JP5224359B2 - カルボキシル基を有する有機色素分子を含有するシリカナノ粒子の製造方法、前記製造方法により得られたシリカナノ粒子、それを用いた標識試薬 - Google Patents
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Description
蛍光標識を検出する装置としては波長488nmのAr+イオンレーザーが光源として用いられるのが一般的であるが、この波長で効率的に励起される色素としてフルオレセイン系色素(カルボキシフルオレセイン、フルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)など)が挙げられる。
また、シリカ粒子に蛍光色素分子を取り込む場合、蛍光色素分子同士の隣接間隔が狭くなると濃度消光により蛍光強度が低下してしまうため、より強い蛍光強度を実現するにはできるだけシリカ粒子内部に均一に色素分子を取り込むことが望ましい。しかし取り込み効率の低い色素分子の場合、先にシリカ粒子が形成された後からゆっくりとシリカに取り込まれるため、色素分子が粒子表面に偏在してしまう傾向がある。このことも、取り込み効率の低い色素分子を用いると強い蛍光強度が得られないという問題の要因となっている。
(1) 次の工程(a)及び(b)を含んでなることを特徴とする、有機色素分子を含有するシリカナノ粒子の製造方法、
(a)少なくとも1つのカルボキシル基を有する有機色素分子を、下記一般式1で表されるオルガノアルコキシシランのアミノ基とアミド結合させる工程、及び
(b)前記工程(a)で得られたアミド結合化合物とテトラアルコキシシランとをそれぞれ加水分解させ、得られたオルガノシラノール及びシラノールを縮重合反応させ、前記有機色素分子を含有するシリカナノ粒子を調製する工程、
一般式1
H2NR1Si(OR2)3
(式中、R1は、アミノ基を有する炭素数5の2価の分岐鎖状炭化水素基及び第二アミンを有する炭素数5の2価の直鎖状炭化水素基から選ばれる、少なくとも1つの正に帯電しうる部位を有する2価の置換基であって、式中のアミノ基(H2N)及びケイ素原子(Si)のそれぞれと単結合する2価の置換基を表す。OR2は炭素数1〜6のアルコキシル基を表す。)
(2) 前記工程(b)の後、さらに下記工程(c)を含んでなることを特徴とする(1)に記載の有機色素分子を含有するシリカナノ粒子の製造方法、
(c)さらにテトラアルコキシシランを反応液中に追加投入させて加水分解させ、得られたシラノール、前記反応中に残留している前記オルガノシラノール、及び前記工程(b)で得られた前記シリカナノ粒子を縮重合反応させることにより、シリカのシェル層を前記シリカナノ粒子の表面上に形成する工程、
(4) 前記工程(b)の前記シリカナノ粒子の調製時または前記工程(c)の前記シェル形成時において、前記テトラアルコキシシランとともに少なくとも1つのアミノ基を有するオルガノアルコキシシランを加水分解させ、得られたシラノール及びオルガノシラノールを縮重合反応させることを特徴とする(3)に記載のシリカナノ粒子の製造方法、
(6) 前記(5)に記載のシリカナノ粒子を用いて調製された標識試薬
を提供するものである。
本明細書及び特許請求の範囲において、「シリカナノ粒子」とは、平均粒径が、1000nm以下のコロイドシリカ粒子をいう。前記シリカナノ粒子を標識試薬として用いる場合、検出物質や検出法によって使用するのに好適な粒子径は様々であるが、20〜500nmの範囲内である場合が多く、この範囲にあるシリカナノ粒子であることが好ましい。
本発明のシリカナノ粒子の製造方法は、調製されるシリカナノ粒子の内部をアルカリ性に維持することにより、前記シリカナノ粒子内に含有される5(6)−カルボキシフルオレセイン等アルカリ性の環境で強い蛍光特性を発揮する有機蛍光色素の蛍光強度を増強することができる。
本発明の標識試薬は、高感度分析に用いることができる。
本発明の有機色素分子を含有するシリカナノ粒子の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という。)は、次の工程(a)及び(b)を含んでなる。
(a)少なくとも1つのカルボキシル基を有する有機色素分子と、前記一般式1で表されるオルガノアルコキシシランのアミノ基とを反応させてアミド結合させる工程、及び
(b)前記工程(a)で得られたアミド結合化合物とテトラアルコキシシランとをそれぞれ加水分解させ、得られた加水分解物であるオルガノシラノール及びシラノールを縮重合反応させ、前記有機色素分子を含有するシリカナノ粒子を調製する工程。
アミノ基を一つ持つシランカップリング剤である3−アミノプロピルトリエトキシシラン(以下APSと表記)とアミド結合させてシリカナノ粒子へ取り込ませる場合、5(6)−カルボキシフルオレセインの取り込み効率は5(6)−カルボキシTAMRAの20分の1以下である。その原因は、APSとアミド結合した5(6)−カルボキシフルオレセインは正の帯電部位を持たないのに対してAPSとアミド結合した5(6)−カルボキシTAMRAは正の帯電部位を持つことにあると考えられる。TAMRA分子には六員環に結合した窒素原子が2つあり、これらがアミンとして周囲の水素原子を引き抜くことで六員環のπ電子に偏りを誘発し、全体として正電荷の過剰をもたらす。実際には他の六員環と接続するカルボキシル基の水素原子が前記窒素原子に引き抜かれて、電離カルボキシル基による負の帯電部位とπ電子の偏りによる正の帯電部位が対で形成されると考えられる。一方フルオレセイン分子は窒素原子を有しておらず、このような形で正の帯電部位が形成されることはない。
通常のシリカナノ粒子の表面にはシラノールが電離した負の帯電部位のみが存在しており、陽イオンとの間に引力が働くが、前記TAMRA分子のように対の帯電部位を有する分子との間にも電気双極子に由来する引力が働く。この引力によって前記APSとアミド結合した5(6)−カルボキシTAMRA分子がシリカナノ粒子表面に吸着している間にAPS由来の部位がシリカナノ粒子表面とシロキサン結合を形成すれば、TAMRA分子はそのままシリカナノ粒子に取り込まれる。この引力の有無の差が、前述のような取り込み効率の差を生み出していると考えられる。
しかし、本発明においては、少なくとも1つの正に帯電しうる基Bを有する前記一般式1で表されるオルガノアルコキシシランを用いることにより、前記APSとアミド結合した5(6)−カルボキシフルオレセインのように正の帯電部位を持たない有機色素分子のシリカナノ粒子内への取り込み効率を増大させることができる。
前記一般式1で表されるオルガノアルコキシシランの具体例として、下記化合物1、化合物2(N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、化合物3等が挙げられる。
前記有機色素分子のNHSエステル等の活性エステル基と、前記オルガノアルコキシシランのアミノ基とのアミド結合反応(工程(a))は、DMSO(ジメチルスルホキシド)やDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)等の溶媒に溶解した後、室温(例えば、25℃)条件下で攪拌しながら反応することによって行うことができる。反応時間としては特に制限はないが、0.5〜2時間反応させることが好ましい。
その場合反応に用いる前記有機色素分子と前記オルガノアルコキシシランとの量的関係は、モル換算で等量であることが好ましい。NHSエステル基を有する有機色素分子は一般に高価なためできるだけ無駄を少なくしたいが、前記オルガノアルコキシシランの割合が高いと未反応のアミノ基を持つオルガノアルコキシシランがシリカ粒子に取り込まれることになり、シリカ粒子が純水中で凝集傾向を持ってしまうことがある。
本発明の製造方法等の前記工程(b)において、前記テトラアルコキシシランの反応溶媒に含有させる量は、多すぎると粒子同士の融合が発生しやすくなり、逆に低すぎても粒度分布が広がる傾向にある。具体的には0.1〜2.0体積%であることが好ましく、0.2〜1.0体積%であることがより好ましい。
本発明の製造方法等の前記工程(b)において、前記工程(a)で得られたアミド結合化合物の前記反応溶媒中に含有させる量は、前記テトラアルコキシシランとの混合モル比率として、1:100〜1:5の範囲で反応させることが好ましく、1:50〜1:10の範囲で反応させることがより好ましい。
この溶解ないしは含有させておく前記アミド結合化合物の量により、得られるシリカナノ粒子中の前記有機色素分子の含有量を制御できる。
本発明の製造方法等の工程(b)で用いられる前記反応溶媒に含有させるアンモニア水の濃度は、目的のシリカナノ粒子の平均粒径を制御する観点から、1〜28質量%であることが好ましく、2〜14質量%であることがより好ましい。
前記工程(b)における前記シリカナノ粒子の形成の温度条件としては特に制限はないが、0〜60℃の温度条件下で行うことが好ましい。反応時間としては特に制限はないが、1〜24時間反応させることが好ましい。
前記工程(a)で得られたアミド結合化合物も3個のアルコキシル基を有しており、これらが同様に加水分解により脱離するので、シリカとシロキサン結合を形成するに至ることが可能である。
一般にシリカとは、シロキサン結合(Si−O結合)に基づくケイ素原子及び酸素原子からなる3次元構造体を指すが、本発明においては前述のようなオルガノシロキサン成分を含有するケイ素原子及び酸素原子からなる3次元構造体を含むものとする。
シリカ粒子表面にはシロキサン結合を形成するに至らないシラノール基(Si−OH)が存在しており、これが負に帯電しやすい。そのため、前述の正に帯電しうる基Bは近距離まで接近した段階でそのB基とシラノール基の間に引力が働き、シリカに吸着される。このような場合の吸着力はそれほど強くないため、熱振動によって再び脱離することもある。しかし吸着している間にSi(OR2)3部分が反応しシロキサン結合を形成してしまえばもはや脱離することはなくなるため、正に帯電しうる基Bが存在するだけでもシリカナノ粒子への取り込み効率を高めることができる。
また、正と負の帯電部位を対で持つ分子も電気双極子に由来する引力が働くため、正に帯電しうる基のみを持つ分子と同様にシリカナノ粒子への取り込み効率を高めることができる。
(c)さらにテトラアルコキシシランを反応液中に追加的に含有させて加水分解させ、得られたシラノール、前記反応液中に残留している前記オルガノシラノール、及び前記工程(b)で得られた前記シリカナノ粒子を縮重合反応させることにより、シリカのシェル層を前記シリカナノ粒子の表面上に形成する工程。
そこで、前記工程(c)により新たにテトラアルコキシシランを反応溶液中に含有させて粒子形成反応を再開することにより、前記アミド結合化合物の取り込みを誘発して調製されるシリカナノ粒子1個当たりの前記有機色素分子の含有量を増大させることができる。
厚さ1nmのシェルを形成するのに必要なシランカップリング剤としての前記テトラアルコキシシランの使用量は、コロイドの粒径によって異なる。例えばコロイドの平均粒径が30nmである場合、厚さ1nmのシェルを形成するのに必要な前記テトラアルコキシシランの使用量は前記工程(b)で使用したテトラアルコキシシランの量の10%であるのに対して、コロイドの平均粒径が300nmである場合、同じ厚さのシェルを形成するには同1%の量のテトラアルコキシシランを使用すればよい。
粒子形成反応(シリカコロイド形成反応)の終盤にはシリカナノ粒子の原料となるシラノールの濃度が低下し、一方取り込み効率の高くない前記有機色素分子の溶液中での濃度はそれほど低下していないことから、シリカコロイド形成反応の終盤に形成されるシリカナノ粒子表面近傍では中心部と比べて前記有機色素分子の濃度が高くなる。これは前記工程(c)で形成されるシェル層についても当てはまり、シェル層の内側において前記有機色素分子濃度が低く、外側において濃度が高くなる。
シェル層が薄すぎると、前記シリカナノ粒子の表面近傍の有機蛍光色素成分が偏在する部分と、隣接するシェル層における前記有機蛍光色素成分が高濃度に偏在する部分との距離が近すぎ、FRETが生じ、前記有機蛍光色素成分間で自己消光を起こして蛍光強度が低下してしまう(例えば、Physical Review B 73,245302(2006)参照。)。FRETを効果的に抑制するには有機蛍光色素同士が10nm以上の間隔を隔てている状態が好ましく、したがって前記シェル層の厚さは10nm以上あることが好ましい。
10nm以上の層を形成させるために前記反応溶液中にさらに含有させる前記テトラアルコキシシランの量は、その時点で形成されているシリカナノ粒子の粒径によって異なり特に制限はないが、例えば平均粒径30nmのシリカナノ粒子に10nmの層を形成させるためには、前記工程(b)において使用した前記テトラアルコキシシラン100質量部に対して100〜120質量部が好ましく、平均粒径100nmのシリカ粒子に10nmの層を形成させるためには、前記工程(b)において使用した前記テトラアルコキシシラン100質量部に対して30〜36質量部が好ましい。
本発明の製造方法等において前記工程(c)を2回以上繰り返すことにより、得られるシリカナノ粒子1個当たりの前記有機色素分子の含有量をさらに増大させてもよい。ただし前記工程(c)を何度も繰り返すのは煩雑であり、またそれによって合成されるシリカナノ粒子の粒度分布が広くなるという弊害もあることから、前記工程(c)の繰り返し回数をいくらでも多くすればよいというわけではない。実際には、前記シリカナノ粒子の表面上に1〜6層の前記有機色素分子を含有するシリカのシェル層を形成するために、前記工程(b)を1〜6回行うことが好ましい。
5(6)−カルボキシフルオレセイン等のフルオレセイン色素はアルカリ環境下で蛍光強度が増大することが知られている。本発明ではこの点を活用し、調製されるシリカナノ粒子の内部においてアルカリ性を維持することで、従来法によりフルオレセイン色素を含有させて達成する場合よりも高い蛍光強度を実現することができる。
前記アミノ基を有するオルガノアルコキシシランとしては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、前述の化合物1〜3、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができ、APSが好ましい。
この問題を解決するためには、アミノ基が存在する粒子表面の外側にアミノ基を含有しないシリカのシェル層を設ければよい。
具体的な溶媒置換処理操作としては、前記工程(b)又は(c)の終了後、得られた反応溶液を200×g〜2000×gを5〜20分の弱い遠心分離により粒子を沈降させた後、直ちに上清液を除去し、得られた沈殿物を前記新たな反応溶媒に再分散させる方法や、YM−10、YM−100(いずれも商品名、ミリポア社製)等の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行った後、前記新たな反応溶媒に再分散させる方法等が挙げられる。
シェルの厚さは、シリカ粒子の持つ正の帯電部位に対応する分散液中のカウンターイオン(アミノ基を持つシリカ粒子が純水中に分散している場合、アミノ基のカウンターイオンは水酸化物イオンとなる)の分散範囲を粒子のすべり面よりも内側に閉じ込める程度、すなわち10nm程度でよい。
シリカは、一般に、化学的に不活性であると共に、その修飾が容易であることが知られている。本発明のシリカナノ粒子もまた、容易に所望の物質を表面に結合させることが可能である。
本発明のシリカナノ粒子は、所望の標的生体分子を分子認識する物質を表面に結合もしくは吸着させることが好ましい。
前記シリカナノ粒子が、前記有機色素分子として蛍光色素分子もしくは吸光色素分子を含有する場合、検体(例えば、任意の細胞抽出液、溶菌液、培地・培養液、溶液、バッファー)中の標的生体分子(生理活性物質を含む。)を蛍光ないしは吸光色素標識付けすることができる。
前記シリカナノ粒子を表面修飾する前記標的生体分子を分子認識する物質としては、抗体、抗原、ペプチド、DNA、RNA、糖鎖、リガンド、受容体、化学物質等が挙げられる。
ここで、分子認識とは、(1)DNA分子間又はDNA−RNA分子間のハイブリダイゼーション、(2)抗原抗体反応、(3)酵素(受容体)−基質(リガンド)間の反応など、生体分子間の特異的相互作用をいう。
また化学物質とは天然有機化合物に限らず、人工的に合成された生理活性を有する化合物や環境ホルモン等を含む。
すなわち、前記シリカナノ粒子を表面修飾した標的生体分子を分子認識する物質は、それ自体が受容体部位となって、例えば抗原−抗体反応、ビオチン−アビジン反応、塩基配列の相補性を利用したハイブリダイゼーションなどの特異的な分子認識を利用して、標的生体分子に特異的に結合することができる。
本発明のシリカナノ粒子の表面への、前記生体分子による吸着等の表面修飾が、縮合剤ないしは架橋剤の存在下又は非存在下にて、前記シリカナノ粒子のコロイドと前記生体分子の溶液とを混合することにより行われることが好ましい。
例えば、縮合剤等の非存在下、前記シリカナノ粒子のコロイドと前記生体分子の溶液とを混合することにより、前記生体分子は、前記シリカナノ粒子の表面と吸着することができる。
表面修飾に用いる前記縮合剤ないしは架橋剤の当量数、前記コロイドの分散媒、前記生体分子の溶液の溶媒の種類・容量、及び反応温度等の反応条件については表面修飾が進行する限り特に制限はない。
前記表面修飾した後、前記シリカナノ粒子と前記シリカナノ粒子に結合ないし吸着していない前記生体分子との分離は、遠心分離または限外ろ過によって可能である。
前記生体分子により前記シリカナノ粒子を表面修飾した後は、前述の非特異的吸着をさらに防止する観点から、PEG、BSAなどの任意のブロッキング剤でブロッキング処理を施してもよい。
前記生体分子の表面修飾が出来たかどうかの確認は、混合液から遠心分離または限外ろ過で粒子を除去した溶液に含まれる前記生体分子を一般的なタンパク質定量法(例えば、UV法、Lowry法、Bradford法)で定量し、減少した前記生体分子の量を定量することで行うことができる。
本発明の標識試薬は、本発明のシリカナノ粒子を用いてなる。前記シリカナノ粒子を用いて、蛍光ないし吸光色素標識を付与することが好ましい。さらに前述のシリカナノ粒子の表面修飾により抗体やホルモンなどの標的生体分子を分子認識する物質でシリカ粒子表面を修飾し、光学特性を検出する装置又は目視によって前記標的生体分子が評価されるべき試料中に存在するか否か等の評価を可能にする標識試薬として利用することができる。
本発明の標識試薬の具体例としては、生体分子検出試薬、生体分子定量試薬、生体分子分離試薬、生体分子回収試薬または免疫染色用試薬が挙げられる。
前記標的生体分子を検出、定量、分離または回収する分析試薬とすることができる。また、前記標的生体分子との分子認識が、抗原−抗体反応である場合は、前記シリカナノ粒子を用いてなる免疫染色用試薬とすることができる。
実施例1(本発明のシリカナノ粒子の調製)
1.工程(a)
粉末状の5(6)−カルボキシフルオレセイン−NHSエステルをDMFに溶解させ、その濃度を10mMとした(0.2ml)。この色素溶液を2つに分け、一方に比較例として前記色素と等量のAPSを、もう一方には本発明例として前記色素と等量のN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(以下AEAPSという。)(フルオロケム社製)を入れ、室温(25℃)で1時間振とう撹拌してアミド結合反応させ、それぞれ、アミド結合化合物を得た(以下、それぞれ、フルオレセイン−APS、フルオレセイン−AEAPSという。)。
得られた色素溶液を10mNの水酸化ナトリウム水溶液で5000倍に希釈し、吸光光度計V650(商品名、日本分光社製)を用いて光路長1.0cm(以下同様である。)での光吸収スペクトル測定を、並びに蛍光分光光度計FP−6500(商品名、日本分光社製)を用いてフォトルミネッセンス(PL)スペクトル測定を行った。図1は、濃度1μMでのフルオレセイン−APSとフルオレセイン−AEAPSの水酸化ナトリウム水溶液中での光吸収スペクトルおよびPLスペクトルを示す図である。光吸収の表記は吸光度(無次元)とし、PLの単位はarbitrary unit(a.u.:任意単位)として表した。以下同様である。
図1から明らかなように、両試料のスペクトル結果において調製誤差以上の違いは見られなかった。
14質量%のアンモニア水をエタノールで5倍に希釈し、シリカコロイド調製用溶液とした。その中に体積比0.5%分のTEOS(0.05ml)と、カルボキシフルオレセイン‐APS又はフルオレセイン−AEAPSの色素溶液とを添加して、2時間撹拌し、シリカナノ粒子形成反応を行った。
ここで前記フルオレセイン−APSの色素溶液、前記フルオレセイン−AEAPSの色素溶液は前記工程(a)で調製したものを用いており、それぞれの色素について個別の試料とした。各色素溶液(10mM)の投入量は体積換算でTEOSの投入量の2倍とした。
反応終了後、分散液をコニカルチューブに入れて5000×gの遠心力での遠心分離に10分間かけ、調製されたコロイドシリカ粒子を抽出した。その後、同様な遠心分離によってエタノールで2回、純水で4回のコロイド洗浄を行い、シリカナノ粒子を得た(10g/l×1.3ml)。
なお、得られたシリカナノ粒子の濃度(g/l)は、シリカナノ粒子分散液から一部を取り分けてそこに含有されるシリカナノ粒子のみを回収し、乾燥させて得られた質量を計測して得られた値である(以下同様である。)。
洗浄後得られたシリカナノ粒子は既にその段階で発色強度が大きく異なっており、フルオレセイン−AEAPSの方がはるかに高い取り込み効率を有していることが分かった。
洗浄後の比較例としてのフルオレセイン−APS含有シリカナノ粒子、本発明例としてのフルオレセイン−AEAPS含有シリカナノ粒子それぞれを純水中に分散させ、光吸収スペクトル測定およびPLスペクトル測定を行った。図2は、フルオレセイン−APS含有シリカナノ粒子コロイド分散液とフルオレセイン−AEAPS含有シリカナノ粒子コロイド分散液の光吸収スペクトルおよびPLスペクトル(いずれもシリカナノ粒子濃度1g/l当りにおけるスペクトル)を示す図である。
図2から明らかなように、本発明例としてのフルオレセイン−AEAPSの方が比較例としてのフルオレセイン−APSよりも吸光強度換算で10倍、蛍光強度換算で7倍多くシリカナノ粒子内部に取り込まれていることが確認された。
なお、調製されたシリカナノ粒子の粒度分布は200±20nmで同じだった。
1.工程(b)
4質量%のアンモニア水をエタノールで5倍に希釈し、溶液全体を50℃に加熱した。その中に体積比0.5%分のTEOS(0.05ml)と実施例1の1.工程(a)で調製したフルオレセイン−AEAPSの色素溶液を添加して、3時間撹拌し、シリカナノ粒子形成反応を行った。
前記色素溶液の投入量は体積換算でTEOSの投入量の2倍とした(色素溶液濃度は実施例1と同様である。)。
2.工程(c): APSを含有する第一シェル層の形成
その後、初回のTEOS投入量に対し25体積%のTEOSと2体積%のAPSとを追加投入し、さらに撹拌を続けた。このとき反応液の加熱を停止して徐冷を始め、それから1時間後までに反応液温度を室温(25℃)まで降下させた。その後およそ20時間撹拌を続行した。反応終了後、分散液をコニカルチューブに入れて10000×gの遠心力での遠心分離に15分間かけ、調製されたシリカナノ粒子をチューブの底部に沈降させた。残留する色素やAPSを含有する上清を除去し、APSを含有する第一シェル層を有するシリカナノ粒子を得た。
3.工程(c): APSを含有しない第二シェル層の形成
次に、別に用意しておいた4質量%アンモニア水とエタノール(アンモニア水:エタノール=1:4)とからなるシェル形成反応溶液を加えて沈降させたコロイドを超音波照射によって再分散させた。このコロイド分散液を再度反応容器に戻し、再度初回のTEOS投入量に対し25体積%のTEOSを添加した。そして室温下で2時間撹拌を続行し、TEOS純度の高い第二シェル層を形成した。その後コロイドを抽出し、同じ遠心分離によってエタノールで2回、純水で4回のコロイド洗浄を行い、APSを含有しない第二シェル層を有するシリカナノ粒子を得た(10g/l×1.2ml)。
なお、調製されたシリカナノ粒子の粒度分布は50±10nmで同じだった。
得られたシリカナノ粒子の光学特性を評価した。
図3及び4は、それぞれ、上記得られたAPSを含有する第一シェル層とAPSを含有しない第二シェル層とを有するシリカナノ粒子(粒度分布50±10nm)を純水に分散させたコロイド分散液(以下、アルカリ化コロイド分散液と表記)の光吸収スペクトルおよびPLスペクトル(いずれもシリカナノ粒子濃度1g/l当りにおけるスペクトル)を示す図である。
図中、比較として、APSを含有せず2層のシェルを有するシリカナノ粒子(粒度分布50±10nm)を、純水に分散させたコロイド分散液(以下、非アルカリ化コロイド分散液と表記)と10mN水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)に分散させたコロイド分散液(以下、非アルカリ化コロイドのアルカリ分散液と表記)の光吸収スペクトルおよびPLスペクトル(いずれもシリカナノ粒子濃度1g/l当りにおけるスペクトル)も示す。
図3及び4に示したこれらの結果から、前記アルカリ化コロイド分散液の光吸収スペクトルおよび蛍光強度は、前記非アルカリ化コロイド分散液の特性から前記非アルカリ化コロイドのアルカリ分散液の特性へと近づいていることが分かる。このことから、前記アルカリ化コロイドにおいて第一シェルにAPSを含有させたことがコロイド粒子内部のアルカリ化を実現していることが明らかであり、シリカ粒子にAPSを含有させることがフルオレセイン色素の蛍光強度を高める効果を有していることが確認される。
続いてコロイド分散液のゼータ電位を測定し、さらに分散性について評価した。ゼータ電位の測定は、測定装置としてゼータサイザーナノ(商品名;マルバーン社製)を用いて行なった。分散性の評価は、SEM(走査型電子顕微鏡;日立製作所製)によってコロイドの粒子像を観察することで行った。
図5は、シリカナノ粒子の純水中でのゼータ電位を示した図である。図中、aはAPSを含有する第一シェル層を有してAPSを含有しない第二シェル層を有さないシリカナノ粒子(以下、APS表面未被覆粒子と表記)のゼータ電位を示すピーク、bはAPSを含有する第一シェル層およびAPSを含有しない第二シェル層を有するシリカナノ粒子(以下、APS表面被覆粒子と表記)のゼータ電位を示すピークである。
図5に示したこの結果から、APS表面未被覆粒子のゼータ電位はAPS表面被覆粒子のものと比べて絶対値が低いことが分かる。これは、APS表面未被覆粒子では粒子表面に存在するAPS由来のアミノ基の効果でシリカ粒子が本来持つ負のゼータ電位が正の方向へと推移したのに対し、APS表面被覆粒子では同じく存在するAPS由来のアミノ基が第二シェル層に被覆されて粒子の内側に位置することになり、粒子のゼータ電位への影響力が失われたことを示している。
図7はAPS表面未被覆粒子のSEM画像を示す図である。なお、図7中のスケールバーは300nmを示す(倍率10万倍)。図中、白く見えるシリカ粒子が凝集して立体的な網目状構造を形成していることが分かる。液滴界面の後退によりかき集められた粒子がこのように立体的な構造となることはあり得ず、したがってこれは粒子が分散媒中に存在していた段階で既に形成されていた凝集構造であるといえる。
以上のSEM観察の結果からも、APS由来のアミノ基が粒子表面にあると粒子の分散性が低下し、その表面をアミノ基を含有しないシリカのシェル層で被覆すると分散性が回復することが分かる。
(シリカナノ粒子のコロイドへの抗体の吸着)
遠心管に50mM KH2PO4(pH6.5)を1mLと、実施例2のシリカナノ粒子のコロイド(10mg/mL)9mLを加えて軽く撹拌した。遠心管に抗hCG抗体(Anti−hCG clone codes/5008, Medix Biochemica社製)1mL(60μg/mL)を撹拌しながら加え、室温で1時間静置した。これに1質量%のPEG(ポリエチレングリコール、分子量20000、和光純薬工業社製)を0.55mL加え軽く撹拌し、更に10%BSAを1.1mL加え軽く撹拌した。
混合液を12000×gで15分間遠心分離し、上清を1mL程度残して取り除き、残した上清に沈殿を分散させた。この分散液に保存用バッファー(20mM Tris−HCl(pH 8.2), 0.05% PEG20000, 1%BSA, 0.1%NaN3)を20mL加え、再度遠心分離し、上清を1mL程度残して取り除き、残した上清に沈殿を分散させた(コロイドA)。
続いて、前記抗hCG抗体を表面修飾したシリカナノ粒子のコロイド(コロイドA)100μlを96穴マイクロプレートのウェルの1つに入れた。次に、抗IgG抗体(Anti Mouse IgG、Dako社製)が1mg/mL含まれる溶液(50mMKH2PO4,pH7.0)を用意した。図8は、分子認識試験に用いたストリップ1の平面図である。一方の末端2から約15mmの位置3にライン状に、前記溶液を0.75μL/cmの塗布量(約1mm幅)で塗布したメンブレン4(Hi−Flow Plus120 membrane、MILLIPORE社製)を5mm幅にカットし、ストリップ1(丈25mm)とした。
前記ストリップ1の末端を前記96穴マイクロプレートのウェルの1つに入れた抗hCG抗体を表面修飾したシリカナノ粒子のコロイドに浸し、1時間放置した。
図8から明らかなように、抗IgG抗体がライン状に塗布された部分3が赤く発色し、前記抗hCG抗体を表面修飾したシリカナノ粒子が形成されていることが確認された。また、本発明のシリカナノ粒子が分析試薬として好適であることが分かる。
Claims (6)
- 次の工程(a)及び(b)を含んでなることを特徴とする、有機色素分子を含有するシリカナノ粒子の製造方法。
(a)少なくとも1つのカルボキシル基を有する有機色素分子を、下記一般式1で表されるオルガノアルコキシシランのアミノ基とアミド結合させる工程、及び
(b)前記工程(a)で得られたアミド結合化合物とテトラアルコキシシランとをそれぞれ加水分解させ、得られたオルガノシラノール及びシラノールを縮重合反応させ、前記有機色素分子を含有するシリカナノ粒子を調製する工程。
一般式1
H2NR1Si(OR2)3
(式中、R1は、アミノ基を有する炭素数5の2価の分岐鎖状炭化水素基及び第二アミンを有する炭素数5の2価の直鎖状炭化水素基から選ばれる、少なくとも1つの正に帯電しうる部位を有する2価の置換基であって、式中のアミノ基(H2N)及びケイ素原子(Si)のそれぞれと単結合する2価の置換基を表す。OR2は炭素数1〜6のアルコキシル基を表す。) - 前記工程(b)の後、さらに下記工程(c)を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の有機色素分子を含有するシリカナノ粒子の製造方法。
(c)さらにテトラアルコキシシランを反応液中に追加投入して加水分解させ、得られたシラノール、前記反応液中に残留している前記オルガノシラノール、及び前記工程(b)で得られた前記シリカナノ粒子を縮重合反応させることにより、シリカのシェル層を前記シリカナノ粒子の表面上に形成する工程。 - 前記有機色素分子が5(6)−カルボキシフルオレセインであり、前記工程(b)及び(c)の加水分解及び縮重合反応が水−エタノール混合溶媒中アンモニア存在下で行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
- 前記工程(b)の前記シリカナノ粒子の調製時または前記工程(c)の前記シェル形成時において、前記テトラアルコキシシランとともに少なくとも1つのアミノ基を有するオルガノアルコキシシランを加水分解させ、得られたシラノール及びオルガノシラノールを縮重合反応させることを特徴とする請求項3に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたシリカナノ粒子。
- 請求項5に記載のシリカナノ粒子を用いて調製された標識試薬。
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