JP5320032B2 - ビールまたはビール様飲料製造方法 - Google Patents
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Description
(a)ホップを、ペレット状原料ホップ1kg当り25〜100リットルに蒸発減量分を加えた量の溶媒と一緒に、ペレット状原料ホップ1kg当り1〜15kgの蒸発減量が得られるように煮沸すること、および
(b)工程(a)により得られるホップ処理液状物を原料液汁に添加し、原料液汁とホップ処理液状物との混合物を煮沸すること
を含んで成る製造方法が提供される。
「煮沸」は、対象とする液状物に熱を加え、少なくともその一部の期間において液状物が沸騰状態となることを意味する。
「液状物」は液体のみならず、存在する場合にはホップ(またはホップ粕)などの固体をも含む意味で用いる。
「ホップ香気成分」は、ホップに由来する香気成分であれば特に限定されないが、典型的にはリナロールである。
「麦芽香気成分」は、麦芽に由来する香気成分であれば特に限定されないが、典型的にはS−メチルメチオニンから生じて不快な香気を発するジメチルスルフィドである。
しかし、本発明はこれに限定されず、麦芽以外のもの、例えば大豆ペプチド、大豆蛋白、エンドウタンパク、トウモロコシなどの1種またはそれ以上から得られる他の原料液汁を用いてもよい。
(i)原料液汁を加熱して昇温させ、
(ii)昇温させた原料液汁を非沸騰状態にて高温保持しつつ、ホップ処理液状物を加えて、原料液汁とホップ処理液状物との混合物として引き続き非沸騰状態にて高温保持し、および
(iii)高温保持の後、混合物を加熱して沸騰させる
ことを含むものとして実施され得る。以下、本発明を通じて、昇温、高温保持および沸騰という一連の煮沸を「三段煮沸」とも言うものとする。
(a)ホップを、ペレット状原料ホップ1kg当り25〜100リットルに蒸発減量分を加えた量の溶媒と一緒に、ペレット状原料ホップ1kg当り1〜15kgの蒸発減量が得られるように煮沸すること、および
(c)原料液汁を煮沸すること
を含んで成り、工程(a)および(c)をそれぞれ実施し、工程(a)により得られるホップ処理液状物を、工程(c)により得られる原料煮沸液状物に、工程(c)の後、冷却するまでの1つまたはそれ以上の段階で添加する製造方法が提供される。
(i’)原料液汁を加熱して昇温させ、
(ii’)昇温させた原料液汁を非沸騰状態にて高温保持し、および
(iii’)高温保持の後、原料液汁を加熱して沸騰させる
ことを含むものとして実施され得る。この態様(三段煮沸)も、本発明の第1の要旨における上記態様(三段煮沸)と同様の効果を得ることができる。
本実施形態は本発明の第1の要旨に関するものであり、図面を参照しながら以下に詳述する。尚、本実施形態においては原料液汁として麦汁を用いて一般的な淡色ビールを製造する場合について説明するが、これに限定されるものではない。
まず、図1に示すホップ処理装置10にてホップ処理を行う。ホップ処理装置10は加熱器9を含み、加熱器9の上部には、ホップ投入口1(例えばいわゆるマンホールであり得る)と、溶媒供給ライン3(例えば先端にスプレーボールを備え得る)と、排気ライン5とが備えられ、加熱器9の下部には、ホップ(図示せず)と溶媒との混合物12を加熱するためのジャケット7と、排出ライン13とが備えられる。また、ホップ処理装置10は、加熱器9内でホップと溶媒との混合物12を攪拌する攪拌羽根または翼を備えた攪拌機11を攪拌手段として含むことが好ましい。加えて、ホップ処理装置10には、蒸発減量を測定または算出するために必要な任意の適切な計測器(図示せず)、例えば荷重変換器、差圧伝送器、液深を測る液面計などが備えられ得る。尚、本発明者はホップ処理装置10を「PIE」(Pre-Isomeriser & Evaporator)と呼んでいる。
次に、図2に示す原料液汁煮沸器20にてホップ処理液状物と麦汁との混合物の煮沸を行う。原料液汁煮沸器20には、排出ライン13を通じてホップ処理装置10と接続されており、更に、原料液汁供給ライン15および排出ライン17が、例えば図示するように接続されて備えられ得る。このような原料液汁煮沸器20には、図2に示すような一般的なローレンコッファ型煮沸釜を用いることができるが、これに限定されない。
(i)原料液汁を加熱して昇温させ、
(ii)昇温させた原料液汁を非沸騰状態にて高温保持しつつ、ホップ処理液状物を加えて、原料液汁とホップ処理液状物との混合物19として引き続き非沸騰状態にて高温保持し、および
(iii)高温保持の後、混合物を加熱して沸騰させる。
(ii)段目では、SMMをDMSとする反応が進行するが、非沸騰状態であるので、沸騰させた場合に比べて少なくとも潜熱に相当するエネルギー分を削減できる。更に、非沸騰状態では沸騰状態に比べて麦汁の流動が抑制されるため、蛋白質の熱凝固反応が進行し難くなり、泡持ちに寄与する物質(例えば40kDa蛋白質)の減少を緩和できる。(ii)段目は、最終的に(iii)段目で混合物19が煮沸される限り、連続的に、または間欠的に(非沸騰状態の間に沸騰状態や高温保持から逸脱した状態が短期間存在し得る)実施してよい。
(iii)段目は、麦芽香気成分であるDMSを十分に蒸散除去するように、例えば約3〜4重量%の蒸発率が得られるように実施する。尚、「蒸発率」は、(開始時の液状物重量−終了時の液状物重量)/(開始時の液状物重量)×100(重量%)として求められる。この蒸発率は、従来一般的な煮沸方法による場合(蒸発率約11〜12重量%)より小さくできる。
本実施形態は本発明の第2の要旨に関するものであり、以下、実施形態1と相違する点を中心に説明する。実施形態1では、工程(a)より得られたホップ処理液状物を、図4に示す段階(0)麦汁煮沸前にて添加したものであるが、本実施形態はホップ処理液状物の添加段階を変更したものである。
(1)麦汁(原料液汁)の煮沸後かつ旋回分離前;
(2)旋回分離の間;および
(3)旋回分離後かつ冷却前
のいずれか1つまたは2つ以上の段階で添加してよい(尚、図4では、代表的に段階(1)にて添加する場合を示す)。
・工程(a) ホップ処理装置10における煮沸
加熱器の容量: 400L
ホップ: ペレット(アロマ品種とビター品種を混合したもの) 約3kg
溶媒: 水 約97L
開始時の液状物(ホップと溶媒との混合物)重量: 約100kg
圧力: 大気圧(約0.1MPa)
温度: 90℃以上まで昇温した後、ホップを添加し、約100℃で約40分間沸騰状態で煮沸
高温保持時間: 約90〜100℃にて約45分間(沸騰状態含む)
pH: 5.2〜5.4
蒸発減量: 約30kg(ペレット状原料ホップ1kg当り約10kg)
・工程(b) 原料液汁煮沸器20(煮沸釜)における煮沸
原料液汁煮沸器の容量: 7500L
ホップ処理液状物: 工程(a)より得られたもの全部 約70kg
麦汁: 約5000L
開始時の液状物(ホップ処理液状物と麦汁との混合物)重量: 約5070kg
圧力: 大気圧(約0.1MPa)
温度: (i)90℃以上まで昇温した後、(ii)非沸騰状態にて高温保持しつつ、この間にホップ処理液状物を加えて引き続き非沸騰状態にて高温保持し、全体合計で60分間の高温保持とし、(iii)高温保持の後、約100℃で約30分間沸騰状態で煮沸
pH: 5.2〜5.4
・工程(b)’
ホップ: 実施例1の工程(a)で用いたものと同じ
麦汁: 実施例1の工程(a)で用いた溶媒から工程(a)の間の蒸発減量を差し引いた分と工程(b)で用いた麦汁との混合物に相当するもの、即ち、水 約67Lと実施例1の麦汁 約5000Lとの混合物
原料液汁煮沸器、圧力、pH、温度:実施例1の工程(b)と同じ(但し、昇温後にホップを添加)
蒸発減量:実施例1の工程(a)の蒸発減量および工程(b)の蒸発減量の合計に対して3倍の蒸発減量となるように、沸騰状態での煮沸時間をより長くして実施した。
・工程(b)’’
ホップ: 実施例1の工程(a)で用いたものと同じ
麦汁:実施例1の工程(a)で用いた溶媒から工程(a)の間の蒸発減量を差し引いた分と工程(b)で用いた麦汁との混合物に相当するもの、即ち、水 約67Lと実施例1の麦汁 約5000Lとの混合物
原料液汁煮沸器、圧力、pH、温度: 実施例1の工程(b)と同じ(但し、昇温後にホップを添加)
蒸発減量:実施例1の工程(a)の蒸発減量および工程(b)の蒸発減量の合計と実質的に同じ蒸発減量となるように、沸騰状態での煮沸時間を調整して実施した。
・イソα酸比率(%)
原料煮沸液状物に含まれるα酸およびイソα酸の各量をHPLC(高速液体クロマトグラフ)により測定し、その存在比(重量比)を求めた。
ホップの苦味成分であるα酸はイソ化してイソα酸となることによって可溶化して麦汁に移るので、イソα酸比率は有効利用された苦味成分の割合(苦味利用率)を示す。より少量のホップで麦汁に苦味を効率的に付けるためには、イソα酸比率は高いほうが好ましい。
・リナロール(ppb)
製品ビールをGC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)により分析した。
リナロールはホップ香気成分の1つであり、煮沸により蒸散する。
・40kDa蛋白質(mg/L)
製品ビールをゲル電気泳動により分析した。
40kDa蛋白質は麦芽由来の蛋白質で、製品ビールの泡持ちに寄与する物質であり、高温に曝される時間が長くなるにつれて減少する。一般に泡持ちは長いほどよく、そのためには40kDa蛋白質の量(残存量)は多いほどよい。
・泡持ち(秒)
製品ビールをNIBEM法により分析した。尚、NIBEM法はビール製造技術の分野において周知であり、EBC(European Brewery Convention)が発行している分析法の規定「Analytica-EBC」に記載されている。
一般に泡持ちは長いほどよい。
・消費熱量比(−)
実施例1および比較例1、2において加熱のために消費した熱量(cal)の大きさを、蒸発に要した熱量にほぼ相当するものとして、蒸発減量から、水の蒸発潜熱を用いて計算した。尚、消費熱量は、実施例1については工程(a)および工程(b)における加熱のために消費した熱量の合計であり(即ち、工程(a)の蒸発減量および工程(b)の蒸発減量の合計から求めた)、比較例1および2についてはそれぞれ工程(b)’および工程(b)’’における加熱のために消費した熱量である(即ち、それぞれ工程(b)’および工程(b)’’の蒸発減量から各々求めた)。そして、従来一般的な煮沸方法の加熱条件(従来条件)に相当する比較例1の消費熱量に対する、実施例1および比較例2の消費熱量の大きさを消費熱量比(−)とした。
省エネルギーの観点から、消費熱量は小さいほうが好ましい。
これに対して、比較例2では、実施例1と同様に、比較例1の消費熱量の1/3となっているものの、イソα酸比率が大幅に減少し、かつ、リナロール量が大幅に増加していた。このため、従来より苦味が弱くなり、かつ、リナロール等のホップ由来の香味が著しくなる。従来と同等の苦味を得るにはホップの使用量を増加する必要があるが、リナロールの香味が強くなっている上にホップ使用量を増加すると、リナロールの香味がより一層強くなることとなる。
比較例2でも、比較例1よりも多くの40kDa蛋白質が残存しており、よって、比較例1より優れた泡持ちが得られたが、上述のように、イソα酸比率およびリナロールの量の点で問題がある。
蒸発減量がペレット状原料ホップ1kg当り2.5、5.0、7.5、10.0、15.0kgとなるように沸騰状態での煮沸時間を調整したこと以外は、実施例1の工程(a)と同様にしてホップ処理液状物を得た。尚、工程(a)に用いた溶媒の液量は、ペレット状原料ホップ1kg当り32.3リットルである。
・スケールダウン工程(b)
実施例1の工程(b)に代えて、小容量の実験用煮沸装置を用い(以下、小型煮沸装置と記す)、これに実施例1の工程(b)で用いたものと同様に製造した麦汁を10kg入れ、そこに上記工程(a)で得たホップ処理液状物0.14kgを加えた後、煮沸して、原料煮沸液状物を得た。実験系全体の容量がスケールダウンしている以外は、例えば処理時間・pH・蒸発率といったパラメーターは実施例1に合わせた。
3 溶媒供給ライン
5 排気ライン
7 ジャケット(ジャケット式加熱手段)
9 加熱器
10 ホップ処理装置
11 攪拌機(攪拌手段)
12 ホップと溶媒との混合物(処理後にホップ処理液状物となる)
13 排出ライン
15 原料液汁供給ライン
17 排出ライン
19 ホップ処理液状物と麦汁(原料液汁)との混合物(煮沸後に原料煮沸液状物となる)
20 原料液汁煮沸器
Claims (6)
- ビールまたはビール様飲料の製造方法であって、
(a)ホップを、ペレット状原料ホップ1kg当り25〜100リットルに蒸発減量分を加えた量の溶媒と一緒に、ペレット状原料ホップ1kg当り1〜15kgの蒸発減量が得られるように煮沸すること、および
(b)下記(i)〜(iii):
(i)原料液汁を加熱して昇温させ、
(ii)昇温させた原料液汁を非沸騰状態にて、沸点から沸点以下10℃までの範囲内の温度(但し沸点を除く)で高温保持しつつ、工程(a)により得られるホップ処理液状物を加えて、原料液汁とホップ処理液状物との混合物として引き続き非沸騰状態にて高温保持し、および
(iii)高温保持の後、混合物を加熱して沸騰させること
を含み、前記(ii)における高温保持時間および前記(iii)における沸騰時間の合計を少なくとも90分間とし、かつ、蒸発率が11重量%を超えない時間として実施される煮沸方法によって、原料液汁とホップ処理液状物との混合物を煮沸すること
を含んで成り、これによって熱エネルギーの消費を低減することを特徴とする製造方法。 - 溶媒の液量は、原料液汁の液量の1/10〜1/200(体積基準)である、請求項1に記載の製造方法。
- 工程(a)において30〜180分間の高温保持時間が得られるように煮沸を実施する、請求項1または2に記載の製造方法。
- 原料液汁が麦汁である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- 溶媒が、水、原料液汁と同じ液汁、および液糖からなる群より選択される少なくとも1種、または該少なくとも1種に添加剤が添加されて成るものである、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
- 工程(b)に代えて、
(c)原料液汁を煮沸すること
を含んで成り、工程(a)および(c)をそれぞれ実施し、工程(a)により得られるホップ処理液状物を、工程(c)により得られる原料煮沸液状物に、工程(c)の後、冷却するまでの1つまたはそれ以上の段階で添加し、
工程(c)における煮沸は、下記(i’)〜(iii’):
(i’)原料液汁を加熱して昇温させ、
(ii’)昇温させた原料液汁を非沸騰状態にて、沸点から沸点以下10℃までの範囲内の温度(但し沸点を除く)で高温保持し、および
(iii’)高温保持の後、原料液汁を加熱して沸騰させること
を含み、前記(ii’)における高温保持時間および前記(iii’)における沸騰時間の合計を少なくとも90分間とし、かつ、蒸発率が11重量%を超えない時間として実施される、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
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