(温度分布測定)
次に、実施形態について説明する前に、実施形態の理解を容易にするための予備的事項について説明する。
図2は光ファイバを用いた温度分布測定装置の構成を示す模式図である。また、図3は後方散乱光のスペクトルを示す図である。
図2に示すように、温度分布測定装置は、レーザ光源21と、レンズ22a,22bと、ビームスプリッタ23と、光ファイバ24と、波長分離部25と、光検出器26とにより構成されている。
レーザ光源21からは、所定のパルス幅のレーザ光が一定の周期で出力される。このレーザ光は、レンズ22a、ビームスプリッタ23及びレンズ22bを通って光ファイバ24の光源側端部から光ファイバ24内に進入する。なお、図2において、24aは光ファイバ24のコアを示し、24bは光ファイバ24のクラッドを示している。
光ファイバ24内に侵入した光の一部は、光ファイバ24を構成する分子により後方散乱される。後方散乱光には、図3に示すように、レイリー(Rayleigh)散乱光と、ブリルアン(Brillouin)散乱光と、ラマン(Raman)散乱光とが含まれる。レイリー散乱光は入射光と同一波長の光であり、ブリルアン散乱光及びラマン散乱光は入射波長からシフトした波長の光である。
ラマン散乱光には、入射光よりも長波長側にシフトしたストークス光と、入射光よりも短波長側にシフトした反ストークス光とがある。ストークス光及び反ストークス光のシフト量はレーザ光の波長や光ファイバ24を構成する物質等に依存するが、通常50nm程度である。また、ストークス光及び反ストークス光の強度はいずれも温度により変化するが、ストークス光は温度による変化量が小さく、反ストークス光は温度による変化量が大きい。すなわち、ストークス光は温度依存性が小さく、反ストークス光は温度依存性が大きいということができる。
これらの後方散乱光は、図2に示すように、光ファイバ24を戻って光源側端部から出射する。そして、レンズ22bを透過し、ビームスプリッタ23により反射されて、波長分離部25に進入する。
波長分離部25は、波長に応じて光を透過又は反射するビームスプリッタ31a,31b,31cと、特定の波長の光のみを透過する光学フィルタ33a,33b,33cと、光学フィルタ33a,33b,33cを透過した光をそれぞれ光検出器26の受光部26a,26b,26cに集光する集光レンズ34a,34b,34cとにより構成されている。
波長分離部25に入射した光は、ビームスプリッタ31a,31b,31c及び光学フィルタ33a,33b,33cによりレイリー散乱光、ストークス光及び反ストークス光に分離され、光検出器26の受光部26a,26b,26cに入力される。その結果、受光部26a,26b,26cからはレイリー散乱光、ストークス光及び反ストークス光の強度に応じた信号が出力される。
なお、光検出器26に入力される後方散乱光のパルス幅は光ファイバ24の長さに関係する。このため、レーザ光源21から出力されるレーザパルスの間隔は、各レーザパルスによる後方散乱光が重ならないように設定される。また、レーザ光のパワーが高すぎると誘導ラマン散乱状態になって正しい計測ができなくなる。このため、誘導ラマン散乱状態にならないようにレーザ光源21のパワーを制御することが重要である。
前述したように、ストークス光は温度依存性が小さく、反ストークス光は温度依存性が大きいので、両者の比により後方散乱が発生した位置の温度を評価することができる。ストークス光及び反ストークス光の強度比は、光ファイバ中のオプティカルフォノンの角周波数をωk、入射光の角周波数をω0、プランク定数をh、ボルツマン定数をk、温度をTとしたときに、以下の(1)式により表わされる。
すなわち、ストークス光及び反ストークス光の強度比がわかれば、(1)式から後方散乱が発生した位置の温度を算出することができる。
ところで、光ファイバ24内で発生した後方散乱光は、光ファイバ24を戻る間に減衰する。そのため、後方散乱が発生した位置における温度を正しく評価するためには、光の減衰を考慮することが必要である。
図4は、横軸に時間をとり、縦軸に光検出器の受光部から出力される信号強度をとって、ラマン散乱光の強度の時系列分布の一例を示す図である。光ファイバにレーザパルスを入射した直後から一定の間、光検出器にはストークス光及び反ストークス光が検出される。光ファイバの全長にわたって温度が均一の場合、レーザパルスが光ファイバに入射した時点を基準とすると、信号強度は時間の経過とともに減少する。この場合、横軸の時間は光ファイバの光源側端部から後方散乱が発生した位置までの距離を示しており、信号強度の経時的な減少は光ファイバによる光の減衰を示している。
光ファイバの長さ方向にわたって温度が均一でない場合、例えば長さ方向に沿って高温部及び低温部が存在する場合は、ストークス光及び反ストークス光の信号強度は一様に減衰するのではなく、図4に示すように信号強度の経時変化を示す曲線に山及び谷が現れる。図4において、ある時間tにおける反ストークス光の強度をI1、ストークス光の強度をI2とする。
図5は、図4のラマン散乱光の強度の時系列分布を基にI1/I2比を時間毎に計算し、且つ図4の横軸(時間)を距離に換算し、縦軸(信号強度)を温度に換算した結果を示す図である。この図5に示すように、反ストークス光とストークス光との強度比(I1/I2)を計算することにより、光ファイバの長さ方向における温度分布を測定することができる。
なお、後方散乱が発生した位置におけるラマン散乱光(ストークス光及び反ストークス光)の強度は温度により変化するが、レイリー散乱光の強度の温度依存性は無視できるほど小さい。従って、レイリー散乱光の強度から後方散乱が発生した位置を特定し、その位置に応じて光検出器で検出したストークス光及び反ストークス光の強度を補正することが好ましい。
図6は、計算機ルームに配置されたラックを示す側面図である。空調機からフリーアクセスフロア15に供給された冷風は、グリル(通風口)41を通って機器設置エリア10に供給される。ラック11の背面側には吸気口が設けられており、この吸気口を介してラック11内に冷風が取り込まれる。そして、ラック11内に収納されている各計算機(ブレードサーバ等)のCPU等を冷却した後、ラック11の前面側の排気口を介してラック11の外側に排出される。なお、本実施形態ではラック内に複数の計算機(ブレードサーバ等のコンピュータ)が収納されているものとしているが、複数のストレージ(記憶装置)が収納されているラックの内部又はそのラックの近傍の温度を計測する場合も、基本的な構成は同様である。
図6において、a〜eは空調冷却設備の制御に必要な温度計測ポイントを示している。aはフリーアクセスフロア15のグリル近傍の温度計測ポイント、bはラック11内の吸気口近傍の温度計測ポイント、cはラック11内に収納された計算機のCPU近傍の温度計測ポイント、dはラック11内の排気口近傍の温度計測ポイント、eはラック11の外側の排気口近傍の天井ゾーンの温度計測ポイントである。
図7,図8は光ファイバの敷設の第1の例(比較例)を示す模式図である。図7はラックを側方から見たときの光ファイバの敷設状態を示し、図8はラックを上から見たときの光ファイバの敷設状態を示している。なお、図8において、太い実線は機器設置エリア(ラック内を含む)10に配設された光ファイバを示し、太い破線はフリーアクセスフロア15に配設された光ファイバを示している。また、ここでは、ラック11内に3台の計算機が収納されているものとする。
図7に示すように、第1の例では光ファイバ24を、フリーアクセスフロア15のグリル近傍a−ラック11内の吸気口近傍b−ラック11内の天板近傍f−ラック11の外側(前面側)の天井近傍e−ラック11内の排気口近傍d−各計算機のCPU近傍c−ラック11内の排気口近傍d−フリーアクセスフロア15の順に通るように敷設している。図7,図8には、各エリアにおける光ファイバ24の長さを併せて示している。ここで、ラック11から次のラック11までの光ファイバ24の長さを1.4mとすると、ラック1台当たりの光ファイバの長さは16m(=1+2.1+0.8+1+1.2+7+1.5+1.4)となる。
図9は、横軸に光ファイバの長さ方向の位置をとり、縦軸に温度をとって、温度が25℃の環境に光ファイバを配置し、光源から5mの位置を中心に80℃の熱をステップ型温度分布となるように印加した場合の計測温度分布を示す図である。ここで、加熱部の長さはそれぞれ40cm、1m、1.6m、2.2mとしている。この図9からわかるように、加熱部の長さが2mよりも短い場合は計測温度分布のピークは実温度よりも低く観測され、加熱部の長さが2m以上の場合は計測温度分布のピークと実温度とがほぼ一致する。
ラマン散乱を用いた光ファイバ温度計測は、図9のように低い空間周波数しかもたない計測方式である。このため、隣接する測定ポイントの温度分布が相互に重なり、実温度と計測温度との間に大きな差が発生することがある。図7に示す例では、各計算機のCPU間の間隔が狭いため、各CPUの近傍に光ファイバを巻回して配置し、各CPU近傍の温度検出精度を上げている。
図10は、図7,図8のように光ファイバ24を敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示している。ここでは、実温度分布として図10中に実線で示すような温度分布を設定し、その実温度分布に対しシミュレーションを行って理想的な計測を行った場合の計測温度分布を求めている。
図9に示す応答特性から推測されるように、光ファイバを用いた温度計測では、急峻な温度分布の空間周波数特性を保持する部分(図10中に示すラック11内の天板近傍f及びラック11の外側の天井近傍e)でその変化に追従できず、実温度と計測温度との間に大きな差(約4℃)を生じている。ラック11内の天板近傍fの温度は空気(冷媒)のフローの監視に重要ではないため誤差が大きくても問題ないが、ラック11の外側の天井近傍eの温度は空気のフローの監視に重要であり、実温度と計測温度との差が大きいと空調冷却設備を適切に制御することができなくなる。空調冷却設備を適切に制御するためには、図6に示す計測ポイント、すなわちフリーアクセスフロア15のグリル近傍a、ラック11内の吸気口近傍b、各計算機のCPU近傍c、ラック11内の排気口近傍d及びラック11の外側(前面側)の天井近傍eにおける実温度と計測温度との差は2℃未満であることが好ましい。
図11,図12は、光ファイバの敷設の第2の例(比較例)を示す模式図である。図11はラックを側方から見たときの光ファイバの敷設状態を示し、図12はラックを上から見たときの光ファイバの敷設状態を示している。なお、図12において、太い実線は機器設置エリア(ラック内を含む)10に配設された光ファイバを示し、太い破線はフリーアクセスフロア15に配設された光ファイバを示している。また、図11,図12には、各エリアにおける光ファイバの長さを併せて示している。
通常、計算機は、CPUの温度(CPU接合温度)を検出するセンサを内蔵している。この第2の例では、CPUの温度は計算機に内蔵されたセンサにより測定するものとし、光ファイバではCPU近傍の温度の計測は行わないとしている。この図11,図12のように光ファイバ24を敷設した場合は、ラック11から次のラック11までの間の光ファイバ24の長さを1.4mとすると、1台のラック当たりの光ファイバの長さは9.4m(=1+2.1+0.8+0.5+1+0.5+2.1+1.4)となる。
図13は、図11,図12に示すように光ファイバ24を敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示している。この図13からわかるように、図11,図12のように光ファイバ24を敷設した場合も、ラック11内の天板近傍f、ラック11内の排気口近傍d及びラック11の外側の天井近傍eにおける実温度と計測温度との間には2℃以上の差が発生する。
図14,図15は、光ファイバの敷設の第3の例(実施例)を示す模式図である。図14はラックを側方から見たときの光ファイバの敷設状態を示し、図15はラックを上から見たときの光ファイバの敷設状態を示している。なお、図15において、太い実線は機器設置エリア(ラック内を含む)10に配設された光ファイバを示し、太い破線はフリーアクセスフロア15に配設された光ファイバを示している。また、図14,図15には、各エリアにおける光ファイバの長さを併せて示している。
この第3の例では、ピーク温度が比較的低い温度計測ポイント、すなわちフリーアクセスフロア15のグリル近傍a及びラック内11内の吸気口近傍bの温度を計測するための第1の光ファイバ24aと、ピーク温度が比較的高い温度計測ポイント、すなわちラック11内のCPU近傍c、排気口近傍d及びラック11の外側の天井近傍eの温度を計測するための第2の光ファイバ24bとの2本の光ファイバを敷設する。このように敷設した場合、第1の光ファイバ24aのラック1台当たりのファイバ長は3.6m(=1+0.9+0.7)、第2の光ファイバ24bのラック1台当たりのファイバ長は10.4m(=1+1.2+0.5+0.7)となり、ラック1台当たりの第1及び第2の光ファイバ24a,24bの合計のファイバ長は14mとなる。
図16は、図14,図15に示すように第2の光ファイバ24bを敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。この図16からわかるように、第3の例では、ラック11内のCPU近傍c、排気口近傍d及びラック11の外側の天井近傍eのいずれにおいても、実温度と計測温度との差が2℃未満となっている。
図17は、図14,図15に示すように第1の光ファイバ24aを敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。この図17からわかるように、第3の例では、フリーアクセスフロア15のグリル近傍aの温度を精度よく計測できると共に、ラック11内の吸気口近傍bの温度分布も良好な精度で再現されている。
すなわち、第3の例のように光ファイバを敷設することにより、計算機ルームの温度分布を比較的良好な精度で検出することができる。これは、前述したように光ファイバ温度計測は低い空間周波数しかもたないため、第1及び第2の例では隣り合う計測ポイントの温度差が比較的大きいところで誤差が大きくなるのに対し、第3の例では隣り合う計測ポイントの温度差が小さくなるようにしているためである。
また、第3の例のように光ファイバを敷設することにより、第1の例(図7,図8参照)のように光ファイバを敷設する場合に比べてラック1台当たりの光ファイバの長さが短くてすみ、同じ長さの光ファイバを用いてより多くのラックの温度分布を計測することができる。
図18,図19は、光ファイバの敷設の第4の例(実施例)を示す模式図である。図18はラックを側方から見たときの光ファイバの敷設状態を示し、図19はラックを上から見たときの光ファイバの敷設状態を示している。図18,図19には、各エリアにおける光ファイバの長さを併せて示している。
第4の例では、第1の光ファイバ24aにより、第3の例と同様にフリーアクセスフロア15のグリル近傍a及びラック11内の吸気口近傍bの温度計測を行う。一方、第2の光ファイバ24bではラック11の外側の天井近傍e及びラック11内の排気口近傍dの温度計測を行い、CPUの温度は計算機に内蔵されたセンサにより測定する。
ラック11から次のラック11までの光ファイバ24a,24bの長さをいずれも0.7mとすると、ラック1台辺りの第1の光ファイバ24aの長さは3.6m(=1+1.9+0.7)となり、第2の光ファイバ24bの長さは5.1m(=1+0.5+2.4+0.5+0.7)となる。従って、第4の例では、ラック1台当たりの第1及び第2の光ファイバ24a,24bの合計の長さは8.7mとなる。
図20は、図18,図19に示すように第2の光ファイバ24bを敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と計測温度分布(予想値:1点鎖線)とを示している。この図20からわかるように、図18,図19のように第2の光ファイバ24bを敷設した場合は、ラック11の内側の吸気口近傍d及びラック11の外側の天井近傍eにおける実温度と計測温度との差がいずれも2℃未満となる。
なお、第1の光ファイバ24aの実温度分布及び計測温度分布は第3の例(図17参照)と同様であるので、ここではその説明を省略する。
この第4の例のように光ファイバを敷設することにより、第2の例(図11,図12参照)のように光ファイバを敷設する場合に比べてラック1台当たりの光ファイバの長さが短くてすみ、同じ長さの光ファイバを用いてより多くのラックの温度分布を計測することができる。
以下、本実施形態で用いる光ファイバ検出器(温度分布測定装置)の例について説明する。
図21は、1チャンネルのシングルエンド方式光ファイバ検出器を2台使用して温度計測を行う例を示す模式図である。この例では、一方の光ファイバ検出器51aを各ラック11の低温部(フリーアクセスフロアのグリル近傍a及びラック内の吸気口近傍b等)を通る第1の光ファイバ24aに接続して低温側の温度計測を行い、他方の光ファイバ検出器51bを各ラック11の高温部(ラック内のCPU近傍c、排気口近傍d及びラック外側の天井近傍e等)を通る第2の光ファイバ24bに接続して高温側の温度計測を行う。
図22は、2チャンネルのシングルエンド方式光ファイバ検出器を使用して温度計測を行う例を示す模式図である。この例では、検出器52と第1の光ファイバ24a及び第2の光ファイバ24bとの間に切替器53を設け、この切替器53により検出器52と第1の光ファイバ24a及び第2の光ファイバ24bとの間を一定の周期で切替えて、各ラック11の高温部及び低温部の温度計測を行う。
図23は、2チャンネルのループ方式光ファイバ検出器を用いて温度計測を行う例を示す模式図である。この例では、第1の光ファイバ24aを各ラック11の低温部(フリーアクセスフロアのグリル近傍a及びラック内の吸気口近傍b等)を通るように敷設し、第2の光ファイバ24bを各ラック11の高温部(ラック内のCPU近傍c、排気口近傍d及びラック外側の天井近傍e等)を通るように敷設する。また、光ファイバ検出器54と第1の光ファイバ24a及び第2の光ファイバ24bとの間に切替器55を配置する。そして、この切替器55により検出器54と第1の光ファイバ24a及び第2の光ファイバ24bとの間を一定の周期で切替えて、各ラック11の高温部及び低温部の温度計測を行う。
図24は1チャンネルのループ方式光ファイバ検出器を用いて温度計測を行う例を示す模式図である。この例では、各ラック11の低温部(フリーアクセスフロアのグリル近傍a及びラック内の吸気口近傍b等)を通るように光ファイバ24の往路を敷設し、各ラック11の高温部(ラック内のCPU近傍c、排気口近傍d及びラック外側の天井近傍e等)を通るように光ファイバ24の復路を敷設している。これにより、1本の光ファイバ24で各ラック11の高温部及び低温部の温度計測を行う。なお、光ファイバ24の両端は切替器57に接続され、この切替器57によりレーザ光の入力及び出力が切り替えられる構成となっている。
(温度制御システム)
図25は、実施形態に係る計算機ルームの温度制御システムの第1の構成例を示す模式図である。計算機ルームの機器設置エリア10には、複数の計算機(ブレードサーバ等)を収納した複数のサーバラック11と、各計算機の負荷を監視して各計算機の負荷が均一となるように新規ジョブを振り分ける負荷分散サーバを収納した負荷分散サーバラック61とが配置されている。
これらのラック11,61には、例えば第3の例(図14,図15参照)又は第4の例(図18,図19参照)のように光ファイバが敷設されている。光ファイバ検出器73はこれらの光ファイバに接続され、光ファイバ内にレーザ光を導入し、光ファイバ内で発生した後方散乱光を検出して、光ファイバの長さ方向に沿った温度分布をリアルタイムに計測する。光ファイバ検出器73による温度計測の結果は制御部71にリアルタイムに伝達される。
温度センサ74は、ラック11,61に収納されている各計算機に内蔵されたCPUの温度(CPU接合温度)を検出するセンサを示している。これらの温度センサ74による温度検出結果も制御部71にリアルタイムに伝達される。
制御部71は、光ファイバ検出器73及び温度センサ74から入力される信号(データ)に基づいて空調機72を制御したり、各サーバラック11,61に設けられている排気ファン63を制御したり、グリル41の開口幅を調整するグリル調整機構(又はグリル41に設けられた冷却用ファン)を制御する。以下、空調機72、排気ファン63及びグリル調整機構等をまとめて空調冷却設備という。
図26は、上述したシステムにおける温度制御方法の概念を示す概念図である。制御部71には、光ファイバ検出器73による温度計測結果と、温度センサ74によるCPU温度の計測結果が入力される。また、制御部71には、CPUの許容温度並びに計算機ルームのラック内、天井近傍及びフリーアクセスフロア等における目標温度が入力される。目標温度は、CPU等の仕様に基づいて設定された温度以下の温度であって、空調冷却設備の消費電力と全ラックの消費電力との和が最も小さくなるように設定される。
制御部71は、光ファイバ検出器73により計測された計算機ルーム内の温度分布及び温度センサ74によるCPU温度の検出値と目標温度と比較して、計算機ルーム内の各種空調冷却設備、すなわち空調機72、グリル調整機構及び各ラック11,61の排気ファン63を制御する。これにより、計算機ルーム内の温度分布が変化する。その変化は光ファイバ検出器73によりリアルタイムに計測され、制御部71に伝達(フィードバック)される。また、計算機ルームの温度分布の変化により、ラック11,61内に収納された計算機のCPU温度が変化する。このCPU温度の変化も温度センサ74によりリアルタイムに検出され、制御部71に伝達(フィードバック)される。
このようにして、制御部71は計算機ルーム内の各部の温度が目標温度になるように、空調冷却設備(空調機72、グリル調整機構及び各ラック11,61の排気ファン63等)を制御する。
本実施形態では、光ファイバ検出器73及び温度センサ74により計算機ルーム内の温度分布をリアルタイムに計測し、その結果に基づいて制御部71が空調機72、グリル調整機構及び各ラック11,61の排気ファン63等の空調冷却設備を制御して熱だまりの発生を防止するとともに、必要以上に冷却されている箇所がないようにしている。これにより、計算機ルームの冷房に要する電力の消費を抑制することができる。
図27は、実施形態に係る計算機ルームの温度制御システムの第2の構成例を示す模式図である。なお、図27において、図25と同一物には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
負荷分散サーバラック61内に収納された負荷分散サーバに新規ジョブが投入されると、負荷分散サーバは新規ジョブの計算量と各計算機の稼働状態とに応じて、新規ジョブを処理する計算機を決定する。また、負荷分散サーバは、新規ジョブの計算量を示す情報と新規ジョブを処理する計算機とを示す情報を状態変数保存部75に送信する。
状態変数保存部75には、過去に処理したジョブの計算量、そのジョブを処理した計算機のCPU温度変化、及びそのジョブを処理した計算機のCPU温度を目標値とするための空調冷却設備制御パラメータ(グリル開口部の開口度及び排気ファンの回転数等)などの情報がデータベースとして蓄積されている。
状態変数保存部75は、負荷分散サーバから送られてきた新規ジョブの計算量とデータベース内に蓄積されている過去の同等のジョブの計算量とを比較し、ジョブを処理する計算機のCPU温度を目標値とするための空調冷却設備制御パラメータ等の情報をデータベースから抽出して制御部71に出力する。
制御部71は、目標温度と、状態変数保存部75から入力される情報と、光ファイバ検出器73から入力される情報と、温度センサ74から入力される情報とに基づいて、計算機ルーム内の各種空調冷却設備、すなわち空調機72、グリル調整機構及び各ラック11,61の排気ファン63を制御する。
図28は、上述したシステムにおける温度制御方法の概念を示す概念図である。
制御部71及び状態変数保存部75には、CPUの許容温度並びに計算機ルームのラック内、天井近傍及びフリーアクセスフロア等における目標温度が入力される。また、制御部71及び状態変数保存部75には、光ファイバ検出器73により計測された温度分布がリアルタイムに入力され、更に温度センサ74により計測された各計算機のCPU温度がリアルタイムに入力される。
状態変数保存部75には、負荷分散サーバラック61内の負荷分散サーバから新規ジョブに関する情報及び新規ジョブを処理する計算機の情報が入力される。これらの情報が入力されると、状態変数保存部75は、新規ジョブの計算量と蓄積されているデータベースの情報とを比較し、新規ジョブを処理する計算機のCPU温度を目標値にするために必要な空調冷却設備の制御パラメータをデータベースから抽出して制御部71に出力する。
制御部71は、状態変数保存部75から入力した制御パラメータ、光ファイバ検出器73による温度分布の計測結果、及び温度センサ74による各計算機のCPU温度の計測結果に基づいて、空調冷却設備を制御する。この場合、制御部71は、新規ジョブの処理に伴うCPUの発熱を抑えるように、新規ジョブを処理する計算機を収納したラックの排気ファン63やそのラックの近傍のグリル調整機構等を制御する。
本実施形態では、計算機が実際に新規ジョブの処理を開始する前(又は開始すると同時)に該当する計算機が収納されているラックの排気ファンやグリル調整機構等を制御するので、CPUの温度上昇を抑制することができる。一般的に、CPUが発熱すると、リーク電流が増加して消費電力が増大する。本実施形態においては、予め負荷分散サーバからの情報により発熱が予想されるCPUが特定され、更にCPUの発熱量が予測されるので、CPUの発熱を抑えるように空調冷却設備を制御することが可能である。すなわち、本実施形態では、いわゆるフィードフォワード制御により冷却制御を制御して新規ジョブを処理する計算機のCPUの発熱を抑え、それによりCPUの発熱にともなう電力消費の増大を回避する。これにより、計算機ルームで消費する電力が削減されるという効果を奏する。
図29は、上述した技術を水冷及び空冷を組み合わせたハイブリッド冷却方式に適用した例を示す模式図である。ここでは、相互に隣接して配置された3台のラック11を1組とし、各組毎にフリーアクセスフロア10を介してチラー76から冷却水(冷却媒体)を供給する配管77a及び冷却水供給ポンプ78と、熱交換後の冷却水をフリーアクセスフロア15を介してチラー76に戻す配管77bとが設けられている。
第2の光ファイバ24bは、各ラック11の高温部(ラック内のCPU近傍c、排気口近傍d及びラック外側の天井近傍e等:図6参照)を通るように敷設されている。一方、第1の光ファイバ24aは、各ラック11の低温部(フリーアクセスフロア15のグリル近傍a及びラック内の吸気口近傍b等:図6参照)を通るように敷設されている。但し、図29に示すように、第1の光ファイバ24aは、各組毎に、ラック11内に導入される前に配管77aに所定長さ分(例えば1〜4m)だけ巻き付けられ、ラック11から導出された後に所定長さ分だけ配管77bに巻き付けられている。
第1の光ファイバ検出器73aは第1の光ファイバ24aに接続されており、第2の光ファイバ検出器73bは第2の光ファイバ24bに接続されている。制御部71は、これらの光ファイバ検出器73a,73bにより検出された計算機ルーム内の温度分布に基づき、計算機ルーム内の各部の温度が目標温度となるように、空調機72、各ラック11の排気ファン61、冷却水供給ポンプ78及びグリル調整機構等(図25参照)を制御する。
本実施形態では、第1の光ファイバ24aを冷却水が通る配管77a,77bに巻き付けている。冷却水が通る配管77a,77bは温度変化が比較的少なく、かつ光ファイバ24aを所定長さ分だけ巻き付けているので、この部分の温度を精度よく計測することができる。この部分の温度計測値を基準として他の部分の温度の計測値を補正することにより、他の部分の温度の計測精度をより一層向上させることができる。
また、本実施形態では光ファイバによる温度分布計測系を2系統(第1の光ファイバ24aと第1の光ファイバ検出器73a、及び第2の光ファイバ24bと第2の光ファイバ検出器73b)有しているので、仮に一方の温度分布計測系が故障又はメンテナンスにより使用できなくても、マージンを広げる必要はあるが他方の温度分布計測系のみで温度分布を計測してシステムを運用することが可能である。これにより、システムの連続動作が可能である。
更に、本実施形態では、第1の光ファイバ24aによりラック11に導入される前の冷却水の温度及びラック11から排出された冷却水の温度がわかるので、ラック11内で熱交換された熱量を把握することができる。また、制御部71により冷却水供給ポンプ78による冷却水供給量を制御することにより、計算機ルーム内の各部の温度をより詳細に調整することができる。
(風量測定)
計算機ルーム内の空調機を適切に稼動させるためには、各ラックから排出されるエアーの温度を計測するだけでなく、各ラックから排出されるエアーの量を知ることも重要である。ファンの回転数からエアーの排出量(又はラックに取り込まれるエアーの量)を推定することが考えられるが、通常1台のラックには複数のファンが配置されているので、この方法ではラックから排出されるエアーの量を精度よく求めることは困難である。
そこで、例えばラックの吸気口又は排気口に風速計を配置して風速を測定し、風速と吸気口又は排気口の面積とから単位時間当たりの風量を演算して求めることが考えられる。この場合、吸気口又は排気口を通流するエアーの流れをできるだけ乱さないようにする必要がある。
超小型風速センサとしてサーマル式風速センサ、超音波式風速センサ及びベーンホイール式風速センサなどが市販されており、これらの風速センサを使用することにより、吸気口又は排気口を通流するエアーの流れを殆ど乱すことなく風速を測定することができる。しかし、これらの風速センサはいずれもセンサが配置された場所(ポイント)の風速を測定するものであり、吸気口又は排気口を通流するエアーの平均風速を測定するものではない。以下、上述したように設置された場所(ポイント)の風速を検出する超小型の風速センサを、ポイント測定型風速センサと呼ぶ。
吸気口又は排気口を通流するエアーの風速を測定してラックから排出される風量を求める方法では、風量の測定精度は吸気口又は排気口を通流するエアーの平均風速の測定精度に依存する。従って、吸気口又は排気口に多数のポイント測定型風速センサを取り付け、それらのセンサで測定した風速の平均値を演算して平均風速の測定精度を向上させることが考えられる。しかし、その場合はセンサの数が多くなるほど平均風速の測定精度は向上するものの、センサの設置や保守管理に要するコストが高くなるという問題がある。
図30は、本実施形態に係る風量測定装置及び風量測定方法を示す模式図である。本実施形態では、電子機器(計算機及びストレージ等)83を収納したラック11の吸気側及び排気側に光ファイバ81a,81bを敷設し、それらの光ファイバ81a,81bを光ファイバ検出器91に接続する。光ファイバ検出器91は、図2に示す温度分布測定装置と同様の構造を有し、光ファイバ81a,81bが敷設されたラック11の吸気側及び排気側のエアーの平均温度をほぼリアルタイムに測定して、演算部90に出力する。
一方、電力検出部92は、ラック11内の電子機器83の総消費電力をほぼリアルタイムに検出し、演算部90に出力する。演算部90は、光ファイバ検出器91で検出したラック11の吸気側及び排気側のエアーの平均温度と、電力検出部92で検出した消費電力とから、ラック11から排出されるエアーの量(風量)を検出する。
ラック11内の電子機器83が稼働している場合、ラック11の吸気口を通るエアー(以下、吸気側エアーという)の平均温度よりもラック11の排気口を通るエアー(以下、排気側エアーという)の平均温度のほうが高くなる。吸気側エアーの平均温度と排気側エアーの平均温度との差は、ラック11内の電子機器83で発生する熱量とラック11内を通るエアーの量とに関係する。
ラック11内の電子機器83で発生する熱量をQ(kcal/min)とし、ラック11から排出されるエアーの量(風量)をU(m3/min)とし、吸気側エアーの平均温度と排気側エアーの平均温度との温度差をΔT(℃)とすると、それらの間には下記(2)式で示す関係がある。
Q=U×C×ΔT …(2)
ここで、Cは定数であり、空気の比熱0.24(kcal/kg/℃)を標準空気(温度が20℃、1気圧(760mmHg)の空気)の比容積0.83(m3/kg)で割り算(除算)した値、すなわち0.29(kcal/m3/℃)を用いることができる。
熱量Qは、ラック11内に収納された電子機器83の総消費電力P(kW)を測定し、下記(3)式により求めることができる。
Q=P×60/4.19 …(3)
従って、ラック11から排出されるエアーの量Uは、下記(4)式により求めることができる。
U=P×60/(ΔT×4.19×0.29) …(4)
すなわち、吸気側エアーの平均温度と排気側エアーの平均温度との差ΔTと、ラック11内に収納された電子機器83の総消費電力Pとがわかれば、ラック11から排出されるエアーの量(風量)を計算により求めることができる。電子機器83の総消費電力Pを検出する電力検出部92としては、例えば市販の各種電力計を用いることができる。
前述したように、本実施形態では、ラック11の吸気側及び排気側にそれぞれ光ファイバ81a,81bを敷設し、それらの光ファイバ81a,81bを光ファイバ検出器91に接続してラック11の吸気側及び排気側の温度分布を測定する。
光ファイバによる温度分布測定はローパス特性を有しており、図9に示すように温度が急峻に変化する場合、すなわち実温度分布に高周波成分が含まれている場合は、計測温度分布のピークが低くなり、幅が広がる。しかし、計測温度分布の積分値と実温度分布の積分値とは比例関係を有しており、予め計測温度分布の積分値と実温度分布の積分値との関係を調べておけば、計測温度分布の積分値から吸気側エアー及び排気側エアーの平均温度を算出することができる。
なお、吸気側エアー及び排気側エアーの平均温度を求めるために、例えばラックの吸気口及び排気口にそれぞれ複数のポイント測定型温度センサを取り付け、それらのポイント測定型温度センサにより測定される温度の平均を演算して平均温度とすることが考えられる。ここで、ポイント測定型温度センサとは、例えば熱電対のように設置された場所(ポイント)の温度を検出するセンサをいう。
ポイント測定型温度センサで平均温度を検出する場合、平均温度の精度を高くしようとするとセンサの数が多くなり、センサの設置や保守管理に要するコストが上昇する。これに対し光ファイバによる温度分布測定では、測定領域に配置された光ファイバ全体で温度を検出するため、光ファイバの長さ方向に沿って無限個の温度センサが設置されていると考えることができる。
すなわち、光ファイバ温度分布測定装置では、多数のポイント測定型温度センサを用いて測定したのと同等、又はそれ以上の精度で平均温度を測定することができる。その結果、ラックから排出されるエアーの量(風量)を良好な精度で測定することができ、その測定結果に基づいて計算機ルームの空調機の稼動状態を適切に制御することができる。また、ラックから排出されるエアーの量を吸気口又は排気口の面積で割り算(除算)することにより、吸気口又は排気口における風速を求めることができる。
以下、本実施形態に係る風量測定方法(実施例)について、比較例と比較しながら更に詳細に説明する。
実施例として、図31に示すように、電子機器(図示せず)が収納されたラック11の吸気側及び排気側に光ファイバ81を敷設して温度分布を測定する。この図31に示す例では、光ファイバ81を、フリーアクセスフロア15からラック11内に導入し、ラック11内の所定の計測ポイントを通ってフリーアクセスフロア15に戻るように敷設している。計測ポイントは、ラック11の高さ方向の温度分布だけでなく、幅方向の温度分布も測定できるように設定している。ここでは、相互に隣接する計測ポイントの間隔は0.25mとする。図31中の丸印は計測ポイントの位置を示しており、各計測ポイントには、光ファイバ81の長さ方向に沿って番号を付している。
すなわち、ラック11内に導入される直前のフリーアクセスフロア15内の計測ポイントをNo.0、ラック11内に導入された光ファイバ81の最初の計測ポイントをNo.1、…、ラック11から導出される直前の計測ポイントをNo.21、ラック11からフリーアクセスフロアに導入された直後の計測ポイントをNo.22というように、各計測ポイントに番号を付している。ラック11内の計測ポイントはNo.1からNo.21までの21箇所である。
なお、ラック11に導入前及びラック11から導出後の光ファイバ81(フリーアクセスフロア15内に配置された光ファイバ)にも0.25m毎に計測ポイントを設定している。また、フリーアクセスフロア15内の温度は20.5℃に維持されているものとする。
一方、比較例として、図32に示すように電子機器(図示せず)が収納されたラック11の吸気側及び排気側の計測ポイントに熱電対(ポイント測定型温度センサ)85を設置し、吸気側及び排気側の温度分布を計測する。図33に、熱電対85により計測した各計測ポイントの温度の例を示す。
図34は、横軸に光ファイバの長さ方向の位置をとり、縦軸に計測温度をとって、光ファイバ及び熱電対で計測した吸気側の計測温度分布をシミュレーションした結果を示す図である。また、図35は、横軸に光ファイバの長さ方向の位置をとり、縦軸に計測温度をとって、光ファイバ及び熱電対で計測した排気側の計測温度分布をシミュレーションした結果を示す図である。これらの図34,図35において、光ファイバ81の2.25mの位置が計測ポイントNo.0に対応し、2.5mの位置が計測ポイントNo.1に対応し、7.5mの位置が計測ポイントNo.21に対応している。また、図34,図35では、便宜上、熱電対85による温度分布の計測ポイントの位置を、光ファイバ81による温度分布の計測ポイントに対応させている。例えば図32のNo.1の計測ポイントに配置された熱電対85により計測された温度は、2.5m、3.5m及び7.5mの位置の温度に反映される。
図34に示すように、計測ポイント間の温度差が小さい吸気側では、光ファイバで計測した温度分布と熱電対により計測した温度分布とはほぼ一致している。これに対し、計測ポイント間の温度差が大きくなる排気側では、光ファイバで測定した温度分布は、図35に示すように計測ポイントNo.1(2.5m)及びNo.21(7.5m)の外側まで大きく広がっている。ピーク温度に対し温度分布がどの程度広がるのかは光ファイバ温度計測装置(光ファイバ81及び光ファイバ検出器91)の特性に依存する。逆に、予め光ファイバ温度分布計測装置の特性を調べておけば、ピーク温度に対し温度分布がどの程度広がるのかを知ることができる。
ここでは、光ファイバにより計測した温度分布は、図35に示すようにマイナス側に0.25mの位置まで広がり、プラス側に9.75mの位置まで広がるものとする。すなわち、温度分布の積分値を演算する場合に、0.25mの位置から9.75mの位置までを積分範囲とする。この間の計測ポイントの数は39である。平均温度を求める場合は、これら39の計測ポイントの計測値を積分し、ラック11内の計測ポイントの数(すなわち21)で割り算(除算)する。
また、前述したように、計測温度分布の積分値と実温度分布の積分値とは比例することがわかっているが、比例定数は光ファイバ及び光ファイバ検出器光ファイバ温度分布計測装置の特性に依存する。従って、平均温度を算出するためには、予め比例定数を実験的に求めておくことも必要である。ここでは、比例定数の値を1.03とする。
熱電対85により計測した温度から平均温度を求める場合は、単純にラック11の吸気側(又は排気側)に配置された各熱電対85による測定値を加算して計測ポイントの個数で割り算すればよい。例えば図32のNo.1からNo.11までの計測ポイントの温度をT1,T2,…,T11とすると、平均温度Taveは、Tave=(T1+T2+…+T11)/11となる。また、ラック11の中心線(図32に一点鎖線で示す)上の3点の測定ポイント(No.2、No.6、No.10)の測定値で平均温度Taveを計算する場合は、Tave=(T2+T6+T10)/3となる。
一方、光ファイバにより計測した温度分布から平均温度Taveを求める場合は、0.25mの位置から9.75mの位置までの39の計測ポイントの温度をT1,T2,…,T39とし、フリーアクセスフロアの温度(基準温度)をTcとすると、下記(5)式に示すようになる。
Tave=((T1−Tc)+(T2−Tc)+…+(T39−Tc))×(1/1.03)×(1/21)+Tc …(5)
図36に、光ファイバ温度分布計測装置によって求めた平均温度、No.2,No.6,No.10の計測ポイントに配置された3個の熱電対85により求めた平均温度、No.1からNo.11までの計測ポイントに配置された11個の熱電対により求めた平均温度を示す。
また、ラック11内に収納された電子機器83の総消費電力を3.8kWとし、前述の(4)式を用いて求めた風量と、その風量を用いて計算したラック11の吸気口及び排気口における風速とを図36に示す。なお、風速は、ラック11の吸気口及び排気口の面積を0.40m2として求めている。
この図36からわかるように、温度分布のばらつきが比較的小さい吸気側では、光ファイバを用いて測定した平均温度と、3個の熱電対を用いて測定した平均温度と、11個の熱電対を用いて測定した平均温度とはほぼ一致している。しかし、温度分布のばらつきが大きい排気側では、光ファイバを用いて測定した平均温度と11個の熱電対を用いて測定した平均温度とはほぼ一致しているが、3個の熱電対を用いて測定した平均温度は他の方法により測定した平均温度との差が大きい。従って、それらの平均温度を用いて計算した風量及び風速についても、光ファイバを用いて測定した場合と11個の光ファイバを用いて測定した場合とではほぼ一致し、3個の熱電対を用いて測定した場合の値は他の方法により測定した場合の値との差が大きい。
以上から、光ファイバを用いる方法は、多数のポイント測定型温度センサを用いる方法に比べて同等、又はそれ以上の精度で風量及び風速を測定することができることが確認された。
なお、上述した例ではラックから排出されるエアーの量(風量)及び吸気口又は排気口における風速を測定する場合について説明したが、開示した技術をラック以外から排出(又は吸気)されるエアーの量又は風速の測定に使用することができる。
また、上述した例では吸気側及び排気側に同じように光ファイバを敷設しているが、吸気側と排気側とで光ファイバの敷設を変えてもよい。例えば、吸気側では計測ポイントの位置による温度差が小さいため、光ファイバの敷設を簡略化しても風量の測定精度は殆ど劣化しないと考えられる。
(発熱量測定方法)
図37は、実施形態に係る発熱量測定装置及び発熱量測定方法を示す模式図である。なお、図37において図30と同一物には同一符号を付している。
本実施形態では、電子機器(計算機及びストレージ等)83を収納したラック11の吸気側及び排気側に温度測定用光ファイバ101a,101bを敷設し、これらの光ファイバ101a,101bを光ファイバ検出器111に接続する。また、ラック11の吸気側又は排気側の少なくとも一方(図37では吸気側のみ)に風速(エアーの流速)測定用光ファイバ102を敷設し、この風速測定用光ファイバ102も光ファイバ検出器111に接続する。
光ファイバ検出器111は、基本的に図2に示す温度分布測定装置と同様の構造を有しており、温度測定用光ファイバ101a,101bにレーザパルスを供給する。そして、光ファイバ検出器111は、光ファイバ101a,101b内で発生した後方散乱光を検出し、その検出結果に基づいてラック11の吸気側及び排気側の平均温度を算出し、演算部112に出力する。
風速測定用光ファイバ102は、光ファイバとその近傍に配置された発熱体(電熱線)とにより形成される。例えば特許文献6,7には、光ファイバの近傍に発熱体を配置して流体の速度を検出する装置が記載されている。本実施形態では、風速測定用光ファイバ102として、光ファイバの所定の部分の周囲に電熱線を巻いたものを使用する。パイプ状に形成された発熱体と、その発熱体を挿通する光ファイバとにより風速測定用光ファイバ102を形成してもよい。
光ファイバ検出器111は、風速測定用光ファイバ102にもレーザパルスを供給し、光ファイバ内で発生した後方散乱光により発熱体近傍の温度を検出する。光ファイバ検出器111には予め実験等により得た風速と温度との関係が記憶されており、発熱体近傍の温度を風速に換算して演算部112に出力する。
演算部112は、光ファイバ検出器111から取得したラック11の吸気側及び排気側の平均温度と、吸気側(又は排気側)におけるエアーの平均流速とから、ラック11内に収納された電子装置83等からの発熱量(総発熱量)を演算し、表示装置(図示せず)等に出力する。
ラック11内の発熱量をQ(kcal/min)とし、吸気側の平均風速をFin(m/min)、排気側の平均風速をFout(m/min)、吸気側の平均温度をTin(℃)、排気側の平均温度をTout(℃)、吸気側の開口部の総面積をAin(m2)、排気側の開口部の総面積をAout(m2)とすると、下記(6)式が成り立つ。
Q=C(Fout・Aout)×(Tout−Tin)=C(Fin・Ain)×(Tout−Tin) …(6)
但し、Cは定数。
本実施形態では、ラック11の吸気側及び排気側の平均温度と、ラック11の吸気側又は排気側の平均風速とにより、ラック11内で発生する熱量を精度よく、且つリアルタイムで測定することができる。
なお、風速測定用光ファイバ102に替えて、前述したポイント測定型風速センサを使用することが考えられる。しかし、その場合はセンサの数が少ないと測定精度が低くなり、センサの数が多いとセンサの設置や保守管理に要するコストが高くなるという問題がある。本実施形態のように光ファイバを用いて風速を測定することにより、ラック11の吸気側又は排気側における平均風速を精度よく測定することができ、その結果発熱量の測定精度も高くなる。
上述した例では電子機器83が収納されたラック11内の発熱量を測定する場合について説明したが、開示した技術をラック以外の容器(吸気口及び排気口が設けられた容器)内で発生する熱量の測定に使用してもよい。