以下、図1〜図24を用いて、本発明の一実施形態による動力断接装置およびそれを用いた車両用ステアリング装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による動力断接装置を用いた車両用ステアリング装置の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による動力断接装置を用いた車両用ステアリング装置の構成図である。
車両用ステアリング装置1は、ステアリングハンドル2から転舵アクチュエータ3を機械的に分離し、ステアリングハンドル2の操舵量に応じて転舵アクチュエータ3により転舵用動力を発生させ、左右の転舵車輪4を転舵させるものである。
車両用ステアリング装置1は、ステアリングハンドル2と、転舵アクチュエータ3と、操舵軸5と、操舵角センサ6と、反力モータ8と、トルクセンサ7と、クラッチ機構10と、転舵軸11と、転舵角センサ12と、制御部(CU)50とを有する。
ステアリングハンドル2は、運転者によって操作され、車両を進ませたい方向に操舵される。操舵軸5は、ステアリングハンドル2に連結した入力軸である。
転舵アクチュエータ3は、左右の転舵車輪4を転舵させるものである。転舵アクチュエータ3は、動力源として電動モータ13を有する。電動モータ13の駆動力は、図示しない減速機構を介して転舵車輪4に伝達され、転舵車輪4の向きを変える。また、転舵アクチュエータ3には転舵軸11が接続されている。転舵軸11を駆動することにより、転舵アクチュエータ3が駆動され、転舵車輪4の向きを変えることもできる。転舵アクチュエータ3は、例えばラックアンドピニオン機構で構成されており、電動モータ13または転舵軸11から動力を受け、転舵アクチュエータ3は駆動される。
転舵アクチュエータ3には、転舵車輪4の転舵範囲を制限するメカ回転規制機構がある。転舵アクチュエータ3のメカ回転規制機構は、例えばラックアンドピニオン機構のラック端であるが、同様な効果が得られれば他のものであっても構わない。なお、この転舵範囲の端部をストロークエンドと呼ぶことにする。
反力モータ8は、運転者が操作するステアリングハンドル2に対して反力を付与するものである。反力モータ8は電動モータであり、減速機構9を介して操舵軸5に動力が伝達される。転舵角センサ12は、転舵アクチュエータ3の転舵角を検出する転舵状態検出手段である。ストロークエンドは、転舵角センサ12によって検出される。
操舵角センサ6は、ステアリングハンドル2の操舵角を検出する操舵状態検出手段である。
反力モータ8を駆動する動作パターンは、以下の4つがある。第1は、ステアリングハンドル2の操舵方向と反対方向に反力モータ8を回転させる場合であり、運転者はステアリングハンドル2より抵抗力を感じる。第2は、操舵方向と同一方向に反力モータ8を回転される場合であり、運転者がステアリングハンドル2を中立位置(車両が直進するステアリングハンドル2の位置)に戻すような場合であって、運転者はステアリングハンドル2からアシスト力を感じることができる。第3は、運転者がステアリングハンドル2を切った状態から手を離した時に作用するいわゆるセルフアライニングトルクに相当する力を反力モータ8で生成し、ステアリングハンドル2を中立位置に自動的に戻す。第4は、ステアリングハンドル2を任意の角度で停止保持させる場合である。以上のように、反力モータ8で生成した力を運転者はステアリングハンドル2から受けることができる。
減速機構9は、歯車やベルト・プーリを用いて反力モータ8のトルクを拡大するためのものである。減速機構9は、反力モータ8のトルクに余裕がある場合には必ずしも必要ではなく、反力モータ8の動力を直接操舵軸5に作用するようにしても構わない。
トルクセンサ7は、運転者がステアリングハンドル2から入力する操舵トルクを検出する。トルクセンサ7は、操舵軸5のねじれ角を検出することにより操舵軸5に作用するトルクを検出する。
クラッチ機構10は、ステアリングハンドル2の側である操舵側と、転舵アクチュエータ3の側である転舵側とを締結および解放を行なう動力断接機構である。転舵軸11は、転舵アクチュエータ3とクラッチ機構10を連結する出力軸である。
クラッチ機構10は、操舵軸5と転舵軸11を締結(接続)および解放(切断)する機構である。通常システム稼動時はこのクラッチ機構10は解放されているが、システム故障時にはクラッチ機構10を締結し、ステアリングハンドル2の動作が直接転舵アクチュエータ3に伝わり転舵車輪4の向きを変えることができる。これにより、車両の安全性が確保できる。
また、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した際、クラッチ機構10を締結して運転者に転舵アクチュエータ3のストロークエンドを呈示することにより、ステアリングハンドル2を切り増す方向に回せないようにする。これは、ステアリングハンドル2に設置された図示しないケーブルリールが破断するのを防ぐためである。ケーブルリールは、ケーブルを引き出しおよび巻き取り可能なリール構造でできており、ステアリングハンドル2に設置されたスイッチ類のケーブルをステアリングハンドル2の動作によりケーブルを引き出したり、巻き取ったりできるようにしている。
なお、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した際、クラッチ機構10を締結せず、反力モータ8で大きなトルクを発生することによりストロークエンド位置を運転者に伝えることも考えられるが、反力モータ8の大型化、コストアップになるため好ましくない。
また、クラッチ機構10により、ステアリングハンドル2の操舵側と転舵車輪4の転舵側は通常切り離されているので、ステアリングハンドル2の操舵量に対する転舵車輪4の転舵量を車両の走行速度によって変えたり、ステアリングハンドル2からの操舵入力無しに転舵アクチュエータ3を駆動し、転舵車輪4の向きを変えたりすることもできる。このように車両用ステアリング装置1では車両の速度、車両の旋回程度や加減速の有無等といった車両の走行状態に応じて柔軟に転舵アクチュエータ3により転舵車輪4の向きを変えることができる。
本実施形態の車両用ステアリング装置1では、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した際、クラッチ機構10を締結して運転者に転舵アクチュエータ3のストロークエンドを呈示することにしているが、機械的なロック機構を操舵軸5に設け、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した際、このロック機構のロックがかかるようにしてもよい。しかし、前述のようにステアリングハンドル2の操舵量に対する転舵車輪4の転舵量を車両の走行速度によって変える場合がある。このような場合には、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した時のステアリングハンドル2の操舵角が低速走行時と高速走行時で異なることになる。高速走行時はステアリングハンドル2の操舵に対して転舵車輪4の転舵が小さく、低速走行時はステアリングハンドル2の操舵に対して転舵車輪4の転舵が大きくなるようにしているため、高速走行時に合わせてロックするようにロック機構を設定した場合には、低速走行時には転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達していてもステアリングハンドル2が空転する場合がある。これは、運転者がステアリングハンドル2で操舵しても転舵車輪4が転舵されないという違和感を得ることになる。したがって、ロック機構のロック位置を低速走行時と高速走行時で変更する必要があるが、このような機能をロック機構に持たせる場合には、ロック機構が複雑になるため好ましくない。そこで、本発明ではロック機構を設置せず、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した際、転舵角センサ12によってストロークエンドが検出されるとクラッチ機構10を締結するようにしている。
クラッチ機構10は、システム故障時に瞬時に締結し、締結時のステアリングハンドル2を時計回りから反時計回りに回転させたときの不感帯である遊び(がた)が少なくなければならない。また、クラッチ機構10は、車両搭載性を考慮してコンパクトな構造で、低消費電力であることが望ましく、本実施形態のクラッチ機構10はツーウェイクラッチと呼ばれるローラを入力軸と出力軸で形成される楔部に係合するか否かにより締結/解放動作を行なうものである。
制御部50は、転舵アクチュエータ制御手段52と、作動状態切換え機構制御手段53とを有する。転舵アクチュエータ制御手段52は、操舵角センサ6によって検出された操舵角に基づき転舵アクチュエータ3を制御する。作動状態切換え機構制御手段53は、車両用ステアリング装置1の異常情報や装置停止情報、転舵角センサ12の情報に基づき動力断接装置であるクラッチ機構10の作動状態切換え機構26を制御する。
操舵角センサ6により検出された操舵角,転舵角センサ12によって検出された転蛇角,トルクセンサ7によって検出された操舵トルクの各情報は、制御部50に入力する。また、制御部50には、図示しない車両の速度、車両の旋回程度や加減速の有無等といった車両の走行状態の情報も入力する。
制御部50は、これらの入力した情報に基づいて、アクチュエータである反力モータ8の出力トルク、転舵アクチュエータ3のモータ13の回転方向や回転数など、クラッチ機構10の締結・解放を制御する制御信号を出力する。
ここで、図2及び図3を用いて、従来のツーウェイクラッチの構成と問題点について説明する。
図2及び図3は、従来のツーウェイクラッチの構成を示す断面図である。なお、図2はクラッチの解放状態を示し、図3はクラッチの締結状態を示している。
図2は、従来のツーウェイクラッチ10Pの一例の構成を示している。図2はツーウェイクラッチ10Pの入力軸15および出力軸16に垂直な平面の断面構成を示している。
ツーウェイクラッチ10Pは、入力軸15のカム面15Aと出力軸16のリング面16Aで形成される楔部にローラ17が楔係合するか否かでクラッチの締結/解放を行なうものである。ローラ17は、保持器18によって楔係合可能な位置に移動する。保持器18は円管状の部品であり、ローラ17を入力軸15と出力軸16の間に保持するように切欠き部を有している。図2に示す保持器18では切欠き部を4個持ち、それぞれの切欠き部にローラ17が2個ずつ配置されている。この切欠き部に配置された2つのローラ17の間には圧縮ばね19が設けられ、2つのローラ17が常に保持器18に接するように作用している。なお、詳細な説明は省略するが、保持器18の切欠き部は図示しないアクチュエータにより幅方向の寸法が変わるようにしており、切欠き部に挿入された2個のローラ17間の隙間が変わるようになっている。
図2はツーウェイクラッチ10Pが解放している時、図3はツーウェイクラッチ10Pが締結している時のローラ17の位置を示している。図2は、保持器18の切欠き部の幅が狭い状態であり、ローラ17と入力軸15のカム面15Aおよび出力軸16のリング面16Aとに隙間ができている。また、図3は、保持器18の切欠き部の幅が広い状態であり、ローラ17が入力軸15のカム面15Aおよび出力軸16のリング面16Aに接触し、カム面15Aとリング面16Aで形成される楔部に入り込んでいる。
次に、図3を用いて、ツーウェイクラッチ10Pがクラッチ締結するメカニズムを説明する。
入力軸15に回転力が加わる(図3では時計周り)と、摩擦力によりローラ17を左方向に引き込み、ローラ17には出力軸16のリング面16Aからの作用力と入力軸15のカム面15Aからの作用力が発生する。これら2つの作用力はリング面16Aとカム面15Aで作用・反作用の関係となり、入力軸15の回転力が増大した場合、作用力が大きくなるが2つの作用力のつりあい関係は維持される。このようにして入力軸15の回転力が出力軸16に伝達される。また、入力軸15に回転力が加わらない場合には作用力が発生しないため、ローラ17とカム面15Aおよびローラ17とリング面16Aには力が作用しない。入力軸15に回転力が加わらない状態を作ることによって、保持器18の切欠き部の状態を変えることができるので、ツーウェイクラッチ10Pの締結/解放状態を切り換えることができる。
以上のように、従来のツーウェイクラッチ10Pはクラッチの締結/解放動作を行なうが、クラッチ締結させる際、圧縮ばね19によりローラ17は両方向の楔部に入り込むため、2方向でクラッチ締結する。また、ツーウェイクラッチ10Pを締結状態から解放状態にするには、上記のように入力軸15にトルクが作用しない状態を作る必要がある。
図1に示した本実施形態の車両用ステアリング装置1では、前述したように、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した際、クラッチ機構10を締結するものである。しかし、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達していない場合には、車両の走行状態に応じて車両用ステアリング装置1の制御を行なうために、クラッチ機構10を解放する必要がある。例えば、ステアリングハンドル2を時計回りに動かし、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した直後、ステアリングハンドル2を反時計回りに動かした場合にはクラッチ機構10を解放から締結と締結から解放の動作を瞬時に行なう必要がある。
図2及び図3に示した従来のツーウェイクラッチでは、転舵アクチュエータ3のストロークエンドに到達した直後、ステアリングハンドル2を反対方向に回転させた場合には、入力軸15に作用するトルクが一度ゼロにならず、クラッチ解放することができなくなるという問題がある。この場合、通常の車両用ステアリング装置1の動作が行えなくなる。
また、特許文献2(特開平4−88221号公報)に記載のように、保持器を周方向に移動し、一方の回転のみを締結するツーウェイクラッチもあるが、時計回り方向、反時計回り方向を締結するために保持器を操作するアクチュエータが2つの動作をする必要がある。また、時計回り方向を締結するローラの位置と反時計回り方向を締結するローラの位置に角度差が生じるため、これが入力軸の遊び(がた)となり、運転者に違和感を与える。システム故障時には、時計回り、反時計回りの両方向でクラッチ締結する必要があり、この遊び(がた)は小さいことが望ましい。
そこで、図1に示した本実施形態の動力断接装置であるクラッチ機構10に用いるツーウェイクラッチでは、転舵アクチュエータ3がストロークエンド到達によって締結した直後、ステアリングハンドル2を反対方向に戻したときにクラッチ機構10を解放できるように、一方向のみクラッチ締結できるようにしている。また、時計回り方向および反時計回り方向のクラッチ締結を1つのアクチュエータで実現するとともに、システム故障時には両方向がクラッチ締結できるようにしている。さらに、クラッチ締結した際、運転者がステアリングハンドル2を時計回り方向から反時計回り方向、又は反時計回り方向から時計回り方向への切り換えを行った場合の遊びが小さくなるようにしている。
次に、図4〜図22を用いて、本実施形態による動力断接装置であるクラッチ機構10の構成について説明する。
最初に、図4及び図5を用いて、本実施形態による動力断接装置であるクラッチ機構10の全体構成について説明する。
図4は、本発明の一実施形態による動力断接装置であるクラッチ機構の構成を示す断面図である。図5は、図4のA−A断面図である。なお、図4及び図5において、同一符号は、同一部分を示している。
図4に示すクラッチ機構10は、ツーウェイクラッチである。クラッチ機構10は、入力軸20と、出力軸21と、ローラ22と、保持器23と、保持器付勢手段24と、係合子操作機構25と、作動状態切換え機構26とからなる。
入力軸20は、図1に示した操舵軸5に連結されており、ステアリングハンドル2から入力される回転トルクが入力する。入力軸20の詳細構成については、図11を用いて後述する。出力軸21は、図1に示した転舵軸11に連結されている。ローラ22は、入力軸20の円筒部20Bの内周面と出力軸21の外周面の間に配置され、入力軸20と出力軸21を連結する係合子である。保持器23は、ローラ22を保持する。保持器付勢手段24は、ローラ22がクラッチ解放位置になるように保持器23を付勢する。なお、保持器付勢手段24の詳細構成については、図13〜図15を用いて後述する。係合子操作機構25は、ローラ22がクラッチ締結位置になるように保持器23を操作する。なお、係合子操作機構25の詳細構成については、図16〜図19を用いて後述する。作動状態切換え機構26は、係合子操作機構25の駆動源である。
図5に示すように、入力軸20の円筒部20Bの内周面には、ローラ22が係合する溝である第2の係合面としてのカム面20Dを複数、等間隔に配置している。図示の例では、3個のカム面20Dが備えられている。カム面20Dは、入力軸20が時計回りあるいは反時計回りの回転方向にもローラ22が係合するように、中央が深く(中間部)、中央から回転方向の両側へ徐々に浅くなった斜面形状(傾斜部)をしている。なお、カム面20Dの詳細構成については、図8を用いて後述する。
図1に示した転舵軸11に連結された出力軸21は、入力軸20の円筒部20Bの内側に挿入される。また、出力軸21はローラ22が接触する面である第1の係合面としてのリング面21Aを有する。出力軸21のリング面21Aと入力軸20のカム面20Dにより、時計回り方向、反時計回り方向に対称な楔空間が形成される。
図5に示した出力軸21のリング面21Aの部分は、図4に示すように、管状になるように内側が削られており、入力軸20のシャフト部20Aが軸受27を介して接続されている。軸受27は必ずしも入力軸20と出力軸21の間に設置しなくてもよく、入力軸20および出力軸21を支持することができれば他の場所に設置してもよい。なお、入力軸20と出力軸21を支持するため、軸受27以外に図示しない他の軸受が設置されている。また、図5においては、軸受27の図示は省略している。
図5に示すように、ローラ22は円筒状の部品であり、入力軸20のカム面20Dの数と同数有する。ローラ22は、上記の出力軸21のリング面21Aと入力軸20のカム面20Dで形成される隙間に配置される。
また、図5に示すように、保持器23は、入力軸20の円筒部20Bの内周面および出力軸21のリング面21Aの間に装着可能な管状の部材であり、ローラ22を収容する複数の切欠き部23Aを周方向に所定の間隔で形成している。なお、図5に示す例では、3個の切欠き部23Aが周方向等間隔に形成されている。また、保持器23は、周方向に自由に移動できるように入力軸20の円筒部20Bの内周面との隙間および出力軸21のリング面21Aとの隙間が設けられている。
保持器23の切欠き部23Aには、ローラ22を保持器23に突き当てるように保持ばね28を設けている。保持ばね28は、例えば圧縮ばねや板ばねであり、ローラ22が傾くことなく保持器23に押し付けることができれば、他のものであってもよいものである。保持ばね28により保持器23の切欠き部23Aの寸法精度に左右されることなく、保持器23に連動してローラ22を移動することができるようになる。
次に、図5〜図10を用いて、本実施形態によるクラッチ機構10の締結/解放の状態について説明する。
図5〜図7は、本発明の一実施形態によるクラッチ機構の構成を示す断面図である。図8〜図10は、図5〜図7の要部拡大図である。なお、図4〜図10において、同一符号は、同一部分を示している。
図5はクラッチ解放の状態を示し、図6は時計回り方向がクラッチ締結の状態を示し、図7は反時計回り方向がクラッチ締結の状態を示す。図8、図9、図10は、それぞれ図5、図6、図7の丸で囲んだ部分の拡大図である。
図8に示すように、クラッチ機構10が解放している状態では、ローラ22がカム面20Dの溝の中央部に位置し、入力軸20とローラ22間に隙間が生じ、ローラ22がカム面20Dとリング面21Aで形成される楔空間から離脱している。これにより、入力軸20と出力軸21が自由に回転することができる。なお、図5に示す全てのローラ22が同様になっている。ローラ22の位置は、保持器付勢手段24により保持器23が付勢されることにより保たれる。なお、保持器付勢手段24の詳細は、図13〜図15を用いて後述する。
カム面20Dは、リング面21Aに対して径方向に所定距離離間した中間部20D1と、この中間部20D1から周方向両側に向かってリング面21Aとの相対距離が小さくなるように形成された第1,第2の傾斜部20D2,20D3とから構成される。
図9に示すように、クラッチ機構10が時計回り方向に締結している状態では、ローラ22がカム面20Dの左側斜面に当接し、ローラ22がカム面20Dとリング面21Aで形成される楔空間に係合している。これにより、入力軸20は時計回り方向には出力軸21とともに回転するが、反時計回り方向には自由に回転することができる。なお、図6に示す全てのローラ22が同様になっている。このローラ22は、係合子操作機構25により保持器23を入力軸20に対して反時計回り方向に操作することにより移動される。なお、係合子操作機構25の詳細は、図16〜図19を用いて後述する。
また、図10に示すように、クラッチ機構10が反時計回り方向に締結している状態では、ローラ22がカム面20Dの右側斜面に当接し、ローラ22がカム面20Dとリング面21Aで形成される楔空間に係合している。これにより、入力軸20は反時計回り方向には出力軸21とともに回転するが、時計回り方向には自由に回転することができる。なお、図7に示す全てのローラ22が同様になっている。このローラ22は、係合子操作機構25により保持器23を入力軸20に対して時計回り方向に操作することにより移動される。
クラッチを締結するメカニズムは、図2及び図3に示した従来のクラッチ機構と同様であり、入力軸20に回転力が加わる(図6の場合は時計回り)と、摩擦力によりローラ22を左方向に引き込み、ローラ22には出力軸21のリング面21Aからの作用力と入力軸20のカム面20Dからの作用力が発生する。これら2つの作用力はリング面21Aとカム面20Dで作用・反作用の関係となり、入力軸20の回転力が増大した場合、作用力が大きくなるが2つの作用力のつりあい関係は維持される。このようにして入力軸20の回転力が出力軸21に伝達される。また、入力軸20に回転力が加わらない場合には作用力が発生しないため、ローラ22とカム面20Dおよびローラ22とリング面21Aには力が作用しない。以上のようにして、クラッチ機構10は締結される。
次に、図11及び図12を用いて、本実施形態によるクラッチ機構に用いる入力軸20の構成について説明する。
図11は、本発明の一実施形態によるクラッチ機構に用いる入力軸の構成を示す斜視図である。図12は、本発明の一実施形態による動力断接装置の入力軸に用いるオルダムリングの構成を示す斜視図である。なお、図11において、図4と同一符号は、同一部分を示している。
入力軸20は、シャフト部20Aと、円筒部20Bと、円盤部20Cと、オルダムリング29と、滑りキー30A,30Bとからなる。シャフト部20Aは、円盤部20Cと一体となって動くように接合されている。シャフト部20Aの出力軸21側の端部には、図4にて説明した軸受27が設置されている。オルダムリング29は円盤部20Cと円筒部20Bの間に配置され、平行な両接触面には、図12に示すように互いに直角な凹溝54A,54Bがそれぞれ2個づつ形成されている。凹溝54A,54Bに対応する円筒部20B、円盤部20Cにも凹溝があり、これらの凹溝に嵌め合わせ、凹溝に沿って平行移動できるように滑りキー30A,30Bを設けている。入力軸20を上記のように構成することにより、円筒部20Bがシャフト部20Aの軸に直角な平面内を移動できるようになる。すなわち、例えば、滑りキー30Aが図11に示したY軸方向に設けられ、滑りキー30BがX軸方向に設けられている場合、円筒部20Bは、シャフト部20Aの軸であるZ軸方向に対して直交する平面であるX−Y平面内で移動可能となる。
入力軸20をこのような構成するのは、全てのローラ22が入力軸20のカム面20D、出力軸21のリング面21Aに楔係合するためである。部品の寸法誤差により楔係合する位置がずれた場合であっても円筒部20Bが移動することにより、確実に全てのローラ22が楔係合するようにしている。また、円筒部20Bの下方には図示しないステイにより入力軸20の円筒部20Bやオルダムリング29等が外れないように支えるようにしている。
なお、入力軸20の構造は、部品精度を確保できるのであれば、上記のように分割された構造ではなく、1つの部品で構成してもよいものである。また、シャフト部20Aと円筒部20Bの間に弾性部材を介して接続したり、円筒部20Bを弾性変形させたりして全てのローラ22が確実に楔係合するようにしてもよい。
次に、図13〜図15を用いて、本実施形態によるクラッチ機構10に用いる保持器付勢手段24の構成について説明する。
図13は、本発明の一実施形態によるクラッチ機構に用いる保持器付勢手段の構成を示す斜視図である。図14及び図15は、本発明の一実施形態によるクラッチ機構に用いる保持器付勢手段の動作を説明する模式図である。
図12に示すように、保持器付勢手段24は、ローラ22がクラッチ解放位置になるように保持器23を付勢するものである。保持器付勢手段24は、第2の弾性部材である圧縮ばね31と、付勢板32とからなる。
圧縮ばね31は、図4に示すように、入力軸20のシャフト部20Aに挿入され、一端は円盤部20Cに当接することでシャフト部20Aの軸方向への移動が制限されている。他端は、付勢板32に当接することで付勢板32を保持器23に押し付けるようにしている。なお、保持器23はこの圧縮ばね31により下方に移動しないように入力軸20の円筒部20Bに設けられた図示しないステイによって支持されている。
付勢板32は、入力軸20とともに回転するが、入力軸20の軸方向には自由に動くようにしており、図示しない滑りキーによって付勢板32は入力軸20のシャフト部20Aと接続されている。付勢板32には三角状の凹部33を有し、保持器23にもこの凹部33に対向するように三角状の凸部34を有する。この凹部33と凸部34の頂点は、ローラ22が、図8に示すようにカム面20Dの溝の中央部に位置するように調整されている。
なお、図13では、凹部33、凸部34を1個ずつ示しているが、それぞれ複数有しているものである。なお、同様の効果が得られれば、付勢板32に三角状の凸部、保持器23にこの凸部に対向するように三角状の凹部を設けてもよい。
次に、図14及び図15を用いて、保持器付勢手段24の動作について説明する。なお、図14はクラッチ解放状態を示し、図15はクラッチ締結状態を示している。
図14は、付勢板32の凹部33と保持器23の凸部34が噛み合っており、保持器23に外力が加わらない限り、付勢板32に対して保持器23が動くことはない。このようにして、ローラ22が図8に示すようにカム面20Dの溝の中央部に位置するようにしている。
図15は、係合子操作機構25により保持器23が右方向(矢印A1方向)に動かされた状態である。保持器23の動作とともに付勢板32が圧縮ばね31のばね力に反し、円盤部20Cの方向(矢印A2方向)に移動している。係合子操作機構25による保持器23の操作力が無くなると圧縮ばね31が伸び、凹部33と凸部34が噛み合う位置に戻る。
次に、図16〜図19を用いて、本実施形態によるクラッチ機構10に用いる係合子操作機構25の構成について説明する。
図16は、本発明の一実施形態によるクラッチ機構に用いる係合子操作機構の構成を示す断面図である。図17〜図19は、本発明の一実施形態によるクラッチ機構に用いる係合子操作機構の動作を説明する模式図である。
図16に示すように、ローラ22がクラッチ締結位置になるように保持器23を操作する係合子操作機構25は、操作部材である操作バー35と、力点ピン36と、支持部材である支点バー37と、作用点凸部38と、楔リング39とからなる。係合子操作機構25は、入力軸20と出力軸21の微少な位相差を利用して保持器23を周方向に移動させるものであり、ローラ22を入力軸20のカム面20Dと出力軸21のリング面21Aで形成される楔空間に移動させるものである。
操作バー35は、入力軸20の円筒部20Bに設置された力点ピン36に揺動可能に設置されている。保持器23の側の端部は、図17に示すように、保持器23に設けられた2つの作用点凸部38A,38Bの間に嵌め合わせるように挿入されている。操作バー35と作用点凸部38A,38Bのガタは、小さいほどよい。しかし、操作バー35は平面内を揺動するが、保持器23は円弧面を移動するため、操作バー35がスムーズに揺動するように適度な隙間を有している。
操作バー35の中間部には、図17に示すように、支点バー37と対向する位置に凸部35A,35Bを備えている。凸部35A,35Bと支点バー37の間にも操作バー35がスムーズに揺動するために適度な隙間が設けられている。
図16に示すように、支点バー37は、円管状の部材にレバーが付いたような形状をしており、出力軸21に対して回転および軸方向の移動ができるように接続されている。支点バー37の端部である支点部37A1,37A2はコの字の形状をしており、図17に示すように、操作バー35の凸部35A,35Bを両側から支えるようにしている。また、支点バー37は、図16に示すように、出力軸21の軸方向に緩やかに広がるように斜面部37Bを有している
楔リング39は、円管状の形状をしており、出力軸21に回転および軸方向の移動ができるように接続されている。楔リング39の内周の一部には、支点バー37の斜面部37Bに対向するように斜面部39Aを有している。
楔リング39が、作動状態切換え機構26により図16に示す上方(矢印B1方向)に移動されるとき、楔リング39の斜面部39Aと支点バー37の斜面部37Bが接触しているため、支点バー37は出力軸21に接触する方向に力を受け、この摩擦力により接続するようになる。このように、支点バー37の斜面部37Bと楔リング39の斜面部39Aを利用することにより、支点バー37を出力軸21に摩擦接続するため、作動状態切換え機構26に必要な力を小さくできる。
以上のように、楔リング39を軸方向に動かすことにより、支点バー37の出力軸21への接続/非接続を切り換えることができる。
係合子操作機構25では、操作バー35の力点ピン36の接続点が力点となり、操作バー35の凸部35A,35Bと支点バー37の接触点が支点となり、操作バー35の作用点凸部38A,38Bとの接触点が作用点となる。このようにして、操作バー35がてこのレバーとなっている。力点の移動量に対する作用点の移動量を拡大するため、力点・支点間の距離より支点・作用点間の距離が大きくなるように調整されている。また、力点が入力軸20の円筒部20Bに、支点が出力軸21に、作用点が保持器23に接続されていることになる。このようにして入力軸20と出力軸21の僅かな位相差に対して、保持器23の移動量を拡大することができる。その結果、保持器23の移動量が大きくなり、速やかに保持器23を移動できるため、遊び(ガタ)の影響を小さくすることができる。
次に、図17〜図19を用いて、係合子操作機構25の動作について説明する。図17は、支点バー37が出力軸21に接続されていない場合、または、接続されているが入力軸20と出力軸21に位相差がない場合の操作バー35を示している。このような場合に、操作バー35が直立するように、力点ピン36と保持器23の作用点凸部38の位置が設計されている。支点バー37が出力軸21に接続されていない場合には、保持器付勢手段24により保持器23が図17に示すように操作バー35が直立するように保たれる。支点バー37が出力軸21に接続されているが入力軸20と出力軸21に位相差がない場合には、入力軸20に接続されている力点ピン36と出力軸21に接続されている支点バー37の位置ずれが無く、保持器23が図17に示すように操作バー35が直立するように保たれる。係合子操作機構25が図17に示すような場合には、ローラ22が図8に示すようにカム面20Dの溝の中央部に位置するようになり、クラッチ機構10が解放された状態になる。
図18は、図6や図9に示すように時計回り方向にクラッチ締結する場合の操作バー35を示している。ローラ22が図8に示す位置から図9に示す位置に動くまで(クラッチ締結するまで)、入力軸20が出力軸21より若干早く時計回り方向に動くことになる。したがって、図18に示すように支点バー37の支点部37Aの位置より力点ピン36の位置が右側に動くことになる。そのため、保持器23は操作バー35により左側に動かされる。これを図6や図9に対応させると、保持器23が反時計回り方向に移動されることになるので、クラッチ機構10は時計回り方向が締結するようになる。このように、係合子操作機構25により入力軸20と出力軸21の僅かな位相差に対して、保持器23の移動量を拡大することができるので、保持器23を早くクラッチ締結位置に移動することができ、クラッチ機構10の遊びを小さくすることができる。このように保持器23の移動量を拡大しない場合には、ローラ22及び保持器23が図8から図9のように動く角度が遊びになる。
図19は、図7や図10に示すように反時計回り方向にクラッチ締結する場合の操作バー35を示している。ローラ22が、図8に示す位置から図10に示す位置に動くまで(クラッチ締結するまで)、入力軸20が出力軸21より若干早く反時計回り方向に動くことになる。したがって、図19に示すように支点バー37の支点部37Aの位置より力点ピン36の位置が左側に動くことになる。そのため、保持器23は操作バー35により右側に動かされる。これを図7、図10に対応させると保持器23が時計回り方向に移動されることになるので、クラッチ機構10は反時計回り方向が締結するようになる。
次に、再び、図4を用いて、作動状態切換え機構26の構成について説明する。
作動状態切換え機構26は、レバー40と、ソレノイド41と、第1の弾性部材である引っ張りばね42とからなる。レバー40は、楔リング39を上下方向に動かすものである。ソレノイド41は、レバー40を駆動するアクチュエータである。本実施形態では、1個のアクチュエータが用いられている。引っ張りばね42は、楔リング39を上方に移動するようにレバー40を引っ張るものである。
レバー40は、支点43を中心に回転するように設置し、ソレノイド41または引っ張りばね42により動くようにしている。レバー40により、楔リング39が出力軸21の方向に駆動され、クラッチ機構10の締結/解放動作を行なう。
ソレノイド41は、レバー40に接続され、ソレノイド41を通電することによりレバー40をソレノイド41の側に引き寄せる。車両用ステアリング装置1が正常に動作している場合には、ソレノイド41に通電し、楔リング39が下方に移動することで、クラッチ機構10は解放している。なお、ソレノイド41の吸引力は、引っ張りばね42のばね力でレバー40が下方に動くのを阻止できる吸引力としている。また、車両用ステアリング装置1の故障時または転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した時には、ソレノイド41をOFFにし、引っ張りばね42によりレバー40が下方に動き、楔リング39が上方に移動することでクラッチ機構10が締結される。
図4ではレバー40と楔リング39の間の摺動抵抗を低減するためにレバー40と楔リング39の間にスラスト軸受44を設けたが、同様の効果が得られれば他のものであってもよいものである。
なお、クラッチ機構10が解放状態の場合には、作動状態切換え機構26と出力軸21以外は入力軸20とともに回転する。これにより出力軸21に接続される転舵アクチュエータ3は入力軸20と独立して駆動することができる。クラッチ機構10が締結状態の場合には、作動状態切換え機構26以外が入力軸20とともに回転する。作動状態切換え機構26はクラッチ機構10が締結/解放いずれの場合においても回転しないので、ソレノイド41の配線が容易になる。
次に、図20を用いて、本実施形態による動力断接装置であるクラッチ機構の第2の構成について説明する。
図20は、本発明の一実施形態による動力断接装置であるクラッチ機構の第2の構成を示す断面図である。なお、図20において、図4と同一符号は、同一部分を示している。
本例の動力断接装置としてのクラッチ機構10Aは、係合子操作機構25Aおよび作動状態切換え機構26A以外の構成及び動作は、図4に示した例と同じである。
係合子操作機構25Aは、支点バー37Aのみ図4に示す例と異なる。支点バー37Aは、支点バー37Aは、円管状の部材にレバーが付いたような形状をしており、出力軸21に対して回転および軸方向の移動ができるように接続されている。支点バー37Aの操作バー35の側の端部はコの字の形状をしており、操作バー35を両側から支えるようになっている。
支点バー37Aが作動状態切換え機構26Aにより押圧されるとき、支点バー37Aは出力軸21に接触する方向に力を受け、この摩擦力により接続するようになる。このようにして、支点バー37Aの出力軸21への接続/非接続を切り換えることができる。
作動状態切換え機構26Aは、支点バー37Aを水平方向に動かす押圧レバー45と、押圧レバー45を駆動するソレノイド46と、押圧レバー45を支点バー37の方向に移動させる圧縮ばね47と、押圧レバー45の支点バー37の側の端部に設置するローラ48とからなる。
押圧レバー45は、ソレノイド46または圧縮ばね47により動くようにしている。押圧レバー45に設置されたローラ48は、押圧レバー45を支点バー37方向に押し付けることにより支点バー37Aに接触し、支点バー37Aが出力軸21に摩擦接続される。これにより、支点バー37Aの出力軸21への接続/非接続を行い、クラッチ機構10Aの締結/解放動作を行なう。ローラ48は、支点バー37Aが出力軸21とともに回転するとき、支点バー37Aに接触して転がるように設置している。これにより、押圧レバー45からの押圧力のみが支点バー37Aに作用する。
圧縮ばね47は、押圧レバー45を内側に設置し、一方の端部を押圧レバー45に接続し、他方の端部を車体等に接続されるストッパ49に接続されている。
ソレノイド46は、押圧レバー45に接続され、ソレノイド46を通電することにより、押圧レバー45をソレノイド46側に引き付けるようにしている。車両用ステアリング装置1が正常に動作している場合には、ソレノイド46を通電し、ローラ48が支点バー37Aから離れることで、クラッチ機構10を解放する。なお、ソレノイド46の吸引力は、圧縮ばね47のばね力で押圧レバー45が支点バー37Aの側に動くのを阻止できる吸引力としている。また、車両用ステアリング装置1の故障時または転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した時には、ソレノイド46をOFFにし、圧縮ばね47によりローラ48を支点バー37Aに押し付けることでクラッチ機構10Aが締結される。
なお、動力断接装置としてのクラッチ機構10,10Aは、同様の効果が得られれば上記に限定されるものではなく、他の構成であってもよいものである。
次に、図21を用いて、本実施形態によるクラッチ機構の第3の構成について説明する。
図21は、本発明の一実施形態によるクラッチ機構の第3の構成を示す断面図である。なお、図5と同一符号は、同一部分を示している。
本例に示すクラッチ機構10Bでは、入力軸20Xを内周側に、出力軸21Bを外周側に設置している。ローラ22の数は、図5に示したクラッチ機構10より図24に示したクラッチ機構10Bの方が多く配置しているが、この個数に依らないものである。ただし、ローラ22の数が多いほどローラ22の1個当たりの荷重を小さくできるため、入力軸20X、出力軸21Bに直径やローラ22の直径を小さくできるので、クラッチ機構10の小型化を図ることができる。
次に、図22を用いて、本実施形態によるクラッチ機構の第4の構成について説明する。
図22は、本発明の一実施形態によるクラッチ機構の第4の構成を示す断面図である。なお、図5と同一符号は、同一部分を示している。
本例に示すクラッチ機構10Cでは、入力軸20Cの内周面をリング面とし、出力軸21Cの外周面をカム面にしている。このような構成でも、図5に示したクラッチ機構10と同様に、クラッチの締結、解放を行なえる。また、カム面には明確な中間部が無くてもよく、斜面部分は平らであっても、緩やかな曲線であってもよい。しかし、クラッチ機構10Cでは、図示しない付勢板32は、出力軸21とともに回転し、かつ、出力軸21の軸方向に自由に動くようにする必要がある。これは、クラッチ解放している際、ローラ22がカム面の中央に位置するように出力軸とともに保持器が回転する必要があるからである。
次に、図23及び図24を用いて、本実施形態による動力断接装置を用いた車両用ステアリング装置の動作について説明する。
図23は、本発明の一実施形態による動力断接装置を用いた車両用ステアリング装置の動作を示すフローチャートである。図24は、本発明の一実施形態による動力断接装置を用いた車両用ステアリング装置の動作を示すタイミングチャートである。図24において、図24(A)は転蛇角を示し、図24(B)はロックエンド信号を示し、図24(C)は操舵角センサ信号を示している。図24(D)はフェール信号を示し、図24(E)はソレノイドのON/OFFを示し、図24(F)はクラッチの締結・解放状態を示している。
ステップS101において、図1に示した制御部50は、イグニションスイッチが操作されてエンジンが起動されたか否か判定する。
ステップS101において、イグニッションスイッチがONされた場合には、ステップS102において、図1に示した作動状態切換え機構制御手段53は、クラッチ機構10のアクチュエータであるソレノイド41を通電(ON)する。このとき、支点バー37は出力軸21に非接続状態となり、クラッチ機構10は解放される。
次に、ステップS103において、制御部50は、システム異常が発生したか否かの監視を行なう。監視する対象は、図1に示すセンサ、アクチュエータおよび制御部50や、図示しない電源部であり、1つでも異常が発生した場合にはフェール信号を発信し、ステップS104において、制御部50は、警告を作動する。ステップS104の警告は、音声やコンソールへの表示で行なうことにしている。
次に、ステップS105において、作動状態切換え機構制御手段53は、ソレノイド41をOFFにする。このとき支点バー37は出力軸21と接続状態となり、クラッチ機構10は締結可能な状態となる。この状態で運転者がステアリングハンドル2を操舵することにより、クラッチ機構10の入力軸20にトルクが作用するとクラッチ機構10が締結される。なお、ソレノイド41がOFFの状態を保つことにより、支点バー37が出力軸21に接続状態を保つことになるので、ステアリングハンドル2を運転者が時計回り方向、反時計回り方向に操舵した場合であってもクラッチ締結した状態が保たれる。また、反力モータ8および転舵アクチュエータ3を電気的に開放し、抵抗増大による操舵感の悪化を防ぐようにしている。
一方、ステップS103においてフェール信号が発信されず、システム異常が発生していないと判定した場合には、ステップS110において、制御部50は、転舵アクチュエータ3が左右どちらかのストロークエンド近傍に到達し、かつ、ストロークエンド方向にステアリングハンドル2で操舵されているか、または停止しているのかを判定する。転舵アクチュエータ3がストロークエンド近傍に到達しているかは、転舵角センサ6により検出するものとし、所定のストロークエンド近傍に到達した場合にはロックエンド信号を発信するものとする。ストロークエンド方向にステアリングハンドル2で操舵されているか停止しているかは、操舵角センサ6で検出するものとする。
ステップS110において、転舵アクチュエータ3がストロークエンド近傍に到達し、かつ、ストロークエンド方向にステアリングハンドル2で操舵されているか、または停止していると判定した場合には、ステップS111において、作動状態切換え機構制御手段53は、図24(E)に示すように、ソレノイド41をOFFにする。このとき支点バー37は出力軸21に接続状態となり、クラッチ機構10は締結可能な状態となる。この状態で運転者がステアリングハンドル2を操舵することにより、入力軸20にトルクが作用するとクラッチ機構10が締結される。これにより、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達したことを運転者に呈示できる。
次に、ステップS112において、制御部50は、ソレノイド41がOFF後に所定時間t経過したか否かを判定する。所定時間tは、保持器23がクラッチ解放の位置からクラッチ締結する位置まで移動するのに要する時間である。この所定時間tは操舵軸5の操舵速度によって異なるため、操舵速度によって変化させても良いし、操舵速度が変わっても確実に保持器23がクラッチ締結位置に移動できる時間に固定していても良い。
ステップS112において、ソレノイド41がOFF後に所定時間t経過したと判定した場合には、ステップS113において、作動状態切換え機構制御手段53は、図24(E)に示すように、ソレノイド41をONにし、支点バー37は出力軸21に非接続状態となる。このとき、図24のA部に示すように操舵軸5にトルクが作用している状態ではローラ22が楔空間に係合しているため、保持器23はクラッチ解放位置に戻ることができず、クラッチ締結状態が保持される。なお、図24のB部に示すように操舵軸5のトルクがゼロになったり、反対方向に加わったりした場合には、保持器付勢手段24により保持器23がクラッチ解放位置に動くため、クラッチ機構10が解放される。このようにしてクラッチ締結状態が解除されないという課題が解消できる。
なお、ステップS112において、ソレノイド41がOFF後に所定時間t経過していないと判定した場合には、ステップS110に戻る。
また、ステップS110において、転舵アクチュエータ3がストロークエンド近傍に到達していないと判定した場合には、ステップS101に戻る。
また、ステップS101においてイグニッションスイッチがOFFと判定した場合には、ステップS106において、制御部50は、イグニッションスイッチがON状態からOFF状態に変わったのかを判定する。
ステップS106において、イグニッションスイッチがON状態からOFF状態に変わったと判定した場合には、ステップS107において、制御部50は、操舵側であるステアリングハンドル2の位置と転舵側である転舵車輪4の向きを合わせた後、ステップS108において、作動状態切換え機構制御手段53は、図24(E)に示すように、ソレノイド41をOFFにする。このとき支点バー37は出力軸21に接続状態となり、クラッチ機構10は締結可能な状態となる。また、反力モータ8および転舵アクチュエータ3を電気的に開放し、抵抗増大による操舵感の悪化を防ぐようにしている。
また、ステップS106においてイグニッションスイッチがOFF状態のままであり、ON状態からOFF状態に変わっていないと判定した場合には、ステップS109で処理を終了する。
以上説明したように、本実施形態によれば、転舵アクチュエータがストロークエンド到達によってクラッチ締結した直後、ステアリングハンドルを反対方向に戻したときにクラッチ機構を解放できる。
また、時計回り方向および反時計回り方向のクラッチ締結を1つのアクチュエータで実現するとともに、システム故障時には両方向がクラッチ締結できるようになる。
さらに、クラッチ締結した際、運転者がステアリングハンドルを時計回り方向から反時計回り方向、又は反時計回り方向から時計回り方向への切り換えを行った場合の遊びが小さくなる。
次に、図25を用いて、本発明の他の実施形態による動力断接装置を用いた車両用ステアリング装置の構成及び動作について説明する。
図25は、本発明の他の実施形態による動力断接装置を用いた車両用ステアリング装置の構成図である。
本実施形態の車両用ステアリング装置1Dは、クラッチ機構10Dの構成が図1に示したものと異なっている。すなわち、クラッチ機構10Dは、図1に示した転舵軸11がないものである。これは、詳細は示さないがセンサおよびアクチュエータに冗長性を持たせたシステムである。システム異常が発生した場合でもステアリングハンドル2の操舵角を検出して確実に転舵アクチュエータ3で転舵車輪4を転舵できるようになっている。
車両用ステアリング装置1Dは、クラッチ機構10Dの出力軸21を車両本体に接続した構成としている。クラッチ機構10Dの出力軸21を車両本体に接続する以外の構成は図1に示す車両用ステアリング装置1と同じである。システム故障時にクラッチ機構10Dを締結し、ステアリングハンドル2を転舵アクチュエータ3に接続する必要がないが、転舵アクチュエータ3がストロークエンドに到達した場合にクラッチ機構10Dを締結することにより、運転者に転舵アクチュエータ3のストロークエンドを呈示することができる。これにより、大型の反力モータ8を設置することなく、低消費電力のクラッチ機構10Dを設置することでステアリングハンドル2の回転を停止することができるので、ケーブルリールを破損することがなくなる。
本実施形態によっても、転舵アクチュエータがストロークエンド到達によってクラッチ締結した直後、ステアリングハンドルを反対方向に戻したときにクラッチ機構を解放できる。
また、時計回り方向および反時計回り方向のクラッチ締結を1つのアクチュエータで実現できるようになる。
なお、本発明の動力断接装置としてのクラッチ機構10,10Dは、上述の車両用ステアリング装置1,1Dに限らず、他の動力伝達部の動力断接装置としての使用が可能である。例えば入力軸にモータやエンジン等の動力源を接続し、出力軸には被駆動側のシャフト、プーリ、ギヤ、タイヤ等を直接または間接的に接続してもよいものである。
1…車両用ステアリング装置、2…ステアリングハンドル、3…転舵アクチュエータ、4…転舵車輪、5…操舵軸、6…操舵角センサ、7…トルクセンサ、8…反力モータ、9…減速機構、10…クラッチ機構、11…転舵軸、12…転舵角センサ、13…電動モータ、14…ツーウェイクラッチ、15…入力軸、15A…カム面、16…出力軸、16A…リング面、17…ローラ、18…保持器、19…圧縮ばね、20…入力軸、20A…シャフト部、20B…円筒部、20C…円盤部、20D…カム面、21…出力軸、21A…リング面、22…ローラ、23…保持器、23A…切欠き部、24…保持器付勢手段、25…係合子操作機構、26…作動状態切換え機構、27…軸受、28…保持ばね、29…オルダムリング、30…滑りキー、31…圧縮ばね、32…付勢板、33…凹部、34…凸部、35…操作バー、35A…凸部、36…力点ピン、37…支点バー、37A…支点部、37B…斜面部、38…作用点凸部、39…楔リング、39A…斜面部、40…レバー、41…ソレノイド、42…引っ張りばね、43…支点、44…スラスト軸受、45…押圧レバー、46…ソレノイド、47…圧縮ばね、48…ローラ、49…ストッパ、50…制御部、51…電源部、52…転舵アクチュエータ制御手段、53…作動状態切換え機構制御手段、54…凹溝