以下に、本発明に係る可変圧縮比エンジンの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
〔実施形態〕
図1は、本発明の実施形態に係る可変圧縮比エンジンの概略図である。なお、以下の説明中におけるシリンダブロックとクランクケースとは、一般的に用いられるシリンダブロックとクランクケースのみを示すものではなく、後述する圧縮比可変機構によって相対移動が可能な2つの部位として分けた場合に、気筒が位置する側をシリンダブロックと呼び、クランクシャフトが設けられている側をクランクケースと呼ぶものとして説明をする。
図1に示すエンジン1は、本発明に係る可変圧縮比エンジンの実施形態として設けられており、このエンジン1は、複数の気筒10を有している。各気筒10は、内部に燃焼室50が形成されたシリンダヘッド21及びシリンダブロック22により設けられている。また、シリンダブロック22におけるシリンダヘッド21側の反対側には、クランクケース23が配設されている。このうち、シリンダブロック22の内部には、気筒10内を往復運動可能に設けられたピストン25が内設されており、当該エンジン1の運転時におけるピストン25の下死点方向には、エンジン1で発生する動力の出力軸として設けられるクランクシャフト27が配設されている。このクランクシャフト27は、クランクケース23内に設けられており、ピストン25の往復運動の方向と直交する方向に回転軸を有し、この回転軸を中心に回転可能に形成されている。このように設けられるピストン25とクランクシャフト27とは、コネクティングロッド26によって接続されている。これにより、クランクシャフト27はピストン25の往復運動に伴って回転運動が可能になっている。
また、シリンダブロック22は、クランクシャフト27から見た場合に異なる方向に向けて設けられる第1気筒群である第1バンク6と、第2気筒群である第2バンク7と、を有している。つまり、複数の気筒10は、クランクシャフト27から見て気筒10が2方向に向けて形成されており、このように2方向に向けて形成された複数の気筒10のうち、同一方向に向けて設けられた3つの気筒10同士が1つの組みとなって1つの気筒群を形成している。この気筒群が2つ設けられて、第1バンク6と第2バンク7とになっている。
詳しくは、第1バンク6には、第1気筒11と第3気筒13と第5気筒15とが設けられており、第2バンク7には、第2気筒12と第4気筒14と第6気筒16とが設けられている(図9参照)。これらの各気筒10は、第1気筒11、第3気筒13、第5気筒15は、第1バンク6においてクランクシャフト27の軸方向における一方の端部側から反対側の端部側に向けて順番に並んで配設されており、第2気筒12、第4気筒14、第6気筒16は、第2バンク7において、第1バンク6の第1気筒11が配設されている側の端部側から反対側の端部側に向けて順番に並んで配設されている。
また、第1バンク6に設けられる気筒10と第2バンク7に設けられる気筒10とでは、クランクシャフト27の軸方向における位置がずれて配設されており、第2気筒12よりも第1気筒11の方がクランクシャフト27の端部側に位置するように配設されている。このため、各気筒10は、第1バンク6に設けられる気筒10と第2バンク7に設けられる気筒10とを合わせて見ると、クランクシャフト27の軸方向における一方の端部側から反対側に向かって、第1気筒11、第2気筒12、第3気筒13、第4気筒14、第5気筒15、第6気筒16の順番で設けられている。
このように、異なる方向に設けられた第1バンク6と第2バンク7との2つのバンクを有する当該エンジン1は、いわゆるV型エンジンとなっており、第1バンク6、第2バンク7共に、3つの気筒10により構成されているため、本実施形態に係るエンジン1は、6気筒のエンジン1となっている。また、V型エンジンとなって設けられる本実施形態に係るエンジン1は、第1バンク6と第2バンク7との間の角度が60°となって形成されている。また、このように設けられるシリンダブロック22とクランクケース23とは、互いに固定はされておらず、クランクシャフト27の軸方向に直交する方向に、相対的に移動可能になっている。
また、シリンダヘッド21は、シリンダブロック22の、当該シリンダブロック22におけるピストン25が上死点に向かう方向側の端部に、ガスケット(図示省略)を介して固定されている。また、シリンダヘッド21には、吸気通路(図示省略)と燃焼室50との開閉が可能な吸気バルブ55と、排気通路(図示省略)と燃焼室50との開閉が可能な排気バルブ56とが設けられている。これらの吸気バルブ55と排気バルブ56とは、複数設けられる気筒10のそれぞれの気筒10に配設されている。
シリンダヘッド21に設けられる吸気バルブ55及び排気バルブ56は、吸気バルブ55や排気バルブ56における燃焼室50側の反対側に設けられたカム60によって往復運動が可能になっている。詳しくは、このカム60は、クランクシャフト27の回転に連動して回転するカムシャフト61に設けられており、カムシャフト61の回転に伴い、カム60も回動し、このカム60が回動することにより、吸気バルブ55や排気バルブ56は往復運動が可能になっている。また、カムシャフト61は、第1バンク6の吸気バルブ55用、第1バンク6の排気バルブ56用、第2バンク7の吸気バルブ55用、第2バンク7の排気バルブ56用の4本が設けられており、全てのカムシャフト61には、それぞれのカムシャフト61と一体となって回転可能なスプロケットであるカムスプロケット65が設けられている。このように、4本のカムシャフト61に設けられる4つのカムスプロケット65は、カムシャフト61の軸方向における位置が、全て同じ位置となって配設されている。
図2〜図8は、圧縮比可変機構の説明図であり、図2は、シリンダブロックに設けられる軸受の説明図、図3は、図2のA−A矢視図、図4は、クランクケースに設けられる軸受の詳細図、図5は、図4のB−B矢視図、図6は、圧縮比可変機構が有するカム軸の説明図、図7は、圧縮比可変機構を組み立てた状態を示す図、図8は、図7のC−C矢視図である。本実施形態に係るエンジン1には、圧縮比を変更することができる圧縮比可変機構80が設けられている。この圧縮比可変機構80は、当該圧縮比可変機構80の動力源として設けられるモータ100と、モータ100で発生した動力をシリンダブロック22やクランクケース23側に伝達するウォームギア98及びウォームホイール96と、モータ100で発生した動力を用いて圧縮比の変更を行うカム軸90、シリンダブロック側軸受81、クランクケース側軸受85と、により構成されている。このうち、モータ100は、エンジン1を搭載する車両の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)(図示省略)によって制御可能になっている。
圧縮比可変機構80について詳細に説明すると、シリンダブロック22には、クランクシャフト27の軸方向に沿って形成される両外壁面に、クランクシャフト27の軸方向に沿った方向に並んで複数配設されるシリンダブロック側軸受81が設けられている(図3)。このシリンダブロック側軸受81は、全て略直方体の形状で形成されており、各シリンダブリック側軸受81には、クランクシャフト27の軸方向に沿う方向にあけられた穴である軸受穴82が形成されている。
また、クランクケース23には、クランクシャフト27の軸方向に沿って形成される両外壁面に、シリンダブロック側軸受81と同様にクランクシャフト27の軸方向に沿った方向に並んで複数配設されるクランクケース側軸受85が設けられている(図5)。このクランクケース側軸受85は、全て略直方体の形状で形成されており、各クランクケース側軸受85には、クランクシャフトの軸方向に沿う方向にあけられた穴である軸受穴86が形成されている。
これらのように設けられるシリンダブロック側軸受81とクランクケース側軸受85とは、共に隣り合うシリンダブロック側軸受81同士、及びクランクケース側軸受85同士が離間しており、シリンダブロック22とクランクケース23とが組み合わされた場合には、シリンダブロック側軸受81とクランクケース側軸受85とが、クランクシャフト27の軸方向に沿った方向に交互に配設されるように設けられている。
また、圧縮比可変機構80が有するカム軸90(図6)は、シリンダブロック側軸受81やクランクケース側軸受85に形成される軸受穴82、86に挿通可能に形成されており、この軸受穴82、86に挿通した際に、軸受穴82、86で支持するカムが設けられている。このように設けられるカムは、シリンダブロック側軸受81により支持されるカムであるシリンダブロック側カム91と、クランクケース側軸受85により支持されるカムであるクランクケース側カム92と、が設けられている。これらのシリンダブロック側カム91とクランクケース側カム92とは、共に軸方向がカム軸90の軸方向と一致する向きとなる略円柱形の形状で形成されており、その軸心がカム軸90の軸心とはずれて形成されている。このうち、シリンダブロック側カム91は、カム軸90と一体となって回転可能に設けられており、クランクケース側カム92は、カム軸90に対して回転可能に設けられている。
また、カム軸90には、略円板状の形状で形成されると共に周囲にギアが形成されたウォームホイール96が取り付け可能に設けられており、ウォームホイール96は、カム軸90の一方の軸端に、取付ボルト95により取り付けられる。このように、ウォームホイール96がカム軸90に取り付けられた場合におけるウォームホイール96の中心と、シリンダブロック側カム91の中心とは一致しており、クランクケース側カム92の中心は、ウォームホイール96の中心に対して偏心している。
各部がこのように設けられる圧縮比可変機構80は、シリンダブロック22とクランクケース23を組み合わせた際に、クランクシャフト27の軸方向に沿った方向に交互に配設されるシリンダブロック側軸受81とクランクケース側軸受85との双方の軸受穴82、86に、カム軸90を挿通する。その際に、カム軸90のシリンダブロック側カム91はシリンダブロック側軸受81で支持し、クランクケース側カム92はクランクケース側軸受85で支持する。また、シリンダブロック側軸受81やクランクケース側軸受85は、クランクシャフト27の軸方向に沿った方向に複数形成されるシリンダブロック22やクランクケース23の両外壁面に形成されるため、各外壁面に1つずつ、計2つのカム軸90が、シリンダブロック側軸受81やクランクケース側軸受85により支持される。
また、モータ100で発生した動力が出力されるモータ軸101には、ウォームホイール96と同数の2つのウォームギア98が、モータ軸101と一体となって回転可能に取り付けられている。この2つのウォームギア98は、歯の螺旋の方向が、互いに反対方向になって設けられている。モータ軸101は、カム軸90の軸方向におけるウォームホイール96が配設されている位置に設けられており、2つのウォームギア98は、それぞれウォームホイール96と噛み合って設けられている。このように、ウォームギア98が設けられるモータ軸101は、モータ100に接続されており、モータ100が動力を発生した際に、モータ100の動力によって回転可能になっている。
図9は、図1のD−D断面図である。また、クランクシャフト27は、第1クランクジャーナル31、第2クランクジャーナル32、第3クランクジャーナル33、第4クランクジャーナル34の4箇所で、ジャーナル軸受(図示省略)によって回転可能に支持されている。また、本実施形態に係るエンジン1は、6気筒のエンジン1になっているが、各気筒10に設けられるピストン25とクランクシャフト27とを接続するコネクティングロッド26は、クランクシャフト27において、当該クランクシャフト27の回転軸から、径方向における所定の距離だけ離れた位置に設けられるクランクピンに接続されている。このクランクピンは、気筒10ごとに設けられていると共に、各気筒10のコネクティングロッド26は、それぞれの気筒10に対応したクランクピンに接続されている。つまり、第1気筒11、第2気筒12、第3気筒13、第4気筒14、第5気筒15、第6気筒16の各コネクティングロッド26は、順番に第1クランクピン41、第2クランクピン42、第3クランクピン43、第4クランクピン44、第5クランクピン45、第6クランクピン46に接続されている。
また、シリンダブロック22には、第1バンク6と第2バンク7との間にバランサ110が配設されている。このバランサ110は、第1バランサ111と第2バランサ112との2つが配設されており、第1バランサ111が第1バンク6側に配設され、第2バランサ112が第2バンク7側に配設されている。これらのように配設されるバランサ110は、クランクシャフト27と平行な向きとなって設けられる回転軸に、当該回転軸と一体となって回転するバランスウェイト113が設けられた状態で形成されている。
また、このバランサ110には、両端部のうちの一方の端部付近に、共にバランサスプロケット115が設けられている。このように2つのバランサ110に設けられる2つのバランサスプロケット115は、バランサ110の軸方向における位置がほぼ同じ位置に配設されており、さらに、2つのバランサスプロケット115は、カムスプロケット65の軸方向における位置と同じ位置に配設されている。
また、バランサ110に設けられるバランスウェイト113は、1つのバランサ110につき2つずつ設けられており、バランサ110の軸方向におけるバランサスプロケット115側の端部寄りの部分と、反対側の端部寄りの部分に配設されている。このバランスウェイト113は、第1バランサ111と第2バランサ112との双方で同様な形態で設けられており、バランサ110を軸方向に見た場合における外周の約1/2の範囲、即ち、約180°の範囲の円周上に設けられている。また、バランスウェイト113は、1つのバランサ110につき2つずつ設けられているが、2つのバランスウェイト113は、バランサ110の軸方向において離間し、且つ、バランサ110を軸方向に見た場合における位置が、180°ずれて配設されている。また、バランサ110を軸方向に見た場合における、2本のバランサ110に設けられるバランスウェイト113の、バランサ110の周方向における位置は、ほぼ同じ位置に配設されている。
図10は、中継チェーン及びカムチェーンの取り回しの状態を示す概略図である。このように配設されるバランサ110は、クランクシャフト27の回転に連動して回転可能に設けられている。詳しくは、クランクシャフト27には、クランクシャフト27の軸方向において、エンジン1の運転時に発生した動力を出力する側の端部の反対側の端部に、クランクシャフトスプロケット70が設けられている。このクランクシャフトスプロケット70は、軸方向における位置が、カムスプロケット65やバランサスプロケット115とは異なる位置に配設されている。
また、本実施形態に係るエンジン1には、クランクシャフトスプロケット70の近傍に、クランクシャフト27と平行な向きで配設される回転軸である中継軸71が設けられている。この中継軸71は、後述するように圧縮比可変機構80によって移動可能なシリンダブロック22の移動方向における位置が、クランクシャフト27が配設されている位置とほぼ同じ位置となってシリンダブロック22に設けられており、また、中継軸71には、当該中継軸71と一体となって回転可能なスプロケットが2つ設けられている。
中継軸71に設けられる2つのスプロケットのうち、一方のスプロケットは、中継軸71やクランクシャフト27の軸方向における位置がクランクシャフトスプロケット70と同じ位置になって配設されるクランク側中継スプロケット72となっている。また、中継軸71に設けられる2つのスプロケットのうち、他方のスプロケットは、中継軸71等の軸方向における位置が、カムスプロケット65やバランサスプロケット115と同じ位置になって配設されるカム側中継スプロケット73となっている。
つまり、複数の種類が設けられるスプロケットは、クランクシャフトスプロケット70とクランク側中継スプロケット72とが、軸方向において同じ位置に配設されており、カム側中継スプロケット73、カムスプロケット65、及びバランサスプロケット115が、軸方向において同じ位置に配設されている。また、これらのスプロケットは、歯数が、クランクシャフトスプロケット70、クランク側中継スプロケット72、カム側中継スプロケット73が同数になっており、カムスプロケット65は、歯数がクランクシャフトスプロケット70の歯数の2倍になっており、バランサスプロケット115は、歯数がクランクシャフトスプロケット70の歯数の1/2になっている。
また、これらのスプロケットは、2つの組みになってチェーンによって接続されており、クランクシャフトスプロケット70とクランク側中継スプロケット72とが、中継チェーン75によって接続され、カム側中継スプロケット73、カムスプロケット65、及びバランサスプロケット115が、カムチェーン66によって接続されている。
これらのようにチェーンによって接続されるスプロケットの回転方向は、クランクシャフトスプロケット70とクランク側中継スプロケット72とが同じ回転方向になっており、カム側中継スプロケット73とカムスプロケット65とが同じ回転方向になっており、バランサスプロケット115の回転方向は、カム側中継スプロケット73の回転方向の反対方向になっている。
ここで、カム側中継スプロケット73は、クランク側中継スプロケット72と共に中継軸71と一体となって回転可能になっているので、カムスプロケット65は、クランクシャフトスプロケット70と回転方向が同じ方向になっており、バランサスプロケット115は、クランクシャフトスプロケット70とは回転方向が反対方向になっている。つまり、バランサ110は、回転方向がクランクシャフト27の回転方向の逆方向になっている。
これらのバランサ110、及びクランクシャフト27の回転をバランサ110に伝達する中継軸71やカムチェーン66、中継チェーン75は、エンジン1の運転時に発生する振動を抑制するバランサ装置105として設けられており、バランサ装置105のうち、バランサ110以外のものは、バランサ110を駆動するバランサ駆動手段として設けられている。このバランサ装置105は、圧縮比可変機構80によってクランクケース23に対して移動可能なシリンダブロック22側に設けられており、シリンダブロック22がクランクケース23に対して相対移動する場合には、バランサ装置105は、シリンダブロック22と一体となって移動可能になっている。
この実施形態に係るエンジン1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。なお、図1に記載されている矢印は、それぞれエンジン1の運転時における各回転軸の回転方向を示している。本実施形態に係るエンジン1の運転中は、ピストン25がシリンダブロック22内で往復運動を繰り返すことにより、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程を1つのサイクルとしてこのサイクルを繰り返す。ピストン25の往復運動は、コネクティングロッド26によってクランクシャフト27に伝達され、コネクティングロッド26とクランクシャフト27との作用により往復運動が回転運動に変換され、クランクシャフト27が回転することにより、エンジン1で発生した動力を出力する。
また、クランクシャフト27が回転すると、クランクシャフト27と一体となってクランクシャフトスプロケット70も回転し、この回転が中継チェーン75によってクランク側中継スプロケット72に伝達されることにより、中継軸71も回転する。中継軸71が回転すると、中継軸71と一体となってカム側中継スプロケット73も回転し、この回転がカムチェーン66によってカムスプロケット65やバランサスプロケット115に伝達されることにより、カムシャフト61やバランサ110が回転する。
このようにカムシャフト61が回転をした場合、カムシャフト61の回転に伴ってカム60も回転をする。これにより吸気バルブ55や排気バルブ56は往復運動をし、吸気通路や排気通路と燃焼室50との連通と遮断とが繰り返されることにより、エンジン1は連続して運転することができる。また、エンジン1の運転中は、圧縮比可変機構80のモータ100をECUで制御することにより、エンジン1の運転状態に応じて圧縮比を変更する。
図11−1〜図11−3は、圧縮比を変更する際におけるカム軸とシリンダブロックとクランクケースとの動きについての説明図である。圧縮比可変機構80のモータ100を制御することによって圧縮比を変更する場合、モータ100の回転がウォームギア98を介してウォームホイール96に伝達され、カム軸90が回動することにより、シリンダブロック22とクランクケース23とが相対的に移動し、圧縮比が変化する。
このように圧縮比を変更する際の圧縮比可変機構80の動きを詳しく説明すると、相対的に移動可能なシリンダブロック22とクランクケース23とが、互いに近付いた状態の位置関係の場合は、図11−1に示すように、カム軸90の軸方向に見た場合におけるシリンダブロック側カム91の中心であるシリンダブロック側カム中心91cと、クランクケース側カム92の中心であるクランクケース側カム中心92cとが一致し、カム軸90の中心であるカム軸中心90cが、シリンダブロック側カム中心91c等から外側方向、つまりクランクシャフト27から離れる方向にずれた位置になる状態に、カム軸90は回動する。
この状態でモータ100を駆動し、モータ軸101を回動させると、ウォームギア98からウォームホイール96にモータ100で発生した動力が伝達され、ウォームホイール96がカム軸90と共に回動する。ここで、2つのウォームギア98は、歯の螺旋の方向が反対方向に形成されているため、ウォームギア98とウォームホイール96とを介してモータ100の動力が伝達されるカム軸90は、回動の方向が互いに反対方向になる。このため、例えば、1つのカム軸90を外回りの方向、つまり、図11−1〜図11−3中に示す矢印の方向に回動させた場合には、シリンダブロック側カム中心91cはウォームホイール96の中心と一致しているため、図11−2に示すように、図11−1に示す位置から移動せず、ウォームホイール96の中心に対して偏心しているカム軸中心90cがカム軸90の回動に伴って、ウォームホイール96の回動方向に沿ってクランクケース23側の方向、即ち、図中における下方に移動する。
また、クランクケース側カム92は、カム軸90とは軸心がずれていると共に、カム軸90に対して回転可能に設けられており、また、シリンダブロック側カム91が支持されているシリンダブロック側軸受81とは異なる軸受であるクランクケース側軸受85に支持されているため、カム軸90が回動しながらカム軸中心90cが移動した場合には、クランクケース側カム中心92cは、図11−1に示す位置から、クランクケース23側の方向、即ち、図中における下方に移動し、シリンダブロック側カム中心91cから離れる方向に移動する。つまり、クランクケース側カム92は、クランクケース側軸受85に支持されており、また、クランクケース側軸受85は、2箇所のクランクケース側軸受85の間隔の方向(図11−2における左右方向)には移動しないため、クランクケース側カム92はカム軸90に対して回動しながらクランクケース23側の方向に移動する。
これにより、クランクケース側軸受85には、クランクケース側カム92から、クランクケース23側の方向への力が付与される。また、この場合は、反作用により、シリンダブロック側軸受81には、シリンダブロック側カム91からシリンダブロック22側の方向への力が付与される。シリンダブロック22とクランクケース23とは、クランクシャフト27の軸方向に直交する方向に相対的に移動可能に設けられているため、このような力が付与された場合には、シリンダブロック22とクランクケース23とは、クランクシャフト27の軸方向に直交する方向に、相対的に離れる方向に移動する。
また、さらにモータ100の動力によってウォームホイール96を回動させ、カム軸90を回動させた場合、カム軸90は、図11−3に示すようにカム軸中心90cがさらに回動方向に移動しながら回動する。これにより、クランクケース側カム92も、カム軸90に対して相対的に回動をしながら、クランクケース側カム中心92cがシリンダブロック側カム中心91cから離れる方向に移動する。これにより、シリンダブロック22とクランクケース23とは、相対的に離れる方向にさらに移動する。これらのようにシリンダブロック22とクランクケース23とが離れる方向に移動した場合、ピストン25と燃焼室50との距離が離れるため、圧縮比が低下する。つまり、エンジン1の運転状態に応じて、このようにシリンダブロック22或いはクランクケース23を移動させ、シリンダブロック22とクランクケース23との相対的な位置関係を変化させることにより、圧縮比を変更する。
このように、圧縮比可変機構80によってシリンダブロック22をクランクケース23に対して相対移動させる場合には、バランサ装置105は、シリンダブロック22と共に移動する。詳しく説明すると、シリンダブロック22をクランクケース23に対して相対移動させる場合には、バランサ装置105のバランサ110と中継軸71とカムチェーン66がシリンダブロック22と一体となって移動し、クランクシャフト27は、クランクケース23によって支持されているため、クランクシャフト27はシリンダブロック22と共には移動せず、クランクケース23によって支持された状態が維持される。
ここで、クランクシャフト27に設けられるクランクシャフトスプロケット70と中継軸71に設けられるクランク側中継スプロケット72とは、中継チェーン75によって接続されているが、中継軸71は、シリンダブロック22の移動方向における位置が、クランクシャフト27が配設されている位置とほぼ同じ位置となってシリンダブロック22に設けられている。このため、圧縮比可変機構80によってシリンダブロック22が移動した場合、中継軸71は、クランクシャフト27と中継軸71との軸間距離に直交する方向に移動することになる。従って、圧縮比可変機構80によってシリンダブロック22が移動した場合でも、クランクシャフト27と中継軸71との軸間距離の変化は小さいため、クランクシャフトスプロケット70とクランク側中継スプロケット72とを中継チェーン75によって接続した状態が維持される。
また、エンジン1を運転させている場合には、バランサ110も回転をするが、バランサ110は、中継チェーン75、中継軸71、カムチェーン66を介してクランクシャフト27の回転が伝達されるため、常にクランクシャフト27の回転に同期している。また、バランサ110は、回転方向がクランクシャフト27の回転方向の逆方向になっており、また、バランサスプロケット115は、歯数がクランクシャフトスプロケット70の歯数の1/2になっている。このため、バランサ110は、クランクシャフト27の回転方向の逆方向に、クランクシャフト27の回転速度の2倍の回転速度で回転をする。これにより、エンジン1の運転時における不釣合いモーメントを打ち消す。
ここで、エンジン1の運転時には、燃焼室50で燃料が燃焼することにより燃焼圧が発生し、この燃焼圧がピストン25に伝達されてピストン25をクランクシャフト27の方向に押し下げることにより、クランクシャフト27を回転させるが、この燃焼圧は、ピストン25のみでなく、シリンダブロック22にも伝達される。このため、シリンダブロック22には燃焼圧によって、クランクケース23から離れる方向への力が付与されるが、シリンダブロック22は、クランクケース23に対して移動可能に設けられている。
また、複数設けられる気筒10は、異なるタイミングで燃焼室50で燃料を燃焼させるため、シリンダブロック22には、燃料が燃焼した気筒10の近傍の部分に対して、シリンダブロック22がクランクケース23から離れる方向の力が付与される。つまり、例えば、第1気筒11で燃料が燃焼した場合には、この燃焼時の燃焼圧により、シリンダブロック22における第1気筒11付近に、クランクケース23から離れる方向の力が付与される。バランスウェイト113が設けられ、且つ、クランクシャフト27の回転に同期して回転するバランサ110は、このようにシリンダブロック22に付与される力をキャンセルする力が発生するように設けられている。
図12−1〜図12−6は、バランサによる不釣合い力のキャンセル力の説明図であり、図12−1は、第1気筒の燃焼時の説明図、図12−2は、第2気筒の燃焼時の説明図、図12−3は、第3気筒の燃焼時の説明図、図12−4は、第4気筒の燃焼時の説明図、図12−5は、第5気筒の燃焼時の説明図、図12−6は、第6気筒の燃焼時の説明図となっている。なお、図12−1〜図12−6は、バランサ110を第1気筒11側から見た場合における説明図になっている。バランサ110は、燃焼圧によってシリンダブロック22に付与される力をキャンセルする力である制振力を発生するが、この作用について詳しくすると、例えば、第1気筒11で燃焼圧が発生した場合には、シリンダブロック22は、第1気筒11側がクランクケース23から離れる方向の荷重を受ける。この場合は、図12−1に示すように、燃焼圧によりシリンダブロック22が受ける力の方向である燃焼圧方向は、クランクシャフト27に対して、第1気筒11が設けられている方向になる。
このように、第1気筒11で発生する燃焼圧が、シリンダブロック22の第1気筒11側をクランクケース23から離す方向の荷重として作用した場合、この燃焼圧は、シリンダブロック22の重心付近を支点として、シリンダブロック22の第1気筒11側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントとして作用する。つまり、第1気筒11で発生した燃焼圧は、クランクシャフト27の軸方向を長さ方向とした場合におけるシリンダブロック22の長さ方向における中央付近を支点として、シリンダブロック22の第1気筒11側をクランクケース23から離す方向のモーメントとして作用する。
これに対して、バランサ110の長さ方向における第1気筒11寄りのバランスウェイト113の位置は、第1気筒11での燃焼時には、バランサ110の回転中心に対して、クランクシャフト27から見た場合における第1気筒11の形成方向の反対方向に位置するように設けられている。つまり、バランスウェイト113は、バランサ110を軸方向に見た場合における外周の約180°の範囲に設けられているが、第1気筒11での燃焼時における第1気筒11寄りのバランスウェイト113の位置は、バランスウェイト113が設けられている範囲の中央付近の位置が、バランサ110の回転中心に対して、クランクシャフト27から見た場合における第1気筒11の形成方向の反対方向に位置するように設けられている。
バランスウェイト113は、このように設けられているが、エンジン1の運転時には、バランサ110はクランクシャフト27の回転速度の2倍の回転速度で回転をしている。このため、バランサ110には、バランサ110の回転中心からバランスウェイト113が設けられている方向への慣性力が発生する。従って、第1気筒11での燃焼時における第1気筒11寄りのバランスウェイト113の慣性力の方向は、第1気筒11での燃焼時における燃焼圧方向の反対方向になり、燃焼圧方向からの位相差が180°になるため、バランスウェイト113の慣性力は、燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力を打ち消す力として働く。即ち、バランサ110で発生する慣性力は、シリンダブロック22に対して制振力として作用する。このため、第1気筒11寄りのバランスウェイト113の慣性力は、第1気筒11での燃焼時に発生するシリンダブロック22の第1気筒11側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントを打ち消す力として作用する。
次に、第2気筒12での燃焼時におけるバランサ110の作用について説明すると、第2気筒12は、第2バンク7に設けられている。このため、第2気筒12での燃焼時における燃焼圧の方向は、図12−2に示すように、第1バンク6と第2バンク7との中間部分、或いは第1バランサ111と第2バランサ112との中間部分とクランクシャフト27の回転中心とを結んだ線を中心とする線対称となる方向になる。
これに対し、第1気筒11寄りのバランスウェイト113の位置は、第2気筒12での燃焼時には、第2バンク7から第1バンク6の方向へ位相差が120°となる位置が中心となる位置になる。つまり、第2気筒12での燃焼時におけるこのバランスウェイト113による慣性力の方向は、第2気筒12での燃焼時における燃焼圧方向からの位相差が120°となる方向になる。このため、第2気筒12での燃焼時は、燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力をバランスウェイト113の慣性力によって打ち消す力が、燃焼圧方向と慣性力方向との位相差が180°の場合よりも小さくなっている。
ここで、第2気筒12は、第1気筒11よりも、シリンダブロック22の長さ方向における中央寄りの部分に位置している。このため、第1気筒11と第2気筒12とで燃焼圧の大きさが同じ場合でも、シリンダブロック22の重心付近を支点として、燃焼圧によって作用するシリンダブロック22の第1気筒11側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントの大きさは、第1気筒11の燃焼圧によるモーメントよりも、第2気筒12の燃焼圧によるモーメントの方が小さくなる。第2気筒12での燃焼時は、燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力を、バランスウェイト113の慣性力によって打ち消す力が、燃焼圧方向と慣性力方向との位相差が180°の場合よりも小さくなるが、第2気筒12での燃焼時には、燃焼圧によって作用するシリンダブロック22の第1気筒11側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントも、第1気筒11での燃焼時よりも小さくなる。このため、第1気筒11寄りのバランスウェイト113の慣性力は、燃焼圧によって作用するモーメントを、適切に打ち消す力として作用する。
次に、第3気筒13での燃焼時におけるバランサ110の作用について説明すると、第3気筒13は第1気筒11と同様に第1バンク6に設けられているため、第3気筒13での燃焼時における燃焼圧の方向は、図12−3に示すように、第1気筒11での燃焼時における燃焼圧の方向と同じ方向になる。
これに対し、第3気筒13での燃焼時における第1気筒11寄りのバランスウェイト113の位置は、第1バンク6から第2バンク7の方向へ位相差が60°となる位置が中心となる位置になる。つまり、第3気筒13での燃焼時におけるこのバランスウェイト113による慣性力の方向は、第3気筒13での燃焼時における燃焼圧方向からの位相差が60°となる方向になる。このため、第3気筒13での燃焼時は、第1気筒11寄りのバランスウェイト113の慣性力は、燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力を打ち消す力としては作用し難くなっている。
ここで、第3気筒13は、シリンダブロック22の長さ方向における中央付近、即ち、シリンダブロック22の重心付近に位置している。このため、第3気筒13での燃焼時は、シリンダブロック22の重心付近を支点として、燃焼圧によって作用するシリンダブロック22の第1気筒11側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントは、第1気筒11での燃焼時や第2気筒12での燃焼時と比較して、大幅に小さくなる。
第3気筒13での燃焼時は、第1気筒11寄りのバランスウェイト113の慣性力は、燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力を打ち消す力としては作用し難くなっているが、第3気筒13での燃焼時には、燃焼圧によって作用するシリンダブロック22の第1気筒11側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントは、大幅に小さくなる。このため、第3気筒13での燃焼時は、バランスウェイト113の慣性力がモーメントを打ち消す力として作用しなくても、シリンダブロック22をクランクケース23から離す方向のモーメントは、あまり発生しない。
次に、第4気筒14での燃焼時におけるバランサ110の作用について説明するが、第4気筒14での燃焼時は、当該第4気筒14での燃焼時の力に影響するバランスウェイト113が、第1気筒11、第2気筒12、第3気筒13での燃焼時の力に影響するバランスウェイト113とは異なっている。つまり、バランサ110には、1つのバランサ110につき、180°ずれた状態で第1気筒11寄りのバランスウェイト113と第6気筒16寄りのバランスウェイト113との2つのバランスウェイト113が設けられているが、第1気筒11、第2気筒12、第3気筒13での燃焼時には、これらの気筒10に近い、第1気筒11寄りのバランスウェイト113の作用による影響が大きくなるのに対し、第4気筒14、第5気筒15、第6気筒16での燃焼時には、これらの気筒10に近い、第6気筒16寄りのバランスウェイト113の作用による影響が大きくなる。このため、第4気筒14での燃焼時には、第6気筒16寄りのバランスウェイト113の作用による影響が大きくなる。
また、第1気筒11、第2気筒12、第3気筒13は、シリンダブロック22の重心よりも、シリンダブロック22の長さ方向における第1気筒11側の端部側に位置しているため、これらの気筒10での燃焼時における燃焼圧は、シリンダブロック22の重心付近を支点として、シリンダブロック22の第1気筒11側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントとして作用するが、第4気筒14、第5気筒15、第6気筒16は、シリンダブロック22の重心よりも、シリンダブロック22の長さ方向における第6気筒16側の端部側に位置している。このため、これらの気筒10での燃焼時における燃焼圧は、シリンダブロック22の重心付近を支点として、シリンダブロック22の第6気筒16側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントとして作用する。
これらのように、第4気筒14、第5気筒15、第6気筒16での燃焼時における燃焼圧は、シリンダブロック22の重心付近を支点として、シリンダブロック22の第6気筒16側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントとして作用するが、このうち、第4気筒14は、第2気筒12と同様に第2バンク7に設けられている。このため、第4気筒14での燃焼時における燃焼圧の方向は、図12−4に示すように、第2気筒12での燃焼時における燃焼圧の方向と同じ方向になる。
この第4気筒14での燃焼時における燃焼圧の方向に対し、第4気筒14での燃焼時における第6気筒16寄りのバランスウェイト113の位置は、第2バンク7から第1バンク6の方向へ位相差が60°となる位置が中心となる位置になる。つまり、第4気筒14での燃焼時におけるこのバランスウェイト113による慣性力の方向は、第4気筒14での燃焼時における燃焼圧方向からの位相差が60°となる方向になる。このため、第4気筒14での燃焼時は、第6気筒16寄りのバランスウェイト113の慣性力は、燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力を打ち消す力としては作用し難くなっている。
ここで、第4気筒14は、シリンダブロック22の長さ方向における中央付近に位置している。このため、第4気筒14での燃焼時は、シリンダブロック22の重心付近を支点として、燃焼圧によって作用するシリンダブロック22の第6気筒16側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントは、第4気筒14よりも第6気筒16側の端部の方向に位置する気筒10での燃焼時と比較して、大幅に小さくなる。
第4気筒14での燃焼時は、第6気筒16寄りのバランスウェイト113の慣性力は、燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力を打ち消す力としては作用し難くなっているが、第4気筒14での燃焼時には、燃焼圧によって作用するシリンダブロック22の第6気筒6側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントは、大幅に小さくなる。このため、第4気筒14での燃焼時は、バランスウェイト113の慣性力がモーメントを打ち消す力として作用しなくても、シリンダブロック22をクランクケース23から離す方向のモーメントは、あまり発生しない。
次に、第5気筒15での燃焼時におけるバランサ110の作用について説明すると、第5気筒15は第1気筒11と同様に第1バンク6に設けられているため、第5気筒15での燃焼時における燃焼圧の方向は、図12−5に示すように、第1気筒11での燃焼時における燃焼圧の方向と同じ方向になる。
これに対し、第6気筒16寄りのバランスウェイト113の位置は、第5気筒15での燃焼時には、第1バンク6から第2バンク7の方向へ位相差が120°となる位置が中心となる位置になる。つまり、第5気筒15での燃焼時におけるこのバランスウェイト113による慣性力の方向は、第5気筒15での燃焼時における燃焼圧方向からの位相差が120°となる方向になる。このため、第5気筒15での燃焼時は、燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力をバランスウェイト113の慣性力によって打ち消す力が、燃焼圧方向と慣性力方向との位相差が180°の場合よりも小さくなっている。
ここで、第5気筒15は、シリンダブロック22の長さ方向における端部寄りに位置する第6気筒16よりも、シリンダブロック22の重心寄りの部分に位置している。このため、第1気筒11での燃焼時と第2気筒12での燃焼時との関係と同様に、シリンダブロック22の重心付近を支点として、燃焼圧によって作用するシリンダブロック22の第6気筒16側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントの大きさは、第6気筒16の燃焼圧によるモーメントよりも、第5気筒15の燃焼圧によるモーメントの方が小さくなる。第5気筒15での燃焼時は、燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力を、バランスウェイト113の慣性力によって打ち消す力が、燃焼圧方向と慣性力方向との位相差が180°の場合よりも小さくなるが、第5気筒15での燃焼時には、燃焼圧によって作用するシリンダブロック22の第6気筒16側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントも、第6気筒16での燃焼時よりも小さくなる。このため、第6気筒16寄りのバランスウェイト113の慣性力は、燃焼圧によって作用するモーメントを、適切に打ち消す力として作用する。
次に、第6気筒16での燃焼時におけるバランサ110の作用について説明すると、第6気筒16は第2気筒12と同様に第2バンク7に設けられているため、第6気筒16での燃焼時における燃焼圧の方向は、図12−6に示すように、第2気筒12での燃焼時における燃焼圧の方向と同じ方向になる。
これに対し、第6気筒16寄りのバランスウェイト113の位置は、第6気筒16での燃焼時には、バランスウェイト113が設けられている円周方向における範囲の中央付近の位置が、バランサ110の回転中心に対して、クランクシャフト27から見た場合における第6気筒16の形成方向の反対方向に位置するように設けられている。このため、第6気筒16での燃焼時におけるこのバランスウェイト113による慣性力の方向は、第6気筒16での燃焼時における燃焼圧方向からの位相差が180°となる方向になる。従って、このバランスウェイト113の慣性力は、第6気筒16での燃焼時の燃焼圧によってシリンダブロック22が受ける力を打ち消す力として働き、第6気筒16での燃焼時に発生するシリンダブロック22の第6気筒16側の端部をクランクケース23から離す方向のモーメントを打ち消す力として作用する。
以上のエンジン1は、シリンダブロック22をクランクケース23に対して移動可能にすることにより、各気筒10のピストン25とシリンダヘッド21との距離を変更することができるので、圧縮比を変更することができる。また、このシリンダブロック22に、当該シリンダブロック22と一体となって移動可能なバランサ110を設けている。このため、エンジン1の運転時には、クランクケース23に対するシリンダブロック22の移動状態に関わらず、バランサ110によって振動の低減を図ることができる。この結果、圧縮比の変更と振動の抑制とを両立することができる。
また、エンジン1は第1バンク6と第2バンク7とを有しており、バランサ110を、この第1バンク6と第2バンク7との間に配設しているので、いずれのバンクで発生した振動も、バランサ110によって、より適切に抑制することができる。この結果、圧縮比の変更と振動の抑制とを、より確実に両立することができる。
また、このように第1バンク6と第2バンク7との間にバランサ110を配設することにより、通常は空間となっている部分を効率的に利用することができ、バランサ110を設けることによるエンジン1の大型化を抑制できる。この結果、エンジン1の大型化を招くことなく、圧縮比の変更と振動の抑制とを両立することができる。
また、バランサ110は2つ備えられており、エンジン1の運転時は、2つのバランサ110はクランクシャフト27の回転とは逆方向に2倍の速度で回転する。このため、各気筒10で燃料を燃焼させる際に発生する振動を、圧縮比の調節状態に関わらず抑制することができる。この結果、圧縮比の変更を可能にしつつ、より確実に振動を抑制することができる。
〔変形例〕
図13は、実施形態の変形例に係る可変圧縮比エンジンの概略図である。なお、実施形態に係るエンジン1は、第1バンクと第2バンクとを有するV型エンジンとなっていたが、本発明に係る可変圧縮比エンジンはV型エンジン以外の形態でもよい。例えば、図13に示すように、本発明に係る可変圧縮比エンジンは、直列のエンジン120でもよい。この場合、シリンダブロック22は、実施形態に係るエンジン1と同様にモータ100で発生する動力によってクランクシャフト27に対して相対的に移動可能になっており、この相対移動により、圧縮比を変更することができる。
また、バランサ装置125は、実施形態に係るエンジン1と同様に、第1バランサ111と第2バランサ112との2つのバランサ110が備えられている。この2つのバランサ110は、エンジン120をクランクシャフト27の軸方向に見た場合における気筒の両側に設けられている。即ち、バランサ110は、2つのバランサ110の間に気筒が位置する状態で配設されている。
この変形例においても、シリンダブロック22には、中継チェーン75によってクランクシャフト27に接続される中継軸71が設けられており、バランサ110を回転させる動力は、中継軸71とカムシャフト61とを接続するカムチェーン66によって、クランクシャフト27からの動力がバランサ110に伝達可能に設けられている。その際に、この変形例では、バランサ110に動力を伝達することのできるカムチェーン66の経路を得るためにテンションスプロケット122を設けており、このテンションスプロケット122によってカムチェーン66に所定の張力を付与すると共に、バランサスプロケット115とカムチェーン66とが、確実に接触することができるカムチェーン66の経路を実現している。
このように設けられるバランサ110の回転速度は、実施形態に係るエンジン1に備えられるバランサ110と同様に、クランクシャフト27の回転の2倍の速度で回転するが、回転方向が、上記実施形態に係るエンジン1とは異なっている。つまり、実施形態に係るエンジン1では、2つのバランサ110は、共にクランクシャフト27の回転とは逆方向に回転をするように設けられているが、この変形例では、2つのバランサ110は、バランサ110同士が互いに反対方向に回転をするように設けられている。
このように、シリンダブロック22が移動可能に設けられ、バランサ装置125が設けられる直列エンジンの一例として、直列4気筒のエンジン120の場合で作用を説明する。直列4気筒のエンジン120では、第1気筒と第4気筒は、シリンダブロック22の長さ方向における端部寄りに位置しているので、これらの気筒での燃焼時には、燃焼圧によって発生する、シリンダブロック22をクランクケース23から離す方向のモーメントは大きくなる。
これに対し、第2気筒と第3気筒は、シリンダブロック22の長さ方向における中央寄りに位置しているので、これらの気筒での燃焼時には、燃焼圧によって発生する、シリンダブロック22をクランクケース23から離す方向のモーメントは、比較的小さくなる。各気筒での燃焼時の力は、このような傾向にあるが、第1気筒及び第4気筒と、第2気筒及び第3気筒は、180°位相差があるので、上記実施形態に係るエンジン1に備えられるバランサ110と同様な形態のバランサ110を、クランクシャフト27の2倍の回転速度で回転させることにより、シリンダブロック22をクランクケース23から離す方向のモーメントを、より適切に打ち消すことができる。
つまり、クランクシャフト27の1回転ごとに2回、燃焼圧荷重によって、シリンダブロック22がクランクケース23から離れる方向の力が発生するが、バランサ110を回転させることにより、バランサ110のキャンセル力が発生するので、4気筒エンジンの不釣合い力のキャンセルのみでなく、シリンダブロック22がクランクケース23から離れる方向の力をも軽減することができる。この結果、比較的剛性が低い軽量な構造にしても、圧縮比の変更と振動の抑制とを両立することができる。
図14は、実施形態の変形例に係る可変圧縮比エンジンの概略図である。図15は、図14のE−E断面図である。図16は、中継チェーン及びカムチェーンの取り回しの状態を示す概略図である。また、実施形態に係るエンジン1は、バランサ110がシリンダブロック22に設けられているが、バランサ110はシリンダブロック22以外の部分に設けられていてもよい。例えば、図14〜図16に示すように、バランサ110はクランクケース23側に設けられていてもよい。この変形例について詳しく説明をすると、上述した実施形態に係るエンジン1では、バランサ110はシリンダブロック22に設けられているが、この変形例に係るエンジン130では、バランサ装置135が有するバランサ110は、クランクケース23の下部に設けられるオイルパン133内に設けられている。
このようにオイルパン133内に設けられるバランサ110には、第1バランサ111には第1バランサギア141が設けられ、第2バランサ112には第2バランサギア142が設けられている。また、クランクシャフト27には、クランクシャフトギア138が設けられており、クランクシャフトギア138は、第1バランサギア141と第2バランサギア142との双方に噛み合っている。また、第1バランサギア141と第2バランサギア142とは、同じ歯数になっており、クランクシャフトギア138は、第1バランサギア141や第2バランサギア142の歯数の2倍になっている。
第1バランサ111や第2バランサ112は、このようにオイルパン133内に設けられ、クランクシャフト27とはギアによって接続されているため、カムチェーン66とは接続されていないが、シリンダブロック22には、このカムチェーン66に所定の張力を付与すると共に、カムスプロケット65とカムチェーン66とが、確実に接触することができるように、テンションスプロケット132が設けられている。
このエンジン130の運転時は、クランクシャフトギア138と第1バランサギア141及び第2バランサギア142が噛み合うことにより、クランクシャフト27の動力が伝達される第1バランサ111と第2バランサ112とは、共にクランクシャフト27の回転とは逆方向に2倍の速度で回転をする。
これにより、第1バランサ111と第2バランサ112とは、ピストン25の往復運動によって発生する不釣合い力が直接作用するクランクシャフト27を直接支持しているクランクケース23に共に支持されて制振力を発生するため、圧縮比を変更するためにシリンダブロック22をクランクケース23から相対的に移動する場合でも、安定して往復運動部品の慣性力により不釣合い力をキャンセルすることができる。この結果、より確実に圧縮比の変更と振動の抑制とを両立することができる。
また、第1バランサ111と第2バランサ112とを設ける際に、オイルパン133内に設けるため、通常は空間となっている部分を効率的に利用することができ、バランサ110を設けることによるエンジン130の大型化を抑制できる。この結果、エンジン130の大型化を招くことなく、圧縮比の変更と振動の抑制とを両立することができる。
図17は、実施形態の変形例に係る可変圧縮比エンジンの概略図である。また、オイルパン133内にバランサ110を設ける場合は、図17に示すように、エンジン150は直列エンジンであってもよい。エンジン150が直列エンジンの場合には、2つのバランサ110は上記変形例(図13参照)と同様に互い反対回転になるのが好ましいため、この場合は、例えば、図17に示すように、第2バランサ112にバランサスプロケット156を設け、このバランサスプロケット156とクランクシャフトスプロケット70とを、バランサチェーン155で接続する。つまり、クランクシャフト27には、バランサチェーン155用と中継チェーン75用との2つのスプロケットを設け、バランサチェーン155は、このうちの1つのスプロケットに掛け回す。また、この場合、バランサスプロケット156は、歯数をクランクシャフトスプロケット70の歯数の1/2にする。
また、第1バランサ111には第1バランサギア161を設け、第2バランサ112には第2バランサギア162を設け、これらのギアを噛み合わせる。これらの第1バランサギア161と第2バランサギア162とは、歯数を同数にする。
このエンジン150の運転時は、バランサチェーン155によって、クランクシャフト27の動力が伝達される第2バランサ112は、回転速度がクランクシャフト27の回転速度の2倍になる。また、第2バランサギア162と第1バランサギア161とを介して、第2バランサ112の回転が伝達される第1バランサ111は、第2バランサ112の回転速度と同じ回転速度で、第2バランサ112の逆方向に回転をする。このため、第2バランサ112のみでなく、第1バランサ111も、回転速度がクランクシャフト27の回転速度の2倍になる。
これらのように回転をする第1バランサ111と第2バランサ112とを設けることにより、第1バランサ111と第2バランサ112とは、ピストン25の往復運動によって発生する不釣合い力が直接作用するクランクシャフト27を直接支持しているクランクケース23に共に支持されて制振力を発生するため、圧縮比を変更するためにシリンダブロック22をクランクケース23から相対的に移動する場合でも、安定して往復運動部品の慣性力により不釣合い力をキャンセルすることができる。この結果、より確実に圧縮比の変更と振動の抑制とを両立することができる。
また、上述した説明では、エンジンはV型6気筒エンジン、または直列4気筒エンジンで説明したが、エンジンの形態はこれら以外のものでもよい。また、バランサは、全て2つ設けられるものとして説明したが、バランサは2つ以外の数で設けられていてもよく、例えば、特にV型6気筒エンジンのように同じ方向に回転させる場合には1つであってもよい。また、バランサの回転方向や駆動方法は、上述したもの以外でもよい。バランサは、エンジンの運転時における振動を抑制する目的で装着されるものであるから、エンジン1の気筒数や気筒配列、さらには点火順序によって最適になるような形態であるのが好ましい。
同様に、圧縮比可変機構も、上述した形態以外のものでもよい。圧縮比可変機構は、シリンダブロックとクランクケースとを相対移動させることにより、圧縮比を変更することができるものであれば、上述した機構以外のものであってもよい。