JP5237681B2 - 潤滑油基油および潤滑油組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、イオン液体を含む潤滑油基油および潤滑油組成物に関する。
潤滑油は一般に、炭化水素を主体とした有機物から構成されており、粘性を下げると必然的に蒸気圧が上がり、潤滑油の蒸発損失、さらには引火の危険性が増大する。特に、製鉄所内の機械(例えば、油圧作動油)など高熱物体を扱う設備において使用する潤滑油は、火災防止の観点から難燃性が必要とされている。また、近年の情報機器(例えば、ハードディスク)に使用されている精密モータでは、周辺の精密機器への影響を極力少なくするため蒸発や飛散し難い潤滑油が求められている。
一方、近年、カチオンとアニオンとから構成されたイオン液体が優れた熱安定性と高いイオン伝導性を有し、空気中でも安定な液体となることが報告されて以来(例えば、非特許文献1参照)、その熱安定性(難揮発性、難燃性)、高イオン密度(高イオン伝導性)、大熱容量、低粘性などの特徴を活かして様々な用途、例えば太陽電池などの電解液(例えば、特許文献1参照)、抽出分離溶媒、反応溶媒などとして応用研究が積極的に行われている。
そして、このようなイオン液体を潤滑油の基油として用いた例が報告されている(例えば、特許文献2参照)。イオン液体は、分子間が分子性液体のように分子間引力で結びついているのではなく、強力なイオン結合で結びついているため、揮発し難く、難燃性であり、熱や酸化に対して安定な液体である。そのため、低粘度であっても低蒸発性であり、さらに耐熱性にも優れている。
特開2003−31270号公報 WO2005/035702号公報 「J.Chem.Soc.,Chem.Commun.」,965(1992年)
しかしながら、特許文献2に記載の潤滑油基油において使用されているイオン液体は、水分混入時あるいは高湿度環境下において、イオン液体が本来的に有する腐食性を十分抑制できないという問題があった。
そこで本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、イオン液体を含み、低粘度であっても蒸気圧が低く、引火の危険性もなく、さらに耐熱性に優れ、従来の炭化水素系潤滑油と比べて何ら遜色のない摩擦特性を有し、高温下、真空下などの極めて厳しい条件の下でも長期間使用することができるとともに、水分混入時あるいは高湿度環境下においても金属に対する腐食性の低い潤滑油基油およびこの基油を用いた潤滑油組成物を提供することを目的とする。
前記した課題を解決すべく、本発明は、以下のような潤滑油基油および潤滑油組成物を提供するものである。
〔1〕一般式Z(Zはカチオンを意味し、Aはアニオンを意味する。)で示される化合物からなるイオン液体を含む潤滑油基油であって、前記Z 有機ケイ素化合物残基を有し、前記有機ケイ素化合物残基がトリメチルシリルメチル基、トリメチルシリルプロピル基およびペンタメチルジシロキシメチル基のうちいずれかであることを特徴とする潤滑油基油。
〕上記〔1〕に記載の潤滑油基油において、前記Aが、BF 、PF 、C(2n+1)OSO 、[C(2n+1−x))SO、(C(2n+1−x))COO、NO 、CHSO 、(CN)、HSO 、CSO 、CH(C)SO 、(FSO、PF6−y(C2n−1 、BF4−z(C2n−1 、FeCl (前記式中、nは1〜8の整数、xは0〜17の整数、yは1〜6の整数、zは1〜4の整数である。)、および下記式(16)〜(27)で示されるいずれかの構造からなるアニオンであることを特徴とする潤滑油基油。
Figure 0005237681

(式中、R13〜R20は、それぞれ独立して、水素原子、内部にエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基である。また、アルキル基は、水酸基を有していてもよい。)
〕上記〔1〕または2〕に記載の潤滑油基油において、前記イオン液体の40℃動粘度が1〜1000mm/sであることを特徴とする潤滑油基油。
〕上記〔1〕〜〔〕のいずれか一つに記載の潤滑油基油において、前記イオン液体の引火点が200℃以上であることを特徴とする潤滑油基油。
〕上記〔1〕〜〔〕のいずれか一つに記載の潤滑油基油において、前記イオン液体の流動点が0℃以下であることを特徴とする潤滑油基油。
〕上記〔1〕〜〔〕のいずれか一つに記載の潤滑油基油において、前記ZおよびAのいずれにも有機ケイ素化合物残基を有さない化合物からなるイオン液体を1〜99質量%の範囲で含むことを特徴とする潤滑油基油。
〕上記〔1〕〜〔〕のいずれか一つに記載の潤滑油基油に、酸化防止剤、油性剤、極圧剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤および消泡剤の少なくともいずれかを配合したことを特徴とする潤滑油組成物。
本発明の潤滑油基油は、一般式Z(Zはカチオンを意味し、Aはアニオンを意味する。)で示される化合物からなるイオン液体を含み、ZおよびAのうち少なくともいずれかが有機ケイ素化合物残基を有する。それ故、金属に対する腐食性が非常に低く、しかも、低粘度であっても蒸気圧が低く、引火の危険性もなく、さらに耐熱性に優れ、従来の炭化水素系潤滑油と比べて何ら遜色のない摩擦特性を有し、高温下、真空下などの極めて厳しい条件の下でも長期間使用することができる潤滑油組成物を提供できる。
本発明の潤滑油基油は、一般式Z(Zはカチオンを意味し、Aはアニオンを意味する。)で示される化合物からなるイオン液体を含んで構成され、前記ZおよびAのうち少なくともいずれかが有機ケイ素化合物残基を有する。このイオン液体は、20℃において測定したイオン濃度が1mol/dm以上であることが好ましく、より好ましくは1.5mol/dm以上、さらに好ましくは2mol/dm以上である。ここで、イオン濃度とは、イオン液体において、[(密度(g/cm)/分子量Mw(g/mol)]×100で算出される値である。イオン液体のイオン濃度が1mol/dm未満であると、イオン液体の特徴である低蒸発性、耐熱性が低下してしまい好ましくない。
ここで、有機ケイ素化合物残基は、金属への腐食性を抑える効果の点でアルキルシリル基およびアルキルポリシロキサン基のうち少なくともいずれかであることが好ましい。有機ケイ素化合物残基としては、具体的には下記式(1)〜(6)のいずれかで示される構造のものが好ましい。
Figure 0005237681
上記カチオン(Z)としては、下記式(7)〜(15)で示されるいずれかの構造からなるカチオンであることが低粘度、経済性の観点から好ましい。
Figure 0005237681
ここで、上記式中、R〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、内部にエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基、水酸基を有しているアルキル基、アルキル基が結合していてもよい炭素数3〜18のアルキルアリル基、アルキル基が結合していてもよい炭素数6〜18のアルキルアリール基、および上記式(1)〜(6)から選ばれる有機ケイ素化合物残基のいずれかである。
また、R〜R12のエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、2−メトキシエチル基などが挙げられる。
上記アニオン(A)としては、例えば、BF 、PF 、C(2n+1)OSO 、[C(2n+1−x))SO、(C(2n+1−x))COO、NO 、CHSO 、(CN)、HSO 、CSO 、CH(C)SO 、(FSO、PF6−y(C2n−1 、BF4−z(C2n−1 、FeCl (前記式中、nは1〜8の整数、xは0〜17の整数、yは1〜6の整数、zは1〜4の整数である。)、および下記式(16)〜(27)で示されるいずれかの構造からなるアニオンが好適である。
Figure 0005237681
(式中、R13〜R20は、それぞれ独立して、水素原子、内部にエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基である。また、アルキル基は、水酸基を有していてもよい。)
また、基油として用いられる本発明のイオン液体を構成する化合物について、有機ケイ素化合物残基を除いた基本骨格としての具体例をいくつか示すと、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルピリジニウムテトラフルオロボレート、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムテトラフルオロボレート、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェートおよびN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどを挙げることができる。
これらの基本骨格に、前記した有機ケイ素化合物残基が結合することで本発明のイオン液体とすることができる。また、これらの基本骨格の中では、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェートおよびN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いることが低粘度、低蒸発性および耐熱性のバランスの点で好ましい。
本発明の潤滑油基油を構成する上記イオン液体の酸価は、被潤滑油材の腐食防止の観点から、1mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mgKOH/g以下、さらにより好ましくは0.3mgKOH/g以下である。
上記イオン液体の40℃における動粘度は、蒸発損失、および粘性抵抗による動力損失を抑える点から、1〜1000mm/sが好ましく、より好ましくは2〜320mm/s、さらに好ましくは5〜100mm/sである。
上記イオン液体の流動点は、低温時に粘性抵抗が増大することを抑える点から、0℃以下であることが好ましく、−10℃以下がより好ましく、さらにより好ましくは−20℃以下、最も好ましくは−30℃以下である。
上記イオン液体の引火点は、基油の蒸発量を少なくする点から、200℃以上が好ましく、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。
上記イオン液体の粘度指数は、温度に対する粘度変化が大きくなりすぎないようにする点から、80以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。
本発明におけるイオン液体を構成する化合物は、前記したZおよびAの少なくともいずれかに有機ケイ素化合物残基を有するものであるが、本発明の潤滑油基油としては、前記したZおよびAのいずれにも有機ケイ素化合物残基を有さない化合物からなるイオン液体を1〜99質量%の範囲で含んでいてもよい。ただし、本発明の基油として効果を発揮するためには、有機ケイ素化合物残基を有する化合物からなるイオン液体の割合が基油中に50質量%以上存在することが好ましく、より好ましくは、60質量%以上である。
本発明の潤滑油基油には、所定の添加剤を配合することにより潤滑油組成物として種々の用途に使用することができる。添加剤としては、酸化防止剤、油性剤、極圧剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤および消泡剤などを挙げることができる。これらは一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、用途によっては、添加剤を配合せず、潤滑油基油をそのまま潤滑油として使用してもよい。
酸化防止剤としては、従来の炭化水素系潤滑油に使用されているアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤,硫黄系酸化防止剤を使用することができる。これらの酸化防止剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系化合物、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系化合物、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系化合物、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系化合物が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系化合物、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系化合物が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、五硫化リンとピネンとの反応物などのチオテルペン系化合物、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどのジアルキルチオジプロピオネートなどが挙げられる。
リン系酸化防止剤としては,トリフェニルフォスファイト,ジエチル[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネートなどが挙げられる。
これらの酸化防止剤の配合量は、潤滑油全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.03〜5質量%である。
油性剤としては、脂肪族アルコール、脂肪酸や脂肪酸金属塩などの脂肪酸化合物、ポリオールエステル、ソルビタンエステル、グリセライドなどのエステル化合物、脂肪族アミンなどのアミン化合物などを挙げることができる。これらの油性剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.1〜30質量%程度であり、好ましくは0.5〜10質量%である。
極圧剤としては、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、硫黄および金属を含む極圧剤、リンおよび金属を含む極圧剤が挙げられる。これらの極圧剤は一種を単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができる。極圧剤としては、分子中に硫黄原子およびリン原子のうち少なくともいずれかを含み、耐荷重性や耐摩耗性を発揮しうるものであればよい。分子中に硫黄を含む極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、トリアジン化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。
硫黄、リンおよび金属を含む極圧剤としては、ジアルキルチオカルバミン酸亜鉛(Zn−DTC)、ジアルキルチオカルバミン酸モリブデン(Mo−DTC)、ジアルキルチオカルバミン酸鉛、ジアルキルチオカルバミン酸錫、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP)、ジアルキルジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)、ナトリウムスルホネート、カルシウムスルホネートなどが挙げられる。分子中にリンを含む極圧剤として代表的なものは、トリクレジルフォスフェートなどのリン酸エステル類およびそのアミン塩である。これら極圧剤の配合量は、配合効果および経済性の点から、組成物全量基準で、通常0.01〜30質量%程度であり、より好ましくは0.01〜10質量%である。
清浄分散剤としては、金属スルホネート、金属サリチレート、金属フィネート、コハク酸イミドなどが挙げられる。これら清浄分散剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、通常0.1〜30質量%程度であり、好ましくは0.5〜10質量%である。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン水素化共重合体など)などが挙げられる。これら粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.5〜35質量%程度であり、好ましくは1〜15質量%である。
防錆剤としては、金属系スルホネート、コハク酸エステル、アルキルアミンおよびモノイソプロパノールアミン等のアルカノールアミンなどを挙げることができる。これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.05〜5質量%である。
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール、チアジアゾールなどを挙げることができる。これら金属不活性化剤の好ましい配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.01〜1質量%である。
消泡剤としては、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレートなどを挙げることができる。これらの消泡剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.0005〜0.01質量%程度である。
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲でその他の基油を併用することができる。その他の基油としては、例えば、鉱油や合成油の中から適宜選ぶことができる。鉱油としては、例えば、パラフィン基原油、中間基原油またはナフテン基原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、これらの留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油、具体的には溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油などが挙げられる。
また、合成油としては、例えば、低分子量ポリブテン、低分子量ポリプロピレン、炭素数8〜14のα−オレフィンオリゴマーおよびこれらの水素化物、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなど)、二塩基酸エステル、芳香族ポリカルボン酸エステル(例えば、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステルなど)、リン酸エステルなどのエステル化合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどのアルキルアロマ系化合物、シリコーン油、フッ素系オイル(例えば、フルオロカーボン、パーフルオロポリエーテルなど)などが挙げられる。
これらのその他の基油は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の潤滑油組成物においては、粘度の低下や腐食を防止する点から、水分混入量が組成物基準で3000質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下である。潤滑油組成物に対する水分混入量を500質量ppmとするには潤滑油基油として非水溶性のイオン液体を用いることが好ましい。
本発明の潤滑油基油は、金属に対する腐食性が非常に低く、しかも、低粘度であっても蒸気圧が低く、引火の危険性もないので、そのまま、あるいは上述の添加剤等を配合した潤滑油組成物として種々の分野に適用できる。
例えば、エンジンなどの内燃機関、流体継手や自動変速機(AT:Automatic Transmission)あるいは無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)に代表されるトルク伝達装置、軸受(すべり軸受、転がり軸受、含油あるいは含浸軸受、流体軸受)、コンプレッサーなどの圧縮装置、チェーン、歯車、油圧装置、真空ポンプ、時計部品、ハードディスク、航空機や人工衛星等の航空宇宙機器、密封装置、およびモータ機器などに好適である。また、ボールネジや転がり案内面などの転動装置、クラッチ内蔵型回転伝達装置、パワーステアリング装置、レシプロ型圧縮機、およびターボチャージャーにも適用可能である。
本発明は、さらに、金属加工油(切削、プレスおよび鍛造等)、離型剤、熱処理剤、熱媒体、冷却剤、防錆剤、ダンパーなどの緩衝剤、あるいは導電性が求められる通電型潤滑剤としても好適である。
本発明の潤滑油基油は、グリースの基油としても適用可能である。グリースの増稠剤としては、リチウム塩やカルシウム塩などの金属石けん系や非金属系がある。非金属系の増稠剤としては、例えば、ベントナイト、シリカ、フッ素樹脂パウダーなどが好適である。また、本発明の潤滑油基油は、グリース以外のゲル状物質の基油としても適用可能である。
さらに、本発明は、鉄、銅、アルミニウムおよび亜鉛などを素材とする機械材料用として好適である。特に、耐食性材料として知られるステンレス鋼(マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系)、セラミック材料(窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ホウ素(BC)、ホウ化チタン(TiB)、窒化ホウ素(BN)、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)およびジルコニア(ZrO)などを用いた場合、さらには、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)処理などで表面に種々のコーティング処理を施した材料を用いた場合に好適である。
また、本発明は、物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)を行う装置や、化学蒸着(CVD: Chemical Vapor Deposition)を行う装置に好適に用いられる。ここで、物理蒸着としては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングあるいは各種イオンガンを用いたイオン打ち込みなどが挙げられる。真空蒸着としては、一般的な抵抗加熱式蒸着以外に、電子ビーム蒸着、イオンアシスト電子ビーム蒸着、アーク蒸着などが挙げられる。これらの物理蒸着は組み合わせて使用してもよい。CVDとしては、熱CVD、プラズマCVD、光CVD、エピタキシャルCVDあるいはアトミックレイヤーCVDなどが挙げられる。これらの化学蒸着は組み合わせて使用してもよく、物理蒸着と組み合わせて使用してもよい。
本発明の潤滑油基油(潤滑油組成物)を用いた物理蒸着装置や化学蒸着装置は、例えば、ディスプレイ素子の製造に好適である。
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、潤滑油基油および潤滑油組成物の諸特性は、下記の方法に従って測定した。
(1)動粘度:
JIS K2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(2)粘度指数:
JIS K2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(3)流動点:
JIS K2269に準拠して測定した。
(4)酸価:
JIS K2501に規定される「潤滑油中和試験方法」に準拠し、電位差法により測定した。
(5)引火点:
JIS K2265に準拠し、C.O.C法により測定した。
(6)5%質量減温度:
示差熱分析装置を用い、温度を10℃/minの割合で昇温し、初期質量から5%減少した温度を測定した。5%質量減温度が高いほど、耐蒸発性、耐熱性に優れると言える。(7)摩擦特性(LWI):
ASTM D2783に準拠し、回転数1800rpm、室温の条件で測定した。最大非焼付荷重(LNL)と融着荷重(WL)から荷重摩耗指数(LWI)を求めた。この値が大きいほど耐荷重性が良好である.
(8)腐食性:
蒸留水5mlと、試料(イオン液体)5mlとを混合した溶液に、短冊状にカットした純度99.9%の鉄板を浸漬した。溶液の温度を60℃に設定し、鉄板を168時間浸漬した後、試料層(イオン液体層)の外観を観察した。茶褐色または黒色状の変色が認められた場合を錆あり(腐食あり)と判断した。
〔イオン液体の製造〕
(1)イオン液体1:1―メチル−3−トリメチルシリルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
500mLフラスコに冷却管および滴下ロートを取り付け、窒素雰囲気下で1−メチルイミダゾール(31.2mL、365mmol)を加えた。この中へトリメチルシリルメチルクロライド(51.4mL、369mmol)を滴下した後、90℃に昇温して8時間反応させた(反応が完結していなければ、原料(有機層)と生成物(イオン液体)の2層に分離したままなので、均一層となるまで反応を継続する)。反応終了後、室温に戻したところ比較的粘性の高い体が得られ、これを酢酸エチルで数回洗浄した。その後、真空ポンプで減圧しながら80℃で6時間加熱攪拌し、1―メチル−3−トリメチルシリルメチルイミダゾリウムクロライド(ハロゲン体)を得た(67g、329mmol)。
次に、500mLのフラスコにリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(99g、345mmol)を準備し、これに上記ハロゲン体(67g、329mmol)の塩化メチレン溶液を100mL滴下した。この反応混合物を室温下約24時間攪拌した後、フィルター付きのカニュラを使って反応液を分液ロートに移した。この時、フラスコに残留する白色塩に対し塩化メチレン洗浄・抽出を数回繰り返した。集めた塩化メチレン溶液は純水で数回洗浄した。洗浄後、水層を1〜2mL採取して、0.5M硝酸銀水溶液約1mLと反応させ沈殿の有無を確認した(もし、白色沈殿が見られれば塩化物イオンが完全に除去できていないので、これが見えなくなるまで洗浄を繰り返す。)。水洗浄の完了後、ロータリーエバポレータで濃縮し、活性炭を少量加えて、室温下数日間攪拌した。この混合物を中性アルミナのカラムに通し、真空ポンプで加熱攪拌(60℃、12時間)することで目的物(133g、296mmol)が得られた。この化合物の化学式を下記する。
Figure 0005237681
(2)イオン液体2:N,N−ジエチル−N−ヘキシル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
<N,N−ジエチル−N−トリメチルシリルメチルアミンの合成>
3Lフラスコに冷却管、滴下ロートを取り付け、窒素雰囲気下ジエチルアミン(1.1
7L、11mol)、MeOH(0.5L)を加えた。この中へヨウ化トリメチルシラン(0.166L、1mol)を滴下した後、55℃に昇温して24時間反応させた。反応終了後、室温へ戻し、ペンタン(2L)と5質量%炭酸カリウム水溶液(0.4L)の混合液へ注いだ。有機層を分離した後、蒸留水で数回洗浄し,無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒をロータリーエバポレータで留去して、真空ポンプで減圧することで目的物N,N−ジエチル−N−トリメチルシリルメチルアミン(132g、0.829mol、83%)を得た。
<N,N−ジエチル−N−ヘキシル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムヨージドの合成>
1Lフラスコに、窒素雰囲気下,上記化合物N,N−ジエチル−N−トリメチルシリルメチルアミン(51.2g、321mmol)、アセトニトリル(270mL)を加え、氷浴下ヨウ化ヘキサン(72g、337mmol)を滴下した。滴下終了後、80℃に昇温して17時間反応させた。反応終了後、室温へ戻し、ジエチルエーテルと酢酸エチルで数回洗浄することで化合物N,N−ジエチル−N−ヘキシル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムヨージド(97g、261mmol、81%)を得た。
<N,N−ジエチル−N−ヘキシル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの合成>
1Lのフラスコに上記化合物N,N−ジエチル−N−ヘキシル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムヨージド(97g、261mmol)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(78.5g、273mmol)、塩化メチレン200mL、蒸留水100mLを加え、この反応混合物を室温下2〜3時間攪拌した後、下層を分液ロートに移した。純水で数回洗浄した後、ロータリーエバポレータで濃縮し、活性炭を少量加えて、室温下数日間攪拌した。この混合物を中性アルミナのカラムに通し、真空ポンプで加熱攪拌(60℃、12時間)することで目的化合物N,N−ジエチル−N−ヘキシル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(129g、246mmol、94%)を得た。この化合物の化学式を下記する。
Figure 0005237681
(3)イオン液体3:N,N−ジエチル−N−オクチル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
<N,N−ジエチル−N−オクチル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムヨージドの合成>
イオン液体2の合成において、ヨウ化ヘキサンを用いる代わりに、ヨウ化オクタン(80.9g、337mmol)を用いたこと以外は同様に操作して目的化合物N,N−ジエチル−N−オクチル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムヨージド(101g、253mmol、79%)を得た。
<N,N−ジエチル−N−オクチル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウム ビス(
トリフルオロメタンスルホニル)イミドの合成>
イオン液体2の合成において、N,N−ジエチル−N−ヘキシル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムヨージドを用いる代わりにN,N−ジエチル−N−オクチル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウムヨージド(101g、253mmol)を用いたこと以外は同様に操作して目的化合物N,N−ジエチル−N−オクチル−N−トリメチルシリルメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(131g、2
38mmol、94%)を得た。この化合物の化学式を下記する。
Figure 0005237681
(4)イオン液体4:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業株式会社製 試薬)
この化合物の化学式を下記する。
Figure 0005237681
(5)イオン液体5:ジエチルメチル(2−メトキエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(関東化学株式会社製 試薬)
この化合物の化学式を下記する。
Figure 0005237681
(6)イオン液体6:1―メチル−3−トリメチルシリルプロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
イオン液体6は、対応するイミダゾール骨格とトリメチルシリルアルキル残基を形成する原料を用い、イオン液体1の製造法に準じて合成した。後述するイオン液体7〜9についても同様である。
(7)イオン液体7:1―メチル−3−ペンタメチルジシロキシメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
(8)イオン液体8:1―トリメチルシリルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
(9)イオン液体9:1―メチル−2−トリメチルシリルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
〔実施例1〜11、比較例1〜2〕
表1〜2に示す配合処方により潤滑油組成物を調製し、上記各特性について測定した。その結果を配合処方と合わせて表1〜2に示す。
Figure 0005237681
Figure 0005237681
(注)
極圧剤1;トリクレジルフォスフェート
極圧剤2;ジベンジルジサルファイド
防錆剤;モノイソプロパノールアミン
金属不活性化剤;ベンゾトリアゾール
表1〜2に示す評価結果から、実施例1〜11の潤滑油基油(潤滑油組成物)は、腐食性に優れるとともに、低粘度であるにも関わらず、300℃以上の引火点を有し、また、示差熱分析による5%質量減温度が高く、耐熱性に優れ、さらに、摩擦特性にも優れることがわかる。一方、比較例1、2のように、有機ケイ素化合物残基を有さないイオン液体は、耐熱性や耐摩耗性等には優れるものの、腐食性が高く、金属製品の潤滑油としては適切でないことがわかる。

Claims (7)

  1. 一般式Z(Zはカチオンを意味し、Aはアニオンを意味する。)で示される化合物からなるイオン液体を含む潤滑油基油であって、
    前記Z 有機ケイ素化合物残基を有し、
    前記有機ケイ素化合物残基がトリメチルシリルメチル基、トリメチルシリルプロピル基およびペンタメチルジシロキシメチル基のうちいずれかであることを特徴とする潤滑油基油。
  2. 請求項1に記載の潤滑油基油において、
    前記Aが、BF 、PF 、C(2n+1)OSO 、[C(2n+1−x))SO、(C(2n+1−x))COO、NO 、CHSO 、(CN)、HSO 、CSO 、CH(C)SO 、(FSO、PF6−y(C2n−1 、BF4−z(C2n−1 、FeCl (前記式中、nは1〜8の整数、xは0〜17の整数、yは1〜6の整数、zは1〜4の整数である。)、
    および下記式(16)〜(27)で示されるいずれかの構造からなるアニオンであることを特徴とする潤滑油基油。
    Figure 0005237681


    (式中、R13〜R20は、それぞれ独立して、水素原子、内部にエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基である。また、アルキル基は、水酸基を有していてもよい。)
  3. 請求項1または請求項に記載の潤滑油基油において、
    前記イオン液体の40℃動粘度が1〜1000mm/sであることを特徴とする潤滑油基油。
  4. 請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の潤滑油基油において、
    前記イオン液体の引火点が200℃以上であることを特徴とする潤滑油基油。
  5. 請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の潤滑油基油において、
    前記イオン液体の流動点が0℃以下であることを特徴とする潤滑油基油。
  6. 請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の潤滑油基油において、
    前記ZおよびAのいずれにも有機ケイ素化合物残基を有さない化合物からなるイオン液体を1〜99質量%の範囲で含むことを特徴とする潤滑油基油。
  7. 請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の潤滑油基油に、
    酸化防止剤、油性剤、極圧剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤および消泡剤の少なくともいずれかを配合したことを特徴とする潤滑油組成物。
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