以下、本発明の荷電ビーム装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図である。
図に示す荷電ビーム装置は、室内が真空排気される試料室1と、試料室1内に設けられた可動式のステージ2と、ステージ2の上部に取り付けられ、載置された試料4を固定手段(例えば、ピン)で固定する試料ホルダー3と、荷電ビーム(電子ビーム、イオンビーム)6を試料4に向かって照射する荷電ビーム鏡体10と、試料4上の荷電ビーム照射部分に反応性ガスを供給するガス銃(ガス供給部)11と、ガス銃11に付着した反応性ガスによる汚れを除去するためのクリーニング室8と、ガス銃11(クリーニング対象物)に対するクリーニング処理の終点を検出するための照射エネルギー分散型X線分析装置(以下、EDXと略す)35(後述の図9参照)と、試料4からの2次電子を検出する2次電子検出器(電子検出手段)13を備えている。
試料室1は、ターボ分子ポンプ、ドライポンプ、バルブ等で構成される排気系(図示せず)と接続されており、反応性ガスを流さない状態で、例えば10−5Pa程度の高真空度に保持されている。また、特に図示していないが、試料室1には、試料を大気中で搬送する大気搬送ユニット(図示せず)との間に介在するかたちでロードロック室が隣接している。試料4搬入の際には、例えば、大気搬送ユニット内の大気搬送ロボット(図示せず)によって試料4がFOUP(Front Opening Unified Pod)等からロードロック室内に待機したステージ2上に搬送され、ロードロック室の大気を排出した後、ステージ2が試料室1内に移動する。なお、試料4を搬出する場合は上記と逆の手順で行えば良い。
ステージ2は、X,Y,Zの3方向の移動に加え、回転(R)及び傾斜(T)する5軸ステージであり、試料4を載せた試料ホルダー3を作業に応じて適宜移動させる。なお、説明のため、試料4は、例えば、直径300mmのシリコンウェーハとする。
図2は本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置における試料ホルダー3の上面図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。
図示したように、試料ホルダー3の上面には、試料4の他に、荷電ビーム6のフォーカスや非点収差を補正するためのパターンが付された荷電ビーム調整治具7と、ガス銃11に付着した汚れを除去するためのクリーニング室8と、試料4から摘出したマイクロサンプルを保持するカートリッジ機構部75(後述する図24参照)が設けられている。
図3はクリーニング室8の断面図である。図3(a)は図2中のIIIa-IIIa断面における断面図であり、図3(b)は他の例における断面図である。
図3(a)において、クリーニング室8は、荷電ビーム6を室内に導入するための開口部である荷電ビーム導入口16と、ガス銃11のガスノズル12(後述)を挿入するための開口部であるガス供給部挿入口17を有している。これら開口部16,17以外の部分は密閉されており、室内の圧力ができるだけ保持されるように構成されている。
ガス銃11は、先端に設けられた噴出孔101(後述する図5参照)から反応性ガスが噴出されるガスノズル12を有しており、ガスノズル12はガス供給部挿入口17を介してクリーニング室8内に挿入されている。ガスノズル12には反応性ガスによる汚れの膜(付着膜)14が付着している。付着膜14は、GADやGAE等のガス処理を行った場合に利用した反応性ガスが荷電ビーム装置内で反応することによって形成され、反応ガスの成分を主成分とした汚れの膜である。
各開口部16,17の径は極力小さく構成することが好ましい。これは、ガスノズル12の噴出孔101から噴出される反応性ガスの圧力と、ガス供給部挿入口17のクリーニング室8側における圧力の差を小さくすることにより、クリーニング室8内における反応性ガスの圧力値を大きくするためである。これにより、クリーニング対象物(ガス銃11)に付着する反応性ガス分子の数が増大するので、クリーニング速度を向上させることができる。この点を鑑みて、本実施の形態では、例えば、クリーニング室8を1辺が10mm程度の略立方体形状とし、各開口部16,17の直径を2mm程度としている。
また、クリーニング室8には、図3(b)に示すように、2次電子検出器13側の内部壁面(上面)に設けられた電極20と、その他の内部壁面(側面)に設けられた電極24を設けると好ましい。
図示した各電極20,24は、絶縁物22(例えば、フッ素樹脂等)を介して壁面内に取り付けられており、電位的に浮いている。各電極20,24はそれぞれ電源21と接続されており、この各電源21によって、図に示すように、2次電子検出器13側の電極20には正電位が与えられ、側面の電極24には負電位が与えられている。これにより、クリーニング室8から検出器13側へより多くの2次電子23が引き出されるので、SN比の高い2次電子像を得ることができる。なお、側面に設けられた電極24に与える電位はアース電位でも良い。また、例えば、荷電ビーム6の加速電圧を1kVとすると、発生する2次電子23のエネルギーは平均2eV程度と比較的低くなるので、各電極20,24には数十V程度の負又は正の電位を与えれば良い。
電極20は、2次電子23が2次電子検出器13に導入されやすいように、メッシュ形状に形成することが好ましい。なお、この場合、メッシュ形状にする部分と上面全体の面積比、及びメッシュ間隔を大きくし過ぎると反応性ガスがクリーニング室8から漏洩し易くなるので、これらの大きさには充分配慮する。
次に、荷電ビーム鏡体10の構成について、荷電ビーム発生源が電子源である場合を例に挙げて説明する。
図4は電子源を有する場合の荷電ビーム鏡体10の内部構造を示す図である。
図に示す荷電ビーム装置は、その鏡体(カラム)10(対物レンズ156(後述)部分のみ図示)内に設けられた各機器の制御を行う制御部150と、制御部150が処理した結果等を表示する表示部(モニタ)180と、電子ビームを生成する電子源(荷電ビーム発生源)151と、電子源151から所定のエミッション電流の電子ビーム(荷電ビーム)6を引き出す引き出し電極152と、引き出した電子ビーム6を集束する第1集束コイル153と、第1集束コイル153で集束された電子ビーム6の必要な部分だけを取り出す絞り154と、絞り154によって絞られた電子ビーム6を集束する第2集束コイル155と、第2集束コイル155で集束された電子ビーム6を集束し微小スポットとして試料4に照射する電子レンズを形成する対物レンズ156と、電子ビーム6を試料4上で走査する偏向コイル157を主に備えている。
上記のうち、引き出し電極152、第1集束コイル153、絞り154、第2集束コイル155、対物レンズ156、及び偏向コイル157等は、電子源151から電子ビーム6を集束・偏向して試料4上に適宜照射する電子ビーム光学系(荷電ビーム光学系)165を構成している。
対物レンズ156は、対物レンズコイル電圧制御電源175に印加される電圧によって磁場を発生する対物レンズコイル158と、対物レンズコイル158を内包するように設けられ試料4側の電極(下極)159を構成する対物レンズ磁路160と、下極159の上方に位置するように対物レンズ磁路160に絶縁部161を介して取り付けられたブースター電極(上極)162を備え、試料4に対面するように鏡体10の下端に設けられている。
制御部1は、図示は省略するが、各種処理作業を行う処理部(マイクロプロセッサ等)、処理用プログラムや処理結果等を記憶する記憶部(HDD,ROM,RAM等)、及び処理部への命令を入力する入力部(キーボード等)等を備えている。
また、制御部1は、電子源151及び引き出し電極152に接続された高電圧制御電源170、第1集束コイル153に接続された第1集束コイル制御電源171、第2集束コイル155に接続された第2集束コイル制御電源172、偏向コイル157に接続された偏向コイル制御電源173、ブースター電極162に接続されたブースター電極電圧制御電源174、対物レンズコイル158に接続された対物レンズコイル電圧制御電源175、2次電子検出器13に接続された2次電子検出器制御電源176(図1参照)、及びガス銃11に接続されたガス銃コントローラ177(図1参照)等と接続されており、これら各電源及びコントローラ等を処理部等を利用して適宜制御している。
図5は図1におけるガス銃11付近を拡大して示す断面図である。
この図において、ガス銃11は、反応性ガスを噴出する噴出孔101が先端に設けられたガスノズル12と、ガスノズル12と連結された本体102と、大気圧となる荷電ビーム装置外において本体102を外周から覆う本体カバー103と、真空に保持された試料室1内部において本体102を外周から覆う真空ベロー104と、試料室1の隔壁125に設けられた孔105に取り付けられ、ガス銃11を保持するフランジ106と、ガスボンベ(ガス源)107と接続されガスノズル12に反応性ガスを供給するガス管108を備えている。ガス銃11を構成する各部材は、鏡体10内の磁場分布を極力乱さないようにする点に配慮して、非磁性材料(例えば、SUS材やアルミ材)で製作することが好ましい。
本体102は、ガスノズル12側と反対側の端部においてジョイント部材109を介してエアシリンダ(駆動装置)46と接続されており、外周面に沿って複数配置されたローラベアリング111を介して本体カバー103内に収納されている。
エアシリンダ46は、空気供給源(図示せず)と接続されており、ガス銃コントローラ177(図1参照)の指令によって噴出孔101を試料4に対して軸方向に沿って進退させる。この進退機能を利用することにより、GAD及びGAEを行う際には噴出孔101を試料4上の荷電ビーム照射部分に接近させる(例えば、照射部分から上空、約200μmの位置)ことができ、その他の時には試料4から待避させることができる。ガス銃11には、ガスノズル12を一定距離以上試料4に近づかせないようにするためのストッパー(図示せず)が設けられており、誤操作等によって試料又はノズル先端が損傷することを防止している。ローラベアリング111は本体102が進退する際の軸ブレの発生を抑制する。なお、ガスノズル12の進退の微調整は微調整機構(図示せず)によって行なう。
ガス銃11の姿勢(仰角及び俯角、首振り角度)を変更する際には、フランジ106に設けられカバー本体103の姿勢を保持している調整ネジ120を利用する。調整ネジ120は、フランジ106を介してカバー本体103の上下方向及び水平方向から2本ずつ取り付けられており、これら4本のネジをネジ孔に対して適宜進退させるによってガス銃11を所望の姿勢に保持する。また、本体102はモーター等の回転駆動装置121とギア等の動力伝達装置122を介して連結されており、ガスノズル12をその軸心周りに回転させる場合には、ガス銃コントローラ177を介して回転駆動装置121を駆動させることにより回転させることができる。なお、試料室1内におけるガス銃11の移動及び回転は、上記の構成に限らず、制御部150で制御されるロボットアームを設け、その自由端側にガス銃11を取り付けて適宜移動・回動させる等しても勿論良い。
真空ベロー104は、本体102の進退に応じて伸縮できるように蛇腹状に形成されており、その内部(本体102側)は大気圧に保持されている。また、フランジ106と隔壁125の間には孔105を取り囲むようにOリング123が設けられており、試料室1の内部を大気と切り離している。
ガス管108は、上流側においては複数のガスボンベ107と調整弁124を介して接続され、下流側においては真空ベロー104を外周から取り囲むようにコイル状に配された後にガスノズル12と結合されている。このようにガス管108をコイル状に配することにより、本体102が進退してもそれに追随して伸縮することができる。
各ガスボンベ107には、GAD用のデポジションガス、及びGAE用のエッチングガスが適宜貯留されており、調整弁124を開閉することで使用する反応ガスを作業内容に応じて切り換えることができる。デポジションガスの例としては、タングステンカルボニル(W(CO)6)、酸化シリコン膜を生成するテトラエチルオキシシラン(Si(OC2H5)4,別称:テオス)、モリブデンカルボニル(M(CO)6)、及びカーボン系のガス等が挙げられ、エッチングガスの例としては、2フッ化キセノン(XeF2)や、フッ素系ガス(CF4等)、塩素系ガス等が挙げられる。
EDX(クリーニング終点検出手段)35は、比較的高電圧(例えば30kV)に加速された荷電ビーム6の照射点から放出される特性X線を検出し、照射点における元素分析を行う。元素分析の結果は、例えば、後述する図10に示すようなグラフで表示部180に表示される(詳細は後述)。このような元素分析の結果、反応性ガスによる汚れの膜が残存していないことが検出されればクリーニング終了とする。なお、クリーニング処理の終点の検出精度を向上させるには、クリーニング対象物上の複数箇所に荷電ビーム6を照射して、複数箇所の元素分析を行うことが好ましい。また、装置の構成を簡略化する観点から、特性X線を放出させる際に利用する荷電ビーム6は、荷電ビーム鏡体10内の荷電ビーム発生源から放出するのが好ましい。
2次電子検出器13は荷電ビーム6が照射された試料4から放出する2次電子を検出する。試料4から放出された2次電子は、2次電子検出器13内で正電位(10kV程度)に印加されたシンチレータ(図示せず)の電界に引き寄せられ、加速されてシンチレータを光らせる。発光した光はライトガイドで光電子倍増管(ともに図示せず)に入射し、電気信号に変換される。光電子倍増管の出力は更に増幅されて、表示部180のブラウン管の輝度を変化させる。そして、これを鏡体10内の偏向コイル(図示せず)の走査信号と同期させることで加工点における2次電子像を生成している。
なお、2次電子検出器13以外の電子検出手段としては、反射電子検出器(図示せず)がある。反射電子検出器は、荷電ビーム6の照射により試料4の表面から放出される反射電子を検出するものであり、2次電子検出器13による2次電子像と同様、反射電子像を形成する際に利用される。反射電子像は試料観察面の凹凸等を検出することができる。
また、特に図示しないが、試料室1内には、光学顕微鏡と、Zセンサーが設けられている。光学顕微鏡は、試料4上のアライメント用のマークを数点検出し、試料4のアライメントを行う。Zセンサーは、試料4上の加工点までの距離を計測し、試料4表面の高さが反り等によって変化しても、その変化量をキャンセルするようにステージ2を鉛直方向(Z軸方向)に移動させて、ワーキングディスタンスを一定に保持している。これによりウェーハ反り等に起因する荷電ビームのフォーカスズレの発生が防止される。
図6は表示部180に表示される荷電ビーム装置のグラフィカルユーザーインターフェース(以下、GUIと略す)の一例を示す図である。
図に示すGUI画面37は、クリーニング時期の通知メッセージ等が表示されるメッセージ表示部38と、試料の2次電子像等が表示される画像表示部39と、荷電ビーム6の電流値、ビーム種、及びビーム調整表示等のビームパラメータが表示されるパラメータ表示部40と、複数種類の既定の運転モードの中から実行する運転モードを選択をするための運転モード選択パネル(ナビションパネル)41と、運転モード選択パネル41で選択した運転モードに応じて荷電ビーム装置を操作するためのコマンドが表示されるコマンドパネル42を備えている。
コマンドパネル42には、ガス銃11のクリーニングを開始するためのクリーニングボタン43が設けられている。メッセージ表示部38にメンテナンス要求が出た場合にクリーニングボタン43を選択すると、ガス銃11のクリーニング処理が自動的に開始される。コマンドパネル42には、この他に、高電圧印加、ビーム電流計測等の操作を行うための各種コマンドが表示されており、操作者は所望の操作を選択することができる。
運転モード選択パネル41には、例えば、予め設定されたレシピに基づいて一般オペレータが加工処理を行うモード(ジョブモード)や、運転のための各設定値(ビームのフォーカスや、非点収差補正等の値)をマニュアルで変更するためのモード(システムモード)、装置のメンテナンスを行う際に利用するデータ(各機器の累積使用時間、及び使用可能時間等)が表示されるモード(メンテナンスモード)等を選択することができるボタンが設けられている。
上記のように構成されるGUI画面37において、クリーニング時期の通知メッセージは制御部150によって以下のようにしてメッセージ表示部38に表示される。
制御部150は、荷電ビーム発生源からの荷電ビームの照射条件(例えば、荷電ビーム加速電圧、電流量、電流密度等)及び、ガス銃11による反応性ガスの噴出条件(例えば、反応性ガスの照射量、反応性ガスの種類、ガスノズル12位置変化の累積量等)に基づいて、ガス銃11に付着する汚れ(付着膜14)の量を予測算出する。このように得られる予測算出値を予め設定しておいた“しきい値”と比較し、予測算出値がしきい値以上に達したときにクリーニング時期の通知メッセージを表示する信号を表示部180に出力する。この信号が入力された表示部180は、メッセージ表示部38に所定のメッセージ(例えば、図6に示す「ガスノズルのメンテナンスを実施下さい」)を表示して操作者にクリーニング時期を通知する。なお、本実施の形態では、クリーニング時期を通知する通知手段として表示部180を利用したが、荷電ビーム装置に別途警告灯を設け、これを必要な場合に点灯させる等しても良い。
クリーニング時期の通知メッセージがメッセージ表示部38に表示されたら、操作者は、クリーニングボタン43を選択し、ガス銃11のクリーニングを開始する。
図7は本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置において、ガス銃11をクリーニングする様子を示す図である。
ここでは、まず、荷電ビーム6として電子ビームを利用する場合について説明する。
上記のように構成される荷電ビーム装置において、図示したように、電子源151(荷電ビーム発生源)からの電子ビーム(荷電ビーム)6を電子ビーム光学系165(荷電ビーム光学系)を介して集束し、この電子ビーム光学系165によって収束された荷電ビーム6を荷電ビーム導入孔16を介してクリーニング室8内に導入するとともに、ガス銃11のガスノズル12をガス供給部挿入口17を介してクリーニング室8内に挿入する。この状態で、噴出孔101から反応性ガスとしてエッチングガス(例えば、2フッ化キセノン等)18を噴出すると、エッチングガス18のノズル12表面におけるガス圧力はクリーニング室8が無い場合と比較して増大するので、反応性ガス18の分子がガスノズル12に付着(吸着)する量が増大する。このようにガスノズル12への付着量が増大されたエッチングガス18は、自らが付着膜14と反応して汚れを除去するとともに、荷電ビーム導入孔16を介して導入される荷電ビーム6により活性化(ラジカル化)されて付着膜14との反応が促進されるので、クリーニング室8が無い場合と比較して効率良く汚れを除去することができる。
次に、荷電ビーム6としてイオンビームを利用する場合について説明する。なお、イオンビームを利用する場合には、荷電ビーム発生源として、ガリウム等の液体金属イオン源を利用すればイオンビームを発生することができる。この他のイオンビーム源としては、例えば、非汚染イオンビームを発生するシリコン、ゲルマニウム等のIV属液体金属イオン源、ヘリウム、アルゴン等のガスフェーズ電界電離イオン源、及び酸素、アルゴン等のガスプラズマイオン源などがある。
上記で説明した電子ビームに替えてイオンビームを利用すると、イオンビームを付着膜14に直接照射させることによりスパッタリングを利用したクリーニングを行うことができる。
イオンビームを付着膜14に直接照射させるためには、まず、ガスノズル12を低分解能観察することにより2次電子像(例えば、SIM像)を得て付着膜14の概ねの場所を特定する。このようにして得た2次電子像を利用して高分解能観察を行い、付着膜14の具体的な位置、即ちイオンビームの照射箇所を特定する。このとき、上記図3(b)に示したように、クリーニング室8には2次電子が室外へ放出され易いように電位が与えられているので、容易に2次電子像を得ることができる。
このように特定した照射箇所に対してイオンビーム6を直接照射しつつエッチングガス18をクリーニング室8内に噴出させると、エッチング作用が促進され、スパッタのみによって付着膜14を除去する場合と比較して高速なエッチングが可能となる。例えば、反応性ガス18として2フッ化キセノンを用いてシリコンや、酸化シリコン等の付着膜14を除去する場合には、条件にもよるが、ガリウムイオンビームのみによるスパッタ速度と比較して約2〜3倍ほどエッチング速度を増大させることが可能である。
また、スパッタのみによるクリーニング方法では、クリーニング対象が金属を含む場合、周囲にスパッタ物が飛散し、金属汚染を発生させる。しかし、本実施の形態ではクリーニング室8内でスパッタリングを行うので、金属汚染となるスパッタ物が周囲に飛散することを抑制することができ、荷電ビーム装置内の機器等を金属汚染から保護することができる。さらに、エッチングガスを使用する場合、金属(スパッタ物)はガスと反応してガス化合物となるので、気化した状態で排気することが可能である。これによって、金属汚染の元となる物質をクリーニング室8から除去することができので、何らかの作用で金属スパッタ物がクリーニング室8から出てくる恐れを低減することができる。
ところで、上記の各場合において、荷電ビーム6の走査だけではガスノズル12の汚れを除去することが難しいときには、ガス銃11に設けられたエアシリンダ46を用いてガスノズル12を軸方向(図7中のA方向)に進退させたり、回転駆動装置121を用いて軸心周り(図7中のB方向)に回転させたりして荷電ビーム6を照射する部分を適宜変更して調整すれば良い。これにより、ガスノズル12の外周面を万遍なくクリーニングすることができる。
図8は本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置において、ガス銃11をクリーニングする他の様子を示す図である。
この図において、ガスノズル12は、図7の場合と異なり、クリーニング室8内において、荷電ビーム6の照射位置から離れたところに配置されている。このようにガスノズル12を配置して、荷電ビーム6を付着膜14に直接照射することなくクリーニング室8内に導入すると、図7のようにスパッタリング作用を相乗させるために荷電ビーム6を付着膜14に直接照射する場合と比較してエッチング速度を抑えたソフトで均一性の高いエッチングができる。なお、この方法は荷電ビーム発生源の種類(電子源、イオン源等)に限定されるものではない。
次に、EDX35を利用して、クリーニング処理の終点を検出する方法を図を用いて説明する。
図9はEDXを利用してクリーニング処理の終点を検出する様子を示す図である。図9(a)はEDXで特性X線を検出する様子を示す図であり、図9(b)はガスノズル12を上方から見た図である。
図9(a)において、ガスノズル12の荷電ビーム6照射部分からは特性X線36が放出されており、この特性X線36は照射部分の上方に設けられたEDX35に検出されている。また、図9(b)に示すように、分析精度を向上させるためにガスノズル12上に複数の検査点34を設定した。
クリーニング終点を検出する際には、高電圧(例えば30kV程度)に加速した電子ビーム6をガスノズル12上に設定した複数の検査点34に照射する。このとき各検査点34からは電子ビーム6によって特性X線36が放出されるので、この特性X線36をEDX35で検出して各検査点34における元素分析を行う。
図10及び図11はEDXによる元素分析の分析結果の例を示す図である。
図10は、タングステンカルボニルを反応性ガス18として用いたときに、SUS製(鉄、ニッケル、クロムが主成分)のガスノズル12の表面にタングステン(W)が汚れとして付着した場合における元素分析結果を示す図であり、図10(a)はタングステン除去前の、図10(b)はタングステン除去後の分析結果を示している。
図10(a)に示した分析結果は、タングステンを示すピーク部190を有し、これより低いエネルギー側には、鉄、ニッケル、クロムなどのSUSの成分が主に検出されているピーク部191を有している。これに対して、図10(b)に示した分析結果からは、図中の破線Lが示すようにタングステンを示すピーク部190は消えている。
このように、クリーニング前の元素分析とクリーニング中の元素分析を比較し、汚れに含まれる元素(タングステン)が残留している場合にはクリーニング室8でGAEを継続し、その元素が除去された場合にはその時点をクリーニング終点とする。
なお、特定X線36を検出して元素分析をする場合には、図9(a)に示すように、クリーニング対象であるガスノズル12をクリーニング室8から出して行うと良い。このようにすると、特性X線36の収量を増加させ、分析精度を向上させることができる。
一方、試料4にデポを行う場合には、反応性ガス(デポガス)18に含まれる重金属が荷電ビーム装置内の機器等を汚染することを防止するために、イオンビームにガリウムイオンビームではなくアルゴンイオンビームを用いるとともにガスノズル12をシリコン製にし、デポガス18としてシリコン、酸素、カーボン、水素の化合物であるテトラエチルオキシシラン(SiOC2H54)を用いて酸化シリコンをデポする場合がある。この場合には、シリコン製のガスノズル12に酸化シリコンが汚れとして付着する。この場合について図11を用いて説明する。
図11は、テトラエチルオキシシランを反応性ガス18として用いたときに、シリコン製のガスノズル12の表面に酸化シリコンが汚れとして付着した場合における元素分析結果を示す図であり、図11(a)は酸化シリコン除去前の、図11(b)は酸化シリコン除去後の分析結果を示している。
図11(a)に示した分析結果は、カーボン(C)及び酸素(O)を示すピーク部195を有し、これらより高いエネルギー側にシリコン(Si)を示すピーク部196を有している。これに対して、図11(b)に示した分析結果からは図中の破線Mが示すようにカーボン及び酸素を示すピーク部195は消えている。この場合も、図10の場合と同様に、ガスノズル12の母材であるシリコンのみが検出される図10(b)に示す状態になった時点をクリーニング終点と判定することができる。
次に本実施の形態の荷電ビーム装置の効果を説明する。
まず、反応性ガスによる汚れがガスノズル等に付着して発生する不具合を図を用いて説明する。
図12は荷電ビーム装置において試料に荷電ビーム及び反応性ガスを照射している様子を示す図である。
この図において、試料204に付着した反応性ガス218の分子は荷電ビーム206及び2次電子295等によって分解され、試料204面上にデポ膜213を形成する。このとき、デポ膜213は、荷電ビーム206によるスパッタ作用も同時に受けており、このスパッタ量とデポ量の差分が実際のデポ量となる。
ガスノズル212は、加工点(GAD部分)でのガス分子密度を大きくしてデポ速度を大きくするために、加工点に充分に近接させる。ノズル212の表面には、デポ膜213から発したスパッタ粒子296や、2次電子295、反射電子等が放出される。これによりノズル212の表面に付着膜(デポ膜)214が形成され、GADを繰り返し行うとその厚みが増加する。このとき、衝撃等が加わると付着膜214が剥離し、試料204上に落下すれば異物となる。
また、デポ膜213及び付着膜214が絶縁物の場合には、デポ膜213及び付着膜214上に2次電子や反射電子が溜まって帯電する。このようにデポ膜213及び付着膜214が帯電すると、荷電ビーム206がドリフトし(図中の2点鎖線)、試料204上のデポ膜213の位置がドリフトする不具合が発生する場合がある。付着膜214によるビームドリフトは、荷電ビーム206の加速電圧が比較的低い場合、かつ、デポ膜213からの2次電子及び反射電子が多く発生する条件で顕著になる。この場合について図13を用いて説明する。
図13はガスノズル212に絶縁性の付着物214が付着した場合にデポを行う様子を示す図である。図13は(a)、(b)、(c)の順に時間が経過しており、その時間経過とともに付着膜214の帯電量が多くなって、荷電ビーム206が図中の左方向にドリフトする量が多くなっている。このようにビームドリフトの量が増大すると、試料204上に形成されるデポ膜213の位置も左方向にズレてしまう。このようなデポ膜213の位置ズレがあると、デポ膜213の位置を不良部位の位置を示すマークとして使用する場合に、デポ膜213はマークとしての機能を果たさず、欠陥部の位置を正確に知ることができなくなってしまう。また、デポ膜213の高さが所望値より小さくなったり、デポ膜213の高さ(段差)が低いため、マークとして認識し辛くなるという問題も発生する場合もある。
このようにガスノズル等に付着した反応性ガスによる汚れ(付着膜)を除去する技術としては、荷電ビーム装置の試料室内を反応性ガス雰囲気としながらクリーニング対象物に荷電ビームを照射してエッチングにより汚れを除去するものがある(特許文献1等参照)。
しかし、この方法では、反応性ガスは試料室全体に供給されるため、クリーニング対象物に吸着するガス分子量が少なくなってしまい、効率良くクリーニング処理することが困難だった。そのためクリーニングの完了までに時間がかかってしまい、装置のスループットが低下する場合があった。また、この技術において、クリーニング対象物に吸着するガス分子量を増加させるために反応性ガスの供給量を増加させると、試料室内の圧力が増加することにより排気系への負荷が増加して装置トラブルが発生してしまう。さらに、この場合において反応性ガスがエッチングガスを用いると、装置内の機器へダメージを与えてしまうため、クリーニングの効率を向上させることが難しかった。さらに、クリーニングの効率が劣ると、ガスノズルを新品のものと交換する機会も増加する。ノズルを交換する際には、試料室を大気に戻してから交換作業を行う必要があり、装置の再起動に時間がかかり、装置のスループットが低下するという問題も発生する場合がある。
これに対して、本実施の形態の荷電ビーム装置は、試料室1内において、ガス銃11を挿入するためのガス供給部挿入口17、及び荷電ビーム6を導入するための荷電ビーム導入口16を有するクリーニング室8を備えている。そして、このクリーニング室8内で、荷電ビーム導入孔16を介して荷電ビーム6を導入しながら、ガス供給部挿入口17を介してガス銃11のガスノズル12を挿入し、噴出孔101から反応性ガスとしてエッチングガス18を噴出してGAEを行うことにより、クリーニング対象物であるガスノズル12に吸着する反応性ガスの分子を増加することができる。したがって、本実施の形態によれば、このようにクリーニング対象物に吸着する反応性ガスの分子を増加することができるので、反応性ガスによる汚れを効率良く除去することができる。
また、本実施の形態は、上記のようにクリーニング室8内でクリーニング処理を行うので、付着物が重金属成分を含んでいる場合にも除去物を室内に留めることができ、周辺機器が金属汚染されることを防止することができる。
さらに、本実施の形態は、制御部150によって、荷電ビーム発生源からの荷電ビーム6の照射条件、及びガス銃11による反応性ガスの噴出条件に基づいてガス銃11に付着する汚れ(付着膜14)の量を予測算出し、この予測算出値と“しきい値”とを比較することによってクリーニングの時期を操作者に知らせている。これにより、操作者は、実際に異物やマークの位置ズレ等が発生することによって事後的にクリーニングの時期を知るのではなく、こうした不具合が生じる前にクリーニング時期を知ることができる。したがって、不良品となった試料から発生していた損失を低減できるとともに、装置ダウンの時間を削減できるのでスループットも向上させることができる。
また、本実施の形態は、EDX35によってクリーニング対象物(ガスノズル12)の元素分析を行い、クリーニングの終点検出を正確に行っている。これにより、付着物14を完全に除去することができるので、異物の発生やビームドリフト等の不具合が再発することを抑制することができる。また、正確に終点を検出することができるので、クリーニング対象物の母材にまでダメージを与えることがなく、母材の寿命を長くすることもできる。
なお、上記の実施の形態においては、クリーニング室8を試料ホルダー3上に設ける場合を説明したが、例えば、試料室1内を自在に移動できる多関節アーム等の端部にクリーニング室8を取り付ける等して、試料ホルダー3等から独立したものとして構成しても良い。また、クリーニング室8の形状は上記において図示した場合のみに限られず、直方体や、四角錐、円筒等でも良く、外形は特に限定されない。これは、開口部16,17の位置についても同様で、両者を同じ面上に設けたりしても勿論良い。さらに、複数のガス銃11が設けられている場合には、これら複数のガス銃11をクリーニング室8内に導入することができるように、ガス供給部挿入口17を大きめの開口部(例えば、楕円形)としてもよい。
また、上記で図4を用いて説明した、荷電ビーム発生源が電子源である電子ビーム鏡体は、欠陥観察用走査型電子顕微鏡(以下、レビューSEMと略す)として構成しても良い。レビューSEMは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、SEMと略す)の1種であり、半導体等の生産現場で欠陥や異物等の観察に用いられる。このレビューSEMは、検査装置(光学式検査装置やSEM式検査装置等)によって得た検査結果(欠陥の座標データ等)に基づいて各欠陥を視野に含む画像(欠陥画像)と欠陥を含まない良品パターンの画像(参照画像)を自動的に取得する機能(自動レビュー(Automatic Defect Review):以下、ADRと略す)、及びこのADRによって取得した欠陥画像及び参照画像を基に各欠陥の特徴量を定量的に算出し、こうして得た特徴量と予め設定しておいた欠陥分類の基準となるデータ(教示データ)とを比較して欠陥を自動的に分類する機能(自動分類(Automatic Defect Classification):以下、ADCと略す)を有している。
このADR及びADC機能を上記の荷電ビーム装置で行うには、例えば、制御部150の記憶部に、欠陥画像及び参照画像、特徴量データ、教示データ、並びに各処理を行う際に利用するプログラム等を格納し、制御部150の処理部に欠陥画像及び参照画像を検査結果に基づいて撮像する処理、画像に基づいて特徴量を算出する処理、及び教示データに基づいて欠陥を分類する処理等を行わせると良い。
ここで、レビューSEMを用いた代表的なウェーハ検査作業の主な流れを説明する。
まず、ADRを行う際には、搬送手段(例えば、FOUP(Front Opening Unified Pod)や大気搬送ユニット等)によって試料室内に検査ウェーハを搬入する。そして、この搬入したウェーハに対して低分解能観察(レビューモード)でADRを行い、これに続いてADCを行なう。これにより、例えば、欠陥を、「剥離」、「異物」、「傷」、「塵」等の発生原因に応じて大まかに分類し、更にこれらを、「短絡」、「オープン」、「凸欠陥」、「凹欠陥」、「VC(ボルテージコントラスト)欠陥」等に細かく分類することができる。このように分類された異物、欠陥部等の形状などを更に詳細に観察する必要がある場合には、適宜、高分解能観察を行う。また、更に欠陥部等の発生原因を追及する必要がある場合には、FIB等によってウェーハの断面加工を行う場合もある。FIBによって断面加工する際には、それに先だって、電子ビームデポを利用してウェーハ上に加工箇所を示す目印(マーカー)を付ける必要がある。これらの一連の作業によって、配線のボイド、コンタクト不良などの不良原因を特定することができ、製造プロセスへのフィードバックが可能となり、製品の歩留まりを向上することができる。
次に本発明の第2の実施の形態を説明する。
図14は本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図である。
図に示す荷電ビーム装置は、ナノプローバ30と、クリーニング室8Aを備えており、その他の部分は第1の実施の形態と同じである。
ナノプローバ30の先端にはプローブ(探針)31が取り付けられており、このプローブ31を試料4上で走査させることによって、試料面の状態(例えば、試料上の欠陥部の電気特性等)を観察する。クリーニング室8Aは、第1の実施の形態におけるクリーニング室8の構成に加え、クリーニング対象物を導入するためのクリーニング対象物導入口19(図15参照)を有している。本実施の形態におけるクリーニング対象物導入口19はガス供給部挿入口17に対向して設けられている。
試料4上の欠陥の状態を観察する際には、荷電ビーム6で欠陥部周辺にマークを形成し、そのマークを目印として電子像上で欠陥部を探し、プローブ31を接触させる。観察中は、電子ビーム(荷電ビーム)6が照射されているため、電子ビーム6の照射条件や照射対象物などによって異物自体が帯電する場合がある。このとき、プローブ31の表面に電子ビームデポ等によって絶縁物が付着している場合には、プローブ31も帯電することがある。プローブ31が帯電すると、その近傍に異物32(図15参照)がある場合に、プローブ31の先端部に異物32が静電気吸着することがある。このように異物32がプローブ31の先端部に存在すると、検査対象領域以外にも異物32が接触してしまい正確な計測が困難となってしまうので、異物32を除去する必要がある。
図15は、本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置において、プローブ31をクリーニングする様子を示す図である。図15(a)クリーニング室8Aの上面図であり、図15(b)はその断面図である。
図15において、ガス銃12はガス供給部挿入口17を介してクリーニング室8A内に挿入されており、プローブ31はクリーニング対象物導入口19を介してクリーニング室8A内に挿入されている。プローブ31の先端部には異物32が付着している。このように、ガスノズル12(ガス銃11)に加えてプローブ31がクリーニング対象物となる場合にも、第1の実施の形態同様、効率良くクリーニング処理を行うことができる。
図16は荷電ビーム導入口16を介して荷電ビームを照射して得たプローブ31先端部の電子像を示す図である。図16(a)はクリーニング処理前の電子像44aを示す図であり、図16(b)はクリーニング処理後の電子像44bを示す図である。
荷電ビーム6を異物32に直接照射してクリーニングする場合には、電子像(2次電子像)を利用しながら、荷電ビーム導入口16を介して異物32が見える位置にプローブ31の位置を移動すると良い(図16(a)参照)。プローブ31の位置を決定したら、異物32の全面に荷電ビーム(電子ビーム)6が照射できるように処理領域33を指定する(図16(a)参照)。加工領域33を指定したら、ガスノズル12から反応性ガス(例えば、2フッ化キセノン)を噴出しながら、例えば加速電圧が1kVで数十pAの電子ビーム6を照射して異物32を除去する(図16(b)参照)。
以上のように、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、上記の説明においては、ナノプローバ30のプローブ31をクリーニング対象としたが、クリーニング対象はこれだけに限られない。次に、クリーニング対象が原子間力顕微鏡のカンチレバーに取り付けられたプローブの場合を本実施の形態の変形例とし、これを説明する。
図17は本発明の第2の実施の形態の変形例である荷電ビーム装置の全体構成を示す図である。
図示した荷電ビーム装置は、上記のナノプローバ30に替えて、先端にプローブ(探針)131が取り付けられたカンチレバー(片持ち梁)130を備えている。また、特に図示していないが、原子間力顕微鏡を構成するものとして、この他に、レーザー光を発生するレーザー光源と、プローブ131に照射するレーザー光の反射光の変位を測定するフォトダイオード等を備えている。
上記の荷電ビーム装置において、プローブ131が試料4の表面に近づくと、試料表面の原子との原子間力によりプローブ131が変位するので、この変位をレーザー光線の反射光を利用してフォトダイオードで計測する。試料面の表面状態(凹凸の様子)を観察する際には、フォトダイオードによって計測される変位が一定になるようにプローブ131(又は試料4)を上下させ、その変位量から試料表面の凹凸状態を検出する。
ナノプローバ30の場合と同様、観察中は、試料に電子ビーム6が照射されているため、電子ビームの照射条件や照射対象物によって、異物自体が帯電する場合がある。また、プローブ131の表面に電子ビームデポ等によって絶縁物が付着している場合には、プローブ131も帯電する。プローブ131の近傍の試料4上に異物がある場合、先端部に異物が静電気吸着することがある。プローブ131は試料4と接触させる場合と、接触させない場合があるが、いずれの場合もプローブ131表面に異物が付着していると、試料表面の状態を正確に測定することができない。したがって、プローブ131に付着した異物を除去する必要がある。
この場合も上記と同様に、クリーニング対象物導入口19にプローブ131を挿入することにより、異物を効果的に除去することができる。
なお、上記の説明ではプローブ31,131をクリーニング対象物としたが、ガス銃11が複数ある場合には、それをクリーニング対象物導入口19に挿入してクリーニングしても良いことは言うまでもない。
次に本発明の第3の実施の形態である荷電ビーム装置について説明する。本実施の形態の荷電ビーム装置の主たる特徴は2つの鏡体(ツインカラム)を備えている点にある。
図18は本発明の第3の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図である。
図に示す荷電ビーム装置は、図4を用いて説明した荷電ビーム装置と同様の構成からなるSEM46と、イオンビームを生成するイオンビーム発生源(荷電ビーム発生源)51(後述する図19参照)を内包するイオンビーム鏡体45と、クリーニング室8Aが設けられている試料ホルダー3を主に備えている。また、SEM46側には、2次電子検出器13と、試料4のアライメントを行う際に利用する光学顕微鏡49と、ガス銃11が設けられており、イオンビーム鏡体45側には、ガス銃11と、試料4からマイクロサンプル80(後述の図23参照)を摘出するマイクロサンプリングユニット(摘出手段)47と、イオンビーム鏡体45のワーキングディスタンスを一定に保持するZセンサー50が設けられている。なお、説明のため、本実施の形態における試料4は直径300mmのシリコンウェーハとする。
本実施の形態の荷電ビーム装置も第1の実施の形態同様、上記した各機器の制御等を行う制御部(図示せず)を備えている。ステージ2は、上記の各実施の形態と同様に5軸ステージであり、試料4を載せた試料ホルダー3をSEM46側、又はイオンビーム鏡体45側に適宜移動することができる。光学顕微鏡49は、試料4上のアライメント用のマークを数点検出し、試料4のアライメントを行う。
図19は図18中のイオンビーム鏡体45の内部構造を示す図である。
図19において、イオンビーム鏡体45は、イオンビームを生成するイオン源51と、イオン源51からイオンビーム66を引き出す引き出し電極(図示せず)と、イオンビーム66の径を決定するアノードアパーチャ53と、偏光器56、絞り58、照射レンズ59、及び投射レンズ64等から構成され、イオンビーム66を試料4上の所望の位置に所望の径で照射するイオンビーム光学系(荷電ビーム光学系)300を備えている。
イオンビーム発生源(イオン源)51としては、試料(ウェーハ)4を金属汚染しない種類のイオンビーム(非汚染イオンビーム)を放出するものが好ましく、例えば、アルゴンイオンビームを放出するデュオプラズマトロンが適する。また、その他のものとしては、不活性ガスイオン源、酸素若しくは窒素ガスイオン源、デュオプラズマトロンイオン源、電子サイクロトロン共鳴プラズマ源、誘導結合プラズマ源、又はヘリコン波プラズマ源等がある。イオン源51はガイシ52を用いて電位的に30kV程度浮かせた。イオン源51は、イオン源カバー54に覆われており、このイオン源カバー54によって空気絶縁されている。
イオンビーム光学系300は、イオン源51から引き出したイオンビームから必要なもの(アルゴンイオンビーム)を選択する質量分離器55と、中性粒子(金属スパッタ等)を取り除くためにイオンビームを偏向する偏光器56と、イオンビーム66の必要な部分だけを取り出す絞り58と、絞り58で絞られたイオンビーム66を集束する照射レンズ59と、イオンビーム66の必要な部分だけを取り出す絞り投射マスク60と、非点収差を補正する非点補正コイル61と、イオンビーム66の位置ズレを補正するアライメントコイル62と、イオンビーム66を試料4上で走査する偏向コイル63と、投射マスク60を通過したイオンビーム66を集束する投射レンズ64等を備えている。
イオン源51内から発生する金属スパッタ物などの中性粒子が直接試料4に到達しないようにする為、イオン源51は鏡体45の下流側の中心軸に対して例えば数度傾斜されている(図19参照)。中性粒子はイオン源51から直進してダンパー(図示せず)に照射される。なお、この図示しないダンパーはスパッタ粒子による金属汚染を防止する為に、シリコン、カーボン等で製作すると良い。
質量分離器55の電極印加電圧及び磁束密度強度は、質量分離器55がイオン源51から引きだされたイオンビームからアルゴンイオンビームのみを選択するように調整されており、偏向器56の電極印加電圧は、偏向器56が曲げるイオンビームが絞り58を介して試料4に照射されるように調整されている。
試料室1とイオンビーム鏡体45の間には、これらを分離するガンバルブ(図示せず)が設けられている。この図示しないガンバルブは、メンテナンス時等に試料室1のみをリークしたい場合等に使用される。偏向コイル63は、投射マスク60を通過した観察用の円形イオンビームを試料4上に走査するものである。次に投射マスク60について詳述する。
図20は投射マスク60の上面図であり、図21はその部分拡大図である。
図20において、投射マスク60には、試料4からマイクロサンプル80(後述する図23参照)を摘出する際に利用するスリット孔71(71a,71b)と、試料を薄膜加工する際に利用する縦・横のアスペクト比が比較的大きなスリット孔72と、デポ用のスリット孔73と、観察ビーム用の丸型孔74(74a,74b)が開けられており、これら各孔を通過したイオンビームのみが投射レンズ64によって集光され試料4上に照射される。マイクロサンプル80を摘出するためのスリット孔71は、コの字型のスリット71aと、一文字型のスリット71bを有しており、これらはマイクロサンプル80を摘出する際に適宜使い分けられる。また、これと同様に、丸型孔74も径の異なる大小2種類の孔74a及び74bを有している。
投射マスク60は、駆動ユニット(図示せず)によってイオンビーム軸とほぼ垂直に交わる方向(即ち、水平方向)に移動させる事が可能で、上記の種々の孔を介してビーム形状を変更して試料4に投射することができる。なお、この図では、スリット孔は各種1個ずつ設けられているが、同種のものを複数個設けて適宜使い分けることにより投射マスク60の寿命を長くする工夫をしても良い。また、投射マスク60は金属汚染を防止する為にシリコン製にするのが好ましい。
図21は、投射マスク60に非汚染イオンビーム66が照射されている様子を示している。マイクロサンプリング摘出用のスリット孔71aの寸法は、図中に示すように、例えば、0.4×0.5mm程度であり、このスリット孔71aの全面を覆うようにイオンビーム66が照射されている。これによりイオンビーム66の形状をスリット孔71aと同じコの字型にすることができる。
上記のように構成されるイオンビーム鏡体45は、主に試料の断面加工に用いる投射モードと、主に試料の電子像を得る際に用いる観察モードの2種類のビームモードを有している。次にこれら各モードにおけるイオンビーム光学系光学系300の構成を説明する。
図22はイオンビーム鏡体45内のイオンビーム光学系光学系300による2つのビームモードを示す図であり、図中の(a)が投射モードを示し、(b)が観察モードを示す。
図22(a)に示した投射モードでは、照射レンズ59はアノードアパーチャ53からの像を投射レンズ64の主点で結像するように調整されている。この調整は、3枚組のバトラーレンズで構成される照射レンズ59のうち、中央のレンズに高電圧を印加することによって行う。投射レンズ64は投射マスク60からの像を試料4上に結像している。この投射レンズ64も同じく3枚組みのバトラーレンズで形成されており、中央の電極にのみ高電圧を印加させて利用する。
一方、図22(b)に示した観察モードでは、照射レンズ59はアノードアパーチャ53からの像を投射マスク60の上流側で一度結像させ、その結像させたものを投射レンズ64によって試料4上に再度結像させている。これにより、像の縮小率を投射モードの約1/30にすることができ、最小径が0.1〜0.2μm程度のビームを得ることができる。このビームを偏向コイル63によって試料4上をスキャン(走査)させることで、投射モードと比較して分解能が高い2次電子像を得ることができる。
図23は試料ホルダー3(図2参照)上に配置されたカートリッジ機構部75を示す図である。
図示したカートリッジ機構部75は、試料4から摘出したマイクロサンプル80が接着されているメッシュ82を有するカートリッジ81と、カートリッジ81を軸方向(図中の矢印C方向)に進退可能に保持するカートリッジホルダ83と、カートリッジホルダ83に回転動力を伝達する歯車84を備えている。
マイクロサンプル80は、上記の投射モードでイオンビーム66を試料4に照射することにより得られるものであり、適当な形状及び大きさ(例えば、10μm程度)に成形されている。また、マイクロサンプル80は、カートリッジ81のメッシュ82にデポによって接着されている。試料4から摘出したマイクロサンプル80をこのようにメッシュ82上に搭載するには、マイクロサンプルプローブ(プローブ)48のマイクロサンプル80との接触部を非汚染イオンビームによって切断すれば良い。
カートリッジ81はカートリッジホルダ83と脱着可能に取り付けられており、装置外にカートリッジ81のみを取り出すことができる。
カートリッジホルダ83は、試料ホルダー3に設けられた駆動装置(図示せず:例えば、モータ)によって回転される歯車84によって、図中の矢印Dが示すように、正及び負の方向へ180度回転駆動される。この回転機構で適宜カートリッジホルダ83を回転させることによって、マイクロサンプル80の加工に適した角度にカートリッジ81を保持することができる。例えば、マイクロサンプル80に薄膜加工を施す場合には、イオンビームの出射軸方向と薄膜化する方向を調整することができる。
プローブ48はシリコンで製作することが好ましく、シリコンで製作すればタングステン製のもの等と比較して金属汚染の心配が少ない。なお、プローブ48は、シリコンの他にも、例えば、カーボンや、ゲルマニウム等で製作しても良い。
上記のように構成される荷電ビーム装置において試料4面上を観察する場合には、ステージ2によって試料4をSEM46側に移動させ、SEM46によって電子ビーム19を試料4に照射し、ボルテージコントラスト(VC)によって欠陥部を見つける。例えば、コンタクト部を観察する場合にコンタクト不良があるとその欠陥部は暗く観察される。これは、コンタクト不良によって、照射した電荷がアースに流れにくくなることで欠陥部が正に帯電し、2次電子がこれにトラップされることにより2次電子検出器16に検出される2次電子量が低下する為である。
このようにVCによって検出した欠陥部(例えば、コンタクトホール)の大きさは数十nmと小さく、更に詳細な観察をするためには、イオンビーム鏡体45で試料4を加工してから、TEM等で観察する必要がある。イオンビーム鏡体45によって加工するには、SEM46によるGADで試料4に加工点の目印(マーク)をつける必要がある。GADを実施する際には、SEM46側に取り付けられたガス銃11を利用する。
図24はGADによってマーク形成した後の試料4の電子像94を示す図である。
図示した電子像94は、周りの正常なコンタクトホールと比較して暗く観察される欠陥部96と、欠陥部96の両側に所定の間隔(例えば、数μm程度)を介して形成されている2つのマーク97を有している。このマーク97は、デポ速度を最大にする為、電子ビーム加速電圧を比較的低加速電圧(例えば、1kV程度)とし、数十pAの電子ビームを照射して数μm角のマークを数分間の電子ビーム照射で形成した。
次に、ステージ2によって、欠陥部を非汚染イオンビーム鏡体45直下に移動させる。このとき、ステージ2の位置精度で位置合わせできない場合には、試料4上のマーク97のSIM像との位置関係を基に欠陥部96を探す。
続いて、投射モード(図22(a)参照)で投射マスク60のスリット孔71等を介してイオンビーム66を試料4に照射し、試料4から欠陥部96及びマーク97を含むマイクロサンプル80(図23参照)を形成する。このようにして形成したマイクロサンプル80をマイクロサンプリングプローブ48(図23参照)を利用して試料4から摘出し、カートリッジ機構部75のメッシュ82(図23参照)に接着する。
図25はメッシュ82に搭載したマイクロサンプル80をTEM試料用に薄膜化する様子を示す図である。
薄膜化加工は図22(a)に示した投射モードで行う。投射モードでは、前述のように、薄膜化加工を行う領域を指定するために充分な分解能が得られ難いので、まず、図22(b)に示した観察モードで薄膜化位置を決定する。なお、観察モードでのビームと投射モードでのビームとでは、上記のようにそれぞれ光学条件が異なっており、軸ズレによるビーム位置ズレが発生する場合がある。このような場合には、観察モードでの加工位置指定で予めこのズレ量を実測で求めておき、そのズレを補正して薄膜化する加工領域を指定する事で薄膜化加工を行うと良い。
マイクロサンプル80を薄膜化する際には、イオンビームを投射マスク60の薄膜化用のスリット孔72(図20参照)に通過させ、偏向コイル63によってスキャンさせることなく、投射レンズ64でマイクロサンプル80上に直接結像させる。薄膜化する断面をシャープな加工面とするには、図23で示したように、スリット孔72の長軸方向(図25中のY方向)をマイクロサンプル80の長軸方向(Y方向)に一致させると良い。このようにすれば、ビーム中心近傍ほど球面収差などの収差を小さくできるので、加工面をよりシャープにすることができる。こうした薄膜化加工を繰り返し、薄膜化が完了したマイクロサンプル90を得る。
こうして得たマイクロサンプル90を利用して、より高分解能の透過電子像を得ることができる。この場合には、例えば、図23に示したカートリッジホルダ83の回転機構によってカートリッジ81を90度回転させ、ここに高電圧(200kV程度)を印加して加速された電子ビームを照射し、透過したビームを検出器により検出することによって電子像を得ることができる。
上記の作業を行う場合も、GADによってガス銃11に付着物が付いたり、プローブ48に異物が付着したりする恐れがあるので、これらを適宜除去する必要がある。しかし、この場合にも、上記の実施の形態同様、試料ホルダー3上に設けたクリーニング室8Aを利用することで、効率良くクリーニング処理を行うことができる。したがって、本実施の形態にも上記の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
次に、本発明の第4の実施の形態である荷電ビーム装置について説明する。本実施の形態の荷電ビーム装置の主たる特徴は、試料4上で2つの鏡体の中心軸が交差する点にある。
図26は本発明の第4の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図である。
図に示す荷電ビーム装置は、SEM46の中心軸の延長とイオンビーム鏡体45の中心軸の延長とが試料ホルダー3に固定された試料4上で交差するように構成されている。即ち、本実施の形態は第3の実施の形態のようにステージ2を移動させなくてもSEM46、イオンビーム鏡体45から荷電ビームを照射することができるものであり、例えば、イオンビームによる加工面を電子ビームでそのまま観察する事が可能となる。この荷電ビーム装置においても、試料ホルダー3上にクリーニング室8Aが設けられている。
このように構成される荷電ビーム装置は、第2の実施の形態のものと比較して、荷電ビーム鏡体、ガス銃、マイクロサンプリングユニット等を集約して配置することができ、コンパクトな装置を構成できる点が優れている。
このように構成された荷電ビーム装置においても、クリーニング室8A内でガス銃11等をクリーニングすることができるので、上記の実施の形態同様の効果を得ることができる。