JP5158263B2 - 内燃機関の始動回転力伝達機構 - Google Patents

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Description

本発明は、始動用モータの回転力をリングギヤからワンウェイクラッチを介して内燃機関の回転出力軸へ伝達する内燃機関の始動回転力伝達機構に関するものである。
従来、この種の内燃機関の始動回転力伝達機構としては、例えば特許文献1に記載のものがある。特許文献1に記載の技術も含めて従来一般の内燃機関の始動回転力伝達機構においては、始動用モータの回転力がリングギヤからワンウェイクラッチを介して内燃機関のクランクシャフトへ伝達されるようになっている。リングギヤとクランクシャフトとの間には、同リングギヤを回転可能に支持するボールベアリングが設けられている。また、これらボールベアリング及びワンウェイクラッチの外周には、これらボールベアリング及びワンウェイクラッチに対して供給されるオイルが外部に漏出することを防ぐためのシール部材が設けられている。このように、ボールベアリング、ワンウェイクラッチ、及びシール部材をクランクシャフトの径方向に沿って設けることにより、始動回転力伝達機構を含めた内燃機関の軸方向における体格を小さく抑えることができる。
特開2007―247561号公報
ところで、特許文献1に記載の従来の始動回転力伝達機構を例えば、大排気量の内燃機関に対して適用する場合には、以下の問題が生じるおそれがある。すなわち一般に、内燃機関の排気量が大きくなるほどクランクシャフトの直径が大きなものとなることから、内燃機関の排気量が大きくなるほどクランクシャフトの軸中心からシール部材までの距離が長くなる。そのため内燃機関の排気量が大きくなるほど、シール部材の回転半径が大きくなり、シール部材の周速度が大きくなる。その結果、シール部材の摺動部における摩擦力が大きくなることで、シール部材の熱劣化、ひいてはシール性の低下を招くといった問題が生じるおそれがある。
そこで、図11に示すように、アウターレース6の内周面とインナーレース804の外周面との間に、クランクシャフト2の軸方向に沿って内燃機関本体EB側から順にワンウェイクラッチ12、ボールベアリング14、及びシール部材16を設けるものが開発されるに至っている。ここで、インナーレース804にはクランクシャフト2が連結され、インナーレース804の外周側に設けられるアウターレース6にはリングギヤ8が連結されている。こうした構成によれば、クランクシャフト2の軸中心からシール部材16までの距離を短くすることができ、内側シール部材16の回転半径を小さくすることができる。これにより、内側シール部材16の周速度を小さく抑えられることができ、シール部材16の摺動部における摩擦力を低減してシール部材によるシール性の低下を抑制することができるようになる。尚、こうした構成においては、従来、同図中に示すように、オイルジェット機構OJからのオイルをワンウェイクラッチ12及びボールベアリング14に対して供給するようにしている。
ところで、こうした内燃機関の始動回転力伝達機構において、インナーレース及びアウターレースの外部からワンウェイクラッチ及びボールベアリング(転がり軸受け)に向けてこれらの潤滑のためのオイルを供給する場合には、以下の問題が生じるおそれがある。すなわち、アウターレースの内周面、インナーレースの外周面、及びシール部材によって区画形成される空間は袋小路形状をなしていることから、同空間の外部から供給されたオイルはシール部材において滞留することで排出されにくくなる。そのため、こうして滞留するオイルが次第に劣化してスラッジとなることで、シール部材によるシール性が低下するといった問題が生じる。
一方、こうした問題の発生を抑制するために、ワンウェイクラッチ及び転がり軸受けに対して供給するオイル量を少なく抑えてシール部材におけるオイルの滞留を抑制することが考えられる。しかしながらこの場合には、シール部材とインナーレースとの摺動部に対して供給されるオイルが不足しやすくなる。そのため、シール部材の摺動性の低下、ひいてはシール部材によるシール性の低下を招くといった問題が生じるおそれがある。
尚、こうした問題は、アウターレースの内周面とインナーレースの外周面との間に、内燃機関本体側から順にワンウェイクラッチ及び転がり軸受けを設けるものに限られるものではなく、他に例えば内燃機関本体側から順に転がり軸受け及びワンウェイクラッチを設けるものにおいても概ね共通して生じ得るものである。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アウターレースの内周面とインナーレースの外周面との間に内燃機関の回転出力軸の軸方向に沿ってワンウェイクラッチ、転がり軸受け及びシール部材が並設される内燃機関の始動回転力伝達機構において、シール部材に対するオイルの給排を的確に行うことのできる内燃機関の始動回転力伝達機構を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明に従う内燃機関の始動回転力伝達機構は、内燃機関の回転出力軸に連結されるインナーレースと、始動用モータによって一方向に回転させられるリングギヤと、前記インナーレースの外周に設けられるとともに前記リングギヤに連結されるアウターレースと、前記アウターレースの内周面と前記インナーレースの外周面との間に設けられて前記リングギヤから前記インナーレースに対し前記一方向の回転力が伝達されるのを許容する一方、前記インナーレースから前記リングギヤへの回転力の伝達は阻止するワンウェイクラッチと、前記アウターレースの内周面と前記インナーレースの外周面との間に設けられる転がり軸受けと、前記回転出力軸の軸方向において前記ワンウェイクラッチ及び前記転がり軸受けに対し内燃機関本体の外側寄りに設けられて前記アウターレースの内周面と前記インナーレースの外周面との間からのオイル漏れを阻止するシール部材と、前記インナーレースに形成されて同インナーレースの外部と前記シール部材とを連通するオイル供給通路と、を備える。
同構成によれば、オイルがインナーレースの外部からオイル供給通路に導入されると、同通路内においてはインナーレースの回転に伴いオイルに対して遠心力が作用することから、オイルは、インナーレースの外周側に位置するシール部材に向けて移動して同シール部材に対して供給される。また、シール部材に供給された後のオイルは、アウターレースとインナーレースとの間に位置するワンウェイクラッチ及び転がり軸受けにおける内部空間を通じて外部に排出される。従って、シール部材に対するオイルの給排を的確に行うことができるようになる。
また、前記インナーレースの内周面と前記回転出力軸の外周面との間には、同インナーレースの外部に開口する開口部が同インナーレースの周方向全体にわたって形成され、前記オイル供給通路は前記開口部を含むといった態様が好ましい。
同構成によれば、インナーレースの内周面と回転出力軸の外周面との間に形成される開口部がオイル供給通路の一部とされることから、オイルをインナーレースの外部からオイル供給通路に対して好適に導入することができるようになる。
また、前記オイル供給通路は、前記インナーレースの内周面において前記回転出力軸の軸方向に延びるように形成される内周溝を含むといった態様が好ましい。
同構成によれば、インナーレースの内周面に形成される内周溝がオイル供給通路の一部とされることから、オイルをインナーレースの外部からオイル供給通路に対して導入するための通路を容易に形成することができるようになる。
特に、上記開口部に加えて内周溝を形成するようにすれば、開口部に存在するオイルが、インナーレースの回転に伴い同インナーレースの周方向に向けて移動して内周溝に導入されるようになる。これにより、シール部材に向けてのオイルの移動を促すことができ、シール部材に対してオイルをより一層的確に供給することができるようになる。
また、前記オイル供給通路はオイル案内部を有し、同オイル案内部は、前記回転出力軸の軸方向において前記インナーレースの外部側から前記シール部材に近接するほど、同インナーレースの径方向においてより外側に位置するように形成されるといった態様が好ましい。
同構成によれば、オイル案内部内にオイルが流入すると、インナーレースの回転に伴いオイルに対して作用する遠心力により、オイルは、オイル案内部を通じてインナーレースの径方向外側に向けて案内される。これにより、シール部材に向けてのオイルの移動を促すことができ、シール部材に対してオイルを一層的確に供給することができるようになる。
特に、上記内周溝によってオイル案内部を構成するようにすれば、例えばオイル案内部全体をインナーレースの内部に形成する構成に比べて、オイル案内部を容易に形成することができるようになる。
またこの場合、前記オイル案内部は、前記回転出力軸の軸方向において前記インナーレースの外部側から前記シール部材に向かって、同インナーレースの径方向斜め外側を指向するように延びるといった態様が好ましい。
同構成によれば、オイル案内部内においてオイルに対して遠心力が作用すると、オイルには、オイル案内部を通じて、シール部材に向かう力が発生する。これにより、シール部材に向けてのオイルの移動を一層促すことができ、シール部材に対してオイルをより一層的確に供給することができるようになる。
また、前記ワンウェイクラッチは、前記回転出力軸の軸方向において前記転がり軸受けに対し内燃機関本体寄りに配置されるといった態様をもって具体化することができる。
またこの場合、前記オイル供給通路は、前記インナーレースの外周面のうち前記転がり軸受けを支持する部分において前記回転出力軸の軸方向に延びるように形成される外周溝を含むといった態様が好ましい。
同構成によれば、インナーレースの外周面に形成される外周溝によってオイル供給通路の一部が構成されることから、オイル供給通路の形成を容易なものとすることができるようになる。
また、前記オイル供給通路は前記インナーレースの周方向において複数設けられるといった態様が好ましい。
同構成によれば、シール部材に対して、インナーレースの周方向における複数箇所からオイルを供給することができるようになる。従って、オイル供給通路を1つのみ設ける構成に比べて、シール部材に対してオイルを的確に供給することができるようになる。
またこの場合、前記複数のオイル供給通路は同一の形状を有するとともに前記インナーレースの周方向において等角度間隔に配置されるといった態様が好ましい。
同構成によれば、シール部材に対して、インナーレースの周方向において均等にオイルを供給することができる。従って、シール部材に対してオイルを一層的確に供給することができるようになる。また、インナーレースにオイル供給通路を形成することに起因して回転出力軸の回転変動が生じることを回避することができるようになる。
また、前記オイル供給通路に対してオイルを直接導入するオイルジェット機構を備えるといった態様が好ましい。
同構成によれば、オイル供給通路に対してオイルを的確に導入することができ、シール部材におけるオイルの給排を一層的確に行うことができるようになる。
本発明の第1実施形態に係る内燃機関の始動回転力伝達機構の概略構成を示す断面図。 図1の始動回転力伝達機構について、インナーレースを中心として示す部分断面図。 図2のA方向からのインナーレースの側面図。 本発明の第2実施形態に係る内燃機関の始動回転力伝達機構について、インナーレースを中心として示す部分断面図。 本発明の第3実施形態に係る内燃機関の始動回転力伝達機構について、インナーレースを中心として示す部分断面図。 本発明の第4実施形態に係る内燃機関の始動回転力伝達機構について、インナーレースを中心として示す部分断面図。 本発明に係る内燃機関の始動回転力伝達機構の変形例について、インナーレースを中心として示す部分断面図。 本発明に係る内燃機関の始動回転力伝達機構の他の変形例について、インナーレースを中心として示す部分断面図。 本発明に係る内燃機関の始動回転力伝達機構の他の変形例について、インナーレースを中心として示す部分断面図。 本発明に係る内燃機関の始動回転力伝達機構の他の変形例について、インナーレースを中心として示す部分断面図。 従来の内燃機関の始動回転力伝達機構の概略構成を示す断面図。
<第1実施形態>
以下、図1〜図3を参照して、本発明に係る内燃機関の始動回転力伝達機構を車載内燃機関の始動回転力伝達機構として具体化した第1実施形態について説明する。
図1に、本実施形態の始動回転力伝達機構の断面構造を示す。尚、同図は、内燃機関の回転出力軸であるクランクシャフト2の軸方向に沿った断面図である。また同図中において、左側が内燃機関本体EB側であり、右側が変速機TM側である。
同図に示すように、クランクシャフト2は、シリンダブロック30の外側に位置する大外径部2a及び同大外径部2aよりも変速機TM側に位置するとともに同大外径部2aよりも外径の小さい小外径部2bを備えている。大外径部2a及び小外径部2bの外周には、略円筒状をなすインナーレース4が設けられている。インナーレース4は、クランクシャフト2の大外径部2aに対向する内周面を有する大内径部4a及びクランクシャフト2の小外径部2bに対向する内周面を有する小内径部4bを備えている。クランクシャフト2の大外径部2aにおける変速機TM側の端面と、インナーレース4の小内径部4bにおける内燃機関本体EB側の端面とが当接した状態で、クランクシャフト2とインナーレース4とはボルト31を介して連結されている。尚、これらクランクシャフト2及びインナーレース4には更に、ボルト31を介してフライホイール18が連結されている。
インナーレース4の外周には、略円筒状をなすアウターレース6が設けられている。アウターレース6は、アウターレース本体6a及びアウターレース本体6aから径方向外側に突出する円環状の突出部6bを備えている。アウターレース6の外周には、略円盤状をなすリングギヤ8が設けられている。アウターレース6の突出部6bとリングギヤ8とはボルト32を介して連結されている。また、リングギヤ8のギヤ部8aには、始動用モータSTからの回転駆動力が伝達されるようになっている。リングギヤ8は始動用モータSTによって一方向に回転させられる。
アウターレース6の内周面とインナーレース4の外周面との間には、内燃機関本体EB側から順にワンウェイクラッチ12、ボールベアリング14、及び内側シール部材16が設けられている。
シリンダブロック30において変速機TM側の端面には、アウターレース6の突出部6bに向けて突出する略円弧状のシール取付部が形成されている。シール取付部30aの内周面とアウターレース本体6aの外周面との間には、外側シール部材33が設けられている。
図2に、図1に示す始動回転力伝達機構について、インナーレース4を中心とした部分断面構造を示す。
同図に示すように、ワンウェイクラッチ12はスプラグ12aを有するケージ12bを備えており、スプラグ12aは、アウターレース6の内周面とインナーレース4の外周面とによって挟持されている。これにより、ワンウェイクラッチ12は、リングギヤ8からインナーレース4に対し前記一方向の回転力が伝達されるのを許容する一方、逆方向の回転力が伝達されるのを阻止する。
ボールベアリング14は、略円環状をなしてインナーレース4の外周面に固定されるインナーレース部14aと、略円環状をなしてアウターレース6の内周面に固定されるアウターレース部14bと、これらインナーレース部14aとアウターレース部14bとの間において保持器(図示略)を介して転動可能に設けられるボール14cとを備えている。
内側シール部材16は、同シール部材16の外周においてアウターレース6に固定され、同シール部材16の内周側に形成されているシールリップ16aがインナーレース4の外周面に摺動可能に接触している。これにより、内側シール部材16は、アウターレース6の内周面とインナーレース4の外周面との間を、クランクシャフト2の軸方向においてワンウェイクラッチ12及びボールベアリング14に対し内燃機関本体EBの外側寄りの位置においてシールして、アウターレース6の内周面とインナーレース4の外周面との間からのオイル漏れを阻止する。尚、ボールベアリング14が本発明に係る転がり軸受けに相当するとともに、内側シール部材16が本発明に係るシール部材に相当する。
ところで、こうした始動回転力伝達機構において、インナーレース4及びアウターレース6の外部からワンウェイクラッチ12及びボールベアリング14に向けてオイルを供給する場合には、以下の問題が生じるおそれがある。すなわち、アウターレース6の内周面、インナーレース4の外周面、及び内側シール部材16によって区画形成される空間は袋小路形状をなしていることから、同空間の外部から供給されたオイルは内側シール部材16において滞留することで排出されにくくなる。そのため、こうして滞留するオイルが次第に劣化してスラッジとなることで、内側シール部材16によるシール性が低下するといった問題が生じる。
一方、こうした問題の発生を抑制するために、ワンウェイクラッチ12及びボールベアリング14に対して供給するオイル量を少なく抑えて内側シール部材16におけるオイルの滞留を抑制することが考えられる。しかしながらこの場合には、内側シール部材16とインナーレース4との摺動部に対して供給されるオイル量が不足しやすくなる。そのため、内側シール部材16の摺動性の低下、ひいては内側シール部材16によるシール性の低下を招くといった問題が生じるおそれがある。
そこで、本実施形態では、インナーレース4の外部と内側シール部材16とを連通するオイル供給通路20をインナーレース4に形成することにより、内側シール部材16に対するオイルの的確な給排を図るようにしている。
次に、図3を併せ参照して、オイル供給通路20の具体的な構成について詳細に説明する。尚、図3は、図2のA方向からのインナーレース4の側面図である。
図2及び図3に示すように、オイル供給通路20は、開口部21、内周溝22、外周溝24、及び連通孔23を含んで構成されている。
開口部21は、インナーレース4の内周面とクランクシャフト2の外周面との間に形成されている。具体的には、図3に示すように、インナーレース4の大内径部4aの内径はクランクシャフト2の大外径部2aの外径よりも大きくされており、これによりインナーレース4の大内径部4aの内周面とクランクシャフト2の大外径部2aの外周面との間には、内燃機関本体EB側のインナーレース4の外部に開口する開口部21がインナーレース4の全周にわたって形成されている。
内周溝22は、インナーレース4の大内径部4aの内周面においてクランクシャフト2の軸方向に延びるように形成されている。また、内周溝22は、クランクシャフト2の軸方向において内燃機関本体EB側から内側シール部材16に近接するほど、同溝22の底面、すなわちオイル供給通路20における径方向外側面がインナーレース4の径方向においてより外側に位置するように形成されている。より具体的には、内周溝22の底面は、クランクシャフト2の軸方向において内燃機関本体EB側から内側シール部材16に向かって、インナーレース4の径方向斜め外側を指向するように、すなわち連続的に深くなるように延びている。こうした内周溝22はインナーレース4の周方向において4つ設けられている。これら4つの内周溝22は同一の形状を有するとともにインナーレース4の周方向において等角度(本実施形態においては90度)間隔に配置されている。尚、内周溝22が本発明に係る内周溝及びオイル案内部に相当する。
外周溝24は、インナーレース4の外周面のうちボールベアリング14のインナーレース部14aを支持する部分においてクランクシャフト2の軸方向に延びるように形成されている。
連通孔23は、内周溝22における内側シール部材16側の端部と外周溝24における内燃機関本体EB側の端部とを連通する孔であり、インナーレース4の径方向に沿って延びている。すなわち、連通孔23は、インナーレース4の小内径部4bにおける内燃機関本体EB側の端面に沿って形成されている。
図1及び図2に示すように、シリンダブロック30には内燃機関のオイルをオイル供給通路20の開口部21及び内周溝22に対して直接噴射供給するオイルジェット機構OJが設けられている。
こうしたオイル供給通路20を備える内燃機関の始動回転力伝達機構において、オイルジェット機構OJを通じてオイルがオイル供給通路20の開口部21或いは内周溝22に導入されると、同通路20内においてはインナーレース4の回転に伴いオイルに対して遠心力が作用することとなる。これにより、オイルは、インナーレース4の外周側に位置する内側シール部材16に向けて移動して内側シール部材16に対して供給される。また、内側シール部材16に供給された後のオイルは、ワンウェイクラッチ12及びボールベアリング14における内部空間を通じて外部に排出される。
以上説明した本実施形態に係る内燃機関の始動回転力伝達機構によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)内燃機関の始動回転力伝達機構は、クランクシャフト2に連結されるインナーレース4と、始動用モータSTからの回転駆動力が伝達されるリングギヤ8と、インナーレース4の外周に設けられるとともにリングギヤ8に連結されるアウターレース6とを備える。アウターレース6の内周面とインナーレース4の外周面との間には、ワンウェイクラッチ12、ボールベアリング14及び内側シール部材16が設けられる。内側シール部材16は、クランクシャフト2の軸方向においてワンウェイクラッチ12及びボールベアリング14に対して内燃機関本体EBの外側寄りに設けられ、アウターレース6の内周面とインナーレース4の外周面との間からのオイル漏れを阻止する。インナーレース4に形成されたオイル供給通路20は、同インナーレース4の外部と内側シール部材16とを連通する。こうした構成により、オイルがインナーレース4の外部からオイル供給通路20に導入されると、同通路20内においてはインナーレース4の回転に伴いオイルに対して遠心力が作用することから、オイルは、インナーレース4の外周側に位置する内側シール部材16に向けて移動して同内側シール部材16に対して供給される。また、内側シール部材16に供給された後のオイルは、アウターレース6の内周面とインナーレース4の外周面との間に位置するワンウェイクラッチ12及びボールベアリング14における内部空間を通じて外部に排出される。従って、内側シール部材16に対するオイルの給排を的確に行うことができるようになる。
(2)インナーレース4の内周面とクランクシャフト2の外周面との間には、インナーレース4の外部に開口する開口部21がインナーレース4の周方向全体にわたって形成され、オイル供給通路20は開口部21を含むものとした。こうした構成によれば、インナーレース4の内周面とクランクシャフト2の外周面との間に形成される開口部21がオイル供給通路20の一部とされることから、オイルをインナーレース4の外部からオイル供給通路20に対して好適に導入することができるようになる。
(3)オイル供給通路20は、インナーレース4の内周面においてクランクシャフト2の軸方向に延びるように形成される内周溝22を含むものとした。こうした構成によれば、インナーレース4の内周面に形成される内周溝22がオイル供給通路20の一部とされることから、オイルをインナーレース4の外部からオイル供給通路20に対して導入するための通路を容易に形成することができるようになる。しかも、開口部21に加えて内周溝22を形成するようにしていることから、開口部21に存在するオイルが、インナーレース4の回転に伴いインナーレース4の周方向に向けて移動して内周溝22に導入されるようになる。これにより、内側シール部材16に向けてのオイルの移動を促すことができ、シール部材16に対してオイルをより一層的確に供給することができるようになる。
(4)内周溝22(詳しくは、その底面)は、クランクシャフト2の軸方向において内燃機関本体EB側から内側シール部材16に近接するほど、インナーレース4の径方向においてより外側に位置するように形成されるものとした。こうした構成により、内周溝22内にオイルが流入すると、インナーレース4の回転に伴いオイルに対して作用する遠心力により、オイルは、内周溝22の底面を通じてインナーレース4の径方向外側に向けて案内される。これにより、内側シール部材16に向けてのオイルの移動を促すことができ、内側シール部材16に対してオイルを一層的確に供給することができるようになる。しかも、内周溝22によってオイル案内部を構成していることから、例えばオイル案内部全体をインナーレース4の内部に形成する構成に比べて、オイル案内部を容易に形成することができるようになる。
(5)内周溝22(詳しくはその底面)は、クランクシャフト2の軸方向において内燃機関本体EB側から内側シール部材16に向かって、インナーレース4の径方向斜め外側を指向するように延びるものとした。こうした構成により、内周溝22内においてオイルに対して遠心力が作用すると、オイルには、内周溝22の底面を通じて、内側シール部材16に向かう力が発生する。これにより、内側シール部材16に向けてのオイルの移動を一層促すことができ、内側シール部材16に対してオイルをより一層的確に供給することができるようになる。
(6)ワンウェイクラッチ12は、クランクシャフト2の軸方向においてボールベアリング14に対し内燃機関本体EB寄りに配置されるものとした。また、オイル供給通路20は、インナーレース4の外周面のうちボールベアリング14のインナーレース部14aを支持する部分においてクランクシャフト2の軸方向に延びるように形成される外周溝24を含むものとした。こうした構成によれば、インナーレース4の外周面に形成される外周溝24によってオイル供給通路20の一部が構成されることから、オイル供給通路20の形成を容易なものとすることができるようになる。
(7)オイル供給通路20はインナーレースの周方向において4つ設けられるものとした。こうした構成によれば、内側シール部材16に対して、インナーレース4の周方向における4つの箇所からオイルを供給することができるようになる。従って例えば、オイル供給通路20を1つのみ設ける構成に比べて、内側シール部材16に対してオイルを的確に供給することができるようになる。
(8)4つのオイル供給通路20は同一の形状を有するとともにインナーレース4の周方向において等角度(90度)間隔に配置されるものとした。こうした構成によれば、内側シール部材16に対して、インナーレース4の周方向において均等にオイルを供給することができる。従って、内側シール部材16に対してオイルを一層的確に供給することができるようになる。また、インナーレース4にオイル供給通路20を形成することに起因してクランクシャフト2の回転変動が生じることを回避することができるようになる。
(9)オイル供給通路20に対してオイルを直接導入するオイルジェット機構OJを備えるものとした。こうした構成によれば、オイル供給通路20に対してオイルを的確に導入することができ、内側シール部材16におけるオイルの給排を一層的確に行うことができるようになる。
<第2実施形態>
以下、図4を参照して、本発明に係る内燃機関の始動回転力伝達機構の第2実施形態について説明する。
図4に、本実施形態における始動回転力伝達機構について、インナーレース104を中心とした部分断面構造を示す。尚、同図において先の第1実施形態の構成と同一の構成については同一の符号を付すことにより重複する説明を割愛する。同図において先の第1実施形態の構成に対応する構成については対応する符号を付している。具体的には、第1実施形態において符号「**」が付されている構成については、符号「1**」を付している。
本実施形態では、オイル供給通路120の内周溝122の構成が第1実施形態と相違している。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
図4に示すように、本実施形態においても、内周溝122は、インナーレース104の大内径部104aの内周面においてクランクシャフト2の軸方向に延びるように形成されている。ただし、内周溝122は、クランクシャフト2の軸方向において内燃機関本体EB側から内側シール部材16に近接するほど、同内周溝122の底面、すなわちオイル供給通路120における径方向外側面がインナーレース104の径方向においてより外側に位置するように、階段状に形成されている。
以上説明した本実施形態に係る内燃機関の始動回転力伝達機構によれば、先の第1実施形態における作用効果(1)〜(4)、及び(6)〜(9)と同様の作用効果が得られるようになる。
<第3実施形態>
以下、図5を参照して、本発明に係る内燃機関の始動回転力伝達機構の第3実施形態について説明する。
図5に、本実施形態における始動回転力伝達機構について、インナーレース204を中心とした部分断面構造を示す。尚、同図において先の第1実施形態の構成と同一の構成については同一の符号を付すことにより重複する説明を割愛する。また、同図において先の第1実施形態の構成に対応する構成については対応する符号を付している。具体的には、第1実施形態において符号「**」が付されている構成については、符号「2**」を付している。
本実施形態では、オイル供給通路220の内周溝222の構成が先の第1実施形態及び第2実施形態と相違している。以下、第1実施形態及び第2実施形態との相違点を中心に説明する。
図5に示すように、本実施形態においても、内周溝222は、インナーレース204の大内径部204aの内周面においてクランクシャフト2の軸方向に延びるように形成されている。ただし、クランクシャフト2の大外径部2aの外周面から内周溝22の底面、すなわちオイル供給通路220の径方向外側面までの距離はクランクシャフト2の軸方向において一定とされている。
以上説明した本実施形態に係る内燃機関の始動回転力伝達機構によれば、先の第1実施形態における作用効果(1)〜(3)、及び(6)〜(9)と同様の作用効果が得られるようになる。
<第4実施形態>
以下、図6を参照して、本発明に係る内燃機関の始動回転力伝達機構の第4実施形態について説明する。
図6に、本実施形態における始動回転力伝達機構について、インナーレース304を中心とした部分断面構造を示す。尚、同図において先の第1実施形態の構成と同一の構成については同一の符号を付すことにより重複する説明を割愛する。また、同図において先の第1実施形態の構成に対応する構成については対応する符号を付している。具体的には、第1実施形態において符号「**」が付されている構成については、符号「3**」を付している。
本実施形態では、オイル供給通路320が先の第1実施形態〜第3実施形態においてそれぞれ例示した内周溝22、122、222を備えていない点が、第1実施形態〜第3実施形態と相違している。以下、第1実施形態〜第3実施形態との相違点を中心に説明する。
図6に示すように、本実施形態においても、インナーレース304の大内径部304aの内径はクランクシャフト2の大外径部2aの外径よりも大きくされている。このことにより、インナーレース304の大内径部304aの内周面とクランクシャフト2の大外径部2aの外周面との間には、内燃機関本体EB側のインナーレース304の外部に開口する開口部321がインナーレース304の全周にわたって形成されている。
外周溝324は、インナーレース304の外周面のうちボールベアリング14のインナーレース部14aを支持する部分においてクランクシャフト2の軸方向に延びるように形成されている。
連通孔323は、外周溝324における内燃機関本体EB側の端部と開口部321とを連通する孔であり、インナーレース304の径方向に沿って延びている。
以上説明した本実施形態に係る内燃機関の始動回転力伝達機構によれば、先の第1実施形態における作用効果(1)、(2)、及び(6)〜(9)と同様の作用効果が得られるようになる。
尚、本発明に係る内燃機関の始動回転力伝達機構は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記各実施形態では、4つのオイル供給通路20、120、220、320をインナーレース4、104、204、304の周方向において90度間隔に配置するようにしているが、他に例えば8つのオイル供給通路をインナーレースの周方向において45度間隔に配置するようにしてもよい。
・上記第4実施形態において例示したオイル供給通路320に代えて、図7に示すオイル供給通路420を採用することもできる。すなわち、同図に示すように、インナーレース404の外径はクランクシャフト2の軸方向において変速機TM側ほど小さくなるように階段状に形成されている。具体的には、ボールベアリング14のインナーレース部14aを支持する支持部404cの外径は、内側シール部材16のシールリップ16aが摺動する摺動部404dの外径よりも大きくされている。ここで、オイル供給通路420は、開口部421及びオイル案内部425を含んで構成されている。オイル案内部425は、開口部421における変速機TM側の端部とインナーレース404の支持部404cにおける変速機TM側の端部とを連通するように形成されている。オイル案内部425の外周面は、クランクシャフト2の軸方向において内燃機関本体EB側から内側シール部材16に向かって、インナーレース4の径方向斜め外側を指向するように延びている。こうした構成により、オイル案内部425内にオイルが流入すると、インナーレース404の回転に伴いオイルに対して作用する遠心力により、オイルは、オイル案内部425を通じてインナーレース404の径方向外側に向けて案内される。これにより、内側シール部材16に向けてのオイルの移動を促すことができ、内側シール部材16に対してオイルを的確に供給することができるようになる。
・上記各実施形態では、インナーレース4、104、204、304、404の内周面とクランクシャフト2の外周面との間に形成される開口部21、121、221、321、421をオイル供給通路20、120、220、320、420の一部としているが、本発明に係るオイル供給通路はこれに限られるものではない。他に例えば、図8及び図9に示すように、オイル供給通路520、620全体をインナーレース504、604の内部に形成するようにしてもよい。ちなみに、図8に示すように、オイル供給通路520は、インナーレース504の大内径部504aにおける内燃機関本体EB側の端部とインナーレース504の支持部504cにおける変速機TM側の端部とを連通するように形成されている。また、オイル供給通路520は、クランクシャフト2の軸方向において内燃機関本体EB側から内側シール部材16に向かって、インナーレース4の径方向斜め外側を指向するように延びている。また、図9に示すように、オイル供給通路620は、インナーレース604の大内径部604aにおける内燃機関本体EB側の端部とインナーレース604の支持部604cにおける変速機TM側の端部とを連通するとともに、クランクシャフト2の軸方向に平行に延びている。
・また、第1実施形態においては、先の図1〜図3に示すように、オイル供給通路20が、開口部21、内周溝22、外周溝24、及び連通孔23を含んで構成されるものについて例示したが、こうしたオイル供給通路20に代えて、図10に示すオイル供給通路720を採用することもできる。すなわち、同図に示すように、クランクシャフト2の軸方向においてクランクシャフト2の軸方向において内燃機関本体EB側から変速機TM側に近接するほど、インナーレース704の大内径部704aの内径は小さくなるように形成されている。これにより、インナーレース704の内周面とクランクシャフト2の大外径部2aの外周面との間には、内燃機関本体EB側のインナーレース704の外部に開口する開口部721がインナーレース704の全周にわたって形成されている。こうしたオイル供給通路720によれば、開口部721内においてオイルに対して遠心力が作用すると、オイルには、インナーレース704の大内径部704aの内周面を通じて、内側シール部材16に向かう力が発生する。これにより、内側シール部材16に向けてのオイルの移動を促すことができ、内側シール部材16に対してオイルを的確に供給することができるようになる。またこうした構成によれば、第1実施形態において例示した内周溝22に相当する構成を割愛することができる。尚、連通孔723、外周溝724の構成については第1実施形態において例示した連通孔23、外周溝24と同様である。
・上記各実施形態では、アウターレース6の内周面とインナーレース4、104、204、304、404、504、604、704の外周面との間に、内燃機関本体EB側から順にワンウェイクラッチ12及びボールベアリング14が設けられる構成について例示した。しかしながら、ワンウェイクラッチ12及びボールベアリング14の配設態様はこれに限られるものではなく、内燃機関本体EB側から順にボールベアリング及びワンウェイクラッチを設けるようにしてもよい。
・上記実施形態では、転がり軸受けの一例としてボールベアリング14について例示したが、本発明に係る転がり軸受けはボールベアリングに限られるものではなく、転がり軸受けとして、ころ軸受けを採用することもできる。

Claims (10)

  1. 内燃機関の回転出力軸に連結されるインナーレースと、
    始動用モータによって一方向に回転させられるリングギヤと、
    前記インナーレースの外周に設けられるとともに前記リングギヤに連結されるアウターレースと、
    前記アウターレースの内周面と前記インナーレースの外周面との間に設けられて前記リングギヤから前記インナーレースに対し前記一方向の回転力が伝達されるのを許容する一方、前記インナーレースから前記リングギヤへの回転力の伝達は阻止するワンウェイクラッチと、
    前記アウターレースの内周面と前記インナーレースの外周面との間に設けられる転がり軸受けと、
    前記回転出力軸の軸方向において前記ワンウェイクラッチ及び前記転がり軸受けに対し内燃機関本体の外側寄りに設けられて前記アウターレースの内周面と前記インナーレースの外周面との間からのオイル漏れを阻止するシール部材と、
    前記インナーレースに貫通形成されて同インナーレースの外部と前記シール部材とを連通するオイル供給通路と、
    を備える内燃機関の始動回転力伝達機構。
  2. 請求項1に記載の内燃機関の始動回転力伝達機構において、
    前記インナーレースの内周面と前記回転出力軸の外周面との間には、同インナーレースの外部に開口する開口部が同インナーレースの周方向全体にわたって形成され、
    前記オイル供給通路は前記開口部を含む
    ことを特徴とする内燃機関の始動回転力伝達機構。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の始動回転力伝達機構において、
    前記オイル供給通路は、前記インナーレースの内周面において前記回転出力軸の軸方向に延びるように形成される内周溝を含む
    ことを特徴とする内燃機関の始動回転力伝達機構。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の内燃機関の始動回転力伝達機構において、
    前記オイル供給通路はオイル案内部を有し、同オイル案内部は、前記回転出力軸の軸方向において前記インナーレースの外部側から前記シール部材に近接するほど、同インナーレースの径方向においてより外側に位置するように形成される
    ことを特徴とする内燃機関の始動回転力伝達機構。
  5. 請求項4に記載の内燃機関の始動回転力伝達機構において、
    前記オイル案内部は、前記回転出力軸の軸方向において前記インナーレースの外部側から前記シール部材に向かって、同インナーレースの径方向斜め外側を指向するように延びる
    ことを特徴とする内燃機関の始動回転力伝達機構。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の内燃機関の始動回転力伝達機構において、
    前記ワンウェイクラッチは、前記回転出力軸の軸方向において前記転がり軸受けに対し内燃機関本体寄りに配置される
    ことを特徴とする内燃機関の始動回転力伝達機構。
  7. 請求項6に記載の内燃機関の始動回転力伝達機構において、
    前記オイル供給通路は、前記インナーレースの外周面のうち前記転がり軸受けを支持する部分において前記回転出力軸の軸方向に延びるように形成される外周溝を含む
    ことを特徴とする内燃機関の始動回転力伝達機構。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の内燃機関の始動回転力伝達機構において、
    前記オイル供給通路は前記インナーレースの周方向において複数設けられる
    ことを特徴とする内燃機関の始動回転力伝達機構。
  9. 請求項8に記載の内燃機関の始動回転力伝達機構において、
    前記複数のオイル供給通路は同一の形状を有するとともに前記インナーレースの周方向において等角度間隔に配置される
    ことを特徴とする内燃機関の始動回転力伝達機構。
  10. 請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の内燃機関の始動回転力伝達機構において、
    前記オイル供給通路に対してオイルを直接導入するオイルジェット機構を備える
    ことを特徴とする内燃機関の始動回転力伝達機構。
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