JP5270581B2 - ブラスめっき鋼線の製造方法とブラスめっき鋼線の伸線装置 - Google Patents

ブラスめっき鋼線の製造方法とブラスめっき鋼線の伸線装置 Download PDF

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Description

本発明は、例えば、タイヤ補強用スチールコードの素線等に用いられる、表面にブラスめっき層が設けられたブラスめっき鋼線の製造方法とブラスめっき鋼線の伸線装置とに関するものである。
従来、ラジアルタイヤのベルトやカーカス用ボディプライ、及び、各種工業用ベルト部材などのゴム物品においては、表面にブラスめっきを施したブラスめっき鋼線または上記ブラスめっき鋼線を複数本撚り合わせたスチールコードをゴムで被覆したものを用いることにより、上記ゴム物品のゴムに対する補強効果を得てきた。このような補強効果を実現するためには、上記ブラスめっき鋼線と上記ブラスめっき鋼線を被覆するゴムとの接着性能を十分に確保する必要がある。例えば、タイヤ製造時の加硫工程においては、上記スチールコードがゴムとの接触下で加熱されることにより、ゴム中の硫黄とブラスめっき中の銅とが反応して接着層が形成される。この接着層を速やかにかつ確実に形成する性能(接着性能)を高めることがゴム物品用スチールコードには求められる。
上記ブラスめっき鋼線とゴムとの接着性能を改善する方法としては、従来、20nmを超える粒径の結晶粒から成るブラスめっき層の結晶質性部の表面側に、20nm以下の粒径の結晶粒から成る非結晶質性部を設け、この非結晶質性部により、ブラスめっき鋼線とゴムとの接着反応を速やかに進行させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2006−283270号公報
ところで、上記ブラスめっき層の結晶質性部の表面側に非結晶質性部を設ける方法としては、湿式伸線工程において、潤滑液中の潤滑性分の濃度を下げてブラスめっき鋼線を伸線加工し、その表面に強加工層を形成する方法や結晶質のブラスめっき層の表面にプラズマCVDなどにより非晶質のブラスめっき層を形成する方法が提案されている。
しかしながら、潤滑性分の濃度を下げて伸線加工した場合には、断線が多発する恐れがあるだけでなく、ブラスめっき鋼線を引き抜くために用いるダイスの寿命低下などの生産性の低下を引き起こしてしまうといった問題点があった。
また、プラズマCVDなどにより非晶質のブラスめっき層を形成する方法は、設備が大掛かりとなるため、現実的な方法とはいえない。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、生産性を低下させることなく、ブラスめっき鋼線とゴムとの初期接着性能を十分に確保することのできるゴム物品補強用ブラスめっき鋼線の製造方法とブラスめっき鋼線の伸線装置とを提供することを目的とする。
本願の請求項1に記載の発明は、表面にブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線を複数のダイスを用いて順次引き抜いて伸線加工するブラスめっき鋼線の伸線装置であって、最終伸線工程の最下流に配置される最下流のダイスと、前記最下流のダイスの1つ前に配置される下流2個目のダイスと、前記下流2個目のダイスの1つ前に配置される下流3個目のダイスと、前記下流3個目のダイスよりも前段に配置される前段のダイスとを備え、前記前段のダイスの前記ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数が0.12未満であり、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の摩擦係数が0.12〜0.41であることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のブラスめっき鋼線の伸線装置であって、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、前記摩擦係数が0.12〜0.41であるダイス以外のダイスの摩擦係数が0.12未満であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、表面にブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線を複数のダイスを用いて順次引き抜いて伸線加工するブラスめっき鋼線の伸線装置であって、最終伸線工程の最下流に配置される最下流のダイスと、前記最下流のダイスの1つ前に配置される下流2個目のダイスと、前記下流2個目のダイスの1つ前に配置される下流3個目のダイスとを備え、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の摩擦係数が0.12〜0.41であり、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、摩擦係数が0.12〜0.41であるダイス以外のダイスの摩擦係数が0.12未満であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のブラスめっき鋼線の伸線装置であって、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の前記摩擦係数が0.18〜0.22であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、表面にブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線を複数のダイスを用いて順次引き抜いて伸線加工するブラスめっき鋼線の伸線装置であって、最終伸線工程の最下流に配置される最下流のダイスと、前記最下流のダイスの1つ前に配置される下流2個目のダイスと、前記下流2個目のダイスの1つ前に配置される下流3個目のダイスと、前記下流3個目のダイスよりも前段に配置される前段のダイスとを備え、前記前段のダイスの前記ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数が0.1以下であり、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の摩擦係数が0.12〜0.41であることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のブラスめっき鋼線の伸線装置であって、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、前記ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数が0.12〜0.41であるダイス以外のダイスの前記摩擦係数が0.1以下であることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、表面にブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線を複数のダイスを用いて順次引き抜いて伸線加工するブラスめっき鋼線の伸線装置であって、最終伸線工程の最下流に配置されるダイスと、前記最下流のダイスの1つ前に配置される下流2個目のダイスと、前記下流2個目のダイスの1つ前に配置される下流3個目のダイスとを備え、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の前記ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数が0.12〜0.41であり、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、摩擦係数が0.12〜0.41であるダイス以外のダイスの摩擦係数が0.1以下であることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項5〜請求項7のいずれかに記載のブラスめっき鋼線の伸線装置であって、前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の前記摩擦係数が0.18〜0.22であることを特徴とする。
また、請求項9に記載の発明は、表面にブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線を伸線加工するブラスめっき鋼線の製造方法において、請求項1〜請求項8のいずれかに記載のブラスめっき鋼線の伸線装置を用いてブラスめっき鋼線を伸線加工することを特徴とする。
なお、上記摩擦係数μは、図2に示すように、引き抜きダイス14に入線前のブラスめっき鋼線13の断面積をA0、引き抜きダイス14による伸線後のブラスめっき鋼線13の断面積をA1、引き抜きダイス14のダイス角をα、ブラスめっき鋼線13の引き抜き力をPzとしたときに、以下の式(Siebelの式)で近似できる。本発明では、引き抜くブラスめっき鋼線13のワイヤ降伏応力Yの値に応じて、A0,A1,α,Pzを変更して、当該引き抜きダイス14とブラスめっき鋼線13との間の摩擦係数μを適宜調整する。
Figure 0005270581
本発明のブラスめっき鋼線の製造方法によれば、ブラスめっき鋼線を伸線加工する際に、最終伸線工程の最終引き抜きダイス及びこれより上流側の2個の引き抜きダイスのうちの少なくとも1個の引き抜きダイスとして、ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数μが0.12〜0.41である引き抜きダイスを用いた。これにより、ダイスの寿命を低下させることなく、ブラスめっき層の極表面のみを強加工して、結晶質性部の表面側に、20nm以下の粒径の結晶粒から成る、格子欠陥密度の高い非結晶質性部を設けることができる。また、断線の発生を抑制することができるので、生産性を低下させることなく、ブラスめっき鋼線とゴムとの初期接着性能を十分に確保することができる。
更に、最終伸線工程の最終引き抜きダイス及びこれより上流側の2個の引き抜きダイスのうちの少なくとも1個の引き抜きのブラスめっき鋼線との間の摩擦係数μを0.18〜0.22とすれば、上記結晶質性部の表面側に非結晶質性部を確実に設けることができるとともに、断線の発生を更に抑制することができる。望ましくは、上記摩擦係数μを0.18〜0.21とすれば、上記の効果を更に高めることができる。
また、上記摩擦係数μが0.12〜0.41であるダイス以外のダイスのブラスめっき鋼線との間の摩擦係数を0.12未満、特に、0.1以下とすることで、ブラスめっき鋼線に不要な加工を与えないようにした。これにより、ブラスめっき鋼線の性能を損なうことなく、ブラスめっき鋼線とゴムとの初期接着性能を十分に確保することができる。更には、ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数μが0.12〜0.41であるダイス以外のダイスの寿命低下を防止することができる。
本発明の最良の形態に係る伸線装置を示す模式図である。 ダイス摩擦係数μとブラスめっき鋼線の引き抜き条件との関係を説明するための図である。 実施例に用いたダイスの摩擦係数と作製されたブラスめっき鋼線の接着性、ダイス寿命、断線の発生について調べた結果を示す表である。
符号の説明
10 伸線装置、11 潤滑液槽、11m 潤滑剤液、
12A,12B 駆動キャプスタン、14 前段のダイス、
14x 下流3個目のダイス、14y 下流2個目のダイス、
14z 最下流のダイス(最終ダイス)、15 駆動キャプスタン。
最良の形態
以下、本発明の最良の形態について図面に基づき説明する。
図1は、本発明の最良の形態に係る多段スリップ型湿式の伸線装置10の概要を示す図である。この多段スリップ型湿式の伸線装置10は、パテンティング熱処理等を施した後その表面にブラスめっき層が設けられたブラスめっき鋼線を伸線する最終伸線工程に用いられる。この伸線装置10は、潤滑剤液11mが満たされた潤滑液槽11と、潤滑剤液11m中に設置された多段の駆動キャプスタン12A,12B及び多数の引き抜きダイス14,14x,14y,14zと、駆動キャプスタン15とを備えている。ここで、引き抜きダイス14zは最終ダイス(以下、最下流のダイスという)である。引き抜きダイス14yは上記最下流のダイス14zの前段のダイス(下流2個目のダイス)である。引き抜きダイス14xは上記下流2個目のダイス14yの前段のダイス(下流3個目のダイス)である。引き抜きダイス14は上記下流3個目のダイス14xよりも前段に配置された引き抜きダイス(以下、前段のダイスという)である。
伸線装置10による最終伸線工程について説明する。まず、潤滑液槽11内の潤滑剤液11m中に互いに対向するように配置された2つの多段の駆動キャプスタン12A,12Bとの間に、ブラスめっき鋼線13を上記駆動キャプスタン12A,12Bの各段に交互に掛け渡す。この過程で、各段毎に引き抜きダイス14(14,14x,14y)による伸線を行う。その後、最下流のダイス14zを経て所定の径まで伸線処理したブラスめっき鋼線13を駆動キャプスタン15により図外の巻取工程へと送る。この工程において、20数個のダイスを使用して引き抜き加工を行い、所定の線径(直径で0.1〜0.4mm)のブラスめっき鋼線13を得る。
本例では、上記ダイスの内、最下流のダイス14zとして、ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数μが0.2である引き抜きダイス(以下、μをダイスの摩擦係数という)を用いるとともに、下流2個目のダイス14y、下流3個目のダイス14x、及び、前段のダイス14として、摩擦係数μが0.1以下である引き抜きダイスを用いている。
なお、上記前段のダイス14は、タングステンカーバイト(WC)などの超硬合金から成るダイスで、下流側のダイス14x〜14zはダイヤモンドダイスである。上記各ダイス14,14x〜14zの摩擦係数μは、引き抜くブラスめっき鋼線13のワイヤ降伏応力Yの値に応じて、上記Siebelの式を用いて、ダイスに入線前のブラスめっき鋼線の断面積A0、ダイスによる伸線後のブラスめっき鋼線の断面積A1、ダイス角α、ブラスめっき鋼線13の引き抜き力Pzを変更することで調整する。
上記最下流のダイス14zは摩擦係数μが前段のダイス14y,14x,14よりも大きいので、伸線加工されたブラスめっき鋼線13の極表面は強加工される。その結果、ブラスめっき層の結晶質性部の表面側に、20nm以下の粒径の結晶粒から成る非結晶質性部が形成される。したがって、このようにして製造されたブラスめっき鋼線13は、ブラスめっき層表面に格子欠陥密度の高い非晶質性部があるため、ゴムとの接触下で加熱すると、ブラスめっき層とゴムとの接着反応が速やかに進行する。このため、ブラスめっき鋼線13とゴムとの接着層が速やかに形成されるので、初期接着性能が向上する。
上記最下流のダイス14zの摩擦係数μが0.12未満である場合には、ブラスめっき層の表面は十分に強加工されずに結晶質性部となるので、ブラスめっき層とゴムとの接着反応は緩やかに進行する。したがって、初期接着性能を向上させることは困難である。一方、上記最下流のダイス14zの摩擦係数μが0.41を超えた場合には、初期接着性能は向上するが、ダイスとブラスめっき鋼線との摩擦が大きくなりすぎて、ダイスの摩耗が加速してダイス寿命が低下するだけでなく、断線も多発するので、最下流のダイス14zの摩擦係数としては、μ=0.12〜0.41の範囲とする必要がある。
なお、本例では、下流2個目のダイス14y、下流3個目のダイス14x、及び、前段のダイス14として、摩擦係数μが0.1以下である引き抜きダイスを用いる。これにより、ブラスめっき鋼線13に上記最下流のダイス14zによる強加工以外の不要な加工を与えないので、ブラスめっき鋼線13の性能を損なうことがない。また、上記ダイス14,14x,14yは、摩擦係数μが0.1以下であるので、ダイスの寿命も長い。
このように、本最良の形態によれば、最終伸線工程に用いられる伸線装置10において、最下流のダイス14zとして、ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数μが0.2である引き抜きダイスを用いるとともに、下流2個目のダイス14y、下流3個目のダイス14x、及び、前段のダイス14として、摩擦係数μが0.1以下である引き抜きダイスを用いてブラスめっき鋼線13を伸線して、ブラスめっき鋼線13のブラスめっき層の結晶質性部の表面側に格子欠陥密度の高い非結晶質性部を形成するようにしたので、ダイス寿命を維持しつつ、ブラスめっき鋼線13の接着性能を向上させることができるとともに、断線の発生を十分に抑制することができる。
なお、上記最良の形態では、最下流のダイス14zの摩擦係数μを0.2としたが、摩擦係数μの値としては、0.12〜0.41の範囲にあればよい。 また、上記例では、最終伸線工程で使用されるダイスの内、最下流のダイス14zのみを摩擦係数μが0.2である引き抜きダイスとしたが、これに限るものではなく、最下流のダイス14z、下流2個目のダイス14y、及び、下流3個目のダイス14xの3個のダイスのうちの少なくとも1個の引き抜きダイスとして、摩擦係数μが0.12〜0.41である引き抜きダイスを用いればよい。すなわち、摩擦係数μが0.12〜0.41である引き抜きダイスは2個であっても3個であってもよい。なお、この場合にも、摩擦係数μが0.12〜0.41であるダイス以外のダイスとしては、摩擦係数μが0.12未満であることが好ましく、0.1以下であるダイスを使用すれば更に好ましい。
また、上記3個のダイス14x,14y,14zのうちの少なくとも1個の引き抜きダイスとして、摩擦係数μが0.12〜0.41である引き抜きダイスを用いることが好ましく、摩擦係数μが0.18〜0.22である引き抜きダイスを用いれば更に好ましい。特に好ましい摩擦係数μの範囲は0.18〜0.21である。
[実施例]
最終伸線工程において、最下流のダイス、下流2個目のダイス、及び、下流3個目のダイスの3個のダイスのうちの少なくとも1個の引き抜きダイスとして、摩擦係数μが0.12〜0.41である引き抜きダイスを用いてブラスめっき鋼線を伸線する。その接着性、ダイス寿命、断線の発生について調べた結果を図3の表に示す。
実施例1のブラスめっき鋼線は、最下流のダイスのみに摩擦係数μが0.20である引き抜きダイスを用い、他のダイスとして摩擦係数μが0.1以下である引き抜きダイスを用いて伸線したものである。
実施例2のブラスめっき鋼線は、最下流のダイスのみに摩擦係数μが0.22である引き抜きダイスを用い、他のダイスとして摩擦係数μが0.1以下である引き抜きダイスを用いて伸線したものである。
実施例3のブラスめっき鋼線は、最下流のダイスのみに摩擦係数μが0.41である引き抜きダイスを用い、他のダイスとして摩擦係数μが0.1以下である引き抜きダイスを用いて伸線したものである。
実施例4のブラスめっき鋼線は、下流2個目のダイスのみに摩擦係数μが0.21である引き抜きダイスを用い、他のダイスとして摩擦係数μが0.1以下である引き抜きダイスを用いて伸線したものである。
実施例5のブラスめっき鋼線は、下流3個目のダイスのみに摩擦係数μが0.20である引き抜きダイスを用い、かつ、下流4個目のダイスの摩擦係数μを0.11としたものである。なお、他のダイスの摩擦係数μは0.1以下である。
実施例6のブラスめっき鋼線は、下流3個目のダイスのみに摩擦係数μが0.20である引き抜きダイスを用い、他のダイスとして摩擦係数μが0.1以下である引き抜きダイスを用いて伸線したものである。
実施例7のブラスめっき鋼線は、最下流のダイスに摩擦係数μが0.18である引き抜きダイスを用い、下流2個目のダイスに摩擦係数μが0.20である引き抜きダイスを用いて伸線したものである。なお、他のダイスの摩擦係数μは0.1以下である。
実施例8のブラスめっき鋼線は、下流2個目のダイスに摩擦係数μが0.21である引き抜きダイスを用い、下流3個目のダイスに摩擦係数μが0.20である引き抜きダイスを用いて伸線したものである。なお、他のダイスの摩擦係数μは0.1以下である。
実施例9のブラスめっき鋼線は、最下流のダイスに摩擦係数μが0.18である引き抜きダイスを用い、下流2個目のダイスに摩擦係数μが0.20である引き抜きダイスを用い、下流3個目のダイスに摩擦係数μが0.21である引き抜きダイスを用いて伸線したものである。なお、他のダイスの摩擦係数μは0.1以下である。
また、比較のため、全てのダイスの摩擦係数μが0.1以下として伸線したブラスめっき鋼線(比較例1)と、最下流のダイス、下流2個目のダイス、及び、下流3個目のダイスの3個のダイスのうちの少なくとも1個の引き抜きダイスとして、0.41を超える摩擦係数μを有するダイスを用いて伸線したブラスめっき鋼線(比較例2〜4)と、下流3個目のダイスよりも前段に配置された下流4個目のダイスの摩擦係数μが0.21で、最下流のダイス、下流2個目のダイス、及び、下流3個目のダイスの摩擦係数μが全て0.12未満であるダイスを用いて伸線したブラスめっき鋼線(比較例5)とを作製しその接着性、ダイス寿命、断線の発生について調べた結果も図3の表に併せて示した。
接着性能は、ゴムとの接触下で加熱したブラスめっき鋼線が100%完全にゴムで被覆されるまでの時間で評価し、比較例1を100とした指数で表した。数字が少ない方が接着性が良好である。
ダイス寿命は、ダイスで生産できるブラスめっき鋼線の重量で評価し、比較例1を100とした指数で表した。数字が大きいほどダイス寿命が長く、生産性が高い。
断線は、ブラスめっき鋼線を10tonの張力下で伸線したときの断線回数で評価し、比較例1を100とした指数で表した。数字が少ない方が断線が少ない。
図3の表から明らかなように、本発明による製造方法で作製した実施例1〜9のブラスめっき鋼線は、比較例1の全てのダイスの摩擦係数μが0.1以下として伸線したブラスめっき鋼線と同等のダイス寿命と断線回数を維持しながら、接着性能が12%〜55%向上していることがわかる。これにより、本発明による製造方法を用いることにより、生産性を低下させることなくゴムとの接着性能を向上させることができるとともに、断線の発生を十分に抑制できることが確認された。
また、摩擦係数μが0.12〜0.41である引き抜きダイスの数を増やすと、接着性能はさらに向上することもわかった。
また、実施例4〜6及び実施例8に示すように、最下流の引き抜きダイスの摩擦係数μを0.1以下とした場合でも、下流2個目のダイス及び下流3個目のダイスに摩擦係数μが0.18〜0.22にある引き抜きダイスを用いれば、接着性能が向上することも確認された。
これに対して、最下流のダイス、下流2個目のダイス、及び、下流3個目のダイスの3個のダイスのうちの少なくとも1個の引き抜きダイスとして、0.41を超える摩擦係数μを有するダイスを用いて伸線した場合には、いずれの場合も初期接着性能は向上するものの、ダイス寿命が短く生産性が低下するとともに、断線も多発することから、強加工するダイスの摩擦係数としては、0.41以下にする必要があることが確認された。
また、下流3個目のダイスよりも前段に配置された下流4個目のダイスの摩擦係数μを0.21としても、最下流のダイス、下流2個目のダイス、及び、下流3個目のダイスの3個のダイスの摩擦係数μが0.12未満である場合には、比較例1と同じ特性しか得られなかったことから、最下流のダイス、下流2個目のダイス、及び、下流3個目のダイスの3個のダイスのうちの少なくとも1個に、摩擦係数が0.12〜0.41のダイスを用いる必要があることが確認された。
本発明により製造されるブラスめっき鋼線は、ゴムとの接着性が良好なので、スチールラジアルタイヤのスチールコード用の他、高圧ホース、工業用ベルトなど、その他のゴム物品の補強部材として好適に用いることができる。

Claims (9)

  1. 表面にブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線を複数のダイスを用いて順次引き抜いて伸線加工するブラスめっき鋼線の伸線装置であって、
    最終伸線工程の最下流に配置される最下流のダイスと、
    前記最下流のダイスの1つ前に配置される下流2個目のダイスと、
    前記下流2個目のダイスの1つ前に配置される下流3個目のダイスと、
    前記下流3個目のダイスよりも前段に配置される前段のダイスとを備え、
    前記前段のダイスの前記ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数が0.12未満であり、
    前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の摩擦係数が0.12〜0.41であることを特徴とするブラスめっき鋼線の伸線装置。
  2. 前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、前記摩擦係数が0.12〜0.41であるダイス以外のダイスの摩擦係数が0.12未満であることを特徴とする請求項1に記載のブラスめっき鋼線の伸線装置。
  3. 表面にブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線を複数のダイスを用いて順次引き抜いて伸線加工するブラスめっき鋼線の伸線装置であって、
    最終伸線工程の最下流に配置される最下流のダイスと、
    前記最下流のダイスの1つ前に配置される下流2個目のダイスと、
    前記下流2個目のダイスの1つ前に配置される下流3個目のダイスとを備え、
    前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の摩擦係数が0.12〜0.41であり、
    前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、摩擦係数が0.12〜0.41であるダイス以外のダイスの摩擦係数が0.12未満であることを特徴とするブラスめっき鋼線の伸線装置。
  4. 前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の前記摩擦係数が0.18〜0.22であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のブラスめっき鋼線の伸線装置。
  5. 表面にブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線を複数のダイスを用いて順次引き抜いて伸線加工するブラスめっき鋼線の伸線装置であって、
    最終伸線工程の最下流に配置される最下流のダイスと、
    前記最下流のダイスの1つ前に配置される下流2個目のダイスと、
    前記下流2個目のダイスの1つ前に配置される下流3個目のダイスと、
    前記下流3個目のダイスよりも前段に配置される前段のダイスとを備え、
    前記前段のダイスの前記ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数が0.1以下であり、
    前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の摩擦係数が0.12〜0.41であることを特徴とするブラスめっき鋼線の伸線装置。
  6. 前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、前記ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数が0.12〜0.41であるダイス以外のダイスの前記摩擦係数が0.1以下であることを特徴とする請求項5に記載のブラスめっき鋼線の伸線装置。
  7. 表面にブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線を複数のダイスを用いて順次引き抜いて伸線加工するブラスめっき鋼線の伸線装置であって、
    最終伸線工程の最下流に配置されるダイスと、
    前記最下流のダイスの1つ前に配置される下流2個目のダイスと、
    前記下流2個目のダイスの1つ前に配置される下流3個目のダイスとを備え、
    前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の前記ブラスめっき鋼線との間の摩擦係数が0.12〜0.41であり、
    前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、摩擦係数が0.12〜0.41であるダイス以外のダイスの摩擦係数が0.1以下であることを特徴とするブラスめっき鋼線の伸線装置。
  8. 前記最下流のダイス、前記下流2個目のダイス、及び、前記下流3個目のダイスのうち、少なくとも1個の前記摩擦係数が0.18〜0.22であることを特徴とする請求項5〜請求項7のいずれかに記載のブラスめっき鋼線の伸線装置。
  9. 請求項1〜請求項8のいずれかに記載のブラスめっき鋼線の伸線装置を用いてブラスめっき鋼線を伸線加工することを特徴とするブラスめっき鋼線の製造方法。
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