度である。目標エンジンパワーtPwが一定の条件の場合に、実圧縮比rCRが相対的に大きな第1所定値rCR1のときのエンジン回転速度リミットをN1、実圧縮比rCRが相対的に小さな第2所定値rCR2のときのエンジン回転速度リミットをN2としたとき、実圧縮比rCRが相対的に大きい側のエンジン回転速度リミットであるN1のほうを実圧縮比rCRが相対的に小さいときのエンジン回転速度リミットであるN2より大きくしている。その理由は実圧縮比rCRが高いほどノックが発生しやすいので、エンジン回転速度リミットtNe lmtを高くする必要があるためである。
また、実圧縮比rCRが一定の条件のとき、目標エンジンパワーtPwが大きいほどエンジン回転速度リミットtNe lmtを高くしている。その理由は目標エンジンパワーtPwが大きいほどノックが発生しやいので、エンジン回転速度リミットtNe lmtを高くする必要があるためである。
これにより、圧縮比可変機構の応答遅れにより実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRより遅れて小さくなる加速時であっても、その遅れて小さくなる実圧縮比rCRに対してエンジン201がノッキングを起こさないで回転していられるエンジン回転速度(tNe lmt)を演算することが可能となっている。
大側選択部143ではこのエンジン回転速度リミットtNe lmtと実エンジン回転速度Neを比較し高い側の回転速度を目標エンジン回転速度tNeとして出力する。これは、実エンジン回転速度Neがエンジン回転速度リミットtNe lmtより低いときには、ノックが生じかねないので、エンジン回転速度の高い側を選択させることが必要であるためである。
割算器144では目標エンジンパワーtPwをこの目標エンジン回転速度tNeで除して目標エンジントルクtTe2(=tPw/tNe)を算出し、減算器145でこの目標エンジントルクtTe2から目標エンジントルクtTe(図12で演算済み)を差し引いて差トルクΔtTe(=tTe2−tTe)を算出する。
本発明では、前述のように、加速時における実圧縮比rCRの低下遅れに伴うノック防止のため、エンジンパワー(エンジン出力)の一部(tPm1)をモータジェネレータ221に肩代わりさせるようにしているので、加速時にはこの差トルクΔtTeが負の値となる。つまり、加速時には目標エンジントルクtTeを発生させるのではなく、これより差トルクΔtTeの分だけ少なくするのである。
この差トルクΔtTeは、目標エンジントルクtTeと共に統合コントーラからエンジンコントローラ39に送られる。エンジンコントローラ39では、この差トルクΔTeと目標エンジントルクtTeとから、加速時にエンジントルクが目標エンジントルクtTeよりも差トルクΔTeの絶対値だけ小さくなるように、可変動弁機構を介し吸気弁リフト量を制御しシリンダ内に流入する吸入空気量を減らす。シリンダ内に流入する吸入空気量が減らされると、吸気通路上流に配置されているエアフローメータを通過する吸入空気量が減り、この吸入空気量から演算される燃料噴射量が減り、目標エンジントルクtTeよりも差トルクΔTeの絶対値だけ小さなトルクがエンジン201で発生する。
これにより、実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRより遅れて小さくなる加速時であっても、その遅れて小さくなる実圧縮比rCRに対して、ノッキングを起こさないエンジントルク(tTe2)を発生させることが可能となっている。
一方、減算器146では目標エンジン回転速度tNeから実エンジン回転速度Neを差し引いて差回転速度ΔNe(=tNe−Ne)を算出し、割算器147でこの差回転速度ΔNeを車速Vspで除してギヤ比の変化量ΔGrを算出する。このギヤ比の変化量ΔGrは加速時に正の値を採る。ノックが生じ得るのは実エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度tNeよりも低い場合であるので、実エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度tNeより高い場合は減算器146では扱わない。
このギヤ比変化量ΔGrは、統合コントローラから自動変速機コントローラに送られる。自動変速機コントローラでは、ギヤ比Grよりもギヤ比変化量ΔGrだけ大きくなるように変速機211への指令値を変更する。具体的には加速時にギヤ比をギヤ比変化量ΔGrの分だけ低速度側(1速段側)へと変更して実エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度tNeへと上昇させ、これによってノックを回避する。なお、上記のギヤ比Grは、自動変速機コントローラにおいて車速Vspとアクセル開度APOから演算されている。すなわち、低負荷では大きな値のギヤ比が、高負荷になるほど小さな値のギヤ比が演算される。
ただし、本実施形態の変速機211は有段変速機であるので、ギヤ比変化量ΔGrを変速段選択部148に入力し、ここで変速段の選択を行わせる必要がある。
変速段選択部148にギヤ比変化量ΔGrが算出された場合に、どのように変速段が選択されるのかを説明する。図10に示した有段変速機211において1速段F1、2速段F2、3速段F3、4速段F4、5速段F5、6速段F6に対するギア比をGr1、Gr2、Gr3、Gr4、Gr5、Gr6(Gr1>Gr2>Gr3>Gr4>Gr5>Gr6)とし、今仮に3速段F3での定常運転状態から加速した場合に、ギヤ比変化量ΔGrが算出されたとする。また、定常運転状態にあるときにいずれの変速段にあるのかの情報、ここでは3速段F3であることの情報は変速段選択部148に入力されている。
このとき、変速段選択部148ではギヤ比変化量ΔGrと閾値とを比較し、ギヤ比変化量ΔGrが閾値以上であれば、ギヤ比が大きくなる側つまり2速段F2へとギヤチェンジして実エンジン回転速度Neを上昇させ、これに対してギヤ比変化量ΔGrが閾値未満であるときには2速段F2へのギヤチェンジは行わず3速段F3のままとする。このように、有段変速機211の場合には、ギヤ比変化量ΔGrが閾値以上の場合に実エンジン回転速度Neが上昇する低速度側への変速段へと変更することになる。上記の閾値は適合により予め定めておく。
このようにして変速段選択部148で選択された変速段は、統合コントローラから自動変速機コントローラに送られる。自動変速機コントローラでは、選択された変速段となるように、変速機211を制御する。また、上記クラッチ締結率演算部132で演算したクラッチ締結率CLTも統合コンローラから自動変速機コントローラに出力され、自動変速機コントローラによりクラッチ締結率CLTが得られるようにクラッチアクチュエータ(図示しない)が制御される。ただし、ここでのクラッチアクチュエータは、エンジン201と変速機の入力軸212、213とを連結している側のクラッチアクチュエータである。また、大側選択部143により得られる目標エンジン回転速度tNeは前述のクラッチ締結率演算部132で用いられる。
次に、図14のブロック図は図13に示したノッキング防止装置を改めて3つの手段にまとめ直したものである。圧縮比可変機構変化状態検出手段151では車両運転状態に基づいて圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態であるか否かを検出し、出力分担決定手段152ではこの検出した圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態に応じてエンジンパワー(エンジン出力)の一部(tPw0−tPw1)をモータジェネレータ221に分担させるモータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)と、このモータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)だけ少ないエンジン201への出力分担量(tPw1)とを決定する。エンジン運転状態目標値決定手段153では、エンジン201への出力分担量(tPw1)に応じてエンジン運転状態の目標値を決定する。ここで、車両運転状態とは、エンジン回転速度Neとエンジン負荷(例えばアクセル開度APO)である。
上記のエンジン運転状態目標値決定手段153は、図15に示したように、エンジン201への出力分担量(tPw1)と圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態とに基づいてエンジン回転速度目標値(tNe)を決定するエンジン回転速度目標値決定手段161と、エンジン201への出力分担量(tPw1)とこのエンジン回転速度目標値(tNe)からエンジントルク目標値(tTe2)を決定するエンジントルク目標値決定手段162とを有している。
ここで、本実施形態の加速時の作用効果を図11を参照して説明する。
図11には本実施形態(本発明)の場合を実線で重ねて示している。ここでは、モータジェネレータ221とエンジン201との両方でハイブリッド車が駆動されている状態、つまり図10において第一クラッチ215を締結し、変速段は例えば3速段F3にある状態を前提として考える。本実施形態では、車両駆動力にモータジェネレータ221も寄与するので、第5段目に示す実エンジントルクrTeに合わせて、第6段目にモータジェネレータトルクを示している。
ここで、モータジェネレータトルクは、本来は、図12に示される目標モータジェネレータパワーtPmをモータジェネレータ回転速度Nmで除して得られる目標モータジェネレータトルクtTm(=tPm/Nm)に、図13に示される差パワーΔtPmをモータジェネレータ回転速度Nmで除して得られるモータジェネレータ差トルクΔtTm(=ΔtPm/Nm)を加算して求まる値であるが、ここでは、加速時に、エンジンパワーの一部がモータジェネレータパワーによって補われる様子を明確にするため、図12に示される目標モータジェネレータパワーtPmをモータジェネレータ回転速度Nmで除して得られる目標モータジェネレータトルクtTm(=tPm/Nm)を省略し、図13に示される差パワーΔtPmをモータジェネレータ回転速度Nmで除して得られるモータジェネレータ差トルクΔtTm(=ΔtPm/Nm)だけを示している。従って、加速の行われるt1より前ではモータジェネレータトルク(=モータジェネレータ差トルクΔtTm)はゼロとなっている。
本発明ではt1からの加速時に遅れて変化する実圧縮比rCRから、エンジントルクリミット演算部102においてエンジントルクリミットrTe lmtが演算され、このエンジントルクリミットtTe lmtが実エンジントルクrTeより小さいときには、エンジントルクリミットtTe lmtに実エンジン回転速度Neを乗算して得られるエンジンパワーが目標エンジンパワーtPw1となる。また、モータジェネレータパワーリミット演算部112、小側選択部113、出力分担量制限割合演算部121、乗算器122がなければ、モータジェネレータパワー制限減少分dPm=0より、目標エンジンパワーtPw1は目標エンジンパワーtPwとなる。この目標エンジンパワーtPw=tPw1(=tTe lmt×Ne)からエンジン回転速度リミットtNe lmtがエンジン回転速度リミット演算部142において演算され、このエンジン回転速度リミットtNe lmtが実エンジン回転速度Neより小さいときにはこのエンジン回転速度リミットtNe lmtがそのまま目標エンジン回転速度tNeとなり、上記の目標エンジンパワーtPw1(=tPw)をこの目標エンジン回転速度tNeで除して得られるエンジントルクが目標エンジントルクtTe2となる。つまり、本実施形態の実エンジントルクrTe(≒目標エンジントルクtTe2)は加速時にノックが生じない範囲で上昇するためその上昇の程度はゆるやかであり、これにより実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRより大きく乖離する加速時にノックが回避されることとなる。
一方、エンジン回転速度リミット演算部142にこのように制限された目標エンジントルク(目標エンジンパワーtPw1)が入力されるが、ノックは主に目標エンジントルクtTe2のほうで回避されているため、目標エンジン回転速度tNeの上昇程度は非常にゆっくりとしたものとなり、従って実エンジン回転速度Neとの差ΔNeが小さく、ギヤ比変化量ΔGrが微小となるため、ギヤ比はほぼ変化しない。つまり、本実施形態によれば加速時に変速機211は加速直前のギヤ比のままであり低速度段側へと変速されることがないので、従来例に比べて変速機アクチュエータの損失を小さくできる。
なお、目標回転速度tNeと実エンジン回転速度Neとの差が小さいため、クラッチ締結率演算部132でクラッチ締結率CLT=1となり、第一クラッチ215はエンジン201と入力軸212とを完全締結している。
ただし、ノッキング対策とはいえ、このように加速時のエンジントルクを制限すると、加速性が不足することになるのであるが、これに対して本実施形態では、加速時に不足するトルク分、つまり目標基本エンジンパワー(tPw0×Ncvt in)と上記制限された目標エンジンパワーtPw1との差分が、減算器106において目標モータジェネレータパワーtPm1として計算される。このとき、アクセル開度APOが大きく(つまり出力分担量制限割合Rateが1に近く)、かつSOCが十分にあれば、この目標モータジェネレータパワーtPm1をモータジェネレータ221が発生することから、モータジェネレータトルクがt1のタイミングより上昇して車両駆動力を増やす。これにより、エンジンパワーがノック回避のために制限されていても、加速性が不足することが避けられる。
図11ではt1より大きくなったモータジェネレータトルクがt2より一定値を保持している。これは、モータジェネレータ最大トルクになっているか、またはモータジェネレータパワーリミット演算部112で演算されるモータジェネレータパワーリミットtPm lmtによりモータジェネレータパワーが制限されているためである。なお、アクセル開度APOはt1でステップ的に大きくなっているのに対して、モータジェネレータトルクは所定の傾きで上昇しているのは応答遅れのためである。
t2でのモータジェネレータトルクとエンジントルクとの合計ではなお目標車両駆動力が得られていないため、目標エンジントルクtTe2(従って実エンジントルクrTe)はt2以降もノックが生じない範囲で増大してゆき、t3のタイミングで目標車両駆動力が得られると、t3のタイミングから目標エンジントルクtTe2(実エンジントルクrTe)は一定に保持される。このt2からt3までの実エンジントルクrTeの増加によっても、ノックが生じることはない。
この結果、本実施形態によれば、t1〜t3の期間で従来例のように車速の低下が生じることは避けられている(図11最上段の実施線参照)。
一方、t1から所定時間が経過したt4のタイミングになると、ウォッシュアウトフィルターが働くことになり、モータジェネレータトルクは徐々に小さくなりt5のタイミングでゼロとなっている。t4以降でモータジェネレータトルクが低下するのにエンジントルクを一定に維持したままでは実車両駆動力が目標車両駆動力から不足することになるのであるが、本実施形態では、このウォッシュアウトフィルターの働きにより減少するモータジェネレータパワー分、つまりモータジェネレータパワー制限減少分dPmが減算器114において計算されており、t4以降で正の値を採る。この正の値のモータジェネレータパワー制限減少分dPmは、加算器115により目標エンジンパワーtPw1に加わって目標エンジンパワーtPw(=tPw1+dPm)を大きくするので、t4よりt5までの期間において目標エンジントルクtTe2(実エンジントルクrTe)が上昇し、t5以降でほぼ一定となる。これにより、ウォッシュアウトフィルターの働きによりモータジェネレータトルクが減少した後も、実車両駆動力が目標車両駆動力から不足することがない。
なお、図11ではウォッシュアウトフィルターの働きによりモータジェネレータトルクがゼロになるタイミング(t5)と、実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRの許容範囲に入るタイミング(t5)とを一致させている。これは、実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRの許容範囲に入ればノッキングが生じることはないので、加速時のノック回避のために制限されるエンジントルクの不足分をモータジェネレータトルクで発生させる必要がなくなるためである。
t4からt5までの実エンジントルクrTeの上昇によりかつ実圧縮比rCRの減少もあってエンジン回転速度リミット演算部142で演算されるエンジン回転速度リミットtNe lmtが上昇し、実エンジン回転速度Neよりも大きくなるので、目標エンジン回転速度tNeが上昇する。この上昇する目標回転速度tNeを受けて実エンジン回転速度Neもt5まで上昇する。この影響を受けて、変速機のギヤ比がt4から低速度側(1速段F1側)に上昇する。
t5より実エンジントルクrTeがほぼ一定になると、実エンジン回転速度Neはt5よりt7まで低下してゆき、これに合わせてギヤ比もt7まで低下してゆく。
次に、比較のため、図16にモータジェネレータ221だけで、実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRから大きく乖離する加速時のノックを回避する場合を示す。ただし、図16も図11図と同じ定常運転状態からの加速を扱うものとし、モータジェネレータ221だけでノックを回避する場合を一点鎖線で、本実施形態の場合を実線で示している。
モータジェネレータ221だけでノック回避を行う場合には、加速に必要なトルクを主にモータジェネレータ221に分担させる必要があるためモータジェネレータトルクがt1より大きくなりt2でモータジェネレータ最大トルクに到達している。t2でのモータジェネレータトルクとエンジントルクの合計ではなお目標車両駆動力が得られないので、目標エンジントルクをt2以降もノックが生じない範囲で増大させて目標車両駆動力が得られるようにし、目標車両駆動力が得られるt3のタイミングからはそのときの目標エンジントルク(実エンジントルク)を、実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRの許容範囲に収まるt5のタイミングまで維持させることにより、ノックが生じないようにすることができる。なお、変速機のギヤ比はt1のタイミングより変化させない。
しかしながら、モータジェネレータ221には設定限界があるために、t1から所定時間が経過するt4のタイミング以降になると、モータジェネレータトルクが徐々に低下してゆくことから、実車両駆動力がt4以降で目標車両駆動力から低下してゆくことになり、車速が伸びず加速性が悪化する。かといって、モータジェネレータ221を大容量のものにしたのでは、コストのアップと車両重量の増加を招く。
これに対して、本実施形態では、モータジェネレータ221に設定限界がきてモータトルクが自然に低下してゆくところを、ウォッシュアウトフィルターにより強制的にモータジェネレータトルクを低下させ、かつこのときのモータジェネレータトルクの低下代(dPm)は予め分かっているので、その低下代(dPm)をエンジントルクの増加で補わせることで、ノッキングを回避した後には、モータジェネレータ221を保護しつつ、加速性も悪くならないようにしているのである。
このように、本実施形態によれば、圧縮比可変機構を有するエンジン201と、モータジェネレータ221と、変速機211とを備えるハイブリッド車において、図14に示したように、圧縮比可変機構変化状態検出手段151が圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態であるか否かを検出し、出力分担決定152がこの検出した圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態に応じてエンジン出力の一部をモータジェネレータ221に分担させるモータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)と、このモータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)だけ少ないエンジン201への出力分担量(tPw1)とを決定し、モータコントローラがこのモータジェネレータへ221の出力分担量(tPm1)に応じてモータジェネレータ221を制御すると共に、エンジン運転状態目標値決定手段153がエンジン201への出力分担量(tPw1)に応じてエンジン運転状態の目標値(tNe、tTe2)を決定し、エンジンコントローラがこの決定したエンジン運転状態目標値(tNe、tTe2)となるようにエンジン201を制御するので、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態となるたびに変速機211のギヤ比を低速度側へと切換える必要が無くなり、変速機アクチュエータ損失の発生を抑制できるほか、車両駆動力不足による運転者への違和感、加速性能悪化、過剰なエンジン回転速度上昇を抑制することができる。
本実施形態によれば、出力分担決定手段は、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態であることを検出したタイミングより所定時間はモータジェネレータ221への出力分担量(tPm3)を増加するので、ハイブリッド車の走行中の加速時にあっては加速に必要な出力がモータジェネレータ221により適切に補助されることから、ノッキングを回避しつつ良好な加速性能が得られる。また、所定時間の経過後はモータジェネレータ221への出力分担量(tPm3)を徐々に減少させるので、設定限界を超えない範囲でのモータジェネレータ221の使用が可能となり、モータジェネレータ221を保護できる。
本実施形態によれば、エンジン運転状態目標値決定手段153が、図15に示したように、エンジン201への出力分担量(tPw1)と圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態とに基づいてエンジン回転速度目標値(tNe)を決定するエンジン回転速度目標値決定手段161と、エンジン201への出力分担量(tPw1)とこのエンジン回転速度目標値(tNe)からエンジントルク目標値(tTe2)を決定するエンジントルク目標値決定手段162とを有するので、エンジン201の出力をトルクと回転速度とで制御することが可能となり、運転者の要求通りの車両駆動力を発生できる。
本実施形態によれば、圧縮比可変機構は、圧縮比制御アクチュエータ16(アクチュエータ)によりエンジンの圧縮比を可変に制御し得る圧縮比可変機構であり、エンジン負荷に基づき低負荷側で目標圧縮比tCRが大きくなるように圧縮比制御アクチュエータ16を制御するアクチュエータ制御手段(エンジンコントローラ)を備え、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態は加速時であるので、ハイブリッド車の走行中に加速を行うたびに変速機211のギヤ比を低速度側へと切換える必要が無くなり、変速機アクチュエータ損失の発生を抑制できる。
本実施形態によれば、出力分担決定手段が、目標車両駆動力が得られるようにエンジン201とモータジェネレータ221とにトルクを配分するエンジン配分率及びモータジェネレータ配分率を決定する配分率決定手段(図12のエンジン配分率演算部83及び減算器87)と、このエンジン配分率に基づいて目標エンジントルクtTeを演算する目標エンジントルク演算手段(図12の乗算器84)と、この目標エンジントルクtTeに基づいて目標基本エンジンパワー(tPw0)を演算する目標基本エンジンパワー演算手段(図13の乗算器105)と、モータジェネレータ配分率に基づいて第1目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm)を演算する第1目標モータジェネレータパワー演算手段(図12の乗算器88)と、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態を検出するためのパラメータである実圧縮比rCRに基づいてノックの生じない第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)を演算する第1目標エンジンパワー演算手段(図13の演算部102、小側選択部103、乗算器104)と、この第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)が目標基本エンジンパワーtPw0より小さいときに、この第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)をそのままエンジン201への出力分担量(tPw1)として決定するエンジン出力分担量決定手段と、同じくこの第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)が目標基本エンジンパワーtPw0より小さいときには、目標基本エンジンパワーtPw0からこの第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)を差し引いた差分のパワーをモータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)として決定するモータジェネレータ出力分担量決定手段(図13の減算器106)とを含むので、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態となっても、目標車両駆動力が得られるようにエンジン201とモータジェネレータ221とにトルクを配分しつつ、エンジン201への出力分担量(tPw1)と、モータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)とを精度良く決定することができる。
本実施形態によれば、モータジェネレータ221への出力分担量制限割合Rateは、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態の初期(t1〜t4の期間)にアクセル開度APOに基づいた値であり、その後の時間経過とともに小さくなる値であるので、ハイブリッド車の走行中の加速時にあっては加速に必要な出力がモータジェネレータ221により適切に補助されることから、ノッキングを回避しつつ良好な加速性能が得られる。また、その後の時間経過とともにモータジェネレータ221への出力分担量制限割合Rateは小さくなる値であるので、設定限界を超えない範囲でのモータジェネレータ221の使用が可能となり、モータジェネレータ221を保護できる。
本実施形態によれば、アクセル開度APOに基づいてモータジェネレータ221への出力分担量制限割合Rateを演算する出力分担量制限割合演算手段(図13の出力分担量制限割合演算部121)と、第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)が目標基本エンジンパワーtPw0より小さいときに、目標基本エンジンパワーtPw0からこの第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)を差し引いた差分のパワーを第2目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm1)とし、この第2目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm1)にモータジェネレータへの出力分担量制限割合Rateを乗算した値を第3目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm3)として演算する第3目標モータジェネレータパワー演算手段(図13の乗算器122)とを備え、この第3目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm3)を、モータジェネレータ出力分担量決定手段がモータジェネレータへの出力分担量として決定するに際して第2目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm1)に代えて用いると共に、第2目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm1)から第3目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm3)を差し引いてモータジェネレータパワー制限減少分dPmを算出するモータジェネレータパワー制限減少分算出手段(図13の減算器114)と、このモータジェネレータパワー制限減少分dPmを第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)に加算して第2目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw)を算出する第2目標エンジンパワー算出手段(図13の加算器115)とを備え、この第2目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw)を、エンジン出力分担量決定手段がエンジンへの出力分担量(tPw1)を決定するに際して第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)に代えて用いるので、モータジェネレータ221に分担させて発生させるはずであった出力が制限されて減少する場合でも、その制限された出力をエンジン201により発生させることが可能となり、これにより、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態の場合にモータジェネレータ221に分担させて発生させるはずであった出力が制限されて減少するときでも、車両駆動力が不足することがない。
本実施形態によれば、モータジェネレータ221に電力を供給する蓄電装置(バッテリ226)と、この蓄電装置の充電状態(SOC)に基づいてモータジェネレータパワーリミットtPm lmtを演算するモータジェネレータパワーリミット演算手段(図13のモータジェネレータパワーリミット演算部112)と、このモータジェネレータパワーリミットtPm lmtと第2目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm1)とを比較して小さい側のモータジェネレータパワーを第4目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm2)として選択する小側選択手段(図13の小側選択部113)とを備え、この第4目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm2)を、モータジェネレータ出力分担量決定手段がモータジェネレータ221への出力分担量(tPm1)として決定するに際して第2目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm1)に代えて用いるので、モータジェネレータ221とエンジン201の両方のパワー(出力)が同時に必要な場合においても、蓄電装置(バッテリ226)の電力不足による車両駆動力不足を抑制することができる。
本実施形態によれば、エンジン201と変速機211との締結率を変え得るクラッチ(第一クラッチ215または第二クラッチ216)と、実圧縮比rCRと第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)とに基づいてノックの生じないエンジン回転速度リミットtNe lmtを演算するエンジン回転速度リミット演算手段(図13の演算部142)と、このエンジン回転速度リミットtNe lmtと実エンジン回転速度Neとを比較して大きい側のエンジン回転速度を目標エンジン回転速度tNeとする大側選択手段(図13の大側選択部143)と、この目標エンジン回転速度tNeが実エンジン回転速度Neより大きい場合に、クラッチ締結率CLTを演算するクラッチ締結率演算手段(図13のクラッチ締結率演算部132)と、このクラッチ締結率CLTが得られるようにクラッチ(第一クラッチ215または第二クラッチ216)を制御するクラッチ制御手段(自動変速機コントローラ)と、クラッチ締結率CLTに基づいてエンジンロスパワーPw lossを演算するエンジンロスパワー演算手段(図13のエンジンロスパワー演算部133)と、第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)からこのエンジンロスパワーPw lossを差し引いた値を第3目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw2)とする第3目標エンジンパワー演算手段(図13の減算器134)とを備え、この第3目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw2)を、第2目標モータジェネレータパワー演算手段が第2目標モータジェネレータパワー(目標モータジェネレータパワーtPm1)を演算するに際して第1目標エンジンパワー(目標エンジンパワーtPw1)に代えて用いるので、実エンジン回転速度を素早く上昇させるために、エンジン201と変速機211とを締結しているクラッチ(第一クラッチ215または第二クラッチ216)を滑らせる必要がある場合であっても、目標車両駆動力が得られるように第2モータジェネレータパワー(モータジェネレータパワーtPm1)を最適に与えることができる。
本実施形態によれば、エンジン201は可変バルブタイミング機構(位相可変機構41)または可変バルブリフト機構(リフト可変機構21)を有するので、可変バルブタイミング機構や可変バルブリフト機構の応答遅れで吸入新気量不足が発生する場合にもエンジン出力不足による車両駆動力不足を抑制できる。また、ミラーサイクルの高効率運転を維持できる頻度が上昇するため、運転効率が向上する。
実施形態では、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態を検出するためのパラメータである実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRから大きく乖離する加速時で説明したが、この場合に限られるものでない。例えば、定常運転条件において圧縮比制御アクチュエータ16に低圧縮とすることの指令が出ているのに圧縮比可変機構の劣化で低圧縮比にならない状態のときにも、圧縮比可変機構のノッキングが生じる側への変化状態を検出するためのパラメータである実圧縮比rCRが目標圧縮比tCRから大きく乖離するので、ノッキングが生じる。そこで、圧縮比制御アクチュエータ16に低圧縮とすることの指令が出ているのに圧縮比可変機構の劣化で低圧縮比にならない状態のときにも、エンジン出力の一部をモータジェネレータに分担させるモータジェネレータへの出力分担量(tPm1)と、このモータジェネレータへの出力分担量(tPm1)だけ少ないエンジンへの出力分担量(tPw1)とを決定し、このモータジェネレータへの出力分担量(tPm1)に応じてモータジェネレータを制御すると共に、エンジンへの出力分担量(tPw1)に応じてエンジン運転状態の目標値を決定し、この決定したエンジン運転状態目標値となるようにエンジンを制御する。これにより、圧縮比制御アクチュエータに低圧縮とすることの指令が出ているのに圧縮比可変機構の劣化で低圧縮比にならない状態のときにも、変速機のギヤ比を低速側へ切換える必要が無くなり、変速機アクチュエータ損失の発生を抑制できる。
実施形態では、ノック対策として、エンジントルクリミットtTe lmtに加えてエンジン回転速度リミットtNe lmtを導入しているが、エンジントルクリミットtTe lmtだけを導入する態様が考えられる。
実施形態では、ハイブリッド車に適用するエンジンがノンスロットルエンジンである場合で説明したが、ハイブリッド車に適用するエンジンがノンスロットルエンジンに限定されるものではない。