以下に、本発明にかかる免震建物の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態にかかる免震建物は基本的には、図1から図4に示すように、柱2と柱2、2間の梁3によるラーメン架構で各階スラブ4を支持して構築され、平面形状が長方形に形成され、長辺方向(図1におけるX方向)に並ぶ柱2のスパンLxが短辺方向(図1におけるY方向)に並ぶ柱2のスパンLyより短く設定されるとともに、積層ゴム支承免震装置5が挿入された柱25および滑り支承免震装置6が挿入された柱26で柱2が構成された免震装置設置階Aを有している。図1は、免震装置設置階Aの見上げ図である。免震装置設置階Aの長辺方向の中間部に短辺方向で並ぶ柱2は、滑り支承免震装置6が挿入された柱26により構成されるとともに、滑り支承免震装置6が挿入された柱26に接続される短辺方向の梁はなくされている。柱25及び柱26は、室内空間を確保し有効利用する目的から、それらの中間部で切断され、その切断箇所に積層ゴム支承免震装置5及び滑り支承免震装置6が挿入されている。免震装置設置階Aの直上階Bのスラブ4は、中空スラブにより構成されている。免震装置設置階Aの積層ゴム支承免震装置5が挿入された柱25、25間には、短辺方向に耐震架構7が設けられている。本実施形態では、免震装置設置階Aに耐震架構7が設けられているが、当該階の柱25上に接続される、免震装置設置階Aの直上階Bの柱35,35の間に、短辺方向で耐震架構70を設けてもよく、また、耐震架構7および耐震架構70の両方を設けてもよい。両方を設けた場合、耐震架構をいずれか一方に設ける場合に比べて、構造体の剛性及び耐力は、さらに十分に確保できる。
本実施形態における免震建物は、複数階で構成されるRC造のラーメン構造建物であり、直接基礎で地盤に支持されている。免震建物は、新築でも、既存建物を免震化したものであっても良い。免震装置設置階Aは地盤面GLより下方に設けられ、免震装置設置階Aの直上階Bは、免震建物の一階に設定されている。免震装置設置階Aは居室を有する階である必要はなく、床と、免震装置5、6を挿入できる柱25,26を有する階であればよい。また、免震装置設置階Aは、地盤面GLより下の階に限定されるものではなく、建物のいずれの階に設定してもよい。
本実施形態における免震装置設置階Aの平面形状は、横長(図1におけるX方向に長い)の長方形に形成されている。免震装置設置階Aには、免震装置設置階Aの長辺方向に並ぶ柱2が二列、短辺方向に並ぶ柱2が四列配置されている。本実施形態における長辺方向の各柱2、2間の各スパンLxは、いずれも等しく設定され、短辺方向の柱のスパンLyの1/2程度の寸法に設定されている。ただし、長辺方向の各柱2、2間の各スパンLxは、全てが同一寸法である必要はなく、スパンLxで異なる寸法に設定してもよい。さらに、スパンLxはスパンLyより短ければ、スパンLyの1/2以上又はそれ未満でも良い。
免震装置設置階Aの四隅に位置する柱25は、積層ゴム支承免震装置5が挿入されるもので、既存建物を免震建物とする場合には、既存の柱を切断し積層ゴム支承免震装置5を挿入して柱25を構築する。
積層ゴム支承免震装置5は、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体の荷重を支持する支承機能と、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体と下方の構造体を別振動系とする絶縁機能と、地震時に変位した建物を元の位置に復原させる復原機能を有する免震装置であり、薄いゴムと金属板を交互に重ね合わせて接着した積層ゴムにより構成されている。本実施形態における、積層ゴム支承免震装置5は高減衰積層ゴム支承で構成され、地震による振動エネルギーを吸収する減衰機能も有している。なお、地震による振動エネルギーを吸収する機能を有しない積層ゴム支承免震装置を用いる場合は、振動エネルギーを吸収する機能を有するダンパを別途設ける必要がある。地震時に積層ゴム支承免震装置5が水平方向に変形した際、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体および下方の構造体に曲げモーメントが発生する。ここで発生する「曲げモーメント」は、図5(a)に示すように、上記減衰力と上記復原力によるせん断力Qから生じる「水平力(せん断力)による曲げモーメント(Q・h1:h1は、免震装置5の高さ方向中央から梁3の梁芯までの距離)」と、図5(b)に示すように、積層ゴム支承免震装置5上方の柱芯位置と下方の柱芯位置がずれること(図中、δ1)により発生する「軸力による曲げモーメント(P・δ1/2:Pは軸力)」が合わされたものである。なお、本実施形態における、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体は、積層ゴム支承免震装置5上方の柱25の部分と、それに接続される梁3およびスラブ4である。また、本実施形態における免震装置設置階Aが免震建物の最下階に設定され、免震建物の基礎は杭を有しない直接基礎であるため、積層ゴム支承免震装置5下方の構造体は、積層ゴム支承免震装置5下方の柱25の部分と、それに接続されるフーチング10やフーチング10、10間に必要に応じて設けられるつなぎ梁11、および土間スラブ12である。免震建物の基礎が杭を有する構造である場合、積層ゴム支承免震装置5下方の構造体には杭も含まれる。なお、免震装置設置階Aが免震建物の最下階より上階に設定される場合の積層ゴム支承免震装置5下方の構造体は、積層ゴム支承免震装置5下方の柱25の部分と、それに接続される梁3およびスラブ4で構成される。
積層ゴム支承免震装置5には、鉛プラグ入り積層ゴムで構成された積層ゴム支承免震装置5を用いても良い。その場合は、「水平力(せん断力)による曲げモーメント」は、積層ゴムを弾性変形させ、鉛プラグを塑性変形させる際の曲げモーメントとなる。鉛プラグの塑性変形により地震時のエネルギー吸収が行われ、免震装置としての減衰機能が発揮される。
免震装置設置階Aの長辺方向の中間部、すなわち長辺方向の両端部以外の長辺方向中央部に短辺方向で並ぶ柱2は、滑り支承免震装置6が挿入された柱26により構成されている。言い換えれば、本実施形態の免震装置設置階Aにおいては、柱25以外の他の柱2が全て柱26で構成されている。既存建物を免震建物とする場合には、既存の柱2を切断して滑り支承免震装置6を挿入して柱26を構築する。滑り支承免震装置6は、それより上方の構造体の荷重を支持する支承機能と、それより上方の構造体と下方の構造体を別振動系とする絶縁機能を有する免震装置であり、本実施形態においては復原機能および減衰機能をほとんど有していない。
図9に本実施形態における滑り支承免震装置6の断面を示す。本実施形態における滑り支承免震装置6は、柱26の中間部分に挿入されている。滑り支承免震装置6が挿入される部分の柱26の両端面には鋼板64が取り付けられている。滑り支承免震装置6は、その平面上の中心位置を、柱26の柱芯位置に一致させて挿入されている。滑り支承免震装置6は鋼板64、64間に取り付けられる。滑り支承免震装置6は、その上部分を構成する積層ゴム部分6aとその下部分の滑り板60で構成される。積層ゴム部分6aは、積層ゴム62と、その上面に設けられ、鋼板64に接続される取付用フランジ鋼板61と、積層ゴム62の下面に設けられ、滑り板60に接する滑り材63とから構成される。積層ゴム部分6aの積層ゴム62は、積層ゴム支承免震装置5の積層ゴムより薄く形成されている。滑り支承免震装置6の滑動開始時において滑り支承を緩やかに始動することが出来る。滑り材63は鋼板で形成され、滑り板60と接する面にはフッ素樹脂コーティングが施されている。積層ゴム部分6aは、滑り支承免震装置6上方の柱26部分の鋼板64に、積層ゴム部分6aの平面上の中心位置を柱芯に一致させ、滑り材63を下に向けて取り付けられる。滑り板60は、滑り支承免震装置6下方の柱26部分の鋼板64に、滑り板60の平面上の中心位置を柱芯に一致させて取り付けられる。滑り板60はステンレス製鋼板で形成され、その上面に積層ゴム部分6aの滑り材63が接する。滑り板60の上面には、フッ素樹脂コーティングが施されている。滑り支承免震装置6は、積層ゴム部分6aの滑り材63と滑り板60が接触して、滑り支承免震装置6上方の構造体の鉛直荷重を滑り支承免震装置6下方の構造体へ伝達しつつ、滑り材63が滑り板60上を滑動可能に柱26に取り付けられる。滑り材63と滑り板60の接触部分にはフッ素樹脂コーティングが施されているため、静止時および滑動時の摩擦抵抗が低減されている。
滑り支承免震装置6は、地震時の水平力が滑り材63と滑り板60間の静止摩擦抵抗より小さい段階では、積層ゴム部分6aの積層ゴム62が横方向で変形し、静止摩擦抵抗より水平力が大きくなった段階で積層ゴム部分6aが滑り板60上を滑動する。この際、積層ゴム62の変形量は、積層ゴム支承免震装置5に比べて極めて微少であり、滑り始めると動摩擦抵抗も小さいことから積層ゴム62の変形量はさらに小さくなる。
積層ゴム62が横方向に変形することにより、図6(b)に示すように、滑り支承免震装置6上方の柱芯位置と滑り材63の平面上の中心との間に多少のずれ(δ1)が生じるが、そのずれは積層ゴム支承免震装置5のずれに比べて極めて小さいため、滑り支承免震装置6上方の構造体に対する「軸力よる曲げモーメントP・δ1/2」も、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体に対する「軸力による曲げモーメントP・δ1/2」に比べて極めて小さい(図5(b)および図6(b)参照)。従って、滑り支承免震装置6上方の柱26部分から直上階Bのスラブ4を支持するための梁をなくすことができる。一方、滑り支承免震装置6下方の構造体では、積層ゴム部分6aが弾性変形しつつ滑り板60上を滑動するため、軸力Pが作用する位置が滑り板60の中心から大きくずれ、「軸力による曲げモーメントP・δ1/2」が、滑り支承免震装置6上方の構造体に作用する「軸力よる曲げモーメントP・δ1/2」より大きくなる。このため、滑り支承免震装置6下方の柱26部分及びそれを支持する下部構造については、その剛性や耐力を増強する必要がある。なお、図6(a)に示すように、滑り支承免震装置6では、せん断力Qから生じる「水平力(せん断力)による曲げモーメント(Q・h1)」は極めて小さい。
そして、本実施形態のように積層ゴム支承免震装置5及び滑り支承免震装置6を組み合わせた免震装置で構成される免震建物では、地震時の水平力により、免震建物に作用する減衰力と復元力の大部分は積層ゴム支承免震装置5が挿入された柱25を介して伝達されることとなる。
上記のように滑り支承免震装置6で支持された柱26の上方部分では軸力による曲げモーメントが極めて小さくなることから、本実施形態においては、滑り支承免震装置6が挿入された柱26については、直上階Bのスラブ4を支持する短辺方向の梁を省略した構造としている。つまり、免震装置設置階Aの柱2(25、26)の間には、直上階Bの梁3が架設され、柱2(25,26)及び梁3とで直上階Bのスラブ4を支持しているが、滑り支承免震装置6が挿入された柱26,26間の短辺方向には直上階Bのスラブ4を支持する梁は架設されず、直上階Bの梁3は、滑り支承免震装置6が挿入された柱26に接続される長辺方向の梁3と、柱25に接続される梁3で構成されている。
本実施形態における梁3は、免震装置設置階Aを囲むように、その外周部に架設されている。免震装置設置階Aの長辺方向の柱2(25、26)のスパンLxは、短辺方向の柱2(25、26)のスパンLyより短く設定されているため、それらに架設される直上階Bの長辺方向の梁3(以下「長辺方向梁3x」という)の梁背は、直上階Bの短辺方向の梁3(以下「短辺方向梁3y」という)の梁背以下に設定することが可能である。長辺方向梁3xは、免震装置設置階Aの短辺方向両端部に設けられている。長辺方向梁3xは、長辺方向の一方の端部に位置する柱25から他方の端部に位置する柱25までの柱25、26間および柱26、26間に設けられている。本実施形態における短辺方向梁3yは、免震装置設置階Aの長辺方向両端部に位置する柱25、25間に架設されている。
一方、免震装置設置階Aの長辺方向の中間部、すなわち免震装置設置階Aの長辺方向中央部に短辺方向で並ぶ、滑り支承免震装置6が挿入された柱26に接続される短辺方向には、直上階Bのスラブ4を支持する梁を設けないことから、免震装置設置階Aの内部において、階高を抑えつつ、床面から上階のスラブ4下までの高さが確保しやすい免震装置設置階Aを免震建物に備えることができる。
直上階Bのスラブ4は中空スラブで構成されている。本実施形態のスラブ4では、円形断面の筒状ボイドチューブが埋設されている。スラブ4を中空スラブとすることにより、スラブ4の重量を増加させることなくその厚さを大きくでき、免震装置設置階Aの短辺方向の梁を設けなくとも、スラブ4の剛性と耐力を確保できる。スラブ4は必要な剛性と耐力を確保できるものであれば、中空スラブの構造形式は問わない。例えば、スラブ4の中空部は、その断面形状が矩形でも良く、またチューブ状でなくても良い。
積層ゴム支承免震装置5が挿入された柱25、25間には、短辺方向で耐震架構7が設けられている。本実施形態の耐震架構7は、免震装置設置階Aの長辺方向端部に短辺方向で並ぶ柱25、25間に設けられている。耐震架構7は短辺方向梁3yの下方に、短辺方向梁3yと一体に構築された耐震壁的な構造を有するRC造の壁で構成される。耐震架構7は、その左右端面を、積層ゴム支承免震装置5上方の柱25の部分と一体に剛接合し、下端面は開放状態で形成される。
また、本実施形態においては、積層ゴム支承免震装置5が挿入された柱25に接続される直上階Bの柱35、35の間に、短辺方向で耐震架構70が設けられている。本実施形態における耐震架構70は、上下の短辺方向梁3y,30yと一体に構築されたRC造の耐震壁で構成される。耐震架構70の左右端部、上下端部はそれぞれ、柱35、柱35および上下の短辺方向梁3y,30yと一体に接合されている。本実施形態における、耐震架構7と耐震架構70は一体に構築されて全体で一つの耐震架構を形成している。なお、30xは直上階Bの長辺方向梁、36は直上階Bの滑り支承免震装置6上の柱である。
耐震架構7、70は、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体に生じる地震時の「曲げモーメント」を負担する。すなわち、免震装置設置階Aの短辺方向の梁を一部なくしたことに対して、地震時に積層ゴム支承免震装置5上方の構造体に作用する「曲げモーメント」に対する剛性と耐力を確保する機能を有している。耐震架構7、または耐震架構70の一方で、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体の剛性と耐力を確保できる場合は、いずれか一方だけを設ければよい。なお耐震架構7、70は、積層ゴム支承免震装置5上部の構造体に発生する「曲げモーメント」に対する剛性と耐力を有するものであればよく、RC造の耐震壁に限定されず、鉄骨製の耐震ブレース等でも良い。また、耐震架構7を設けることにより、その上部の短辺方向梁3yを省略しても良い。なお、耐震架構7、70は「滑り支承免震装置6上方の構造体」の一部である。
本実施形態における、免震装置設置階Aは地下1階に設定されているため、滑り支承免震装置6下方の柱26部分と積層ゴム支承免震装置5下方の柱25部分は、ともに免震建物の基礎と一体的に構築され剛性と耐力が確保されている。すなわち本実施形態における免震装置5、6より柱25、26の下方部分が、免震建物の基礎であるフーチング10に接続され、そのフーチング10、10間に必要に応じて設けられるつなぎ梁11、および土間スラブ12と一体に構築され、積層ゴム支承免震装置5および滑り支承免震装置6よりも下方の構造体としての剛性と耐力が確保されている。なお、免震建物の基礎が杭を有する構造の場合、フーチング10が杭と一体に構築され、免震装置5、6より下方の構造体に杭も含まれて剛性と耐力が確保される。
以上説明した本実施形態にかかる免震建物の作用について説明する。免震建物に地震による水平力が作用すると、各免震装置5、6より上方の構造体と下方の構造体が水平方向に相対的に変位する。この際、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体には、積層ゴム支承免震装置5からの水平力(減衰力と復原力)と、軸力の作用位置のずれによる「曲げモーメント」が発生する。一方、滑り支承免震装置6上方の構造体には、滑り支承免震装置6の摩擦抵抗と弾性変形による水平力と、軸力の作用位置のずれによる「曲げモーメント」が発生するが、その「曲げモーメント」は積層ゴム支承免震装置5上方の構造体に発生する「曲げモーメント」に比べ微少なものとなる。
地震時の短辺方向(Y方向)の水平力による滑り支承免震装置6上方の構造体への「曲げモーメント」は、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体への「曲げモーメント」に比べ微少であるため、スラブ4を中空スラブとして剛性と耐力を高めることで対応することができる。このため滑り支承免震装置6が挿入された柱26に接続される短辺方向の梁をなくすことができる。
一方、積層ゴム支承免震装置5は、地震時の短辺方向の水平力により、免震建物に要求される減衰力と復原力の大部分を発生するため、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体への「曲げモーメント」は、滑り支承免震装置6上方の構造体への「曲げモーメント」より大きくなる。この積層ゴム支承免震装置5上方の構造体への「曲げモーメント」に対して、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体の剛性と耐力が、耐震架構7、70により確保されている。本実施形態において、耐震架構7と耐震架構70は一体の耐震架構となって「曲げモーメント」に対応する。耐震架構7は免震装置設置階Aの外壁部に短辺方向梁3yと一体的に構築されている。このため、短辺方向梁3yの梁背を大きくすることなく、耐震架構7とともに「曲げモーメント」に対応でき、免震装置設置階Aの床面から梁下までの高さを高く確保することができる。短辺方向梁3yは扁平梁としてもよい。また、耐震架構70は直上階Bに設けられるため、免震装置設置階Aの床面から梁下までの高さに影響を与えることはない。
つまり、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体に生じる「曲げモーメント」に対して、短辺方向梁3yのみで対応するのではその断面が大きくなり、免震装置設置階Aの床面から梁下までの高さが確保できない場合でも、耐震架構7、70を設けることにより、免震装置設置階Aの床面から梁下までの高さを確保しつつ、「曲げモーメント」にも十分に対応出来る。さらに、耐震架構7だけでは、「曲げモーメント」に対する積層ゴム支承免震装置5上方の構造体の剛性と耐力が十分に確保できない場合でも、直上階Bに耐震架構70を構築することで対応できる。このため、免震装置5、6を設置する必要のある居室を有する階を、免震装置設置階Aに設定しやすくなる。
地震時の長辺方向(X方向)の水平力による、滑り支承免震装置6上方の構造体への「曲げモーメント」も、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体への「曲げモーメント」に比べ微少であるため、長辺方向梁3xとスラブ4により対応することが出来る。一方、地震時の長辺方向の水平力による、積層ゴム支承免震装置5上方の構造体には、上記の短辺方向の水平力による「曲げモーメント」と同様の大きさの「曲げモーメント」が発生する。これに対してはスラブ4と柱25に接続される長辺方向梁3xで対応する。長辺方向梁3xは、長辺方向の柱スパンLxが短辺方向の柱スパンLyより小さいため、長辺方向梁3xに作用する、長期荷重による曲げモーメントが、短辺方向梁3yにおける長期荷重による曲げモーメントより小さくなっている。このため、柱25と接続される長辺方向梁3xに、地震時の長辺方向の水平力による「曲げモーメント」が加わっても、長辺方向梁3xの梁背を、短辺方向梁3yの梁背より大きくすることなく対応することが出来る。
また、本実施形態における免震装置設置階Aは地盤面より下方に構築しているため、免震装置設置階Aの階高が低くなることで掘削深さを浅くでき、掘削工事を簡略化できる。
以上説明した本実施形態にかかる免震建物にあっては、柱2と柱2、2間の梁3によるラーメン架構で各階スラブ4を支持して構築され、平面形状が長方形に形成され、長辺方向に並ぶ柱2のスパンLxが短辺方向に並ぶ柱2のスパンLyより短く設定されるとともに、積層ゴム支承免震装置5が挿入された柱25および滑り支承免震装置6が挿入された柱26で柱2が構成された免震装置設置階Aを有し、免震装置設置階Aの長辺方向の中間部に短辺方向で並ぶ柱2を、滑り支承免震装置6が挿入された柱26により構成するとともに、滑り支承免震装置6が挿入された柱26に接続される短辺方向の梁をなくしたため、床面から上階スラブ4下までの高さが確保された免震装置設置階Aを免震建物に確保することができる。さらに、本実施形態における免震装置設置階Aは地盤面より下方に設けられているため、免震装置設置階Aの階高が低くなることにより、掘削深さを浅くすることが可能となり、経済的に免震建物を構築することができる。
本実施形態における免震建物においては、免震装置設置階Aの直上階Bのスラブ4を中空スラブにより構成したため、短辺方向の梁をなくしてもスラブ4の剛性と耐力を確保することが出来る。したがって、スラブ4の剛性を確保しつつ、免震装置設置階Aの床面からスラブ4下までの高さを確保できる。
本実施形態の免震建物1は、免震装置設置階Aの長辺方向両端部に短辺方向で並ぶ柱2を、積層ゴム支承免震装置5が挿入された柱25により構成するとともに、積層ゴム支承免震装置5が挿入された柱25、25間に、短辺方向で耐震架構7を設けているため、地震時の短辺方向(Y方向)の水平力により、積層ゴム支承免震装置5から、それより上方の構造体へ作用する「曲げモーメント」に対し、短辺方向梁3yのみでこれに対応する場合に比べ、短辺方向梁3yの梁背を大きくすることなく対応でき、免震装置設置階Aの床面からスラブ4下までの高さが確保しやすい。すなわち、地震時に免震建物に必要とされる復原力と減衰力を、免震装置設置階Aの端部に配置した積層ゴム支承免震装置5に負担させることで、免震装置設置階Aの階高を抑えつつ、免震装置設置階Aの中央部では、従来柱のスパンが長く梁背が大きくなりやすかった短辺方向の梁がなくされ、床面からスラブ底までの高さで免震装置設置階Aの室内空間を確保できる。また、免震装置設置階Aの周囲の梁3x、3yの梁背を小さくできることで、免震装置設置階Aにおける床面から梁下までの高さを確保することができる。
本実施形態においては、積層ゴム支承免震装置5が挿入された柱25に接続される直上階Bの柱35、35の間に、短辺方向で耐震架構70が設けられているため、耐震架構7を十分なボリュームで構築できず、積層ゴム支承免震装置5より上方の構造体へ作用する「曲げモーメント」に対応できない場合でも、耐震架構70により対応することができる。
本実施形態においては、耐震架構7と耐震架構70を一体にして併設したが、これらを併設する場合でも必ずしも一体に構築する必要はない。また、本実施形態における耐震架構7、70には短辺方向梁3yを組み込んだが、短辺方向梁3yとは別個に耐震架構7、70を構築してもよい。
本実施形態では、滑り支承免震装置6を柱2に設置したが、滑り支承免震装置6に代えて、図7に示すように、ローラーやボールベアリングを用いた転がり支承による免震装置8(以下「転がり支承免震装置8」)を設置してもよい。この場合、地震時に転がり支承免震装置8より上方の構造体に作用する「曲げモーメント」は、積層ゴム支承免震装置5を用いた場合より小さくなる。すなわち、図7(b)に示すように、転がり支承免震装置8より上方の柱芯位置と下方の柱芯位置とのずれ(δ1)が微少であるため「軸力Pによる曲げモーメントP・δ1/2」はわずかしか発生しない。さらにせん断力Qも、転がり支承の初期転がり抵抗分しか発生せず、図7(a)に示すように「水平力(せん断力)による曲げモーメントQ・h1」も僅かである。このため、転がり支承免震装置8が滑り支承免震装置6とほぼ同様の機能を果たし、前述の実施形態と同様の効果を免震建物にもたらすことができる。
本実施形態では、免震装置設置階Aの長辺方向に並ぶ柱2を二列設けたがこれに限定されるものではなく、三列以上設けてもよい。その際の耐震架構7は、免震装置設置階Aの長辺方向両端部に短辺方向で並ぶ各柱25、25間それぞれに設置する。
また、本実施形態では、免震装置設置階Aの短辺方向に並ぶ柱2を四列配置したが、これらの列数に限定されるものはない。例えば図8に示すように、短辺方向に並ぶ柱2を七列、長辺方向に並ぶ柱2を三列としてもよい。この場合、長辺方向両端部側で短辺方向に並ぶ複数列の柱2に積層ゴム支承免震装置5を挿入して、柱25としても良い。その際の耐震架構7は、全ての柱25、25間に短辺方向で設けても、適宜選択した列の柱25間にのみ設けても良い。ただし端部に配置する耐震架構7の数(列数)は左右の端部で一致させることが望ましい。この形態においても前述の実施形態と同様の効果を得ることができる。勿論、図8の柱2の配列の場合にも、前述の実施形態と同様に、左右方向の最も外側の一列の柱2のみに積層ゴム支承免震装置5を挿入してもよい。これらの場合において、耐震架構70は、短辺方向の「曲げモーメント」に有効に対応できるよう適宜配置すればよい。