JP5992170B2 - ビール様飲料の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、T−フラクションを添加するビール様飲料およびその製造方法に関する。
微生物の中には、ビール中で生育することができるものが存在し、それらはビール混濁菌と呼ばれる。ビール混濁菌は、濁らせたり、硫黄臭を発したりして、ビール品質を著しく低下させる場合がある。ビール混濁菌等の微生物増殖を抑制させるための一つの方策として、ホップが用いられることが知られている。
しかしながら、微生物に対して抗菌活性を有する既知のホップ成分であるα酸やα酸の酸化成分は、少なからず渋みを有しており、ビール等の飲料の香味特徴に影響する場合があった。そのため、そのような香味特徴を持たない無味、無臭の抗菌成分が望まれる。
しかしながらこれまでに、ホップのイソα酸の分解成分(T−フラクション)に、香味特徴を持たない抗菌成分が含まれることについて全く知られていなかった(例えば、特許文献1、特許文献2、および特許文献3参照)。
WO99/9842号公報 特開平11−221064号公報 特開2008−228634号公報
本発明は、抗菌成分が含まれるビール様飲料およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、特定量のイソα酸の分解成分(T−フラクション)が製造飲料に存在するようにビール様飲料を製造すると、製造飲料においてペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制されることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)ビール様飲料の製造方法であって、イソα酸の分解成分(T−フラクション)の添加工程を含んでなり、かつ製造飲料においてペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制された、製造方法。
(2)製造された飲料中のT−フラクションの量が、飲料を下記分析条件:
<高速液体クロマトグラフィ分析用試料調製条件>
(T−フラクションを添加した試料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とう、静置し、この溶液は水溶層と、有機溶媒層(イソオクタン)との二層に分離し、有機溶媒層から10mlを採取し、採取した溶液を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させ固体化し、これに内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、エタノール溶液440mlとの混合溶液を1ml加え、溶解したものを高速液体クロマトグラフィ分析用試料とする)、
<高速液体クロマトグラフィ分析条件>
(・カラム:C18カラム(粒径5μm×内径4.6mm×カラム長150mm)
・移動相Aの組成:蒸留水:リン酸=1000:0.02(v/v)+EDTA0.02%(w/v)
・移動相Bの組成:アセトニトリル
・グラジエントプログラムは以下の通りである:
分析開始時においては、移動相Aの割合を70%、移動相Bの割合を30%とし、リテンションタイムが15分までに移動相Aの割合が70%から60%、移動相Bの割合が30%から40%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが15〜22分の間は移動相Aの割合を60%、移動相Bの割合を40%とし、リテンションタイムが25分までに、移動相Aの割合が60%から48%、移動相Bの割合が40%から52%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが25〜45分の間は移動相Aの割合を48%、移動相Bの割合を52%とする、
・移動相流速:毎分1.8ml(流速一定)
・検出波長:270nm)、
により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、βフェニルカルコンのピーク面積に対するT−フラクションのピーク面積の比(T−フラクション内標比)が0.13以上となるようにT−フラクションを添加する、(1)に記載の方法。
(3)T−フラクションの添加工程が、熱処理した異性化ホップエキスを発酵前液の煮沸中に添加する工程を含む、(1)または(2)に記載の方法。
(4)ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖を抑制する量のT−フラクションを含む、ビール様飲料。
(5)ビール様飲料にT−フラクションを添加することを特徴とする、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖抑制方法。
本発明の製造方法は、抗菌成分が含まれるビール様飲料を提供できる点で有利である。
T−フラクションの高速液体クロマトグラフィ分析チャートを表す。縦軸のmAUは270nmの吸収強度を電気変換した単位を表す。
発明の具体的説明
ビール様飲料の製造方法
本発明によれば、ビール様飲料の製造方法において、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖を抑制する量のT−フラクションを添加することによりビール様飲料中のペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖を抑制することが可能となる。すなわち、本発明によれば、ビール様飲料の製造方法であって、T−フラクションの添加工程を含んでなり、かつ、製造飲料においてペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制された製造方法が提供される。
本発明において「ビール様飲料」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを有する飲料をいい、例えば、ビール、発泡酒、リキュール等の発酵麦芽飲料や、完全無アルコール麦芽飲料等の非発酵麦芽飲料が挙げられる。また、ビール様飲料である限り、麦芽飲料に限定されるものではないが、ビール様飲料としては、好ましくは発酵麦芽飲料である。
本発明の製造方法では、製造飲料においてペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制されるようにT−フラクションを添加することができる。例えば、T−フラクションは、ホップを加えて、煮沸等することにより飲料中のT−フラクションの量を増加させて、T−フラクションを飲料中に含ませてもよい。ここで、T−フラクションとは、ホップに含まれるイソα酸の分解成分であり、具体的には図1の高速液体クロマトグラフィ分析チャート中に示されたリテンションタイム(保持時間:R.T.)が6〜12分あるいはイソα酸のピークよりも早く検出されるピークの中で検出強度(mAU)(縦軸)が他のピークよりも高い2本のピークで、各々のリテンションタイムが内部標準物質βフェニルカルコンより33分±0.6分、30分±0.7分早く検出されるピーク面積の総和で表される成分を意味する。
このT−フラクションの取得源は特に限定されるものではなく、市販のもの、合成して得られたもの、あるいは天然物から単離・精製されたものいずれを用いてもよい。T−フラクションは、例えば、イソα酸、イソα酸を含有するホップ、ホップエキス等の抽出物から調製することができる。また、T−フラクションの調製方法の好ましい態様によれば、異性化ホップエキス(例えば、スタイナー社製(米国))を蒸留水に0.5%溶解させた後に、溶解液を乳酸にて酸性のpH1.0〜5.0(好ましくは、pH3.0)に調整し、該溶解液を50〜135℃(好ましくは、135℃)、1〜120分(好ましくは、20分)オートクレーブ等で熱処理した処理液をT−フラクション抽出液として、調製してもよい。なお、イソα酸は、ホップに含まれる成分であり、ホップから抽出して、精製してもよく、また合成してもよいが、市販されているものを用いてもよく、またホップ中のα酸の異性化によって生成してもよい。
ここで、本発明によれば、イソα酸(イソフムロン化合物)は、イソフムロン、イソアドフムロン、イソコフムロン、イソポストフムロン、イソプレフムロン、テトラハイドロイソフムロン、テトラハイドロイソアドフムロン、テトラハイドロイソコフムロン、テトラハイドロイソプレフムロン、およびテトラハイドロイソポストフムロンを含む意味で用いられ、イソフムロン、イソアドフムロン、および/またはイソコフムロンが含有されていることが好ましい。
本発明の製造方法におけるT−フラクションの添加時期は、製造飲料にペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制される程度の量のT−フラクションが含まれる限り、ビール様飲料の製造工程のいずれの時点で添加してもよい。
本発明の製造方法におけるT−フラクションの添加態様は、製造飲料にペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制される程度の量のT−フラクションが含まれる限り特に限定されるものではなく、T−フラクションを発酵前液や発酵液にそのまま添加しても、T−フラクションの前駆物質であるイソα酸や、イソα酸を含有するホップを発酵前液に添加してもよい。すなわち、イソα酸やホップをビール様飲料の製造工程のいずれかの時点で添加し、イソα酸や、ホップに含まれるイソα酸の分解を引き起こし、結果的にビール様飲料中にT−フラクションが存在する状態としてもよい。
本発明において、「ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制された」とは、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌を植菌し、培養後に、T−フラクションを添加した場合に、T−フラクションを添加しない場合と比較して、菌の増殖が抑制されていた場合には、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制されたと評価する。例えば、実施例において、「T−フラクション未添加」の場合の生菌数と比較して、生菌数が下回ったか否かを指標として、「ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制された」か否かを評価することができる。
本発明の製造方法により製造される飲料が、例えば、発酵麦芽飲料である場合には、少なくとも水、麦芽、およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。すなわち、麦芽等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、所望により発酵液を低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することにより、本発明による発酵麦芽飲料を製造することができる。ここで、発酵前液の調製に当たっては、後述のようにペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖がさらに抑制されるような量のT−フラクションが発酵飲料に含まれるようにホップを添加してもよい。
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁を煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。ホップは、麦汁を煮沸する前、麦汁を煮沸した後、あるいは麦汁を煮沸中に添加することができる。
本発明の製造方法が発酵麦芽飲料の製造方法である場合には、ホップ、麦芽以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を醸造原料として使用してもよい。得られた発酵麦芽飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール発酵麦芽飲料とすることもできる。
本発明の製造方法により製造される飲料が麦や麦芽を使用しないビール様発酵飲料である場合には、発酵麦芽飲料の製造手順に準じて、少なくとも水およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。発酵前液には、水、ホップの他に炭素源(例えば、液糖などの糖類)、窒素源(例えば、タンパク質分解物や酵母エキスなどのアミノ酸供給源)を添加することができ、必要に応じて、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物等を添加することができる。得られたビール様発酵飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール・ビール様発酵飲料とすることもできる。ここで、発酵前液の調製に当たっては、後述のようにペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖がさらに抑制されるような量のT−フラクションが発酵飲料に含まれるようにホップを添加してもよい。
本発明の好ましい態様によれば、T−フラクションの添加工程が、加熱処理(好ましくは、オートクレーブによる処理)した異性化ホップエキスを発酵前液の煮沸中(好ましくは、煮沸開始時)に添加する工程を含む方法である。T−フラクションの添加工程がこのような工程を含むことにより、飲料中のT−フラクションの量を増加させることができ、その結果として、ペクチネイタス属菌の増殖をさらに抑制することが可能となる。さらに好ましい態様によれば、異性化ホップエキス(例えば、スタイナー社製(米国))を蒸留水に0.5%溶解させた後に、溶解液を乳酸にてpH1.0〜5.0(好ましくは、pH3.0)に調整し、該溶解液を50〜135℃(好ましくは、135℃)、1〜120分(好ましくは、20分)加熱処理(好ましくは、オートクレーブによる処理)したものである。
本発明の好ましい態様によれば、ビール様飲料はビール様発酵アルコール飲料である。発酵アルコール飲料は、一般的にパストライゼーション処理などの滅菌工程がないため、本発明の方法が特に有用である。ここで、発酵アルコール飲料とは酵母により発酵して得られた飲料を意味し、アルコールは発酵により得られても良いし、さらにアルコールを添加して作成しても良い。ビール様発酵アルコール飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、および低アルコール麦芽発酵飲料が挙げられる。
本発明の方法により増殖が抑制されるペクチネイタス属菌は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、好ましくはペクチネイタス・フリシンジェンシスまたはペクチネイタス・セレビシフィラスであり、より好ましくはペクチネイタス・フリシンジェンシスである。本発明の製造方法により製造された飲料はこれらの菌の増殖を抑制することができる。
本発明の方法により増殖が抑制されるラクトバチルス属菌は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、好ましくはラクトバチルス・ブレビスまたはラクトバチルス・リンドネリであり、より好ましくはラクトバチルス・ブレビスである。本発明の製造方法により製造された飲料はこれらの菌の増殖を抑制することができる。
本発明の方法により製造されるビール様飲料中のT−フラクションの含有量は、公知のいずれの方法により測定してもよいが、好ましくは高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析により測定することができる。
ビール様飲料中のT−フラクションの含有量を測定するための高速液体クロマトグラフィの分析条件としては、例えば、以下の条件を用いて行うことができるが、高速液体クロマトグラフィに使用されるカラムは逆相カラムであれば特に限定されないが、C18カラム(好ましくは、粒径5μm×内径4.6mm×カラム長150mmの形態のものが好ましい)が好ましい。C18カラムとしては、例えば、Alltima 88052(オルテック社製)(粒径5μm×内径4.6mm×カラム長150mm)などが挙げられる。
<高速液体クロマトグラフィ分析用試料調製条件>
T−フラクションを添加した試料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とう、静置する。この溶液は水溶層と、有機溶媒層(イソオクタン)との二層に分離し、有機溶媒層から10mlを採取する。採取した溶液を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させ固体化する。これに内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、エタノール溶液440mlとの混合溶液を1ml加え、溶解したものを高速液体クロマトグラフィ分析用試料とする。
<高速液体クロマトグラフィ分析条件>
・カラム:C18カラム(粒径5μm×内径4.6mm×カラム長150mm)
・移動相Aの組成:蒸留水:リン酸=1000:0.02(v/v)+EDTA0.02%(w/v)
・移動相Bの組成:アセトニトリル
・グラジエントプログラムは以下の通りである:
分析開始時においては、移動相Aの割合を70%、移動相Bの割合を30%とし、リテンションタイムが15分までに移動相Aの割合が70%から60%、移動相Bの割合が30%から40%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが15〜22分の間は移動相Aの割合を60%、移動相Bの割合を40%とし、リテンションタイムが25分までに、移動相Aの割合が60%から48%、移動相Bの割合が40%から52%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが25〜45分の間は移動相Aの割合を48%、移動相Bの割合を52%とする。
・移動相流速:毎分1.8ml(流速一定)
・検出波長:270nm
本発明では、T−フラクションについて、上記高速液体クロマトグラフィ条件により分析を実施し、リテンションタイムが6〜12分あるいはイソα酸のピークよりも早く検出されるピーク中で検出強度(mAU)(縦軸)が他のピークよりも高い2本のピークで、各々のリテンションタイムが内部標準物質βフェニルカルコンより33分±0.6分、30分±0.7分早く検出されるピーク面積の総和を、内部標準物質のピーク面積で除したピーク面積比(T−フラクション内標比)に基づいて、T−フラクションを添加することができる。T−フラクション内標比は、以下の式により表される:
T−フラクション内標比=(T−フラクションのピーク面積)/(内部標準物質のピーク面積)・・・(I)
高速液体クロマトグラフィ分析の際に用いられる内部標準物質は、特に限定されないが、T−フラクションともに、βフェニルカルコンを用いることが好ましい。高速液体クロマトグラフィ分析用試料は、例えば、以下のように調製することができる。
<高速液体クロマトグラフィ分析用試料調製条件>
T−フラクションを添加した試料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とう、静置する。この溶液は水溶層と、有機溶媒層(イソオクタン)との二層に分離し、有機溶媒層から10mlを採取する。採取した溶液を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させ固体化する。これに内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、エタノール440mlとの混合溶液を1ml加え、溶解したものを高速液体クロマトグラフィ分析用試料とする。
本発明の好ましい態様によれば、製造された飲料中のT−フラクションの量が、飲料を上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により上記高速液体クロマトグラフィ分析を実施した場合、T−フラクション内標比が0.13以上となるようにT−フラクションを添加することができる。T−フラクション内標比を上記の範囲とすることにより、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖を抑制することができる。
ビール様飲料
本発明の好ましい態様によれば、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖を抑制する量のT−フラクションを含むビール様飲料が提供される。
本発明のより好ましい態様によれば、ビール様飲料はビール様発酵アルコール飲料である。また、本発明の別の好ましい態様によれば、ペクチネイタス属菌はペクチネイタス・フリシンジェンシスまたはペクチネイタス・セレビシフィラスであり、さらに好ましい態様によれば、ペクチネイタス・フリシンジェンシスである。本発明のビール様飲料によれば、これらの菌の増殖を顕著に抑制することができる。
本発明の別のより好ましい態様によれば、ラクトバチルス属菌はラクトバチルス・ブレビスまたはラクトバチルス・リンドネリであり、さらに好ましい態様によれば、ラクトバチルス・ブレビスである。本発明のビール様飲料によれば、これらの菌の増殖を顕著に抑制することができる。
本発明の好ましい態様によれば、ビール様飲料にT−フラクションを添加することを特徴とする、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖抑制方法が提供される。
本発明の別の好ましい態様によれば、ビール様発酵アルコール飲料にT−フラクションを添加することを特徴とする、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖抑制方法が提供される。
本発明の別の好ましい態様によれば、製造された飲料中のT−フラクションの量が、上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、T−フラクション内標比が0.13以上となる量である、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖抑制方法が提供される。
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
植菌試験用T−フラクション抽出液の調製
異性化ホップエキス(スタイナー社製(米国))を蒸留水に0.5%溶解させた後に、溶解液を乳酸によりpH3.0に調整した。該溶解液を135℃で、20分間オートクレーブ処理した処理液をT−フラクション抽出液とした。
T−フラクション抽出液添加による植菌試験(ペクチネイタス・フリシンジェンシス)
市販品のビールに上記T−フラクション抽出液を添加し、ビール混濁菌であるペクチネイタス・フリシンジェンシス(入手先:ドイツ微生物寄託機関(Deutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbH(DSM)))の増殖抑制効果を得る成分値の範囲を探索した。抽出液の各添加水準は、下記に示した表1の通りであった。
さらに、1.0×10CFU/mlレベルでペクチネイタス・フリシンジェンシスを植菌し、14日間30℃で培養後、生菌数を確認した。試験の結果を表1に示す。
Figure 0005992170
T−フラクション抽出液添加による植菌試験(ラクトバチルス・ブレビス)
市販品のビールに上記T−フラクション抽出液を添加し、ビール混濁菌であるラクトバチルス・ブレビス(入手先:ドイツ微生物寄託機関(Deutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbH(DSM))の増殖抑制効果を確認した。抽出液の各添加水準は、下記に示した表2の通りであった。
さらに、1.0×10CFU/mlレベルでラクトバチルス・ブレビスを植菌し、14日間30℃で培養後、生菌数を確認した。試験の結果を表2に示す。
Figure 0005992170
高速液体クロマトグラフィ分析のための試料の調製
T−フラクションを添加した各試料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とう、静置した。この溶液は、水溶層と、有機溶媒層(イソオクタン)との二層に分離し、有機溶媒層から10mlを採取した。採取した溶液を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させ固体化させた。これに内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、エタノール440mlとの混合溶液を1ml加え、溶解したものを高速液体クロマトグラフィ分析用試料とした。
高速液体クロマトグラフィ分析によるT−フラクション内標比の算出
高速液体クロマトグラフィの分析条件は、以下の通りである。
<高速液体クロマトグラフィ分析条件>
・カラム:Alltima88052(オルテック社製)(粒径5μm×内径4.6mm×カラム長150mm)
・サンプル注入量10μl
・移動相Aの組成:蒸留水:リン酸=1000:0.02(v/v)+EDTA0.02%(w/v)
・移動相Bの組成:アセトニトリル
・グラジエントプログラムは以下の通りである(表3参照):
分析開始時においては、移動相Aの割合を70%、移動相Bの割合を30%とし、リテンションタイムが15分までに移動相Aの割合が70%から60%、移動相Bの割合が30%から40%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが15〜22分の間は移動相Aの割合を60%、移動相Bの割合を40%とし、リテンションタイムが25分までに、移動相Aの割合が60%から48%、移動相Bの割合が40%から52%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが25〜45分の間は移動相Aの割合を48%、移動相Bの割合を52%とした。
・移動相流速:毎分1.8ml(流速一定)
・検出波長:270nm
Figure 0005992170
高速液体クロマトグラフィ用カラム(Alltima 88052(オルテック社製)(粒径5μm×内径4.6mm×カラム長150mm)を用いて、蒸留水:リン酸=1000:0.02(v/v)+EDTA0.02%(w/v)で作成した移動相A、アセトニトリルトリルの移動相Bを、上記表3のグラジエントプログラムのとおり、高速液体クロマトグラフィ分析を行った場合において、リテンションタイムが6〜12分あるいはイソα酸のピークよりも早く検出されるピークの中で検出強度(mAU)(縦軸)が他のピークよりも高い2本のピークで、各々のリテンションタイムが内部標準物質βフェニルカルコンより33分±0.6分、30分±0.7分早く検出されるピーク面積を総和し、「T−フラクション」と表記し、内部標準物質βフェニルカルコンのピーク面積の総和を「内部標準物質(βフェニルカルコン)」と表記した(図1参照)。
T−フラクション内標比は、上記式(I)に基づき算出した。
試験醸造品でのT−フラクション増量の検証
200Lスケールの試醸設備にて、まずは通常のビール製法にしたがって、糖化工程を行った。麦汁濾過工程を経て、麦汁煮沸開始時、T−フラクション抽出液を通常のホップと同時に煮沸釜へ添加し、70分間煮沸した。添加したTフラクション溶液は、異性化ホップエキス(スタイナー社製(米国))を蒸留水に0.5%溶解させた後に、pHを乳酸により3.0に調整し、該溶解液を135℃で、20分間オートクレーブ処理して調製し、その処理液をT−フラクション抽出液として上記の添加に用いた。麦汁煮沸終了後、仕込麦汁糖度12度に調整した仕込麦汁(仕込時の麦芽使用比率49%、副原料(液糖、大麦)使用比率51%)を調製した。この仕込麦汁を冷却し、冷麦汁サンプルを得た。その後、冷麦汁に酵母を添加し、主発酵7日、後発酵15日を経て、濾過を行った発泡酒を、試験醸造品とした。
その結果、煮沸中にT−フラクション抽出液を添加することで、上記試験醸造品において、ペクチネイタス・フリシンジェンシスおよびラクトバチルス・ブレビスの増殖抑制可能な範囲までT−フラクションを増量できることが明らかとなった(表4参照)。なお、表4中、試験区AはT−フラクション抽出液を添加したもの、試験区BはT−フラクション抽出液を添加していないものを表す。
Figure 0005992170
T−フラクションを増量させた試験醸造品の香味確認
上記T−フラクションを増量させた試験醸造品について、官能評価を行なった。また、抗菌活性を有する既知のホップ成分であるα酸およびα酸の酸化成分を増量させた試験醸造品についても官能評価を行なった。α酸およびα酸の酸化成分を増量させた試験醸造品の作成方法は、それぞれ下記に記載した方法に準じた。
α酸は、ペレットホップ(HPE Type90)を、80%エタノールに24時間、4℃で浸漬させ、抽出した。浸漬後、6000rpm、15分間遠心分離し、その上清をα酸抽出液とした。このα酸抽出液を市販品ビールに加え、上記と同様に植菌試験を行った。結果は下記表6に表す。また、下記に示す高速液体クロマトグラフィ分析条件により、α酸の内標比(内部標準物質:βフェニルカルコン)を求めた。
<α酸の高速液体クロマトグラフィ分析のための試料の調製>
α酸抽出液を添加した各試料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とう、静置した。この溶液は、試料から成る水溶層とイソクタンから成る有機溶媒層の2層に分離し、イソオクタン有機溶媒層から10mlを採取した。採取した後、窒素がガス噴霧下で完全に乾燥させ固体化させた。これに内部標準物質βフェニルカルコン12mgを加えたリン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)を1ml加え、溶解したものを高速液体クロマトグラフィ分析用試料とした。
<高速液体クロマトグラフィ分析によるα酸内標比の算出>
高速液体クロマトグラフィの分析条件は、以下の通りである。
<高速液体クロマトグラフィ分析条件>
カラム:Nucleosil 100−5C18 4.0×250mm
サンプル注入量:50μl
移動相Cの組成:蒸留水27.0%・メタノール72.0%・リン酸1.0%
移動相Dの組成:メタノール99.0%・リン酸1.0%
移動相流速:1ml/min.(流速一定)
検出波長:270nm
Figure 0005992170
高速液体クロマトグラフィ用カラム;Nucleosil 100−5C18 4.0×250mmを用いて、蒸留水27%、メタノール72%、および、リン酸1%からなる移動相Cを、1ml/分の一定流速で270nmの検出波長の高速液体クロマトグラフィによる測定をした場合において、α酸ピークのリテンションタイム(RT)は6.5〜10.0分であり、その間の面積の総和を求め、その面積と内部標準物質βフェニルカルコンのピーク面積との比により求めた。α酸ピークのRTは±0.5分の差は許容される。
α酸の酸化成分は、大気存在下で25℃2週間後熟させたペレットホップ(CSA)を、水に24時間、4℃で浸漬させ、抽出した。浸漬後、6000rpm、15分間遠心分離し、その上清をα酸の酸化成分抽出液とした。このα酸酸化成分抽出液を市販品ビールに加え、上記と同様に植菌試験を行った。結果は下記表6に表す。また、上記α酸と同様の高速液体クロマトグラフィ分析条件により、α酸の酸化成分の内標比(内部標準物質:βフェニルカルコン)を求めた。α酸酸化成分はイソα酸ピーク以前に検出される全てのピークの面積を総和し、その面積と内部標準物質βフェニルカルコンのピーク面積との比により求めた。
下記官能評価の結果、α酸およびα酸の酸化成分は、ペクチネイタス・フリシンジェンシスの増殖抑制効果が表れるまで増量すると、渋みを若干感じるが、T−フラクションは、ペクチネイタス・フリシンジェンシスの増殖抑制効果が表れるまで増量しても、異臭味はなく、香味に対して影響しなかった(表6参照)。
Figure 0005992170
市販品の分析結果
市販品のT−フラクションの内標比を上記の高速液体クロマトグラフィ条件と同様の条件で測定し、T−フラクションの内標比を算出した。その結果を下記表7に示した。測定した市販品の中には、T−フラクションの内標比が0.13以上のものは存在しなかった。
Figure 0005992170

Claims (4)

  1. ビール様飲料の製造方法であって、T−フラクションの添加工程を含んでなり、該T−フラクションが異性化ホップエキスをpH1.0〜5.0に調整して50〜135℃の熱処理で生成されたものであり、かつ製造飲料においてペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖が抑制された、製造方法であって、
    製造された飲料中のT−フラクションが、飲料を下記分析条件:
    <高速液体クロマトグラフィ分析用試料調製条件>
    (T−フラクションを添加した試料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とう、静置し、この溶液は水溶層と、有機溶媒層(イソオクタン)との二層に分離し、有機溶媒層から10mlを採取し、採取した溶液を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させ固体化し、これに内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、エタノール溶液440mlとの混合溶液を1ml加え、溶解したものを高速液体クロマトグラフィ分析用試料とする)、
    <高速液体クロマトグラフィ分析条件>
    (・カラム:C18カラム(粒径5μm×内径4.6mm×カラム長150mm)
    ・移動相Aの組成:蒸留水:リン酸=1000:0.02(v/v)+EDTA0.02%(w/v)
    ・移動相Bの組成:アセトニトリル
    ・グラジエントプログラムは以下の通りである:
    分析開始時においては、移動相Aの割合を70%、移動相Bの割合を30%とし、リテンションタイムが15分までに移動相Aの割合が70%から60%、移動相Bの割合が30%から40%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが15〜22分の間は移動相Aの割合を60%、移動相Bの割合を40%とし、リテンションタイムが25分までに、移動相Aの割合が60%から48%、移動相Bの割合が40%から52%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが25〜45分の間は移動相Aの割合を48%、移動相Bの割合を52%とする、
    ・移動相流速:毎分1.8ml(流速一定)
    ・検出波長:270nm)、
    により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、リテンションタイムが6〜12分あるいはイソα酸のピークよりも早く検出されるピークの中で検出強度(mAU)が他のピークよりも高い2本のピークで、各々のリテンションタイムが内部標準物質βフェニルカルコンより33分±0.6分および30分±0.7分早く検出されるピーク面積の総和で表される成分であり、かつ製造された飲料中のT−フラクションの量が、上記分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、βフェニルカルコンのピーク面積に対するT−フラクションのピーク面積の比(T−フラクション内標比)が0.13以上となるようにT−フラクションを添加する、製造方法。
  2. T−フラクションの添加工程が、熱処理した異性化ホップエキスを発酵前液の煮沸中に添加する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  3. 熱処理が135℃で行われる、請求項1または2に記載の方法。
  4. ビール様飲料に、T−フラクションを添加することを特徴とし、かつ該T−フラクションが異性化ホップエキスをpH1.0〜5.0に調整して50〜135℃の熱処理で生成されたものである、ペクチネイタス属菌および/またはラクトバチルス属菌の増殖抑制方法であって、該T−フラクションが、T−フラクションが添加された飲料を下記分析条件:
    <高速液体クロマトグラフィ分析用試料調製条件>
    (T−フラクションを添加した試料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とう、静置し、この溶液は水溶層と、有機溶媒層(イソオクタン)との二層に分離し、有機溶媒層から10mlを採取し、採取した溶液を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させ固体化し、これに内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、エタノール溶液440mlとの混合溶液を1ml加え、溶解したものを高速液体クロマトグラフィ分析用試料とする)、
    <高速液体クロマトグラフィ分析条件>
    (・カラム:C18カラム(粒径5μm×内径4.6mm×カラム長150mm)
    ・移動相Aの組成:蒸留水:リン酸=1000:0.02(v/v)+EDTA0.02%(w/v)
    ・移動相Bの組成:アセトニトリル
    ・グラジエントプログラムは以下の通りである:
    分析開始時においては、移動相Aの割合を70%、移動相Bの割合を30%とし、リテンションタイムが15分までに移動相Aの割合が70%から60%、移動相Bの割合が30%から40%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが15〜22分の間は移動相Aの割合を60%、移動相Bの割合を40%とし、リテンションタイムが25分までに、移動相Aの割合が60%から48%、移動相Bの割合が40%から52%となるように、連続かつ直線的なグラジエントを行い、リテンションタイムが25〜45分の間は移動相Aの割合を48%、移動相Bの割合を52%とする、
    ・移動相流速:毎分1.8ml(流速一定)
    ・検出波長:270nm)、
    により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、リテンションタイムが6〜12分あるいはイソα酸のピークよりも早く検出されるピークの中で検出強度(mAU)が他のピークよりも高い2本のピークで、各々のリテンションタイムが内部標準物質βフェニルカルコンより33分±0.6分および30分±0.7分早く検出されるピーク面積の総和で表される成分であり、かつ飲料中のT−フラクションの量が、上記分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、βフェニルカルコンのピーク面積に対するT−フラクションのピーク面積の比(T−フラクション内標比)が0.13以上となるようにT−フラクションを添加する、増殖抑制方法。
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