JP5314321B2 - 炭素繊維強化ポリアミド樹脂複合材の製造方法 - Google Patents

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本発明は、炭素繊維基材に重合性組成物を含浸させてアニオン重合させる炭素繊維強化ポリアミド樹脂複合材の製造方法に関する。
ポリアミド樹脂を強化用繊維との複合材とすることにより、ポリアミド樹脂の特性を活かしつつ、しかも機械的特性に優れた材料となることが期待されるが、熱硬化性樹脂をマトリックスとする繊維強化複合材と異なり、熱可塑性樹脂をマトリックスとする繊維強化複合材を製造することは必ずしも容易ではない。すなわち、例えば、ポリアミド樹脂をマトリックスとする場合に、ポリアミド樹脂を強化用繊維に含浸させることは、樹脂の溶融粘度が高いので、一般には困難である。そこで、低粘度のラクタムを単量体のまま含浸させてからポリアミドにアニオン重合させる方法が提案された(例えば、特許文献1〜3参照。)。
しかしながら、ラクタムのアニオン重合自体、必ずしも容易ではない。また、強化用繊維に含浸させてアニオン重合させるには、工程の複雑化やアニオン重合の制御の困難が伴う。従って、例えば、特許文献1では、特定範囲のpK値を有する酸のアルカリ金属塩を触媒として用いることにより、水分による影響を受けにくい重合システムを提案しており、特許文献2では、無水物を使用し、かつ、温度制御により重合速度を制御することにより、簡易かつ再現性のある重合方法を提案しており、また、特許文献3では、促進剤の種類や添加時期を工夫して高速連続製造方法を提案するなどの工夫がなされてきた。
しかしながら、これらの方法によっても、炭素繊維基材に含浸させてラクタムのアニオン重合を良好に行うことは、必ずしも容易ではない。それは、アニオン重合がいくつもの要因により影響を受けているであろうことから、すでに提案された手法では効果が充分ではないことや、工程の管理や再現性の観点から、適用が難しい場合があるからである。従って、従来技術では必ずしも充分に効果的手法が提案されてはいない。とくに、従来技術では、炭素繊維基材を適切に処理することが有効である点に着目されることはなかった。
実際、炭素繊維基材を使用してモノマーを含浸させてアニオン重合させると、曲げ強度や曲げ弾性率等の機械的性能が充分でないという問題が知られており、ポリアミド樹脂の重合が充分良好に行われず、そのために複合材の機械的強度も充分ではなくなっていることが見出された。
特公昭48−185号公報 特開平9−208712号公報 国際公開第2003/53661号パンフレット
従って、本発明の目的は、炭素繊維強化ポリアミド樹脂複合材における、機械的強度が不充分である問題を回避し、曲げ強度や曲げ弾性率等の機械的特性の向上した炭素繊維強化ポリアミド樹脂複合材の製造方法を提供することにある。
本発明者は、ポリアミド樹脂のアニオン重合における重合阻害の問題を、強化用繊維、とくに、炭素繊維基材の処理に着目し、炭素繊維がサイジング剤で収束された態様を損なうことなく良好な特性のポリアミド樹脂複合材を製造するために検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、(1)カルボキシル基を含有するサイジング剤で処理されてなる炭素繊維基材をアルカリ液、好ましくはアルカリ金属水酸化物の濃度が0.001〜3.0重量%のアルカリ金属水酸化物溶液、で処理する工程(A)、及び、
(2)前記工程(A)を経た炭素繊維基材に、ε−カプロラクタムを含有する重合性組成物を含浸させ、アニオン重合させる工程(B)
を含む、炭素繊維強化ポリアミド樹脂複合材の製造方法である。
本発明は、上述の構成により、以下の効果を発揮する。
(1)本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂複合材の製造方法によれば、サイジング剤で処理されてなる炭素繊維基材をアルカリ液で処理することにより、ポリアミド樹脂のアニオン重合における重合反応を良好に行うことができる。従って、炭素繊維基材の前処理を行うだけで、簡便かつ良好に、従来困難であった、曲げ強度等の機械的特性に優れた炭素繊維強化ポリアミド樹脂複合材を製造することができる。
(2)また、本発明の製造方法によれば、サイジング剤を除去することがないので、炭素繊維の収束性が損なわれず、従って、炭素繊維がさばけて広がり、製造工程においてローラーやガイド等に巻きついたり、又は、糸切れ、巻きつき等の事象の発生なしに、生産性よく炭素繊維強化ポリアミド樹脂複合材を製造することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)カルボキシル基を含有するサイジング剤で処理されてなる炭素繊維基材をアルカリ液で処理する工程(A)
本発明においては、カルボキシル基を含有するサイジング剤で処理されてなる炭素繊維基材を対象とする。通常、炭素繊維は、毛羽発生を抑制し、樹脂との接着性を高めることを目的に表面処理が施されている。この表面処理を施した後、炭素繊維をサイジング剤で処理して成形品用基材として供されている。本発明においては、このような基材を、サイジング剤で処理されてなる炭素繊維基材、という。このサイジング剤には、エポキシ樹脂を主成分とするビスフェノールA型エポキシ樹脂や、直鎖状構造を有する両端に2個以上のエポキシ基を有する脂肪族化合物が用いられている。そこで、市販されている炭素繊維基材(平織クロス、綾織クロス)を対象として表面付着物の抽出を行ない、分析を行ったところ、Mwが2500〜2800程度で、酸価が2〜3mgKOH/g程度の付着物が検出され、IRの結果から、エポキシ基が完全に消失していることから、表面付着物は、ジカルボン酸化合物とビスフェノールA型エポキシ樹脂との重付加により生成するオリゴマーであってカルボキシル基を含有しているものであることが判明した。従って、本発明においては、このような、カルボキシル基を含有するサイジング剤で処理されてなる炭素繊維基材を処理対象とする。なお、過剰のジカルボン酸化合物とビスフェノールA型エポキシ樹脂との重付加により生成するオリゴマー以外であっても、カルボキシル基を含有するサイジング剤を付着させた炭素繊維からなる炭素繊維基材であれば、カルボキシル基を含有するサイジング剤で処理されてなる炭素繊維基材に該当し、本発明の製造方法における処理対象となることはいうまでもない。
本発明の製造方法において、炭素繊維基材としてはとくに限定されないが、好ましくはシート状基材であり、このようなシート状基材としては、例えば、織物、編み物、一方向繊維基材(すなわち、繊維束を一方向に並行に引き揃えた基材)、及びステッチ基材(すなわち、複数層の繊維基材を縫合した形態の基材)、等の連続長繊維のシート状基材を好ましくあげることができる。
工程(A)において、アルカリ液としては、アルカリ金属水酸化物溶液を好ましく挙げることができる。アルカリ金属水酸化物としては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム又はフランシウム)の水酸化物であればとくに限定されず、好ましくはナトリウム、カリウムの水酸化物である。
アルカリ金属水酸化物溶液としては、アルカリ金属水酸化物を溶解することができる溶媒溶液であればよく、例えば、水、メタノール、エタノール及びテトラヒドロフランからなる群から選択される少なくとも1種を溶媒として使用することができる。これらのうち、乾燥が容易であることからメタノール、エタノールが好ましく、メタノールがより好ましい。
上記アルカリ金属水酸化物溶液は、アルカリ金属水酸化物の濃度の上限が3.0重量%であることが好ましい。濃度の上限が3.0重量%を超えると、複合材としたときに強度等の特性が低下する虞がある。より好ましくは上限が2.0重量%であり、さらに好ましくは1.5重量%である。
上記アルカリ金属水酸化物溶液は、アルカリ金属水酸化物の濃度の下限が0.001重量%であることが好ましい。濃度の下限が0.001重量%未満であると、アルカリ処理の効果が充分発揮されない虞がある。より好ましくは下限が0.005重量%であり、さらに好ましくは0.01重量%である。
本発明における炭素繊維基材を処理するアルカリ液は、アルカリ金属水酸化物溶液を使用する。アルカリ土類金属水酸化物、アミン、アンモニア等のアルカリ性化合物は本発明においては使用しない。
なお、アルカリ金属水酸化物溶液の濃度が高い場合には、必要に応じて、溶媒(水、メタノール、エタノール)又は低濃度のアルカリ金属水酸化物溶液で、浸漬後の基材を洗浄してもよい。
上記工程(A)において、炭素繊維基材をアルカリ金属水酸化物溶液等のアルカリ液で処理する方法としては、例えば、浸漬等の方法が挙げられ、処理の条件は、例えば、浸漬により処理する場合の条件としてはとくに限定されず、例えば、数秒〜数分程度、好ましくは十数秒〜数十秒、例えば、10〜30秒程度であり、温度条件としてはとくに限定されず、例えば、室温程度でよい。浸漬は、アルカリ金属水酸化物溶液を入れた槽等に炭素繊維基材を上記条件にてディップすればよい。本発明の製造方法においては、浸漬時間が極めて短時間でよいので、一つながりの炭素繊維基材を浸漬槽に引き込み引き上げつつ連続的にディップすることも可能である。浸漬後、絞液し、好ましくは熱風乾燥(例えば、90〜130℃、3〜20分、より好ましくは100〜120℃、5〜15分)する。
(2)前記工程(A)を経た炭素繊維基材に、ε−カプロラクタムを含有する重合性組成物を含浸させ、アニオン重合させる工程(B)
上記重合性組成物は、ε−カプロラクタムを主成分とし、必要に応じて、重合触媒、及び/又は、重合助触媒、を含有する。
上記重合触媒としては、公知の化合物を使用することができ、アルカリ金属、アルカリ土類金属、これらの金属の水素化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、アルキル化物、アルコキシド、及び、グリニャール化合物からなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
上記重合触媒において、アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群から選択される少なくとも1種であり、なかでもNa又はKが反応性、経済性の面から好ましい。
上記重合触媒の配合量としては、通常、ε−カプロラクタムと重合触媒との合計100モル%に対して0.02〜2.0モル%である。
上記重合助触媒としては、イソシアネート、アシルラクタム、カルバミドラクタム、イソシアヌレート誘導体、酸ハライド、尿素誘導体等を挙げることができる。具体的には、例えば、n−ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、オクチルイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の公知の有機イソシアネート類、N−アセチル−ε−カプロラクタム、1,6−ヘキサメチレンビスカルバミドラクタム、トリアリルイソシアヌレート、テレフタロイルクロリド、1,3−ジフェニル尿素等を挙げることができる。
上記重合助触媒の配合量としては、通常、ε−カプロラクタムとの合計100モル%に対して0.02〜2.0モル%である。
上記重合性組成物は、予め、ε−カプロラクタムと重合触媒との溶融混合物と、別に、ε−カプロラクタムと重合助触媒との溶融混合物とを調製しておき、含浸させる直前に混合して使用することができる。この際の加熱温度としては、ε−カプロラクタムの溶融温度を考慮して、100〜110℃程度が挙げられる。
工程(B)においては、上記重合性組成物を炭素繊維基材に含浸させる際、重合性組成物は低粘度であることが好ましく、必要に応じて、加熱又は加熱溶融させて含浸させる。この加熱条件としては、含浸に充分な低粘度及びアニオン重合条件を考慮して設定することができ、例えば、110〜180℃で行う。重合時間としては、炭素繊維基材の量や形状等にもよるが、一般的には、10〜50分、好ましくは15〜40分である。
上記炭素繊維基材の配合量は特に限定されず、通常FRPで使用される配合量とすることができるが、例えば、複合材料中に10〜70体積%程度とすることができ、30〜60体積%がより好ましい。炭素繊維基材の配合量が10体積%未満であると、成形品の表面が凹凸になったり、反りやうねりが大きくなる傾向にあり、70体積%を超すと、繊維に樹脂が未含浸となる傾向にある。
工程(B)は、金型内で行うことができ、例えば、まず、予め調製したε−カプロラクタムと重合触媒との溶融混合物と、ε−カプロラクタムと重合助触媒との溶融混合物とを、金型内に注入する直前に混合し、加熱保持した金型内に炭素繊維基材をセットした金型に、注入することで行うことができる。
本発明の製造方法においては、本発明の効果が損われない範囲で、更に、従来公知の各種の無機充填剤を配合してもよい。無機充填剤の種類や配合量は、用途や組成物の粘度に応じて適宜選択することができる。上記無機充填剤としては、例えば、ガラスバルーン、ガラスビーズ、溶融シリカ粉末、石英ガラス粉末、結晶性シリカ粉末、ガラス微小繊維、タルク、アルミナ粉末、珪酸カルシウム粉末、炭酸カルシウム粉末、酸化アンチモン粉末、硫酸バリウム粉末、酸化チタン粉末、水酸化アルミニウム粉末等が挙げられる。
上記工程(B)の後、必要に応じて、例えば、190℃、20〜30分程度、熱処理してもよい。
本発明の製造方法で得られた炭素繊維強化複合材は、ε−カプロラクタムが重合しポリマーとなった、架橋構造を有さず可溶性であるナイロン6をマトリックスとし、強化繊維との界面におけるボイドの発生を充分なレベルまで抑制することが可能であり、かつ高温・高圧力を必要とせず、非常に低エネルギーで成形が可能なことから、大型或いは複雑な形状の成形物を含む種々の形状の成形物の製造に適用可能である。例えば、車両部材(例えば、アンダーフロアやドアパネルに晒される部材、ボディー等)、建築部材等に適用可能であり、特に、従来の複合材料では生産性が充分でなく適用が困難であった大型構造部材に適用することができる。また、経済性、強度に優れた特性を生かして各種FRP部材に使用することができる。
以下に、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜4
(1)炭素繊維基材の処理工程
炭素繊維基材として炭素繊維綾織りクロスCO6347(東レ社製)を用いて、実施例1〜4、比較例1,2の下記処理を行った。
実施例1:1.0重量%水酸化ナトリウム・メタノール溶液に20秒間浸漬
実施例2:0.2%水酸化カリウム・メタノール溶液に20秒間浸漬
実施例3:0.2%水酸化ナトリウム・メタノール溶液に20秒間浸漬
実施例4:0.02%水酸化ナトリウム・メタノール溶液に20秒間浸漬
比較例1:液処理せず
比較例2:アセトンに7日間浸漬させて溶剤洗浄
(2)含浸させ、アニオン重合させる工程
重合性組成物の調製
十分に乾燥させたε−カプロラクタム100重量部を100℃に加温溶融し、金属ナトリウム0.4重量部を溶解させてA液を調製した。更に、別に、十分に乾燥したε−カプロラクタム100重量部に1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート1.6重量部を配合して110℃に加熱溶融させて、B液を調製した。A液とB液を金型内部に注型する直前に混合した。
成形工程
160℃に加熱保持した凹金型の内部(雄雌型のクリアランスt=1.8mm)に、強化用繊維である実施例、比較例の処理を施した夫々の炭素繊維綾織りクロスを9枚セットし、型締めを行ない、上記で得られた重合性組成物を金型内部に注入した。注入は約1分で完了した。注入終了後、金型温度を160℃に保ったまま、30分間保持した後に脱型し、炭素繊維強化ポリアミド樹脂成形体を得た。繊維含有率は表1に記載のとおりであった。
3点曲げ試験
実施例及び比較例で得られた複合材料の曲げ強度と曲げ弾性率を確認するために、JIS K 7074に準じて3点曲げ試験を行った(万能試験機インスロン(インスロン社製)を使用して測定した。クロスヘッドスピード3.0mm/分)。試験片形状は、それぞれ、幅15mm、長さ100mmで、曲げスパンは80mmとした。測定は乾燥状態で23℃で5回行い平均値を求めた。結果を表1に示した。
Figure 0005314321
実施例に比べ、アルカリ洗浄しない比較例1はとくに曲げ強さが不充分である。これは、比較例1では成形工程において重合が適切に進行していなかったためと考えられる。また、比較例2におけるアセトン洗浄処理は、サイジング剤を除去してしまう処理である。そのため比較例2では、表面処理剤のない炭素繊維本来の性能が現れていると考えられ、炭素繊維の特徴である優れた曲げ強さが出ている。しかし、比較例2においては炭素繊維の収束性が全くなくなってしまっているので、成形工程での炭素繊維基材の取り扱い性が著しく低下していた。一方、実施例では、サイジング剤が残った状態であり、炭素繊維の収束性が保たれていて、成形工程での炭素繊維基材の取り扱い性がよく、しかも、炭素繊維本来の曲げ強度に近い機械的特性が発揮されていることが判った。

Claims (5)

  1. (1)カルボキシル基を含有するサイジング剤で処理されてなる炭素繊維基材をアルカリ液である、アルカリ金属水酸化物の濃度が0.001〜3.0重量%のアルカリ金属水酸化物溶液で、処理する工程(A)、及び、
    (2)前記工程(A)を経た炭素繊維基材に、ε−カプロラクタムを含有する重合性組成物を含浸させ、アニオン重合させる工程(B)
    を含む、炭素繊維強化ポリアミド樹脂複合材の製造方法。
  2. アルカリ金属水酸化物溶液は、ナトリウム又はカリウムの水酸化物溶液である請求項記載の製造方法。
  3. アルカリ金属水酸化物溶液は、水、メタノール、エタノール及びテトラヒドロフランからなる群から選択される少なくとも1種を溶媒とする請求項1又は2記載の製造方法。
  4. アニオン重合の重合触媒として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、これらの金属の水素化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、アルキル化物、アルコキシド、及び、グリニャール化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いる請求項1〜のいずれか記載の製造方法。
  5. 炭素繊維基材は、シート状基材である請求項1〜のいずれか記載の製造方法。
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