JP5224438B2 - 透明導電膜およびその製造方法 - Google Patents
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Description
透明導電膜は、低抵抗率で可視光に対して高い透過率を示すことから、液晶ディスプレイを中心としたフラットパネルディスプレイや太陽電池などの透明電極として幅広く用いられている。また、この透明導電膜を樹脂フィルム基板の表面に成膜した、透明導電性フィルムは、たとえば透明タッチパネルやEL(エレクトロルミネセンス)フラットランプの電極に使用されている。
すなわち本発明の透明導電膜は、マグネシウムと、炭素、ケイ素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(A)と、酸素と、水素とを含む。
本発明の透明導電膜は、マグネシウムを含むターゲットと、炭素、ケイ素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(A)を含むターゲットとを用いて、マグネシウムと該元素(A)とを含む膜を基板上に成膜し、該膜を、水を含む雰囲気に保持することにより得られる。
前記成膜が、共スパッタリング法により行われることが好ましい。
本発明の透明導電膜の製造方法は、マグネシウムを含むターゲットと、炭素、ケイ素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(A)を含むターゲットとを用いて、マグネシウムと該元素(A)とを含む膜を基板上に成膜し、該膜を、水を含む雰囲気に保持することを特徴とする。
[透明導電膜]
本発明の透明導電膜は、マグネシウムと、炭素、ケイ素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(A)と、酸素と、水素とを含む。
また本発明の透明導電膜中のマグネシウムと上記元素(A)との原子比(マグネシウム/元素(A))は、通常0.3〜20、好ましくは0.5〜10、より好ましくは1〜5の範囲にある。前記原子比が前記範囲内にあると、透明導電膜の光透過性および電気伝導性が向上する。
また、酸素と水素との原子比(酸素/水素)は、通常0.5〜1.5、好ましくは0.9〜1.1の範囲にある。
<透明導電膜の構造>
本発明の透明導電膜は、マグネシウムと、上記元素(A)と、酸素と、水素とが、該透明導電膜全体に均一に分布していることが好ましい。前記のように均一に分布していると、透明導電膜全体の光透過性や電気伝導性などの特性のバラツキが小さくなる。
本発明の透明導電膜の膜厚は、通常0.1〜5.0μm、好ましくは1.0〜3.5μmの範囲にある。膜厚が前記範囲にあると、高光透過性と電気伝導性とを有する透明導電膜を得ることが可能である。なお、前記膜厚は、AFM(原子間力顕微鏡)およびSEM(走査型電子顕微鏡)で測定した2点の平均膜厚である。
することが好ましい。なお、上記構造は、X線回折ピークの回折角度を解析することにより確認することができる。なお、従来から知られている透明導電膜はすべで酸化物であるが、上記結晶構造がブルサイト構造を有する透明導電膜は、その構造から非酸化物系透明導電膜であることが確認された。
発明の透明導電膜のX線回折ピークとを比べた際に、本発明の透明導電膜の(001)ピークが、Mg(OH)2の(001)ピークよりも低角度側にシフト、すなわちブルサイ
ト構造の層間距離が広がっていることから、上記元素(A)はブルサイト構造の層間に存在していると推定した。本発明者らは、透明導電膜の結晶構造がこのような構造をとることにより、本発明の透明導電膜がすぐれた電気伝導性を有すると推定した。
OH)2の対称性を有する構造(ブルサイト構造)を有するため、還元雰囲気(たとえば
水素雰囲気)下で該透明導電膜を加熱することにより、前記ブルサイト構造が分解され、マグネシウムの水素化物、水蒸気および炭化水素に分解すると考えられる。前記マグネシウムの水素化物は、たとえば1×10-2Pa程度の真空下、400℃に加熱すれば容易に単体マグネシウムに変換される。すなわち、前記非酸化物系の透明導電膜からは、容易に単体マグネシウムを得ることができ、資源的にみても前記非酸化物系の透明導電膜は優れている。
本発明の透明導電膜は、波長が350〜2500nmの範囲における光透過率が、通常80%以上である。特に可視光(380〜780nm)の波長領域では、透過率が80%以上であることが好ましい。なお、本明細書において光透過率は、ファインセラミックス薄膜の透過率試験方法(JIS R 1635)で制定されている測定法に従って測定される。
本発明の透明導電膜の比抵抗は低いほど好ましく、通常5×10-1Ωcm以下である。なお、前記比抵抗は、ファインセラミックス薄膜の比抵抗率試験方法(JIS R 1637)で制定される四探針法によって測定される。
本発明の透明導電膜を構成する結晶粒は、走査型電子顕微鏡を用いて観察することができる。観察される結晶粒の平均粒径は、好ましくは30〜500nm、より好ましくは30〜350nm、さらに好ましくは100〜200nmの範囲にある。平均粒径が前記範囲内にあると、透明導電膜の平滑性が向上し、可視光領域での乱反射が抑えられ、透明導電膜の透明性が向上する。なお、上記平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いて観察される各結晶粒の二軸平均径に基く平均粒径である。
本発明の透明導電膜の製造方法は、特に限定はされず、たとえばPVD(物理気相蒸着)法を用いて以下の方法で製造することができる。
本発明の透明導電膜の第1の製造方法は、マグネシウムを含むターゲットと、炭素、ケ
イ素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(A)を含むターゲットとを用いて、マグネシウムと該元素(A)とを含む膜を基板上に成膜し、該膜を、水を含む雰囲気に保持することを特徴とする。
本発明の透明導電膜の成膜に用いる、上記マグネシウムを含むターゲットは、マグネシウムの純度が通常2N5(99.5重量%)以上、好ましくは3N(99.9重量%)以上である。
また、マグネシウムを含むターゲットとしてはスパッタリング用マグネシウムターゲットなどの市販品を用いることもできる。
本発明の透明導電膜の成膜に用いる、上記元素(A)を含むターゲットは、元素(A)の純度が通常2N5(99.5重量%)以上、好ましくは3N(99.9重量%)以上である。前記ターゲットの組成成分としては、このターゲットから成膜される透明導電膜の光透過性や電気伝導性に悪影響を及ぼさない限り、他の元素を含んでいてもよい。
上記元素(A)を含むターゲットとしては、電気伝導性の観点から炭素を含むターゲットであることが好ましい。上記炭素を含むターゲットとしては、カーボングラファイトであることが、電気伝導性の観点から、より好ましい。
<成膜>
本発明の透明導電膜の製造方法では、マグネシウムを含むターゲットと、上記元素(A)を含むターゲットとを用いて、マグネシウムと該元素(A)とを含む膜を基板上に成膜する。
上記共スパッタリング法を用いる場合、スパッタリング装置は特に限定されず、SPC−350(アネルバ社製)などの市販の装置を用いることができる。
(基板)
本発明の透明導電膜の第1の製造方法に用いる基板としては、特に限定されず、ガラス基板、高分子基板などを透明導電膜の用途に応じて用いることができる。たとえば、ガラス基板は液晶ディスプレイパネルに、高分子基板は透明タッチパネルに好適に用いられる。
本発明の透明導電膜の第1の製造方法では、上記のようにして得られたマグネシウムと上記元素(A)とを含む膜を、水を含む雰囲気に保持することにより透明導電膜を得ることができる。保持する時間としては、主に水を含む雰囲気によって設定される。
(水蒸気を含む大気中)
上記水蒸気を含む大気とは、相対湿度が通常30〜100重量%、好ましくは40〜1
00重量%の範囲にある。マグネシウムと上記元素(A)とを含む膜を、水蒸気を含む大気中で保持する場合には、相対湿度が高いほど速やかに透明導電膜が得られるため好ましい。ただし、高湿度下に保持するためには、別途高湿槽などを設ける必要があり、工業的には、求められる生産速度、コスト等の兼ね合いから、相対湿度は適宜決定することができる。
上記水としては、水道水でも精製した水でもよく、コストの面から水道水が好ましく、得られる膜の品質の観点からは精製した水を用いることが好ましい。
マグネシウムと上記元素(A)とを含む膜を水中に保持した場合、通常10分以上、好ましくは10〜30分保持することにより、光透過性と電気伝導性とを有する透明導電膜を得ることができる。
本発明の透明導電膜の第2の製造方法は、マグネシウムを含む蒸発源と、炭素、ケイ素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(A)を含む蒸発源とを用いて、マグネシウムと該元素(A)とを含む膜を基板上に成膜し、該膜を、水を含む雰囲気に保持することを特徴とする。
本発明の透明導電膜の成膜に用いる、上記マグネシウムを含む蒸発源は、マグネシウムの純度が通常2N5(99.5重量%)以上、好ましくは3N(99.9重量%)以上である。
また、マグネシウムを含む蒸発源としては、蒸着用マグネシウムの塊、粉末、フレーク、ペレットなどの市販品を用いることもできる。
本発明の透明導電膜の成膜に用いる、上記元素(A)を含む蒸発源は、元素(A)の純度が通常2N5(99.5重量%)以上、好ましくは3N(99.9重量%)以上である。前記蒸発源の組成成分としては、この蒸発源から成膜される透明導電膜の光透過性や電気伝導性に悪影響を及ぼさない限り、他の元素を含んでいてもよい。
上記元素(A)を含む蒸発源としては、電気伝導性の観点から炭素を含む蒸発源であることが好ましい。上記炭素を含む蒸発源としては、カーボングラファイトであることが、電気伝導性の観点から、より好ましい。
本発明の透明導電膜の第2の製造方法では、マグネシウムを含む蒸発源と、上記元素(A)を含む蒸発源とを用いて、マグネシウムと該元素(A)とを含む膜を基板上に成膜する。
本発明の透明導電膜の第2の製造方法に用いる基板としては、上記第1の製造方法に記載した基板と同様のものを用いることができる。
本発明の第2の製造方法では、上記のようにして得られたマグネシウムと上記元素(A)とを含む膜を、上記第1の製造方法と同様の水を含む雰囲気に保持することにより透明導電膜を得ることができる。
本発明の透明導電膜は、光透過性と電気伝導性とを有し、資源枯渇問題が深刻化してきているITO薄膜の代替材料として用いることができる。
[実施例1]
(成膜前準備)
エタノール中で超音波洗浄を行ったガラス基板(パイレックス(登録商標)ガラス、厚み0.7mm、ダウコーニング社製)を、回転式基板ホルダー(公転速度:60rpm)(アノード側)に取り付け、スパッタリングチャンバー内にスパッタリングターゲット面と平行になるように配置した。
(成膜処理)
スパッタリングチャンバー内を真空ポンプにより2.8×10-3Paの圧力になるまで減圧した。
上記成膜処理の後、スパッタリングチャンバー内のスパッタガスを真空ポンプにより5×10-3Paの圧力になるまで排気した。
(1)透明導電膜の外観
(1−1)透明導電膜の外観(目視)
相対湿度60重量%の水蒸気を含む大気中で保持した際の経時変化を図1に示す。
図1(a−1)に示したように、成膜直後の状態では、MgC膜の色は黒色(金属光沢)−灰色の間の色を呈しており、光は透過されなかった。しかし、大気中での保持時間が経過((a−1)[成膜直後]→(a−2)[保持時間5分]→(a−3)[保持時間10分]→(a−4)[保持時間15分])するとともに、MgC膜は光を透過するようになり、透明導電膜へ変化した。
波長が350〜1000nmの範囲における、透明導電膜の光透過率を紫外可視分光光度計によって測定した。結果を図2に示す。波長350〜1000nmの範囲における、透明導電膜の光透過率は80%以上であった。
ガラス基板を含めた透明導電膜の光透過率(T1[%])を、紫外可視分光光度計(日本
分光(株)製)で測定した。リファレンス同様の条件でガラス基板のみの光透過率(T2[%])を測定し、下式より透明導電膜の透過率(T3[%])を算出した。
なお、測定はファインセラミックス薄膜の透過率試験方法(JIS R 1635)で制定されている測定法に従っておこなった。
(2−1)透明導電膜のX線回折の測定
透明導電膜のX線回折結果(薄膜材料結晶性解析X線回折装置、日本フィリップス(
株)製)を図3に示す。入射X線にはCuKα線(40kV、40mA)を用い、入射角は1°とした。Mg(OH)2構造の(001)、(101)および(110)面からの
強いピークが観測されたことから、透明導電膜はMg(OH)2の対称性を有する構造(
ブルサイト構造)を有することがわかった。
図4に示すように、透明導電膜をXPS(X線光電子分光、アルバック・ファイ(株)製)により、該膜表面から深さ方向にアルゴンイオンを用いてエッチングをしながら各段階において組成分析したところ、各段階を平均した際の透明導電膜中のマグネシウムと炭素との原子比はマグネシウム/炭素=3.8(原子比)であった。
透明導電膜のWDX(波長分散型元素分析、(株)島津製作所製)分析を行い、透明導電膜中にはマグネシウムと炭素と酸素とが共存することを観測した。
透明導電膜にはマグネシウムと炭素と酸素と水素とが共存していると推定した。
ること、透明導電膜の(001)ピークが、Mg(OH)2の(001)ピークよりも低
角度側にシフト、すなわちブルサイト構造の層間距離が広がっていることから、炭素原子
(C)は、ブルサイト構造の層間に組み込まれているものと推定した。
透明導電膜をAFM(原子間力顕微鏡、(株)キーエンス製)により観察した。
透明導電膜の平滑性を表す算術平均粗さRaは、図5から、43nmであることがわかった。
透明導電膜をSEM(走査型電子顕微鏡、(株)日立製作所製)により観察した。
透明導電膜の結晶粒の、二軸平均径に基く平均粒径は、図6から、150nmであることが分かった。
透明導電膜の比抵抗値を、四探針法(装置名 ハイテスター、日置電機(株)製)で測定した表面抵抗から算出した。その結果、図7に示すように、透明導電膜の比抵抗値は、外挿値から3×10-1Ωcmであった。
この比抵抗値は、開発された当初のITO薄膜やZnO薄膜などの値とほぼ同等であった。
成膜処理後、MgC膜が成膜されたガラス基板を大気中に保持する代わりに蒸留水中(温度23℃、浸漬時間30分)で保持した以外は実施例1と同様に行い、透明導電膜が成膜されたガラス基板を得た。
成膜処理までは実施例1と同様に行った。
成膜処理の後、スパッタリングチャンバー内のスパッタガスを真空ポンプにより5.0×10-3Paの圧力になるまで排気した。
成膜処理後、チャンバー内にチッ素ガスの代わりに乾燥酸素ガス(ジャパンファインプロダクツ(株)製)(純度6N5(99.99995重量%)以上)を導入した以外は比較例1と同様に行った。
[比較例3]
成膜処理後、チャンバー内にチッ素ガスの代わりに乾燥空気(ジャパンファインプロダクツ(株)製)を導入した以外は比較例1と同様に行った。
[実施例3〜5]
上記比較例1〜3の処理を行った後、MgC膜が成膜されたガラス基板を、実施例1と同様の条件で大気中に保持したところ、透明導電膜が成膜されたガラス基板を得た。
Claims (6)
- マグネシウムと、炭素と、酸素と、水素とを含む、ブルサイト構造を有する結晶構造からなり、マグネシウムと炭素との原子比(マグネシウム/炭素)が、0.3〜20であることを特徴とする透明導電膜。
- マグネシウムを含むターゲットと、炭素を含むターゲットとを用いて、マグネシウムと炭素とを含み、マグネシウムと炭素との原子比(マグネシウム/炭素)が、0.3〜20である膜を基板上に成膜し、該膜を、水を含む雰囲気に保持することにより得られることを特徴とする透明導電膜。
- 前記水を含む雰囲気が、水蒸気を含む大気または水であることを特徴とする請求項2に記載の透明導電膜。
- 前記成膜が、共スパッタリング法により行われることを特徴とする請求項2又は3に記載の透明導電膜。
- マグネシウムを含むターゲットと、炭素を含むターゲットとを用いて、マグネシウムと炭素とを含み、マグネシウムと炭素との原子比(マグネシウム/炭素)が、0.3〜20である膜を基板上に成膜し、該膜を、水を含む雰囲気に保持することを特徴とする透明導電膜の製造方法。
- マグネシウムを含む蒸発源と、炭素を含む蒸発源とを用いて、マグネシウムと炭素とを含み、マグネシウムと炭素との原子比(マグネシウム/炭素)が、0.3〜20である膜を基板上に成膜し、該膜を、水を含む雰囲気に保持することにより得られることを特徴とする透明導電膜。
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