JP2022099521A - 表面硬化鋼部品及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】面疲労強度及び曲げ疲労強度の両方に優れた表面硬化鋼部品及びその製造方法を提供しようとすること。【解決手段】鋼部品に、表面硬化処理及び機械加工を行った後、表面から200μm位置までの範囲における、圧縮残留応力値の最大値が1000MPa以上であると共に、最小値が200MPa以上となるようショットピーニングを行い、さらに、圧縮残留応力値が上記範囲内で維持されるとともに、JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaが0.2μm以下であり、かつ十点平均粗さRzjisが0.6μm以下である表面粗さが得られるように、バレル研磨加工を行う。表面硬化処理は、浸炭焼入れ処理、浸炭浸窒焼入れ処理のいずれかであることが好ましい。鋼部品は、例えば、歯車である。【選択図】なし
Description
本発明は、表面硬化鋼部品及びその製造方法に関する。
自動車のCO2排出量低減のために、車両重量の軽量化による燃費向上を図るべく、自動車に用いられる鋼部品の小型・軽量化が求められている。小型・軽量化により、鋼部品への負荷が増大するため、高強度化が必要不可欠となる。例えば、歯車に対する要求は、近年益々高まり、歯面強度及び歯元曲げ強度の更なる向上が求められている。歯車部品の高強度化のために、表面硬化熱処理(浸炭焼入れ等)の実施、表面硬化処理後の疲労強度向上のためのショットピーニングの実施等が行われる。
また、例えば歯車においては、高強度化だけでなく低NV(騒音・振動)化のニーズも高いため、表面硬化熱処理後に歯面研削等が実施される。歯面研削後、曲げ疲労強度向上のためショットピーニング処理を実施すると、歯車表面が塑性変形を生じ、表面の硬さは増すものの、無数のくぼみに覆われた状態となって面粗度が大きくなる。これにより、接触面上の局所負荷が高まり、歯面表面の凝着及び摩耗を促進し、曲げ疲労強度の向上には効果があるものの、歯面疲労寿命の低下につながる。
例えば、特許文献1では、ショット粒の粒径の異なる2種類のショットピーニング工程の間に研磨処理を行って表面粗さの調整を図る技術が示されている。しかしながら、この技術では、得られる最終的な表面粗さは、Rzで1.2~2.4μmであり、未だ十分とは言えず、歯面表面の凝着及び摩耗を生じ面疲労強度低下の原因となる可能性があるとともに、低NV化の観点からもあまり好ましくない。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、面疲労強度及び曲げ疲労強度の両方に優れた表面硬化鋼部品及びその製造方法を提供しようとするものである。
本発明の一態様は、鋼部品に、
表面硬化処理及び機械加工を行った後、
表面から200μm位置までの範囲における、圧縮残留応力値の最大値が1000MPa以上であると共に、最小値が200MPa以上となるようショットピーニングを行い、
さらに、圧縮残留応力値が上記範囲内で維持されるとともに、JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaが0.2μm以下であり、かつ十点平均粗さRzjisが0.6μm以下である表面粗さが得られるように、バレル研磨加工を行う、表面硬化鋼部品の製造方法にある。
表面硬化処理及び機械加工を行った後、
表面から200μm位置までの範囲における、圧縮残留応力値の最大値が1000MPa以上であると共に、最小値が200MPa以上となるようショットピーニングを行い、
さらに、圧縮残留応力値が上記範囲内で維持されるとともに、JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaが0.2μm以下であり、かつ十点平均粗さRzjisが0.6μm以下である表面粗さが得られるように、バレル研磨加工を行う、表面硬化鋼部品の製造方法にある。
本発明の他の態様は、上記製造方法により製造され、
表面から200μm位置までの範囲における、圧縮残留応力値の最大値が1000MPa以上であると共に、最小値が200MPa以上であり、
JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaが0.2μm以下であり、かつ十点平均粗さRzjisが0.6μm以下である表面粗さを有する、表面硬化鋼部品にある。
表面から200μm位置までの範囲における、圧縮残留応力値の最大値が1000MPa以上であると共に、最小値が200MPa以上であり、
JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaが0.2μm以下であり、かつ十点平均粗さRzjisが0.6μm以下である表面粗さを有する、表面硬化鋼部品にある。
上記表面硬化鋼部品の製造方法においては、表面硬化処理及び機械加工を行った後に行うショットピーニングについて、上記特定の圧縮残留応力条件を満足するよう行い、さらに、その後に、上記特定の圧縮残留応力条件を満足しつつ上記特定の表面粗さが得られるようにバレル研磨加工を追加する。これにより、得られた鋼部品は、表面硬化層を備えるとともに、面疲労強度及び曲げ疲労強度の両方に優れたものとすることができ、低NV化へのニーズへも適切に対応することができる。
上記表面硬化鋼部品の製造方法における鋼部品の表面硬化処理としては、公知の浸炭焼入れ処理、浸炭浸窒焼入れ処理等を採用することができる。これらの処理により、鋼部品表面には、浸炭層あるいは浸炭浸窒層等からなる表面硬化層を形成することができる。浸炭処理は、いわゆる減圧(真空)浸炭処理、通常のガス浸炭処理、その他公知の種々の方法を用いることができる。また、浸窒処理についても、大気圧あるいは減圧状態でアンモニアガスを用いて行う方法等を用いることができる。焼き入れ処理は、浸炭処理の後、あるいは、浸炭処理及び浸窒処理の後、直接鋼部品を油中等に投入して急冷することによって行う。また、焼入れ処理後は、通常は、焼戻し処理が施される。
鋼部品に表面硬化処理及び機械加工の後に行うショットピーニングは、表面から200μm位置までの範囲における、圧縮残留応力値の最大値が1000MPa以上であると共に、最小値が200MPa以上となる条件で行う。具体的には、投射材の形状や大きさの選定、1段階又は2段階以上の複数回の条件の異なるショットピーニングの組み合わせなどによって、上記の圧縮残留応力値を実現することができる。
例えば、2段階のショットピーニングを行う場合には、1段目のショットピーニングに用いる投射材を、2段目のショットピーニングに用いる投射材よりも大きいものを用いることが好ましい。具体的には、投射材が球状であれば、1段目のショットピーニングの投射材の粒径範囲はφ0.3mm~φ1.2mmとし、2段目の投射材の粒径はφ0.05mm~φ0.6mmの範囲から選択することができる。2段目の投射材を1段目に比べ小さいものを用いることによって、圧縮の残留応力付与の効果を維持しつつ、ショットピーニング処理により表面粗さが大きくなることを抑制することができる。
投射材の材質は公知の種々のものを用いることができる。投射材としては、圧縮の残留応力向上効果をより効果的に得るために、鋼部品の表面硬さよりビッカース硬さにおいて100~200HV程度硬い材料を選定するのが好ましい。そして、同様の理由から、具体的な投射材の硬さは、600~1200HVが好ましく、より好ましくは、750~900HV程度がよい。
なお、ショットピーニングの条件は、上述した2段階の方法に限らず、上記の範囲の圧縮残留応力値が得られるのであれば変更可能である。
上記ショットピーニングの後に行うバレル研磨加工は、上記特定の範囲の圧縮残留応力の状態を維持しつつ、JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaが0.2μm以下であり、かつ十点平均粗さRzjisが0.6μm以下である表面粗さとなるように行う。
バレル研磨の方法は、湿式、乾式のいずれかに限定するものではないが、乾式法の場合、研磨剤(メディア)と加工物の間に発生する熱により表面性状の悪化や残留応力の低下の懸念があるため、湿式方法で行う方が好ましい。
また、バレル研磨を行う際においては、前記した通り、ショットピーニングによって付与した圧縮の残留応力の値が上記特定の範囲内で維持されるように、上記表面粗さが満足することを条件に、研磨量は少なめとすることが好ましい。具体的には、15μm以下程度とすることが好ましい。
また、バレル研磨加工工程は1工程によって仕上げ加工としてもよいし、粗加工と仕上げ加工に分けて2工程としてもよい。少なくとも、仕上げ加工に用いる研磨剤は、粗加工で用いられるものよりも小さいものを使用する。
また、仕上げ加工に使用する研磨剤の形状が鋭利な箇所を含むものだった場合(例えば断面三角形の形状を有し角部が面取りされてない形状のものなど)、研磨後の加工物表面に擦過傷が発生し、局所的な表面性状の悪化を引き起こし、切削加工時の送りマークのようにピッチングの起点となる可能性がある。そのため、研磨剤の外形状は、好ましくは球状、円筒状のものなどが好ましい。
以上説明した通り、上記鋼部品は、表面硬化層を備えるとともに、高い圧縮の残留応力を保ちつつ、低い表面粗さとなるように調整しているので、面疲労強度及び曲げ疲労強度の両方について、同時に優れたものとすることが期待できるため、特に、歯車の場合に有効である。
また、上記鋼部品は、強度改善のポイントは化学成分に依存するものではなく、高い圧縮残留応力を得つつ、その応力を大きく下げないように表面粗さを低くすることにあるため、既存の肌焼鋼の中の特定の化学成分の鋼に限定されることなく効果を得ることができるが、特に以下に示す化学成分組成からなる鋼に適用すると、高い効果を得ることができる。以下、その成分範囲について、詳細に説明する。
すなわち、質量%において、C:0.15~0.30%、Si:0.05~1.20%、Mn:0.20~1.50%、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cr:0.30~2.00%、Mo:1.00%以下(0%を含む)、Al:0.020~0.060%、N:0.0080~0.0250%、Nb:0.20%以下(0%を含む)を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる化学成分組成を有する鋼に前記製造方法を適用することが好ましい。以下に、上記化学成分組成を採用する場合の各元素の含有範囲の限定理由について説明する。
C:0.15~0.30%;
C(炭素)は、焼き入れ後の必要な内部硬さを確保するために0.15%以上含有させる。一方、C含有率が高すぎると、被削性の劣化や冷鍛性の劣化を招くおそれがあるため、0.30%以下とする。
C(炭素)は、焼き入れ後の必要な内部硬さを確保するために0.15%以上含有させる。一方、C含有率が高すぎると、被削性の劣化や冷鍛性の劣化を招くおそれがあるため、0.30%以下とする。
Si:0.05~1.20%;
Si(ケイ素)は製鋼時の脱酸に必要な元素であり、0.05%以上含有させる。一方、Si含有率が高すぎると、被削性の低下や冷鍛性の劣化を招くおそれがあるため、1.20%以下とする。
Si(ケイ素)は製鋼時の脱酸に必要な元素であり、0.05%以上含有させる。一方、Si含有率が高すぎると、被削性の低下や冷鍛性の劣化を招くおそれがあるため、1.20%以下とする。
Mn:0.20~1.50%;
Mn(マンガン)は、焼入れ性向上に有効な元素であり、その効果を確保するために0.20%以上含有させる。一方、Mn含有率が高すぎると、所定の部品形状への機械加工性向上のため、焼き鈍しを行った際に、硬さが十分に下がらず、必要な加工性を確保しにくくなるため、1.50%以下とする。
Mn(マンガン)は、焼入れ性向上に有効な元素であり、その効果を確保するために0.20%以上含有させる。一方、Mn含有率が高すぎると、所定の部品形状への機械加工性向上のため、焼き鈍しを行った際に、硬さが十分に下がらず、必要な加工性を確保しにくくなるため、1.50%以下とする。
P:0.035%以下;
P(リン)は、不純物として含有されるものの、含有率が高すぎると、粒界に偏析して曲げ疲労強度低下の原因となるため、0.035%以下とする。
P(リン)は、不純物として含有されるものの、含有率が高すぎると、粒界に偏析して曲げ疲労強度低下の原因となるため、0.035%以下とする。
S:0.035%以下;
S(硫黄)は、不純物として含有されるものの、含有率が高すぎると、硫化物系介在物が増加して疲労強度低下の原因となるため、0.035%以下とする。
S(硫黄)は、不純物として含有されるものの、含有率が高すぎると、硫化物系介在物が増加して疲労強度低下の原因となるため、0.035%以下とする。
Cr:0.30~2.00%;
Cr(クロム)は、焼入れ性向上に有効な元素であり、その効果を確保するために0.30%以上含有させる。一方、Cr含有率が高すぎると、Mnと同様に機械加工性向上のための焼き鈍しを行っても、硬さが十分に下がらず、必要な加工性を確保しにくくなるため、2.00%以下とする。
Cr(クロム)は、焼入れ性向上に有効な元素であり、その効果を確保するために0.30%以上含有させる。一方、Cr含有率が高すぎると、Mnと同様に機械加工性向上のための焼き鈍しを行っても、硬さが十分に下がらず、必要な加工性を確保しにくくなるため、2.00%以下とする。
Mo:1.00%以下(0%を含む);
Mo(モリブデン)は、任意添加元素であり、焼入性、浸炭異常層低減等の効果があるため、必要に応じ適量を添加することができる。しかし、その含有率が高すぎると、コスト高になるとともに、Mn、Crと同様に、焼き鈍しを行っても、硬さが十分にさがらず、必要な加工性を確保しにくくなるため、1.00%以下とする。なお、原料としてスクラップを用いて製造した場合には、不純物としてMoが0.05%以下程度含有されることがあるが、これは十分に許容される。
Mo(モリブデン)は、任意添加元素であり、焼入性、浸炭異常層低減等の効果があるため、必要に応じ適量を添加することができる。しかし、その含有率が高すぎると、コスト高になるとともに、Mn、Crと同様に、焼き鈍しを行っても、硬さが十分にさがらず、必要な加工性を確保しにくくなるため、1.00%以下とする。なお、原料としてスクラップを用いて製造した場合には、不純物としてMoが0.05%以下程度含有されることがあるが、これは十分に許容される。
Al:0.020~0.060%;
Al(アルミニウム)は、AlNを形成して、ピン止め効果により結晶粒粗大化を抑制する効果があるため、0.020%以上含有させる。一方、Alは、含有率が高すぎると、ピン止め効果が飽和するとともに、粗大なアルミナ系介在物の増加により疲労強度の低下のおそれがあるため、0.060%以下とする。
Al(アルミニウム)は、AlNを形成して、ピン止め効果により結晶粒粗大化を抑制する効果があるため、0.020%以上含有させる。一方、Alは、含有率が高すぎると、ピン止め効果が飽和するとともに、粗大なアルミナ系介在物の増加により疲労強度の低下のおそれがあるため、0.060%以下とする。
N:0.0080~0.0250%;
N(窒素)は、AlNを形成して、ピン止め効果により結晶粒粗大化を抑制する効果があるため、0.0080%以上含有させる。一方、N含有率が高すぎると、ピン止め効果が飽和するとともに、ひずみ時効による加工性低下のおそれがあるため、0.0250%以下とする。
N(窒素)は、AlNを形成して、ピン止め効果により結晶粒粗大化を抑制する効果があるため、0.0080%以上含有させる。一方、N含有率が高すぎると、ピン止め効果が飽和するとともに、ひずみ時効による加工性低下のおそれがあるため、0.0250%以下とする。
Nb:0.20%以下(0%を含む);
Nb(ニオブ)は、任意添加元素であるが、炭窒化物を形成して、ピン止め効果により結晶粒粗大化を抑制する効果があるため、必要に応じ添加することができる。一方、Nb含有率が高すぎると、コスト高となるとともに効果が飽和するので、0.20%以下とする。
Nb(ニオブ)は、任意添加元素であるが、炭窒化物を形成して、ピン止め効果により結晶粒粗大化を抑制する効果があるため、必要に応じ添加することができる。一方、Nb含有率が高すぎると、コスト高となるとともに効果が飽和するので、0.20%以下とする。
次に、上記製造方法により得られた表面硬化鋼部品は、上記特定の条件のショットピーニング及びバレル研磨加工を施した後において、表面から200μm位置までの範囲における、圧縮残留応力値の最大値が1000MPa以上であると共に、最小値が200MPa以上であり、JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaが0.2μm以下であり、かつ十点平均粗さRzjisが0.6μm以下である表面粗さを有する、表面硬化鋼部品となる。そして、この特性を具備していることにより、面疲労強度及び曲げ疲労強度の両方共に優れたものとなる。
ポイントとなるのは、ショットピーニング処理により付与した圧縮の残留応力を大きく低下させない範囲で、バレル研磨により表面粗さの値を前記した範囲内となるように処理することである。バレル研磨時の研磨量が少なすぎると、表面粗さが適正な値まで低下せず、逆に多すぎると表面粗さは低下するが、圧縮の残留応力も低下して、面疲労強度は改善しても曲げ疲労強度が低下することになる。この適切な調整が本製造方法にとって最も重要である。
(実施例1)
上記表面硬化鋼部品及びその製造方法に係る実施例について説明する。
本例では、表1に示すごとく、化学成分が異なる6種類の鋼材(鋼種1~6)を用いて表面硬化鋼からなる試験片を作製し、各種評価試験(試験No.A1~A15)を行った。なお、この6種類の鋼材は、前記した本発明の条件を満足するものとなっている。また、鋼種No.4は、Moを積極添加した鋼ではなく、不純物として含有する鋼である。
上記表面硬化鋼部品及びその製造方法に係る実施例について説明する。
本例では、表1に示すごとく、化学成分が異なる6種類の鋼材(鋼種1~6)を用いて表面硬化鋼からなる試験片を作製し、各種評価試験(試験No.A1~A15)を行った。なお、この6種類の鋼材は、前記した本発明の条件を満足するものとなっている。また、鋼種No.4は、Moを積極添加した鋼ではなく、不純物として含有する鋼である。
<回転曲げ疲労試験片の作製>
上記各鋼材からなる丸棒鋼を準備し、当該丸棒鋼から機械加工により、平行部直径φ10mmであって、平行部にこれと直角方向の深さ1mmの切欠き(切欠き係数:1.78)を全周にわたって設けた回転曲げ疲労試験片を作製した。その後、これらの試験片に対して、表面硬化処理の後、焼戻し処理を施し、その後所定の条件でショットピーニングを施した。さらに、バレル研磨加工を施して回転曲げ疲労試験片とした。
上記各鋼材からなる丸棒鋼を準備し、当該丸棒鋼から機械加工により、平行部直径φ10mmであって、平行部にこれと直角方向の深さ1mmの切欠き(切欠き係数:1.78)を全周にわたって設けた回転曲げ疲労試験片を作製した。その後、これらの試験片に対して、表面硬化処理の後、焼戻し処理を施し、その後所定の条件でショットピーニングを施した。さらに、バレル研磨加工を施して回転曲げ疲労試験片とした。
「表面硬化処理」は、後述する表2に示すように、「ガス浸炭」処理又は「減圧浸炭浸窒」処理のいずれかを採用した。
「ガス浸炭」処理は、プロパンガス及びプロパンガスの変成ガスにより、浸炭処理温度950℃で150分間浸炭処理をし、続けて850℃に降温して30分間保持した後、130℃の油に投入して焼入れを行った。その後、150℃で60分間焼戻し処理を施した。
「減圧浸炭浸窒」処理は、アセチレンを用いて、1030Paの減圧条件で、浸炭処理温度950℃で45分間浸炭処理をし、続けて950℃のままアンモニアを用いて大気圧の圧力条件で60分間浸窒処理を行った後、その温度のまま130℃の油に投入して焼入れを行った。その後、150℃で60分間焼戻し処理を施した。
「ショットピーニング」処理は、2段階のショットピーニングを常温で施した。第1段のショットピーニングは、投射材として硬度:800HV、粒径:φ0.6mmのものを用い、カバレージは300%、アークハイトは0.450mmAとした。第2段のショットピーニングは、投射材として硬度:900HV、粒径:φ0.05mmのものを用い、カバレージは300%、アークハイトは0.150mmNとした。
「バレル研磨加工」は、研磨剤(メディア)としては、基本的には鋭利な角部がほとんどないセラミックス焼結体(新東工業株式会社製、型番V6-B6)を使用し、試験A11のみは断面形状が三角形で鋭利な角部が存在するセラミックス焼結体(新東工業株式会社製、型番V3-T6X5)を使用した。また、すべてのバレル研磨加工において、研磨助剤として界面活性剤を用い、さらに水を投入して湿式バレル研磨を実施した。研磨時間は30min~1時間とし、原則として研磨量が15μm以内になるようにした。なお、試験A1及びA2については、従来品相当の試験であるため、バレル研磨加工は省略した。また、試験A12及びA15は、比較のため研磨量が15μm以上となる条件とした。
<ローラーピッチング試験片の作製>
上記各鋼材からなる直径32mmの丸棒鋼を準備し、当該丸棒鋼から直径が26.2mm、幅(軸方向長さ)28.1mmの円筒部を有するローラー状小試験片(小ローラー)を機械加工により作製した。さらに同材質の直径140mmの丸棒鋼を準備し、当該丸棒鋼から直径130.2mm、幅(軸方向長さ)18.2mmの円筒部を有するローラー状大試験片(大ローラー)を作製した。その後、これらの試験片に対して、表面硬化処理を施した後、小ローラー:直径26.0mm、幅(軸方向長さ)28.0mm、大ローラー:直径130.0mm、幅(軸方向長さ)18.0mmとなるよう各試験片を仕上げ加工した。さらに所定の条件でショットピーニングを施し、バレル研磨加工を実施してローラーピッチング試験片とした。表面硬化処理、ショットピーニング及びバレル研磨加工の条件は、上述した回転曲げ試験片の場合と同様とした。
上記各鋼材からなる直径32mmの丸棒鋼を準備し、当該丸棒鋼から直径が26.2mm、幅(軸方向長さ)28.1mmの円筒部を有するローラー状小試験片(小ローラー)を機械加工により作製した。さらに同材質の直径140mmの丸棒鋼を準備し、当該丸棒鋼から直径130.2mm、幅(軸方向長さ)18.2mmの円筒部を有するローラー状大試験片(大ローラー)を作製した。その後、これらの試験片に対して、表面硬化処理を施した後、小ローラー:直径26.0mm、幅(軸方向長さ)28.0mm、大ローラー:直径130.0mm、幅(軸方向長さ)18.0mmとなるよう各試験片を仕上げ加工した。さらに所定の条件でショットピーニングを施し、バレル研磨加工を実施してローラーピッチング試験片とした。表面硬化処理、ショットピーニング及びバレル研磨加工の条件は、上述した回転曲げ試験片の場合と同様とした。
<回転曲げ疲労試験>
疲労強度の評価として回転曲げ疲労試験を行った。具体的には、株式会社島津製作所製の小野式回転曲げ疲労試験装置(型番:H6型)に、上記のように作成した回転曲げ試験片をセットして、回転数3600rpmで繰り返し曲げ応力を付与して行った。曲げ疲労限度は、繰り返し回数107回における疲労限度をJIS Z2274の基準に従って求めた。試験結果は、後述する表2に示した。
疲労強度の評価として回転曲げ疲労試験を行った。具体的には、株式会社島津製作所製の小野式回転曲げ疲労試験装置(型番:H6型)に、上記のように作成した回転曲げ試験片をセットして、回転数3600rpmで繰り返し曲げ応力を付与して行った。曲げ疲労限度は、繰り返し回数107回における疲労限度をJIS Z2274の基準に従って求めた。試験結果は、後述する表2に示した。
<面疲労強度の測定:ローラーピッチング試験>
ローラーピッチング試験は、株式会社ニッコークリエート製ローラーピッチング試験機に、上記のように作製した小ローラー及び大ローラーを両者の間に所定の負荷応力をかけてセットして行った。面疲労限度は、小ローラーの回転が1000万回に達した時点において、折損することがなかった試験のうちの負荷応力の最大値とした。試験条件は、回転数(小ローラー):2000rpm、周速差:40%、潤滑剤:オートマチックトランスミッション用オイル、油温:120℃とした。
ローラーピッチング試験は、株式会社ニッコークリエート製ローラーピッチング試験機に、上記のように作製した小ローラー及び大ローラーを両者の間に所定の負荷応力をかけてセットして行った。面疲労限度は、小ローラーの回転が1000万回に達した時点において、折損することがなかった試験のうちの負荷応力の最大値とした。試験条件は、回転数(小ローラー):2000rpm、周速差:40%、潤滑剤:オートマチックトランスミッション用オイル、油温:120℃とした。
面疲労強度評価については、試験A1及びA2の従来品を基準として、同一鋼種、同一表面硬化処理の試験同士を比較して評価した。従来基準の結果に対し、20%以上向上した場合を「〇」、5%以上20%未満の範囲で向上した場合を「△」、向上率が5%未満又は基準以下の場合を「×」として、表2に示した。
<圧縮残留応力分布測定>
上記回転曲げ疲労試験片のうち、疲労試験を行っていない試験片の平行部表面からそれぞれ表面位置から深さ200μmの位置までの残留応力を、電解研磨しつつ各深さ位置の残留応力を測定した。測定条件は、コリメーター径:φ1mm、測定部位:軸方向中央位置、測定方向:円周方向とした。上記測定結果のうち、最大値と最小値を表2に示した。
上記回転曲げ疲労試験片のうち、疲労試験を行っていない試験片の平行部表面からそれぞれ表面位置から深さ200μmの位置までの残留応力を、電解研磨しつつ各深さ位置の残留応力を測定した。測定条件は、コリメーター径:φ1mm、測定部位:軸方向中央位置、測定方向:円周方向とした。上記測定結果のうち、最大値と最小値を表2に示した。
<表面粗さ測定>
上記ローラーピッチング試験片を用いて、JIS B0601:2001に基づいて算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjisを測定した。測定条件は、測定位置:試験面、測定方向:軸方向、送り速度:0.1mm/sとした。測定結果は、後述する表2に示した。
上記ローラーピッチング試験片を用いて、JIS B0601:2001に基づいて算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjisを測定した。測定条件は、測定位置:試験面、測定方向:軸方向、送り速度:0.1mm/sとした。測定結果は、後述する表2に示した。
表2からわかるように、試験A3~A10については、ショットピーニングにより適切な範囲の圧縮残留応力を付与した上で、バレル研磨を適切な条件で行うことにより、ショットピーニングで得た圧縮残留応力が大きく変化しないよう研磨量を調整しつつ表面粗さの状態を適正な状態となるよう処理したことにより、曲げ疲労強度が優れた値が得られることを維持しつつ、表面粗さの改善により、面疲労強度を従来品よりも大きく改善することができた。
一方、試験A11は、バレル研磨に使用したメディア形状が断面三角形の鋭利な角部を有するものとしたため、その鋭利な部分によって試験片に局所的な擦過傷が発生し、十点平均粗さRzjisが0.6μm以下を満足しなかった。これにより、面疲労強度の向上効果が不十分となった。
試験A12及びA15は、研磨量を多く(15μm以上)したことによって、表面粗さは改善したものの、折角ショットピーニング処理で得た圧縮の残留応力がバレル研磨時の研磨量の調整が適切でなかったために小さくなり、曲げ疲労強度が低下したものである。
試験A13及びA14は、研磨時間を短くして、算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjisを所望範囲よりも粗く設定したことにより、圧縮の残留応力の低下はほとんどみられなかったものの、表面粗さの改善が十分でなく、面疲労強度の向上効果が得られなかったものである。
(実施例2)
本例では、バレル研磨加工後の表面粗さの状態が面疲労強度に及ぼす影響を調べる試験を行った。表3に示すように、鋼種1に対して、実施例1と同様の表面硬化処理及び焼戻しを施し、ショットピーニングを施した後、圧縮残留応力が好ましい範囲を満足する範囲内に維持できる範囲内でバレル研磨時間を調整し、表面粗さを変化させた。面疲労強度の評価試験条件および評価条件も実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示す。
本例では、バレル研磨加工後の表面粗さの状態が面疲労強度に及ぼす影響を調べる試験を行った。表3に示すように、鋼種1に対して、実施例1と同様の表面硬化処理及び焼戻しを施し、ショットピーニングを施した後、圧縮残留応力が好ましい範囲を満足する範囲内に維持できる範囲内でバレル研磨時間を調整し、表面粗さを変化させた。面疲労強度の評価試験条件および評価条件も実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示す。
表3からわかるように、試験B5については、算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjisが所望範囲となっていたことにより、面疲労強度も従来(試験B1)よりも十分に向上した。
一方、試験B2~B4は、バレル研磨による表面粗さ改善が不十分な例であり、表面粗さについての算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzjisが所望範囲よりも粗い状態であったために、面疲労強度の向上が十分に得られなかった例である。B2~B4の結果は、全て面疲労強度は満足しない例であるが、その中でも表面粗さを小さくしていくほど、面疲労強度が改善する傾向となることが確認できた。
Claims (5)
- 鋼部品に、
表面硬化処理及び機械加工を行った後、
表面から200μm位置までの範囲における、圧縮残留応力値の最大値が1000MPa以上であると共に、最小値が200MPa以上となるようショットピーニングを行い、
さらに、圧縮残留応力値が上記範囲内で維持されるとともに、JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaが0.2μm以下であり、かつ十点平均粗さRzjisが0.6μm以下である表面粗さが得られるように、バレル研磨加工を行う、表面硬化鋼部品の製造方法。 - 上記表面硬化処理は、浸炭焼入れ処理、浸炭浸窒焼入れ処理のいずれかである、請求項1に記載の表面硬化鋼部品の製造方法。
- 上記鋼部品は、歯車である、請求項1又は2に記載の表面硬化部品の製造方法。
- 上記鋼部品は、質量%において、C:0.15~0.30%、Si:0.05~1.20%、Mn:0.20~1.50%、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cr:0.30~2.00%、Mo:1.00%以下(0%を含む)、Al:0.020~0.060%、N:0.0080~0.0250%、Nb:0.20%以下(0%を含む)を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる化学成分組成を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面硬化鋼部品の製造方法。
- 請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法により製造され、
表面から200μm位置までの範囲における、圧縮残留応力値の最大値が1000MPa以上であると共に、最小値が200MPa以上であり、
JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaが0.2μm以下であり、かつ十点平均粗さRzjisが0.6μm以下である表面粗さを有する、表面硬化鋼部品。
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