JP4623020B2 - 最適品質設計支援装置 - Google Patents

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Description

本発明は、最適品質設計支援装置に係り、特に、鋳造された鋳片を、加熱、圧延、冷却、熱処理などして製造される鋼材の製品設計に用いるのに好適な、機械試験特性値範囲などの要求仕様から、成分や操業条件などの製造条件の指示値を決定するための最適品質設計支援装置に関する。
客先から鋼材製品の発注があると、機械試験特性値範囲など、客先の製品に対する要求仕様から製品を製造するための製造条件を決定し、該製品を製造する。
製造条件を決定する従来技術として、特許文献1には、製造条件指示値の範囲と、そのときの機械試験特性実績範囲を格納したデータベースを基に、要求仕様を満足する製造条件を求める方法が記載されている。更に、特許文献2には、要求仕様を満足する実績が無い場合、既存の材質推定モデルを用いて材質を推定し、要求仕様を満足する製造条件を求めることが記載されている。
特開平5−287341号公報 特開平5−287342号公報
しかしながら、従来の材質推定モデルを用いて材質を推定する方法は、過去の製造実績を基に材質の推定値を出力するだけで、その推定誤差をも評価するものではない。従って、材質推定値から決定される製造条件を用いて製品を製造したとしても、その製品が必ずしも要求仕様を満足するとは限らない。
又、要求仕様を満足する製造条件が複数ある場合、それらの中から、どの製造条件を選択すれば良いか判断できず、誤って要求仕様の上下限値から余裕の無い製造条件を選択してしまい、製造時に不良を発生させたり、製造コストが大きいものや、歪み、疵など機械試験特性以外の品質不良の発生頻度が大きいものや、納期が遅いもの(製造条件によって製造時間が異なる)を選択してしまう可能性がある。
更に、一般に鋼材の製造実績は、製造条件の指示値に対して、あるばらつきやバイアスを持っていて、これらは製造条件指示値に対する誤差となる。しかもばらつきやバイアスを発生させる要因は、生産設備の能力、保守状況、制御精度、あるいはオペレータの技能や経験等から定まる操業実力の変動により変化する。
しかしながら、従来の方法では、このような誤差要因や誤差の経年変化を考慮できないので、従来の材質推定方法で求めた製造条件を用いて製品を製造しても該製品の材質実績が要求仕様を満足する保証はない。更に、設備改善や操業改善等により操業実力が向上しているにも拘わらず、古い製造実績に基づいて製造条件を決定すると、必要以上に高度の制御が要求されてしまう等の問題点を有していた。
本発明は、前記従来の問題を解消されるべくなされたもので、品質設計における複数の目的関数(例えば、コストとリスク)を最適化する製造条件を決定する際に、品質設計者の意思決定を容易にする最適品質設計支援装置を提供することを課題とする。
本発明は、過去に製造した各製造条件の値、及び、そのときの品質特性値を保存した品質データベースと、各製造条件の単位量当りのコストを格納したコストデータベースと、複数の製造条件の中で、設計者が任意に製造条件を選択し、その値を入力するための入力手段と、要求の品質特性値を満足するような、選択した製造条件以外の製造条件を、前記品質データベースに格納された、過去に製造した各製造条件の値とそのときの品質特性値のデータに基づいて計算する製造条件計算手段と、前記入力された選択された製造条件についての値、および、前記製造条件計算手段により計算された製造条件の値からなる製造条件値を与えたときに、品質データベースから、前記選択された製造条件および前記選択した製造条件以外の製造条件が要求の品質特性値に及ぼす影響係数であって、前記製造条件値の近傍の局所的な影響計数を計算する影響係数計算手段と、前記製造条件計算手段と影響係数計算手段と前記コストデータベースから、前記選択した製造条件を軸とした製造条件空間の中に、前記製造条件値と、前記コストデータベースに格納されたコスト情報を基にしたコストの等高線と、要求の品質特性値を満足するような、選択した製造条件以外の製造条件の値の等高線と、各製造条件の制限値と、選択した製造条件の過去の実績値を表示して、設計者の意思決定を支援する画面を作成する支援画面作成手段と、を備えたことを特徴とする最適品質設計支援装置により、前記課題を解決したものである。
本発明によれば、品質設計における複数の目的関数(例えば、コストとリスク)を最適化する製造条件を決定する際に、品質設計者の意思決定を容易にすることができる。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1において、20は第1の比較例に係る製品品質設計装置である。該製品品質設計装置20には、ローカルエリアネットワーク(LAN)30を介して、製造実績収集装置22と材料試験実績収集装置24が接続されている。これら各装置20、22、24は計算機、例えばワークステーションから構成することができる。
製造実績収集装置22は、図2に示す如く、過去に製造した製品14毎に、素材(鋳片)10の成分の指示値と実績値、及び、加熱、圧延、冷却、熱処理などの製造プロセス12における操業条件の指示値と実績値、及び、必要に応じて製造コストを収集し、製品品質設計装置20へ供給する。また、材料試験実績収集装置24は、同じく、過去に製造された製品14毎に、製品の材料試験で得られる機械試験特性値実績(強度、靭性等。以下材質実績値と称する)を収集し、製品品質設計装置20へ供給する。
製品品質設計装置20は、図3に示す如く、製造条件作成手段202、材質推定手段204、製造情報記憶手段206、及び、製造条件検索手段208を備えており、要求仕様を基に所望条件を満足する製造条件(成分および操業条件)の指示値を出力するものである。
製造情報記憶手段206には、前記製造実績収集装置22及び材料試験実績収集装置24で収集された製造条件の指示値と実績値、材質実績値、及び、必要に応じて製造コストが事例として蓄積される。具体的には、図4に示す如く、製品毎の素材成分(成分1〜成分K)の指示値と実績値、操業条件(操業1〜操業L)の指示値と実績値、及び材質実績値(材質1〜材質M)等が記載された表形式のデータベース(1行分が過去に製造された製品14毎のデータであり、1事例に相当する)とすることができる。この製造情報記憶手段206に蓄積されたデータベースは、更に素材成分や操業条件が近いグループに分類(クラスタリングと称する)して、各グループ毎のデータベースとして製造情報記憶手段に蓄積させることもできる。
材質推定手段204は、製造情報記憶手段206に蓄積された製造条件の実績値及び材質実績値をもとに、ある製造条件(素材の成分指示値及び操業条件の指示値)で製造した場合の製品材質を推定するとともに、その推定誤差も併せて求める。
また、製造条件作成手段202は、材質推定手段204に材質推定を行うように指示するとともに、材質推定手段が求めた材質推定値および推定誤差を用いて、要求仕様を満足するすべての製造条件を複数の製品に対して算出する。
更に、製造条件検索手段208は、前記製造条件作成手段202が算出した製造条件の中から、許容範囲に対する余裕、製造コスト、品質不良発生率、製造時間等の所望条件を満足する製造条件を検索して出力するものである。
次に、上記材質推定手段204について詳細に説明する。材質推定手段204は図5に示すように、入力変数限定手段204A、材質推定計算手段204B、及び、入力変数限定ルール格納千段204Cを備えている。
前記入力変数限定ルール格納手段204Cには、多数の入力変数の中から製品材質の推定に使用する入力変数を選択するためのルールが格納されている。即ち、製品の材質に影響を与える要因には、素材(鋳片)の化学成分(含有元素、含有量等)、加熱条件(鋼材抽出温度、在炉時間等)、圧延条件(鋼材温度履歴、圧延寸法、圧下率、圧延速度等)、冷却条件(鋼材温度履歴、冷却速度等)、熱処理条件(炉内温度履歴、炉内雰囲気等)等、非常に多くのものがあり、例えば50〜100にも昇る。このような多数の材質影響要因を有する対象に対して、全ての材質影響要因を変数(入力変数)として材質推定を行うと、入力空間の次元が多すぎて推定に非常に長い時間を要することから、材質推定に使用する入力変数を選択することで推定に要する時間の短縮を図る。そのためのルールを格納するのが入力変数限定ルール格納手段204Cである。例えば、材質を作り込む冶金プロセスには、素材のある成分Aは、ある含有量a以上にならないと材質に影響しないという特性がある。従って、入力変数Aは入力値a以上の入力空間領域では材質推定に用いるが、入力値a未満の領域では用いない。このように入力変数の特性に着目して、入力空間の領域により、入力変数を限定することができる。こうした入力変数限定ルールは、様々な方法で作成できる。例えば、物理現象に関する先見情報を蓄積したルールを予め作成しておくことができる。あるいは、決定木などにより、蓄積したデータから自動的にルールを作成することもできる。
入力変数限定手段204Aは、材質を推定しようとする製品に関する入力情報、即ち、素材の成分指示値(含有元素、含有量等)及び製造プロセス12における加熱条件(鋼材抽出温度、在炉時間等)、圧延条件(鋼材温度履歴、圧延寸法、圧下率、圧延速度等)、冷却条件(鋼材温度履歴、冷却速度等)、熱処理条件(炉内温度履歴、炉内雰囲気等)などの操業条件の指示値を基に、入力変数限定ルールを参照して材質推定に使用する入力変数を選択・限定し、この結果を材質推定計算手段204Bに出力する。更に、入力された各指示値の中から限定された入力変数に対応する指示値を抽出して、材質推定計算手段204Bに出力する。
材質推定計算手段204Bは、入力変数限定手段204Aで選択された入力変数を用いて距離関数(後述)を定義し、この距離関数を用いて、製造情報記憶手段206に貯蔵されているデータの中から、入力値に近いデータを有する事例を複数個抽出する。そして抽出された事例の材質実績値を用いて、材質を推定して出力する。併せて、推定誤差も出力する。
ここで、上記製品品質設計装置20は1つの計算機の中に構築することもできるが、複数計算機で構築するようにしてもよい。
以上の構成からなる鋼材の製品品質設計装置を用いて、要求仕様を満足する製品を製造することが可能な指示値を求める手順を、図6を参照して説明する。
まず、ステップSlで、ある要求仕様を有する製品Pjに関する、素材成分の指示値及び操業条件の指示値を製品品質設計装置20に入力する。ここで入力する各指示値は特に厳密さは必要なく、経験や過去の実績等から適宜決定すればよい。また、この入力は人間が行ったり、他の計算機から行うようにしたり、あるいは、製造条件作成開始の入力があった時点で、製造条件作成装置自身に自動生成させるなど、いかようにしてもよい。
次にステップS2で、初期入力された製品Pjに関する指示値をもとに、製造条件作成手段202は、材質推定手段204に製品材質の推定を行うよう指令を出し、材質推定手段204は、図7に示すサブルーチンに従って材質の推定を行う。
即ち、まずステップS21で、入力変数限定手段204Aは入力変数限定ルール格納手段204Cに格納されているルールを参照して、ステップSlで入力された製品Pjに関する指示値(素材の成分とその含有量、加熱炉における鋼材抽出温度や在炉時間、熱間圧延における圧延温度、圧下率、寸法、及び圧延速度、その他各種製造条件)を基に、材質に対する影響が大きい入力変数を選択する。例えば、素材成分中の不可避的不純物Pは通常含有量が0.01質量%以下であれば製品の材質に悪影響を及ぼさないが、これより多く含有されると材質に影響を与えるというルールがあれば、入力されたPの含有量が0.006質量%の場合は、Pは入力変数とはされないが、0.02質量%であれば、入力変数として選択されることになる。このようにして限定された入力変数、及びこれらの入力変数に相当する入力値(指示値)は材質推定計算手段204Bに供給される。
次いで、ステップS22に進み、材質推定計算手段204BはステップS21で抽出された入力変数、入力値、及び製造情報記憶手段206に格納されたデータ中で前記抽出された入力変数に対応するデータを用いて、距離関数を定義する。距離関数としては、例えば、選択された入力変数の数に相当する次元を有する空間おけるユークリッド距離を用いることができる。ユークリッド距離Lは、入力された指示値を(X10、X20、・・・)とし、製造情報記憶手段206内のデータを(X1、X2、・・・)とすると、次式で表わされる。
L=[w1(X1−X10)2+w2(X2−X20)2+・・・]1/2
・・・(1)
ここで、wiは重み係数であり、例えば、入力値が材質(即ち出力値)に与える影響を多重回帰分析により求めることができる。
そして、上記(1)式に基づいて製造情報記憶手段206に貯蔵されている各事例のデータと入力値の間の距離を計算する。この距離は貯蔵されている事例の数だけ算出される。
次いでステップS23に進み、図8に示す如く、入力値の近傍にある事例のデータを製造情報記憶手段206に蓄積されているデータから取得する。これには様々な方法があるが、例えば製造情報記憶手段206の中のデータで、前記(1)式で計算した距離Lが小さい方からN個(Nは予め定めた定数)の事例のデータを入力値近傍にある事例のデータと定義することができる。
次いでステップS24に進み、入力値の近傍にある取得された事例のデータか材質に関連するデータ(図4の材質1〜材質Mの実績値)を用いて、その入力値に対する材質推定値(出力値)とその推定誤差を計算する。
これには、様々な方法があるが、例えば上記のようにして取得された材質に関連する実績データの平均値[材質11〜[材質M]を次式で算出し、これらを材質推定値として出力し、同じくそれらの標準偏差を計算し、推定誤差として出力することができる。あるいは、特開平6−95880に記載されているように、近傍の事例との類似度を評価することもできる。
[材質1]=Σ材質1i/N
[材質2]=Σ材質2i/N
・・・・・・・・・・・
[材質M]=Σ材質Mi/N ・・・(2)
ここで、i=1〜N
出力値(材質推定値)としては、例えば、引張強度、降伏点、伸び、シャルピー吸収エネルギーなどの材質を表わす出力変数を用いることができる。
上述のステップS23、S24の処理は、いずれも材質推定計算手段204Bが行い、その結果は製造条件作成手段202に出力される。
次に図6のステップS3に進み、材質推定手段204が求めた材質推定値及び推定誤差を用いて、製造条件作成手段202は、下記式に基づく判定、即ち、推定誤差を考慮した材質推定値が要求仕様の許容範囲内かどうかを判定する。
要求仕様の下限値≦材質推定値士推定誤差≦要求仕様の上限値・・・(3)
(3)式を満足した場合には、ステップS4に進んで、上記判定に使用した製造条件指示値を図示しない記憶手段に記憶し、ステップS5に進む。一方、ステップS3で(3)式を満足しなかった場合には、ステップS5に飛ぶ。
ステップS5では、取り得る製造条件指示値の全てについて、材質推定を行ったか否かを判定し、判定結果が否である場合にはステップS6に進み、下記(4)式、(5)式に従って製造条件指示値を変更し、ステップS2に戻る。
Figure 0004623020
式中のα、βは各成分、各操業条件の増減分であり、予め実験的、経験的に決めておく必要がある。〈 〉は、この〈 〉中のいずれか1つを選択することを意味する。成分1を例にとれば、現在の成分1の指示値[成分1]iにα1だけ増加させて新指示値[成分1]i+1とするケース、α1だけ減じて新指示値[成分1]i+1とするケース、あるいは、[成分1]iをそのまま新指示値[成分1]i+1とするケースがある。
一方、ステップS5において、取り得る製造条件指示値の全てについて、材質推定を行ったと判定された場合にはステップS7に進み、それら各製品の製造条件指示値を出力して終了する。
なお、上記のようにして得られた製造条件指示値は、製造情報記憶手段206に記憶するようにしておけば、これに対応する製造条件実績値と材質実績値を収集するだけで、事例を追加できる。
次に第2の比較例について述べる。
この比較例に係る製品品質設計装置20′を図9に示す。前述した第1の比較例に係る製品品質設計装置20とは、製造条件推定手段210を付加した点で異なり、その他についてはほぼ同様の構成であるので、製造条件推定手段210を中心に説明し、その他の説明は省略する。
製造条件推定手段210は、製造条件作成手段202からの指令があると、製造情報記憶手段206に蓄積されている、過去に製造した製品毎の素材成分の指示値とその実績値、及び、製造条件の指示値とその実績値、を基に製造実績推定モデルを作成し、このモデルを用いて、新たに製造しようとする製品の素材成分の指示値と製造条件の指示値に対する実績値を推定する(実際に製造した場合の実績値を意味するのではなく、現在の操業実力で製造すれば、こうなるであろうと推定される実績推定値を算出する)と同時に、その結果を材質推定手段202へ出力する。
前述の第1比較例では、製造条件指示値を用いて材質を推定するようにしているが、本比較例では、製造実績推定モデルで推定した製造実績推定値を用いて材質を推定するようにしているので、製造条件指示値に対する製造実績のバイアスやばらつきに起因する誤差を排除することができる。
上記製造実績推定モデルは、例えば、図10に示すように、製造情報記憶手段206に蓄積された事例300個のデータを用いて、各パラメータ毎に、製造条件の指示値を横軸(入力)とし、製造条件の実績値を縦軸(出力)として最小2乗法で線形回帰式を作成して、これをモデルとすることができる。
さらにこの製造実績推定モデルは、製造情報記憶手段206に新たな事例が蓄積される毎に、事例300個のなかで、最も古い事例を削除するようにして、該モデルを更新するように構成することができる。このように構成することで、該モデルは現在の操業実力を反映したものとなり、従って操業実力の経年変化にも対応することが可能となる。なお、本比較例による製品品質設計装置20′は1つの計算機の中に構築することもできるが、複数計算機で構築するようにしてもよい。
図11に本比較例での、製造条件を作成するための手順を示す。図6に示したフローチャートにステップS11を追加したものであり、説明は省略する。
上記2つの比較例においては、製造情報記憶手段に蓄積されている事例を、特にクラスタリングしていないが、素材成分、操業条件が広範囲にわたる場合には事例を近いグループにクラスタリングし、各グループ毎のデータベースを製造情報記憶手段206に構築するようにしてもよい。例えば、成分Cの含有量に応じて、極低炭素鋼、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼のようなグループにクラスタリングすることが考えられる。これによれば、信頼性の高い推定値を得ることができ、また、推定に要する時間を更に短縮することができる。
また、製品品質設計装置20への過去の事例収集は、製造実績収集装置22、材料試験実績収集装置24が行うことで説明したが、これに限らず、人間が直接入力してもよいし、フロッピー(登録商標)ディスクなどの記録媒体を介してもよい。
さらに、材質推定値の推定誤差は材質推定計算手段204Bが計算、出力することで、説明したが、別の手段が行うようにしてもよい。
なお、製造情報記憶手段206は、素材の指示値と実績値、操業条件の指示値と実績値、及び、材質実績値を蓄積することで説明したが、第1比較例では、素材の指示値及び操業条件の指示値は使用しないから、これらを必ずしも蓄積する必要はない。
次に、第3の比較例について説明する。
本比較例は、図12のステップS12に示す如く、第1又は第2比較例で求められた要求仕様を満足する全製造条件指示値の中で、要求仕様範囲(例えば材質範囲の上下限値)に対して最も余裕があるものを選択する。
他の点に関しては、第1又は第2比較例と同じであるので、同じ符号を付して、説明を省略する。
本比較例によれば、製造実績の誤差や材質モデルの誤差を加味して、要求仕様を満足する製造条件指示値の中で、要求仕様範囲の上下限値から、最も余裕のある製造条件指示値を得ることができる。従って、設計した製造条件指示値を与えたときに、要求仕様範囲の上下限値から余裕の無い製造条件を誤って選択することが無くなり、材質実績が要求仕様を外れて不良が発生する頻度を削減することができる。
次に、本発明の第4の比較例について説明する。
本比較例は、前記比較例と同様の製品品質設計装置20において、更に、図13に示す如く、製造条件指示値と製造コストの平均を管理するモデルを持つ。
そして、図14のステップS13に示す如く、第1又は第2比較例で求められた要求仕様を満足する全製造条件指示値の中で、製造コストが最も小さいものを選択する。
他の点に関しては、第1又は第2比較例と同じであるので、同じ符号を付して、説明を省略する。
本比較例によれば、製造実績の誤差や材質モデルの誤差を加味して、要求仕様を満足する製造条件指示値の中で、製造コストが最も小さい製造条件指示値を得ることができる。従って、設計した製造条件指示値を与えたときに、製造コストが高い製造条件を誤って選択することが無くなり、材質実績が要求仕様を外れて不良が発生する頻度を削減することができる。
次に、第5の比較例について説明する。
本比較例の材質推定手段204は、材質の予測値と、その推定誤差だけでなく、品質不良発生率も出力するようにされている。
品質不良発生率の計算方法は、様々な方法があるが、例えばデータベース内の近傍データの品質不良が発生したデータの数と、全ての近傍データの数との比を計算し、それを品質不良発生率とすることができる。
そして、図15のステップS14に示す如く、第1又は第2比較例で求められた要求仕様を満足する全製造条件指示値の中で、品質不良発生率が最小のものを選択して出力する。
他の点に関しては、前記第1、第2比較例と同じであるので、同じ符号を付して説明は省略する。
本比較例によれば、要求仕様を満足する製造条件指示値のなかで、機械試験特性以外の品質不良発生率が最小のものを得ることができるようになり、品質不良発生率を減少させることができる。
次に、第6の比較例について説明する。
本比較例の材質推定手段204は、材質の予測値と、その推定誤差だけでなく、予測製造時間も出力する。
予測製造時間の計算方法には、様々な方法があるが、例えばデータベース内の近傍データの製造時間実績の平均値を計算して、それを予測製造時間とすることができる。
そして、図16のステップS15に示す如く、第1又は第2比較例のようにして求められる、要求仕様を満足する全製造条件指示値の中で、製造時間が最小のものを、選択して出力する。
他の点に関しては、前記第1比較例と同じであるので、同じ符号を付して説明は省略する。
本比較例によれば、要求仕様を満足する製造条件指示値のなかで、製造時間が最小のものを得ることができるようになり、納期遅れ発生率を減少させることができる。
前記第4比較例によれば、材質特性値に対する各製造条件への影響係数が一定であれば、要求仕様を満足する製造条件指示値の中で、製造コストが最も小さい製造条件指示値を得ることができるが、鋼材の材質のように、複雑且つ非線形の対象においては、材質特性値に対する各製造条件への影響係数が、製造条件の値によって変化するため、材質特性値の単位量当りのコストも製造条件の値によって変化する。従って、第4比較例の方法では、必ずしも最もコストが低い製造条件を本当に選択できているのかが分からないという問題点が残っていた。
次に、このような問題点を解決した本発明の実施形態について詳細に説明する。
品質設計において、2つ以上の目的関数(例えば、製造コストとリスク(過去の事例からの遠さ))を最適化する製造条件を決定することは、製造条件の数が多く、対象が非線形であるため、現状の方法では、精度に限界がある。そこで本実施形態においては、材質DB及び製造条件単価情報を基に、過去の製造実績から外れるリスクと製造コストを可視化し、製品品質設計者の意志決定を容易にする。
品質設計は、過去の製造実績とコスト情報を基に行なう必要がある。現状は、設計者が帳票等を見て意思決定を行なっているが、リスク(過去の製造実績から外れること)とコストを定量的に評価する手法がなく、設計した製造条件が適切であるか評価できない。そこで、本実施形態では、図17に示す如く、過去に製造した各製造条件の値と、その時の品質特性値(実績値)を格納した品質DB30と、各製造条件の単位量当りのコストを格納したコストDB32から得られる各製造条件の単価の情報を基に、パソコン40で、要求仕様を満足する製造条件の中で、2つ以上の目的関数(ここでは製造コストと過去の事例からの近さ)を可視化し、支援画面50に表示して、意思決定を容易にする。
本実施形態では、図17中に示す如く、2つ以上の目的関数(図では過去の実績からの外れ量とコスト)を生データと一緒に表示する。そして、データ分布の中で、どの製造条件を選択するかは、設計者の判断に委ねる。即ち、最終判断は設計者が行ない、意思決定支援に寄与する。
薄鋼板の強度設計を例にとって説明すると、現在の薄鋼板品質設計は、図18に示す如く、厚、幅、目標強度、靭性等の要求仕様に応じて、過去の類似事例、設計ノウハウを基に、厚、幅、目標強度及び靭性により、成分A、成分B、成分C以外の化学成分、加熱条件、圧延条件、冷却条件等の設計値の初期値を決定する。
そして、目標強度を満足し、コストが低くなるように、成分A、成分B、成分Cを設定する強度設計を行なう。
具体的には、図19に示す如く、過去の類似物件の記録(製造条件、強度実績平均値)に基づいて、強度予測値が狙い値になるようにパソコン40のソフトウェア上で製造条件を試行錯誤で変更する。
各化学成分の強度に対する影響係数は、例えば、成分AがA1(MPa/%)、成分BがA2(MPa/%)、成分CがA3(MPa/%)(A2>A3>A1)であり、各化学成分の強度当りのコストは成分AがB1円、成分BがB2円、成分CがB3円(B3>>B2>B1)となる。成分Bにおける強度に対する影響係数の例を図20に示す。
従って、強度当りのコストは、成分Cが高く、成分Aと成分Bが同じ位であり、成分Aと成分Bで強度を出して、足りない分を成分Cで補うのが望ましい。又、スラブ転用ができるように、成分Bはできるだけ、ある許容値未満とすることが望ましい。更に、リスクを回避するため、過去の事例と同様にしたい。
このように、(1)製造条件空間によって強度に対する影響係数が異なる。(2)製造条件の数が多く、非線形であるため、現在の設計値の最適値を判断するのが困難である。(3)過去の事例の有無が分からない、という問題があるので、設計者の意思決定を容易にすることが望ましい。
そこで本実施形態においては、図21に示す如く、過去に製造した各製造条件の値とそのときの品質特性値を保持した品質データベース(DB)30と、各製造条件の単位量当りのコストを格納したコストデータベース(DB)32と、複数の製造条件の中で、設計者が任意に製造条件を選択し、その値を入力する入力手段410と、要求の材質特性値を満足するような、選択した製造条件以外の製造条件を計算する製造条件計算手段412と、製造条件値を与えたときに、材質DB30からその製造条件近傍の局所的な影響係数を計算する影響係数計算手段414と、前記製造条件計算手段412と影響係数計算手段414から、図22に例示するような、設計者の意思決定を支援する画面50を作成する支援画面作成手段416とを備えている。
前記支援画面作成手段416は、図22に例示したように、選択した製造条件空間の中に、現在の製造条件の値と、コストの等高線と、要求の品質特性値を満足するような選択した製造条件以外の製造条件の値の等高線と、各製造条件の制限値と、選択した製造条件の過去の実績値を表示するようにされている。
この意思決定支援画面には、現在の設計値から、より安価になる製造条件の変更方向と過去の実績を同時に表示する。又、強度レベルを同じにする成分Aの値の等高線、及び、そのときのコストの等高線を表示する。強度に対する影響係数変化の一例を成分Bを例にとって、図20に×印(成分C=0.00%)、△印(成分C=0.02%)、◆印(成分C=0.04%)で示す。このように、成分B濃度が高くなると強度への影響係数が小さくなるといった、経験的知識を明示することができ、技術伝承に寄与する。
以下、具体的な実施例について説明する。最初の表示画面が図23に示すような状態であった場合、□印で示す設計値の成分C濃度を下げてコストを下げる方向に移動すると、図24に示す如くとなる。この図24の状態から、更に等高線に沿って成分Cが0となるまで下げると図25に示す如くとなる。この図25の状態が最適値である。
このようにして、品質DB及びコスト情報を基に、汎用データ解析ソフトを用いて、非線形な対象において、要求仕様を満足する製造条件の中から、コストとリスクを同時に可視化して、意思決定を支援することができる。これにより、品質設計者が、容易に、より安価な製造条件を探索できる。又、過去、全く製造したことがない製造条件を選択することがなくなり、品質不良を低減できる。
なお、本実施形態においては、目的関数として、成分コストと過去の製造設定値から外れるリスクを考慮していたが、目的関数の数や種類はこれに限定されない。
本発明を実現するに好適な装置構成を示すブロック図 図1の装置構成において、過去の製造情報を収集している様子を示すブロック図 第1の比較例による製品品質設計装置を示すブロック図 前記比較例で用いられる材質データベースの例を示す図表 材質推定手段を示すブロック図 製造条件作成の手順を示す流れ図 材質推定の手順を示す流れ図 入力データの近傍の事例データから局所的に推定するモデルを示す図 第2の比較例による製品品質設計装置を示すブロック図 製造条件推定モデルを示す図 製造条件作成の手順を示す流れ図 第3の比較例による処理手順の要部を示す流れ図 第4の比較例における製造コスト推定モデルを示す図 第4の比較例による処理手順の要部を示す流れ図 第5の比較例による処理手順の要部を示す流れ図 第6の比較例による処理手順の要部を示す流れ図 本発明の実施形態における基本的な構成を示すブロック図 現在の鋼管素材品質設計を示すブロック図 同じく説明図 同じく強度に対する影響係数変化の一例を示す線図 前記実施形態の詳細構成を示すブロック図 前記実施形態における意思決定支援画面の例を示す線図 強度設計の実施例における意思決定支援画面の最初の状態の例を示す線図 図23の状態で成分C濃度を下げた状態を示す線図 同じく成分C濃度を更に下げた状態を示す線図
符号の説明
10…素材
12…製造プロセス
14…製品
20…製品品質設計装置
202…製造条件作成手段
204…材質推定手段
206…製造情報記憶手段
208…製造条件検索手段
210…製造条件推定手段
22…製造実績収集装置
24…材料試験実績収集装置
30…品質データベース(DB)
32…コストデータベース(DB)
40…パソコン
410…入力手段
412…製造条件計算手段
414…影響係数計算手段
416…支援画面作成手段
50…支援画面

Claims (1)

  1. 過去に製造した各製造条件の値、及び、そのときの品質特性値を保存した品質データベースと、
    各製造条件の単位量当りのコストを格納したコストデータベースと、
    複数の製造条件の中で、設計者が任意に製造条件を選択し、その値を入力するための入力手段と、
    要求の品質特性値を満足するような、選択した製造条件以外の製造条件を、前記品質データベースに格納された、過去に製造した各製造条件の値とそのときの品質特性値のデータに基づいて計算する製造条件計算手段と、
    前記入力された選択された製造条件についての値、および、前記製造条件計算手段により計算された製造条件の値からなる製造条件値を与えたときに、品質データベースから、前記選択された製造条件および前記選択した製造条件以外の製造条件が要求の品質特性値に及ぼす影響係数であって、前記製造条件値の近傍の局所的な影響計数を計算する影響係数計算手段と、
    前記製造条件計算手段と影響係数計算手段と前記コストデータベースから、前記選択した製造条件を軸とした製造条件空間の中に、前記製造条件値と、前記コストデータベースに格納されたコスト情報を基にしたコストの等高線と、要求の品質特性値を満足するような、選択した製造条件以外の製造条件の値の等高線と、各製造条件の制限値と、選択した製造条件の過去の実績値を表示して、設計者の意思決定を支援する画面を作成する支援画面作成手段と、
    を備えたことを特徴とする最適品質設計支援装置。
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