JP5321975B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Description

本発明は、表面被覆切削工具に関し、特に耐摩耗性等の特性を向上させる被膜を形成した表面被覆切削工具に関する。
従来、切削用の工具としては、超硬合金(WC−Co合金もしくはこれにTi(チタン)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)等の炭窒化物を添加した合金)が用いられてきた。しかし、近年の切削の高速化に伴い、超硬合金、サーメット、またはアルミナ系や窒化珪素系のセラミックスを基材として、その表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)法やPVD(Physical Vapor Deposition)法で元素周期表のIVa族、Va族、VIa族金属やAl(アルミニウム)等の炭化物、窒化物、炭窒化物、ホウ窒化物、酸化物からなる被膜を3〜20μmの厚さに被覆した工具の使用割合が増大している。
特に、PVD法による被膜は、基材強度の劣化を招かずに耐摩耗性を高めることができることから、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型(スローアウェイ)チップなどの強度の要求される切削工具に多く使用されている。
近年、切削加工能率向上のため、切削速度がより高速になりつつあり、それに伴い工具には耐摩耗性、靱性、密着性等の諸特性の一層の向上が要求されている。この要求に応える試みとして、たとえば特許文献1には耐摩耗性、靱性、密着性を向上させる試みとして、基材側から被膜表面側に向かって連続的または段階的に圧縮応力を高めて密着性と耐摩耗性とを両立させる試みがなされている。しかしながら、上記のような提案の切削工具は、その被膜の圧縮応力が被膜表面側から基材表面側にかけて一律に増加または減少するものであり、靱性を顕著に向上させるには圧縮応力を基材側から被膜表面側にかけて増加させる必要があり、耐摩耗性を向上させるには圧縮応力を被膜表面側から基材側にかけて増加させる必要があった。そのため、靱性を向上させようとすると耐摩耗性が不足し、逆に耐摩耗性を向上させようとすると靱性が低下してしまい耐摩耗性と靱性との両立は困難であった。
また、特許文献2では基板バイアス電圧を連続的または段階的に変化させることにより、被膜内部に高い圧縮残留応力を発生させ耐摩耗性と靱性とを両立させようとする試みがなされている。また特許文献3では被膜中の圧縮応力に最大点と最小点を持たせ、被膜表面側の圧縮応力を低くすることで、耐摩耗性と靱性との向上を両立させるとともに被膜の微少な剥離を抑制しようとする試みがなされている。しかしながら、特許文献2および3では被膜の最表面の圧縮応力が低く設定されているため、耐摩耗性に欠けるという問題があった。
特開2003−094208号公報 特開2001−315006号公報 特開2006−055938号公報
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、耐摩耗性と靭性とを両立させたとともに、基材との密着性にも優れた被膜を備えた表面被覆切削工具を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、被膜の結晶粒径を制御することにより被膜中に結晶の粗大組織領域と微細組織領域とを形成することで、被膜全体にわたって均一組織を有しているよりも、亀裂の伝播を抑制して靱性を向上させるとともに微細組織領域によって耐摩耗性を向上させ、さらに基材側の被膜組織を粗大組織領域とすることで基材との密着性を向上させることができるという知見を得た。本発明は、これらの知見に基づいてさらに種々の検討を重ねた結果、完成されたものである。
すなわち、本発明の表面被覆切削工具は、基材と該基材上に形成された被膜とを備え、該被膜は、第1被膜層を含み、該第1被膜層は、それを構成する化合物の平均結晶粒径が微小である微細組織領域と該平均結晶粒径が粗大である粗大組織領域とを含み、該微細組織領域は、該化合物の平均結晶粒径が10〜200nmであり、かつ該第1被膜層の表面側から該第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上の厚みとなる範囲を占めて存在し、かつ−4GPa以上−2GPa以下の範囲の応力である平均圧縮応力を有し、該第1被膜層は、その厚み方向に応力分布を有しており、その応力分布において2つ以上の極大値または極小値を持ち、それらの極大値または極小値は厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有することを特徴としている。
ここで、上記第1被膜層は、最表面において最も高い圧縮応力を有することが好ましく、上記微細組織領域は、上記第1被膜層の表面側から上記第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上80%以下の厚みとなる範囲を占めて存在することが好ましい。
また、上記粗大組織領域は、上記化合物の平均結晶粒径が300〜1500nmであることが好ましく、上記第1被膜層を構成する上記化合物は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、アルミニウム、ホウ素、ケイ素およびゲルマニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、ホウ素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とで構成される化合物であることが好ましい。
また、上記被膜は、上記第1被膜層以外に1層または2層以上の層を含むことができる。
本発明の表面被覆切削工具は、上記のような構成を有することにより、耐摩耗性と靭性とを両立させたとともに、基材との密着性にも優れた被膜を備えたものである。
本発明の第1被膜層の厚み方向の応力分布を概念的に表わしたグラフである。 本発明の第1被膜層の厚み方向の応力分布を概念的に表わした図1とは異なるグラフである。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<表面被覆切削工具>
本発明の表面被覆切削工具は、基材と該基材上に形成された被膜とを備えた構成を有している。このような被膜は、基材に対して耐摩耗性を向上させたり、靭性を向上させたりする作用を示すものであるため、基材の全面を被覆することが好ましいが、基材の一部がこの被膜で被覆されていなかったり、被膜の構成が部分的に異なっていたとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。
このような本発明の表面被覆切削工具は、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具として好適に使用することができる。とりわけ、断続的に衝撃の加わるようなフライス加工の用途に特に適したものとなっており、これらの用途で靱性と耐摩耗性とに特に優れたものとなる。
<基材>
本発明の表面被覆切削工具に用いられる基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
これらの各種基材の中でも、特にWC基超硬合金、サーメット、立方晶型窒化硼素焼結体を選択することが好ましい。これは、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、上記用途の表面被覆切削工具の基材として優れた特性を有するためである。
<被膜>
本発明の表面被覆切削工具において、基材上に形成される被膜は、少なくとも第1被膜層を含む。すなわち、本発明の被膜は、第1被膜層のみによって構成されていてもよいし(この場合は第1被膜層が基材に接して形成されることになる)、このような第1被膜層以外に1層または2層以上の他の層を含んでいてもよい。このような第1被膜層以外の層は、後述のように基材と第1被膜層との間に形成されていてもよいし、第1被膜層上に形成されていてもよい。ただし、そのような層が第1被膜層上に形成される場合であっても、切削加工に関与する刃先部分においては第1被膜層が最外層(被膜表面を構成する層)となることが好ましい。
なお、本発明において、切削に関与する刃先部分とは、被削材と直接接する部分を含むとともに、その周辺部分(被削材とは直接接することはないが切削加工時に温度が上昇する部分等)を含むものとする。
このような本発明の被膜は、工具の耐摩耗性、耐酸化性、靱性、使用済み刃先部の識別のための色付性等の諸特性を向上させる作用を有するものであり、その化学組成は特に限定されるものではなく従来公知のものをいずれも採用することができる。
<第1被膜層およびその構造>
本発明の第1被膜層は、それを構成する化合物の平均結晶粒径が微小である微細組織領域と該平均結晶粒径が粗大である粗大組織領域とを含む層をいう。このような第1被膜層は、化合物の結晶粒子が集合して構成されるものであるが、その結晶粒子の平均結晶粒径が10〜200nmとなる結晶粒子が集合した領域を微細組織領域とし、その平均結晶粒径が200nmを超える結晶粒子が集合した領域を粗大組織領域とするものである。
そして、この微細組織領域は、第1被膜層の表面側(基材に対向する面とは反対側の面(基材から遠くなる方の面)を表面というものとする)から該第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上の厚みとなる範囲を占めて存在することを特徴とする。すなわち、この第1被膜層は、厚み方向において2つの領域から構成され、基材側には粗大組織領域が存在し、表面側には微細組織領域が存在する構成となっており、かつ微細組織領域の厚みが第1被膜層の全体に対して50%以上を占めることを特徴とするものである。
本発明は、第1被膜層をこのような構成としたことにより、耐摩耗性と靱性とを高度に両立させることに成功したものである。すなわち、微細組織領域を形成することによって、被膜が破壊する単位が小さくなり、以って耐摩耗性が向上する。しかも、結晶粒子が微小化することで結晶粒界が増加し、これにより被膜表面側で発生した亀裂が容易に基材側に向かって進展せず靱性が向上する。さらに、被膜中に結晶粒径の異なる界面が設けられることによって、亀裂の進展が微細組織領域と粗大組織領域との界面で抑制され、更なる靱性の向上が期待できる。一方、基材側に粗大な結晶粒子を集合させたのは、これにより基材を構成している硬質粒子と第1被膜層とが倣って成長することによって、被膜と基材との密着性を向上させるためである。このようにして、本発明の第1被膜層は、靭性と耐摩耗性とを高度に両立するとともに、基材との密着性をも向上させる作用を有するものである。
上記効果を奏するためには、微細組織領域における結晶粒子の平均結晶粒径を10〜200nmにすることが必要である。該平均結晶粒径が10nm未満では、非晶質と区別がつかなくなってしまい結晶粒径を小さくすることにより得られる上記のような効果が得られなくなり、また該平均結晶粒径が200nmを超えると靭性が低下する。
一方、基材を構成する硬質粒子の大きさによって粗大組織領域の結晶粒子の平均結晶粒径の最適な範囲は異なるが、好ましくは300〜1500nmである。該平均結晶粒径が300nm未満では、微細組織領域との粒径差が小さくなり、このため微細組織領域との界面における亀裂進展の抑制効果が低下することに加え、基材との密着性が低下する場合があり、また該平均結晶粒径が1500nmを超えると靭性が著しく低下する傾向を示す。
また、微細組織領域の厚みは、上記のように第1被膜層全体の厚みの50%以上を占めることを要し、より好ましくは50%以上80%以下を占めるようにすることが望ましい。微細組織領域の厚みが50%未満であると、耐摩耗性と靱性の向上が達成されなくなる。一方、その厚みが80%を超えると基材との密着性が低下する場合がある。たとえば、成膜したままの状態で微細組織領域が55%以上占める場合であっても、後加工によって微細組織領域の表面側15%が除去された場合には、後加工した状態での微細組織領域の占める割合が上記範囲外となるため、十分な耐摩耗性および靱性が得られないので好ましくない。
なお、本発明において、化合物(結晶粒子)の平均結晶粒径は以下の様にして求めることができる。すなわち、基材と基材上に形成された被膜(第1被膜層)とを一体的に切断してその断面を樹脂に埋め込み、ラッピング処理により鏡面研磨する。そして、その断面をFE−SEM(電解放出型走査型電子顕微鏡)によって観察する。その際、反射電子像として観察することによって、同じ結晶方位を有した部分は同じコントラストで観察され、この同一コントラスト部分を一つの結晶粒子とみなす。
次いで、このようにして得られた画像に対して、第1被膜層の任意の箇所において基材表面に対して平行な任意長さ(好ましくは400μm相当)の直線を引く。そして、その直線に含まれる結晶粒子の個数を測定し、その直線の長さを結晶粒子の個数で除したものを、第1被膜層のその部分における平均結晶粒径とする。
なお、微細組織領域と粗大組織領域との界面は、たとえば透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて被膜(第1被膜層)の断面を観察することにより、基材表面に対して垂直な方向の結晶の配向性が変化する地点とする。またあるいは、そのような結晶の配向性がある地点を境として明確な変化を示さず、ある程度の幅(基材表面に対する垂直な方向の長さ)をもって変化する場合は、その幅の中間点を微細組織領域と粗大組織領域との界面とする。
<第1被膜層の厚み>
本発明の第1被膜層の厚みは、特に限定されるものではないが0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。第1被膜層の厚みが0.1μm未満では、上記のような効果が十分に発現しなくなる場合があり、20μmを超えると被膜自体が容易に剥離する場合がある。
<第1被膜層の応力分布>
本発明の第1被膜層において、その微細組織領域は、−4GPa以上−2GPa以下の範囲の応力である平均圧縮応力を有することを要する。上記応力が−4GPaを超えると、切削工具の形状によっては刃先稜線部で被膜が剥離するため好ましくない。また、上記応力が−2GPaより小さい圧縮応力であると、十分な靱性が得られない。
また、第1被膜層全体の応力は、平均応力で−0.5〜−4GPaであることが好ましい。−0.5GPaより小さい圧縮応力であると十分な靭性が得られない場合があり、また−4GPaを超えると被膜内部から剥離(破壊)する場合があるためである。
一方、本発明の第1被膜層は、その厚み方向に応力分布を有しており、その応力分布において2つ以上の極大値または極小値を持ち、それらの極大値または極小値は厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有することを要する。以下、図1を例示して説明する。
図1は、第1被膜層の厚み方向の応力分布を概念的に表わしたグラフである。すなわち、本発明の第1被膜層は、図1に示された応力分布曲線のような応力分布を有している。図1中、点Aおよび点Bが極大値を示し、点Dおよび点Eが極小値を示している。なお、図1では、極大値と極小値とをそれぞれ2つずつ示しているが、本発明における極大値と極小値とはそれぞれ2つずつの場合に限られるものではなく、極大値または極小値が2つ以上ある限りその個数は特に限定されない(したがって極大値または極小値のいずれかが1つの場合も含む)。
さらに、上記極大値または極小値は、厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有することを要する。すなわち、図1に示されるように、点Aの極大値よりも点Bの極大値の方が高い圧縮応力を有し、点Dの極小値よりも点Eの極小値の方が高い圧縮応力を有することになる。このように極大値も極小値も2つ以上ある場合は、両者とも厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有することが好ましい。そして、図1の点Cで示されるように、第1被膜層の最表面において最も高い圧縮応力が示されることが好ましい。
なお、本発明における第1被膜層の応力分布は、このような図1に示される態様のみに限られるものではなく、たとえば図2のような態様も含まれる。すなわち、本発明の「極大値」および「極小値」とは、数学的な意味での極大値および極小値を示すばかりではなく、図2に示されるように応力がある範囲(すなわち第1被膜層におけるある厚み)で一定の数値を示す場合をも含む概念である。すなわち、図2におけるa1〜a2で示される範囲およびb1〜b2で示される範囲は本発明でいう「極大値」に含まれ、d1〜d2で示される範囲およびe1〜e2で示される範囲は「極小値」に含まれる。また、最表面において示される最も高い圧縮応力は、図2のc1〜c2の範囲で示されるようにある範囲(すなわち最表面からのある厚みの範囲)で継続する場合をも含む概念を示す。
なお、上記のa1〜a2、b1〜b2、c1〜c2、d1〜d2、e1〜e2で示される各範囲は、特に限定されるものではないが第1被膜層全体の厚みに対して10〜30%の厚みとすることが好ましい。このような範囲の厚みとする限り、「極大値」および「極小値」が図1のように「点」として表わされる場合と同様の効果を示すことができるからである。
この場合、第1被膜層の最も基材側に近い部分の応力は、−2GPa以上−0.5GPa以下の範囲となることが好ましく、第1被膜層の最表面は、−5GPa以上−4GPa以下の範囲の応力となる圧縮応力を有していることが好ましい。なお、本発明において、「第1被膜層の最表面」とは、観念的にはその文言通り最表面を示すものであるが、実際の測定条件としては表面から厚み0.5μmまでの平均圧縮応力を意味するものとする。
本発明の第1被膜層がこのような応力分布を有することにより、上記で説明した第1被膜層の構造と相俟って、耐摩耗性と靭性とが高度に両立されるとともに、基材と被膜との密着性が一層向上したものとなる。これは、基材側の圧縮応力を低くすることにより、基材と第1被膜層(被膜)との密着性を確保しつつ、最表面に向けて圧縮応力を徐々に高めることにより、被膜自身の応力による被膜の内部破壊を防止し、かつ極大値または極小値を2つ以上持つことおよび最表面に向けて結晶組織を微細化することにより切削加工時等に被膜表面に発生する亀裂の進展が抑えられるためであると考えられる。
ここで、本発明でいう圧縮応力とは、被膜中に存在する内部応力(固有ひずみ)の1種であり、「−」(マイナス)の数値(単位:GPa)で表されるものである。このため、圧縮応力(内部応力)が高いという表現は、上記数値の絶対値が大きくなることを示し、また圧縮応力(内部応力)が低いという表現は、上記数値の絶対値が小さくなることを意味している。因みに、上記数値が「+」(プラス)で表わされるものは引張応力である。
また、本発明の平均圧縮応力および応力分布は、以下のsin2ψ法で測定される。X線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられている。この測定方法は、「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54頁〜66頁に詳細に説明されているが、本発明ではまず並傾法と側傾法とを組み合わせてX線の進入深さを固定し、測定する応力方向と測定位置に立てた試料表面法線とを含む面内で種々のψ方向に対する回折角度2θを測定して2θ−sin2ψ線図を作成し、その勾配からその深さ(被膜表面側からの距離)までの平均圧縮応力を求めることができる。本発明の場合、被膜の断面観察によって微細組織領域の被膜表面側からの厚みを求め、その厚み(深さ)までの平均圧縮応力を測定することにより微細組織領域の平均圧縮応力とすることができる。また、その厚み方向に順次平均圧縮応力(より正確には引張応力を含み得るため平均応力である)を求めることにより、応力分布を測定することができる。すなわち、本発明の応力分布とは、被膜表面側からその厚みまでの平均応力の集合として捉えることができる。この点、被膜中のある地点の平均応力とは、被膜表面からその地点までの平均応力を示す。
より具体的には、X線源からのX線を試料に所定角度で入射させ、試料で回折したX線をX線検出器で検出し、該検出値に基づいて内部応力を測定するX線応力測定方法において、試料の任意箇所の試料表面に対して任意の設定角度でX線源よりX線を入射させ、試料上のX線入射点を通り試料表面で入射X線と直角なω軸と、資料台と平行でω軸を回転させた時に入射X線と一致するχ軸を中心に試料とを回転させる時に、試料表面と入射X線とのなす角が一定となるように試料を回転させながら、回折面の法線と試料面の法線とがなす角度ψを変化させて回折線を測定することによって、試料内部の圧縮応力を求めることができる。
なお、このような被膜の厚み方向の平均応力を測定するためのX線源としては、X線源の質(高輝度、高平行度、波長可変性など)の点で、シンクロトロン放射光(SR)を用いることが好ましい。
また、上記の様に圧縮応力を2θ−sin2ψ線図から求めるためには、被膜のヤング率とポアソン比が必要である。該ヤング率はダイナミック硬度計を用いて測定することができ、ポアソン比は材料によって大きく変化しないことから0.2前後の値を用いれば良い。
<第1被膜層の組成>
本発明の第1被膜層を構成する上記化合物は、この種の用途に使用される従来公知のものを特に限定なく使用することができるが、たとえば元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)およびゲルマニウム(Ge)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、「第1元素」とも記す)と、ホウ素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、「第2元素」とも記す)とで構成される化合物であることが好ましい。当該化合物は、たとえば上記の第2元素に由来して、炭化物、窒化物、酸化物、ホウ化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、炭窒酸化物等が挙げられるとともに、これらの固溶体も含まれる。ただし、上記第1元素および第2元素がともにホウ素である場合は除かれる。
このような化合物としては、特に、Ti、Al、(Ti1-xAlx)、(Ti1-xSix)、(Al1-xCrx)、(Ti1-x-ySixAly)または(Al1-x-yCrxy)の窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物等(さらにこれらにB、Cr等を含むものも含む)をその好適な組成として挙げることができる(なお、式中のx、yは1以下の任意の数を示す)。
より好ましくは、TiCN、TiN、TiSiN、TiSiCN、TiAlN、TiAlCrN、TiAlSiN、TiAlSiCrN、AlCrN、AlCrCN、AlCrVN、TiBN、TiAlBN、TiBCN、TiAlBCN、TiSiBCN、AlN、AlCN等を挙げることができる。なお、これらの組成中、各原子比は上記一般式にならうものとする。また、上記第1元素と第2元素との組成比は、1:1を含むとともに、これのみに限られるものではなく、従来公知の組成比がいずれも含まれるものとする。
このような本発明の第1被膜層は、特に該層の全体を通して構成元素の種類が変化なく、その原子比も一定であることが望ましい。これは、構成元素の種類や原子比が一定ではなく変化する場合、第1被覆層中に不必要な応力歪みや組織変化をもたらし、その歪みや変化が生じる界面における強度が低下するためである。
<第1被膜層以外の層>
本発明の被膜は、上記第1被膜層以外に1層または2層以上の層を含むことができる。このような層としては、基材と第1被膜層との間に形成される中間層や第1被膜層上に形成される最外表面層を挙げることができる。これらの層は、上記第1被膜層が上記のような効果を示すのに対して、耐酸化性や潤滑性等の他の作用を付与するために形成することができる。
上記中間層は、耐摩耗性を向上させたり、基材との密着性を向上させることを目的として形成されるものであり、1層または2層以上形成することができる。このような中間層は、たとえばTiN、TiCN、TiSiN、TiAlN、AlCrN、TiAlCrN、TiAlSiN、TiAlCrSiN等により構成することができる。なお、これらの組成中、各原子比は従来公知のものを特に限定することなく採用することができる。このような中間層は、0.2μm以上1μm以下の厚みとして形成することが好ましく、−1GPa以上−0.1GPa以下の平均応力を有していることが好ましい。
上記最外表面層は、使用済み刃先部の識別のための色付性等を目的として形成されるものであり、1層または2層以上形成することができる。このような最外表面層は、たとえばCr、CrN、TiN、TiCN等により構成することができる。なお、これらの組成中、各原子比は従来公知のものを特に限定することなく採用することができる。このような最外表面層は、0.1μm以上0.3μm以下の厚みとして形成することが好ましい。
<被膜の製造方法>
本発明の被膜の製造方法は、従来公知の方法を特に限定することなく採用することができるが、とりわけ物理的蒸着法(PVD法)により形成することが好ましい。これは、第1被膜層の組織の制御を容易に行なうことができるからである。
すなわち、第1被膜層の組織の制御は、本発明者の研究によると、物理的蒸着法により被膜を形成する時の基板バイアス電圧等の影響を受けることが判明した。たとえば、立方晶となる被膜は基材に対して基板バイアス電圧(本発明では基材にかける電圧を便宜上基板バイアス電圧という)をかけると基材の表面エネルギーが変化し、形成される被膜(結晶)の配向性が変化する。具体的には、たとえば公知のTiAlNの場合、基板バイアス電圧が大きいと形成される被膜の成長方向の配向性は(111)を示し、逆に基板バイアス電圧が小さい場合には(200)となる。
一般的に、被膜は配向した面が優先的に成長するが、成長途中で配向性が変化した場合には成長する結晶面が変化するため、被膜の成長する結晶面が変化する。そして、成長する結晶面が変化すると、それにより乱れが生じて形成される結晶は微細になると考えられる。
実際に基板バイアス電圧を制御して(200)配向から(111)配向に変化させると、被膜組織は微細化することがわかった。さらに、特許文献1のような連続的な基板バイアス電圧の変化では被膜の成長結晶面は徐々に変化していくため、被膜の配向性が変化するような基板バイアス電圧となっても、しばらくの間は成長を続けてきた結晶組織(配向性)に倣って被膜は成長する。このため、生成する結晶組織は粗大化してしまい、全膜厚に占める微細組織領域の割合は低下することになる。一方、低い基板バイアス電圧で成膜を開始し、成膜初期に高い基板バイアス電圧に変化させると、被膜中の圧縮応力が高くなりすぎるため、膜剥離やチッピングが生じて靱性および密着性が低下することになる。
そこで、被膜中の圧縮応力を緩和するために、低い(絶対値)基板バイアス電圧(たとえば0〜−50V)で一定時間成膜した後に、被膜の配向性が変化する高い(絶対値)基板バイアス電圧(たとえば−90〜−150V)を急激に印加し、その高い基板バイアス電圧を一定時間保持した後で、再度配向性が変化する低い基板バイアス電圧を印加する(このとき、再度印加する低い基板バイアス電圧は最初の低い基板バイアス電圧よりも高く設定し、その後に再度高い基板バイアス電圧を印加する場合も最初の高い基板バイアス電圧よりも高く設定することが好ましい)。このように、基板バイアス電圧を急激に変化させる操作を繰り返すことにより、本発明の第1被膜層における微細組織領域を形成させることが可能となる。また、基板バイアス電圧を急激に変化させることにより、応力分布において極大値または極小値を形成させることができる。一般に、高い基板バイアス電圧で被膜を形成すると高い圧縮応力を有したものとなるため、高い基板バイアス電圧から低い基板バイアス電圧に急激に変化させる際に極大値が形成されることになる。なお、成膜初期に低い基板バイアス電圧で一定時間成膜することにより、被膜中の応力を緩和しながら成膜することができる。このように基板バイアス電圧を制御することにより、膜剥離およびチッピングを抑えつつ、被膜表面側において微細組織領域が広範囲に形成された本発明の第1被膜層を形成することができる。
なお、本発明においては、基板バイアス電圧が低いとは、該電圧の絶対値が小さくなることをいい、基板バイアス電圧が高いとは、該電圧の絶対値が大きくなることをいう。
本発明においては、第1被膜層以外の層も物理的蒸着法により形成することで、各層間の密着性を向上させることができるとともに、製造効率を向上させることができる。
このような物理的蒸着法としては、基板バイアス電圧の調整が可能なスパッタリング法、イオンプレーティング法等、従来公知の方法を挙げることができる。特に、それらの各種方法のなかでもイオンプレーティング法またはマグネトロンスパッタリング法を用いることが好ましい。
ここでイオンプレーティング法とは、金属を陰極とし、真空チャンバーを陽極として、金属を蒸発、イオン化させると同時に基材に負の電圧(基板バイアス電圧)を印加することによりイオンを引き寄せ、基材表面に金属イオンを堆積させる方法をいう。なお、この方法において、真空中に窒素を入れ、金属と反応させれば該金属の窒化物が形成されることになる。例えば、金属としてチタンを用い、窒素と反応させれば窒化チタン(TiN)が形成される。
このようなイオンプレーティング法にも種々のものがあるが、特に原料元素のイオン化率の高いカソードアークイオンプレーティング法を採用することが特に好ましい。このカソードアークイオンプレーティング法を用いると、被膜を形成する前に基材表面に対して金属のイオンボンバードメント処理が可能となるため、被膜の密着性がさらに向上するという効果を得ることもできる。このため、密着性という観点からもカソードアークイオンプレーティング法は好ましいプロセスである。
一方、マグネトロンスパッタリング法とは、真空チャンバー内を高真空にした後、アルゴンガスを導入してターゲットに高電圧を印加しグロー放電を生じさせ、このグロー放電によりイオン化したアルゴンをターゲットに向けて加速照射させターゲットをスパッタすることにより、飛び出してイオン化されたターゲット原子は、ターゲット−基板間の基板バイアス電圧によって加速され基材上に堆積されることによって形成される方法をいう。このようなマグネトロンスパッタリング法には、バランスドマグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング法などがある。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例中の被膜の化合物組成はXPS(X線光電子分光分析装置)によって確認した。平均圧縮応力は上述したsin2ψ法によって測定した。また、被膜の平均結晶粒径については上述した方法で被膜の断面観察を行なうことによって実施した。
また、sin2ψ法による測定において、使用したX線のエネルギーは10keVであり、回折線のピークはTi0.5Al0.5Nの(200)面とした。そして、測定した回折ピーク位置をガウス関数のフィッティングにより決定し、2θ−sin2ψ線図の傾きを求め、ヤング率としてはダイナミック硬度計(MST製ナノインデンター)を用いて求めた値を採用し、ポアソン比にはTiN(0.19)の値を用いた。
なお、以下では被膜をカソードアークイオンプレーティング法により形成しているが、たとえばバランスドまたはアンバランスドマグネトロンスパッタリング法によっても形成することが可能である。また、以下では特定の被膜組成のものを形成しているが、これ以外の立方晶を有する組成のものでも同様の効果を得ることができる。
なお、本発明の被膜は、結晶性が安定しており本発明の効果を容易に得ることができることから結晶構造が立方晶であるものが好ましいが、結晶構造が立方晶であるか否かはX線回折装置(XRD)を用いることにより確認することができる。すなわち、X線源としてはCuKα線を用い、加速電圧を40kV、電流を50mAとし、θ−2θ法により測定範囲を2θ=20°〜80°、ステップ幅を0.02°とすることにより測定することができる。そして、このようにして得られたXRDパターンから、本発明の実施例の被膜の結晶構造が立方晶であることを確認した。
<表面被覆切削工具の作製>
まず、表面被覆切削工具の基材として、SDKN42形状(ISO規格)のP20超硬合金(ISO規格)からなる刃先交換型切削チップを用意し、これをカソードアークイオンプレーティング装置に装着した。
続いて、真空ポンプにより該装置のチャンバーを減圧するとともに、該装置内に設置されたヒーターにより、上記基材の温度を450℃に加熱し、チャンバー内の圧力が1.0×10-4Paとなるまで真空引きを行なった。
次に、アルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を3.0Paに保持し、上記基材の基板バイアス電源の電圧を徐々に上げながら−1500Vとし、基材の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
次いで、上記基材に直接接するように形成される被膜(第1被膜層)としてTi0.5Al0.5Nが5μmの厚みで形成されるように、金属蒸発源である合金製ターゲットをセットするとともに、反応ガスとして窒素ガスを導入させながら、基材(基板)温度450℃、反応ガス圧4.0Paとし、基板バイアス電圧を以下の表1の様に変化させることにより、90分間カソード電極に100Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオンを発生させることにより、基材上に被膜が形成された実施例1〜4および比較例1〜4の表面被覆切削工具を作製した。
Figure 0005321975
たとえば、実施例1は、成膜初期において、基板バイアス電圧を−30Vで40分間保持し、次いで基板バイアス電圧を−110Vに急激に変化させその−110Vで10分間保持した後、引き続き基板バイアス電圧を−50Vに急激に変化させ、その−50Vで10分間保持した。続いて、基板バイアス電圧を−130Vに急激に変化させその−130Vで10分間保持した後、引き続き基板バイアス電圧を−70Vに急激に変化させ、その−70Vで10分間保持した。その後、再度基板バイアス電圧を−150Vに急激に変化させその−150Vで10分間保持することにより、本発明の第1被膜層を形成した。表1において、実施例2〜4も、この基板バイアス電圧の変化について実施例1と同様の表記を採用している。ただし、実施例3においては、厚み0.3μmのTiN層を中間層として形成した。この中間層は、上記の第1被膜層と異なり、基板バイアス電圧を−30Vとし、5分間変化させず一定として形成した。
一方、比較例1は、基板バイアス電圧を−30Vで一定とし、90分間保持することにより基材上に被膜を形成したものである。また、比較例2は、成膜初期に低い一定の基板バイアス電圧(−30V)で30分間成膜した後、一定の高い基板バイアス電圧(−150V)にて60分間成膜することにより基材上に被膜を形成したものである。さらに、比較例3は、90分間かけて基板バイアス電圧を−30Vから−150Vまで連続的に変化させる(表1においては「傾斜」と表現した。以下において同じ)ことにより、基材上に被膜を形成したものである。一方、比較例4は、特許文献3の被膜形成方法にかかわるものであり、成膜初期において30分間かけて基板バイアス電圧を−50Vから−150Vまで連続的に変化させ、次いで20分間かけて基板バイアス電圧を−150Vから−50Vまで連続的に変化させ、引き続き20分間かけて基板バイアス電圧を−50Vから−150Vまで連続的に変化させ、最後に20分間かけて基板バイアス電圧を−150Vから−50Vまで連続的に変化させることにより、基材上に被膜を形成したものである。
このようにして得られた各表面被覆切削工具の被膜(実施例については第1被膜層)の構成を表2および表3に示す。
Figure 0005321975
Figure 0005321975
表2中、比較例においては便宜的に「微細組織領域」とは被膜表面側の領域を示し、「粗大組織領域」とは被膜の基材側の領域を示すものとする。また、「微細組織領域の占める割合」とは、第1被膜層(比較例については被膜)の表面側から第1被膜層の全体の厚みに対して微細組織領域が何%の厚みを占めるかを示す。また、表3中、「第1極大値」、「第1極小値」、「第2極大値」、「第2極小値」とは、それぞれ図1中の点A、点D、点B、点Eに相当し、「位置」とは第1被膜層(比較例については被膜)の表面側から第1被膜層の全体の厚みに対して各点が何%の厚みとなる位置に存在するかを示し、「応力」とはその位置における平均応力を示している。なお、実施例4の「第3極大値」、「第3極小値」については、図1中の記載はないが、上記の「第1極大値」、「第1極小値」等の表記と同様の表記を意味する。また、上記「最表面」とは、図1中の点Cに相当し、「位置」とは第1被膜層(比較例については被膜)の表面側から第1被膜層の全体の厚みに対して何%の厚みとなる部分の平均応力を対象としているかを示し、「応力」とはその平均応力を示している。
<評価>
上記のようにして得られた各表面被覆切削工具について、以下の条件により耐摩耗性評価および靱性評価を実施し、その結果を表4に示す。
<耐摩耗性評価>
被削材 :SCM435(硬度HB280)
切削速度:230m/min.
送 り:0.3mm/刃
切り込み:2mm
切削形態:乾式
切削長 :2m
切削方法:フライス切削
評 価:逃げ面摩耗量を測定し、摩耗量が少ないものほど耐摩耗性に優れていると評価した。
<靭性評価>
被削材 :S50C穴材
切削速度:150m/min.
送 り:0.10mm/刃から0.05mm/刃間隔で増加
切り込み:2mm
切削形態:乾式
切削長 :0.3m毎に送りを上げる
切削方法:フライス切削
評 価:欠損するまで切削を行ない、欠損時の送りを求めることにより、送りの数値が大きくなるものほど靭性に優れていると評価した。
Figure 0005321975
表4より明らかなように、本発明の実施例1〜4の表面被覆切削工具は、比較例1〜4の表面被覆切削工具と比較し、耐摩耗性と靱性との両者に優れていることを確認した。特に、本発明の実施例1〜4の表面被覆切削工具は、同様の微細組織領域を有する比較例2および比較例4と比べて、耐摩耗性と靱性とを両立させていることがわかる。しかも、本発明の実施例1〜4の表面被覆切削工具は、基材と被膜とが剥離することがなく、基材と被膜との密着性に優れるものであった。
したがって、本発明の表面被覆切削工具は、耐摩耗性と靭性とを両立させたとともに、基材との密着性にも優れた被膜を備えたものであることは明らかである。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (6)

  1. 基材と該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、
    前記被膜は、第1被膜層を含み、
    前記第1被膜層は、それを構成する化合物の平均結晶粒径が微小である微細組織領域と該平均結晶粒径が粗大である粗大組織領域とを含み、
    前記微細組織領域は、前記化合物の平均結晶粒径が10〜200nmであり、かつ前記第1被膜層の表面側から前記第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上の厚みとなる範囲を占めて存在し、かつ−4GPa以上−2GPa以下の範囲の応力である平均圧縮応力を有し、
    前記第1被膜層は、その厚み方向に応力分布を有しており、その応力分布において2つ以上の極大値または極小値を持ち、それらの極大値または極小値は厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有する、表面被覆切削工具。
  2. 前記第1被膜層は、最表面において最も高い圧縮応力を有する、請求項1記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記微細組織領域は、前記第1被膜層の表面側から前記第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上80%以下の厚みとなる範囲を占めて存在する、請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記粗大組織領域は、前記化合物の平均結晶粒径が300〜1500nmである、請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記第1被膜層を構成する前記化合物は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、アルミニウム、ホウ素、ケイ素およびゲルマニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、ホウ素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とで構成される化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  6. 前記被膜は、前記第1被膜層以外に1層または2層以上の層を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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