特許文献1〜4のようなジャッキダウン式解体工法によれば、多層建築物を地上(1階)の解体装置で順次解体することができ、解体装置を最上階等へ移動させる手間を省くことができる。また、特許文献1の工法では多層建築物と同程度の高さの仮設トラスを構築する必要があるものの、特許文献2〜4の工法では解体作業をジャッキで支持した低層階のみに限定することができ、低層階のみを覆う養生仮設によって飛石・粉塵等の周囲への飛散を有効に防止することができる。従ってジャッキダウン式解体工法によれば、上層階から解体する従来の解体工法に比して、周囲に与える影響を小さく抑えつつ中高層建築物を短い工期で解体することが期待できる。
しかし、特許文献3及び4のように多層建築物それ自体をジャッキで支持する解体工法では、ジャッキによる支持箇所を解体する際に建築物が構造的に不安定な状態となりやすい問題点がある。このため、例えば特許文献3の工法では、建築物(ビル)の複数の解体箇所(A点又はB点)にジャッキを装着又は付け替える際に、ジャッキの装着又は付け替え箇所を1箇所ずつ解体することが好ましいとしている。また特許文献4の工法においても、構造的に安定な状態を維持するため、所定数の主要支持体にセットした油圧シリンダーを伸長する際に、主要支持体を1つずつ切断して油圧シリンダーを伸長することを繰り返している。すなわち、特許文献3及び4のジャッキダウン式解体工法ではジャッキによる複数の支持箇所を1箇所ずつ解体しなければならず、ジャッキの数が多くなると付け替え作業又は伸長作業に手間がかかってしまう。ジャッキダウン式解体工法による作業工期の短縮を図るためには、構造的に不安定な状態になることを避けつつ、ジャッキによる支持箇所の解体作業のスピードアップを図ることが有効である。
そこで本発明の目的は、構造的に安定な状態を維持しながら短い工期で多層建築物を解体できるジャッキダウン式解体工法及びシステムを提供することにある。
本発明者は、多層建築物の全ての柱、例えば図8(A)に示す柱P1〜P4の下端部にそれぞれジャッキ10を介装して建築物自体の荷重をジャッキ10で支持し、その何れかの柱Px(例えばP2)の切断時にその柱Pxの支持荷重を隣接する柱P(x−1)及びP(x+1)(例えばP1及びP3)に負担させることに着目した。多層建築物の複数の柱P1〜P4は各階Fの床梁又は床板3で相互に結合されており、同図(B)に示すように柱Pが格子状配置である場合は、特定の柱P(x、y)(例えばP32)の切断時に、その柱Pが切断前に支持していた上部荷重は主に床梁又は床板3経由で隣接する4本の隣接柱P(x−1、y)、P(x、y−1)、P(x、y+1)、P(x+1、y)(例えばP22、P31、P33、P42)に荷重増加として伝達される。
荷重を受ける柱P(例えばP22)は、許容応力や限界耐力を考慮して隣接する1本の柱P(例えばP32又はP23等)から伝達される程度の荷重増加を負担する強度は有しているが、隣接する2本以上の柱P(例えばP32及びP23等)の荷重増加を同時に負担させることは安全上避けることが望ましい。例えば同図(B)のように、建築物の柱P(x、y)毎に床梁又は床板3経由で荷重伝達される格子軸方向の4本の隣接柱群Q(P(x−1、y)、P(x、y−1)、P(x、y+1)、P(x+1、y))を想定し、その隣接柱群Qが相互に重ならない柱P(例えば同図の斜線付きの柱P32、P11、P24)をグループとすれば、そのグループ内の複数の柱Pを同時に切断しても他の何れかの柱P(そのグループ以外の柱)に複数の柱Pから同時に荷重が伝達されることはなく、そのグループ以外の柱Pで多層建築物の上部荷重を支持して構造的に不安定な状態となることを避けることができる。本発明は、この着想に基づく研究開発の結果、完成に至ったものである。なお、このようなグループ分けは、同図(B)の例に限らず、例えば同図(C)のように隣接柱群Qが相互に重ならない柱P(例えば同図の斜線付きの柱P32、P13、P44)をグループとすることも可能である。
図1の流れ図、及び図2、図3の実施例を参照するに、本発明による多層建築物の解体工法は、解体する多層建築物1における格子状の二方向軸(x軸、y軸)の各交点に配置された全柱P1〜Pmを、各交点(x、y)の柱P毎に想定した二軸方向の隣接4交点の柱群Q(図8(A)〜(C)参照)が相互に重ならない柱Pを集めた複数の切断グループR1〜Rn(図8(D)及び(E)参照)に分け、建築物1の特定下層階Fv(例えば1階F1)の全柱P1〜Pmにそれぞれジャッキ10を介装した後(ステップS004〜S005)、全柱P1〜Pmのジャッキ10を同時に縮める収縮ステップ(ステップS006)と、切断グループR1〜Rn毎にグループRi内の各柱Pのジャッキ直上部をそれぞれ同時に所定高さL1だけ吊るし切りしてジャッキを伸ばすサイクルを反復して全柱P1〜Pmのジャッキ10を伸ばす伸長ステップ(ステップS012〜S013)とを交互に繰り返すことによりジャッキ10上方の柱Pに結合した各階Fj(j>v)を徐々に降下させ(図11(A)〜(H)、同図(J)〜(L)参照)、降下した各階Fjの柱P以外の躯体(床3や壁4)をジャッキ介装階Fvで順次解体してなるものである(ステップS008、図11(I)参照)。
例えば図1のステップS004〜S005に示すように、ジャッキ10の介装時に、切断グループR1〜Rn毎にグループRiの各柱Pをそれぞれ同時に初期高さL0だけ切断してジャッキ10を介装するサイクル(図7(A)及び(B)参照)を繰り返すことにより、全柱P1〜Pmをジャッキ10上に支持することができる。
好ましくは、図5、図6(D)、及び図7に示すように、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)(例えば2階F2)の床梁又は床板3と建築物1の全柱P1〜Pmとを切り離し(図1のステップS002)、降下した各階Fj(j>v+1)をジャッキ介装階Fvに代えてその直上階F(v+1)で順次解体する。この場合において望ましくは、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)の床梁又は床板3と建築物1の全柱Pとの隙間d(図7参照)にそれぞれ、解除可能に床梁又は床板3と柱Pとを連結する拘束器34を設ける。
更に好ましくは、図5及び図6に示すように、ジャッキ介装階Fv(例えば1階F1)又はその直上階F(v+1)(例えば2階F2)を解体作業階Fdとした場合に、建築物1の柱P(例えば図3のP52、P42、P43、P53)で囲まれた区画T内にジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は基礎部Bから解体作業階Fdを貫く高さの荷重伝達構造体40を設けると共に、解体作業階Fdの直上階F(d+1)の区画Tの周囲柱Pに荷重伝達構造体40の外面に沿って取り外し可能な荷重伝達梁45を架け渡し(図1のステップS001)、解体作業階Fdの上方の各階Fj(j>d)を荷重伝達梁45と共に荷重伝達構造体40の外面に沿って徐々に降下させ(図5(B)参照)、降下した各階Fj(j>d)の解体時に荷重伝達梁45をその階Fjから取り外してその直上階F(j+1)の区画Tの周囲柱に順次付け替える(図5(C)参照)。この場合において望ましくは、荷重伝達構造体40の外面に鉛直方向の溝43を設けると共に、荷重伝達梁45にその溝43内へ間隙s(図6(A)参照)を介して嵌合する突出部46を設ける。それに加えて又は代えて、荷重伝達構造体40と荷重伝達梁45との間にダンパー50を介在させてもよい。
また、図2、図3、及び図7の実施例を参照するに、本発明による多層建築物の解体システムは、解体する多層建築物1の特定下層階Fv(例えば1階F1)における格子状の二方向軸(x軸、y軸)の各交点に配置された全柱P1〜Pmにそれぞれ介装する複数のジャッキ10(図7(B)参照)、ジャッキ介装階Fvの柱P1〜Pmを切断する複数の切断装置30(図7(A)参照)、ジャッキ介装階Fvの柱P以外の躯体(床3や壁4)を解体する解体装置9(図2及び図3参照)、及び建築物1の全柱P1〜Pmを各交点(x、y)の柱P毎に想定した二軸方向の隣接4交点の柱群Q(図8(A)〜(C)参照)が相互に重ならない柱Pを集めた複数の切断グループR1〜Rn(図8(D)及び(E)参照)に分けて記憶し且つその切断グループR1〜Rn毎にグループ内の各柱Pのジャッキ10を同時に伸ばすサイクルを反復して全柱P1〜Pmのジャッキ10を伸ばす伸長ステップ(図1のステップS012〜S013)と全柱P1〜Pmのジャッキ10を同時に縮める収縮ステップ(ステップS006)とを交互に繰り返すジャッキ制御装置20(図7(E)参照)を備え、切断装置30により全柱P1〜Pmをそれぞれ初期高さL0だけ切断してジャッキ10を介装した後、制御装置20の切断グループR1〜Rn毎の伸長ステップ時(ステップS012〜S013)に切断装置30によりグループRi内の各柱Pのジャッキ直上部をそれぞれ同時に所定高さL1だけ吊るし切りし、伸長ステップ(ステップS012〜S013)と収縮ステップ(ステップS006)との繰り返しによりジャッキ10上方の柱Pに結合した各階Fj(j>v)を徐々に降下させて解体装置9により順次解体してなるものである。
本発明による多層建築物の解体工法及びシステムは、解体する多層建築物1の全柱P1〜Pmを床梁又は床板3経由で荷重伝達される隣接柱群Qが相互に重ならない柱Pを集めた複数の切断グループR1〜Rnに分け、建築物1の特定下層階Fvの全柱P1〜Pmにそれぞれジャッキ10を介装する初期ステップののち、建築物1の全柱P1〜Pmのジャッキ10を同時に縮める収縮ステップと、切断グループR1〜Rn毎にグループRi内の各柱Pのジャッキ直上部をそれぞれ同時に所定高さだけ吊るし切りしてジャッキ10を伸ばすサイクルを反復して全柱P1〜Pmのジャッキ10を伸ばす伸長ステップとを交互に繰り返し、収縮ステップと伸長ステップとの繰り返しにより徐々に降下するジャッキ10上方の柱Pに結合した各階Fjをジャッキ介装階Fvで順次解体するので、次の顕著な効果を奏する。
(イ)多層建築物1の全柱P1〜Pmを隣接柱群Qが相互に重ならない柱Pを集めた複数の切断グループR1〜Rnに分けることにより、特定のグループR内の各柱Pのジャッキ10を柱切断時に同時に取り外した場合にも、そのグループR内の柱Pに作用する荷重を上部の床梁又は床板3を介して隣接する他のグループRの柱Pに再配分することができ、建築物1を構造的に安定な状態に保ちながら解体作業を安全に進めることができる。
(ロ)また、切断グループR1〜Rn毎にグループ内の各柱Pを同時に切断してジャッキを伸ばすことにより、柱Pを1本ずつ切断する場合に比してジャッキの伸長ステップのスピードアップを図り、ひいては建築部全体の解体作業の工期短縮を図ることができる。
(ハ)更に、建築物1のジャッキ介装階Fvを、その上方の各階Fj(j>v)を解体する解体作業階Fdとすることにより、解体装置を建築物1の階層間で移動させる手間を省き、解体作業の工期の更なる短縮を図ることができる。
(ニ)解体作業の工期の短縮により建築物1の解体コストを低く抑えることができ、周囲に与える振動・騒音・飛石・粉塵等を防ぐ養生仮設も下層のみに設ければ足りるので仮設費用も大幅に削減できる。
(ホ)建築物1のジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)の床梁又は床板3を全柱P1〜Pmと切り離し、その直上階F(v+1)をその上方の各階Fj(j>d)を解体する解体作業階Fdとすれば、解体作業階dの床梁又は床板3によってジャッキ介装階Fvの柱P1〜Pmを拘束して揺動等を抑えることができ、解体工事時の建築物1の構造的な安定性を更に高めることができる。
(ヘ)また、ジャッキ介装階Fv又はその直上階F(v+1)を解体作業階Fdとした場合に、建築物1の柱Pで囲まれた区画T内にジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は基礎部Bから解体作業階Fdを貫く高さの荷重伝達構造体40を設け、解体作業階Fdの直上階F(d+1)の区画Tの周囲柱Pに荷重伝達構造体40の外面に沿って荷重伝達梁45を架け渡し、解体作業階Fdの上方各階Fj(j>d)を荷重伝達梁45と共に荷重伝達構造体40の外面に沿って降下させる工法とすれば、地震時・風負荷時に解体作業階Fdの上方各階Fjに加わる水平力(水平荷重)を、荷重伝達梁45及び荷重伝達構造体40を介してジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は基礎部Bへ伝達して逃がすことができ、解体工事中の建築物1に十分な耐震・耐風性能を保持させることができる。
図1は本発明による多層建築物の解体工法の流れ図の一例を示し、図2及び図3はその解体工法を多層建築物の解体作業に適用した実施例の垂直断面図及び水平断面図を示す。図示例の建築物1は、地上S造20階(1階部分はSRC造)、地下RC造3階、最上部のPH(エレベータ機械室等のペントハウス)2階の高層建築物であり、図3に示すように6行4列の24本の柱P11〜64を有している。以下、図2に示すように建築物1の1階F1をジャッキ介装階Fvとし、その直上階F(v+1)である建築部1の2階F2を3階F3以上の各階Fj(j≧3)の解体作業階Fdとした図1の流れ図に沿って本発明の解体工法を説明する。ただし、本発明におけるジャッキ介装階Fvは1階F1に限るものではなく、建築物1の下部に位置する特定階であれば足りる。例えば、ジャッキ介装階Fvを2階F2、3階F3、又は地下階B1〜B3とし、その直上階F(v+1)を解体作業階Fdとしてもよい。また、ジャッキ介装階Fvと解体作業階Fdとを別階層に分けることも本発明に必須の条件ではなく、後述するようにジャッキ介装階Fvを解体作業階Fdとし、ジャッキ介装階Fvでその上方の各階Fj(j>v)の解体作業を行なうことが可能である。
図1の流れ図では、先ずステップS001において多層建築物1の内装、設備、アスベスト等を解体撤去又は除去したのち、ステップS003〜S005において建築物のジャッキ介装階Fv(図示例ではF1)の上部荷重を負担する全ての柱P1〜Pmにそれぞれジャッキ10を介装するが、その前のステップS002において、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)(図示例ではF2)を解体作業階Fdとするため、図6(D)に示すような柱刳り貫き装置31によりジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)の床梁又は床板3と建築物1の全柱P1〜Pmと切り離している。また、図2及び図3に示すように、建築物1の周囲又はその一部分に建築物1の解体作業階Fdの床梁又は床板3と同じ高さで建築物1に外接する作業架台5を構築し、その作業架台5上に可動ベースマシーン(例えばバックホー)等の解体装置9を配置し、図2及び図3の矢印に示すように、後述する解体作業時(ステップS008)に作業架台5から建築物1の解体作業階Fdへ解体装置9を乗り入れ可能としている。ただし、作業架台5は本発明に必須のものではなく、解体装置9は従来技術に属する適当な方法、例えばジャッキ介装階Fvから解体作業階Fdに至る上昇通路又は吊り上げクレーン等により解体作業階Fdへ搬入してもよい。
なお、ステップS001では建築物1の2階又は3階以下の内装、設備、アスベスト等を解体撤去又は除去すれば足り、3階又は4階以上については建築物1の解体に応じて各階毎に解体撤去又は除去することができる(後述するステップS008)。そのように各階毎に内装、設備、アスベスト等を解体撤去又は除去することで建築物1の全体の解体に要する工期の短縮を図ることができるが、ステップS001において建築物1の全ての階の内装、設備、アスベスト等を予め解体撤去又は除去してもよい。
図1の流れ図において、建築物1のジャッキ介装階Fvではなくその直上階F(v+1)を解体作業階Fdとする理由を、図4を参照して説明する。同図(A)のように、建築物1の全柱P1〜P4にそれぞれジャッキ10を介装したうえでジャッキ10上方の各階Fjを徐々に降下させてジャッキ介装階Fv(図示例ではF1)で解体作業を行なう場合は、その直上階F(v+1)(図示例ではF2)の床梁又は床板3の解体時にジャッキ介装階Fvの各柱P1〜P4が解体前より長くなるので、建築物1に加わる地震時・風負荷時等の水平力(せん断力)により各柱P1〜P4が変形しやすく(揺動しやすく)なり、各柱P1〜P4及びその介装ジャッキ10が過大な荷重によって損傷するおそれがある。また、後述するように各柱P1〜P4をジャッキ10上に滑り支承する場合は、水平力に抵抗できないジャッキ10と柱Pとの接合部に加わる水平力をできる限り小さく抑えることが望ましい。
これに対し図4(B)のように、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)の床梁又は床板3と全柱P1〜Pmと切り離し、その直上階F(v+1)を解体作業階Fdとすれば、解体作業階Fdの床梁又は床板3によってジャッキ介装階Fvの柱P1〜P4を拘束して変形(揺動)を防ぎ、ジャッキ介装階Fvの柱P1〜P4の長柱化の影響を避けることができる。また、ジャッキ上方の各階Fjに加わる地震時・風負荷時又は解体作業時等の水平力(せん断力)を、解体作業階Fdの床梁又は床板3からジャッキ介装階Fvの壁4(又は後述の壁柱32)を介してジャッキ下方(基礎部B等)へ伝達して逃がすことができ、ジャッキ介装階Fv(ジャッキ10と柱Pとの接合部)に加わる水平力を小さく抑えて解体作業時の建築物1の構造力学的な安定性を高めることができる。更に、解体作業階Fdをジャッキ介装階Fvと別階層とすることで、ジャッキ介装階Fvの作業環境の改善を図ることができる。
ステップS002において、解体作業階Fd(F2)の床梁又は床板3と建築物1の全柱P1〜Pmとは、例えばダイヤモンドブレード又はワイヤーソー(ダイヤモンド切刃をワイヤーに巻きつけたもの)等の柱刳り貫き装置31によって切り離すことができる(図6(D)の楕円E部分参照)。解体作業階Fdの床梁又は床板3は、全柱P1〜Pmと切り離した場合でもジャッキ介装階Fvの既存の壁4によって落下しないように支持することができる。ただし、図示例のように大重量の解体装置9を解体作業階Fdに乗り入れる場合は、必要に応じて、ジャッキ介装階Fv(F1)に解体作業階Fd(F2)の床梁又は床板3及び/又は解体装置9を支持する強度・耐力の壁柱32を設けてもよい。好ましくは、図6(D)の楕円F部分又は図7に示すように、建築物1の柱Pと解体作業階Fd(F2)の床梁又は床板3とを切り離した隙間dに、柱Pと床梁又は床板3とを解除可能に連結する拘束器34を設ける。
図6(D)の実施例では、解体作業階Fd(F2)の床梁又は床板3上の各柱Pの周囲に押しボルト34a付きの柱ガイド33を固定し、その押しボルト式拘束器34aにより床梁又は床板3と各柱Pとを拘束し、各柱Pの降下時(後述のジャッキ10の収縮ステップS006)には押しボルト34aを各柱Pから離して各柱Pを床梁又は床板3に対して移動可能としている。また図7(A)及び(D)に示すように、解体作業階Fdの床梁又は床板3上の各柱Pの4方向周囲にそれぞれ柱ガイド33を固定すると共に、各柱Pと柱ガイド33との間にそれぞれ楔式拘束器34bを打ち込むことで、解体作業階Fdの床梁又は床板3と各柱Pとを拘束してもよい。各柱Pの降下時(ジャッキ10の収縮ステップS006)には、楔式拘束器34bを抜き取ることで各柱Pを床梁又は床板3に対して移動可能とする(図7(C)参照)。ただし、拘束器34は図示例に限定されるものではなく、解体作業階Fd(F2)の床梁又は床板3と柱Pとの隙間dが柱Pを十分拘束できる程度の幅である場合は拘束器34を省略してもよい。
なお、建築物1の各柱P1〜Pm及びその介装ジャッキ10が十分な強度を有している場合、或いはジャッキ10と各柱P1〜Pmとの接合部が水平力に抵抗できる構造である場合等、解体作業時の建築物の構造的安定性を別途確保できる場合は、図1の流れ図のように建築物1のジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)を解体作業階Fdとする必要はなく、ジャッキ介装階Fvを解体作業階FdとしてステップS002を省略することが可能である。後述する本発明の解体工法(ステップS003〜S013)は、解体作業階Fdをジャッキ介装階Fv又はその直上階F(v+1)の何れとした場合にも適用可能である。なお、図1の流れ図(ステップS001)では、解体工事中の建築物1の耐震・耐風性能を更に高めるため、建築物1の柱Pで囲まれた区画T内に荷重伝達構造体40(図2参照)を立ち上げ、その荷重伝達構造体40によって解体工事中の建築物1に地震時・風負荷時等の水平荷重(せん断力)に抵抗する耐震・耐風性能を付与しているが、荷重伝達構造体40は本発明の解体工法に必須のものではない。荷重伝達構造体40の作用の詳細については後述する。
図1のステップS003は、図8に示すように建築物1のジャッキ介装階Fvの上部鉛直荷重を負担する全ての柱P1〜Pmを、柱切断時に床梁又は床板3を介して荷重伝達される隣接柱群Qが相互に重ならない柱Pを集めた複数の切断グループR1〜Rnに分類する処理を示す。建築物1には上部荷重を負担しない二次部材の柱も存在しているが、そのような二次的な柱は本発明において柱以外の躯体と考えることができ、切断グループRの対象外とすることができる。例えば同図(B)のように各柱P1〜Pmがそれぞれ格子面上の交差する二方向軸(x軸、y軸)の各交点に配置されている場合は、上述したように各交点(x、y)の柱Pxy毎に二軸方向の隣接4交点(x−1、y)、(x、y−1)、(x、y+1)、(x+1、y)の柱群Qxyを想定し、その隣接柱群Qxyが相互に重ならない複数の柱Pxyを集めて切断グループRとすることができる。同図において、柱P32の隣接柱群Q32にはP22、P31、P33、P42の4本の柱が含まれ、柱P23の隣接柱群Q23にはP13、P22、P24、P33の4本の柱が含まれる。ただし、各柱Pxyの隣接4交点には柱の存在しない交点も含まれ、建築物1の外周部の柱Pの隣接柱群Qは3本又は2本の柱のみで構成される。例えば柱P12の隣接柱群Q12にはP11、P22、P13の3本の柱だけが含まれ、柱P11の隣接柱群Q11にはP21、P12の2本の柱だけが含まれる。
図8(B)から分かるように、隣接柱群Q32と隣接柱群Q23とは一部の柱P(P22及びP33)が重なることから、柱P32と柱P23とを同じ切断グループRとすることはできない。これに対して、隣接柱群Q32と隣接柱群Q11との間に相互に重なる柱Pが存在せず、隣接柱群Q32と隣接柱群Q24の相互間にも重なる柱Pが存在せず、隣接柱群Q11と隣接柱群Q24の相互間にも重なる柱Pが存在しないことから、これらの柱P32、P11、P24は同じ切断グループRとすることができる。ただし、同図に示す全柱P1〜Pmを切断グループRに分類する方法は一通りではなく、同様に隣接柱群Qxyの相互に重なる柱Pが存在しない柱Pxyを検討することにより、例えば図8(C)に示すように、柱P32、P13、P44を同じ切断グループRに分類することも可能である。
ステップS003において建築物1の全柱P1〜Pmは、上述した隣接柱群Qxyの相互の重なりを各交点(x、y)の柱Pxy毎に順次検討することにより、複数の切断グループR1〜Rnに分類することができる。同じ切断グループRiの各柱Pは、同時に切断しても、そのグループR内の各柱Pに作用する荷重は上部の床梁又は床板3を介して隣接する他のグループRの柱Pに再配分されるので、解体中の建築物1を構造的に安定な状態に保つことができる。本発明による切断グループRには1本の柱Pのみからならるグループも合まれる。ただし、解体工期を短縮するためには、各切断グループRiに隣接柱群Qxyが相互に重ならない複数の柱Pを含め、切断グループRiの数をできるだけ少なくすることが有効である。
図8(D)及び図9の流れ図は、建築物1の全柱P1〜Pmを5つの切断グループR1〜R5に分類する方法の一例を示す。図9のステップS101では、図8(D)に示すように、先ず建築物1の全柱P1〜Pmが配置された格子面上の全交点(x、y)を、桂馬飛びの位置関係の交点(例えばP11、P32、P24、P53、P61)毎に二軸方向の隣接4交点(x−1、y)、(x、y−1)、(x、y+1)、(x+1、y)を割り付けることにより、5交点単位で区分けする。各5交点単位には、一軸方向の隣接3交点(例えばP52、P53、P54)と、その中心交点(P53)に隣接する他軸方向の2交点(例えばP43、P63)とが含まれる。次に、ステップS102〜S105において、区分けした各5交点単位からそれぞれ対応する位置の交点の柱(例えばP11、P32、P24、P53、P61)を集めて同じ切断グループR1とする。更に、グループ番号iを1つずつ繰り上げながらステップS102〜S105を繰り返し、各5交点単位から前回と異なる対応位置の交点の柱を集めることにより、図8(D)に示すように建築物1の全柱P1〜Pmを5つの切断グループR1〜R5に分類することができる。なお、図示例は6行4列の24本の柱P11〜64の分類を示しているが、図9の流れ図は任意の行列数の柱Pに適用可能である。
図8(D)の分類では複数の切断グループR1〜Rnに属する柱Pの数がグループ毎で相異しているが、切断グループR1〜Rn毎の柱切断効率を向上するためには、何れの切断グループR1〜Rnも同数の切断装置30(図7(A)参照)でグループ内の柱Pが切断できるように、各切断グループR1〜Rnにそれぞれ同数の柱Pを含めることが望ましい。図8(E)及び図10の流れ図は、建築物1の全柱P1〜Pmをそれぞれ4本の柱Pが含まれる切断グループR1〜R6に分類する方法の一例を示す。図10のステップS201では、図8(E)に示すように、先ず建築物1の全柱P1〜Pmが配置された格子面の全交点(x、y)からk行4列を取り出す。なお、図8(E)は6行4列の24本の柱P11〜64の分類を示しているが、図10の流れ図は任意の行数kの配置に適用可能であり、列数が8行、12行等の配置にも適用可能である。
図10のステップS202〜S205において、i行1列の柱P(例えばP11)と、その柱Pに対して桂馬飛びの位置関係にある(i−2)行2列及び(i+1)行3列の2本の柱P(例えばP52、P23)と、その2本の柱Pに対して桂馬飛びの位置関係にある(i−1)行4列の1本の柱P(例えばP64)との4本の柱を集めて同じ切断グループRiとする。或いは、i行1列の柱P(例えばP11)に対して、桂馬飛びの位置関係にある(i+2)行2列及び(i−1)行3列の2本の柱P(例えばP32、P63)と、その2本の柱Pに対して桂馬飛びの位置関係にある(i+1)行4列の1本の柱P(例えばP24)との4本の柱を集めて同じ切断グループRiとしてもよい。この場合に、桂馬飛びの位置関係にある交点(x、y)の行座標xがkより大きい(x>k)場合はその行xからkを差し引いた交点(x−k、y)の柱Pを集め、交点(x、y)の行座標xが0より小さい(x<0)場合はその行xにkを加えた交点(x+k、y)の柱Pを集めるものとする。更に、グループ番号iを1つずつ繰り上げながらステップS202〜S205を繰り返すことにより、図8(E)に示すように、建築物1の全柱P1〜Pmをそれぞれ4本の柱Pが含まれる複数の切断グループR1〜R6に分類することができる。
図1のステップS004〜S005は、建築物1のジャッキ介装階Fvの全柱P1〜Pmを、切断グループR1〜Rn毎にそれぞれ初期長さL0だけ切断してジャッキ10を介装する初期ステップを示す。ステップS004では、特定の切断グループRi以外の柱Pで建築物1の上部荷重を支持しつつ、図7(A)に示すようにその切断グループRiの各柱Pの下端部をそれぞれ同時に初期高さL0だけ切断し、同図(B)に示すように各柱Pの下端部の切断した部分にジャッキ10を介装する。ステップS005において、切断グループRiを切り替えながらステップS004をグループ数だけ繰り返すことにより、建築物1の全柱P1〜Pmを介装したジャッキ10上に支持することができる。切断グループR1〜Rn毎に柱Pを切断してジャッキ10を介装することにより、初期ステップを迅速に進めて工期の短縮化を図ることができる。ただし、本発明は後述するジャッキ10の伸長ステップS012〜S013を切断グループR1〜Rn毎に行なえば足り、初期ステップでは建築物1の全柱P1〜Pmを1本ずつ切断してジャッキ10を介装してもよい。
図7(B)に示すジャッキ10は、ジャッキ介装階Fvの床梁又は床板3又は建築物1の基礎部Bにアンカーボルト11aで固定されたアンカープレート11上に設置され、ラム(又はピストン)12と上昇距離センサ14と圧力変換器18とを有している。その圧力変換器18は、油圧供給ケーブル29b及び油圧中継装置27を介して油圧ポンプユニット26に接続されると共に、油圧制御ケーブル28cと制御中継装置25と光ファイバーケーブル28aとを介してジャッキ制御装置20に接続されている。油圧ポンプユニット26から圧力変換器18へ供給される油圧をジャッキ制御装置20で制御することにより、ラム(又はピストン)12を伸長又は収縮させる。ラム(又はピストン)12の上昇距離をセンサ14で計測し、その計測値をセンサケーブル28b経由で制御中継装置25へ入力することにより伸長又は収縮の制御に利用する。ただし、本発明で利用可能なジャッキ10は油圧ジャッキ装置に限定されず、建築物1の各柱Pを支持できる十分な揚力及び耐荷重性能を有する適当なジャッキ装置を利用することができる。
また図示例のジャッキ10は、ラム(又はピストン)12上に凹面座金15及び球面座金16を載置し、その球面座金16上に調整部材(シュー)17を介して切断した柱10の切断面を支持している。建築物1の全柱P1〜Pmの切断面を、それぞれ球面座金16を介してジャッキ10上に滑り支承させることにより、各柱Pの切断面の水平施工誤差を吸収すると共に、地震時・風負荷時等の水平力による柱Pの挙動を吸収することができる。球面座金16の中心は、例えばジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)上に固定した柱ガイド33と同じ高さとすることができる。また、球面座金16と柱Pの切断面との間に調整部材17を設けることにより、柱Pの切断面の凹凸等により生じる不均等な荷重を改善することができる。調整部材17は、例えば砂やライナー等の詰め物、又は木質板等とすることができる。
図7(E)に示すジャッキ制御装置20は、上述した建築物1の全柱P1〜Pmについてそれぞれ何れの切断グループR1〜Rnに属するかを記憶する記憶手段21と、その切断グループR1〜Rn毎にグループ内の各柱Pのジャッキ10を同時に伸ばすサイクルを反復して全柱P1〜Pmのジャッキ10を伸長する伸長ステップ手段23と、全柱P1〜Pmのジャッキ10を同時に縮める収縮ステップ手段24とを有している。また図示例のジャッキ制御装置20は、例えば上述した図9又は図10の流れ図に従って建築物1の全柱P1〜Pmを複数の切断グループR1〜Rnに分類する柱グループ化手段22を有し、例えばステップS003において柱グループ化手段22で求めた切断グループR1〜Rnを記憶手段21に記憶している。更に、図示例のジャッキ制御装置20には光ファイバーケーブル28aにより複数の制御中継装置25が直列に接続されており、その制御中継装置25の各々を図7(B)のように建築物1の各柱Pに介装したジャッキ10と接続することにより、ジャッキ制御装置20で建築物1の全柱P1〜Pmのジャッキ10の伸縮を同時に制御することができる。
図1のステップS006は、ジャッキ制御装置20の収縮ステップ手段24により、図7(C)及び図11(B)に示すように、建築物1の全柱P1〜Pmのジャッキ10を同時に縮める収縮ステップを示す。ステップS002において建築物1の2階を解体作業階Fdとした図1の流れ図では、図5(B)に示すように、ステップS006において建築物1の解体作業階Fd上方の各階Fj(j>d)を、収縮ステップ手段24により平衡に維持しながら同時に降下させることができる。降下の際の障害となり得る建築物1の解体作業階Fdの壁4等は、図5(A)に示すように、例えばステップS001又はステップS002において予め解体撤去しておくことができる。建築物1のジャッキ介装階Fvを解体作業階Fdとする場合は、ステップS006において建築物1のジャッキ介装階Fv上方の各階Fj(j>v)が同時に降下するが、その降下の障害となり得るジャッキ介装階Fvの壁4等をステップS001において予め解体撤去しておくことができる。
収縮ステップS006における1回当たりの収縮高さ(ジャッキ10のストローク)は、建築物1の階層高さL(図7(B)参照)以下の範囲内で任意に選択可能であるが、ストロークが大きくなるとジャッキ10自体も大きくする必要があるので、例えば建築物1の階層高さLの1/4〜1/6程度(例えば600〜900mm程度)とすることが好ましい。ステップS007において、建築物1の解体作業階Fd上方の各階Fjが解体に適する高さまで降下したか否かを判断し、降下していない場合は、ステップS008〜011をスキップしてステップS012へ進む。
図1のステップS012〜S013は、ジャッキ制御装置20の伸長ステップ手段23により、切断グループR1〜Rn毎にグループ内の各柱Pのジャッキ10を同時に伸ばす伸長ステップを示す。ステップS012では、特定の切断グループRi以外の柱Pのジャッキ10で建築物1の上部荷重を支持しながら、図11(A)に示すように、その切断グループRiの各柱Pのジャッキ直上部をそれぞれ同時に所定高さL1だけ吊るし切りし、各柱Pのジャッキ10を所定高さL1だけ伸ばす。例えば図11(M)に示すように、ステップS012において、先ずジャッキ10を若干(例えば50mm程度)下降させたうえで各柱Pのジャッキ直上部を吊るし切りし、その後に各柱Pのジャッキ10を伸ばすことができる。またステップS013において、図11(M)に示すように、切断グループRiを順次切り替えながらステップS012をグループ数(図示例では6グループ)だけ繰り返すことにより、建築物1の全柱P1〜Pmのジャッキ10をそれぞれ所定高さL1だけ伸長させることができる。
ステップS012を切断グループ数だけ繰り返したのちステップS006へ戻り、上述した収縮ステップS006と伸長ステップS012〜S013とを繰り返すことにより、建築物1の解体作業階Fd上方の各階Fjを解体に適する高さ(例えば1階層高さL)だけ降下させる。図11(A)〜(L)は、建築物1の階層高さが3375mmである場合に、伸長ステップS012での吊るし切りの所定高さL1(ジャッキ10のストローク)を675mm(=3375mm×1/5)とし、収縮ステップ及び伸長ステップの5回の繰り返しにより階層高さLだけ降下させる解体工法を示す。図1のステップS007において、例えば建築物1の解体作業階Fd(この場合はF2)の1ストローク(675mm)上方に直上階(この場合はF3)が降下するまで収縮ステップ及び伸長ステップが繰り返されたこと(この場合は4回の繰り返し)を判断してステップS008へ進む(図11(A)〜(H)参照)。
ステップS008は、建築物1の降下した各階Fj(この場合はF3)の柱P以外の躯体を解体作業階Fd(この場合はF2)で順次解体する解体ステップを示す(図11(I)参照)。解体ステップS008では、例えば図3に示すように建築物1の周囲の作業架台5から解体装置9を建築物1の解体作業階Fdに進入させ、建築物1の降下階Fjの柱P以外の躯体(床梁又は床板3や壁4等)を解体する。また、降下階Fjの直上階F(j+1)(この場合はF4)の内装、設備、アスベスト等が解体撤去又は除去されていない場合は、降下階Fjの解体作業と並行して、ステップS008においてその直上階F(j+1)の内装、設備、アスベスト等を解体撤去又は除去することができる。降下階Fjの解体が終了したのちステップS009へ進み、建築物1の最上階まで解体が終了したか否かを判断する。
図1のステップS009において、建築物1の最上階まで解体が終了していない場合は、ステップS010〜S011を介してステップS012へ戻り、再び上述した伸長ステップS012〜S013と収縮ステップS006とを繰り返し(図11(J)〜(L)参照)、更に上方の各階F(j+1)を降下させて解体する。図11(L)は同図(A)と同じ状態に復帰することを示しており、同図(J)〜(L)及び同図(A)〜(H)のように収縮ステップ及び伸長ステップを5回繰り返す毎に、解体作業階Fdより上方の各階Fjを階層高さLだけ降下させることができる。図11の流れ図では、収縮ステップ及び伸長ステップを5回繰り返す毎に、収縮ステップと伸長ステップとの間に解体ステップS008を設けて、同図(I)のように4階以上の降下階Fjを解体作業階Fd(F2)で階層毎に順次解体する。
なお、解体した降下階Fjの直上階F(j+1)において柱P1〜Pmの一部分が間引きされている場合は、間引きされた柱Pのジャッキ10を撤去したうえで、残された柱Pのジャッキ10のみを利用して伸長ステップS012〜S013と収縮ステップS006を繰り返することにより、その直上階F(j+1)の解体工事を進めることができる。図1のステップS010〜S011は、直上階F(j+1)の柱P1〜Pmの一部分が間引きされている場合に、その直上階F(j+1)を解体する前に、必要に応じて、その直上階F(j+1)の残された柱Pについて切断グループRを更新する処理を示す。ステップS010において、直上階F(j+1)の残された柱Pの切断グループRを変更する必要があるか否かを判断し、変更する必要があると判断した場合は、ステップS011においてジャッキ制御装置20の柱グループ化手段22により、直上階F(j+1)の残された全ての柱Pを新たな切断グループR1〜Rn´に分け直す。新たな切断グループR1〜Rn´に更新したうえでステップS012へ進み、その直上階F(j+1)を伸長ステップS012〜S013と収縮ステップS006との繰り返しにより降下させて解体する。図1の流れ図によれば、解体する建築物1の各階Fj毎に、ジャッキ制御装置20の柱グループ化手段22により切断グループRを更新することも可能である。
図1のステップS009において、建築物1の最上階まで解体が終了した場合はステップS014へ進み、建築物1の残部であるジャッキ介装階Fv(図示例ではF1)、解体作業階Fd(図示例ではF2)、及び基礎部Bを解体する。なお、建築物1のジャッキ介装階Fvを解体作業階とした場合は、上述したステップS003〜S013の繰り返しによりジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)から建築物1の最上階までを解体できるので、ステップS014においてジャッキ介装階Fv(F1)及び基礎部Bを解体すれば足りる。また、ジャッキ介装階Fvを建築物1の2階F2以上とした場合は、ステップS014において、基礎部Bと共にジャッキ介装階Fvより下層の各階Fj(j<v)を解体すればよい。本発明の解体方法は、建築物1の全柱1〜Pmを床梁又は床板3経由で荷重が配分できる複数の切断グループ1〜Rnに分け、切断グループR1〜Rn毎にそのグループ内の柱Pを同時に切断するので、建築物を構造的に安定な状態に保ちながら柱Pの切断作業(図1の伸長ステップS012〜S013)のスピードアップを図り、解体作業の工期を短縮することができる。
本発明者の試算によれば、例えば図8(E)のように建築物1の6行4列の柱P24本を6つの切断グループR1〜R6に分けた場合、図11(M)に示すように各切断グループRの柱Pの切断及びジャッキ10の伸長を10分程度で行ない、伸長ステップの6回の繰り返しと収縮ステップとを約70分で完了することができる。また、建築物1の解体作業階Fdより上方の各階Fj(j>d)を収縮ステップ及び伸長ステップの5回の繰り返しにより約350分(=70分×5回≒1日の作業時間)で解体作業界Fdまで降下させ、降下階Fjの解体作業に4日程度を要するとしても、5日程度(≒1週間)で建築物1の降下した各階Fjを解体することが可能である。すなわち、本発明の解体工法及びシステムによれば、例えば地上20階の建築物1(図2参照)を20週程度で解体することが期待できる。
こうして本発明の目的である「構造的に安定な状態を維持しながら短い工期で多層建築物を解体できるジャッキダウン式解体工法及びシステム」の提供を達成できる。
図1の流れ図のステップS001では、図2及び図3に示すように、解体の初期ステップS004〜S005に先立ち、建築物1の柱P(例えばP53、P43、P42、P52)で囲まれた区画T(以下、中央区画Tということがある)内に、ジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は基礎部Bから解体作業階Fd(図示例ではF2)を貫く高さの荷重伝達構造体40を立ち上げ、解体作業階Fdの直上階F(d+1)(図示例ではF3)の中央区画Tの周囲柱Pに荷重伝達構造体40の外面に沿って荷重伝達梁45を架け渡している。図示例では、建築物1の2つの中央区画T内にそれぞれ荷重伝達構造体40を設け、その一対の荷重伝達構造体40の外面に沿ってそれぞれ荷重伝達梁45を架け渡すことにより、建築物1の各柱Pの水平荷重が荷重伝達梁45を介して何れかの荷重伝達構造体40へ伝達されるように構成している。ただし、十分大きな水平荷重を負担できる荷重伝達構造体40であれば、単独の荷重伝達構造体40としてもよい。
建築物1の中央区画T内に荷重伝達構造体40を設ける理由を、図4(C)を参照して説明する。同図(A)のようにジャッキ介装階Fv(図示例ではF1)を解体作業階Fdとした場合は、解体作業時にジャッキ介装階Fvの各柱P1〜P4が長柱化するので、ジャッキ10に大きな水平力(せん断力)が加わるおそれがある。これに対し同図(C)のように、建築物1の中央区画T内にジャッキ介装階Fvを貫く高さの荷重伝達構造体40を設け、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)(図示例ではF2)の柱P2、P3に荷重伝達構造体40の外面に沿って荷重伝達梁45を架け渡し、ジャッキ10上方の各階Fj(j>d)を荷重伝達梁45と共に荷重伝達構造体40の外面に沿って徐々に降下させる工法とすれば、ジャッキ介装階Fvの上方各階Fjに加わる水平力を、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)から荷重伝達梁45及び荷重伝達構造体40を介してジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は建築物1の基礎部Bへ伝達することにより、ジャッキ介装階Fvを迂回して逃がすことができる。すなわち、ジャッキ介装階Fvの柱P1〜P4が長柱化しても、ジャッキ介装階Fvに加わる水平力を小さく抑えて解体作業時の建築物1の構造力学的な安定性を高めることができる。
また、図4(C)の解体工法によれば、同図(B)の解体工法に比して解体作業時の建築物1に安定性を更に高めることが期待できる。ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)を解体作業階Fdとする同図(B)の工法では、解体作業階Fdの床梁又は床板3の拘束によってジャッキ介装階Fvの柱P1〜P4の長柱化の影響を避けることができるものの、上述したステップS008の解体作業時に解体作業階Fdの柱P1〜P4が解体前より長くなるので(図11(I)及び(J)参照)、その解体作業階Fdの長柱化の影響により解体中の建築物1が不安定化するおそれが残る。これに対し同図(C)の工法では、降下した各階Fjを解体作業階Fdで解体する際に、荷重伝達梁45をその階Fjから取り外してその直上階F(j+1)の中央区画Tの周囲柱に順次付け替えることにより、解体作業階Fdの柱P1〜P4の長柱化の影響を避けることができる。すなわち、同図(C)の解体工法によれば、ジャッキ10と柱Pとの接合部に加わる水平力を確実に小さく抑え、解体作業時の建築物1に十分な耐震・耐風性能を保持させることができる。また図5に示すように、同図(B)の解体工法と同図(C)の解体工法を組み合わせ、建築物1に加わる水平力を解体作業階Fdの直上階F(d+1)から解体作業階Fd及びジャッキ介装階Fvを迂回してジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は建築物1の基礎部Bへ逃がす構造とすれば、解体作業時における建築物1の安定性・耐震性を更に高めることができる。
図5は、荷重伝達構造体40を含む解体作業階Fd(図示例では2階F2)の垂直断面図を示す。図示例の荷重伝達構造体40は、建築物1の中央区画T内にジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は基礎部Bに固定して立ち上げた、解体作業階Fdの直上階F(d+1)(図示例では3階F3)の床3を貫く高さのS造又はRC造の耐力壁41に囲まれたコア壁であり、地震時・風負荷時等に建築物1に加わる水平力を十分に負担できる強度、耐力、靭性を有している。荷重伝達構造体40を構築する際に、解体作業階Fd及びその直上階F(d+1)の中央区画T内の小梁や床7等は解体撤去することができる。このような荷重伝達構造体40は、例えば従来の高層建築物におけるコア壁構築技術を用いて構築することができる。ただし、従来のコア壁が各階で外周部の床梁又は床板3と結合されているのに対し、図示例の荷重伝達構造体40は解体作業階Fd及びその直上階F(d+1)の床梁又は床板3と離隔して構築されており、その直上階F(d+1)の中央区画Tの周囲柱Pに環状に架け渡した荷重伝達梁45を荷重伝達構造体40の外面と間隙S(図6(A)参照)を介して対向している。
図6は、図5(A)の解体作業階Fdの直上階F(d+1)のVIA−VIAから見た荷重伝達構造体40及び荷重伝達梁45の頂面図(同図(A))、及び荷重伝達構造体40及び荷重伝達梁45の側面図(同図(D))を示す。図示例の荷重伝達梁45は、図6(B)及び(C)に示すように、両端に取付板49を有する4本の鉄骨部材を、間隙Sを介して荷重伝達構造体40の外周面を環状に取り囲むように、中央区画Tの周囲柱P(図示例ではP53、P43、P42、P52)に現場溶接したブラケット48へ取付ボルト49a等により取り外し可能に固定したものである。地震時・風負荷時等に荷重伝達構造体40の周囲柱Pが水平方向に変形すると荷重伝達梁45が荷重伝達構造体40と衝突し、荷重伝達梁45を介して周囲柱Pから荷重伝達構造体40に水平力を伝達して逃がすことができる。
ただし、本発明で用いる荷重伝達構造体40は耐震壁41に囲まれたコア壁に限定されるものではなく、建築物1に加わる水平力を十分に負担できる強度、耐力、靭性を有するS造又はRC造等の構造体であれば足りる。また、荷重伝達梁45も荷重伝達構造体40の外周面を環状に取り囲むものに限定されず、解体作業時の建築物1に加わる水平荷重の方向を考慮して、その方向の水平荷重を伝達すべき荷重伝達構造体40の特定の外面に沿って配置したものであれば足りる。なお、図示例ではジャッキ介装階Fvが1階F1であることから荷重伝達構造体40を建築物1の基礎部B上に立ち上げているが、ジャッキ介装階Fvを2階F2、3階F3等とした場合は、荷重伝達構造体40を基礎部Bに代えてジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)(例えばF1又はF2等)上から立ち上げたものとしてもよい。
荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40の外周面との間隙Sは、地震時・風負荷時等に周囲柱Pから荷重伝達梁45を介して荷重伝達構造体40に水平力が直ちに伝達される大きさとすることが望ましい。荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40の外周面との間隙Sの調整が難しい場合は、図6に示すように、荷重伝達構造体40の外周面に鉛直方向の溝43を設けると共に、その荷重伝達構造体40の外周面の溝43内に間隙sを介して嵌合する突出部46を荷重伝達梁45に設け、その溝43と突出部46との間隙sを地震時・風負荷時等の水平力が直ちに伝達されるように調整してもよい。
荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40の外周面との間に間隙S(又は間隙s)を設けることにより、常時は水平力が伝達可能であるが、上述したジャッキ10の収縮ステップS006において、荷重伝達梁45を解体作業階Fdの上方の各階Fj(j>d)と共に荷重伝達構造体40の外周面に沿って徐々に降下させることができる。ジャッキ10の収縮時以外は荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40とを結合しておいてもよく、例えばジャッキ10の収縮時に解除可能な楔(図示せず)を荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40との間に打ち込んで両者を結合してもよい。或いは、荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40の外周面との間に、地震時・風負荷時等に生じる水平方向の相対的変形を抑制する(変位に応じて振動エネルギーを吸収する)ダンパー50を介在させてもよい。
荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40との間に介在させるダンパー50は、従来技術に属する軟鋼を利用した鋼材ダンパー、オイルダンパー、粘性体ダンパー等の弾性変形、塑性変形、又は弾塑性変形可能な任意のダンパーとすることができる。図12(A)は、一対の帽子(ハット)形に加工されたフランジ51a付きプレート51、51を互いに向き合わせて両フランジ51aをボルト52aで接合することにより断面多角形(図示例では六角形状)の中空筒状とした弾塑性変形可能なダンパー50の一例を示す。図示例のダンパー50は、同図(B)に示すように荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40との間に筒状中空部が鉛直向きとなるように配置され、ダンパー50の一方のプレート51の帽子頂面を荷重伝達梁45にボルト52bで固定すると共に、他方のプレート51の帽子頂面を荷重伝達構造体40にボルト52bで固定する。
荷重伝達梁45に水平力が作用して荷重伝達構造体40との間に相対変位が生じるとダンパー50にも水平力が作用し、弾性域内において断面多角形の中空筒が弾性変形し、相対変位のエネルギーを吸収して復元する。また、弾性域を超えて塑性域に至ったときは、ダンパー50が塑性変形してエネルギーを吸収することで振動を減衰させる。ダンパー50が塑性変形することで、荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40との間に生じる反力も低減できる。各柱Pの降下時(ジャッキ10の収縮ステップS006)には、例えばダンパー50のボルト52bを解除することで荷重伝達梁45及び荷重伝達構造体40の一方又は両方からダンパー50を取り外し、荷重伝達梁45を荷重伝達構造体40の外周面に沿って移動可能とする。なお、図示例のダンパー50の構成及び作用は、本出願人による特願2006−175330号の明細書に詳述されている。
図5(B)に示すように、中央区画Tの周囲柱Pに取り付けた荷重伝達梁45は、上述した収縮ステップS006と伸長ステップS012〜S013との繰り返し時に、解体作業階Fdの上方の各階Fjと共に荷重伝達構造体40の外周面に沿って降下させる。また、同図(C)に示すように、解体ステップS008において、降下した各階Fjを解体作業階Fdで解体する際に、荷重伝達梁45をその降下階Fjから取り外し、その直上階F(j+1)の中央区画Tの周囲柱Pに荷重伝達構造体40の外周面に沿って付け替える。
解体作業階Fdにおいて降下階Fjの床梁又は床板3を解体する際に、荷重伝達梁45を降下階Fjの直上階F(j+1)に付け替えることにより、解体作業の全工期にわたって解体中の建築物1が構造的に不安定な状態となることを避けることができる。すなわち、降下階Fjの床梁又は床板3の解体時に解体作業階Fdの柱Pが解体前より長柱化しても、その直上階F(j+1)に加わる水平力は解体作業階Fd及びジャッキ介装階Fvを迂回してジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は建築物1の基礎部Bへ伝達して逃がすことができるので、解体作業中の建築物1に十分な耐震・耐風性能を保持させることができる。なお、次回の収縮ステップS006の際に障害となり得る中央区画T内の直上階F(j+1)の小梁や床7等は、解体ステップS008で降下階Fjを解体する際に併せて解体撤去することができる。また、建築物1の最上階まで解体が終了したのちステップS014において、建築物1の残部及び基礎部Bと共に荷重伝達構造体40を解体撤去することができる。