JP5200682B2 - 鉄鋼圧延機用転がり軸受 - Google Patents
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Description
そのため、このような環境下で使用される圧延機用ロールネック軸受などの圧延機用軸受には、優れた防水機能と共に、仮に水が入り込んでしまった場合でも、潤滑性の低下を回避すべくその内部に封入されるグリースには優れた耐水性が要求される。すなわち、例えば以下の非特許文献1には、潤滑油(♯180タービン油)に6%の水分が混入すると、混入しない場合に比べて転がり疲れ寿命が数分の1から20分の1にまで低下することを報告している。
このような寿命低下は、混入した水分から発生した水素が軸受材料に作用し、白色組織剥離と呼ばれる金属剥離を引き起こすことが考えられる。
このような剥離を抑制するために従来から封入グリースを改良したものが多く提案されており、例えば以下の特許文献1〜3には、亜硝酸ナトリウムなどの不動態酸化剤を添加したグリースや、有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を添加したグリースや、粒径2μm以下の無機系化合物を添加したグリースなどが提案されている。
古村恭三郎、城田伸一、平川清著「表面起点および内部起点の転がり疲れについて」NSK Bearing Journa、No636,pp.1-10、1977 P.Schatzberg、I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication、wear 12,pp.331-342,1968
また、特許文献4,5に示すような方法では、材料自体が高価であるため、軸受の製造コストが高くなるといった問題がある。
そこで、本発明は前記のような問題点を解決するために案出されたものであり、その目的は、優れた耐水性を発揮して長期間良好な軸受機能を維持できる新規な鉄鋼圧延機用転がり軸受を提供するものである。
内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に配設すると共に潤滑用のグリースを封入してなる鉄鋼圧延機用転がり軸受であって、前記グリースは、鉱油および合成油の少なくとも1種からなり40℃における動粘度が100〜400mm 2 /sである基油に、カルボン酸系防錆添加剤とカルボン酸塩系防錆添加剤とアミン系防錆剤との3種の防錆剤であって、前記カルボン酸系防錆剤はナフテン酸亜鉛であり、前記カルボン酸塩系防錆剤はコハク酸ハーフエステルであり、前記アミン系防錆剤は脂肪酸アミン塩である防錆剤を添加し、増ちょう剤としてジウレア化合物又はリチウム複合石鹸を添加してなることを特徴とする鉄鋼圧延機用転がり軸受である。
また、第2の発明は、
請求項1に記載の鉄鋼圧延機用転がり軸受において、前記グリースは、さらに有機金属化合物及び硫黄リン系の少なくとも1種からなる摩耗防止剤を含むことを特徴とする鉄鋼圧延機用転がり軸受である。
これによって、圧延工程のような大量の水を浴びるような環境下でも優れた耐水性を発揮できるため、長期に亘って良好な軸受機能を維持することができる。
また、ステンレスやセラミックなどのような高価な軸受部材を使用する必要がないため、製造コストも安価となる。
また、第2の発明によれば、前記グリースは、さらに有機金属化合物及び硫黄リン系の少なくとも1種からなる摩耗防止剤を含むことから、耐摩耗性がより向上する。
図1は、本発明に係る鉄鋼圧延機用転がり軸受100の1つである圧延機用ロールネック軸受の実施の一形態を示したものである。
図示するように、この圧延機用ロールネック軸受100は、内輪10と、外輪20との間に4列の転動体30,30,30,30が周方向に転動自在に配置された構造となっている。
また、各列の転動体30は、保持器70によってそれぞれ等間隔に保持されている。
さらに、これら環状シール部材60、60と中間シール部材61,61でシールされた内輪10と外輪20間には、潤滑用のグリースGがそれぞれ封入されている。
[基油]
本発明の係るグリースGに使用可能な基油としては、特に限定されるものでなく、通常の潤滑油の基油として使用されている油であれば全て使用することが可能である。好ましくは、低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために、40℃における動粘度が10〜600mm2/sec、より好ましくは70〜250mm2/sec、さらに好ましくは100〜400mm2/secである基油が望ましい。
前記合成油系潤滑油基としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油などが挙げられる。前記炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセントエチレンオリゴマーなどのポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物などが挙げられる。
前記エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジベート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油、さらにはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネートなどのポリオールエステル油、さらにはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などが挙げられる。
前記天然油系潤滑基油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などの油脂系油またはこれらの水酸化物が挙げられる。
これらの基油は、単独または混合物として用いることができ、上述した動粘度に調節される。
増ちょう剤はゲル構造を形成し、基油をゲル構造中に保持する能力があれば、特に制約はない。例えば、Li、Naなどからなる金属石けん、Li、Na、Ba、Caなどから選択される複合金属石けんなどの金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物などの非石けん類を適宜選択して使用できるが、グリースGの耐熱性を考慮するとNアルキル置換モノアミド酸のリチウム基と二塩基酸のリチウム塩、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物または、これらの混合物が好ましい。なお、Nアルキル置換モノアミド酸のリチウム基と二塩基酸のリチウム塩は、例えば特公平7−30350に詳細に記されている。
カルボン酸系防錆剤としては、モノカルボン酸では、ラウリン酸、ステアリン酸などの直鎖脂肪酸、ナフテン核を有する飽和カルボン酸が挙げられ、ジカルボン酸では、コハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミドなどのコハク酸誘導体、ヒドロキシ脂肪酸、メルカプト脂肪酸、ザルコシン誘導体、またはワックスやペトロラタムの酸化物などの酸化ワックスなどを挙げることができるが、なかでもコハク酸ハーフエステルが好適である。
カルボン酸塩系防錆剤としては、脂肪酸、ナフテン酸、アビエンチ酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸、アミノ酸誘導体などの金属塩などが挙げられる。また、金属元素としては、コバルト、マンガン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウム、銅などが挙げられるが、なかでもナフテン酸亜鉛が好適である。
[アミン系防錆剤]
アミン系防錆剤としては、アルコキシルフェニルアミン、脂肪酸のアミン塩、二塩基性カルボン酸の部分アミドなどを挙げることができるが、脂肪酸のアミン塩が好適である。
一方、アミン系防錆剤の添加量は、グリースGの全量の0.1〜3質量%である。添加量が0.1質量%未満では充分な効果は得られず、反対に3質量%を超えて添加しても効果の向上がない上に、軸受部材表面の吸着量が多くなりすぎ、グリースGに由来する酸化膜などの生成を阻害するおそれがでてくる。
摩耗防止剤としては、ジチオカルバミン酸亜鉛やトリフェニルホスホロチオエートジアルキルジオカルバミン酸化合物、ジアルキルジチオリン酸化合物などの有機金属化合物及び硫黄−リン系からなる1種を用いることができる。金属種にはSb、Bi、Sn、Fe、Cu、Mo、Znから選択できる。
そしてこれらの摩擦防止剤の添加量としては、グリースGの全量に対して0.5〜5.0質量%である。添加量が0.5質量%未満では充分な効果は得られず、反対に5.0質量%を超えて添加しても効果の向上がない。これらを考慮すると、添加量は1.0質量%が好ましい。
本発明で用いるグリースGには、各種性能をさらに向上させるために、所望により種々の添加剤を混合しても良い。例えば、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤などグリースGに一般に使用される添加剤を、単独または2種以上混合して用いることができる。
酸化防止剤としては、例えばアミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。
アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジンなどが挙げられる。
さらに、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデンなどの極圧剤や、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性化剤などが使用される。
そして、このような組成のグリースGを封入した本発明の鉄鋼圧延機用転がり軸受100にあっては、以下の実施例からも明らかなように、優れた防錆性能および剥離防止効果を発揮することができるため、優れた信頼性と長寿命の転がり軸受を得ることができる。
(実施例1)
以下の表1に示すように、鉱油からなる基油(動粘度200mm2/s)に増ちょう剤としてジウレア化合物を配合し、これに防錆剤として、ナフテン酸亜鉛(カルボン酸塩系防錆剤)と、コハク酸ハーフエステル(カルボン酸系防錆剤)と、脂肪酸のアミン塩(アミン系防錆剤)を4質量(mass)%の割合で添加した試験グリースを調整した。
この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例1では錆や剥離が発生することなく良好な特性を発揮した。
以下の表1に示すように、基油としてポリαオレフィン(動粘度160mm2/s)を用いると共に防錆剤の添加量を2質量(mass)%とし、さらに有機金属化合物(有機化合物塩)からなる摩耗防止剤としてジチオカルバミン酸亜鉛1質量(mass)%添加した他は、実施例1と同様な組成の試験グリースを調整した。
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。
この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例2でも錆や剥離が発生することなく良好な特性を発揮した。
以下の表1に示すように、基油としてポリオールエステル(動粘度120mm2/s)を用いると共に防錆剤の添加量を3質量(mass)%とし、さらに有機金属化合物(有機化合物塩)からなる摩耗防止剤としてジチオカルバミン酸亜鉛1質量(mass)%添加した他は、実施例1と同様な組成の試験グリースを調整した。
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。
この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例3でも錆や剥離が発生することなく良好な特性を発揮した。
以下の表1に示すように、増ちょう剤としてリチウム複合石けんを用いると共に防錆剤の添加量を1.5質量(mass)%とした他は、実施例1と同様な組成の試験グリースを調整した。
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。
この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例4でも錆や剥離が発生することなく良好な特性を発揮した。
以下の表1に示すように、動粘度400mm2/sの基油を用いると共に、防錆剤の添加量を4質量(mass)%とし、有機金属塩として1質量(mass)%のトリフェニルホスホロチオエートを用いた他は、実施例4と同様な組成の試験グリースを調整した。
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。
この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例5でも錆や剥離が発生することなく良好な特性を発揮した。
以下の表2に示すように、防錆剤としてバリウムスルフォン酸塩を2質量(mass)%添加とした他は、実施例1と同様な組成の試験グリースを調整し、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。
この結果、表2の下欄に示したように防錆結果は良好であったが、剥離が発生してしまった。
以下の表2に示すように、基油としてポリαオレフィン(動粘度80mm2/s)を用いると共に防錆剤を一切添加しない他は実施例2と同様な組成の試験グリースを調整し、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。
この結果、表2の下欄に示したように剥離が発生することはなかったが、錆が発生してしまった。
以下の表2に示すように、防錆剤としてナフテン酸亜鉛(カルボン酸塩系防錆剤)と、コハク酸ハーフエステル(カルボン酸系防錆剤)のみを2質量(mass)%添加とした他は、実施例1と同様な組成の試験グリースを調整し、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。
この結果、表2の下欄に示したように防錆結果は良好であったが、剥離が発生してしまった。
以下の表2に示すように、防錆剤としてナフテン酸亜鉛(カルボン酸塩系防錆剤)と、脂肪酸のアミン塩(アミン系防錆剤)のみを2質量(mass)%添加とした他は、実施例1と同様な組成の試験グリースを調整し、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。
この結果、表2の下欄に示したように防錆結果は良好であったが、剥離が発生してしまった。
10…内輪
10a…複列内輪
20…外輪
20a…単列内輪
30…転動体
40,50…間座
60…環状シール部材
61…中間シール部材
70…保持器
G…グリース
Claims (2)
- 内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に配設すると共に潤滑用のグリースを封入してなる鉄鋼圧延機用転がり軸受であって、
前記グリースは、鉱油および合成油の少なくとも1種からなり40℃における動粘度が100〜400mm 2 /sである基油に、カルボン酸系防錆剤とカルボン酸塩系防錆剤とアミン系防錆剤との3種の防錆剤であって前記カルボン酸系防錆剤はナフテン酸亜鉛であり、前記カルボン酸塩系防錆剤はコハク酸ハーフエステルであり、前記アミン系防錆剤は脂肪酸アミン塩である防錆剤を添加し、増ちょう剤としてジウレア化合物又はリチウム複合石鹸を添加してなることを特徴とする鉄鋼圧延機用転がり軸受。 - 請求項1に記載の鉄鋼圧延機用転がり軸受において、
前記グリースは、さらに有機金属化合物及び硫黄リン系の少なくとも1種からなる摩耗防止剤を含むことを特徴とする鉄鋼圧延機用転がり軸受。
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