次に、本発明に係る作業車両の一実施形態である作業車両1について説明する。
なお、図中矢印Fで示す方向を前方と定義して、以下の説明を行う。
図1に示すように、作業車両1は、ロータリ等の耕耘装置やローダ等の作業機を用いて種々の農作業や土木作業を行うものである。作業車両1は、主として機体フレーム2と、エンジン3と、ミッションケース4と、前輪5・5と、後輪6・6と、キャビン7とを具備する。
機体フレーム2は、作業車両1の主たる構造体となるものである。機体フレーム2は、長手方向を前後方向として、複数の板材等により構成される。
エンジン3は、作業車両1を駆動するための動力を発生する駆動源となるものである。エンジン3は、機体フレーム2の前部に具備される。
ミッションケース4は、エンジン3から出力される動力を、前輪5・5及び後輪6・6や、作業機を駆動するためのPTO軸90へと伝達するための動力伝達機構15(図2参照)を収納するとともに、その動力を変速する種々の変速装置を収納するものである。ミッションケース4は、機体フレーム2の後部に具備される。
前輪5・5は、機体フレーム2の前部左右にそれぞれ具備される。後輪6・6は、機体フレーム2の後部(ミッションケース4)左右にそれぞれ具備される。前輪5・5及び後輪6・6は、ミッションケース4により変速された動力により回転駆動される。
キャビン7は、オペレータが乗車する空間を覆うものである。キャビン7は、機体フレーム2の前後略中央部から後部にかけて具備される。キャビン7内には、運転操作部7cが設けられ、ハンドル7a、座席7b、種々の変速操作具(不図示)等が具備される。ハンドル7aは、作業車両1を操向操作するものである。ハンドル7aは、キャビン7内の前部に具備される。座席7bは、オペレータが着座するものである。座席7bは、ハンドル7aの後方に具備される。
次に、ミッションケース4の構成について、さらに詳細に説明する。
ミッションケース4は、クラッチケース10を具備する。先ず、クラッチケース10の構成について、図2及び図3を用いて説明する。
クラッチケース10は、略円筒状の筐体である。クラッチケース10は、軸心方向を前後方向として配置され、前端部及び後端部がそれぞれ前後方向へ向けて開口される。クラッチケース10の内部には、エンジン3の出力軸(クランク軸)に固定されるフライホイール11と、摩擦式の主クラッチ12と、が収納される。
主クラッチ12は、キャビン7内の運転操作部7cに設けられるクラッチペダル(不図示)に連係されて、当該クラッチペダルの操作によって「断」又は「接」を切り替え可能に構成される。主クラッチ12には、当該主クラッチ12の出力軸となる原動軸13の前端側が相対回転不能に固定される。原動軸13は、長手方向を前後方向として配置され、その後端側がクラッチケース10の内部から外部(後方)へ向けて延出される。
このような構成により、前記クラッチペダルの操作によって、主クラッチ12が「接」とされると、エンジン3の出力軸(クランク軸)の回転、即ちエンジン3から出力される動力が、フライホイール11を介して主クラッチ12へと伝達され、当該主クラッチ12から原動軸13へと伝達される。その結果、原動軸13が回転し、エンジン3からの動力が伝達される。また、前記クラッチペダルの操作によって主クラッチ12が「断」とされると、エンジン3の出力軸(クランク軸)の回転、即ちエンジン3から出力される動力は、原動軸13へと伝達されない。その結果、原動軸13が回転せず、エンジン3からの動力が伝達されない。
次に、ミッションケース4の構成について、図1から図9を用いて説明する。
ミッションケース4は、略円筒状の筐体である。該ミッションケース4は、軸心方向、即ち長手方向を前後方向として配置され、前端部及び後端部がそれぞれ前後方向へ向けて開口される。ミッションケース4の後端部は、リアカバー4aにより閉塞される。ミッションケース4の前端部は、前記クラッチケース10の後端部に固定されて、ミッションケース4とクラッチケース10との内部が連通される。ミッションケース4には、その前方から前記原動軸13の後端側が後方へ向けて挿入される。原動軸13は、エンジン3から出力される動力をミッションケース4に収納される動力伝達機構15へと伝達するものである。原動軸13は、ミッションケース4の内部を、当該ミッションケース4の前後方向中途に至るまで後方へ向けて延出される。
前述したようにミッションケース4には、動力伝達機構15及び種々の変速装置が収納される。図2に示すように、動力伝達機構15としては、エンジン3から出力される動力を、前輪5・5及び後輪6・6へと伝達する走行系の動力伝達経路17と、PTO軸90へと伝達するPTO系の動力伝達経路16とが設けられる。前記変速装置としては、走行系の動力伝達経路17において、前後進切替装置20と、主変速装置30と、副変速装置50とが設けられる。本実施形態において、前後進切替装置20は、油圧クラッチにより構成される。また、主変速装置30は、シンクロメッシュ式の変速装置により構成される。また、副変速装置50は、歯車噛合式の変速装置により構成される。
先ず、動力伝達機構15のうち、走行系の動力伝達経路17の構成について説明する。
エンジン3から出力された動力は、前記原動軸13へと伝達された後、先ず前後進切替装置20へと伝達される。先ず、前後進切替装置20の構成について、図2及び図3を用いて説明する。
前後進切替装置20は、前輪5・5及び後輪6・6へと伝達される動力による回転方向を、切り替えることによって、作業車両1の進行方向を前進方向又は後進方向へと切り替える装置である。前後進切替装置20は、ミッションケース4の内部の前部に配置される。
前後進切替装置20には、原動軸13の下方に、切替従動軸21が設けられる。切替従動軸21は、長手方向を前後方向として、原動軸13と略平行となるように配置される。切替従動軸21は、ミッションケース4に相対回転自在に軸支される。
前後進切替装置20においては、原動軸13上に、前後進切替第一歯車22と、前後進切替第二歯車23とが、前後方向に適宜の間隔をあけて配置され、当該原動軸13に遊嵌される。なお、前後進切替第二歯車23は、その後部において後述するパイプ状の走行軸32の前部に相対回転不能に嵌合固定される。また、切替従動軸21上に、前後進切替第三歯車24と、前後進切替第四歯車25とが、前後方向に適宜の間隔をあけて配置され、当該切替従動軸21に相対回転不能に固定される。
これらの前後進切替歯車22・23と、前後進切替歯車24・25とのうち対応するもの、即ち、前後進切替第二歯車23と、前後進切替第四歯車25とは直接に噛合される。また、前後進切替第一歯車22と、前後進切替第三歯車24とは、図示せぬ中間軸に相対回転不能に固定されるカウンター歯車を介して噛合される。
原動軸13上において、前後進切替第一歯車22と、前後進切替第二歯車23との間には、後進用油圧クラッチ26R及び前進用油圧クラッチ26Fが設けられる。本実施形態において、後進用油圧クラッチ26R及び前進用油圧クラッチ26Fは、摩擦多板式のクラッチが用いられている。後進用油圧クラッチ26R及び前進用油圧クラッチ26Fは、キャビン7内の運転操作部7cに設けられる前後進切替レバー(不図示)に連係されて、当該前後進切替レバーの操作によって、動力の伝達の「断」又は「接」を切り替え可能に構成される。
このような構成において、作業車両1の進行方向が前進方向である場合、前後進切替装置20は、前記前後進切替レバーの操作によって前進用油圧クラッチ26Fが「接」とされて、前後進切替第二歯車23が原動軸13に相対回転不能に結合される。したがって、エンジン3から出力された動力は、原動軸13から、前進用油圧クラッチ26F、前後進切替第二歯車23を介して走行軸32へと伝達される。その結果、前輪5・5及び後輪6・6へと動力を伝達する走行軸32は、作業車両1の進行方向が前進方向となるように回転される。
また、作業車両1の進行方向が後進方向である場合、前後進切替装置20は、前記前後進切替レバーの操作によって後進用油圧クラッチ26Rが「接」とされて、前後進切替第一歯車22が原動軸13に相対回転不能に結合される。したがって、エンジン3から出力された動力は、原動軸13から、後進用油圧クラッチ26R、前後進切替第一歯車22、前記カウンター歯車、前後進切替第三歯車24、切替従動軸21、前後進切替第四歯車25、前後進切替第二歯車23を介して走行軸32へと前記と逆の回転が伝達される。その結果、前輪5・5及び後輪6・6へと動力を伝達する走行軸32は、作業車両1の進行方向が後進方向となるように回転される。
なお、前後進切替装置20は、前記前後進切替レバーの操作によって、後進用油圧クラッチ26R及び前進用油圧クラッチ26Fの両方が「断」とされると、前後進切替第一歯車22及び前後進切替第二歯車23のいずれも原動軸13に相対回転不能に結合しないため、エンジン3から出力された動力は、走行軸32に伝達されない。
前後進切替装置20に伝達された動力は、走行軸32を介して主変速装置30へと伝達される。次に、主変速装置30の構成について、図2及び図4を用いて説明する。
主変速装置30は、前輪5・5及び後輪6・6へと伝達される動力を複数段に変速可能な装置である。主変速装置30は、ミッションケース4の前後方向中途から前部にかけて配置される。
主変速装置30には、走行軸32の下方に、当該主変速装置30の出力軸となる主変速従動軸31が設けられる。主変速従動軸31は、長手方向を前後方向として、走行軸32と略平行となるように配置される。主変速従動軸31は、ミッションケース4に相対回転自在に軸支される。走行軸32は、パイプ状に形成され、走行軸32は、その内部にPTO伝達軸14を内挿し、該PTO伝達軸14は前記原動軸13の後端に同一軸線上つまり延長上に相対回転不能に連結され、PTO伝達軸14の後部はミッションケース4に軸受を介して回転自在に支持され、走行軸32に対して回転自在とされる。
主変速装置30においては、走行軸32上に、4つの歯車、即ち、主変速第一歯車33と、主変速第二歯車34と、主変速第三歯車35と、主変速第四歯車36とが、それぞれ前後方向に適宜の間隔をあけて配置され、当該走行軸32に相対回転不能に固定される。また、主変速従動軸31上に、4つの歯車、即ち、主変速第五歯車37と、主変速第六歯車38と、主変速第七歯車39と、主変速第八歯車40とが、それぞれ前後方向に適宜の間隔をあけて配置され、当該主変速従動軸31に遊嵌される。
これらの主変速歯車33・34・35・36と、主変速歯車37・38・39・40とのうち対応するもの、即ち、主変速第一歯車33と主変速第五歯車37と、主変速第二歯車34と主変速第六歯車38と、主変速第三歯車35と主変速第七歯車39と、主変速第四歯車36と主変速第八歯車40とが、それぞれ噛合される。
主変速従動軸31上において、主変速第五歯車37と主変速第六歯車38との間には第一複式同期クラッチ41aが、主変速第七歯車39と主変速第八歯車40との間には第二複式同期クラッチ41bが、それぞれ設けられる。第一複式同期クラッチ41aのスライダ及び第二複式同期クラッチ41bのスライダが、当該主変速従動軸31に対して前後方向へ向けて摺動自在に設けられる。各スライダはボス体を介して主変速従動軸31に対して相対回転不能に嵌合されている。そして、第一複式同期クラッチ41a及び第二複式同期クラッチ41bのスライダが、主変速歯車37・38・39・40のうち、いずれか一つの主変速歯車と選択的に噛合させることにより、主変速従動軸31に相対回転不能に結合されるように構成される。但し、第一複式同期クラッチ41a及び第二複式同期クラッチ41bはシンクロメッシュ式のクラッチとしているが限定するものではない。
このような構成において、主変速装置30は、第一複式同期クラッチ41aを主変速第六歯車38と結合させることにより1速、第一複式同期クラッチ41aを主変速第五歯車37と結合させることにより2速、第二複式同期クラッチ41bを主変速第八歯車40と結合させることにより3速、第二複式同期クラッチ41bを主変速第七歯車39と結合させることにより4速となり、本実施形態では4段の変速を得るように構成される。但し、変速の段数は限定するものではない。
主変速装置30に伝達された動力は、主変速従動軸31を介して副変速装置50へと伝達される。次に、副変速装置50の構成について、図2及び図5を用いて説明する。
副変速装置50は、主変速装置30によって変速された前輪5・5及び後輪6・6へと伝達される動力を、さらに複数段に変速可能な装置である。副変速装置50は、ミッションケース4の前後方向中途から後部にかけて、主変速装置30の後方に配置される。
副変速装置50には、主変速従動軸31の後方の同一軸心延長上に、副変速出力軸52が設けられる。副変速出力軸52は、長手方向を前後方向として配置され、ミッションケース4に相対回転自在に軸支される。副変速出力軸52の前端部は、主変速従動軸31の後端部とスプラインにより嵌合され、当該副変速出力軸52と主変速従動軸31とが相対回転不能に回転するように構成される。副変速出力軸52の下方には、副変速装置50の出力軸となる副変速従動軸51が設けられる。副変速従動軸51は、長手方向を前後方向として、副変速出力軸52と略平行となるように配置される。副変速従動軸51は、ミッションケース4に相対回転自在に軸支される。
副変速装置50においては、副変速出力軸52上に、3つの歯車、即ち、副変速第一歯車53と、副変速第二歯車54と、副変速第三歯車55とが、それぞれ前後方向に適宜の間隔をあけて配置され、当該副変速出力軸52に対して相対回転不能に固定される。また、副変速従動軸51上には、3つの歯車、即ち、副変速第四歯車56と、副変速第五歯車57と、副変速第六歯車58とが、それぞれ前後方向に適宜の間隔をあけて配置され、当該副変速従動軸51に遊嵌される。
これらの副変速歯車53・54・55と、副変速歯車56・57・58とのうち対応するもの、即ち、副変速第一歯車53と副変速第四歯車56と、副変速第二歯車54と副変速第五歯車57と、副変速第三歯車55と副変速第六歯車58とが、それぞれ噛合される。
副変速従動軸51上において、副変速第四歯車56と副変速第五歯車57との間には第一シフタ59aが、副変速第五歯車57と副変速第六歯車58との間には第二シフタ59bが、それぞれ設けられる。第一シフタ59a及び第二シフタ59bは、歯車56・57・58のうち、いずれか一つの副変速歯車が選択的に副変速従動軸51に相対回転不能に結合されるように構成される。
このような構成において、副変速装置50は、第一シフタ59a及び第二シフタ59bによって副変速歯車56・57・58のうち、いずれか一つの副変速歯車を選択的に副変速従動軸51に相対回転不能に結合させて、エンジン3から出力される動力の伝達経路を切り替え可能とされる。本実施形態において、第一シフタ59aを副変速第四歯車56と係合させることにより3速、第二シフタ59bを副変速第五歯車57と係合させることにより2速、第二シフタ59bを副変速第六歯車58と係合させることにより1速に変速でき、副変速装置50は、3段の変速を得るように構成される。
以上のような構成の走行系の動力伝達経路17において、エンジン3から出力される動力は、当該エンジン3の出力軸(クランク軸)に固定されるフライホイール11を介して原動軸13へと伝達され、前後進切替装置20によって作業車両1の進行方向の前進方向又は後進方向の回転に切り替えられて、走行軸32へと伝達される。走行軸32に伝達された動力は、主変速装置30によって4段の変速段のうちいずれかに変速されて、主変速従動軸31へと伝達される。主変速従動軸31に伝達された動力は、副変速出力軸52へと伝達されて、副変速装置50によって3段の変速段のうちいずれかに変速されて副変速従動軸51へと伝達される。副変速従動軸51へと伝達された動力は、デファレンシャル機構93(図5参照)を介して後輪6・6を駆動する。
また、副変速従動軸51へと伝達された動力は、副変速従動軸51の下方に設けられた前輪駆動軸94を介して前輪5・5を駆動する。具体的には、前輪駆動軸94は、長手方向を前後方向として配置され、その前端部を前方へ向けて突出した状態で、ミッションケース4に相対回転自在に軸支される。前輪駆動軸94上には、前輪駆動歯車95が設けられ、当該前輪駆動軸94に相対回転不能に固定される。前輪駆動歯車95は、副変速従動軸51に相対回転不能に固設された副変速第七歯車96と噛合される。
次に、動力伝達機構15のうち、PTO系の動力伝達経路16の構成について説明する。
エンジン3から出力された動力は、前記原動軸13、PTO伝達軸14へと伝達された後、PTO系の動力伝達経路16に介装されるPTOクラッチ70及びPTOブレーキ80を介して、第一PTO出力軸61及び第二PTO出力軸62、PTO軸90へと伝達される。先ず、第一PTO出力軸61と、第二PTO出力軸62と、PTO軸90の構成について、図2及び図6を用いて説明する。
PTO系の動力伝達経路16において、第一PTO出力軸61及び第二PTO出力軸62は、それぞれ前記PTO伝達軸14の後方の同一軸心延長上に、第一PTO出力軸61が前側、第二PTO出力軸62が後側として設けられる。第一PTO出力軸61及び第二PTO出力軸62は、それぞれ長手方向を前後方向として配置される。第一PTO出力軸61の後端部は、第二PTO出力軸62の前端部と相対回転不能に固定されて、第一PTO出力軸61及び第二PTO出力軸62が全体として一つの出力軸として回転するように構成される。
図2及び図7に示すように、第一PTO出力軸61とPTO伝達軸14との合わせ部、即ち、PTO伝達軸14の後部から第一PTO出力軸61の前部に至る部分には、PTOクラッチ70及びPTOブレーキ80が設けられる。PTOクラッチ70は、PTO伝達軸14に伝達された動力を第一PTO出力軸61へと断接可能に伝達するように構成される。なお、PTOクラッチ70及びPTOブレーキ80についての詳細な説明は後述する。
第二PTO出力軸62の下方には、PTO軸90が設けられる。PTO軸90は、長手方向を前後方向として、第二PTO出力軸62と略平行となるように配置される。PTO軸90は、ミッションケース4に相対回転自在に軸支される。PTO軸90の後端部は、ミッションケース4の開口された後端部を閉塞しているリアカバー4aから後方へ向けて突出される。PTO軸90は、その後端部に作業機(不図示)の入力軸または伝達軸と連結可能に構成される。
第二PTO出力軸62上に、PTO出力歯車91が設けられる。PTO出力歯車91は、第二PTO出力軸62に対して相対回転不能に固定される。PTO軸90上に、PTO軸歯車92が設けられる。PTO軸歯車92は、PTO軸90に相対回転不能に固定される。PTO軸歯車92は、PTO出力歯車91と噛合される。但し、第二PTO出力軸62とPTO軸90との間にPTO変速装置を設ける構成とすることも可能である。
以上のような構成のPTO系の動力伝達経路16において、エンジン3から出力される動力は当該エンジン3の出力軸(クランク軸)に固定されるフライホイール11を介して原動軸13、PTO伝達軸14へと伝達され、PTOクラッチ70及びPTOブレーキ80を介して第一PTO出力軸61、第二PTO出力軸62へと伝達される。第二PTO出力軸62に伝達された動力は、PTO軸90へと伝達されて、当該動力によって当該PTO軸90が駆動される。
次に、PTOクラッチ70及びPTOブレーキ80の構成について詳細に説明する。
先ず、PTOクラッチ70の構成について、図2、図7及び図8を用いて説明する。
PTOクラッチ70は、PTO系の動力伝達経路16において、PTO軸90へと伝達されるエンジン3から出力された動力の伝達の「接」又は「断」を切り替えるものである。本実施形態においてPTOクラッチ70は、摩擦多板式のクラッチが用いられている。PTOクラッチ70は、ボス部71と、ボス側摩擦部材72と、クラッチシリンダ73と、第一シリンダ側摩擦部材74と、クラッチピストン75と、スプリング76とを備える。
ボス部71は、中空の略筒状の部材であり、PTO伝達軸14の後部から第一PTO出力軸61の前部にわたって設けられる。ボス部71は、その前部においてPTO伝達軸14の後部スプライン嵌合して、当該PTO伝達軸14に相対回転不能に固定される。ボス部71は、その後部において第一PTO出力軸61上を径方向外側へ向けて拡径(以下、「拡径部71a」と称する。)されて、当該第一PTO出力軸61の外周面との間に間隙が形成される。前記間隙(即ち、拡径部71aと第一PTO出力軸61との間)の前側にはベアリング77が介装されて、ボス部71(即ち、PTO伝達軸14)と当該第一PTO出力軸61とが相対回転可能とされ
る。
ボス側摩擦部材72は、複数の円板環状の部材が前後方向に適宜の間隔をあけて形成される。ボス側摩擦部材72は、ボス部71において拡径部71aの外周面に、板面側を前後方向へ向けて配置され、外側方へ向けて立設される。ボス側摩擦部材72は、ボス部71に前後方向へ向けて摺動可能、かつ、相対回転不能に固定される。
クラッチシリンダ73は、中空の略筒状の部材であり、第一PTO出力軸61の前部に設けられる。クラッチシリンダ73は、第一PTO出力軸61の前部上を外嵌して、当該第一PTO出力軸61に相対回転不能にスプライン嵌合して固定される。クラッチシリンダ73は、第一PTO出力軸61の外側方で、側面断面視で前方へ向けて開口された略コの字状に形成される。なお、以下の説明において、クラッチシリンダ73の部位のうち、外側に位置して前後方向(軸心方向)へ向けて延設される部位を「外側部73a」と、内側に位置して前後方向(軸心方向)へ向けて延設される部位を「内側部73b」と称する。
クラッチシリンダ73の外側部73aと内側部73bとの間の間隙には、前記ボス部71の拡径部71aがその後端部を後方へ向けて挿入される。ボス部71の拡径部71aは、クラッチシリンダ73の外側部73a及び内側部73bとから離間した位置であって、当該外側部73a及び内側部73bとそれぞれ略平行となるように配置される。
第一シリンダ側摩擦部材74は、複数の円板環状の部材が前後方向に適宜の間隔をあけて配設される。第一シリンダ側摩擦部材74は、クラッチシリンダ73において外側部73aの内周面に、板面側を前後方向へ向けて配置され、内側方へ向けて立設される。第一シリンダ側摩擦部材74は、クラッチシリンダ73に前後方向へ向けて摺動可能、かつ、相対回転不能に固定される。複数配設される第一シリンダ側摩擦部材74は、複数配設される前記ボス側摩擦部材72とそれぞれ前後方向に交互に配置され、PTOクラッチ70が「断」とされた状態で、相互に接触しないように構成される。
クラッチピストン75は、中空の略筒状の部材であり、前記クラッチシリンダ73よりも前後方向(軸心方向)の長さが短く形成される。クラッチピストン75は、クラッチシリンダ73(さらに詳しくは、クラッチシリンダ73の内側部73b)に、前後方向(軸心方向)へ向けて摺動自在に内挿される。クラッチピストン75は、キャビン7内の運転操作部7cに設けられたPTOクラッチレバー(不図示)に連係されたPTOバルブ200(図10参照)の切替により、前後方向(軸心方向)へ向けて摺動するように構成される。
クラッチピストン75の外周部前側には、クラッチ用押圧部75aが設けられる。クラッチ用押圧部75aは、クラッチピストン75が前方へ向けて摺動移動した状態で、前記ボス側摩擦部材72及び前記第一シリンダ側摩擦部材74を前方へ向けて押圧して、これらの摩擦部材72・74が相互に圧接されるように構成される。
スプリング76は、クラッチシリンダ73(さらに詳しくは、クラッチシリンダ73の内側部73b)に、長手方向を前後方向(軸心方向)として巻装される。スプリング76の前端部は、クラッチシリンダ73の内側部73b上に設けられたクラッチ用係止片75bによって係止される。スプリング76の後端部は、クラッチピストン75の軸心側の前部に当接される。スプリング76は、クラッチピストン75が、クラッチシリンダ73の内側部73b上を後方へ向けて摺動移動するように付勢している。
このような構成により、前記PTOクラッチレバーの操作によってPTOバルブ200が切り替えられて、圧油がクラッチシリンダ73内に送油されると、クラッチピストン75が、スプリング76の付勢力に抗って、クラッチシリンダ73の内側部73b上を前方へ向けて摺動移動して、当該クラッチピストン75のクラッチ用押圧部75aが、ボス側摩擦部材72及び第一シリンダ側摩擦部材74を前方へ向けて押圧する。これによって、ボス側摩擦部材72及び第一シリンダ側摩擦部材74が相互に圧接されて(圧接状態となり)、PTOクラッチ70が「接」とされ、ボス側摩擦部材72にボス部71を介して相対回転不能に固定されたPTO伝達軸14と、第一シリンダ側摩擦部材74にクラッチシリンダ73を介して相対回転不能に固定された第一PTO出力軸61とが、相対回転不能に結合される。したがって、エンジン3から出力された動力は、原動軸13から、ボス部71、ボス側摩擦部材72、第一シリンダ側摩擦部材74、クラッチシリンダ73を介して第一PTO出力軸61へと伝達される。その結果、第一PTO出力軸61が回転し、エンジン3から出力された動力が伝達される。
また、前記PTOクラッチレバーの操作によってPTOバルブ200が切り替えられて、圧油がドレンされると、クラッチピストン75が、スプリング76の付勢力に応じて、クラッチシリンダ73の内側部73b上を後方へ向けて摺動移動して、当該クラッチピストン75のクラッチ用押圧部75aが、ボス側摩擦部材72及び第一シリンダ側摩擦部材74から離間されて、当該ボス側摩擦部材72及び当該第一シリンダ側摩擦部材74の圧接状態が解除され、PTOクラッチ70が「断」とされる。これによって、ボス側摩擦部材72にボス部71を介して相対回転不能に固定された原動軸13と、第一シリンダ側摩擦部材74にクラッチシリンダ73を介して相対回転不能に固定された第一PTO出力軸61との結合が解かれ、相互に相対回転自在となる。その結果、第一PTO出力軸61は回転せず、エンジン3から出力された動力が伝達されない。
次に、PTOブレーキ80の構成について、図2、図7から図9を用いて説明する。
PTOブレーキ80は、PTO系の動力伝達経路16において、PTOクラッチ70によってPTO軸90への動力の伝達が「断」とされた状態で、当該PTO軸90が連れ回りによって回転しないように制動するものである。なお、PTOブレーキ80は、前記PTOクラッチ70に設けられるものであるので、前述において既に説明をした部材に関しては、同一の符号を付することでその説明を省略するものとする。
PTOブレーキ80は、第二シリンダ側摩擦部材81と、ケース側摩擦部材82と、ボルト83とを備える。
第二シリンダ側摩擦部材81は、複数の円板環状の部材が前後方向に適宜の間隔をあけて形成される。本実施形態においては、二つの円板環状の部材が設けられている。第二シリンダ側摩擦部材81は、クラッチシリンダ73において外側部73aの外周面に外嵌されて、板面側を前後方向へ向けて配置される。第二シリンダ側摩擦部材81は、クラッチシリンダ73に相対回転不能、かつ、前後方向へ向けて摺動自在に外嵌される。
ケース側摩擦部材82は、円板環状の部材が、第二シリンダ側摩擦部材81の複数の平板環状の部材うち、隣り合う部材の間の間隙に介装される。本実施形態においては、第二シリンダ側摩擦部材81は、二つの円板環状の部材により形成されているので、ケース側摩擦部材82の円板環状の部材は、一つが設けられる。なお、第二シリンダ側摩擦部材81及びケース側摩擦部材82のそれぞれの円板環状の部材の数は、これに限定するものでない。ケース側摩擦部材82は、クラッチシリンダ73(さらに詳しくは、クラッチシリンダ73の外側部73a)に外嵌され、当該クラッチシリンダ73に相対回転自在、即ち当該クラッチシリンダ73の外側部73aの外周面を周方向へ向けて回転自在、かつ、前後方向へ向けて摺動自在とされる。
ケース側摩擦部材82の外周の一部には、ブレーキ用係止片82aが設けられる。ブレーキ用係止片82aは、ケース側摩擦部材82の外周部から一体的に半径方向外側に突出して形成されて、即ち、ブレーキ用係止片82aは、ケース側摩擦部材82の外周部から、外側方へ向けて突設される。ブレーキ用係止片82aの外周端部は、第二シリンダ側摩擦部材81の外周部よりも外側方に位置するように設定される。なお、本実施形態においてブレーキ用係止片82aは、一つが設けられているが、この数に限定するものでない。
ボルト83は、ミッションケース4の外側から内側へ向けて(半径方向に)螺挿されて固定されている。ボルト83は、ミッションケース4に固定された状態で、当該ボルト83の先端部が当該ミッションケース4の壁部から内側へ貫通して突出される。ボルト83の先端部は、第二シリンダ側摩擦部材81及びケース側摩擦部材82の外周部に近接される。具体的には、ボルト83の先端部は、ケース側摩擦部材82の外周部の外側方、換言すれば、ケース側摩擦部材82の軸心方向に対して垂直方向となる位置に配置される。また、ボルト83の先端部は、(ブレーキ用係止片82aを除く)ケース側摩擦部材82の外周部よりも外側方であって、且つブレーキ用係止片82aの外周端部よりも、内側方となる位置に配置される。このような構成により、ケース側摩擦部材82がクラッチシリンダ73の外側部73aの外周面を周方向へ向けて回転しようとすると、当該ケース側摩擦部材82のブレーキ用係止片82aが、ボルト83の先端部と当接されて係止することとなる。なお、ボルト83は、突設部材の一例であり、これに限定するものではない。即ち、ミッションケース4の内周面から内側へ向けて突設する部材であればよい。本実施形態においては、突設部材がボルト83にて構成されることによって、PTOブレーキ80の組立作業を容易とすることができる。また、突設部材の取り替え作業が容易となるので、メンテナンス性の向上を図ることができるとともに、ケース側摩擦部材82が突設部材の先端部と当接させるための調整を容易とすることができる。
また、ミッションケース4において、ボルト83を螺挿する面である螺挿面4bは、図7及び図9に示すように、ミッションケース4の外周面に内側へ向けて凹んだ凹部が設けられることによって、当該ミッションケース4の外周面よりも内側に位置するような構成とすることができる。この場合、前記凹部の深さ、即ち、螺挿面4bからミッションケース4の外周面までの長さは、少なくともボルト83の頭部における軸心方向の長さよりも長くなるように設定される。このような構成により、ボルト83がミッションケース4の外周面から外側方へ向けて突出しない(ボルト83の頭部がミッションケース4に埋め込まれる)ため、ミッションケース4及び作業車両1における他の部材とボルト83との干渉を防ぐことができる。
また、前記クラッチピストン75の上部後側には、ブレーキ用押圧部75cが設けられる。ブレーキ用押圧部75cは、クラッチピストン75が後方へ向けて摺動移動した状態で、前記第二シリンダ側摩擦部材81及び前記ケース側摩擦部材82を後方へ向けて押圧して、これらの摩擦部材81・82が相互に圧接されるように構成される。
このような構成により、前記PTOクラッチレバーの操作によってPTOクラッチ70が「断」とされると、クラッチピストン75が、スプリング76の付勢力に応じて、クラッチシリンダ73の内側部73b上を後方へ向けて摺動移動して、当該クラッチピストン75のブレーキ用押圧部75cが第二シリンダ側摩擦部材81及びケース側摩擦部材82を後方へ向けて押圧する。これによって、第二シリンダ側摩擦部材81及びケース側摩擦部材が相互に圧接されて(圧接状態となり)、クラッチシリンダ73に固定された第二シリンダ側摩擦部材81と、ケース側摩擦部材82とが、相対回転不能に結合される。したがって、第一PTO出力軸61が連れ回りによって回転しようとすると、クラッチシリンダ73、第二シリンダ側摩擦部材81を介してケース側摩擦部材82が回転しようとする。ケース側摩擦部材82が周方向へ向けて回転すると、当該ケース側摩擦部材82のブレーキ用係止片82aが、ボルト83の先端部と当接されて係止する。すなわち、ブレーキ用係止片82aを介してケース側摩擦部材82の周方向へ向けての回転が規制され、第二シリンダ側摩擦部材81、クラッチシリンダ73を介して第一PTO出力軸61の回転が規制される。その結果、第一PTO出力軸61は制動されて、連れ回りによる回転を防止することができる。
また、前記PTOクラッチレバーの操作によってPTOクラッチ70が「接」とされると、クラッチピストン75が、スプリング76の付勢力に抗って、クラッチシリンダ73の内側部73b上を前方へ向けて摺動移動して、当該クラッチピストン75のブレーキ用押圧部75cが第二シリンダ側摩擦部材81及びケース側摩擦部材82から離間されて、当該第二シリンダ側摩擦部材81及び当該ケース側摩擦部材82の圧接状態が解除される。これによって、第二シリンダ側摩擦部材81とケース側摩擦部材82との結合が解かれ、相互に相対回転自在となる。したがって、ケース側摩擦部材82に拘らず、第二シリンダ側摩擦部材81はクラッチシリンダ73を介して第一PTO出力軸61とともに回転される。すなわち、第一PTO出力軸61は、制動されない。
以上のような本発明の一実施形態に係るPTOブレーキ80は、PTOブレーキ80がPTO軸90を制動している状態で、ケース側摩擦部材82は、ブレーキ用係止片82aがボルト83の先端部と当接しない範囲で周方向へ向けて回転することができるので(図9の矢印参照)、第二シリンダ側摩擦部材81、クラッチシリンダ73を介して、第一PTO出力軸61が前記範囲で回転することができる。よって、作業車両1に作業機を装着する際には、PTO軸90を周方向へ向けて回転させて位置合わせ可能であり、作業性の向上を図ることができる。また、従来の(ワンウェイ構造を採用していた)PTOブレーキ(図13参照)と比して、PTOブレーキ80の構造が簡単で、少ない部品点数でPTO軸90の連れ回りを防止することができる。よって、製造コストの低コスト化を図ることができる。
また、本発明においては、ケース側摩擦部材82のブレーキ用係止片82aの数、及び周方向の長さを調整することによって、ケース側摩擦部材82がボルト83の先端部と当接するまでの回転角度を設定することができる。具体的には、図9(a)に示すように、例えば、本実施形態においてケース側摩擦部材82のブレーキ用係止片82aを一つ設け、当該ブレーキ用係止片82aの周方向の長さを調整して、ケース側摩擦部材82がボルト83の先端部と当接して係止するまで、回転角度θaを約336度となるように設定すれば、PTOブレーキ80の機能を得た状態で、PTO軸90を最大限に周方向へ向けて回転することができるので、他の設定と比して、作業車両1に作業機を装着する際の作業性が、より向上することができる。
また、図9(b)に示すように、例えば、本実施形態においてケース側摩擦部材82のブレーキ用係止片82aを一つ設け、当該ブレーキ用係止片82aの周方向の長さを調整して、ケース側摩擦部材82がボルト83の先端部と当接して係止するまで、回転角度θbを約180度となるように設定すれば、PTO軸90を作業機に装着するために周方向へ向けて回転することができ、且つPTOブレーキ80の機能を得た状態で、前述した設定(図9(a)参照)と比して、ブレーキ用係止片82aの耐久性の向上を図ることができる。このように、PTOブレーキ80の機能を得た状態で、作業機を装着する際のPTO軸90の回転角度を設定することができ、作業の汎用性の向上を図ることができる。
図10に示すように、PTOクラッチ70及びPTOブレーキ80に近設されたミッションケース4の外周面、つまり外側面には、PTOバルブ200が取り付けられる。PTOバルブ200は、モジュレーションの機能を有する切替バルブ210と調圧弁220が相互に取り外し可能に積層して固定されて形成される。
具体的には、ミッションケース4の外周面に、略直方体状の調圧弁220が取り付けられる。図11に示すように、調圧弁220は、内部に弁体収納孔221を形成して、当該弁体収納孔221の内部に弁体222が摺動自在に設けられ、スプリング224の一端が弁体222に当接されて付勢され、該スプリング224の他端は弁ケースに螺装された支持体223に係止されている。弁体222のくびれ部には前記PTOクラッチ70のクラッチシリンダ73と油路を介して連通され、設定圧以上の圧力がかかると、弁体222はスプリング224の付勢力に抗って摺動して、圧油をドレンさせて調圧する構成としている。このような構成により、切替バルブ210が切り替えられてPTOクラッチ70に圧油が送油された時の油圧を適宜なものとすることができる。その結果、PTOクラッチの「接」又は「断」の切り替え時のショックが緩和され、円滑に切り替えることができる。
また、ミッションケース4の側面には、調圧弁220を別体として、当該調圧弁220又は当該ミッションケース4に切替バルブ210が取り外し可能に固定される。従って、仕様によって調圧弁220が不要な場合には、切替バルブ210が直接ミッションケース4に取り付けられる構成としている。なお、切替バルブ210は電磁弁で構成され、前記PTOクラッチレバーの操作を検知して切り替えられるように構成している。
従来、PTOバルブ200は、図12に示すように、調圧弁及び切替バルブが一つのケース内に一体的に設けられ、PTOバルブ300としていたが、本実施形態においては、調圧弁及び切替バルブをそれぞれ別体のケースに備えるものとしている。このような構成のPTOバルブ200によって、例えば、ミッションケース4においてPTOクラッチの近傍に油圧源を設ける場合には、吐出圧が調整されているため、調圧弁をなくして(調圧弁220を取り付けないで)切替バルブ210のみを取り付ける構成とすることができる。その結果、設計の自由度が高くなり、汎用性の向上を図ることができる。