以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る荷電粒子線加工装置の概略構成図である。
図1に示した荷電粒子線加工装置は、試料13を搭載し保持するホルダ4と、イオンビーム(荷電粒子線)2を発生させるイオン源(荷電粒子線発生源)1と、イオン源1より出てきたイオンビーム2を加工点まで導く加工光学系(荷電粒子線光学系)を含むイオンビームカラム3と、ホルダ4を5軸方向に駆動するステージ5と、試料室6と、FOUP(Front Opening Unified Pod)・大気搬送ユニット(図示せず)・搬送室(図示せず)・試料室6等を排気する排気系(図示せず)と、イオン源用ガス(荷電粒子線原料ガス、後述)をイオンビームカラム3に供給するガス供給系7と、イオンビーム2を照射した際に試料13の表面で発生する2次電子を検出する2次電子検出器(SED)8と、試料13からマイクロサンプル(微小試験片)を摘出するマイクロサンプリングユニット9と、本荷電粒子線加工装置に搭載された対応の各機器を制御する複数の制御系(図示せず)と、荷電粒子線加工装置全体を制御する中央制御装置10と、GUI(Graphical User Interface)等の操作画面を有する操作卓14と、イオンビーム1のビームスポット(加工点)及びその近傍にGAD(Gas Assisted Deposition)用ガスを供給するガス銃11とを備えている。高速穴加工を行うためにGAE(Gas Assisted Etching)用ガス銃を追加しても良い。ここでいう試料13は、代表的にはウェーハが挙げられるが、それ以外にも磁気ヘッドや液晶等が含まれる。次に各部位について順次説明していく。
試料室6は、ターボ分子ポンプ・ドライポンプ・排気バルブ(いずれも図示せず)等で構成される図示しない排気系と接続されており、内部にガスを流さない状態で10〜5Pa程度の高真空度にすることができるようになっている。試料室6には、ロードロック室・大気搬送ロボット(いずれも図示せず)等が有り、これによって試料13等は試料室6に搬入・搬出される。
ステージ5は、X,Y軸方向(水平方向)及びZ軸方向(垂直方向)に移動する他、R方向(回転方向)に回転したり、T方向(チルト方向)に傾斜したりすることができるようになっている。ステージ5のチルトは、イオンビーム2によるスパッタ加工後の試料13の断面観察、マイクロサンプルの試料13からの摘出のとき等になされる。チルトに伴う軸ズレは適宜補正して視野ズレを抑制する。X,Y軸への駆動には、ボールネジとナット・DCモータ・エンコーダを使用している。例えば、試料13にφ300のウェーハを使用した場合、X,Y軸方向の移動距離(約320mm)を数秒で移動する。試料13の位置決めにはレーザを使用しており、精度は例えばサブマイクロメートルオーダーである。Z軸方向への駆動には、クサビ構造を採用しており、サブミクロンオーダーの位置出し精度を有する。
操作卓14は、GUI操作画面、SEM像、SIM像等を表示する表示部、キーボードやマウスなどの入力部等で構成されている。
2次電子検出器8は、正電位に印加されたシンチレータ(図示せず)を内部に備えている。イオンビーム2が照射されて試料13の表面から放出される反射電子や2次電子は、シンチレータの電界で引き寄せられ、加速されてシンチレータを光らせる。シンチレータの発する光は、ライトガイド(図示せず)に導かれて光電子倍増管(図示せず)に入射し、電気信号に変換される。検出された電気信号は加工光学系によるイオンビーム2のスキャンと同期され、これにより加工点の2次電子像が生成される。
マイクロサンプリングユニット9は、X,Y,Z軸方向の3軸方向に移動可能な構造となっている。試料13より欠陥部位を摘出し、これをメッシュ89(後述の図19参照)に搭載するために各軸の駆動移動距離は数mm程度確保されている。マイクロサンプリングユニット9の駆動には、リニアアクチュエータ・ピエゾ素子等が用いられ、サブマイクロメートルオーダーの位置精度でプローブ15を操作することができる。プローブ15は例えばタングステン製であり、先端部の曲率半径が1μm以下の先鋭な形状をしている。タングステンの金属汚染が問題となる場合、プローブ15をシリコンやカーボン、ゲルマニウム等で製作しても良い。
ガス銃11はガスノズル12を備えており、GADの時にはエアシンダーによってガスノズル12が退避位置から試料13の加工点近傍(加工点から数百μmの高さ)に移動する。ガスノズル12が退避位置から加工点近傍に移動するのに要する時間は数秒程度である。ガスノズル12から噴き出すデポジションガスには、例えばタングステンカルボニル(W(CO)6)を使用する。タングステンカルボニルは固体からガス化する温度(昇華温度)以上に加熱され、集束イオンビーム(Focused Ion Beam、以下、適宜FIBと略する)が照射されると分解されてタングステンの膜を形成する。タングステン等の金属汚染が問題となる場合、例えば、フェナントレン等のカーボン系のガスや酸化シリコン膜を生成するオルトケイサンテトラエチルTEOS等を用いることができる。
ガス供給系7は、イオン源1に供給する種類の異なる荷電粒子原料ガスX(荷電粒子線原料ガス)をそれぞれ充填した複数(本例では2本)のガスボンベ22A,22Bと、ガスボンベ22A,22Bからの荷電粒子線原料ガスをイオン源1に導入するガス導入配管30と、ガスボンベ22A,22Bからの荷電粒子線原料ガスをそれぞれ流通/遮断するストップバルブ23A,23Bと、ガスボンベ22A,22Bからの荷電粒子線原料ガスの流量をそれぞれ調整する流量調整バルブ24A,24Bと、ストップバルブ23A,23Bの開閉及び流量調整バルブ24A,24Bの開度調整をするバルブコントローラ25とで構成される。
本実施の形態の場合、ガスボンベ22A,22Bには、それぞれ酸素ガス、アルゴンガスが充填されている。ガス供給系7がイオン源1に供給する荷電粒子線原料ガスは2種に限定されるわけではなく、3種以上の荷電粒子線原料ガスを供給する構成としても良い。酸素ガスやアルゴンガスの他に、窒素ガス、クリプトンガス、キセノンガス、ネオンガス等も用いることができる。また、ストップバルブ23A,23Bは、流量調整バルブ24A,24Bで流量を0にできない場合は遮断用に必要だが、流量調整バルブ24A,24Bで流量を0にすることができる場合は省略しても良い。
特に図示していないが、本荷電粒子線加工装置は試料13の高さを計測するZセンサーを有しており、試料13の高さをサブマイクロメートルオーダーの精度で計測可能であり、この計測結果とステージ5のZ方向への駆動機能を用いて、試料13とイオンビームカラム3との距離を一定にすることが可能である。また本荷電粒子線加工装置には、図示しない光学顕微鏡が備えられており、試料13のアライメント等に使用される。
図2は図1に示したイオン源カバー19の内部構造図である。
図2において、アース電位のイオン源カバー19に対してイオン源1は約30kVの加速電圧が印加されるため、イオン源カバー19とイオン源1の間には気中絶縁するために少なくとも40mmの空間が介設されている。ガス供給系7はイオン源1に接続しており、ガス導入配管30内を流れてきた荷電粒子線原料ガスはイオン源1に供給される。ガス供給系7はアース電位としているため、イオン源1との絶縁のためにイオン源1との間にガイシ17Aを介設している。同様に、イオンビームカラム3との絶縁のためにイオンビームカラム3との間にガイシ17Bを介設している。イオン源1にはデュオプラズマトロンを用いている。デュオプラズマトロンの他には、ヘリウム、アルゴン等のガスフェーズ電界電離イオン源、誘導結合型のプラズマイオン源、電子サイクロトロン共鳴型プラズマイオン源なども使用できる。
バルブ23A,23B,24A,24Bを制御してガス供給系7からの荷電粒子線原料ガスをイオン源1に流し、イオン源1内のガス圧を数Torrにしてホローカソード31とアノード32の間に直流電圧を印加すると、ホローカソード31とアノード32の間にグロー放電が発生し、イオンはホローカソード31に、電子はアノード32に加速され、電極に衝突して2次電子が発生する。これらの電子はアノード32に衝突する前に荷電粒子線原料ガスを電離してイオン化する。電子及びイオンは磁石35による磁場によって閉じ込められ、高密度プラズマを発生する。このプラズマから、アース電位の引き出し電極33の電界によりイオンビーム2を引き出す。中間電極34はメガオームの抵抗を介して加速電源(図示せず)と接続されており、イオンビーム電流値は、主にバイアス電極29のバイアス電圧(加速電圧に対して負の電位を付加した電圧)を変化させて調整する。
アノード32のイオンビーム2を通す穴径は数百μmと小さくコンダクタンスが小さいため、イオン源1内の荷電粒子線原料ガスをアノード32の穴からイオンビームカラム3側に抜くには長時間を要する。そこで、イオン源1からイオンビームカラム3(引き出し電極33よりも下側)にアノード穴よりもコンダクタンスが大きなバイパス流路を設け、バイパス流路の途中にバイパス流路を開閉するバイパスバルブ18を設けている。これにより、ガス供給系7からの供給ガスをガスボンベ22Aの荷電粒子線原料ガスからガスボンベ22Bの荷電粒子線原料ガスに切り換える場合(又はその逆の場合)、閉状態のバイパスバルブ18を開放し、イオン源1内の荷電粒子線原料ガスをイオンビームカラム3に排出し、短時間でイオン源1内の荷電粒子線原料ガスの種類が置換できるようになっている。イオン源1の内部のガス導入時/非導入時の真空度は真空計36により計測される。真空計36はイオン源1内に導入される荷電粒子線原料ガスに対する耐性を有している。
図3はイオンビームカラム3の内部構造図である。
イオンビームカラム3内の加工光学系は、質量分離器40、偏向器41、絞り42、照射レンズ43、投射マスク44、非点補正器45、偏向器46、投射レンズ47の他、図示しないアライメントコイル、ブランカー、ファラディーカップ等で構成されている。
イオンビームカラム3は、イオン源1内から発生する金属スパッタ物等の中性粒子が試料13に直接到達しないようにするため、図3のように屈曲し数度傾斜した構成となっている。中性粒子は図示しないダンパーに照射される。このダンパーはスパッタ粒子による金属汚染を防止するために、シリコンやカーボン等で製作されている。
イオン源1から引き出されたイオンビーム2の中から必要なイオンビームのみが質量分離器40により取り出され、偏向器41によって数度曲げられる。また試料13が置かれる試料室6とイオンビームカラム31の一部とを分離するためにガンバルブ(図示せず)が設けられている。このガンバルブは、例えば試料室6のメンテナンス時に試料室6のみをリークしたい場合等に使用される。偏向器46は、例えば8極子が使用され、投射マスク44を通過した観察用の断面が円形のイオンビームを試料13上に走査するために使用される。
図4は投射マスク44の概観図である。
図4に示すように、投射マスク44には、マイクロサンプル摘出用のコの字形の開口50A、一文字状の開口50B、主にデポジション用の矩形の開口50C、主にプローブ接着用の比較的大きな円形の開口50D、主に観察用の比較的小さな開口50E、薄膜化加工用の縦/幅のアスペクト比が比較的大きな開口(図示せず)などが開けられており、この穴を通過したビームのみが投射レンズ47によって集光され試料13上に照射される。投射マスク44は、金属汚染を防止するためにシリコンで製作されている。以下、開口50A〜50Eを通過したイオンビームをそれぞれO−700,O−500,O−200,O−100,O−20と呼ぶことにする。
図5は投射マスク44にイオンビーム2が照射されている様子を示す図である。
投射マスク44を使用してイオンビーム2の断面を形成する場合、投射マスク44を通過した後のビーム電流を最大化し、ビーム欠けが生じないようにするために、イオンビーム2は投射マスク44の目的の開口に外接するようにサイズ及び位置が調整される。図5では、投射マスク44に各種開口が1つずつ設けられている場合を例示しているが、同一形状の開口を複数設けて投射マスク44の超寿命化を図っても良い。
図6は加工光学系による2種類のビームモードの模式図である。図6(a)は投射モードのイオンビーム、図6(b)は観察モードのイオンビームを表している。
図6(a)の投射モードでは、収差を小さくしてシャープな加工形状を得るためにアノード32のアパーチャ像が投射レンズ47で結像するように照射レンズ43を調整している。照射レンズ43及び投射レンズ47は、例えば3枚組のバトラーレンズで構成されており、投射マスク44の像を投射レンズ47で試料13に結像させている。照射レンズ43、投射レンズ47の印加電圧は、それぞれ例えば約9kV、約20kVであり、縮小率は例えば約1/16である。
図6(b)の観察モードでは、投射マスク44のイオン源1側で一度結像させ、この像を投射レンズ47で試料13に再度結像させている。このため、像の縮小率は投射モードの例えば1/30程度にでき、ビームスポットの径を最小で例えば数十nm程度にすることができ、このビームを偏向コイル46によってスキャンすることで投射モードと比較して分解能の高い2次電子像が得られる。観察モード時の照射レンズ43及び投射レンズ47のそれぞれの印加電圧は、例えば約23kV、20kVである。
なお、本発明は、図1に示したようなFIB装置に限らず、図7や図8のようなFIB−SEMも適用可能であり、図7や図8に示したFIB−SEMにガス供給系7を設けることで本発明の荷電粒子線加工装置を構成することができる。図7及び図8ではガス供給系7が図示省略されているが、その他の図1と同様の部分又は同様の役割を果たす部分には同符号を付して説明を省略する。
図7に示したFIB−SEMは、図1に示した荷電粒子線加工装置に対し、イオンビームカラム3による加工点を観察点としたSEM(scanning electron microscope)53を追加した構成と実質的に等しい。この場合、イオンビームで試料13を加工しながらその加工面をリアルタイムで鮮明に観察することができるメリットがある。それに対し、図8に示したFIB−SEMは、SEM53の観察点とイオンビームカラム3による加工点が離間しており、ステージ5はSEM53の観察点とイオンビームカラム3による加工点の間を移動するようになっている。この場合、SEM53とイオンビームカラム3の干渉を考慮せずに両者の設置スペースを確保することができるので、図7の構成例に比べてSEM53やイオンビームカラム3を試料13に接近させることができ、分解能の高い観察像を得ることが可能となる。
図9A及び図9Bは、図8に示した荷電粒子線加工装置を用いて試料の欠陥部を摘出し欠陥を摘出した試料をラインに戻すまでの一連の手順を表したフローチャートである。図9A及び図9Bのフローでは、例えばチップのプラグ部の接触不良等の欠陥部をSEMで見つけ、その欠陥部を含むマイクロサンプルをイオンビームで加工して摘出し、サンプリング後の試料の加工穴を穴埋めしてラインに戻す。以下に図9A及び図9Bに表した主な工程について詳細を説明する。
(1)検査装置との座標リンケージ
この工程に至る前に、電子式検査装置、BF(Bright Field)検査装置、DF(Dark Field)検査装置等によって試料13の欠陥部を検査し、レビューSEMによって欠陥が分類されている。その際、レビューSEMにおいては、先ず低分解能観察(レビューモード)によりADR(Automatic Defect Review、自動欠陥レビュー)を行ない、次にADC(Automatic Defect Classification、自動欠陥分類)を行なう。欠陥の種別を剥離、異物、傷、塵等に分類し、更にこれらを短絡、オープン、凸欠陥、凹欠陥、VC(ボルテージコントラスト)欠陥等に分類する。欠陥情報としては、欠陥の存在する座標値、欠陥の種類、欠陥部のSEM像等がある。
このようにしてレビューSEMで取得された検査情報を基にして、図8の荷電粒子線加工装置により欠陥部位をマイクロサンプリングし、欠陥を観察・解析する。そのためには、本工程(S101)において試料13の欠陥部位を正確にイオンビーム2の加工点に合わせる必要があり、欠陥情報を取得した別装置(レビューSEM)と座標原点等を合わせなければならない。これには座標リンケージと呼ばれる操作を行うことによって数μm以内の誤差で座標位置合わせが可能となる。
(2)試料、カートリッジ搬入
試料13はφ300のシリコンであり、カートリッジは試料13から摘出したマイクロサンプルを荷電粒子線加工装置の外部に取り出すためのものである。
図10はホルダ4の斜視図である。
図10において、ホルダ4にはカートリッジホルダ55が取り付けられており、カートリッジ54はカートリッジホルダ55に対して着脱可能な構造となっている。カートリッジホルダ55は図示しない回転機構部によって軸方向回りに回転可能である。本工程では、図示しない試料搭載機及びカートリッジ搭載機によって、ロードロック室に配置したホルダ4上に試料13及びカートリッジ54を搭載する。ロードロック室は図示しない排気系によって真空排気されている。ロードロック室に待機したホルダ4は、試料13及びカートリッジ54が搭載されたら、ステージ5によって試料室6内のSEM53による観察点に移動する(S102)。
(3)SEMによる欠陥部探索
この工程(S103)では、レビューSEMとの座標リンケージによって数μm程度の位置誤差で欠陥部をSEM53の視野内に移動させる。正確な位置合わせは、欠陥部の位置を示す特徴点から目視等で探すことが可能である。
(4)電子ビームによるデポ
図11は欠陥部のSEM像57を示す図である。
図11に示したSEM像57のように、プラグ58などの欠陥部は、VC(Voltage Contrast)で観察すると正常部と比較して比較的黒く見える(欠陥部59)。
ここで、ガスイオンビームのプラズマ源の輝度は、FIB装置で一般的に使用されている液体金属イオン源であるガリウムイオン源と比較してかなり低い。一方、S/N比の大きい鮮明な画像を得るには2次電子量を確保する必要があるため、ガスイオンビームの場合、最小ビーム径は比較的大きくする必要があり、分解能の低い電子像になる。一般にガスイオンビームのビーム径は最小でも数十nm程度で、直径が数十nm程度のプラグ58の鮮明な高倍率画像をガスイオンビームで得ることは至難である。
そのため、本工程(S104)において、SEM53で欠陥部を確認してその近傍に電子ビームによるデポジションで数μm程度のマーク60を形成し、ガスイオンビームでも容易に欠陥部の位置検出ができるようにする。図11では、欠陥部59の左右にマーク60を形成した状態を表している。ここでは、デポ速度を最大にするため、電子ビーム加速電圧を比較的低加速電圧(1kV程度)に設定し、数十pAの電子ビームを照射して一辺が数μmの四角いマークを数分間の電子ビーム照射で形成した。本工程の完了後、ステージ5を駆動してホルダ4をイオンビーム加工点に移動させる(S105)。
(5)ガスA導入
本工程(S106)では、ガスボンベ22A内の荷電粒子線原料ガスA(酸素ガス)をイオン源1に導入する。このときの流量調整バルブ24Aの開度は、酸素イオンビームを大電流で安定して取り出せる条件となるように予め設定された開度に調整されており、ストップバルブ23Aを閉状態から開放すると、ガス導入配管30を介して酸素ガスがイオン源1に流入する。
ガスA導入の工程の後、30kVの加速電圧を印加し、ホローカソード31及びバイアス電極29に所定の電圧を印加する。アノード32は加速電圧となっている。引き出し電極33はアース電位であり、加速電位との電界によってイオンビーム2が引き出される。そして、イオンビーム2のビーム径に開口50Eが収まるように投射マスク44を位置合わせする(S107)。試料13面上のイオンビーム2のビーム径は、例えば百nm程度である。このビームを偏向コイル46によって走査しSIM観察像を得る。
(6)保護膜形成
本工程(S108)では、SIM像観察時のスパッタリングによる欠陥部の欠落を防止するために、試料13の各欠陥部59の上面に保護膜を形成する。
ここで、図12は操作卓14の表示画面を示した図である。
図12に示した表示画面63には、アラーム表示部64と、ビームフォーカス・コントラスト・ブライトネス・加工操作中のビーム電流・加工時間等を表示するビームパラメータ表示画面部65と、ジョブ・システム・レシピ・ダイアログ等の操作を選択するナビゲーション画面部66と、加工プロセスを指定する加工操作画面部67とが表示されている。
図13は保護膜形成領域を指定する際の加工操作画面部67を示した図である。
図13に示したように、加工操作画面部67には、加工スタートボタン70、現在使用している荷電粒子線原料ガスの種類を示すガス種表示灯71、プロセスを選択するプロセス選択領域61、試料観察像を表示するモニタ画面部68、ビーム種を指定するボタン69、モニタ画面部68の表示を切り替える表示選択領域62、加工条件を入力する加工条件入力部73が表示されている。
プロセス選択領域61には、穴加工を指令する穴加工ボタン61a、保護膜形成・接着作業を指令する保護膜・接着ボタン61b、穴埋めを指令する穴埋めボタン61cが表示されている。表示選択領域62には、モニタ画面部68の表示を光学式顕微鏡像に切り換える光顕ボタン62a、SEM像に表示を切り換えるSEMボタン62b、SIM像に表示を切り換えるSIMボタン62c、編集ボタン62dが表示されている。加工条件入力部73には、穴加工用ビームのスキャン幅の指定欄73a、スキャン方向の指定欄73b、加工時間の指定欄73cが表示されている。これら指定欄73a〜73cには、例えば穴加工のプロセスの際に必要な数値を入力する。
図13では、荷電粒子線原料ガスの種類はA(酸素ガス)、プロセスは“保護膜・接着”を選択し、モニタ画面部68の表示を編集画面に切り換えた場合を示している。モニタ画面部68には、予定の保護膜形成領域72を示す長方形が表示されている。この保護膜形成領域72は、プロセスにおいて保護膜・接着ボタン61bを押すとモニタ画面部68上に表示されるもので、オペレータは、表示された保護膜形成領域72の位置を調整し、保護膜を形成する。
このとき、モニタ画面部68の保護膜形成領域72と実際のデポ領域とが一致するように、投射マスク44の開口50Eと開口50Cによるイオンビーム位置は偏向コイル46によって予め調整されている。他の開口についても、開口50Eによるイオンビーム2の位置を基準に事前に全て調整されている。
保護膜形成用のGADガスとしては、タングステンカルボニル(W(CO)6)が使用できるが、金属汚染を予防するためには、酸化シリコン膜を形成するTEOSやカーボン系のフェナントレン等を使用することができる。
加工スタートボタン70を押すと、ガス銃11のガスノズル12が退避位置から加工点に接近し、ノズル12からGADガスが噴射される。次に、投射マスク44は開口50Eから開口50Cに切り替わり、開口50Cを通過したイオンビーム(プロジェクションビーム)2が試料13に投射され、GADガスとの反応により保護膜形成領域72にデポジション膜が堆積する。イオンビーム2はスキャンせず、デポ中は常に同じ位置に停留する。例えば1分程度で1μmのデポジション膜が形成される。デポジション膜形成後のSIM像を図14に示す。図14中の75が保護膜である。
なお、このようにして投射マスク4により断面を形成したプロジェクションビームにより試料を加工するのとは別に、保護膜形成領域72にイオンビーム2をスキャンして保護膜を堆積させることも可能である。
(7)ビームAによる穴加工1
プロセス選択領域61の穴加工ボタン61aを操作すると、図14中に示したようなコの字状の加工領域76が表示される。オペレータはモニタ画面部68内で加工領域76を所定の位置に移動させて加工位置を決め(S109)、荷電粒子線原料ガスAによるイオンビーム2(ビームA)でコの字型の穴加工を実行する(S110)。コの字型の穴加工時には、イオンビーム2のビーム径内に開口50Aが収まるように投射マスク44を位置合わせする。
図15は投射マスク44を開口50Aに合わせてコの字型のプロジェクションビームを取り出して試料13を加工している様子を示した図である。図15では図3に示す加工光学系の一部を図示している。
コの字型の穴加工は、例えばビーム電流を100nA程度に設定し加工速度が1μm/分程度となるとして数分間行なう。イオンビーム2は照射レンズ43によって集束し、投射マスク44に照射される。投射マスク44の開口50Aを通過したイオンビームのみが投射レンズ47によって試料13上に結像する。このとき、イオンビーム2は水平方向に対して約45°に傾斜している(イオンビームカラム3に対して試料13が45°傾くようにステージ5をT軸回りに傾斜させてある)。
加工後、イオンビーム2のビーム径内に開口50Eが収まるように投射マスク44を位置合わせし(S111)、試料13を180°回転させる(S112)。
図16はコの字型の穴加工後のモニタ画面部68の観察像を表した図である。 この図16は表示選択領域62で編集ボタン62dを操作して表示された画面であり、コの字型の穴加工が完了してステージ5を反転させたら、図16の画面を見ながらプローブ15を視野内に移動させて試料13のコの字型の加工穴79の内側領域(マイクロサンプル81)に接触させ(S113)、接触部をビームAによるデポジション領域とする(S114)。言い換えれば、デポ領域に適当な位置にプローブ15を接触させる。その後、ガス銃11からプローブ15と試料13の接触部近辺にGADガスを噴出させつつ、イオンビーム2(ビームA)を照射してデポジション膜78を形成し(S115)、プローブ15とマイクロサンプル81とをデポジション膜78により接着する(S116)。デポジション膜78の形成には、投射マスク44の開口50Dを通過させたイオンビーム2を用いた。本例では金属汚染の予防のため、プローブ15はシリコン製とした。
プローブ15の接着後、イオンビーム2のビーム径内に開口50Eが収まるように投射マスク44を位置合わせする(S117)。その後、プロセス選択領域61の穴加工ボタン61aを操作してモニタ画面部68に一文字状の加工領域76を表示させ、開口50Eを通過したイオンビーム2によるSIM像を見ながらモニタ画面部68内でコの字型の加工穴79とともにプローブ15の接着部を囲う位置に加工領域76を移動させて加工位置を決める(S118)。その後、イオンビーム2のビーム径内に一文字状の開口50Bが収まるように投射マスク44を位置合わせする。
(8)ビームAによる穴加工2
図17は投射マスク44を開口50Bに合わせて一文字状の字型のプロジェクションビームを取り出して試料13を加工している様子を示した図である。図17では図3に示す加工光学系の一部を図示している。
本工程では、一文字状のイオンビーム2(ビームA)で穴加工することにより(S119)、マイクロサンプル81を切り取って摘出する(S120)。一文字状の穴加工は60nA程度のビーム電流で数分間行なった。
図18は本実施の形態におけるマイクロサンプルの摘出加工状態を示す図であり、図18(a)は開口50A,50Bをそれぞれ通過したイオンビーム2の投射像77,84を示し、図18(b)は図18(a)中のA−A断面による断面を表している。
開口50A,50Bを通過させたプロジェクションビームによる加工穴は、実際には穴部での再付着によって穴深さ方向で徐々に幅が狭まる。そのため、図8(b)に示したように、加工溝85,86は三角形状となる。摘出するマイクロサンプル81は、例えば縦×横×高さが約10×10×11μmのサイズである。
このとき、開口50A,50Bを通過させたプロジェクションビームによる穴加工の途中において、マイクロサンプル81のコントラストが低下する現象が見られる。この現象によって、マイクロサンプル81と試料13の分離を認識することが可能となる。このコントラストの変化は、試料13と分離することによってマイクロサンプル81がフローティング電位になり、イオンビーム照射時のマイクロサンプル81からの2次電子等の発生量が低下するためである。観察像上での目視による判定が困難な場合、接触センサーによって分離検出することも可能である。
(9)メッシュに搭載
図19はカーリッジ54にマイクロサンプル81を搭載する様子を示した図である。
マイクロサンプル81が試料13から分離したら、カートリッジ54のメッシュ89がイオンビーム加工点に近付くようにステージ5を駆動してメッシュの位置を出し(S121)、プローブ15を駆動してメッシュ89にマイクロサンプル81を接触させ(S122)、メッシュ89とマイクロサンプル81を接着するためのデポジション膜を形成するデポ領域を決める(S123)。そして、ガス銃11からGADガスを噴出させつつイオンビーム2を照射してデポジション膜を形成しマイクロサンプル81をメッシュ89に接着し搭載する(S124)。その後、プローブ15の先端をイオンビーム2で切断する(S125)。プローブ15の切断には、開口50Dに通過させたイオンビーム2を用いた。
プローブ15を切断したら、レビューSEMで事前に取得された検査情報を基に、摘出したマイクロサンプル81が現在の試料13の最終のサンプルであるかどうかを判断する(S126)。つまり、現在マイクロサンプリングしている試料13の摘出すべき欠陥部位がもうないかどうかを判断し、まだサンプリングすべき欠陥部位が存在する場合、ステージ5を駆動して次のサンプリング箇所をイオンビーム加工点に移動させ、「ビームAによる穴加工1」の工程(S109)に手順を戻す。もうサンプリングすべき欠陥部位が存在しない場合、図9Aのサンプル摘出の手順を終了し、図9Bの加工穴の穴埋めの手順(S201)に移行する。マイクロサンプルを摘出し加工穴92が5箇所開いた試料13を図20に例示した。
なお、図9Aのサンプル摘出手順では、欠陥の検査・解析のために欠陥部位をサンプリングする場合を例示したが、試料13の予め定められた検査点をマイクロサンプリングし、試料13の品質(出来映え)を検査する定点観測と呼ばれる方法にも図9Aの手順は同様にして適用可能である。
ここで、摘出したマイクロサンプル81は、本荷電粒子線加工装置の外部に取り出し、より分解能の高いSTEM(Scanning Transmission Electron Microscope)やTEM(Transmission Electron Microscope)で観察・解析する。これにより、より高速かつ高精度に欠陥原因を知ることが可能となり、対策を迅速に行うことができる。
透過式のTEMやSTEMで観察する場合、マイクロサンプル81を薄膜化しなければならない。特に図示はしないが、本荷電粒子線加工装置はマイクロサンプル81の薄膜化加工も可能である。マイクロサンプル81の薄膜化加工はビームをスキャンせず図6(a)に示す投射モードで行う。薄膜化する断面をシャープな加工面とするためには、例えば薄膜化スリットの長軸方向とマイクロサンプル81の薄膜化方向とは約90度の角度をなすように投射マスク44を配置すると良い。ビーム中心に近付く程、球面収差等の収差が小さくなり、加工面がよりシャープになるためである。
また、投射モードでは、図6で記した通り薄膜化加工を行う領域を指定するのに十分な分解能が得られない。このため、十分な分解能が得られる図6(b)の観察モードで薄膜化位置を決める。観察モードのビームと投射モードのビームとでは光学条件が異なっており、軸ズレによるビーム位置ズレが発生する。そのため、観察モードでの加工位置指定では、予めそのズレ量を実測で求めておき、ズレ補正して加工領域を指定する。このとき、カートリッジホルダ55には歯車90が設けられており、この歯車90に噛合するモータを駆動することでカートリッジホルダ55を回転させることができるので、マイクロサンプル81の観察方向や薄膜化加工の方向は任意に変更することができる。
以上がマイクロサンプル摘出の手順である。次に、図9Bに移って加工穴の穴埋めの作業フローについて説明する。
(10)バイパスバルブを閉→開、ガスB導入
図21は図9A及び図9Bの作業フローの主な工程のタイミングチャートである。
図21に示したように、図9Aのサンプル摘出手順では、イオン源1に荷電粒子線原料ガスA(酸素ガス)を導入して酸素イオンビームを引き出し、欠陥部の穴加工、マイクロサンプリング、メッシュ搭載を順次実行した。次に、荷電粒子線原料ガスA(酸素ガス)をイオン源1内から高速に排出するためにバイパスバルブ18を開き(S201)、ある真空度で(真空度が設定のしきい値を下回ったら)閉にして(S202)、荷電粒子線原料ガスB(アルゴンガス)を導入した(S203)。アルゴンイオンビームによって穴埋め加工を行う。
穴埋め加工を実施するにあたって、まず本工程では、イオン源1に導入する荷電粒子線原料ガスの種類をB(アルゴンガス)に切り替える。荷電粒子線原料ガスの種類B(アルゴンガス)に切り替える前にイオン源1内に残存する荷電粒子線原料ガスA(酸素ガス)を除去する必要がある。そこで、イオン源1に接続されたバイパスバルブ18を閉から開にし、イオン源1内の荷電粒子線原料ガスAをイオン源1から高速で排出する。具体的には、荷電粒子線原料ガスA(酸素ガス)の導入を停止するためにバルブコントローラ25によって開閉バルブ23Aを開→閉にすると同時にバイパスバルブ18を閉→開にする。これにより、ビームA(酸素ガス)の使用時には数百Pa程度だったイオン源1の真空度は徐々に低下し、イオン源1内の真空度が事前に設定されたしきい値(例えば1E−3Pa程度)以下になったらバイパスバルブ18を開→閉にする。その後、開閉バルブ23Bを閉→開にし、荷電粒子線原料ガスB(アルゴンガス)をイオン源1に導入する。流量調整バルブ24Bは、高速穴埋め加工を実現する上で必要なイオンビーム電流と安定度が得られるように予め調整されている。
(11)ビームBによるデポ
イオン源1に荷電粒子線原料ガスB(アルゴンガス)を導入した後、荷電粒子線原料ガスA(酸素ガス)導入時と同じ方法でプラズマを点火し(S204)、加速電圧等を印加し、アルゴンイオンビーム(ビームB)2を引き出す。穴加工時と穴埋め加工時では、荷電粒子線原料ガスの種類、イオンビーム電流値等が異なるため、加速電圧、カソード印加電圧、バイアス電圧、ガス流量等のイオンビーム生成条件は異なるが、中央制御装置10は、荷電粒子線原料ガスの種類に応じて予め設定されたイオンビーム生成条件等に自動変更する。そして、イオンビーム2のビーム径に開口50Eが収まるように投射マスク44を位置合わせする(S205)。
図22は穴埋め加工領域を指定する際の加工操作画面部67を示した図である。
図22では、荷電粒子線原料ガスの種類はB(アルゴンガス)、プロセスは穴埋め、ビーム種はO−500が選択された場合を例示している。試料13の加工穴92がモニタ画面部68中の下部側ほど深くなっている場合、下部側ほど像が暗くなる。投射マスク44の開口50Bを通過したO−500のイオンビーム93が加工穴92の全域をスキャンするように、スキャン方向、スキャン幅を指定欄73a,73bに指定する。ここでは、例えば、スキャン方向は図中の上下方向とし、スキャン幅は十数μmとする。そして、開口50Eを通過したイオンビーム2によるSIM像を見ながら、イオンビーム加工点に加工穴92が来るようにステージ5を移動させ(S206)、デポ領域を決める(S207)。その後、イオンビーム2のビーム径内に一文字状の開口50Bが収まるように投射マスク44を位置合わせする(S208)。
図23は穴埋め加工時のプロジェクションビームの概略図である。
図23では、イオンビーム2のビーム径内に一文字状の開口50Bが収まるように投射マスク44が位置合わせされており、試料13には断面が長方形のイオンビーム2が照射される。このイオンビーム2がガスノズル12からのGADガス95と反応し、イオンビーム2のスキャンに伴って加工穴92にデポジション膜が堆積されていく(S209)。デポ速度とイオンビーム電流値は、加速電圧によって応じて適当な値が予め設定されている。
例として、図18(b)に示したマイクロサンプル摘出後の加工穴92に対してO−500ビーム99をスキャン間隔104で照射する様子を示す図を図24に示した。また、穴埋め加工時のイオンビーム2の照射方法の他の例を図25に示した。図25(a)に示した例は、イオンビーム99を一定時間停留させた後でビーム幅分だけ移動させ、これを繰り返して順次デポジション膜を形成していく方法である。これをビーム停留方式と呼ぶことにする。一方、図25(b)に示した例はイオンビーム99を走査して加工穴92にデポジション膜を一様に堆積させていく方法であり、これをスキャン方式と呼ぶことにする。
図26はデポの進行状況を時系列的に表した図であり、図26(a)→図26(b)→図26(c)とデポジション膜の堆積が進行していく。
図26(a)はS209の工程を経て、開口50Bの通過ビームO−500をスキャン(ビームBによるデポ1)して加工穴92にデポジション膜101が形成された状態を示しており、この時点では加工穴92の中心部が窪んでいる。図26(b)はS210〜S213の工程を経て、開口50Cを通過したイオンビームを数分間停留(ビームBによるデポ2)させて窪み部分にデポジション膜102を重畳した状態を示しており、大きな窪み部分は埋まったものの浅い窪みがまだ残っている。図26(c)はS214〜S217の工程を経て、開口50Dを通過した円形のイオンビームを窪み領域に走査(ビームBによるデポ3)し、窪み部分にデポジション膜を重畳させて形成したデポジション膜103を表している。このように本実施の形態では、デポジション膜の堆積の進行状況に応じて、投射マスク44の開口を切り替えてイオンビーム形状を適当な形状のものに変更する。デポジション膜103は高い平坦性(サブナノメートルオーダー)の平坦性を有する。ビームBによるデポ1,2,3の前には、それぞれイオンビーム2のビーム径内に開口50Eが収まるように投射マスク44を位置合わせし(S205,S210,214)、開口50Eを通過したイオンビーム2によるSIM像を見ながら、モニタ画面部68内でデポ領域を決める(S207,S211,215)。
(12)デポ膜の平坦度計測
図27はS218の工程で実行する加工穴92の埋め込みデポジション膜の表面の凹凸高さを計測する方法の一例を示した図である。具体的には、まず図27(a)は加工穴92に対してデポによる穴埋めを行なった後の状態を上方から見た平面図である。図27(b)は加工穴92に対して十分に細い円形ビーム2を、図中の左の方向から試料13の表面に対して約45°の入射角で加工穴92に照射し矢印91方向に走査する様子を示している。図27(c)はそのイオンビーム2のスキャンライン96を図27(a)に合わせて加工穴92の平面図に重ね合わせた図である。図27(d)はさらに加工ライン97を穴埋め加工後の加工穴92の平面図に重ね合わせた図である。
図27(a)から判るように、膜堆積した後の加工穴92の中央部は凸状となっており、デポジション膜に段差が生じている。例えば図27(b)に示すようにデポジション膜に高さHの段差がある場合、45°の入射角でイオンビーム2を照射すると段差を境に段差の高さHとほぼ同量のズレ量hが加工ライン97に発生する。言い換えれば、加工ライン97とスキャンライン96とのズレ量hが確認できれば、イオンビーム2の試料表面に対する角度からデポジション膜の段差量Hを算出することが可能となる。ズレ量hは、画像認識装置による画像処理によって自動的に求めることができる。このズレ量hの認識により、デポの窪み領域、位置、窪み量を検出することができる。この検出情報を基に、中央制御装置10に予め蓄積されたデータベースから好適なデポ条件を判定してデポを実施する。ここで言うデポ条件とは、使用するビーム種、イオンビームの形状や大きさ(マスク44の開口種)、イオンビーム電流値(加速電圧、バイアス電圧等)、スキャン方向、スキャン領域、加工時間、ビーム滞在時間、スキャン間隔等を含む。
これ以外のデポジション膜の凹凸を計測する手段としては、計測器を追加設置することも考えられる。この場合、分解能がサブマイクロメートルのレーザ顕微鏡、分解能が数ナノメートルの原子間力顕微鏡等を計測器として使用することが可能である。各々レーザビーム、カンチレバーを走査することによって、3次元的にデポジション膜の凹凸を計測することができる。
このようにしてデポジション膜の平坦度を計測したら、計測した平坦度が予め設定されたしきい値以下に収まっているかどうかを判定し(S219)、収まっていなければ「ビームBによるデポ3」を再度実行すべくS214の手順に戻り(図9B中のフローB)、しきい値以下に収まっていれば、サンプル摘出作業の履歴から、これが最終の穴埋め加工であるかどうかを判断する(S220)。つまり、現在穴埋め加工している試料13にはもう穴埋め加工すべき加工穴がないかどうかを判断し、まだ穴埋め加工すべき加工穴が存在する場合、次の穴埋め加工に手順を戻す(図9B中のフローC)。この場合、「ビームBによるデポ1」を実行すべくS205の手順から実行する。それに対し、もう穴埋め加工すべき加工穴が存在しない場合、図9Bの穴埋め加工の手順を終了する。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
ここで、図28は酸素イオンビーム(ビームA)により穴埋め加工した加工穴の状態を示す模式図で、図28(a)は穴埋め加工前の加工穴92、図28(b)はイオンビーム停留方式でデポした穴埋め跡、図28(c)はスキャン方式でデポした穴埋め跡を表している。
その結果、イオンビーム停留方式では試料表面に数μm程度の塊上のデポ106が形成され(図28(b))、スキャン方式では直径が数μm程度の球状のデポ107が形成された(図28(c))。いずれの方法でも、サブマイクロメートルの平坦性は得られなかった。この結果から、本願発明者等は、デポジション膜の平坦性はデポの方式(イオンビーム停留方式・スキャン方式)の違いよりもビーム種に起因すると仮定し、ビーム種を変えてデポジション膜を形成しオージェ電子分光分析によるデポジション膜の組成分析を試行した。
図29は酸素イオンビームによるデポジション膜とアルゴンイオンビームによるデポジション膜のオージェ電子分光分析結果を比較して示した図である。
まず、この試験では、GADガスにはオルトケイサンテトラエチル(TEOS)を共通して使用し、比較するビーム種として酸素イオンビームとアルゴンイオンビームを用いた。結果として、酸素イオンビームを用いて形成したデポジション膜の平坦度は数マイクロメートルで良好な平坦度が得られなかったが、アルゴンイオンビームを用いて形成したデポジション膜の平坦度は良好なレベルに改善された。そこでデポジション膜の組成を見ると、図29に示したように両者とも似た傾向となったが、平坦性に優れるアルゴンイオンビームによるデポジション膜の方にのみカーボンが検出された。
この結果を受け、本願発明者等は、デポジション膜の組成と形状には何らかの関係があり、適当なイオンビーム種を選択してデポジション膜を形成すれば所望の平坦度のデポジション膜が形成されることを知見した。
しかしながら、上述した組成分析試験において、酸素イオンビームを使用してデポジション膜を形成した場合、デポジション膜の十分な平坦度を得られなかったが高速加工を行えた。それに対し、アルゴンイオンビームを用いてデポジション膜を形成した場合、ビーム電流値が低下し、酸素イオンビームと比較して加工速度が低下した。このことから、本願発明者等は、酸素イオンビームとアルゴンイオンビームを比較した場合、デポジション膜の平坦性が要求される穴埋め加工ではアルゴンイオンビームの方が適当と言えるが、平坦度よりも加工速度が重視される穴加工では加工速度の速い酸素イオンビームの方が適当であると考えた。
本実施の形態によれば、上記の知見に基づいてガス供給系7を設け、マイクロサンプル81の摘出を含む試料13の穴加工時にイオン源1に導入する荷電粒子線原料ガスの種類と、試料13の穴埋め加工を含む膜堆積時にイオン源1に導入する荷電粒子線原料ガスの種類とを、ガス供給系7の荷電粒子線原料ガスの切り換え手段としてのストップバルブ23A,23Bにより切り換えることに想到した。これにより、本実施の形態によれば、例えば試料の欠陥部位を摘出し欠陥部位を摘出した後の試料をラインに戻す一連の工程において、加工穴の高速加工と穴埋め加工のデポジション膜表面の高平坦度を両立させることができるので、歩留まりを向上させることができる。
また、バイパスバルブ18を設けてイオン源1からのガス排出を円滑化したことにより、イオンビーム発生源である荷電粒子線原料ガスの種類を迅速に切り換えることができる。また、イオン源1内の圧力を計測する真空計36を設けたことにより、計測結果が事前に設定したしきい値以下になったことをもって、イオン源1内のガス排出が完了したことを確認することができる。これにより、次に使用する荷電粒子線原料ガスをイオン源1に導入するにあたって、前の荷電粒子線原料ガスの残留に起因する加工性能への影響を抑制することができる。
また、荷電粒子線原料ガスの種類毎の適当なプラズマ生成条件(加速電圧、放電電圧、バイアス電圧、真空度等)や加工光学条件(各レンズ印加電圧等)を予めデータベースに格納しておき、ガス種変更の際にデータベースを基に中央制御装置10によってプラズマ生成条件や加工光学条件が自動調整される構成とした。これにより、作業に応じて荷電粒子線原料ガスの種類を切り換える構成としても、プラズマ生成条件や加工光学条件の設定に手間を要することがなく、高い作業効率を確保することができる。
さらに、加工穴埋め加工時にデポジション膜表面の凹凸(高さ)を計測する手段を設けたことにより、穴埋め加工を行いつつデポジション膜表面の凹凸を計測し、所定のデポ高さになっていない領域(不足部)があるかどうかを認識することができる。不足部がある場合には、その高さ測定結果を基に、中央制御装置10によって適当なデポ条件(例えばビーム形状、スキャン方法、ビーム照射条件等)が事前に格納されたデータベースから選定され、適当なデポ条件で不足部にデポジション膜が重畳される。これにより、観察像の目視から判断してデポジション膜を重畳する場合に比べ、オペレータの技能に左右されずにデポジション膜の高い平坦度を確保することができる。
さらに、本実施の形態では、投射マスク44を使用してイオンビーム2による加工を行うことにより、穴加工や穴埋め加工の高速化が図られている。つまり、FIB装置を用いて試料を断面加工する場合、サブミクロンオーダーに集束したイオンビームを静電偏向走査して試料の目的位置を加工するのが一般的だが、本実施の形態では、加工目的形状に応じた形状のマスク開口を通過したイオンビーム(Projection Ion Beam)を照射して試料を加工する。
イオンビームによる加工速度は、加工面積に照射されるビーム電荷でほぼ決まる。つまり、加工面積が大きいほどFIBに比較してPJIBの方が短時間で加工することができる。一般に穴加工は数μmとなるため、PJIBに使用するイオンビームの輝度がある一定の値以上になっていれば、PJIBの方が高速加工することが可能となる。
但し、本実施の形態においても、投射マスク44を退避させた状態でFIBを走査して穴加工及び穴埋め加工をすることは可能である。
続いて、本発明の他の実施の形態を説明する。
図30は本発明の他の実施の形態に係る荷電粒子線加工装置の概略構成図である。図30において、前出の図面と同様の部分又は同様の役割を果たす部分には同符号を付して説明を省略する。
本実施の形態では、荷電粒子線原料ガスの種類を作業に応じて切り換えるのではなく、各作業に応じた種類の荷電粒子線原料ガスを同時にイオン源1内に導入する。具体的には、マイクロサンプル81の摘出を含む試料13の穴加工に適した荷電粒子線原料ガスの種類(例えば酸素ガス)及び試料13の穴埋め加工を含む膜堆積に適した荷電粒子線原料ガスの種類(例えばアルゴンガス)を、穴加工時及び膜堆積時にガス導入配管30を介してイオン源1に導入して複数種の荷電粒子線原料ガスを基にイオンビーム2を生成する。つまり、例えば酸素ガスとアルゴンガスを同時にイオン源1に導入し、両者の混合ガスをイオンビーム発生源に用いることにより、酸素イオンビームとアルゴンイオンビームの中間的性質のイオンビームを生成する。
このとき、異種の荷電粒子線原料ガスをそれぞれ充填した複数のガスボンベを用意しておいて複数種の荷電粒子線原料ガスを同時にイオン源1に導入するようにしても良いし、予め異種の荷電粒子線原料ガスを混ぜ合わせた混合ガスを充填したガスボンベを用意しておいて混合ガスをイオン源1に導入するようにしても良い。図30の例では、高速加工用ガス(酸素ガス等)とデポジション膜均一性用ガス(アルゴンガス等)を一定の割合で混合したガスボンベ22Cから混合ガスをイオン源1に導入する場合を例示している。ガスボンベ22Cからの混合ガスはストップバルブ23Cにより遮断/流通され、その流量は流量調整弁24Cにより調整される。ストップバルブ23Cや流量調整弁24Cの役割や制御については、前の実施の形態のストップバルブ23A,23B及び流量調整弁24A,24Bの場合と同様である。
なお、異種の荷電粒子線原料ガスの混合比は、事前実験により、イオンビーム安定性、加工性能、埋め込み性能等が最良(適当なバランス)となる条件を求めておく。
前に実施の形態では、例えば穴加工から穴埋め加工に作業を移行する場合、イオン源1内の荷電粒子線原料ガスを置換していたが、本実施の形態では、穴加工で使用する荷電粒子線原料ガスと穴埋め加工で使用する荷電粒子線原料ガスの混合ガスを穴加工時・穴埋め加工時の双方で使用するので荷電粒子線原料ガスを置換する必要がない。したがって、荷電粒子線原料ガスの置換に要する時間分だけ作業移行に要する時間を短縮することができる。
図31は以上に説明してきた本発明の荷電粒子線加工装置を用いたインライン不良解析のフローの一例を示す模式図である。
図31において、113が本発明の荷電粒子線加工装置を表しており、工程110A,110B,110Cは半導体製造ラインの一部である。例えば工程110Aから試料13の一部を取り出し、光学式又は電子ビーム方式の検査装置(レビューSEM)111で欠陥検査し抽出した欠陥を分類する。その後、欠陥部位を含む試料112を荷電粒子線加工装置113内に搬入し、前述したように検査装置111と座標リンケージして荷電粒子線加工装置113に備えられたSEMで欠陥部を探索し、その欠陥部を含むマイクロサンプル81をプローブ15で摘出する。マイクロサンプル81はFIBで薄膜化加工された上でカートリッジごと荷電粒子線加工装置の外部に取り出され、別の検査装置(STEMやTEM)114によって観察・解析され、解析結果(欠陥原因の推定等)が半導体製造ラインへフィードバックされる(矢印116参照)。一方、マイクロサンプル81を摘出した加工穴のある試料120は穴埋め加工され、穴埋め加工後の試料117が、試料13を取り出した工程110Aの次工程110Bに戻される。このようにして穴加工後の試料をラインに戻すことによって、資源の無駄を省ことができる。