JP5256249B2 - 撓み噛合い式歯車装置 - Google Patents

撓み噛合い式歯車装置

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Description

本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
特許文献1の撓み噛合い式歯車装置は、剛性を有した内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合可能な可撓性を有した外歯歯車と、自身の外周で該外歯歯車を撓み変形させることによって前記内歯歯車と外歯歯車との内接噛合を実現させる起振体と、を備えている。そして、特許文献1では、外歯歯車を撓み変形させる起振体の外周の形状が異なる2つの曲率半径の円弧を繋ぎ合せた形状とされている。更に、その起振体では2つの円弧の繋ぎ部分で接線が共通とされている。このため、特許文献1では、外歯歯車の曲率半径の変化を最小限にでき、外歯歯車の撓み応力の増大が防止され、伝達トルクの向上を図ることが可能となっている。
特開2009−299765号公報
特許文献1では、起振体における2つの円弧の繋ぎ部分を、外歯歯車の歯形形状と短軸部(内歯歯車と外歯歯車とが噛合しない円弧部)における外歯歯車の応力に着目して決定している。ここで、短軸部は内歯歯車と外歯歯車との噛合する範囲を規定する噛合い角度θと起振体(外歯歯車)の偏心量Lによって決まる。しかし、例えば角度θが小さく偏心量Lが小さいときには、特許文献1では、短軸部で内歯歯車と外歯歯車との歯形の干渉が生じるおそれもでてくる。即ち、角度θと偏心量Lの2つのパラメータだけでは、外歯歯車の歯形形状と短軸部における外歯歯車の応力と内歯歯車と外歯歯車との歯形の干渉という3つの課題に対して、最適値を見出すのは困難であった。
また、幾何学的には歯形の干渉がない状態であっても、負荷トルクによっては外歯歯車の変形により、(短軸部における)想定外の位置で歯形の干渉が生じる可能性がある。このため、短軸部ではできるだけ内歯歯車と外歯歯車との隙間が大きくなるように、内歯歯車と外歯歯車との非噛合い範囲を確保することが好ましい。
なお、上歯形の干渉を回避するために、内歯歯車の歯先をカットしておくことも考えられる。しかし、その場合には、内歯歯車と外歯歯車との噛合い数が減少してしまうという問題が生じる。
そこで、本発明は、前記の問題点を解決するべくなされたもので、外歯歯車の変形による撓み応力を極力抑え、外歯歯車の変形による内歯歯車と外歯歯車との歯形の干渉を回避して負荷トルクの増大が可能な撓み噛合い式歯車装置を提供することを課題とする。
本発明は、剛性を有した内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合可能な可撓性を有した外歯歯車と、自身の外周で該外歯歯車を撓み変形させることによって前記内歯歯車と外歯歯車との内接噛合を実現させる起振体と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、前記起振体の前記外周の形状が、前記内歯歯車と外歯歯車とを噛合い状態とするとともに円弧形状とされた第1曲線部と、該第1曲線部よりも小さい曲率半径の第2曲線部と、該第1曲線部よりも大きい曲率半径であって該内歯歯車と外歯歯車とを非噛合い状態とする第3曲線部と、を順に繋ぎ合わせた形状であると共に、該第1曲線部、第2曲線部、及び第3曲線部の繋ぎ部分において該第1曲線部、第2曲線部、及び第3曲線部の接線がそれぞれ共通とされていることにより、前記課題を解決したものである。
本発明では、3つの曲線部で起振体を構成することで、短軸部を定めるパラメータの数を増加させ、歯形の干渉を回避したものである。本発明においては、具体的に起振体の外周の形状が、円弧形状とされた第1曲線部と、第2曲線部と、第3曲線部と、を順に繋ぎ合わせた形状とされている。即ち、内歯歯車と外歯歯車とを噛合い状態とする第1曲線部よりも小さい曲率半径の第2曲線部が、第1曲線部と第1曲線部よりも大きい曲率半径の第3曲線部との間に配置されている。このため、内歯歯車と外歯歯車とを、単に第3曲線部を直接的に第1曲線部に繋ぎ合せるよりも、噛合い状態から短い(回転)距離で非噛み合い状態とすることができる。このとき、第2曲線部の曲率半径を任意に定めることができる。即ち、従来技術に比べて、歯形の干渉をより確実に回避することが可能である。
同時に、本発明では、各曲線部の曲率半径が各曲線部内で制限されているので、各曲線部における外歯歯車の撓み応力が低減されている。そして、第1曲線部、第2曲線部、及び第3曲線部の繋ぎ部分において第1曲線部、第2曲線部、及び第3曲線部の接線がそれぞれ共通であるので、起振体の繋ぎ部分での急激な撓み変形が防止されている。即ち、外歯歯車の変形による撓み応力を極力抑えることができ、伝達トルクを向上させることができる。
なお、第2曲線部が一定の曲率半径で規定されていれば、起振体の形状を規定するパラメータを簡素化できる。このため、撓み噛合い式歯車装置の効率的な設計が可能である。
本発明によれば、外歯歯車の変形による撓み応力を極力抑え、外歯歯車の変形による内歯歯車と外歯歯車との歯形の干渉を回避して負荷トルクの増大が可能となる。
本発明の第1実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置の全体構成の一例を示す分解斜視図 同じく全体構成の一例を示す断面図 同じく起振体を表す図 同じく起振体の形状を説明するための模式図 同じく起振体と起振体軸受を組み合わせた概略図 同じく仮想外歯歯車と内歯歯車との噛合い概念図 本発明の第2実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置の全体構成の一例を示す分解斜視図
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態の一例を詳細に説明する。
最初に、本実施形態の全体構成について、主に図1〜図4を用いて概略的に説明する。
撓み噛合い式歯車装置100は、剛性を有した減速用内歯歯車(内歯歯車)130Aと、減速用内歯歯車130Aに内接噛合可能な可撓性を有した外歯歯車120Aと、自身の外周で外歯歯車120Aを撓み変形させることによって減速用内歯歯車130Aと外歯歯車120Aとの内接噛合を実現させる起振体104と、を備えている。ここで、図4に示す如く、起振体104の外周の形状(軸方向Oと直交する断面における外周の形状)は、異なる3つの曲率半径r1、r2、r3の円弧部(第1円弧部FA、第2円弧部SA、第3円弧部TA)を順に繋ぎ合わせた形状である。そして、各円弧部(第1円弧部FA、第2円弧部SA、第3円弧部TA)の繋ぎ部分C、Eにおける接線T1、T2がそれぞれ共通とされている。
以下、各構成要素について詳細に説明を行う。
起振体104は、図3(A)、(B)に示す如く、柱形状であり、中央に図示しない入力軸が挿入される入力軸孔106が形成されている。入力軸が挿入され回転した際に、起振体104が入力軸と一体で回転するように、入力軸孔106にはキー溝108が設けられている。
ここで、図3(A)に示す如く起振体104の回転中心をXY座標の中心に位置させると、起振体104の外形は、X軸とY軸の両方において軸対称の形状となる。そのため、起振体104の第1象限の形状についてのみを図4を用いて以下に説明する。
起振体104の外周の形状は、図4に示す如く、3つの円弧部(第1円弧部FA、第2円弧部SA、第3円弧部TA)を繋ぎ合わせた形状(3円弧形状)で構成される。第1円弧部FA(第1曲線部)は、点A(偏心軸と称する)を中心とする曲率半径r1の円弧であり、外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとを噛合い状態とする円弧部(噛合い範囲とも称する)を構成している。第2円弧部SA(第2曲線部)は、点Aから距離ΔR離れた点Dを中心とする曲率半径r2の円弧であり、外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとを非噛合い状態とする円弧部(非噛合い範囲とも称する)の一部を構成している。距離ΔRは、最終的には非噛合い範囲(短軸部)における外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとの隙間を決定するための変数とされている。第3円弧部TA(第3曲線部)は、点Fを中心とする曲率半径r3の円弧であり、外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとを非噛合い状態とする円弧部(非噛合い範囲の残りの範囲)を構成している。第1円弧部FAの長さは、長軸方向Xと点Cでの接線法線とのなす角度である噛合い角度θ1で定められる。第2円弧部SAの長さは、長軸方向Xと点Eでの接線法線とのなす角度θ2から、噛合い角度θ1を引いた角度で定められる(θ2>θ1)。このため、点A、D、Fの各座標は、偏心量をLとして、図4上でそれぞれ、(L,0)、(L+ΔR*cosθ1,ΔR*sinθ1)、(0,−(L+ΔR*cosθ1)*tanθ2+ΔR*sinθ1)となる。
即ち、長軸方向Xで、起振体104の回転中心から(噛合い範囲における)起振体104の外周上の点Bまでの距離r(起振体104の長軸半径)を用いると、図4に示す如く、第1円弧部FAの曲率半径r1は式(1)で表わされる。
r1=r−L …(1)
又、図4に示す如く、第2円弧部SAの曲率半径r2は式(2)で表わされる。
r2=r1−ΔR=r−L−ΔR …(2)
なお、第1円弧部FAと第2円弧部SAとの繋ぎ部分Cで接線T1は共通とされている。
また、図4に示す如く、第2円弧部SAと第3円弧部TAとの繋ぎ部分Eでも接線T2が共通とされている。そして、第3円弧部TAの曲率半径r3は(曲率半径r2+長さDF)であるから、曲率半径r3は式(3)で表される。
r3=r−L−ΔR+(L+ΔR*cosθ1)/cosθ2 …(3)
ここで、角度θ1よりも角度θ2が大きいので、式(4)が成り立つ。
r2<r1<r3 …(4)
起振体軸受110Aは、図2に示す如く、起振体104の外側と外歯歯車120Aの内側との間に配置される軸受である。図2、図5に示す如く、起振体軸受110Aは、内輪112と、保持器114A、転動体としてのころ116Aと、外輪118Aと、から構成される。内輪112の内側は起振体104と当接して、内輪112は起振体104と一体で変形しながら回転する。ころ116Aは、円筒形状(ニードルを含む)である。このため、転動体が球である場合に比べて、ころ116Aでは内輪112及び外輪118Aと接触する部分が増大しているので、負荷容量を大きくすることができる。つまり、ころ116Aを用いることにより、起振体軸受110Aの伝達トルクを増大させ、かつ長寿命化させることができる。外輪118Aは、ころ116Aの外側に配置される。外輪118Aは、起振体104の回転により撓み変形し、その外側に配置される外歯歯車120Aを変形させる。
なお、図2に示す如く、起振体軸受110Bは、起振体軸受110Aと同様に、内輪112と、保持器114Bと、ころ116Bと、外輪118Bとから構成される。内輪112は、起振体軸受110A、110Bに共通である。そして、保持器114B、ころ116B、及び外輪118Bは、保持器114A、ころ116A、及び外輪118Aとはそれぞれ軸方向Oに2つ配置され、それぞれ同一形状とされている。以降、起振体軸受110A、110Bをまとめて起振体軸受110と称する。
外歯歯車120Aは、図1、図2に示す如く、減速用内歯歯車130Aと内接噛合する。外歯歯車120Aは、基部材122と、外歯124Aとから構成される。基部材122は、可撓性を有した筒状部材であり、起振体軸受110Aの外側に配置されて、外歯124Aと一体に成形されている。外歯124Aは、トロコイド曲線に基づいて成形されている。
外歯歯車120Bは、図1、図2に示す如く、出力用内歯歯車130Bと内接噛合する。そして、外歯歯車120Bは、外歯歯車120Aと同様に、基部材122と、外歯124Bとから構成される。外歯124Bは、外歯124Aと同数で、且つ同一形状に成形されている。ここで、図1に示す如く外歯124Aと外歯124Bとは軸方向Oに分割された形態であるが、基部材122が共通である。このため、起振体104の偏心量Lは、同位相で外歯124Aと外歯124Bに伝えられる。以降、外歯歯車120A、120B、及び外歯124A、124Bをそれぞれまとめて、外歯歯車120、及び外歯124と称する。
減速用内歯歯車130Aは、剛性を有した部材で形成されている。減速用内歯歯車130Aは、外歯歯車120Aの外歯124Aの歯数よりもi(i=2、4、・・・)枚だけ多い歯数を備える。減速用内歯歯車130Aには、図示しないケーシングがボルト孔132Aを介して固定される。そして、減速用内歯歯車130Aは、外歯歯車120Aと噛合することによって、起振体104の回転の減速に寄与する。減速用内歯歯車130Aの内歯128Aは、トロコイド曲線に基づいた外歯124Aに理論噛合するように成形されている。
一方、出力用内歯歯車130Bも、減速用内歯歯車130Aと同様に、剛性を有した部材で形成されている。出力用内歯歯車130Bは、外歯歯車120Bの外歯124Bの歯数と同一の内歯128Bの歯数を備える(等速伝達)。なお、出力用内歯歯車130Bには、図示しない出力軸がボルト孔132Bを介して取り付けられて、外歯歯車120Bの自転と同一の回転が外部に出力される。以降、減速用内歯歯車130A、出力用内歯歯車130B、及び内歯128A、128Bをそれぞれまとめて、内歯歯車130、及び内歯128と称する。
次に、起振体104と外歯歯車120と内歯歯車130との関係について以下に説明する。
起振体104の外周の形状は、上述の如く、式(1)〜式(3)で規定される。ここで、内歯歯車130の内歯128を円筒形状のピンと仮想した場合、起振体104の回転中心から噛合い範囲における内歯128(ピン)の中心の位置までの距離Rを、内歯歯車130の歯形の実体の半径と考える。外歯歯車120の形状は、式(1)〜式(3)からそれぞれ、式(5)〜式(7)で求められる曲率半径R1〜R3で規定することができる。
R1=R−L …(5)
R2=R−L−ΔR …(6)
R3=R−L−ΔR+(L+ΔR*cosθ1)/cosθ2 …(7)
ここで、外歯歯車120の撓み変形前の半径をRdとしたとき、外歯歯車120の周長2πRdに対して、距離ΔR、角度θ1、θ2、半径R、偏心量Lそれぞれの関係は式(8)のように示すことができる。
式(8)は、半径Rに対して式(9)の如く変形できる。
ここで、偏心軸Aと起振体104の回転中心とを通る直線と、外歯歯車120(の外歯124)と内歯歯車130(の内歯128)との噛合いで生じる接触点の共通法線との交点を、外歯歯車120と内歯歯車130とによるピッチ点とする。また、外歯歯車120を規定する半径R1の円形の(内歯歯車130と内接噛合する剛性を有した)仮想的な外歯歯車(仮想外歯歯車と称する)120Cにおいて、減速比(仮想減速比と称する)nを設定する。そこで、式(10)の如く、半径Rと、起振体104の回転中心から外歯歯車120と減速用内歯歯車130とによるピッチ点までの距離(n+1)*Lとの比を、パラメータGs(ピッチ係数と称する)で表す。ピッチ係数Gsを導入することにより、外歯歯車120と内歯歯車130のそれぞれの歯形の実体の位置とピッチ点との相対的な位置関係を容易に把握でき、且つそれらのパラメータ同士の調整を容易に行うことができる。なお、ピッチ係数Gsや仮想減速比nは、外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130A、外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130B、それぞれの組み合わせで値が異なってくる。
式(9)と式(10)とから、偏心量Lについての式(11)を求めることができる。
ここで、特願2009−169392号(未公知)にて提案された内容に基づき、ピッチ係数Gsを適切に選択することで、外歯歯車120と内歯歯車130との同時噛合い数を増大させ、耐ラチェッテイング性を向上させることが可能となる。
即ち、外歯歯車120の周長の関係を用いることで、外歯歯車120と内歯歯車130との同時噛合い数を増大させつつ、距離ΔR、角度θ1、θ2、半径R、偏心量Lを一義的に定めることができる。
なお、本実施形態では、外歯歯車120Aの外歯124Aの歯数(100)に対して減速用内歯歯車130Aの内歯128Aの歯数(102)は2歯多い。即ち歯数差i=2としている。そこで、減速用内歯歯車130Aの歯数(102)よりも、例えば4歯少ない(j=4、j>i)仮想外歯歯車120Cを想定している。このため、角度θ1で規定される第1円弧部FAによって撓み変形される外歯歯車120の歯形は、図6に示す仮想外歯歯車120Cの歯形と等しくなるように設定されることとなる。
次に、撓み噛合い式歯車装置100の動作について、主に図2を用いて説明する。
図示しない入力軸の回転により、起振体104が回転すると、その回転状態に応じて、起振体軸受110Aを介して、外歯歯車120Aが撓み変形する。なお、このとき、外歯歯車120Bも、起振体軸受110Bを介して、外歯歯車120Aと同位相で撓み変形する。
外歯歯車120の撓み変形は、起振体104の外周の形状である曲率半径r1、r2、r3に応じてなされる。図3、図4に示す起振体104の第1円弧部FA、第2円弧部SA、第3円弧部TAではそれぞれ曲率が一定であるので、各円弧部での外歯歯車120の撓み応力は一定となる。第1円弧部FAと第2円弧部SAの繋ぎ部分C、第2円弧部SAと第3円弧部TAの繋ぎ部分Eにおける位置ではそれぞれ、接線T1、T2が同一なので、繋ぎ部分での急激な撓み変形が防止されている。同時に、起振体104の回転中心からころ116A、116B(ころ116と称する)までの距離の変化率は最小限とされている。即ち、繋ぎ部分C、Eにおいて、ころ116の急激な軌道変動はないので、ころ116の滑りが少なく、トルクの伝達ロスが少ない。
外歯歯車120が起振体104で撓み変形されることにより、第1円弧部FA(噛合い範囲)の部分で、外歯124が半径方向外側に移動して、内歯歯車130の内歯128に噛合する。外歯124はトロコイド曲線に基づく形状で、内歯128の歯形は外歯124に対して理論噛合する形状とされている。このため、外歯124と内歯128との噛合により、同時噛合い数が増大していることと相俟って、負荷トルクが大きくても耐ラチェッテイング性が高く、ロスを少なくして高いトルク伝達効率を実現することができる。
噛合に際して、外歯124Aには、外歯124Bと異なる荷重(方向と大きさ)が加わる。しかし、起振体軸受110A、110Bは、内輪112を除いて、軸方向Oで、減速用内歯歯車130Aと噛合する外歯124Aに対する部分と、出力用内歯歯車130Bと噛合する外歯124Bに対する部分とに分離されている。このため、減速用内歯歯車130Aと外歯124Aとの噛合を原因とするころ116Bのスキュー、及び出力用内歯歯車130Bと外歯124Bとの噛合を原因とするころ116Aのスキュー、のそれぞれが防止されている。
又、ころ116は円柱形状であるので、同じ大きさのボールを備える玉軸受よりも耐荷重が大きく、且つ内輪112及び外輪118A、118Bと接触する部分が多いので、負荷トルクを大きくすることができる。
更に、外歯124は、軸方向Oにおいて、減速用内歯歯車130Aの噛合する部分(外歯124A)と出力用内歯歯車130Bの噛合する部分(外歯124B)に分割されている。このため、外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとが噛合する際に、仮に外歯124Bに変形などがあってもその変形で外歯124Aに変形を生じることがない。同様に、外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとが噛合する際に、仮に外歯124Aに変形などがあってもその変形で外歯124Bに変形を生じることがない。つまり、外歯124を分割しておくことで、一方の外歯124A(124B)の変形で他方の外歯124B(124A)を変形させてその噛合関係を悪化させるといった伝達トルクの低下を防ぐことができる。
外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとの噛合位置は、起振体104の長軸方向Xの移動に伴い回転移動する。ここで、起振体104が1回転すると、外歯歯車120Aは減速用内歯歯車130Aとの歯数差だけ、回転位相が遅れる。つまり、減速用内歯歯車130Aによる減速比は((外歯歯車120Aの歯数―減速用内歯歯車130Aの歯数)/外歯歯車120Aの歯数)として求めることができる。
外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとは共に歯数が同一であるので、外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとは互いに噛合する部分が移動することなく、同一の歯同士で噛合することとなる。このため、出力用内歯歯車130Bから外歯歯車120Bの自転と同一の回転が出力される。結果として、出力用内歯歯車130Bからは、起振体104の回転を減速用内歯歯車130Aによる減速比に基づいて減速した出力を取り出すことができる。
本実施形態では、起振体104の外周の形状が、第1円弧部FAと第2円弧部SAと第3円弧部TAとを順に繋ぎ合わせた形状とされている。即ち、内歯歯車130と外歯歯車120とを噛合い状態とする第1円弧部FAよりも小さい曲率半径の第2円弧部SAが、第1円弧部FAと第1円弧部FAよりも大きい曲率半径r3の第3円弧部TAとの間に配置されている。このため、内歯歯車130と外歯歯車120とを、単に第3円弧部TAを直接的に第1円弧部FAに繋ぎ合せるよりも、噛合い状態から短い(回転)距離で非噛合い状態とすることができる。このとき、第2円弧部SAの曲率半径r2を(距離ΔRを自在に定めることで)任意に定めることができる。このため、短軸部(内歯歯車130と外歯歯車120とが噛合しない円弧部、または非噛合い範囲)における内歯歯車130と外歯歯車120との隙間を噛合い状態から短時間で確実に確保でき、且つその隙間を自在に決定することができる。即ち、従来技術に比べて、歯形の干渉をより確実に回避することが可能である。
同時に、本実施形態では、各円弧部FA、SA、TAにおける外歯歯車120の撓み応力がそれぞれ一定となる。そして、第1円弧部FA、第2円弧部SA、及び第3円弧部TAの繋ぎ部分において第1円弧部FA、第2円弧部SA、及び第3円弧部TAの接線T1、T2がそれぞれ共通である。このため、起振体104の繋ぎ部分C、Eでの急激な撓み変形が防止されている。即ち、外歯歯車120の変形による撓み応力を極力抑えることができ、伝達トルクを向上させることができる。
そして、第2円弧部SAも一定の曲率半径r2で規定されるので、起振体104の形状を規定するパラメータを簡素化できる。このため、撓み噛合い式歯車装置100の効率的な設計が可能である。
また、本実施形態では、起振体104と外歯歯車120との間に複数のころ116を有する起振体軸受110が配置されている。起振体104の回転中心からころ116までの距離の変化率は最小限とされている。即ち、繋ぎ部分C、Eにおいて、ころ116の急激な軌道変動はないので、ころ116の滑りが少なく、外歯歯車120の撓みを高効率で行うことができ、伝達トルクの向上を図ることができる。
また、本実施形態では、減速用内歯歯車130Aと外歯歯車120Aとの歯数差をi=2としたときに、減速用内歯歯車130Aとの歯数差がi(=2)より大きなj(=4)で、且つ減速用内歯歯車130Aと内接噛合する剛性を有した仮想外歯歯車120Cを想定し、第1円弧部FAによって撓み変形された外歯歯車120Aの歯形が、仮想外歯歯車120Cの歯形と等しくなるように設定されている。このため、特に外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとの理論噛合を実現しながら、起振体104と外歯歯車120と内歯歯車130の歯形の設計を容易に行うことが可能である。
即ち、本実施形態によれば、外歯歯車120の変形による撓み応力を極力抑え、外歯歯車120の変形による内歯歯車130と外歯歯車120との歯形の干渉を回避して負荷トルクの増大が可能となる。
本発明について第1実施形態を挙げて説明したが、本発明は第1実施形態に限定されるものではない。即ち本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことは言うまでも無い。
例えば、本実施形態においては、外歯124をトロコイド曲線に基づいて成形していたが、本発明はこれに限定されない。外歯は、円弧歯形でもよいし、その他の歯形を用いてもよい。そして、内歯は、外歯に対応した歯形を用いることができる。例えば、図7の第2実施形態の如く、基部材222上に円筒形状のピンを配置させてそれを外歯224A、224Bとしてもよい。この場合には、外歯224A、224Bは回転可能な円弧歯形となり、それぞれに対応して内歯はトロコイド曲線に基づく歯形とされる。
又、上記実施形態においては、ころを有する起振体軸受が用いられていたが、本発明はこれに限定されずに、転動体がなく、単に摺動を促進する部材が起振体と外歯歯車との間に配置されていてもよい。
又、上記実施形態においては、出力用内歯歯車から減速された出力を取り出していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、出力用内歯歯車を用いずに、いわゆるカップ型の撓み変形する外歯歯車を用いて、当該外歯歯車からその自転成分のみを取り出す撓み噛合い式歯車装置であっても構わない。
又、第1実施形態においては減速用内歯歯車130Aの内歯128Aの歯数と外歯歯車120Aの外歯124Aの歯数差iを2に設定していたが、本発明ではこの歯数差iが2に限定されるものではない。例えば歯数差iが2以上の偶数であれば適宜の数で良い。又、仮想外歯歯車の歯数も、外歯歯車の外歯の実際の歯数よりも少なければ適宜の数で良いし、必ずしも仮想外歯歯車を想定する必要はない。
又、上記実施形態においては、起振体104の外周を構成する第1曲線部、第2曲線部および第3曲線部がそれぞれ、円弧形状の第1円弧部FA、第2円弧部SA、第3円弧部TAとされているが、第2曲線部および第3曲線部については円弧形状に限定されるものではない。第2曲線部については第1曲線部よりも小さい曲率半径の曲線形状であればよく、第3曲線部については第1曲線部よりも大きい曲率半径の曲線形状であればよい。なお、第3曲線部は第1曲線部と同じ曲率半径の部分を含んでもよい。
本発明は、内歯歯車と外歯歯車との歯形の干渉を回避して負荷トルクを増大可能としているので、負荷トルクの大小に関わらず減速機構が必要とされる様々な分野で適用可能である。
100、200…撓み噛合い式歯車装置
104…起振体
110、110A、110B、210、210A、210B…起振体軸受
112…内輪
114A、114B…保持器
116、116A、116B…ころ
118A、118B…外輪
120、120A、120B、220、220A、220B…外歯歯車
120C…仮想外歯歯車
122、222…基部材
124、124A、124B、224、224A、224B…外歯
128、128A、128B…内歯
130、130A、230、230A…減速用内歯歯車(内歯歯車)
130B、230B…出力用内歯歯車
132A、132B…ボルト孔
O…軸方向
X…起振体の長軸方向
Y…起振体の短軸方向
FA…第1円弧部(第1曲線部)
SA…第2円弧部(第2曲線部)
TA…第3円弧部(第3曲線部)
r…起振体の長軸半径
r1…起振体の第1円弧部の曲率半径
r2…起振体の第2円弧部の曲率半径
r3…起振体の第3円弧部の曲率半径

Claims (3)

  1. 剛性を有した内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合可能な可撓性を有した外歯歯車と、自身の外周で該外歯歯車を撓み変形させることによって前記内歯歯車と外歯歯車との内接噛合を実現させる起振体と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、
    前記起振体の前記外周の形状が、前記内歯歯車と外歯歯車とを噛合い状態とするとともに円弧形状とされた第1曲線部と、該第1曲線部よりも小さい曲率半径の第2曲線部と、該第1曲線部よりも大きい曲率半径であって該内歯歯車と外歯歯車とを非噛合い状態とする第3曲線部と、を順に繋ぎ合わせた形状であると共に、
    該第1曲線部、第2曲線部、及び第3曲線部の繋ぎ部分において該第1曲線部、第2曲線部、及び第3曲線部の接線がそれぞれ共通とされている
    ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
  2. 請求項1において、
    前記起振体と前記外歯歯車との間に複数の転動体を有する起振体軸受が配置されている
    ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
  3. 請求項1または2において、
    前記内歯歯車と外歯歯車との歯数差をi(i=2、4、・・・)としたときに、前記内歯歯車との歯数差がiより大きなjで、且つ該内歯歯車と内接噛合する剛性を有した仮想外歯歯車を想定し、
    前記第1曲線部によって撓み変形された前記外歯歯車の歯形が、前記仮想外歯歯車の歯形と等しくなるように設定されている
    ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
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