JP5901009B2 - エレクトロクロミック表示素子の製造方法及びエレクトロクロミック表示素子 - Google Patents

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Description

本発明は、エレクトロクロミック表示素子の製造方法及びエレクトロクロミック表示素子に関する。
パーソナルコンピュータ等情報処理装置の普及に伴い、情報処理装置による処理結果を表示するための表示素子(例えば、液晶表示素子など)が非常に重要となっている。
現在、新たな表示素子として、いわゆるエレクトロクロミック特性を利用した表示素子(エレクトロクロミック表示素子)が提案されている。エレクトロクロミック特性とは、電圧の印加により電気化学的酸化還元反応が起こり、物質の色が可逆的に変化する特性をいう。この特性を利用したディスプレイは、(1)視野性に優れる、(2)大型化が可能である、(3)視野角依存性が少ない、(4)鮮明な表示が可能である、といった利点があり、特に、いわゆる電子ペーパーといった極薄型のディスプレイへの応用が期待されている。
エレクトロクロミック特性を利用した表示素子としては、例えば特許文献1に記載のものがある。
特開2010−211161号公報
特許文献1に記載のエレクトロクロミック表示素子においては、ビオロゲン化合物は、水溶液中で1電子電解還元を受けると不溶性の一電子還元体となり、電極上に堆積して着色膜を形成する。そして、その一電子還元体は緻密な凝集物を形成する。
しかしながら、この凝集物にはイオンの出入りが容易に生じないために酸化される電位を電極に印加しても一電子還元体が完全には2価のビオロゲンには戻らず、消え残りが生じる。この消え残りはゴーストイメージとなり、エレクトロクロミックディスプレイへの応用に際して障害となるという課題がある。
そこで、本発明は、上記課題を解決し、消え残りを低減したエレクトロクロミック表示素子及びエレクトロクロミック表示素子の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の一観点に係るエレクトロクロミック表示素子の製造方法は、ITOナノ粒子を基板上に塗布する塗布工程と、基板を焼成する焼成工程を有する。
また、上記課題を解決する本発明の他の一観点に係るエレクトロクロミック表示素子は、一対の基板と、基板の対向する一対の面にそれぞれ形成される電極と、一対の基板間に挟持される媒体層と、を有するエレクトロクロミック表示素子であって、媒体層はビオロゲン化合物を含み、電極の少なくとも一方は、ITOナノ粒子を焼成した膜である。
本発明によれば、消え残りを低減したエレクトロクロミック表示素子を提供することができる。
実施形態1に係るエレクトロクロミック表示素子の一部断面の概略図である。 実施例1で用いた電解セルの構造を示す図である。 ナノ粒子膜の膜厚を2μm(a)、6μm(b)及び10μm(c)とした場合のナノ粒子膜のUV−vis吸収スペクトルを示す図である。 平板ITO電極(a)、ナノ粒子膜の膜厚を6μm(b)及び膜厚10μmとした場合のサイクリックボルタンモグラムを示す図である。 −0.75Vの電位を5秒間印加したとき(a)及び0Vの電位を印加した場合(b)のナノ粒子膜電極(厚さ:6μm)のUV−vis吸収スペクトルを示す図である。 ITO平板電極(a)、粒子膜の膜厚6μm(b)及び10μm(c)とした場合の吸光度と電位の関係を示す図である。 ITO平板電極(a)及び膜厚6μmのITOナノ粒子膜電極を用いた場合のクロノアンペログラム(I−t−1/2のプロット)を示す図である。 焼結温度を200℃(a)、300℃(b)、400℃(c)とした場合のナノ粒子膜の表面形態を示す図である。 膜厚6μmとしたITO粒子膜電極の着消色の繰り返し特性を示す図である。 図9の一部拡大図である。 ITO平板電極の着消色の繰り返し特性を示す図である。
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子の一部断面の概略図である。図1に示すとおり、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子1は、一対の基板2a、2bと、一対の基板の対向する面のそれぞれに形成される電極3a、3bと、一対の基板の間に挟持される媒体層4と、を有し、かつ、この媒体層4は、溶媒、ビオロゲン化合物、支持電解質、酸化還元助剤、を含む。図中、一方の電極3aはITOナノ粒子を焼成した電極(以下「ITOナノ粒子膜電極」ともいう。)であり、他方の電極3bは、ITO平板電極である。
本実施形態において、一対の基板2a、2bは、電極3a、3b及び媒体層4を保持する機能を有するものである。一対の基板2a、2bそれぞれの材質は同一であっても異なっていてもよいが、ビオロゲン化合物による発色及び消色が確認できるように少なくとも一方が透明な部材で構成されていることが好ましい。本実施形態における一対の基板の材質としては、限定されるわけではないが、例えばガラス、プラスチック、金属等を用いることが好ましい。なお金属等を基板として用いる場合は、酸化膜を形成することでこの上に形成される電極と絶縁しておくことが好ましい。
本実施形態において、一対の基板2a、2bの上に形成される電極は、少なくとも一方がITOナノ粒子電極を焼成した電極である。本実施形態に係るITOナノ粒子膜電極を用いることで、従来に比べ消え残りを大きく低減させることができる。なお、本実施形態においては、一方の電極がITOナノ粒子膜電極としているが、両方の電極をITOナノ粒子膜電極であってもよい。
本実施形態にかかるITOナノ粒子膜電極の膜厚は、限定されるわけではないが、15μm未満であることが好ましく、白色度を有する電極膜とする観点からは、4μm以上12μm以下であることがより好ましい。
また、本実施形態にかかるITOナノ粒子膜電極は、粒子膜の充放電電流から算出したラフネスファクターが、フェロシアンイオンの1電子酸化に対応するポテンシャルステップクロノアンペロメトリーを行うことにより算出したラフネスファクターよりも大きいことが好ましい。より具体的には、粒子膜の充放電電流から算出したラフネスファクターは、10以上2.0×10以下であることが好ましく、より好ましくは1.0×10以上1×10以下であり、更に好ましくは2.0×10以上2.5×10以下である。また、上記の範囲においてフェロシアンイオンの一電子電極酸化電流の値から求めたラフネスファクターが1以上10以下であることが好ましく、より好ましくは5以下である。
ITO平板電極の場合、酸化される電位を電極に印加してもビオロゲン化合物の一電子還元体が完全には2価のビオロゲンに戻らず、消え残りが生じる。この消え残りはゴーストイメージとなり、エレクトロクロミックディスプレイへの応用に際して障害となる。これに対して、本実施形態の上記範囲によればによれば、ITO基板上に粒子膜が形成され、電極中に拡散するビオロゲンを“ふるい”にかける機能を有する。この結果、ビオロゲン一電子還元体が蓄積することによって生じる凝集物の形成が、この“ふるい”の効果によって抑制され、消え残りを低減し、ゴーストイメージ形成を防止することができる。
なお、本実施形態において、一対の基板の間の距離としては、液体層に用いる材料、画素電極の厚さ、印加する電圧の範囲等に依存し適宜調整可能であるが、概ね10μm以上1cm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以上5mm以下である。
本実施形態において電極3a、3bは、一対の基板2a、2bの対向する面にそれぞれ形成されるものであって、この間に所定の電圧を印加することでビオロゲン化合物の発色及び消色を制御することができる。画素電極の占める領域が一画素領域となり、画素電極を複数設けることで、文字等の複雑な画像表示を実現することができる。画素領域の形状は予め表示したい形状となっているセグメントであってもよいし、マトリクス状に並べやすい多角形(例えば四角形)であってもよい。なお複数の画素領域をマトリクス状に配置し、画像表示をより細かく表示する場合、一対の基板の対向する画素領域毎に独立した複数の画素電極を設けておくことが好ましいが、製造を容易にする等の観点から、一方の画素電極を全画素共通のいわゆる共通電極とすることは好ましい一形態である。
ここで、独立した複数の電極が一対の基板の一方に配置されている場合の一例について説明する。基板2aには、複数の電極3aが配置されており、各電極3aは、略平行に配置される複数の走査電極と、これら複数の走査電極と交差して配置される複数の信号電極とにより形成される空間に配置されており、各画素電極は例えば走査電極にゲートが接続されたスイッチング素子を介して信号電極と接続される。
さらに、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子は、画素電極の間に所望の電圧を印加するために、信号電極、走査電極(間接的に画素電極)と接続される外部電源を有することも好ましい。このようにすることで、上記ビオロゲン化合物及び必要に応じてフェロセン等に電子の授受を可能とし、画像表示が可能となる。なお画像表示が可能となる限りにおいて限定されるわけではないが、一対の電極の間には、0.01V/cm以上、2000V/cm以下の電界が印加されるように電圧を印加することが好ましく、より好ましくは0.1V/cm以上、200V/cm以下である。
また本実施形態におけるエレクトロクロミック表示素子は、上記のとおり、媒体層が特定のビオロゲン化合物、支持電解質、溶媒を含む。
ビオロゲン化合物は、具体的には下記式(1)で表される化合物である。
上記式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル、炭素数3〜20のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリール又は炭素数7〜20のアリールアルキルを表す。
また上記R及びRがアルキルである場合、C2n+1(n=1〜20)で示される鎖状または分岐状のアルキルであることが好ましく、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル又はオクタデシルであることが特に好ましい。また上記R及びRがアリールである場合、フェニル、ナフチル、エテニルフェニルであることが好ましく、エテニルフェニルであることがより好ましい。なおビオロゲン化合物の具体例としては、1,1’−ジベンジル−4,4’−ビピリジニウム、1,1’−ジヘキシル−4,4’−ビピリジニウム、1,1’−ジヘプチル−4,4’−ビピリジニウム、1,1’−ジノニル−4,4’−ビピリジニウム、1,1’−ジデシル−4,4’−ビピリジニウムが挙げられ、中でも、1,1’−ジベンジル−4,4’−ビピリジニウムまたは1,1’−ジヘプチル−4,4’−ビピリジニウムが好ましい。このようなビオロゲン化合物を用いると、前記透明電極に着色物質が好適に析出して発色するため好ましい。
本実施形態に係るビオロゲン化合物は、以下のような電子の授受を行うことで発色状態または消色状態となる。上記式(1)で表されるビオロゲン化合物(無色)は、電子を一つ受け取り着色状態となり、またその後電子一つを放出して上記式(1)で表されるビオロゲン化合物(無色)に戻ることができる。
媒体層におけるビオロゲン化合物の濃度は、発色状態および消色状態となる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば媒体層を構成する、溶媒、ビオロゲン化合物および支持電解質の合計の重量を100重量部とした場合に、0.01重量部以上30重量部以下であることが好ましく、0.05重量部以上5重量部以下であることがより好ましく、0.1重量部以上1重量部以下であることが特に好ましい。0.01重量部以上とすることで優れた視認性が得られるといった効果を得ることができ、0.05重量部以上とするとこの効果がより顕著となり、0.1重量部とすることでこの効果が特に顕著となる。また、30重量部以下とすることで、溶液粘度の増加を抑制し応答速度の低下を防ぐことができるといった効果があり、5重量部以下とすることでこの効果がより顕著となり、1重量部以下とすることでこの効果が特に顕著となる。
媒体層における支持電解質は、電圧印加時に電気二重層を形成し、電気化学反応を生じさせるために用いられる化合物である。
支持電解質の具体例としては、上述のような機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr、(CHNBr、(CNBr、(CNBr、LiCl、NaCl、KCl、CsCl、CaCl、(CHNCl、(CNCL、(CNCl、LiSO、NaSO、KSO、CaSO、HSO、(CHNSO、(CNSO、(CNSOなどが挙げられる。
媒体層における支持電解質の濃度は、限定されるわけではないが、媒体層を構成する、溶媒、ビオロゲン化合物および支持電解質の合計の重量を100重量部とした場合に、0.01重量部以上50重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以上10重量部以下であることがより好ましい。0.01重量部以上とすることで充分な電気化学反応の進行が可能となり、0.5重量部以上とするとこの効果が顕著となる。また、50重量部以下とすることで溶液粘度の上昇を抑制し応答速度の低下を回避でき、10重量部以下とするとこの効果がより顕著となる。
媒体層における溶媒は、前記ビオロゲン化合物および前記支持電解質を保持するために用いられるものである。
溶媒は、40容量部以上の水を含む(ただし、溶媒全体を100容量部とする。)ことが好ましい。前記溶媒100容量部に対して、水の含有量は40〜100容量部であることがより好ましく、50〜100容量部であることがさらに好ましく、80〜100容量部であることが特に好ましい。
溶媒は、水以外に有機溶媒を含んでいてもよい。前記有機溶媒の含有量は、前記溶媒100容量部に対して、60〜0容量部であることがより好ましく、50〜0容量部であることがさらに好ましく、20〜0容量部であることが特に好ましい。
溶媒の具体例としては、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ポリエチレングリコール、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アルコール(メタノール、エタノール等)、無水酢酸及びこれらの混合溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、アルコールであることがさらに好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、アルコールであることが特に好ましい。
溶媒は、視認性の観点から無色透明であることが好ましい。
また、前記溶媒の種類および配合量を適宜設定することにより、ビオロゲン化合物を発色状態とした場合にビオロゲン化合物の凝集状態を効率よく維持することができる。
また、媒体層には電位差を調整し酸化還元を媒介する酸化還元助剤を含有させてもよい。このような酸化還元助剤の具体例としては、フェロセン、フェロシアンイオン、ナフトキノン、ナフトヒドロキノン、ヒドロキノン及びそれらの誘導体が挙げられる。
以上、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置によると、消え残りを抑制することができる。
次に、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子の製造方法について説明する。 本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子の製造方法は、ITOナノ粒子を基板上に塗布する塗布工程と、基板を焼成する焼成工程と、を有する。
まず、ITOナノ粒子を基板上に塗布する塗布工程としては、限定されるわけではないが、上記ITOナノ粒子と、この粒子を分散させる溶媒を含む分散液を基板上に塗布する工程であることが好ましい。
ここで溶媒としては、上記ビオロゲン化合物及びITOナノ粒子を分散させることができるものであることが好ましく、より好ましくはビオロゲン化合物を溶解させることができる有機溶媒であることは好まし一例である。有機溶媒の場合、特に限定されるわけではないが、アルコールであることは好ましく、例えばメタノール、エタノール、及びブタノール等を例示することができる。なおこの溶媒に対するITOナノ粒子とビオロゲン化合物の量は、十分に分散できる程度であればよく、特に限定されるものではない。
また、本実施形態において、基板上に分散液を塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、様々な方法を用いることができる。例えばディッピング、スピンコーティング、バーコーティング等を採用することができる。
なお、本実施形態において、分散させるITOナノ粒子の粒径としては、平均粒径が5nm以上900nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上500nm以下の範囲である。
そして、塗布の後、室温で乾燥し、その後電気炉中で焼成処理を行うことによりITO粒子を含むITOナノ粒子膜が形成される。ITOナノ粒子膜の膜厚は、ディッピングと室温での乾燥工程を繰り返すことにより調整することができるし、焼成処理の後改めて塗布工程及び焼成工程を繰り返してもよい。
ITO平板電極の場合、酸化される電位を電極に印加してもビオロゲン化合物の一電子還元体が完全には2価のビオロゲンに戻らず、消え残りが生じる。この消え残りはゴーストイメージとなり、エレクトロクロミックディスプレイへの応用に際して障害となる。これに対して、本実施形態によれば、ITO基板上に粒子膜が形成され、電極中に拡散するビオロゲンを“ふるい”にかける機能を有する。この結果、ビオロゲン一電子還元体が蓄積することによって生じる凝集物の形成が、この“ふるい”の効果によって抑制され、消え残りを低減し、ゴーストイメージ形成を防止することができる。
本実施形態では、ITOナノ粒子電極は、ITOナノ粒子ペーストを基板上に塗布することによって作製するが、その後に焼成を行っている。膜厚及び焼成温度・時間を適正に選ぶと、白色の膜が得られる。したがって、上記の酸化還元に伴う色変化を白色から紫とすることができ、あたかも紙の上に文字や画像を形成したかのような電子ペーパーが形成されるという利点がある。従来技術では、この白色背景を得るために、白地の絶縁性薄板(スペーサー)を電極間に用意しなければならないが、このようなものを使うと、電極反応に関与する物質の動きが遅くなり、応答性が悪くなるなどの課題があった。本実施形態により作製される電極によると、元来が白色のためスペーサーを不要とすることができ、物質の動きを鈍らせることなく、またよりシンプルなエレクトロクロミック表示素子を形成することも可能となる。
また本実施形態において、焼成工程における焼成温度としては、限定されるわけではないが、200℃より大きく400℃未満であることが好ましく、より好ましくは250℃以上350℃以下の範囲である。200℃より高くとすることで、ITOナノ粒子が焼結することによって好ましい間隙を形成することができ、250℃以上とすることでこの効果が顕著となる一方、400℃未満とすることでクラックの発生を抑え、消え残りの発生を抑制することができ、350℃以下とすることでこの効果がより顕著となる。
また本実施形態において、焼成工程の焼成時間は、焼成温度によってことなり、限定されるわけではないが、30分以上120分未満であることが好ましい。
以上、本実施形態によって、より消え残りを低減したエレクトロクロミック表示素子を提供することができる。
以下、上記実施形態にかかるエレクトロクロミック表示素子の効果を確認した。以下具体的に説明する。
(エレクトロクロミック表示素子の作製)
ITOナノ粒子(Nanotek(登録商標) Powder ITO−R、 average particle size:30nm、C.I.Kasei Co., Ltd社)を、1−ブタノールにITOナノ粒子が10w%となるように添加し、バス型超音波分散機(AS ONE社製model USK−2R)中で30分以上超音波処理を施し、ディップコーティング法によってガラス基板上に塗布した。
塗布の後、室温で1時間乾燥し、その後電気炉(Isuzu seisakusho Co., model ETR−12K)中で焼成処理を行うことによりITOナノ粒子膜を形成した。なおITOナノ粒子膜の膜厚は、ディッピングと室温での乾燥工程を繰り返すことにより調整した。
(電気化学測定)
ビオロゲン化合物及び支持塩は、それぞれ1,1’−ジベンジル−4,4’−ビピリジニウム ジクロライド (DBV2+・2Cl、東京化成工業社製)及び臭化リチウム(LiBr・HO、関東化学社製、>98%)を用いた。なお本測定に用いた電解セルの構造を図2に示しておく。
セルは直方体の主室5と円柱形の副室6からなり、G4ガラスフィルター10で隔てられている。主室5には動作電極(ITOナノ粒子電極あるいはITO電極)7と対向電極8(リング状のPt電極)が浸漬されている。一方、副室6には、KCl溶液が入っており、参照電極(飽和カロメル電極,SCE)13へとつながるKCl塩橋14が浸漬されている。なお図中7は参照光、10はガラスフィルター、15は窒素ガス入り口である。
ITOナノ粒子電極のサイズは10×25×1.1mmであり、溶液に浸漬する部分は10×10mmとした。DBV2+の電気化学的挙動の測定はエレクトロケミカルアナライザー(BAS Co., model 750A)を用い、サイクリックボルタンメトリーにより検討した。また、サイクリックボルタンメトリーと同時に、紫外可視分光光度計(Ocean optics Inc., USB4000−UV−vis spectrometer and DH−2000 deuterium tungsten halogen light source)と光ファイバーシステムを用い、UV−visスペクトルを測定した。
(ナノ粒子膜電極の表面積測定)
またITOナノ粒子電極膜の実表面積特性を2つの電気化学的手法を用いて行った。第1の手法は、ナノ粒子電極を、電解質溶液に浸漬して電気二重層の充放電特性を測定し、その充放電電流から表面積を見積もる手法である。この手法は、(容量)電流―電位特性が長方形となる電位領域が存在する場合に利用できる。容量電流jdlは、アノード容量電流(j)とカソード容量電流(j)の平均値である。電気二重層容量(Cdl)と掃引速度(v)を用いて、jdl は次のように表せる。
ここで、ε、e、S、及びdは、それぞれ電解液の誘電率、真空の誘電率、実表面積及び電気二重層の厚みである。平滑な電極表面の場合、その二重層容量は20μFcm−2と仮定することができる。この仮定により、ITOナノ粒子電極で測定されたCdlの値とITO平滑電極のCdlの値(20μFcm−2)の比から、ラフネスファクター(R)を見積もることができる。R=Cdl/(20μFcm−2)。ラフネスファクターは、幾何学的面積と実表面積の比と定義される。
ITOナノ粒子膜電極の表面積を測定する第二の手法は、ナノ粒子膜電極を2mMのK[Fe(CN)]・3HO(Wako Pure Chemicals、>99.5%)及び0.5MのKSO(Kanto Chemical Co.、>99%)を溶解した水溶液に浸漬し、フェロシアンイオンの1電子酸化に対応するポテンシャルステップクロノアンペロメトリーを行うことにより見積もった。フェロシアンイオンの酸化電流をIとすると、その電解時間(t)依存性は式(3)(Cottrellの式)により与えられる。
ここでn はフェロシアンイオンが酸化されるときの交換電子数(この場合はn=1)、Fはファラデー定数、Aは電極面積、Cはフェロシアンイオンの濃度、Dはフェロシアンイオンの拡散係数である。Dの値が既知であれば、I−t−1/2のプロットの傾きからAを算出することができる。
(結果:ITOナノ粒子膜の膜厚)
図3に膜厚が2μm(a)、6μm(b)及び10μm(c)のナノ粒子膜のUV−vis吸収スペクトルを示す。
ナノ粒子膜は、ディップコーティング法で形成した後に、300℃で1時間の焼成処理を施した。いずれも短波長ほど吸光度が増加するという光散乱現象に特有のスペクトルを示した。また6μm及び10μmの厚さのナノ粒子膜は十分な白色度を示した。なお、膜厚15μm及び20μmのナノ粒子膜では(本実施例では図示省略)、それらの膜は黄色味を帯びていることを確認した。
一般に、エレクトロクロミック素子では、白い背景を形成するために白色のスペーサーが使われる。しかしながら、スペーサーは電極活物質やイオンの拡散を抑制し、応答速度を小さくしてしまう可能性があるため、スクリーン電極を白とすることでスペーサーフリーの素子を作ることが可能となる。そのためには、15μm未満の膜厚の粒子膜電極が適しているといえる。そこで、本実施例では以下、ナノ粒子の膜厚として、十分な白色度を持つ6μm及び10μmを採用し、その効果を確認することとした。
(ナノ粒子膜電極でのDBV2+の電気化学特性)
ナノ粒子膜電極上でのDBV2+の電極反応に言及する前に、平板ITO電極上でのDBV2+の電極反応について説明しておく。図4の(a)は、平板ITO電極上で測定されるDBV2+の繰り返しサイクリックボルタンモグラムを示す。第一および第二電位掃引において、DBV2+は−0.5V付近よりも負電位で一電子還元を受け、DBVに起因する紫色の膜を電極上に堆積させる。そして、−0.34V(電流ピーク)付近で酸化電流が流れるが、紫膜は淡色するだけで消色はしない。一方、電位をアノード方向に掃引すると、+1.1V付近に小さな酸化波が現れ、紫色膜が消色する。+1.1V付近ではBrのBrへの酸化反応が生じ、そのBrが緻密なDBVの凝集物を化学的に酸化するために消色が生じるものと考えられる。第三電位掃引以降から還元開始電位は徐々にアノード方向にシフトし、−0.41Vで定常に達する。第三掃引において消え残りが発生し、それ以降の掃引において消え残りの量が徐々に増加する。第三掃引以降は、DBV+によって被覆された電極上でDBV2+の還元が進行していることになり、このことが還元開始電位のシフトとなって現れるものと考えられる。
ここで、図4の(b)及び(c)にそれぞれ、6μm、10μmの厚さをもつナノ粒子膜電極で測定したDBV2+の繰り返しサイクリックボルタンモグラムを示しておく。膜の焼成温度及び焼成時間はそれぞれ300℃及び1時間である。
6μm厚の膜を用いた場合、DBV2+は、−0.43Vよりも負電位で1電子還元を受け、DBV+に基づく紫色の膜が電極上に堆積した。そして、その還元ピーク電流の値は、平板ITO電極を用いた場合の値の約1.4倍となった。また、−0.24V(酸化ピーク電流)付近ではDBV+が酸化され、DBV2+へ戻る酸化波が観察された。−0.24V付近で紫色の膜は完全に消色し、ナノ粒子膜が示す白色に戻った。10μm厚のナノ粒子膜電極を用いた場合、DBV2+の還元開始電位が負方向にシフトし(−0.48V)、酸化ピーク電流密度及び酸化ピーク電流密度とも6μm厚の電極膜を用いた場合よりも減少した。この還元電位の負方向へのシフトと還元ピーク電流値の減少は、電極膜の抵抗の増加に起因すると考えられる。
図5に、−0.75Vの電位を5秒間印加したとき(a)及び0Vの電位を印加したとき(b)のナノ粒子膜電極(厚さ:6μm)のUV−vis吸収スペクトルを示す(スペクトルdは基板であるITO plateの吸収スペクトルを示す)。
図中、スペクトルcは、スペクトルaとスペクトルcの差スペクトルであり、578nmの吸収極大と515nmのショルダーを有している。ビオロゲンダイマーの吸収スペクトルは520nmに吸収極大を持つ一方、モノマーの吸収極大は602nmであった。従って、スペクトルcは、DBV+のモノマーとダイマーの両方を含むことがわかる。ITO平板電極を用いて同じ条件下で実験を行った場合、DBV+に基づく膜のUV−vis吸収スペクトルは、550nmに吸収極大、そして514nmにショルダーを示した。このことは、ナノ粒子膜電極を用いてDBV+の電極還元を行った場合、ITO平板電極を用いたときと比べて、よりモノマーの比率が高いDBV+膜が堆積することを示している。
また、図5の図中には、上記着色状態(a)及び消色状態(b)のナノ粒子電極膜の写真図が示されている。これらの写真図からわかるように、ナノ粒子膜の付いていないガラス板側から観察しているのにもかかわらず、鮮明な紫色表示が実現された。このことは、6μmの厚さのナノ粒子膜の十分内部でもDBV+の生成と堆積が生じることを示している。
図6は、上記サイクリックボルタンメトリー(図4参照)と同時に測定した吸光度(λ =550nm)と電位の関係を示すものである。図6(a)はITO平板電極を用いた場合の結果であり、図6(b)及び(c)はそれぞれ膜厚6μm及び10μmのナノ粒子膜を用いた場合の結果である。
ITO平板電極を用いた場合、初期電位(0.07V)から負方向に電位を掃引すると、−0.5V付近から吸光度が急激に増大した。図4(a)のサイクリックボルタンモグラムから、この電位は、aのボルタンモグラムで示された還元電流の立ち上がり電位と一致する。そして、電位を−0.75Vで折り返し、アノード方向に電位を掃引したとき、−0.5Vで吸光度が最大となった。そして1.3Vまで掃引することにより、吸光度の値はゼロになり、消色した。第二掃引では、電位をカソード方向に掃引したときの吸光度の増加はほぼ第一掃引の場合と同じであったが、電位をアノード方向に掃引した場合、吸光度の減少割合が小さく、消えにくくなった。しかし、掃引を続け、1.1Vに達したときに吸光度が減少し、1.3Vにおいて吸光度の値はゼロとなった。1.1Vにおける消色は、上述したBrとDBV+の間のメディエーション反応に起因すると考えられる。しかしながら、第三掃引以降は、−0.5V付近の着色開始電位は徐々にアノード方向にシフトした。そして、1.3Vに電位が達しても吸光度の値がゼロとはならず消え残りが生じた。さらに、1.3Vにおける吸光度の値は、掃引を繰り返す毎に増大し、消え残り量が増加する傾向が見られた。
また6μm厚のITOナノ粒子電極膜を用いた場合(図6(b))、−0.44V付近で着色が開始されたが、これは図4(b)のボルタンモグラムで示された還元電流の立ち上がり電位とほぼ同じであった。また、電位を−0.75Vで折り返し、アノード方向に電位を掃引したとき、−0.51Vで吸光度の最大値が示された。そして、−0.3V付近で急激な消色が生じ、−0.20Vで吸光度の値は初期の値に完全に戻った。すなわち、上述のITO平板電極と比較して、消色電位が1.5Vも低減し、消え残りの問題も解消されることがわかった。なお、吸光度の最大値はわずかずつ上昇したが、これは掃引を繰り返すたびにナノ粒子膜電極中に取り込まれるDBV2+の濃度が少しずつ増加するためと考えられる。
また10μm厚のナノ粒子膜を用いた場合も(図6(c))、着色電位は、還元開始電位(図4(c)参照)とほぼ同じであった。また、吸光度の増加量は、6μm厚のナノ粒子膜電極を用いた場合の約50%となった。この吸光度の増加量の差は、電極に注入される電気量の差によるものである。実際、図4(b)及び図4(c)の還元電流から算出される電気量は、それぞれ13mCおよび8.2mCであった。以上の結果を考慮し、以降の検討では、6μm厚のナノ粒子膜電極を用いることとした。
(ナノ粒子膜電極の表面積測定)
上記の確認により、ITOナノ粒子膜電極を用いると、ビオロゲンの消え残り(ゴーストイメージ形成)の問題が解消されることがわかった。そこで、次に、この理由を検討する目的で、上記した2つの方法で電極表面積測定を行った。具体的には、0.1MのLiBr水溶液中に6μm厚のITOナノ粒子膜電極を浸漬し、サイクリックボルンメトリーを行うことによって電気二重層の充放電特性を測定した。充放電電流から算出したITOナノ粒子膜電極のラフネスファクターの値(R)を下記表1に示す。なおRの値は多少掃引速度vに依存するが、2.1×10から2.4×10の範囲であり、おおよそ2×10程度であった。
次にフェロシアンイオン([Fe(CN)4−)の1電子電極酸化電流から電極面積を見積もった。2mMのK[Fe(CN)]・3HO(Wako Pure Chemicals、>99.5%)及び0.5MのKSOを溶解した水溶液中に平板ITO電極(1.0cm)を浸漬し、サイクリックボルタンメトリーを行った。半波電位は0.23V vs. SCEであった。peak separationの値は100mVとなり、フェロシアンイオンの電極酸化反応はITO平板電極上では準可逆であることがわかった。そこで、ポテンシャルステップクロノアンペロメトリーを行った。図7(a)にそのときに得られたクロノアンペログラム(I−t−1/2のプロット)を示す。初期電位は0.07Vであり、ステップ電位幅は0.40Vである。
式(3)と図7(a)のプロットの傾きよりD=6.3×10−6cm−1の値が得られた。この値は、0.1MのKCl水溶液中で測定されたフェロシアンイオンの拡散係数とほぼ等しかった。
次に、6μm厚のITOナノ粒子膜電極を用いて得られたクロノアンペログラムを図7の曲線bに示す。より大きなt−1/2に対するIの値を見た場合、Iの値が直線からずれていることが確認された。このことは電極反応が拡散律速ではないことを示している。この“ずれ”の原因は明かではないが、おそらくフェロシアンイオンの電極反応が、何らかの化学反応に先行されているためと考えられる。しかしながら、より小さなt−1/2に対するIの値は原点を通る直線上にある。このことは、十分に長い測定時間領域では先行反応の影響を無視することができ、電極反応を拡散律速と見なせることを示している。そこでそのプロットの傾きと、上記のDの値を式(3)に代入し、Rの値を測定した。その結果、R=2.7の値が得られた。この値は、電気二重層の充放電電流から見積もった値の約80分の1であり、ITOナノ粒子が作るナノ空間は物質の透過に対して選択性があることがわかった。充放電反応に関与するイオンはLi及びBrの少なくともいずれかり、それぞれのイオンのストークス半径は2.38及び1.18オングストロームである。一方、[Fe(CN)4−のストークス半径は5.00オングストローム(25℃の水溶液中での値であり、Slip boundary condition下で算出された値)あるいは4.1オングストローム(25℃の水溶液中での値であり、Stick boundary condition下で算出された値)であることを考えると、物質の選択性は分子のサイズに基づくと考えられる。なお、Stick boundary condition下での[Fe(CN)4−のストークス半径rは、[Fe(CN)4−の拡散係数Dの報告値と、25℃における水の粘性係数η(0.8903×10−2P)を式(4)(ストークス−アインシュタインの式)に代入することにより算出した。
ここでkはボルツマン定数であり、Tは測定温度である。Tominagaらは、Taylor dispersion methodにより、0.1MのKBr水溶液中での1,1’−ジベンジル−4,4’−ビピリジニウム(PhV2+)の拡散係数を測定し、その値は5.43×10−6cm−1であることを報告している(T.Tominaga,H.Ohtaka−Saiki,Y.Nogami,H.Iwata,J.Mol.Liq.125(2006)147−150.)。第一次近似として、DBV2+の拡散係数はPhV2+と等しいとすると、DBV2+のrの値は4.5オングストロームとなった。この値は、上述の[Fe(CN)4−のストークス半径とほぼ等しい。以上のことから、ITOナノ粒子電極膜は、Li+やBrのような比較的小さなイオンに対しては大きな実表面積を持つナノ空間を提供するが、[Fe(CN)4−やDBV2+のような比較的大きなイオンに対しては“ふるい”の働きをし、ナノ空間に侵入するイオンの量を制限するものと推定される。そして、このふるいの効果によってDBV+の凝集体の形成が抑制され、消え残りが防止されたものと考えられる。また、DBV+が堆積されるナノ粒子膜電極上の面積は平板電極の2.7倍に拡大されており、鮮明な着色が実現されたものと考えられる。
(ITOナノ粒子膜の焼成温度の検討)
図8(a)、(b)及び(c)は、ITOナノ粒子膜(膜厚=6μm)の焼結温度を変え、DBV2+の着消色反応に及ぼす影響について検討を行った結果を示すものである。焼結時間は1時間とし、焼結温度を200、300及び400℃としたときのナノ粒子膜の色、表面形態及びDBV2+の電極反応について検討を行った。
200℃の焼結温度の場合、ITOナノ粒子膜は、原料ナノ粒子の色を反映して青みがかっていた。これは焼結によって粒子同士の融着が十分進行せず、白色散乱を起こすほどの大きな粒子が生成されていないことを示す。このことは、200℃で焼結した膜のSEM像(図8(a))から裏付けられる。
図8(a)に示されるナノ粒子膜の表面形態は、焼結を施していないナノ粒子膜の表面形態とほぼ同等であった。また、200℃で焼結した膜電極を用いてDBV2+のサイクリックボルタンメトリーを行ったところ、DBV+に起因する消え残りが生じた。図8(a)の挿入図にその拡大像を示す。
この拡大像によると、粒子が密に凝集した表面形態を示していることが確認できる。このことから、消え残りが生じたのは、ナノ粒子の熱融着によって生じる“ふるい”が十分生成されなかったためと考えられる。すなわち、膜が比較的フラットな状態のため、膜表面でDBV+の蓄積が生じ、DBV+の残渣が形成されたためと思われる。300℃で焼結処理を施した場合、ITOナノ粒子膜は十分に白色化した。図8(b)にその白色膜のSEM像を示す。
このSEM像の中には、熱融着によって形成された粗大粒子が見られた。膜が白色に見えたのは、この粗大粒子の光散乱による効果であると考えられる。また、上記したように、DBV+の残渣による消え残りは生じなかった。図8(b)の挿入図にその拡大像を示す。
この拡大図を図8(a)の挿入図と比較すると、よりナノポーラスな形態が観察され、“ふるい”が十分形成されていることがわかる。400℃で焼結処理を行った場合、ITOナノ粒子膜は十分に白色化したが、熱収縮のためひび割れが生じた(図8(c))。
詳細な観察の結果、消え残りはひび割れ部分に生じ、ひび割れ部分にDBV+が蓄積し、残渣が生成したものと考えられる。以上の結果から、”ふるい“の効果が十分に得られる焼結温度は、200℃より大きく400℃未満の範囲であり、“ふるい”の効果が十分発揮される構造を作るための最適焼結温度は300℃付近であることがわかった。
(ITOナノ粒子膜の焼成時間の検討)
ITOナノ粒子膜(膜厚=10μm)の焼成時間を変え、DBV2+の着消色反応に及ぼす影響について検討を行った。前節の結果に基づき、焼成温度は300℃とし、焼成時間を10,20,30,60,120及び180分としたときのナノ粒子膜の色およびDBV2+の電極反応について検討を行った。20分以下の焼成時間の場合、ITOナノ粒子膜は青みがかっていた。そして、DBV2+のサイクリックボルタンメトリーを行ったところ、DBV+に起因する消え残りが生じた。これは、熱融着によって生じる“ふるい”が十分生成されず、膜が平板ITO 電極に近いフラットな状態のためDBV+の蓄積が生じたためと思われる。焼成時間が30分以上の場合、ITOナノ粒子膜は十分白色化し、DBV2+のサイクリックボルタンメトリーにおいて消え残りは生じなかった。焼成時間が120分以上のナノ粒子膜電極を用いてDBV2+のサイクリックボルタンメトリーを行ったところ、DBV2+の1電子還元に必要な電気量が減少した。実際、焼成時間60分及び120分のナノ粒子膜電極を用いてDBV2+のサイクリックボルタンメトリーを行い、還元に要する電気量を比べると、後者は前者の77%にとどまった。これは、焼成時間が120分以上の場合、ナノ粒子の融着が進行しすぎてしまい、DBV2+の電極反応に対する電極表面積が減少したためと解釈している。以上の結果から、“ふるい”の効果が十分発揮されるのは焼成時間が30分以上120分未満であることがわかった。
(繰り返し特性と着色効率)
図9、図10に、ITOナノ粒子膜電極(6μm)を用いたときの着消色の繰り返し特性を、図11にITO平板電極を用いたときの着消色の繰り返し特性を示す。縦軸は550nmにおけるDBV+の吸光度、横軸は測定時間tである。
前者の着色及び消色電位は、それぞれ−0.75V及び0Vであり、スイッチングの間隔は10sである。一方、後者に対する着色及び消色電位は、それぞれ−0.75V及び1.3Vであり、スイッチングの間隔は15sである。スイッチングの間隔が2つの電極で異なるのは、着色時の吸光度増加量をほぼ等しくするためである。
ITO平板電極を用いた場合、消え残りが生じてしまうために、時間と共に消色時の吸光度が上昇し、次第にコントラストが低下した。一方、ITOナノ粒子膜電極を用いた場合、最初の5サイクルの間は、徐々に着色時の吸光度が増加する傾向が見られたが、その後は一定となった(図6(b)参照)。また、消色時の吸光度にはほとんど変化がなく、従って、コントラストはほぼ一定となった。これは、ナノ粒子膜の採用によって消え残りの問題が解消されたためと考えられる。
図10は図9の一部拡大図である。着色時間(0.65の吸光度増加を得るために要する時間)は10sであり、消色時間は2.3sであった。
次に、ITOナノ粒子膜電極(6μm)を用いたときのDBVの着色効率CE(単位電荷注入量当たりの吸光度増加量)の測定を行い、ITO平板電極を用いた場合との比較を行った。ITOナノ粒子膜電極あるいはITO平板電極を、7mMのDBV2+と0.1MのLiBrを含む水溶液に浸漬した。そして、ITO電極に、−0.75Vの電位を印加し、通電電気量Q及びDBV+の550nmにおける吸光度ABSの時間依存性の測定を行った。これらの依存性からABSとQの関係のプロットを作成し、そのプロットの傾きからCEの値を算出した。その結果、ITOナノ粒子膜電極及びITO平板電極を用いた場合のCEの値は、それぞれ40及び92cm/Cとなった。前者の電極を用いたときの着色状態では、モノマーの比率が比較的高いDBV+膜が形成されることを述べている。モノマーの吸光係数は、ダイマーの吸光係数よりも小さいこと及び、550nmの吸光度では相対的にダイマーの寄与が大きくなることを考えると、上記の2つの電極を用いたときのCEの違いはうまく説明される。
以上のことから、ITOナノ粒子膜電極を用いれば、消え残りの問題が解消され、優れた着消色繰り返し特性が発揮されることが判明した。
(まとめ)
以上、本実施例において、ITOナノ粒子電極膜を作製し、DBV2+のエレクトロクロミック特性の検討を行った。ITOナノ粒子膜の膜厚が6μm及び10μm程度で十分な白色度を持つ電極膜が形成された。そして、ナノ粒子電極膜を用いてDBV2+のサイクリックボルタンメトリー及び分光電気化学測定を行ったところ、ITO平板電極を用いた場合に見られる消え残り(ゴーストイメージ形成)が生じないことがわかった。この理由を検討するために、ITOナノ粒子膜電極の電極面積を、電気二重層の充電電流を測定する方法とフェロシアンイオンの1電子酸化を測定する方法を用いて検討した。その結果、2つの方法で150倍も異なる電極面積の値が得られた。このことは、ITOナノ粒子膜空間は、フェロシアンイオンやDBV2+のような比較的大きな分子を“ふるい”にかける効果があり、消え残りの原因であるDBV2+の凝集を抑制する機能を持つことを示唆するものである。DBV+の凝集を抑制するのに適したITOナノ粒子膜の空間構造は、ナノ粒子膜の焼成温度及び焼成時間に依存し、それらの値は、それぞれ300℃近傍及び30〜60分程度であることがわかった。消え残りの問題が解消された結果、着消色の繰り返し特性が大幅に改善された。
本発明は、エレクトロクロミック表示素子及びその製造方法として利用可能である。

Claims (6)

  1. ITOナノ粒子を基板上に塗布する塗布工程と、
    前記基板を焼成して前記ITOナノ粒子を焼成した膜が充放電電流から算出したラフネスファクターを10以上2.0×10 以下にする焼成工程と、
    前記基板と、前記基板に対向する基板とでビオロゲン化合物を含む媒体層を挟持させる工程と、を有するエレクトロミック表示素子の製造方法。
  2. 前記焼成工程の焼成時間は、30分以上120分未満である請求項1記載のエレクトロクロミック表示素子の製造方法。
  3. 前記焼成工程の焼結温度は、200℃より大きく400℃未満である請求項1記載のエレクトロクロミック表示素子の製造方法。
  4. 一対の基板と、
    前記基板の対向する一対の面にそれぞれ形成される電極と、
    前記一対の基板間に挟持される媒体層と、を有するエレクトロクロミック表示素子であって、
    前記媒体層はビオロゲン化合物を含み、
    前記電極の少なくとも一方は、充放電電流から算出したラフネスファクターが10以上2.0×10 以下のITOナノ粒子を焼成した膜であるエレクトロクロミック表示素子。
  5. 前記粒子膜の膜厚は、15μm未満である請求項4記載のエレクトロクロミック表示素子。
  6. 前記粒子膜の充放電電流から算出したラフネスファクターが、フェロシアンイオンの1電子酸化に対応するポテンシャルステップクロノアンペロメトリーを行うことにより算出したラフネスファクターよりも大きい請求項4記載のエレクトロクロミック表示素子。
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