JP5177581B2 - 反射防止構造体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、主に石英ガラスのように融点の高い基板等に対しても反射防止構造を転写することが可能な反射防止構造体の製造方法に関する。
例えば、パソコン、薄型テレビ、携帯端末などのディスプレイとして、ガラスあるいは高分子樹脂からなる透明の基板が使用されている。ディスプレイの表面で光を反射してしまうと表示内容が視認し難くなるため、ディスプレイの表面を構成するガラスあるいは樹脂フィルムは、外光からの反射や迷光をできるだけ防いで、コントラストをよくすることが望まれている。また、メガネレンズなどの他の光学部材についても表面の反射を防止することが望まれている。
ディスプレイやレンズなどの表面反射を防ぐ場合、一般的には真空蒸着により複数回のコーティングを行い、その屈折率差により反射率を減衰させる方法が採用されている。しかし、この方法では、個々の部材に対して複数回のコーティングを行う必要があるため面倒であるほか、コーティングが剥離してしまうといった問題もある。
反射を防止する他の方法として、基板の表面に微細な構造を形成させる方法が知られている。このような微細構造を形成する方法として、例えば、石英ガラス等の基板の表面にフォトリソグラフィ、電子ビーム等によってパターニングする方法があるが、この場合、作業が複雑であり、大面積の表面に微細構造を形成することが難しい。
また、例えば、石英ガラス基板などの光学部材上にAl等の微粒子を付着させ、この粒子をマスクとしてドライエッチングを施すことにより基板の表面に微細な針状構造を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、基板ごとに、マスクとなる材料をスパッタリングにより微粒子として付着させた後、ドライエッチングを行うため、やはり生産性が低いほか、大面積の基板に反射防止構造を形成することは難しい。
大面積の光学部材の表面に対しても反射防止構造を形成する方法として、表面に微細な構造が形成された型を作製し、この型の微細構造を光学部材に転写させて反射防止構造を形成する方法が提案されている。例えば、シリコンウエハなどの基板上に真空蒸着によりCr等の核を島状に形成した後、この核の上にCVD法等によりシリコン等の針状結晶を成長させて型を作製する。そして、この型を用いて樹脂やガラスの光学部材に反射防止構造を形成する方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかし、上記のような方法では、型を製造する際、少なくとも核の形成と針状結晶の成長が必要であるため、工程が複雑となる。また、製造した型は、樹脂からなる部材に対しては成型を繰り返すことが可能であるとしても、石英ガラスなどの融点が高い部材に対しては繰り返して使用することができない。
一方、ICPプラズマによりガラス状炭素基材の表面に柱状体からなる微細構造を形成し、これを型として別の部材に反射防止構造を形成する方法が提案されている(特許文献3参照)。
このような方法によれば、比較的簡単に微細構造を形成することができ、また、型となるガラス状炭素は融点が非常に高く、機械的強度も比較的高いため、石英ガラス等の相手部材に対して微細構造を転写することが可能となる。
しかし、上記のような柱状体からなる微細構造では反射防止効果が十分でなく、反射防止効果がより高いものが望ましい。
特開2005−99707号公報 特開2006−130841号公報 特開2004−137105号公報
本発明は、製造が容易であり、無反射に近い反射防止効果を発揮することができ、石英ガラス等の融点が高い部材に対しても転写により反射防止構造を付与することもできる反射防止構造体の製造方法を提供することを主な目的とする。
上記目的を達成するため、本発明では以下の反射防止構造体の製造方法が提供される。
<1> ガラス状炭素からなる基材に対して酸素を含むガスを用いてイオンビーム加工を施すことにより該基材の表面に、根元部分から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する前記ガラス状炭素の微細な突起群からなる反射防止構造を形成する工程を含むことを特徴とする反射防止構造体の製造方法。
<2> 前記ガラス状炭素からなる基材として、前記イオンビーム加工を施す面が研磨されているものを用いることを特徴とする<1>に記載の反射防止構造体の製造方法。
<3> 前記ガラス状炭素からなる基材にイオンビーム加工を施す際、加速電圧、加工時間及びガス流量の少なくともいずれか1つを制御することにより、前記基材の表面に形成する微細な突起の形状及びピッチを制御することを特徴とする<1>又は<2>に記載の反射防止構造体の製造方法。
<4> 前記加速電圧を300V以上、かつ、前記加工時間を18分以上とすることを特徴とする<3>に記載の反射防止構造体の製造方法。
<5> 前記ガラス状炭素の基材の表面に、前記反射防止構造を構成する微細な突起の5倍以上の幅と高さを有し、先端に向けて縮径する形状を有する大型の突起が点在している大型の突起を形成するためのマスク材料を点在させて前記イオンビーム加工を施すことを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載の反射防止構造体の製造方法。
<6> 前記イオンビーム加工を施すことにより前記微細な突起の先端部の角度2θを、2θ<37.8°とする<1>〜<5>のいずれかに記載の反射防止構造体の製造方法。
本発明によれば、製造が容易であり、無反射に近い反射防止効果を発揮することができ、石英ガラス等の融点が高い部材に対しても転写により反射防止構造を付与することもできる反射防止構造体の製造方法を提供することができる。
本発明に係る反射防止構造体の製造に好適なECR型のイオンビーム加工装置を示す概略構成図である。 加速電圧を変えて製造した本発明に係る反射防止構造体の表面を斜め上方から観察したSEM画像(倍率:30000倍)である。(A)加速電圧:1000V(B)加速電圧:750V 図2の反射防止構造体の表面を真上から観察したSEM画像(倍率:60000倍)である。(A)加速電圧:1000V(B)加速電圧:750V 加工時間を変えて製造した本発明に係る反射防止構造体の表面を斜め上方から観察したSEM画像(倍率:30000倍)である。(A)加工時間:30分(B)加工時間:45分 図4の反射防止構造体の表面を真上から観察したSEM画像(倍率:60000倍)である。(A)加工時間:30分(B)加工時間:45分 ガス流量を変えて製造した本発明に係る反射防止構造体の表面を斜め上方から観察したSEM画像(倍率:30000倍)である。(A)ガス流量:1.4SCCM(B)ガス流量:3.0SCCM 図6の反射防止構造体の表面を真上から観察したSEM画像(倍率:60000倍)である。(A)ガス流量:1.4SCCM(B)ガス流量:3.0SCCM 本発明に係る反射防止構造体をモデル化した図である。(A)断面図(B)平面図 反射防止構造体の針状突起の長さを測定する際に突起を倒した状態を示すSEM画像である。 反射防止構造体の針状突起の幅とピッチを測定する際に使用したSEM画像である。 本発明により製造した反射防止構造体について反射防止効果の測定結果を示すグラフである。 本発明に係る反射防止構造体を型として用いた場合に製造可能な光学部材の一例を示す概略図である。 1回目の転写及び再転写により得たそれぞれの樹脂基板の反射率を示す図である。 再転写した樹脂基板の表面を観察したSEM画像(倍率:60000倍)である。 GC基板とSi鏡面基板のそれぞれの絶対反射率(入射角度5°)を示す図である。 入射角度(5°、12°、30°、45°)とGC基板の反射率との関係を示す図である。 イオンビームによる加工角度(80°、70°、50°)とGC基板の反射率との関係を示す図である。 イオンビーム加工による加工角度θを説明する概略図である。 加工角度80°で加工した場合にGC基板の表面上に形成された針状の微細な凹凸(溝)を観察したSEM画像である。 再生加工例で測定したGC基板の反射率を示す図である。 低加速電圧(300V)での加工時間と反射率との関係を示す図である。 加速電圧300Vで時間を変えて形状を観察したSEM画像である。 高加速電圧(1000V)で30分間ECR加工した場合の反射防止構造体を観察したSEM画像である。(A)正面から観察したSEM画像(B)斜めから観察したSEM画像 図23に示す反射防止構造体の反射率を示す図である。 アルゴン及び酸素混合ガスを用いてECR加工した場合の反射防止構造体を観察したSEM画像である。(A)正面から観察したSEM画像(B)斜めから観察したSEM画像 図25に示す反射防止構造体の反射率を示す図である。 GC基板上に作製されたドットパターンを示すSEM画像である。 図27に示すドットが形成されたGC基板をICP加工した後のSEM画像である。 ドットマスクを用いたICP加工+ECR加工後の反射防止構造体の斜めから観察した斜視図である。 ドットマスクを用いたICP加工後の反射率とECR加工後の反射率を示す図である。
以下、添付の図面を参照しながら本願発明に係る反射防止構造体とその製造方法について具体的に説明する。
本発明者は、反射防止構造体について鋭意検討及び研究を重ねていたところ、ガラス状炭素の基材を用い、所定の条件下でこれを加工することで、ガラス状炭素基材の表面に、先端に向けて縮径する形状を有する微小な突起群を形成することができ、これらの突起群の微細構造が無反射に近い極めて高い反射防止効果を奏することを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成させた。
図1は、本発明に係る反射防止構造体の製造に使用することができるECR(電子サイクロトン共鳴)型のイオンビーム加工装置(プラズマエッチング装置)10の構成の一例を概略的に示したものである。このイオンビーム加工装置10は、原料となる基材26を保持するためのホルダ12のほか、原料基材26の表面にイオンビーム加工を施すためのガス導入管14、プラズマ生成室16、エクストラクター18、電磁石20、イオンビーム引き出し電極22、ファラデーカップ24等を備えている。なお、例えば500V以下の低加速電圧では電流密度が小さくなるので、エクストラクター18は、電流密度を上げるために引き出し電極22よりプラズマ側でイオンを引き出すためのグリッドである。エクストラクター18を用いれば、加速電圧が低くても、電流密度が大きくなり加工速度を高めることができる。
このようなECR型のイオンビーム加工装置10を用いて本発明に係る反射防止構造体を製造するには、まず、原料となるガラス状炭素(グラッシーカーボン)からなる基材を用意し、これをホルダ12にセットする。用いるガラス状炭素基材は板状はもちろん、イオンビーム加工を施す面が曲面となっているものでもよい。なお、イオンビーム加工を施す面は研磨されていることが好ましい。研磨面であれば、エッチング前は滑らかな面となっており、加工により微細な突起を均一に形成し易い。
ガラス状炭素基材を装置10内に設置した後、反応ガスを導入するとともに所定の加速電圧をかけて基材26の表面にイオンビーム加工を施す。
反応ガスとしては酸素を含むガスを用い、酸素のみでもよいし、酸素にCF4等のCF系のガスを混ぜたガスも用いることができる。
このようなガラス状炭素基材26の表面にイオンビーム加工を施すことで、針状等、先端に向けて縮径する形状を有する微小な突起群(微細構造)を形成することができる。そして、特に、加速電圧、加工時間、及びガス流量を制御することで、突起の形状(大きさ、幅、角度等)及びピッチを制御することができる。
また、ECR型のイオンビーム加工装置10を用いれば、比較的大きい面であっても一括して加工することができる。そして、このような方法によれば、ガラス状炭素基材を容易に表面加工することができ、無反射に近い反射防止効果を発揮することができる反射防止構造体を製造することができる。
<加速電圧による制御>
図2は、上記のような装置10を用い、加速電圧を変えてガラス状炭素(グラッシーカーボン)基材の表面を加工して製造した反射防止構造体の表面を斜め上方(約75度傾けた状態)から観察したSEM画像(倍率:30000倍)であり、(A)は加速電圧を1000Vに設定して加工したもの、(B)は加速電圧を750Vに設定して加工したものである。加工時間はいずれも60分間であり、ガス流量も2.0SCCMで同じである。いずれも多数の針状の突起が形成されているが、加速電圧を750Vとして加工した場合(B)は、1000Vの場合(A)よりも突起が大きく形成されている。
図3は、上記図2の各反射防止構造体の表面を真上から観察したSEM画像(倍率:60000倍)であり、白い部分が突起に相当する。いずれも全面にわたって突起がほぼ均等に形成されている。
<加工時間による制御>
図4は、加速電圧を500V、ガス流量を2.0SCCMとして製造した反射防止構造体の表面を斜め上方から観察したSEM画像(倍率:30000倍)であり、(A)は加工時間を30分としたもの、(B)は加工時間を45分としたものである。加工時間を30分とした場合(A)は、比較的小さく、かつ太い針状ないし円錐状の突起が多数形成されている。一方、加工時間を45分とした場合(B)は、かなり細い針状の突起が多数形成されている。
図5は、上記図4の各反射防止構造体の表面を真上から観察したSEM画像(倍率:60000倍)であり、加工時間を45分とした場合(B)は、突起部分を示す白い部分がより多く形成されている。
<ガス流量による制御>
図6は、加速電圧を500V、加工時間を60分間として製造した反射防止構造体の表面を斜め上方から観察したSEM画像(倍率:30000倍)であり、(A)はガス流量を1.4SCCMとしたもの、(B)はガス流量を3.0SCCMとしたものである。ガス流量を1.4SCCMとした場合(A)では表面にやや凹凸のある針状の突起が形成されている。
図7は、上記図6の各反射防止構造体の表面を真上から観察したSEM画像(倍率:60000倍)であり、ガス流量を3.0SCCMとした場合(B)は、突起部分を示す白い部分がより多く形成されている。
このように、図1に示したようなECR型のイオンビーム加工装置10を用いることで、ガラス状炭素基材の表面に形成される突起の形状及びピッチは、イオンビーム加工の際の加速電圧、加工時間、及びガス流量により大きく影響される。従って、加速電圧、加工時間、及びガス流量の少なくともいずれか1つを制御することにより、基材の表面に形成する突起の形状及びピッチを制御することができる。また、加速電圧、加工時間、ガス流量等を調節することで、例えば、突起の形状については、先端に向けて縮径する形状を有する形状として、針状のみならず、円錐状、多角錐状、円錐台状、多角錐台状、放物形状等の微細な突起群を形成することもできる。
本発明者の研究によれば、特に、加速電圧を300V以上、かつ、加工時間を18分以上としてGC基板にECR加工を施すことにより、根元部分から先端部まで縮径した針状又は円錐状の突起を確実に形成することができ、反射率を20%以下にすることができる。なお、加速電圧を大きくし過ぎると突起が細くなって転写時に折れ易くなり、加工時間を長くすると生産性の低下を招くおそれがあるため、加速電圧は1000V以下、加工時間は30分以下とすることが好ましい。
そして、ガラス状炭素基材において、上記のような先端に向けて縮径する形状を有する微細突起群が形成された表面は、柱状体の突起が形成されている場合に比べて入射光が反射し難く、より高い反射防止効果を奏するものと考えられる。
図8は、本発明に係る反射防止構造体をモデル化して示した図である。図9は、反射防止構造を構成する突起30のサイズを測定するために針状の突起を倒したSEM画像の一例である。また、図10は、反射防止構造の突起30のピッチを測定するために得たSEM画像である。本発明者がこのようなSEM画像による測定を繰り返したところ、本発明に係る反射防止構造体32の表面に形成された先端に向けて縮径する形状の微細突起30は、200nm〜3000nm、より好ましくは720nm〜1370nmの平均高さ(H)を有し、各突起30の根元の直径、すなわち平均最大径(D)が50nm〜300nmの範囲内、より好ましくは80nm〜220nmであり、50nm〜300nm、より好ましくは120nm〜220nmのピッチ(P)で形成されていれば、極めて高い反射防止効果を発揮することがわかった。特に、突起の高さが200nm以上であり、かつ、140nm以下のピッチで形成されていれば、無反射の構造とすることができる。
さらに本発明者は、突起先端部の角度と反射率との関係について調査を行った。図8のように根元部分から先端部までテーパ状に縮径している突起30が所定のピッチで形成されている場合、突起30の先端部の角度(頂角)を2θ、根元部分の半径(D/2)をr、高さをhとすると、tanθ=r/hより、θ=tan-1(r/h)となる。
そして、無反射構造となるには、理論上、突起のピッチ(P)<137nm、高さ(h)>200nmが条件となる。これより、2θ<37.8°の場合に無反射構造となる。従って、突起30の先端部分の角度が上記の関係を満たすときに無反射又はそれに近い反射率を達成できると考えられる。ただし、突起先端部の角度が小さすぎる場合は、転写時に突起が折れ易く、また、径が均一な柱状に近づいて反射率が上昇してしまうものと考えられる。従って、突起30が針状又は円錐状の場合、先端部の角度は好ましくは3°以上、より好ましくは10°以上、特に好ましくは15°以上である。
このようなガラス状炭素の基材の表面に、針状等、先端に向けて縮径する形状を有する微細な突起群を有する本発明の反射防止構造体は、無反射に近い反射防止機能を有し、反射防止基板等として使用することができる。
一方、本発明に係る反射防止構造体は、全体がガラス状炭素で構成されており、グラファイトのような炭素素材とは異なり機械的強度が高いため、他の部材に反射防止構造を形成するための型として使用することもできる。すなわち、例えば、樹脂材料だけでなく、石英ガラスや金属のような融点の高い部材に対しても、本発明に係る反射防止構造体に形成されている針状等の突起からなる微細構造を繰り返し転写することができる。しかも、本発明に係る反射防止構造は、針状等の微細突起から形成されており、極めて高い反射防止効果を有するため、その反射防止効果も石英ガラス等に反映させることができる。従って、本発明に係る反射防止構造体を用いれば、無反射に近い反射防止機能を有する石英ガラス基板等を高い生産性で製造することができる。
また、本発明に係る反射防止構造体にニッケル、金等の金属でめっきあるいは蒸着を施して型を製造してもよい。このように製造した型には、本発明に係る反射防止構造体の反射防止構造が反映される。従って、この型を用いれば、例えば樹脂材料からなるフィルムなど融点(軟化点)が比較的低い部材に対して本発明に係る反射防止構造体の反射防止構造を間接的に転写させることができ、無反射に近い反射防止機能を有する樹脂フィルム等を製造することができる。
さらに、本発明に係る反射防止構造体は、ガラス状炭素の基材の表面に反射防止構造を構成する微細な突起の5倍以上の幅と高さを有し、先端に向けて縮径する形状を有する大型の突起が点在するものとしてもよい。このような大型の突起を形成させるためには、例えば、ガラス状炭素の基材の表面に大型の突起を形成するためのマスク材料を点在させた状態でイオンビーム加工を施せばよい。その結果、マスク部分以外は加工され、マスクされた部分が大型の突起として残る。なお、マスク材料としては、例えば、シロキサンポリマー等を用いることができ、フォトリソグラフィーや電子ビームリソグラフィー等によりガラス状炭素基材上の所定の位置にマスクを点在させることができる。
そして、このようにガラス状炭素基材の表面上に針状等の微細な突起とともに大型の突起が点在している反射防止構造体を型として用い、例えば石英ガラス等の光学基板に転写すれば、図12に示すようなナノオーダーの微細な突起群40とともに、マイクロオーダーの切り欠き部42(マイクロプリズムアレイ等と呼ばれる)を有する表面構造に加工することができる。このような表面構造を有するガラス44とすれば、より高い反射防止効果を有する光学部材44を得ることができる。
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
表面が研磨されたグラッシーカーボン(東海カーボン株式会社製)の基板(厚さ:1mm、縦横:10mm×10mm)を、図1に示したような構成のECR型のイオンビーム加工装置(株式会社エリオニクス製、商品名:EIS−200ER)のホルダにセットした。ビーム引き出し電極と板状体表面との距離Lは17cmであり、以下の条件で表面加工を行った。
加速電圧:1000V
真空度: 1.3×10-2Pa
ビーム径:20mm
反応ガス:酸素
ガス流量:2.0SCCM
加工時間:10分間
[実施例2〜12]
実施例1とは、加速電圧、ガス流量及び加工時間の少なくともいずれか1つを変えてグラッシーカーボン基板の表面加工を行った。
実施例1〜実施例12の加工条件を表1にまとめた。

実施例11及び12ではエクストラクター18を使用し、エクストラクター18の目盛り10は300Vに相当する。電流密度はファラデーカップ24における測定値である。
表1中の「加工深さ」とは、イオンビーム照射によって基板の表面に形成された凹部の深さであり、この凹部の底面に針状等の突起群による反射防止構造が形成された。
<反射率の測定>
実施例1〜12で加工した基板の表面について反射率を測定した。ここでの反射率の測定はハロゲン光源を用い、分光器としてHandy Lanbda2(株式会社スペクトラ・コープ製)を用い、垂直入射で測定した。そして、反射率はシリコン鏡面を参照試料とし、各グラッシーカーボン基板の表面(加工面)について測定した。
図11は、実施例2、4、8、12の基板に対する測定結果を示したものであり、縦軸はシリコン鏡面の反射光を100とした場合の相対値(%)である。図11に見られるように、加速電圧を比較的低く設定して加工した実施例8(500V)及び実施例12(100V)の基板では、可視光(波長:380nm〜780nm)に対して反射率はほぼ0%(無反射)であり、長波長側でも反射率は極めて低かった。
一方、比較的高い加速電圧で加工した実施例2(1000V)及び実施例4(750V)の基板では、わずかに反射が見られたが、それでも全波長にわたって実施例4のものでは1%以下であり、実施例2のものでも2%以下であり、極めて高い反射防止効果が確認された。
さらに、実施例1〜12のSEM画像をもとに微細突起の高さ、最大径、及びピッチを測定した。突起の高さは720nm〜1370nmの範囲にあり、根元の径は80nm〜220nmの範囲、ピッチは120nm〜220nmの範囲にあった。
[転写例1]
グラッシーカーボン(GC)基板(縦横:10×10mm、厚さ:1mm)の片面をECRを用いて以下の条件下で加工し、反射防止構造を形成した。
加速電圧:500[V]
加工時間:30[min]
エクストラクター:0
ガス種:酸素
ガス流量:3.0[SCCM]
イオンエミッション:13.1[mA]
保持治具の回転速度:0[rpm]
マイクロ波出力:100[W]
電流密度:1.67[mA/cm2
ビーム引き出し電極とGC基板との距離(L):11.7cm
上記加工により反射防止構造が形成された面を、離型剤としてフッ素系樹脂コーティング剤(オプツール(登録商標)、ダイキン工業株式会社製、0.1%)によりコーティングした後、さらに光硬化性樹脂(PAK−01、東洋合成工業株式会社製)をその上にスピンコートした。PAK−01をコートした面をスライドガラスに押し付けるとともに、以下の条件でスライドガラス側から紫外光を照射してPAK−01を硬化させることにより転写を行った。
押付け圧力:0.83[MPa]
加圧維持時間:60[s]
UV照射量:2[J/cm2
硬化後、PAK−01を剥離し、GC基板の反射防止構造が転写された面について、Si鏡面基板をリファレンスとして反射率を測定した。
さらに、転写により得られたPAK−01製の反射防止構造体を型として用い、再度転写を行った。この再転写は、1回目の転写で用いたフッ素系樹脂コーティング剤(オプツール(登録商標)、0.1%)及びPAK−01を用いて1回目の転写と同様の条件下で行った。
再転写により得られたPAK−01製の反射防止構造体に対しても前記と同様に反射率を測定した。
図13は、1回目の転写により得た樹脂(PAK−01)基板の反射率と再転写により得た樹脂基板の反射率を示している。樹脂基板の反射率は、いずれも原型のGC基板と比べて全般的に高かったが、波長1000nm付近でピークとなる反射率の傾向は原型と類似し、原型の反射防止構造がPAK−01樹脂に転写されたことがわかる。なお、1回目の転写よりも再転写により得たPAK−01樹脂の方が原型の反射率の形状に近く、原型の反射防止構造がより反映されていることがわかる。また、再転写した樹脂基板の表面をSEM(60000倍)で観察したところ、図14に示すようにGC基板の反射防止構造が反映された微細な突起が多数形成されていた。
[転写例2]
SOG(Spin on Glass、Haneywell社製、Accuglass(登録商標)512B)を用いて転写を行った。転写例1と同様にECRにより反射防止構造を形成したGC基板上にSOGをスピンコートした後、250℃で3分間焼成した。
次いで、焼成したSOG層上にPAK−01をスピンコートした後、スライドガラスを押し付けるとともに、PAK−01を以下の条件で硬化させて転写を行った。
圧力:1.07[MPa]
加圧維持時間:60[s]
UV照射量:2[J/cm2
上記のようにして反射防止構造を転写させたSOGの反射率を測定したところ、PAK−01樹脂への転写と同様の反射率が測定され、原型の反射防止構造が反映されたがわかった。
[絶対反射率の測定]
ECRにより片面に反射防止構造を形成したGC基板(30mm角)と、Si鏡面基板(30mm角)を用意し、それぞれ絶対反射率の測定を行った。測定条件は以下の通りである。
測定装置:紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−3100PC)
測定方法:絶対反射法
入射角:5°、12°、30°、45°
測定波長:300〜2500nm
スリット幅:7.5nm(300〜860nm)、20nm(860nm〜2500nm)
光源:重水素ランプ(300〜360nm)、ハロゲンランプ(360nm〜2500nm)
検出器:フォトマル(300〜860nm)、Pbs(860nm〜2500nm)
図15は、GC基板とSi鏡面基板のそれぞれの絶対反射率(入射角度5°)を示している。Si基板では、反射率は30%以上であったが、GC基板の反射率は300nm〜2500nmの広い波長範囲に渡ってほぼ0%であった。また、図16は、光の入射角度を5°、12°、30°、45°に変化させた場合のGC基板の反射率を示しており、いずれの入射角度でも反射率は1%未満であった。例えば、多層膜の反射防止コーティングでは、入射角度が大きくなると、通常、反射を抑える効果は小さくなるが、本発明によりGC基板の表面に反射防止構造を形成した場合、広い角度にわたって反射を極めて効果的に抑えることが可能となる。
[加工角度依存性]
表面がロール(曲面)形状であるGC基材の加工性を調べるため、平坦なGC基板を所定の角度に傾けてECRにより加工を行った。具体的には、GC基板(縦横:10×10mm、厚さ:1mm)を角度調整可能な治具で保持し、イオンビームの入射角度とGC基板の加工面の垂線との角度(加工角度)を10°〜80°まで10°間隔で傾けて加工し、加工後のGC基板の反射率を測定した。
加工条件は以下の通りである。
加速電圧:500[V]
加工時間:45[min]
エクストラクター:10
ガス流量:3.0[SCCM]
電流密度:1.20[mA/cm2
イオンエミッション:11.8[mA]
保持治具の回転速度:0[rpm]
マイクロ波出力:100[W]
ビーム引き出し電極とGC基板との距離(L):11.7cm
図17は、加工角度をそれぞれ80°、70°、50°とした場合の反射率の測定結果を示している。加工角度が60°以下となる場合は反射率が極めて低くなり、特に40°以下の場合はほぼ無反射となった。このことから、GC基板の加工面が平面でない場合、例えば図18に示すようなGC基材の表面がロール形状である場合でも、イオンビームの入射角度とGC基板の加工面の垂線との角度(加工角度θ)が60°以下、好ましくは40°以下の部分はGC基板を傾けずにほぼ無反射となるように加工することができる。また、加工角度θが40°を超える部分が存在する場合には、例えば、加工角度θが40°を超える部分にイオンビームが照射されないように加工した後、角度を変えて未加工部分を加工すれば、全面にわたって無反射に近い反射防止構造を形成することができる。
また、加工後のGC基板の反射率は加工角度に依存性があるため、要求される反射率に応じてGC基板を傾けて加工すれば、所望の反射率を有する反射防止構造体を得ることもできる。
また、60°を超える加工角度、例えば加工角度80°としてECRにより加工を行った場合、図19のSEM画像に見られるように、GC基板の表面には面方向に延びる針状の微細な凹凸(溝)が形成される。従って、これを型として転写を行うことで、被転写体には表面の流体抵抗が小さくなる鮫肌のような構造を形成することができる。
[再生加工例]
本発明により反射防止構造を形成したGC基板を金型として使用して樹脂やガラスに転写を行った場合、反射防止構造が損耗することが考えられる。しかし、損耗後、再度ECRによるイオンビーム加工により無反射構造を再生することができれば、同じ基板を繰り返し使用することが可能となり、低コスト化を図ることができる。
そこで、ECRによりGC基板の片面を加工し、微細な針状パターンからなる反射防止構造を形成した後、針状パターンを機械的に倒して反射防止構造を破壊した。次いで、超音波洗浄を行った後、GC基板の同じ面に1回目と同様の加工を施して反射防止構造を形成した。
ECRによる1回目及び2回目の加工条件は以下の通りである。
加速電圧:500[V]
加工時間:30[min]
エクストラクター:0
ガス種:酸素
ガス流量:3.0[SCCM]
イオンエミッション:14.0[mA]
保持治具の回転速度:0[rpm]
マイクロ波出力:100[W]
電流密度:1.68[mA/cm]
ビーム引き出し電極とGC基板との距離(L):11.7cm
1回目の加工後、針状パターン破壊後、超音波洗浄後、及び2回目の加工後において、それぞれ反射率の測定を行った。図20は反射率の測定結果を示している。この図に見られるように、1回目の加工により得たGC基板の反射防止構造を破壊することで反射率は上昇するが、2回目の加工(再生加工)により、1回目の加工の反射率に近似した反射率を有する反射防止構造が得られた。
[低加速電圧及び加工時間の依存性]
図1に示すECR装置を用いて以下の条件でGC基板(1mm角)を加工した。
加速電圧:300V
加工時間:3分〜30分(3分間隔)
ガス流量:2.0[SCCM]
ガス種:O2
電流密度:0.6[mA/cm2]
イオンエミッション:12.9[mA]
加工後のGC基板の表面をSEMにより撮影するとともに反射率を測定した。図21は、反射率測定結果を示す。なお、加工時間が21分及び27分の場合の反射率は省略した。
加速電圧300Vで時間を変えて形状を観察した結果を図22に示す。加工時間が15分まではGC基板表面に形成された突起が急激に細くなり高密度で突起形成が進行する様子がわかる。それとともに反射率も小さくなるが、加工時間が18分以上では、突起の形状の変化は小さくなり、反射率の低下は鈍化する。しかし、さらに長時間の加工で無反射に近くすることは可能であると考えられる。また、300Vで加工した場合の形状を見てみると、500Vから1000Vまでの針状構造に対して、頂角が鈍くなっている。頂角が鈍ると反射防止の機能は弱くなるが、転写用金型として強度は増すことになる。また、転写時には凹凸が反転するので、頂角は少々鈍るが、転写に対して高強度が期待できる300Vで加工されたGCを用いることは有効であると考えられる。また、円柱状のものが並んだポーラス体、例えば,陽極酸化アルミやシリコンやガラスのプラズマ処理によるポーラス体、シリコンの湿式エッチングなどによるポーラス体などは、樹脂の転写の際に、テーパーがついていないので、一般に樹脂とかみ合い、転写は難しい。それに対して本発明に係るGC基板上の微細突起はテーパー形状に形成されるため、転写に有利な形状といえる。また、ポーラス体でもアスペクト比が低い場合は樹脂転写は可能な場合はあるが、逆にもともとのポーラス体の高アスペクト比を生かしていないばかりでなく、反射防止効果も弱まると考えられる。
また、300Vで加工したGCの突起の頂角は、11.9°〜20.1°であり、500Vで加工したGCの突起の頂角は、3.3°〜17.37°である。300V加工においても反射防止の効果が顕著に出る範囲内(37.8°以下)であり、頂角を大きくする方に作用し、形状制御性を高めていることがわかる。
[高加速電圧による形状依存性]
図1に示すECR装置を用いて以下の条件でGC基板を加工した。
加速電圧:1000V
ガス種:O2
ガス流量:2.0[SCCM]
加工時間:30min
加工後の表面をSEMにより撮影し、突起の高さ及ピッチを測定した。また、反射率を測定した。図23はSEM画像であり、図24は反射率である。突起の高さは2.18μmであり、ピッチは0.46μmであった。GC表面の突起はかなり先鋭となっており、ピッチ(隣接する針状突起の先端間の距離)が広くなっていることがわかった。また、反射率は可視光領域では1%以下まで低下していた。
[Arガスによる形状依存性]
図1に示すECR装置を用いて以下の条件でGC基板を加工した。
加速電圧:500V
ガス種:O2+Ar
ガス流量:O2=1.80[SCCM]、Ar=0.20[SCCM]
加工時間:30min
加工後の表面をSEMにより撮影し、突起の高さ及ピッチを測定した。また、反射率を測定した。図25はSEM画像であり、図26は反射率である。突起の高さは0.86μmであり、ピッチは0.15μmであった。突起の高さは、加速電圧1000V、加工時間30分、酸素を用いた場合よりも低かったが、ピッチが小さいため低い反射率が実現できた。
以上の結果より、GC基板をECR加工する際、加速電圧、Ar混合比、及び加工時間を制御することにより、より無反射に近いパターン形状、あるいは、被転写材料に転写したときに、より無反射に近いパターン形状を形成することが可能な、いわば逆無反射パターン形状を形成することも可能である。
[蒸着を利用した金型の作製例]
GC基板の表面を、加速電圧500V、加工時間45分で加工して反射防止構造を形成し、加工面上に金蒸着(厚み220nm)を施した。このGC基板の金蒸着面上に光硬化樹脂(PAK−01、東洋合成工業製)を滴下した後、スライドガラスを押し付けた。光硬化樹脂は接着剤の役割となる。押し付け圧力は1.5MPaであり、押し付け時間は60秒とした。次いで、スライドガラス側からUV光を照射(2J/cm2)した。これにより、スライドガラス上に金パターン(型)を写し取った。
上記のようにGC基板の反射防止構造が反映された金反射防止構造体の相対反射率を金表面100%として測定したところ、2%程度であり、反射防止機能を発現する金型が得られた。
このようにGC基板の反射防止構造面に蒸着等により金属膜を形成し、その上に接着剤を塗布して剥離させることで反射防止機能を有する金型を得ることができる。
[ドットマスクを用いた比較実験例]
−ICP加工−
ネガ型レジスト(HSQ(Hydrogen Silsesquioxane)“FOx−14”、東レ・ダウコーニング社製)を用い、GC基板(1cm角)上に電子ビーム描画により360nm間隔で360nm径のドットを設けた。GC上に作製されたドットパターンを図27に示す。これより、マスクの高さは300nmであることがわかる。このGC基板に対し、HSQドットをマスクにしてICPプラズマ装置(エリオニクス社製、EIS700)を用いて以下の条件でICP加工を施した。このSEM画像を図28に示す。ICP加工により形成された円柱状突起の高さは1060nmとなった。加工後、表面の反射率をGC鏡面をリファレンスとして測定した。
ICP高周波パワー:500W
基板バイアス:100V
ガス種:O2
ガス流量:50SCCM
加工時間:3min
−ECR加工−
上記ICP加工後、下記の条件によりECR加工を行った。図29は、ECR加工後のSEM写真である。先端が先鋭化した突起が形成されている。突起の高さは2.05μmであった。ECR加工後、表面の反射率をGC鏡面をリファレンスとして測定した。
加速電圧:300V
ガス種:O2
ガス流量:2.0SCCM
加工時間:60min
図30は、GC基板上のHSQマスク形成後、ICP加工後、およびECR加工後の反射率を示している。GC基板上のHSQマスクの場合は、円柱状のマスクパターンの高さが小さいため反射防止の効果は得られていないが、同じ円柱パターンでもICP加工後で深くなった場合は、可視光領域で10%以下の反射防止効果がでている。また、ICP加工の場合は、異方性のプラズマエッチングのため、垂直性の良い加工となっている。そのため、ICPは円柱状の加工を行うのに向いているといえる。
一方、ECRでの加工後は、GCの突起が先鋭化され、無反射構造の作製に成功している。可視光領域で1%以下の反射防止効果がでている。これは、酸素イオンビーム衝突によるスパッタリング現象によるものと考えられる。スパッタリング現象の場合、一般に入射角度が40度から60度くらいで加工速度が増加する。ここで、ICPで円柱状に加工された頂上付近において、端の部分は、入射角度が大きくなり、この部分の加工速度が大きくなる。一方、入射角度が0度の部分(円柱の上部平坦面)は加工速度が遅い。その結果、円柱上部の側壁から加工が進行し、平坦な部分が徐々に少なくなり先鋭化されると考えられる。
また、無反射構造の条件としては、テーパーを持った形状が重要で、これは、空気と媒体の屈折率変化を連続的に行い、入射光の戻りを無くすためである。円柱状だけでは、この効果が薄く完全な無反射特性が得られないことがこの実験例から分かる。また、一般に反応性プラズマ加工において、自己組織的に表面が荒れる現象は良く生じる。例えば,シリコンをフッ素系のガスで加工する場合や、炭素系(ダイヤモンドや、CVDダイヤモンドなど)材料を酸素系のガスで加工する場合などである。これは、反応性が高いために、何らかの影響で表面に加工しやすいところと加工しにくいところが生じ、その結果ポーラス状(円柱状)の表面になる。何らかの影響とは、表面の研磨状態、結晶状態、材料の構造に起因するもの、もしくはガス組成による塵や汚れの付着などである。GCが自己組織化的に無反射構造になる原因としては、GCの構造に起因して、100nmを切るピッチで酸素によって加工されやすいところと加工されにくいところが発生し、その後、酸素イオンビームによる除去加工とスパッタリング現象による先鋭化が進行するためと考えられる。これは、加速電圧が300Vと500V以上のときに、形状が違うことからも分かる。すなわち、300Vではプラズマ加工の度合いが強く(ICPやRIEでの加工の形状に近いと考えられる)、スパッタリングが少ないといえる。500Vからは、スパッタリングの影響で先鋭化が開始されると考えられる。このように、GCの材料(加工点の密度,先鋭化構造のピッチを決める)と酸素イオンビーム加工(GCの加工およびスパッタリングによる先鋭化を行う)の組み合わせによって無反射構造を形成することができるといえる。
また、別のGC基板に対してICP加工後、ガス種としてArを用い下記条件によりECR加工を行った。
加速電圧:1000V
ガス種:Ar
ガス流量:0.55SCCM
加工時間:15min
この場合も、GC基板の表面にはドットに対応した位置に先鋭化した突起が形成された。Arガスは、GCの構成材料である炭素に対して反応性は無い。そのArイオンビームでも先鋭化が行えたので、先鋭化はスパッタリング現象が寄与しているといえる。ICPやRIEなどの加工装置の場合、反応性プラズマが主で、自己バイアスが低く、スパッタリング現象がおこり難いので、テーパーのついた無反射構造は作製できないと考えられる。
本発明に係る反射防止構造体は極めて高い反射防止機能を有し、構造体自体を反射防止部材として利用することができるし、反射防止構造体全体を型として用いて石英ガラス基板などの高い融点(軟化点)を有する部材に転写することで、無反射に近いディスプレイを備えた携帯電話、パソコン等の製造に大きく寄与することができる。
さらに、本発明に係る反射防止構造体は、反射防止効果以外に親水性も高いため、例えば風呂場等において素早く乾燥する床材の製造に利用することも可能である。
また、本発明に係る反射防止構造体は以下のような応用例も考えられる。
微細突起構造を利用した細胞培養シート、DNA分離構造、マイクロTAS中での塗れ性の制御などが考えられる。
微細突起構造のアンカー効果(凹凸が入り組んで界面が強固に結合する)により接着力が増すので、この構造を樹脂などに転写できれば接着力向上面を作製することができる。
微細突起構造の転写により親水性、撥水性、速乾性等を付与することができ、例えば速乾性を利用した匂いの判定、撥水性を利用した風呂場などの床や壁面への適用(濡れ防止)などが考えられる。
また、微細突起構造の針形状を利用して、AFM針への適用や、電界放出素子、燃料電池、DDS用材料への適用も考えられる。
また、GC基板の反射防止構造を利用することで、分光器の反射率の校正試料や、光学機器内で迷光を除去する部分に適用することも考えられる。
以上、本発明に係る反射防止構造体等について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されない。例えば、本発明に係る反射防止構造体を製造する際に使用する装置は、図1に示したECR型のイオンビーム加工装置に限定されず、ガラス状炭素の基材の表面に、針状、円錐状、角錐状等、先端に向けて縮径する形状を有する微細な突起群からなる反射防止構造を形成することができれば、他の加工装置を使用してもよい。
また、上記実施形態ではガラス状炭素を用いた反射防止構造体とその製造方法について説明したが、ガラス状炭素と同等あるいはそれ以上の耐熱性、機械的強度等を有する材料を用いることで同様の反射防止構造体を製造することも可能である。例えばダイヤモンド等、炭素からなりかつ高い機械的強度を有する材料からなる基板に対してイオンビーム加工等を施すことで、基板表面に、針状、錘状等、先端に向けて縮径する形状を有する微細な突起群からなる反射防止構造を形成することが可能である。
10・・・ECR型イオンビーム加工装置
12・・・ホルダ
14・・・反応ガス導入管
16・・・プラズマ生成室
18・・・エクストラクター
20・・・電磁石
22・・・ビーム引き出し電極
24・・・ファラデーカップ
26・・・原料基板
30・・・突起
32・・・反射防止構造体
44・・・光学部材
H・・・高さ
P・・・ピッチ
D・・・最大径

Claims (6)

  1. ガラス状炭素からなる基材に対して酸素を含むガスを用いてイオンビーム加工を施すことにより該基材の表面に、根元部分から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する前記ガラス状炭素の微細な突起群からなる反射防止構造を形成する工程を含むことを特徴とする反射防止構造体の製造方法。
  2. 前記ガラス状炭素からなる基材として、前記イオンビーム加工を施す面が研磨されているものを用いることを特徴とする請求項1に記載の反射防止構造体の製造方法。
  3. 前記ガラス状炭素からなる基材にイオンビーム加工を施す際、加速電圧、加工時間及びガス流量の少なくともいずれか1つを制御することにより、前記基材の表面に形成する微細な突起の形状及びピッチを制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の反射防止構造体の製造方法。
  4. 前記加速電圧を300V以上、かつ、前記加工時間を18分以上とすることを特徴とする請求項3に記載の反射防止構造体の製造方法。
  5. 前記ガラス状炭素の基材の表面に、前記反射防止構造を構成する微細な突起の5倍以上の幅と高さを有し、先端に向けて縮径する形状を有する大型の突起を形成するためのマスク材料を点在させて前記イオンビーム加工を施すことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の反射防止構造体の製造方法。
  6. 前記イオンビーム加工を施すことにより前記微細な突起の先端部の角度2θを、2θ<37.8°とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の反射防止構造体の製造方法。
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