本発明の積層セラミックコンデンサについて説明する。図1は、本発明の積層セラミックコンデンサの一例を示す概略断面図であり、図2は、図1の積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層の拡大図であり結晶粒子および粒界相を示す模式図である。
本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体磁器からなる誘電体層5と内部電極層7とが交互に積層されたコンデンサ本体1の両端部に外部電極3が形成されており、外部電極3は内部電極層7と電気的に接続されている。外部電極3は例えばCuもしくはCuとNiの合金ペーストを焼き付けて形成されている。
図1では誘電体層5と内部電極層7との積層状態を単純化して示しているが、本発明の積層セラミックコンデンサは誘電体層5と内部電極層7とが数百層にも及ぶ積層体となっている。
誘電体層5を形成している誘電体磁器は、結晶粒子9と粒界相11とから構成されており、その厚みは薄層の場合、2μm以下とされている。誘電体層5の厚みをこの範囲にすると、積層セラミックコンデンサを小型、高容量化することが可能になるとともに、比誘電率の温度特性を安定化させることが可能になり、さらには高温負荷試験での寿命特性を高めることができる。
内部電極層7は、高積層化しても製造コストを抑制できるという点で、ニッケル(Ni)や銅(Cu)などの卑金属が望ましく、特に、本発明における誘電体層5との同時焼成が図れるという点でニッケル(Ni)がより望ましい。
本発明の積層セラミックコンデンサにおける誘電体層5を構成する誘電体磁器は、チタン酸バリウムを主成分とし、これにカルシウムが0.4原子%以上の濃度で固溶した結晶粒子9により構成され、さらにバナジウムと、イットリウム,ジスプロシウム,ホルミウムおよびエルビウムから選ばれる1種の希土類元素(RE)とを含む焼結体からなる。
この誘電体磁器は、主成分であるチタン酸バリウムの構成成分であるチタン100モルに対して、バナジウムをV2O5換算で0.05〜0.30モル、イットリウム,ジスプロシウム,ホルミウムおよびエルビウムから選ばれる1種の希土類元素(RE)をRE2O3換算で0.5〜1.5モル含有するものである。
また本発明の積層セラミックコンデンサにおける誘電体層5を構成する結晶粒子9は、当該結晶粒子9の中心部を占める内核と、この内核を取り囲む外殻とを有し、前記内核におけるバリウムおよびカルシウムとチタンとのモル比(Ba+Ca)/Tiが0.90〜0.95であり、また外殻におけるバリウムおよびカルシウムとチタンとのモル比(Ba+Ca)/Tiが1.10〜1.20であるとともに、平均粒径が0.18〜0.25μmである。なお、以降において、単に、モル比(Ba+Ca)/Tiと記載した場合には、バリウムおよびカルシウムとチタンとのモル比を表すものとする。
これにより、室温(25℃)における比誘電率が3000以上であり、比誘電率の温度変化がEIA規格のX7R特性を満足するとともに、DCバイアス特性(室温において直流電圧を印加しないときの静電容量に対する8Vの直流電圧を印加したときの静電容量)が40%以上であり、かつ高温負荷試験(温度:170℃,30V)での寿命特性が80時間以上を示すものとなる。
本発明の積層セラミックコンデンサにおける誘電体層5を構成する誘電体磁器は、チタン酸バリウムを主成分とし、これにカルシウムが0.4原子%以上の濃度で固溶した結晶粒子9により構成されており、その誘電体磁器の組成はチタン酸バリウムを構成するチタン100モルに対して、バナジウムをV2O5換算で0.05〜0.30モル、イットリウム,ジスプロシウム,ホルミウムおよびエルビウムから選ばれる1種の希土類元素(RE)をRE2O3換算で0.5〜1.5モル含む。
すなわち、チタン酸バリウムを構成するチタン100モルに対するバナジウムの含有量がV2O5換算で0.05モルよりも少ない場合、またはチタン酸バリウムを構成するチタン100モルに対するイットリウム、ジスプロシウム、ホルミウムおよびエルビウムから選ばれる1種の希土類元素(RE)がRE2O3換算で0.5モルよりも少ない場合には、比誘電率の温度特性がX7R特性を満足しないものとなる。
チタン酸バリウムを構成するチタン100モルに対するバナジウムの含有料がV2O5換算で0.30モルよりも多い場合、またはチタン酸バリウムを構成するチタン100モルに対するイットリウム、ジスプロシウム、ホルミウムおよびエルビウムから選ばれる1種の希土類元素(RE)がRE2O3換算で1.5モルよりも多い場合には、室温(25℃)における誘電体磁器の比誘電率が3000よりも低くなる。
ところで、希土類元素(RE)の中でイットリウム,ジスプロシウム,ホルミウムおよびエルビウムは、カルシウムを含むチタン酸バリウムに固溶したときに異相が生成し難く、高い絶縁性が得られるため好適に用いることができ、その中でも誘電体磁器の比誘電率を高められるという理由からイットリウムがより好ましい。
また、この誘電体磁器は、上述のように、バナジウムを含有するものであるが、バナジウムを含む誘電体磁器においては、結晶粒子9内に酸素空孔が存在する場合、結晶粒子9中に固溶したバナジウムの一部は価数が3価として存在するため、酸素空孔と3価のバナジウムとで欠陥対を生成し、その結果として酸素空孔の粒内での移動が制限され信頼性が向上する。さらに本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体磁器がチタン酸バリウムにカルシウムが固溶した結晶粒子により構成されたものである。カルシウムが結晶粒子9内に存在すると、そのカルシウムがバリウムサイトに固溶することによって、格子定数が小さくなり、これに伴い(3価の)バナジウムと酸素空孔の結合距離も短くなるために、欠陥対の結合がより強固なものになる。よってチタン酸バリウムにカルシウムを固溶させた結晶粒子9にさらにバナジウムを含有させると、従来のチタン酸バリウムを主成分とする誘電体磁器に比較して高温負荷試験での寿命特性がさらに向上する。
結晶粒子9中に含まれるカルシウムの濃度は、カルシウムが不純物として存在しないか、またはカルシウムを含む他の化合物を形成し難いという理由から0.4原子%〜2原子%であることが好ましい。
結晶粒子9中のカルシウムの濃度については、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層5の断面を研磨した研磨面に存在する結晶粒子9に対して、元素分析機器を付設した透過電子顕微鏡を用いて元素分析を行う。このとき電子線のスポットサイズは約5nmとし、分析する箇所は結晶粒子9の粒界付近から中心へ向けて引いた直線上のうち粒界からほぼ等間隔に4〜5点とし、各測定点から検出されるBa,Ti,Ca,VおよびRE(希土類元素)の全量を100%としたときのカルシウムの濃度として求める。
また、本発明では、誘電体磁器は、チタン酸バリウムを構成するチタン100モルに対して、バナジウムをV2O5換算で0.05〜0.15モル、希土類元素(RE)をRE2O3換算で0.5〜1.0モル含有することが望ましい。これにより室温(25℃)における誘電体磁器の比誘電率をさらに高めることができる。
さらに本発明では、誘電体磁器は、チタン酸バリウムに対して、カルシウム以外にバナジウムおよび希土類元素(RE)のみ含有することが望ましい。この場合には誘電体磁器の誘電損失をさらに低減することができる。
図3は、本発明の積層セラミックコンデンサにおける誘電体層5を構成する結晶粒子9の内部構造と、結晶粒子9の内核および外殻におけるバリウムおよびカルシウムとチタンとのモル比(Ba+Ca)/Tiの変化を示す模式図である。
本発明の積層セラミックコンデンサにおける誘電体層5を構成する結晶粒子9は、上述のように、結晶粒子9の中心部を占める内核9aと、この内核9aを取り囲む外殻9bとからなり、内核9aにおけるモル比(Ba+Ca)/Tiが0.90〜0.95であり、外殻9bにおけるモル比(Ba+Ca)/Tiが1.10〜1.20である。
本発明の積層セラミックコンデンサは上述のように誘電体層5を構成する結晶粒子9が内核9aと外殻9bとで異なるモル比(Ba+Ca)/Tiを有している。この場合モル比(Ba+Ca)/Tiが1より大きい結晶粒子9の外殻9bはモル比(Ba+Ca)/Tiが1より小さい内核9aに比較して添加成分であるバナジウムや希土類元素(RE)の固溶量が多くなっている。そのため結晶粒子9の絶縁性が高まり、比誘電率の温度特性を安定化できるとともに、DCバイアス特性および高温負荷試験での寿命特性を向上できる。
一方、結晶粒子9の内核9aはモル比(Ba+Ca)/Tiが1より小さい値であることから、この内核9aには添加元素が固溶し難い。そのためチタン酸バリウムにカルシウムが固溶していてもチタン酸バリウムが本来有する特性に近い強誘電性を発現でき高誘電率化を図ることができる。
本発明における結晶粒子9は内核9aと外殻9bとで添加成分の固溶量が異なる構造を有するものであり、従来から知られているコアシェル構造とは結晶粒子9の内部におけるモル比(Ba+Ca)/Tiの変化が異なっている。
ここで、特許文献1〜3に記載された従来の積層セラミックコンデンサにおける誘電体層を構成する誘電体磁器は、当該誘電体磁器を構成する結晶粒子のモル比(Ba+Ca)/Tiが結晶粒子9内においていずれも1に近い値でありしかも一様なものとなっている。このような積層セラミックコンデンサは、後述の実施例からも明らかなように、本発明における結晶粒子9を有する積層セラミックコンデンサに比較して誘電体層5の厚みが同じである場合に室温(25℃)における比誘電率が低く、また場合によっては高温負荷試験での寿命特性が短いものとなる。
これに対して、本発明の積層セラミックコンデンサは、図3に示すように、誘電体磁器を構成する結晶粒子9が内核9aと外殻9bとでモル比(Ba+Ca)/Tiの異なる構造を有するようにし、結晶粒子9の中心部とその周囲とで異なる機能を持たせるように形成したことにより、高誘電率でありかつ比誘電率の温度変化が小さく、またDCバイアス特性が小さくかつ高温負荷試験での寿命特性に優れた積層セラミックコンデンサを得ることができる。
ただし、結晶粒子9の内核9aのモル比(Ba+Ca)/Tiが0.90より低い場合には誘電体磁器の室温(25℃)における比誘電率が3000よりも低下するとともに比誘電率の変化率がX7R特性を満足しなくなる。一方、内核9aのモル比(Ba,Ca)/Tiが0.95より高い場合には誘電体磁器の室温(25℃)における比誘電率が3000よりも低くなり、比誘電率の変化率がX7R特性を満足しないか、高温負荷試験での寿命特性が80時間よりも短くなるか、あるいは誘電損失が大きくなる。
外殻9bのモル比(Ba+Ca)/Tiが1.10より低い場合にはいずれも誘電体磁器の室温(25℃)における比誘電率が3000よりも低くなるとともに高温負荷試験での寿命特性が80時間よりも短くなる。一方、外殻9bのモル比(Ba+Ca)/Tiが1.20より高い場合にはDCバイアス特性が40%よりも低下し、さらに誘電損失が大きくなる。
ここで、結晶粒子9中のモル比(Ba+Ca)/Tiについては以下のようにして求める。まず、分析する試料となる積層セラミックコンデンサを研磨もしくは切断して薄板状の試料を作製する。次に、この薄板状の試料をイオンミリングにより加工して透過電子顕微鏡観察用の試料を作製する。この分析には元素分析機器を付設した透過型電子顕微鏡を用いる。このとき電子線のスポットサイズは約5nmとし、図3に矢印で示すように結晶粒子9の粒界から中心部にかけて20〜50nmの間隔で分析を行いモル比(Ba+Ca)/Tiが1より大きい領域と1より小さい領域とに分けて、それぞれ平均値を求めて結晶粒子9における内核9aおよび外殻9bのモル比(Ba+Ca)/Tiを求める。ここで結晶粒子9の内核9aは上記のようにして求めたモル比(Ba+Ca)/Tiが1より小さい領域であり、モル比(Ba+Ca)/Tiが1より大きい領域を外殻9bとする。
選択する結晶粒子9はその結晶粒子9の最大径と最小径との比(アスペクト比)が1.3以下であり、平均粒径の±60%の範囲にある結晶粒子9とする。なお平均粒径の±60%の範囲にある結晶粒子9とはその結晶粒子9の輪郭から画像処理により面積を求め、その面積と同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径が平均粒径の±60%の範囲にあるものである。このようなモル比(Ba+Ca)/Tiを求める分析を5個以上の結晶粒子9について行い、それらの平均値よりモル比(Ba+Ca)/Tiを求める。
また、結晶粒子9の平均粒径は0.18〜0.25μmであることが重要である。結晶粒子9の平均粒径を上記の範囲とすることにより、誘電体磁器の室温(25℃)における比誘電率、比誘電率の温度特性、DCバイアス特性および高温負荷寿命を上述した値にすることができる。
すなわち、結晶粒子9の平均粒径が0.18μmよりも小さい場合には誘電体磁器の室温(25℃)における比誘電率が3000よりも低いものとなり、結晶粒子9の平均粒径が0.25μmよりも大きいとDCバイアス特性が低下し、また場合によっては高温負荷試験での寿命が80時間よりも短くなるからである。
ここで、結晶粒子9の平均粒径は、焼成後の積層セラミックコンデンサである試料の破断面を研磨した後、走査型電子顕微鏡を用いて誘電体磁器の内部組織の写真を撮り、その写真上で結晶粒子9が20〜30個入る円を描き、円内および円周にかかった結晶粒子9を選択し、各結晶粒子9の輪郭を画像処理して、各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出しその平均値より求める。
また、本発明の誘電体磁器は焼結性を高めるための助剤としてガラス成分や他の添加成分を誘電体磁器中に0.5〜2質量%の割合で含有させても良い。なお、本発明の積層セラミックコンデンサにおける誘電体層5を構成する誘電体磁器は、上述した添加成分、不可避不純物および焼結性を高めるための助剤を除きチタン酸バリウムカルシウムが主成分となっている。
次に、本発明の積層セラミックコンデンサを製造する方法について説明する。まず、チタン酸バリウムにカルシウムが固溶した粉末(以下、BCT粉末という。組成:Ba1−xCaTiO3(x=0.03〜0.1))と、添加成分として、V2O5粉末と、Y2O3粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末およびEr2O3粉末のうち少なくとも1種の希土類元素(RE)の酸化物粉末とを準備する。用いるBCT粉末はそのBCT粉末の中心部を占める内核9aにおけるモル比(Ba+Ca)/Tiが1より小さく、かつ外殻9bのモル比(Ba+Ca)/Tiが1より大きい値を有するものである。
粉末の中心部を占める内核9aにおけるモル比(Ba+Ca)/Tiが1より小さく、かつ外殻9bのモル比(Ba+Ca)/Tiが1より大きい値を有するBCT粉末は、モル比(Ba+Ca)/Tiが1以下で平均粒径が約100nmのBCT粉末を用意し、このBCT粉末に対して、モル比(Ba+Ca)/Tiが1より大きく、平均粒径が約30nmのBCT粉末を質量比で30〜70質量%となるように混合した後、約700〜800℃で仮焼して調製することにより得られる。
BCT粉末中におけるバリウムおよびカルシウムと、チタンとのモル比の測定は元素分析器を付設した透過電子顕微鏡を用いて行う。分析する際は、BCT粉末を透過電子顕微鏡用のカーボンメッシュ上に分散させ、BCT粉末の平均粒径の±30%の範囲にあるBCT粉末を約10個抽出する。観察においては電子線のスポットサイズは5nmとし、結晶粒子9の場合と同様、BCT粉末の粒界から中心部にかけて同様の分析を行う。
BCT粉末の平均粒径は0.11〜0.17μmが好ましい。BCT粉末の平均粒径が0.11μm以上であると、焼結時の粒成長を抑制できるために比誘電率の向上とともに誘電損失の低下が図れるという利点があり、BCT粉末の平均粒径が0.17μm以下であると、バナジウムおよび希土類元素などの添加剤を結晶粒子9の内部にまで固溶させることが容易となる。
添加剤であるV2O5粉末ならびにY2O3粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末およびEr2O3粉末のうち少なくとも1種の希土類元素(RE)の酸化物粉末についても平均粒径はBCT粉末と同等、もしくはそれ以下のものを用いることが好ましい。
次いで、これらの原料粉末を、BCT粉末を構成するチタン100モルに対してV2O5粉末を0.05〜0.3モル、Y2O3粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末およびEr2O3粉末から選ばれる希土類元素(RE)をRE2O3換算で0.5〜1.5モルの割合で配合し、さらには必要に応じて所望の誘電特性を維持できる範囲で焼結助剤としてガラス粉末を添加して素原料粉末を得る。ガラス粉末の添加量は、主な原料粉末であるBCT粉末の合計量を100質量部としたときに0.5〜2質量部が良い。
次に、上記の素原料粉末に専用の有機ビヒクルを加えてセラミックスラリを調製し、次いで、セラミックスラリをドクターブレード法またはダイコータ法などのシート成形法を用いてセラミックグリーンシートを形成する。この場合、セラミックグリーンシートの厚みは誘電体層の高容量化のための薄層化、高絶縁性を維持するという点で1.2〜4μmが好ましい。
次に、得られたセラミックグリーンシートの主面上に矩形状の内部電極パターンを印刷して形成する。内部電極パターンとなる導体ペーストはNi、Cuもしくはこれらの合金粉末が好適である。
次に、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを所望枚数重ねて、その上下に内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを複数枚、上下層が同じ枚数になるように重ねてシート積層体を形成する。この場合、シート積層体中における内部電極パターンは、長寸方向に半パターンずつずらしてある。
次に、シート積層体を格子状に切断して、内部電極パターンの端部が露出するようにコンデンサ本体成形体を形成する。このような積層工法により、切断後のコンデンサ本体成形体の端面に内部電極パターンが交互に露出されるように形成できる。
次に、コンデンサ本体成形体を脱脂した後、還元雰囲気中にて焼成する。焼成温度は本発明において用いるBCT粉末への添加剤の固溶と結晶粒子9の粒成長を制御するという理由から1050〜1150℃が好ましい。
また、焼成後に、コンデンサ本体1を再度、弱還元雰囲気にて熱処理(再酸化処理)を行う場合がある。この熱処理を行うのは、焼成後の5×106Ω程度であった積層セラミックコンデンサの絶縁抵抗を107Ω以上にまで絶縁抵抗を高めることができるからである。その温度は結晶粒子9の粒成長を抑えつつ再酸化量を高めるという理由から900〜1100℃が好ましい。こうして誘電体磁器が高絶縁性化した積層セラミックコンデンサを作製することができる。
次に、このコンデンサ本体1の対向する端部に、外部電極ペーストを塗布して焼付けを行い外部電極3を形成する。また、この外部電極3の表面には実装性を高めるためにメッキ膜を形成しても構わない。
まず、原料粉末として、内核および外殻でモル比(Ba+Ca)/Tiの異なるBCT粉末と、Y2O3粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末、Er2O3粉末、V2O5粉末およびMnCO3粉末とを準備し、これらの各種粉末を表1に示す割合で混合した。Y2O3粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末、Er2O3粉末、V2O5粉末およびMnCO3粉末の添加量はBCT粉末100モルに対する割合である。なお、MnCO3は焼成後にMnOに変化することを想定した割合とした。これらの原料粉末は純度が99.9%のものを用いた。なお、BCT粉末の平均粒径は0.14μmのものを用いた。またY2O3粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末、Er2O3粉末、V2O5粉末およびMnCO3粉末は平均粒径が0.1μmのものを用いた。焼結助剤はSiO2=55、BaO=20、CaO=15、Li2O=10(モル%)組成のガラス粉末を用いた。ガラス粉末の添加量はBCT粉末の合計量100質量部に対して1質量部とした。
次に、これらの原料粉末にポリビニルアルコールとイオン交換水とを添加して直径5mmのジルコニアボールを用いて湿式混合した。
次に、湿式混合した粉末を、ポリビニルブチラール樹脂を溶解させたトルエンおよびアルコールの混合溶媒中に投入し、直径5mmのジルコニアボールを用いて湿式混合しセラミックスラリを調製し、ドクターブレード法により厚み2.0μmおよび2.5μmのセラミックグリーンシートを作製した。
次に、これらのセラミックグリーンシートの上面にNiを主成分とする矩形状の内部電極パターンを複数形成した。内部電極パターンを形成するための導体ペーストは、平均粒径が0.3μmのNi粉末100質量部に対してBCT粉末を15質量部添加したものを用いた。
次に、内部電極パターンを印刷したセラミックグリーンシートを200枚積層し、その上下面に内部電極パターンを印刷していないセラミックグリーンシートをそれぞれ20〜40枚積層し、プレス機を用いて温度60℃、圧力107Pa、時間10分の条件で密着させて厚み2.0μmのセラミックグリーンシートを用いたシート積層体と厚み2.5μmのセラミックグリーンシートを用いたシート積層体とを作製し、しかる後、各シート積層体を、所定の寸法に切断してコンデンサ本体成形体を形成した。
次に、コンデンサ本体成形体を大気中で脱バインダ処理した後、水素−窒素中、1110〜1130℃で2時間焼成してコンデンサ本体を作製した(試料No.24については1110℃、試料No.25については1130℃、それ以外の試料は1120℃)。また、試料は、続いて、窒素雰囲気中1000℃で4時間の再酸化処理を施した。このコンデンサ本体の大きさは0.95mm×0.48mm×0.48mm、誘電体層の厚みは1.5μmまたは2μm、内部電極層の1層の有効面積は0.3mm2であった。なお、有効面積とは、コンデンサ本体の異なる端面にそれぞれ露出するように積層方向に交互に形成された内部電極層同士の重なる部分の面積のことである。
次に、焼成したコンデンサ本体をバレル研磨した後、コンデンサ本体の両端部にCu粉末とガラスを含んだ外部電極ペーストを塗布し、850℃で焼き付けを行い外部電極を形成した。その後、電解バレル機を用いて、この外部電極の表面に、順にNiメッキ及びSnメッキを行い、積層セラミックコンデンサを作製した。
次に、これらの積層セラミックコンデンサについて以下の評価を行った。評価はいずれも試料数10個とし、その平均値から求めた。比誘電率および誘電損失は静電容量を温度25℃、周波数1.0kHz、測定電圧を1Vrmsとして測定し、誘電体層の厚みと内部電極層の有効面積から求めた。また、比誘電率の温度特性は静電容量を温度−55〜150℃の範囲で測定し、この温度範囲において25℃に対して比誘電率の変化率が最大になる値を求めた。
高温負荷試験は温度170℃、印加電圧30Vの条件で行った。高温負荷試験での寿命特性は試料数を各試料20個とし、積層セラミックコンデンサの絶縁抵抗が106Ωを下回ったときの時間として求めた。
DCバイアス特性は8Vの直流電圧を印加して測定した静電容量を直流電圧を印加しない条件で測定した静電容量で除して求めた。このときの試料数は各試料について10個とした。
誘電体層を構成する結晶粒子の平均粒径は焼成後のコンデンサ本体である試料の破断面を研磨した後、走査型電子顕微鏡を用いて内部組織の写真を撮り、その写真上で結晶粒子が20〜30個入る円を描き、円内および円周にかかった結晶粒子を選択し、各結晶粒子の輪郭を画像処理して、各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求めた。
結晶粒子中のモル比(Ba+Ca)/Tiについては、まず、分析する試料となる積層セラミックコンデンサを研磨もしくは切断して薄板状の試料を作製した。次に、この薄板状の試料をイオンミリングにより加工して透過電子顕微鏡観察用の試料を作製した。この分析には元素分析機器を付設した透過型電子顕微鏡を用いた。このとき電子線のスポットサイズは約5nmとし、図3に示すように結晶粒子の粒界から中心部にかけて20〜50nmの間隔で分析を行い、モル比(Ba+Ca)/Tiが1より大きい領域と1より小さい領域とに分けて、それぞれ平均値を求めて結晶粒子における内核および外殻のモル比(Ba+Ca)/Tiを求めた。選択する結晶粒子はその結晶粒子の最大径と最小径との比(アスペクト比)が1.3以下であり、平均粒径の±60%の範囲にある結晶粒子9とした。なお平均粒径の±60%の範囲にある結晶粒子9とはその結晶粒子の輪郭から画像処理により面積を求め、その面積と同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径が平均粒径の±60%の範囲にあるものとした。このようなモル比(Ba+Ca)/Tiを求める分析を5個の結晶粒子9について行い、これらの平均値よりモル比(Ba+Ca)/Tiを求めた。
また、得られた焼結体である試料の組成分析はICP(Inductively Coupled Plasma)分析もしくは原子吸光分析により行った。この場合、得られた積層セラミックコンデンサを硼酸と炭酸ナトリウムと混合し溶融させたものを塩酸に溶解させて、まず、原子吸光分析により誘電体磁器に含まれる元素の定性分析を行い、次いで、特定した各元素について標準液を希釈したものを標準試料として、ICP発光分光分析にかけて定量化した。また、各元素の価数を周期表に示される価数として酸素量を求めた。なお、作製した誘電体磁器の組成は調合組成と同じであることを上記組成分析より確認した。表1に焼成後の組成と焼成温度および特性の結果を示した。
表1の結果から明らかなように、本発明の試料No.2〜6,9,10,12〜15,21,22および27〜29では、室温(25℃)における比誘電率が3080以上、室温(25℃)を基準にしたときの−55〜125℃の温度範囲における比誘電率の最大の変化率が±10%以内を示し、またDCバイアス特性も8V印加において40%以上を満たし、さらに高温負荷試験での寿命特性も170℃、30Vの条件下で80時間以上を満足するものを得ることができた。
また、誘電体層を構成する誘電体磁器の組成を、カルシウムを含むチタン酸バリウムを構成するチタン100モルに対して、バナジウムをV2O5換算で0.05〜0.15モル、希土類元素(RE)をRE2O3換算で0.5〜1モル含有するようにした試料No.2〜4,9,12〜15,21,22および27〜29では室温(25℃)における比誘電率が3340以上であった。
さらに、誘電体磁器として実質的にバナジウムおよび希土類元素(RE)のみを含有するものとした試料No.2〜6,9,10,12〜15,21,22,27および28では誘電損失が15.5%以下であった。
これに対して、本発明の範囲外の試料(試料No.1,7,8,11,16〜20および23〜26)では、室温(25℃)における比誘電率が3000以上、室温(25℃)を基準にしたときの−55〜125℃の温度範囲における比誘電率の最大の変化率が±15%以内、DCバイアス特性が8V印加において40%以上、および高温負荷試験での寿命特性が170℃、30Vの条件下で80時間以上のいずれかの特性を満足しないものであった。