JP5309968B2 - フッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを使用した釣り糸 - Google Patents

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本発明は、糸癖がつきにくく、優れた引張強力を有するフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメント及び釣り糸に関する。
フッ化ビニリデン系樹脂(以下、代表してPVdFという)モノフィラメントは、強靭であること、比重が大きいこと、屈折率が水に近いこと、及び吸水率が低いことなどの有用な特性を備えているため、従来、釣糸や漁網などの水産資材用途や種々の産業資材用途などに広く使用されている。
しかるに、PVdFモノフィラメントは、それ自体が比較的剛直な繊維構造を有するため、他の合成繊維であるポリアミド系樹脂繊維などに比べて直線性が乏しく、糸癖が付きやすいという問題点があった。すなわち、例えば釣糸に使用された場合、リールに巻いた後の巻き癖が付きやすいか、あるいはハリスとして使用された場合、針結びなど仕掛けづくりの段階でチヂレが発生しやすい点がネックとなっていた。特に、ルアーラインとしてベイトリールと共に使用した場合、バックラッシュと呼ばれるラインが絡まる現象が一度起こると、その際糸に付いた折れ癖を基にバックラッシュが頻発してしまうことが問題であった。このように、直線性に乏しく糸癖が悪いことは、取扱い性を低下させるばかりか、釣り餌の不自然な動きを引き起こすことにもなり、釣果を損なう原因となっていた。
かかるPVdFモノフィラメント関する従来技術としては、高粘度PVdFを用いて極短時間高温緩和熱処理を付すことにより得られる高い結節強度と耐糸よれ性を兼ね備えたPVdFモノフィラメントおよびその製造方法(例えば、特許文献1参照)、などがすでに提案されている。
しかしながら、この製造方法は高温緩和熱処理を通常の紡糸工程に付与しなければならない上、この熱処理にはグリセリンやシリコーン油などの有機溶媒を使用しなければならず、産業上、十分満足できるものではなかった。
また、特定の延伸温度において1段で適切な延伸倍率の延伸を行うことで得られた高強度かつ屈曲回復率に優れたPVdF繊維及びその製造方法ならびに水産資材用繊維(例えば、特許文献2参照)なども既に提案されている。
しかしながら、この方法では、糸癖の付きにくさを表す尺度である屈曲回復率が78%までのものしか得られておらず、糸癖の面では十分満足できるものではなかった。
したがって、従来の糸癖の付きにくい高強度のPVdFモノフィラメントは、製造方法や糸癖の付きにくさの面で不十分であり、その改良が望まれているのが実状であった。
特開2005−105483号公報 特開2000−192327号公報
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
したがって本発明の目的は、糸癖がつきにくく、優れた引張強力を有し、特に釣り糸として好適に使用されるフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを提供することにある。
上記目的を達成するために本発明によれば、メルトフローレート(230℃、10kg)が1.5〜3.5g/10分、分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0であるフッ化ビニリデン系樹脂を溶融紡糸してなるモノフィラメントであり、乾引張強度が650〜1000MPa、かつ屈曲回復率が79%以上であるフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを使用したことを特徴とする釣り糸が提供される。
なお、本発明の釣り糸においては、
前記フッ化ビニリデン系樹脂がフッ化ビニリデンの単独重合体であること、
前記フッ化ビニリデン系樹脂が、重量平均分子量Mw1を持つフッ化ビニリデン成分(A)70〜30重量%と、Mw1より高い重量平均分子量Mw2をもつフッ化ビニリデン成分(B)30〜70重量%を含有すること
、いずれも好ましい条件であり、これらの条件を適用した場合には、さらに優れた効果の取得を期待することができる。
本発明によれば、以下に説明するとおり、糸癖がつきにくく、優れた引張強力を有するフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを得ることができる。したがって、本発明のモノフィラメントは上記の優れた特性を生かして、釣り糸、その中でも特にルアーラインやハリス用途に極めて有用である
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明のフッ化ビニリデン系樹脂繊維について説明する。本発明を構成するフッ化ビニリデン系樹脂とは、好ましくはフッ化ビニリデン成分を80重量%以上含有するフッ化ビニリデン単独重合体または共重合体である。ここで20重量%未満を占める場合の共重合成分としてはテトラフロロエチレン、トリフロロモノクロロエチレン、トリフロロエチレン、モノフロロエチレン、ヘキサフロロプロピレン及びこれらの混合物などが挙げられるが、なかでもヘキサフロロプロピレンが好ましい。また、フッ化ビニリデン成分が80重量%以上であるポリフッ化ビニリデンに、他のフッ化ビニリデンホモポリマ及び/またはコポリマをブレンドして用いることもできる。ただし、重合体または重合体混合物においてフッ化ビニリデン成分の含有量が80重量%未満になると、結晶性が低下し、本発明の目的とする特性の達成が困難になるため好ましくない。これらの中でも、フッ化ビニリデン単独重合体が特に好ましい。
さらに、本発明で用いるフッ化ビニリデン系樹脂には、例えば顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤、及び可塑剤などの各種添加剤を、目的とする性能を阻害しない範囲で、その重合工程、重合後あるいは紡糸直前に添加することができる。
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントには、JIS K 7210(1999)の方法に従って230℃、荷重10kgで測定されたメルトフローレート(以下、MFRという)が1.5〜3.5g/10分、好ましくは1.7〜3.0g/10分のフッ化ビニリデン系樹脂を用いることが必要である。MFRが1.5g/10分未満であると、溶融押出の際スクリューにかかる負荷が大きくなりすぎたり、生産性が低下したりするため、適さない。また、3.5g/10分を超える樹脂はモノフィラメントにした際の引張強度が不足するため適さない。
また、本発明のモノフィラメントに用いられるフッ化ビニリデン系樹脂には、分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0、好ましくは2.0〜2.5であることも必要である。ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量を表し、これらの比Mw/Mnは分子量分布の広さを表す指標として一般に用いられているものである。従来、分子量分布Mw/Mnは小さい方がモノフィラメントの引張強度に優れる傾向が知られていた。しかしながら、2.0より小さいと、分子量が揃っているためモノフィラメントとした際に結晶化しやすく、糸癖の悪化につながってしまうため適さない。また、3.0を超える分子量分布Mw/Mnを持つ場合には、結晶化が足りず、モノフィラメントの引張強度が低く使用に適さない。
分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0のフッ化ビニリデン系樹脂は、簡便には、異なる平均分子量をもつ少なくとも二種のフッ化ビニリデン系樹脂をそれぞれ重合法により得て、これらを混合することにより得られる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、重量平均分子量Mw1を持つフッ化ビニリデン成分Aを70〜30重量%と、Mw1より高い重量平均分子量Mw2を持つフッ化ビニリデン成分Bを30〜70重量%、好ましくは成分Aを50〜30重量%と、成分Bを50〜70重量%とを含有する原料を用いることができる。なお、成分Bの重量平均分子量Mw2は35万以上であることが好ましい。この原料は、高い重量平均分子量Mw2をもつ成分Bが高い引張強度を維持しつつ、成分Aと混合することによって結晶化を抑制することができるため、糸癖を改善できるものと予想される。
少なくとも二種のフッ化ビニリデン系樹脂を混合する場合には、粉末状のポリマーを所定の重量比率で混合した後、2軸混練押出機やドウミキサーなどへ供給し、加熱下で混練したものを樹脂ペレット化する方法、またはペレット状のポリマーをドライブレンドする方法などを用いることができる。
上記のフッ化ビニリデン系樹脂を用いて溶融紡糸してなる本発明のモノフィラメントには、JIS L1013(1999)8.5.1の方法に従って測定される乾引張強度が650〜1000MPa、好ましくは680〜950MPa、さらに好ましくは700〜900MPaであることが必要である。乾引張強度が650MPa未満であると直線部の強度が要求される釣り糸としての使用に適さない。また、1000MPaを超える場合には配向、結晶化が進みすぎるため、糸癖の悪化につながってしまうため適さない。
さらに、本発明のモノフィラメントには、屈曲回復率が79%以上、好ましくは80%以上であることが必要である。ここで、屈曲回復率の測定方法を説明する。モノフィラメントを交差させた2本1組のループを作り、上方ループを止め金に固定し、下方ループに荷重(繊維の繊度[デニール]の1/2の荷重[g]の重り)を3分間かけることにより、ループの交差点で形成された1対の松葉状に屈曲したサンプルを得る。この屈曲部分を中心に長さ約3cmにカットしてサンプルを採取し、60分間放置した後測定した開角度(θ)から、式:θ/180×100(%)で屈曲回復率を求めた。この屈曲回復率は、釣り糸の糸癖に関する重要な特性であり、屈曲回復率が78%未満では、糸癖が発現しやすく、取り扱い性を低下させたり、釣果を損なってしまったりするため適さない。
本発明の釣り糸は、以下に説明する方法により効率的に製造することができる。
上記釣り糸を溶融紡糸するに際しては、エクストルダー型紡糸機を用いる通常の条件を採用することができ、ポリマー温度を220〜285℃、押出圧力1〜50MPa、口金口径0.1〜20mm、紡糸速度0.3〜100m/分などの条件を適宜選択することができる。
次に、押出機から紡出されたモノフィラメントは、短い気体ゾーンを通過した後、冷却浴内で冷却される。ここでの冷却媒体としては、ポリマーに不活性な液体、通常は水、グリセリンおよびポリエチレングリコールなどが用いられる。
冷却固化された複合モノフィラメントは、引き続き1段目の延伸工程に送られるが、延伸および熱固定の雰囲気(浴)としては、温水、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびシリコーンオイルなどの加熱した熱媒体浴、熱気体浴および水蒸気浴などが用いられる。
延伸工程では1段乃至多段延伸を行うが、好ましい全延伸倍率は、通常は5.0倍以上、好ましくは5.5倍以上である。
1段乃至多段延伸後には、必要に応じて延伸歪みを除去することなどを目的として、適度な定長および/または弛緩熱処理を行うこともできる。
なお、本発明の釣り糸には既存の方法を利用して、紡糸後あるいは紡糸中に着色、染色を行ってもよい。
さらに、本発明の釣り糸の外形状については、必ずしも円形断面だけに限定されるものではなく、三角断面、四角断面および多葉断面などの任意の形状を取ることができ、またモノフィラメントを複数本で撚る、単糸に縒りを掛けるなどの2次加工したものを除外するものではない。
以上説明したように、本発明のモノフィラメントは、メルトフローレート(230℃、10kg)が1.5〜3.5g/10分、分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0であるフッ化ビニリデン系樹脂を溶融紡糸してなり、乾引張強度が650〜1000MPa、かつ屈曲回復率が79%以上となることから、従来のフッ化ビニリデン系樹脂からなるモノフィラメントに比べて糸癖がつきにくく、優れた引張強力を有するモノフィラメントを得ることができる。したがって、特にルアーラインやハリス用途の釣り糸に有用である。
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、実施例におけるモノフィラメントの評価は以下の方法に準じて行った。
[メルトフローレート(MFR)]
JIS K 7210(1999)に準じて、230℃、荷重10kgで測定した。
[重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)]
日本分光社のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置「GPC−900」を用い、カラムに昭和電工社製の「Sodex KD−806M」、プレカラムに「Sodex KD−G」、溶媒にNMPを使用し、温度40℃、流量10mL/分にて、GPC法によりポリスチレン換算分子量として測定した。
[乾引張強度]
JIS L 1013(1999)8.5.1に準じて測定した。
[屈曲回復率]
モノフィラメントから交差させた2本1組のループを作り、上方ループを止め金に固定し、下方ループに荷重(繊維の繊度[デニール]の1/2の荷重[g]の重り)を3分間かけることにより、ループの交差点で形成された1対の松葉状に屈曲したサンプルを得る。この屈曲部分を中心に長さ約3cmにカットしてサンプルを採取し、60分間放置した後測定した開角度(θ)から、式:θ/180×100(%)で屈曲回復率を求めた。測定回数は4回とし、その平均値で示した。数値が大きいほど屈曲回復性が優れている。
[実釣評価]
複数の釣り人に実釣評価してもらい、次の三段階に評価した。
◎…従来の釣り糸より優れている。
○…従来の釣り糸と同等の釣りができた。
×…糸癖、強度などに問題があり、釣りを続けることができなくなった、もしくは釣りに適さなかった。
[実施例1]
フッ化ビニリデン系樹脂としてA成分(SolveySolexis製、Solef1013、Mw1=340000)50重量%とB成分(SolveySolexis製、Solef1015、Mw2=480000)50重量%とを用い、粉末状の両ポリマーを混合した後、2軸混練押出機へ供給し、加熱下で混練したものを樹脂ペレット化して、MFR=2.0g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.41の原料を得た。この原料をエクストルダー型紡糸機で紡糸温度260℃にて溶融し、直径2.0mmの口金を通してモノフィラメントを紡出した。このモノフィラメントを、口金直下に設けた温度300℃に加熱された雰囲気長150mmの空間を通過させた後、直ちに20℃のポリエチレングリコール液中で冷却した。
次に、この未延伸糸を165℃のポリエチレングリコール浴中で5.8倍に一段目延伸(E1)し、引き続いて155℃の乾熱浴中に処理倍率0.9倍で通過させ熱処理を施すことにより、直径0.205mmの表1に示した特性を有するモノフィラメントを得た。
[実施例2]
フッ化ビニリデン系樹脂としてA成分(Solef1013)30重量%とB成分(Solef1015)70重量%とを用い、粉末状の両ポリマーを混合した後、2軸混練押出機へ供給し、加熱下で混練したものを樹脂ペレット化して、MFR=1.7g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.33の原料を得た。この原料を使用し、口金直径を1.3mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、直径0.128mmの表1に示した特性を有するモノフィラメントを得た。
[実施例3]
フッ化ビニリデン系樹脂としてSolef1013を樹脂ペレット化して、MFR=3.2g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.27の原料を得た。この原料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、直径0.380mmの表1に示した特性を有するモノフィラメントを得た。
[比較例1]
フッ化ビニリデン系樹脂としてペレット状のVP832を使用した。この原料はMFR=3.5g/10分、分子量分布Mw/Mn=1.84であった。この原料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、直径0.205mmの表1に示した特性を有するモノフィラメントを得た。
[比較例2]
フッ化ビニリデン系樹脂としてペレット化されたSolef1015を使用した。この原料はMFR=0.7g/10分、分子量分布Mw/Mn=1.95であった。この原料は紡糸機のスクリューにかかる負荷が大きくなりすぎ、押出できなかった。
[比較例3]
フッ化ビニリデン系樹脂としてペレット化されたSolef1012(SolveySolexis製)を使用した。この原料はMFR=5.0g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.68であった。この原料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、直径0.261mmの表1に示した特性を有するモノフィラメントを得た。
[比較例4]
フッ化ビニリデン系樹脂としてSolef1012、Solef1013,Solef1015をそれぞれ30重量%、30重量%、40重量%用い、粉末状のポリマーを混合した後、2軸混練押出機へ供給し、加熱下で混練したものを樹脂ペレット化して、MFR=3.5g/10分、分子量分布Mw/Mn=3.24の原料を得た。この原料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、直径0.205mmの表1に示した特性を有するモノフィラメントを得た。
Figure 0005309968
表1から明らかなように、本発明のモノフィラメントは優れた引張強力と糸癖のつきにくさを両立しており、釣り糸として使用した場合に従来のものに比べて優れている。
一方、分子量分布の狭い原料を使用したモノフィラメント(比較例1)は、引張強力には優れるものの、屈曲回復率が十分とはいえず糸癖のつきにくさの点で満足できるものではなかった。また、メルトフローレート(MFR)が低い原料を使用したモノフィラメント(比較例2)は、紡糸機のスクリューにかかる負荷が大きくなりすぎ、押出できなかった。MFRが高い原料を使用したモノフィラメント(比較例3)は、引張強力、糸癖のつきにくさ共に満足のいくものではなく、実釣に耐えなかった。分子量分布の広い原料を使用したモノフィラメント(比較例4)は、糸癖はつきにくいものの、引張強力が不十分であり、実釣に耐えなかった。
以上説明したように、本発明のモノフィラメントは、従来のフッ化ビニリデン系樹脂からなるモノフィラメントに比べて糸癖がつきにくく、優れた引張強力を有するモノフィラメントである。したがって、特にルアーラインやハリス用途の釣り糸に利用することができる。

Claims (3)

  1. メルトフローレート(230℃、10kg)が1.5〜3.5g/10分、分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0であるフッ化ビニリデン系樹脂を溶融紡糸してなるモノフィラメントであり、乾引張強度が650〜1000MPa、かつ屈曲回復率が79%以上であるフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを使用したことを特徴とする釣り糸
  2. 前記フッ化ビニリデン系樹脂がフッ化ビニリデンの単独重合体であることを特徴とする請求項1に記載の釣り糸
  3. 前記フッ化ビニリデン系樹脂が、重量平均分子量Mw1を持つフッ化ビニリデン成分(A)70〜30重量%と、Mw1より高い重量平均分子量Mw2をもつフッ化ビニリデン成分(B)30〜70重量%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の釣り糸
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