JP6917720B2 - 複合吊り構造物の構築方法 - Google Patents

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Description

本発明は、下部建物の上部に吊り構造部が構築された複合吊り構造物構築方法に関する。
従来より、柱間の間隔を長スパンとした大空間を備える構造物が、広く施工されている。このような構造物の施工に際し、吊り構造が採用される場合がある。
吊り構造では、一対の巨大な柱部材、または強固な柱部材間に架設された巨大な梁より吊り部材が吊り下げられ、その吊り部材に接合された主な構造部分(床スラブ、柱、梁)によって吊り下げ構造体が形成される。よって、一対の巨大な柱部材を支点として吊り部材が架け渡され、吊り下げ構造体が吊り下げ方式で支持された吊り構造では、全ての柱や床スラブを下方側の建物躯体に支持させる必要がなく、吊り部材で一部の柱や床スラブが支持されるために、少ない柱数で大空間を実現することが可能である。
上記のような吊り構造に関しては、様々な構造や、施工方法が提案されている。
特許文献1には、図10に示されるような、サスペンションを主構造とする重層式吊り構造100が開示されている。重層式吊り構造100は、以下のような手順で構築される。まず、構築しようとする建築物101の両端位置に一対のコア柱102を立設する。コア柱102の上端部間に組立て大梁103を架設すると共に、コア柱102の上部間にサスペンション材104を架設する。サスペンション材104の両端部をそれぞれのコア柱102に取付け、全体として下方に湾曲した形状とする。サスペンション材104に柱材105を吊り下げる。柱材105の下端を地盤106から所定高さ位置で終端とし、地上部分に所定高さの無柱大空間107を形成する。
特許文献2には、図11に示されるような、重層式吊り構造の構築方法が開示されている。本構築方法においては、まず、人工地盤110の上方でサスペンション材架構部111をコア柱112間に架設する。組立完了したサスペンション材架構部111を上昇し、その下側に全階高を複数の節に分解した1節分(2階分)の高さ以上のスペース113を設ける。スペース113で第1骨組114を仮受構台115の上方に組立てる。第1骨組114を組立て完了した後、サスペンション材架構部111を下降して第1骨組114と結合する。更に、上記の工程を繰り返しつつ、第2,第3骨組116、117を上層階から下層階に向かって組立てる。
特許文献3には、図12に示されるような、建物の施工方法が開示されている。本施工方法においては、頂部構造体120を地組し、コアシャフト121を順次立ち上げ、頂部構造体120をコアシャフト121に仮支持せしめ、かつそれより反力をとって順次迫り上げていき、頂部構造体120をコアシャフト121の頂部に設置した後、その下方において建物本体部122を順次地組して吊り上げて設置する。頂部構造体120をコアシャフト121に対して球座等の揺動支持装置123を介して揺動可能に支持した形態の建物に適用する場合、頂部構造体120をコアシャフト121の頂部に仮支持した状態で建物本体部122を吊り上げ、建物本体部122の全階層を吊り支持した後に、頂部構造体120をコアシャフト121の頂部に設けた揺動支持装置123に対して全方向に揺動可能に支持せしめる。
ところで、建物の中間階に、大規模な音楽ホールや球技居室等を確保する場合には、出来るだけ下方側の建物躯体構造に支配されることなく、少ない柱本数で支持された大規模空間を設ける必要がある。
例えば、建物の中間階に、柱と梁を剛接合するラーメン構造により大規模空間を設ける場合は、柱間を長スパン化するために柱部材や梁部材が太径となることが多く、使い勝手の良い大空間を確保することが困難であった。一方、吊り構造により地上1階から建物の中間階まで大規模空間を設ける場合は、巨大な柱部材より吊り部材を吊り下げ、その吊り部材と接合された床スラブや柱、梁により大規模空間を確保することができる。しかしながら、地上1階から建物中間階までが吊り構造建物の場合、吊り部材で吊り下げ支持する建物階数が多く、高重量となることで、吊り部材と床スラブ等との接合構造、及び吊り部材と柱部材の定着構造が複雑化し、太径となるために、工期が長期化し、建設費用が高額となる傾向であった。
特開平8−41991号公報 特開平7−331882号公報 特開2001−32524号公報
本発明が解決しようとする課題は、下部建物の上面に吊り構造部による大空間を有し、なおかつ、建物上層階に、柱や壁が小型化され、長スパン化された柱梁架構を備えた複合吊り構造物及びその構築方法を提供することである。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、下部構造部と上部吊り構造部が連結された複合吊り構造物であって、前記下部構造部の上部に、前記上部吊り構造部が構築されていることを特徴とする複合吊り構造物を提供する。
上記のような構成によれば、複合吊り構造物は、下部構造部の上部に、吊り構造による上部吊り構造部が設けられることで、建物下層階の躯体構造に影響を受けることなく、建物上層階に、大空間居室が実現できる。また、建物上層階を、上部吊り構造部とすることで、建物上層階の柱や梁が建物下層階の躯体構造上に連結されるのではなく、上部吊り構造部を構成する吊り部材によって吊り下げ支持されるために、上部吊り構造部を構成する柱や梁、壁に作用する地震荷重が小さくなることで、其々の部材を小型化でき、柱梁架構の長スパン化が可能となる。
また、上部吊り構造部に設けられた吊り部材で吊り下げ支持される建物階数は、上部吊り構造部の最下層階から最上階までであり、地上1階から上部吊り構造部の最上階まで吊り部材で吊り上げ支持する場合に比べて、吊り部材で吊り下げ支持する建物重量は小さいために、吊り部材を定着される柱部材を小径化できる。
上記のように、下部建物(下部構造部)の上部に上部吊り構造部を設ける複合吊り構造物では、吊り部材で吊り下げ支持する階数が建物中間階以上に限定されるために、柱や壁が小型化され、かつ長スパン化された柱梁架構を備えた複合吊り構造物が実現できる。
本発明の一態様においては、前記下部構造部の上部に設けられた免震装置の上に、前記上部吊り構造部が構築されている。
上記のような構成によれば、上部吊り構造部に作用する地震力が抑制されることで、上部吊り構造部を形成する柱や梁、壁等を小型化できる。
また、本発明は、下部構造部と上部吊り構造部が連結された複合吊り構造物の構築方法であって、前記下部構造部を構築した後、当該下部構造部の上部に、吊り部材により床スラブが支持された前記上部吊り構造部をジャッキダウンさせて、連結することを特徴とする複合吊り構造物の構築方法を提供する。
上記のような構築方法によれば、下部構造部の上側に、一旦、全ての上部吊り構造部を構築した後、当該上部吊り構造部をジャッキダウンさせて、下部構造部の上部に、吊り部材で吊り下げ支持された床スラブ、柱、梁による上部吊り構造部を精度良く設置することにより、下部構造部と上部吊り構造部が連結された複合吊り構造物を構築できる。
本発明の一態様においては、前記上部吊り構造部は、ベント架台で当該上部吊り構造部の下端部を仮受けした状態で、柱梁架構内および/または床スラブ面に仮設ブレースを設置しながら構築することを特徴とする。
ベント架台で仮受けされた構築途中段階の上部吊り構造部は、常時作用する建物躯体の鉛直荷重のみがベント架台で支持されているが、吊り部材が定着された柱部材が下部構造部に接合されていなく、かつ吊り部材で吊り下げ支持される全ての床スラブや柱、梁が吊り部材と連結されていないために、地震荷重に対して、上部吊り構造部を構成する柱や梁等の各構造部材がせん断抵抗することが出来なく、構造的に不安定状態である。よって、上部吊り構造部の構築過程では、地震対策として、柱梁架構内または床スラブ面ごとに、仮設ブレースを設置して耐震化を図り、構造安全性を確保する必要がある。
また、仮設ブレースが設置された上部吊り構造部は、下部構造部の上部にジャッキダウンさせる際には、仮設ブレースにより当該上部吊り構造部の鉛直剛性や水平剛性が高められていることで、ねじれ等を生じることなく精度良く設置できる。
本発明によれば、下部建物の上面に吊り構造部による大空間を有し、なおかつ、建物上層階では、柱や壁が小型化され、長スパン化された柱梁架構を備えた複合吊り構造物及びその構築方法を提供することができる。
本発明の実施形態における複合吊り構造物の縦断面図である。 複合吊り構造物を構成する上部吊り構造部の平断面図である。 複合吊り構造物の構築方法(その1、下部構造部とベント架台)の説明図である。 複合吊り構造物の構築方法(その2、下部構造部とベント架台)の説明図である。 複合吊り構造物の構築方法(その3、上部吊り構造部)の説明図である。 複合吊り構造物の構築方法(その4、水平方向仮設ブレースの設置状況)の説明図である。 複合吊り構造物の構築方法(その5、鉛直方向仮設ブレースの設置状況)の説明図である。 変形例における複合吊り構造物の縦断面図である。 変形例の複合吊り構造物における、上部吊り構造部と下部構造部の接合部の説明図である。 従来のサスペンションを主構造とする重層式吊り構造の説明図である。 従来の重層式吊り構造の構築方法の説明図である。 従来の建物の施工方法の説明図である。
本発明は、下部建物の上部に、吊り部材で吊り下げ支持された床スラブや柱、梁で形成された上部吊り構造部が連結された複合吊り構造物と、その構築方法である。
具体的には、複合吊り構造物としては、下部建物の上部に設置された免震装置の上面に、上部吊り構造部が連結された弟1実施形態(図1、図2)と、下部建物の上部に上部吊り構造部が直接、連結された変形例(図8)がある。複合吊り構造物の構築方法としては、下部建物、及びベント架台にて、上部吊り構造部の下端部を支持させた状態で、一旦、上部吊り構造部全体を構築した後、下部建物の上部にジャッキダウンさせて、下部建物と上部吊り構造部を連結させた。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(複合吊り構造物の構成)
図1は、本実施形態における複合吊り構造物1の縦断面図を、模式的に示したものである。
複合吊り構造物1は、下部構造部2、免震層4、及び、上部吊り構造部3を備えている。
本実施形態においては、下部構造部2は、地上一階FL1から三階FL3を構成しており、基礎5に立設された柱6と、柱6間に架設された梁7を備えている。本実施形態においては、下部構造部2は、鉄筋コンクリート壁柱と床版により構成された、鉄筋コンクリート壁式ラーメン構造として構築されている。
下部構造部2の上方には、免震装置8が設けられて、免震層4が形成されている。本実施形態においては、免震装置8は、積層ゴム支承14と、鋼材ダンパー15を備えている。
上部吊り構造部3は、下部構造部2の上部に、より詳細には、免震層4の上方に構築されている。本実施形態においては、上部吊り構造部3は、四階FL4から六階FL6を構成している。六階FL6の上は屋上階FLRとなっている。上部吊り構造部3は、柱10と、柱10間に架設された梁11、及び、吊り部材12を備えている。上部吊り構造部3は、鉄骨部材や合成スラブにより軽量に構築されている。上部吊り構造部3の最も上の梁である屋上梁11Dは、他の梁11に比べて、梁成を高くする等の手法により、高剛性に形成されている。
吊り部材12は、全体として、高剛性の屋上梁11Dから懸垂曲線状に下方に垂れ下がり湾曲するような形状を成しており、屋上梁11Dに接合されて設けられている。吊り部材12は、実際には、高張力の鋼材12aを長さ方向に互いに接合して形成されている。
上部吊り構造部3においては、柱10により支持された屋上梁11Dが支点となって吊り部材12を支持し、吊り部材12が各階層に設けられた、後に図5を用いて説明する床スラブ13を支持することにより、吊り構造として構築されている。これにより、上部吊り構造部3においては、柱10スパンを長くして、大空間が実現されている。
以上のように、複合吊り構造物1は、下部構造部2の上部に設けられた免震装置8の上に、上部吊り構造部3が構築されることにより、下部構造部2と上部吊り構造部3が連結された構成となっている。
図2に、複合吊り構造物を構成する下部構造部2と上部吊り構造部3の関係を平断面図として示す。図2は、図1のA−A部分、すなわち、複合吊り構造物1を構成する上部吊り構造部3の、免震層4近辺における平断面図である。図2のB−B部分を断面視したものが、図1に相当する。図2においては、積層ゴム支承14は黒塗りの円形で、鋼材ダンパー15は白抜きの円形で、それぞれ示されている。
図2に示されるように、上部吊り構造部3は、第1上部構造部3A、第2上部構造部3B、及び、接合部3Cに区画されている。第1上部構造部3Aは、平面視における長さ方向が、紙面上下方向、すなわち、図1における奥行き方向Yに一致するように設けられている。第2上部構造部3Bは、平面視における長さ方向が、紙面左右方向、すなわち、図1、図2における左右方向Xに一致するように設けられている。第1上部構造部3Aは、その幅方向の一辺が、第2上部構造部3Bの長さ方向の一辺に沿うように設けられており、これにより、上部吊り構造部3は平面視したときに、全体としてL字状に形成されている。後述するように、第1上部構造部3Aと第2上部構造部3Bはそれぞれ別に構築されるが、これらの間の部分が接合部3Cであり、この部分においては、実際にはエキスパンション等により、第1上部構造部3Aと第2上部構造部3Bが接続されている。
図2には、下部構造部2の平面視した場合の外形が、破線で示されている。下部構造部2は、図2における下側、すなわち、図1における紙面手前側の、2か所において、内側へと凹む第1凹部2c、第2凹部2dを備えている。第1凹部2cと第2凹部2dの間には、これら凹部2c、2dに対して相対的に外方へ突出している第1突出部2aが形成されており、第1凹部2cの左側、すなわち第1突出部2aとは反対の側には、第1凹部2cに対して相対的に外方へ突出している第2突出部2bが形成されている。
第2上部構造部3Bは、第1突出部2aと第2突出部2b上に位置するように設けられており、これら突出部2a、2bが、第2上部構造部3Bの鉛直荷重の一部を負担している。これにより、第1凹部2cに相当する部分には、第1凹部2cの上方を覆うように下部構造部2の外側表面から外方へ突出する第1張出部3cが形成されており、第2凹部2dに相当する部分には、第2凹部2dの上方を覆うように下部構造部2の外側表面から突出する第2張出部3dが形成されている。
(複合吊り構造物の構築方法)
次に、上記の図1、図2、及び、図3乃至図7を用いて、上記の複合吊り構造物1の構築方法について説明する。図3は、上部吊り構造部3の構築段階における下部構造部と、ベント架台の各側面図であり、図4(a)は、図3のC−C部分の縦断面図で、図4(b)は、図4(a)の部分拡大平面図である。また、図5は、上部吊り構造部3の構築過程における複合吊り構造物1を構成する上部吊り構造部の側面図で、図6は、図5のD−D部分の平断面図で、床スラブ面に設けられた水平方向仮設ブレースの設置状況図であり、図7は、図6のE−E部分の縦断面図で、柱梁架構内に設けられた鉛直方向仮設ブレースの設置状況図である。
本実施形態における複合吊り構造物1の構築方法においては、下部構造部2を構築した後、下部構造部2の上部に、吊り部材12により後述する床スラブ13(図5参照)が支持された上部吊り構造部3をジャッキダウンさせた後、下部構造部2と上部吊り構造部3を連結させて、複合吊り構造物1を構築する。また、上部吊り構造部3は、図5に示すように、後述するベント架台21、22(図3乃至図5参照)で上部吊り構造部3の下端部3aを仮受けした状態で、柱梁架構内または床スラブ面に後述する仮設ブレース30、31(図6、図7参照)を設置しながら構築する。
以下、本実施形態における複合吊り構造物1の構築方法を詳細に説明する。
(下部構造部2の柱梁架構の構築とベント架台21、22の設置)
まず、下部構造部2の柱梁架構を構築した後、図3、図4に示されるように、柱梁架構の周囲、または、柱梁架構の内部に、上部吊り構造部3を支持するためのベント架台21、22を設置する。ベント架台21、22は、第1ベント架台21と、第2ベント架台22を備えている。図2においては、上部吊り構造部3の対応する場所に、第1及び第2ベント架台21、22が矩形で示されている。特に第2ベント架台22は、第1ベント架台21より横方向に細長く示されている。
図3においては、下部構造部2の紙面左側に、図2を用いて説明した、柱梁架構として第2突出部2bが構築されており、紙面中央右寄りに、鉄筋コンクリート壁として構築された第1突出部2aが構築されている。第2突出部2bと第1突出部2aの間、及び、第1突出部2aの右側は、図3における奥行き方向Yに向けて凹む第1凹部2c、第2凹部2dが形成されている。これら第1及び第2凹部2c、2dの上方には、後の工程により、図5に示されるように、上部吊り構造部3の第1及び第2張出部3c、3dが構築される。第1ベント架台21は、このような、下部構造部2の各凹部2c、2dに、後に構築される上部吊り構造部3の各張出部3c、3dを下方から支持するように設けられる。
上記のように、第1ベント架台21の設けられる場所は、下部構造部2の各凹部2c、2dであり、下部構造部2の柱梁架構が構築されておらず、広い空間となっているため、第1ベント架台21として、設置面積が大きな、例えば、広い作業床を内蔵したもの等を使用可能である。
第2ベント架台22は、図2に示されるように、上部吊り構造部3の張出部3c、3d以外の場所を下方から支持するように設けられている。すなわち、第2ベント架台22は、下部構造部2の柱梁架構内に、柱6、梁7やその他の構造物等の間隙に設ける必要があるため、例えば、第1ベント架台21よりも設置面積が小さいものを使用する。
本実施形態においては、各第2ベント架台22は、図4(b)に示されるように、2つのベント架台22A、22Bが対になったものであり、一方のベント架台22Aが梁7の片側に、他方のベント架台22Bが梁7の反対側に、それぞれ設けられて、梁7の両側から後に構築される上部吊り構造部3を支持する。
図3、図4(a)に示されるように、第1及び第2ベント架台21、22の各々は、地盤GLに埋設されたベント基礎21c、22c上に立設されており、上側にジャッキ部21a、22aを備えている。本実施形態においては、ジャッキ部21a、22aは、油圧ジャッキである。
第1及び第2ベント架台21、22の各々のジャッキ部21a、22aの先端21b、22bは、免震装置8よりも高く位置するように調整されて設けられる。これにより、後に構築される上部吊り構造部3の下端部3a(図5参照)は、下部構造部2及び免震装置8よりも上方の位置に構築される。
(上部吊り構造部3の構築)
下部構造部2の柱梁架構を構築し、第1及び第2ベント架台21、22を設置した後に、各ベント架台21、22上に、図5に示されるように、上部吊り構造部3を構築する。
本実施形態においては、上部吊り構造部3は、図2に示される、第1上部構造部3Aと第2上部構造部3Bに分けて、順次、あるいは並行して、構築する。
まず、上部吊り構造部3の最も下の梁11Aを含む、上部吊り構造部3の最下層、すなわち、四階FL4の柱梁架構を構築する。また、吊り部材12のなかで四階FL4に設けられる鋼材12aも、四階FL4の柱梁架構に取付ける。
このとき、図7に示されるように、四階FL4の柱梁架構内を鉛直斜め方向に延在して、柱10と梁11の接合部間を接続するように、鉛直方向仮設ブレース31を配設する。鉛直方向仮設ブレース31は、鉄骨建て方時の安定性を確保するために設けられている。このため、鉛直方向仮設ブレース31は、四階FL4、五階FL5、及び、六階FL6の、上部吊り構造部3の全ての階層の荷重負担を基に、形状や本数、設置個所が決定されている。
更に、四階床梁11Aの上にデッキプレートを敷いた後にコンクリートを打設、養生して、四階床スラブ13Aを構築する。
次に、五階FL5の柱梁架構を構築し、五階床梁11Bの上にデッキプレートを敷く。このとき、吊り部材12のなかで五階FL5に設けられる鋼材12aを、五階FL5の柱梁架構に取付ける。更に、後に五階床スラブ13Bが構築される平面と略平行な、該平面の近傍の面内に、すなわち、五階床スラブ13B面内に、図6に示されるように、図5における奥行き方向Yと、それに水平面内で直交する左右方向Xの各々に延在する五階床梁11Bの接合部間を、斜めに延在して接続するように、水平方向仮設ブレース30を配設する。
後に説明するように、上部吊り構造部3の柱梁架構の構築が終了した後に、五階床梁11Bに敷かれたデッキプレート上にコンクリートを打設して五階床スラブ13Bを構築する。このコンクリートが硬化して、所定の強度が発現するまでの間、上部吊り構造部3の剛性及び構造安全性を確保するために、水平方向仮設ブレース30は設けられている。このため、水平方向仮設ブレース30は、五階FL5の一階層分の荷重負担を基に、形状や本数、設置個所が決定されている。
また、四階FL4と同様に、五階FL5においても、図7に示されるように鉛直方向仮設ブレース31を配設する。
六階FL6は、五階FL5と同様に構築する。すなわち、六階FL6の柱梁架構を構築し、六階床梁11Cの上にデッキプレートを敷き、吊り部材12のなかで六階FL6に設けられる鋼材12aを、六階FL6の柱梁架構に取付け、後に構築される六階床スラブ13C面内の、六階床梁11C間に水平方向仮設ブレース30を配設し、六階FL6に位置する柱10間に鉛直方向仮設ブレース31を配設する。
更に、上部吊り構造部3の最も上の梁である屋上梁11Dに、デッキプレートを敷き、屋上スラブ13D面内の、屋上梁11D間に水平方向仮設ブレース30を配設する。
その後、必要に応じて、吊り部材12の鋼材12a間の目違いを調整し、鋼材12a間を互いに溶接して接合する。
これにより、上部吊り構造部3の柱梁架構が構築される。
その後、屋上階FLR、五階FL5、六階FL6の順に、各階に敷かれたデッキプレート上にコンクリートを打設、養生して、屋上スラブ13D、五階床スラブ13B、六階床スラブ13Cを構築する。
屋上スラブ13Dのコンクリートが所定の強度を発現した後に、屋上梁11Dに設けられた水平方向仮設ブレース30を解体、撤去する。五階床スラブ13Bのコンクリートが所定の強度を発現した後に、五階床梁11Bに設けられた水平方向仮設ブレース30を解体、撤去する。また、六階床スラブ13Cも、屋上スラブ13Dや五階床スラブ13Bと同様、コンクリートが必要強度に達した後に、六階床梁11Cに設けられた水平方向仮設ブレース30を解体、撤去する。
また、屋上スラブ13D、五階床スラブ13B、及び、六階床スラブ13Cの全てのコンクリートが所定の強度に達した後に、鉛直方向仮設ブレース31を撤去する。
上記のように構築された上部吊り構造部3は、構築直後の時点においては、下方からベント架台21、22によって支持されている。次に説明する工程において、各ベント架台21、22に設けられたジャッキ部21a、22aによりジャッキダウンを行い、上部吊り構造部3を下降させて、上部吊り構造部3を免震装置8の上に載置し、ベント架台21、22を撤去する。すなわち、上部吊り構造部3を支持する部分が、ベント架台21、22によって支持されていた位置から免震装置8によって支持される位置へと変わることで、荷重が架け替えられる。
ここで、上部吊り構造部3の構築時にベント架台21、22によって支持されていた部分においては、ベント架台21、22が撤去されるために、上部吊り構造部3の荷重により、下方にしなるように変形する。この変形を抑制し、ベント架台21、22撤去後の上部吊り構造部3の梁11が水平に近い状態とするため、ベント架台21、22によって支持される部分においては、上部吊り構造部3の梁11には、ベント架台21、22の反力、すなわち、上部吊り構造部3の当該部分に対して作用する荷重を基に、上方に凸となるようにムクリがつけられている。
(上部吊り構造部3のジャッキダウン)
上部吊り構造部3を構築した後、すなわち、水平方向仮設ブレース30、鉛直方向仮設ブレース31を撤去して架設の拘束構造を解放し、屋上スラブ13D、五階床スラブ13B、及び、六階床スラブ13Cの全てのコンクリートが所定の強度に達した後に、各ベント架台21、22のジャッキ部21a、22aにより、上部吊り構造部3をジャッキダウンする。
ジャッキダウンは、本実施形態においては、第1上部構造部3Aと第2上部構造部3Bの各構造部に対して、必要に応じて時間を置いて、別々に行う。
ジャッキダウンによって、上部吊り構造部3を支持する部分が、ベント架台21、22の位置から免震装置8の位置へと変わるため、免震装置8に上部吊り構造部3の荷重が作用する。これにより、免震装置8が水平位置から傾いて、複合吊り構造物1の施工終了後に免震装置8が十分に機能しなくなる場合がある。このため、下部構造部2の最上梁7Aの下に設けられた図示されないジャッキによって、最上梁7Aの傾きの調整を行い、免震装置8の角度が許容範囲となるように、具体的には、例えば、免震装置8の最終勾配が1/300以内となるように、調整する。
ジャッキダウンの後には、上部吊り構造部3の四階床梁11Aを免震装置8に接合し、第1上部構造部3Aと第2上部構造部3Bを接合する接合部3Cを構築した後、ベント架台21、22を撤去する。
次に、上記の複合吊り構造物1及びその構築方法の効果について説明する。
上記のような複合吊り構造物1によれば、複合吊り構造物1は、下部構造部2の上部に、吊り構造による上部吊り構造部3が設けられることで、建物下層階の躯体構造に影響を受けることなく、建物上層階に、大空間居室が実現できる。また、建物上層階を、上部吊り構造部3とすることで、建物上層階の柱や梁が建物下層階の躯体構造上に連結されるのではなく、上部吊り構造部3を構成する吊り部材12によって吊り下げ支持されるために、上部吊り構造部3を構成する柱10や梁11、壁に作用する地震荷重が小さくなることで、其々の部材を小型化でき、柱梁架構の長スパン化が可能となる。
また、上部吊り構造部3に設けられた吊り部材12で吊り下げ支持される建物階数は、上部吊り構造部3の最下層階FL4から最上階FL6までであり、地上1階FL1から上部吊り構造部3の最上階FL6まで吊り部材12で吊り上げ支持する場合に比べて、吊り部材12で吊り下げ支持する建物重量は小さいために、吊り部材12を定着される柱部材を小径化できる。
上記のように、下部建物(下部構造部2)の上部に上部吊り構造部3を設ける複合吊り構造物1では、吊り部材12で吊り下げ支持する階数が建物中間階以上に限定されるために、柱や壁が小型化され、かつ長スパン化された柱梁架構を備えた複合吊り構造物1が実現できる。
また、上記のような複合吊り構造物1によれば、下部構造部2の上部に設けられた免震装置8の上に、上部吊り構造部3が構築されているため、上部吊り構造部3に作用する地震力を抑制することができる。よって、上部吊り構造部3を構成する柱10、梁11等の各構造部材を小径化できるために、眺望に優れた使い勝手の良い大空間を確保できる。
また、上記のような複合吊り構造物1の構築方法によれば、下部構造部2を構築した後、下部構造部2の上側に、一旦、全て吊り部材12により床スラブ13が支持された上部吊り構造部3を構築した後、当該上部吊り構造部3をジャッキダウンさせて、下部構造部2と上部吊り構造部3を連結することで、構築段階にて構造安全性を高めた上部吊り構造部3と下部構造部2を精度良く連結されることができる。
また、施工中の上部吊り構造部3においては、常時作用する建物躯体の鉛直荷重のみがベント架台21、22で支持されているが、吊り部材12が定着された柱10部材が下部構造部2に接合されていなく、かつ吊り部材12で吊り下げ支持される全ての床スラブ13や柱10、梁11が吊り部材12と連結されていないために、地震荷重に対して、上部吊り構造部3を構成する柱10や梁11等の各構造部材がせん断抵抗することが出来なく、構造的に不安定状態である。よって、上部吊り構造部3の構築過程では、地震対策として、柱梁架構内または床スラブ13面ごとに、仮設ブレース30、31を設置することにより耐震化を図り、構造安全性が確保される。
また、仮設ブレース30、31が設置された上部吊り構造部3は、下部構造部2の上部にジャッキダウンさせる際には、仮設ブレース30、31により当該上部吊り構造部3の鉛直剛性や水平剛性が高められていることで、ねじれ等を生じることなく精度良く設置できる。
また、上記のような方法によれば、上部吊り構造部3の他の階層、すなわち、五階FL5、六階FL6、屋上階FLRに先じて、四階FL4の床スラブ13Aを構築するため、上部吊り構造部3の最下層となる四階床スラブ13Aの剛性を確保し、上部吊り構造部3の構築における精度を高めることができる。また、四階床スラブ13Aを上部吊り構造部3の構築における作業床として使用することが可能となり、作業性が向上する。更に、上部吊り構造部3の構築時の安全性を高めることができる。
また、上記のような方法によれば、ベント架台21、22によって支持される部分における上部吊り構造部3の梁11には、上部吊り構造部3の当該部分に対して作用する荷重を基に、上方に凸となるようにムクリがつけられているため、ベント架台21、22撤去後の上部吊り構造部3の梁11が水平に近い状態とすることができる。
また、上記のような方法によれば、上部吊り構造部3のジャッキダウンを、第1上部構造部3Aと第2上部構造部3Bの各構造部に対して、別々に行うため、ジャッキダウンを含めた上部吊り構造部3全体の施工計画を、各構造部3A、3Bの施工進捗にあわせて調整することができる。これにより、柔軟な施工管理が可能となる。
また、上記のような方法によれば、上部吊り構造部3のジャッキダウン後に、下部構造部2の最上梁7Aの傾きの調整を行い、免震装置8の角度が許容範囲となるように調整するため、上部吊り構造部3の荷重がベント架台21、22から免震装置8に架け替えられた後においても、免震装置8が十分に機能するように、複合吊り構造物1を構築することが可能である。
(実施形態の変形例)
次に、上記実施形態として示した複合吊り構造物1及びその構築方法の変形例を説明する。図8は、本変形例における複合吊り構造物40の縦断面図を、模式的に示したものである。本変形例の複合吊り構造物40においては、上記実施形態における複合吊り構造物1とは、上部吊り構造部3は、下部構造部2の直上に、免震装置を介さずに、構築されている点が異なっている。
図9は、図8のF矢視部分の拡大断面図である。下部構造部2と上部吊り構造部3は、其々の柱6、10部材同士を連結して一体化されるものであり、其々の柱6、10部材内の柱主筋6a、10a同士が機械式継ぎ手41を介して連結され、接合されている。
本変形例が、上記実施形態と同様の効果を奏することはいうまでもない。
(実施形態の他の変形例)
なお、本発明の複合吊り構造物及びその構築方法は、図面を参照して説明した上述の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、上部吊り構造部3は平面視したときに、全体としてL字状に形成されていたが、これに限られず、矩形状であってもよいし、より複雑な他の形状を成していても構わない。
また、上記実施形態においては、上部吊り構造部3には、下部構造部2の外形から外側に張出す張出部3c、3dが、部分的に設けられていたが、これに限られず、上部吊り構造部3には張出部3c、3dが設けられていなくてもよいし、上部吊り構造部3の外形形状が下部構造部2の外形形状を含むように、すなわち、上部吊り構造部3の全周にわたって、下部構造部2から張出すように、上部吊り構造部3が構築されても構わない。
また、上記実施形態においては、下部構造部2と上部吊り構造部3の階層は、共に3階層であったが、それぞれ、より少ない階層であってもよいし、より多い階層を備えていても構わない。
また、上記実施形態においては、免震装置8は、積層ゴム支承14と鋼材ダンパー15であったが、これに限られず、弾性すべり支承等の他の免震支承や、オイルダンパー等の他のダンパーを用いても構わない。
また、上記実施形態においては、ジャッキ部21a、22aは油圧ジャッキであったが、これに限られず、例えば、部分的にボルトジャッキ等の他のジャッキを使用しても構わない。
また、上記実施形態においては、床スラブ13面内に水平方向仮設ブレース30が配設され、なおかつ、柱梁架構内を鉛直斜め方向に延在するように鉛直方向仮設ブレース31が配設されていたが、これに限られず、例えば、上部吊り構造部3の施工中に、水平方向仮設ブレース30と鉛直方向仮設ブレース31のいずれか一方のみを配設するようにしてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態及び変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
1 複合吊り構造物 12 吊り部材
2 下部構造部 13 床スラブ
3 上部吊り構造部 14 積層ゴム支承
3a 下端部 15 鋼材ダンパー
4 免震層 21 第1ベント架台(ベント架台)
6 (下部構造部の)柱 22 第2ベント架台(ベント架台)
7 (下部構造部の)梁 30 水平方向仮設ブレース(仮設ブレース)
8 免震装置 31 鉛直方向仮設ブレース(仮設ブレース)
10 (上部吊り構造部の)柱 40 複合吊り構造物
11 (上部吊り構造部の)梁

Claims (2)

  1. 下部構造部と上部吊り構造部が連結された複合吊り構造物の構築方法であって、
    前記上部吊り構造部は、吊り部材により床スラブが支持され、かつ、平面視したときに、前記下部構造部の外側表面から外方へ突出する張出部を備え、
    前記下部構造部の柱梁架構を構築した後、
    前記張出部の下の地盤上にベント架台を立設し、
    前記ベント架台上に前記上部吊り構造部を構築し、
    前記下部構造部の上部に、前記上部吊り構造部をジャッキダウンさせて、連結することを特徴とする複合吊り構造物の構築方法。
  2. 前記上部吊り構造部は、前記ベント架台で当該上部吊り構造部の下端部を仮受けした状態で、柱梁架構内および/または床スラブ面に仮設ブレースを設置しながら構築することを特徴とする請求項に記載の複合吊り構造物の構築方法。
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