以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100が組み立てられた状態の縦断面図である。図2は、キャビティ基板3及び電極ガラス基板4の配線状態を説明するための平面図である。図2(a)がキャビティ基板3をノズル基板2側から見た平面図を、図2(b1 )が接続端子21が設置されていないキャビティ基板3を電極ガラス基板4側から見た平面図を、図2(b2 )が接続端子21が設置されているキャビティ基板3を電極ガラス基板4側から見た平面図を、図2(c)が電極ガラス基板4をキャビティ基板3側から見た平面図をそれぞれ示している。なお、図2(b)及び図2(c)では、ドープ領域を破線で囲んで示している。
図1及び図2に基づいて、液滴吐出ヘッド100の構成及び動作について説明する。この液滴吐出ヘッド100は、静電気力により駆動される静電駆動方式の静電アクチュエータを搭載し、ノズル基板2に設けられたノズル孔15から液滴を吐出するフェイスイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドを表している。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。この図1には、後述する固定電極6と可動電極である振動板7との間に駆動信号を供給するためのFPC(Flexible Printed Circuit)13の一部を含めて示している。
図1に示すように、この液滴吐出ヘッド100は、電極ガラス基板4、キャビティ基板3及びノズル基板2の3つの基板が順に積層されて構成されている。キャビティ基板3の一方の面(紙面で示す最上面)にはノズル基板2が接合されており、他方の面(紙面で示す最下面)には電極ガラス基板4が接合されている。すなわち、液滴吐出ヘッド100は、キャビティ基板3を電極ガラス基板4とノズル基板2とで上下から挟む構造となっている。なお、液滴吐出ヘッド100がフェイスイジェクトタイプである場合を例に説明するが、たとえばサイドイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドでもよい。また、電極ガラス基板4とキャビティ基板3とは陽極接合により、キャビティ基板3とノズル基板2とはエポキシ樹脂等の接着剤により接合するとよい。
[電極ガラス基板4]
電極ガラス基板(第1の基板)4は、たとえば、厚さ1mmのホウ珪酸ガラス等のガラスを主要な材料として形成するとよい。ここでは、電極ガラス基板4がホウ珪酸ガラスで形成されている場合を例に示すが、たとえば、電極ガラス基板4を単結晶シリコンで形成してもよい。この電極ガラス基板4の表面には、第1凹部(ガラス溝)16が形成されている。この第1凹部16は、たとえばエッチングにより深さ0.3μm(マイクロメートル)で形成するとよい。この第1凹部16の内部(特に底部)には、共通電極となる固定電極6が作製されている。
また、第1凹部16は、その一部が固定電極6を装着できるように、これらの形状に類似したやや大きめの形状にパターン形成されている。この固定電極6は、たとえばITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を0.1μmの厚さでスパッタして作製するとよい。固定電極6の厚さを0.1μmで作成した場合、電極ガラス基板4とキャビティ基板3とを接合した後の固定電極6と振動板7との間に形成されるギャップ18は約0.2μmとなる。このようにITOで固定電極6を作製すると、透明なので放電したかどうかの確認が行ないやすいという利点がある。
図2(c)に示すように、固定電極6は、後述のキャビティ基板3の各インク圧力室5底面を形成する振動板7と一定の間隔で対向するように所定の位置で分岐され、一端がFPC13に接続するように連通されている(以下、リード部6aと称する)。つまり、固定電極6は、共通電極として機能するのである。また、電極ガラス基板4には、後述するゲート端子11とFPC13とを、キャビティ基板3の振動板7とFPC13とを接続するための入力配線17が作製されている。入力配線17は、電極ガラス基板4の表面に形成した第2凹部16aに作製されている。この第2凹部16aは、ゲート端子11とFPC13とを接続する部分が振動板7とFPC13とを接続する部分よりも深くなるような段差をもって形成されている。
電極ガラス基板4とキャビティ基板3とを接合して積層体を形成すると、振動板7と固定電極6との間には、振動板7を撓ませる(変位させる)ことができる一定のギャップ(空隙)18が、電極ガラス基板4の第1凹部16により形成されるようになっている。このギャップ18は、たとえば深さ0.2μmとなるように形成するとよい。このギャップ18は、第1凹部16の深さ、固定電極6及び振動板7の厚さにより決まることになる。このギャップ18は、液滴吐出ヘッド100の吐出特性に大きく影響するため、厳格な精度管理が要求される。なお、ギャップ18は、各振動板7に対向する位置に細長い一定の深さを有していればよく、第1凹部16を形成する他に、キャビティ基板3に凹部を形成したり、スペーサを挟むことによって設けることも可能である。
固定電極6のインク圧力室5に対向する部分は、長辺及び短辺を有する長方形状に形成されており、この固定電極6が、互いの長辺が平行になるように配置されている。なお、固定電極6の短辺が長辺に対して斜めに形成されており、固定電極6が細長い平行四辺形状になっている場合には、長辺方向に直角方向に伸びる電極列を形成するようにすればよい。また、電極ガラス基板4には、図示省略の外部のインクタンクから供給される液体を取り入れる流路となるインク供給孔(図示省略)が電極ガラス基板4を貫通するように形成されている。
ゲート端子11及び振動板7と接続する入力配線17も固定電極6と同様にITOで作製するとよい。さらに、電極ガラス基板4には、FPC13を実装するためのFPC実装部18が形成されている。なお、第1凹部16の深さやギャップ18の長さ、固定電極6の厚さは一例であり、ここで示す値に限定するものではない。さらに、固定電極6及び入力配線17をITOで作製した場合を例に示したが、これに限定するものではなく、たとえば導電性酸化物で作製すればよい。
[キャビティ基板3]
キャビティ基板(第2の基板)3は、たとえば厚さ約525μmの(110)面方位のシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板という)を主要な材料として構成されている。このシリコン基板にドライエッチングまたは異方性ウエットエッチングのいずれかあるいは双方を行い、底壁が可撓性を有する振動板7となるインク圧力室(または、吐出室)5が複数形成されている。このインク圧力室5は、分岐されている固定電極6の電極列に対応して形成されており、インク等の液滴が保持されて振動板7の駆動によって吐出圧が加えられるようになっている。インク圧力室5は、紙面手前側から奥側にかけて平行に並ぶように形成するとよい。
また、キャビティ基板3の下面(電極ガラス基板4と対向する面)には、振動板7と固定電極6との間を電気的に絶縁するためのTEOS膜(ここでは、Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン(珪酸エチル)を用いてできるSiO2 膜をいう)である絶縁膜8をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:TEOS−pCVDともいう)法を用いて、100nm程度成膜している。これは、振動板7の駆動時における絶縁破壊及びショートを防止するためと、インク等の液滴によるキャビティ基板3のエッチングを防止するためのものである。
この絶縁膜8は、キャビティ基板3に設けられるゲート端子11と振動板7との間を電気的に絶縁する機能も兼ねている。このゲート端子11は、絶縁膜8を介してキャビティ基板2に設けられている。ここでは、絶縁膜8がTEOS膜である場合を示しているが、これに限定するものではなく、絶縁性能が向上する物質であればよい。また、キャビティ基板3の上面にも、図示省略の液体保護膜となるSiO2 膜(TEOS膜を含む)を、プラズマCVD法又はスパッタリング法により成膜するとよい。液体保護膜を成膜することによって、インク滴で流路が腐食されるのを防止できるからである。液体保護膜を成膜すれば、液体保護膜の応力と絶縁膜8の応力とを相殺させ、振動板7の反りを小さくできるという効果も期待できる。
また、キャビティ基板3には、各インク圧力室5に液滴を供給するためのリザーバ19がドライエッチングまたは異方性ウエットエッチングのいずれかあるいは双方を行って形成されている。さらに、キャビティ基板3には、インク圧力室5とリザーバ19とを連通するオリフィス20がドライエッチングまたは異方性ウエットエッチングのいずれかあるいは双方を行って形成されている。なお、キャビティ基板3にも、電極ガラス基板4のインク供給孔と連通するインク供給孔(図示省略)が設けられている。
振動板7は、高濃度のボロンドープ層で形成している。水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液による単結晶シリコンのエッチングにおけるエッチングレートは、ドーパントがボロンの場合、約5×1019atoms/cm3 以上の高濃度の領域において、非常に小さくなる。このため、振動板7の部分を高濃度のボロンドープ層とし、アルカリ溶液による異方性エッチングによってインク圧力室5を形成する際に、ボロンドープ層が露出してエッチングレートが極端に小さくなる、いわゆるエッチングストップ技術を用いることにより、振動板7を所望の厚さに形成することができる。たとえば、振動板7は、幅100μm、厚さ2μm、長さ3mmで形成するとよい。なお、振動板7は、キャビティ基板3の全面に形成するのではなく、各インク圧力室5に対応するように形成している。
ところで、キャビティ基板3は、PMOS(positive channel Metal Oxide Semiconductor:P型のMOS・FET)を形成するためにN型のシリコン基板で構成するものとする。そして、可動電極である振動板7がPMOSのドレイン端子を構成している。また、振動板7の長手方向にシリコンにより隔てられたボロンドープ層でPMOSのソース端子10を構成している。このソース端子10は、入力配線17に接続され、図2(a)に示すように、複数のアクチュエータ(振動板7)間でマトリクス回路を構成するようになっている(図3で説明する)。なお、ゲート端子11は、ポリシリコンで構成している場合を例に示している(図6〜図8参照)。
[ノズル基板2]
ノズル基板2は、たとえば厚さ100μmのシリコン基板を主要な材料としており、複数のノズル孔15が形成されている。そして、各ノズル孔15は、各インク圧力室5から移送された液滴を外部に吐出するようになっている。なお、ノズル孔15を複数段(たとえば、2段)で形成すると、液滴を吐出する際の直進性の向上が期待できる。ここでは、ノズル孔15を有するノズル基板2を上面とし、電極ガラス基板4を下面として説明するが、実際に用いられる場合には、ノズル基板2の方が電極ガラス基板4よりも下面となることが多い。なお、オリフィス20をノズル基板2に形成するようにしてもよい。また、ノズル基板2にリザーバ19の圧力を緩衝するためのダイヤフラムを設けてもよい。
ここで、液滴吐出ヘッド100の特徴事項について詳細に説明する。ここでは、図2に示すように少数(4つ)の静電アクチュエータ(振動板7)が形成されている場合を例に説明する。図2(c)は、上述したように、固定電極6及び入力配線17が作製されている状態を示している。固定電極6は、リード部6aで連通され、FPC13を介してGNDに接続されるようになっている。入力配線17は、ソース端子10に接続する第1入力配線17aと、ゲート端子11に接続する第2入力配線17bとで構成されている。また、接続端子21は、ソース端子10に接続する第1接続端子21aと、ゲート端子11に接続する第2接続端子21bとで構成されている。
すなわち、第1入力配線17aは、たとえばアルミニウム等で構成された第1接続端子21aを介してソース端子10と接続されるようになっており、第2入力配線17bは、たとえばアルミニウム等で構成された第2接続端子21bを介してゲート端子11と接続されるようになっている。また、ゲート端子11は、2つの振動板7に対して1つ設けられるようになっている。そして、ゲート端子11のそれぞれに、第2入力配線17bが第2接続端子21bを介して接続されている。
第1入力配線17aは、2つの振動板7、つまり2つのソース端子10に対して1つ設けられるようになっている。この第1入力配線17aのそれぞれに、第1接続端子21aが接続されている。そして、第1接続端子21aは、2つのソース端子10に接続するようになっている。なお、第1接続端子21aとソース端子10とを接続するために、絶縁膜8に貫通孔8aを形成している。つまり、振動板7の個数よりも少ない個数(ここでは、半分)の入力配線17及び接続端子21が作製されているのである。なお、ソース端子10に接続される第1入力配線17aは、FPC13を介して、外部の駆動制御部に接続されるようになっている。
したがって、スイッチング素子(ドレイン端子(振動板7)、ソース端子10及びゲート端子11で構成するPMOS)と静電アクチュエータとを一体構造としているので、入力配線17及び接続端子21の個数を低減することができ、駆動回路構成をシンプルにすることができる。また、入力配線17及び接続端子21を作製するスペースを少なくすることもでき、液滴吐出ヘッド100の小型化を実現できる。さらに、入力配線17及び接続端子21の個数を低減でき、液滴吐出ヘッド100の製造工程を低減できるため、製造コストの低減、つまり低コスト化を実現することができる。
図3は、スイッチング素子を説明するための回路図である。図3に基づいて、スイッチング素子であるPMOSの回路構成について説明する。図3では、Dkが行選択ラインのデータ線を、Vnが列選択ラインの駆動制御信号線をそれぞれ示している。図3に示すように、ゲート端子11への信号Dkが高論理レベルにあるときに、信号Vnがソース端子10からドレイン端子(振動板7)に流れるようになっている。そうすると、その振動板7と、GNDに落としている対向する固定電極6との間の電位差で、静電力が発生し、振動板7が駆動する。なお、信号Dkが低論理レベルの時には、固定電極6には接地電位GNDが出力される。
図4は、マトリクス回路を説明するための回路図である。図4に基づいて、液滴吐出ヘッド100の動作について説明する。図4では、3つの静電アクチュエータ(Acti−1、Acti、Acti+1)のスイッチング素子(PMOS)がマトリクス接続されている回路構成を示している。ここでは、行選択ラインとして複数本のデータ線Dk(Dk−1、Dk、Dk+1)が配列され、列選択ラインとして複数本の駆動制御信号ラインVn(Vn−1、Vn、Vn+1)が配列されている場合を例に説明する。
リザーバ19には、図示省略のインク供給孔を介して外部からインク等の液滴が供給されている。また、インク圧力室5には、オリフィス20を介してリザーバ19から液滴が供給されている。Acti−1を駆動させる場合について説明する。まず、マトリクス回路における信号Dkを高論理レベルとし、信号Vnをソース端子10側からドレイン端子(振動板7)側に流す。このとき、振動板7と対向する固定電極6には、振動板7とは反対の電荷を帯電する。そのため、選択されたActi−1の振動板7と固定電極6との間で静電気力が発生することになる。固定電極6と振動板7との間に静電気力が発生すると、振動板7は、その静電気力によって固定電極6側に引き寄せられて撓み、Acti−1が駆動することになる。これによりインク圧力室5の容積は広がる。
次に、信号Dkを低論理レベルとすると、固定電極6には接地電位GNDが出力され、振動板7と固定電極6との間の静電気力がなくなり、振動板7は元の状態に復元する。このとき、インク圧力室5の内部の圧力が急激に上昇し、インク圧力室5内の液滴がノズル孔15から吐出されることになる。この液滴が、たとえば記録紙に着弾することによって印刷等が行われるようになっている。その後、液滴がリザーバ19からオリフィス20を通じてインク圧力室5内に補給され、初期状態に戻る。
Actiを駆動させる場合は、マトリクス回路における信号Dkを高論理レベルとし、信号Vn+1をソース端子10側からドレイン端子(振動板7)側に流し、その振動板7と対向する固定電極6との間に静電力を発生させることによって、振動板7が撓み、Actiが駆動することになる。Acti+1を駆動させる場合は、マトリクス回路における信号Dk+1を高論理レベルとし、信号Vnをソース端子10側からドレイン端子(振動板7)側に流し、その振動板7と対向する固定電極6との間に静電力を発生させることによって、振動板7が撓み、Acti+1が駆動することになる。
図4では、3つの静電アクチュエータを例に説明しているが、これに対する入力配線17(第1入力配線17a及び第2入力配線17b)及び接続端子21(第1接続端子21a及び第2接続端子21b)の個数は2本ずつでよい。すなわち、静電アクチュエータの個数よりも少ない個数の入力配線17で、静電アクチュエータの個別選択が可能となり、駆動回路構成をシンプルにすることができるとともに、入力配線17及び接続端子21を作製するスペースを少なくすることもできる。よって、小型化及び低コスト化を実現した液滴吐出ヘッド100を提供することができる。
液滴吐出ヘッド100では、スイッチング素子としてPMOSを適用しているので、小電圧の信号で、大電圧のON/OFF、つまりスイッチング駆動が可能となる。したがって、消費電力の低減を実現できる。また、スイッチング素子と静電アクチュエータとを一体構造としているので、ドライバICを設けなくて済み、更に小型化を図れる。そして、ドライバICを設けなくても、複数の静電アクチュエータを個別に選択し駆動することができる。したがって、入力配線17の個数を、静電アクチュエータの数よりも少数にでき、実装の信頼性が向上する。
図5は、スイッチング素子の別の例を説明するための回路図である。図5に基づいて、スイッチング素子であるCMOSの回路構成について説明する。図5では、Dkが行選択ラインのデータ線を、Vnが列選択ラインの駆動制御信号線をそれぞれ示している。図5に示すCMOSのようなインバータ回路構成とすれば、高電圧とGNDとを切り替えるだけで、静電アクチュエータを駆動できる。つまり、更に簡易化した駆動回路を構成できる。なお、インバータと双方向トランスミッションゲートを用いた回路を形成することで、低インピーダンス駆動を可能とする構成としてもよい。
次に、液滴吐出ヘッド100の製造工程について説明する。図6〜図8は、液滴吐出ヘッド100(特に、静電アクチュエータを構成するキャビティ基板3及び電極ガラス基板4)の製造工程の一例を示す縦断面図である。図6〜図8に基づいて、この実施の形態1の特徴部分、つまりスイッチング素子と静電アクチュエータとの一体構造について説明する。なお、実際には、シリコンウエハから複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するのが一般的であるが、図6〜図8ではその一部分だけを簡略化して示している。また、ここでは、製造工程の一例を示すが、これに限定するものではない。
(a)まず、N型のシリコン基板3aを準備し、両面を鏡面研磨した後に、シリコン基板3aの片面(電極ガラス基板4との接合する面)にたとえばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によってTEOS(TetraEthylOrthosilicate)からなる厚さ約0.1μmの熱酸化膜(SIO2 膜)50を形成する。たとえば、この熱酸化膜50は、熱酸化装置により温度1075℃、酸素と水蒸気との混合雰囲気中で4時間熱酸化することにより形成することができる。なお、実際には、熱酸化膜50がシリコン基板3aの全面に形成されている。
(b)次に、熱酸化膜50上に図示省略のレジストをコーティングし、露光、現像等の一連のフォトリソプロセスを経てソース端子10を形成する部分10aと振動板7を形成する部分7aをパターニングして、その部分のレジストを除去して開口する。そして、ソース端子10となる部分10a及び振動板7となる部分7aにボロンをドープするために、シリコン基板3aをB2O3を主成分とする固体の拡散源に対向させて石英ボートにセットし、炉内を窒素雰囲気にし、たとえば温度を1050℃に上昇させて7時間保持することで、ボロンを拡散させ、ボロンドープ層を形成する。このボロンドープ層は、後述するエッチングにおいてエッチングストップ層として機能する。
(c)ボロン拡散の終了後、熱酸化膜50を除去する。その後、シリコン基板3aの片面(電極ガラス基板4との接合する面)にプラズマCVDによってTEOSからなる厚さ約100nmの熱酸化膜(SIO2 膜)、つまり絶縁膜8を形成する。なお、実際には、絶縁膜8がシリコン基板3aの全面に形成されている。また、静電アクチュエータをPMOSではなく、NMOS(negative channel Metal Oxide Semiconducto)として構成する場合には、ボロンの代わりにリンやヒ素を注入すればよい。
(d)絶縁膜8上にゲート端子11となるポリシリコン膜52を形成する。次に、ポリシリコン膜52に、ゲート端子11と第2入力配線17bとを接続させる第2接続端子21bとなるたとえばアルミニウム膜53を形成し、その上にレジスト54をコーティングする。
(e)次に、露光、現像等の一連のフォトリソプロセスを経て第2接続端子21bとなる部分をパターニングして、第2接続端子21bとなる部分以外のレジスト54及びアルミニウム膜53を除去する。
(f)それから、レジスト55を再度コーティングする。
(g)次に、露光、現像等の一連のフォトリソプロセスを経てゲート端子11となる部分をパターニングして、ゲート端子11となる部分以外のレジスト55及びポリシリコン膜52を除去する。
(h)それから、レジスト56を再度コーティングする。
(i)そして、露光、現像等の一連のフォトリソプロセスを経てソース端子10と第1入力配線17aとを接続させる第1接続端子21aを作製するための開口部57をレジスト56及び絶縁膜8に形成する。
(j)この開口部57にたとえばアルミニウムを流し込み、第1接続端子21aとする。
(k)その後、レジスト56を除去する。
(l)このシリコン基板3aを、固定電極6及び入力配線17(第1入力配線17a及び第2入力配線17b)が形成された電極ガラス基板4に陽極接合する。ここで、電極ガラス基板4の製造方法の一例を簡単に説明する。まず、レジストをガラス基板の片面全体に塗布して所定形状にパターニングした後、フッ酸水溶液等でエッチングして第1凹部16及び第2凹部16aを形成してレジストを剥離する。そして、第1凹部16及び第2凹部16aの形成された面の全面にスパッタ等でITOを成膜し、ITOの表面にレジストを塗布してパターニングし、エッチングによって固定電極6及び入力配線17を形成した後にレジストを剥離する。
この陽極接合は、シリコン基板3aと電極ガラス基板4を360℃に加熱した後、電極ガラス基板4に負極、シリコン基板3aに正極を接続して、800Vの電圧を印加して行うようにすればよい。
(m)それから、陽極接合後のシリコン基板3aを機械研削によって所望の厚さまで薄板する。なお、機械研削した後に、シリコン基板3aの表面に発生した加工変質層を除去するために、KOH(水酸化カリウム水溶液)等でウエットエッチングを行うことが望ましい。その後、シリコン基板3aをKOH等でエッチングすることにより、インク圧力室5及びリザーバ19を形成する。このとき振動板7を構成するボロンがエッチングストップ層として機能するようになっている。したがって、振動板7の厚さを高精度に加工することができる。
なお、インク圧力室5及びリザーバ19は、深さが異なっているために、多段階のパターニング及びエッチングを行なうことで形成すればよい。また、ウエットエッチングでは、たとえば初めに35重量%のKOHを使用し、その後、3重量%のKOHを使用すれば、振動板7の面荒れを抑制することができる。FPC実装部13aの開口にはドライエッチングを用いる。その開口によりリード部6aにおいてギャップ18が大気と連通するため、封止材等で気密封止を行なう。このようにしてキャビティ基板3が完成する。そして、キャビティ基板3と電極ガラス基板4との接合基板のキャビティ基板3に、作製したノズル基板2を接合し、液滴吐出ヘッド100が完成する。キャビティ基板3とノズル基板2との接合は、エポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合することができる。
したがって、液滴吐出ヘッド100は、各静電アクチュエータを駆動するためのドライバICを設けなくて済むので、小型化を実現することができる。また、液滴吐出ヘッド100は、入力配線17(第1入力配線17a及び第2入力配線17b)及び接続端子21(第1接続端子21a及び第2接続端子21b)を振動板7の個数よりも少ない個数で作製することができるので、回路構成を複雑にすることなく、更なる小型化を実現できる。さらに、液滴吐出ヘッド100は、封止材やドライバICを設けなくて済むために製造工程を減少することもでき、低コスト化に寄与することにもなる。
実施の形態2.
図9は、本発明の実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド200が組み立てられた状態の縦断面図である。図9に基づいて、液滴吐出ヘッド200の構成及び動作について説明する。この液滴吐出ヘッド200は、静電気力により駆動される静電駆動方式の静電アクチュエータを搭載し、ノズル基板2に設けられたノズル孔15から液滴を吐出させるフェイスイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドを表している。なお、この実施の形態2では上述した実施の形態1との相違点を中心に説明するものとし、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
実施の形態1では、キャビティ基板3に電極ガラス基板4を陽極接合させている場合を例に示しているが、実施の形態2では、キャビティ基板30にN型のシリコン基板で構成された電極基板40を直接接合させている場合を例に示している。図9に示すように、この液滴吐出ヘッド200は、電極基板40、キャビティ基板30及びノズル基板2の3つの基板が順に積層されて構成されている。キャビティ基板30の一方の面(紙面で示す最上面)にはノズル基板2が接合されており、他方の面(紙面で示す最下面)には電極基板40が接合されている。すなわち、液滴吐出ヘッド200は、キャビティ基板30を電極基板40とノズル基板2とで上下から挟む構造となっている。
[電極基板40]
電極基板(第1の基板)40は、シリコン基板を主要な材料として構成されている。すなわち、電極基板40は、PMOSを形成するためにN型のシリコン基板で構成されている。この電極基板40の表面には、後述するゲート端子42の形成位置に対応するシリコン基板に隔てられたボロンドープ層45が選択的に形成されている。つまり、ボロンドープ層45は、振動板37に対応させる位置に形成されているボロンドープ層45aと、FPC13に接続させる位置に形成されているボロンドープ層45bとで構成されている。
そして、ボロンドープ層45aを、PMOSのドレイン端子43として構成し、固定電極として機能させている。また、ボロンドープ層45bを、PMOSのソース端子41として構成させている。このソース端子41は、アルミニウムやプラチナ等からなる入力配線67を介してFPC13に接続され、実施の形態1の図2(a)に示すような複数のアクチュエータ(振動板37)間でマトリクス回路を構成するようになっている。なお、静電アクチュエータをPMOSではなく、NMOSとして構成する場合には、ボロンの代わりにリンやヒ素を注入すればよい。また、入力配線67の形成位置がFPC実装部となる。
また、ボロンドープ層45a及びゲート端子42の形成位置に対応するシリコン基板には、振動板37とドレイン端子43との間を電気的に絶縁するための熱酸化膜を100nm程度成膜している。これは、振動板37の駆動時における絶縁破壊及びショートを防止するためと、インク等の液滴によるキャビティ基板30のエッチングを防止するためのものである。この絶縁膜48は、ゲート端子42と電極基板40との間を電気的に絶縁する機能も兼ねている。この絶縁膜48を熱酸化膜で構成するため絶縁耐圧が容易かつ安価に向上する。絶縁膜48をキャビティ基板30に形成する場合、薄い振動板37が絶縁膜48の応力により撓んでしまうことになるが、絶縁膜48を電極基板40に形成するため、そのような問題が生じることがない。
また、キャビティ基板30の上面にも、図示省略の液体保護膜となるSiO2 膜を、プラズマCVD法又はスパッタリング法により成膜するとよい。液体保護膜を成膜することによって、インク滴で流路が腐食されるのを防止できるからである。液体保護膜を成膜すれば、液体保護膜の応力と絶縁膜48の応力とを相殺させ、振動板37の反りを小さくできるという効果も期待できる。さらに、絶縁膜48には、振動板37と対応する位置及びゲート端子42の形成位置がエッチング(ハーフエッチング)加工され、凹部66が形成されている。そして、電極基板40のゲート端子42の形成位置に、絶縁膜48を介してゲート端子42が形成される。なお、ゲート端子42は、ポリシリコンで構成している場合を例に示している(図10〜図12参照)。
[キャビティ基板30]
キャビティ基板(第2の基板)30は、たとえば厚さ約525μmの(110)面方位のシリコン基板を主要な材料として構成されている。このシリコン基板にドライエッチングまたは異方性ウエットエッチングのいずれかあるいは双方を行い、実施の形態1と同様に底壁が可撓性を有する振動板37(可動電極)となるインク圧力室5が複数形成されている。この振動板37は、高濃度のボロンドープ層で形成するようにしてもよい。たとえば、振動板37は、幅100μm、厚さ2μm、長さ3mmで形成するとよい。また、キャビティ基板30には、リザーバ19及びオリフィス20がドライエッチングまたは異方性ウエットエッチングのいずれかあるいは双方を行って形成されている。
そして、この実施の形態2では、キャビティ基板30を共通電極として機能させるために、プラチナ等からなる共通電極端子35が形成されている。このようなキャビティ基板30と電極基板40とを接合して積層体を形成すると、振動板37と絶縁膜48との間には、振動板37を撓ませることができる一定のギャップ49が、絶縁膜48の凹部66により形成されるようになっている。このギャップ49は、たとえば深さ0.2μmとなるように形成するとよい。このギャップ49は、凹部66の深さにより決まることになる。このギャップ49は、液滴吐出ヘッド200の吐出特性に大きく影響するため、厳格な精度管理が要求される。
ここで、液滴吐出ヘッド200の特徴事項について詳細に説明する。実施の形態1では、キャビティ基板3にスイッチング素子を作製し、このスイッチング素子と静電アクチュエータとを一体構造とした場合を示したが、実施の形態2では、電極基板40にスイッチング素子(ドレイン端子43、ソース端子41及びゲート端子42で構成するPMOS))を作製し、このスイッチング素子と静電アクチュエータとを一体構造とした場合を示している。なお、液滴吐出ヘッド200に搭載するスイッチング素子であるPMOSの回路構成については、実施の形態1と同様である(図3参照)。また、液滴吐出ヘッド200に適用するマトリクス回路についても、実施の形態1と同様である(図4参照)。
液滴吐出ヘッド200の動作について図3を参照しながら簡単に説明する。図3に示すように、ゲート端子42への信号Dkが高論理レベルにあるときに、信号Vnがソース端子41からドレイン端子43に流れるようになっている。そうすると、そのドレイン端子43と、GNDに落としている対向する振動板37(共通電極端子)との間の電位差で、静電力が発生し、振動板37が駆動する。なお、信号Dkが低論理レベルの時には、ドレイン端子43には接地電位GNDが出力される。
このように液滴吐出ヘッド200を作製するので、入力配線67(たとえば、実施の形態1と同様に2つの振動板37、つまり2つのソース端子41に対して1つ設けられるようにするとよい)の個数を低減することができ、駆動回路構成をシンプルにすることができる。また、入力配線67を作製するスペースを少なくすることもでき、液滴吐出ヘッド200の小型化を実現できる。さらに、入力配線67の個数を低減でき、液滴吐出ヘッド200の製造工程を低減できるため、製造コストの低減、つまり低コスト化を実現することができる。
液滴吐出ヘッド200では、スイッチング素子としてPMOSを適用しているので、小電圧の信号で、大電圧のON/OFF、つまりスイッチング駆動が可能となる。したがって、消費電力の低減を実現できる。また、スイッチング素子と静電アクチュエータとを一体構造としているので、ドライバICを設けなくて済み、更に小型化を図れる。そして、ドライバICを設けなくても、複数の静電アクチュエータを個別に選択し駆動することができる。したがって、入力配線67の個数を、静電アクチュエータの数よりも少数にでき、実装の信頼性が向上する。
また、液滴吐出ヘッド200には、PMOSではなく、実施の形態1で示したようなスイッチング素子であるCMOS(図5参照)を搭載してもよい。図5に示すCMOSのようなインバータ回路構成とすれば、高電圧とGNDとを切り替えるだけで、静電アクチュエータを駆動できる。つまり、更に簡易化した駆動回路を構成できる。なお、インバータと双方向トランスミッションゲートを用いた回路を形成することで、低インピーダンス駆動を可能とする構成としてもよい。
次に、液滴吐出ヘッド200の製造工程について説明する。図10〜図12は、液滴吐出ヘッド200(特に、静電アクチュエータを構成するキャビティ基板30及び電極基板40)の製造工程の一例を示す縦断面図である。図10〜図12に基づいて、この実施の形態2の特徴部分、つまりスイッチング素子と静電アクチュエータとの一体構造について説明する。なお、実際には、シリコンウエハから複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するのが一般的であるが、図10〜図12ではその一部分だけを簡略化して示している。また、ここでは、製造工程の一例を示すが、これに限定するものではない。
(a)まず、N型のシリコン基板40aを準備し、両面を鏡面研磨した後に、シリコン基板40aの片面(キャビティ基板30との接合する面)に厚さ約0.1μmの熱酸化膜(SIO2 膜)70を形成する。たとえば、この熱酸化膜70は、熱酸化装置により温度1075℃、酸素と水蒸気との混合雰囲気中で4時間熱酸化することにより形成することができる。なお、実際には、熱酸化膜70がシリコン基板40aの全面に形成されている。
(b)次に、熱酸化膜70上に図示省略のレジストをコーティングし、露光、現像等の一連のフォトリソプロセスを経てソース端子41を形成する部分41aとドレイン端子43を形成する部分43aをパターニングして、その部分のレジストを除去して開口する。
(c)そして、ソース端子41を形成する部分41a及びドレイン端子43を形成する部分43aのボロンをドープするために、シリコン基板40aをB2O3を主成分とする固体の拡散源に対向させて石英ボートにセットし、炉内を窒素雰囲気にし、たとえば温度を1050℃に上昇させて7時間保持することで、ボロンを拡散させ、ボロンドープ層45を形成する。
(d)ボロン拡散の終了後、熱酸化膜70を除去し、その後、シリコン基板40aの片面(キャビティ基板30との接合する面)に厚さ約100nmの熱酸化膜(SIO2 膜)、つまり絶縁膜48を形成する。なお、静電アクチュエータをPMOSではなく、NMOSとして構成する場合には、ボロンの代わりにリンやヒ素を注入すればよい。
(e)絶縁膜48上にレジスト74をコーティングし、露光、現像等の一連のフォトリソプロセスを経てソース端子41を形成する部分41aをパターニングして、その部分のレジスト74を除去して開口する。
(f)このレジスト74をマスクとして、ソース端子41を形成する部分41aの絶縁膜48をエッチングして除去する。その後、レジスト74を除去する。
(g)それから、レジスト75を再度コーティングし、露光、現像等の一連のフォトリソプロセスを経て凹部66となる部分をパターニングして、その部分のレジスト75を除去する。
(h)そして、レジスト75をマスクとして、凹部66となる部分の絶縁膜48をハーフエッチングして除去する。このハーフエッチングは、ドライエッチングプロセスまたは異方性ウエットエッチングプロセスで行えばよい。
(i)その後、レジスト75を除去する。
(j)絶縁膜48及びボロンドープ層45b上にゲート端子42となるポリシリコン膜72を形成する。
(k)次に、ポリシリコン膜72上にレジスト76をコーティングし、露光、現像等の一連のフォトリソプロセスを経てゲート端子42となる部分以外のレジスト76を除去する。
(l)このレジスト76をマスクとして、ポリシリコン膜72を除去する。
(m)ゲート端子42となる部分に残ったレジスト76を除去し、たとえばシリコン製マスク等を用いてプラチナ等をスパッタし、FPC実装用の端子(入力配線67)を作製する。
以上のプロセスで電極基板40が完成する。この電極基板40に、キャビティ基板30となるシリコン基板3aを接合し、インク圧力室5やリザーバ19、オリフィス等を作製し、完成させたキャビティ基板30にノズル基板2を接合し、液滴吐出ヘッド200が完成する。電極基板40とキャビティ基板30とは、酸化シリコン(絶縁膜48)とシリコン(シリコン基板30a)との直接接合のプロセスで接合する。この接合によって、ギャップ49が密閉空間になり、封止材等による気密封止工程が不要となる。
また、各基板の接合面は、固定電極(ドレイン端子43)と可動電極(振動板37)の貼り付きを防ぐため、疎水性とし、疎水性表面同士での接合強度を確保するために、密着状態の基板に400℃以上の熱を掛け、接合するようになっている。さらに、キャビティ基板30と電極基板40とを直接接合するため、電界を掛けずに済み、MOS・FETからなるスイッチング素子の損傷を効果的に防止することができ、接合によって振動板37までもが貼り付いてしまうこともない。
したがって、液滴吐出ヘッド200は、各静電アクチュエータを駆動するためのドライバICを設けなくて済むので、小型化を実現することができる。また、液滴吐出ヘッド200は、入力配線67を振動板37の個数よりも少ない個数で作製することができるので、回路構成を複雑にすることなく、更なる小型化を実現できる。さらに、液滴吐出ヘッド200は、封止材やドライバICを設けなくて済むために製造工程を減少することもでき、低コスト化に寄与することにもなる。特に、電極基板40に形成する固定電極をITO等で構成しなくて済むので、低コスト化に加えて、製造プロセスを低減することにもなる。
実施の形態3.
図13は、本発明の実施の形態3に係る液滴吐出ヘッド300が組み立てられた状態の縦断面図である。図13に基づいて、液滴吐出ヘッド300の構成及び動作について説明する。この液滴吐出ヘッド300は、静電気力により駆動される静電駆動方式の静電アクチュエータを搭載し、ノズル基板2に設けられたノズル孔15から液滴を吐出させるフェイスイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドを表している。なお、この実施の形態3では上述した実施の形態1及び実施の形態2との相違点を中心に説明するものとし、実施の形態1及び実施の形態2と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
実施の形態3に係る液滴吐出ヘッド300は、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100の特徴事項と、実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド200の特徴事項とを組み合わせたことを特徴としている。すなわち、液滴吐出ヘッド300には、2つのスイッチング素子(PMOS)が搭載されていることを特徴としている。1つ目のスイッチング素子(ドレイン端子43、ソース端子41及びゲート端子42)は電極基板40に形成されており、2つ目のスイッチング素子(ドレイン端子(振動板7)、ソース端子10及びゲート端子11)はキャビティ基板3に形成されている。
この液滴吐出ヘッド300は、電極基板40(実施の形態2の特徴事項)、キャビティ基板3(実施の形態1の特徴事項)及びノズル基板2の3つの基板が順に積層されて構成されている。キャビティ基板3の一方の面(紙面で示す最上面)にはノズル基板2が接合されており、他方の面(紙面で示す最下面)には電極基板40が接合されている。すなわち、液滴吐出ヘッド300は、キャビティ基板3を電極基板40とノズル基板2とで上下から挟む構造となっている。
図13に示すように、2つのスイッチング素子に駆動信号を供給するためのFPC13を液滴吐出ヘッド300の長手方向における両端に2つ設けている。実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100及び実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド200ではFPC13がともに紙面右側に実装されている場合を例に示したが、液滴吐出ヘッド300ではドレイン端子43に駆動信号を供給するためのFPC13が紙面左側に、振動板7に駆動信号を供給するFPC13が紙面右側にそれぞれ実装されている場合を例に示している。このようにすることで、入力配線17及び入力配線67の混線を防止している。なお、実施の形態1では入力配線17をITOで形成した場合を例に示したが、実施の形態3では入力配線17を入力配線67と同様にアルミニウムやプラチナ等で形成すればよい。
液滴吐出ヘッド300は、2つのスイッチング素子が搭載されているので、可動電極(振動板7)も固定電極(ドレイン端子43)も共に、静電アクチュエータ毎に個別にON/OFFのスイッチングができる。したがって、実施の形態1及び実施の形態2のように一方が共通電極(実施の形態1では固定電極6が共通電極端子、実施の形態2では振動板7が共通電極端子)になっている場合(全静電アクチュエータが繋がっている場合)よりも、液滴吐出ヘッド300では以下に説明するような複雑な駆動制御を実行することができる。
図14は、液滴吐出ヘッド300の駆動制御の一例を説明するための説明図である。図14に基づいて、液滴吐出ヘッド300ができる複雑な駆動制御の一例について説明する。図14に示すように、液滴吐出ヘッド300は、たとえば3段階の電圧をノズル孔15毎(静電アクチュエータ毎)で同時に使い分けることができる。図14では、最大量の液滴を吐出させるノズルA、最小量の液滴を吐出させるノズルB、中間量の液滴を吐出させるノズルCの3段階の吐出量について示している。また、振動板7に印加される電圧が10V、ドレイン端子43に印加される電圧が7Vである場合を例に示している。
最大量の液滴を吐出させる場合の駆動制御は、振動板7に電圧を印加し、ドレイン端子43に電圧を印加しない。そうすると、振動板7のみに10Vの電圧が印加されることになり、電極間電位差(振動板7とドレイン端子43との間に印加される電圧)が10Vになる。こうすることによって、振動板7を最大に撓ませ、インク圧力室5内の液滴に与える自由振動の振幅を最大とすることができる。そして、ゲート端子11への印加電圧(駆動信号Dk)を低論理レベルにすることによって、振動板7には接地電位GNDが出力され、振動板7が復元し、最大量の液滴をノズルAから吐出することができる。
最小量の液滴を吐出させる場合の駆動制御は、振動板7及びドレイン端子43の双方に電圧を印加する。そうすると、振動板7に10Vの電圧が、ドレイン端子43に7Vの電圧がそれぞれ印加されることになり、電極間電位差が3Vになる。こうすることによって、振動板7を小さく撓ませ、インク圧力室5内の液滴に与える自由振動の振幅を最小とすることができる。そして、ゲート端子11及びゲート端子42への印加電圧を低論理レベルにすることによって、振動板7及びドレイン端子43には接地電位GNDが出力され、振動板7が復元し、最小量の液滴をノズルBから吐出することができる。
中間量の液滴を吐出させる場合の駆動制御は、ドレイン端子43に電圧を印加し、振動板7に電圧を印加しない。そうすると、ドレイン端子43のみに7Vの電圧が印加されることになり、電極間電位差が7Vになる。こうすることによって、振動板7を中間程度に撓ませ、インク圧力室5内の液滴に与える自由振動の振幅を中間程度とすることができる。そして、ゲート端子42への印加電圧を低論理レベルにすることによって、振動板7には接地電位GNDが出力され、振動板7が復元し、中間量の液滴をノズルCから吐出することができる。
以上のように、実際に電極間に掛かる電位差は、振動板7に印加される電圧とドレイン端子43に印加される電圧との差となり、この電位差に基づいて静電力の大きさが決定することになる。したがって、可動電極も固定電極もともに、個別にON/OFFのスイッチングができることで、液滴吐出量の3段階制御が可能になっている。たとえば、液滴吐出量を同時に使い分けることで、精細な部分には少量の液滴吐出量を、ベタ塗りする部分には多量の液滴吐出量を供給することができ、印刷の効率化を図ることができるとともに、印刷速度を向上することができる。
実施の形態4.
図15は、上述した液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置150の一例を示した斜視図である。図15に示す液滴吐出装置150は、一般的なインクジェットプリンタである。なお、この液滴吐出装置150は、周知の製造方法によって製造することができる。上述した液滴吐出ヘッド100、液滴吐出ヘッド200及び液滴吐出ヘッド300は、スイッチング素子と静電アクチュエータとを一体構造としたことを特徴とするものであるから、これらを搭載した液滴吐出装置150も同様の効果を得ることができる。
なお、液滴吐出ヘッド100、液滴吐出ヘッド200及び液滴吐出ヘッド300は、図15に示す液滴吐出装置150の他に、液滴を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、生体液体の吐出等にも適用することができる。また、液滴吐出ヘッド100、液滴吐出ヘッド200及び液滴吐出ヘッド300は、圧電駆動方式の液滴吐出装置や、バブルジェット(登録商標)方式の液滴吐出装置にも使用できる。
たとえば、液滴吐出ヘッド100、液滴吐出ヘッド200及び液滴吐出ヘッド300をディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids:デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。
なお、本発明の実施の形態に係る静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法は、上述の実施の形態で説明した内容に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において変更することができる。また、液滴吐出ヘッド100、液滴吐出ヘッド200及び液滴吐出ヘッド300が電極基板、キャビティ基板及びノズル基板からなる3層構造を例に説明したが、これに限定するものではない。たとえば、リザーバ基板を追加して4つの基板が積層されて構成される4層構造の液滴吐出ヘッドについても適用することができる。
2 ノズル基板、3 キャビティ基板、3a シリコン基板、4 電極ガラス基板、5 インク圧力室、6 固定電極、6a リード部、7 振動板、7a 振動板となる部分、8 絶縁膜、8a 貫通孔、10 ソース端子、10a ソース端子を形成する部分、11 ゲート端子、13 FPC、13a FPC実装部、15 ノズル孔、16 第1凹部、16a 第2凹部、17 入力配線、17a 第1入力配線、17b 第2入力配線、18 ギャップ、19 リザーバ、20 オリフィス、21 接続端子、21a 第1接続端子、21b 第2接続端子、30 キャビティ基板、30a シリコン基板、35 共通電極端子、37 振動板、40 電極基板、40a シリコン基板、41 ソース端子、41a ソース端子を形成する部分、42 ゲート端子、43 ドレイン端子、43a ドレイン端子を形成する部分、45 ボロンドープ層、45a ボロンドープ層、45b ボロンドープ層、48 絶縁膜、49 ギャップ、50 熱酸化膜、52 ポリシリコン膜、53 アルミニウム膜、54 レジスト、55 レジスト、56 レジスト、57 開口部、66 凹部、67 入力配線、70 熱酸化膜、72 ポリシリコン膜、74 レジスト、75 レジスト、76 レジスト、100 液滴吐出ヘッド、150 液滴吐出装置、200 液滴吐出ヘッド、300 液滴吐出ヘッド。