以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態における出力値予測装置Sの構成について説明する。図1は、第1実施形態における出力値予測装置の構成を示すブロック図である。図1において、出力値予測装置Sは、演算制御部1と、入力部2と、提示部3と、記憶部4とを備えて構成される。
入力部2は、予め与えられたデータから本発明の手法によって出力値を予測する出力値予測プログラムを起動するコマンド等の各種コマンド、および、出力値を予想する上で必要な各種データを出力値予測装置Sに入力する機器であり、例えば、キーボードやマウス等である。提示部3は、入力部2から入力されたコマンドやデータ、および、本出力値予測装置Sによって予測された出力値(予測値)を提示(出力)する機器であり、例えばCRTディスプレイ、LCD、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
記憶部4は、機能的に、所定の出力とこの出力に関わる数値化可能な要因とから成り過去に取得された複数の過去実績データおよび出力値を予測したい予測対象データを記憶する実測データ記憶部41と、予測対象データから過去実績データに基づいて予測値を演算する出力値予測演算処理過程で生じる中間データを記憶する中間データ記憶部42と、予測対象データから過去実績データに基づいて予測(演算)された出力値(予測値)を記憶する予測値記憶部43と、予測値のばらつきを記憶するばらつき記憶部44とを備え、出力値予測プログラム等の各種プログラム、および、各種プログラムの実行に必要なデータやその実行中に生じるデータ等の各種データを記憶する装置である。記憶部4は、例えば、演算制御部1の所謂ワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等の揮発性の記憶素子、ROM(Read Only Memory)や書換え可能なEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の不揮発性の記憶素子、および、各種プログラムや各種データを格納しておくハードディスク等を備えて構成される。
演算制御部1は、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路等を備えて構成され、機能的に、距離算出部11と、類似度算出部12と、パラメータ算出部13と、予測値算出部14と、ばらつき算出部15とを備え、制御プログラムに従い入力部2、提示部3および記憶部4を当該機能に応じてそれぞれ制御する。
距離算出部11は、予測対象データと過去実績データとの所定の距離を、予測対象データの要因および過去実績データの要因に基づいて、複数の過去実績データのそれぞれについて算出するものである。
類似度算出部12は、予測対象データと前記過去実績データとの類似度を、距離算出部11で算出された複数の距離に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出するものである。
パラメータ算出部13は、所定の出力yを出力変数とすると共に要因Xの一部Zまたは全部Zを入力変数とした際に、入力変数を用いて出力変数と入力変数との関係を表す第1モデル;y=f(Z、Θ)(Θは、Zの係数であり、Z0の項(定数項)を含む)を生成した場合に、入力変数の入力値を第1モデルに与えることによって得られる値と入力変数の入力値に対応する出力変数の出力値との差である誤差パラメータαを、過去実績データの入力変数および出力変数に基づいて複数の過去実績データのそれぞれについて算出するものである。
予測値算出部14は、入力変数および誤差パラメータαを用いて出力変数と入力変数との関係を表す第2モデル;y=(Z、Θ、α)を生成し、予測対象データの要因のうちの入力変数に対応する要因の値および誤差パラメータαの値を第2モデルに与えることによって予測対象データの出力値を予測値として、パラメータ算出部13によって算出された複数の誤差パラメータαのそれぞれについて算出するものである。
ばらつき算出部15は、類似度算出部12によって算出された複数の類似度および予測値算出部14によって算出された複数の予測値に基づいて、予測対象データの出力値のばらつきを算出するものである。
これら演算制御部1、入力部2、提示部3および記憶部4は、信号を相互に交換することができるようにバス5でそれぞれ接続される。
このような演算制御部1、入力部2、提示部3、記憶部4およびバス5は、例えば、コンピュータ、より具体的にはノート型やディスクトップ型等のパーソナルコンピュータ等によって構成可能である。
なお、必要に応じて出力値予測装置Sは、外部記憶部をさらに備えてもよい。外部記憶部は、例えば、フレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD−R(Compact Disc Recordable)、DVD−R(Digital Versatile DiscRecordable)およびブルーレイディスク(Blu-ray Disc)等の記録媒体との間でデータを読み込みおよび/または書き込みを行う装置であり、例えば、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、CD−Rドライブ、DVD−Rドライブおよびブルーレイディスクドライブ等である。
ここで、出力値予測プログラム等が格納されていない場合には、出力値予測プログラム等を記録した記録媒体から前記外部記憶部を介して出力値予測プログラムが記憶部4にインストールされるように、出力値予測装置Sが構成されてもよい。あるいは、過去実績データや出力値を予測するためのデータ等のデータが外部記憶部を介して記録媒体に記録されるように、出力値予測装置Sが構成されてもよい。
次に、第1実施形態における出力値予測装置Sの動作について説明する。図2は、第1実施形態における出力値予測装置の動作を示すフローチャートである。図3は、実測データ記憶部に記憶されるデータを示す図である。図4は、予測対象データと各過去実績データとのユークリッド距離を説明するための図である。図5は、中間データ記憶部に記憶されるデータを示す図である。図6は、予測値記憶部に記憶されるデータを示す図である。図7は、予測値のばらつきの算出手順を説明するための図である。図7(A)は、類似度wと出力の予測値y0との関係を示し、その横軸は、類似度wであり、その縦軸は、予測値y0である。図7(B)は、予測値y0のヒストグラムを示し、その横軸は、重み付き度数Fwであり、その縦軸は、予測値y0である。図7(C)は、予測値y0の確率密度分布を示し、その横軸は、確率密度P(y0)であり、その縦軸は、予測値y0である。
出力値予測装置Sは、例えば、ユーザの操作によって入力部2から起動コマンドを受け付けると、出力値予測プログラムを実行する。この出力予測プログラムの実行によって、演算制御部1に距離算出部11、類似度算出部12、パラメータ算出部13、予測値算出部14およびばらつき算出部15が機能的に構成される。そして、出力値予測装置Sは、以下の動作によって、過去実績データに基づいて予測対象データから出力値(予測値)を予測する。
この出力値の予測に当たって、出力値予測装置Sの記憶部4における実測データ記憶部41には、例えば、図3に示す表形式(テーブル形式)で過去実績データおよび予測対象データが予め記憶されている。この図3に示す実測データテーブル51は、実測された出力値yを登録する出力フィールド511、および、この出力値yに関与する要因のデータxを登録するデータフィールド512の各フィールドを備えて構成され、過去実績データ(X、y)ごとにレコードを備え、さらに、予測対象データX0のレコードを備えている。そして、出力値yに関与する要因は、複数の要素(データ項目)を備えて構成されており、このため、データフィールド512は、要素の個数に応じたデータ項目サブフィールドを備えている。図3に示す例では、出力値yは、少なくともN個の要素(第1ないし第Nデータ項目)が関与している。このため、データ項目サブフィールドは、要因の各要素にそれぞれ対応する第1ないし第Nデータ項目の各データx1〜xNをそれぞれ登録するデータ項目サブフィールド5121〜512Nを備えている。また、過去実績データ(X、y)は、過去に異なる条件で、例えば、過去の互いに異なる時刻(時点)で実測等によって取得されたデータであり、図3に示す例では、M個のデータから構成されている。予測対象データX0は、出力値を予測したい対象のデータx0であり、例えば、予測時点t0までに実測されたデータx0や、操作入力の値x0や、操業日時x0や、シミュレーションのために用意したデータx0等である。
ここで、出力値予測装置Sは、予測対象データX0のデータ値x0から過去実績データ(X、y)に基づいて出力値(予測値)y0を予測し、この予測値y0のばらつきを求めるものである。
なお、予測対象データX0には、過去実績データ(X、y)と識別可能に区別するために、0が第1添え字(添え字の左側)として付され、過去実績データ(X、y)には、M個のデータをそれぞれ識別可能に区別するために、1〜Mがそれぞれ第1添え字として付されている。そして、予測対象データX0および過去実績データ(X、y)には、出力値yに関わる要因におけるN個の要素である第1ないし第Nデータ項目をそれぞれ識別可能に区別するために、1〜Nがそれぞれ第2添え字(添え字の右側)として付されている。X0=[x01、x02、・・・、x0N]であり、Xj=[xj1、xj2、・・・、xjN]である。例えば、y3は、過去実績データ(X、y)における第3番目の出力値を表しており、また例えば、x23は、過去実績データ(X、y)における第2番目の第3データ項目の値を表しており、また例えば、x04は、予測対象データX0における第4データ項目の値を表している。
このような過去実績データ(X、y)および予測対象データX0が実測データ記憶部41に記憶されている場合において、出力値予測装置Sは、図2に示すように、まず、過去実績データXにおける第1ないし第Nデータ項目の各データ値xと予測対象データX0における第1ないし第Nデータ項目の各データ値xとの関連性を評価するために、両データ間の距離を演算制御部1の距離算出部11によって算出し、この算出した距離を記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する(S11)。前記距離は、両データx間の関連性を表すように定義され、例えば、ユークリッド距離や正規化ユークリッド距離等が用いられる。
より具体的には、本実施形態では、距離算出部11は、図4に示すように、データ項目空間における予測対象データX0と過去実績データXとのユークリッド距離dを各過去実績データ(X、y)について算出する。データ項目空間は、データ項目がN個であることから、本実施形態では、N次元空間となる。また、前記ユークリッド距離dは、本実施形態では、重み付き距離が採用されており、式1によって求められる。予測対象データX0と第j番目の過去実績データXとの重み付きユークリッド距離djは、第j番目の過去実績データ(X、y)における第iデータ項目xjiと予測対象データX0における第iデータ項目x0iとの差の2乗に、第iデータ項目の重みai(ai≧0)の2乗を乗算したものを、第1データ項目から第Nデータ項目まで和を取り、その結果の平方根を求めることによって、算出される。
ここで、重みaiは、ユークリッド距離dを求めるに当たって、第1ないし第Nデータ項目の中で第iデータ項目の重要度(重要性の度合い)を表すパラメータである。例えば、この重みaiは、出力値yに影響を与える程度が大きいデータ項目ほど大きくなり、出力値yに影響を与える程度が小さいデータ項目ほど小さくなるように、設定される。この重みaiは、公知の手法を用いて決定することができ、例えば、特許第3943841号明細書に開示されているように重回帰分析によって求めることができ、また例えば、特許第3912215号明細書に開示されているように、各データ項目をその統計値(例えば平均値や標準偏差)によって正規化しておくことによって求めることができる。
そして、距離算出部11は、この算出した各距離dを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
次に、出力値予測装置Sは、予測対象データX0とどの程度似ているかを評価するために、両データx間の類似度(類似性の度合い)wを、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて、演算制御部1の類似度算出部12によって算出し、この算出した各類似度wを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する(S12)。類似度wは、例えば、前記重み付きユークリッド距離dが小さいほど類似度が大きく、かつ、正の値を取るように、定義される。
より具体的には、類似度算出部12は、例えば、類似度wを式2−1によって算出する。また例えば、類似度算出部12は、類似度wを式2−2によって算出する。また例えば、類似度算出部12は、例えば、類似度wを式2−3によって算出する。
ここで、wjは、予測対象データX0に対する第j番目の過去実績データXの類似度であり、σは、正規化パラメータであり、具体的にはdj(j=1〜M)の標準偏差であり、c、g、rは、正の実数の調整パラメータである。上付きバーのdは、dj(j=1〜N)の平均値である。
そして、類似度算出部12は、この算出した各類似度wを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
なお、類似度wの上限値および/またはその下限値が設けられ、式2−1ないし式2−3のいずれかによって算出された類似度が前記上限値を超える場合には、類似度が前記上限値に置き換えられ、および/または、式2−1ないし式2−3のいずれかによって算出された類似度が前記下限値を超える場合には、類似度が前記下限値に置き換えられるように類似度算出部12が構成されてもよい。このように構成されることによって、特定の過去実績データだけが、過剰に類似度が大きくなったり、逆に小さくなったりすることを防ぐことが可能となる。特定の過去実績データだけが、その類似度が過大になってしまうと、仮に、そのデータ計測値にたまたま誤差があった場合に、その誤差に引っ張られて、間違ったばらつきの予測を行ってしまうことになる。このため、上述のように、上限値を設定することは、誤差に強くなる効果を奏する。
また例えば、予め所定の閾値が設けられ、式2−1ないし式2−3のいずれかによって算出された類似度が前記閾値以下である場合には、類似度が0に置き換えられるように、類似度算出部12が構成されてもよい。あるいは、式2−1ないし式2−3のいずれかによって算出された類似度が小さい順に並べられ、小さい方から予め設定された所定数(または所定割合)までの類似度が0に置き換えられるように、類似度算出部12が構成されてもよい。このように構成されることによって、予測値を求めるに当たって、予測対象データX0にあまり類似しない過去実績データXを必要以上に考慮することを防ぐことが可能となる。また、予測対象データX0にあまり類似しない過去実績データXが除外され、以下に説明する演算処理が不要となり、その結果、演算処理量の軽減(演算処理時間の短縮)が可能となる。
次に、出力値予測装置Sは、不確定要素を表す誤差パラメータαを、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて、演算制御部1のパラメータ算出部13によって算出し、この算出した各誤差パラメータαを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する(S13)。
より具体的には、パラメータ算出部13は、出力値yを予測する予測モデル(第2モデル)をM個の過去実績データ(X、y)に基づいて求め、この求めたモデルを用いることによって、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて、各誤差パラメータαを求める。
この予測モデルは、例えば、式3の関数fによって表現される。この場合において、パラメータ算出部13は、関数式3の係数ΘをM個の過去実績データ(X、y)に基づいて求め、この求めた関数式3を用いることによって、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて、各誤差パラメータαを求める。
ここで、Zは、例えば操業条件(製造条件)の各条件や製造工程の各工程における各測定項目等の、出力値yの予測に関与する要因であり、複数L個の要素zを備えて構成される(Zj=[zj1、zj2、・・・、zjL])。Zは、例えば、出力値yに関与する要因における複数の要素であるデータ項目(Xj=[xj1、xj2、・・・、xjN])の一部または全部によって構成される。なお、Zは、さらに、前記データ項目X以外の要素を含んでいてもよい。Zは、関数fの式3を決定する際に予め設定される。Θは、関数式3の係数であり、M個の過去実績データ(X、y)に基づいて同定計算によって求められる。この同定には、最小二乗法、最尤推定法、部分最小二乗法、二次計画法およびPSO(Particle Swarm Optimization)等の、出力値yjの実績値と予測値y0との誤差が所定の評価関数の下(所定の制約条件の範囲内)で最小(または最大)となるように決定する方法が用いられる。αは、不確定要素を表す誤差パラメータであり、ΘおよびZだけでは出力yを表現しきれない要因(ばらつきの要因)を表すものであり、ΘおよびZを用いて出力yを予測した場合における予測値y0と実績値yとの誤差に相当する。
出力値yを重回帰式によって予測する場合には、関数式3は、例えば、式4−1を用いることができ、第j番目の過去実績データ(Xj、yj)における誤差パラメータαjは、式4−2によって与えられる。この式4−1によって表現されるモデルは、不確定要素(ばらつきの要因)が加法的に存在する場合に有効である。
また例えば、出力値yを重回帰式によって予測する場合には、関数式3は、例えば、式5−1を用いることができ、第j番目の過去実績データ(Xj、yj)における誤差パラメータαjは、式5−2によって与えられる。この式5−1によって表現されるモデルは、不確定要素が乗法的に存在する場合に有効である。
また例えば、出力値yを重回帰式によって予測する場合には、関数式3は、例えば、式6−1を用いることができ、第j番目の過去実績データ(Xj、yj)における誤差パラメータαjは、式6−2によって与えられる。この式6−1によって表現されるモデルは、zj1の影響係数に不確定要素が存在する場合に有効である。
なお、上述では、関数fを表す数式が用いられたが、関数fを表すテーブル、収束計算アルゴリズム、if−thenルール、ファジィ推論、ニューラルネットワークおよびJIT(Just in time)モデル等を含む演算プログラムが用いられてもよい。ここで、誤差パラメータαjがZj、Θおよびyjから逆算で求めることができない場合には、例えば二分探索法や絨毯爆撃法やPSO(Particle Swarm Method)等で、誤差パラメータαjの値を種々の値に振ってその出力値yがyjに一致するような誤差パラメータαjを求めればよい。
そして、パラメータ算出部13は、この算出した各誤差パラメータαを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
このような各処理S11〜S13によって算出された重み付きユークリッド距離d、類似度wおよび誤差パラメータαは、例えば、図5に示すように表形式(テーブル形式)によって中間データ記憶部42に記憶される。この図5に示す中間データテーブル52は、実測された出力値yを登録する出力フィールド521、この出力値yに関与する要因における複数の要素に対応するデータ項目のうちで類似度の算出に用いられたデータ項目のデータxを登録する類似度計算用データフィールド522、この出力値yに関与する要因における複数の要素に対応するデータ項目のうちで予測値y0の算出に用いられたデータ項目のデータxを登録する出力予測用データフィールド523、当該過去実績データ(X、y)の重み付きユークリッド距離dを登録する重み付き距離フィールド524、当該過去実績データ(X、y)の類似度wを登録する類似度フィールド525、および、当該過去実績データ(X、y)の誤差パラメータαを登録する誤差パラメータフィールド526の各フィールドを備えて構成され、過去実績データ(X、y)ごとにレコードを備え、さらに、予測対象データX0のレコードを備えている。そして、類似度計算用データフィールド522は、類似度の算出に用いられた各データ項目に応じたデータ項目サブフィールド5221〜522Nを備えている。同様に、出力予測用データフィールド523は、予測値の算出に用いられた各データ項目に応じたデータ項目サブフィールド5231〜523Lを備えている。なお、図5に示す中間データテーブル52おける出力フィールド521および類似度計算用フィールド522は、図3に示す実測データテーブル51における出力フィールド511およびデータフィールド512にそれぞれ対応する。
次に、出力値予測装置Sは、演算制御部1の予測値算出部14によって、処理S13で求めた予測モデルを用いて、予測対象データX0における第1ないし第Nデータ項目の各データ値x01〜x0Nに基づいて予測値y0を、処理S13で求めた各誤差パラメータαjのそれぞれについて算出し、この算出した各予測値y0を記憶部4の予測値記憶部43に記憶する(S14)。ここで、この処理S14において、予測モデルは、誤差パラメータαが処理S13で求めた各誤差パラメータαjのそれぞれに変更される。例えば、上述の関数fの式3によって予測モデルが表現される場合では、処理S13で求められた係数Θであって、処理S13で求めた各誤差パラメータαjのそれぞれに変更される関数fの式3に、予測対象データX0における第1ないし第Nデータ項目のうちの予測値y0の算出に用いられた第1ないし第Lデータ項目の各データ値x01〜x0LをZとして用いることによって、予測値算出部14は、前記予測値y0を、処理S13で求めた各誤差パラメータαjのそれぞれについて算出する。前記予測値y0は、各誤差パラメータαjがM個であるから、予測値y01〜y0MのM個となる。
なお、処理S14においても、処理S13と同様に、関数fを表すテーブル、収束計算アルゴリズム、if−thenルール、ファジィ推論、ニューラルネットワークおよびJITモデル等を含む演算プログラムが用いられてもよい。
このような各処理S14によって算出された各予測値y01〜y0Mは、例えば、図6に示すように表形式(テーブル形式)によって予測値記憶部43に記憶される。この図6に示す予測値データテーブル53は、処理S14によって算出された予測値y0を登録する予測値フィールド531、予測対象データX0における第1ないし第Nデータ項目のうちの予測値y0の算出に用いられた第1ないし第Lデータ項目の各データ値x01〜x0Lを登録する出力予測用データフィールド532、処理S13によって算出された誤差パラメータαを登録する誤差パラメータフィールド533、および、当該パラメータフィールド533の誤差パラメータの算出に用いられた過去実績データ(X、y)における類似度wを登録する類似度フィールド534の各フィールドを備えて構成され、誤差パラメータαjごとにレコードを備えている。なお、図6に示す予測値データテーブル53おける誤差パラメータフィールド533および類似度フィールド534は、図5に示す中間データテーブル52における誤差パラメータフィールド526および類似度フィールド525にそれぞれ対応する。ここで、各処理S14によって算出された各予測値y01〜y0Mは、図6に示すように、当該予測値y0に対応する類似度wjも、互いに対応するように予測値記憶部43に記憶されている。
次に、出力値予測装置Sは、演算制御部1のばらつき算出部15によって、処理S14で求めた各予測値y01〜y0Mを用いて、予測値y0のばらつきを算出し、この算出した予測値y0のばらつきを記憶部4のばらつき記憶部44に記憶する(S15)。
本実施形態では、類似した条件では類似した結果になるという経験則に基づき、予測対象データX0のデータx0と第j番目の過去実績データXのデータxjとの類似性が高ければ(類似度wjが大きければ)、予測対象データX0の誤差パラメータα0も類似性が高くなると考えられる。このため、予測対象データX0の予測値y0は、類似度wjで、誤差パラメータαjを用いて予測した予測値y0jになると考えられる。
このような考えに基づいて、より具体的には、ばらつき算出部15は、図7(A)に示すように、縦軸に予測値y0をとると共に横軸に類似度wをとって、まず、M個の各過去実績データ(X、y)からそれぞれ算出されたM個の各誤差パラメータαj(j=1〜M)にそれぞれ対応するM個の各予測値y0jに対し、その類似度wjを対応させる。次に、ばらつき算出部15は、図7(A)の縦軸y0の少なくとも各予測値を含む範囲y0jを有限個の複数の区間(クラス、等級)に分割し、各区間に含まれる予測値y0jの類似度wjを全て足し合わせることによって重み付き度数Fwを生成し、図7(B)に示すように、予測値y0のばらつきを表すヒストグラムを生成する。
すなわち、式7に示すように、予測値y0jが第k番目の区間(Yk以上Yk+1未満の区間)に含まれるjの集合をSkとする場合(Sk={j|Yk≦y0j<Yk+1})に、集合Skに含まれるjについて類似度wjを全て足し合わせたものが第k番目の区間における重み付き度数Fwとなる。
このように予測値y0のばらつきがヒストグラムによって示され、予測値y0の出現頻度を容易に知ることが可能となる。
このように図7(B)に示すヒストグラムが予測値y0のばらつきとされてもよいが、本実施形態では、さらに、ばらつき算出部15は、図7(B)に示すヒストグラムの面積が1となるように正規化する。この正規化されたヒストグラムが予測対象データX0における予測値y0の確率密度とされ、予測値y0のばらつきとされる。さらに、ばらつき算出部15は、面積を1に維持したまま図7(B)に示すヒストグラムを、図7(C)に示すように曲線で表してもよい。この曲線が予測対象データX0における予測値y0の確率密度とされ、予測値y0のばらつきとされる。
なお、前記正規化は、例えば、図7(A)の縦軸y0を有限個の区間に分割する際に、均等な幅h=|Yk+1−Yk|に分割されるとした場合に、式8によって実行される。
また、この図7(B)に示すヒストグラムから図7(C)に示す曲線を求める際には、例えば対数正規分布やワイブル分布等の、既知の確率分布が利用されてもよい。
図8は、図7(B)に示すヒストグラムから図7(C)に示す確率密度曲線を求める手法を説明するための図である。図8(A)は、ヒストグラムの各中心点を折れ線で結んだ様子を示し、図8(B)は、図8(A)の累積確率密度を示し、図8(C)は、図8(B)に示す累積確率密度を平滑化した様子を示し、そして、図8(D)は、平滑化した確率密度(確率密度曲線)を示す。
まず、図8(A)に示すように、図7(B)に示す正規化したヒストグラムにおいて、各度数の中心位置(y0方向の中心)を折れ線で結ぶ。なお、各両端において、端部から区間の幅hの半分(h/2)だけ離れた点も0として前記折れ線に結ばれる。この折れ線で囲まれた面積も1とされている。
次に、図8(B)に示すように、図8(A)から式9−1によって累積確率密度SwNが求められる。
次に、図8(C)に示すように、図8(B)の折れ線の累積確率密度SwNが例えば式9−2を用いることによって平滑化される。
そして、図8(D)に示すように、図8(C)に示す平滑化された累積確率密度から例えば式9−3を用いることによって、平滑化された確率密度(確率密度曲線)が求められる。
このように予測値y0のばらつきが確率密度によって示され、予測値y0の出現確率を容易に知ることが可能となる。
また、前記重み付き度数Fwを算出する場合において、M個の過去実績データ(X、y)のうちの類似度wが高い順(大きい順)に並べられ、大きい方から予め設定された所定数(所定割合)までの過去実績データ(X、y)が抽出され、この抽出されたデータのみを用いることによって前記重み付き度数Fwが求められてもよい。類似度wの低い過去実績データ(X、y)を予め除去することによって、前記重み付き度数Fwを算出するための演算処理量の軽減(演算処理時間の短縮)が可能となる。また、上述した式2(式2−1〜式2−3)によって類似度wを算出する場合では、予測対象データX0との類似度wが低い過去実績データ(X、y)についても、類似度が0になることがないため、前記重み付き度数Fwに影響を与えることになる。このため、図7(B)に示す重み付き度数Fwの幅は、M個の予測値y0の幅に一致し、関数fが式4である場合には、その幅は、予測対象データX0の条件によらずに常に一定となる。その結果、図7(C)に示す確率密度の裾野が必要以上に広がってしまう場合がある。しかしながら、上述のように、類似度wの小さい過去実績データ(X、y)を除外することによって、確率密度の裾野が過剰に拡がることが防止され、予測対象データX0における予測値y0の分布形状の特徴が顕著に表現される。
そして、出力値予測装置Sは、演算制御部1によって、処理S15でばらつき算出部15によって算出された予測値y0のばらつきを提示部3に提示し(S16)、処理が終了される。このように予測値y0のばらつきが提示部3に提示されるので、ユーザは、予測値y0のばらつきを知ることができ、予測値y0に基づいて操作や判断等を行う場合に予測値y0のばらつきも考慮することが可能となる。
このように出力値予測装置Sが動作することによって、M個の過去実績データ(X、y)から算出されたM個の誤差パラメータαj(j=1〜M)を用いることで、予測対象データX0の予測値y0がM通り算出され、そして、予測対象データX0との類似度wjに従って予測値y0に対する重み付き度数Fwが算出される。さらに、重み付き度数Fwから確率密度が算出される。このため、過去実績データ(X、y)と予測対象データX0との類似性が考慮された予測対象データX0における予測値y0のばらつきが高精度に求められる。したがって、出力値予測装置Sは、予測値y0のばらつきを提示することができ、ひいては予測値y0に基づいて操作や判断等を行う場合に予測値y0のばらつきも考慮することが可能となる。
次に、別の実施形態について説明する。
(第2実施形態)
例えば鉄鋼製品の製造や化学製品の製造のように、比較的大規模な製造プラントで様々な製造プロセスを経て製造される製品では、例えば投入量、操作入力量および時間経過等に応じて、各製造プロセスにおける出力値や製品に直結する最終プロセスの出力値が刻々と変化することが多い。例えば、鉄鋼製品の製造プロセスにおいて、トピードカー内の溶銑温度と経過時間との関係、取鍋内の溶鋼温度と経過時間との関係、転炉吹錬における溶鋼中炭素濃度と吹込酸素積算値との関係、および、転炉吹錬における溶鋼温度と吹込酸素積算値との関係等が挙げられる。
図9は、物体の温度降下量と経過時間との関係を示す図である。大気中に放置された物体の温度降下量(初期温度からの偏差)yと経過時間(温度を測定した時間)tとの関係を各過去実績データについて○でプロットした場合に、図9に示す結果であったと仮定する。ここで、所定の時刻t0における温度降下量y(t0)を予測する際に、時刻t0付近の過去実績データを用いることによって確率密度を求める場合には、次の問題が生じ得る。すなわち、第1に、過去実績データが少ない(あるいは存在しない)時間領域では、活用可能なデータが非常に少なく、活用されるデータが過去実績データの一部でしかない。このため、予測対象データの温度降下量y(t0)の分布を高精度に予測することが困難である。そして、第2に、予測対象データと類似度の大きい過去実績データが前記所定の時刻t0付近にあるとは限らず、時刻t0から離れた処に予測対象データと類似度の大きい過去実績データがあった場合に、その過去実績データが活用されない。
そこで、このような問題に対し、図9に細破線によって過去実績データの一部について示すように、各過去実績データにおける温度降下量yの経過温度tとの関係を表す予測モデルを構築し、各過去実績データを所定の時刻t0に投影することによって(すなわち、構築した予測モデルの時刻t0における温度降下量y(t0)を求めることによって)、所定の時刻t0から離れた過去実績データも予測値y(t0)における確率密度の推定に活用することができ、予測対象データの予測値y(t0)のばらつきをより高精度に求めることが可能となる。
第2実施形態は、第1実施形態の出力値予測装置Sを上述の場合に適用したものである。したがって、第2実施形態における出力値予測装置Sは、第1実施形態の出力値予測装置Sにおいて、パラメータを算出するパラメータ算出処理(S13)および予測値を算出する予測値算出処理(S14)が以下のように処理を実行する点を除き、第1実施形態における出力値予測装置Sと同様であるので、同様の点の説明を省略する。
図10は、過去実績データのモデルを示す図である。図11は、予測値のばらつきの算出手順を説明するための図である。図11(A)は、所定の時刻t0における予測値y(t0)を示し、図11(B)は、類似度wと出力の予測値y(t0)との関係を示し、その横軸は、類似度wであり、その縦軸は、予測値y(t0)である。
第2実施形態の出力値予測装置Sでは、記憶部4の実測データ記憶部41には、第1実施形態と同様に、表形式(テーブル形式)で過去実績データおよび予測対象データが予め記憶されている。そして、第2実施形態では、過去実績データおよび予測対象データは、温度降下量y、当該温度降下量yを測定した実測時刻t、および、温度降下量yに関与する要因データxを備えて構成される。温度降下量yは、出力値yに対応し、実測時刻tは、出力値yに関与する要因における要素の1つと見ることができる。すなわち、出力値yに関与する要因Xには、少なくとも時間tを要素として含むんでいる。実測時刻tの原点は、温度降下量y=0の時刻、すなわち、物体の初期温度の時刻(物体の温度の測定を開始した時刻)である。なお、時間tが要因Xに含まれずに、要因Zに含まれるように、出力値予測装置Sが構成されてもよい。
そして、過去実績データ((X、t)、y)に基づいて予測対象データ(X0、t0)から出力値(予測値)y0の予測が開始されると、処理S11では、第1実施形態と同様に、距離算出部11は、第1ないし第Nデータ項目空間において、過去実績データ(X、t)と予測対象データ(X0、t0)との間の距離dを算出し、この算出した距離dを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
次に、処理S12では、第1実施形態と同様に、類似度算出部12は、予測対象データX0と過去実績データXとの間における類似度wを、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて算出し、この算出した各類似度wを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
次に、処理S13では、前記式3に代えて、式3A;yj(t)=f(Z、Θ、αj、t)を用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、パラメータ算出部13は、不確定要素を表す誤差パラメータαを、第1ないし第M過去実績データ((X、t)、y)のそれぞれについて、算出し、この算出した各誤差パラメータαjを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。ここで、yj(t)は、実測時刻tによける温度降下量であり、Z、Θ、αjは、第1実施形態の式3と同様である。図9には、式3Aが太破線によって示されており、図10には、各過去実績データ((X、t)、y)のモデルが細破線によって示されている。
次に、処理S14では、予測時刻t0を用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、予測値算出部14は、図11(A)に示すように、前記処理S13で求めたモデルを用いて、予測対象データ(X0、t0)における予測時刻t0および第1ないし第Nデータ項目の各データ値x01〜x0Nに基づいて予測値y0(t0)を、処理S13で求めた各誤差パラメータαjのそれぞれについて算出し、この算出した各予測値y01(t0)〜y0M(t0)をその類似度w1〜wMと対応付けて記憶部4の予測値記憶部43に記憶する。図11(A)では、予測時刻t0の各予測値y0j(t0)がそれぞれ○で表示されている。
次に、処理S15では、第1の実施形態と同様に、ばらつき算出部15は、前記処理S14で求めた各予測値y01〜y0Mを用いて、予測値y0(t0)のばらつきを算出し、この算出した予測値y0(t0)のばらつきを記憶部4のばらつき記憶部44に記憶する。より具体的には、ばらつき算出部15は、図11(B)に示すように、縦軸に予測値y(t0)をとると共に横軸に類似度wをとって、まず、M個の各過去実績データ((t、x)、y)からそれぞれ算出されたM個の各誤差パラメータαj(j=1〜M)にそれぞれ対応するM個の各予測値y0j(t0)に対し、その類似度wjを対応させる。次に、ばらつき算出部15は、図11(B)の縦軸y(t0)の少なくとも各予測値y0j(t0)を含む範囲を有限個の複数の区間(クラス、等級)に分割し、各区間に含まれる予測値y0j(t0)の類似度wjを全て足し合わせることによって重み付き度数Fwを生成し、予測値y0(t0)のばらつきを表すヒストグラムを生成する。このヒストグラムが予測値y0(t0)のばらつきとされてもよいが、本実施形態では、さらに、ばらつき算出部15は、このヒストグラムの面積が1となるように正規化する。この正規化されたヒストグラムが予測対象データ(t0、x0)における予測値y0(t0)の確率密度とされ、予測値y0(t0)のばらつきとされる。あるいは、ばらつき算出部15は、さらに、面積を1に維持したままこのヒストグラムから上述と同様に前記曲線を求める。この曲線が予測対象データ(t0、x0)における予測値y0(t0)の確率密度とされ、予測値y0(t0)のばらつきとされる。
このように動作することによって、第2実施形態の出力値予測装置Sでは、時間経過に従って出力が時々刻々と変化するプロセスにおける出力の予測値y0を求めることが可能となり、そして、この予測値y0のばらつきを求めることが可能となる。また、第2実施形態の出力値予測装置Sでは、過去実績データが少ない(あるいは存在しない)時間領域でも、予測値y0を求めることが可能となり、予測値y0のばらつきも求めることが可能となる。また、第2実施形態の出力値予測装置Sでは、所定の時刻t0から離れた過去実績データも予測値y0(t0)におけるばらつきの推定に活用することができ、予測対象データの予測値y0(t0)のばらつきをより高精度に求めることが可能となる。また、第2実施形態の出力値予測装置Sでは、図11から分かるように、互いに異なる複数の時刻tにおける予測値y0(t)を求めることができ、予測値y0(t)のばらつきも求めることが可能である。したがって、各時刻tにおける予測値y0(t)のばらつきを比較することによって、最もリスクの少ない処理終了タイミングを決定することが可能となる。例えば、鉄鋼製品の製造プロセスの加熱炉において、鋼材が単に目標通りに加熱されたか否かだけではなく、温度外れの確率も考慮した上で、リスクの小さいタイミングで加熱処理を終了させることが可能となる。また例えば、転炉吹錬では、溶鋼温度や溶鋼中成分が目標から外れる確率を考慮した上で、リスクの少ないタイミングで吹錬を終了させることが可能となる。この転炉吹錬の場合では、図11(A)の横軸が吹錬吹込酸素量の積算値とされる。
次に、別の実施形態について説明する。
(第3実施形態)
鉄鋼製品の製造プロセスにおける、転炉吹錬終了後、転炉から取鍋に溶鋼が移され、溶鋼処理を経て、連鋳設備まで溶鋼が搬送されるプロセスでは、連鋳設備でスムーズに鋳造するために、取鍋が連鋳設備に到着した際に溶鋼温度が凝固温度より若干高めであることが好ましい。溶鋼温度が下がり過ぎると溶鋼が凝固してしまい好ましくなく、溶鋼温度が高いままだと鋳造速度を減速せざるを得ず好ましくない。各チャージによって、溶鋼成分、溶鋼量、取鍋の種類、取鍋の初期状態(耐火物の溶損状況、取鍋内部の温度分布(冷え具合))、転炉から受鋼する際に取鍋内にあらかじめ入れて置く合金量・合金種類などによって、温度降下量がばらつく。そのため、時々刻々と変化する溶鋼温度を確定的に一点で予測することは、困難である。したがって、当該チャージの取鍋内溶鋼温度のばらつきを精度よく推定することは、重要である。
第3実施形態は、所定の出力が転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける取鍋内の溶鋼温度とされ、第1実施形態の出力値予測装置Sを適用したものであり、第3実施形態における出力値予測装置Sは、転炉から取鍋に移された溶鋼が溶鋼処理設備に搬送されるまでにおいて、溶鋼の温度降下量について、確率分布を推定するものである。したがって、第3実施形態における出力値予測装置Sは、第1実施形態の出力値予測装置Sにおいて、距離を算出する距離算出処理(S11)、パラメータを算出するパラメータ算出処理(S13)および予測値を算出する予測値算出処理(S14)が以下のように処理を実行する点を除き、第1実施形態における出力値予測装置Sと同様であるので、同様の点の説明を省略する。
図12および図13は、重み付き距離と類似度との関係を示す図である。図12および図13の横軸は、重み付き距離djであり、それら縦軸は、類似度wjである。図14は、過去実績データのモデルを示す図である。図15は、各予測値における確率密度を示す図である。図14および図15の横軸は、分(min)単位で表す経過時間tであり、それらの縦軸は、度(℃)単位で表す温度降下量y(t)である。
第3実施形態の出力値予測装置Sでは、記憶部4の実測データ記憶部41には、第1実施形態と同様に、表形式(テーブル形式)で過去実績データおよび予測対象データが予め記憶されている。そして、第2実施形態では、過去実績データおよび予測対象データは、温度降下量y、当該温度降下量yを測定した実測時刻t、および、温度降下量yに関与する要因データxを備えて構成される。温度降下量yは、出力値yに対応し、実測時刻tは、出力値yに関与する要因における要素の1つと見ることができる。実測時刻tの原点は、温度降下量y=0の時刻、すなわち、物体の初期温度の時刻(物体の温度の測定を開始した時刻)である。温度降下量yに関与する要因における各要素(データ項目)は、取鍋の受鋼回数、脱酸剤の種類、溶鋼炭素濃度、取鍋の空鍋状態、出鋼温度、凝固温度および操業班等の各項目である。ここで、本実施形態では、取鍋の受鋼回数は、例えば受鋼回数の平方根とされるように、非線形関数で変換される。脱酸剤の種類は、脱酸の強さに応じて数値化される。取鍋の空鍋状態(溶鋼が入っていない状態)は、時間放置、時間保温および保温後の放置時間等が非線形関数で数値化される。操業班は、班ごとに識別子が与えられる。
そして、過去実績データ((X、t)、y)に基づいて予測対象データ(X0、t0)から出力値(予測値)y0の予測が開始されると、処理S11では、式10で定義される距離dを用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、距離算出部11は、第1ないし第Nデータ項目空間において、過去実績データ(X、t)と予測対象データ(X0、t0)との間の距離dを算出し、この算出した距離dを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
ここで、fd(Xji,x0i)は、xjiとx0iとが同じ場合に0をとり、xjiとx0iとが異なる場合に1をとる関数である。そして、本実施形態では、ai(i=1〜N)=1とされる。Nは、データ項目数である。また、k<Nである。
当該チャージの操業条件と各過去チャージの操業条件とを比較する場合、例えば操業班や設備の番号(複数ある設備のうちで処理に供した設備の番号)等のように、引き算をすることができないデータ項目、あるいは、引き算自体に意味をもたないデータ項目もあり、式11で定義される距離dは、このようなデータ項目が同じか否かに意味があるデータ項目の場合に有効である。
また、類似度を計算する際のデータ項目として、日時や年月日を加えても良い。プロセスによっては、経年変化や季節変動要因など、月日が経過するに従って特性が変わるものがある。このような場合、操業条件が同一でも月日が離れていると結果が異なる虞がある。月日をデータ項目として加えることによって、古いデータの類似度Wjを小さくし、経年変化を考慮した予測をすることができる。なお、年月日は、基準日(例えば1900年1月1日)からの経過日数で表現すればよい。
次に、処理S12では、第1実施形態と同様に、類似度算出部12は、予測対象データX0と過去実績データXとの間における類似度wを、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて算出し、この算出した各類似度wを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
ここで、類似度wとして、式2−3、すなわち、式11で定義される類似度が用いられる。
ここで、μは、距離dj(j=1〜M)の平均値であり、σは、距離dj(j=1〜M)の標準偏差である。また、本実施形態では、g=1とされる。前記式10による重み付き距離djと式11による類似度wjとの関係を図12に示す。
本実施形態では、図13に示すように、予め設定された所定の閾値よりも小さい類似度wjは、0とされる。類似度wの低い過去実績データ((t、x)、y)を予め除去することによって、例えば重み付き度数Fwを算出するための演算処理量等の以下の演算処理量の軽減(演算処理時間の短縮)が可能となる。
次に、処理S13では、前記式3に代えて、式12−1および式12−2を用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、パラメータ算出部13は、不確定要素を表す誤差パラメータαを、第1ないし第M過去実績データ((X、t)、y)のそれぞれについて算出し、この算出した各誤差パラメータαjを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
ここで、yj(t)は、実測時刻tによける温度降下量であり、T0jは、転炉から取鍋に溶鋼を移す時点の溶鋼温度である転炉出鋼温度であり、T∽jは、溶鋼の凝固温度であり、qjは、取鍋に予め入っている合金(入れ置き合金)が奪う熱量を温度に換算した値であり、入れ置き合金が無い場合にはqj=0となる。
なお、出力予測溶データ項目は、本実施形態では、転炉出鋼温度T0j、溶鋼の凝固温度T∽j、入れ置き合金による温度降下qjを推定するために必要な入れ置き合金の投入量である。
そして、予測値y0を重回帰式によって予測する場合には、関数式12に基づく、第j番目の過去実績データ((tj、xj)、yj)における誤差パラメータαjは、式13によって与えられる。
なお、第j番目の過去実績データから求めた誤差パラメータαjに対応する予測値y0j(t0)は、式14−1および式14−2によって与えられる。
ここで、T00は、予測対象のチャージにおける転炉出鋼温度であり、T∽0は、予測対象のチャージにおける溶鋼の凝固温度であり、q0は、予測対象のチャージにおける入れ置き合金が奪う熱量を温度に換算した値である。
図14には、各過去実績データ((X、t)、y)のモデルが示されている。
次に、処理S14では、予測時刻t0を用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、予測値算出部14は、前記処理S13で求めたモデルを用いて、予測対象データ(X0、t0)における予測時刻t0および第1ないし第Nデータ項目の各データ値x01〜x0Nに基づいて予測値y0(t0)を、処理S13で求めた各誤差パラメータαjのそれぞれについて算出し、この算出した各予測値y01(t0)〜y0M(t0)をその類似度w1〜wMと対応付けて記憶部4の予測値記憶部43に記憶する。
次に、処理S15では、第1の実施形態と同様に、ばらつき算出部15は、前記処理S14で求めた各予測値y01〜y0Mを用いて、予測値y0(t0)のばらつきを算出し、この算出した予測値y0(t0)のばらつきを記憶部4のばらつき記憶部44に記憶する。より具体的には、ばらつき算出部15は、縦軸に予測値y(t0)をとると共に横軸に類似度wをとって、まず、M個の各過去実績データ((t、x)、y)からそれぞれ算出されたM個の各誤差パラメータαj(j=1〜M)にそれぞれ対応するM個の各予測値y0j(t0)に対し、その類似度wjを対応させる。次に、ばらつき算出部15は、前記縦軸y(t0)の少なくとも各予測値y0j(t0)を含む範囲を有限個の複数の区間(クラス、等級)に分割し、各区間に含まれる予測値y0j(t0)の類似度wjを全て足し合わせることによって重み付き度数Fwを生成し、予測値y0(t0)のばらつきを表すヒストグラムを生成する。このヒストグラムが予測値y0(t0)のばらつきとされてもよいが、本実施形態では、さらに、ばらつき算出部15は、このヒストグラムの面積が1となるように正規化する。この正規化されたヒストグラムが予測対象データ(t0、x0)における予測値y0(t0)の確率密度とされ、予測値y0(t0)のばらつきとされる。あるいは、ばらつき算出部15は、さらに、面積を1に維持したままこのヒストグラムから上述と同様に前記曲線を求める。この曲線が予測対象データ(t0、x0)における予測値y0(t0)の確率密度とされ、予測値y0(t0)のばらつきとされる。図15には、10分ごとに温度降下量の予測値y0(t0)の確率密度が示されている。すなわち、予測時点が10分ごととされている。なお、図15において、○は、実測温度を示し、時間0の○は、転炉出鋼温度であり、約50分後の○は、予測対象データ(t0、x0)における溶鋼処理開始前の実測温度である。この約50分後の○で示す実測温度は、温度降下量の予測値y0(t0)の算出や図15に示す温度降下量の予測値y0(t0)の確率密度の算出には、用いていないが、参考のために、図15に表示されている。また、図15中の両○を結ぶ破線は、予測対象のチャージの溶鋼温度を式12によって計算したもので、式13の誤差パラメータα0をフィッティングしたものであり、同様に、温度降下量の予測値y0(t0)の算出や図15に示す温度降下量の予測値y0(t0)の確率密度の算出には、用いていないが、参考のために、図15に表示されている。また、図15では、確率密度の横軸(図7(C)の横軸に対応する)は、見易くするために、スケールが拡大されている。
このように動作することによって、第3実施形態の出力値予測装置Sでは、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおいて、チャージの取鍋内溶鋼温度を予測し、この予測した取鍋内溶鋼温度のばらつきをより高精度に求めることが可能となる。
なお、上述の第3実施形態では、所定の出力は、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける、取鍋内の溶鋼温度とされたが、所定の出力は、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける、タンディッシュ内の溶鋼温度とされてもよい。このように構成されることによって、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける、タンディッシュ内の溶鋼温度を予測し、この予測した予測値のばらつきを求めることが可能となる。
また、上述の第3実施形態において、所定の出力は、転炉工程における、吹錬吸込み酸素の積算量に応じた溶鋼成分または溶鋼温度とされてもよい。このように構成されることによって、転炉工程における、吹錬吸込み酸素の積算量に応じた溶鋼成分または溶鋼温度を予測し、この予測した予測値のばらつきを求めることが可能となる。
また、上述の第3実施形態において、所定の出力は、鋼材の加熱炉工程における、加熱時間または加熱熱量の積算量に応じた鋼材の鋼材温度とされてもよい。このように構成されることによって、鋼材の加熱炉工程における、加熱時間または加熱熱量の積算量に応じた鋼材の鋼材温度を予測し、この予測した予測値のばらつきを求めることが可能となる。
第1ないし第3実施形態で説明したように、出力値予測装置Sは、操業プロセスや製造プロセスの各プロセスにおける出力値や製品に直結する最終プロセスの出力値をばらつきと併せて予測することが可能であり、ここで、操業プロセスや製造プロセスに出力値予測装置Sを適用した出力値予測システムの一構成例について、説明する。
図16は、出力値予測システムの構成を示すブロック図である。図16において、出力値予測システムは、操業プロセス・製造プロセス201から実績データを収集する実績データ収集装置101と、実績データ収集装置101で収集した実績データを過去実績データとして記憶する過去操業データ記憶装置105と、実績データ収集装置101で収集した過去実績データに基づいて誤差パラメータαを算出するパラメータフィッティング演算装置102と、パラメータフィッティング演算装置102で算出した誤差パラメータαを記憶するパラメータ推定値記憶装置106と、操業プロセス・製造プロセス201から予測対象データを収集する予測対象データ操業条件収集装置104と、予測対象データと各過去実績データとの類似度を算出する類似度演算装置108と、予測対象データ操業条件収集装置104で収集した予測対象データから前記算出した誤差パラメータαに基づいて予測対象データの出力値(予測値)を予測する予測対象データ出力予測演算装置103と、予測対象データ出力予測演算装置103で予測した予測対象データの出力値(予測値)と類似度演算装置108で算出した類似度に基づいて予測対象データの予測値の確率密度を算出する出力予測値確率分布推定装置107と、出力予測値確率分布推定装置107で算出した予測対象データの予測値の確率密度を表示する確率分布表示装置109とを備えて構成される。
図16に示す出力値予測システムと図1に示す出力値予測装置Sとを対比すると、類似度演算装置108は、距離算出部11、類似度算出部12および中間データ記憶部42と略同様の機能を有し、パラメータフィッティング演算装置102は、パラメータ算出部13と略同様の機能を有し、予測対象データ出力予測演算装置103は、予測値算出部14および予測値記憶部43と略同様の機能を有し、出力予測値確率分布推定装置107は、ばらつき算出部15およびばらつき記憶部44と略同様の機能を有し、過去操業データ記憶装置105は、実績データ記憶部41と略同様の機能を有し、そして、パラメータ推定値記憶装置106は、中間データ記憶部42と略同様の機能を有している。
このような構成の出力値予測システムは、プロセスの実施中において、予測対象データを収集すると、この予測対象データにおける予測値およびその確率密度を求めることができ、そして、これらを表示することができる。このため、オペレータ等のユーザは、この予測対象データにおける予測値およびその確率密度に基づいて適切にプロセスを調整し、その実施を行うことが可能となる。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。