(熱延金属帯の原初的な冷却制御方法)
本発明を実施するための一つの実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法について、以下に説明する。
発明者らは、仕上圧延後の被圧延材(熱延金属帯)の一部においてでも、核沸騰が開始してしまう部分が出てくると、後々そのような不均一さを平坦化して解消するのは難しく、それが、そのまま巻き取り直前の温度の不均一さとなって残り、製品熱延金属帯の材質の不均一につながる点に鑑み、本発明をなすに至った。
巻き取り直前の、熱延金属帯の温度の制御は、原初的に、概略、以下に述べるようにして行われている。
図31中に示した、粗圧延機12で粗圧延された被圧延材8が仕上入側温度計15の真下まで搬送されてきて、その先端が仕上入側温度計15の真下に到達すると、被圧延材8の先端の温度は仕上入側温度計15からプロセスコンピュータ70に伝送される。
プロセスコンピュータ70内では、被圧延材8の先端の温度がある一定の閾値以上、例えば、700℃以上であるか否かを判断し、被圧延材8の先端の温度がある一定の閾値以上の場合には、被圧延材8の先端が仕上入側温度計15の真下に到達したと判定する。
そして、プロセスコンピュータ70内では、被圧延材8の先端が仕上入側温度計15の真下に到達した、と判定したことをトリガー信号として、プロセスコンピュータ70よりも上位のビジネスコンピュータ90から、目標とする被圧延材8の巻き取り直前の温度の長手方向パターンを設定し、それを達成するための被圧延材8の長手方向についての注水バンクのスプレーパターンの計算が起動される。
この注水バンクのスプレーパターンの計算は、同じくビジネスコンピュータ90から伝送される、目標とする被圧延材8の巻き取り直前の温度の長手方向パターン、目標とする被圧延材8の仕上圧延後の温度の長手方向パターン、仕上圧延後の被圧延材(熱延金属帯)8の厚み、被圧延材8のスレッディング速度、及び被圧延材8のトップ速度に基づいて、仕上入側温度計15で測定した被圧延材8の仕上圧延機18の入側での長手方向温度分布の実績をもとに、プロセスコンピュータ70内で計算される。
ここで、目標とする被圧延材8の巻き取り直前の温度の長手方向パターンは、ビジネスコンピュータ90内に設定テーブルを設け、被圧延材8の材質や仕上圧延後の厚み、幅等のデータをキーとし、被圧延材8の先端、中間、尾端ごとに設定される。しかし、これに限らず、プロセスコンピュータ70内に設定テーブルを設けて、設定してもよい。
また、被圧延材8のスレッディング速度及びトップ速度とは、図2に示すように、被圧延材8を仕上圧延する際の加減速パターン中でいえば、被圧延材8の先端が次々と仕上圧延機18の各スタンドに噛み込んでいくときの突っ掛け防止のための低い速度を、スレッディング速度、また、さらに被圧延材8の先端が進行し、コイラー24に巻き付いた直後に加速を開始するのであるが、被圧延材製品の材質確保を目的とした、温度降下補償を行うための高い速度を、トップ速度と称す。
図2においては、被圧延材8の先端が仕上圧延機18のF1スタンドにオンしたとき(a)から前記先端がコイラー24に巻き付いたとき(b)までスレッディング速度で通板し、先端がコイラー24に巻き付いた直後に加速し、そしてトップ速度を被圧延材8の尾端がF1スタンドからオフするとき(c)まで維持し、さらに尾端の巻取りが完了する(d)までにクリーピング速度と呼ばれる速度まで減速して通板している。
さて、ここで、プロセスコンピュータ70内での、注水バンクのスプレーパターンの計算の話に戻ると、注水バンクのスプレーパターンは、全バンク注水、全バンク無注水、半数のバンクにて注水ほかの、何かある一つの例に、まず、仮に決められる。
そして、その仮に決められた注水バンクのスプレーパターンに従った場合の、注水開始バンクの開始する位置から注水終了バンクの終了する位置までの距離(注水長L)も仮に決められる。
さらに、その仮に決められた注水バンクのスプレーパターンに従った場合に、被圧延材8の巻き取り直前の温度がいくらになるか、が次に計算される。
まず、図3(b)に示すように被圧延材(熱延金属帯)8を長手方向に仮想的に分割した切板8aの連続したものと考え、ある一つの切板8aを取り上げた場合に、その切板8aが、被圧延材8中の長手方向のどこに位置するか、そして仕上圧延開始前の被圧延材8の状態ではどの位置に相当し、該位置での粗出側被圧延材温度実績はいくらだったのか(仕上入側温度計15により測定される)、のデータをもとに以降の計算が行われる。
さて、ここで、各切板8aが仕上出側温度計21の直下に達したときに、目標とする被圧延材8の仕上圧延後の温度の長手方向パターンの通りになるものと仮に決める。
そして、先述のスレッディング速度、トップ速度、それに各構成設備間の機械的な距離をもとに、主要構成設備(F1、F7、ランナウトテーブル23の入側及び出側)への到達までに要する時間を計算し、次にその所要時間をもとにランナウトテーブル23中、実質的に冷却に寄与する、冷却関連設備26の伸びるゾーンの直下(冷却ゾーン)の入側へ到達するまでの放冷による被圧延材8の温度降下、デスケーリング装置16によるデスケーリング水や仕上圧延機18を構成する各圧延機間に設置された冷却装置(図示せず)からの冷却水噴射による被圧延材8の温度降下、仕上圧延中の加工発熱による被圧延材8の温度上昇などの温度変動をその切板8aごとに計算し、その切板8aがランナウトテーブル23中、実質的に冷却に寄与する、冷却関連設備26の伸びるゾーンの直下(冷却ゾーン)の入側に到達したときに何℃の温度になるか、を詳説しない計算により予測する。
さらに、各切板8aが、冷却関連設備26の存在する直下のゾーンにて、先述の仮に決められた注水バンクのスプレーパターンに従った場合に、何℃まで冷却されるか、を概略以下に述べる計算ロジックにより予測する。
熱延金属帯(被圧延材)8の温度は、下記式(3)に示す板厚方向一次元熱伝導方程式により表される。
熱延金属帯(被圧延材)8の表面および板厚方向中心における境界条件は、上面および下面の冷却は対称であるとして、下記式(4)により与える。
ここで、Tは熱延金属帯(被圧延材)8の温度、Twは冷却水の水温、cは比熱、ρは密度、λは熱伝導率、Qtransは変態発熱、hは熱伝達率、dは板厚、xは板厚方向座標、tは時間である。
熱延金属帯(被圧延材)8の表面における熱伝達率hは、輻射、対流、水冷各項の和として下記式(5)にて求める。
ここで、heは輻射による熱伝達率、haは対流による熱伝達率、hwtおよびhwbは上面水冷および下面水冷による熱伝達率である。熱伝達率hwtおよびhwbについては、冷却水の水流密度W、水温Tw、熱延金属帯(被圧延材)8の表面温度Ts、熱延金属帯(被圧延材)8の搬送速度Vの関数として下記式(6)のように与えられる。
冷却過程におけるフェライト、パーライト、ベイナイトなどの変態相の体積率を計算することにより、変態速度の推定を行って下記式(7)のように変態発熱Qtransを計算する。
ここで、ξは変態潜熱、Xは変態率である。
さて、ランナウトテーブル23を通過する際にどこどこのバンクについて冷却水を注水すれば、その切板8aを目標とする巻き取り直前の温度まで冷却できるかは、図4のフローチャートに示す収束計算により求める。
すなわち、先述の仮に決められた注水バンクのスプレーパターンに従った場合(図4中の冷却バンクの初期設定)に、その仮に決められた注水バンクのスプレーパターンに従った場合の、注水バンク合計数分の冷却水の流量と、その注水バンク合計数分に相当するゾーンをその切板8aが通過するのに要する時間を前述のスレッディング速度、トップ速度、それに各構成設備間の機械的な距離をもとに予測計算(図4中の各バンクでの冷却時間の予測)した結果とから、その時間でその切板8aが巻き取り直前に何℃まで冷却されるかを、前述の式(3)〜(7)の計算により求め(図4中の巻取温度の予測)、それがまだ目標とする巻き取り直前の温度に比べ、ある一定の値(例えば±5℃)を超えて外れている場合、そのすぐ下流側のバンクを注水した場合、あるいはそのすぐ上流側のバンクを注水停止した場合はどうか、を次に計算する、という一連の計算プロセスを繰り返す収束計算により求める。求めた結果が図4中のバンク選択のプリセットに相当する。
このように収束計算され、補正された注水バンクのスプレーパターン(バンク選択のプリセット結果)は制御装置50に伝送され、制御装置50は、この伝送された、補正された注水バンクのスプレーパターンにより、冷却関連設備26から被圧延材8に向け注水する冷却水の流量を制御する。注水バンクの合計数が変われば冷却水の流量も変わる関係にある。
具体的には、冷却水を注水するバンクと対象とする切板8aの計算機設定に基づいて多くのデータを制御装置50に伝送し、制御装置50は、リアルタイムにその切板8aの冷却水を注水する各バンクへの到達をメジャーリングロール28と速度計29の両者を用いたトラッキングに基づいて判定し、バルブ開閉から冷却水の注水開始及び注水停止までの遅延時間などを適宜考慮した上で、その到達タイミングに合わせて各バンクの各ヘッダの冷却水の注水開始及び注水停止のためのバルブ開閉を制御する。
(本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法)
ここで、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法の説明に移る。
一つの要件は、熱間圧延ラインの仕上圧延機とコイラーの間の冷却関連設備26の伸びるゾーンの直下(冷却ゾーン)を、前半ゾ−ンと後半ゾ−ンに2区分し、前半ゾーンと後半ゾーンにおける、巻き取り直前の、熱延金属帯の温度の制御を、例えば、以上説明した、一連の、原初的な熱延金属帯の冷却制御方法により、行うようにするとともに、前半ゾーンでは、さらにそれに加え、前半ゾーンの出側に設置した、熱延金属帯の全幅を、全長または全長のうちの一部の長さについて撮影可能な、近赤外線カメラによる温度測定の結果をもとに、前半ゾーンにおける熱延金属帯の温度の制御にフィードバックすることにある。
すなわち、図1(a)に示すように、前半ゾーンの出側に設置した、熱延金属帯の全幅を、全長または全長のうちの一部の長さについて撮影可能な、近赤外線カメラにより、仕上圧延後の熱延金属帯の一部にでも、核沸騰が開始してしまう部分が出てきて、熱延金属帯の温度が不均一(特に幅方向に不均一)になると、その温度測定の結果をもとに、冷却水を注水するヘッダー数を幾分減らすように、前半ゾーンにおける、熱延金属帯の温度の制御にフィードバックするようにすれば、熱延金属帯の温度分布の均一化を図れる。
前半ゾーンと後半ゾーンをどこで分けるかは次に説明する考え方による。
後述するように、熱延金属帯の表面温度が高い領域では、膜沸騰であり、熱流束は低い。パイプラミナー方式のような、一般的な冷却関連設備の場合、水量密度に依存するが、500ないし550℃の間のある温度を境に、遷移沸騰(熱延金属帯の一部において、核沸騰が開始すること)が開始して、温度の低下とともに熱流束が大きくなる。
遷移沸騰が開始するまでに前半ゾーンにおける冷却を停止しないと、被圧延材表面の平均温度よりも局部的に低温の領域ができやすくなり、この温度偏差が巻き取り直前の温度の不均一さとそれに伴う製品熱延金属帯の材質の不均一さにも影響する。
よって、安全側に考え、熱延金属帯の温度が550℃となるまで冷却が可能なように、被圧延材搬送方向の前半ゾーンの長さを決定する。
その長さは、熱延金属帯の厚さ、搬送速度、目標とする仕上圧延後温度、などにより変動するため、対象とする熱間圧延ラインにて圧延する被圧延材全体(プロダクトミックス)のうち、厚さと搬送速度の積に対する、目標とする仕上圧延後温度の割合が、最大のものを、想定し得る最高の冷却水の水温で、550℃まで冷却する場合を臨界条件として決定すればよい。
また、前記の決定は、対象とする熱間圧延ラインにて圧延する被圧延材全体ではなく、特に巻き取り直前の温度の均一さを厳格に要求される材質の被圧延材に、対象を限定して行ってもよい。
ランナウトテーブルの長さ(仕上圧延機を構成する最終スタンドから、それに近い側のコイラーまでの長さ)は熱間圧延ラインによって異なり、130ないし195mあるところ、前半ゾーンの搬送方向の長さの一例としては、70mが挙げられるが、本実施の形態に限られるものではない。
ちなみに、後半ゾーンの搬送方向の長さの一例としては、30mが挙げられるが、本実施の形態に限られるものではない。
また、前半ゾーンと後半ゾーンの間に空冷ゾーンを設けてもかまわない。
仕上圧延後の熱延金属帯の一部にでも、核沸騰が開始してしまう部分が出てきて、熱延金属帯の温度が不均一になることは、次のようにして判定する。
まず、近赤外線カメラの視野に入り撮影された1画像毎に、熱延金属帯表面の平均温度を演算する。そして、平均温度からの温度偏差(平均値−最小値)を演算し、平均温度よりも低温側の領域(低温領域)を判別する。
先にも述べたが、このような低温領域は、多くの場合、図32に示すように、被圧延材8の先端部にところどころ局部的に冷却水の水溜まりができて、同部は局部的に強く冷却され、幅方向温度分布が不均一となることによって生じる。
平均温度よりも低温側の領域(低温領域)を判別する必要があるのは、次に述べる理由による。
特に、後半ゾーンで表裏片面あたり水量密度0.05m3/m2 /min以上0.3m3/m2 /min未満の冷却水を供給して緩冷却した場合に顕著であるが、平均温度よりも低温側の領域(低温領域)があると、図5に、被圧延材8の長手方向の1画素にて測定した温度を被圧延材8の幅方向に連ねたものを、前半ゾーンと後半ゾーンとで比較して示しているが、平均温度からの温度偏差(平均値−最小値)が大きい箇所と小さい箇所の2箇所で比較してみればわかる通り、同温度偏差が、ある一定の値以上に大きいと、冷却により、平均温度からの温度偏差が拡大してしまい、巻き取り直前の温度が目標とする値から大きくはずれて許容範囲に入らなくなり、それに伴って、材質の不均一さが許容範囲に収まらなくなる。
しかも、図6に示すごとく、その傾向は、目標とする巻き取り直前の温度(図中CTと標記)が低くなるほど顕著になる。
この点、平均温度からの温度偏差(平均値−最小値)が小さいと、温度偏差の拡大は比較的小さい。
この低温領域の温度偏差が、次に説明する、前半ゾーンにおける冷却後の許容温度偏差の閾値ΔTL以上である領域の有無を、先述の、前半ゾーンの出側に設置した、熱延金属帯の全幅あるいはさらに全長または全長のうちの一部の長さを撮影可能な近赤外線カメラによる測定の結果をもとに、判定する。
この、熱延金属帯の温度が不均一になったことを判定する閾値は、材質上必要な、目標とする熱延金属帯の巻き取り直前の温度を挟んだ同温度の許容範囲の下限、各熱延金属帯同士の間での巻き取り直前の温度の的中精度の標準偏差σc、及び、仕上圧延後の熱延金属帯の熱間圧延ラインの幅中央における温度が被圧延材内で長手方向にどれだけ変動するかの標準偏差σL、仕上圧延後の熱延金属帯の温度が幅方向にどれだけ変動するかの標準偏差σw、などより決める。
材質上必要な、目標とする被圧延材の巻き取り直前の温度から、同温度の許容範囲の下限値を差し引いた値(公差)をX(多くの場合60℃。それ以下、例えば40℃などをクリアできるとさらに好ましい。)とすると、下式を満足する必要がある。
X≧3.0×√(σc^2+σL^2+σw^2)
よって、遷移沸騰に起因した熱延金属帯の温度の幅方向の不均一さの標準偏差σwは、次式を満足する必要がある。
σw≦√{ (X/3.0)^2 − (σc^2+σL^2) }
よって、閾値ΔTLは、σwの2.5倍に等しいものと決めると、
ΔTL=2.5×√{ (X/3.0)^2 − (σc^2+σL^2) } ・・・(0)
となる。
例えば、材質上必要な、目標とする被圧延材の巻き取り直前の温度から、同温度の許容範囲の下限値を差し引いた値(公差)Xが60℃、温度制御精度σcが5℃、同σLが8℃の場合、閾値ΔTLは44℃となる。
対象とする熱間圧延ラインにて圧延する被圧延材全体(プロダクトミックス)のうち、同じ材質と仕上圧延後寸法の被圧延材ごとに温度制御精度σc、σLを実績解析し、目標とする被圧延材の巻き取り直前の温度から、同温度の許容範囲の下限値を差し引いた値(公差)X(60℃)を用いて、ΔTLを求めてみた結果の一例を、図7に示す。巻き取り直前の温度が低くなるほど、閾値ΔTLも小さくなることがわかる。
対象とする熱間圧延ラインにて圧延する被圧延材全体ではなく、特に巻き取り直前の温度の均一さを厳格に要求される材質の被圧延材に対象を限定して、温度制御精度σc、σLを実績解析し、閾値ΔTLを求めるとともに、そのような材質の被圧延材に限って、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法を適用するようにしてもよい。
ところで、前半ゾーンにて冷却水を注水するヘッダー数を幾分減らすようにフィードバック制御すると、減らした分だけ、熱延金属帯の巻き取り直前の温度が上がってしまうが、その上がってしまう温度がある一定以上に大きい場合は、その分を補償すべく、後半ゾーンにおける冷却にフィードフォワード制御して、後半ゾーンにて冷却水を注水するヘッダー数を幾分増やすようにした方が好ましい。
各々の操作量は、式(1)および式(2)により演算され、注水流量の変更量に相当する注水バンク数の増減で制御される。なお、ΔTは、近赤外線カメラの視野中の最低温度が、平均温度に対し、どれだけ低いか、その偏差を示したものである。
ちなみに視野の大きさは、熱延金属帯の幅方向には最大幅である2300mmをカバーする幅とし、搬送方向には、熱延金属帯の搬送速度に応じた長さとする。後述するように、一例を挙げると、3200mmである。
さらに、何視野分も熱延金属帯の長手方向に連続して、熱延金属帯の全長または全長のうちの一部の長さを撮影可能としておくのが好ましい。
例えば、熱延金属帯の搬送速度が1200mpmの場合、0.16secに1回の撮影を行うことで、搬送方向すなわち被圧延材8の長手方向に3200mmごとに全長全幅の温度分布データを測定していくことができる。
なお、熱延金属帯表面の平均温度からの温度偏差(平均値−最小値)が所定の閾値ΔTL以上なのではなくて、平均温度自体が予定していたよりも許容範囲を外れて低温側に外れていたような場合には、熱間圧延ラインの幅中央における温度の測定結果に基づいてフィードバック制御を行う機能が別途はたらくので心配はない。
(後半ゾーン緩冷却の場合)
さて、後半ゾーンにおける冷却のしかたについては、一つの考え方として、表裏片面あたり水量密度を0.05m3/m2 /min以上0.3m3/m2 /min未満と低下させ、緩冷却を行うようにする方法がある。
ここで、水量密度は、熱延金属帯に単位時間あたり供給される冷却水の流量を、その冷却水が供給される熱延金属帯の面積で除した値である。
また、表裏片面あたりで上記水量密度範囲内であれば、別に、両面とも上記水量密度範囲内であってもよい。その方が冷却能を大きくできて好都合な場合もある。
さらに、ある熱延金属帯に対して、上記に説明した、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法、すなわち、前半ゾーンにおける、熱延金属帯の温度の制御へのフィードバックを適用し、次の熱延金属帯も同じ材質と寸法であった場合、前記したある熱延金属帯の、近赤外線カメラの視野に入り撮影された1画像内での温度測定の結果をもとに、前記熱延金属帯の平均温度と該平均温度から前記1画像内での温度の最小値を差し引いた偏差を演算し、前記フィードバックにより、前記熱延金属帯内で、該偏差が、前記熱延金属帯の温度が幅方向に不均一になったことを判定する閾値ΔTL未満となった時点以降における、前記熱延金属帯の、前記前半ゾーンの出側での、熱間圧延ラインの幅中央における温度の測定結果の、長手方向平均値を、次の熱延金属帯の、前記前半ゾーンの出側での、前記した、熱間圧延ラインの幅中央における温度の目標値として、前記した、次の熱延金属帯に対する冷却制御を行うようにするのも好ましい。
そのようにすれば、前半ゾーンの出側での、熱延金属帯の温度が、熱延金属帯の先端部においても、遷移沸騰域に入りにくくなり、巻き取り直前の温度も許容範囲に入りやすくなるからである。
(後半ゾーン強冷却の場合)
また、発明者らは、新たに発見した次のような事実をもとに、別の好ましい実施の形態にも想到した。
新たに発見した事実とは、すなわち、熱延金属帯の一部において、核沸騰が開始する温度域にて、特許文献1のように、水量密度を0.05m3/m2 /min以上0.3m3/m2 /min未満と低下させ、緩冷却を行うようにするのとは逆に、表裏片面あたり水量密度2.0m3/m2 /min以上の強冷却を行った場合にも、巻き取り直前の、熱延金属帯の温度が、均一に近づく作用があることである。
熱延金属帯の表面温度が高い領域では、膜沸騰であり、熱流束は低い。パイプラミナー方式のような、一般的な冷却関連設備の場合、水量密度に依存するが、500ないし550℃の間のある温度を境に、遷移沸騰(熱延金属帯の一部において、核沸騰が開始すること)が開始して、温度の低下とともに熱流束が大きくなる。
しかし、発明者らの研究によれば、図8に示すように、冷却のための水量密度を大きくしていくと、遷移沸騰開始温度が次第に高くなるとともに、熱延金属帯が一部でなく全面的に核沸騰に移行する温度も次第に高くなることがわかった。
しかも、ここで重要なことは、冷却のための水量密度を大きくしていくと、熱延金属帯の一部でなく全面的に核沸騰に移行する方向に作用することである。
よって、仕上圧延後、熱延金属帯の温度が500ないし550℃の遷移沸騰開始温度に至る前までは、本実施の形態の別の要件として規定しているように、前半ゾーンにて、パイプラミナー方式のような、一般的な冷却関連設備により、表裏片面あたり水量密度0.7m3/m2 /min以上1.2m3/m2 /min以下となるような冷却を行い、それ以下の温度域では、むしろ水量密度を大きくして、完全に核沸騰に移行した状態で冷却すれば、熱延金属帯が遷移沸騰状態にある温度域にて冷却水を注水することに伴う、熱延金属帯の、巻き取り直前の温度の不均一さを、抑制することも可能となる。
ここで、具体的な水量密度と遷移沸騰開始温度の関係を実験室内にて調査した結果について説明する。
図9には、実験室内で、円管ジェットを熱延金属帯(熱延鋼帯)の幅方向と長手方向に複数配列したノズルにより、水量密度(熱延金属帯の単位面積当たり注水する冷却水の流量)を変化させ、その冷却温度履歴から遷移沸騰開始温度及び核沸騰開始温度を読み取ったものを示す。
まず、水量密度を大きくするにつれて、遷移沸騰開始温度及び核沸騰開始温度は高くなり、500℃以上で確実に核沸騰とするためには、水量密度を2.0m3/m2 /min以上にすればよいことがわかる。
また、パイプラミナー方式のような、一般的な冷却関連設備により、水量密度0.7m3/m2 /min以上1.2m3/m2 /min以下となるような冷却を行った場合には、遷移沸騰開始温度が500ないし550℃になることがわかる。
すなわち、前半ゾーンの冷却関連設備としては、パイプラミナー方式のような、従来から一般的にあるものを利用して、仕上圧延後、熱延金属帯の温度が500ないし550℃の遷移沸騰開始温度に至る前までの冷却を行い、後半ゾーンの冷却関連設備としては、水量密度が2.0m3/m2 /min以上となるような特別の工夫を施したものを利用して、熱延金属帯の温度が遷移沸騰開始温度以下になった後の冷却を行うようにする。
なお、図9にて得られた知見からすると、特許文献1のように、後半ゾーンで水量密度0.05m3/m2 /min以上0.3m3/m2 /min未満のスプレー方式で緩冷却を行うようにした場合には、遷移沸騰開始温度を400℃までは下げられるため、目標とする巻き取り直前の温度が400℃以上の場合は、熱延金属帯の、巻き取り直前の温度の不均一さを、抑制することが可能である。
熱延金属帯の、目標とする巻き取り直前の温度が400℃以上であれば、以上の方法も好ましい。
が、それ以下の温度まで冷却すると、熱延金属帯の一部が遷移沸騰域に入った状態で、さして水量密度の大きくない冷却がなされるため、熱延金属帯の、巻き取り直前の温度が不均一になる危険性が生じてくる。
この点、上記に説明した好ましい実施の形態によれば、常温までの範囲で、巻き取り直前の温度の目標値をいくら低くしても、実際の巻き取り直前の温度の不均一さを、抑制することができる。
後半ゾーンの冷却関連設備としての、表裏片面あたり水量密度が2.0m3/m2 /min以上となるような特別の工夫を施したものとしては、熱延金属帯の上面に関しては、直進性に優れたラミナー状のもの若しくはジェット冷却が好ましい。
なお、後半ゾーンの冷却関連設備の水量密度に別に上限はないが、後に説明する各種の工夫をこらしても、発明者らの想到する限りの方法では、現在実現可能なのは57.0m3/m2 /min以下となる。
好ましい実施の形態では、後半ゾーンにおける表裏片面あたり水量密度を2.0m3/m2 /min以上にするが、これだけ大きな水量密度の冷却水を熱延金属帯上に噴射すると、熱延金属帯の上面では、冷却水は熱延金属帯の側面にしか排水されないため、熱延金属帯の上に厚い水膜が出来てしまう。
冷却水は、この水膜を貫通し、熱延金属帯に直接打力を発生させなければ、これだけ大きな水量密度の冷却水を噴射しても、熱延金属帯の一部においてだけしか、膜沸騰にならない可能性がある。そこで、直進性の高いラミナー状のもの、若しくはジェットノズルから冷却水を噴射するジェット冷却などが好ましい。ノズルの形状としては、円管状のものやスリット状のものなどが考えられるが、どちらを利用してもかまわない。
スプレーやミスト冷却を利用すると、ノズルから噴射された冷却水は、液滴状に分断され、空気の抵抗を受けて減速しやすいため、好ましくない。
(後半ゾーンに用いるのに好ましい冷却装置)
後半ゾーンに用いるのに好ましい冷却装置の各種の実施の形態としては、例えば、厚板圧延ラインに適用した実施例を記載している特許文献5のものを、熱延金属帯を製造するための熱間圧延ラインに転用するのが好ましい。
図10(a)は、後半ゾーンに用いるのに好ましい冷却装置の実施の形態の一例を説明するための図である。
この実施の形態に係る冷却装置201は、図31に示した熱間圧延ライン100のような熱間圧延ラインに設置される冷却装置であり、テーブルローラー13上を搬送される被圧延材8の上面に向けて棒状冷却水を供給するための上ヘッダユニット210を備えている。
上ヘッダユニット210は、搬送方向に複数配置された第一上ヘッダ210aからなる第一上ヘッダ群と、その下流側に、搬送方向に複数配置された第二上ヘッダ210bからなる第二上ヘッダ群によって構成されており、第一上ヘッダ群および第二上ヘッダ群の各上ヘッダ210a、210bは、それぞれ独立して棒状冷却水の噴射(注水)のON−OFF制御(注水の開始と停止の制御)を可能とするON−OFF機構300を備えた配管構成となっている。なお、ここでは、第一上ヘッダ群および第二上ヘッダ群はそれぞれ3個の上ヘッダで構成されている。
そして、上ヘッダ210a、210bのそれぞれに、搬送方向に複数列の上ノズル220(ここでは被圧延材8の搬送方向に4列)が取り付けられており、第一上ヘッダ210aの上ノズル群(第一上ノズル群)220aと第二上ヘッダ210bの上ノズル群(第二上ノズル群)220bとは、それぞれから噴射する棒状冷却水230aと棒状冷却水230bの噴射方向が被圧延材8の搬送方向に互いに対向するように配列されている。すなわち、第一上ノズル群220aは被圧延材上面の下流側に向けて斜めにθ1の伏角(噴射角度)で棒状冷却水230aを噴射し、第二上ノズル群220bは被圧延材上面の上流側に向けて斜めにθ2の伏角(噴射角度)で棒状冷却水230bを噴射するようになっている。
したがって、お互いの上ヘッダから被圧延材8の搬送方向に見て最も遠い側の列(最外側の列)の上ノズルからの棒状冷却水が被圧延材8に衝突する位置同士に挟まれた領域が冷却領域ということになる。
その際に、第一上ノズル群220aからの棒状冷却水230aの噴射線と第二上ノズル群220bからの棒状冷却水230bの噴射線が交差しないようにすれば、お互いの上ヘッダから被圧延材8の搬送方向に見て最も近い側の列(最内側の列)の上ノズルからの棒状冷却水が被圧延材8に衝突する位置同士に挟まれた領域に、図10に示すような滞留冷却水240の水膜が安定して形成される。
これにより、お互いの上ヘッダに最も近い側の列(最内側の列)の上ノズルからの棒状冷却水は滞留冷却水240の水膜に向かって噴射されることになり、お互いに他方の棒状冷却水を壊すことがないので好ましい。
そして、最内側の列の上ノズルから棒状冷却水が被圧延材8に衝突する位置同士の間隔を滞留域長さLと呼ぶこととする。この滞留域長さLでは、棒状冷却水が被圧延材8に衝突せず滞留冷却水240のみで冷却がなされるため、被圧延材8と冷却水の接触が不安定であり、温度不均一の発生原因となりやすいが、滞留域長さLが1.5m以内となるようにすれば、滞留冷却水240が被圧延材8を冷却する割合は比較的少ないので、滞留冷却水240による温度不均一を防止することができる。このように、この滞留域長さLは短いほうがよく、100mm程度まで短くするのがより好ましい。
ちなみに、棒状冷却水とは、円形状(楕円や多角の形状も含む)のノズル噴出口から噴射される冷却水のことを指している。また、棒状冷却水は、スプレー状の噴流でなく、膜状のラミナーフローでなく、ノズル噴出口から被圧延材8に衝突するまでの水流の断面がほぼ円形に保たれ、連続性で直進性のある水流の冷却水をいう。
そして、図10(b)、(c)は、上ヘッダ210(210a、210b)に取り付けられている上ノズル220(220a、220b)の配置例を示したものである。通過する被圧延材8の全幅に棒状冷却水を供給できるように被圧延材8の幅方向にある一定の取り付け間隔で一列に配置されたノズルの列が、被圧延材8の搬送方向Aに複数列(ここでは、4列)設けられている。
さらに、ここでは、前列のノズルから噴射される棒状冷却水の被圧延材8の幅方向衝突位置に対して次列のノズルから噴射される棒状冷却水の被圧延材8の幅方向衝突位置がずれるようにノズルが配置されている。
すなわち、図10(b)では、前列のノズルに対して次列のノズルの幅方向位置を幅方向取り付け間隔の1/3程度ずらしており、図10(c)では、幅方向取り付け間隔の1/2程度ずらしている。
なお、後述するが、ノズルから噴射する棒状冷却水に被圧延材8の幅方向成分を持たせる場合は、ノズルの被圧延材8の幅方向取り付け位置と棒状冷却水の被圧延材8の幅方向衝突位置とが異なってくるので、その場合には、棒状冷却水の被圧延材8の幅方向衝突位置が所望の位置(分布)になるように、ノズルの取り付け位置を調整する必要がある。
上記のように搬送方向に複数列の上ノズル220を配置するのは、1列の上ノズルでは被圧延材8に衝突する棒状冷却水と隣り合う棒状冷却水との間で滞留冷却水を堰き止めて水切りを行う力が弱くなることが挙げられる。滞留冷却水を堰き止めるためには複数列の上ノズルが必要であり、それぞれの上ヘッダ210に取り付けられている上ノズル220の列数を3列以上とするのが好ましく、5列以上とすればより好ましい。
また、前述したように上ノズル220を複数の上ヘッダ210に分けて取り付けることは、熱延金属帯の温度制御を実施するために不可欠なこととなる。
熱延金属帯では、様々な厚みの熱延金属帯を目標とする温度まで冷却する必要があるが、生産量を確保するために可能なかぎり速い搬送速度で冷却を行う必要がある。
そのため、目標とする温度に調整するには、水冷時間を調整する必要があり、そのため、一般的には、冷却領域の長さを様々に変更する必要が出てくる。
このため、上ノズルを複数の上ヘッダに分けて取り付け、それぞれの上ヘッダで棒状冷却水の噴射のON−OFFができるような構造にすることで、冷却領域の長さを変化させる。
それぞれの上ヘッダには1列以上の上ノズルを取り付ければよいが、取り付けるノズル列数は目標とする温度制御能力に応じて決定する。
1列当たりに被圧延材8が冷却される温度(例えば、5℃)よりも、許容される温度偏差(例えば±8℃)の範囲が広い場合は、許容される温度偏差の範囲に調整できる限度内で1ヘッダ当たりのノズル列数を増やしてもかまわない。
例えば、±8℃の温度偏差の範囲(16℃の温度範囲)に調整するには、1つの上ヘッダでの冷却による温度降下を16℃未満とすればよく、そのためには、上ヘッダに取り付ける上ノズル列数を3列とすれば、15℃単位で温度が調整できるため、許容される温度偏差の範囲に冷却した上での熱延金属帯の温度の調整が可能となる。
逆に、この場合に上ヘッダに取り付ける上ノズル列数を4列とすると、温度調整は20℃単位となり、目標とする温度偏差の範囲(16℃)内に収まらない可能性があり、好ましくない。
よって、冷却装置により冷却可能な温度や許容される温度偏差の範囲によって、1上ヘッダあたりの上ノズル列数は調整する必要がある。
このように、上ヘッダ210の個数および上ノズル220の列数は、滞留水を堰き止める観点と所望の冷却能力を得る観点が両立する条件となるように定める。
そして、この冷却装置201は、上ヘッダ210a、210bから被圧延材8の上面に向けて、被圧延材8の上面の水量密度が2.0m3/m2/min以上になるように棒状冷却水230を供給する。
ここで、水量密度を2.0m3/m2/min以上としている理由について説明する。図10に示す滞留水240は、供給する棒状冷却水230a、230bによって堰き止められて形成される。
このとき、水量密度が小さいと堰き止めること自体ができず、水量密度がある量よりも大きくなると堰き止めることができる滞留水240の量は増大し、被圧延材8の幅端部から排出される冷却水と供給される冷却水の流量が釣り合って、滞留水240の量は一定に維持される。
熱延金属帯の場合、一般的な幅は0.9〜2.3mであり、2.0m3/m2/min以上の水量密度で冷却すれば、これらの幅において滞留冷却水240を一定に維持できる。
水量密度を2.0m3/m2/min以上に大きくすればするほど、熱延金属帯の冷却速度が速くなるため、目標とする温度まで冷却するために必要な冷却領域の長さを短くすることができる。
その結果、この冷却装置201を導入するスペースをコンパクトにすることが可能となり、既存の設備の間に、この冷却装置201を導入して、併用して冷却することも可能となるほか、設置コストの節約にも繋がる。
このように、この冷却装置201では、第一上ノズル220aから噴射される棒状冷却水230aと第二上ノズル220bから噴射される棒状冷却水230bが被圧延材8の搬送方向にお互い対向するようにしているので、被圧延材8の上面の滞留水240が被圧延材8の搬送方向に移動しようとするのを、噴射された棒状冷却水230a、230b自身が堰き止める。これによって、2.0m3/m2/min以上の大きな水量密度の冷却水を供給しても、安定した冷却領域が得られ、均一な冷却を行うことができる。
なお、上ノズル220a、220bから噴射する冷却水を、例えばスリットノズルから噴射した膜状冷却水でなく、棒状冷却水としているのは、棒状冷却水の方が安定的に水流を形成できるため、滞留冷却水を堰き止める力が大きいからである。
また、膜状冷却水を斜めに噴射する場合、被圧延材8からノズルまでの距離が遠くなると被圧延材8に近づくほど水膜が薄くなって、ますます壊れやすくなるからでもある。
そして、第一上ノズル220aの噴射角度θ1と、第二上ノズル220bの噴射角度θ2は、30〜60゜とするのが好ましい。
噴射角度θ1、θ2が30゜より小さいと、棒状冷却水230a、230bの垂直方向速度成分が小さくなって、被圧延材8への衝突が弱くなり、冷却能力が低下するからであり、噴射角度θ1、θ2が60゜よりも大きいと、棒状冷却水の搬送方向速度成分が小さくなって、滞留冷却水240を堰き止める力が弱くなるからである。なお、噴射角度θ1と噴射角度θ2は必ずしも等しくする必要はない。
また、滞留冷却水を堰き止めるためには、長手方向に複数列(前記で3列以上噴射する)と説明したが、さらに上ノズル220から噴射する棒状冷却水の噴射速度を8m/s以上とすると、滞留水の堰き止め効果がさらに改善され好ましい。
そして、ノズルが詰まりにくく、かつ棒状冷却水の噴射速度を確保するためには、上ノズル220の内径は3〜8mmの範囲とするのが好適である。
また、棒状冷却水の場合、幅方向に隣り合う棒状冷却水と棒状冷却水の隙間から冷却水が流れ出しやすい。
この場合、前述した図10(b),(c)のように、前列の棒状冷却水の被圧延材8の幅方向衝突位置に対して次列の棒状冷却水の被圧延材8の幅方向衝突位置をずらして配置することが好ましい。これによって、幅方向に隣り合う棒状冷却水の間で水切り能力が弱くなる部分に次の列の棒状冷却水が衝突し、水切り能力が補完される。
そして、上ノズル220の幅方向の取り付けピッチ(幅方向取り付け間隔)は、ノズル内径に対して20倍以内とすれば良好な水切り性を得ることができる。
さらに、被圧延材8の反りなどによって上ノズル220が破損することを防止するために、上ノズル220の先端の位置をパスラインから離すようにするのがよいが、あまり離すと棒状冷却水が分散するので、上ノズル220の先端とパスラインの距離を500mm〜1800mmとするのが好ましい。
また、図11(a),(b),(c)に示すが、棒状冷却水の噴射方向の速度成分の0〜35%が被圧延材8の幅方向に向かう速度成分となるように、外向き角αを持たせて棒状冷却水の噴射方向を設定すると、上ノズル220から被圧延材8に噴射された棒状冷却水は、図11(a),(b),(c)の矢印Bに示すように合流して速やかに被圧延材8の幅端から落下するようになり、棒状冷却水が被圧延材8の幅方向外側に向かう速度成分を有していない場合に比べて、低い圧力や少ない水量で滞留水を堰き止めて水切りができるようになるため、経済的な設計を行う上で好ましい。
より好ましい範囲は10〜35%である。なお、35%を超えると、冷却水の被圧延材8の幅方向への飛散防止に装置コストがかかる上、棒状冷却水の鉛直方向速度成分が小さくなって、冷却能力が低下する。
また、被圧延材8の幅方向に配列される全ノズル数の40〜60%が、被圧延材8の幅方向の一方の外側に向かう成分を持つ棒状冷却水を噴射するのが好ましい。
被圧延材8の幅方向の一方の外側に向いているノズル数が全体の60%を超えて、幅端からの冷却水排出に偏りが生じれば、滞留冷却水の厚みが厚くなったところで棒状冷却水が滞留冷却水を堰き止められなくなり、幅方向の温度不均一が発生する可能性があるからである。
また、被圧延材8の幅方向の一方の外側で飛散水が極端に多くなると、これを防止するための装置コストが高くなるからでもある。
したがって、図11(b)のように、両外側に一定の外向き角αをもって噴射する場合では、被圧延材8の幅方向外側に噴射するノズルの比率を片側40%、逆側60%までは配置可能であるが、好ましくは片側50%、逆側50%で配置するのがよい。
また、図11(a)に示すように、被圧延材8の幅方向外側に向かうにつれて順次外向き角αを大きくする場合もあるが、その場合は被圧延材8の幅方向中心に対して対称な外向き角αの分布となるようにすることが好ましい。
また、図11(c)に示すように、被圧延材8の幅方向外側を向かない上ノズル(外向き角α=0の上ノズル)の総数を全体の20%以内(例えば20%)とし、残りのうち両外側に向けるノズル数をほぼ等しく(例えば片側40%ずつ)すれば、滞留冷却水の排水は円滑に行われ、滞留冷却水を堰き止めて水切りを行うには好適となる。
なお、以上説明した各冷却装置20は、図10に示したように、各3個の上ヘッダ21a、21bを有するようにしているが、冷却能力の関係でもっと設備長を長くする場合には、上ヘッダ21a、21bの数を増やしてもかまわないし、また、冷却装置20を搬送方向Aに複数台設置してもかまわない。
さらに、図12に示すように、第一上ヘッダ210a、第二上ヘッダ210bの間に中間ヘッダ210cを設けることも可能であり、その個数はいくつでもかまわない。
ここで、中間ヘッダ210cは、搬送方向に対する伏角θを90°とする以外、ノズル配置や外向き角度α、水量密度などは、第一上ヘッダ210a、第二上ヘッダ210bと同様にすればよい。また、その場合に第一上ヘッダ210a、第二上ヘッダ210bの個数を複数としてもかまわない。
このようにして、以上説明した各冷却装置20においては、熱延金属帯8の上方に2.0m3/m2/min以上の水量密度の棒状冷却水を噴射する第一上ノズル群220a、第二上ノズル群220bを接続した第一上ヘッダ210a、第二上ヘッダ210bを設け、棒状冷却水230a、230bと被圧延材8のなす伏角θ1、θ2が30゜〜60゜で、被圧延材8の搬送方向Aにお互いに対向するように第一上ノズル群220a、第二上ノズル群220bを配置して、さらに棒状冷却水を進行方向の速度成分に対して、被圧延材8の幅方向外向きに0〜35%の速度成分を持たせて噴射することにより、被圧延材8の上面に冷却水を供給するようにしているので、熱間圧延ラインに設置することによって、被圧延材8を目標温度まで高冷却速度で均一にかつ安定的に冷却することができる。
以上説明した各冷却装置20において、対向する第一上ノズル群220a、第二上ノズル群220bから噴射される棒状冷却水230a、230bの速度が速い場合、例えば10m/s以上である場合は、棒状冷却水230a、230bは、被圧延材8に衝突後、お互いにぶつかり合って上方に飛散する。
この飛散冷却水が滞留冷却水240上に落下すれば問題ないが、図13に示すように、飛散冷却水250が斜め上方に飛散して棒状冷却水230a、230b上に落下すると、飛散冷却水250が棒状冷却水230a、230b間の隙間から漏れて、完全な水切りができなくなる場合がある。特に、滞留域長さが200mm以内である場合に、その問題が発生しやすい。さらに、冷却水の噴射速度が速くなるにつれ、飛散冷却水240が第一上ヘッダ210a、第二上ヘッダ210bの上を飛び越えて被圧延材8上に落下することもある。
それに対して、図14(a)に示す冷却装置201は、図10(a)に示した冷却装置201において、さらに、対向する第一上ノズル群220a、第二上ノズル群220bの最内側列のさらに内側に遮蔽板260a、260bを追加したものである。ここで、遮蔽板260a、260bは、第一上ノズル群220a、第二上ノズル群220bから噴射される棒状冷却水230a、230bの上方を覆うように設置するのが好ましい。
これによって、飛散冷却水250が斜め上方に飛散した場合でも、落下する飛散冷却水250は遮蔽板260a、260bに遮られ、棒状冷却水230a、230b上に落下することなく、滞留冷却水240上に落下するようになる。したがって、的確に水切りを行うことができるようになる。
なお、遮蔽板260a、260bは、シリンダ270a、270bによって昇降できる構造にすることもでき、遮蔽板260a、260bを必要とする製品製造時のみに使用し、それ以外の時は退避位置に引き上げておく方法もある。
ちなみに、遮蔽板260a、260bを使用する際には、遮蔽板260a、260bの最下端が被圧延材8の上面から300〜800mm上方に位置するようにするのが好ましい。すなわち、被圧延材8の上面から300mm以上、上方に位置するようにしておけば、先端または尾端に上反りが発生した被圧延材8が進入してきても、衝突することがない。しかし、被圧延材8の上面から800mmを超えて高くすると、飛散冷却水250を十分に遮蔽することができない。
また、図14(a)における遮蔽板260a、260bに替えて、図14(b)に示すように、軽くて表面が滑らかな遮蔽幕280a、280bを用いるようにしてもよい。遮蔽幕280a、280bは、通常は垂れ下がった状態で待機しており、棒状冷却水230a、230bの噴射が開始されると、最内側の列の棒状冷却水に沿って持ち上がる。その際、棒状冷却水230a、230bは勢いよく噴射されるので、その流れが乱れるということはない。
さらに、前述したように、冷却水の噴射速度が速く、飛散冷却水250が第一上ヘッダ210a、第二上ヘッダ210bの上を飛び越えて被圧延材8の上に落下しようとする場合には、図14(c)に示すような、第一上ヘッダ210aと第二上ヘッダ210bの間の被圧延材上方に位置するような遮蔽板290を用いてもよい。このような遮蔽板290を用いれば、第一上ヘッダ210a、第二上ヘッダ210bの上を飛び越えて被圧延材8の上に落下しようとする飛散冷却水250を的確に遮蔽することができる。しかも、遮蔽板290に当たった飛散冷却水250は、落下する際に、横方向に飛散しようとする飛散冷却水250を巻き込んで一緒に滞留冷却水240上に落下するので効果的である。
そして、図14(a),(b),(c)に示した各冷却装置においても、第一上ヘッダ210a、第二上ヘッダ210bの数の調整を行えばよい。
なお、以上の各冷却装置201の説明においては、被圧延材8の下面の冷却については説明していない。下面冷却については、もともと被圧延材8の上に滞留水240が乗って過冷却が発生する問題はないため、下ノズル310に一般的な冷却ノズル(スプレーノズル、スリットノズル、円管ノズル)を採用してかまわない。場合によっては、上面冷却のみで被圧延材8を冷却してもかまわない。
このほか、冷却装置としては、図15(a),(b),(c)に示した各種の実施の形態のものを用いてもよい。
(近赤外線カメラの好適な配置)
ところで、ブラックスポットのできている部分は、製品である鋼帯の伸びや穴拡げ性などの機械的性質が劣るため、同部は切除し、ブラックスポットの顕著でない部分だけにした上で、需要家に納入する、という具合に対応せざるを得ない。
このようなブラックスポットのある被圧延材の部分が、間違って需要家に納入されてしまうのを防ぎ、品質保証を行えるようにするためには、そのようなブラックスポットのある被圧延材の部分を、局部的に温度の低い部分として正確に捕捉する、という品質判定を行える必要がある。
そのためには、図1(b)のように、被圧延材8の全幅をカバーして撮影可能な近赤外線カメラ25Aをコイラー入側に設置するのがよい。
一方、前半ゾーンの出側に設置した、熱延金属帯の全幅あるいはさらにその全長を撮影可能な近赤外線カメラ27Aによる測定の結果をもとに、前半ゾーン5における冷却のしかたを制御して、熱延金属帯の、巻き取り直前の温度が不均一になるのを抑制するためには、図1(a)のような近赤外線カメラの配置とするのが好ましいことから、両者を両立させるためには、図1(c)のような近赤外線カメラの配置とするのが好ましいことになる。
このほか、近赤外線カメラは、もちろん、ランナウトテーブルの中間や、仕上圧延機出側に設置してもよいし、図25(b)〜(d)のように、これらのうち複数の箇所に併設してもよい(図25(c)は図1(c)と同じである)。
ここで、コイラー入側に設置する近赤外線カメラは、被圧延材8の搬送方向上流側のコイラー24の、図示しないマンドレルの中心から、被圧延材8の搬送方向上流側(入側)に30m以内の位置に設置するのが好ましい。
仕上圧延機出側に設置する近赤外線カメラは、設置するとしたら、仕上圧延機18の最終スタンドのワークロール中心から、被圧延材8の搬送方向下流側(出側)に30m以内の位置に設置するのが好ましい。
ランナウトテーブルの中間に設置する近赤外線カメラは、設置するとしたら、図31に示した熱間圧延ライン100の仕上圧延機18とコイラー24の間の冷却関連設備26を2区分した、前半ゾ−ンと後半ゾ−ンの中間の位置に設置するのが好ましい。
(近赤外線カメラの仕様、熱延金属帯の全幅撮影方法)
図16に、a)耳伸び、b)中伸びなどの先端部の平坦度(急峻度)の悪さと切除長さの関係を示す。
被圧延材8上、ブラックスポットのできている部分が、a)耳伸び、b)中伸びなどの先端部の平坦度(急峻度)の悪さに起因して、長手方向に長いと、図16に示すように、酸洗など後工程にて、ブラックスポットの顕著な部分を含む領域について、その全長を切除する際の切除長さも長くする必要があることがわかる。
このため、被圧延材8の長手方向には、仕上圧延機18での平坦度制御の効果がまだ現れない、被圧延材8の先端数十メートル、ないしは、張力の作用しない、仕上圧延機18の最終スタンドからコイラー24までの距離に相当する、被圧延材8の先端あるいは尾端の百数十メートルの、被圧延材8の形状の平坦でない部分を、カバーして撮影するのが好ましい。
もちろん、被圧延材8の全長を撮影するのも好ましい。
図16中の各写真は、近赤外線カメラを、熱間圧延ライン100上、コイラー入側温度計25の上流側1mの位置に仮設し、仕上圧延機18側を俯瞰して撮影したものである。機械的性質の代表である引張強さの目標は590MPa、コイラー入側温度計25の位置にての巻き取り直前の温度の目標は470℃である。図中の記号は、Dはドライブ(駆動)側、Oはオペレータ側(ドライブ側と反対側)、Cはセンター部、Qはクォーター部、Eはエッジ部をそれぞれ示す。急峻度の値は、被圧延材8の最先端から長手方向に53mの位置のものである。
被圧延材8の平坦度の悪いことがある先端部と尾端部(仕上圧延機18の最終スタンドF7からコイラー24までの距離に相当する長さ)については、少なくとも、その長手方向全長にわたり、連続した撮影画像が得られるようにするのがよい。
もちろん、被圧延材8の可及的に全長にわたり、連続した撮影画像が得られるようにするのも好ましい。
ここで用いた近赤外線カメラの画素一つあたりの大きさは、縦30μm×横30μmであり、画素の縦横の配列数は、縦320×横256のものを用いており、図17に示した本設時のように、被圧延材8を真上から撮影した場合、近赤外線カメラ側ではなく、測定対象である被圧延材8側に換算して、一画素あたり縦10mm×横10mm、トータルで、縦(長手方向)3200mm×横(幅方向)2560mmの領域を1回の撮影で視野に捉えることができる。
一画素あたりの縦横の寸法は、ともに、測定対象である被圧延材8側に換算して、10mm以下とするのが好ましい。これよりも大きいと、撮影した画像はモザイク状のため、ブラックスポットの外縁と平面形状がわかりにくくなるからである。
一方、同寸法の下限はとくに規定する必要はない。一例として挙げた上記の例の10mmとかそれ以下で大丈夫である。
従来から一般的に製造される被圧延材の幅は、最大2300mmであり、この近赤外線カメラの視野は、全ての被圧延材8について、その全幅をカバーできることになる。
仮設した近赤外線カメラの撮影した画像図18(a)は、正常に撮影できた場合を示している。被圧延材8の搬送速度は、熱間圧延ライン100の例では、120mpmから1200mpmに及ぶが、縦(長手方向)3200mmの視野があるため、例えば、被圧延材8の搬送速度が1200mpmであれば、3200mmを搬送するのに、3200/1000÷1200/60=0.16secかかるため、0.16secに1回の撮影を行い、被圧延材8の先端が視野に入った瞬間以前から撮影を開始し、被圧延材8の全長が搬送され、尾端が視野から外れる瞬間以降に撮影を終了する。搬送速度がもっと遅ければ、搬送速度に反比例するかたちで、撮影の間隔を長くすればよい。
ところで、1回の撮影でのシャッタースピードが1000分の1秒台と、十分に短くない近赤外線カメラを用いた場合、被圧延材8の搬送速度が速いと、図18(b)に示すように、画像がぶれて流れてしまい、ブラックスポットは大きく写り、ぼやけてしまうことがある。
本実施の形態では、表1に示した仕様の近赤外線カメラを用いている。最短10μsec(10万分の1秒)の高速シャッターを搭載した近赤外線カメラを用いることで、被圧延材8の搬送速度が速くても、画像がぶれて流れてしまわないような撮影が可能である。
図19(a)は、近赤外線カメラのシャッタースピードをいろいろに変えた場合に、どれだけの輝度に測定されるか、を調べたものである。横軸は、被圧延材8の温度からして、熱放射エネルギー(W/mm2)がどれだけになるかを換算式にて計算して示しており、縦軸は、輝度値([-])を示している。
近赤外線カメラ側の問題であるが、輝度値8000([-])を下回る領域では、ノイズの影響が大きくて鮮明な画像が得にくくなるため、8000([-])を下限とした。
また、本近赤外線カメラの仕様上、輝度値は16ビット信号で測定するため、最大で216=65536([-])を上回る領域は、飽和してしまって測定ができなくなることから、やや余裕をみて60000([-])を上限とした。
以上説明した上限と下限の間が測定可能なレンジであり、そのレンジに相当する温度範囲が測定可能な温度レンジである。
図19(b)は、その関係をわかりやすく示したもので、横軸にシャッタースピードをとった場合に、縦軸に測定可能な温度レンジを示したものである。シャッタースピードを短くしていくと、40μsecを下回るあたりから、300℃未満の被圧延材8の温度は測定不可能になり、それよりもシャッタースピードを短くしていくと、測定可能な温度レンジの下限が、上がってしまうことがわかる。
被圧延材8が高張力鋼である場合、その種類によって目標とする巻き取り直前の温度も異なるが、冷却関連設備26による冷却後の被圧延材8の温度は、最低で300℃に達する場合がある。
したがって、被圧延材8の種類によらずに最低温度300℃を測定可能なようにしようとすると、シャッタースピードを40μsec以上にする必要がある。
そこで、被圧延材8の温度に応じて、シャッタースピードを調整するのが好ましい。
すなわち、例えば、被圧延材8の、目標とする巻き取り直前の温度が、測定可能な300℃に近い低い温度の場合は、画像がぼやけない限度において、近赤外線カメラのシャッタースピードを、例えば40μsec以上(本実施の形態に用いている近赤外線カメラでは、仕様上、最長で50μsec:表1の仕様より)に長くし、被圧延材8の目標とする巻き取り直前の温度が例えば450℃〜750℃というように高い場合は、近赤外線カメラのシャッタースピードを、例えば40μsec未満(同最短で10μsec:同)に短くし、測定した温度のレンジを確保するようにするのが好ましい。
ただ、被圧延材8の温度が測定可能な下限に近づくほど、放射エネルギーが少ないことから、測定した温度のレンジを確保できるようにシャッタースピードを長くした方が好ましいことはいうまでもなく、被圧延材8の温度が測定可能な上限に近づくほど、可及的にシャッタースピードを短くした方が、受光素子の能力が飽和して画像がぼやけてしまうのを防止できるため、好ましい。
被圧延材8の目標とする巻き取り直前の温度に応じて、近赤外線カメラのシャッタースピードを調整するに際しては、例えば、被圧延材8が高張力鋼の場合に限らず、その被圧延材8の種類によって決まる、目標とする巻き取り直前の温度に応じて、近赤外線カメラのシャッタースピードを、実際に撮影を行う以前に、予め決めてしまっておくよう調整するのが好ましい。
あるいは、仕上出側温度計21にて測定した被圧延材8の先端部の温度の実績に応じて、近赤外線カメラのシャッタースピードを調整するのも好ましい。
(近赤外線カメラの校正方法)
次に、近赤外線カメラが測定できるのは輝度である。予め、何らかの方法により近赤外線カメラのメーカー側にて輝度を温度に変換するロジックを組み込んでいる場合もあるが、既設のスポット温度計と測定結果が合わなくて最大20℃内外の誤差が生じる場合があり、問題となる。
そこで、このような問題を解決するため、予め、熱間圧延ラインの外、すなわち、オフラインで、同じ熱源の同じ箇所について、該近赤外線カメラにて測定した輝度と、スポット温度計にて測定した温度と、の関係が、前記熱源の温度を変化させたときにどうなるか、を輝度−温度変換曲線として求めたものを、制御装置50やプロセスコンピュータ70などに記憶しておき、前記熱間圧延ラインに前記近赤外線カメラを設置して被圧延材を撮影したときの輝度を、該輝度−温度変換曲線に従って、温度に変換する方法がある。
図20がその結果である。また、図18(a)の右横に示したスケールは、色の濃淡と温度の関係で表示したものである。色は実際はカラーであるが、輝度が高いほど白っぽく、低いほど黒っぽく見えるようにしたものを、温度と対応づけたものである。
あるいは、近赤外線カメラを熱間圧延ラインに設置して被圧延材を撮影し温度測定するとともに、前記近赤外線カメラを設置した箇所での該近赤外線カメラの視野内のある箇所について、スポット温度計にても被圧延材を温度測定し、スポット温度計にて測定した被圧延材の部分の温度に、近赤外線カメラにて測定した同部分の温度が一致するよう、近赤外線カメラを校正した上で、被圧延材を撮影する、という方法もある。これは、いわばオンラインでの校正ともいえる。
(熱延金属帯の全幅を撮影が可能な近赤外線カメラを設置した熱間圧延ライン)
図25(a)に、コイラー入側温度計25に併設する形で、近赤外線カメラ25Aを設置した例を示しているが、近赤外線カメラの視野内のある箇所について、スポット温度計であるコイラー入側温度計25にても被圧延材を温度測定ができるよう、コイラー入側温度計25の向きを調節する。図25(b)には、仕上出側温度計21とコイラー入側温度計25の両者に併設する形で、近赤外線カメラ21A,25Aを設置した例、図25(c)には、中間温度計27(前半ゾーンの出側)とコイラー入側温度計25の両者に併設する形で、近赤外線カメラ27A,25Aを設置した例、図25(d)には、仕上出側温度計21と中間温度計27(前半ゾーンの出側)とコイラー入側温度計25の三者に併設する形で、近赤外線カメラ21A,27A,25Aを設置した例、をそれぞれ示すが、同様に、スポット温度計である仕上出側温度計21と中間温度計27の向きも調節する。
近赤外線カメラの画素の大きさに対してスポット温度計の視野が大きく、スポット温度計の視野の中に複数の近赤外線カメラの画素が入る場合は、ある一つの画素を代表させ、スポット温度計にて測定した温度と、その画素にて測定した温度と、が一致するよう、輝度−温度変換曲線を求めたり、近赤外線カメラを校正したりするのが好ましいが、平均値が一致するようにするなど、その他の方法によってもよい。
(熱延金属帯の全幅撮影結果記録方法、品質判定方法、品質判定結果記録方法)
さて、ここで話は変わり、近赤外線カメラにて測定した被圧延材8の平面(2次元)温度分布をもとに、どのようにして品質判定を行うかを、被圧延材8の全幅全長を撮影し、温度測定する場合を例に、以下、説明する。
まずは、図21中の各ステップを参照しつつ、その全体の流れについて説明する。
先に、被圧延材8の搬送速度が1200mpmの場合、0.16secに1回の撮影を行うことで、搬送方向すなわち被圧延材8の長手方向に3200mmごとに全長全幅の温度分布データを測定していくことを述べた。
被圧延材8を1本、その尾端まで撮影し終わると、ここで、後の処理のしやすさのため、被圧延材8の全長全幅の温度分布データは、後述の実施例のごとく、パソコンなどのコンピュータに付随するメモリーなどの記録媒体に一時記憶し、被圧延材8の長手方向に一定長さごと、例えば、4m(4000mm)ごとに区分した温度分布データに再編集する(ステップ110)。
その結果は、パソコンなどのコンピュータに付随するハードディスクなどの記録媒体に記憶する(ステップ120)。
そのデータを、一度に1本でも複数本でもよい。再度、同パソコンなどのコンピュータに付随するメモリーなどの記録媒体に、読み出して一時記憶させる(ステップ130)。
そして、その1つの構成単位の中で、あるいは、1画面の中で、全ての画素について、温度公差を外れたか否かを判定し、温度公差の上限値(温度上限閾値)を超えた画素、温度公差の下限値(温度下限閾値)を下回った画素、について、その画素の平面(2次元)座標(代表値でも縦横範囲でもよい)とともに一時記憶させ、温度公差外れ部分の平面(2次元)分布を作成する(ステップ150)。
さらに、個々の被圧延材8ごとに、その全長にわたり、一定長さごと、つまり、前述の1つの構成単位ごとに、温度公差を外れた品質の不良部分の種々の統計値を計算する(ステップ160)。その詳細については後述する。
また、温度公差を外れた被圧延材8の品質不良部分の判定を、前記種々の統計値より、例えば、1mごとに行い、そしてまた例えば、図22に示すような品質判定結果の16進表示の関係でセットにして、全長にわたりビット情報として作成する(ステップ170)。これも、その詳細については後述する。
最後に、温度公差を外れた被圧延材8の品質不良部分について、その被圧延材8の先端からの開始位置と、その長さとを決定し、各被圧延材8ごとに紐付け、同パソコンなどのコンピュータに付随するハードディスクなどの記録媒体に記憶する(ステップ180)。
以上で、どのようにして品質判定を行うか、その処理の全体の流れについての説明は、以上の通りであるが、先程後述するとした(ステップ160)、(ステップ170)の処理の詳細について、以下に説明する。
(ステップ160)での、統計値を計算する処理は、次のようなものである。
計算する統計値には、例えば、次のようなものがある。
(1)公差外れ面積率
図23(a)に示すような、被圧延材8を上方から見た面積に占める、温度公差を外れた被圧延材8の品質不良部分の面積の割合が、公差外れ面積率(%)である。
計算式としては、以下のようになる。
公差外れ面積率=Σ公差外れ箇所の面積Si/(領域長さ×被圧延材幅)×100(%)
・・・(8)
(2)公差外れ長さ率
図23(b)に示すような、被圧延材8を上方から見た領域長さに占める、温度公差を外れた被圧延材8の品質不良部分の長手方向の長さの割合が、公差外れ長さ率(%)である。長手方向にラップする領域がある場合は、ラップする領域を二重にカウントせずに、一つの領域と考えてその長さを求め、計算する(図23(b)中のL3)。
計算式としては、以下のようになる。
公差外れ長さ率=Σ公差外れ長さLi/領域長さ ・・・(9)
(3)公差外れ平均個数
図23(c)に示すような、画面数N(本実施の形態ではN=4)の表示領域あたりの、温度公差を外れた被圧延材8の品質不良部分の個数が、公差外れ平均個数である。
計算式としては、以下のようになる。
公差外れ平均個数=公差外れ箇所の個数/画面数N (個/定長4mピッチ)
・・・(10)
(4)公差外れ箇所の平均面積/個
図23(d)に示すような、温度公差を外れた被圧延材8の品質不良部分の面積の合計を、同部分の個数で除したものが、公差外れ箇所の平均面積/個である。
計算式としては、以下のようになる。
公差外れ箇所の平均面積/個=Σ公差外れ箇所の面積Si/公差外れ箇所の個数
・・・(11)
一方、(ステップ170)での、品質不良部分を判定し、長さを決定する処理は、次のようなものである。本実施の形態では、(1)〜(3)は被圧延材の定長4mピッチごとに判定し、(4)と(5)はとくに詳細な判定が必要と考え、被圧延材1mごとに判定するようにしている。
(1)公差外れ面積率による判定
先述の(8)式による計算の結果(本実施の形態では領域長さ=4m)が、ある閾値SNG1以上の場合に、その被圧延材4mの構成単位について、品質判定の結果を不合格(NG)と判定する。
(2)公差外れ長さ率による判定
先述の(9)式による計算の結果(本実施の形態では領域長さ=4m)が、ある閾値LNG以上の場合に、その被圧延材4mの構成単位について、品質判定の結果を不合格(NG)と判定する。
(3)公差外れ平均個数による判定
先述の(10)式による計算の結果(本実施の形態では画面数N=4)が、ある閾値NNG以上の場合に、その被圧延材4mの構成単位について、品質判定の結果を不合格(NG)と判定する。
(4)公差外れ箇所1つあたりの面積による判定
公差外れ箇所の面積Siが、ある閾値SNG2以上のものが一つでもある場合に、図24(a)に示すように、その被圧延材1mごとに、品質判定の結果を不合格(NG)と判定する。(先述の(11)式とは異なるので要注意。ただ、先述の(11)式の計算過程で登場するものを判定に使うため、さほど大変ではない)
(5)公差外れ箇所1つあたりの長手方向、幅方向寸法による判定
公差外れ箇所の長手方向寸法がある閾値LNG以上のものが一つでもあるか、公差外れ箇所の幅方向寸法がある閾値WNG以上のものが一つでもあるか、いずれかの場合に、図24(b)中に示すように、その被圧延材1mごとに、品質判定の結果を不合格(NG)と判定する。
ところで、以上説明した本実施の形態中、温度上限閾値、温度下限閾値、公差外れ箇所の面積の閾値SNG1、公差外れ箇所の長手方向寸法の閾値LNG、公差外れ箇所の幅方向寸法の閾値WNG、公差外れ箇所の個数の閾値NNG、公差外れ箇所1つあたりの面積の閾値SNG2、などは、被圧延材8の種類や寸法ごとに、プロセスコンピュータ70内などに記憶させておき、必要に応じて、ビジネスコンピュータ90やパソコンに伝送し、あるいは、制御装置50を介して近赤外線カメラに伝送するなどすればよい。
さて、ここで、話は少し変わるが、バッチ圧延の場合、被圧延材8の先端部と尾端部数十m〜百数十mには、平坦でない部分ができることは先にも述べたが、その中でも何十mかの部分は必ず公差外れになるので後工程で切除するようにし、その代わりに、同部分は品質判定の対象としないようにすることで、全被圧延材が品質不良になる煩雑さを回避するなどの措置を講ずるなどしてもよい。
同じように、被圧延材8上面に乗った冷却水が、幅方向両エッジから流れ落ちる関係で、被圧延材8の幅方向両エッジは、幅方向中央に比べ強く冷却され、局部的に低温の部分ができるため、これらの部分についても、品質判定の対象としないようにするなどしてもよい。
以上のような場合のため、先端部対象被圧延材長、尾端部対象被圧延材長、幅エッジ対象被圧延材幅/片側などを、被圧延材8の種類や寸法ごとに、プロセスコンピュータ70内などに記憶させておき、必要に応じて、ビジネスコンピュータ90やパソコンに伝送し、あるいは、制御装置50を介して近赤外線カメラに伝送するなどするのも好ましい。
さらに、異常値除去やノイズ除去のため、温度上限閾値の上側、温度下限閾値の下側に、温度上限フィルタ値、温度下限フィルタ値などを、また、公差外れ箇所の長手方向寸法の閾値LNGの上側、公差外れ箇所の幅方向寸法の閾値WNGの上側に、公差外れ箇所の長手方向寸法のフィルタ値、公差外れ箇所の幅方向寸法のフィルタ値などを、プロセスコンピュータ70内などに記憶させておき、必要に応じて、ビジネスコンピュータ90やパソコンに伝送し、あるいは、制御装置50を介して近赤外線カメラに伝送するなどしてもよい。
以上で、近赤外線カメラにて測定した被圧延材8の平面(2次元)温度分布をもとに、どのようにして品質判定を行うか、の全体の流れ、および、一部ステップの処理についての、本実施の形態における例の説明は終わりであるが、以上説明した本実施の形態は、あくまで一例であり、品質判定の具体的なロジックなどは、以上説明した本実施の形態に限るものではない。
(参考例1)
(コンピュータシステム)
図25(a)に、先述の図31に示した熱間圧延ライン100の仕上圧延機18以降の部分を抜き出して示した。図25(a)に示した通り、コイラー入側温度計25に併設する形で、近赤外線カメラ25Aを設置した。両者の間隔は1mしかない。
近赤外線カメラ25Aで測定した被圧延材8の平面(2次元)温度データは、その専用パソコン251に送られて画像処理され、温度公差を外れた被圧延材8の品質不良部分については、その被圧延材8の先端からの開始位置と、その長さとが決定された上で、先述の定長(4m)ごとや1mごとの品質判定の結果も含め、被圧延材8の平面(2次元)温度データのほか、上記に登場するあらゆるデータが、その熱延金属帯の品質判定の結果として、各被圧延材8ごとに紐付けられ、同様に被圧延材8ごとに紐付けされたコイルNoと呼ばれる識別データをキーに記録され、さらに、そのコイルNoを入力すれば、所内LAN252を経由し、別の複数の場所にある、例えば、製造部門の事務所や、品質管理部門の事務所など、各事務所のパソコン253で、遠隔にて、その画像処理後の平面(2次元)温度データを、コピーしてくることができ、画像処理後の温度データを、それら各事務所のパソコン253の画面上に再生したり、また、その画像処理後の温度データを、解析したり、あるいは、加工したりすることもできる。もちろん、需要家に対する製品納入上の品質保証用にも使える。品質不良部があれば、酸洗やスキンパスなど、精製工程を追加して、品質不良部を切除するよう人為指示する、などの対応をとることができるからである。
1本の被圧延材8あたり、長さにもよるが、20〜40MBほどの容量のデータであるため、パソコンのハードディスクのような記憶容量でも、被圧延材数百本分内外のデータであれば記録できる。対象を高張力鋼に絞るなどすれば、実用的に数ヶ月分のデータは記録できる。ハードディスクを交換すれば半永久的に記録できることはいうまでもない。
以上のように、パソコン程度の記憶容量のものであっても、熱間圧延ラインにて圧延する熱延金属帯の全幅を撮影可能な近赤外線カメラを用いて品質判定した結果を記録する熱延金属帯の品質判定結果記録用コンピュータシステム900を構築することができる。
(参考例2)
図25(b)に、仕上出側温度計21とコイラー入側温度計25の両者に併設する形で、近赤外線カメラ21A,25Aを設置した例を示す。
近赤外線カメラ21A,25Aで測定した被圧延材8の平面(2次元)温度データが、専用パソコン251以降に伝送されるルート以降は、実施例1と共通である。
画像処理後の温度データを、解析、加工し、需要家に対する製品納入上の品質保証用にも使えることはもとより、仕上出側温度計21に併設された近赤外線カメラ21Aにて測定した温度データをもとに、被圧延材8のブラックスポットのある部分について、冷却関連設備26による冷却のしかたを弱めるなどのフィードフォワード制御を行うことで、被圧延材8の巻き取り直前の温度は可及的均一化を図り、可及的に被圧延材8の全長全幅について、品質合格を図ろうとするものである。
(参考例3)
図25(c)に、中間温度計27(前半ゾーンの出側)とコイラー入側温度計25の両者に併設する形で、近赤外線カメラ27A,25Aを設置した例を示す。
近赤外線カメラ27A,25Aで測定した被圧延材8の平面(2次元)温度データが、専用パソコン251以降に伝送されるルート以降は、実施例1,2と共通である。
画像処理後の温度データを、解析、加工し、需要家に対する製品納入上の品質保証用にも使えることはもとより、仕上出側温度計21にて測定した温度データをもとに、冷却関連設備26のうちの中間温度計27(前半ゾーンの出側)よりも上流側の部分、あるいはさらに下流側の部分にて、被圧延材8を冷却するフィードフォワード制御が行われるが、中間温度計27に併設された近赤外線カメラ27Aにて測定した温度データをもとに、被圧延材8のブラックスポットのある部分について、冷却関連設備26のうちの中間温度計27よりも下流側の部分による冷却のしかたを弱めるなどのフィードフォワード制御を行うとともに、被圧延材8のブラックスポットのある部分について、冷却関連設備26のうちの中間温度計27よりも上流側の部分による冷却のしかたを弱めるなどのフィードバック制御も併せて行うことで、より確実に、被圧延材8の巻き取り直前の温度は可及的均一化を図り、可及的に被圧延材8の全長全幅について、品質合格を図ろうとするものである。
(参考例4)
(熱延金属帯の冷却制御方法)
上記実施例3と同様、図25(c)に示したように、中間温度計27とコイラー入側温度計25の両者に併設する形で、近赤外線カメラ27A,25Aを設置した熱間圧延ライン100にて、高張力鋼を実際に製造し、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却方法を適用した結果について、以下に説明する。
この高張力鋼は、製品寸法が厚さ3.2mm×幅900mm、目標とする巻き取り直前の温度は350℃である。
仕上圧延完了時の目標とする熱延金属帯の温度を840℃とし、前半ゾーンで550℃まで、後半ゾーンで400℃まで、冷却した後に、コイラー24により巻き取る。
ここで、所望の材質を確保したい観点から、巻き取り直前の温度の許容範囲は、熱間圧延ライン100の幅中央に設置した放射温度計(スポット温度計)であるコイラー入側温度計25で測定して、熱延金属帯の全長にわたって60℃以内である。
前半ゾーンの冷却装置の構成は、上面側が円管ラミナーノズル、下面側がスプレーノズルであり、それぞれ水量密度1.0m3/m2 /minである。
また、後半ゾーンの冷却装置の構成は、上面及び下面とも水量密度0.2m3/m2 /minのスプレーノズルが備えられている。
冷却装置の搬送方向の長さは、前半ゾーンの冷却装置が75m、後半ゾーンの冷却装置が30mである。
このノズルは、搬送方向Aに複数設置されており、それぞれ個別にON−OFFすることができる。
各冷却装置からの注水流量は、設置されているヘッダの使用本数の変更により調整する。
近赤外線カメラの仕様は、表1に示したものとした。分解能は、近赤外線カメラの画素数、パスラインからの近赤外線カメラの設置高さ、および近赤外線カメラのレンズ倍率などにより決まる。
ここでは、φ100mmのブラックスポットを捕捉できることを目標とし、近赤外線カメラの画素数、パスラインからの近赤外線カメラの設置高さ、レンズ倍率などを決定した。
また、シャッタースピードは、搬送速度に応じて決める必要がある。ここでは、搬送速度1500mpmにおいて、露光時間中の移動量が0.3mm以内となるようシャッタースピードを決めた。
さらに、仕上圧延機と前半ゾーンの間、前半ゾーンの出側、後半ゾーンの出側には、それぞれ、熱間圧延ライン100の幅中央に放射温度計が設置されており(仕上出側温度計21、中間温度計27、コイラー入側温度計25)、これらの温度計により熱延金属帯の長手方向の温度分布が測定できるようになっている。
熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の平均、および、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の(最大値−最小値)で定義される偏差について、まとめた結果を表2に示す。
なお、表2には、実施例と比較例についての、実験条件と、冷却後の、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の平均、および、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の(最大値−最小値)で定義される偏差について、整理して記載している。
(実施例1)
閾値ΔTLを30.0℃に設定した。熱延金属帯の最先端から長さ方向に5mの範囲に、閾値を下回る低温の部分が存在しており、前半ゾーンの出側に併設した近赤外線カメラ27Aを用いて、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法により、閾値の範囲内になるまで、前半ゾーンにおける冷却水を注水するノズル本数を、フィードバック制御により調整した。
その結果、冷却水を注水するノズル本数は、熱延金属帯の最先端が通過する際の初期設定84本から79本に5本減り、前半ゾーン出側で測定した熱延金属帯の平均温度は、532℃から551℃まで19℃上昇した。
これと同時に、後半ゾーンにおける冷却水を注水するノズル本数は、熱延金属帯の最先端が通過する際の初期設定67本から75本に8本増えた。
図26(a)に熱間圧延ライン100の幅中央に設置した放射温度計(スポット温度計)であるコイラー入側温度計25にて測定した巻き取り直前の温度のチャートを示すが、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度は平均で404℃となり、ほぼ目標通りとなった。また、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却方法による、冷却水を注水するノズル本数の調整と、それによる注水流量の調整は、熱延金属帯の最先端から長手方向に100mの位置までに完了し、以降も含めた長手方向の巻き取り直前の温度の偏差も53℃と小さく抑えることができた。
(実施例2)
実施例1にて用いた熱延金属帯に対して、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法、すなわち、前半ゾーンにおける冷却のしかたへのフィードバック制御を適用し、次の熱延金属帯も同じ材質と寸法であったので、実施例1にて用いた熱延金属帯の、近赤外線カメラの視野に入り撮影された1画像内での温度分布の測定結果をもとに、前記熱延金属帯の平均温度と該平均温度から前記1画像内での温度の最小値を差し引いた偏差を演算し、前記フィードバック制御により、前記熱延金属帯内で、該偏差が、前記熱延金属帯の温度が幅方向に不均一になったことを判定する閾値ΔTL未満となった時点以降における、前記熱延金属帯の、前記前半ゾーンの出側での、熱間圧延ラインの幅中央における温度の測定結果の、長手方向平均値を、次の熱延金属帯の、前記前半ゾーンの出側での、前記した、熱間圧延ラインの幅中央における温度の目標値として、前記した、次の熱延金属帯に対する冷却制御を行った。
図26(b)に実施例1と同様にして測定した巻き取り直前の温度のチャートを示す。
冷却終了後の熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度は、平均で402℃となり、ほぼ目標通りとなった。また、長手方向の巻き取り直前の温度の偏差も51℃と小さく抑えることができた。
(比較例1)
前半ゾーンの出側に併設した近赤外線カメラ27Aは用いず、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法によるフィードバック制御も行わなかった。
図26(c)に実施例1,実施例2と同様にして測定した巻き取り直前の温度のチャートを示す。
冷却終了後の熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度は、平均で380℃となり、目標からはずれ、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の偏差は95℃と、大きくなってしまった。
前半ゾーンの出側ですでに熱延金属帯の長手方向の温度の偏差が60℃あり、後半ゾーンの出側ではこれが95℃に拡大したことがわかる。
水量密度を小さくすることにより、遷移沸騰開始温度が低くなったものの、膜沸騰から遷移沸騰への移行を抑えることができなかったため、冷却終了後の温度がばらついたと考えられる。
(比較例2)
近赤外線カメラ27Aの代わりに、走査型放射温度計を用いて平面(2次元)温度分布を測定し、実施例と同様なフィードバック制御を行った。
図26(d)に実施例1,実施例2,比較例1と同様にして測定した巻き取り直前の温度のチャートを示すが、近赤外線カメラでは捉えることが出来るφ50〜100mmのブラックスポットを、走査型放射温度計では完全に捉えることが出来ないため、同様なフィードバック制御を行っても、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の偏差は67℃と大きくなってしまった。
(実施例)
上記実施例と同様、図25(c)に示したように、中間温度計27とコイラー入側温度計25の両者に併設する形で、近赤外線カメラ27A,25Aを設置した熱間圧延ライン100にて、高張力鋼を実際に製造し、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却方法を適用した結果について、以下に説明する。
この高張力鋼は、製品寸法が厚さ3.2mm×幅900mm、目標とする巻き取り直前の温度は350℃である。
仕上圧延完了時の目標とする熱延金属帯の温度を840℃とし、前半ゾーンで550℃まで、後半ゾーンで350℃まで、冷却した後に、コイラー24により巻き取る。
ここで、所望の材質を確保したい観点から、巻き取り直前の温度の許容範囲は、熱間圧延ライン100の幅中央に設置した放射温度計(スポット温度計)であるコイラー入側温度計25で測定して、熱延金属帯の全長にわたって60℃以内である。
前半ゾーンの冷却装置の構成は、上面側が円管ラミナーノズル、下面側がスプレーノズルであり、それぞれ水量密度1.0m3/m2 /minである。
また、後半ゾーンの冷却装置には、上面及び下面とも水量密度2.0m3/m2 /minの直進性に優れた円管ラミナーノズルが備えられている。
冷却装置の搬送方向の長さは、前半ゾーンの冷却装置が75m、後半ゾーンの冷却装置が10mである。
このノズルは、搬送方向Aに複数設置されており、それぞれ個別にON−OFFすることができる。
各冷却装置からの注水流量は、設置されているノズルの使用本数の変更により調整する。
近赤外線カメラの仕様は、表1に示したものとした。分解能は、近赤外線カメラの画素数、パスラインからの近赤外線カメラの設置高さ、および近赤外線カメラのレンズ倍率などにより決まる。
ここでは、φ100mmのブラックスポットを捕捉できることを目標とし、近赤外線カメラの画素数、パスラインからの近赤外線カメラの設置高さ、レンズ倍率などを決定した。
また、シャッタースピードは、搬送速度に応じて決める必要がある。ここでは、搬送速度1500mpmにおいて、露光時間中の移動量が0.3mm以内となるようシャッタースピードを決めた。
さらに、仕上圧延機と前半ゾーンの間、前半ゾーンの出側、後半ゾーンの出側には、それぞれ、熱間圧延ライン100の幅中央に放射温度計が設置されており(仕上出側温度計21、中間温度計27、コイラー入側温度計25)、これらの温度計により熱延金属帯の長手方向の温度分布が測定できるようになっている。
熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の平均、および、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の(最大値−最小値)で定義される偏差について、まとめた結果を表3に示す。
なお、表3には、実施例と比較例についての、実験条件と、冷却後の、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の平均、および、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の(最大値−最小値)で定義される偏差について、整理して記載している。
(実施例)
閾値ΔTLを33.8℃に設定した。熱延金属帯の最先端から長さ方向に5mの範囲に、閾値を下回る低温の部分が存在しており、前半ゾーンの出側に併設した近赤外線カメラ27Aを用いて、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法により、閾値の範囲内になるまで、前半ゾーンにおける冷却水を注水するノズル本数を、フィードバック制御により調整した。
その結果、冷却水を注水するノズル本数は、熱延金属帯の最先端が通過する際の初期設定84本から79本に5本減り、前半ゾーン出側で測定した熱延金属帯の平均温度は、532℃から551℃まで19℃上昇した。
これと同時に、後半ゾーンにおける冷却水を注水するノズル本数は、熱延金属帯の最先端が通過する際の初期設定32本から34本に2本増えた。
図27(a)に熱間圧延ライン100の幅中央に設置した放射温度計(スポット温度計)であるコイラー入側温度計25にて測定した巻き取り直前の温度のチャートを示すが、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度は平均で354℃となり、ほぼ目標通りとなった。また、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却方法による、冷却水を注水するノズル本数の調整と、それによる注水流量の調整は、熱延金属帯の最先端から長手方向に100mの位置までに完了し、以降も含めた長手方向の巻き取り直前の温度の偏差も53℃と小さく抑えることができた。
(比較例1)
前半ゾーンの出側に併設した近赤外線カメラ27Aは用いず、本実施の形態に係る熱延金属帯の冷却制御方法によるフィードバック制御も行わなかった。
図27(b)に実施例と同様にして測定した巻き取り直前の温度のチャートを示す。水量密度0.3m3/m2 /min未満となるように、前半ゾーンでは温度30℃の冷却水で550℃まで冷却し、後半ゾーンでは上下面ともにスプレーによる冷却として、水量密度0.2m3/m2 /min、温度30℃の冷却水で、目標とする巻き取り直前の温度である350℃までを目標に冷却した例である。
冷却終了後の熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度は、平均で359℃となり、ほぼ目標通りとなったものの、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の偏差は90℃と、大きくなってしまった。
水量密度を小さくすることにより、遷移沸騰開始温度が低くなったものの、膜沸騰から遷移沸騰への移行を完全に抑えることができなかったため、冷却終了後の温度がばらついたと考えられる。
(比較例2)
近赤外線カメラ27Aの代わりに、走査型放射温度計を用いて平面(2次元)温度分布を測定し、実施例と同様なフィードバック制御を行った。
図27(c)に実施例,比較例1と同様にして測定した巻き取り直前の温度のチャートを示すが、近赤外線カメラでは捉えることが出来るφ50〜100mmのブラックスポットを、走査型放射温度計では完全に捉えることが出来ないため、同様なフィードバック制御を行っても、熱延金属帯の長手方向の巻き取り直前の温度の偏差は67℃と大きくなってしまった。
(参考例5)
図25(d)に、仕上出側温度計21と中間温度計27とコイラー入側温度計25の3者に併設する形で、近赤外線カメラ21A,27A,25Aを設置した例を示す。
図25(c)の場合において、仕上出側温度計21に代え、近赤外線カメラ21Aにて測定した温度データをもとに、参考例3の場合と同じように制御を行うことで、より確実に、被圧延材8の巻き取り直前の温度は可及的均一化を図り、可及的に被圧延材8の全長全幅について、品質合格を図ろうとするものである。
(参考例6)
(ビジコンシステム、後工程での熱延金属帯の品質不良部切除)
図28に示すように、近赤外線カメラにて測定した温度データを制御装置50経由で取り込み、図25(a)〜(d)における専用パソコン251の役割をプロセスコンピュータ70またはビジネスコンピュータ90にて果たし、ビジネスコンピュータ90内に、被圧延材8ごとに紐付けされたコイルNoと呼ばれる識別データをキーに記録される。
以上のような方法とは別に、近赤外線カメラと制御装置50の間、あるいは、制御装置50とプロセスコンピュータ70の間、あるいは、プロセスコンピュータ70とビジネスコンピュータ90の間に、図示しない専用パソコン251を間挿し、専用パソコン251にて画像処理した後の温度データを、ビジネスコンピュータ90に送り、さらに、ビジネスコンピュータ90内に、被圧延材8ごとに紐付けされたコイルNoと呼ばれる識別データをキーに、画像処理した後の温度データが記録されるようにしてもよい。
図25中の所内LAN252に代え、専用回線を経由して各ライン用のビジネスコンピュータ90を結ぶネットワークを形成しておき、各ライン用のビジネスコンピュータ90に接続する端末やパソコン、あるいはそのネットワークに直接接続する端末やパソコンから、そのコイルNoを入力すれば、例えば、製造部門の事務所や、品質管理部門の事務所などの各事務所など、離れた場所でも、遠隔にて、その画像処理後の平面(2次元)温度データを、コピーしてくることができ、画像処理後の温度データを、それら各事務所の端末やパソコンの画面上に再生したり、また、その画像処理後の温度データを、解析したり、あるいは、加工したりすることもできる。もちろん、需要家に対する製品納入上の品質保証用にも使える。
品質不良部があることを自動で判定した場合、ビジネスコンピュータ90からの指令により、例えば、インラインスキンパス30を有する酸洗ライン200のような精製工程を、熱間圧延工程の後工程として追加して、品質不良部をシャー5にて切除するよう自動で指示する、などの対応をとることができるからである。
被圧延材8の最先端から30mの範囲に品質不良部が集中している場合は、その30mを切除し、一つ前の被圧延材の尾端に、品質不良部を切除後の被圧延材8の先端を溶接機6にて溶接し、連続的に酸洗ライン200を通過させる。
しかし、例えば、被圧延材8の最先端から30〜40mの範囲と、同100〜120mの範囲に品質不良部があるような場合は、その30〜40mの範囲と100〜120mの範囲を切除したのでは、40〜100mの部分に60m分の健全部分ができるが、溶接部が混在してもよい需要家からのオーダーか、あるいは、溶接部が混在してはいけないが60m分の小さな重量でも大丈夫な需要家からのオーダーや、最終的に切板になるようなオーダーであれば、この60m分の健全部分を、前後の被圧延材の先端と尾端に、溶接機6にて溶接し、連続的に酸洗ライン200を通過させる。
もしも、溶接部が混在してはいけなくて、しかも、60m分の小さな重量ではいけない需要家からのオーダーであれば、30〜100mの範囲全体を切除し、一つ前の被圧延材の尾端に、品質不良部を切除後の被圧延材8の先端を溶接機6にて溶接し、連続的に酸洗ライン200を通過させる。
被圧延材8の尾端についても同様である。
品質不良部をシャー5にて切除するよう自動で指示する際には、切除指令、被圧延材の長手方向のどこを切除するのか、長手方向位置(切除開始位置)および切除長を、指令として出力するようにする。
ビジネスコンピュータ90は、各被圧延材8の需要家からのオーダー材質、オーダー厚、オーダー幅などの属性データのほか、例えば熱間圧延ライン100での全長板厚分布や近赤外線カメラで測定した全幅温度分布など、各種の膨大な製造実績データを、各被圧延材8ごとに紐付けて記録している。そして、熱間圧延ライン100のほか、酸洗ライン200をはじめ、ここには図示しない冷間圧延などの別の製造工程なども含め、全製造工程を通しての通過工程指示も行うなど、全製造工程を通しての通過工程指示・管理のほか、製造・品質実績管理も行う。
これら一連の機能を果たす、ビジネスコンピュータ90、そのコンピュータプログラム、付属する記録装置と記録媒体、および、それらに接続する端末やパソコンと、その画面表示機能のようなマンマシンデータインターフェース機能も含めた、コンピュータシステムのことをビジコンシステムと呼ぶ。
図28に、熱間圧延ライン100および他の製造工程も含め、通過工程指示・管理のほか、製造・品質実績管理も行う、ビジコンシステム901の概要を示す。
図28の例では、熱間圧延ライン用、冷間圧延ライン用、酸洗ライン用、他のライン用、などに分けてビジネスコンピュータ90を設けているが、分け方は上記の例に限るものではなく、あるいは1台のコンピュータに集約してもよい。
また、図28では、熱間圧延ライン100に近赤外線カメラを設置する形態として、図25(a)の形態を踏襲する場合を例に挙げているが、図25(b)〜(d)の各種の形態を踏襲する場合も例として挙げることができる。
(熱延金属帯の製造方法)
以下に、本発明の実施による効果を説明する。
被圧延材8の熱間圧延ライン中央についてだけ、コイラー入側にて温度測定した結果を、長手方向に連続したデータを図29に示す。この被圧延材は中伸びであったため、被圧延材の幅中央の平坦(急峻)度の長手方向分布と、被圧延材の温度の長手方向分布とが、相関を示すが、被圧延材の最先端から20m以内の範囲にできる平坦度の悪い部分に、局部的に被圧延材の温度の低い部分ができているようすがわかる。実際、○で囲った部分は切除したが、試しに需要家と同じ条件でプレス加工してみると、割れが発生した。
また、コイラー入側に近赤外線カメラを設置する前は、コイラー入側温度計25による温度測定結果によって品質不良部分を判定せざるを得なかったが、図30の縦軸に、近赤外線カメラにて温度測定した場合の品質不良部分と判定した部分の長さから、同コイラー入側温度計25にて温度測定した場合の品質不良部分と判定した部分の長さを差し引いた値が、10m以上である被圧延材の本数の比率を示している。コイラー入側に近赤外線カメラを設置する前は、25.5%の被圧延材について、温度上限閾値を超えるものや温度下限閾値を下回るものを少な目に判定していたことになる。(コイラー入側に近赤外線カメラを設置した後は、当然ながらその比率は0%である。)