JP5283183B2 - 金属製品の表面仕上げ方法 - Google Patents
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Description
係るショットピーニング加工は、粒径が0.05〜1.0mmの鋼球を用いて1〜3回若しくはそれ以上の処理工程で行っている。
自動車用トランスミッションのギヤのように、常時大きな曲げ応力及び捩じり応力を受けるような金属製品では、切削加工した金属表面の曲げ・捩じり疲労強度を向上させるだけではなく、摺動部である表面の摩擦係数や磨耗量の低減が求められている。自動車用トランスミッションのギヤ等では、高速回転時には油膜切れが生じる場合があり、そのような場合には磨耗係数が増大して接触表面が引っ張られてクラッキングが生じ易いため、摺動部である表面の摩擦係数や磨耗量の低減が要請されているのである。
従来技術(特許文献1)では、表面硬化処理の後、第1段階では粒径が0.8〜1.0mmの鋼球を用いて歯元フィレット部にショットピーニング加工を施し、第2段階では、0.3〜0.8mmの鋼球を用いて表面の平滑化と圧縮残留応力及び表面硬さの向上を行っている。しかし、この2回に分けたショットピーニングは、鋼球の大きさに大きな差が無い。そして、疲労強度の向上や、摩擦係数及び磨耗量の低減という効果を奏していない。
図12は、加工対象物に粒径が0.6〜0.8mmを用いてショットピーニングを施した場合の、処理面の表面からの深さとその深さでの残留応力の大きさを特性曲線σAとして示している。
また、図13は、加工対象物に粒径が0.05〜0.2mmを用いてショットピーニングを施した場合の、処理面の表面からの深さとその深さでの残留応力の大きさを特性曲線σBとして示している。
図12、図13を比較して明らかなように、粒径が大きい場合(図12)は、主として表面よりも内部に残留圧縮応力が生じており、一方、粒径が小さい場合(図13)は、表面に近い領域に大きな残留圧縮応力が生じている。
本発明は、係る知見に基づいて提案されたものである。
そして、第2のショットピーニングを行うショットの粒径は0.3mm以下、好ましくは0.05mm〜0.2mmである。
ここで、第1のショットピーニング(S1)に際しては、粒径が大きなショットが用いられるので、残留圧縮応力のピークが金属製品の表面よりも内側の領域で生じる。
それに加えて本発明では、第1のショットピーニング(S1)で用いられたショットよりも小径のショットにより第2のショットピーニング(S2)が行われ、第2のショットピーニングによる残留圧縮応力のピークは金属製品の表面近傍に生じる。その結果、本発明によれば、金属製品の表面よりも内側の領域の残留圧縮応力に加えて、表面近傍の残留圧縮応力が高くなるため、金属製品の曲げ・ねじり疲労強度が、より一層向上する。
すなわち、本発明によれば、金属製品の曲げ・ねじり疲労強度の向上とともに、摩擦係数の低下が図られ、耐摩耗性が向上する。
長時間高負荷で稼動する金属部品、例えば、自動車のトランスミッション用ギヤ等では、歯元に常時大きな曲げとねじり及び転動(ピッチング)が同時に作用している。
例えば自動車のトランスミッション用ギヤのように、常時大きな曲げとねじりが作用する金属製品に対して、または、噛み合う歯の接触面に転動(ピッチング)が同時に作用する金属部品に対して、図示の実施形態は適用される。
図1のステップS1では、例えば、機械加工によって成形された自動車のトランスミッション用ギヤに、第1のショットピーニングが施される。
第1のショットピーニングに使用するショットは鋼球であり、その粒径は比較的大きく、例えば0.4〜1.0mmの範囲から設定される。
第2のショットピーニングで使用されるショットは、潤滑性のある素材、例えば、固体潤滑材として用いられる錫、亜鉛、モリブデン、フッ素樹脂の内の何れかの粒体である。そして、第2のショットピーニングで使用されるショットの粒径は比較的小さく、例えば0.3mm以下である。
或いは、第2のショットピーニングに使用するショットは、鋼球に、潤滑性のある素材、例えば、固体潤滑材として用いられる錫、亜鉛、モリブデン、フッ素樹脂の内の何れかをコーティングしたものであり、その粒径は、例えば0.3mm以下である。
図2〜図5は、実験例1を示している。
実験例1では、金属製品として自動車のトランスミッション用ギヤを選択し、粒径0.8mmの鋼球を用いて1回目のショットピーニングを施し、その後、粒径0.2mmの錫の粒子により2回目のショットピーニングを施している。
実験例1の説明に先立って、粒径の異なる2種類の鋼球を用いたショットピーニングを行った場合において、自動車のトランスミッション用ギヤの表面からの深さと残留応力との関係を示す図2について、説明する。
図2及び図3で示す実験で使用された金属製品の材質としては、JIS G 4054におけるSCM420Hに浸炭焼入れを行ったものと、SCr420Hに浸炭焼入れを行ったものが選択されている。
特性線σBは、粒径0.2mmの鋼球(粒径が小さい鋼球)をショットして用いたショットピーニングを施した場合において、金属製品の表面からの深さと残留応力との関係を示している。
特性線σC線は、粒径0.8mmの鋼球をショットとして用いたショットピーニングを施した後、粒径0.2mmの鋼球をショットとして用いたショットピーニングを施した場合において、金属製品の表面からの深さと残留応力との関係を示している。
このことから、大径のショットを用いたショットピーニング(S1)の後、それよりも小径のショットによるショットピーニング(S2)を行えば、残留圧縮応力のピークは金属製品の表面近傍に生じることが明らかである。このことは、図示の実施形態によれば、金属製品の表面よりも内側の領域の残留圧縮応力に加えて、表面近傍の残留圧縮応力が高くなるため、金属製品の曲げ・ねじり疲労強度が、より一層向上することを意味している。
なお、図2及び後述の図3において、縦軸のマイナス(−)は、圧縮応力であることを示している。
図3では、実験例1に係るショットピーニングを施した自動車のトランスミッション用ギヤにおいて、表面からの深さと、残留応力との関係が、特性線σdで示されている。
図3における特性線σaは、ショットピーニングを行わなかった金属片における、表面からの深さと残留応力との関係である。
図3から明らかなように、実験例1に係る自動車のトランスミッション用ギヤでは、ギヤの表面から、表面からの深さ150μmに至る領域において、十分な圧縮残留応力が得られている(特性線σd参照)。
図4において、実験例1に係る自動車のトランスミッション用ギヤの疲労特性が符号NAで示されている。
また図4では、比較対象として、第1のショットピーニング(粒径0.8mmの鋼球によるショットピーニング)のみを施したサンプルの疲労特性NBと、ショットピーニングを行わない浸炭焼入れ材料のサンプルNCも示している。
図4から明らかなように、実験例1に係る自動車のトランスミッション用ギヤの疲労特性NAは、比較例NB、NCを上回っており、実験例1に係る表面処理を施した場合に疲労強度が向上している。
図5において、比較例(鋼球ショット)の摩擦係数が約0.45であるのに対して、実験例1(錫ショット)では約0.14であり、摩擦係数が大幅に低減している。
なお、固体潤滑材として、錫に代えて、亜鉛、モリブデン、フッ素樹脂を用いた場合でも、摩擦係数が大幅に減少することが、図示しない実験により確認されている。
そして、第2のショットの潤滑性の高い材料、錫が金属表面に付着し、付着した錫によって摩擦係数および摩耗量が大幅に低減して、耐摩耗性が向上した
図6〜図8は、実験例2を示している。
実験例1では、第2回目のショットピーニングに用いるショットとして、粒径0.2mmの錫の粒子を用いている。
これに対して、実験例2では、第2回目のショットピーニングに用いるショットとして、錫をコーティングした粒径0.2mmの鋼球を用いている。
実験例2においても、試験サンプルとしては、実験例1と同素材の自動車のトランスミッション用ギヤが選択されている。
図6の特性線σfと図3の特性線σdとを比較すれば、実験例2においても実験例1と同程度の圧縮残留応力が得られている。
図7においても、比較対象として、粒径0.8mmの鋼球によるショットピーニングのみを施したサンプルの疲労強度特性(符号NB)と、ショットピーニングを施していない浸炭焼入れ材料の疲労強度特性(符号NC)とを示している。
図7から明らかなように、実験例2を施した自動車のトランスミッション用ギヤの疲労強度(特性NF)は、比較対象(特性NB、NC)を上回っている。
このことから、実験例2の表面処理を施せば、疲労強度が向上することが確認された。
図8によれば、比較例(粒径0.8mmの鋼球によるショットピーニングのみ)の摩擦係数が約0.45であるのに対して、第2実験例では、約0.16であり、やはり摩擦係数が大幅に低減している。
なお、粒径0.2mmの鋼球にコーティングする固体潤滑材を、錫に代えて、亜鉛、モリブデン、フッ素樹脂を用いた場合でも、摩擦係数が大幅に減少することが、図示しない実験により確認されている。
実験例3では、表面処理の対象である金属の硬度がHRC45以下では、疲労強度の向上と、摩擦係数の低減という効果が殆ど発揮されないことを確認した。
図9〜図11は、係る実験例3を示している。
図9は、自動車の緩衝用バネ鋼材(硬度:HRC39)に対して、鋼球0.8mmの鋼球により第1のショットピーニングを施工した後、鋼球0.2mmの錫の粒子をショットにして第2のショットピーニングを施した場合における、自動車の緩衝用バネ鋼材表面からの深さと、残留応力の大きさとの関係を示している(特性線σe)。
図9及び上表から明らかなように、実験例3では、自動車の緩衝用バネ鋼材表面の圧縮残留応力は上昇していない。
したがって、疲労強度は向上しないことが理解出来る。
図10では硬さはHRC39であり、図11では硬さはHRC42であった。
このことから、第1及び第2のショットピーニングを施す前の段階においても、自動車の緩衝用バネ鋼材の硬さは、HRC45未満であることが推定できる。
Claims (1)
- 金属製品における機械加工した金属表面に粒径が大きい鋼球のショットにより第1のショットピーニングを行う工程と、第1のショットピーニングを施した金属表面に第1のショットピーニングで用いたショットよりも小径で且つ潤滑性のある材質のショットにより第2のショットピーニングを行う工程とを有する金属製品の表面仕上げ方法において、第1のショットピーニングでは粒径0.5〜0.8mmの鋼球を使用し、第2のショットピーニングでは粒径0.05〜0.2mmの鋼球に錫、亜鉛、フッ素樹脂の何れかをコーティングしたものを使用することを特徴とする金属製品の表面仕上げ方法。
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