JP4365537B2 - 鋼材の製品品質管理装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材の製品品質管理装置に係り、特に、鋳造された鋳片を、加熱、圧延、冷却、熱処理などして製造される鋼材の品質管理に用いるのに好適な、鋼材の製品品質管理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼材の材質推定方法には、まず、特開平5−279737、特開平5−142126、特開平5−107243、特開平5−93720、特開平5−87802、特開平5−87801、特開平5−87800、特開平5−72200、特開平5−26872、特開平5−26871、特開平5−26870、特開平9−292391、特開平11−21626、特開平5−279737等のように、製造過程の物理現象を解明し、それを模倣した数式モデルを物理モデルとして用いる方法がある。
【0003】
一方、対象の物理現象に関係なく、製造過程の物理現象をブラックボックスとして、このブラックボックスへの入力、及び、ブラックボックスからの出力の履歴データから、該ブラックボックスのモデルを作成するアプローチがあり、例えば鋼材の材質に大きく影響があると考えられる要因をいくつか選定し、その要因により重回帰を行って同定した回帰モデルを用いる方法が一般によく知られている。
【0004】
又、特開平8−240587のように、材質推定モデルとして階層型ニューラルネットワークモデルを用いる方法もある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の材質推定方法は、いずれにしても、製造実績から材質の推定値を出力するだけで、その推定誤差を評価することができない。そのため、特に未経験の新たな入力データに対してモデルを用いて出力した材質推定値の信頼性評価ができず、その材質推定値が、製品の要求仕様(機械試験特性範囲などの材質許容範囲)を満足するか否かの判断が困難であるという問題点を有していた。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、製品の材料試験要否の判断を的確に行うことができるようにすることを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、過去に製造した製品毎に、素材成分実績、操業実績及び材質実績を蓄積する材質記憶手段と、材質を推定しようとする製品の素材成分情報及び操業情報が入力されると、ルールに従って、材質に与える影響の大きい入力値のみを入力変数にする入力変数限定手段と、入力変数とされた素材成分情報及び操業情報の入力値と、前記材質記憶手段に蓄積されている製品毎の素材成分実績及び操業実績のデータとの距離を定義した距離関数を用いて、入力値に近いデータをもつ過去に製造した製品事例を複数抽出し、抽出された製品事例の材質実績のデータから平均値とその標準偏差を計算し、これらを材質推定値とその推定誤差として出力する材質推定計算手段と、(材質推定値±推定誤差)が、材質を推定しようとする製品の要求仕様上の材質許容範囲内にあるかどうかにより当該製品の材料試験要否を診断する材質診断手段とを備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0008】
又、前記材質記憶手段に蓄積されている製品毎の素材成分実績、操業実績及び材質実績を、素材成分実績や操業実績のデータが近いグループに分類して、材質の推定精度を向上したものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0010】
図1において、20は本発明に係る製品品質管理装置である。該製品品質管理装置20には、ローカルエリアネットワーク(LAN)30を介して、製造実績収集装置22と材料試験実績収集装置24が接続されている。これら各装置20、22、24は計算機、例えばワークステーションから構成することができる。
【0011】
製造実績収集装置22は、過去に製造した製品14毎に、素材10の成分実績と、加熱、圧延、冷却、熱処理などの製造プロセス12における操業条件の実績値(以下操業実績と称する)とを製造実績として収集し、材質推定装置20へ供給する。また、材料試験実績収集装置24は、同じく、過去に製造された製品14毎に、製品の材料試験で得られた機械試験特性値実績(強度、靭性等。以下材質実績と称する)を収集し、材質推定装置20へ供給する。
【0012】
製品品質管理装置20は、図2に示す如く、入力変数限定手段20A、材質推定計算手段20B、入力変数限定ルール格納手段20C、材質記憶手段20D、及び、材質診断手段20Eを備えている。
【0013】
ここで、前記製造実績収集装置22及び材料試験実績収集装置24で収集された素材成分実績、操業実績及び材質実績は、事例として材質記憶手段20Dにデータベースとして蓄積される。具体的には、図3に示す如く、製品毎の素材成分実績(成分1〜成分K)、操業実績(操業1〜操業L)及び材質実績(材質1〜材質M)が記載された表形式とすることができる。この材質記憶手段に蓄積された事例(過去に製造された製品毎のデータ。図3の1行分に相当。)のデータベースは、更に素材成分実績や操業実績が近いグループに分類(クラスタリングと称する)して、各グループ毎のデータベースとして材質記憶手段に蓄積させることもできる。
【0014】
前記入力変数限定ルール格納手段20Cには、多数の材質影響要因の中から製品の材質推定に使用する入力変数を選択するためのルールが格納されている。即ち、材質影響要因には、鋳片の化学成分(含有元素、含有量等)及び寸法、加熱条件(鋼材抽出温度、在炉時間等)、圧延条件(鋼材温度履歴、圧延寸法、圧下率、圧延速度等)、冷却条件(鋼材温度履歴、冷却速度等)、熱処理条件(炉内温度履歴、炉内雰囲気等)等、非常に多くのものがあり、例えば50〜100にものぼる。このような多数の材質影響要因を有する対象に対して、全ての材質影響要因を入力変数として用いて材質推定を行うと、入力空間の次元が多すぎて推定に非常に長い時間を要することから、入力変数を選択することで推定に使用する入力変数を限定して推定時間の短縮を図る。そのためのルールを格納するのが入力変数限定ルール格納手段20Cである。例えば、材質を作り込む冶金プロセスには、素材のある成分Aは、ある含有量a以上にならないと材質に影響しないという特性がある。従って、材質影響要因Aは入力値a以上の入力空間領域では入力変数として材質推定に用いるが、入力値a未満の領域では用いない。このように材質影響要因の特性に着目して、入力空間の領域により、入力変数にする材質影響要因を限定することができる。こうした入力変数限定ルールは、様々な方法で作成できる。例えば、物理現象に関する先見情報を蓄積したルールを予め作成しておくことができる。あるいは、決定木などにより、蓄積したデータから自動的にルールを作成することもできる。
【0015】
入力変数限定手段20Aは、材質を推定しようとする製品に関する入力情報、即ち、素材の成分情報(含有元素、含有量等)の入力値及び製造プロセス12における加熱条件(鋼材抽出温度、在炉時間等)、圧延条件(鋼材温度履歴、圧延寸法、圧下率、圧延速度等)、冷却条件(鋼材温度履歴、冷却速度等)、熱処理条件(炉内温度履歴、炉内雰囲気等)などの操業情報の入力値を基に、入力変数限定ルールを参照して材質推定に使用する入力変数を選択・限定し、この結果を材質推定計算手段20Bに出力する。更に、入力された成分情報や操業情報の中から限定された入力変数に対応する成分情報の入力値及び操業情報の入力値を抽出して、材質推定計算手段20Bに出力する。
【0016】
材質推定計算手段20Bは、材質記憶手段20Dに貯蔵されているデータの中から、入力変数とされた入力値に近い素材成分実績及び操業実績のデータを有する事例を複数個抽出する。入力値と事例との距離は、距離関数(後述)を用いて求める。そして抽出された事例の材質に関する材質実績のデータを用いて、材質を推定して出力する。併せて、推定誤差も出力する。
【0017】
材質診断手段20Eは、材質推定計算手段20Bから出力される材質推定値及びその推定誤差と、別途入力される製品の要求仕様(材質許容範囲)と、を比較し、(材質推定値±推定誤差)が材質許容範囲内にあるかどうかを判断する。即ち、推定誤差を考慮した材質推定値が許容範囲内にあれば、製品の材料試験は不要であると判断し、範囲外であれば材料試験が必要であると判断し、これらの判断結果を出力する。
【0018】
ここで、前記各手段20A〜20Eは1つの計算機の中に構築することもできるが、複数計算機で構築してもよい。
【0019】
以下、図4を参照して、材質診断の手順を説明する。
【0020】
まず、ステップ100で、材質を推定しようとする製品に関する情報(素材の成分とその含有量、加熱炉における鋼材抽出温度や在炉時間、熱間圧延における圧延温度、圧下率、寸法、及び圧延速度、その他各種製造条件)を材質推定装置20に入力する。入力は人間が行ってもよいし、他の計算機が行ってもよい。
【0021】
次にステップ102で、入力変数限定手段20Aは入力変数限定ルール格納手段20Cに格納されているルールを参照して、入力された素材成分情報及び操業情報を基に、出力に対する影響が大きい入力変数を選択する。例えば、素材成分中の不可避的不純物Pは通常含有量が0.01質量%以下であれば製品の材質に悪影響を及ぼさないが、これより多く含有されると材質に悪影響を与えるというルールがあれば、入力されたPの含有量が0.006質量%の場合は、Pは入力変数とはされないが、0.02質量%であれば、入力変数として選択されることになる。このようにして限定された入力変数、及びこれらの入力変数に相当する素材成分情報及び操業情報の入力値は材質推定計算手段20Bに供給される。
【0022】
次いで、ステップ104に進み、材質推定計算手段20Bはステップ102で抽出された入力変数及び材質記憶手段20Dに格納された各事例の入力変数に対応する素材成分実績、操業実績を用いて、各事例の実績と入力値との間の距離を計算する。距離の計算には、製品毎の素材成分実績及び操業実績のデータとの距離を定義した距離関数を用いる。この距離関数としては、例えば、選択された入力変数の数に相当する次元空間のユークリッド距離を用いることができる。ユークリッド距離Lは、入力値を(X10、X20、・・・)とし、材質記憶手段20D内のデータを(X1、X2、・・・)とすると、次式で表わされる。
【0023】
L=[w1(X1−X10)2+w2(X2−X20)2+・・・]1/2・・・(1)
【0024】
ここで、wiは重み係数であり、例えば、入力値が出力値に与える影響を多重回帰分析により求めることができる。
【0025】
そして、上記(1)式に基づいて材質記憶手段20Dに貯蔵されている各事例の素材成分実績及び操業実績のデータと入力値の間の距離を計算する。この距離は貯蔵されている事例の数だけ算出される。
【0026】
次いでステップ106に進み、図5に示す如く、入力値の近傍にある事例のデータを材質記憶手段20Dに蓄積されているデータから取得する。これには様々な方法があるが、例えば材質記憶手段20Dの中のデータで、前記(1)式で計算した距離Lが小さい方からN個(Nは予め定めた定数)の事例を入力値近傍にある事例と定義することができる。
【0027】
次いでステップ108に進み、入力値の近傍にある取得された事例のデータのうち材質実績のデータ(図3の材質1〜材質M)を用いて、その入力値に対する材質推定値(出力値)とその推定誤差を計算する。
【0028】
これには、様々な方法があるが、例えば上記のようにして取得された材質実績のデータの平均値[材質1]〜[材質M]を次式で算出し、これらを材質推定値として出力し、同じくそれらの標準偏差を計算し、推定誤差として出力することができる。あるいは、特開平6−95880に記載されているように、近傍の事例との類似度を評価することもできる。
【0029】
[材質1]=Σ材質1i/N
[材質2]=Σ材質2i/N
・・・・・・・・・・・
[材質M]=Σ材質Mi/N ・・・(2)
ここで、i=1〜N
【0030】
出力値(材質推定値)としては、例えば、引張強度、降伏点、伸び、シャルピー吸収エネルギーなどの材質を表わす出力変数を用いることができる。
【0031】
上述のステップ106およびステップ108の処理は、いずれも材質推定計算手段20Bが行う。
【0032】
次にステップ110に進み、前記材料推定計算手段20Bからの出力値と、別途入力される製品の要求仕様(材質許容範囲)とを用いて、材質診断手段20Eは、図6に示す如く、材質の診断を行う。即ち、前記材質推定計算手段20Bから入力される材質推定値及びその推定誤差と、該推定計算の対象となる製品(これから製造するケースと既に製造が終了しているケースがある。)に対する客先からの要求仕様とを比較する。そして、(材質推定値―推定誤差)〜(材質推定値+推定誤差)が、要求仕様の許容範囲に入っていれば、この製品は客先の要求仕様を満足していると判断し、製品の材料試験は不要とする。一方、(材質推定値―推定誤差)〜(材質推定値+推定誤差)が、一部でも材質許容範囲を逸脱していれば、この製品は客先の要求仕様を満足していない可能性があると判断し、製品の材料試験を行うことを要求する。
【0033】
本実施形態においては、材質記憶手段に蓄積されている事例を、特にクラスタリングしていないが、素材成分実績、操業実績が広範囲にわたる場合には事例を近いグループにクラスタリングし、各グループ毎のデータベースを材質記憶手段に構築するようにしてもよい。例えば、成分Cの含有量に応じて、極低炭素鋼、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼のようなグループにクラスタリングすることが考えられる。これによれば、信頼性の高い推定値を得ることができ、また、推定に要する時間を更に短縮することができる。
【0034】
また、本実施形態では、材質推定装置への過去の事例収集は、製造実績収集装置、材料試験実績収集装置が行うことで説明したが、これに限らず、人間が直接入力してもよいし、フロッピーディスクなどの記録媒体を介してもよい。また、客先の要求仕様は、LAN30を経由して他の計算機から入力するようにしてもよいし、人手による入力や記録媒体を介する入力によってもよい。
【0035】
さらに、材質推定値の推定誤差は材質推定計算手段が計算、出力することで、説明したが、別の手段が行うようにしてもよい。
【0036】
なお、上記材質診断手段20Eからの要求によって材料試験を行った結果、材料実績が要求仕様を満足していれば、出荷ないし次工程に進捗させ、一方、要求仕様を満足していない場合には、他の客先への充当可能性等を検討することになる。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、材質推定モデルの誤差範囲及び推定値の信頼性を考慮して、材料試験要否の判断を行うようにしたので、不良品の流出を未然に防ぐことが可能となる。又、無駄な材料試験を省略することにより、試験コストも低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実現する装置構成の一例を示すブロック図
【図2】本発明にかかる製品品質管理装置の実施形態を示すブロック図
【図3】前記実施形態で用いられる材質データベースの例を示す図表
【図4】同じく材質診断の手順を示す流れ図
【図5】同じく入力データの近傍の事例データから局所的に推定するモデルを示す図
【図6】同じく材質診断手段の処理手順を示す流れ図
【符号の説明】
10…素材
12…製造プロセス
14…製品
20…製品品質管理装置
20A…入力変数限定手段
20B…材質推定計算手段
20C…入力変数限定ルール格納手段
20D…材質記憶手段
20E…材質診断手段
22…製品実績収集装置
24…材料試験実績収集装置
30…ローカルエリアネットワーク(LAN)
Claims (2)
- 過去に製造した製品毎に、素材成分実績、操業実績及び材質実績を蓄積する材質記憶手段と、
材質を推定しようとする製品の素材成分情報及び操業情報が入力されると、ルールに従って、材質に与える影響の大きい入力値のみを入力変数にする入力変数限定手段と、
入力変数とされた素材成分情報及び操業情報の入力値と、前記材質記憶手段に蓄積されている製品毎の素材成分実績及び操業実績のデータとの距離を定義した距離関数を用いて、入力値に近いデータをもつ過去に製造した製品事例を複数抽出し、抽出された製品事例の材質実績のデータから平均値とその標準偏差を計算し、これらを材質推定値とその推定誤差として出力する材質推定計算手段と、
(材質推定値±推定誤差)が、材質を推定しようとする製品の要求仕様上の材質許容範囲内にあるかどうかにより当該製品の材料試験要否を診断する材質診断手段と、
を備えたことを特徴とする鋼材の製品品質管理装置。 - 前記材質記憶手段に蓄積されている製品毎の素材成分実績、操業実績及び材質実績は、素材成分実績や操業実績のデータが近いグループに分類されていることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の製品品質管理装置。
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