JP5272353B2 - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents

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本発明は、機械的物性や耐熱性に優れ、有機−無機ナノコンポジット材料として有用な熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
近年、熱可塑性樹脂に無機ナノ粒子を均一分散させて、熱可塑性樹脂の機械的強度、耐熱性、線膨張係数、難燃性等の物性を向上させるための有機−無機ナノコンポジット材料の研究が活発に行われている。無機ナノ粒子は、材質が無機材料であるために、有機材料である樹脂との親和性に乏しく、そのままでは樹脂中に均一分散させることは困難である。また、粒子の大きさがナノサイズであるために、ミクロンサイズの粒子と比較して、粒子に働く凝集力が非常に大きくなるため、樹脂中に均一分散させることはさらに困難になる。
熱可塑性樹脂に無機ナノ粒子を均一分散させた材料として、分散安定剤を用いて得られる材料、熱可塑性樹脂を変性して得られる材料及び無機ナノ粒子表面を変性してなる材料が、一般的に知られている。分散安定剤を用いて得られる材料としては、ポリオレフィン樹脂に無機ナノ粒子である層状粘土鉱物を分散させる際に、分散安定剤として層状粘土鉱物と水素結合可能な官能基を有するポリオレフィン系重合体を用いた粘土複合材料が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この粘土複合材料を使用することにより、収縮率などの機械的物性を向上させることができる。
熱可塑性樹脂を変性して得られる材料としては、光透過性樹脂に無機ナノ微粒子を分散させる際に、光透過性熱可塑性樹脂中に無機微粒子と水素結合可能な酸基を導入した光透過性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この光透過性樹脂組成物は、無機ナノ微粒子が均一分散されているため、透明性を維持したまま配向複屈折低減効果を引き出すことができる。
無機ナノ粒子を変性してなる材料としては、分子内にフェニル基を有する高分子材料にシリカ組成物を分散させる際に、シリカ組成物の表層をフェニル基で変性したナノ複合透明樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。係るナノ複合透明樹脂組成物は、透明性に優れ、剛性を向上させることができる。
また、次のような金属酸化物微粒子含有グラフト共重合体が知られている(例えば、特許文献4を参照)。即ち、金属酸化物微粒子、ポリオルガノシロキサン及びポリアルキル(メタ)アクリレートからなる複合ゴムに、ビニル系単量体がグラフト重合されているものである。この金属酸化物微粒子含有グラフト共重合体は衝撃強度、表面硬度などに優れ、単独で、又は熱可塑性樹脂と混合されて使用される。
特許3489411号公報(第1頁及び第2頁) 特開2004−217714号公報(第2頁及び第3頁) 特開2004−2605号公報(第2頁及び第5頁) 特開平8−325340号公報(第2頁及び第4頁)
ところが、特許文献1〜3に記載されている材料では、熱可塑性樹脂と無機ナノ粒子との結合がなかったり、結合があっても水素結合という弱い結合であるため、無機ナノ粒子の分散性が悪く、十分な機械的物性や耐熱性を得ることが困難であった。また、特許文献4に記載されている金属酸化物微粒子含有グラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサンが含まれている複合ゴムを使用するため、所望とする機械的物性や耐熱性を得ることができない。さらに、この金属酸化物微粒子含有グラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートとが共重合され、その中に金属酸化物微粒子が含まれた複合ゴムが形成され、その複合ゴムにビニル系単量体がグラフト重合されたものである。そのため、金属酸化物微粒子は他の成分に対して結合されておらず、金属酸化物微粒子含有グラフト共重合体を熱可塑性樹脂に分散させたときに十分な分散性が得られず、機械的物性及び耐熱性の向上を図ることは難しいという問題があった。
そこで本発明の目的とするところは、金属酸化物微粒子の分散性が良く、得られる成形体の機械的物性及び耐熱性を向上させることができる熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
前記の目的を達成するために、第1の発明の熱可塑性樹脂組成物は、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子及び熱可塑性樹脂を溶融混練してなり、金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂がグラフト化されたグラフト体と、熱可塑性樹脂とを含有し、前記金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基は、酸化ケイ素微粒子の水酸基にアミノ変性シランカップリング剤を反応させて酸化ケイ素微粒子表面にアミノ基を導入し、該アミノ基にエチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物を反応させて得られるものであることを特徴とする。
第2の発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1の発明において、前記金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基が、ペルオキシモノカーボネート基であることを特徴とする
の発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1又はの発明において、前記熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体の物性として、JIS K 7244−3で規定される30℃における曲げ貯蔵弾性率が熱可塑性樹脂単体の曲げ貯蔵弾性率の1.2〜5倍であり、かつガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率が熱可塑性樹脂単体のガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率の2〜10倍であることを特徴とする。
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の熱可塑性樹脂組成物には、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子及び熱可塑性樹脂を溶融混練してなり、金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂がグラフト化されたグラフト体が含まれている。係るグラフト体は、熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子とが結合力の高い共有結合で結ばれている。従って、熱可塑性樹脂がグラフト化していない金属酸化物微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物と比較して、金属酸化物微粒子の分散性が良く、得られる成形体の機械的物性及び耐熱性を向上させることができる。また、金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基は、表面に水酸基を有する酸化ケイ素微粒子を用いて形成されるものである。従って、酸化ケイ素微粒子の水酸基を利用し、有機過酸化物基を金属酸化物微粒子表面に容易に導入することができる。また、金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基は、酸化ケイ素微粒子の水酸基にアミノ変性シランカップリング剤を反応させて酸化ケイ素微粒子表面にアミノ基を導入し、該アミノ基にエチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物を反応させて得られるものである。このため、有機過酸化物基の導入効率を向上させることができる。
第2の発明の熱可塑性樹脂組成物では、金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基がペルオキシモノカーボネート基である。このため、第1の発明の効果に加えて、金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂を効率良くグラフト化反応させることができる。
の発明の熱可塑性樹脂組成物では、熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体の物性として、JIS K 7244−3で規定される30℃における曲げ貯蔵弾性率が熱可塑性樹脂単体の曲げ貯蔵弾性率の1.2〜5倍であり、かつガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率が熱可塑性樹脂単体のガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率の2〜10倍である。従って、第1又はの発明の効果に加え、成形体について機械的物性と耐熱性を向上させることができる。
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子及び熱可塑性樹脂を溶融混練してなり、金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂がグラフト化されたグラフト体と、熱可塑性樹脂とを含有するものである。即ち、熱可塑性樹脂組成物は、上記グラフト体と熱可塑性樹脂とを含む混合物である。
前記熱可塑性樹脂は、常温では変形しにくいが、加熱すると軟化して成形しやすくなり、冷却すると再び固くなる性質を持つ樹脂である。具体的には、ポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリエーテル系樹脂等を挙げることができる。
ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(PS)、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)、耐衝撃ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)及びその水添物等の重合体及びそれらの混合物を挙げることができる。
(メタ)アクリル系樹脂としては、ポリ(メタクリル酸メチル)樹脂(MMA)、ポリ(メタクリル酸エチル)樹脂、ポリ(メタクリル酸シクロヘキシル)樹脂等の(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、その共重合体及びそれらの混合物を挙げることができる。ここで、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルの双方を含む総称である。
ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールAタイプのポリカーボネート樹脂、ビスフェノールZタイプのポリカーボネート樹脂、ビスフェノールAFタイプのポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等の芳香族系ポリエステル樹脂や、ポリL−乳酸(PLLA)樹脂、ポリε−カプロラクタム(PCL)樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂などの脂肪族系ポリエステル樹脂及びその混合物を挙げることができる。
ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブテン(PB)樹脂、環状ポリオレフィン(COP)樹脂等の単独重合体、その共重合体及びそれらの混合物を挙げることができる。
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6(PA6)樹脂、ナイロン66(PA66)樹脂、ナイロン12(PA12)樹脂等が挙げられる。ポリアセタール系樹脂としては、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリオキシエチレン(POE)樹脂等の単独重合体、その共重合体及びそれらの混合物を挙げることができる。ポリサルファイド系樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂等を挙げることができる。ポリエーテル系樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等を挙げることができる。
前記熱可塑性樹脂のうち、成形体の透明性が高いという観点から、非晶性の熱可塑性樹脂であるポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン樹脂が好ましく、中でもポリスチレン系樹脂がより好ましい。
熱可塑性樹脂の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析(GPC)によるポリスチレン換算値で、好ましくは1〜100万、より好ましくは5〜50万である。質量平均分子量が5万未満の場合には、熱可塑性樹脂組成物の成形体などについて実用上必要な機械的物性が得られにくくなる。その一方、質量平均分子量が50万を超える場合には、熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が悪くなりやすい。また、熱可塑性樹脂の分散度(Mw/Mn)は、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とから算出され、好ましくは1.1〜50、より好ましくは1.2〜10である。この分散度が1.1未満或いは50を超えると、熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が悪くなりやすい。
次に、金属酸化物微粒子は、金属元素の酸化物からなり、ナノメートル(nm)オーダーの微粒子である。金属酸化物微粒子(又は金属酸化物微粒子を含有するもの)としては、酸化ケイ素(シリカ、SiO)〔ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン〕が挙げられる。その他参考例として、ケイ酸カルシウム(ウォラストナイト、ゾノトライト)、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサリト、二酸化チタン、酸化チタン(II)、酸化チタン(III)、酸化チタン(IV)、酸化アルミニウム、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、二酸化ジルコニウム、酸化クロム(II)、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV)、酸化アンチモン(III)、酸化アンチモン(V)、酸化イットリウム(III)、酸化インジウム(I)、酸化インジウム(II)、酸化インジウム(III)、酸化カリウム、酸化銀(I)、酸化銀(II)、酸化ゲルマニウム(II)、酸化ゲルマニウム(IV)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、酸化スズ(II)、酸化スズ(IV)、酸化セシウム、酸化タリウム(I)、酸化タリウム(III)、酸化タングステン(IV)、酸化タングステン(VI)、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化マンガン(II)、酸化マンガン(III)、酸化マンガン(IV)、酸化マンガン(VI)、酸化モリブデン(IV)、酸化モリブデン(VI)、酸化リチウム、酸化ルテニウム(VII)、酸化ルテニウム(VIII)等の微粒子が挙げられる。これらの金属酸化物微粒子は、単独で、又は2種類以上を組合せて使用することができる。
一般に金属酸化物は、その表面に大気中の水分が吸着されており、金属酸化物中の金属原子の種類によるが、表面に水酸基を有している。金属酸化物の表面を有機化変性する場合にはこの水酸基を利用するため、金属酸化物としてはその表面に有機官能基と反応できる水酸基を有しやすく、さらに、金属酸化物微粒子を有機過酸化物変性する方法が数多く存在する点から、酸化ケイ素が最も好ましい。
金属酸化物微粒子の形状は特に限定されず、一般的な球状だけでなく、多面体や板状、繊維のような直線形状、枝分かれした分岐形状等であってもよい。また、金属酸化物微粒子内に空隙(細孔又は中空)を有するものを用いることもできる。金属酸化物微粒子の製法は特に限定されず、気相法、ゾルゲル法、コロイド沈降法、溶融金属噴霧酸化法、アーク放電法等の任意の方法が採用される。
金属酸化物微粒子の一次の数平均粒径としては、特に限定されないが、1〜1000nmの範囲であると、少量の含有量で効果が発現される点から好ましい。また1〜200nmの範囲であると、熱可塑性樹脂組成物の透明性が向上するという点及び少量の含有量で耐熱性が向上するという点でより好ましい。上記の一次の数平均粒径は、金属酸化物微粒子が分散可能な任意の溶媒中に金属酸化物微粒子を分散させて得られた分散液をコロジオン膜上に滴下し、金属酸化物微粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察により得られる粒子像から測定される。一次の数平均粒径は、少なくとも100個の粒子の粒子径を定規により測定し、数平均により算出した数平均粒径を意味する。但し、TEM観察により得られる粒子像が円形でない場合、粒子の占める面積を算出した後、同面積を有する円形に置き換えた時の円の直径を粒子径と称する。
熱可塑性樹脂組成物は、その中で金属酸化物微粒子が均一分散しており、分散の数平均粒径が小さいことが特徴である。熱可塑性樹脂組成物中での金属酸化物微粒子の分散の数平均粒径は、代表的には1〜1000nm、好ましくは1〜200nmである。これらの値は、前述した金属酸化物微粒子の一次の数平均粒径とほぼ同じ値であり、即ち熱可塑性樹脂組成物となった後でも、粒子同士がほとんど凝集することなく、金属酸化物微粒子の一次の数平均粒径に近い状態で熱可塑性樹脂組成物中に均一分散していることを示している。
このように金属酸化物微粒子の分散の数平均粒径が1〜1000nmの範囲であると、少量の含有量で効果が発現される点から好ましい。また、係る数平均粒径が1〜200nmの範囲であると、熱可塑性樹脂組成物の透明性が向上するという点及び少量の含有量で耐熱性が向上するという点でより好ましい。より優れた分散性の観点からは、熱可塑性樹脂組成物中での金属酸化物微粒子の分散の数平均粒径の好ましい範囲は、金属酸化物微粒子の一次の数平均粒径と同じ範囲である。
金属酸化物微粒子の表面に結合(ペンダント)されている有機過酸化物基は、分子内に過酸化物結合を有するものであれば特に制限されない。具体的な有機過酸化物基としては、ヒドロペルオキシド基(−OOH)、アルキルペルオキシド基(−OOR、RはC2n+1又はC−Cm−12m−1で表され、n,mは1以上20以下の整数)、ジアシルペルオキシド基(−C(O)OO(O)CR、RはC2n+1で表され、nは1以上20以下の整数)、ペルオキシエステル基(−C(O)OOR、RはC2n+1又はC−Cm−12m−1で表され、n,mは1以上20以下の整数)、ペルオキシモノカーボネート基(−OC(O)OOR、RはC2n+1又はC−Cm−12m−1で表され、n,mは1以上20以下の整数)、ペルオキシケタール基(−C2l(OOR、RはC2n+1又はC−Cm−12m−1で表され、l,n,mは1以上20以下の整数)が挙げられる。中でも金属酸化物微粒子表面の開裂したラジカルのポリスチレンへのグラフト(カップリング)効率の観点から、ペルオキシモノカーボネート基がより好ましい。
金属酸化物微粒子の表面に有機過酸化物基を導入する方法として、具体的には、金属酸化物微粒子表面の水酸基を直接官能基で変性し、有機過酸化物基を導入する方法と、金属酸化物微粒子表面の水酸基を官能基変性シランカップリング剤で変性し、有機過酸化物基を導入する方法の2つの方法が挙げられ、有機過酸化物基の導入効率の観点から後者の方法が採用される
直接官能基で変性し、有機過酸化物基を導入する方法としては、金属酸化物微粒子表面の水酸基(−OH)を酸化させてできるヒドロペルオキシド基の導入法、同じく水酸基を塩化チオニルで塩素化し、さらにヒドロペルオキシドと反応させてできるジアルキルペルオキシド基の導入法、水酸基に多官能の酸クロライドを反応させて一部酸クロライドを残し、さらにヒドロペルオキシドと反応させてできるペルオキシエステル基の導入法、水酸基に多官能の酸クロライドを反応させて一部酸クロライドを残し、さらに単官能の脂肪族酸クロライド又は単官能の芳香族酸クロライドとを酸存在下で反応させてできるジアシルペルオキシド基の導入法、水酸基に多官能のクロロホルメート又は一分子中に酸クロライドとクロロホルメートを有する化合物を反応させて一部クロロホルメートを残し、さらにヒドロペルオキシドと反応させてできるペルオキシモノカーボネート基の導入法、水酸基にケトンを有する酸クロライドを反応させて、そのケトンとヒドロペルオキシドを反応させてできるペルオキシケタール基の導入法等が挙げられる。
金属酸化物微粒子表面の水酸基を官能基変性シランカップリング剤で変性し、有機過酸化物基を導入する方法としては、金属酸化物微粒子表面の水酸基に有機過酸化物基含有シランカップリング剤を反応させてできる有機過酸化物基の導入法、同じく水酸基にクロル基含有シランカップリング剤を反応させ、さらにヒドロペルオキシドと反応させてできるジアルキルペルオキシド基の導入法、水酸基にアミノ変性シランカップリング剤を反応させ、さらに一分子中にエチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物をマイケル付加させてできる有機過酸化物基の導入法等が挙げられる。中でも金属酸化物微粒子表面の水酸基にアミノ変性シランカップリング剤を反応(脱アルコール反応)させ、さらに一分子中にエチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物をマイケル付加反応させてできる有機過酸化物基の導入法が、反応性、簡便性などの観点から採用される
具体的な導入法としては、次のような方法が挙げられる。即ち、まず金属酸化物微粒子表面の水酸基にアミノ変性シランカップリング剤であるγ−アミノプロピルトリエトキシシランを脱アルコール反応させてアミノ基を有する金属酸化物微粒子を得る。次いで、該金属酸化物微粒子表面のアミノ基に、エチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物であるt-ブチルペルオキシ−2−メタクリロイルオキシエチルカーボネートをマイケル付加反応させ、金属酸化物微粒子表面にt−ブチルペルオキシモノカーボネート基を導入する。この場合、金属酸化物微粒子表面のアミノ基の含有量は、金属酸化物微粒子100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましく、0.1〜2質量部であることがより好ましい。アミノ基の含有量が0.1質量部より少ないと次の段階で有機過酸化物基の導入量が少なくなり、5質量部を超えると有機過酸化物基の導入が過剰となる傾向を示す。
金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基の含有量は、金属酸化物微粒子100質量部に対して、通常0.1〜10質量部が好ましく、0.3〜9質量部がより好ましい。有機過酸化物基の含有量が0.1質量部より少ないと熱可塑性樹脂組成物中での金属酸化物微粒子の分散性が悪くなり、10質量部を超えると熱可塑性樹脂組成物の成形性が悪化する傾向を示す。
熱可塑性樹脂組成物中に含まれている、熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子は、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子と熱可塑性樹脂とを溶融混練するという簡便な方法によって得ることができる。熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子が得られるメカニズムとしては、以下のように推測される。まず、溶融混練によって金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基が開裂し、金属酸化物微粒子表面に結合するラジカルと、金属酸化物微粒子表面に結合しないラジカルとが生成する。金属酸化物微粒子表面に結合しないラジカルは、熱可塑性樹脂分子中の水素を引抜き、熱可塑性樹脂ラジカルを生成する。その後、金属酸化物微粒子表面に結合しているラジカルと、熱可塑性樹脂ラジカルとが再結合することによって、熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子が生成するものと推定される。この場合、有機過酸化物基がペルオキシモノカーボネート基であることにより、上記ラジカルの再結合が容易になるものと考えられる。
熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物を製造するための溶融混練温度は、熱可塑性樹脂が溶融しかつ有機過酸化物基が分解する温度であれば特に制限されないが、一般的に170℃〜280℃が好ましい。また、溶融混練時間は、有機過酸化物基が十分に分解し、熱可塑性樹脂とのグラフト化反応が可能である時間であれば特に制限されないが、一般的には30分以内が好ましく、10分以内がより好ましい。
熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造は常法に従って行われ、特に制限されない。例えば、熱可塑性樹脂と有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子とをドライブレンドした後、溶融混練装置に投入する方法、熱可塑性樹脂を溶融混練機で混合する途中で該有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子の溶媒分散液を注入し、溶融混練の後半に溶融した熱可塑性樹脂組成物から溶媒を減圧除去する方法等が挙げられる。前記溶融混練装置としては公知のものが使用でき、例えば一軸押出機、二軸押出機等の各種押出機やバンバリーミキサー、ブラベンダー、プラストグラフ、熱ロール、ニーダー等の溶融混練機が挙げられる。
熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子が存在しているかどうかを判断する方法としては、公知の方法がいずれも採用される。例えば、金属酸化物微粒子は熱可塑性樹脂よりも比重が大きいことを利用し、金属酸化物微粒子にグラフト化していない熱可塑性樹脂と、金属酸化物微粒子にグラフト化している熱可塑性樹脂とを分別し、金属酸化物微粒子にグラフト化している熱可塑性樹脂を熱質量測定(TG)とフーリエ変換赤外分光装置(FT−IR)で定性及び定量して確認する方法が挙げられる。熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子の具体的な分別方法としては、熱可塑性樹脂組成物を熱可塑性樹脂の良溶媒に分散させた分散液を遠心分離し、沈降物を取り出す方法が挙げられる。また、熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子中の導入量の具体的な測定は、沈殿物をTGにかけ、熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子中の有機成分の分解量から算出する。グラフト成分が熱可塑性樹脂であるかどうかを判断するには、沈殿物をFT−IRにかけ、熱可塑性樹脂特有のピークが存在するかどうかを確認する。ここで、金属酸化物特有の吸収ピーク強度を分母に、熱可塑性樹脂特有のピーク強度を分子にした比率から、熱可塑性樹脂成分の相対的な定量値とすることができる。
熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子中の熱可塑性樹脂の導入量は、金属酸化物微粒子100質量部に対して、1〜40質量部であることが好ましい。この導入量が1質量部より少ない場合には、グラフト率が低く、熱可塑性樹脂組成物より得られる成形体の機械的物性や耐熱性を十分に向上させることができなくなる。その一方、40質量部より多い場合には、グラフト効率を高める必要があり、グラフト体の製造が難しくなる。
また、熱可塑性樹脂組成物中におけるグラフト体の含有量は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.01〜50質量部であることが好ましい。この含有量が0.01質量部より少ない場合、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の耐熱性が低下するため好ましくない。一方、50質量部より多い場合、熱可塑性樹脂組成物の成形性が悪化するため好ましくない。
熱可塑性樹脂組成物には、希釈又は成形体の機械的物性を改善するために、必要に応じて金属酸化物微粒子表面にグラフト化している熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂又は異種の熱可塑性樹脂を混合することができる。さらに、熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて紫外線防止剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤、顔料、着色剤、離型剤、滑剤、発泡剤、結晶核剤、抗菌・抗カビ剤等を、熱可塑性樹脂組成物の特性を損なわない範囲で添加することができる。
以上の熱可塑性樹脂組成物を所定形状に成形することにより所望とする成形体が得られる。熱可塑性樹脂組成物の成形法としては、一般に採用される熱可塑性樹脂の成形機を用いた成形法でよく、具体的にはカレンダー成形法、発泡成形法、押出成形法、射出成形法、真空成形法、ブロー成形法等を挙げることができる。
成形体としては、シート、フィルム、チューブ等の押出成形体、熱成形体、中空成形体、発泡成形体、射出成形体等を挙げることができる。この成形体は、他の熱可塑性樹脂をラミネートした積層体、塗料をグラビア印刷した多層の成形フィルム、プライマー、塗料主剤、ハードコート塗液を塗装した塗装体などとして使用することができる。このような成形体の用途としては、例えば光学レンズ、拡散フィルム、導光板等の光学材料、光ディスク、光ディスク用カバーフィルム、車両用のランプ、有機ガラス等が挙げられる。
係る成形体は、金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂がグラフト化されたグラフト体を含む熱可塑性樹脂組成物から得られるため、曲げ貯蔵弾性率等の機械的物性及び耐熱性に優れている。
ここで、曲げ貯蔵弾性率について機械的物性に優れるとは、JIS K 7244−3で規定された動的粘弾性測定装置で得られる30℃での曲げ貯蔵弾性率(以下、E´30℃ともいう)が、熱可塑性樹脂単体のガラス転移温度(以下、Tgともいう)におけるE´30℃の1.2〜5倍であることをいう。この範囲のE´30℃であれば、熱可塑性樹脂単体よりも機械的物性が高い成形体を得ることができる。
また、耐熱性に優れる特性とは、高温時における機械的物性に優れることであり、それはガラス転移温度(Tg)での前記貯蔵弾性率(E´TG)が、熱可塑性樹脂単体のTgにおけるE´TGの2〜10倍であることをいう。この範囲のE´TGであれば、熱可塑性樹脂単体よりも高温時における耐熱性が高い成形体を得ることができる。
以上の実施形態によって発揮される作用、効果につき、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の熱可塑性樹脂組成物には、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子及び熱可塑性樹脂を溶融混練してなり、金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂がグラフト化されたグラフト体が含まれている。係るグラフト体は、熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子とが結合力の高い共有結合で結合されている。従って、熱可塑性樹脂がグラフト化していない金属酸化物微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物と比較して、熱可塑性樹脂組成物中における金属酸化物微粒子の分散性が良くなり、得られる成形体の機械的物性及び耐熱性を向上させることができる。よって、熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂という有機材料と金属酸化物微粒子という無機ナノ粒子との有機−無機ナノコンポジット材料として極めて有用である。
・ 金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基がペルオキシモノカーボネート基であることにより、ラジカルの再結合を促進させることができ、金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂を効率良くグラフト化反応させることができる。
・ 金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基が、表面に水酸基を有する酸化ケイ素微粒子を用いて形成されるものであることにより、酸化ケイ素微粒子の水酸基を利用し、有機過酸化物基を金属酸化物微粒子表面に容易に導入することができる。
・ 金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基は、酸化ケイ素微粒子の水酸基にアミノ変性シランカップリング剤を反応させて酸化ケイ素微粒子表面にアミノ基を導入し、該アミノ基にエチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物を反応させて得られるものである。この場合、各反応が定量的に進行するため、有機過酸化物基の導入効率を向上させることができる。
・ 熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体の物性として、JIS K 7244−3で規定される30℃における曲げ貯蔵弾性率が熱可塑性樹脂単体の曲げ貯蔵弾性率の1.2〜5倍であり、かつガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率が熱可塑性樹脂単体のガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率の2〜10倍である。この場合、成形体について機械的物性と耐熱性を向上させることができる。
以下に、参考例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。各例における各種物性値については、下記に示す方法によって測定した。
(1)数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)
示差屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィ装置(GPC、(株)島津製作所製)を用い、溶出液をテトラヒドロフラン(THF)、カラム温度を40℃として、標準ポリスチレン換算により求めた。
(2)熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子中の熱可塑性樹脂の定性と定量
熱可塑性樹脂組成物1gを100mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、得られた溶液を遠心分離機((株)久保田製作所製、7780)で20分間高速遠心分離(20,000rpm)した。得られた沈殿物をさらに100mlのTHFで洗浄し、20分間高速遠心分離した。この洗浄、遠心分離操作をさらに2回繰り返して得られた沈殿物を、室温で2時間真空乾燥することにより、熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子を取り出した。
この熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子をフーリエ変換赤外分光装置((株)日本分光製、FT−IR−610)によって、金属酸化物の特有ピーク強度(I)と熱可塑性樹脂(I)の特有ピーク強度比(I/I)から、定性及び定量を行った。また、得られた熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子を、熱質量測定装置((株)エスアイアイナノテクノロジーズ製、TG220)を用い、測定温度範囲:30〜800℃、昇温速度:10℃/分の条件で、熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子の有機成分の分解質量%(熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子に対する有機成分の比率)を測定した。この値から、金属酸化物微粒子100質量部に対する有機成分の質量部に算出し直した値を導入量とした。
(3)熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物微粒子の分散性
熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物微粒子の1μmあたりの粒子数及び数平均分散粒径の測定:得られた熱可塑性樹脂組成物から、ウルトラミクロトーム((株)ライカ製、ウルトラカットUCT)を用いて、厚さ50〜100μmの超薄切片を作製した。得られた超薄切片を、透過型電子顕微鏡(TEM)((株)日本電子製、JEM−1200EX)を用いて金属酸化物微粒子の分散状態を観察撮影した。得られたTEM写真を複数用いて、視野内で確認可能な独立した粒子の数を100μm以上の範囲でカウントし、1μmあたりの面積でカウント可能な粒子数を算出した。加えた粒子の種類や量が同じである場合には、粒子が凝集して存在していると単位面積あたりの粒子数は少なくなっているため、この方法により粒子の分散性を評価することが可能となる。またTEM写真において、100個以上の分散金属酸化物微粒子が存在する任意の領域を選択し、粒径を目盛り付き定規を用いて測定し、数平均分散粒径を算出した。
(4)30℃での曲げ貯蔵弾性率(E´30℃
幅20mm、長さ40mm及び厚さ1mmの試験片を、動的粘弾性測定装置((株)エスアイアイナノテクノロジーズ製、DMS6100)を用い、測定モード:両持ち曲げ正弦波モード、測定温度範囲:30〜220℃、昇温速度:2℃/分の条件で、30℃での曲げ貯蔵弾性率(E´30℃)を測定した。
(5)ガラス転移温度(Tg)での曲げ貯蔵弾性率(E´TG
幅20mm、長さ40mm及び厚さ1mmの試験片を、動的粘弾性測定装置((株)エスアイアイナノテクノロジーズ製、DMS6100)を用い、測定モード:両持ち曲げ正弦波モード、測定温度範囲:30〜220℃、昇温速度:2℃/分の条件で、ガラス転移温度(Tg)即ち、tanδが最大値となる温度での曲げ貯蔵弾性率(E´TG)を測定した。
参考例、実施例及び比較例に用いた原料は次のとおりである。
金属酸化物微粒子A:日本触媒(株)製アモルファスシリカ、商品名「シーホスターKE−W10(水分散液)」、数平均粒径130nm、表面に水酸基を有している。
金属酸化物微粒子B:日産化学工業(株)製コロイダルシリカ、商品名「スノーテックスOL(水分散液)」、数平均粒径45nm、表面に水酸基を有している。
金属酸化物微粒子C:日産化学工業(株)製オルガノルシリカゾル、商品名「メタノールシリカゾル(メタノール分散液)」、数平均粒径15nm、表面に水酸基を有している。
アミノ変性シランカップリング剤:関東化学(株)製試薬、「γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(γ−APS)」
有機変性金属酸化物:日本アエロジル(株)製コロイダルシリカ、商品名「アエロジルR805」、数平均粒径12nm、有機物変性量5.5%
一分子中にエチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物a:日本油脂(株)製のt−ブチルペルオキシ−2−メタクリロイルオキシエチルモノカーボネート、商品名「ペロマーMEC(MEC)」
一分子中にエチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物b:日本油脂(株)製のt−ブチルペルオキシ−アリルモノカーボネート、商品名「ペロマーAC(AC)」
熱可塑性樹脂(PS):PSジャパン(株)製のポリスチレン樹脂、商品名「HF77」、質量平均分子量(Mw)244,000、分散度(Mw/Mn)3.2
(参考例1、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aaの製造)
金属酸化物微粒子Aの水分散液を遠心分離し、沈殿物をN−メチルピロリドンで洗浄、遠心分離操作を3回行うことで、固形分20質量%のN−メチルピロリドン分散液を得た。
200mlのビーカーに、上記金属酸化物微粒子AのN−メチルピロリドン分散液(固形分20質量%)25gとN−メチルピロリドン100mlを入れ、ホモミキサー(特殊機化(株)製、TKホモミキサーMARKII−f)で6000rpm、10分間分散させた。その分散液を300mlの4つ口フラスコに入れ、三日月型撹拌羽根で400rpm、5分間分散させた。この4つ口フラスコにアミノ変性シランカップリング剤(γ−APS)2gを添加し、110℃で8時間反応させた。得られた反応物を遠心分離し、沈殿物をメタノールで洗浄、遠心分離操作を3回行い、それを真空乾燥することで表面にアミノ基を有する金属酸化物微粒子Aを得た。この表面にアミノ基を有する金属酸化物微粒子Aのアミノ基導入量を化学滴定により求めたところ、金属酸化物微粒子100質量部に対して0.5質量部であった。
200mlのビーカーに、上記表面にアミノ基を有する金属酸化物微粒子4gとシクヘキサノン120mlを入れ、ホモミキサー(特殊機化(株)製、TKホモミキサーMARKII−f)で6000rpm、10分間分散させた。その分散液を300mlの4つ口フラスコに入れ、三日月型撹拌羽根で400rpm、5分間分散させた。この4つ口フラスコに一分子中にエチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物(MEC)2.4g(アミノ基に対して3倍モル)を添加し、40℃で24時間、窒素バブリング(20ml/分)下で反応させた。得られた反応物を遠心分離し、沈殿物をメタノールで洗浄、遠心分離操作を3回行うことで表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aaを得た。この表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子の有機過酸化物基導入量を化学滴定で求め、その結果を表1に示した。なお、表1においては、金属酸化物微粒子を100質量部として示し、それを基準とした。
(参考例2、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Abの製造)
参考例1において、MEC2.4g(アミノ基に対して3倍モル)をMEC0.4g(アミノ基に対して0.5倍モル)に変更した以外は同様の方法で、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Abを得た。この表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子の有機過酸化物基導入量を化学滴定により求め、その結果を表1に示した。
(参考例3、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Acの製造)
参考例1において、MEC2.4g(アミノ基に対して3倍モル)をMEC8g(アミノ基に対して10倍モル)に変更した以外は同様の方法で、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Acを得た。この表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子の有機過酸化物基導入量を化学滴定により求め、その結果を表1に示した。
(参考例4、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Bの製造)
参考例1において、金属酸化物微粒子Aを金属酸化物微粒子Bに変更した以外は同様の方法で、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Bを得た。この表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子の有機過酸化物基導入量を化学滴定により求め、その結果を表1に示した。
(参考例5、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Cの製造)
参考例1において、金属酸化物微粒子Aを金属酸化物微粒子Cに変更した以外は同様の方法で、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Cを得た。この表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子の有機過酸化物基導入量を化学滴定により求め、その結果を表1に示した。
(参考例6、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Adの製造)
参考例1において、MEC2.4g(アミノ基に対して3倍モル)をAC1.7g(アミノ基に対して3倍モル)に変更した以外は同様の方法で、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Adを得た。この表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子の有機過酸化物基導入量を化学滴定により求め、その結果を表1に示した。
(比較参考例1、表面に熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子の製造)
100mlのビーカーに、参考例2で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aa2gとスチレンモノマー55gを入れ、ホモミキサー(特殊機化(株)製、TKホモミキサーMARKII−f)で3000rpm、10分間分散させた。その分散液を100mlの4つ口フラスコに入れ、三日月型撹拌羽根で400rpm、5分間、窒素バブリング(20ml/分)下で分散させた。この分散液を100℃で2時間、窒素バブリング(20ml/分)下で分散させた。得られた反応物を遠心分離し、沈殿物をテトラヒドロフラン(THF)で洗浄、遠心分離操作を3回行い、それを真空乾燥することで表面にポリスチレンがグラフト化した金属酸化物微粒子を得た。この表面にポリスチレンがグラフト化した金属酸化物微粒子のポリスチレングラフト量を熱質量測定装置((株)エスアイアイナノテクノロジーズ製、TG220)で測定したところ、金属酸化物微粒子100質量部に対して10質量部であった。
(実施例1)
熱可塑性樹脂(PS)100質量部と参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aa10質量部をドライブレンドし、180℃に設定された溶融混練機(ラボプラストミルμ、小型セグメントミキサ:KF6型、ディスク:高剪断型、(株)東洋精機製作所製)にて210rpmで5分間溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物から熱可塑性樹脂(PS)がグラフト化した金属酸化物微粒子中の熱可塑性樹脂(PS)の定性、定量及び熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物微粒子の分散性を測定し、その結果を表2に示した。
また、180℃に設定した熱プレス機を用いて、得られた熱可塑性樹脂組成物から幅20mm、長さ40mm及び厚さ1mmの試験片を成形し、動的粘弾性測定装置を用いて、30℃での曲げ貯蔵弾性率(E´30℃)及びガラス転移温度(Tg)での曲げ貯蔵弾性率(E´TG)を測定した。それぞれ熱可塑性樹脂(PS)単体のE´30℃(2.0GPa)及びE´TG(7.2MPa)との相対比率を算出し、それらを機械的強度(E´30℃)及び耐熱性(E´TG)として表2に示した。
(実施例2)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aaを、参考例2で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Abに変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表2に示した。
(実施例3)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aaを、参考例3で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Acに変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表2に示した。
(実施例4)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物を有する金属酸化物微粒子Aaを、参考例4で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Bに変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表2に示した。
(実施例5)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aaを、参考例5で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Cに変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表2に示した。
(実施例6)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aaを、参考例6で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Adに変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表2に示した。
(比較例1)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aaを、有機過酸化物基を有していない金属酸化物微粒子Aに変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表2に示した。
Figure 0005272353
Figure 0005272353
(実施例7)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aa10質量部を0.05質量部に変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表3に示した。
(実施例8)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aa10質量部を40質量部に変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表3に示した。
(比較例2)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aaを、比較参考例1で得られた表面にポリスチレンがグラフト化した金属酸化物微粒子に変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表3に示した。
(比較例3)
実施例1において、参考例1で得られた表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子Aaを、有機変性金属酸化物微粒子に変更した以外は同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を同様の方法で評価し、その結果を表3に示した。
Figure 0005272353
表2及び表3に示したように、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子を用いた実施例1〜8では、表面に有機過酸化物基を有していない金属酸化物微粒子を用いた比較例1に比べ、熱可塑性樹脂がグラフト化した金属酸化物微粒子が生成し、熱可塑性樹脂組成物中に金属酸化物微粒子が均一分散することが明らかになった。またそれによって得られる熱可塑性樹脂組成物の30℃における曲げ貯蔵弾性率(E´30℃)が熱可塑性樹脂単体のE´30℃の1.2〜5倍であり、さらにガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率(E´TG)が熱可塑性樹脂単体のE´TGの2〜10倍であるため、機械的強度と耐熱性に優れることが明らかになった。
さらに、実施例1〜6を、比較例2及び比較例3と比較すると、予めラジカル重合でポリスチレンをグラフト化した金属酸化物微粒子又は市販の有機変性金属酸化物微粒子を溶融混練した熱可塑性樹脂組成物よりも、グラフト体の生成が溶融混練時に起こるものと考えられる。そのため、金属酸化物微粒子が熱可塑性樹脂中で一層均一に分散し、得られる熱可塑性樹脂組成物の30℃における曲げ貯蔵弾性率(E´30℃)が熱可塑性樹脂単体のE´30℃の1.2〜5倍であり、さらにガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率(E´TG)が熱可塑性樹脂単体のE´TGの2〜10倍となった。その結果、熱可塑性樹脂組成物は、機械的強度と耐熱性に優れることが明らかになった。
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 金属酸化物微粒子として、一次の数平均粒径の異なる酸化ケイ素微粒子を組合せて使用したり、酸化ケイ素微粒子とそれ以外の金属酸化物微粒子とを組合せて使用したりすることもできる。
・ 有機過酸化物として、複数のペルオキシモノカーボネートを用いたり、ペルオキシモノカーボネートとその他の有機過酸化物を組合せて用いることもできる。
・ 有機過酸化物として、分解開始温度の異なるものを複数種類組合せて使用し、溶融混練する温度を調整することもできる。
・ 熱可塑性樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂や金属酸化物微粒子の種類などを変えて異なるグラフト体を複数調製し、それら複数のグラフト体を含むように構成することも可能である。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂がグラフト化されたグラフト体と、熱可塑性樹脂とを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。このように構成した場合、金属酸化物微粒子の分散性が良く、得られる成形体の機械的物性及び耐熱性を向上させることができる。
・ 熱可塑性樹脂と、表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子とを溶融混練し、金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂の一部をグラフト化してグラフト体を形成することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。この製造方法によれば、金属酸化物微粒子の分散性が良く、得られる成形体の機械的物性及び耐熱性を向上させることができる熱可塑性樹脂組成物を容易に得ることができる。
・ 請求項1から請求項のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。この成形体は、優れた機械的物性及び耐熱性を発揮することができる。

Claims (3)

  1. 表面に有機過酸化物基を有する金属酸化物微粒子及び熱可塑性樹脂を溶融混練してなり、金属酸化物微粒子に熱可塑性樹脂がグラフト化されたグラフト体と、熱可塑性樹脂とを含有し、
    前記金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基は、酸化ケイ素微粒子の水酸基にアミノ変性シランカップリング剤を反応させて酸化ケイ素微粒子表面にアミノ基を導入し、該アミノ基にエチレン性不飽和基と有機過酸化物基を有する化合物を反応させて得られるものであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
  2. 前記金属酸化物微粒子表面の有機過酸化物基が、ペルオキシモノカーボネート基であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  3. 前記熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体の物性として、JIS K 7244−3で規定される30℃における曲げ貯蔵弾性率が熱可塑性樹脂単体の曲げ貯蔵弾性率の1.2〜5倍であり、かつガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率が熱可塑性樹脂単体のガラス転移温度における曲げ貯蔵弾性率の2〜10倍であることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
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