JP5306549B2 - リチウムイオン二次電池負極用電極の製法 - Google Patents

リチウムイオン二次電池負極用電極の製法 Download PDF

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Description

本発明は、銅被覆鋼箔の表面に活物質を担持したリチウムイオン二次電池の負極用電極の製法に関するものである。
近年、環境保護のため石油などの化石燃料に代わる新エネルギーの開発や、エネルギーを効率的に利用する技術の開発が進められている。その一貫として太陽光発電や風力発電が急速に普及しつつある。しかし、これらの自然エネルギーを利用した発電手法は天候の影響を受けやすく、出力が不安定となりやすい。したがって、このような新エネルギーを大量に導入する際には、出力の平準化を図るための蓄電技術や、夜間などの軽負荷時に発生する電力を有効利用するための蓄電技術が不可欠となる。このような新エネルギーの蓄電に利用する比較的大規模な蓄電池としては、ナトリウム硫黄電池(NAS電池)、レドックスフロー電池、鉛蓄電池などが挙げられ、実証試験研究に供されている。
一方、携帯電話やノート型パソコンに代表されるモバイル電子機器用途の蓄電池としては、リチウムイオン二次電池が広く普及している。ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用電源に使用できる程度の比較的大型の蓄電池としては、現状ではニッケル水素二次電池が主流である。しかし、今後は蓄電池の高性能化のニーズに応えるべく、自動車の駆動用電源としてもリチウムイオン二次電池の普及が見込まれる。さらに将来的には新エネルギーの蓄電にもリチウムイオン二次電池の適用が考えられる。このようなことから、昨今ではリチウムイオン二次電池の大容量化が強く望まれている。
WO2002/093679号公報 特許第3838878号公報
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン電解液中にアルミニウム箔からなる正極集電体と銅箔からなる負極集電体を配置した構造を有する。種々の構造が知られているが、正極集電体と負極集電体を積層し、円柱状に巻回した構造を有するもの、および正極集電体と負極集電体を交互に数十枚積層配置した構造を有するものが一般的である。小容量の電池としては、正極集電体と負極集電体を各々1枚ずつ積層したものも知られている。正極および負極の集電体の表面にはそれぞれ正極活物質および負極活物質が担持されている。両極の各集電体同士は樹脂多孔膜などのセパレータによって隔離される。
本明細書ではこのような両極集電体を積層した電池内部の構造体を「電極積層体」と呼ぶ。また、板状(シート状)の金属材料のうち、特に厚さが100μm以下のものを「箔」と呼ぶ。
リチウムイオン二次電池に用いるアルミニウム箔や銅箔は、強度が低いため、活物質を塗布する製造ラインにおいて箔の変形が生じやすく、形状精度の高い集電体を得るためには高度な管理が要求される。管理が不十分である場合にはライン内で箔の帯が破断することもある。また、電池製品においては、特に電池の内容物をラミネートパックで封止した「ラミネート型」のリチウムイオン二次電池の場合、放熱特性に優れる点では大型化に有利である反面、電池外部から局所的な外力が加えられたときには電極積層体が変形して集電体の損傷が生じやすい。さらに、電池製品の使用による充放電サイクルにより活物質の体積が増減するが、電極積層体の配置は電池内で完全に均一にすることは困難であることから、ひずみの集中した部分では集電体の強度が低いと損傷を生じやすい。
一方、電池の高容量化を図る上では、集電体の単位体積当たりの放電容量が大きいことが望まれる。そのためには集電体表面に活物質が高密度で存在していることが有利となる。活物質層を高密度化するには、活物質の塗膜をロールプレス等によって強くプレスすることが有効である。しかしながら、以下に述べるように、現状のアルミニウム箔や銅箔を用いた集電体では活物質層の更なる高密度化は難しい。
図1に、ロールプレス法により活物質層を形成する際の材料断面の状態を模式的に示す。集電体の芯材である金属箔1の表面に活物質を含有する塗膜2が形成されており、回転するロール3によってプレスすることにより塗膜2の厚さが減じられ、活物質層4が形成される。通常、金属箔1は、正極集電体の場合はアルミニウム箔、負極集電体の場合は銅箔である。なお、図1において金属箔1、塗膜2および活物質層4の厚さは誇張して描いてあり、これらの厚さ比率は必ずしも実際の寸法を反映したものではない。
図2に、ロールプレス法により活物質層を形成する際に適正な圧下力を付与した場合の、図1のA方向から見たロール通過時の材料断面の状態を模式的に示す。ロール3の圧下力が適正であれば、金属箔1はほとんど変形することなく、活物質層4が形成される。なお、図2において金属箔1および活物質層4の厚さは誇張して描いてある。
図3に、ロールプレス法により活物質層を形成する際に過剰な圧下力を付与した場合の、図1のA方向から見たロール通過時の材料断面の状態を模式的に示す。この場合、ロール3の圧下力は図2の場合よりも大きい。圧下力の増大に伴って、活物質層4はより高密度化されたものとなる。しかし、金属箔1はアルミニウム箔または銅箔であるため強度が低く、幅方向中央部で塑性変形が生じて、いわゆる「中伸び」の状態となることがある。金属箔1の幅方向端部(エッジ)近傍に未塗布部5を設けている場合には、エッジと中央部との厚さの差が一層顕著になりやすい。中伸びが生じると集電体素材としての形状不良や寸法精度低下が問題となる。したがって、ロール3の圧下力はアルミニウム箔や銅箔が変形しない範囲に抑えられ、このことが活物質層4の高密度化に対して制約となる。
本発明は、リチウムイオン二次電池の高容量化に繋がる要素技術の1つとして、より高強度で耐久性が高い負極用電極を提供すること、さらには放電容量の大きい負極用電極を提供することを目的とする。また、それを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
上記目的は、鋼シートを芯材に持ち、その両面に片面当たりの平均膜厚tCuが0.02〜5.0μmの銅被覆層を持ち、銅被覆層を含めた平均厚さtが3〜100μmであり、かつtCu/tが0.3以下であるリチウムイオン二次電池の負極活物質担持用銅被覆鋼箔によって達成される。上記銅被覆層としては例えば電気銅めっき層(めっき後に圧延されたものを含む)や、クラッド接合により鋼シートと一体化された銅箔の層からなるものが挙げられる。
銅被覆鋼箔の芯材である鋼シートとしては、普通鋼冷延鋼板やオーステナイト系またはフェライト系ステンレス鋼板を素材として使用できる。規格製品としては、普通鋼の場合、例えばJIS G3141:2009に規定される冷延鋼板(鋼帯を含む)を素材とするものが適用できる。また、ステンレス鋼の場合、例えばJIS G4305:2005に規定されるオーステナイト系またはフェライト系の化学組成を有する鋼板(鋼帯を含む)が適用できる。
鋼シートを構成する成分元素の具体的な含有量範囲を以下に例示する。
〔普通鋼〕
質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:0.001〜0.1%、Mn:0.005〜0.6%、P:0.001〜0.05%、S:0.001〜0.5%、Al:0.001〜0.5%、Ni:0.001〜1.0%、Cr:0.001〜1.0%、Cu:0〜0.1%、Ti:0〜0.5%、Nb:0〜0.5%、N:0〜0.05%、残部Feおよび不可避的不純物。
〔オーステナイト系ステンレス鋼〕
質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜4.0%、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:15.0〜26.0%、Mo:0〜7.0%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.1%、N:0〜0.3%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物。
〔フェライト系ステンレス鋼〕
質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.2%、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.04%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:11.5〜32.0%、Mo:0〜2.5%、Cu:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.2%、N:0〜0.025%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物。
ここで、下限が0%である元素は任意元素である。これらの鋼シートを採用した銅被覆鋼箔は、従来一般的な集電体に適用されている銅箔と比べ高い強度を呈する。特に、引張強さが450〜900MPaに調整された銅被覆鋼箔は集電体の耐久性を向上させる上で有利となり、600超え〜900MPaに調整されていることが一層有利となる。
本発明では、上記の銅被覆鋼箔の少なくとも一方の銅被覆層の表面上に、リチウムイオン二次電池負極用の活物質層を形成したリチウムイオン二次電池の負極集電体が提供される。ここで「少なくとも一方の銅被覆層」とは、銅被覆鋼箔の両面を覆うそれぞれの銅被覆層のうちの一方または両方を意味する。炭素系活物質を適用する場合、その活物質層の密度は従来と同様に1.50g/cm3以上とすることが望ましい。放電容量の増大を図るためには炭素系活物質の密度を1.80g/cm3以上とすることがより好ましく、2.00g/cm3以上とすることが一層好ましい。
リチウムイオン二次電池の負極用電極の製法として、
上記の銅被覆鋼箔の銅被覆層の少なくとも一方の表面上に、リチウムイオン二次電池負極用の炭素系活物質を含有する塗膜を形成する工程、
前記塗膜が乾燥した後、ロールプレスによって塗膜厚さを30〜70%減じることにより塗膜を高密度化する工程、
を有する製法が提供される。
この場合、ロールプレスによって塗膜の密度を1.80g/cm3以上に高密度化することがより好ましく、2.00g/cm3以上とすることが特に好ましい。
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の負極集電体用金属箔として、従来よりも強度の高いものを使用するため、電池の耐久性が向上し、集電体の面積増大や、薄肉化のニーズに対応できる。また、充放電時の負極活物質の体積変化に起因する金属箔の塑性変形が抑制され、電池の長寿命化に有利となる。さらに、負極用電極の製造工程で金属箔が変形しにくいため、寸法精度の高い電極が実現できる。特に、活物質層を従来よりも一層高密度化することが容易となるため、放電容量の高い負極用電極を低コストで得ることができる。したがって本発明は、リチウムイオン二次電池の耐久性向上、長寿命化、さらには高容量化に寄与するものである。
リチウムイオン二次電池の電極製造工程において、ロールプレス法により金属箔表面に活物質層を形成する際の材料断面の状態を模式的に示した図。 ロールプレス法により活物質層を形成する際に適正な圧下力を付与した場合の、図1のA方向から見たロール通過時の材料断面の状態を模式的に示した図。 ロールプレス法により活物質層を形成する際に過剰な圧下力を付与した場合の、図1のA方向から見たロール通過時の材料断面の状態を模式的に示した図。 本発明で適用する負極活物質担持用銅被覆鋼箔の断面構造を模式的に示した図。 本発明に従う負極用電極の断面構造を模式的に示した図。
図4に、本発明で適用するリチウムイオン二次電池の負極活物質担持用銅被覆鋼箔の断面構造を模式的に示す。鋼シート6の両面が銅被覆層7により被覆され、銅被覆鋼箔10が構成されている。図4において銅被覆層7の厚さは誇張して描いてある(後述図5において同じ)。銅被覆層7は両面とも片面当たりの平均膜厚tCuが0.02〜5.0μmの範囲に調整され、銅被覆層7を含めた全体の平均厚さtは3〜100μmの範囲にある。また、tCu/tの比は両面とも0.3以下である。両面の銅被覆層7は概ね均等な厚さであることが望ましい。銅被覆層7は例えば後述のように電気銅めっき法を利用して形成することができるが、鋼シート6がステンレス鋼である場合には、下地金属層としてニッケルストライクめっき層を形成することが望ましい。銅被覆層7の平均膜厚tCuおよび銅被覆鋼箔の平均厚さtが上記の条件を満たす範囲にある限り、鋼シート6と銅被覆層7の間には、これら両層との密着性が良好な1層または2層以上の下地金属層が介在していても問題ない。ただし、銅以外の金属からなる下地金属層の片面当たりのトータル平均膜厚tMは、その上に形成されている銅被覆層7の平均膜厚tCuとの合計(tM+tCu)が5.0μm以下となるようにすることが好ましい。銅ストライクめっきを施す場合は、その銅ストライクめっき層は銅被覆層7の一部を構成するとみなされる。
銅被覆鋼箔10の平均厚さtが3μmより小さくなると、強度の高い鋼シート6を適用しても、集電体としての強度、および必要な活物質の担持量を十分に確保することが難しくなる。5μm以上、あるいは7μm以上の範囲に管理してもよい。一方、tが100μmを超えると、電池の小型・大容量化の要求に合致しなくなる。一般的には50μm以下の範囲とすることが好適であり、25μm以下、あるいは15μm以下に管理してもよい。
銅被覆層7の片面当たりの平均膜厚tCuが0.02μmより小さくなると、銅被覆鋼箔10に占める導電性の高い銅の絶対量が少なくなることや、銅被覆層7の膜厚を貫通するピンホール等の欠陥が増大することなどに起因して、放電容量を安定して高く維持することが難しくなる。tCuは0.03μm以上、あるいは0.05μm以上に管理しても構わない。一方、tCuが5.0μmを超えると、ロールプレス工程で圧下力を増大した場合には銅被覆層7の塑性変形が生じやすくなり、高い寸法精度を維持しながら活物質層の高密度化を実現することが難しくなる。また、銅めっきのコストも増大する。電極の寸法精度および活物質層の高密度化を重視する場合には、tCuを1.0μm以下あるいは1.0μm未満の範囲とすることがより好ましい。
銅被覆鋼箔10の平均厚さtが例えば20μm程度以下に薄くなってくると、それに伴って銅被覆層7の平均膜厚tCuも小さくしなければ、ロールプレスでの銅被覆層7の塑性変形を抑止することが難しくなる。種々検討の結果、tCu/tが0.3以下であれば、鋼シート6により銅被覆層7の変形が効果的に拘束され、寸法精度の高い電極を得るうえで有利となる。tCu/tは0.2以下、あるいはさらに0.1以下とすることがより好ましい。
鋼シート6を芯材に用いた銅被覆鋼箔10は、従来の集電体に使用されている銅箔と比べ、強度が格段に高い。上述の成分組成に調整された鋼シート6を適用することがより効果的である。電池に組み込まれた状態での集電体の耐久性や、負極活物質層7を形成させるためのロールプレス工程における形状維持性(中伸び抑止性能)を安定して顕著に向上させるためには、銅被覆鋼箔10の引張強さを450〜900MPaとすることがより効果的である。500MPa以上に管理してもよい。特に600MPaを超える強度レベル、あるいはさらに650MPa以上の強度レベルに調整された銅被覆鋼箔は、集電体の信頼性向上に極めて有利となる。銅被覆鋼箔10の引張強さは、鋼シート6の化学組成および、最終的な銅被覆鋼箔10を得るまでの冷間圧延率によってコントロールすることができる。引張強さが900MPaを超えるような高強度としても、耐久性や形状維持性の更なる向上はそれほど見込めず、逆に冷間圧延率増大によるコスト増大のデメリットが大きくなる。
図5に、本発明に従うリチウムイオン二次電池の負極用電極の断面構造を模式的に示す。銅被覆鋼箔10を構成する銅被覆層7の表面上に、ロールプレス等により高密度化された負極活物質層40が形成されている。この図では銅被覆鋼箔10の両面に負極活物質層40が形成されたものを例示しているが、片面のみに負極活物質層40が形成された負極用電極が採用されることもある。例えば電極積層体の端部に位置する集電体では、負極活物質層40は片面に形成されていればよい。
高密度化された負極活物質層40の平均厚さは、片面当たり5〜150μmであることが望ましく、20〜100μmであることがより好ましい。炭素系活物質(後述)を含有する負極活物質層40の場合、その密度(層内の微細空隙を含む)は1.50g/cm3以上であることが望ましい。また後述の工程に従えば、炭素系活物質層の密度を1.80g/cm3以上、あるいは更に2.00g/cm3以上とすることができる。このように負極活物質層が高密度化されているとき、従来の負極用電極(例えば活物質層の密度:1.50〜1.75g/cm3程度)に対して、金属箔1の高強度化による耐久性向上効果のみならず、活物質層単位体積当たりの放電容量の向上効果が得られる。一方、活物質層の密度が高くなりすぎると、当該層内に電解液が浸透しにくくなり、電荷移動を阻害する要因となることも考えられる。黒鉛の理論密度が2.26g/cm3であることを考慮すると、炭素系活物質層の密度は2.20g/cm3以下の範囲とすることが望ましく、2.15g/cm3以下の範囲に管理してもよい。活物質層の密度は、電極断面の顕微鏡観察により求まる活物質層の平均厚さと、活物質層の単位面積当たりの平均質量から算出される。
〔負極用電極の製造工程例示〕
本発明の銅被覆鋼箔を製造し、さらにそれを用いてリチウムイオン二次電池の電極を得るための製造工程を例示すると、例えば以下のA〜Dのようなものが挙げられる。[ ]内は中間または最終材料である。
A.→[冷延鋼板]→箔への圧延→銅めっき→[銅被覆鋼箔]→活物質含有塗料塗布→塗膜乾燥→ロールプレス→裁断等の成形加工→[負極用電極
A2.→[冷延鋼板]→箔への圧延→銅めっき→さらに圧延→[銅被覆鋼箔]→活物質含有塗料塗布→塗膜乾燥→ロールプレス→裁断等の成形加工→[負極用電極
B.→[冷延鋼板]→銅めっき→箔への圧延→[銅被覆鋼箔]→活物質含有塗料塗布→塗膜乾燥→ロールプレス→裁断等の成形加工→[負極用電極
C.→[冷延鋼板]→銅箔とのクラッド接合→箔への圧延→[銅被覆鋼箔]→活物質含有塗料塗布→塗膜乾燥→ロールプレス→裁断等の成形加工→[負極用電極
D.→[冷延鋼板]→箔への圧延→銅箔とのクラッド接合→[銅被覆鋼箔]→活物質含有塗料塗布→塗膜乾燥→ロールプレス→裁断等の成形加工→[負極用電極
上記Aの工程は、銅被覆鋼箔を製造する過程で、冷延鋼板を所定厚さの箔にまで圧延したのち銅めっきを施すもの、A2の工程は冷延鋼板を箔にまで圧延したのち銅めっきを施し、さらに圧延して所定厚さの銅被覆鋼箔とするもの、Bの工程は冷延鋼板に銅めっきを施したのち、箔にまで圧延して所定厚さの銅被覆鋼箔とするものである。なお、ストライクめっきとしては、銅ストライクめっき、あるいはニッケルストライクめっきが挙げられる。また、Cの工程は冷延鋼板に銅箔をクラッド接合したのち、さらに圧延して所定厚さの銅被覆鋼箔とするもの、Dの工程は冷延鋼板を箔にまで圧延したのち銅箔とクラッド接合して所定厚さの銅被覆鋼箔とするものである。
〔鋼シート〕
銅被覆鋼箔の芯材である鋼シートとしては、普通鋼の他、ステンレス鋼が採用できる。ステンレス鋼は耐食性に優れるため、高い耐久性・信頼性が重視される用途においては好適である。具体的な化学組成範囲は前述のとおりである。
〔銅めっき〕
銅被覆層を形成させるための手法として、上記A、A2、B工程に例示されるように銅めっき法を利用することができる。本発明では公知の各種銅めっき技術、例えば電気めっき、化学めっき、気相めっき等を用いることができる。化学めっきとしては無電解めっき、気相めっきとしてはスパッタリング、イオンプレーティングが挙げられる。これらのなかで、電気銅めっき法は比較的高速かつ経済的にめっき層を形成することができ、めっき厚さのコントロールも容易であることから、大量生産には適している。
電気銅めっき;
公知の種々の電気銅めっき法を採用することができる。硫酸浴を使用する場合の電気銅めっきの条件を例示すれば、例えば、硫酸銅:200〜250g/L、硫酸:30〜75g/L、液温:20〜50℃のめっき浴を用いて、陰極電流密度:1〜20A/dm2とすることができる。ただし、銅めっき後に所定の厚さの箔に圧延するか、あるいは銅めっきによって目標膜厚の銅被覆層を直接形成させるかによって、銅めっきの付着量は大きく相違する。前者の場合は、後工程での圧延率に応じて、銅被覆層の目標膜厚から逆算した厚さの銅めっき層を形成させる必要がある。1回の銅めっきライン通板では必要な銅めっき層厚さが得られない場合は、銅めっきラインの通板を複数回行えばよい。
電気銅めっきの前処理;
電気銅めっきを施す場合は、前処理としてニッケルストライクめっきを施すことができる。特に鋼シートがステンレス鋼である場合には、銅めっきの密着性を改善するためにニッケルストライクめっきが極めて有効である。ニッケルストライクめっきの条件は、例えば、塩化ニッケル:230〜250g/L、塩酸:125ml/L、pH:1〜1.5の常温のめっき浴を用いて、陰極電流密度:1〜10A/dm2とすることができる。
また、ニッケルストライクめっきを行わない場合には、電気銅めっきの前処理として銅ストライクめっきを施してもよい。銅ストライクめっきの条件は、例えば、ピロリン酸銅:65〜105g/L、ピロリン酸カリウム:240〜450g/L、全銅イオン濃度(g/L)に対する全ピロリン酸塩イオン濃度(g/L)の比(P比):6.4〜8.0、アンモニア水:1〜6mL/L、液温:50〜60℃、pH:8.2〜9.2のめっき浴を用いて、陰極電流密度:1〜7A/dm2以下の範囲で設定することができる。
気相めっき;
蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の公知の気相めっき法によって銅被覆層を形成させることもできる。スパッタリングを用いた製造方法を例示すると、まず、普通鋼冷延鋼板あるいはステンレス鋼冷延鋼板を箔圧延機により所定厚さの箔にまで冷間圧延して鋼箔を得る。その鋼箔に、前処理として「メチレンクロライド洗浄→乾燥→イソプロピルアルコール洗浄→水洗→乾燥」の各工程を有する湿式洗浄ラインで脱脂洗浄を施す。次に、脱脂洗浄後の前記鋼箔を連続式スパッタリングラインに通板することにより銅被覆層を形成する。連続式スパッタリングラインは、例えばコイル払出し装置、高周波マグネトロンスパッタリング装置、および巻取り装置の一式を真空チャンバー内に配置することによって構成できる。
具体的には例えば以下のような手法でスパッタリングを行うことができる。チャンバー内のアルゴン分圧を0.1Pa程度に調整し、出力100W程度で逆スパッタを行って前記鋼箔の表面を活性化処理する。次に、純銅をターゲットに用いて出力300W程度で成膜スパッタを行うことにより鋼箔の片面に平均膜厚tCuが約0.05μmの銅被覆層を形成する。その際、連続式スパッタリングラインの通板速度を制御することにより平均膜厚tCuを調整すればよい。このような操作を鋼箔の表裏を反転させて繰り返すことにより、鋼シートを芯材とし、両面に銅被覆層を有する銅被覆鋼箔が得られる。
〔クラッド〕
銅被覆鋼箔を製造する別の方法として、冷延鋼板または鋼箔の両面に銅箔をクラッド接合する手法を採用することもできる。クラッド法としては、熱間圧接法、冷間圧接法、爆着法等が知られている。特に、冷間圧接法は厚み精度に優れ、生産性も良好であるため、大量生産に適している。
前述の製造工程Cにおいて冷間圧接法を用いて銅被覆鋼箔を製造する方法を例示する。素材として、前述のtCu/tが所定の値となるように板厚が調整された1本の冷延鋼帯および2本の銅箔帯を用意する。銅箔帯としてはタフピッチ銅、無酸素銅、合金銅等の箔帯が挙げられる。それぞれ脱脂洗浄ラインを通板して圧延油を除去した後、冷延鋼帯の両面を銅箔帯で挟んだ3層構造の積層材に対して、連続的に冷間圧延を施すことにより冷間圧接して、これら3層がクラッド接合により一体化したクラッド材を製造する。圧接時の冷間圧延率が低すぎると、鋼帯と銅箔帯の界面での新生面の生成が少なくなり、接合強度が不足しやすい。冷間圧延率が高すぎると、圧延荷重が過大となって圧延形状が悪化したり、引張荷重が過大となってライン内で破断したりするトラブルが生じやすい。種々検討の結果、圧接のための冷間圧延率は概ね10〜75%の範囲で設定することができるが、冷延鋼板が普通鋼の場合40〜50%、ステンレス鋼の場合15〜40%とすることがより好ましい。得られたクラッド材に対して箔圧延機で冷間圧延を施すことにより、銅被覆鋼箔を得ることができる。
より具体的に例示すると、例えば、冷延鋼板として厚さ0.684mmの鋼帯を1本、銅箔として厚さ0.018mmの銅箔帯を2本、それぞれ用意し、これら重ねて合計厚さが0.018+0.684+0.018=0.720mmである3層構造の積層材とし、これに圧延率50%で冷間圧接を施せば厚さ0.36mmの3層クラッド材が得られる。これをさらに箔圧延機に複数回通板することにより銅被覆鋼箔を得ることができる。各圧延によりクラッド前の素材の板厚比は概ねそのまま維持されるので、この例では両面それぞれの銅被覆層についてtCu/t=0.018mm/0.720mm=0.025となる。得られた銅被覆鋼箔の平均厚さtが20μmの場合、片面当たりの銅被覆層の平均厚さtCuは両側ともそれぞれ0.025×20μm=0.5μmとなる。
また、前述の製造工程Dのように、予め冷延鋼板を箔にまで圧延して鋼箔を得ておき、その鋼箔と銅箔とを冷間圧接によりクラッド接合することにより銅被覆鋼箔を得ることもできる。この場合、所定の厚さに調整された銅被覆鋼箔をクラッド圧延機にて直接製造することができるが、冷間圧接に供するための銅箔はかなり薄いものとなるため、取り扱いに注意を要する。
なお、冷間圧接法において、より安定して良好なクラッド接合性を実現するためには、非酸化雰囲気、減圧雰囲気または真空雰囲気の下で冷間圧接を行うことが有効である。また、クラッド接合の前処理として、アルゴンプラズマエッチング等の気相エッチングにより接合表面を活性化しておくことも有効である。
〔箔への圧延〕
前述の製造工程A〜Dにおける箔への圧延においては、一般のセンジミア式圧延機、クラスター式圧延機など高圧下力を付与できる圧延機を用いればよい。これらの圧延機では多数のバックアップロールによりワークロールの弾性変形が制御されるため、得られる銅被覆鋼箔あるいは鋼箔の形状を適切にコントロールしやすい。ここで、圧延前の板厚をtin、圧延後の板厚をtoutとすると、圧延率rは次式で表される。
圧延率r(%)=(1−tout/tin)×100
前述のように、本発明で適用する銅被覆鋼箔は芯材に鋼シートを用いているため、従来の集電体用銅箔と比べて本質的に強度レベルが高い。その強度レベルを電池の仕様に応じて最適化するためには、最終焼鈍後の鋼材が最終的な銅被覆鋼箔の芯材となるまでの間に受ける冷間圧延(クラッド接合時の冷間圧延を含む)のトータル圧延率を適切にコントロールすることが有効となる。種々検討の結果、特に強度レベルの高い銅被覆鋼箔を得るためには、前記トータル圧延率を90%以上とすることが極めて有効であり、さらに強度を高めたい場合には95%以上としてもよい。前記トータル圧延率の上限は主として使用する圧延機の能力によって制約を受けるが、過剰な高強度化は不経済となる。通常、前記トータル圧延率は99%以下とすればよく、経済性・生産性を考慮して98%以下の範囲で設定してもよい。
〔活物質含有塗膜の形成〕
本発明に従う負極用電極は、上記で得られた銅被覆鋼箔とその表面に形成された負極活物質層で構成される。負極活物質層は、電解液が浸透してリチウムイオンによる電荷移動が可能な空隙を有するものであり、負極活物質、導電助剤、結着剤等を含むものである。負極活物質としては、リチウムイオンを挿入および脱離できるものであればよい。例えば炭素系活物質としては、熱分解炭素類、コークス類(ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等)、黒鉛類、ガラス状炭素類、有機高分子焼成体(フラン樹脂等を適当な温度で焼成して炭素化したもの)、炭素繊維、活性炭等が挙げられる。導電剤としては、例えば、黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維、金属繊維などを用いることができる。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などを用いることができる。
上記のような炭素材料を用いた負極活物質を本明細書では「炭素系活物質」と呼んでいる。また、炭素系活物質を用いた負極活物質層を「炭素系活物質層」と呼んでいる。炭素系活物質層を形成させるための手順として、例えば上述のように、「活物質含有塗料塗布→塗膜乾燥→ロールプレス」の工程を採用することができる。この場合、まず上記のようなリチウムイオン二次電池負極用の炭素系活物質を含有する塗料(活物質含有塗料)を調製し、これを銅被覆鋼箔の銅被覆層の表面上に、ブレードコーター法などにより塗布する。その後、塗膜を乾燥させる。乾燥塗膜の膜厚は、後述のロールプレスによる塗膜厚さ減少率を見込んで、目標の活物質層厚さから逆算して定める。両面に活物質層を形成させる場合、両面の塗膜厚さは概ね均等であることが望ましい。
〔活物質層の高密度化〕
電極の放電容量を増大させるためには、活物質層の密度を高めることが有効である。活物質層の高密度化の手法として、一般的にはロールプレスにより前述の乾燥塗膜の厚さを減じる手法が採用される。本発明では、強度の大きい銅被覆鋼箔を使用しているので、ロールプレスによる圧下力を増大させても金属箔の塑性変形が起こりにくい。このため、ロールプレスによる圧下力を従来より高めることができる。
具体的には、ロールプレスによって上記の乾燥塗膜の厚さを30%以上減じることにより高密度化することが好ましい。この塗膜厚さ減少率は下記(1)式によって定まる。
[塗膜厚さ減少率(%)]=(h0−h1)/h0×100 …(1)
ここで、h0はロールプレス前の片面当たりの平均塗膜厚さ(μm)、h1はその塗膜をロールプレスした後の平均塗膜厚さ(μm)である。活物質層の高密度化を重視する場合には、塗膜厚さ減少率を35%以上とすることがより効果的であり、40%以上とすることが一層好ましい。ただし、圧下力をあまり大きくすると、塗膜密度が過剰となって電解液が塗膜中に浸透しにくくなり、電荷移動に必要な空隙を十分に確保できない恐れがある。また、金属箔の不均一な変形を招く要因となる。種々検討の結果、ロールプレスによる塗膜厚さ減少率は70%以下の範囲とすることが望ましく、60%以下の範囲に管理してもよい。
〔リチウムイオン二次電池〕
上述の銅被覆鋼箔の表面上に、上記のようにして高密度化された負極活物質層を持つ負極用電極は、セパレータを介して正極用電極と組み合わされて「電極積層体」とされ、電解液とともにリチウムイオン二次電池を構成する。正極用電極、セパレータ、および電解液は、リチウムイオン二次電池に用いられている公知の材料や、その代替として使用できる新たな材料を適用することができる。
電解液を例示すると、溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、スルホラン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソランなどの非水溶媒が挙げられ、これらを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。溶質としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO23、LiCF3(CF23SO3などが挙げられ、これらを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
上記の電極積層体および電解液を密封収納するケース材の形状としては、コイン型、円筒型、直方体角型、ラミネートシートパック型などが挙げられる。ケース材の材質としてはアルミニウムまたはその合金、チタンまたはその合金、ニッケルまたはその合金、銅またはその合金、ステンレス鋼、普通鋼、ニッケルめっき鋼板、銅めっき鋼板、亜鉛めっき鋼板などが挙げられる。ラミネートシートパック型の場合には、例えばアルミニウム箔やステンレス鋼箔などの金属箔にヒートシール性を有する樹脂フィルムを積層したラミネート箔が用いられる。
上記製造工程A〜Dにより各種銅被覆鋼箔を作製し、電解液中での耐食性試験に供した。一部の銅被覆鋼箔については引張強さを測定した。また、各銅被覆鋼箔を用いてリチウムイオン二次電池の負極用電極を作製し、放電容量を評価した。例記号(a、bなど)は後述表2中に記載した「作製手法」の記号に対応するものである。
〔普通鋼の鋼シートを芯材とする銅被覆鋼箔の作製〕
《例a》上記の製造工程Bにより銅被覆鋼箔を作製した例を示す。
以下の化学組成を有する板厚0.3mm、板幅200mmの冷延鋼帯(焼鈍材)を複数本用意した。
化学組成; 質量%で、C:0.003%、Al:0.038%、Si:0.003%、Mn:0.12%、P:0.012%、S:0.122%、Ni:0.02%、Cr:0.02%、Cu:0.01%、Ti:0.073%、N:0.0023%、残部Feおよび不可避的不純物
この鋼帯の両面に、連続式電気めっきラインにて、銅ストライクめっきおよび電気銅めっき(本めっき)を施して種々の厚さの銅めっき層を有する銅めっき鋼帯を作製した。1つの銅めっき鋼帯において、両面の銅めっき層厚さはほぼ均等とした。その後、箔圧延機により冷間圧延して、両面の銅めっき層を含む平均板厚tが20μm、銅被覆層の片面当たりの平均厚さtCuが0.9〜0.005μmの種々の段階にある銅被覆鋼箔を得た。その際、板厚0.3mmの鋼帯の表面上に形成する銅めっき層の厚さ(銅ストライクめっきと本めっきの合計めっき付着量)は、冷間圧延後の銅被覆鋼箔の平均厚さtを20μmに揃えた場合に、銅被覆層の平均厚さtCuが0.9〜0.005μmの範囲の所定厚さとなるように、逆算して定めた。例えば、tCuが0.5μmである銅被覆鋼箔を得る場合、めっき付着量は片面当たり7.9μmとなる。
上記銅ストライクめっきは、ピロリン酸銅:80g/L、ピロリン酸カリウム:300g/L、アンモニア水:3mL/Lを含み、P比:7、液温:55℃、pH:9の銅ストライクめっき浴を用い、陰極電流密度5A/dm2の条件で片面当たり厚さ0.3μmのめっき付着量とした。
上記電気銅めっき(本めっき)は、硫酸銅:210g/L、硫酸:45g/Lを含み、液温:40℃の銅めっき浴を用い、陰極電流密度10A/dm2の条件で行った。
なお、所定の銅被覆層厚さが得られているかどうかを確認するために、銅被覆層の目標厚さを0.5μmとして作製した銅被覆鋼箔をイオンミリング断面研磨した後、電子顕微鏡で観察し、銅被覆層厚さを測定した。測定試料採取位置は、圧延長手方向5mおきの3箇所とし、1試料につき3視野の観察を行った。その結果、3視野×3箇所=計9視野の測定データの最小値は0.42μm、最大値は0.55μmであり、平均値は0.48μmであった。すなわち、ここで行った箔圧延では、ほぼ目標通りの高精度な圧延が実現できていることが確認された。
〔ステンレス鋼の鋼シートを芯材とする銅被覆鋼箔の作製〕
《例b》上記の製造工程Aにより銅被覆鋼箔を作製した例を示す。
市販のSUS304、およびSUS430の冷延鋼帯(いずれもJIS G4305:2005相当の焼鈍材)を箔圧延機により冷間圧延して、板厚20μmの鋼箔を得た。この鋼箔の両面に、電気めっき設備にて、ニッケルストライクめっきおよび電気銅めっきを施すことにより、片面当たりの銅被覆層の平均厚さtCuが0.5μm、または0.05μmの銅被覆鋼箔を作製した。ニッケルストライクめっきの付着量は片面当たり約0.2μmである。1つの銅被覆鋼箔において、両面の銅被覆層厚さはほぼ均等とした。
《例c》上記の製造工程A2により銅被覆鋼箔を作製した例を示す。
市販のSUS304の冷延鋼帯(JIS G4305:2005相当の焼鈍材)を箔圧延機により冷間圧延して、板厚20μmの鋼箔を得た。この鋼箔の両面に、電気めっき設備にて、ニッケルストライクめっきおよび電気銅めっきを施すことにより、片面当たりの銅被覆層の平均厚さが0.5μmの銅被覆鋼箔(中間製品)を作製した。ニッケルストライクめっきの付着量は片面当たり約0.2μmである。この銅被覆鋼箔をさらに箔圧延機で圧延することにより銅被覆層を含めた平均厚さtが8.0μm、片面当たりの銅被覆層の平均厚さtCuが0.2μmの銅被覆鋼箔を得た。両面の銅被覆層厚さは均等とした。
《例d》上記の製造工程Cにより銅被覆鋼箔を作製した例を示す。
以下の化学組成を有する板厚0.684mm、板幅300mmのSUS430相当のフェライト系ステンレス鋼冷延鋼帯(焼鈍材)を用意した。
化学組成; 質量%で、C:0.058%、Al:0.009%、Si:0.56%、Mn:0.31%、P:0.021%、S:0.005%、Ni:0.20%、Cr:16.7%、Mo:0.32%、Cu:0.031%、N:0.030%、残部Feおよび不可避的不純物
また、以下の化学組成を有する厚さ18μm、幅300mmの圧延銅箔帯を2本用意した。
化学組成; 質量%で、O:0.0003%、P:0.0002%、残部Cuおよび不可避的不純物
上記のステンレス鋼冷延鋼帯および圧延銅箔帯を、それぞれ脱脂洗浄ラインを通板して圧延油を除去した後、ステンレス鋼冷延鋼帯を表裏から圧延銅箔帯で挟み込むように重ねて3層に配置し、連続式冷間圧接クラッド製造ラインに通板した。50%の冷間圧延率で圧接し、厚さ0.36mmの3層クラッド材を作製した。これをさらに箔圧延機で冷間圧延することにより銅被覆層を含めた平均厚さtが20μm、片面当たりの銅被覆層の平均厚さtCuが0.5μmの銅被覆鋼箔を得た。
《例e》上記の製造工程Cにより銅被覆鋼箔を作製した別の例を示す。
上記例dと同様の組成を有するSUS430相当のフェライト系ステンレス鋼冷延鋼帯および圧延銅箔帯を用意した。ステンレス鋼冷延鋼帯は板厚1.8mm、板幅300mmであり、圧延銅箔帯は厚さ38μm、幅300mmである。上記例dと同様の手法にて50%の冷間圧延率で3層クラッド材を作製した。これをさらに箔圧延機で冷間圧延することにより銅被覆層を含めた平均厚さtが100μm、片面当たりの銅被覆層の平均厚さtCuが2μmの銅被覆鋼箔を得た。
《例f》上記の製造工程Cにより銅被覆鋼箔を作製した別の例を示す。
上記例dと同様の組成を有するSUS430相当のフェライト系ステンレス鋼冷延鋼帯および圧延銅箔帯を用意した。ステンレス鋼冷延鋼帯は板厚0.5mm、板幅300mmであり、圧延銅箔帯は厚さ63μm、幅300mmである。上記例dと同様の手法にて50%の冷間圧延率で3層クラッド材を作製した。これをさらに箔圧延機で冷間圧延することにより銅被覆層を含めた平均厚さtが50μm、片面当たりの銅被覆層の平均厚さtCuが5μmの銅被覆鋼箔を得た。
《例g》上記の製造工程Dにより銅被覆鋼箔を作製した例を示す。
上記例dと同様の組成を有するSUS430相当のフェライト系ステンレス鋼帯(焼鈍材)および圧延銅箔帯を用意した。ステンレス鋼冷延鋼帯は板厚0.6845mm、板幅300mmであり、圧延銅箔帯は厚さ12μm、幅300mmである。前記ステンレス鋼冷延鋼帯を箔圧延機で冷間圧延して厚さ15μmの鋼箔帯とした。この鋼箔帯の両表面を前記圧延銅箔帯で挟み込んだ状態として連続式冷間圧接クラッド製造ラインにて38%の冷間圧延率で圧接し、銅被覆層を含めた平均厚さtが15μm、片面当たりの銅被覆層の平均厚さtCuが4.5μmの銅被覆鋼箔を得た。
〔電解液中での耐食性試験〕
上記の普通鋼、SUS304、SUS430の各鋼シートを芯材とする銅被覆鋼箔について、電解液中での耐食性を調べた。各銅被覆鋼箔から切り出した30×50mmサイズの試験片を使用した。試験片の端面には鋼シートの鋼素地が露出している。リチウムイオン二次電池用電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)を1:1の体積比で混合した溶媒中にLiPF6を1mol/L濃度で溶解させた液を用意した。ガス循環精製機付グローブボックスを使用し、酸素および水分濃度がそれぞれ1ppm以下に保持されたグローブボックス内で、試験片を25℃の上記電解液に4週間浸漬させた。耐食性評価は、浸漬試験前後における試験片の質量測定、および電解液中に溶解したFeおよびCuのICP−AES定量分析によって行った。
その結果、各試験片とも、浸漬試験の前後で有意な質量変化は認められなかった。また、各試験片を浸漬した電解液中のFeおよびCu濃度は、いずれもICP−AES分析の検出下限未満(1ppm未満)であり、定量することはできなかった。すなわち、電解液中へのFeおよびCuの溶解は認められなかった。このことから、上記各銅被覆鋼箔はリチウムイオン二次電池用電解液中で良好な耐食性を呈することが確認された。
〔引張試験〕
銅めっき工程を経て作製された上記銅被覆鋼箔(例a、bにより作製されたtCu=0.5μmの本発明材)、市販の銅箔(比較材)、および市販のアルミニウム箔(比較材)について、万能精密引張試験機を用いて引っ張り試験を行った。試験片寸法は幅12.7mm、長さ175mmであり、圧延方向を長手方向とした。初期のチャック間距離は125mmとし、引張速度2mm/minで破断するまで引張試験を行い、最大荷重を試験片の初期断面積(実測値)で除することにより引張強さを求めた。各材料とも試験数n=3で実施し、その平均値をその材料の引張強さとした。結果を表1に示す。
Figure 0005306549
本発明の対象である銅被覆鋼箔は、現行リチウムイオン二次電池の負極集電体に使用されている銅箔や、同正極集電体に使用されているアルミニウム箔と比較して、極めて強度が高いことがわかる。銅被覆鋼箔の強度は、製造過程での冷間圧延率によって種々のレベルにコントロールすることができる。表1に示した銅被覆鋼箔の引張強さはそれぞれ一例であるが、450〜900MPaの範囲で調整可能であることが別途確認されている。発明者らの検討によれば、鋼シートとして種々の鋼種を用いた場合に引張強さ600MPa超え、あるいはさらに650MPa以上の銅被覆鋼箔を得ることは既存の圧延技術を利用して十分に可能である。
〔負極用電極試料の作製〕
負極活物質として黒鉛粉末90質量部、導電助剤としてアセチレンブラック5質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン5質量部を混合し、この混合物をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリー状とすることにより活物質含有塗料を得た。この塗料を実施例1で作製した各銅被覆鋼箔および厚さ20μmの銅箔の片面に塗布して炭素系活物質含有塗膜を形成させた。塗膜を乾燥させた後、活物質層の密度を向上させるためにロールプレスを行って炭素系活物質層を形成させ、負極用電極試料を得た。ロールプレスは、ロールから材料に付与されるロール軸方向(材料の板幅方向)単位長さ当たりの荷重(「線圧」という)が1tonf/cm(980kN/m)と2tonf/cm(1960kN/m)の2条件で実施した。ここでは、金属箔の片面のみに負極活物質層を有する負極集電体試料を得たが、両面に活物質層を形成させる場合でも、活物質層の密度に及ぼす線圧の影響は、片面のみに形成させる場合と基本的に同様となる。線圧および前述(1)式により定まる塗膜厚さ減少率を表2中に示してある。
〔活物質層密度の測定〕
負極用電極試料をイオンミリング断面研磨した後、CCDカメラを備えた光学顕微鏡で観察し、このCCDカメラで撮影した断面組織のデジタル画像を基に炭素系活物質層の厚さを測定した。1試料につき3視野の観察を行って活物質層平均厚さを算出した。また、負極用電極試料から直径35mmの円形試料を打ち抜き、その円形試料の質量を測定した。その後、その円形試料をN−メチル−2−ピロリドン溶液に1週間浸漬させることにより試料表面の炭素系活物質層を完全に剥離させ、剥離後の試験片の質量を測定した。剥離前後の質量差と、上記の活物質層平均厚さの測定値を用いて、活物質層の密度を求めた。結果を表2中に示してある。
〔放電容量の評価〕
上記の各負極用電極試料から直径15.958mm(面積2cm2)の円形の小片を打ち抜き、これを放電容量測定用試験片とした。ガス循環精製機付グローブボックスを使用し、酸素および水分濃度がそれぞれ1ppm以下に保持されたグローブボックス内で、作用極、参照極、対極を持つ一般的な3電極式の試験セルを構成した。試験セル筐体には宝泉株式会社製のHS−3Eを用いた。上記の放電容量測定用試験片を作用極としてセットし、参照極および対極にはそれぞれ金属リチウム箔を使用した。作用極と参照極との間、および対極と参照極との間を仕切るセパレータとして、ポリプロピレン製微多孔膜(厚さ25μm)を使用した。電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)を1:1の体積比で混合した溶媒中にLiPF6を1mol/L濃度で溶解させた液を使用した。
各試験セルについて、活物質が有する理論容量を計算で求めた。次に、[理論容量(mAh)]/5(h)で示される電流値を用いて完全充電した後、同じ電流値で放電を行った。このときの放電容量を各試験セルの[電池容量(mAh)]とした。引き続き、0.5CmAの一定の充電率で完全充電した後、1.0CmAの一定の放電率で放電するサイクルを10サイクル繰り返し、10サイクル目の活物質層単位体積当たりの放電容量Q10を測定した。試験温度は25℃である。ここで、充電率および放電率は下記(2)式および(3)式によって表される。
[充電率(CmA)]=[電池容量(mAh)]/[充電時間(h)] …(2)
[放電率(CmA)]=[電池容量(mAh)]/[放電時間(h)] …(3)
放電容量の評価は、金属箔として銅箔を使用した負極用電極試料(表2中のNo.12)を標準試料とし、下記(4)式で定義される放電容量比率によって行った。
[放電容量比率]=[評価対象試料の上記Q10]/[標準試料の上記Q10] …(4)
結果を表2に示す。
Figure 0005306549
表2中の比較例No.12は、金属箔として従来から使用されている銅箔を用いて、中伸びが生じる程度の強いロールプレスを行うことによって活物質層の高密度化を図ったものであり(標準試料)、従来一般的なリチウムイオン二次電池の負極用電極と比べると活物質層密度については向上している。比較例No.13は、金属箔としてNo.12と同じ銅箔を用い、さらに強いロールプレスを試みたものであるが、銅箔は強度が低いためにロールプレス工程で材料の破断が生じた。
表2中の本発明例は、厚さ0.02μm以上の銅被覆層を表面に持つ銅被覆鋼箔を用いて、比較例No.12(標準試料)と同等以上の強いロールプレスを行うことによって活物質層の高密度化を図ったものである。これらはいずれも集電体としての良好な形状が得られた。中でも、銅箔では破断が生じるような強いロールプレスを行ったもの(No.1〜5、8〜11、14〜18)では、活物質層の密度がさらに向上し、それに伴って放電容量も顕著に増大した。
一方、銅被覆鋼箔のうち、比較例No.6は銅被覆層の厚さtCuが過小であったため放電容量に劣った。
1 金属箔
2 塗膜
3 ロール
4 活物質層
5 未塗布部
6 鋼シート
7 銅被覆層
10 銅被覆鋼箔
40 高密度化された負極活物質層

Claims (2)

  1. 鋼シートを芯材に持ち、その両面に片面当たりの平均膜厚tCuが0.02〜5.0μmの銅被覆層を持ち、銅被覆層を含めた平均厚さtが3〜100μmであり、かつtCu/tが0.3以下である銅被覆鋼箔の少なくとも一方の銅被覆層の表面上に、リチウムイオン二次電池負極用の炭素系活物質を含有する塗膜を形成する工程、
    前記塗膜が乾燥した後、ロールプレスによって塗膜厚さを30〜70%減じることにより塗膜を高密度化する工程、
    を有するリチウムイオン二次電池の負極用電極の製法。
  2. 鋼シートを芯材に持ち、その両面に片面当たりの平均膜厚tCuが0.02〜5.0μmの銅被覆層を持ち、銅被覆層を含めた平均厚さtが3〜100μmであり、かつtCu/tが0.3以下である銅被覆鋼箔の少なくとも一方の銅被覆層の表面上に、リチウムイオン二次電池負極用の炭素系活物質を含有する塗膜を形成する工程、
    前記塗膜が乾燥した後、ロールプレスによって塗膜の密度を1.80g/cm3以上に高密度化する工程、
    を有するリチウムイオン二次電池の負極用電極の製法。
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