図1は本発明による多層建築物のジャッキダウン式解体工法の流れ図の一例を示し、図2及び図3はその解体工法を適用して解体する多層建築物1の一例の垂直断面図及び水平断面図を示す。図示例の建築物1は、地上RC造(又はSRC造)20階、地下RC造(又はSRC造)3階、最上部のPH(エレベータ機械室等のペントハウス)2階の高層建築物であり、図3に示すように6行4列の24本の柱P11〜64を有している。以下、図2に示すように建築物1の1階F1をジャッキ介装階Fvとし、その直上階F(v+1)の2階F2を上方各階Fj(j≧3)の解体作業階Fdとした図1の流れ図に沿って本発明の解体工法を説明する。ただし、本発明におけるジャッキ介装階Fvは1階F1に限るものではなく、建築物1の下部に位置する特定階であれば足りる。例えば、ジャッキ介装階Fvを2階F2、3階F3、又は地下階B1〜B3とし、その直上階F(v+1)を解体作業階Fdとしてもよい。また、ジャッキ介装階Fvと解体作業階Fdとを別階層に分けることも本発明に必須の条件ではなく、後述するようにジャッキ介装階Fvで上方各階Fj(j≧2)の解体作業を行なうことも可能である。
図1の流れ図では、先ずステップS001において多層建築物1の内装、設備、アスベスト等を解体撤去又は除去したのち、ステップS003〜S004において建築物のジャッキ介装階Fv(図示例ではF1)の上部荷重を負担する全ての柱Pにそれぞれジャッキ10を介装するが、その前のステップS002において、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)(図示例ではF2)を解体作業階Fdとするため、図8(A)に示すような柱刳り貫き装置31によりジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)の床面3(床梁又は床板)と建築物1の各柱Pとを切り離している。なお、ステップS001ではとりあえず建築物1の解体作業階F(v+1)(図示例ではF2)以下の内装、設備、アスベスト等を解体撤去又は除去すれば足り、それより上方の各階層Fj(j≧3)については、その階層Fjの解体時(後述するステップS008)に同時に解体撤去又は除去か、或いはその下方の階層F(j−1)の解体時に解体作業階F(v+1)の直上階F(v+2)で解体撤去又は除去することができる。そのように各階毎に内装、設備、アスベスト等を解体撤去又は除去することで建築物1の解体に要する工期を短縮できるが、ステップS001において建築物1の全ての階の内装、設備、アスベスト等を予め解体撤去又は除去してもよい。
図1の流れ図において、建築物1のジャッキ介装階Fvではなくその直上階F(v+1)を解体作業階Fdとする理由を、図4を参照して説明する。同図(A)のように、建築物1の各柱P1〜P4にそれぞれジャッキ10を介装したうえでジャッキ10上方の各階Fjを徐々に降下させてジャッキ介装階Fv(図示例ではF1)で解体作業を行なう場合は、その直上階F(v+1)(図示例ではF2)の床面3の解体時にジャッキ介装階Fvの各柱P1〜P4が解体前より長くなるので、建築物1に加わる地震時・風負荷時等の水平力(せん断力)により各柱P1〜P4が変形(揺動)しやすくなり、各柱P1〜P4及びその介装ジャッキ10が過大な荷重によって損傷するおそれがある。ジャッキ10と柱Pとの接合部に加わる水平力はできる限り小さく抑えることが望ましい。
これに対し図4(B)のように、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)の床面3と各柱P1〜P4とを切り離し、その直上階F(v+1)を解体作業階Fdとすれば、解体作業階Fdの床面3によってジャッキ介装階Fvの柱P1〜P4を拘束して変形(揺動)を防ぎ、ジャッキ介装階Fvの柱P1〜P4の長柱化の影響を避けることができる。また、ジャッキ上方の各階Fjに加わる地震時・風負荷時等の水平力(せん断力)を、解体作業階Fdの床面3からジャッキ介装階Fvの壁4(又は後述の支保部材32)を介してジャッキ下方(基礎部B等)へ伝達して逃がすことができ、ジャッキ介装階Fv(ジャッキ10と柱Pとの接合部)に加わる水平力を小さく抑えて解体作業時の建築物1の構造力学的な安定性を高めることができる。更に、解体作業階Fdをジャッキ介装階Fvと別階層とすることで、ジャッキ介装階Fvの作業環境の改善を図ることができる。
ステップS002において、解体作業階Fd(F2)の床面3と建築物1の各柱Pとは、例えばダイヤモンドブレード又はワイヤーソー(ダイヤモンド切刃をワイヤーに巻きつけたもの)等の柱刳り貫き装置31によって切り離すことができる(図8(A)及び図6(D)の楕円E部分を参照)。解体作業階Fdの床面3は、各柱Pと切り離した場合でもジャッキ介装階Fvの既存の壁4によって落下しないように支持することができるが、図2のように比較的大重量の解体装置9(例えばバックホー等の可動ベースマシーン)を解体作業階Fdに乗り入れる場合は、必要に応じてジャッキ介装階Fv(F1)に解体作業階Fd(F2)の床面3及び解体装置9を支持する強度・耐力の支保部材32(壁柱等)を設けてもよい。好ましくは、図6(D)の楕円F部分又は図8に示すように、建築物1の柱Pと解体作業階Fd(F2)の床面3との切り離し隙間dに、柱Pと床面3とを解除可能に連結する拘束器34を設ける。
図6(D)の実施例では、解体作業階Fd(F2)の床面3上の各柱Pの周囲に押しボルト34a付きの柱ガイド33を固定し、その押しボルト式拘束器34aにより床面3と各柱Pとを拘束し、各柱Pのジャッキ10の収縮時(後述するステップS006)には押しボルト34aを各柱Pから離して各柱Pを床面3に対して移動可能としている。また図8(B)及び(D)に示すように、解体作業階Fdの床面3上の各柱Pの4方向周囲にそれぞれ柱ガイド33を固定すると共に、各柱Pと柱ガイド33との隙間dにそれぞれ楔式拘束器34bを打ち込むことで、解体作業階Fdの床面3と各柱Pとを拘束してもよい。各柱Pのジャッキ10の収縮時には、楔式拘束器34bを抜き取ることで各柱Pを床面3に対して移動可能とする(図8(C)参照)。ただし、拘束器34は図示例に限定されるものではなく、解体作業階Fd(F2)の床面3と柱Pとの切り離し隙間dが十分小さい場合は拘束器34を省略してもよい。
なお、図1のようにジャッキ介装階Fvと解体作業階Fdとを別階層とすることは本発明の解体工法に必須の条件ではなく、ジャッキ介装階Fvを解体作業階Fdとする場合はステップS002を省略してもよい。後述する本発明の解体工法(ステップS003〜S012)は、解体作業階Fdをジャッキ介装階Fv又はその直上階F(v+1)の何れとした場合にも適用可能である。なお、図1のステップS001では、解体工事中の建築物1の耐震・耐風性能を更に高めるため、建築物1の柱Pで囲まれた区画T内に荷重伝達構造体40(図2参照)を立ち上げ、その荷重伝達構造体40によって解体工事中の建築物1に地震時・風負荷時等の水平荷重(せん断力)に抵抗する耐震・耐風性能を付与しているが、荷重伝達構造体40も本発明の解体工法に必須のものではない。荷重伝達構造体40の作用の詳細については後述する(実施例3参照)。
図1のステップS003は、建築物1のジャッキ介装階Fvの上部鉛直荷重を負担する全ての柱Pを、柱切断時に床面3を介して荷重伝達される隣接柱群Qが相互に重ならない柱Pを集めた複数の切断グループR1〜Rnに分類する処理を示す。建築物1には上部荷重を負担しない二次部材の柱も存在しているが、そのような二次的な柱は本発明において柱以外の躯体と考えることができ、切断グループRの対象外とすることができる。例えば図12(B)のように各柱Pがそれぞれ格子面上の交差する二方向軸(x軸、y軸)の各交点に配置されている場合は、上述したように各交点(x、y)の柱Pxy毎に二軸方向の隣接4交点(x−1、y)、(x、y−1)、(x、y+1)、(x+1、y)の柱群Qxyを想定し、その隣接柱群Qxyが相互に重ならない複数の柱Pxyを集めて切断グループRとすることができる。同図において、柱P32の隣接柱群Q32にはP22、P31、P33、P42の4本の柱が含まれ、柱P23の隣接柱群Q23にはP13、P22、P24、P33の4本の柱が含まれる。ただし、各柱Pxyの隣接4交点には柱の存在しない交点も含まれ、建築物1の外周部の柱Pの隣接柱群Qは3本又は2本の柱のみで構成される。例えば柱P12の隣接柱群Q12にはP11、P22、P13の3本の柱だけが含まれ、柱P11の隣接柱群Q11にはP21、P12の2本の柱だけが含まれる。
図12(B)から分かるように、隣接柱群Q32と隣接柱群Q23とは一部の柱P(P22及びP33)が重なることから、柱P32と柱P23とを同じ切断グループRとすることはできない。これに対して、隣接柱群Q32と隣接柱群Q11との間に相互に重なる柱Pが存在せず、隣接柱群Q32と隣接柱群Q24の相互間にも重なる柱Pが存在せず、隣接柱群Q11と隣接柱群Q24の相互間にも重なる柱Pが存在しないことから、これらの柱P32、P11、P24は同じ切断グループRとすることができる。ただし、同図に示す各柱Pを切断グループRに分類する方法は一通りではなく、同様に隣接柱群Qxyの相互に重なる柱Pが存在しない柱Pxyを検討することにより、例えば図12(C)に示すように、柱P32、P13、P44を同じ切断グループRに分類することも可能である。
ステップS003において建築物1の各柱Pは、上述した隣接柱群Qxyの相互の重なりを各交点(x、y)の柱Pxy毎に順次検討することにより、複数の切断グループR1〜Rnに分類することができる。同じ切断グループRiの各柱Pは、同時に切断しても、そのグループR内の各柱Pに作用する荷重は上部の床面3を介して隣接する他のグループRの柱Pに再配分されるので、解体中の建築物1を構造的に安定な状態に保つことができる。本発明による切断グループRには1本の柱Pのみからならるグループも合まれる。ただし、解体工期を短縮するためには、各切断グループRiに隣接柱群Qxyが相互に重ならない複数の柱Pを含め、切断グループRiの数をできるだけ少なくすることが有効である。
図12(D)及び図13の流れ図は、建築物1の各柱Pを5つの切断グループR1〜R5に分類する方法の一例を示す。図13のステップS101では、図12(D)に示すように、先ず建築物1の各柱Pが配置された格子面上の交点(x、y)を、桂馬飛びの位置関係の交点(例えばP11、P32、P24、P53、P61)毎に二軸方向の隣接4交点(x−1、y)、(x、y−1)、(x、y+1)、(x+1、y)を割り付けることにより、5交点単位で区分けする。各5交点単位には、一軸方向の隣接3交点(例えばP52、P53、P54)と、その中心交点(P53)に隣接する他軸方向の2交点(例えばP43、P63)とが含まれる。次に、ステップS102〜S105において、区分けした各5交点単位からそれぞれ対応する位置の交点の柱(例えばP11、P32、P24、P53、P61)を集めて同じ切断グループR1とする。更に、グループ番号iを1つずつ繰り上げながらステップS103〜S105を繰り返し、各5交点単位から前回と異なる対応位置の交点の柱を集めることにより、図12(D)に示すように建築物1の各柱Pを5つの切断グループR1〜R5に分類することができる。なお、図示例は6行4列の24本の柱P11〜64の分類を示しているが、図13の流れ図は任意の行列数の柱Pに適用可能である。
図12(E)及び図14の流れ図は、建築物1の各柱Pをそれぞれ4本の柱Pが含まれる切断グループR1〜R6に分類する方法の一例を示す。同図(D)の分類では複数の切断グループR1〜Rnに属する柱Pの数がグループ毎で相異しているが、切断グループR1〜Rn毎の柱切断効率を向上するためには、何れの切断グループR1〜Rnも同数の切断装置30(図8(A)参照)でグループ内の柱Pが切断できるように、各切断グループR1〜Rnにそれぞれ同数の柱Pを含めることが望ましい。図14のステップS201では、図12(E)に示すように、先ず建築物1の各柱Pが配置された格子面の交点(x、y)からk行4列を取り出す。なお、図12(E)は6行4列の24本の柱P11〜64の分類を示しているが、図14の流れ図は任意の行数kの配置に適用可能であり、列数が8行、12行等の配置にも適用可能である。
図14のステップS202〜S205において、i行1列の柱P(例えばP11)と、その柱Pに対して桂馬飛びの位置関係にある(i−2)行2列及び(i+1)行3列の2本の柱P(例えばP52、P23)と、その2本の柱Pに対して桂馬飛びの位置関係にある(i−1)行4列の1本の柱P(例えばP64)との4本の柱を集めて同じ切断グループRiとする。或いは、i行1列の柱P(例えばP11)に対して、桂馬飛びの位置関係にある(i+2)行2列及び(i−1)行3列の2本の柱P(例えばP32、P63)と、その2本の柱Pに対して桂馬飛びの位置関係にある(i+1)行4列の1本の柱P(例えばP24)との4本の柱を集めて同じ切断グループRiとしてもよい。この場合に、桂馬飛びの位置関係にある交点(x、y)の行座標xがkより大きい(x>k)場合はその行xからkを差し引いた交点(x−k、y)の柱Pを集め、交点(x、y)の行座標xが0より小さい(x<0)場合はその行xにkを加えた交点(x+k、y)の柱Pを集めるものとする。更に、グループ番号iを1つずつ繰り上げながらステップS203〜S205を繰り返すことにより、図12(E)に示すように、建築物1の各柱Pをそれぞれ4本の柱Pが含まれる複数の切断グループR1〜R6に分類することができる。
図1のステップS004は、建築物1のジャッキ介装階Fvの各柱Pを、それぞれ切断グループR1〜Rn毎に作用する荷重を他の切断グループの柱Pに再配分しながら直上階F(v+1)の床面3の直下まで切断してジャッキ10を介装するステップを示す。例えば図8(A)に示すように、特定の切断グループRi以外の柱Pで建築物1の上部荷重を支持しながら、その特定の切断グループRi内の全ての柱Pを切断装置30によりジャッキ介装階Fvの床面3から直上階F(v+1)の床面3に至る初期高さL0で同時に切断し、同図(B)に示すように各柱Pの切断した下端部分にジャッキ10を設置し、各柱Pの切断した上端部分とジャッキ10との間に複数のブロック70を積層する。切断グループRiを切り替えながらステップS004をグループ数だけ繰り返すことにより、建築物1の全ての柱Pにジャッキ10を介装すると共にジャッキ上方部分をブロック70の積層体で置き換えて上部荷重を支持する。
図8(A)では、切断制御装置36に接続されたワイヤーソー等の切断装置30を用いてジャッキ介装階Fvの各柱Pを切断している。図示例の制御装置36は、建築物1の各柱Pについてそれぞれ何れの切断グループR1〜Rnに属するかを記憶する記憶手段37を有し、例えば柱P毎に配置された切断装置30と接続し、特定の切断グループRi内の柱Pに配置された切断装置30に対して切断を指示する。或いは、図12(E)に示すように各切断グループRiにそれぞれ同数の柱Pを含め、それと同数の可動式切断装置30を制御装置36に接続し、制御装置36により各切断グループRi内の柱Pの位置へ可動式切断装置30をそれぞれ移動させてグループRi内の全ての柱Pを同時に切断してもよい。また図示例の切断制御装置36は、上述した図13又は図14の流れ図に従って建築物1の各柱Pを複数の切断グループR1〜Rnに分類する柱グループ化手段38を有し、ステップS003において柱グループ化手段22で求めた切断グループR1〜Rnを記憶手段37に記憶している。このような制御手段36は例えばコンピュータにより構成することができ、柱グループ化手段38をコンピュータの内蔵プログラムとすることができる。図示例のような切断装置30によって切断グループR1〜Rn毎にジャッキ介装階Fvの各柱Pをまとめて切断することにより、ステップS004を迅速に進めて工期の短縮化を図ることができる。
ジャッキ介装ステップS004では、ジャッキ介装階Fvの各柱Pを少なくともジャッキ介装階Fvの床面部位と直上階F(v+1)の床面直下部位(例えば床梁又は床板の直下部位)との2箇所で切断して初期高さL0を切り出すが、切り出した柱Pの搬出に支障がある場合は、切断上端を直上階F(v+1)の床面からある程度離れた下方部位としてもよい。或いは、柱切断作業の時間が若干増えるが、初期高さL0を複数に分割して3箇所以上で切断してもよい。このように柱Pを複数箇所で切断するステップS004では、上述した切断グループR1〜Rn毎に複数の柱Pをまとめて切断する方法が切断時間の短縮のために有効であるが、切断時間を更に短縮するため、必要に応じて切断する柱Pに隣接させてジャッキ介装階Fvの床面と直上階F(v+1)の床面との間に適当なサポート部材(図示せず)を設け、そのサポート部材で上部荷重を支持しながら更に多数の柱Pを同時に切断する方法を採用してもよい。すなわち、本発明では後述する各柱Pの切断ステップ(ステップS012)において切断グループR1〜Rn毎に各柱Pを切断することを必要とするが、ジャッキ介装ステップS004では必要に応じてサポート部材を用いて上部荷重を支持しながら柱Pを切断してもよい。
図8(B)に示すジャッキ10は、ジャッキ介装階Fvの床面3又は建築物1の基礎部Bにアンカーボルト11aで固定されたアンカープレート11上に設置され、ラム(又はピストン)12と上昇距離センサ14と圧力変換器18とを有している。その圧力変換器18は、油圧供給ケーブル29b及び油圧中継装置27を介して油圧ポンプユニット26に接続されると共に、油圧制御ケーブル28cと制御中継装置25と光ファイバーケーブル28aとを介してジャッキ制御装置20に接続されている。油圧ポンプユニット26から圧力変換器18へ供給される油圧をジャッキ制御装置20で制御することにより、ラム(又はピストン)12を伸長又は収縮させる。ラム(又はピストン)12の上昇距離をセンサ14で計測し、その計測値をセンサケーブル28b経由で制御中継装置25へ入力することによりジャッキ10の伸縮制御に利用する。ただし、本発明で利用可能なジャッキ10は油圧ジャッキ装置に限定されず、建築物1の各柱Pを支持できる十分な揚力及び耐荷重性能を有する適当なジャッキ装置を利用することができる。
図8(E)に示すジャッキ制御装置20は、光ファイバーケーブル28aを介して複数の制御中継装置25が直列に接続されており、その制御中継装置25の各々を同図(B)のように建築物1の各柱Pに介装したジャッキ10と接続することにより、建築物1の全ての柱Pのジャッキ10の伸縮を同時に制御することができる。各ジャッキ10の伸縮ストローク長L1は、建築物1の階層高さL(同図(B)参照)以下の範囲内で任意に選択可能であるが、ストローク長があまり大きくなるとジャッキ10自体も大きくする必要があるので、例えば建築物1の階層高さLの1/4〜1/6程度(例えば600〜900mm程度)とすることが好ましい。
図8(B)では、各柱Pのジャッキ10の上方に複数の所定高さL1のブロック70を積層し、その最上段ブロック70を各柱Pの切断した上端面にボルト等の接合具71によって解除可能に接合させ、その下方に4個のブロック70をそれぞれボルト等の接合具71で解除可能に順次接合させている。このように接合具71で柱Pに接合させたプロック70の積層体は、後述するジャッキ10の伸長ステップ(ステップS005)においてジャッキ10から浮かして接合具71を解除することにより最下層からブロック70を1つずつ除去することができる。各ブロック70の所定高さL1は、例えば図示例のようにジャッキ10の伸縮ストローク長L1と同じ高さ又はその整数分の1の高さとすることが望ましいが、ジャッキ10の伸縮ストローク長L1の範囲内で適宜高さを選択することが可能であり、伸縮ストローク長L1に応じてブロック70毎に異なる高さL1としてもよい。
ステップS004においてジャッキ10の上方部分をブロック70の積層体で置き換える理由は、後述するジャッキ10の伸長ステップ(ステップS005)において柱Pの切断作業を省略するためである。建築物1の各柱Pが鉄骨構造(S造)であれば、溶断装置等の切断装置30を用いて比較的短時間で切断できるので、伸長ステップS005においてジャッキ10を伸長する度に小刻みに柱Pの切断作業を繰り返すことも可能である。しかし図示例のように建築物1の各柱Pが鉄筋コンクリート構造(RC造)である場合は、ワイヤーソー等の切断装置30によって切断する必要があり、柱Pの切断に時間(1m角程度の柱Pを切断するために装置準備も含めて3時間程度)を要する。また、建築物1の各柱Pが鉄骨芯を含む鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC造)である場合は、柱Pの切断に更に時間(5〜7時間程度)がかかる。更に、RC造、SRC造の柱Pの切断時には多量の汚水が発生するので、汚水処理等も必要となる。図8のようにジャッキ介装ステップS004(及び後述する各柱Pの切断ステップS012)においてジャッキ上方部分を複数のプロック70の積層体で置き換える方法によれば、伸長ステップS005において手間及び汚水処理の必要な柱Pの切断作業を省くことができ、S造、RC造、SRC造等の構造種別に拘わらず伸長ステップS005を迅速に進めて建築物1の解体作業全体の工期を短縮することが可能であり、将来的にはコンクリート充填鋼管工法(CFT造)の構造物1の解体にも適用することができる。
なお図示例のジャッキ10は、ラム(又はピストン)12上に凹面座金15及び球面座金16を載置し、その球面座金16上にブロック70の積層体を積み上げ、その積層体頂部に設けた調整部材(当て板)17を介して各柱Pの切断した上端面を支持している。切断した各柱Pの切断上端面をそれぞれ球面座金16を介してジャッキ10上に滑り支承させることにより、各柱Pの切断面の水平施工誤差を吸収すると共に、地震時・風負荷時等の水平力による柱Pの挙動を吸収することができる。球面座金16の中心は、例えばジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)上に固定した柱ガイド33と同じ高さとすることができる。また、調整部材17を介して各柱Pの切断面を支持することにより、切断面の凹凸等により生じる不均等な荷重を改善することができる。調整部材17は、例えば砂やライナー等の詰め物、又は木質板等とすることができる。
図1のステップS005は、ジャッキ介装階Fvの各柱Pの最下層ブロック70を除去し、ジャッキ制御装置20により各柱Pのジャッキ10を所定高さL1だけ伸ばす伸長ステップを示す。例えば図8(B)のように接合具71で相互に連結したプロック70の積層体を用いた場合は、ジャッキ制御装置20でジャッキ介装階Fvの各柱Pを1本ずつ、例えばジャッキ10を若干(例えば50mm程度)下降させて積層体をジャッキから浮かしながら最下層ブロック(ジャッキ直上ブロック)70を除去したのちジャッキ10を伸ばす(図8(C)参照)。或いは、ジャッキ制御装置20により、特定の切断グループRi以外の柱Pのジャッキ10で建築物1の上部荷重を支持しながら、その特定の切断グループRi内の各柱Pの最下層ブロック70をそれぞれジャッキ10から若干浮かして同時に除去したうえでジャッキ10を伸ばしてもよい。切断グループRiを切り替えながらステップS005をグループ数だけ繰り返すことにより、建築物1の全ての柱Pのジャッキ10をそれぞれ所定高さL1だけ伸長させる。
図8(E)に示すジャッキ制御装置20は、上述した建築物1の各柱Pについてそれぞれ何れの切断グループR1〜Rnに属するかを記憶する記憶手段21と、その切断グループR1〜Rn毎にグループ内の各柱Pのジャッキ10を同時に伸ばすサイクルを反復して全ての柱Pのジャッキ10を伸長させる伸長ステップ手段23と、各柱P1〜Pmのジャッキ10を同時に縮める収縮ステップ手段24とを有している。また、上述した図13又は図14の流れ図に従って建築物1の各柱Pを複数の切断グループR1〜Rnに分類する柱グループ化手段22を有し、ステップS003において柱グループ化手段22で求めた切断グループR1〜Rnを記憶手段21に記憶している。このようなジャッキ制御装置20は、例えばコンピュータにより構成することができ、伸長ステップ手段23、収縮ステップ手段24、柱グループ化手段22をコンピュータの内蔵プログラムとすることができる。また、ジャッキ制御装置20を上述した切断装置30の切断制御装置36と一体型のものとしてもよい。
図1のステップS006は、ジャッキ制御装置20の収縮ステップ手段24により、建築物1の各柱Pのジャッキ10を同時に縮める収縮ステップを示す。ステップS002においてジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)に解体作業階Fdを設けた図1の流れ図では、各柱Pのジャッキ10を平衡に維持しながら同時に縮めることにより、図5(B)及び図9(C)に示すようにステップS006において建築物1の解体作業階Fd上方の各階Fj(j>d)を所定高さL1だけ降下させることができる。降下の際の障害となり得る建築物1の解体作業階Fdの壁4等は、図5(A)に示すように、例えばステップS001又はステップS002において予め解体撤去しておくことができる。建築物1のジャッキ介装階Fvを解体作業階Fdとする場合は、ステップS006において建築物1のジャッキ介装階Fv上方の各階Fj(j>v)が所定高さL1だけ降下するが、その降下の障害となり得るジャッキ介装階Fvの壁4等はステップS001において予め解体撤去しておく。
図1のステップS007において、建築物1のジャッキ上方各階Fj(j>d)が解体に適する高さまで降下したか否かを判断し、降下していない場合はステップS005へ戻り、上述した伸長ステップS005と収縮ステップS006とを繰り返すことにより、図5(C)に示すようにジャッキ上方各階Fjを解体に適する高さ(例えば建築物1の階層高さL)だけ降下させる。図9(A)〜(J)は、階層高さLが3375mmである場合に、伸縮ストローク長L1=675mm(=3375mm×1/5)のジャッキ10と同じ高さL1のブロック70とを用い、伸長ステップS005及び収縮ステップS006の5回の繰り返しにより階層高さLだけ降下させる解体工法を示す。ステップS007において、ジャッキ上方階Fjが階層高さLだけ降下したと判断した場合は解体ステップS008へ進む(図9(K)参照)。
ステップS008は、建築物1の降下した各階Fj(この場合はF3)の柱P以外の躯体(床面3や壁4)を解体作業階Fd(この場合はF2)で順次解体する解体ステップを示す(図5(C)参照)。解体ステップS008では、例えば図3に示すように建築物1の周囲に設けた作業架台5からバックホー等の解体装置9を建築物1の解体作業階Fdに進入させ、建築物1の降下階Fjの柱P以外の躯体3、4を解体する。ただし、作業架台5は本発明に必須のものではなく、解体装置9は従来技術に属する適当な方法、例えばジャッキ介装階Fvから解体作業階Fdに至る上昇通路又は吊り上げクレーン等により解体作業階Fdへ搬入してもよい。また、降下階Fjの直上階F(j+1)(この場合はF4)の内装、設備、アスベスト等が解体撤去又は除去されていない場合は、降下階Fjの解体作業と並行して、ステップS008においてその直上階F(j+1)の内装、設備、アスベスト等を解体撤去又は除去することができる。降下階Fjの解体が終了したのちステップS009へ進み、建築物1の最上階まで解体が終了したか否かを判断する。
図1のステップS009において、建築物1の最上階まで解体が終了していない場合は、ステップS010〜S011を介してステップS012へ進み、図9(K)に示すように高層部2aのジャッキ介装階Fvの各柱P(図2のP11〜P64)のジャッキ上方部分を切断し、同図(L)に示すように切断したジャッキ上方部分を所定高さL1の複数のブロック70の積層体で置き換える。図9(L)は同図(A)と同じ状態に復帰することを示しており、そののち再びステップS005へ戻って上述した伸長ステップS005と収縮ステップS006とを繰り返すことにより(図9(A)〜(J)参照)、更に上方の各階F(j+1)を階層高さLだけ降下させて順次解体することができる(図9(K)参照)。図9の流れ図では、伸長ステップS005及び収縮ステップS006を5回繰り返す毎に、解体ステップS008及び柱切断ステップS012を設けて、図8(C)のように降下した4階以上の降下階Fjを解体作業階Fdで階層毎に順次解体する。
図1のステップS012の柱切断ステップでは、ステップS003で分類した切断グループR1〜Rnに基づき、ジャッキ介装階Fvの特定の切断グループRi以外の柱Pで建築物1の上部荷重を支持(再配分)しながら、その特定の切断グループRi内の複数本の柱Pのジャッキ10の上方部分を直上階F(j+1)の床面3の直下まで同時に切断して複数のブロック70を積層し、切断グループRiを切り替えながらステップS004をグループ数だけ繰り返すことによりジャッキ介装階Fvの全ての柱Pのジャッキ上方部位をブロック7の積層体で置き換える。柱切断ステップS012では、直上階F(j+1)の床面直下部位(例えば床梁又は床板の直下部位)の1箇所でジャッキ介装階Fvの各柱Pを切断すれば足り、切断グループR1〜Rn毎に複数本の柱Pをまとめて切断することにより全ての柱Pの切断作業を迅速に進めることができる。また、ジャッキ上方部分をブロック70の積層体で置き換えることにより、上述した伸長ステップS005をS造、RC造、SRC造、CFT造等の構造物1の構造種別に拘わらず迅速に進めて建築物1の解体作業全体の工期を短縮することができる。ステップS012で用いるブロック70は、上述した伸長ステップS005で除去したものを再利用することができる。
なお、図1のステップS010〜S011は、ジャッキ介装階Fvの各柱Pのジャッキ上方部分を切断する前に、必要に応じて、そのジャッキ介装階Fvの柱Pについて切断グループRを更新する処理を示す。例えば解体した降下階Fjの直上階F(j+1)において柱Pの一部分が間引きされている場合は、間引きされた柱Pのジャッキ10を撤去したうえで、ステップS010において直上階F(j+1)の残された柱Pの切断グループRを変更する必要があるか否かを判断し、変更する必要があると判断した場合は、ステップS011においてジャッキ制御装置20の柱グループ化手段22により直上階F(j+1)の残された全ての柱Pを新たな切断グループR1〜Rn´に分け直す。新たな切断グループR1〜Rn´に更新したうえでステップS012へ進み、ジャッキ介装階Fvの各柱Pのジャッキ上方部分を切断グループR1〜Rn´毎に切断すると共に,切断部分を所定高さL1の複数のブロック70の積層体で置き換える。図1の流れ図によれば、解体する建築物1の各階Fj毎に、ジャッキ制御装置20の柱グループ化手段22により切断グループRを更新することも可能である。
図1のステップS009において、建築物1の最上階まで解体が終了した場合はステップS013へ進み、建築物1の残部であるジャッキ介装階Fv(図示例ではF1)、解体作業階Fd(図示例ではF2)、及び基礎部Bを解体する。なお、建築物1のジャッキ介装階Fvを解体作業階とした場合は、上述したステップS005〜S012の繰り返しによりジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)から建築物1の最上階までを解体できるので、ステップS013においてジャッキ介装階Fv(F1)及び基礎部Bを解体すれば足りる。また、ジャッキ介装階Fvを建築物1の2階F2以上とした場合は、ステップS014において、基礎部Bと共にジャッキ介装階Fvより下層の各階Fj(j<v)を解体すればよい。本発明の解体方法は、建築物1の全柱1〜Pmを床面3経由で荷重が配分できる複数の切断グループ1〜Rnに分け、切断グループR1〜Rn毎にそのグループ内の柱Pを同時に切断するので、建築物を構造的に安定な状態に保ちながら柱Pの切断作業のスピードアップを図り、解体作業の工期を短縮することができる。
こうして本発明の目的である「構造的に安定な状態を維持しながら短い工期で多層建築物を解体できるジャッキダウン式解体工法及びシステム」の提供を達成できる。
図10は、本発明の解体工法で用いるブロック積層体の他の実施例を示す。この実施例では、先ず図1のジャッキ介装ステップS004において、同図(A)に示すように建築物1のジャッキ介装階Fvの各柱Pを床面3から直上階Fdの床面3の直下まで切断し、各柱Pの切断部下端にジャッキ10を介装すると共に、ジャッキ介装階Fvの各柱Pの下端周囲にジャッキ10を内包するように囲む所定径の中空筒状ベース72を設ける。次いで同図(B)に示すように、筒状ベース72上に同じ径で所定高さL1の中空筒状ブロック73を各柱Pの切断上端面まで複数層(図示例では5層)積み上げ、ジャッキ上方部分を複数の筒状ブロック73の積層体で置き換える。積層体の頂部は、当て板等の調整部材17を介して各柱Pの切断面に当接させる。筒状ベース72及び筒状ブロック73は、それぞれ上部荷重を支持する強度・耐力を有しており、例えばボルト等で解除可能に接合させて積み上げることができる。また筒状ベース72及び筒状ブロック73の所定高さL1は、図10のブロック70と同様にジャッキ10の伸縮ストローク長L1と同じ高さ又はその整数分の1の高さとすることができるが、ジャッキ10の伸縮ストローク長L1の範囲内で適宜高さを選択することが可能であり、伸縮ストローク長L1に応じてブロック73毎に異なる高さL1としてもよい。
図示例の筒状ブロック73は、同図(M)及び(N)に示すように複数の分割可能な筒状片73a、73bを例えばボルト等によって相互に付き合わせて締結させたものであり、各筒状片73a、73bに直径方向に軸合せした差込穴74が形成されている。図示例では一対の半割型筒状片73a、73bにより筒状ブロック73を構成しているが、筒状片の分割数は図示例に限定されず、筒状ブロック73を3以上の筒状片で構成してもよい。また、同図(M)は各筒状片73a、73bの上端及び下端の周縁を一部切欠いて差込穴74を設けているが、同図(N)に示すように各筒状片73a、73bの周壁に適宜に設けた貫通穴を差込穴74としてもよい。例えば適当な係止具75を差込穴74から中空部へ差し入れ又は貫通させて解除可能な突出部を形成することができる。筒状ベース72もブロック73と同様に差込穴を設けた半割型の筒状構造とすることができる。
図10(C)に示すように、図1のジャッキ伸長ステップS005において、各柱Pの最下層ブロック73とその上層ブロック73との間の差込穴74に係止具75を引き抜き可能に差し込んで中空部に突出させ、その係止具75に当接させながらジャッキ10を伸ばして上層ブロック73を押し上げて最下層ブロック73を複数の筒状片73a、73bに分割して除去する。例えば最下層ブロック73の上端とその上層ブロック73の下端との間に形成された差込穴74(図10(M)参照)に、例えば角棒状の係止具75を井桁上に貫通させたうえでジャッキ10を伸ばし、その係止具75により上層ブロック73を押し上げつつ最下層ブロック73を除去する。図10(C)では、ジャッキ10及び筒状ブロック73で各柱Pの上部荷重を支持しながらジャッキ10を伸長させることができるので、ジャッキ伸長時に各柱Pの支持荷重を他の柱Pに負担させる必要はなく、ジャッキ介装階Fvの全ての柱Pの最下層ブロック73とその上層ブロック73との間の差込穴74に係止具75を差し込んだうえで、全ての柱Pのジャッキ10を同時に伸長させることが可能である。
なお、筒状ブロック73に差し込む係止具75は、図示例のようにブロック73を貫通する必要はなく、ジャッキ10が係止可能な程度に中空部へ突出させれば足りる。また、図示例のように差込穴74へ差し込む係止具75に代えて、筒状ブロック73の内周面上に係止具75を設け、必要に応じて解除可能に係止具75の中空部へ突出させてもよい。また、図10の流れ図において筒状ブロック73は、同図(B)のようにジャッキ10を収縮させた状態でベース72上に積み上げる必要はなく、同図(C)のようにジャッキ10を伸長させた状態で積み上げてもよい。その場合は、同図(A)において予めジャッキ10を伸長させると共にジャッキ10上に係止具75を設置しておき、その係止具75に係止させて同図(C)のように複数層(図示例では4層)の筒状ブロック73を積み上げればよく、図10の流れ図において同図(B)を省略できる。
次いで図10(D)に示すように、図1のジャッキ収縮ステップS006において、ジャッキ介装階Fvの各柱Pのジャッキ10を同時に縮めて係止具75で押し上げられた上層ブロック73を筒状ベース72上に着座させ、着座させた上層ブロック73と筒状ベース72との間から係止具75を引き抜き、中空部への突出を解除する。図10(E)〜(L)は、上述したジャッキ伸長ステップS005及び収縮ステップS006を繰り返し、建築物1のジャッキ上方階Fj(j>d)を所定高さL1ずつ降下させる処理を示す。図10(L)において、ジャッキ上方階Fjを解体に適する高さまで降下させたのち、図1の解体ステップS008において、降下したジャッキ上方階Fjの柱P以外の躯体(床面3や壁4等)を解体する。図10(L)は同図(A)と同じ状態に復帰することを示している。次いで再び同図(A)に戻り、図1の柱切断ステップS012においてジャッキ介装階Fvの各柱Pのジャッキ上方部分を切断すると共に、同図(B)に示すように切断したジャッキ上方部分を所定高さL1の複数の筒状ブロック73の積層体で置き換え、図10(C)〜(L)のジャッキ伸長ステップS005及び収縮ステップS006を繰り返すことにより、ジャッキ上方各階Fjを階層毎に順次解体する。
図10のような分割可能な筒状ブロック73の積層体を用いてジャッキ上方部分を置き換える方法によれば、全ての柱Pのジャッキ10で建築物1の上部荷重を支持しながら、全ての柱Pのジャッキ10を同時に伸長及び収縮させることができるので、S造、RC造、SRC造、CFT造等の構造種別に拘わらず建築物1の解体作業を極めて効率的に進めて工期短縮を図ることができる。また筒状ブロック73は量産化が可能であり、解体する構造物1の階層高さLに応じて筒状ブロック73の所定高さL1を調整することも容易である。構造物の階層高さLが大きく、ジャッキ伸長ステップS005又は収縮ステップS006において筒状ブロック73の積層体が転倒する等のおそれがある場合は、必要に応じてジャッキ介装階Fvの各柱Pの周囲に放射状の斜材(図示せず)を設けて筒状ブロック73の積層体を支持することも容易に可能である。
図11は、本発明の解体工法で用いるブロック積層体の更に他の実施例を示す。この実施例では、図10の場合と同様の中空筒状ベース72及び中空筒状ブロック73を用いるが、図10のようにジャッキ10をジャッキ介装階Fvの各柱Pの下端に配置するのではなく、各柱Pに設けた中空筒状ブロック73の積層体の上層部位に係止具76を差し込み、その係止具76上にジャッキ10を持ち上げて載置する。すなわち、同図(A)に示すようにジャッキ介装ステップS004においてジャッキ介装階Fvの各柱Pを床面3から直上階Fdの床面3の直下まで切断し、各柱Pの周囲の床面3に図10(N)のような中空筒状ベース72及びブロック73を複数層(図示例では5層)積み上げたのち、同図(B)に示すように積層体の最上層ブロック73mより1層下方の下層ブロック73(m−1)の差込穴74に例えば角棒状の係止具76を井桁上に貫通させて差し込み、その係止具76上にジャッキ10を持ち上げて積層体の上層部位に内包して配置する。例えば収縮状態のジャッキ10を積層体の上層部位に載置したのち伸長させ、当て板等の調整部材17を介して各柱Pの切断上端面に当接させることにより、同図(B)のように各柱Pの上部荷重をジャッキ10によって支持することができる。
図11(C)は、図1のジャッキ収縮ステップS006において、ジャッキ介装階Fvの各柱Pのジャッキ10を同時に縮め、建築物1のジャッキ上方各階Fj(j>d)を所定高さL1だけ降下させて各柱Pの切断上端面を最上層ブロック73上に着座させることにより、各柱Pの上部荷重を積層体に支持させることを示す。次いで同図(D)に示すように、例えば最上層ブロック73の差込穴74に差し込んだ吊下げ具77によって積層体内のジャッキ10を一時的に吊下げつつ、下層ブロック73(m−1)から係止具76を引き抜いて最上層より2層下方の下層ブロック73(m−2)の差込穴74へ移設し、吊下げ具77で吊下げたジャッキ10を徐々に積層体内の下層へ降下させて係止具76上に載置し直す。そののち図1のジャッキ伸長ステップS005において、同図(E)に示すように、ジャッキ10を最上層ブロック73より上方へ伸ばして各柱Pの切断上端面に当接させ、各柱Pの上部荷重をジャッキ10によって支持しながら最上層ブロック73を複数の筒状片73a、73bに分割して除去する。
図11(F)〜(H)、(I)〜(K)及び(L)〜(N)は、上述したジャッキ収縮ステップS006からジャッキ伸長ステップS005までのサイクルを繰り返し、係止具76を下層ブロック73(m−3)又はベース72へ順次移設して積層体内のジャッキ10を降下させながら、建築物1のジャッキ上方階Fj(j>d)を所定高さL1ずつ降下させる処理を示す。同図(O)において、ジャッキ上方階Fjを解体に適する高さまで降下させたのち、図1の解体ステップS008において、同図(P)に示すように降下したジャッキ上方階Fjの柱P以外の躯体を解体する。
図11(P)は同図(A)と同じ状態に復帰することを示しており、再び図1の柱切断ステップS012においてジャッキ介装階Fvの各柱Pを直上階Fdの床面3の直下まで切断すると共に、中空筒状ベース72上に中空筒状ブロック73を複数層(図示例では4層)積み上げる。そして同図(B)のように、最上層ブロック73mより1層下方の下層ブロック73(m−1)の差込穴74に貫通させた係止具76上にジャッキ10を持ち上げて載置する。そののち同図(C)〜(N)を繰り返すことにより、ジャッキ上方各階F(j+1)を階層毎に順次解体する。図11の実施例においても、図10の場合と同様に全ての柱Pのジャッキ10で建築物1の上部荷重を支持しながら、全ての柱Pのジャッキ10を同時に収縮及び伸長させることができるので、S造、RC造、SRC造、CFT造等の構造種別に拘わらず建築物1の解体作業を極めて効率的に進めて工期短縮を図ることが可能である。
なお図11の実施例では、例えば図10(N)のように各筒状片73a、73bの周壁に差込穴74を穿った中空筒状ブロック73及びベース72を用いているが、図10(M)のように各筒状片73a、73bの上端及び下端の周縁を一部切欠いて差込穴74を設けた中空筒状ブロック73及びベース72を用いることをも可能である。例えばジャッキ自体の高さが伸縮ストローク長L1の2倍である場合に、図11(B)において最上層より1層下方のブロック73(m−1)と2層下方のブロック73(m−2)との間に係止具76を貫通させ、その係止具76上にジャッキ10を載置する。同図(C)においてジャッキ10を収縮させて各柱Pの上部荷重を最上層ブロック73mに支持させ、同図(D)において係止具76を2層下方のブロック73(m−2)と3層下方のブロック73(m−3)との間へ移設してジャッキ10を降下させたのち、同図(E)においてジャッキ10を伸長させて各柱Pの切断上端を支持しながら最上層ブロック73mを除去する。このように、最上層から2層下方のブロック73(m−2)と3層下方のブロック73(m−3)との間へ係止具76を順次移設して積層体内のジャッキ10を降下させながら、上述したようにジャッキ上方階Fj(j>d)を所定高さL1ずつ降下させる。
図11の実施例においても、係止具75は必ずしも筒状ブロック73に貫通させる必要はなく、ジャッキ10が載置可能な程度に中空部へ突出させれば足りる。また、図11の実施例で用いる係止具75は、図示例のように差込穴74へ差し込むものに限定されず、図筒状ブロック73の中空部に移設可能に突出するものであれば足りる。例えば、筒状ブロック73の内周面上に形成したネジ溝に底板状の係止具75を螺合させ、必要に応じて係止具75をネジ溝に沿ってブロック73の内部で昇降させることにより移設可能としてもよい。
図1の流れ図のステップS001では、図2及び図3に示すように、ジャッキ介装ステップS004に先立ち、建築物1の柱P(例えばP53、P43、P42、P52)で囲まれた区画T(以下、中央区画Tということがある)内に、ジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は基礎部Bから解体作業階Fd(図示例ではF2)を貫く高さの荷重伝達構造体40を立ち上げ、解体作業階Fdの直上階F(d+1)(図示例ではF3)の中央区画Tの周囲柱Pに荷重伝達構造体40の外面に沿って荷重伝達梁45を架け渡している。図示例では、建築物1の2つの中央区画T内にそれぞれ荷重伝達構造体40を設け、その一対の荷重伝達構造体40の外面に沿ってそれぞれ荷重伝達梁45を架け渡すことにより、建築物1の各柱Pの水平荷重が荷重伝達梁45を介して何れかの荷重伝達構造体40へ伝達されるように構成している。ただし、十分大きな水平荷重を負担できる荷重伝達構造体40であれば、単独の荷重伝達構造体40としてもよい。
建築物1の中央区画T内に荷重伝達構造体40を設ける理由を、図4(C)を参照して説明する。同図(A)のようにジャッキ介装階Fv(図示例ではF1)を解体作業階Fdとした場合は、解体作業時にジャッキ介装階Fvの各柱P1〜P4が長柱化するので、ジャッキ10に大きな水平力(せん断力)が加わるおそれがある。これに対し同図(C)のように、建築物1の中央区画T内にジャッキ介装階Fvを貫く高さの荷重伝達構造体40を設け、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)(図示例ではF2)の柱P2、P3に荷重伝達構造体40の外面に沿って荷重伝達梁45を架け渡し、ジャッキ10上方の各階Fj(j>d)を荷重伝達梁45と共に荷重伝達構造体40の外面に沿って徐々に降下させる工法とすれば、ジャッキ介装階Fvの上方各階Fjに加わる水平力を、ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)から荷重伝達梁45及び荷重伝達構造体40を介してジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は建築物1の基礎部Bへ伝達することにより、ジャッキ介装階Fvを迂回して逃がすことができる。すなわち、ジャッキ介装階Fvの柱P1〜P4が長柱化しても、ジャッキ介装階Fvに加わる水平力を小さく抑えて解体作業時の建築物1の構造力学的な安定性を高めることができる。
また、図4(C)の解体工法によれば、同図(B)の解体工法に比して解体作業時の建築物1に安定性を更に高めることが期待できる。ジャッキ介装階Fvの直上階F(v+1)を解体作業階Fdとする同図(B)の工法では、解体作業階Fdの床面3の拘束によってジャッキ介装階Fvの柱P1〜P4の長柱化の影響を避けることができるものの、上述したステップS008の解体作業時に解体作業階Fdの柱P1〜P4が解体前より長くなるので(図9(K)及び図10(L)参照)、その解体作業階Fdの長柱化の影響により解体中の建築物1が不安定化するおそれが残る。これに対し図4(C)の工法では、降下した各階Fjを解体作業階Fdで解体する際に、荷重伝達梁45をその階Fjから取り外してその直上階F(j+1)の中央区画Tの周囲柱に順次付け替えることにより、解体作業階Fdの柱P1〜P4の長柱化の影響を避けることができる。すなわち、同図(C)の解体工法によれば、ジャッキ10と柱Pとの接合部に加わる水平力を確実に小さく抑え、解体作業時の建築物1に十分な耐震・耐風性能を保持させることができる。また図5に示すように、同図(B)の解体工法と同図(C)の解体工法を組み合わせ、建築物1に加わる水平力を解体作業階Fdの直上階F(d+1)から解体作業階Fd及びジャッキ介装階Fvを迂回してジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は建築物1の基礎部Bへ逃がす構造とすれば、解体作業時における建築物1の安定性・耐震性を更に高めることができる。
図5は、荷重伝達構造体40を含む解体作業階Fd(図示例では2階F2)の垂直断面図を示す。図示例の荷重伝達構造体40は、建築物1の中央区画T内にジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は基礎部Bに固定して立ち上げた、解体作業階Fdの直上階F(d+1)(図示例では3階F3)の床3を貫く高さのS造又はRC造の耐力壁41に囲まれたコア壁であり、地震時・風負荷時等に建築物1に加わる水平力を十分に負担できる強度、耐力、靭性を有している。荷重伝達構造体40を構築する際に、解体作業階Fd及びその直上階F(d+1)の中央区画T内の小梁や床7等は解体撤去することができる。このような荷重伝達構造体40は、例えば従来の高層建築物におけるコア壁構築技術を用いて構築することができる。ただし、従来のコア壁が各階で外周部の床面3と結合されているのに対し、図示例の荷重伝達構造体40は解体作業階Fd及びその直上階F(d+1)の床面3と離隔して構築されており、その直上階F(d+1)の中央区画Tの周囲柱Pに環状に架け渡した荷重伝達梁45を荷重伝達構造体40の外面と間隙S(図5(A)参照)を介して対向させている。
図6は、図5(A)の解体作業階Fdの直上階F(d+1)のVI−VIから見た荷重伝達構造体40及び荷重伝達梁45の頂面図(同図(A))、及び荷重伝達構造体40及び荷重伝達梁45の側面図(同図(D))を示す。図示例の荷重伝達梁45は、図6(B)及び(C)に示すように、両端に取付板49を有する4本の鉄骨部材を、間隙Sを介して荷重伝達構造体40の外周面を環状に取り囲むように、中央区画Tの周囲柱P(図示例ではP53、P43、P42、P52)に現場溶接したブラケット48へ取付ボルト49a等により取り外し可能に固定したものである。地震時・風負荷時等に荷重伝達構造体40の周囲柱Pが水平方向に変形すると荷重伝達梁45が荷重伝達構造体40と衝突し、荷重伝達梁45を介して周囲柱Pから荷重伝達構造体40に水平力を伝達して逃がすことができる。
ただし、本発明で用いる荷重伝達構造体40は耐震壁41に囲まれたコア壁に限定されるものではなく、建築物1に加わる水平力を十分に負担できる強度、耐力、靭性を有するS造又はRC造等の構造体であれば足りる。また、荷重伝達梁45も荷重伝達構造体40の外周面を環状に取り囲むものに限定されず、解体作業時の建築物1に加わる水平荷重の方向を考慮して、その方向の水平荷重を伝達すべき荷重伝達構造体40の特定の外面に沿って配置したものであれば足りる。なお、図示例ではジャッキ介装階Fvが1階F1であることから荷重伝達構造体40を建築物1の基礎部B上に立ち上げているが、ジャッキ介装階Fvを2階F2、3階F3等とした場合は、荷重伝達構造体40を基礎部Bに代えてジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)(例えばF1又はF2等)上から立ち上げたものとしてもよい。
荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40の外周面との間隙Sは、地震時・風負荷時等に周囲柱Pから荷重伝達梁45を介して荷重伝達構造体40に水平力が直ちに伝達される大きさとすることが望ましい。荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40の外周面との間隙Sの調整が難しい場合は、図6に示すように、荷重伝達構造体40の外周面に鉛直方向の溝43を設けると共に、その荷重伝達構造体40の外周面の溝43内に間隙Sを介して嵌合する突出部46を荷重伝達梁45に設け、その溝43と突出部46との間隙Sを地震時・風負荷時等の水平力が直ちに伝達されるように調整してもよい。
荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40の外周面との間に対向間隙Sを設けることにより、常時は水平力が伝達可能であるが、上述したジャッキ10の収縮ステップS006において、荷重伝達梁45を解体作業階Fdの上方の各階Fj(j>d)と共に荷重伝達構造体40の外周面に沿って徐々に降下させることができる。ジャッキ10の収縮時以外は荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40とを結合しておいてもよく、例えばジャッキ10の収縮時に解除可能な楔(図示せず)を荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40との間に打ち込んで両者を結合してもよい。好ましくは、図示例のように荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40との間隙Sに環状方向に隔てて複数の弾性変形部材50を配置し、弾性変形部材50によって間隙Sを維持する。更に好ましくは、地震時・風負荷時等におけるジャッキ上層階Fjの大きな揺動に対応するため、弾性変形部材50と共に、対向間隙S内の複数箇所にジャッキ上層階Fjの揺動に応じて間隙Sを塞ぐ間隙閉塞機構60を配置する。
図6の実施例では、荷重伝達構造体40の外周面に複数の鉛直方向の溝43を設けると共に、その溝43内に間隙Sを介して嵌入する複数の突出部46を荷重伝達梁45に設け、その突出部46と溝43の両側面との対向間隙Sにそれぞれ弾性変形部材50及び間隙閉塞機構60を配置している。荷重伝達梁45の突出部46を荷重伝達構造体40の鉛直溝43に嵌入させ、その突出部46と溝43の両側面との間隙Sを弾性変形部材50で維持することにより、荷重伝達梁45を荷重伝達構造体40に自動的に調芯させ、ジャッキ上層階Fjを荷重伝達梁45と共に荷重伝達構造体40の外周面に沿ってスライドさせて昇降させる際の横ずれを防止し、ジャッキ上層階Fjを鉛直溝43に沿って精度よく昇降させることができる。
図7(A)は、図6(A)の楕円VIIAにおける弾性変形部材50及び間隙閉塞機構60の詳細を示す拡大頂面図であり、同図(B)及び(C)はその側面図及び正面図を示す。また同図(D)は、同図(A)の線D−Dにおける荷重伝達梁45の突出部46の断面図を示し、荷重伝達梁45の突出部46が中空であることを表している。同図(A)及び(D)に示すように、図示例の弾性変形部材50は、突出部46の中空部内の中敷板55上に荷重伝達梁45と平行に配置され、一端が荷重伝達梁45に保持されると共に他端に例えばナイロン製の摺動材52が結合されている。他端に結合された摺動材52を荷重伝達梁45の突出部46の側面から間隙Sへ突出させて荷重伝達構造体40の溝43の側面(外面)へ当接させることにより、荷重伝達梁45を荷重伝達構造体40に対して接触させながら間隙Sを維持しつつ滑り移動可能とする。また、荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40との間隙Sに設置誤差等が生じた場合は、突出部46の頂面に設けた開口54から弾性変形部材50の一端側に隙間調整プレート53を挿入することが可能であり、隙間調整プレート53の厚さ(挿入枚数)により他端に結合された摺動材52の突出量を調整して溝43の側面(外面)に当接させることができる。
荷重伝達梁45の突出部46にそれぞれ一対の弾性変形部材50を配置して溝43の両側面と接触させることにより、荷重伝達構造体40の溝43内における荷重伝達梁45の横ずれを防止し、荷重伝達梁45を鉛直方向に精度よく昇降させることができる。また、図6(A)に示すように荷重伝達構造体40の周囲四方の溝43にそれぞれ弾性変形部材50を配置することにより、荷重伝達梁45及びそれに固定されたジャッキ上層階Fjの水平位置を荷重伝達構造体40に自動的に調芯させ、荷重伝達梁45の一箇所への荷重集中を避けて捩れや損壊を避けることができる。各弾性変形部材50は、例えばジャッキ上層階Fjの揺動に抗して間隙Sを維持するに十分な降伏強さを有する輪バネ等とすることができ、複数箇所の弾性変形部材50の協同(合算)によってジャッキ上層階Fjの水平荷重に抗して間隙Sが維持できるように弾性定数(バネ定数)を選定する。ジャッキ上層階Fjの特定方向の水平荷重を4個の弾性変形部材50で支持する図示例では、4個の弾性変形部材50の協同によりジャッキ上層階Fjの水平位置を基の位置(調芯位置)に戻す復元力が得られるように、ジャッキ上層階Fjの水平荷重の大きさ(例えばその最大値)に基づき各弾性変形部材50の弾性定数を選定している。
また図7に示す間隙閉塞機構60は、荷重伝達構造体40の溝43と荷重伝達梁45の突出部46との対向間隙Sを塞ぐ楔材61と、その楔材61を荷重伝達梁45に支持して間隙Sの上方に落下可能に保持する保持装置62と、ジャッキ上層階Fjの揺動を検知する感震器71(同図(E)参照)の検知信号に応じて保持装置62による楔材61の保持を解除する解除装置65とを有している。図示例の保持装置62は、同図(C)に示すように、荷重伝達梁45の突出部46から鉛直に立ち上げた鉛直部材62aと、その鉛直部材62aの頂端に荷重伝達梁45と平行に配置した中空水平部材62bとを有し、水平部材62bの中空部両端のピン66に係止した一対の吊り下げ索(チェーン等)63にそれぞれ楔材61を吊り下げて間隙Sの上方に対向させて保持している。
図7(E)は、解除装置65による楔材61の保持解除システムの一例を示す。通常時は、同図に実線で示すように解除装置65のピン66及び保持部材62のリンク機構67(水平部材62bの中空部内に配置されたリンク機構67)を介して吊り下げ索63を係止することにより、間隙Sと離れた位置に楔材61が保持されており、荷重伝達梁45を荷重伝達構造体40に対して昇降可能とする(同図(C)参照)。解除装置65が感震器71の検知信号(例えば地震検出信号)を入力すると、例えばソレノイド等が駆動されて係止ピン66が移動することにより、リンク機構67から係止ピン66が外れてリンク機構67の動作によって吊り下げ索63が解放され、楔材61が自重で落下して間隙Sを塞ぎ、荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40とを剛結合する(図7(F)参照)。
図7(E)の保持解除システムでは、非常停止装置70を介して感震器71を複数の間隙閉塞機構60の保持装置62及び解除装置65と接続し、感震器71の検知信号に応じて複数(例えば図6(A)の12個)の間隙閉塞機構60の解除装置65を同時に駆動することができ、環状の荷重伝達梁45を全て荷重伝達構造体40に強固に固定して水平力を伝達させることができる。また図示例のように、非常停止装置70に感震器71と共に早期地震警報受信機72又は手動スイッチ73を接続し、早期地震警報受信機72の受信信号(早期地震警報信号)又は手動スイッチ73の押下信号(スイッチ信号)を解除装置65に入力し、早期地震警報信号又は手動スイッチ信号に応じて保持装置62による楔材61の保持を解除して荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40とを固定することもできる。図示例の非常停止装置70には感震器71と早期地震警報受信機72と手動スイッチ73とが並列に接続されているが、これらは全て接続する必要はなく、何れか1つ又は2つを選択して接続することができる。例えば、感震器71に代えて早期地震警報受信機72(又は手動スイッチ73)のみを非常停止装置70に接続し、感震器71の検出信号に代えて早期地震警報信号により荷重伝達梁45と荷重伝達構造体40とを固定する構成としてもよい。
図示例では、楔材61を断面テーパー状とし、その楔材61に対向する荷重伝達梁45の突出部46に嵌合板64を取り付けることにより、荷重伝達梁45の突出部46と荷重伝達構造体40の溝43との間隙Sを楔材61の嵌合可能なテーパー形状としている。図7(F)において間隙Sに一旦嵌合した楔材61が地震の水平力等により抜け出さないように、楔材61と嵌合板64との間の摩擦係数(又は摩擦角)を楔材61の断面テーパー角より大きくすることで、間隙Sに嵌合した楔材61にセルフロック機能を生じさせることが望ましい。また、一旦間隙Sに嵌合した楔材61は、例えば係止ピン66を復帰させて吊り下げ索63を手動で巻き上げることにより図7(C)の吊り下げ位置に戻すことができるが、例えば保持装置66に自動巻き上げ機構を設けて吊り下げ位置に復帰させてもよい。
図5(B)に示すように、中央区画Tの周囲柱Pに取り付けた荷重伝達梁45は、上述したジャッキ伸長ステップS005及び収縮ステップS006の繰り返し時に、解体作業階Fdの上方の各階Fjと共に荷重伝達構造体40の外周面に沿って降下させる。また、同図(C)に示すように、解体ステップS008において、降下した各階Fjを解体作業階Fdで解体する際に、荷重伝達梁45をその降下階Fjから取り外し、その直上階F(j+1)の中央区画Tの周囲柱Pに荷重伝達構造体40の外周面に沿って付け替える。
解体作業階Fdにおいて降下階Fjの床面3を解体する際に、荷重伝達梁45を降下階Fjの直上階F(j+1)に付け替えることにより、解体作業の全工期にわたって解体中の建築物1が構造的に不安定な状態となることを避けることができる。すなわち、降下階Fjの床面3の解体時に解体作業階Fdの柱Pが解体前より長柱化しても、その直上階F(j+1)に加わる水平力は解体作業階Fd及びジャッキ介装階Fvを迂回してジャッキ介装階Fvの下層階F(v−1)又は建築物1の基礎部Bへ伝達して逃がすことができるので、解体作業中の建築物1に十分な耐震・耐風性能を保持させることができる。なお、次回の収縮ステップS006の際に障害となり得る中央区画T内の直上階F(j+1)の小梁や床7等は、解体ステップS008で降下階Fjを解体する際に併せて解体撤去することができる。また、建築物1の最上階まで解体が終了したのちステップS013において、建築物1の残部及び基礎部Bと共に荷重伝達構造体40を解体撤去することができる。