以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る製造方法により製造された内燃機関1の概略構成を示す図である。内燃機関(エンジン)1は、シリンダブロック9及びシリンダヘッド10を備える。シリンダブロック9内には、その軸線方向に往復運動するピストン12が収容されている。ピストン12の頂面12a、シリンダブロック9の内壁面9a、及びシリンダヘッド10の下面10aに囲まれた空間は、燃焼室13を形成する。シリンダヘッド10には、燃焼室13に連通する吸気ポート14、及び燃焼室13に連通する排気ポート15が形成されている。さらに、吸気ポート14と燃焼室13との境界を開閉する吸気弁16、及び排気ポート15と燃焼室13との境界を開閉する排気弁17が設けられている。シリンダブロック9には、冷却水ジャケット18が形成されており、冷却水ジャケット18に冷却水が供給されることで、内燃機関1の冷却が行われる。
なお、図1では、説明の便宜上、燃料噴射弁や点火栓等の構成の図示を省略しているが、本実施形態に係る内燃機関1は、ディーゼルエンジン等の圧縮自着火式内燃機関であってもよいし、ガソリンエンジン等の火花点火式内燃機関であってもよい。圧縮自着火式内燃機関の場合は、例えばピストン12が圧縮上死点付近に位置するときに燃料噴射弁から燃焼室13内に燃料を噴射することで、燃焼室13内の燃料が自着火して燃焼する。火花点火式内燃機関の場合は、点火時期にて点火栓の火花放電により燃焼室13内の混合気に点火することで、燃焼室13内の混合気を火炎伝播燃焼させる。燃焼室13内の燃焼ガスは、排気行程にて排気ポート15へ排出される。
本実施形態では、燃焼室13を形成する母材の少なくとも一部の、燃焼室13内に臨む(面する)壁面上には、燃焼室13内の燃焼ガスから母材への伝熱を抑制するための断熱用薄膜20が形成されている。ここでは、燃焼室13を形成する母材として、シリンダブロック(シリンダライナ)9、シリンダヘッド10、ピストン12、吸気弁16、及び排気弁17を挙げることができる。そして、燃焼室13内に臨む壁面として、シリンダブロック内壁面(シリンダライナ内壁面)9a、シリンダヘッド下面10a、ピストン頂面12a、吸気弁底面(傘部底面)16a、及び排気弁底面(傘部底面)17aのいずれか1つ以上を挙げることができる。図1では、シリンダブロック内壁面9a、シリンダヘッド下面10a、ピストン頂面12a、吸気弁底面16a、及び排気弁底面17aの各々に断熱用薄膜20を形成した例を示している。ただし、必ずしもシリンダブロック内壁面9a、シリンダヘッド下面10a、ピストン頂面12a、吸気弁底面16a、及び排気弁底面17aのすべてに断熱用薄膜20を形成する必要はない。つまり、断熱用薄膜20については、シリンダブロック内壁面9a、シリンダヘッド下面10a、ピストン頂面12a、吸気弁底面16a、及び排気弁底面17aのいずれか1つ以上に形成することができる。
次に、本実施形態に係る内燃機関1の製造方法、特に、断熱用薄膜20を形成する方法について説明する。なお、断熱用薄膜20を形成する工程以外の内燃機関1の製造工程については、周知の工程で実現可能である。
「実施例1」
図2は、断熱用薄膜20を形成する方法の一例を説明するフローチャートである。まずステップS101の粒子製造工程においては、図3に示すように、断熱用材料として、粒状の樹脂21dの周りを無機化合物であるセラミック材料の層21bで覆った粒子21を多数製造する。ここでの樹脂21dについては、高温で熱分解してガス化する樹脂を用い、例えばポリスチレンやポリイミド等の樹脂を用いることができる。また、ここでのセラミック材料(無機化合物)については、例えば耐熱性の高いジルコニア(ZrO2)を用いることができる。さらに、ジルコニア以外に、シリカ(二酸化珪素、SiO2)やアルミナ(Al2O3)や窒化珪素や炭化珪素やコージェライト等のセラミック材料を用いることも可能である。ただし、セラミック材料(例えばジルコニア)の層21bは、まだ焼成されておらず、緻密化されていない。つまり、セラミック材料の層21bは、粗な構造であり、その内外が遮断されていない。また、各粒子21の外径は、例えば数十μm程度である。
次に、ステップS102の薄膜塗布工程では、有機化合物としての有機珪素化合物22内に断熱用材料としての粒子21を多数混入させることで、多数の粒子21を有機珪素化合物22(バインダ)で固める。そして、図4に示すように、多数の粒子21を有機珪素化合物22で固めたものを母材30の壁面30a上に薄膜状に塗布することで、有機珪素化合物22と多数の粒子21とを含む薄膜20を母材30の壁面30a上に形成する。ここでの有機珪素化合物22については、例えばポリメタロカルボシランを用いることができる。また、ここでの母材30は、シリンダブロック(シリンダライナ)9であってもよいし、シリンダヘッド10であってもよいし、ピストン12であってもよいし、吸気弁16であってもよいし、排気弁17であってもよい。つまり、母材30の壁面30aは、シリンダブロック内壁面(シリンダライナ内壁面)9aであってもよいし、シリンダヘッド下面10aであってもよいし、ピストン頂面12aであってもよいし、吸気弁底面16aであってもよいし、排気弁底面17aであってもよい。また、薄膜20の厚さは、例えば約100μm程度である。
次に、ステップS103のガス抜用加熱工程では、図5に示すように、有機珪素化合物22内に粒子21が多数混入された薄膜20を加熱して、各粒子21内の樹脂21dを熱分解させてガス化させるとともに、有機珪素化合物22の熱分解により発生するガス22aを薄膜20から抜く。ここでの薄膜20の加熱については、赤外線による加熱や、レーザによる加熱や、火炎(バーナ)による加熱を用いることが可能である。ポリスチレンが熱分解してガス化する温度は約350〜400℃以上であり、有機珪素化合物22(ポリメタロカルボシラン)が熱分解することでCH4やH2等のガス22aが発生する温度は約600〜800℃以上である。また、ジルコニアが緻密化する温度は約1000℃以上であり、有機珪素化合物22の熱分解により生成される二酸化珪素(SiO2)や炭化珪素(SiC)等の珪素化合物22bが完全に焼結する温度は約1000〜1200℃以上である。そこで、薄膜20の温度が約600〜800℃以上で且つ約1000〜1200℃よりも低くなるように薄膜20を加熱することで、セラミック材料(ジルコニア)の層21bを緻密化させずに(粗な構造のまま)、各粒子21内の樹脂21d(ポリスチレン)を熱分解させてガス化させることができる。さらに、有機珪素化合物22の熱分解により生成される珪素化合物(SiO2及びSiC)22bを完全に焼結させずに、CH4やH2等のガス22aを発生させることができる。そのため、ガス化した樹脂21d、及び有機珪素化合物22の熱分解により生成されたCH4やH2等のガス22aを薄膜20外へ確実に放出させることができる。各粒子21内の樹脂21dがガス化して放出されることで、各粒子21(セラミック材料の層21b)の内部に中空部(気泡)21aが形成される。また、有機珪素化合物22の熱分解により生成されたSiO2及びSiC22bは、加熱されることで非晶質化(ガラス化)される。
次に、ステップS104の焼成用加熱工程では、図6に示すように、ガス抜用加熱工程後の薄膜20を加熱して、セラミック材料の層21bを緻密化させるとともに、熱分解後の珪素化合物(SiO2及びSiC)22bを焼成する。ここでの薄膜20の加熱についても、赤外線による加熱や、レーザによる加熱や、火炎(バーナ)による加熱を用いることが可能である。ここでは、薄膜20の温度が約1000〜1200℃以上になるようにステップS103のガス抜用加熱工程よりも高い温度で薄膜20を加熱することで、セラミック材料(ジルコニア)の層21bが密な構造に変化し、各粒子21(セラミック材料の層21b)の内外が遮断される。さらに、熱分解後のSiO2及びSiC22bが結晶化(セラミック化)することで高強度化される。加熱後に薄膜20を常温に戻すと、各粒子21内の中空部21aは減圧された状態となる。以上の工程により、各粒子21内に気泡(中空部)21aが形成された断熱用薄膜20が母材30の壁面30a上に形成される。
内燃機関のシリンダ内における熱損失Q[W]については、シリンダ内の圧力やガス流に起因する熱伝達係数h[W/(m2・K)]、シリンダ内の表面積A[m2]、シリンダ内のガス温度Tg[K]、及びシリンダ内に面する(シリンダ内の燃焼ガスと接触する)壁面の温度Twall[K]を用いて、以下の(1)式で表すことができる。
Q=A×h×(Tg−Twall) (1)
内燃機関のサイクルにおいては、シリンダ内ガス温度Tgが時々刻々変化するが、壁面温度Twallをシリンダ内ガス温度Tgに追従させるよう時々刻々変化させることで、(1)式における(Tg−Twall)の値を小さくすることができ、熱損失Qを低減することができる。壁面温度Twallをシリンダ内ガス温度Tgに追従させるよう変化させるためには、燃焼室内に臨む壁面に形成する断熱用薄膜については、熱伝導率及び単位体積あたりの熱容量が低いことが望ましい。本実施形態では、断熱用薄膜20内に気泡21aが多数形成されることで、断熱用薄膜20の熱伝導率及び単位体積あたりの熱容量を低くすることができる。その結果、燃焼室壁面温度Twallのシリンダ内ガス温度Tgへの追従性を向上させることができ、内燃機関1の熱効率を向上させることができる。さらに、各粒子21内の中空部21aが減圧された状態となることで、断熱用薄膜20の熱伝導率をさらに低くすることができる。
ただし、中空構造の粒子を製造してから薄膜内に多数混入させて薄膜を焼成する場合は、中空構造の粒子の製造時と薄膜の焼成時の2回焼成を行う必要があり、焼成に要するエネルギーが増加する。これに対して以上説明した断熱用薄膜20の形成方法によれば、各粒子21(セラミック材料の層21b)の焼成と珪素化合物(SiO2及びSiC)22bの焼成とを同じ工程で行うため、各粒子21内に気泡21aが形成された断熱用薄膜20をより少ない焼成エネルギーで効率的に形成することができる。さらに、薄膜20(各粒子21及び珪素化合物22b)の本焼成を行う前に、本焼成よりも低い温度で薄膜20を加熱することで、各粒子21内のガス化した樹脂21d、及び有機珪素化合物22の熱分解により生成されたCH4やH2等のガス22aを薄膜20内から確実に抜くことができる。そのため、焼成後の断熱用薄膜20内に、各粒子21内の気泡21a以外の、焼成時に発生するガスによる気泡が残存するのを防ぐことができる。その結果、断熱用薄膜20の強度が設計強度よりも低下するのを防ぐことができる。
「実施例2」
図7は、断熱用薄膜20を形成する方法の他の例を説明するフローチャートである。以下の実施例2の説明では、実施例1と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施例1と同様である。
まずステップS201の粒子製造工程においては、図8に示すように、粒状の樹脂による粒子21を多数製造する。ここでの樹脂についても、高温で熱分解してガス化する樹脂を用い、例えばポリスチレンやポリイミド等の樹脂を用いることができる。次に、ステップS202の薄膜塗布工程では、有機珪素化合物22内に粒子21を多数混入させることで、多数の粒子21を有機珪素化合物22(バインダ)で固める。そして、図9に示すように、多数の粒子21を有機珪素化合物22で固めたものを母材30の壁面30a上に薄膜状に塗布することで、有機珪素化合物22と多数の粒子(樹脂)21とを含む薄膜20を母材30の壁面30a上に形成する。ここでの有機珪素化合物22についても、例えばポリメタロカルボシランを用いることができる。
次に、ステップS203のガス抜用加熱工程では、図10に示すように、有機珪素化合物22内に粒子21が多数混入された薄膜20を加熱して、各粒子(樹脂)21を熱分解させてガス化させるとともに、有機珪素化合物22の熱分解により発生するガス22aを薄膜20から抜く。ここでは、薄膜20の温度が約600〜800℃以上で且つ約1000〜1200℃よりも低くなるように薄膜20を加熱することで、有機珪素化合物22の熱分解により生成される珪素化合物(SiO2及びSiC)22bを完全に焼結させずに、CH4やH2等のガス22aを発生させることができるとともに、各粒子(ポリスチレン)21を熱分解させてガス化させることができる。そのため、ガス化した樹脂21、及び有機珪素化合物22の熱分解により生成されたCH4やH2等のガス22aを薄膜20外へ確実に放出させることができる。各樹脂21がガス化して放出されることで、薄膜20(珪素化合物22b)の内部に中空部(気泡)21aが多数形成される。また、有機珪素化合物22の熱分解により生成されたSiO2及びSiC22bは、加熱されることで非晶質化(ガラス化)される。
次に、ステップS204の焼成用加熱工程では、図11に示すように、ガス抜用加熱工程後の薄膜20を加熱して、熱分解後の珪素化合物(SiO2及びSiC)22bを焼成する。ここでは、薄膜20の温度が約1000〜1200℃以上になるようにステップS203のガス抜用加熱工程よりも高い温度で薄膜20を加熱することで、熱分解後のSiO2及びSiC22bが結晶化(セラミック化)して高強度化される。加熱後に薄膜20を常温に戻すと、薄膜20(珪素化合物22b)内の各中空部21aは減圧された状態となり、熱伝導率が低くなる。以上の工程により、内部に気泡(中空部)21aが多数形成された断熱用薄膜20が母材30の壁面30a上に形成される。その結果、断熱用薄膜20の熱伝導率及び単位体積あたりの熱容量を低くすることができる。
以上説明した断熱用薄膜20の形成方法によれば、薄膜20(珪素化合物22b)の本焼成を行う前に、本焼成よりも低い温度で薄膜20を加熱することで、ガス化した樹脂21、及び有機珪素化合物22の熱分解により生成されたCH4やH2等のガス22aを薄膜20内から確実に抜くことができる。そのため、焼成後の断熱用薄膜20内に、気泡21a以外の、焼成時に発生するガスによる気泡が残存するのを防ぐことができる。その結果、断熱用薄膜20の強度が設計強度よりも低下するのを防ぐことができる。
「実施例3」
図12は、断熱用薄膜20を形成する方法の他の例を説明するフローチャートである。以下の実施例3の説明では、実施例1,2と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施例1,2と同様である。
まずステップS301の薄膜塗布工程においては、有機珪素化合物22内に粒子状の断熱材41を多数混入させることで、多数の粒子状の断熱材41を有機珪素化合物22(バインダ)で固める。ここでの有機珪素化合物22についても、例えばポリメタロカルボシランを用いることができる。また、ここでの断熱材41については、例えば中空のセラミックビーズ(ジルコニアビーズ等)や中空のガラスビーズ等の中空構造のものを用いることができる。そして、図13に示すように、多数の断熱材41を有機珪素化合物22で固めたものを母材30の壁面30a上に薄膜状に塗布することで、有機珪素化合物22と多数の断熱材41とを含む薄膜20を母材30の壁面30a上に形成する。ただし、ここで塗布する薄膜20の厚さについては目標の厚さよりも薄くし、例えば目標厚さの1/2〜1/5程度とする。ここでの目標厚さは例えば100μm程度の厚さである。なお、薄膜20を母材30の壁面30a上に形成する際には、有機珪素化合物22をキシレン等の有機溶剤(有機化合物)に溶解させた溶液を母材30の壁面30a上に薄膜状に塗布することも可能である。
次に、ステップS302の薄膜加熱工程では、図14に示すように、ステップS301で塗布された薄膜20を加熱して焼成する。薄膜20の加熱により有機珪素化合物22(ポリメタロカルボシラン)が熱分解すると、CH4やH2等のガス22aが発生する。さらに、塗布された薄膜20がキシレン等の有機溶剤を含む場合は、有機溶剤が蒸発することによるガスも発生する。これらのガスは薄膜20内から外部へ放出される。また、有機珪素化合物22の熱分解によりSiO2やSiC等の珪素化合物22bが生成され、珪素化合物(SiO2及びSiC)22bが焼成されることで結晶化(セラミック化)されて高強度化される。
次に、ステップS303では、母材30の壁面30a上に形成された薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達したか否かが判定される。薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達していない場合(ステップS303の判定結果がNOの場合)は、図15に示すように、薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達するまで、ステップS301の薄膜塗布工程とステップS302の薄膜加熱工程とを交互に繰り返す。一方、薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達した場合(ステップS303の判定結果がYESの場合)は、薄膜20の塗布及び加熱(焼成)を終了する。以上の工程により、珪素化合物(SiO2及びSiC)22bの内部に断熱材41が多数混入された、目標の厚さの断熱用薄膜20が母材30の壁面30a上に形成される。
薄膜20の焼成の際に発生するガスは、薄膜20の厚さが厚すぎると、焼成中に薄膜20内から十分に抜け切れずに焼成後も薄膜20内に気泡として残存する。この気泡は薄膜20の熱伝導率を低くする点ではメリットとなるが、薄膜20の強度の点では強度低下の一因となる。これに対して以上説明した断熱用薄膜20の形成方法によれば、目標の厚さの薄膜20を形成する際に、薄い薄膜20の塗りと焼成とを交互に複数回繰り返して目標の厚さにしている。このように、薄い薄膜20を何回かに分けて重ね塗りして焼成することで、1回あたりに焼成される薄膜20の厚さを薄くすることができ、焼成時に発生するガスを薄膜20内から抜けやすくすることができる。そのため、焼成後の断熱用薄膜20内に、断熱材41の気泡以外の、焼成時に発生するガスによる気泡が残存するのを防ぐことができる。その結果、断熱用薄膜20の強度が設計強度よりも低下するのを防ぐことができる。
以上の実施例3の説明では、断熱材41が多数混入された断熱用薄膜20を形成する場合について説明した。ただし、実施例3による断熱用薄膜20の形成方法は、断熱材41が混入されていない断熱用薄膜20に対しても適用可能である。
「実施例4」
図16は、断熱用薄膜20を形成する方法の他の例を説明するフローチャートである。以下の実施例4の説明では、実施例1〜3と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施例1〜3と同様である。
まずステップS401の第1薄膜塗布工程においては、図17に示すように、断熱用材料として多数の粒子21を結合したものを母材30の壁面30a上に薄膜状に塗布することで、多数の粒子21を含む薄膜20−1を母材30の壁面30a上に形成する。ただし、ここで塗布する薄膜20−1の厚さについても目標の厚さよりも薄くし、例えば目標厚さの1/2〜1/10程度とする。実施例1と同様に、各粒子21は、粒状の樹脂21dの周りをセラミック材料の層21bで覆った構造を有し、セラミック材料の層21bは、まだ焼成されておらず、緻密化されていない。樹脂21d及びセラミック材料の具体例は実施例1と同様である。
次に、ステップS402の第1薄膜加熱工程においては、図18に示すように、ステップS401で塗布された薄膜20−1を加熱して焼成する。薄膜20−1の加熱により各粒子21内の樹脂21d(ポリスチレン)がガス化して薄膜20−1外へ放出されることで、各粒子21(セラミック材料の層21b)の内部に中空部(気泡)21aが形成される。さらに、セラミック材料(ジルコニア)の層21bが焼成されることで緻密化されて密な構造に変化し、各粒子21(セラミック材料の層21b)の内外が遮断される。加熱後に薄膜20−1を常温に戻すと、各粒子21内の中空部21aは減圧された状態となる。
次に、ステップS403の第2薄膜塗布工程においては、図19に示すように、薄膜20−1上に有機珪素化合物22を薄膜状に塗布することで、有機珪素化合物22を含む薄膜20−2を薄膜20−1上に形成する。ただし、ここで塗布する薄膜20−2の厚さについても目標の厚さよりも薄くし、例えば目標厚さの1/10〜1/20程度とする。ここでの有機珪素化合物22についても、例えばポリメタロカルボシランを用いることができる。なお、薄膜20−2を薄膜20−1上に形成する際には、有機珪素化合物22をキシレン等の有機溶剤(有機化合物)に溶解させた溶液を薄膜状に塗布することも可能である。
次に、ステップS404の第2薄膜加熱工程においては、図20に示すように、ステップS403で塗布された薄膜20−2を加熱して焼成する。薄膜20−2の加熱により有機珪素化合物22(ポリメタロカルボシラン)が熱分解すると、CH4やH2等のガス22aが発生する。さらに、塗布された薄膜20−2がキシレン等の有機溶剤を含む場合は、有機溶剤が蒸発することによるガスも発生する。これらのガスは薄膜20−2外へ放出される。また、有機珪素化合物22の熱分解によりSiO2やSiC等の珪素化合物22bが生成され、珪素化合物(SiO2及びSiC)22bが焼成されることで結晶化(セラミック化)されて高強度化される。
次に、ステップS405では、母材30の壁面30a上に形成された薄膜20−1,20−2の合計厚さが目標の厚さに達したか否かが判定される。薄膜20−1,20−2の合計厚さが目標の厚さに達していない場合(ステップS405の判定結果がNOの場合)は、図21に示すように、薄膜20−1,20−2の合計厚さが目標の厚さに達するまで、ステップS401の第1薄膜塗布工程とステップS402の第1薄膜加熱工程とステップS403の第2薄膜塗布工程とステップS404の第2薄膜加熱工程とを順に繰り返す。一方、薄膜20−1,20−2の合計厚さが目標の厚さに達した場合(ステップS405の判定結果がYESの場合)は、薄膜20−1,20−2の塗布及び加熱(焼成)を終了する。以上の工程により、多数の粒子21による薄膜20−1と珪素化合物(SiO2及びSiC)22bによる薄膜20−2とが厚さ方向において交互に配置された、目標の厚さの断熱用薄膜20が母材30の壁面30a上に形成される。
以上説明した断熱用薄膜20の形成方法によれば、目標の厚さの断熱用薄膜20を形成する際に、薄い薄膜20−1,20−2の塗りと焼成とを交互に複数回繰り返して目標の厚さにすることで、1回あたりに焼成される薄膜20−1,20−2の厚さを薄くすることができ、焼成時に発生するガスを薄膜20−1,20−2内から抜けやすくすることができる。そのため、焼成後の断熱用薄膜20内に、各粒子21内の気泡21a以外の、焼成時に発生するガスによる気泡が残存するのを防ぐことができる。その結果、断熱用薄膜20の強度が設計強度よりも低下するのを防ぐことができる。さらに、中空構造の粒子21による層(薄膜20−1)と珪素化合物22bによる層(薄膜20−2)とが交互に複数回積層されることで、断熱用薄膜20の面内方向(厚さ方向と垂直方向)に関して中空構造の粒子21が均一に分布し、中空構造の粒子21が断熱用薄膜20の面内方向に関して局所的に偏って存在するのを防ぐことができる。その結果、厚さ方向の熱伝導率がほぼ均一な断熱用薄膜20を実現でき、局所的に熱が逃げやすい箇所や逃げにくい箇所の存在を抑制できる。したがって、均一な熱物性の断熱用薄膜20を実現できる。
「実施例5」
図22は、断熱用薄膜20を形成する方法の他の例を説明するフローチャートである。以下の実施例5の説明では、実施例1〜4と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施例1〜4と同様である。
図22のフローチャートにおいて、ステップS101〜S104は実施例1と同様である。ただし、ステップS102の薄膜塗布工程で塗布する薄膜20の厚さについては目標の厚さよりも薄くし、例えば目標厚さの1/2〜1/5程度とする。ステップS105では、母材30の壁面30a上に形成された薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達したか否かが判定される。薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達していない場合(ステップS105の判定結果がNOの場合)は、図23に示すように、薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達するまで、ステップS102の薄膜塗布工程とステップS103のガス抜用加熱工程とステップS104の焼成用加熱工程とを順に繰り返す。一方、薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達した場合(ステップS105の判定結果がYESの場合)は、薄膜20の塗布及び加熱を終了する。以上説明した断熱用薄膜20の形成方法においても、薄膜20の焼成時に発生するガスを薄膜20内から確実に抜くことができるので、焼成後の断熱用薄膜20内に、各粒子21内の気泡21a以外の、焼成時に発生するガスによる気泡が残存するのを防ぐことができ、断熱用薄膜20の強度が設計強度よりも低下するのを防ぐことができる。
「実施例6」
図24は、断熱用薄膜20を形成する方法の他の例を説明するフローチャートである。以下の実施例6の説明では、実施例1〜5と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施例1〜5と同様である。
図24のフローチャートにおいて、ステップS201〜S204は実施例2と同様である。ただし、ステップS202の薄膜塗布工程で塗布する薄膜20の厚さについては目標の厚さよりも薄くし、例えば目標厚さの1/2〜1/5程度とする。ステップS205では、母材30の壁面30a上に形成された薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達したか否かが判定される。薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達していない場合(ステップS205の判定結果がNOの場合)は、図25に示すように、薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達するまで、ステップS202の薄膜塗布工程とステップS203のガス抜用加熱工程とステップS204の焼成用加熱工程とを順に繰り返す。一方、薄膜20の合計厚さが目標の厚さに達した場合(ステップS205の判定結果がYESの場合)は、薄膜20の塗布及び加熱を終了する。以上説明した断熱用薄膜20の形成方法においても、薄膜20の焼成時に発生するガスを薄膜20内から確実に抜くことができるので、焼成後の断熱用薄膜20内に、気泡21a以外の、焼成時に発生するガスによる気泡が残存するのを防ぐことができ、断熱用薄膜20の強度が設計強度よりも低下するのを防ぐことができる。
以上の実施例1〜6の説明では、断熱用薄膜20を母材30の壁面30a上に直接形成する場合について説明した。ただし、実施例1〜6では、断熱用薄膜20を母材30と別の基材上に形成し、断熱用薄膜20が形成された基材と母材30の壁面30aとを接合することも可能である。
「実施例7」
図26は、断熱用薄膜20を形成する方法の他の例を説明するフローチャートである。以下の実施例7の説明では、実施例1〜6と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施例1〜6と同様である。
まずステップS501の仮焼成用加熱工程では、図27に示すように、薄膜材料42の溶液52の表面を加熱することで、薄膜材料42が仮焼成された薄膜20を溶液52上に形成する。ここでの溶液52については、薄膜材料42がキシレン等の有機溶剤(有機化合物)に溶解された溶液を用いることができ、薄膜材料42については、例えばポリメタロカルボシラン等の有機珪素化合物を用いることができる。ここでは、薄膜材料42が本焼成により完全に固化する温度よりも低い温度で溶液52上部を加熱し、溶液52上部の加熱される部分のみが仮焼きされることで、焼成の途中段階の完全には固化していない(半固化状態の)薄膜20が溶液52上に形成される。溶液52の加熱については、赤外線による加熱や、レーザによる加熱や、火炎(バーナ)による加熱を用いることが可能であり、加熱強度を制御することで、薄膜20の厚さを制御することもできる。
次に、ステップS502の接着工程では、図28に示すように、ステップS501で仮焼成された薄膜20の表面上にロウ材(接合材)53を載せる。そして、図29に示すように、ロウ材53を塗布した面を固化していない薄膜20の持つ濡れ性によって母材30の壁面30aと密着させることで、仮焼成された薄膜20の表面と母材30の壁面30aとをロウ材53を介してくっつける。そして、壁面30a上に薄膜20がくっつけられた母材30を溶液52から取り出す。なお、仮焼成された薄膜20の表面と母材30の壁面30aとをくっつける際には、図28に示すように、薄膜20の表面(ロウ材53)上に、濡れ性を向上させるための液体54を噴霧することもできる。ここでの液体については、例えば表面張力の低いエタノール(表面張力22.6mN/m)やアセトン(表面張力23.3mN/m)を用いることが好ましい。ただし、水(表面張力72.8mN/m)を用いることも可能である。
次に、ステップS503の本焼成用加熱工程では、図30に示すように、母材30の壁面30a上にくっつけられた薄膜20をステップS501の仮焼成用加熱工程よりも高い温度で加熱して本焼成する。ここでは、母材30全体を炉等で加熱することもできるし、薄膜20をレーザ照射により加熱することもできる。薄膜20は本焼成により完全に固化し、薄膜材料42(有機珪素化合物)の熱分解により生成されたSiO2やSiC等の珪素化合物22bは結晶化(セラミック化)することで高強度化される。さらに、薄膜20の加熱(本焼成)の際には、ロウ材53が溶解することによる母材30と薄膜20との接合も行われる。以上の工程により、セラミック化された珪素化合物(SiO2及びSiC)22bを含む断熱用薄膜20が母材30の壁面30a上に形成される。
以上説明した断熱用薄膜20の形成方法によれば、仮焼きされた、完全には固化していない薄膜20の持つ濡れ性によって、母材30の壁面30aが平面でなく凹凸がある場合であっても、薄膜20を母材30の壁面30aに密着させることができる。そして、仮焼きにより予め均一な厚さの薄膜20を作製して母材30の壁面30aに接合することで、母材30の壁面30aが複雑な形状の場合であっても、均一な厚さの薄膜20を母材30の壁面30a上に形成することができる。さらに、薄膜材料42の溶液52の表面上に予め薄膜20を作製することで、薄膜20の製作工程と母材30への取り付け工程とを分けることができる。したがって、大量加工が可能となり、製造コストの低減が可能となる。
「実施例8」
図31は、断熱用薄膜20を形成する方法の他の例を説明するフローチャートである。以下の実施例8の説明では、実施例1〜7と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施例1〜7と同様である。
まずステップS601の粒子混合工程では、薄膜材料42の溶液52に多数の粒子状の断熱材41を混合し、しばらく放置する。ここでの断熱材41については、例えば中空のセラミックビーズ(ジルコニアビーズ等)や中空のガラスビーズを用いることができる。断熱材41の比重を溶液52の比重よりも軽くすることで、図32に示すように、断熱材41が溶液52の上部に浮き出て溜まる。次に、ステップS602の仮焼成用加熱工程では、実施例7のステップS501と同様に、図33に示すように、薄膜材料42の溶液52の表面を加熱することで、薄膜材料42が仮焼成された薄膜20を溶液52上に形成する。その際には、加熱強度を制御することで、溶液52上部の断熱材41の存在する領域のみを仮焼成することができ、ステップS601で溶液52に混入させる断熱材41の密度や量を調整することで、薄膜20の厚さや薄膜20内の断熱材41の混入割合を制御することができる。
次に、ステップS603の接着工程では、実施例7のステップS502と同様に、図34に示すように、仮焼成された薄膜20の表面と母材30の壁面30aとをロウ材53を介してくっつける。そして、ステップS604の本焼成用加熱工程では、実施例7のステップS503と同様に、図35に示すように、母材30の壁面30a上にくっつけられた薄膜20を加熱して本焼成する。以上説明した断熱用薄膜20の形成方法によれば、母材30の壁面30aが複雑な形状の場合であっても、珪素化合物(SiO2及びSiC)22bの内部に断熱材41が多数混入された、均一な厚さの薄膜20を母材30の壁面30a上に形成することができる。
「実施例9」
図36は、断熱用薄膜20を形成する方法の他の例を説明するフローチャートである。以下の実施例9の説明では、実施例1〜8と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施例1〜8と同様である。
まずステップS701の薄膜塗布工程では、図37に示すように、樹脂フィルム55上に薄膜材料42の溶液を薄膜状に塗布することで、薄膜材料42の溶液による薄膜20を樹脂フィルム55上に形成する。ここでの薄膜材料42についても、例えばポリメタロカルボシラン等の有機珪素化合物を用いることができる。そして、ここでの樹脂フィルム55については、高温で熱分解してガス化する樹脂を用い、例えばポリスチレンやポリイミド等の樹脂を用いることができる。また、ここでは、薄膜材料42の溶液に多数の粒子状の断熱材41を混合させることで、薄膜材料42と多数の断熱材41とを含む薄膜20を樹脂フィルム55上に形成することもできる。次に、ステップS702の仮焼成用加熱工程では、図37に示すように、ステップS701で塗布された薄膜材料42の溶液による薄膜20を加熱して仮焼成する。ここでは、薄膜材料42が本焼成により完全に固化する温度よりも低い温度で薄膜20を加熱し、薄膜材料42が仮焼きされることで焼成の途中段階の完全には固化していない(半固化状態の)薄膜20が樹脂フィルム55上に形成される。
次に、ステップS703の接着工程では、図38に示すように、ステップS702で仮焼成された薄膜20の表面上にロウ材(接合材)53を載せる。そして、図39に示すように、ロウ材53を塗布した面を固化していない薄膜20の持つ濡れ性によって母材30の壁面30aと密着させることで、仮焼成された薄膜20の表面と母材30の壁面30aとをロウ材53を介してくっつける。なお、実施例7と同様に、仮焼成された薄膜20の表面と母材30の壁面30aとをくっつける際には、図38に示すように、薄膜20の表面(ロウ材53)上に、濡れ性を向上させるための液体54を噴霧することもできる。
次に、ステップS704の本焼成用加熱工程では、図40に示すように、母材30の壁面30a上にくっつけられた薄膜20をステップS702の仮焼成用加熱工程よりも高い温度で加熱して本焼成する。薄膜20は本焼成により完全に固化し、薄膜材料42(有機珪素化合物)の熱分解により生成されたSiO2やSiC等の珪素化合物22bは結晶化(セラミック化)することで高強度化される。薄膜20の加熱(本焼成)の際には、樹脂フィルム55は熱分解してガス化することで除去される。さらに、薄膜20の加熱(本焼成)の際には、ロウ材53が溶解することによる母材30と薄膜20との接合も行われる。以上の工程により、セラミック化された珪素化合物(SiO2及びSiC)22bを含む断熱用薄膜20が母材30の壁面30a上に形成される。
以上説明した断熱用薄膜20の形成方法においても、母材30の壁面30aが複雑な形状の場合であっても、完全には固化していない薄膜20の持つ濡れ性を利用して、均一な厚さの薄膜20を母材30の壁面30a上に形成することができる。さらに、樹脂フィルム55上に予め薄膜20を作製することで、薄膜20の製作工程と母材30への取り付け工程とを分けることができるので、大量加工が可能となり、製造コストの低減が可能となる。
「実施例10」
図41は、断熱用薄膜20を形成する方法の他の例を説明するフローチャートである。以下の実施例10の説明では、実施例1〜9と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施例1〜9と同様である。
まずステップS801の薄膜形成工程では、図42に示すように、耐熱性の金属プレート(導電プレート)63の表面63a上に塗布された薄膜20を焼成することで、焼成された断熱用薄膜20を金属プレート63の表面63a上に形成する。ここでは、実施例1のステップS101〜S104の工程を適用して、各粒子21内に気泡21aが形成された断熱用薄膜20を金属プレート63上に形成することもできるし、実施例2のステップS201〜S204の工程を適用して、珪素化合物(SiO2及びSiC)22bの内部に気泡21aが多数形成された断熱用薄膜20を金属プレート63上に形成することもできる。また、実施例3のステップS301〜S303の工程や実施例4のステップS401〜S405の工程や実施例5のステップS101〜S105の工程や実施例6のステップS201〜S205の工程を適用して、薄膜20の塗布と焼成とを繰り返すことで断熱用薄膜20を金属プレート63上に形成することもできる。金属プレート63の軟化点は母材30の軟化点よりも高く、導電性の金属プレート63の電気抵抗は導電性の母材30の電気抵抗よりも大きい。例えば母材30がアルミニウムまたはアルミニウム系合金である場合は、金属プレート63の材料を鉄または鉄系合金にすることで、金属プレート63の軟化点を母材30の軟化点よりも高くするとともに、金属プレート63の電気抵抗を母材30の電気抵抗よりも大きくすることが可能となる。
次に、ステップS802の接合用加熱工程では、図43に示すように、焼成後の断熱用薄膜20が形成された金属プレート63を母材30の壁面30a上に載せる。その際には、図43に示すように、接着性を向上させるために、金属プレート63の裏面63bと母材30の壁面30aとの間にロウ材(接合材)53を挟んでもよい。そして、断熱用薄膜20が形成された金属プレート63と母材30とを電磁誘導加熱することで、金属プレート63の裏面63bと母材30の壁面30aとを接合する。電磁誘導加熱の際には、金属プレート63の電気抵抗が母材30の電気抵抗よりも大きいため、金属プレート63の方が母材30よりも加熱されやすく、電磁誘導による温度上昇が大きくなる。電磁誘導加熱により、金属プレート63の温度が母材30の融点以上の温度になると、金属プレート63の裏面63bが母材30の壁面30aを溶かして接合される。接合の際には、加熱された金属プレート63の裏面63b及び母材30の壁面30aの温度以下で溶融するロウ材53を金属プレート63の裏面63bと母材30の壁面30aとの間に塗布しておき、金属プレート63の裏面63bと母材30の壁面30aとを溶融したロウ材53を介して接合することで、接合強度を向上させることができる。なお、金属プレート63上の断熱用薄膜20が例えば珪素化合物(SiO2及びSiC)22b等のガラス・セラミック系の薄膜であれば、電磁誘導加熱により断熱用薄膜20は加熱されない。
以上説明した断熱用薄膜20の形成方法によれば、耐熱性の金属プレート63上で薄膜20を焼成することで、低軟化点の母材30の融点以上の温度で薄膜20の焼成が可能となる。例えば珪素化合物(SiO2及びSiC)22b等のガラス・セラミック系の薄膜20を焼成するためには、約1000〜1200℃程度に温度を上げることが有効であるが、母材30の材料がアルミニウムまたはアルミニウム系合金である場合は、そのような高温に母材30が耐えることができず、母材30の強度劣化や融解が生じやすくなる。これに対して、例えば鉄または鉄系合金等の耐熱性の金属プレート63を、薄膜20を焼成するためのプレートとして用いれば、約1200℃程度の高温に耐えることができるため、金属プレート63の強度劣化や融解が生じることなく薄膜20の焼成が可能となる。そして、電磁誘導加熱では、電気抵抗の大きな材料がより加熱されやすい特性を有するため、金属プレート63の電気抵抗を低軟化点の母材30の電気抵抗よりも大きくすることで、金属プレート63が母材30よりも高温となる。金属プレート63を母材30の融点以上に加熱することで、低軟化点の母材30は、金属プレート63と接している壁面30aだけが高温となって溶融するため、母材30全体の強度劣化や融解が生じることなく、金属プレート63の裏面63bと母材30の壁面30aとを接合することができる。したがって、焼成された断熱用薄膜20を母材30の壁面30a上に形成する場合に、母材30全体が高温になって変質するのを防止することができる。
以上の説明では、内燃機関1の燃焼室13を形成する母材30の少なくとも一部の、燃焼室13内に臨む壁面30a上に、薄膜20を形成する場合について説明した。ただし、実施例1〜10で説明した薄膜20の形成方法については、内燃機関1の燃焼室13内に臨む壁面30a以外であっても適用可能である。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
1 内燃機関、9 シリンダブロック、9a シリンダブロック内壁面、10 シリンダヘッド、10a シリンダヘッド下面、12 ピストン、12a ピストン頂面、13 燃焼室、14 吸気ポート、15 排気ポート、16 吸気弁、16a 吸気弁底面、17 排気弁、17a 排気弁底面、18 冷却水ジャケット、20 断熱用薄膜、21 粒子、21a 中空部、21b セラミック材料の層、21d 樹脂、22 有機珪素化合物、22a ガス、22b 珪素化合物、30 母材、30a 壁面、41 断熱材、42 薄膜材料、52 溶液、53 ロウ材、54 液体、55 樹脂フィルム、63 金属プレート。