JP5231025B2 - 菌糸体培養によるエルゴチオネインの製造方法 - Google Patents

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本発明は、キノコの菌糸体から、エルゴチオネインを製造する方法に関する。
下記式(1)で表されるエルゴチオネイン
Figure 0005231025
は、アミノ酸の1種であり、ライ麦角菌 (Claviceps purpurea) よりはじめて単離された(非特許文献1)。その後、ヒトを含めた動物の赤血球、肝臓などに広く分布することが明らかにされ、ヒドロキシルラジカルの捕捉作用、Fe, Cuに依存した過酸化水素からのヒドロキシラジカルの生成抑制作用、銅依存オキシヘモグロビンの酸化抑制作用、ミオグロビン及び過酸化水素によるアラキドン酸酸化抑制作用などの抗酸化活性が報告され、エルゴチオネインが生体内で抗酸化物質として機能している可能性が示唆された(非特許文献2)。これらのエルゴチオネインの抗酸化活性を活用し、機能性食品、動物飼料、化粧品などとしての利用が期待されている。
エルゴチオネインの製造方法としては、動物の血液や臓器から抽出する方法、オートムギなど植物から抽出する方法(非特許文献3)、キノコを含む微生物から抽出する方法と化学的に合成する方法がある。微生物を用いた方法としては、酵母、一部の例外 (Mycobacteria)を除くバクテリアはエルゴチオネインを生産せず、カビ類が主に生産すること(非特許文献4)、特にアカパンカビ (Neurospora crassa) をシスチン添加培地で培養することにより生産性が高められることが報告されている(特許文献1)。また、キノコでは、ツキヨタケ(Lampteromyces japonicus) (非特許文献5)やマッシュルーム、マイタケ、シイタケ、エリンギ、ヒラタケ(非特許文献6)がエルゴチオネインを生産することが報告されている。また、化学的な合成方法がビオキシテックから報告されている(特許文献2)。一方で、本発明者らの調査によれば、ヒメマツタケ子実体(Agaricus blazei Murrill)、キッタリア(Cyttaria espinosae)、カバノアナタケ(Fuscoproria obliqua)等のキノコは、エルゴチオネインを産生しないことが明らかとなっている。
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
特公昭43-20716 特表平 8-501575 Acad. Sci., 149, 222-224(1909) Arch. Biochem. Biophys., 288, 10-16 (1991) J. Biol. Chem., 218, 647-651 (1956) J. Biol. Chem., 223, 9-17 (1956) Natural Medicines (Tokyo), 51, 558 (1997) Int. J. Med. Mushrooms, 8, 215-222 (2006)
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、子実体よりも菌糸体においてエルゴチオネイン含量の高いキノコの菌糸体から、エルゴチオネインを製造する方法を提供することにある。
化学的合成法は食品用途には不向きであり、また、高価な合成試薬を利用するために安価なエルゴチオネインの合成は困難である。また、一方、キノコなど食品素材を用いた製造方法は機能性食品素材としてのエルゴチオネインの製法として適しているが、生産量が低く、また、利用できるキノコの種類も限られていた。そこで、より効率的で食品用途に適したエルゴチオネイン生産方法の開発が望まれていた。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、種々のキノコのエルゴチオネイン生産能をスクリーニングし、マイタケ属(Grifola)に属するアンニンコウ(Grifola gargal)、ハラタケ属(Agaricus)に属するヒメマツタケ (Agaricus blazei Murrill)において、子実体と比較して菌糸体のエルゴチオネイン含量が有意に高いことを見出した。
より具体的には、マイタケ属(Grifola)に属するキノコとしてマイタケ(Grifola frondosa (Dicks.: Fr.))がエルゴチオネインを生産することが知られていたが、本発明者らは、新たにアンニンコウ(Grifola gargal)がエルゴチオネインを生産すること、さらに、子実体に比較して菌糸体のエルゴチオネイン含量が2倍以上高いことを見出した。同様に、ハラタケ属(Agaricus)に属するキノコとしてマッシュルーム(Agaricus bisporus)がエルゴチオネインを生産することが知られているが、本発明者らは新たに、ヒメマツタケ (Agaricus blazei Murrill)のエルゴチオネイン含量を測定したところ、子実体では検出されなかったが、菌糸体ではエルゴチオネインを生産することを見出し、本発明に至った。
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔3〕を提供するものである。
〔1〕 子実体よりも菌糸体においてエルゴチオネイン含量が高いキノコを用いて、それらのキノコを菌糸体培養し、生成した菌糸体からエルゴチオネインを抽出することを特徴とする、エルゴチオネインの製造方法。
〔2〕 キノコがマイタケ属(Grifola)またはハラタケ属(Agaricus)に属するキノコであることを特徴とする、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 キノコがヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)もしくはアンニンコウ(Grifola gargal)であることを特徴とする〔2〕に記載の方法。
本発明により、子実体よりも菌糸体においてエルゴチオネイン含量の高いキノコの菌糸体から、エルゴチオネインを製造する方法が提供された。
本発明の方法により、化学合成法によらず、食品、医薬品、化粧品、飼料などに有用な、安全かつ安価なエルゴチオネインを提供することができる。
本発明は、子実体よりも菌糸体においてエルゴチオネイン含量が高いキノコを利用し、キノコを菌糸体培養して得られた菌糸体よりエルゴチオネインを抽出、精製し、エルゴチオネインを生産することを特徴とする。
本発明において、キノコの菌糸体とは、胞子が発芽し、細胞分裂を繰り返して形成された菌糸の集合体を指す。一方、子実体とは、菌類が胞子形成のために、菌糸により形成する構造体であり、一般的にキノコの食用とされる構造体を指す。
本発明の子実体よりも菌糸体においてエルゴチオネイン含量の高いキノコとしては、マイタケ属(Grifola)またはハラタケ属(Agaricus)に属するキノコを挙げることができる。
より具体的には、マイタケ属に属するキノコとしてアンニンコウ(Grifola gargal)、ハラタケ属(Agaricus)に属するキノコとしてヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)を好適に挙げることが出来る。
ヒメマツタケ、アンニンコウはそれぞれブラジル、チリ等に自生しており、現地で容易に分離・入手可能である。
また、本発明のキノコの菌糸体は、当業者に周知の方法で培養することができる。具体的には、アンニンコウの菌糸体培養及び子実体培養を含む人工培養は、特開2007-20560に記載の方法で行うことが出来る。ヒメマツタケの菌糸体培養は、特開昭 55-108292 に記載の方法で行うことが出来る。
これらのキノコからのエルゴチオネインの抽出は、低濃度の有機溶媒(メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなど)を含んでもよい水、温水、または熱水などの水溶液により行うことが出来る。抽出溶媒温度は室温から100℃、好ましくは、50-90℃で行うことができる。抽出したエルゴチオネインは、一般的な精製方法、例えば、溶媒抽出、溶解度差による分離、シリカゲル、アルミナなど吸着剤を用いたクロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過、チオプロピル−セファロース6B、逆相クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、結晶化、活性炭処理、膜処理などを組み合わせることにより行うことができる。例えば、Chem. Pharm. Bull., 26, 3772-3778 (1978) 記載に従い、キノコから抽出したエルゴチオネインを含む水溶液から酢酸エチルを用いて脂質を抽出し、水溶液を凍結乾燥後、Amberlite IR120B を用いたカチオン交換樹脂に吸着させ、ピリジン:水=1:10の溶離液によるエルゴチオネインの溶出、凍結乾燥後、更に、シリカゲルクロマトグラフィーに吸着させ、エタノール、エタノール:水=95:5により洗浄後、水により溶出・凍結乾燥後、セファデックスG-10によるゲル濾過、Develosil C30-UG-5 を用いた逆相クロマトグラフィーにより精製することにより純粋なエルゴチオネインを得ることが出来る。
抽出に用いるキノコは、生体であっても、乾燥したものであってもよいが、乾燥したものにあっては好ましくは乾燥粉末の状態を挙げることができる。
エルゴチオネインの定量は、逆相HPLCなどにより行うことができる。HPLC分離条件は当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、
カラム:Develosil ODS-HG-5 (4.6 x 250 mm) 2本をタンデムに接続 (野村化学製)
溶離液:0.1% トリエチルアミン
流量:0.8 mL/min
検出方法: 260 nmにおけるUV吸収
の条件で行なうことができる。
本発明の「子実体よりも菌糸体においてエルゴチオネイン含量の高いキノコ」とは、子実体からエルゴチオネインが得られない場合であっても、菌糸体からエルゴチオネインが抽出されるキノコも含む。また、子実体からエルゴチオネインが得られる場合には、好適には、菌糸体に子実体の2倍〜10倍、好ましくは2倍〜5倍、より好ましくは2倍〜3倍のエルゴチオネインを含むキノコを挙げることができる。
具体的には、本発明の方法により、乾燥した菌糸体において、0.1 mg/g〜10 mg/g、好ましくは0.1 mg/g〜6 mg/gの高濃度でエルゴチオネインを抽出することが可能である。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕 キノコの子実体と菌糸体のエルゴチオネイン含量の比較
ヒメマツタケ、アンニンコウの子実体及び菌糸体の乾燥粉末 10 gに熱水200 mLを添加し、90℃で30分間抽出後、10,000 rpmで10分間遠心分離し、抽出液を得た。同様に更に2回抽出し、約600 mLの抽出液を得た。減圧濃縮装置により抽出液を濃縮し、最終的に100 mLにフィルアップした。濃縮した抽出液をSep-Pak (Waters製)により前処理し、溶出液をHPLCによりエルゴチオネイン含量を測定した。
その結果を表1に示した。いずれのキノコに於いても、子実体に比較して菌糸体が、顕著にエルゴチオネイン含量が高いことが示された。
Figure 0005231025

Claims (3)

  1. キノコを菌糸体培養し、生成した菌糸体からエルゴチオネインを抽出することを特徴とする、エルゴチオネインの製造方法であって、キノコがマイタケ属(Grifola)に属するキノコまたはヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)であることを特徴とする、方法
  2. キノコがマイタケ属(Grifola)に属するキノコであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. キノコがヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)もしくはアンニンコウ(Grifola gargal)であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
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