以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的同一のものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
以下の説明において、タイヤ幅方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Eに向かう側、タイヤ幅方向外側とは、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Eから離れる側をいう。また、タイヤ径方向とは、前記回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とは、タイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周方向である。
また、以下に説明する空気入りタイヤ1は、タイヤ赤道面Eを中心としてほぼ対称になるように構成されている。タイヤ赤道面Eとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Eから最も離れている部分間の距離である。また、タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面E上にあって空気入りタイヤ1の周方向に沿う線をいう。そして、以下に説明する空気入りタイヤ1は、タイヤ赤道面Eを中心としてほぼ対称になるように構成されていることから、空気入りタイヤ1の回転軸を通る平面で該空気入りタイヤ1を切った場合の子午断面図においては、タイヤ赤道面Eを中心とした一側のみを図示して当該一側のみを説明し、他側の説明は省略する。
[実施の形態1]
実施の形態1に係る空気入りタイヤ1は、空気入りラジアルタイヤであり、特に、重荷重用空気入りタイヤに適用され、図1に示すように、カーカス2と、ベルト層3とを含み構成されている。
カーカス2は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビード部(図示せず)で折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス2は、カーカスコード(図示せず)が、ゴム材で被覆されたものである。カーカスコードは、タイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線に対する角度が90[度]で配置されている。
ベルト層3は、後述するトレッド4の内部に配置されてカーカス2の外周を覆うものである。ベルト層3は、少なくとも3つ(3層)のベルトからなり、本実施の形態では、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向かって補強ベルト31、交差ベルト32,33、保護ベルト34の順で4層構造をなしている。このベルト層3において、最もタイヤ径方向内側に配置される補強ベルト31は、ゴム材の中に埋設されるベルトコードが、タイヤ周方向つまりタイヤ赤道線に対して、例えば50〜60度の角度をつけて敷設されている。補強ベルト31のタイヤ径方向外側に配置される交差ベルト32,33のうち、タイヤ径方向内側に配置された内側交差ベルト32は、タイヤ赤道線に対して、補強ベルト31と同方向で例えば15〜30度の角度をつけてベルトコードが敷設されている。また、交差ベルト32,33のうち、タイヤ径方向外側に配置された外側交差ベルト33は、タイヤ赤道線に対して、内側交差ベルト32とは反対方向に傾き、例えば15〜30度の角度をつけてベルトコードが敷設されている。交差ベルト(外側交差ベルト)33のタイヤ径方向外側に配置される保護ベルト34は、タイヤ赤道線に対して外側交差ベルト33と同方向に傾き、例えば15〜30度の角度をつけてベルトコードが敷設されている。そして、本実施の形態では、ベルト層3のうち最もタイヤ幅方向幅の広いベルトが内側交差ベルト32であり、2番目に広いベルトが外側交差ベルト33とされている。
トレッド4は、ゴム材からなり、空気入りタイヤ1の外部に露出して、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド4には、図1および図2に示すように、タイヤ周方向に延在する少なくとも2本の主溝41と、この主溝41により区画形成された少なくとも3本のリブ状の陸部42とを有する。例えば、本実施の形態では、4本の主溝41が形成され、これら主溝41により5本の陸部42が区画形成されている。
陸部42には、サイプ5がタイヤ周方向に複数並設されている。サイプ5には、幅方向サイプ部51と、周方向サイプ部52とが含まれる。このサイプ5は、トレッド4のタイヤ幅方向最外側(ショルダー域)に形成されたショルダー陸部421に設けられているが、ショルダー陸部421を含む他の陸部42にも設けられていてもよい。
幅方向サイプ部51は、ショルダー陸部421(陸部42)の表面、つまり走行時に路面と接触する踏面42aにて、1.0[mm]以下(好ましくは0.5[mm]以上1.0[mm]以下)の溝幅の極細の切れ込み溝として形成されている。この幅方向サイプ部51は、図1〜図3に示すように、主としてタイヤ幅方向に延在され、陸部421(42)のエッジ42bに一端が開口すると共に他端が閉口して形成されている。なお、幅方向サイプ部51は、ショルダー陸部421のタイヤ幅方向外側のエッジ42bに一端が開口して設けられているが、ショルダー陸部421を含む他の陸部42のタイヤ幅方向外側およびタイヤ幅方向内側のエッジ42bに一端が開口して設けられていてもよい。
周方向サイプ部52は、ショルダー陸部421(陸部42)の表面、つまり走行時に路面と接触する踏面42aにて、1.0[mm]以下(好ましくは0.5[mm]以上1.0[mm]以下)の溝幅の極細の切れ込み溝として形成されている。この周方向サイプ部52は、図1〜図3に示すように、主としてタイヤ周方向に延在され、幅方向サイプ部51の閉口する他端側を覆う態様で両端が閉口して形成されている。すなわち、周方向サイプ部52は、他のサイプ5の周方向サイプ部52とは繋がらず別体で設けられている。ここで、幅方向サイプ部51の閉口する他端側を覆うとは、幅方向サイプ部51の他端を自身の延在方向に沿って延長した場合、周方向サイプ部52が幅方向サイプ部51の他端と繋がる位置関係を意味する。なお、図1〜図3に示すサイプ5では、周方向サイプ部52の長手方向(タイヤ周方向)の中程と幅方向サイプ部51とが繋がって、一体に連続して形成されている。また、周方向サイプ部52と幅方向サイプ部51とが繋がっている状態では、幅方向サイプ部51の他端が周方向サイプ部52を突き抜かない形態とされている。
そして、このサイプ5は、サイプ5のタイヤ周方向寸法Lと、サイプ5のタイヤ幅方向寸法Wとの関係が、1.00≦L/W≦3.00の範囲に設定されている。サイプ5のタイヤ周方向寸法Lは、図3に示すように、陸部421(42)の踏面42aにおける周方向サイプ部52の両端間のタイヤ周方向の寸法である。また、サイプ5のタイヤ幅方向寸法Wは、図1および図3に示すように、陸部421(42)の踏面42aにおける幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bと、幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bから最も離れた周方向サイプ部52の部位との間のタイヤ幅方向の寸法である。
このようにサイプ5が形成された実施の形態1の空気入りタイヤ1によれば、陸部421(42)のエッジ42bに一端が開口する幅方向サイプ部51を有することから、タイヤ接地時のタイヤ周方向への圧縮に対するエッジ42bの接地圧を低減し、陸部421(42)の踏面42aに発生する偏摩耗を抑制する。また、周方向サイプ部52を有することから、タイヤ接地時のタイヤ幅方向への圧縮に対するエッジ42bの接地圧を低減し、陸部の踏面に発生する偏摩耗を抑制する。しかも、周方向サイプ部52の両端が閉口して形成され、タイヤ周方向で他のサイプ5の周方向サイプ部52と連続せずに別体で設けられていることから、陸部421(42)の剛性を向上させ、縁石などの段差に乗り上げた際、周方向サイプ部52がタイヤ幅方向に大きく開放する事態を抑え、幅方向サイプ部51を基点として陸部421(42)のエッジ42bが欠落するティアの発生を抑制する。特に、実施の形態1の空気入りタイヤ1によれば、サイプ5のタイヤ周方向寸法Lと、サイプ5のタイヤ幅方向寸法Wとの関係が、1.00≦L/W≦3.00の範囲に設定されている。このため、偏摩耗の抑制とティアの抑制とを相乗させ、偏摩耗を抑制する耐偏摩耗性、およびティアを抑制する耐ティア性をより向上することが可能になる。
ところで、上述した図1〜図3に示すサイプ5は、幅方向サイプ部51がタイヤ幅方向と平行に設けられ、周方向サイプ部52がタイヤ周方向と平行に設けられている。その他、図4〜図10に例示する形状のサイプ5であっても、上記と同等の効果を得ることが可能である。
図4は、周方向サイプ部52の形状が異なるサイプ5の例であり、周方向サイプ部52のタイヤ周方向の中程と幅方向サイプ部51の他端とが一体に連続する形態で、全体として平面視でほぼT字状に形成され、幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bから、周方向サイプ部52の両端が離れるように、幅方向サイプ部51と繋がる部分を基点に周方向サイプ部52が屈曲して形成されている。
図5は、周方向サイプ部52の形状が異なるサイプ5の例であり、周方向サイプ部52のタイヤ周方向の中程と幅方向サイプ部51の他端とが一体に連続する形態で、全体として平面視でほぼT字状に形成され、幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bに対し、周方向サイプ部52の両端が近づくように、幅方向サイプ部51と繋がる部分を基点に周方向サイプ部52が屈曲して形成されている。
図6は、周方向サイプ部52の形状が異なるサイプ5の例であり、周方向サイプ部52のタイヤ周方向の中程と幅方向サイプ部51の他端とが一体に連続する形態で、全体として平面視でほぼT字状に形成され、幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bから、周方向サイプ部52の両端が離れるように、周方向サイプ部52が湾曲して形成されている。
図7は、周方向サイプ部52の形状が異なるサイプ5の例であり、周方向サイプ部52のタイヤ周方向の中程と幅方向サイプ部51の他端とが一体に連続する形態で、全体として平面視でほぼT字状に形成され、幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bに対し、周方向サイプ部52の両端が近づくように、周方向サイプ部52が湾曲して形成されている。
図8は、周方向サイプ部52の形状が異なるサイプ5の例であり、周方向サイプ部52のタイヤ周方向の中程と幅方向サイプ部51の他端とが一体に連続する形態で、全体として平面視でほぼT字状に形成され、幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bに対し、周方向サイプ部52の両端が近づくように、幅方向サイプ部51と繋がる部分を基点としたタイヤ周方向両側の周方向サイプ部52が湾曲して形成されている。なお、図には明示しないが、図8に示すサイプ5とは逆に、幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bから、周方向サイプ部52の両端が離れるように、幅方向サイプ部51と繋がる部分を基点としたタイヤ周方向両側の周方向サイプ部52が湾曲して形成されていてもよい。
図9は、幅方向サイプ部51の形状が異なるサイプ5の例であり、周方向サイプ部52のタイヤ周方向の中程と幅方向サイプ部51の他端とが一体に連続する形態で、全体として平面視でほぼT字状に形成され、幅方向サイプ部51がタイヤ幅方向に対して傾斜して形成されている。なお、幅方向サイプ部51の傾斜方向は、図9に示すサイプ5と逆であってもよい。
図10は、幅方向サイプ部51の形状が異なるサイプ5の例であり、周方向サイプ部52のタイヤ周方向の中程と幅方向サイプ部51の他端とが一体に連続する形態で、全体として平面視でほぼT字状に形成され、幅方向サイプ部51が湾曲して形成されている。なお、幅方向サイプ部51の湾曲方向は、図10に示すサイプ5と逆であってもよい。
なお、図には明示しないが、図4〜図8に示す形状の周方向サイプ部52と、図9および図10に示す形状の幅方向サイプ部51とを組み合わせたサイプ5であってもよい。
また、実施の形態1の空気入りタイヤ1では、サイプ5のタイヤ幅方向寸法Wと、サイプ5が設けられた陸部421(42)のタイヤ幅方向寸法Aとの関係が、0.05≦W/A≦0.20の範囲に設定され、かつサイプ5のタイヤ周方向寸法Lと、各サイプ5間の幅方向サイプ部51の間隔Pとの関係が、0.50≦L/P≦0.95の範囲に設定されていることが好ましい。サイプ5が設けられた陸部421(42)のタイヤ幅方向寸法Aは、図1および図3に示すように、サイプ5が設けられた陸部421(42)の各エッジ42b間のタイヤ幅方向の寸法である。また、各サイプ5間の幅方向サイプ部51の間隔Pは、図3に示すように、並設された隣り合うサイプ5間での幅方向サイプ部51の間隔である。
この空気入りタイヤ1によれば、陸部421(42)のタイヤ幅方向寸法Aに対し、サイプ5のタイヤ幅方向寸法Wが適正化され、かつサイプ5のタイヤ周方向寸法Lと各サイプ5間の幅方向サイプ部51の間隔Pとが適正化されるので、耐偏摩耗性および耐ティア性をさらに向上することが可能になる。
また、実施の形態1の空気入りタイヤ1では、サイプ5の深さDと、主溝41の深さGDとの関係が、0.50≦D/GD≦0.90の範囲に設定されていることが好ましい。サイプ5の深さDは、図1に示すように、サイプ5において陸部421(42)の踏面42aから最も深い溝底までのタイヤ径方向の寸法である。また、主溝41の深さGDは、図1に示すように、主溝41において、エッジ42bから最も深い溝底までのタイヤ径方向の寸法である。
この空気入りタイヤ1によれば、サイプ5の深さDと、主溝41の深さGDとの関係が規定されていることで、陸部421(42)の剛性が適正化されるので、耐偏摩耗性および耐ティア性をさらに向上することが可能になる。
また、実施の形態1の空気入りタイヤ1では、サイプ5は、幅方向サイプ部51の他端と周方向サイプ部52とが一体に連続して、全体として平面視でほぼT字状に形成されている。
この空気入りタイヤ1によれば、幅方向サイプ部51の閉口した他端に生じるクラックを周方向サイプ部52により抑制できるので、耐ティア性を向上することが可能になる。
なお、図11に示すように、幅方向サイプ部51の他端と周方向サイプ部52とは、タイヤ幅方向に別体に離隔して形成されていてもよい。すなわち、幅方向サイプ部51の他端側を周方向サイプ部52が覆っていることで、幅方向サイプ部51の閉口した他端に生じたクラックの成長を周方向サイプ部52が止めるので、耐ティア性を向上することが可能になる。なお、幅方向サイプ部51の他端と周方向サイプ部52とがタイヤ幅方向に別体に離隔したサイプ5の形態としては、図3〜図10に示す形態において、幅方向サイプ部51の他端と周方向サイプ部52とがタイヤ幅方向に別体に離隔した形態を含む。
幅方向サイプ部51の他端と周方向サイプ部52とが、タイヤ幅方向に別体に離隔して形成されている場合、幅方向サイプ部51と周方向サイプ部52との離隔部分のタイヤ幅方向寸法Wsが、サイプ5のタイヤ幅方向寸法Wに対し、0≦Ws/W≦0.5の範囲に設定されていることが好ましい。このように、幅方向サイプ部51と周方向サイプ部52との離隔部分のタイヤ幅方向寸法Wsを、サイプ5のタイヤ幅方向寸法Wに対して適正化することで、幅方向サイプ部51の閉口した他端に生じたクラックの成長を周方向サイプ部52で適宜止められるので、耐ティア性を向上することが可能である。なお、上記Ws/Wの範囲において、Ws≦3[mm]であることが、耐ティア性を向上する上でより好ましい。
また、実施の形態1の空気入りタイヤ1では、図12および図13に示すように、サイプ5の閉口した端部が円弧状に形成されていることが好ましい。サイプ5の閉口した端部とは、幅方向サイプ部51と周方向サイプ部52とが一体に連続して形成されている場合、周方向サイプ部52の両端を示し、幅方向サイプ部51と周方向サイプ部52とが別体に離隔して形成されている場合は、周方向サイプ部52の両端と、幅方向サイプ部51の他端とを示す。また、円弧状とは、図12に示すように、溝幅に合わせて端部が円弧状に丸みを有して形成されたものと、図13に示すように、溝幅よりも膨出して端部が円弧状に丸みを有して形成されたものとの双方を含む。また、閉口した端部が円弧状に形成されたサイプ5の形態としては、図3〜図11に示す形態を含む。
この空気入りタイヤ1によれば、閉口した端部が円弧状に形成されていることにより、端部からのクラックの発生を抑制できるので、耐ティア性を向上することが可能である。なお、円弧の半径は、0.2[mm]以上1.5[mm]以下であることがクラックの発生を抑制する上で好ましい。
[実施の形態2]
実施の形態2の空気入りタイヤ1において、上述した実施の形態1と同一構成には同一符号を付してその説明を省略する。
実施の形態2の空気入りタイヤ1では、図14および図15に示すように、サイプ5’について、幅方向サイプ部51の閉口した他端と、周方向サイプ部52の閉口する一端とが一体に連続して、全体として平面視でほぼL字状に形成されている。
このサイプ5’は、サイプ5’のタイヤ周方向寸法Lと、サイプ5’のタイヤ幅方向寸法Wとの関係が、1.00≦L/W≦3.00の範囲に設定されている。サイプ5’のタイヤ周方向寸法Lは、図15に示すように、陸部421(42)の踏面42aにおける周方向サイプ部52の両端間のタイヤ周方向の寸法である。また、サイプ5’のタイヤ幅方向寸法Wは、図15に示すように、陸部421(42)の踏面42aにおける幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bと、幅方向サイプ部51の一端が開口するエッジ42bから最も離れた周方向サイプ部52の部位との間のタイヤ幅方向の寸法である。
このようにサイプ5’が形成された実施の形態2の空気入りタイヤ1によれば、陸部421(42)のエッジ42bに一端が開口する幅方向サイプ部51を有することから、タイヤ接地時のタイヤ周方向への圧縮に対するエッジ42bの接地圧を低減し、陸部421(42)の踏面42aに発生する偏摩耗を抑制する。また、周方向サイプ部52を有することから、タイヤ接地時のタイヤ幅方向への圧縮に対するエッジ42bの接地圧を低減し、陸部の踏面に発生する偏摩耗を抑制する。しかも、周方向サイプ部52の両端が閉口して形成され、タイヤ周方向で他のサイプ5’の周方向サイプ部52と連続せずに別体で設けられていることから、陸部421(42)の剛性を向上させ、縁石などの段差に乗り上げた際、周方向サイプ部52がタイヤ幅方向に大きく開放する事態を抑え、幅方向サイプ部51を基点として陸部421(42)のエッジ42bが欠落するティアの発生を抑制する。特に、実施の形態2の空気入りタイヤ1によれば、サイプ5’のタイヤ周方向寸法Lと、サイプ5’のタイヤ幅方向寸法Wとの関係が、1.00≦L/W≦3.00の範囲に設定されている。このため、偏摩耗の抑制とティアの抑制とを相乗させ、偏摩耗を抑制する耐偏摩耗性、およびティアを抑制する耐ティア性をより向上することが可能になる。
ところで、上述した図14および図15に示すサイプ5’は、幅方向サイプ部51がタイヤ幅方向と平行に設けられ、周方向サイプ部52がタイヤ周方向と平行に設けられている。その他、図には明示しないが、幅方向サイプ部51が湾曲またはタイヤ幅方向に対して傾斜した構成や、周方向サイプ部52が湾曲またはタイヤ周方向に対して傾斜した構成であっても、上記と同等の効果を得ることが可能である。
また、実施の形態2の空気入りタイヤ1では、サイプ5’のタイヤ幅方向寸法Wと、サイプ5’が設けられた陸部421(42)のタイヤ幅方向寸法Aとの関係が、0.05≦W/A≦0.20の範囲に設定され、かつサイプ5’のタイヤ周方向寸法Lと、各サイプ5’間の幅方向サイプ部51の間隔Pとの関係が、0.50≦L/P≦0.95の範囲に設定されていることが好ましい。サイプ5’が設けられた陸部421(42)のタイヤ幅方向寸法Aは、図15に示すように、サイプ5’が設けられた陸部421(42)の各エッジ42b間のタイヤ幅方向の寸法である。また、各サイプ5’間の幅方向サイプ部51の間隔Pは、図15に示すように、並設された隣り合うサイプ5’間での幅方向サイプ部51の間隔である。
この空気入りタイヤ1によれば、陸部421(42)のタイヤ幅方向寸法Aに対し、サイプ5’のタイヤ幅方向寸法Wが適正化され、かつサイプ5’のタイヤ周方向寸法Lと各サイプ5’間の幅方向サイプ部51の間隔Pとが適正化されるので、耐偏摩耗性および耐ティア性をさらに向上することが可能になる。
また、実施の形態2の空気入りタイヤ1では、サイプ5’の深さDと、主溝41の深さGDとの関係が、0.50≦D/GD≦0.90の範囲に設定されていることが好ましい。サイプ5’の深さDは、図14に示すように、サイプ5’において陸部421(42)の踏面42aから最も深い溝底までのタイヤ径方向の寸法である。また、主溝41の深さGDは、図14に示すように、主溝41において、エッジ42bから最も深い溝底までのタイヤ径方向の寸法である。
この空気入りタイヤ1によれば、サイプ5’の深さDと、主溝41の深さGDとの関係が規定されていることで、陸部421(42)の剛性が適正化されるので、耐偏摩耗性および耐ティア性をさらに向上することが可能になる。
また、実施の形態2の空気入りタイヤ1では、サイプ5’は、幅方向サイプ部51の他端と周方向サイプ部52の一端とが一体に連続して、全体として平面視でほぼL字状に形成されている。
この空気入りタイヤ1によれば、幅方向サイプ部51の閉口した他端に生じるクラックを周方向サイプ部52により抑制できるので、耐ティア性を向上することが可能になる。
また、実施の形態2の空気入りタイヤ1では、図16に示すように、幅方向サイプ部51の他端と周方向サイプ部52の一端とが湾曲部53を介して曲線で接続されていることが好ましい。
この空気入りタイヤ1によれば、湾曲部53により、幅方向サイプ部51と周方向サイプ部52とが接続された部分への応力集中を防ぐので、サイプ5’のクラックの発生を抑制でき、耐ティア性を向上することが可能になる。
また、実施の形態2の空気入りタイヤ1では、車両に装着された状態でタイヤ接地時に、幅方向サイプ部51が蹴り出し側、周方向サイプ部52が踏み込み側に配置されていることが好ましい。すなわち、図15に示すように、タイヤ回転方向に対し、先に周方向サイプ部52が接地し、その後幅方向サイプ部51が接地する。
この空気入りタイヤ1によれば、周方向サイプ部52が踏み込み側にあると、蹴り出し側にある場合よりも、周方向サイプ部52周辺のトレッドゴムの動き(変形)が小さくなるので、サイプ5’のクラックの発生を抑制でき、耐ティア性を向上することが可能になる。
また、実施の形態2の空気入りタイヤ1では、図17および図18に示すように、サイプ5’の閉口した端部が円弧状に形成されていることが好ましい。サイプ5’の閉口した端部とは、幅方向サイプ部51と連続していない周方向サイプ部52の他端を示す。また、円弧状とは、図17に示すように、溝幅に合わせて端部が円弧状に丸みを有して形成されたものと、図18に示すように、溝幅よりも膨出して端部が円弧状に丸みを有して形成されたものとの双方を含む。また、閉口した端部が円弧状に形成されたサイプ5’の形態としては、図17および図18に示すように、幅方向サイプ部51がタイヤ幅方向と平行に設けられ、周方向サイプ部52がタイヤ周方向と平行に設けられている形態に限らず、図には明示しないが、幅方向サイプ部51が湾曲またはタイヤ幅方向に対して傾斜した形態や、周方向サイプ部52が湾曲またはタイヤ周方向に対して傾斜した形態を含む。
この空気入りタイヤ1によれば、閉口した端部が円弧状に形成されていることにより、端部からのクラックの発生を抑制できるので、耐ティア性を向上することが可能である。なお、円弧の半径は、0.2[mm]以上1.5[mm]以下であることがクラックの発生を抑制する上で好ましい。
本実施例では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、耐偏摩耗性および耐ティア性に関する性能試験が行われた(図19〜図26参照)。
この性能試験では、タイヤサイズ11R22.5(14PR)の空気入りタイヤを、22.5”×7.50”のリムに組み付け、JATMA指定の空気圧(700[kPa])を充填し、JATMA指定の荷重(26.72[kN])を加え、2−Dの試験車両のフロントのステア軸に装着して実施した。
評価方法は、耐ティア性の性能試験では、試験コース内に設置された段差(高さ10[cm])に対し一定角度(20[度])での進入・後退を10回行い、ティア発生の個数を指数化することにより行った。評価結果は、従来例の評価結果を100とする指数で示し、指数110以上で指数が大きいほどティアが少なく、耐ティア性が優れていることを示している。また、耐偏摩耗性の性能試験では、空気入りタイヤが装着された試験車両で舗装路を100,000km走行し、走行後にショルダー陸部の踏面に発生した偏摩耗量([タイヤ幅方向での幅]×[深さ])を測定し、タイヤ周方向に1周分の合計量を指数化することにより行った。評価結果は、従来例の評価結果を100とする指数で示し、指数110以上で指数が大きいほど偏摩耗が少なく、耐偏摩耗性が優れていることを示している。
ここで、図19〜図21は、上述した実施の形態1の空気入りタイヤに対応した性能試験の結果を示し、図22〜図26は、上述した実施の形態2の空気入りタイヤに対応した性能試験の結果を示す。
図19において、従来例1の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部のみが設けられ周方向サイプ部が設けられておらず、サイプのタイヤ周方向寸法Lとサイプのタイヤ幅方向寸法Wとの関係L/Wが適正化されていない。比較例1の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられているが、L/Wが適正範囲未満である。比較例2の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられているが、L/Wが適正範囲を超えている。比較例3の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部のみが設けられ周方向サイプ部が設けられておらず、かつ周方向の細溝により犠牲リブが設けられ、サイプのタイヤ周方向寸法Lとサイプのタイヤ幅方向寸法Wとの関係がL/Wが適正化されていない。一方、実施例1および実施例2の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/Wが適正範囲である。
図20において、実施例3〜実施例6の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/Wが適正範囲であり、さらにサイプのタイヤ幅方向寸法Wと、サイプが設けられた陸部のタイヤ幅方向寸法Aとの関係W/A、およびサイプのタイヤ周方向寸法Lと、並設された隣り合う各サイプ間の幅方向サイプ部の間隔Pとの関係L/Pが適正化されている。
図21において、実施例8および実施例9の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/W,W/AおよびL/Pが適正化され、さらにサイプの深さDと、主溝の深さGDとの関係D/GDが適正化されている。また、実施例7および実施例10の空気入りタイヤは、D/GD以外が適正化されている。
図22において、従来例2の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部のみが設けられ周方向サイプ部が設けられておらず、サイプのタイヤ周方向寸法Lとサイプのタイヤ幅方向寸法Wとの関係L/Wが適正化されていない。比較例4の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられているが、L/Wが適正範囲未満である。比較例5の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられているが、L/Wが適正範囲を超えている。比較例6の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部のみが設けられ周方向サイプ部が設けられておらず、かつ周方向の細溝により犠牲リブが設けられ、サイプのタイヤ周方向寸法Lとサイプのタイヤ幅方向寸法Wとの関係がL/Wが適正化されていない。一方、実施例11および実施例12の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/Wが適正範囲である。
図23において、実施例13〜実施例16の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/Wが適正範囲であり、さらにサイプのタイヤ幅方向寸法Wと、サイプが設けられた陸部のタイヤ幅方向寸法Aとの関係W/A、およびサイプのタイヤ周方向寸法Lと、並設された隣り合う各サイプ間の幅方向サイプ部の間隔Pとの関係L/Pが適正化されている。
図24において、実施例18および実施例19の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/W,W/AおよびL/Pが適正化され、さらにサイプの深さDと、主溝の深さGDとの関係D/GDが適正化されている。また、実施例17および実施例20の空気入りタイヤは、D/GD以外が適正化されている。
図25において、実施例21の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/W,W/A,L/PおよびD/GDが適正化され、幅方向サイプ部と周方向サイプ部との接続が湾曲部を介さず直線である。また、実施例22の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/W,W/A,L/PおよびD/GDが適正化され、さらに幅方向サイプ部と周方向サイプ部との接続が湾曲部を介して曲線である。
図26において、実施例23の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/W,W/A,L/PおよびD/GDが適正化され、幅方向サイプ部と周方向サイプ部との接続が湾曲部を介して曲線であり、周方向サイプ部の配置が蹴り出し側である。また、実施例24の空気入りタイヤは、幅方向サイプ部および周方向サイプ部が設けられ、L/W,W/A,L/PおよびD/GDが適正化され、幅方向サイプ部と周方向サイプ部との接続が湾曲部を介して曲線であり、さらに周方向サイプ部の配置が踏み込み側である。
図19〜図26の試験結果に示すように、実施例1〜実施例24の空気入りタイヤでは、それぞれ耐ティア性および耐偏摩耗性がより向上していることが分かる。