次に、実施形態について説明する前に、実施形態の理解を容易にするための予備的事項について説明する。
図2は光ファイバを用いた温度分布測定装置の構成を示す模式図である。また、図3は後方散乱光のスペクトルを示す図、図4は光検出器26で検出されるラマン散乱光の強度の時系列分布を示す図である。
図2に示すように、温度分布測定装置は、レーザ光源21と、レンズ22a,22bと、ビームスプリッタ23と、光ファイバ24と、波長分離部25と、光検出器26とを有している。
レーザ光源21からは、所定のパルス幅のレーザ光が一定の周期で出力される。このレーザ光は、レンズ22a、ビームスプリッタ23及びレンズ22bを通って光ファイバ24の光源側端部から光ファイバ24内に進入する。なお、図2において、24aは光ファイバ24のコアを示し、24bは光ファイバ24のクラッドを示している。
光ファイバ24内に侵入した光の一部は、光ファイバ24を構成する分子により後方散乱される。後方散乱光には、図3に示すように、レイリー(Rayleigh)散乱光と、ブリルアン(Brillouin)散乱光と、ラマン(Raman)散乱光とが含まれる。レイリー散乱光は入射光と同一波長の光であり、ブリルアン散乱光及びラマン散乱光は入射波長からシフトした波長の光である。
ラマン散乱光には、入射光よりも長波長側にシフトしたストークス光と、入射光よりも短波長側にシフトした反ストークス光とがある。ストークス光及び反ストークス光のシフト量はレーザ光の波長や光ファイバ24を構成する物質等に依存するが、通常50nm程度である。また、ストークス光及び反ストークス光の強度はいずれも温度により変化するが、ストークス光は温度による変化量が小さく、反ストークス光は温度による変化量が大きい。すなわち、ストークス光は温度依存性が小さく、反ストークス光は温度依存性が大きいということができる。
これらの後方散乱光は、図2に示すように、光ファイバ24を戻って光源側端部から出射する。そして、レンズ22bを透過し、ビームスプリッタ23により反射されて、波長分離部25に進入する。
波長分離部25は、波長に応じて光を透過又は反射するビームスプリッタ31a,31b,31cと、特定の波長の光のみを透過する光学フィルタ33a,33b,33cと、光学フィルタ33a,33b,33cを透過した光をそれぞれ光検出器26の受光部26a,26b,26cに集光する集光レンズ34a,34b,34cとを有している。
波長分離部25に入射した光は、ビームスプリッタ31a,31b,31c及び光学フィルタ33a,33b,33cによりレイリー散乱光、ストークス光及び反ストークス光に分離され、光検出器26の受光部26a,26b,26cに入力される。その結果、受光部26a,26b,26cからはレイリー散乱光、ストークス光及び反ストークス光の強度に応じた信号が出力される。
なお、光検出器26に入力される後方散乱光のパルス幅は光ファイバ24の長さに関係する。このため、レーザ光源21から出力されるレーザパルスの間隔は、各レーザパルスによる後方散乱光が重ならないように設定される。また、レーザ光のパワーが高すぎると誘導ラマン散乱状態になって正しい計測ができなくなる。このため、誘導ラマン散乱状態にならないようにレーザ光源21のパワーを制御することが重要である。
前述したように、ストークス光は温度依存性が小さく、反ストークス光は温度依存性が大きいので、両者の比により後方散乱が発生した位置の温度を評価することができる。ストークス光及び反ストークス光の強度比は、入射光の角周波数をω0、光ファイバ中のオプティカルフォノンの角周波数をωk、プランク定数をh、ボルツマン定数をk、温度をTとしたときに、以下の(1)式により表わされる。
すなわち、ストークス光及び反ストークス光の強度比がわかれば、(1)式から後方散乱が発生した位置の温度を算出することができる。
ところで、光ファイバ24内で発生した後方散乱光は、光ファイバ24を戻る間に減衰する。そのため、後方散乱が発生した位置における温度を正しく評価するためには、光の減衰を考慮することが必要である。
図4は、横軸に時間をとり、縦軸に光検出器の受光部から出力される信号強度をとって、ラマン散乱光の強度の時系列分布の一例を示す図である。光ファイバにレーザパルスを入射した直後から一定の間、光検出器にはストークス光及び反ストークス光が検出される。光ファイバの全長にわたって温度が均一の場合、レーザパルスが光ファイバに入射した時点を基準とすると、信号強度は時間の経過とともに減少する。この場合、横軸の時間は光ファイバの光源側端部から後方散乱が発生した位置までの距離を示しており、信号強度の経時的な減少は光ファイバによる光の減衰を示している。
光ファイバの長さ方向にわたって温度が均一でない場合、例えば長さ方向に沿って高温部及び低温部が存在する場合は、ストークス光及び反ストークス光の信号強度は一様に減衰するのではなく、図4に示すように信号強度の経時変化を示す曲線に山及び谷が現れる。図4において、ある時間tにおける反ストークス光の強度をI1、ストークス光の強度をI2とする。
図5は、図4のラマン散乱光の強度の時系列分布を基にI1/I2比を時間毎に計算し、且つ図4の横軸(時間)を距離に換算し、縦軸(信号強度)を温度に換算した結果を示す図である。この図5に示すように、反ストークス光とストークス光との強度比(I1/I2)を計算することにより、光ファイバの長さ方向における温度分布を測定することができる。
なお、後方散乱が発生した位置におけるラマン散乱光(ストークス光及び反ストークス光)の強度は温度により変化するが、レイリー散乱光の強度の温度依存性は無視することができるほど小さい。従って、レイリー散乱光の強度から後方散乱が発生した位置を特定し、その位置に応じて光検出器で検出したストークス光及び反ストークス光の強度を補正することが好ましい。
以下、図6,図7を参照して最小加熱長について説明する。
レーザ光源21から出力されるレーザ光のパルス幅(ON時間)t0を10nsec、真空中の光の速度cを3×108m/sec、光ファイバ24のコア24bの屈折率nを1.5とすると、光ファイバ24内におけるレーザ光のパルス幅Wは、下記(2)式に示すように約2mとなる。
W=t0・c/n=10(nsec)・3×108(m/sec)/1.5≒2(m) …(2)
このパルス幅分のレーザ光の後方散乱光は光検出器26に1つの信号として取り込まれ、光検出器26はこのパルス幅分の信号の積算値から温度を検出する。そのため、光ファイバのうちパルス幅Wに相当する長さに均一に熱を加えないと正確な温度計測ができない。以下、正確な温度計測に必要な最小加熱長をLminという。
図6(a)に示す実温度分布で光ファイバを加熱した場合、すなわち光ファイバのうち長さLの部分のみを均一に加熱した場合(以下、このような温度分布をステップ型温度分布という)、計測温度分布は図6(b)に示すようにガウシアン(正規分布)的な曲線を描く。図7に示すように加熱部の長さLが最小加熱長Lminよりも短い場合は、計測温度分布のピークが低くなり、加熱部の長さLが長くなれば計測温度分布のピークは高くなる。計測温度と加熱温度との差を±5%以内とするためは、加熱部の長さLを最小加熱長Lmin以上とすることが必要になる。
また、図7に示すように、加熱部の長さLが短い場合には、2つの加熱部が近接していても計測温度分布は重ならない。しかし、加熱部の長さLが最小加熱長Lmin以上の場合は、2つの加熱部の間の距離が最小加熱長Lmin以上離れていなければ、計測温度分布が重なってしまう。このことから、加熱部の温度を高精度に測定するためには、計測可能な熱分布の最小周期LMは最小加熱長Lminを約2倍した値となる。
図8は、横軸に光ファイバの長さ方向の位置をとり、縦軸に温度をとって、温度が25℃の環境に光ファイバを配置し、光源から5mの位置を中心に80℃の熱をステップ型温度分布となるように印加した場合の計測温度分布を示す図である。ここで、加熱部の長さはそれぞれ40cm、1m、1.6m、2.2mとしている。この図8からもわかるように、加熱部の長さが2mよりも短い場合は計測温度分布のピークは実温度よりも低く観測され、加熱部の長さが2m以上の場合は計測温度分布のピークと実温度とがほぼ一致する。
図9は、横軸に加熱中心からの距離をとり、縦軸に相対強度をとって、図8の温度分布における伝達関数(温度計測系の伝達関数)を示す図である。図9の伝達関数を図8のステップ型温度分布に対し畳み込み(コンボリューション)することで、図8の計測温度分布となる。図9の伝達関数は、この温度計測系のインパルス応答特性にほぼ等しいものとなる。
温度計測系の伝達関数は、光ファイバが群遅延特性を有しているため、距離に応じて変化する。そのため、光ファイバの全長にわたって伝達関数を一義的に定義することはできない。しかし、短い距離範囲であれば、光信号の損失や遅延は一様であるとみなして伝達関数を定義することができる。伝達関数は、光源からの距離だけでなく光ファイバの種類によっても異なる。本実施形態においては、予め光ファイバの長さ方向の一定の領域毎に伝達関数を求めておくことが重要である。
一方、温度計測ポイント(以下、単に「計測ポイント」という)は最小加熱長と関係なく、測定装置のサンプリング周波数等を考慮して決定することができる。測定装置において平均化に要する時間等の実用的な計測時間を考慮すると、計測ポイントの間隔は最小50cm程度にすることが可能である。
以下、計算機を収納するサーバラック(以下、単にラックという)が多数配置される計算機ルームにおける光ファイバの敷設方法について説明する。
図10,図11は、光ファイバの敷設の第1の例を示す模式図である。図10はラックを側方から見たときの光ファイバの敷設状態を示し、図11はラックを上から見たときの光ファイバの敷設状態を示している。なお、図11において、太い実線は機器設置エリア(ラック内を含む)10に配設された光ファイバを示し、太い破線はフリーアクセスフロア15に配設された光ファイバを示している。また、図11中の丸印は光ファイバの立ち上がり部又は立下り部を示している。
ここでは、図10のa〜dに示す位置、すなわちフリーアクセスフロア15のラック11内に冷気を取り込むグリル近傍a、ラック11の吸気口近傍b、計算機のCPU近傍c及びラック11の排気口近傍dの温度を計測するものとする。図10には、各部の経路長の例を併せて示している。なお、ラック11の高さHは2m、幅Wは0.6m、奥行きDは0.95m、ラックから次のラックまでの経路長は0.7mである。この場合、ラック1台当りの光ファイバの長さは6.8m(=0.3+2.1+0.6+1.6+0.3+1.2+0.7)となる。
図12は、横軸に光ファイバの長さをとり、縦軸に温度をとって、図10、図11に示すように光ファイバを配設したときの実温度分布(設定値:実線)の一例と、図9の伝達関数を用いて想定したラマン散乱を用いた計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。この図12からわかるように、ラック11の吸気口近傍bでは実温度分布と計測温度分布とがほぼ一致するが、ラック11と次のラック11との間eの温度の影響により、排気口近傍dの温度が実際の温度よりも3℃程度低く計測される。また、CPU近傍cの温度も、実際の温度よりも低く計測される。
すなわち、図10,図11に示すように光ファイバ24を敷設した場合は、ラック1台当たりの光ファイバ24の長さは約7mと短くてすむものの、隣接するラックの影響(クロストーク)によりラック内の温度分布を精度よく計測することができない。
図13は、光ファイバの敷設の第2の例を示す模式図である。この第2の例では、ラック内及びその近傍の計測ポイント、すなわちフリーアクセスフロア15のグリル近傍a、ラック11の吸気口近傍b、計算機のCPU近傍c及びラック11の排気口近傍dにそれぞれ、最小加熱距離(2m)の2倍の長さの光ファイバを最小曲げ半径で巻いた巻回部27を設けている。
図14は、横軸に光ファイバの長さをとり、縦軸に温度をとって、図13のように光ファイバ24を敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と、計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。この図13に示すように、各計測ポイント(グリル近傍a、ラック11の吸気口近傍b、計算機のCPU近傍c及びラック11の排気口近傍dに最小加熱距離の2倍の長さの光ファイバを巻回してなる巻回部27を設けることにより、計測ポイントの温度を正確に測定することができる。但し、この場合、ラック1台当たりの光ファイバ24の長さは22m程度と長くなる。
図15,図16は、光ファイバの敷設の第3の例を示す模式図である。図15はラックを側方から見たときの光ファイバの敷設状態を示し、図16はラックを上から見たときの光ファイバの敷設状態を示している。また、図15,図16には、各部の光ファイバの長さを併せて示している。なお、図16において、太い実線は機器設置エリア(ラック内を含む)10に配設された光ファイバを示し、太い破線はフリーアクセスフロア15に配設された光ファイバを示している。また、図16中の丸印は光ファイバの立ち上がり部又は立下り部を示している。
この第3の例では、1台のラック毎に、フリーアクセスフロア15からラック11内に導入した光ファイバ24を再びフリーアクセスフロア15に戻している。そして、ラック11と次のラック11との間には3m分の光ファイバを最小曲げ半径で巻回してなる巻回部28を設け、この巻回部28をフリーアクセスフロア15に配置している。この場合、ラック1台当たりの光ファイバの長さは約13mとなる。
図17は、横軸に光ファイバの長さをとり、縦軸に温度をとって、図15,図16に示すように光ファイバを敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と、計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。なお、ここではフリーアクセスフロア15の一部の温度を5℃としている。
この図17に示すように、1台のラック毎に光ファイバ24をフリーアクセスフロア15に戻し、且つ隣接するラック11間に長さが3mの光ファイバを巻回してなる巻回部28を設けた場合は、フリーアクセスフロア15のグリル近傍aだけでなく、吸気口近傍b及び排気口近傍dにおいても実温度と計測温度とがほぼ一致する。
図18は、光ファイバの敷設の第4の例を示す模式図である。この第4の例は、巻回部29が1m分の光ファイバを巻回して形成されていること以外は基本的に第3の例と同じである。すなわち、ラックから次のラックまでの経路長は、巻回部29を含めて2m(0.5m+1m+0.5m)であり、この部分がフリーアクセスフロア15に配設されている。この場合、ラック1台当たりの光ファイバの長さは約11mとなる。
図19は、横軸に光ファイバの長さをとり、縦軸に温度をとって、図18に示すように光ファイバを敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と、計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。この図19に示すように、第4の例においても、第3の例と同様に、フリーアクセスフロア15のグリル近傍aだけでなく、吸気口近傍b及び排気口近傍dにおいても実温度と予測温度とがほぼ一致している。
図17及び図19と図12とを比較してわかるように、ラックから次のラックへと連続的に光ファイバを敷設するのではなく、ラックと次のラックとの間の光ファイバ24を巻回部29に巻回し、この巻回部29を温度一定のフリーアクセスフロア15に配置することにより、温度分布の重なり(クロストーク)の影響を少なくすることができる。例えば図12に示す例では排気口近傍dの実温度と計測温度との差が3℃以上あるのに対し、図17,図19に示す例では排気口近傍dの実温度と計測温度との差が2℃以内になっている。また、1ラック当たりの光ファイバの長さが比較的短くてすみ、1本の光ファイバで多くのラックの温度計測が可能である。
なお、図19に示す例では巻回部の光ファイバ長が1mと短いにもかかわらず図17の例と同様にクロストークの影響が小さい。このことから、クロストークの影響を抑制するためには、ラックと次のラックとの間の光ファイバを最小加熱長Lmin(約2m)以上の長さで温度が一定に保たれた定温部を通過するように敷設すればよいことがわかる。上述の例では、定温部がフリーアクセスフロアに設けられるため、定温部の温度は被測定対象の温度よりも低い。
また、光ファイバを用いた温度計測では、隣接する計測ポイントの温度差が大きくなると計測温度の精度が低下する。図15,図18に示す例では、フリーアクセスフロア(グリル近傍a)−吸気口近傍b−CPU近傍c−排気口近傍d−吸気口近傍b−フリーアクセスフロア(グリル近傍a)というように、温度分布が緩やかとなるように光ファイバ24を敷設し、隣接する計測ポイント間の温度差が小さくなるようにしている。すなわち、光ファイバは被測定部内で温度分布が緩やかとなるように配置されている。これにより、フリーアクセスフロア(グリル近傍a)−吸気口近傍b−CPU近傍c−排気口近傍d−フリーアクセスフロア(グリル近傍a)というように光ファイバ24を敷設した場合に比べて、計測温度の測定精度が向上する。
上述したように、ラックと次のラックとの間に定温部(バッファ部)を設けることにより、ラック間のクロストークを回避でき、ラックの吸気口近傍及び排気口近傍の温度を比較的良好な精度で計測することができる。また、1ラック当たりに必要な光ファイバの長さも比較的短くてすむ。
なお、本実施形態の光ファイバの敷設方法は、上述の例に限定されるものではない。図20は、光ファイバの敷設の第5の例を示す模式側面図である。ここでは、相互に隣接して配置された3台のラック11を1組とし、それらのラック11内に光ケーブル24を連続的に配置している。但し、各組毎に光ケーブル24をフリーアクセスフロア15に戻している。また、この例では、ラック11内に冷却媒体(水等)を通し、ラック11内で発生した熱を冷却媒体に熱交換している。フリーアクセスフロア15に配置された光ファイバ24は、冷却媒体の入口配管42a及び出口配管42bに巻き付けられている。光ファイバ24のうち冷却媒体の入口配管42a及び出口配管42bに巻き付けた部分が巻回部としての機能を有する。すなわち、光ファイバ24のうち冷却媒体の入口配管42a及び出口配管42bに巻き付けた部分が定温部となる。
また、光ファイバの巻回部は、温度が一定であればフリーアクセスフロア以外の場所に設けてもよい。図21は、光ファイバの敷設の第6の例を示す模式側面図である。一部のデータセンターでは、天井据え付け型の空調機(エアコン)から吹き出す冷気をラック上部からラック内に取り込んでラック内の計算機を冷却する方式を採用している。この場合、ラックの上方の空調機に近い部分では冷気によって温度が一定に維持される。そこで、図21に示すように、第6の例では、計算機ルームの室内で比較的温度変化の少ない天井付近に巻回部29を配置している。そして、天井側からラック11内に光ケーブル24を導入し、ラック11から導出した光ケーブル24を再び天井側に戻している。第6の例でもラック11間のクロストークを防止できる。
ところで、データセンターにおいて空調を制御する場合、ラックの吸気口近傍、排気口近傍及びCPU近傍のおおまかな温度分布とピーク温度とを計測することが重要である。上述のように光ファイバを敷設することで、吸気口近傍及び排気口近傍の温度を比較的精度良く求めることができる。しかし、上述のような光ファイバの敷設方法の改善のみでは、依然CPU近傍の実温度と計測温度との間には比較的大きな差が出てしまう。これは、ラマン散乱を利用した光ファイバによる温度計測では、光パルス幅が大きいため、数cm単位でかつ低温から高温まで温度が大きく変化する部分の温度計測は難しいためである。
一方、データセンターの場合は、高温となる可能性があるのはラック内のCPU近傍や排気口近傍などに限られている。また、これらの位置の温度は、装置の稼動状態により変化するものの、周囲の温度よりも低くなることはないと考えられる。
そこで、本実施形態においては、このようなデータセンターに特有の状況を利用して温度測定結果を補正することにより、ラック内の温度分布をより正確に求める。以下に、その方法について説明する。
図22は、図18で示すように光ファイバを敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。ここでは、フリーアクセスフロアの温度を15℃とし、そのフリーアクセスフロアに光ファイバの巻回部を配置している。また、ここでは、50cm間隔で温度計測(サンプリング)が行われるものとする。
図23は、温度計測を行うラックの位置における伝達関数を示している。この伝達関数は、図8,図9に示すように光ファイバにステップ状の温度分布を印加したときの計測温度分布から得られたものである。ここでは、この伝達関数を近似的に、(-1,0.07)、(-0.5,0.54)、(0,1)、(0.5,0,54)、(1,0.07)の5点で代表する。
図24に、図22の50cm毎の計測ポイントにおける実温度の値(設定値)に伝達関数をコンボリューションした結果を示す。計測温度は、実温度に対し伝達関数をコンボリューションして得た値とほぼ一致する。この値から逆算すれば、元の実温度を再現できるはずである。Tiをi番目の計測ポイントの実温度とすると、i番目の計測ポイントにおける計測温度APiは下記(3)式により表される。
APi=(0.07×Ti-2+0.54×Ti-1+Ti+0.54×Ti+1+0.07×Ti+2)/2.22 …(3
)
ここで、2.22は規格化のための定数であり、具体的には伝達関数から抽出した5点(-1,0.07)、(-0.5,0.54)、(0,1)、(0.5,0,54)、(1,0.07)のY軸の値を合計したものである。Ti+2以外、すなわちTi-2、Ti-1、Ti、Ti+1の値が既知であるとすると、Ti+2は下記(4)式により算出することができる。
Ti+2=(2.22/0.07)APi−Ti-2−(0.54/0.07)Ti-1−(1/0.07)Ti−(0.54/0.07
)Ti+1 …(4)
本実施形態は、前述したように、ラックと次のラックとの間に光ファイバを一定の長さで巻いた巻回部を設け、この巻回部をフリーアクセスフロアに配置している。そのため、フリーアクセスフロアの温度を比較的良好な精度で計測することができる。このフリーアクセスフロアの4つの計測ポイントにおける計測温度Ti-2、Ti-1、Ti、Ti+1を初期値として代入すれば、前述の(4)式によりTi+2の温度(補正値)を算出することができる。
次に、上で求めたTi+2の温度(補正値)を使って、隣の計測ポイントの温度の補正値を求める。この計算では、Ti-1、Ti、Ti+1、Ti+2、APi+1をそれぞれTi-2、Ti-1、Ti、Ti+1、APiとして(4)式に代入することで、次の計測ポイントの温度Ti+2を算出することができる。このようにして、ピークの両側の定温部から計測温度APiを順次補正して温度分布を得る。
図25に、補正後の温度分布の例を示す。なお、図25において、△は実温度(設定値)、×は上述の方法により算出した補正後の温度(補正値)を示している。
図15,図18に示すように光ファイバを敷設することで、フリーアクセスフロアの巻回部の温度を比較的高い精度で測定することができるが、それでも約±1.5℃以下の誤差が発生することがある。図23に示す伝達関数は先鋭な関数であるため、Ti-2、Ti-1、Ti、Ti+1の誤差が大きい(例えば±1℃程度)ときに、図25に示すようにTi+2の値が振動して確定できないことがある。
光ファイバを用いた温度分布計測は重み付け移動平均によるローパスフィルタの作用をもつが、上記の補正処理は重み付け移動平均によるハイパスフィルタの作用をもつ。従って、微分係数が大きく変わるところではそれが強調されて補正値が振動する。
そこで、このような不具合を回避するために、本実施形態では補正計算によるバンドパス帯域を変更する。すなわち、上述した方法により計測値を補正しても実温度分布(設定値)を良好な精度で再現することができない場合は、もう少し帯域の高い伝達関数を用いてサンプル値を導出する。そして、このサンプル値を用いて実温度分布を再現可能か否かを判定し、再現可能と判定したときはこのサンプル値を用いて重み付け平均によるデータ補正を行う。その後、元の実温度分布(設定値)を十分再現できているか否かを確認するという処理を実施する。そして、例えば、各領域で誤差が±2℃未満であればOKとし、誤差が±2℃以上であれは再度伝達関数のサンプル値を変更する。
以下に、バンドパス帯域の変更について具体的に説明する。ここでは、先ほどよりも帯域の高い伝達関数として、(-0.5,1)、(0,1)、(0.5,1)というステップ型伝達関数を考える。そうすると、i番目の計測ポイントにおける計測温度APiは下記(5)式に示すようになる。
APi=(Ti-1+Ti+Ti+1)/3 …(5)
この(5)式に基づいて計測温度(計測値)を補正すると、図26に示すようになる。なお、図26において、△は実温度(設定値)、○は計測温度(計測値)、×は補正後の温度(補正値)を示している。
図26からわかるように、補正後の温度分布は振動してなく、実温度分布を良好な精度で再現可能である。従って、この伝達関数を採用することができる。この伝達関数を用いてハイパスフィルタとなる移動平均を求めると、下記(6)式のようになる。
APi−APi-1=(Ti+1−Ti-2)/3
Ti+1=3×(APi−APi-1)+Ti-2 …(6)
ここで、Ti-2を既知とすれば、Ti+1が求まる。図27は、Ti-2,Ti-1,Tiの代わりにAPi-2,APi-1,APiを代入してTi+1(補正値)が発散するか否かを調べた結果を示す図である。この図27から、補正値は発散せず、かつ実温度(設定値)と補正値との差が小さいことがわかる。従って、前述の伝達関数を実際の温度計測に使用することは適当であると判定できる。
但し、この図27のままでは、例えば最も温度が高い20〜21mの領域の補正が十分でない。そこで、温度分布のうち微分係数が明らかに変化する領域では補完処理を行うことが好ましい。具体的には、図27に示すように、2区間連続で微分係数の符号が変化する領域を抽出して領域分割を行う。図27中の矢印は、分割された領域を示している。そして、領域毎に逐次4次多項式により補完処理を行う。図28は、図27のグラフを逐次4次多項式で補完処理した結果を示す図である。
この図28において、実線は実温度分布(設定値)を示し、一点鎖線は補間処理後の計測温度分布を示している。図28から、フリーアクセスフロアのグリル近傍、ラックの吸気口近傍、排気口近傍及びCPU近傍の実温度分布と計測温度分布(補間処理後)との差が±2℃以内に収まっており、実温度分布を忠実に再現できていることがわかる。
なお、最も温度が高くなるCPU近傍に関しては、上記の補完処理後、ピーク値に応じた係数をかけて温度を補正するという処理を実施してもよい。
以上から、本実施形態に係る温度計測方法をまとめると、図29に示すフローチャートに示すようになる。すなわち、ステップS11において、光ファイバを長さ方向に複数の領域に分割し、各領域毎に伝達関数を実験的に求める。伝達関数は光ファイバの種類により異なるので、光ファイバの種類が異なれば新たに伝達関数を求める必要がある。
次に、ステップS12において、各領域の伝達関数からサンプル値を抽出する。そして、そのサンプル値を用いて計測値(予想値)から実温度分布(設定値)が十分に再現できるか否かを判定する。実温度分布を再現できないときは、より帯域の高い伝達関数を採用し、同様に伝達関数から抽出したサンプル値で実温度分布が再現できるか否かを判定する。この工程は、適切なサンプル値(実温度分布を再現できるサンプル値)が得られるまで繰り返す。
次に、ステップS13において、実験室で計測した計測データを用い、伝達関数のサンプル値を利用することで重み付け移動平均(ハイパスフィルタ)を行い、計測データを補正する。そして、ステップS14に移行し、補正後のデータが発散せず、かつ補正の精度がよいか否かを判定する。
ステップS14において補正されたデータが発散しているとき、又は補正後のデータの精度が十分でないと判定したときは、ステップS18に移行し、伝達関数をもう少し高い帯域モデルに変更する。その後、ステップS12に戻り、上記の処理を繰り返す。
一方、ステップS14において補正後のデータの精度が十分であると判定したときは、ステップS15に移行して、伝達関数のサンプル値を実際のデータセンターで運用する温度計測のパラメータとして採用する。
次いで、ステップS16において、実際にデータセンター等において計算機ルームの温度計測を行う。そして、計測値に対して前述したように補正を行う。この場合、補正したデータに対し、微分係数が変化する点を基準に1ラックの計測結果をゾーン分けし、各領域毎に多項式(例えば、前述したように4次多項式)により補完処理する。
その後、ステップS17において、CPU近傍の補正値に予め設定された係数を乗算する。但し、ステップS17は必要に応じて実行すればよい。
以下、実際のデータセンターにおける光ファイバの敷設例とその温度補正の例について説明する。
図30は、データセンターにおける光ファイバの敷設例を示す図である。ここでは、フリーアクセスフロア15にはケーブルダクト17が配設されており、このケーブルダクト17内に最小加熱長以上の長さで光ファイバ24を巻回してなる巻回部41を配置している。そして、巻回部41から光ファイバ24を立ち上げてラック11内に導入し、ラック11内に所定の順路で光ファイバ24を配置した後、再び光ファイバ24をフリーアクセスフロア15のケーブルダクト17内に戻している。
図31は、図30のように光ファイバを敷設したときの実温度分布及び計測温度分布の一例を示す図である。ここでは、フリーアクセスフロアの温度が15℃で一定であるものとしている。前述したように、伝達関数から抽出したサンプル値を用いて、巻回部41に近い計測ポイントから順番に計測温度を補正する。そして、補正後の計測温度に対し、多項式(例えば、4次多項式)により補完処理を行う。これにより、実温度分布が再現される。図31には、各計測ポイントにおける補正前の温度と補正後の温度(補完処理後の温度)とを併せて示す。
図32は、実施形態に係る温度計測システムの全体構成(計算機ルームの空調方法)を示す図である。ここでは、図30のように光ファイバを敷設しているものとする。
本実施形態に係る温度計測システムは、制御部51、光検出器52、温度センサ53、空調機54により構成されている。光検出器52は図2に示すように構成されており、光ファイバ24にレーザパルスを供給し、光ファイバ24内で後方散乱された光を入力する。温度センサ53は、ラック11内に設置された計算機(ブレードサーバ等)内に設けられており、CPUの温度を検出する。制御部51には、これらの光検出器52及び温度センサ53から温度計測結果を示す信号が入力される。
空調機54は、制御部51からの信号に応じた温度及び風量の冷風をフリーアクセスフロア11に供給する。ラック11が配置される機器設置エリア10の床には各ラック11毎にグリル(通風口)61が設けられており、これらのグリル61を介して各ラック11内に冷風が供給される。グリル61には開口幅を調整する開口幅調整機構が設けられており、この開口幅調整機構を制御部51により制御することにより、各ラック11毎に冷風の供給量が調整可能になっている。なお、グリル61にファンを設け、制御部51によりファンの回転数を制御して各ラック11毎に冷風の供給量を調整するようにしてもよい。
また、各ラック11の上部にはそれぞれ排気ファン62が設けられている。この排気ファン62の回転数も、制御部51により調整可能になっている。
制御部51には、予め光ファイバ24の領域毎の伝達関数が設定されている。そして、制御部51は、光検出器52から出力される信号により各ラック11内の計測ポイント及び各ラック11間のフリーアクセスフロア15の温度を検出し、前述したように伝達関数を用いて各測定ポイントの温度をフリーアクセスフロア15側(低温側)から順番に補正して、各ラック11の温度分布を得る。更に、その結果と温度センサ53による温度検出結果とに応じて、空調機54、グリル61の開口幅調整機構及び各ラック11の排気ファン62を制御し、局所的な熱だまりや過冷却の発生を防止する。なお、過度の温度上昇を
検出したときに警報を発生するようにしてもよい。
本実施形態においては、光検出器52により計測された温度分布に対し、フリーアクセスフロア15(バッファ部)の計測ポイントの温度を基にラック11内の温度分布を補正するので、ラック11内の温度分布を良好な精度で計測することができる。制御部51は、その温度分布の計測結果に基づいて空調機54、グリル61の開口幅調整機構及び各ラック11の排気ファン62を制御するので、局所的な熱だまりや過冷却の発生を防止することができる。
また、本実施形態においては、例えば図13に示すように各測定ポイントに光ファイバの巻回部を配置する方法に比べて1台のラック当たりの光ファイバ24の長さが短くてよく、1本の光ファイバでより多くのラックの温度分布を計測することができる。更に、本実施形態においては、各計測ポイントに個別に温度センサ(温度センサIC等)を設置する方式に比べて初期費用及びメンテナンス費用を大幅に削減することができる。
(実施形態の変形例)
ところで、ラック内に収容された計算機は負荷に応じて発熱量が刻々と変化するので、ラック内に配置された光ファイバの温度も経時変化する。従って、計算機ルームの空調の効率的な管理を図るためには、ラック内の温度変化をリアルタイムで検出することが重要である。
図33(a)〜(c)は、それぞれ被覆材で被覆された光ファイバの断面図を示している。ここでは、説明の便宜上、図33(a)のように被覆された光ファイバを光ファイバ素線と呼び、図33(b)のように被覆された光ファイバを光ファイバ心線と呼び、図33(c)のように被覆された光ファイバを光ファイバコードと呼ぶ。
図33(a)に示す光ファイバ素線240aは、断面が円形の光ファイバ241(図2の光ファイバ24に対応する)の周囲を紫外線硬化樹脂からなる被覆材242で覆った構造を有している。光ファイバ241は石英ガラスからなり、その直径は約0.125mmである。また被覆材242を含めた光ファイバ素線240aの直径は約0.25mmである。
光ファイバ心線240bは、図33(b)に示す光ファイバ素線240aの周囲を更にナイロン樹脂の被覆材243で覆った構造を有している。被覆材243を含めた光ファイバ心線240bの直径は約0.9mmである。
また、図33(c)に示す光ファイバコード240cは、光ファイバ心線240bの周囲を塩化ビニル樹脂で被覆した構造を有している。光ファイバコード240cの直径は約2mmである。光ファイバコード240cは、光ファイバ素線240aや光ファイバ心線240bよりも光ファイバ241が破損しにくいため、計算機ルーム内のフリーアクセスフロアやラック内に敷設する際の取り扱いが容易である。
これらの光ファイバ素線240a、光ファイバ心線240b、及び光ファイバコード240cについて、周囲の温度がステップ状に変化した場合の温度応答性を計算により求めた結果を図34(a)〜(c)に示す。ここに、図34(a)は光ファイバ素線の温度応答性を示し、図34(b)は光ファイバ心線の温度応答性を示し、図34(c)は光ファイバコードの温度応答性を示している。なお、図34(a)〜(c)は、周囲の温度30℃から40℃に変化したとき光ファイバ241の温度変化を調べたものである。また、図34において、0.1m/s、0.5m/s、1.0m/s及び2.0m/sは、光ファイバの周囲を流れる空気の流速を示している。
図34(a)〜(c)から明らかなように、被覆材の厚さが最も薄い光ファイバ素線240aが最も温度応答速度が速く、被覆材の厚さが厚くなるほど温度応答速度が遅くなる。また、光ファイバの被覆材の厚さが同じ場合であっても、周囲の空気の流速が速いほど温度応答速度が速くなる。従って、ラック内の温度変化を迅速に検出する観点からは、光ファイバ素線240aを温度計測システムに用いることが好ましいといえる。
しかし、光ファイバ素線240aは、光ファイバコード240cより被覆が薄いため敷設作業時に絡まったり折損しやすい。このため、温度計測システムに用いる光ファイバを全て光ファイバ素線240aとすると、敷設作業の効率が低下してしまう。また、前述の実施形態では、ラック内の計測ポイントの温度補正を定温部の温度を基準に行うため、定温部の計測温度の変化が激しいと、補正値の誤差が大きくなる。
フリーアクセスフロアを流れる冷風の量や温度は完全に一定ではなく、設定温度(例えば15℃)を中心に±1℃程度変化すると考えられる。本願発明者らは、フリーアクセスフロア内の温度が変化した場合に、光ファイバ素線240aと光ファイバコード240cとでどのような影響が出るか調べた。図35は、周囲の空気温度を5秒間隔で±1℃変化させた場合の光ファイバ素線及び光ファイバコードの温度変化を計算により求めた結果を示す図である。
図35(a)に示すように、被覆材の厚さが薄い光ファイバ素線240aでは、周囲の空気の温度変化に敏感に反応して光ファイバ241の温度が大きく変化する。すなわち、フリーアクセスフロア(定温部)に光ファイバ素線240aを敷設すると、フリーアクセスフロアの温度変化にともなって光ファイバ素線240aの温度が鋭敏に変化し、温度の変化が激しくなる。これに対し、図35(b)に示すように、被覆材の厚さの厚い光ファイバコード240cでは、周囲の温度が±1℃程度温度が変化しても、光ファイバ241の温度はほとんど変化しない。
前述のように定温部の温度は補正計算の基準温度となるため、定温部の温度変化が大きい場合には、補正値が発散したり誤差が増大するなどの問題が発生する。従って、フリーアクセスフロア(定温部)には被覆材の厚さが厚く、温度が急峻に変化しない光ファイバコード240cを用いることが好ましい。
以上から、本実施形態の変形例1では、光ファイバを図36に示すように敷設する。図36は、本実施形態の変形例1に係る温度計測システムの光ファイバ敷設例を示す模式図である。なお、光検出器及び制御部の構成は上述の実施形態(図32参照)と同様である。
図36に示すように、変形例1では、機器設置エリア10に複数のラック11が配置されており、フリーアクセスフロア15から各ラック11に冷風が供給される。各ラック11内には、被覆材の厚さが薄い光ファイバ素線240aが敷設されている。また、隣接するラック11の光ファイバ素線240a同士は、フリーアクセスフロア15に敷設された被覆材の厚さが厚い光ファイバコード240cで接続されている。
光ファイバコード240cは、少なくとも最小加熱長以上の長さでフリーアクセスフロア15内に配置されており、フリーアクセスフロア15を流れる冷風によって一定の温度(例えば15℃)に保たれる。なお、光ファイバコード240cは、その長さを調節するために、必要に応じてフリーアクセスフロア15内に巻回部を設けてもよい。
光ファイバ素線240a及び光ファイバコード240cの光ファイバ241は、融着又は脱着自在なコネクタによって光学的に接続されている。このため、光パルスは、光ファイバ素線240a及び光ファイバコード240cを交互に通過しながら伝搬する。
変形例1では、ラック11内に温度応答速度の速い光ファイバ素線240aを配設しているため、ラック内の温度変化を迅速に検出することができる。また、ラック間の定温部に温度応答速度が遅い光ファイバコード240cを用いているため、フリーアクセスフロア15内の冷風の温度に揺らぎが生じても、温度補正値の誤差を抑制することができる。
図37は、本実施形態の変形例2に係る温度計測システムの光ファイバ敷設例を示す模式図である。
変形例2は、温度応答速度を遅くすべき部分、すなわちフリーアクセスフロア内に敷設される光ファイバを熱が伝わりにくい断熱材で被覆するよう構成したものである。
すなわち、図37に示すように、変形例2では1本の光ファイバ素線240aをフリーアクセスフロア15及びラック11内に敷設する。ただし、定温部となるフリーアクセスフロア15内の部分で光ファイバ素線240aを断熱材245で被覆し、温度応答速度を遅くしている。断熱材245としては樹脂フィルムのテープ又は発泡スチロール等を用いることができる。また、図34で示したように、光ファイバ周囲の空気の流速を小さくするだけでも温度応答速度を遅くすることができる。そこで、光ファイバ素線240aの周囲を樹脂製のコルゲート管等で覆うことで、フリーアクセスフロア15内を流れる冷風が光ファイバ240aに直接当たらないようにしてもよい。
以下に、定温部に敷設する光ファイバの温度安定性が補正値に与える影響を調べた結果について説明する。ここに、図38は、光ファイバの各計測ポイントにおける実温度分布の設定値と測定ポイントの温度計測結果を示す図である。図39は、光ファイバの定温部の温度揺らぎが±1℃ある場合と定温部に温度揺らぎがない場合との補正結果の比較を示す図である。
本願発明者は、図38で●で示すような実温度分布(設定値)を光ファイバに与えたときの各計測ポイントの測定温度(予測値)を計算によって求めた。この測定温度(予測値)は、実温度分布(設定値)に、実験的に求めた光ファイバの伝達関数及びノイズ成分をコンボリューションして求めたものであり、図38において○で示すような分布となった。
次に、伝達関数を用いて、測定温度(予測値)の補正を行ったところ、図39に示す結果が得られた。図39において、●で示すデータは実温度分布(設定値)である。△で示すデータは定温部(図39において距離0〜3m及び4.2〜7mの部分)の計測ポイントの温度が変動しない条件の下で、被測定部(図39において距離3.2m〜4mの部分)の測定温度(予測値)の補正を行った結果を示している。また、□で示すデータは定温部の計測ポイントの温度が15℃を中心に±1℃変動している条件の下で被測定部の測定温度(予測値)の補正を行った結果を示している。
図39に示すように、定温部の計測ポイントの温度が変動しない場合には、被測定部において、実温度分布から概ね1.5℃以内の誤差で補正値を求めることができる。これに対し、定温部の温度が±1℃変動している場合には、被測定部の一部の計測ポイントにおいて、補正値に実温度分布から3℃以上の誤差が生じてしまう。
このように、定温部に配設する光ファイバとして温度応答速度の遅いものを用いることで定温部の空間的(時間的)な温度変動が少なくなり、補正計算の精度が向上することがわかる。
以上のように本実施形態の変形例に係る温度計測システムでは、ラック内の光ファイバを熱容量が小さく温度応答速度が速い光ファイバとし、温度一定のフリーアクセスフロアに配置される光ファイバを温度応答速度が遅い光ファイバとしている。これにより、ラック内の計測ポイントの経時的な温度変化を迅速に検出して空調を適切に制御することができる。また、温度が一定のフリーアクセスフロアに配置された光ファイバは温度応答速度が遅いため、補正計算の基準温度を与える定温部の温度のバラツキを抑制でき、補正計算の精度が向上する。
なお、上記の実施形態では定温部(巻回部)を最も温度が低くなる場所に配置しているが、定温部(巻回部)は必ずしも低温の場所に配置する必要はなく、温度が一定であれば高温の場所に配置してもよい。
以下、本発明の諸態様を、付記としてまとめて記載する。
(付記1)レーザ光を出力するレーザ光源と、
定温部から出て被測定部内を通り前記定温部に入るように敷設され、前記レーザ光の伝搬方向に複数の温度計測ポイントが設定された光ファイバと、
前記光ファイバ内に入射した前記レーザ光の後方散乱光により前記被測定部内の各温度計測ポイントの温度を計測する検出器と、
前記検出器で検出した前記被測定部内の各温度計測ポイントの温度を、前記光ファイバの温度計測系の伝達関数を用いて前記定温部に近い温度計測ポイントから前記光ファイバに沿って順番に補正する制御部と
を有することを特徴とする温度計測システム。
(付記2)前記制御部は、前記被測定部の温度計測ポイントの温度計測結果を、前記被測定部の光ファイバ導入側及び光ファイバ導出側の前記定温部に近い温度計測ポイントからそれぞれ温度が最も高い温度計測ポイントに向けて補正していくことを特徴とする付記1に記載の温度計測システム。
(付記3)前記被測定部がデータセンターに配置された計算機のラックであり、前記定温部が空調機から冷気が供給されるフリーアクセスフロアであることを特徴とする付記1に記載の温度計測システム。
(付記4)前記被測定部の前記光ファイバの温度応答速度は、前記定温部の前記光ファイバの温度応答速度よりも速いことを特徴とする付記1に記載の温度測定システム。
(付記5)前記ラックは外部から空気を導入する吸気口と外部に空気を排出する排気口とを有し、前記光ファイバは、前記フリーアクセスフロアから前記ラック内の前記吸気口側に導入され、CPU又は前記排気口の近傍を通り、更に前記吸気口の近傍を通って前記フリーアクセスフロアに戻るように敷設されていることを特徴とする付記3又は4に記載の温度計測システム。
(付記6)前記制御部は、前記定温部の温度計測ポイントの計測結果を初期値に用いて前記補正を行うことを特徴とする付記1に記載の温度計測システム。
(付記7)前記光ファイバの被覆材は、前記被測定部で薄く前記定温部で厚いことを特徴とする付記1に記載の温度計測システム。
(付記8)前記光ファイバは、前記定温部を通る部分で断熱性の高い被覆材に覆われていることを特徴とする付記1に記載の温度測定システム。
(付記9)前記定温部には、前記光ファイバの巻回部が配設されることを特徴とする付記1乃至5のいずれか1項に記載の温度計測システム。
(付記10)前記伝達関数は、前記光ファイバの長さ方向に沿って分割された領域毎に、前記光ファイバの一部を加熱した時の計測温度分布から取得することを特徴とする付記1に記載の温度計測システム。
(付記11)前記温度計測ポイントがデータセンターに配置された計算機のラック内に設けられており、前記定温部が前記計算機を冷却する冷却媒体が通る配管に沿って設けられていることを特徴とする付記1に記載の温度計測システム。
(付記12)被測定対象と該被測定対象の近傍に設けられた定温部とを通って敷設され、前記被測定対象を通る部分に複数の温度計測ポイントが設定された光ファイバを用いて前記光ファイバの長さ方向に沿った温度分布を計測する温度計測方法であって、
前記光ファイバにレーザ光を導入し、前記光ファイバ内で後方散乱した光により各温度計測ポイントの温度を検出する工程と、
前記光ファイバの温度計測系の伝達関数を用いて各温度計測ポイントの温度を前記定温部側から前記光ファイバに沿って順番に補正する工程と
を有することを特徴とする温度計測方法。
(付記13)計算機が収納されたラックが複数設置される機器設置エリアと、空調機により空調されるフリーアクセスフロアとを有する計算機ルームの空調方法において、
前記フリーアクセスフロアから1又は複数のラック毎にラック内に導入され、前記ラック内の複数の温度計測ポイントを通って前記フリーアクセスフロアに戻るように光ファイバを敷設し、
前記光ファイバにレーザ光を導入し、前記光ファイバ内で後方散乱された光を検出器に入力して各温度計測ポイントの温度を検出し、
制御部において前記光ファイバの温度計測系の伝達関数を用いて各温度計測ポイントの温度を前記フリーアクセスフロアに近い温度計測ポイントから前記光ファイバに沿って順番に補正し、
補正後の温度に応じて前記制御部により前記空調機を制御することを特徴とする計算機ルームの空調方法。
(付記14)ラック毎に冷却用空気を導入する手段又はラック外に空気を排出する排出手段を有し、前記制御部は前記補正後の温度分布に応じてラック毎に前記冷却手段又は前記排出手段を制御することを特徴とする付記13に記載の計算機ルームの空調方法。
10…機器設置エリア、11…ラック、12,61…グリル(通風口)、15…フリーアクセスフロア、16…ケーブル、17…ケーブルダクト、19,54…空調機、21…レーザ光源、22a,22b,34a,34b,34c…レンズ、23,31a,31b,31c…ビームスプリッタ、24…光ファイバ、25…波長分離部、26,52…光検出器、26a,26b,26c…受光部、27,28,29,41…巻回部、33a,33b,33c…光学フィルタ、42a…冷却媒体入口配管、42b…冷却媒体出口配管、51…制御部、53…温度センサ、62…排気ファン、240a…光ファイバ素線、240b…光ファイバ心線、240c…光ファイバコード、241…光ファイバ、242、243、244…被覆材。