しかしながら、上記特許文献2の構成では、ガスインジェクションの際のガス冷媒の流れによってリード弁を変形させて、該ガス冷媒をインジェクションパイプからインジェクション通路へ流すようにしているため、該リード弁に変形を生じさせる分、ガス冷媒の流れにとって抵抗となり、圧損が大きくなる。しかも、このような構成では、ガス冷媒は、上記リード弁が変形した僅かな隙間を流れることになるため、さらにガス冷媒に対する抵抗は大きくなり、該リード弁による圧損が増大する。
また、上述のように、インジェクション通路とインジェクションパイプとの接続部分には、上記リード弁の開方向への変形を許容する空間を確保するために必要な逆止弁室が形成されているため、該リード弁が閉まっている場合(ガスインジェクションがOFFの場合)、この逆止弁室も死容積になり、圧縮機の効率低下を招くことになる。
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インジェクション通路に設けられた逆止弁に起因する損失を低減しつつ、該インジェクション通路の死容積をできるだけ低減して、圧縮機の運転効率の向上を図ることにある。
上記目的を達成するために、本発明に係るスクロール圧縮機(3)は、固定スクロール(22)の鏡板(22a)内部に、インジェクション通路(41)及び該インジェクション通路(41)に連通するシリンダ空間(42)を形成し、該シリンダ空間(42)内に、圧縮室(25)に対して上記インジェクション通路(41)を連通状態または非連通状態に切り換えるようにスライド移動するピストン(44)を配設した。
具体的には、第1の発明は、それぞれの鏡板(22a,23a)に立設された渦巻き状のラップ(22b,23b)が互いに噛合するように圧接される固定スクロール(22)及び可動スクロール(23)を備えたスクロール機構(20)と、該固定スクロール(22)と可動スクロール(23)との間に形成される圧縮室(25)内に冷媒をインジェクションするためのインジェクション経路(40)と、を備えたスクロール圧縮機を対象とする。
そして、上記固定スクロール(22)の鏡板(22a)の内部には、該鏡板(22a)をその厚み方向に貫通して上記インジェクション経路(40)の一部を構成するインジェクション通路(41)と、該インジェクション通路(41)を分断するように該通路(41)に連通するシリンダ空間(42)とが設けられていて、
上記シリンダ空間(42)内には、上記圧縮室(25)に対して該インジェクション通路(41)を連通状態または非連通状態に切り換えるようにスライド移動可能なピストン(44)が配設され、上記シリンダ空間(42)は、上記ピストン(44)によって2つの空間(42a,42b)に区画されていて、該2つの空間(42a,42b)のうちピストン(44)の一方側に位置する第1空間(42a)は、該ピストン(44)の他方側に位置する第2空間(42b)よりも高圧な空間(29)に連通しており、上記ピストン(44)は、上記第1空間(42a)と第2空間(42b)との差圧に応じてスライド移動するように構成され、上記ピストン(44)は、上記第1空間(42a)と第2空間(42b)との差圧が所定値以下の場合に、該第1空間(42a)側に位置付けられて上記インジェクション通路(41)を圧縮室(25)と非連通にする一方、上記差圧が所定値よりも大きい場合には、上記第2空間(42b)側に位置付けられて上記インジェクション通路(41)を圧縮室(25)と連通させるように構成され、上記シリンダ空間(42)内には、上記ピストン(44)を上記第1空間(42a)側へ付勢する付勢手段(45)が設けられ、上記第1空間(42a)は、上記スクロール機構(20)から冷媒が吐出される高圧の空間(29)に連通している一方、上記第2空間(42b)は、上記スクロール機構(20)の収容されるケーシング(10)内の低圧の空間(17)または上記インジェクション経路(40)内の中間圧の空間のいずれ一方に連通し、上記ピストン(44)は、円柱状の複数のピストン部(44a,44b)が該ピストン部(44a,44b)よりも小径の連結部(44c)によって連結されてなり、上記圧縮室(25)に対して上記インジェクション通路(41)を連通させる際には、上記連結部(44c)が上記シリンダ空間(42)内のインジェクション通路(41)との連通部(42c)に位置付けられるように構成されているものとする。
この構成により、インジェクション通路(41)は、固定スクロール(22)の鏡板(22a)の内部に形成されたシリンダ空間(42)内でのピストン(44)のスライド移動によって、圧縮室(25)と連通状態または非連通状態になり、これにより、インジェクションのON/OFFを切り換えることができる。すなわち、上述の構成では、従来のように逆止弁としてリード弁を用いるのではなく、スライド移動可能なピストン式の弁(60)を用いるため、弁を開動作させるためにインジェクション冷媒の圧損が大きくなったり開状態であっても弁によってインジェクション冷媒の流れが阻害されたりするのを防止することができる。
また、上記インジェクション通路(41)及びシリンダ空間(42)を固定スクロール(22)の鏡板(22a)の内部に形成することで、該シリンダ空間(42)内に配設されるピストン(44)により構成される弁(60)と、圧縮室(25)との距離をできるだけ短くすることができ、インジェクション通路(41)内の死容積を低減することができる。
したがって、上述の構成により、弁に起因する損失を低減しつつ、インジェクション通路(41)内の死容積を低減して、圧縮機(3)の運転効率の向上を図ることができる。
このように、上記ピストン(44)によって区画されるシリンダ空間(42)内の第1空間(42a)及び第2空間(42b)を、それぞれ圧力の異なる空間(17,29)に連通させることで、該シリンダ空間(42)内でピストン(44)を挟んで圧力差が生じる。したがって、このシリンダ空間(42)内の圧力差を利用してピストン(44)を該シリンダ空間(42)内でスライド移動させることによって、ガス冷媒の流れを利用してリード弁の開閉を行う従来の構成に比べて弁に起因するインジェクション冷媒の損失を低減することができる。
ここで、上記所定値は、インジェクションのONとOFFとを切り換えるタイミングにおける第1空間(42a)と第2空間(42b)との差圧を意味する。
これにより、上記ピストン(44)は、シリンダ空間(42)内の圧力差によってスライド移動して、インジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを連通状態または非連通状態に切り換える弁(60)として機能する。すなわち、上述の構成によって、上記の構成を実現することができる。
また、こうすることで、第2空間(42b)よりも高い圧力の空間(29)に連通する第1空間(42a)内の圧力が高圧になって、該第2空間(42b)内の圧力と付勢手段(45)による付勢力との和を上回ると、ピストン(44)はスライド移動して、インジェクション通路(41)を圧縮室(25)と連通させる。
すなわち、例えば上記第1空間(42a)とスクロール圧縮機(3)の吐出空間(16,29)とが連通する構成において、該スクロール圧縮機(3)の吐出圧が上記第2空間(42b)内の圧力と上記付勢手段(45)の付勢力との和を上回るような高圧になったとき、つまり圧縮機(3)の回転数、負荷が大きくなったときに、上記ピストン(44)はインジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを連通させるようにスライド移動して、インジェクションをONの状態にすることができる。逆に、上記スクロール圧縮機(3)の吐出圧が上記第2空間(42b)内の圧力と上記付勢手段(45)の付勢力との和を上回るほど高くないとき、つまり圧縮機(3)の回転数、負荷が小さいときには、上記ピストン(44)は、インジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを非連通にするようにスライド移動して、インジェクションをOFFにする。
したがって、上述のように付勢手段(45)を設けて、その付勢力によって予めピストン(44)をシリンダ空間(42)内の一側に付勢することにより、ある一定の差圧を閾値としたインジェクションのON/OFFが可能になる。
このように、シリンダ空間(42)の第1空間(42a)及び第2空間(42b)に、それぞれ、スクロール圧縮機(3)の吐出圧(高圧)や低圧、中間圧を導入することにより、簡単な構成でピストン(44)をスライド移動させることができるとともに、該スクロール圧縮機(33)の運転状況に応じて該ピストン(3)の位置制御を行うことができる。
すなわち、上記スクロール圧縮機(3)の吐出圧が高い場合には、圧縮機(3)の負荷が高く、インジェクションによる運転効率の向上及び能力向上が望まれる一方、上記スクロール圧縮機(3)の吐出圧が低い場合には、圧縮機(3)の負荷が低く、インジェクションは不要であるため、上述のように、吐出圧(中間圧)と低圧との差圧が大きいとき(吐出圧が高いとき)に弁(60)を開状態に、差圧が小さいとき(吐出圧が低いとき)に弁(60)を閉状態にすることで、上記スクロール圧縮機(3)の運転状況に応じてインジェクションのON/OFFを制御することができる。
このように、圧縮室(25)に対してインジェクション通路(41)を連通させる際に、円柱状のピストン部(44a,44b)同士を連結する連結部(44c)を、シリンダ空間(42)内のインジェクション通路(41)との連通部(42c)に位置付けることで、従来のリード弁のようにインジェクション冷媒の流れを大きく阻害することなく、上記インジェクション通路(41)から圧縮室(25)に冷媒を流通させることができる。したがって、上述の構成により、弁に起因するインジェクション冷媒の損失を効果的に低減することができる。
また、上記シリンダ空間(42)のうち上記ピストン(44)の他方側に位置する第2空間(42b)と圧力の異なる2つの空間(14a,15a)とをそれぞれ接続する接続通路(72,73,74)と、上記スクロール機構(20)の負荷に応じて上記第2空間(42b)内の圧力が上記2つの空間(14a,15a)のうちいずれか一方の空間内の圧力と同等になるように、上記接続通路(72,73,74)における該第2空間(42b)と2つの空間(14a,15a)との連通状態を切り換える切換手段(71,75)と、をさらに備えていて、上記ピストン(44)は、上記接続通路(72,73,74)の切り換えによる上記第2空間(42b)の圧力変化に応じて上記インジェクション通路(41)の圧縮室(25)に対する連通状態または非連通状態を切り換えるように、上記シリンダ空間(42)内をスライド移動可能に構成されている。
このように、切換手段(71,75)によってシリンダ空間(42)内の第2空間(42b)に連通する通路を切り換えて、該第2空間(42b)を圧力の異なる2つの空間(14a,15a)のうちいずれか一方に連通させることで、該シリンダ空間(42)内の第1空間(42a)と第2空間(42b)との圧力差を変えることができ、これにより、該シリンダ空間(42)内のピストン(44)の位置を変えることができる。すなわち、上記切換手段(71,75)を制御することで、上記シリンダ空間(42)内の圧力差、すなわちピストン(44)の位置を制御することができ、これにより、インジェクション通路(41)と圧縮室(25)との連通状態または非連通状態の切り換え制御を行うことができる。
したがって、上記構成によって、圧縮機(3)の負荷に応じてインジェクションのON/OFFを精度良く制御することができる。
また、上記構成において、上記切換手段は、上記接続通路(72,73,74)上に設けられた三方弁(71)であってもよいし(第2の発明)、上記2つの空間(14a,15a)のうち圧力の高い空間(15a)と上記第2空間(42b)との連通状態を制御するように設けられた開閉弁(75)であってもよい(第3の発明)。
前者のように三方弁(71)を用いることで、該三方弁(71)の切り換えによってシリンダ空間(42)内の第2空間(42b)に繋がる空間を確実に切り換えることができる。一方、後者のように、開閉弁(75)によって圧力の高い空間(15a)と上記第2空間(42b)との連通状態を制御することで、該開閉弁(75)が開いている場合には第2空間(42b)と高圧空間(15a)とが連通して該第2空間(42b)内を高圧にすることができ、該開閉弁(75)が閉じている場合には第2空間(42b)と高圧空間(15a)とが非連通になって該第2空間(42b)内を低圧にすることができるため、簡単且つ低コストな構成で上記第2空間(42b)内の圧力を切り換えることができる。
上記第1の発明によれば、固定スクロール(22)の鏡板(22a)の内部に、インジェクション通路(41)と該インジェクション通路(41)に連通するシリンダ空間(42)とを設けるとともに、該シリンダ空間(42)内に圧縮室(25)とインジェクション通路(41)とを連通状態または非連通状態にするようにスライド移動可能なピストン(44)を配設したため、該ピストン(44)によって構成される弁(60)がインジェクション冷媒の流れを阻害するのを防止することができ、リード弁を用いる従来構成に比べて損失の低減を図れる。また、上述のような構成にすることで、従来構成のように弁の変形を確保するためにインジェクション通路(41)に逆止弁室を設ける必要もなくなるため、その分、死容積を減らして圧縮機(3)の運転効率の向上を図れる。しかも、固定スクロール(22)の鏡板(22a)の内部にインジェクション通路(41)とピストン(44)の配設されるシリンダ空間(42)とを設けることで、圧縮室(25)と弁(60)との間のインジェクション通路(41)の距離をできるだけ短くして死容積を減らすことができるため、圧縮機(3)のさらなる運転効率の向上を図れる。
また、ピストン(44)によって区画されたシリンダ空間(42)内の第1空間(42a)は、第2空間(42b)よりも高圧の空間(29)に連通していて、上記ピストン(44)は、該第1空間(42a)と第2空間(42b)との差圧に応じてスライド移動するように構成されているため、従来のリード弁の場合と異なり、インジェクション冷媒の流れが弁によって阻害されることなく、損失を低減することができる。具体的には、第1空間(42a)と第2空間(42b)との差圧が所定値以下であれば、ピストン(44)を第1空間(42a)側に位置付けてインジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを非連通にする一方、該第1空間(42a)と第2空間(42b)との差圧が所定値よりも大きければ、ピストン(44)を第2空間(42b)側に位置付けてインジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを連通させることで、シリンダ空間(42)内の圧力差によってピストン(44)の位置制御、すなわちインジェクションのON/OFFを確実に制御することができる。
また、シリンダ空間(42)内には、ピストン(44)を第1空間(42a)側へ付勢する付勢手段(45)が設けられているため、上記シリンダ空間(42)内の圧力差が所定値よりも大きくなった場合にのみピストン(44)をスライド移動させて、インジェクションのON/OFF動作を制御することができる。すなわち、ある一定の差圧を閾値としたインジェクションのON/OFFが可能になる。
また、上記第1空間(42a)内に、上記スクロール機構(20)の吐出圧に、上記第2空間(42b)内は、上記スクロール機構(20)の収容されるケーシング(10)内の低圧または上記インジェクション経路(40)内の圧力(中間圧)に、それぞれ等しくなるため、簡単な構成でスクロール圧縮機(3)の運転状況に応じてシリンダ空間(42)内のピストン(44)の位置を制御し、インジェクションのON/OFFを確実に制御することができる。
上記ピストン(44)は、圧縮室(25)に対してインジェクション通路(41)を連通させる際、円柱状のピストン部(44a,44b)を連結する小径の連結部(44c)を上記シリンダ空間(42)内のインジェクション通路(41)との連通部(42c)に位置付けるように構成されているため、従来のリード弁のように上記ピストン(44)によってインジェクション冷媒の流れが大きく阻害されるのを防止でき、弁に起因する圧損の増大をより確実に防止することができる。
また、第1の発明によれば、上記シリンダ空間(42)の第2空間(42b)と圧力の異なる2つの空間(14a,15a)とをそれぞれ接続する接続通路(72,73,74)上に、上記スクロール機構(20)の負荷に応じて該第2空間(42b)を上記2つの空間(14a,15a)のいずれか一方の圧力と同等になるように接続通路(72,73,74)の連通状態の切り換えを行う切換手段(71,75)を設けるとともに、上記第2空間(42b)の圧力変化に応じてピストン(44)をスライド移動させて、上記インジェクション通路(41)を圧縮室(25)に対し連通状態または非連通状態に切り換えるようにしたため、上記スクロール圧縮機(3)の負荷に応じてインジェクションのON/OFFをより確実に且つ精度良く切り換えることができ、該スクロール圧縮機(3)の運転効率のさらなる向上を図れる。
特に、第2の発明のように、上記切換手段を、上記接続通路(72,73,74)上に設けられた三方弁(71)によって構成することで、上記第2空間(42b)に連通する空間を確実に切り換えて、該第2空間(42b)内の圧力によって上記ピストン(44)の位置を確実に切り換えることができる。また、第3の発明のように、上記切換手段を、上記2つの空間(14a,15a)のうち圧力の高い空間(15a)と上記第2空間(42b)との連通状態を制御することのできる開閉弁(75)によって構成することで、簡単且つ低コストな構成で上記ピストン(44)の位置を制御することが可能となる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
《実施形態1》
−冷媒回路−
図1に、本発明の実施形態1に係る空気調和装置(1)の冷媒回路(2)を示す。この空気調和装置(1)は、冷房運転と暖房運転とに切り換え自在に構成されている。具体的には、上記冷媒回路(2)は、圧縮機(3)と、四路切換弁(4)と、熱源側熱交換器である室外熱交換器(5)と、第1膨張機構である第1膨脹弁(6)と、気液分離器(7)と、第2膨脹機構である第2膨脹弁(8)と、利用側熱交換器である室内熱交換器(9)とが冷媒配管によって順に接続されてなる。
上記圧縮機(3)は、詳しくは後述するように、冷媒を圧縮するための流体機械であり、例えば高圧ドーム型のスクロール式圧縮機によって構成されている。この圧縮機(3)には、吐出管(15)と吸入管(14)とが接続されている。これらの吐出管(15)及び吸入管(14)は、上記四路切換弁(4)に接続されている。
上記四路切換弁(4)は、第1から第4までの4つのポートを有している。この四路切換弁(4)は、第1ポートが室外熱交換器(5)と繋がり、第2ポートが圧縮機(3)の吸入管(14)に繋がり、第3ポートが圧縮機(3)の吐出管(15)に繋がり、第4ポートが室内熱交換器(9)と繋がっている。上記四路切換弁(4)は、第1ポートと第3ポートとを連通させると同時に第2ポートと第4ポートとを連通させる第1状態(図1の実線状態)と、第1ポートと第2ポートとを連通させると同時に第3ポートと第4ポートとを連通させる第2状態(図1の破線状態)とに切り換え可能に構成されている。
上記室外熱交換器(5)は、例えば、フィン・アンド・チューブ型の熱交換器であり、室外に設置され、その内部を流れる冷媒と室外空気とが熱交換を行うように構成されている。上記室内熱交換器(9)は、上記室外熱交換器(5)と同様、例えば、フィン・アンド・チューブ型の熱交換器であり、室内に設置され、その内部を流れる冷媒と室内空気とが熱交換を行うように構成されている。
上記第1膨張弁(6)は、例えば開度調整可能な電動弁であり、該膨張弁(6)は、上記室外熱交換器(5)と上記気液分離器(7)との間に設けられている。上記膨張弁(6)は、例えば冷房運転時には上記室外熱交換器(5)で凝縮された液冷媒を減圧するように構成されている。上記第2膨脹弁(8)も、上記第1膨脹弁(6)と同様、例えば開度調整可能な電動弁であり、該膨張弁(8)は、上記気液分離器(7)と上記室内熱交換器(9)との間に設けられている。上記膨張弁(8)は、例えば暖房運転時には上記室内熱交換器(9)で凝縮された液冷媒を減圧するように構成されている。すなわち、上記気液分離器(7)には、上記膨張弁(6,9)によって減圧された中間圧の冷媒が貯留される。
上記気液分離器(7)は、冷媒を液冷媒とガス冷媒とに或る程度分離するためのものであり、例えば、容器内の底部に液冷媒の流れる液管(7a)が接続される一方、該容器の上部にガス単相や気液2相冷媒の流れる配管(7b)が接続されている。この配管(7b)は、上記圧縮機(3)へインジェクション用の冷媒(インジェクション冷媒)を流すためのインジェクション管を構成していて、詳しくは後述するように、該圧縮機(3)内のインジェクション通路(41)に連通している。すなわち、上記配管(7b)及びインジェクション通路(41)によって、本発明のインジェクション経路(40)が構成される。
−圧縮機の全体構成−
図2は本実施形態に係るスクロール圧縮機(3)の縦断面図である。このスクロール圧縮機(3)は、冷媒が循環して冷凍サイクルの運転動作を行う上記冷媒回路(2)において、冷媒を圧縮する機能を有する。
このスクロール圧縮機(3)は、縦長円筒状に形成された密閉ドーム型のケーシング(10)を有している。このケーシング(10)は、上下方向に延びる軸線を有する円筒状の胴部であるケーシング本体(11)と、その上端部に気密状に溶接されて一体接合され、上方に突出した凸面を有する椀状の上壁部(12)と、ケーシング本体(11)の下端部に気密状に溶接されて一体接合され、下方に突出した凸面を有する椀状の底壁部(13)とから構成された圧力容器であり、その内部は空洞である。
上記ケーシング(10)の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構(スクロール機構)(20)と、この圧縮機構(20)の下方に配置される駆動モータ(30)とが収容されている。この圧縮機構(20)と駆動モータ(30)とは、ケーシング(10)内を上下方向に延びるように配置される駆動軸(31)によって連結されている。
上記圧縮機構(20)は、ケーシング本体(11)に固定されるハウジング(21)と、該ハウジング(21)の上面に密着して配置される固定スクロール(22)と、これら固定スクロール(22)及びハウジング(21)間に配置され、固定スクロール(22)に噛合するように圧接される可動スクロール(23)と、該可動スクロール(23)の自転防止機構であるオルダムリング(28)とを備えている。ハウジング(21)はその外周面において周方向の全体に亘ってケーシング本体(11)に圧入固定されている。つまり、ケーシング本体(11)とハウジング(21)とは全周に亘って気密状に密着されている。そして、本実施形態では、ケーシング(10)内がハウジング(21)の下方の高圧空間(16)とハウジング(21)の上方の低圧空間(17)とに区画されている。
上記ハウジング(21)には、その上面中央を凹陥してなるハウジング凹部(21a)と、下面中央から下方に延びるラジアル軸受部(21b)とが形成されている。そして、ハウジング(21)には、このラジアル軸受部(21b)の下端面とハウジング凹部(21a)の底面との間を貫通するラジアル軸受孔(21c)が設けられていて、このラジアル軸受孔(21c)に上記駆動軸(31)の上端部がラジアル軸受(21d)を介して回転可能に支持されている。
また、上記駆動軸(31)の下端部は、ケーシング(10)の下部に設けられている下部軸受(19)に回転可能に支持されている。
上記ケーシング(10)の上壁部(12)には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(20)に導く吸入管(14)が貫通固定されている。また、ケーシング本体(11)には、ケーシング(10)内の冷媒をケーシング(10)外に吐出させる吐出管(15)が貫通固定されている。上記吸入管(14)は上記低圧空間(17)を上下方向に延び、そのケーシング(10)内方側の端部は圧縮機構(20)の固定スクロール(22)を貫通して、後述する圧縮室(25)に連通しており、この吸入管(14)により圧縮室(25)内に冷媒が吸入されるようになっている。
上記駆動モータ(30)は、ケーシング(10)の内壁面に固定された環状のステータ(32)と、このステータ(32)の内側で回転自在に構成されたロータ(33)とを備えたモータで構成されている。上記ロータ(33)には、上記駆動軸(31)を介して圧縮機構(20)の可動スクロール(23)が連結されている。
上記駆動モータ(30)の下方の下部空間は高圧に保たれており、その下端部に相当する底壁部(13)の内底部は潤滑油が貯留される油溜まり(18)になっている。上記駆動軸(31)の内部には、油溜まり(18)に連通する主給油路(34)が形成されている。この主給油路(34)は後述する可動スクロール(23)の背面の油室(27)に連通している。そして、上記下部空間内のガス圧力により潤滑油の油面を加圧して該潤滑油を高圧にし、この高圧の潤滑油を、後述する第1空間(S1)との差圧と、駆動軸(31)の下端に設けられた給油手段である給油ポンプ(35)の作用とを利用して油室(27)に汲み上げるように構成されている。このようにして汲み上げられた潤滑油は、主給油路(34)を通して後述する圧縮機構(20)の各摺動部分及び油室(27)へ供給される。
上記固定スクロール(22)は、固定側鏡板(22a)と、この固定側鏡板(22a)の下面に立設された渦巻き状(インボリュート状)の固定側ラップ(22b)とで構成されている。上記固定側鏡板(22a)のラップ(22b)側には、吐出孔(22f)が形成されているとともに、後述するように、該固定側鏡板(23a)の内部には、圧縮室(25)と高圧空間(16)とを連通させるガス通路(29)の一部が形成されている。また、この実施形態では、上記固定側鏡板(23a)の背面側で且つ外周側には、その一部が切り欠かれた切欠部(22c)が形成されている。
一方、上記可動スクロール(23)は、可動側鏡板(23a)と、この可動側鏡板(23a)の上面に立設された渦巻き状(インボリュート状)の可動側ラップ(23b)とで構成されている。そして、上記固定側ラップ(22b)と可動側ラップ(23b)とは互いに噛合しており、このことにより固定スクロール(22)と可動スクロール(23)との間において、両ラップ(22b,23b)の接触部間に圧縮室(25)が形成されている。
上記可動スクロール(23)は、上記オルダムリング(28)を介してハウジング(21)に支持され、固定スクロール(22)に対して自転することなく公転する。可動側鏡板(23a)の下面の中心部には有底円筒状のボス部(23c)が突設されている。一方、上記駆動軸(31)の上端には偏心軸部(31a)が設けられ、この偏心軸部(31a)は上記可動スクロール(23)のボス部(23c)に回転可能に嵌入されている。さらに上記駆動軸(31)には、上記ハウジング(21)のラジアル軸受部(21b)の下側に、可動スクロール(23)や偏心軸部(31a)等と動的バランスを取るためのバランス部(31b)が設けられている。このバランス部(31b)により重さのバランスを取りながら駆動軸(31)が回転することで、アンバランスによる振動を発生することなく運転できる。そして、この可動スクロール(23)の公転に伴い、上記圧縮室(25)は、両ラップ(22b,23b)間の容積が拡大することで上記吸入管(14)より冷媒を吸入し、該容積が中心に向かって減少することで冷媒を圧縮するように構成されている。
また、上記圧縮機構(20)には、固定スクロール(22)とハウジング(21)とに亘って、上記圧縮室(25)と高圧空間(16)とを連通するようにガス通路(29)が形成されている。このガス通路(29)により、圧縮室(25)で圧縮された冷媒を高圧空間(16)に流出させるようになっている。
上記可動側鏡板(23a)の背面側(下面側)には、上記可動スクロール(23)のボス部(23c)と上記駆動軸(31)の偏心軸部(31a)との間に、上記油室(27)が区画されており、この油室(27)に上記主給油路(34)からの高圧油が供給されるようになっている。
そして、上記ハウジング(21)におけるハウジング凹部(21a)の外周には、スプリング(図示せず)によって可動側鏡板(23a)の背面(下面)に圧接するシール部材(24)が設けられている。このシール部材(24)によって、ハウジング(21)と固定スクロール(22)との間の空間が、シール部材(24)の外径側に位置する低圧空間(S1)と、その内径側に位置する高圧空間(S2)とに区画されている。
上記高圧空間(S2)には図示しない通路により高圧ガスが導入されて高圧に保たれており、この高圧ガスの圧力と上記油室(27)の高圧油の圧力とにより可動スクロール(23)を固定スクロール(22)に向かって押圧する軸方向の押付力が生じている。このようにして、高圧空間(S2)が可動側鏡板(23a)の背面(下面)に押付力を作用させる。
上記固定スクロール(22)及び可動スクロール(23)の鏡板(22a,23a)同士は外周部分で互いに圧接した状態で摺接可能となっており、これらの摺接面(軸方向圧接面)間でスラスト軸受面が構成されている。なお、上記可動スクロール(23)の可動側鏡板(23a)には、上記主給油路(34)から両スクロールの軸方向圧接面に潤滑油を導入する油導入路(23c)が形成されている。
−インジェクション構造−
次に、上記固定スクロール(22)の固定側鏡板(22a)に形成されたインジェクション通路(41)から上記圧縮室(25)内へ中間圧の冷媒(インジェクション冷媒)をインジェクションするインジェクションの構造について説明する。
具体的には、図3に拡大して示すように、上記固定スクロール(22)の固定側鏡板(22a)内には、その厚み方向に貫通するようにインジェクション通路(41)が形成されているとともに、該インジェクション通路(41)を分断且つ該通路(41)に連通するようにシリンダ空間部(42)が形成されている。このシリンダ空間部(42)は、円柱状の空間であり、上記インジェクション通路(41)に対して略直交方向に延びるように上記固定側鏡板(22a)の内部に形成されている。すなわち、上記シリンダ空間部(42)は、上記固定側鏡板(22a)の外周側が切り欠かれた切欠部(22c)から径方向内方に向かって延びるように形成された穴部(22d)を、栓部材(43)によって塞ぐことにより形成される。また、上記シリンダ空間部(42)の奥側は、上記ガス通路(29)に他端側で連通するように固定側鏡板(22a)に形成された連通孔(22e)の一端側と連通している。
上記栓部材(43)は、円柱状の部材であり、軸線方向に延びる貫通穴(43a)が形成されている。この貫通穴(43a)を設けることによって、上記シリンダ空間部(42)と上記固定側鏡板(22a)の背面側に位置する低圧空間(17)とを連通させることができる。
上記シリンダ空間部(42)内には、その軸線方向に移動可能なように円柱状のピストン(44)が配設されている。このピストン(44)によって、上記シリンダ空間部(42)内は、奥側の第1空間(42a)と、上記栓部材(43)側の第2空間(42b)とに区画される。そして、第1空間(42a)は上記連通孔(22e)を介して上記ガス通路(29)に、第2空間(42b)は上記貫通穴(43a)を介して上記低圧空間(17)に、ぞれぞれ連通している。そのため、上記第1空間(42a)は高圧空間に、上記第2空間(42b)は低圧空間になっている。
上記ピストン(44)は、円柱状の第1ピストン部(44a)と、該第1ピストン部(44a)と同等の径を有し且つ該第1ピストン部(44a)よりも軸方向長さの長い第2ピストン部(44b)とが、第1及び第2ピストン部(44a,44b)よりも小径の連結部(44c)によって連結されたものである。このピストン(44)は、第1ピストン部(44a)が上記シリンダ空間部(42)の奥側に位置付けられ、第2ピストン部(44b)が上記栓部材(43)側に位置付けられるように、上記シリンダ空間部(42)内に配置される。
また、上記ピストン(44)は、第2ピストン部(44b)の栓部材(43)側で、該栓部材(43)に一端側を接続されたバネ部材(45)と連結されている。このバネ部材(45)は、上記ピストン(44)をシリンダ空間部(42)の奥側(第1空間(42a)側)に向かって付勢するように構成されている。
以上の構成により、上記シリンダ空間部(42)の第1空間(42a)内の圧力と第2空間(42b)内の圧力との関係により、該シリンダ空間部(42)内を上記ピストン(44)がスライド移動して、上記インジェクション通路(41)を圧縮室(25)と連通状態または非連通状態にする。すなわち、上記ピストン(44)及びシリンダ空間(42)によって、上記固定側鏡板(22a)内にインジェクション用の逆止弁(60)が構成される。
具体的には、上記シリンダ空間部(42)の第1空間(42a)内の圧力が、上記第2空間(42b)内の圧力と上記バネ部材(45)の付勢力との和以下の場合には、該シリンダ空間部(42)内でピストン(44)は、図3に示すように、第1空間(42a)側に位置付けられる。このとき、上記ピストン(44)の第2ピストン部(44b)が、シリンダ空間部(42)における上記インジェクション通路(41)の開口部(42c)(連通部)に位置付けられて、該開口部(42c)を塞ぐことになるため、該インジェクション通路(41)を介してインジェクション冷媒が圧縮室(25)内に流れ込まないようにすることができる。
一方、上記シリンダ空間部(42)の第1空間(42a)内の圧力が、第2空間(42b)の圧力と上記バネ部材(45)による付勢力との和よりも大きくなると、該シリンダ空間部(42)内のピストン(44)は、図4に示すように、第2空間(42b)側へ移動する。そうすると、上記シリンダ空間部(42)におけるインジェクション通路(41)の開口部(42c)には、上記ピストン(44)の連結部(44c)が位置付けられて、該連結部(44c)の周りの空間を介して上記インジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを連通させる。これにより、上記インジェクション通路(41)からインジェクション冷媒が圧縮室(25)内へ流れ込むため、該圧縮室(25)に対するインジェクションが行われる。
−運転動作−
次に、上記空気調和装置(1)の運転動作について説明する。
まず、室内の冷房運転時には、四路切換弁(4)を図1の実線の状態にする。これにより、圧縮機(3)から吐出した冷媒は、室外熱交換器(5)に流れ、該室外熱交換器(5)おいて外気と熱交換して凝縮する。その後、液冷媒は、第1膨脹弁(6)で減圧され、凝縮圧力と蒸発圧力の中間圧力の中間圧冷媒となって気液分離器(7)に流れ込む。
上記気液分離器(7)では、中間圧のガス冷媒と液冷媒とに或る程度分離され、液冷媒は液管(7a)によって第2膨脹弁(8)へ流れて、該膨脹弁(8)で減圧される一方、ガス冷媒または気液2相冷媒は配管(7b)によって上記圧縮機(3)のインジェクション通路(41)内へ流入する。この圧縮機(3)でのインジェクションの動作については後述する。
上記第2膨脹弁(8)で減圧された液冷媒は、室内熱交換器(9)へ流れて、該室内熱交換器(9)で室内空気と熱交換して蒸発し、室内空気を冷却する。その後、このガス冷媒は、上記四路切換弁(4)を経て圧縮機(3)に戻り、この冷媒循環動作を繰り返す。
一方、暖房運転時には、上記四路切換弁(4)を図1の破線の状態にする。これにより、圧縮機(3)から吐出した冷媒は、室内熱交換器(9)に流れ、該室内熱交換器(9)において室内空気と熱交換し、室内空気を加熱しながら凝縮する。その後、液冷媒は、第2膨脹弁(8)で減圧され、中間圧冷媒となって気液分離器(7)に流れ込む。
上記気液分離器(7)では、上述の冷房運転時と同様、中間圧冷媒をガス冷媒と液冷媒とに或る程度分離して、液管(7a)を介して液冷媒を第1膨脹弁(6)に流して該膨脹弁(6)で減圧させる一方、ガス冷媒または気液2相冷媒は配管(7b)によって上記圧縮機(3)のインジェクション通路(41)へ流す。なお、圧縮機(3)のインジェクションの動作については後述する。
次に、スクロール圧縮機(3)の運転動作について説明する。
駆動モータ(30)を起動すると、ステータ(32)に対してロータ(33)が回転し、それによって駆動軸(31)が回転する。駆動軸(31)が回転すると、圧縮機構(20)の可動スクロール(23)が固定スクロール(22)に対して自転せずに公転のみ行う。このことにより、低圧の冷媒が吸入管(14)を通して圧縮室(25)の周縁側から圧縮室(25)に吸引され、この冷媒が圧縮室(25)の容積変化に伴って圧縮される。そして、圧縮された冷媒は、高圧となって圧縮室(25)から吐出され、ガス通路(29)を通して高圧空間(16)へ流出する。
そして、高圧空間(16)の冷媒は、吐出管(15)に流入してケーシング(10)外に吐出される。ケーシング(10)外に吐出された冷媒は、上記冷媒回路(2)を循環した後、再度吸入管(14)を通って圧縮機(1)に吸入されて圧縮される。
なお、ケーシング(10)における底壁部(13)の油溜まり(18)に貯留された油は、下部空間内のガス圧により加圧されている。この高圧となった油は、低圧空間である第1空間(S1)との差圧と、給油ポンプ(35)との作用により、主給油路(34)を通して軸受の各摺動部分と油室(27)へ供給される。
このとき、第2空間(S2)に導かれた高圧ガスの圧力と油室(27)での高圧油の圧力とにより可動スクロール(23)が固定スクロール(22)に向かって所定の押付力で押圧される。この押付力が圧縮室(25)での冷媒の圧縮により可動スクロール(23)に発生した軸方向の力である可動スクロール(23)と固定スクロール(22)を離反させる力に対抗するものとなる。これによって両スクロール(23,22)は、適正間隔を保ち、運転できる。
上記油室(27)の油の一部は、可動側鏡板(23a)内の油導入路(23c)を介して固定スクロール(22)と可動スクロール(23)の軸方向圧接面に供給される。このことにより、上記軸方向圧接面の潤滑が行われる。
ここで、上記スクロール圧縮機(3)には、上述のようにインジェクション通路(41)及び逆止弁(60)が設けられているため、この逆止弁(60)の開閉動作によって圧縮室(25)内へのインジェクションのON/OFFの切り換えが行われる。
すなわち、上記逆止弁(60)を構成するピストン(44)が配置されるシリンダ空間部(42)のうち、第1空間(42a)は、連通孔(22e)を介して上記ガス通路(29)に連通しているため、該第1空間(42a)内の圧力は、圧縮機(3)の吐出圧にほぼ等しく、また、第2空間(42b)は、栓部材(43)に形成された貫通穴(43a)を介して低圧空間(17)に連通しているため、該第2空間(42b)内の圧力は低圧になっている。
これにより、上記ピストン(44)は、高圧空間と連通した第1空間(42a)内の圧力と、低圧空間(17)と連通した第2空間(42b)との圧力差に応じてスライド移動する。具体的には、上記第1空間(42a)内の圧力、すなわち高圧が、上記第2空間(42b)内の圧力(低圧)と該ピストン(44)に接続されたバネ部材(45)との和以下である場合には、上記図3に示すように、固定スクロール(22)の固定側鏡板(22a)に形成されたインジェクション通路(41)の開口部(42c)を上記ピストン(44)の第2ピストン部(44b)が塞ぐように、該ピストン(44)が位置付けられる。これにより、上記インジェクション通路(41)から圧縮室(25)へのインジェクション冷媒の流入が止められる。
一方、上記第1空間(42a)内の圧力(高圧)が、上記第2空間(42b)内の圧力(低圧)と上記バネ部材(45)の付勢力との和よりも大きい場合には、上記図4に示すように、上記インジェクション通路(41)のシリンダ空間部(42)の開口部(42c)に、上記ピストン(44)の連結部(44c)が位置付けられて、該インジェクション通路(41)から圧縮室(25)へのインジェクション冷媒の流入を許容する。
−実施形態1の効果−
以上より、この実施形態によれば、固定スクロール(22)の固定側鏡板(22a)の内部に、インジェクション通路(41)と逆止弁(60)とを設けるようにしたので、圧縮室(25)と逆止弁(60)との間のインジェクション通路(41)の距離を短くすることができ、死容積を減らすことができる。
そして、上記逆止弁(60)を、シリンダ空間部(42)内の圧力差によってスライド移動するピストン(44)によって構成することで、インジェクション冷媒の流れとは別に、弁体であるピストン(44)を動作させることができるため、従来のリード弁を用いた構成のようにインジェクション冷媒の流れが弁によって阻害されるのを防止することができ、逆止弁による圧損の増大を防止することができる。しかも、上述のようにスライド式の弁にすることで、リード弁のように弁の変形スペース(逆止弁室)をインジェクション通路(41)上に設ける必要がなくなるため、その分、死容積を減らすことができ、圧縮機(3)の運転効率をより向上させることができる。
また、上記シリンダ空間部(42)の第1空間部(42a)及び第2空間部(42b)に、圧縮機(3)の高圧空間(29)及び低圧空間(17)をそれぞれ連通させ、その圧力差によって該シリンダ空間部(42)内のピストン(44)をスライド移動させるようにしたため、簡単な構成により圧縮機(3)の負荷に応じて動作する逆止弁(60)を構成することができる。ここで、圧縮機(3)内の高圧空間の圧力が低い場合には、該圧縮機(3)の負荷があまり高くなく、インジェクションが不要である一方、圧縮機(3)内の高圧空間の圧力が高い場合には、該圧縮機(3)の負荷が高く、インジェクションが必要である。これに合わせて、上記第1空間(42a)内の圧力が高い場合にはインジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを連通させる一方、該第1空間(42a)内の圧力が低い場合にはインジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを非連通にするように、上記ピストン(44)をシリンダ空間部(42)内に配設することで、圧縮機(3)の運転条件で必要な場合にのみインジェクションを行うことができ、該圧縮機(3)の運転効率を確実に向上させることができる。
また、上記ピストン(44)は、予め第1空間(42a)側に位置付けられるように、バネ部材(45)によって付勢されているため、該第1空間(42a)内の圧力が、第2空間(42b)内の圧力とバネ部材(45)の付勢力との和よりも大きくなった場合にのみ、上記ピストン(44)は、第2空間(42b)側へ移動することになる。これにより、ある一定の差圧を閾値としたインジェクションのON/OFFが可能となる。
さらに、上記ピストン(44)は、第1シリンダ部(44a)と第2シリンダ部(44b)とが連結部(44c)によって連結された構成を有し、該第2シリンダ部(44b)で上記インジェクション通路(41)の開口部(42c)を塞ぐ一方、該インジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを連通させる場合には、上記連結部(44c)を該インジェクション通路(41)の開口部(42c)に位置付けてインジェクション冷媒の流れを極力、阻害しないようにしたため、上記ピストン(44)によってインジェクション通路(41)と圧縮室(25)とを確実に連通状態または非連通状態にすることができる。よって、従来のリード弁のように、弁によってインジェクション冷媒の損失が増大するのを防止することができる。
−実施形態1の変形例−
この変形例は、図5に示すように、シリンダ空間部(42)の第2空間(42b)に、気液分離器(7)の配管(7b)から分岐した分岐管(7c)が接続されていて、該第2空間(42b)内が中間圧になっている点で上記実施形態1とは異なる。以下、上記実施形態1と同一の部分には同一の符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
すなわち、図5に示すように、固定側鏡板(22a')の外周部には、上記実施形態のような切欠部(22c)が形成されておらず、シリンダ空間部(42)を構成する穴部(22d')が該固定側鏡板(22a')の外周面から径方向内方に延びるように形成されている。そして、この変形例では、上記穴部(22d')の入口を塞ぐ栓部材(61)がケーシング(10)の外方まで突出していて、その突出端側に上記配管(7b)から分岐した分岐管(7c)が接続されている。
上記栓部材(61)には、上記実施形態と同様、軸方向に貫通する貫通穴(61a)が形成されていて、この貫通穴(61a)を介して上記分岐管(7c)の内部空間と上記シリンダ空間部(42)の第2空間(42b)とが連通している。これにより、該第2空間(42b)内の圧力は、上記分岐管(7c)内の圧力(中間圧)と等しくなる。
また、上記栓部材(61)のケーシング(10)内側の端部には、ピストン(44)に他端側で接続されたバネ部材(45)の一端側が接続されている。なお、このバネ部材(45)は、上記実施形態と同様、上記第2空間(42b)内の圧力があまり高くない状態では、図5に示すように、上記ピストン(44)を第1空間(42a)側に位置付けるように構成されている。
このように、上記シリンダ空間部(42)の第2空間(42b)を中間圧の空間と連通させることで、該シリンダ空間部(42)内のピストン(44)を第1空間(42a)内の圧力(高圧)と第2空間(42b)内の圧力(中間圧)との差によってスライド移動させることができ、上記実施形態と同様、スライド式の逆止弁(60)として機能させることができる。
《実施形態2》
次に、本発明の実施形態2について図6に基づいて説明する。なお、本実施形態は、図6に示すように、シリンダ空間部(42)の第2空間(42b)に対し、低圧空間(14a)または高圧空間(15a)のいずれか一方のみを連通させるように、配管(72,73,74)及び三方弁(71)を設けた点が上記実施形態1と異なるだけなので、同一の部分には同一の符号を付し、異なる部分について以下で説明する。
すなわち、この実施形態2では、上記実施形態1の変形例と同様、ケーシング(10)の外部から固定側鏡板(22')内のシリンダ空間部(42)の第2空間(42b)に圧力配管を接続できるように、栓部材(61)の一方側をケーシング(10)外方に突出させた構成としている。
また、この実施形態では、上記圧縮機(3)は、2つの流路を切り換えるための三方弁(71)を備えている。この三方弁(71)は、第1から第3までの3つのポートを有している。上記三方弁(7)は、第1ポートが圧縮機(3)の吐出管(15)内の空間(15a)(高圧空間)に連通する高圧側配管(72)と繋がり、第2ポートが上記栓部材(61)を軸方向に貫通する貫通穴(61a)に連通する圧力配管(73)と繋がり、第3ポートが圧縮機(3)の吸入管(14)内の空間(14a)(低圧空間)に連通する低圧側配管(74)と繋がっている。
そして、上記三方弁(71)は、第1ポートと第2ポートとを連通させて、上記高圧側配管(72)と圧力配管(73)とを連通させる第1状態(図6の実線状態)と、第2ポートと第3ポートとを連通させて、上記低圧側配管(74)と圧力配管(73)とを連通させる第2状態(図6の破線状態)とに切換可能に構成されている。
また、上記三方弁(71)は、図示しない制御装置によって圧縮機(3)の運転状況に応じて動作制御されるように構成されている。すなわち、上記圧縮機(3)の回転数が高く負荷の高い場合には、上記三方弁(71)は図6の破線状態に切り換えられて、圧力配管(73)を低圧側配管(74)と連通させ、該圧力配管(73)に連通しているシリンダ空間部(42)の第2空間(42b)内の圧力を吸入管(14)内の空間(14a)と同等の圧力(低圧)にする。一方、上記圧縮機(3)の回転数が低く負荷の低い場合には、上記三方弁(71)は図6の実線状態に切り換えられて、圧力配管(73)を高圧側配管(74)と連通させ、該圧力配管(73)に連通しているシリンダ空間部(42)の第2空間(42b)内の圧力を吐出管(15)内の空間(15a)と同等の圧力(高圧)にする。
このように、上記第2空間(42b)内を低圧にすることで、高圧空間であるガス通路(29)と連通している第1空間(42a)内の圧力が、上記第2空間(42b)内の圧力とバネ部材(45)の付勢力との和を上回ると、該シリンダ空間部(42)内のピストン(44)を第2空間(42b)側へ移動させる。これにより、上記ピストン(44)の連結部(44c)をインジェクション通路(41)の開口部(42c)付近に位置付けて、該インジェクション通路(41)から圧縮室(25)へのインジェクション冷媒の流入を許容する。
一方、上記第2空間(42b)内を高圧にすることで、上記第1空間(42a)内の圧力が、上記第2空間(42b)内の圧力と上記バネ部材(45)の付勢力との和以下であれば、上記ピストン(44)を第1空間(42a)側に位置付けて、該ピストン(44)の第2ピストン部(44b)で上記インジェクション通路(41)の開口部(42c)を覆う。これにより、該インジェクション通路(41)から圧縮室(25)へのインジェクション冷媒の流入を止めることができる。
ここで、上記高圧側配管(72)と低圧側配管(72)と圧力配管(73)とによって本発明の接続通路が構成される。
−実施形態2の効果−
以上より、この実施形態によれば、シリンダ空間部(42)の第2空間(42b)に対して、低圧または高圧のいずれか一方の空間(14a,15a)を連通させるように配管(72,73,74)を設け、該配管同士の連通状態を三方弁(71)によって切り換えるようにしたため、上記第2空間(42b)内を低圧または高圧に切り換えることができ、これにより、上記シリンダ空間部(42)内のピストン(44)の位置を確実に切り換えることができる。したがって、上述の構成により、圧力によって確実且つ精度良く動作する逆止弁(60)を構成することができる。
そして、上記三方弁(71)の切り換えを、圧縮機(3)の回転数や負荷によって行うことで、該圧縮機(3)に対して、必要な場合にのみインジェクションを行えるようになる。すなわち、上記圧縮機(3)の負荷が大きく、インジェクションが必要な場合は、上記第2空間(42b)が低圧の空間(14a)と連通するように上記三方弁(71)を切り換えることで、上記シリンダ空間部(42)内でピストン(44)をインジェクション通路(41)に対して開状態にできる一方、上記圧縮機(3)の負荷が小さく、インジェクションが不要な場合は、上記第2空間(42b)が高圧の空間(15a)と連通するように上記三方弁(71)を切り換えることで、上記シリンダ空間部(42)内でピストン(44)をインジェクション通路(41)に対して閉状態にすることができる。
−実施形態2の変形例−
この変形例は、図7に示すように、三方弁の代わりに、電磁弁(75)及びキャピラリ(76)を用いた点が上記実施形態とは異なる。以下、同一の部分には同一の符号を付し、異なる部分についてのみ以下で説明する。
具体的には、この変形例では、吐出管(15)に連通する高圧側配管(72)、シリンダ空間部(42)を形成する栓部材(61)の貫通穴(61a)に連通する圧力配管(73)、及び吸入管(14)に連通する低圧側配管(74)が互いに接続されているとともに、上記高圧側配管(72)には電磁弁(75)(開閉弁)が、上記低圧側配管(74)にはキャピラリ(76)が設けられている。
そして、上記圧縮機(3)は、上記高圧側配管(72)に設けられた電磁弁(75)を開閉制御することにより、上記圧力配管(73)内の圧力を高圧または低圧にするように構成されている。具体的には、上記電磁弁(75)を開状態にすると、上記高圧側配管(72)と圧力配管(73)とが連通状態になって、該圧力配管(73)に連通しているシリンダ空間部(42)の第2空間(42b)が高圧になる一方、上記電磁弁(75)を閉状態にすると、上記高圧側配管(72)は圧力配管(73)と非連通状態になって、該圧力配管(73)内の圧力は、上記低圧側配管(74)の圧力と同じ、すなわち低圧になる。
これにより、上記実施形態2と同様、上記シリンダ空間部(42)の第2空間(42b)内の圧力を2段階に切り換えることができ、第1空間(42a)との圧力差によって該シリンダ空間部(42)内でピストン(44)の位置の切り換えが可能になる。ここで、上記電磁弁(75)の開閉動作は、上記実施形態2の三方弁の場合と同様、圧縮機(3)の回転数または負荷に応じてピストン(44)の位置を切り換えてインジェクションのON/OFFを切り換えるように制御される。
したがって、この変形例の構成でも、上記実施形態2と同様、圧縮機(3)に対してインジェクションが必要な場合にのみ確実にインジェクションを行うことができる。
なお、上記キャピラリ(76)を低圧側配管(74)に設けることで、上記電磁弁(75)を開状態にした場合に、高圧側配管(72)から低圧側配管(74)に高圧の冷媒が流れ込むのを極力、防止することができる。
《その他の実施形態》
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
例えば、上記実施形態1では、低圧空間(17)とシリンダ空間部(42)の第2空間(42b)とを栓部材(43)の貫通穴(43a)を介して連通させるようにしているが、この限りではなく、上記実施形態2のように、上記第2空間(42b)を吸入管(14)内の低圧空間(14a)と連通させるようにしてもよい。
また、上記各実施形態では、シリンダ空間部(42)の第1空間(42a)を高圧空間であるガス通路(29)に連通させているが、この限りではなく、例えば、中圧空間や低圧空間に連通させてもよい。また、上記実施形態1では、上記シリンダ空間部(42)の第2空間(42b)を低圧空間(17)や分岐管(7c)内の中圧空間に連通させて、上記実施形態2では、高圧空間(15a)または低圧空間(14a)のいずれか一方の空間と連通させるようにしているが、これらの限りではなく、例えば、上記実施形態1で第2空間(42b)を高圧空間に連通させたり、上記実施形態2で高圧空間または中圧空間のいずれか一方や、中圧空間または低圧空間のいずれか一方にそれぞれ切り換えて連通させたりしてもよい。すなわち、上記シリンダ空間部(42)内で、第1空間(4a)と第2空間(42b)との差圧によってピストン(44)の位置を切り換えられるような構成であれば、どのような構成であってもよい。
また、上記各実施形態では、ケーシング(10)内に上から圧縮機構(20)、駆動モータ(30)の順で配置しているが、この限りではなく、上から駆動モータ(30)、圧縮機構(20)の順に配置された構造であってもよい。さらに、上記各実施形態では、上記ケーシング(10)内をハウジング(21)によって低圧空間(17)と高圧空間(16)とに区画しているが、この限りではなく、ケーシング(10)内全体が高圧空間若しくは低圧空間であってもよい。なお、この場合でも、上記シリンダ空間部(42)の第1空間(42a)と第2空間(42b)との間で差圧が生じるように、該空間(42a,42b)に異なる圧力の空間を連通させればよい。
また、上記各実施形態では、ピストン(44)を、2つのピストン部(44a,44b)と、それらのピストン部(44a,44b)を連結する連結部(44c)とによって構成しているが、この限りではなく、単に円柱状に形成してもよい。この場合には、ピストンがシリンダ空間部(42)におけるインジェクション通路(41)の開口部(42c)に位置している場合が、閉状態となる一方、該ピストンが開口部(42c)に位置していない場合が開状態になる。
また、上記各実施形態では、気液分離器(7)によって分離されたガス単相もしくは気液二相の冷媒を圧縮機構(20)内でインジェクションする構成に対してピストン式の弁を適用しているが、この限りではなく、液冷媒を用いた液インジェクションの構成に対しても上記各実施形態のようなピストン式の弁を適用してもよい。