JP5828725B2 - 工具の表面改質方法 - Google Patents
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また、超硬合金製の粒子の表面に固着される固体潤滑剤の厚みが1.0μm〜15.0μmの範囲に設定されるので、工具の表面への固体潤滑材の移着を効率的に行うことができる。
即ち、固体潤滑剤の厚みが小さ過ぎると、1のショットから工具の表面に移着可能な固体潤滑剤の量が少なくなる。一方、固体潤滑剤の厚みが大き過ぎると、超硬合金製の粒子によって固体潤滑剤が工具の表面に押圧された際に、固体潤滑剤が側方へ逃げてしまう。よって、いずれの場合も、個体潤滑材を必要量だけ工具の表面に移着させるためには、多数のショットを衝突させる必要が生じ、非効率である。これに対し、上記のように、固体潤滑剤が一定以上の厚みを有することで、1のショットから工具の表面に移着可能な固体潤滑剤の量を確保できる一方、固体潤滑剤の厚みを一定以下に抑えることで、超硬合金製の粒子によって工具の表面へ押圧された固体潤滑剤を側方へ逃げ難くできる。よって、工具の表面へ固体潤滑剤を効率的に移着させることができる。
さらに、工具の表面への超硬合金製の粒子の衝突による加工硬化や圧縮残留応力の付与および固体潤滑剤の移着により、耐摩耗性や潤滑性が向上された工具を得ることができるだけでなく、焼入れ硬化処理が施されたダイス鋼または高速度工具鋼から工具を構成することで、剛性が確保された工具を得ることができ、また、表面硬化処理が施された鉄鋼から工具を構成することで、耐摩耗性がより向上された工具を得ることができる。なお、表面硬さが比較的低い素材を処理対象とする従来技術では、処理表面の潤滑性を向上させることができても、工具自体の剛性や耐摩耗性を確保することができない。
即ち、このような比較的硬度が高い素材の工具を表面改質の対象とすることは、従来のように、ショットの核として鋼球を使用する技術では不可能であり、本発明のように、超硬合金製の粒子をショットの核に適用したことで、初めて対象とすることが可能となったものであり、これにより、工具自体の剛性の確保および耐磨耗性の向上と潤滑性とが同時に達成された工具を得ることができる。
「粒子径」が80μm又は180μmであって「厚み」が1.0μm及び15.0μmの場合、並びに、「粒子径」が80μmであって「厚み」が10.0μmの場合は、移着量比が65〜90となり、十分な量の固体潤滑剤が工具Wの表面に移着された。なお、これらの場合、基準ショットSに対して、移着量比が減少するが、これは、基準ショットSに対して、「粒子径」が同一であっても、「厚み」が小さい分、1のショットSから工具Wの表面に移着可能な固体潤滑剤の量が少ない、若しくは、「厚み」が同一であっても、「粒子径」が小さい分、運動エネルギーが小さい、又は、両者の原因に起因する。
<その他>
機械部品の摺動部では、液体潤滑剤を使用して、摺動部の表面(摺動面)の潤滑を行うことが一般的であるが、液体潤滑剤を使用できない場合には、固体潤滑剤により摺動面を被覆することも行われる。
固体潤滑剤を摺動面に被覆する方法としては、例えば、固体潤滑剤の粒子単体をショットピーニングして、摺動面に固体潤滑剤の皮膜を形成する技術(特許文献1:特開2007−10059号公報)、鋼球などの硬質粒子と固体潤滑剤粒子との混合粒子をショットピーニングして、摺動面に固体潤滑剤の皮膜を形成すると共に、摺動面に圧縮残留応力を付与する技術(特許文献2:特開2004−255522号公報)、或いは、鋼球の表面に軟質金属を被覆した粒子をショットピーニングして、摺動面に軟質金属の皮膜を形成する技術(特許文献3:特開2009−185339号公報)などが知られている。
しかしながら、上述した従来の技術では、いずれも機械部品のように表面硬さが比較的低い素材を処理対象とするものであり、焼入れ硬化処理が施されたダイス鋼もしくは高速度工具鋼、又は、窒化等により表面硬化処理が施された鉄鋼などを素材とし、表面硬さが比較的高い工具に対しては、その表面に固体潤滑剤を移着させることが困難であるという問題点があった。
本技術的思想は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、表面硬さが比較的高い工具の表面に固体潤滑剤を移着させることができる工具の表面改質方法および工具を提供することを目的としている。
<手段>
この目的を達成するために、技術的思想1の工具の表面改質方法は、工具の表面にショットを投射するショットピーニングにより、工具の表面を改質する工具の表面改質方法において、ショットは、超硬合金製の粒子の表面に固体潤滑剤を固着して構成され、ショットピーニングにより、固体潤滑剤を工具の表面に移着させることで、工具の表面を改質する。
技術的思想2の工具の表面改質方法は、技術的思想1記載の工具の表面改質方法において、超硬合金製の粒子は、平均粒子径が50μm〜200μmの範囲に設定される。
技術的思想3の工具の表面改質方法は、技術的思想2記載の工具の表面改質方法において、超硬合金製の粒子は、比重が13.5〜14.4の範囲に設定される。
技術的思想4の工具の表面改質方法は、技術的思想1から3のいずれかに記載の工具の表面改質方法において、固体潤滑剤は、超硬合金製の粒子の表面に固着される厚みが0.5μm〜20μmの範囲に設定される。
技術的思想5の工具の表面改質方法は、技術的思想1から4のいずれかに記載の工具の表面改質方法において、ショットを重力式のショットピーニング装置により投射する場合には、ショットの投射圧が0.1MPa〜0.6MPaの範囲に設定され、ショットを直圧式のショットピーニング装置により投射する場合には、ショットの投射圧が0.1MPa〜0.3MPaに設定される。
技術的思想6の工具の表面改質方法は、技術的思想1から5のいずれかに記載の工具の表面改質方法において、固体潤滑剤は、二硫化モリブデン又は窒化ホウ素から構成されると共に、その固体潤滑剤の超硬合金製の粒子の表面への固着は、固体潤滑剤が超硬合金製の粒子の表面に投射されることで行われる。
技術的思想7の工具の表面改質方法は、技術的思想1から6のいずれかに記載の工具の表面改質方法において、工具は、焼入れ硬化処理が施されたダイス鋼もしくは高速度工具鋼、又は、表面硬化処理が施された鉄鋼から構成される。
技術的思想8の工具の表面改質方法は、切削加工に用いられる切削工具または転造加工に用いられる転造工具として構成される工具であって、技術的思想1から7のいずれかに記載の工具の表面改質方法により表面が改質されていることを特徴とする工具。
<効果>
技術的思想1記載の工具の表面改質方法によれば、超硬合金製の粒子の表面に固体潤滑剤を固着したショットを投射して工具の表面に衝突させる。これにより、超硬合金製の粒子により工具の表面を塑性変形させて加工硬化や圧縮残留応力を付与すると共に、同時に、固体潤滑剤を工具の表面に移着させることができる。
この場合、投射されるショットの運動エネルギーはその重量に比例するところ、ショットの核となる超硬合金製の粒子は比重が大きい(例えば、鉄系材料の約2倍)ため、ショット全体での運動エネルギーを確保することができる。よって、表面硬さが比較的高い工具に対して、その表面に固体潤滑剤をより確実に移着させることができる。
また、ショットの核となる超硬合金製の粒子は硬度が高いため、表面硬さが比較的高い工具であっても、その表面に衝突した際に核となる粒子が粉砕されることを抑制できる。よって、工具の表面に衝突する際に、その表面へ固体潤滑剤を超硬合金製の粒子で押圧することができ、その結果、工具の表面に固体潤滑剤をより確実に移着させることができる。
技術的思想2記載の工具の表面改質方法によれば、技術的思想1記載の工具の表面改質方法の奏する効果に加え、超硬合金製の粒子の平均粒子径が50μm〜200μmの範囲に設定され、比較的小径であるので、工具の表面に形成される凹凸を小さくして、表面粗さの向上を図ることができる。一方で、このように超硬合金製の粒子を比較的小径に設定しても、その比重が大きく運動エネルギーを確保できるので、工具の表面への超硬合金製の粒子の衝突による加工硬化や圧縮残留応力の付与および固体潤滑剤の移着を確実に行うことができる。
なお、このような粒子径が比較的小径の粒子の使用は、鉄系材料製の粒子を使用する従来の方法では、運動エネルギーを確保することができないことから、その使用が不可能であった。即ち、上記比較的小径のショットは、本技術的思想のように、ショットの核として超硬合金製の粒子を使用することで、始めて使用可能となったものであり、これにより、工具の表面への加工硬化や圧縮残留応力の付与および固体潤滑剤の移着と、工具の表面粗さの向上とを同時に達成することができる。
技術的思想3記載の工具の表面改質方法によれば、技術的思想2記載の工具の表面改質方法の奏する効果に加え、超硬合金製の粒子の比重が13.5〜14.4の範囲に設定されるので、超硬合金製の粒子の平均粒子径が上記のように比較的小径とされる場合であっても十分な運動エネルギーを確保して、工具の表面への超硬合金製の粒子の衝突による加工硬化や圧縮残留応力の付与および固体潤滑剤の移着を確実に行うことができる。また、超硬合金製の粒子の比重を上記のように設定することで、一般的に市販される粒子を利用することができるので、材料の入手を容易とできる。
技術的思想4記載の工具の表面改質方法によれば、技術的思想1から3のいずれかに記載の工具の表面改質方法の奏する効果に加え、超硬合金製の粒子の表面に固着される固体潤滑剤の厚みが0.5μm〜20μmの範囲に設定されるので、工具の表面への固体潤滑材の移着を効率的に行うことができる。
即ち、固体潤滑剤の厚みが小さ過ぎると、1のショットから工具の表面に移着可能な固体潤滑剤の量が少なくなる。一方、固体潤滑剤の厚みが大き過ぎると、超硬合金製の粒子によって固体潤滑剤が工具の表面に押圧された際に、固体潤滑剤が側方へ逃げてしまう。よって、いずれの場合も、個体潤滑材を必要量だけ工具の表面に移着させるためには、多数のショットを衝突させる必要が生じ、非効率である。これに対し、上記のように、固体潤滑剤が一定以上の厚みを有することで、1のショットから工具の表面に移着可能な固体潤滑剤の量を確保できる一方、固体潤滑剤の厚みを一定以下に抑えることで、超硬合金製の粒子によって工具の表面へ押圧された固体潤滑剤を側方へ逃げ難くできる。よって、工具の表面へ固体潤滑剤を効率的に移着させることができる。
技術的思想5記載の工具の表面改質方法によれば、技術的思想1から4のいずれかに記載の工具の表面改質方法の奏する効果に加え、ショットの投射圧を重力式および直圧式の両者において0.1MPa以上とするので、ショットの投射速度(即ち、運動エネルギー)を確保して、工具の表面への超硬合金製の粒子の衝突による加工硬化や圧縮残留応力の付与および固体潤滑剤の移着を確実に行うことができる。一方、ショットの投射圧を、重力式の場合は0.6MPa以下であって直圧式の場合は0.3MPa以下とするので、ショットの投射速度(即ち、運動エネルギー)が過大となり、超硬合金製の粒子の衝突により工具の表面が削り取られてしまう、即ち、固体潤滑剤の移着された箇所が消失することを抑制することができる。
技術的思想6記載の工具の表面改質方法によれば、技術的思想1から5のいずれかに記載の工具の表面改質方法の奏する効果に加え、固体潤滑剤の超硬合金製の粒子の表面への固着は、固体潤滑剤を超硬合金製の粒子の表面に投射することで行われるので、メッキ処理により固体潤滑剤を超硬合金製の粒子の表面に固着させる場合と比較して、設備コストを削減することができる。
技術的思想7記載の工具の表面改質方法によれば、技術的思想1から6のいずれかに記載の工具の表面改質方法の奏する効果に加え、工具の表面への超硬合金製の粒子の衝突による加工硬化や圧縮残留応力の付与および固体潤滑剤の移着により、耐摩耗性や潤滑性が向上された工具を得ることができるだけでなく、焼入れ硬化処理が施されたダイス鋼または高速度工具鋼から工具を構成することで、剛性が確保された工具を得ることができ、また、表面硬化処理が施された鉄鋼から工具を構成することで、耐摩耗性がより向上された工具を得ることができる。なお、表面硬さが比較的低い素材を処理対象とする従来技術では、処理表面の潤滑性を向上させることができても、工具自体の剛性や耐摩耗性を確保することができない。
即ち、このような比較的硬度が高い素材の工具を表面改質の対象とすることは、従来のように、ショットの核として鋼球を使用する技術では不可能であり、本技術的思想のように、超硬合金製の粒子をショットの核に適用したことで、初めて対象とすることが可能となったものであり、これにより、工具自体の剛性の確保および耐磨耗性の向上と潤滑性とが同時に達成された工具を得ることができる。
技術的思想8記載の工具によれば、技術的思想1から7のいずれかに記載の工具の表面改質方法により表面が改質されるので、処理表面の耐磨耗性と潤滑性との向上を図ることができる。特に、技術的思想7のように、工具を焼入れ硬化処理が施されたダイス鋼または高速度工具鋼から構成する場合には、工具自体の剛性の向上を図ることができる。また、工具を表面硬化処理が施された鉄鋼から構成する場合には、工具の耐摩耗性の更なる向上を図ることができる。
S ショット
W 工具
Claims (4)
- 工具の表面にショットを投射するショットピーニングにより、前記工具の表面を改質する工具の表面改質方法において、
前記ショットは、超硬合金製の粒子の表面に固体潤滑剤を固着して構成され、
前記超硬合金製の粒子は、平均粒子径が80μm〜180μmの範囲に設定され、
前記固体潤滑剤は、前記超硬合金製の粒子の表面に固着される厚みが1.0μm〜15μmの範囲に設定され、
前記工具は、焼入れ硬化処理が施されたダイス鋼もしくは高速度工具鋼、又は、表面硬化処理が施された鉄鋼から構成され、
前記ショットピーニングにより、前記固体潤滑剤を前記工具の表面に移着させることで、前記工具の表面を改質することを特徴とする工具の表面改質方法。 - 前記超硬合金製の粒子は、比重が13.5〜14.4の範囲に設定されることを特徴とする請求項1記載の工具の表面改質方法。
- 前記ショットを重力式のショットピーニング装置により投射する場合には、前記ショットの投射圧が0.1MPa〜0.6MPaの範囲に設定され、前記ショットを直圧式のショットピーニング装置により投射する場合には、前記ショットの投射圧が0.1MPa〜0.3MPaに設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の工具の表面改質方法。
- 前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン又は窒化ホウ素から構成されると共に、その固体潤滑剤の前記超硬合金製の粒子の表面への固着は、前記固体潤滑剤が前記超硬合金製の粒子の表面に投射されることで行われることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の工具の表面改質方法。
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