JP5273666B2 - エレクトロクロミック表示素子 - Google Patents

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Description

本発明はエレクトロクロミック表示素子に関する。
パーソナルコンピュータ等情報処理装置の普及に伴い、情報処理装置による処理結果を表示するための表示素子(例えば、液晶表示素子など)が非常に重要となってきている。
現在、新たな表示素子として、いわゆるエレクトロクロミック特性を利用した表示素子(エレクトロクロミック表示素子)が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。エレクトロクロミック特性とは、電圧の印加により電気化学的酸化還元反応が起こり、物質の色が可逆的に変化する特性をいう。この特性を利用したディスプレイは、(1)視野性に優れる、(2)大型化が可能である、(3)視野角依存性が少ない、(4)鮮明な表示が可能である、といった利点があり、特に、いわゆる電子ペーパーといった極薄型のディスプレイへの応用が期待されている。
ところで上記エレクトロクロミック特性を利用した表示素子に用いられる材料としてビオロゲン化合物が知られている(例えば、非特許文献2参照。)。一般にビオロゲン化合物は発色状態と消色状態との色の変化が顕著であり、エレクトロクロミック特性を利用した表示素子の今後の発展において非常に重要な材料であると考えられている。
ところが、確かに上記ビオロゲン化合物は発色状態と消色状態との色の変化が顕著で有用なものであるが、消色状態においては上記ビオロゲン化合物が完全に溶解するため透明になり、透過光を散乱することができず、表示品位や視野角特性が低下するといった問題がある。
従来、これらの解決のために、無機誘電体粉末を利用した焼結した多孔性白色板や繊維を束ねた白色ケーキ層などの光拡散材料を併用する方法(例えば、特許文献1、2参照。)や、電極表面を加工することにより光を適切に散乱する方法(例えば、非特許文献1参照。)が用いられてきた。
しかしながら、これらの方法は電極構造が複雑になり、均一な酸化還元反応を起こすことや高速応答の実現が難しく、ひいては繰り返しによる表示品位の低下が発生する等の問題があった。また、光拡散材料自体の不純物イオンの存在や電気化学反応によって予期せぬ着消色特性の劣化が起こることがあった。光拡散材料の白色度に視野角特性が存在することや、発色剤の吸着に奥行き方向の情報が発生する等、紙に近い電子ペーパーの実現には問題があった。
特表2007−519776号公報 特開2007−3552号公報
M. Graetzel, Nature 409 (2001) 575. C.L. Bard, A.T. Kuhn, Chem. Soc. Rev. 10 (1981) 49.
本発明は、このような従来の問題を解決しようとするもので、光拡散材料を併用したり、電極表面を加工することなく、簡便な構成で、均一な酸化還元反応が可能なエレクトロクロミック表示素子を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題について鋭意検討を行ったところ、エレクトロクロミック表示素子において、従来技術で用いる範囲外の電圧を印加した場合、特定のビオロゲン化合物と特定の支持電解質とを有する媒体と電極の界面に結晶が析出して白色層を形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、一対の電極と、前記一対の電極間に挟持された媒体層を有するエレクトロクロミック表示素子であって、前記一対の電極の少なくとも一方が透明電極であり、前記媒体層がビオロゲン化合物、支持電解質および溶媒を含み、前記支持電解質を構成する陰イオンが臭化物イオンであり、前記ビオロゲン化合物が下記式(1)で表される化合物であり、前記電極間に電圧を印加することにより、(i)前記透明電極に着色物質が析出して発色する領域および前記着色物質が溶解して消色する領域が、飽和カロメル電極に対して−1.0V以上1.0V未満の範囲にあり、かつ(ii)前記透明電極に結晶が析出して白色層が形成される領域が、飽和カロメル電極に対して1.0V以上の範囲にあることを特徴としている。
Figure 0005273666
前記式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立に炭素数2〜12のアルキル、炭素数3〜20のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルを表す。R1およびR2は、それぞれ独立にエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ベンジル、アルキル置換ベンジルまたはエテニルフェニルであることが好ましい。
前記ビオロゲン化合物が1,1'-ジベンジル-4,4'-ビピリジニウムまたは1,1'-ジヘプチル-4,4'-ビピリジニウムであることが好ましい。
前記溶媒は、40容量部以上の水を含む(ただし、溶媒全体を100容量部とする。)ことが好ましく、水以外に、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネートまたはアルコールを含有していてもよい。また、前記溶媒100容量部に対して、水の含有量が40〜100容量部であり、有機溶媒の含有量が60〜0容量部であることが好ましい。水の含有量が50〜100容量部であり、有機溶媒の含有量が50〜0容量部であることがより好ましい。水の含有量が80〜100容量部であり、有機溶媒の含有量が20〜0容量部であることがさらに好ましい。
本発明のエレクトロクロミック表示素子は、紙同様の光散乱機能を持ち、白色の背景を形成するための光散乱層をあらかじめ有しなくてもよい。
本発明のエレクトロクロミック表示素子によれば、電極表面に析出した結晶から形成される白色層が光拡散材料と同等の機能を発揮するため、別途光拡散材料を併用する必要がない。そのため、該エレクトロクロミック表示素子は、電極や表示のための外枠構造体に何らの工夫をせずに、より簡便な構成で優れた発消色特性を有することができる。
図1は、実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子の一部断面の概略図である。 図2は、実施例1の電気化学測定におけるサイクリックボルタモグラムの概略を示す図である。 図3は、実施例1の電気化学測定(測定電位範囲:−0.75〜+1.5V(vs. SCE))におけるサイクリックボルタモグラムを示す図である。 図4は、電気化学測定装置の概略を示す図である。 図5は、着色効率測定装置の概略を示す図である。 図6は、媒体の紫外可視吸収スペクトルデータを測定する際の装置の概略を示す図である。 図7は、媒体の紫外可視吸収スペクトルデータを示す図である。 図8Aは、実施例1において析出した白色層のFT−IR測定結果であり、図8Bは、実施例1において析出した白色層のXPS測定結果である。 図9は、比較例1の電気化学測定におけるサイクリックボルタモグラムを示す図である。
本発明は、一対の電極と、前記一対の電極間に挟持された媒体層を有するエレクトロクロミック表示素子であって、前記一対の電極の少なくとも一方が透明電極であり、前記媒体層が特定のビオロゲン化合物、特定の支持電解質および溶媒を含み、前記電極間に電圧を印加することにより、(i)前記透明電極に着色物質が析出して発色する領域および前記着色物質が溶解して消色する領域が、飽和カロメル電極に対して−1.0V以上1.0V未満の範囲にあり、かつ(ii)前記透明電極に結晶が析出して白色層が形成される領域が、飽和カロメル電極に対して1.0V以上の範囲にあることを特徴としている。
前記ビオロゲン化合物は下記式(1)で表される化合物である。
Figure 0005273666
上記式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立に炭素数2〜12のアルキル、炭素数3〜20のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルを表す。
前記アルキルは、Cn2n+1(n=2〜12)で示される鎖状または分岐状のアルキルであることが好ましく、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルであることがより好ましく、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルであることが特に好ましい。前記アリールは、フェニル、ナフチル、エテニルフェニルであることが好ましく、エテニルフェニルであることがより好ましい。前記アリールアルキルは、ベンジル、アルキル置換ベンジルであることが好ましい。R1およびR2がこのような基であると、特定の電圧を印加した際に、前記媒体層に好適に結晶が析出し、白色層が形成される。また、R1およびR2がこのような基であると、後述する溶媒への溶解性、電圧印加時の白色層の白色度、電圧印加時の白色層の均一性、電圧印加時の白色層の発色効率(=吸光度変化/通電電気量)の点で好ましい。
前記ビオロゲン化合物の具体例としては、1,1'-ジベンジル-4,4'-ビピリジニウム、1,1’-ジヘキシル-4,4’-ビピリジニウム、1,1'-ジヘプチル-4,4'-ビピリジニウム、1,1’-ジノニル-4,4’-ビピリジニウム、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムが挙げられ、中でも、1,1'-ジベンジル-4,4'-ビピリジニウムまたは1,1'-ジヘプチル-4,4'-ビピリジニウムが好ましい。このようなビオロゲン化合物を用いると、前記透明電極に着色物質が好適に析出して発色し、また前記着色物質が好適に溶解して消色するとともに、前記透明電極に結晶が好適に析出して白色層が形成されるので好ましい。
前記ビオロゲン化合物は、以下のような電子の授受を行うことで発色状態または消色状態となる。上記式(1)で表されるビオロゲン化合物(無色)は、電子を一つ受け取り下記式(2)で表される化合物(有色)となり、またその後電子一つを放出して上記式(1)で表されるビオロゲン化合物(無色)に戻ることができる。また、式(I)および(II)で表されるとおり、溶液中の臭化物イオン(Br-)は、電子を一つ放出して、臭素分子(Br2)となり、さらに溶液中にある臭化物イオン(Br-)と結合して、三臭化物イオン(Br3 -)となる。
Figure 0005273666
式(1)で表される化合物がBr3 -の一つまたは二つと結合すると、それぞれ式(3)または式(4)で表される化合物となる。
Figure 0005273666
Figure 0005273666
Figure 0005273666
上記式(2)〜(4)において、R1およびR2は、上記式(1)の場合と同義である。
前記ビオロゲン化合物は、後述する支持電解質における三臭化物イオン(Br3 -)と反応し、三臭化物塩を形成する。該三臭化物塩は、後述する溶媒に不溶となり、微結晶(結晶)となって透明電極上に析出し、電極表面に白色層を形成する。
媒体層におけるビオロゲン化合物の濃度は、発色状態および消色状態となり、かつ結晶を析出して、白色層を形成する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば媒体層を構成する、溶媒、ビオロゲン化合物および支持電解質の合計の重量を100重量部とした場合に、0.01重量部以上30重量部以下であることが好ましく、0.1重量部以上5重量部以下であることがより好ましく、0.3重量部以上1重量部以下であることが特に好ましい。0.01重量部以上とすることで優れた視認性が得られるといった効果を得ることができ、0.1重量部以上とするとこの効果がより顕著となり、0.3重量部とすることでこの効果が特に顕著となる。また、30重量部以下とすることで、溶液粘度の増加を抑制し応答速度の低下を防ぐことができるといった効果があり、5重量部以下とすることでこの効果がより顕著となり、1重量部以下とすることでこの効果が特に顕著となる。
媒体層における支持電解質は、電圧印加時に電気二重層を形成し、電気化学反応を生じさせるために用いられる化合物である。
また、前記支持電解質を構成する陰イオンは臭化物イオンであり、1電子酸化時に、三臭化物イオン(Br3 -)を生成する。該三臭化物イオン(Br3 -)は、上述のとおり、前記ビオロゲン化合物と反応し、三臭化物塩を形成する。該三臭化物塩は、後述する溶媒に不溶となり、結晶(結晶)となって透明電極上に析出して、白色層を形成する。
前記支持電解質の具体例としては、上述のような機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2、(CH34NBr、(C254NBr、(C494NBrなどが挙げられる。
媒体層における支持電解質の濃度は、限定されるわけではないが、媒体層を構成する、溶媒、ビオロゲン化合物および支持電解質の合計の重量を100重量部とした場合に、0.01重量部以上50重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以上10重量部以下であることがより好ましい。0.01重量部以上とすることで充分な電気化学反応の進行が可能となり、0.5重量部以上とするとこの効果が顕著となる。また、50重量部以下とすることで溶液粘度の上昇を抑制し応答速度の低下を回避でき、10重量部以下とするとこの効果がより顕著となる。
媒体層における溶媒は、前記ビオロゲン化合物および前記支持電解質を保持するために用いられるものである。
前記溶媒は、40容量部以上の水を含む(ただし、溶媒全体を100容量部とする。)ことが好ましい。前記溶媒100容量部に対して、水の含有量は40〜100容量部であることがより好ましく、50〜100容量部であることがさらに好ましく、80〜100容量部であることが特に好ましい。このような範囲で水を含む溶媒であると、特定の電圧を印加した際に、媒体層内の電極表面に微結晶が好適に析出し、凝集することで白色層が形成される傾向にある。
前記溶媒は、水以外に有機溶媒を含んでいてもよい。前記有機溶媒の含有量は、前記溶媒100容量部に対して、60〜0容量部であることがより好ましく、50〜0容量部であることがさらに好ましく、20〜0容量部であることが特に好ましい。
前記有機溶媒の具体例としては、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ポリエチレングリコール、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アルコール(メタノール、エタノール等)、無水酢酸及びこれらの混合溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、アルコールであることがさらに好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、アルコールであることが特に好ましい。このような有機溶媒を前記範囲で含有させることにより、前記三臭化物塩の溶媒に対する溶解度を制御し、媒体層内の電極表面に好適に微結晶を析出させ、白色層を形成させることができる。
前記溶媒は視認性の観点から無色透明であることが好ましい。
また、前記溶媒の種類および配合量を適宜設定することにより、ビオロゲン化合物を発色状態とした場合にビオロゲン化合物の凝集状態を効率よく維持することができる。
また、媒体層には電位差を調整し酸化還元を媒介する酸化還元助剤を含有させてもよい。このような酸化還元助剤の具体例としては、フェロセン、フェロシアンイオン、ナフトキノン、ナフトヒドロキノン、ヒドロキノン及びそれらの誘導体が挙げられる。
媒体層における酸化還元助剤の濃度は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて限定されるわけではないが、媒体層を構成する、溶媒、ビオロゲン化合物および支持電解質の合計の重量を100重量部とした場合に、0.01重量部以上20重量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.05重量部以上10重量部以下である。0.01重量部以上とすることでビオロゲン還元体(式(2))の消え残りを充分に解消でき、0.05重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、20重量部以下とすることで溶液粘度の上昇を抑制し応答速度の低下を回避することができ、10重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
前記一対の電極は、視認性の観点から少なくとも一方が透明電極である。前記一対の電極としては、導電性があり電圧を印加する際に溶解してしまわない限りにおいて限定されず、例えば金属又は導電性を有する金属酸化物から形成される電極が挙げられる。前記金属としては、白金、金及びステンレス並びにこれらの合金などが挙げられ、導電性を有する金属酸化物としては、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、FTO(Fluorine Tin Oxide)およびこれらいずれかの組み合わせを含む合金などが挙げられる。これらのうち透明電極としては、ITO、FTOなどが挙げられる。
前記一対の電極は、透明電極および白金電極であることが特に好ましい。
本発明のエレクトロクロミック表示素子は、前記電極間に電圧を印加することにより、(i)前記透明電極上に着色物質が析出して発色する領域および前記着色物質が溶解して消色する領域が、飽和カロメル電極に対して−1.0V以上1.0V未満の範囲、好ましくは−0.8V以上1.0V未満の範囲、より好ましくは−0.7V以上1.0V未満の範囲にあり、かつ(ii)前記透明電極上に結晶が析出して白色層が形成される領域が、飽和カロメル電極に対して1.0V以上の範囲、好ましくは1.0V以上2.0V未満の範囲、より好ましくは1.0V以上1.5V以下の範囲にある。このような範囲にあると、水の電解が起こらず、また、前記透明電極上に好適に着色物質が析出して発色し、前記着色物質が溶解して消色が起こり、さらには前記透明電極上に結晶が析出して、凝集することで電極表面に白色層が形成される。
本発明のエレクトロクロミック表示素子は、透明電極上に析出した結晶が凝集し、電極表面に白色層を形成する。この結晶から形成される白色層が光拡散材料と同等の機能を発揮するため、光拡散用の拡散板、無機誘導体粉末などを利用した拡散反射素子、光学的散乱層などの光拡散材料を別途有しなくてもよい。また、本発明のエレクトロクロミック表示素子は、紙同様の光散乱機能を持ち、白色の背景を形成するための光散乱層をあらかじめ有しなくてもよい。
また、本発明のエレクトロクロミック表示素子は、前記ビオロゲン化合物そのものが発色状態および消色状態となり、さらには結晶を析出し、凝集することにより、電極表面に白色層が得られるので、発消色特性に優れる。さらに、結晶は電極表面に析出するため、得られる白色層は、媒体全体に存在する光拡散材料と違ってより紙に近い色となり、また視野角特性が良好である。また。電解質、臭素等を除いて、他の不純物、夾雑物が存在しないことから予期せぬ着消色が起こる心配がない。
以上、本発明のエレクトロクロミック表示素子は、電極や表示のための外枠構造体に何らの工夫をせずに、簡便な構成で優れた発消色特性を有することができる。
なお、本発明のエレクトロクロミック表示素子は、上記一対の電極および媒体層に加えて、一対の基板、スペーサを備えた形態であってもよい。
以下、本発明のエレクトロクロミック表示素子を用いた実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。また本明細書において、同様の機能を奏する構成要素については同一の符号を付し、その説明は省略する。
(実施形態)
図1は、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子の一部断面の概略図である。図1に示すとおり、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子1は、一対の基板2a、2bと、一対の基板の対向する面のそれぞれに形成される電極3aおよび3b(以下「画素電極」とも記す。)と、一対の基板の間に挟持される媒体層4と、を有し、かつ、この媒体層4は、溶媒、ビオロゲン化合物、支持電解質、必要に応じてフェロセン等の酸化還元助剤と、を含むことが好適な実施形態の一つである。なお、画素電極および媒体層については上述したとおりである。
本実施形態において、一対の基板2a、2bは、画素電極3a、3b及び液体層を保持する機能を有するものである。一対の基板2a、2bそれぞれの材質は同一であっても異なっていてもよいが、ビオロゲン化合物による発色及び消色が見えるように少なくとも一方が透明な部材で構成されていることが好ましい。基板2a、2bの材質としては、限定されるわけではないが、例えば、ガラス板、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックシート、ステンレスなどの金属板等を挙げることができる。フレキシブルな表示素子を目的とする場合は、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等の透明あるいは半透明プラスチックシートを基板として用いることがより好ましい。
なお、一対の基板の間の距離としては、液体層に用いる材料、画素電極の厚さ、印加する電圧の範囲等に依存し適宜調整可能であるが、概ね10μm以上1cm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以上5mm以下である。
本実施形態において画素電極3a、3bは、一対の基板2a、2bの対向する面にそれぞれ形成されるものであって、この間に所定の電圧を印加することでビオロゲン化合物の発色及び消色を制御することができる。画素電極の占める領域が一画素領域となり、画素電極を複数設けることで、文字等の複雑な画像表示を実現することができる。画素領域の形状は予め表示したい形状となっているセグメントであってもよいし、マトリクス状に並べやすい多角形(例えば四角形)であってもよい。なお複数の画素領域をマトリクス状に配置し、画像表示をより細かく表示する場合、一対の基板の対向する画素領域毎に独立した複数の画素電極を設けておくことが好ましいが、製造を容易にする等の観点から、一方の画素電極を全画素共通のいわゆる共通電極とすることは好ましい一形態である(本実施形態において共通電極は画素電極の一形態となる)。
ここで、独立した複数の画素電極が一対の基板の一方に配置されている場合の一例について説明する。基板2aには、複数の画素電極3aが配置されており、各画素電極3aは、略平行に配置される複数の走査電極と、これら複数の走査電極と交差して配置される複数の信号電極とにより形成される空間に配置されており、各画素電極は例えば走査電極にゲートが接続されたスイッチング素子を介して信号電極と接続される。
また、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子は、上記構成のほか、例えば一対の基板の距離を一定に保つためのスペーサを設けることも好ましい態様である。スペーサとしては、膜状の多孔質体であることが好ましいが、一対の基板の間に配置される柱状、球状のスペーサであることも可能である。スペーサの材質としてはセラミクス、ポリマー、セルロースを採用することができるがこれに限定はされない。
さらに、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子は、画素電極の間に所望の電圧を印加するために、信号電極、走査電極(間接的に画素電極)と接続される外部電源を有することも好ましい。このようにすることで、上記ビオロゲン化合物及び必要に応じてフェロセン等に電子の授受を可能とし、画像表示が可能となる。なお画像表示が可能となる限りにおいて限定されるわけではないが、一対の電極の間には、0.01V/cm以上、2000V/cm以下の電界が印加されるように電圧を印加することが好ましく、より好ましくは0.1V/cm以上、200V/cm以下である。
本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子は、酸化還元反応による発色および消色以外に、結晶の析出による白色層を得ることができるので、優れた発消色特性を有する。この効果については、推測の域を出ないが以下のように考えることができる。
最初の段階において、ビオロゲン化合物は一電子還元を受け電極に付着している(着色している)。そして、電極に正の電圧を印加すると、ビオロゲン化合物の一電子還元体は、酸化され、元の状態に戻って電極から離脱する。この結果、ビオロゲン化合物は2価の陽イオンとなる。
そして2価の陽イオンとなったビオロゲン化合物は、支持電解質における臭化物イオンと結合し、電極から離脱し媒体層に溶解する。
さらに一電子放出し3価の陽イオンとなれないビオロゲン化合物に代わり、支持電解質の一部が酸化を受け、臭化物イオンから臭素分子Br2が発生する。そしてBr2は、溶液中のBr-と結合し、Br3 -となる。対イオンのうちの少なくとも一つが前記三臭化物イオンBr3 -となったビオロゲン化合物の三臭化物塩は、上述したR1、R2の組み合わせによって、上述した溶媒に不溶な性質を示し、画素電極近傍で不溶化を起こし、画素電極上に結晶として析出する。この結晶化とそれと引き続く析出は電解によって可逆かつ速やかに起こり、結晶の大きさは肉眼では確認できない大きさになる。したがって、画素電極上では白濁しているように見え、溶媒に不溶の三臭化物塩が微粒子状の凝集形態をとることによって白色を演色できると本発明者らは推測している。また、このように透明電極上に析出した結晶が光拡散材料と同等の機能を発揮するため、光拡散用の拡散板、無機誘導体粉末などを利用した拡散反射素子、光学的散乱層などの光拡散材料を、表示素子の構成に別途加えなくてもよい。したがって、光学的散乱層など光拡散材料の種類や溶媒との屈折率比、さらには光学的散乱層など光拡散材料そのものによらない発消色特性に優れた表示素子を提供することができる。本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子は、上述のとおり結晶を析出して、白色層を形成でき、発消色特性に優れ、光学的散乱層などの光拡散材料に依存することなく効果を発揮することができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)エレクトロクロミック表示素子の作製
ビオロゲン化合物として、0.30重量%の水和水を持つ1,1'-ジベンジル-4,4'-ビピリジニウムジクロリド(東京化成工業(株)社製)から形成される1,1'-ジベンジル-4,4'-ビピリジニウム(以下「BV2+」とも記す。)を用い、支持電解質として、LiBr(関東化学社製)を用い、溶媒として、蒸留・脱イオン水を用いた。これらのビオロゲン化合物(7mM)、支持電解質(0.1M)および溶媒50mlを混合して媒体を調製した。
透明電極として、酸化インジウムスズ(10Ω/sq、ジオマテック社製、以下「ITO」とも記す。)電極を用いた。以下の電気化学測定を行う直前にアセトン中で超音波処理(45W、10分)によりITO電極を洗浄した。
前記ITO電極の対向電極として白金電極を用いた。
これらの媒体および電極を用い、エレクトロクロミック表示素子を作製し、以下のとおり電気化学測定および着色効率測定を行った。
(2)電気化学測定
電気化学測定(サイクリックボルタンメトリー、以下「CV」とも記す。)は、図4に示すような2部屋からなる3電極式電解セルとポテンショスタット(BAS社製モデルALS 750A)を用い、室温の窒素雰囲気下で行った。
2部屋からなる3電極式電解セルにおいて、電解セル主室に前記媒体を約15ml入れた。前記ITO電極(10mm×20mm×1.1mm)と対向電極である白金電極(10mm×20mm×0.3mm)を、電解セル主室の前記媒体に浸漬した。前記媒体と接触したITO電極の面積は、典型的には10mm×10mmとした。焼成ガラスフィルターで電解セル主室と隔てられている副室(約5ml)の媒体中に寒天塩橋を浸漬し、該寒天塩橋を飽和カロメル参照電極(以下「SCE」とも記す。東亜ディーケーケー社製)に接続した。
動作電極はITO電極であり、室温(22±2℃)・窒素雰囲気下で測定した。また、測定電位範囲は、−0.75〜+1.2V(vs. SCE)とした。図2の曲線aは、当該電気化学測定におけるサイクリックボルタモグラムである。また、図2の曲線bは、媒体をLiBr(0.1M)水溶液とした場合の電気化学測定におけるサイクリックボルタモグラムである。
−0.6V(vs. SCE)で電流ピークが観察された(図2曲線a参照)。当該電流ピークは、BV2+がBV+へ還元されたことを示す。生じたBV+は、二量化反応そして(あるいは)結晶化を起こし、媒体中のITO電極側が紫色に発色した。この紫色の発色は、反転掃引側における約−0.25V(vs. SCE)で部分的に消色した。そして、小さな酸化波が見られる約+1V(vs. SCE)よりもアノード側の領域で完全に消色した。この結果は、小さな酸化波が見られる約+1V(vs. SCE)において、残留したBV+二量体がBV2+に酸化されたことを示すものである。
次に、測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した以外は、上記と同様に電気化学測定を行った。図2の曲線cは、当該電気化学測定におけるサイクリックボルタモグラムである。詳細には図3に示す。また、図2の曲線dは、媒体をLiBr(0.1M)水溶液とした場合の電気化学測定におけるサイクリックボルタモグラムである。
図2曲線cをみると、測定電位範囲が−0.75〜+1.2V(vs. SCE)の場合に比べてサイクリックボルタモグラムの形が劇的に変化したことがわかる。
アノード方向への電位の掃引において、約+1.2V(vs. SCE)を越えた付近で鋭い酸化電流の立ち上がりが観測され、紫色の発色が完全に消色した。さらに、この消色後、約+1.4V(vs. SCE)において、媒体中のITO電極側に白色層が形成された。その後、+1.5V(vs. SCE)において電位掃引を反転し、カソード方向に掃引を行ったところ、約−0.1V(vs. SCE)において、還元ピーク電流が観察され、前記白色層は消失した。−0.25V(vs. SCE)から−0.5V(vs. SCE)の間の電位では、媒体中のITO電極側は再度無色透明状態となった。
図7に、−0.3V(vs. SCE)(無色透明状態)、+1.4V(vs. SCE)(白色状態)そして−0.75V(vs. SCE)(紫色状態)におけるITO電極側媒体の紫外可視吸収スペクトルデータ(無色透明状態:a、白色状態:b、紫色状態:c)を示す。
約+1.2V(vs. SCE)を越えた付近での鋭い酸化電流の立ち上がりおよび約−0.1V(vs. SCE)における還元ピーク電流は、媒体をLiBr(0.1M)水溶液した場合でも観察され(図2の曲線d)、次に示すような電気化学的/化学的反応に帰属することができる。
Figure 0005273666
式(II)におけるBr3 -の形成反応の平衡定数は、17M-1である。
(3)着色効率測定
着色効率測定は、主室の形が四角柱になっている光電気化学セル(図5参照)を使用して、紫色層(着色物質に起因する色)および白色層(結晶に起因する色)に対して行った。
着色効率は、下記式(III)によって算出した。
CE(L)=DA(L)/DQ (III)
CE(L):着色効率(cm2/C)
DA(L):波長Lにおける吸光度変化
DQ:通電電気量(C/cm2)
紫色層および白色層は、BV2+(7mM)/LiBr(0.1M)水溶液中で、それぞれ−0.75V及び+1.4Vでの定電位電解処理を施すことでITO電極上に作成した。紫色層(L=550nm)および白色層(L=450nm)に対する着色効率は、順に170cm2/C、104cm2/Cであった。白色層の着色効率は、紫色層の着色効率よりも低い値となったが、当該白色層は、紙と類似の光散乱白色背景層として重要な役割を果たすと期待できる。
〈FT−IR測定およびXPS測定〉
アノード側の折り返し電位を+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合の上記電気化学測定において観測された白色層を同定するために、以下のとおりFT−IR測定およびX線光電子分光分析(XPS)測定を行った。FT−IR測定は、日本分光社製(FT−IR410を用いた。X線光電子分光分析(XPS)測定は、AlKα放射を備えた島津社製ESCA−1000スペクトロメーターを用いた。そして、絶対的な結合エネルギーの目盛りは、C 1sピークを284.6 eVとすることによって規定した。
試料は以下のようにして作成した。まずITO電極の電位を20mV/sの掃引速度で−0.1V(vs. SCE)(自然電位)から−0.75V(vs. SCE)まで掃引し、紫色層を生成した。そして、電位を−0.75V(vs. SCE)で反転し、−0.75V(vs. SCE)から+1.4V(vs. SCE)まで掃引して白色層を形成した。そして、+1.4V(vs. SCE)で掃引を停止し、+1.4V(vs. SCE)において定電位電解を100秒間行った。この定電位電解の後、ITO電極を電解セルから取り出し、空気中でITO電極に付着した白色層を24時間乾燥した。その後、ITO電極から白色析出物を削り取り、KBr粉末と混合してペレットとし、FT−IR測定試料(以下「KBrペレット試料」とも記す。)を作成した。本来ならば、白色析出物は純水で洗浄すべきであるが、白色析出物は容易に塩などの不純物を含まない水に溶解するために、水洗浄を行わず測定に供した。
図8Aにおける曲線aは、白色析出物のKBrペレット試料のFT−IRスペクトルを示す。図8Aにおける曲線bは、BV2+・2Cl-粉末のKBrペレット試料のFT−IRスペクトルを示す。
曲線aに観測されるすべてのシグナルは曲線bにおいても観察されることから、白色析出物はBV2+を含有すると考えられる。
白色析出物のアニオン部位に関する情報は以下のX線光電子分光分析(XPS)測定によって得られた。白色析出物のBr 3dバンドのXPSスペクトルを図8Bの曲線aに示す。曲線aのスペクトルは肩を持つピークを示し、2成分に分離できる。1つは、Br3 -(69.8 eV、図8Bの曲線b)であり、もう1つはBr-(68.6 eV、図8Bの曲線c)である。下表1には、XPSによって決定されたBr及びNの相対原子数をまとめた。この表1において、Run1及びRun2はそれぞれ別々の試料を用いたときの結果である。そして、最後の列(Meanと表示)は、Run1とRun2の平均の値を示す。白色析出物は、水洗浄を行っていないため、支持電解質であるLiBrが混入しており、Br-が過剰量検出されることとなった。Br3 -中のBr原子数とBV2+中のN原子数との比(Br原子数:N原子数)は20:10(2試料の測定の平均値)であったが、これは、Br3 -とBV2+との比(Br3 -:BV2+)が4:3であることを示している。この結果は、白色層がBV2+・Br3 -・Br-とBV2+・2Br3 - との2つの構造から形成され、そのモル比(BV2+・2Br3 -:BV2+・Br3 -・Br-)が1:2であることを示している。
なお、BV2+・2Cl-(7mM)/LiBr溶液において、LiBrの濃度を1Mに上げても沈殿は生じないことから、白色層の形成にBV2+・2Br-は寄与しないものと考えられる。
Figure 0005273666
(確認実験例1)
BV2+とBr3 -との間で三臭化物塩が形成されることを確認するため、電解生成したBr3 -溶液にBV2+を投入し、沈殿生成を観察する実験を以下のように行った。
まず、0.1MのLiBr水溶液を用いて、+1.5V(vs. SCE)でBr-のBr3 -への定電位電解酸化を行った。ITO動作電極とPt対向電極とをそれぞれ電解セルの主室(15 ml)および副室(5 ml)に浸漬し、2Cの電気量を通電した。そして、得られた主室の溶液(Br3 -を含む溶液)に10mgのBV2+・2Cl-を添加したところ、白色沈殿が生じた。この結果、BV2+とBr3 -との間で白色不溶性の塩が形成されることを支持している。
(確認実験例2)
BV2+とBr3 -との間で塩が形成されることを確認するため、化学的に生成したBr3 -溶液にBV2+を投入し、沈殿生成を観察する実験を行った。このBr3 -溶液は、臭素水(0.01 M、10ml)にLiBr・H2O(419mg)を添加することによって調製した。このBr3 -溶液に10 mgのBV2+・2Cl-を添加したところ、白色沈殿が生じた。この結果も、BV2+とBr3 -との間で白色不溶性の塩が形成されることを支持している。
[実施例2]
支持電解質として、NaBr(関東化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子を作製し、電気化学測定を行った。
測定電位範囲を−0.75〜+1.2V(vs. SCE)とした場合、測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合ともに実施例1とほぼ同様のサイクリックボルタモグラムが得られた。
測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合、約+1.4V(vs. SCE)において、媒体中のITO電極側に白色層が形成されることがわかった。
[実施例3]
支持電解質として、KBr(関東化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子を作製し、電気化学測定を行った。
測定電位範囲を−0.75〜+1.2V(vs. SCE)とした場合、測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合ともに実施例1とほぼ同様のサイクリックボルタモグラムが得られた。
測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合、約+1.4V(vs. SCE)において、媒体中のITO電極側に白色層が形成されることがわかった。
[比較例1]
支持電解質として、LiCl(関東化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子を作製し、電気化学測定を行った。結果を図9に示す。
測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合、アノード方向への電位の掃引において、約+1.2V(vs. SCE)で鋭い酸化電流の立ち上がりは観測されず、約+1.4V(vs. SCE)において、媒体中のITO電極側に白色層が形成されることもなかった。
[比較例2]
支持電解質として、NaCl(関東化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子を作製し、電気化学測定を行った。
測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合、アノード方向への電位の掃引において、約+1.2V(vs. SCE)で鋭い酸化電流の立ち上がりは観測されず、約+1.4V(vs. SCE)において、媒体中のITO電極側に白色層が形成されることもなかった。
[比較例3]
支持電解質として、KCl(関東化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子を作製し、電気化学測定を行った。
測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合、アノード方向への電位の掃引において、約+1.2V(vs. SCE)で鋭い酸化電流の立ち上がりは観測されず、約+1.4V(vs. SCE)において、媒体中のITO電極側に白色層が形成されることもなかった。
[比較例4]
支持電解質として、LiI(和光純薬社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子の作製を試みた。しかしながら、LiIとBV2+とを混合した際に黄色沈殿が析出したので、電気化学測定等の検討は行わなかった。前記黄色沈殿は、BV2+とI-との塩であると考えられる。
[比較例5]
支持電解質として、NaI(関東化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子の作製を試みた。しかしながら、NaIとBV2+とを混合した際に黄色沈殿が析出したので、電気化学測定等の検討は行わなかった。前記黄色沈殿は、BV2+とI-との塩であると考えられる。
[比較例6]
支持電解質として、KI(関東化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子の作製を試みた。しかしながら、KIとBV2+とを混合した際に黄色沈殿が析出したので、電気化学測定等の検討は行わなかった。前記黄色沈殿は、BV2+とI-との塩であると考えられる。
[比較例7]
ビオロゲン化合物として、1,1'-ジメチル-4,4'-ビピリジニウム(東京化成工業社製、以下「MV2+」とも記す。)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子を作製し、電気化学測定を行った。
測定電位範囲を−0.85〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合、アノード方向への電位の掃引において、約+1.2V(vs. SCE)で、Br3 -の生成に起因する電流上昇が観測され、カソード方向への電位の掃引において、約−0.2V(vs. SCE)で、還元ピーク電流が観察された。しかしながら、白色層は、痕跡量程度でほとんど形成されなかった。この結果から、MV2+とBr3 -とで形成される塩は媒体中に容易に溶解すると考えられる。
[実施例4]
ビオロゲン化合物として、1,1'-ジヘプチル-4,4'-ビピリジニウム ジブロミド(東京化成工業(株)社製)から形成される1,1'-ジヘプチル-4,4'-ビピリジニウム(以下「HV2+」とも記す。)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子を作製し、電気化学測定を行った。
測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合、アノード方向への電位の掃引において、約+1.2V(vs. SCE)を越えた付近で鋭い酸化電流の立ち上がりが観測され、紫色の発色が完全に消色した。さらに、この消色後、約+1.4V(vs. SCE)において、媒体中のITO電極側に白色層が形成された。その後、+1.5V(vs. SCE)において電位掃引を反転し、カソード方向に掃引を行ったところ、約−0.6V(vs. SCE)において、還元ピーク電流が観察され、前記白色層は消失した。電位−0.6 V付近では、HV2+が還元されてHV+になることから、白色層の消失に関わる還元波とHV2+の還元に関わる還元波との重なりを招くこととなった。実際、カソード方向に電位掃引を行うと、白色層の消失後、ただちに紫色層(HV+層)の形成が生じた。実施例1に対して、実施例4の場合、白色層消失電位がカソード方向にシフトしたことは、HV2+-Br3 -がBV2+-Br3 -に比して還元に対して安定であることを示す。
[比較例8]
溶媒として、メタノールを用い、支持電解質として、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)を用いた以外は実施例1と同様にして、エレクトロクロミック表示素子を作製し、電気化学測定を行った。
測定電位範囲を−0.75〜+1.5V(vs. SCE)まで拡大した場合、アノード方向への電位の掃引において、約+1.2V(vs. SCE)でアノード電流上昇を示した。上記式(I)および(II)の反応は、いくつかの有機溶媒中でも進行するという事実の類推から、上記アノード電流上昇はまたBr3 -の生成に帰属されると考えられる。
しかしながら、白色層の形成は確認されなかった。この結果から、BV2+-Br3 -塩はメタノール溶液に易溶であると考えられる。
以上の結果から、BV2+/MBr水溶液系(M =Li+、Na+及びK+)における白色層形成は、次の連続した過程に従って生じることが示唆された。
ステップ1---Br-からBr3 -への電気化学的酸化。
ステップ2---電極近傍における、BV2+とBr3 -との塩形成。
ステップ3---形成された塩が溶媒に不溶であり、白色微粒子として析出して白色層を形成。
以上、本実施例により、本発明のエレクトロクロミック表示素子は、優れた発消色特性を有することを確認した。
本発明のエレクトロクロミック表示素子は、優れた発消色特性を有するので、情報処理装置による処理結果を表示するための表示素子として有用であり、産業上の利用可能性がある。
1:エレクトロクロミック表示素子
2a、2b:基板
3a、3b:画素電極
4:媒体層
11:透明電極(酸化インジウムスズ(ITO))
12:金属(白金)電極
13:ガラスフィルター
14:塩橋
15:飽和カロメル参照電極(SCE)
16:媒体
17:KCl飽和水溶液
18:作用極(W.E.)
19:対電極(C.E.)
31:光
32:媒体
33:対電極(C.E.)
34:作用極(W.E.)
35:窒素ガスバブリング用のガラス管
36:塩橋
37:飽和カロメル参照電極(SCE)
38:KCl飽和水溶液
39:ガラスフィルター
40:透明電極(酸化インジウムスズ(ITO))
51:透明電極(酸化インジウムスズ(ITO))
52:ガラス板
53:Auワイヤ
54:塩橋
55:飽和カロメル参照電極(SCE)
56:ステンレス製の電極カバー
57:ステンレス製の電極カバー
58:電解液入り本体
59:KCl飽和水溶液
60:媒体

Claims (6)

  1. 一対の電極と、前記一対の電極間に挟持された媒体層を有するエレクトロクロミック表示素子であって、
    前記一対の電極の少なくとも一方が透明電極であり、
    前記媒体層がビオロゲン化合物、支持電解質および溶媒を含み、
    前記支持電解質を構成する陰イオンが臭化物イオンであり、
    前記ビオロゲン化合物が下記式(1)で表される化合物であり、
    前記電極間に電圧を印加することにより、(i)前記透明電極に着色物質が析出して発色する領域および前記着色物質が溶解して消色する領域が、飽和カロメル電極に対して−1.0V以上1.0V未満の範囲にあり、かつ(ii)前記透明電極に結晶が析出して白色層が形成される領域が、飽和カロメル電極に対して1.0V以上の範囲にあることを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。
    Figure 0005273666
    (式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立に炭素数2〜12のアルキル、炭素数3〜20のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルを表す。)
  2. 前記式(1)におけるR1およびR2がそれぞれ独立にエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ベンジル、アルキル置換ベンジルまたはエテニルフェニルであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示素子。
  3. 前記ビオロゲン化合物が1,1'-ジベンジル-4,4'-ビピリジニウムまたは1,1'-ジヘプチル-4,4'-ビピリジニウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロクロミック表示素子。
  4. 前記溶媒が、40容量部以上の水を含む(ただし、溶媒全体を100容量部とする。)ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレクトロクロミック表示素子。
  5. 前記溶媒が、水以外に、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネートまたはアルコールを含むことを特徴とする請求項4に記載のエレクトロクロミック表示素子。
  6. 紙同様の光散乱機能を持ち、白色の背景を形成するための光散乱層をあらかじめ有しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエレクトロクロミック表示素子。
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