JP5153405B2 - 磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスク製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)などの磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、および磁気ディスク製造方法に関するものである。
ハードディスクドライブ(HDD)等の情報処理機器用記録媒体の1つとして、磁気ディスクがある。磁気ディスクは、基板上に磁性層等の薄膜を形成して構成されるものであり、その基板としてはアルミが用いられてきた。しかし、近年、記録密度を向上させるために、HDDの基板から磁気ヘッドまでの浮上高さ(フライングハイト)をより一層低くすることが求められている。そのため、アルミと比較して、磁気ヘッドの浮上高さを低くすることが可能なガラス基板の占める割合が次第に高くなってきている。
磁気ヘッドの浮上高さを低くするためには、基板であるガラス基板の表面を平滑化が不可欠である。特に品質要求が厳しい垂直磁気(PMR)向けのガラス基板においては、20nmレベルの微小なディフェクトによる磁気特性への影響も現われてきていて、このような微小なディフェクトを管理低減する事が要求されている。
そのため、ガラス基板表面は、高精度に複数回の研磨を行うことで、高記録密度化を実現している。通常、1回目に粗研磨を行い、2回目に鏡面研磨を行い、1回目より2回目の方が、研磨材の粒径は小さい。
しかし、基板上に研磨材などの異物が付着してしまっては高い平滑性は得られないため、研磨するだけで磁気ディスクの高記録密度化を図るのには限界がある。そこで従来から研磨後には研磨材を除去するための洗浄工程が導入されていて、研磨材をはじめとする異物の除去が行われている。洗浄工程では、主に界面活性剤を利用した洗浄やエッチングを用いた洗浄が行われている。
酸化セリウム系研磨材による研磨の後には、通常の洗浄では除去できない突起物が残存してしまう。そこでたとえば特許文献1には、セリウム系研磨材を用いて研磨した後に、酸・還元剤・フッ素イオンを用いて洗浄する技術が記載されている。また、特許文献2には、洗浄後にガラス基板表面に凹部(AFM観察)ができないように、フッ素イオン濃度を制御した洗浄液を用いて、セリウム系研磨材で研磨した基板を洗浄する技術が記載されている。
特開2004−59419号公報 特開2006−99847号公報
しかしながら、先行技術文献に記載された洗浄液で洗浄した基板を製造したところ、不良品と判断される磁気記録媒体が多数検出された。そして、この原因を調べた結果、基板表面にセリウム系の研磨材が残存していて、これが不良品であることが判明した。研磨材が残存した部分はマスクとなり、凸状欠陥を生じてしまうからである。
上記問題に鑑みて、本願発明者らは、基板表面にセリウム系の研磨材が残存した製造プロセスを調査し、ガラス表面を粗研磨する粗研磨工程では、セリウム系の研磨砥粒を含む研磨材を使用し、ガラス基板の表面を仕上げる最終の鏡面研磨工程では、セリウム系より粒子径が低いシリカ系の砥粒を含む研磨材が用いられていることに着目した。
そして、この事実についてさらに検討した結果、粗研磨工程と最終の鏡面研磨工程で使用する研磨砥粒の材質が異なるため、上記各工程後に行う洗浄工程で使用される洗浄液の種類が異っていて、粗研磨工程で除去しきれなかったセリウム系研磨材が、最終の鏡面研磨工程後の洗浄工程を行った後も残存してしまうことを見出した。
このように、粗研磨工程で用いた研磨材が、洗浄したにも拘らず、鏡面研磨工程にまで残留すると、マウンドやスクラッチなど基板表面品質に大きく関わる欠陥になるという問題がある。マウンドの発生率は研磨工程間での研磨材粒子径比が大きくなるほど高くなる。特に、セリウムを使って研磨した後にコロイダルシリカを用いて研磨した場合、研磨材粒子比が大きくなるため、マウンドの発生率が大きくなる。
セリウム系研磨材を除去するには、特許文献1および特許文献2に記載のように、酸・還元剤・フッ素イオンを含む洗浄液を用いて洗浄することが必要である。しかし、粗研磨工程と鏡面研磨工程とで使用する研磨砥粒は、セリウムとコロイダルシリカという異なる材質であるため、鏡面研磨後にはシリカ系の研磨材を除去する洗浄液を用いざるを得ず、セリウム系研磨材を除去することができない。
かと言って、仮に、特許文献2に記載のように、鏡面研磨後に酸・還元剤・フッ素イオンを含む洗浄液を用いたとしても、その洗浄によって表面粗さが増し、最終的な磁気ディスクの平滑性が失われてしまう。
本発明は、上述の課題および現状の洗浄方法に鑑み、洗浄工程に使用する洗浄液の組成を改善し、粗研磨工程後の洗浄でセリウム系の研磨砥粒を確実に落とすことができ、かつ、良品を製造できる、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスク製造方法を提供することを目的とする。
本願発明者は、上記課題を解決すべく、酸化セリウム研磨材で研磨された基板を用い、セリウム研磨後の基板に求められる基板の表面形状を調査した。酸化セリウム研磨材を用いた粗研磨工程(第1研磨工程)の次工程として、最終の鏡面研磨工程(第2研磨工程)が控えていることから、粗研磨後の洗浄工程には、基板表面の粗さに許容範囲がある。よって、従来提案されている酸化セリウム砥粒を溶解除去する洗浄液に、基板表面をエッチングする機能を持たせ、短時間で基板表面の酸化セリウムを溶解除去および基板表面の数nm程度のエッチング作用により確実に除去する洗浄液を開発した。研磨材に酸化セリウムを使用している場合、研磨材を還元溶解できる液を使用する。具体的には、無機酸と有機酸とフッ素イオンから成る溶液を用いる。
本発明は以下の構成を有する発明である。
(発明の構成1)
本発明のある構成によれば、ガラス基板の主表面を粗研磨する粗研磨工程と、粗研磨工程の後でガラス基板の主表面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、粗研磨工程と鏡面研磨工程との間にガラス基板を洗浄する洗浄工程とを含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、粗研磨工程では、フッ素含有量が5重量%以下である希土類酸化物を主成分とする研磨材をガラス基板に供給し、研磨布とガラス基板とを相対的に移動させてガラス基板の主表面を粗研磨し、鏡面研磨工程では、希土類酸化物を主成分とする研磨材と異なる研磨材をガラス基板に供給し、研磨布とガラス基板とを相対的に移動させてガラス基板の主表面を鏡面研磨し、洗浄工程では、ガラス基板を、アスコルビン酸と、100ppm以上1000ppm以下のフッ素イオンと、3重量%以上の硫酸とを含有する洗浄液に接触させて、希土類酸化物を主成分とする研磨材を溶解除去するとともに、鏡面研磨工程におけるガラス基板主表面の取代よりも小さな取代で、ガラス基板主表面をエッチング処理することを特徴とする。
上述の構成によれば、粗研磨後の洗浄液によるエッチング処理を、従来より深くまで行うことができるため、ガラス基板主表面に付着した研磨材を、より効果的に除去することができる。粗研磨(第1研磨)の後には鏡面研磨(第2研磨)を行うことが予め分かっているため、粗研磨後の洗浄に伴うエッチングによって表面粗さが増してしまっても、表面粗さが、後に行われる鏡面研磨工程における取代の範囲内で生じるという条件を満たせば、鏡面研磨後の最終的なガラス基板主表面の平滑性には影響を与えないからである。
(発明の構成2)
また、本発明の別の構成によれば、ガラス基板の主表面を粗研磨する粗研磨工程と、粗研磨工程の後に粗研磨工程で使用される研磨材と異なる研磨材を用いてガラス基板の主表面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、粗研磨工程と鏡面研磨工程との間にガラス基板を洗浄する洗浄工程とを含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、粗研磨工程では、フッ素含有量が5重量%以下である希土類酸化物を主成分とする研磨材をガラス基板に供給し、研磨布とガラス基板とを相対的に移動させてガラス基板の主表面を粗研磨し、洗浄工程では、ガラス基板を、アスコルビン酸と、100ppm以上1000ppm以下のフッ素イオンと、3重量%以上の硫酸とを含有する洗浄液に接触させて、希土類酸化物を主成分とする研磨材を溶解除去することを特徴とする。
フッ素イオンは、硫酸による、酸化セリウムなどの希土類酸化物を主成分とする研磨材の溶解除去を促進する触媒の役目を果たすところ、上述の構成によれば、洗浄液中のフッ素イオンの濃度が100ppm以上1000ppm以下という高い濃度になっているため、研磨材の溶解除去がより促進される。
フッ素イオンの濃度は、より好ましくは、100ppm以上300ppm以下とするとよい。フッ素イオンの供給源は、フッ化水素酸、ケイフッ酸、フッ化ナトリウムなどとしてよい。
また本発明によれば、フッ素イオンの濃度が高くなったことによるエッチング深さの増大により、粗研磨後の洗浄工程において、酸化セリウムなどの希土類酸化物を主成分とする研磨材をより効果的に除去可能である。しかも、エッチングにより表面が粗くなっても、それは、後に行われる鏡面研磨工程における取代の範囲内で生じるため、鏡面研磨後の最終的なガラス基板主表面の平滑性にも影響を与えない。
上記洗浄液は、浸漬洗浄で使用することが望ましいが、枚葉スプレー式に供給して洗浄してもよい。また、浸漬洗浄のみでもよいが、超音波を併用してもよい。さらに、洗浄効果を高めるためにスクラブ洗浄などを併用してもよい。加えて、洗浄槽の雰囲気を不活性ガスで置換することで、液ライフをより長くすることも可能である。
なお、上述の洗浄液に含有されるアスコルビン酸の濃度は、0.1重量%以上とするとよく、より好ましくは、0.5重量%以上3重量%以下とするとよい。洗浄液に使用するアスコルビン酸は、L−アスコルビン酸としてよく、L−アスコルビン酸の塩として供給してもよい。一般にアスコルビン酸には、還元型アスコルビン酸と、酸化型アスコルビン酸とがある。また、構造異性体の観点からは、キシロ体とアラボ体とが存在し、さらに光学異性体の観点からは、L体とD体とが存在する。通常アスコルビン酸と称されるものは、還元型アスコルビン酸である。
この還元型アスコルビン酸としては、ビタミンCであるL−(キシロ)アスコルビン酸、エリソルビン酸であるD−アラボ(イソ)アスコルビン酸等が挙げられる。還元性を有する酸化型アスコルビン酸としては、デヒドロアスコルビン酸、モノデヒドロアスコルビン酸等が挙げられる。
(発明の構成3)
上述の洗浄工程では、ガラス基板の主表面に存在する希土類酸化物を主成分とする研磨材に含まれる研磨砥粒の数が、2個/cm以下となるように希土類酸化物を主成分とする研磨材を溶解除去することが好ましい。
(発明の構成4)
本発明の別の観点によれば、本発明による磁気ディスク製造方法は、上述のいずれかの方法を用いて製造したガラス基板に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする。
本発明によれば、ガラス基板の粗研磨工程と、粗研磨工程の後の鏡面研磨工程とで、異なる材質の研磨材を用いる場合に、粗研磨工程後に行う洗浄において、粗研磨工程にて使用した希土類酸化物を主成分とする研磨材を、より効果的に除去可能である。しかも、上記の洗浄によるエッチングにより表面が粗くなっても、それは、後に行われる鏡面研磨工程における取代の範囲内で生じるため、鏡面研磨後の最終的なガラス基板主表面の平滑性にも影響を与えない。
よって、鏡面研磨工程まで異物として残留する研磨材が少なくなり、本発明の製造方法によって製造されたガラス基板による磁気ディスクは、マウンドやスクラッチなどの不良を低減することができる。
次に本発明による磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスク製造方法の実施形態を詳細に説明する。
本発明者が様々な洗浄用試薬を組成して、研磨材の主成分である酸化セリウム(二酸化セリウム)に対する溶解性能を比較したところ、硫酸とアスコルビン酸とを含有する処理液に対しては、良好な溶解性能が得られることを確認した。特に、硫酸とアスコルビン酸を含む処理液に、さらに添加剤としてフッ酸又はフッ化ナトリウムを添加することによりフッ素イオンを供給すると、迅速な溶解性能が得られることを確認した。
酸化セリウム以外にも、酸化ランタン、酸化プラセオジウム、酸化ネオジウム等の希土類酸化物に対する溶解性能を確認したところ、酸化セリウムと同等の溶解性能が得られることを確認した。実際に、酸化セリウム系研磨材を含む研磨液でガラス基板の粗研磨を行い、その後に硫酸、アスコルビン酸、フッ素イオンを含有する洗浄液で洗浄を行ったところ、硫酸の濃度に関わらず、研磨材がガラス基板に付着して形成された突起(凸部)を除去することができた。
ところが、原子間力顕微鏡で詳細に表面を観察すると、硫酸濃度が所定濃度より低い洗浄液にガラス基板を接触させた場合、ガラス基板表面に小さな穴(凹部)が開口することを発見した。具体的には硫酸濃度が3重量%未満の場合、ガラス基板表面に凹部が形成されることが分かった。硫酸、アスコルビン酸、フッ素イオンが共存する系統の洗浄液においては、硫酸濃度が3重量%を下回った場合、硫酸がガラスに対してリーチング作用を働くようになり、その表面を変質させて表面粗さを粗しているのではないかと考えられる。
なお、リーチングとは、アルミノシリケートガラス等の多成分系ガラスにおいて、ガラスの骨格部分(SiO骨格)を維持したまま、ガラス中に含まれる酸に可溶な物質が溶出してしまう現象のことである。リーチングはSiO以外の元素を含有させた多成分系ガラスにおいて顕著に生じる現象である。リーチングはガラス自体が溶解してしまうエッチングとは異なる現象である。
したがって、ガラス基板表面の凹部の形成を防止するために、本発明の実施形態は、硫酸、アスコルビン酸、フッ素イオンが共存する系統の洗浄液において、硫酸は少なくとも1.5重量%を超え、とりわけ3重量%以上含有されている必要があることが分かった。なお、硫酸に代えて、硝酸や塩酸を用いてもよいが、還元剤であるアスコルビン酸との相互作用によって消耗する度合いの少ない硫酸が最も適している。
さらに本発明者がこの洗浄液を用いて、ガラス基板の洗浄を行ったところ、酸化セリウム系研磨材の種類によって、ガラス基板上の凸部や凹部の生成態様が異なることを発見した。ガラス基板の鏡面研磨に利用される酸化セリウム系研磨材と一口にいっても、その製造方法、その他により多くの種類が存在する。また、酸化セリウム系研磨材において、酸化セリウムは主成分ではあるものの、酸化セリウム以外の他の希土類酸化物、たとえば、酸化ランタン、酸化プラセオジウム、酸化ネオジウム等の希土類酸化物が含有されている。すなわち、酸化セリウム系研磨材とは酸化セリウムを主成分として含む希土類酸化物系研磨材である。
現在(西暦2007年現在)、比較的入手が容易な酸化セリウム系研磨材は、含フッ素物質を含有するバストネサイト鉱石を原料として焼成等の処理を行い製造される酸化セリウム系研磨材と、精製した希土類化合物を原料に焼成等の処理を行い製造される酸化セリウム系研磨材との2種類に分類することができる。前者の酸化セリウム研磨材は原料鉱石自体が含フッ素物質を含むために、主に希土類フッ化物の形態でフッ素を含有する。他方、後者の酸化セリウム系研磨材は、フッ素を含有しないか、含有していても微量である。なお、研磨材中のフッ素含有量はXPS(X線光電子分光分析法)等によりフッ素原子の含有量として測定することができる。
以上のように得られる様々なフッ素含有量の酸化セリウム系研磨材に対する、硫酸(ただし硫酸濃度は3重量%以上)、アスコルビン酸、フッ素イオンが共存する系統の本発明の実施形態による洗浄液の洗浄性能を比較したところ、フッ素濃度が、従来より高い所定の範囲内にある研磨材では、フッ素イオンの濃度が高くなったことによるエッチング深さの増大により、粗研磨後の洗浄工程において、酸化セリウムを主成分とする研磨材をより効果的に除去可能であることが判明した。
しかも、エッチングにより表面が粗くなっても、それは、後に行われる鏡面研磨工程における取代の範囲内で生じるため、鏡面研磨後の最終的なガラス基板主表面の平滑性にも影響を与えないということも判明した。
この観点から、本発明の実施形態の洗浄液を利用して磁気ディスク用ガラス基板を、粗研磨工程(第1研磨工程)と鏡面研磨工程(第2研磨工程)との間に洗浄する場合、洗浄液のフッ素濃度は、100ppm以上1000ppm以下とする必要があり、より好ましくは、100ppm以上300ppm以下とするとよいことを突き止めた。
洗浄液は、硫酸などの酸成分によるエッチング作用と、アスコルビン酸などの還元剤による酸化セリウムの還元作用とに加え、フッ素イオン成分による洗浄液中への酸化セリウムの溶解促進作用を有している。このため、3成分の作用の相乗効果による洗浄液は、酸化セリウムに対して極めて高い洗浄力を有し、基板表面を荒らさない程度のわずかなエッチング量でガラス基板表面の異物を除去することができる。
酸化物の状態から還元溶解させる溶液、つまり溶液反応系にて特定元素の酸化還元電位に対して十分低い酸化還元電位を有する還元剤と、金属が可溶可能な金属錯体を形成するための錯化剤の組み合わせによる。硬い酸は硬い塩基と、軟らかい酸は軟らかい塩基と安定な錯体を形成する。
Lewisの酸塩基概念によれば、金属イオンは酸であり、配位子は塩基である。Pearsonは錯体の安定性をLewis酸塩基概念を用いて整理し、酸塩基の硬軟(hard and soft acid base; HSAB)という概念を提出した。分極性の大きな金属イオンや配位子は、それらの電荷は移勤しやすく「軟らかい」と呼ばれ、分極率の小さな金属イオンや配位子は、それらの電荷が移勤しにくいので「硬い」と呼ばれる。
研磨材成分であるCe4+、La3+は硬い酸に属していて、硬い塩基と安定な錯体を形成することができる。このためフッ素イオンを添加することで反応を促進できる。フッ素イオン濃度を100ppm以上1000ppm以下という著しく高いものにすることで、従来のセリウム研磨材を溶解する構成に加えて、基板表面をエッチングすることができる。
研磨材に酸化セリウムを使用している場合、研磨材を還元溶解できる洗浄液、具体的には無機酸と有機酸とフッ素イオンから成る溶液を用いて洗浄することで、基板表面に残留する研磨材である酸化セリウムを選択的に還元溶解できる。基板へのエッチングによるダメージを低減させながら、次工程への研磨材の持込を抑制することが可能となった。このことにより、前工程の研磨材残渣によるマウンド発生の抑制が可能となった。本結果からマウンドやスクラッチの低減が期待できる。
本発明の実施形態においては、ガラス基板の洗浄液に含有される硫酸の濃度を3重量%以上とすれば、ガラス基板の表面に凹状の形状が生成されることを抑制できるが、たとえば、研磨材の溶解速度を高め、生産効率を向上させたいとの観点で考えると、実用上硫酸濃度を4重量%以上とすることができる。また、硫酸濃度を上昇させればさせるほど生産効率は高まるが、30重量%を超えると、逆に酸化セリウムの溶解速度が減少する場合があるので好ましくない。この観点から硫酸濃度は30重量%以下とすることが好ましい。さらに、含フッ素酸化セリウム系研磨材の場合、希土類フッ化物と硫酸との反応が生じることから、過剰に硫酸濃度を高めることは好ましくない。この観点から、硫酸濃度は30重量%以下、とりわけ10重量%以下とすることが好適である。
本発明の実施形態においては、ガラス基板の洗浄液に含有されるアスコルビン酸は、L−アスコルビン酸とすることができる。L−アスコルビン酸の塩として供給してもよい。洗浄液に含有されるアスコルビン酸の濃度は、洗浄液として研磨材に対する所定の溶解性能を保持できる範囲で調整することができるが、たとえば、0.1重量%以上の濃度としてよい。0.1重量%を下回ると研磨材の溶解速度が遅くなり、生産効率を悪化させる場合がある。生産速度を考慮すると、0.5重量%以上、特に1重量%以上とすることが好適である。アスコルビン酸の濃度の上限値については特に限定する必要はないが、実用上4重量%以下とすることができる。ただし、4重量%近傍ではアスコルビン酸の飽和濃度に近く、洗浄液を組成することが実用上難しい。したがって、生産効率を考慮すると3重量%以下とすることが好ましい。3重量%近傍では洗浄液の組成を迅速に行うことができるため、生産効率を向上させることができる。
なお、含フッ素酸化セリウム系研磨材では、希土類フッ化物と洗浄液に含有される硫酸との反応によりフッ酸を生じる。したがって、本発明の実施形態においては、硫酸濃度はppmレベルで管理する必要がある。とりわけ研磨材に含有されるフッ素が5重量%を超えると、洗浄液中のフッ素イオンの濃度を管理することが困難となる場合がある。
本発明の実施形態においては、ガラス基板の鏡面研磨に利用する研磨材は、フッ素含有量が5重量%以下である希土類酸化物を主成分とする研磨材であれば特に制限されることはない。とりわけ、酸化セリウムを主成分として含む酸化セリウム系研磨材であることが好ましい。ここで、フッ素含有量が5重量%以下である希土類酸化物を主成分とする研磨材とは、フッ素を含有していないか、含フッ素研磨材であっても、フッ素の含有量は5重量%以下である希土類酸化物を主成分とする研磨材のことである。また、フッ素含有量とは、研磨材中に含まれるフッ素原子の含有量である。フッ素原子は研磨材中では含フッ素物質(フッ化物および/またはフッ素)として含有されている。研磨材中にフッ素を含有する場合にあっては、フッ素含有量は好ましくは3重量%以下とするとよい。
本発明の実施形態における粗研磨および鏡面研磨の方法は特に限定されるものではないが、たとえば、ガラス基板と研磨布を接触させ、研磨材を供給しながら、研磨布とガラス基板とを相対的に移動させて、ガラス基板の表面を研磨すればよい。研磨布としては研磨パッドを用いることができる。研磨パッドとしては、軟質ポリッシャの研磨パッドであることが好ましい。研磨パッドの硬度は、粗研磨の場合、アスカーC硬度で、90程度とするとよい。鏡面研磨の場合、アスカーC硬度で、60以上80以下とすることが好適である。
研磨パッドのガラス基板との当接面は、発泡ポアが開口した発泡樹脂、とりわけ発泡ポリウレタンとすることが好ましい。研磨材に含有される研磨砥粒(本発明の実施形態の場合は、酸化セリウムを主成分とする研磨砥粒)の平均粒径は0.1μm以上1μm以下としてよい。このようにして研磨を行うと、ガラス基板の表面を平滑な鏡面状に研磨することができる。
本発明の実施形態においては、ガラス基板を構成するガラスは、アモルファスのアルミノシリケートガラスとすることが好ましい。このようなガラス基板は表面を鏡面研磨することにより平滑な鏡面に仕上げることができる。このようなアルミノシリケートガラスとしては、SiOが58重量%以上75重量%以下、Alが5重量%以上23重量%以下、LiOが3重量%以上10重量%以下、NaOが4重量%以上13重量%以下を主成分として含有するアルミノシリケートガラス(ただし、リン酸化物を含まないアルミノシリケートガラス)を用いてよい。
たとえば、SiOが62重量%以上75重量%以下、Alが5重量%以上15重量%以下、LiOが4重量%以上10重量%以下、NaOが4重量%以上12重量%以下、ZrOが5.5重量%以上15重量%以下を主成分として含有するとともに、NaO/ZrOの重量比が0.5以上2.0以下、Al/ZrOの重量比が0.4以上2.5以下であるリン酸化物を含まないアモルファスのアルミノシリケートガラスとしてよい。なお、CaOやMgOといったアルカリ土類金属酸化物を含まないガラスであることが望ましい。このようなガラスとしては、HOYA株式会社製のN5ガラス(商品名)を挙げることができる。
なお、アルミノシリケートガラスでは、硫酸との接触によりリーチング作用を受ける場合があり、ガラス基板の表面を変質させて表面粗さが粗される場合がある。本発明の実施形態による洗浄液は、前述の如く、これらの問題に配慮した組成としているので、好適である。
本発明の実施形態においては、洗浄処理後のガラス基板の表面は、最大谷深さRvが、4nm以下である鏡面とされることが好ましい。Rvが4nmを超える、すなわち、凹部深さが深いと、10nm程度、あるいはそれ以下で浮上飛行する磁気ヘッドの浮上姿勢を乱す場合があり、また、フライスティクション障害を生じせしめる恐れがあるからである。さらに、最大粗さRmaxが6nm以下である鏡面とされることが好ましい。このような鏡面状態は、本発明の実施形態の鏡面研磨処理と洗浄処理をこの順で行うことにより実現することができる。
本実施形態では、洗浄処理の後に、化学強化処理を施すことが好ましい。化学強化処理の方法としては、たとえば、ガラス転移点の温度を超えない温度領域、例えば摂氏300度以上400度以下の温度で、イオン交換を行う低温型イオン交換法などが好ましい。化学強化処理とは、溶融させた化学強化塩とガラス基板とを接触させることにより、化学強化塩中の相対的に大きな原子半径のアルカリ金属元素と、ガラス基板中の相対的に小さな原子半径のアルカリ金属元素とをイオン交換し、ガラス基板の表層に該イオン半径の大きなアルカリ金属元素を浸透させ、ガラス基板の表面に圧縮応力を生じさせる処理のことである。化学強化処理されたガラス基板は耐衝撃性に優れているので、たとえばモバイル用途のHDDに搭載するのに特に好ましい。化学強化塩としては、硝酸カリウムや硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属硝酸を好ましく用いることができる。
本発明の実施形態によるガラス基板の表面は鏡面であり、研磨材が確実に除去されているため、化学強化処理を行うことにより、ガラス基板の表面に均一な圧縮応力を生じせしめることができる。研磨材が十分に除去されないままガラス基板の化学強化処理を行うと、たとえば摂氏300度以上400度以下の温度でイオン交換処理される過程において、研磨材がガラス基板に固着してしまい容易に除去できなくなる。
さらに、付着した研磨材の真下のガラスには圧縮応力の生成が阻害されてしまうので、その部分が凸状、又は凹状に変形してしまう場合がある。鏡面研磨処理に用いられる研磨材の平均粒径は0.1μm〜1μm程度であるため、それに相当する大きさの形状変形、凸状変形や凹状変形を生じさせる場合がある。本発明の実施形態では、確実に研磨材を除去することができるとともに、化学強化処理に供されるガラス基板の表面は、凸状、凹状の形状もない鏡面状の平滑面であるので、微細領域においても均一な圧縮応力を生じせしめることができる。したがって、化学強化処理後においても、凸状、凹状の形状もない鏡面状の平滑面を維持することができる。
本発明の実施形態では、洗浄処理の後に、テープ研磨処理を行うことができる。本発明の実施形態ではテープ研磨処理に供されるガラス基板の表面は、凸状、凹状の形状もない鏡面状の平滑面であるので、テープ研磨処理において異物の噛み込みにより表面形状を乱すおそれがない。
最近では、磁気ディスクの情報記録密度を向上させる目的で、磁気ディスクの磁性層に対して、ディスクの円周方向に沿う磁気異方性を付与する場合がある。ディスクの円周方向とはすなわち磁気ヘッドの移動方向であるので、この方向に沿って磁気異方性が付与されていると、高記録密度化に資するからである。ディスク状ガラス基板の表面にテープ研磨処理を行うことにより、ディスクの円周方向に配向する筋状の筋からなるテクスチャを形成することができる。このテクスチャ処理が施されたガラス基板上に磁性層を形成すると、ディスクの円周方向に磁気異方性を生じせしめることができる。
このテクスチャ処理は、テープ研磨処理において研磨材としてダイヤモンド研磨材を利用する。研磨テープとガラス基板とを接触させ、ダイヤモンド研磨材を供給し、研磨テープとガラス基板とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の表面にテクスチャが形成される。このとき、ガラス基板の表面に異物が付着していたり、凸状、あるいは凹状の形状が生じていたりすると所望のテクスチャを形成することが阻害されてしまう。このため磁気ディスクに所定の磁気異方性を付与することが困難となる。本発明の実施形態では、ガラス基板の表面は、凸状、凹状の形状もない鏡面状の平滑面であるので、微細領域においても均一なテクスチャを形成せしめることができる。したがって、本発明の実施形態は磁気ディスクの高記録密度化に資する。
本発明の実施形態において、磁気ディスクは、磁気ディスク用ガラス基板の上に少なくとも磁性層を形成して製造される。磁性層の材料としては、異方性磁界の大きな六方晶系であるCoPt系強磁性合金を用いることができる。磁性層の形成方法としてはスパッタリング法、たとえばDCマグネトロンスパッタリング法によりガラス基板の上に磁性層を成膜する方法を用いることができる。またガラス基板と磁性層との間に、下地層を介挿することにより磁性層の磁性グレインの配向方向や磁性グレインの大きさを制御することができる。
たとえば、Cr系合金など立方晶系下地層を用いることにより、たとえば磁性層の磁化容易方向を磁気ディスク面に沿って配向させることができる。この場合、面内磁気記録方式の磁気ディスクが製造される。また、たとえば、RuやTiを含む六方晶系下地層を用いることにより、磁性層の磁化容易方向を磁気ディスク面の法線に沿って配向させることができる。この場合、垂直磁気記録方式の磁気ディスクが製造される。下地層は磁性層同様にスパッタリング法により形成することができる。
また、本発明の実施形態においては、磁性層の上に、保護層、潤滑層をこの順に形成するとよい。たとえばプラズマCVD法により保護層を形成することができる。保護層の膜厚としては、30オングストロームから80オングストロームが好ましい。また、潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル化合物の主鎖の末端に官能基を有する潤滑剤を用いることができる。とりわけ、極性官能基として水酸基を末端に備えるパーフルオロポリエーテル化合物を主成分とすることが好ましい。潤滑層の膜厚は5オングストロームから15オングストロームとすることが好ましい。潤滑層はディップ法により塗布形成することができる。
本発明の実施形態による磁気ディスクは、携帯電話やナビゲーションシステム、デジタルカメラなどのモバイル機器に搭載されるハードディスクドライブ用磁気ディスクとして特に好ましい。また磁気ディスク用ガラス基板として本発明の実施形態による磁気ディスク用ガラス基板は特に好ましい。
以下、実施例を挙げて磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法を更に詳細に説明する。
[実施例1]
実施例1にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、(1)荒ずり工程、(2)端面鏡面研磨工程、(3)ラッピング工程、(4)第1研磨工程(主表面粗研磨工程)、(5)洗浄工程(粗研磨後洗浄工程)、(6)第2研磨工程(主表面鏡面研磨工程)、(7)洗浄工程(鏡面研磨後洗浄工程)、(8)化学強化工程、を有する。以下、これらの工程を詳細に説明する。
(1)荒ずり工程
まず、プレス法で成型したガラスディスクを、比較的粗いダイヤモンド砥石で研削加工した。素材となるガラス組成物として、SiOを62重量%以上75重量%以下、Alを5重量%以上15重量%以下、LiOを4重量%以上10重量%以下、NaOを4重量%以上12重量%以下、ZrOを5.5重量%以上15重量%以下を主成分として含有するとともに、NaO/ZrOの重量比が0.5以上2.0以下、Al/ZrOの重量比が0.4以上2.5以下であるガラス組成物を利用した。このガラス組成物は、リン酸化物や、CaOやMgOといったアルカリ土類金属酸化物を含まないガラスである。具体的にはHOYA株式会社製のアモルファスのアルミノシリケートガラスであるN5ガラス(商品名)を用いた。
次いで、上記砥石より粒度の細かいダイヤモンド砥石で上記ガラスディスクの両面を研削加工した。これにより、ガラス基板表面の表面粗さをRmax(JISB0601で測定)で10μm程度に仕上げた。次に、円筒状の砥石を用いてディスク状のガラス基板の中心部に孔を開けてドーナツ状のガラス基板とした。
(2)端面鏡面研磨工程
次いで、ブラシ研磨により、ガラス基板を回転させながらガラス基板の端面の表面粗さを、Rmaxで1μm、Raで0.3μm程度に鏡面研磨した。研磨材としては酸化セリウム研磨材を用いた。その後ガラス基板の表面を水洗浄した。
(3)ラッピング工程
次に、ガラス基板にラッピング処理を施した。このラッピング工程は、寸法精度及び形状精度の向上を目的としている。ラッピング処理は、ラッピング装置を用いて行い、砥粒の粒度を#400、#1000と替えて2回行った。詳しくは、はじめに、粒度#400のアルミナ砥粒を用い、内転ギアと外転ギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラス基板の両面の主表面を面精度0〜1μm、表面粗さ(Rmax)6μm程度にラッピングした。次いで、アルミナ砥粒の粒度を#1000に替えてラッピングを行い、表面粗さ(Rmax)2μm程度とした。ラッピング処理を終えたガラス基板を、中性洗剤、水の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
(4)第1研磨工程(主表面粗研磨工程)
次に、第1研磨工程を施した。この第1研磨工程は、上述したラッピング工程で残留した傷や歪みの除去を目的とするもので、研磨装置を用いて行った。詳しくは、ポリウレタン製の硬質研磨パッドを用い、第1研磨工程を実施した。
研磨材としては、フッ素含有量が5重量%以下である希土類酸化物、すなわち酸化セリウムを主成分とする研磨材をガラス基板に供給し、研磨布とガラス基板とを相対的に移動させてガラス基板の主表面を粗研磨した。研磨工程で使用した研磨材の平均粒径は1μmとした。
(5)洗浄工程(粗研磨後洗浄工程)
セリウム研磨材による研磨後の磁気ディスク用ガラス基板の洗浄工程を行った。ガラス基板を、アスコルビン酸と、100ppm以上1000ppm以下のフッ素イオンと、3重量%以上の硫酸とを含有する洗浄液に浸漬し、希土類酸化物を主成分とする研磨材を溶解除去した。このとき超音波を併用した。
また、アスコルビン酸および硫酸の濃度を固定し、フッ素イオン濃度を、比較例を含めて、10ppmから1000ppmの範囲で変化させた。フッ素イオンの供給源としては、フッ化水素酸(HF)を用い、洗浄後、基板をTXRF(全反射蛍光X線分析装置)を用いて評価した。
その結果、図1に示すような結果が得られた。TXRFの測定値は、フッ素イオン濃度を200ppmとしたときに、2.83×1010atoms/cmとなった。したがって、直径1μmの球を1個のパーティクルとして換算すると、ガラス基板の主表面に存在する、酸化セリウムを主成分とする研磨材に含まれる研磨砥粒の数が、2個/cm以下となったことを確認した。
図1に示す、実施例1のサンプル1〜サンプル3では、フッ素イオン濃度を200ppm以上にした場合、厳密に言えば上記のように2個/cm以下の酸化セリウムを主成分とする研磨材が存在するものの、無視できるレベルであるため、「検出されず」という結果が得られている。一方、フッ素イオンの濃度が10ppmの比較例3や、フッ素イオンの供給源としてケイフッ酸(HSiF)を用いた比較例1、比較例2を参照すると、無視できないレベルの研磨材が検出されている。
このように、フッ素イオンの濃度は100ppm以上1000ppm以下が好ましく、より好適には、200ppm以上300ppm以下(サンプル1がこれに該当)とするとよいことが分かる。
(6)第2研磨工程(主表面鏡面研磨工程)
次に、第1研磨工程で使用したのと同様の研磨装置を用い、研磨パッドを硬質研磨パッドから軟質研磨パッドに替えて、第2研磨工程を実施した。この第2研磨工程で行う処理は、上述した第1研磨工程で得られた平坦な主表面を維持しつつ、例えば主表面の表面粗さRmaxが6nm程度以下である平滑な鏡面に仕上げる鏡面研磨処理である。
研磨材として、第1研磨工程のセリウム系研磨材より粒子径が低い、平均粒子径は80nmの、シリカ系の砥粒(コロイダルシリカ)を含む研磨材を用いた。かかる研磨材を含む研磨液をガラス基板に供給し、研磨パッドとガラス基板の摺動させてガラス基板の表面を鏡面研磨した。
研磨パッドはアスカーC硬度で72の軟質研磨パッドを用いた。また研磨パッドの表面は発泡ポアが開口する発泡ポリウレタンとした。
(7)洗浄工程(鏡面研磨後洗浄工程)
次に、第2研磨工程(主面鏡面研磨工程)を終えたガラス基板の洗浄処理を下記の通りに行った。第2研磨工程を終えたガラス基板を乾燥(自然乾燥を含む)させることなく、水中で保管し、湿潤状態のまま次の洗浄工程へ搬送した。研磨残渣が残った状態のままガラス基板を乾燥させてしまうと、洗浄処理により研磨材を除去することが困難になる場合があるからである。
この洗浄工程は、鏡面研磨工程で鏡面に仕上げられたガラス基板の表面に残留するコロイダルシリカ系の研磨材を除去するための洗浄工程である。鏡面仕上げされたガラス表面を荒すことなく、研磨材を除去する必要がある。例えば、洗浄液がガラスに対してエッチング作用やリーチング作用を有していると、折角鏡面仕上げしたガラス表面が粗されてしまい、鏡面ではなく、梨子地面のガラス表面となってしまう。梨子地面のガラス基板では、磁気ヘッドの浮上量を十分に低減させることができない。したがって、この洗浄液はガラスに対して、エッチング作用やリーチング作用を有せず、シリカ系の研磨材に対して選択的溶解性能を備える洗浄液として組成される。すなわち、ガラスをエッチングする要因であるフッ化水素酸(HF)やケイフッ酸(HSiF)等を含まない組成とする。
この洗浄処理を終えたガラス基板の主表面の縦5μm、横5μmの正方形領域の表面粗さRaを原子間力顕微鏡(AFM)で測定したところ、5個のサンプルにおいて、Ra:(1)0.15nm(2)0.16nm(3)0.18nm(4)0.16nm(5)0.14nmの結果が得られ、平均値は0.16nmであった。また、その表面を原子間力顕微鏡及び電子顕微鏡で分析したところ鏡面状であり、凸状、凹状の欠陥や異物は観察されなかった。研磨材の残渣も検出されなかった。
(8)化学強化工程
洗浄工程を終えたガラス基板に化学強化処理を施した。化学強化処理は、化学強化塩を化学強化処理槽に入れ、保持部材で保持したガラス基板を溶融させた化学強化塩に浸漬して行う。化学強化処理の具体的方法は、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムを混合した化学強化塩を用意し、この化学強化塩を400℃に加熱して溶融させ、300℃に予熱された洗浄済みのガラス基板を約3時間浸漬して行った。このように、化学強化溶融塩にガラス基板を浸漬処理することによって、ガラス基板表層のリチウム、ナトリウムは、化学強化溶融塩中のナトリウム、カリウムにそれぞれ置換され、ガラス基板は化学強化される。ガラス基板の表層に形成された圧縮応力層の厚さは、約100μmであった。化学強化処理を終えたガラス基板を、硫酸洗浄、中性洗剤洗浄、純水洗浄、アルコール洗浄、アルコール蒸気乾燥の順に洗浄及び乾燥工程を行った。
上記の工程を経て得られたガラス基板の主表面を原子間力顕微鏡及び電子顕微鏡で分析したところ鏡面状であり、凸状、凹状の欠陥や異物は観察されなかった。研磨材の残渣も検出されなかった。表面粗さは、(7)洗浄工程(鏡面研磨後洗浄工程)後の表面粗さと略同様であった。
以上のようにして磁気ディスク用ガラス基板が製造された。
(9)磁気ディスク製造工程
上述した工程を経て得られた磁気ディスク用ガラス基板上に少なくとも下地層、微細化促進層、および磁気記録層をこの順に備える垂直磁気記録に用いる磁気ディスクを製造する。微細化促進層としてコバルト(Co)、クロム(Cr)および少なくとも1つの貴金属元素を含有する結晶粒子の間に非磁性物質を含むグラニュラー構造の非磁性層を形成する。磁気記録層として少なくともコバルト(Co)を含有する結晶粒子の間に非磁性物質を含むグラニュラー構造の強磁性層を形成する。磁気記録層の成膜にあたっては、スパッタリング法、特にDCマグネトロンスパッタリング法を好ましく用いることができる。
[HDD搭載試験]
得られた磁気ディスクを、最高記録密度が1平方インチ当り60ギガビットとされるロードアンロード方式のハードディスクドライブ(HDD)に搭載した。このハードディスクドライブに搭載される磁気ヘッドの浮上量は10nmであり、スライダーはNPABスライダー(負圧スライダー)が採用されている。再生素子は磁気抵抗効果型再生素子である。このハードディスクドライブで試験を行ったところ、ヘッドクラッシュ障害、サーマルアスペリティ障害、フライスティクション障害が生じることがなく、安全に記録再生を行うことができた。ロードアンロード動作を60万回繰り返したが、故障することもなかった。
[参考例]
次に、本発明の実施形態に係る参考的実験を行ったので付記する。
実施例1の(5)洗浄工程(粗研磨後洗浄工程)で利用した洗浄液と同様の組成の試薬を組成して、アルミノシリケートガラスに対する作用を調査した。具体的には硫酸、アスコルビン酸の組成は実施例1の洗浄液と同様とし、フッ酸の添加量を調整し様々なフッ素イオン濃度の試薬を組成した。通常、フッ酸はガラスに対するエッチング液として利用される液体であるので、ここで、本発明の実施形態の作用効果を阻害しないフッ素イオン濃度を開示しておく方がよいと思われたからである。
具体的には、図2に示すように、フッ素イオン濃度が1ppm、10ppm、30ppm、100ppm、200ppm、250ppm、300ppm、1000ppmの8水準の試薬を組成した。この試薬を、実施例1と同様の組成のアルミノシリケートガラスに接触させて、エッチングを行い、エッチング速度を調査した。結果、フッ素イオン濃度が10ppm以下ではエッチング速度が平均値0.03nm/分以下であり、実質的にエッチング作用が起こらないのに対して、30ppmでは平均値0.7nm/分に増加し、100ppmでは、平均値0.54nm/分ものエッチング速度に急増することが分かった。しかし鏡面研磨工程の取代はこれより大きく、片面で0.25μm〜数μm程度であるため、100ppmのフッ素イオン濃度は本発明の実施例にとって有用であるし、最大、1000ppmまでフッ素イオン濃度を高めてよいと判断できる。
一方、図2に示すように、目標とするエッチング速度は3.64nm/分であるから、かかる目標エッチング速度を充足するには、フッ素イオン濃度は、少なくとも200ppmは必要であり、既に述べたように、200ppm以上300ppm以下のフッ素濃度が、エッチングを行ううえで最もムダのない、推奨すべきフッ素濃度であると言える。
[実施例2]
次に、実施例1において、化学強化工程の後であって、磁気ディスク製造工程の前に、テープ研磨処理を行った磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスクを製造した。ディスク状のガラス基板の表面にテープ研磨処理を行うことにより、ディスクの円周方向に配向する筋状の溝からなるテクスチャを形成した。具体的には、化学強化処理を行ったガラス基板の表面に、樹脂繊維の織物からなる研磨テープを当接させ、ダイヤモンド砥粒を供給しながら、ガラス基板を回転させることにより、ガラス基板の表面に微細なテクスチャを形成した。このテクスチャ形成処理を終えたガラス基板の表面を原子間力顕微鏡で観察したところ、表面粗さは実施例1と同様であったが、その表面には精緻なテクスチャ形状が形成されていた。テクスチャを構成する筋はディスクの円周方向に沿って配向していた。テクスチャ形状を乱すような、凸部、凹部や異物の噛み込みにより形成される傷なども見られなかった。このガラス基板上に実施例1と同様に成膜を行い磁気ディスクを製造した。
ただし、第1下地層をCrTa下地層に換え、第2下地層をAlRu下地層とし、第2下地層と磁性層の間に、第3下地層としてCrMo下地層を介挿入させた。
以上のようにして面内記録方式用磁気ディスクを製造した。これらの点以外は実施例1と同様の製造方法による同様の磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクである。
得られた磁気ディスクのHDD搭載試験を行ったところ実施例1と同様の好適な結果が得られた。次に磁気ディスクの磁気異方性を調べた。具体的には、磁気ディスクの円周方向の保磁力(Hc1)と半径方向の保磁力(Hc2)を測定し、Hc1/Hc2を磁気異方性指数(OR)として評価した。保磁力の測定はVSM(振動試料型磁化測定装置)による磁気特性評価方法を利用した。このとき、最大印加外部磁場は8キロエルステッドとした。結果、ORは1.2程度付与されていた。即ちこの磁気ディスクは円周方向の磁気特性(この場合保磁力)が半径方向のそれに対して20%卓越していることを示している。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)などの磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、および磁気ディスク製造方法に適用可能である。
本発明の実施形態の効果を示す図である。 本発明の実施形態においてフッ素濃度とエッチング速度との関係を示す図である。

Claims (4)

  1. ガラス基板の主表面を粗研磨する粗研磨工程と、
    前記粗研磨工程の後で前記ガラス基板の主表面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、
    前記粗研磨工程と鏡面研磨工程との間に前記ガラス基板を洗浄する洗浄工程とを含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
    前記粗研磨工程では、フッ素含有量が5重量%以下である希土類酸化物を主成分とする研磨材をガラス基板に供給し、研磨布とガラス基板とを相対的に移動させてガラス基板の主表面を粗研磨し、
    前記鏡面研磨工程では、前記希土類酸化物を主成分とする研磨材と異なる研磨材をガラス基板に供給し、研磨布とガラス基板とを相対的に移動させてガラス基板の主表面を鏡面研磨し、
    前記洗浄工程では、前記ガラス基板を、アスコルビン酸と、100ppm以上1000ppm以下のフッ素イオンと、3重量%以上の硫酸とを含有する洗浄液に接触させて、前記希土類酸化物を主成分とする研磨材を溶解除去するとともに、前記鏡面研磨工程におけるガラス基板主表面の取代よりも小さな取代で、ガラス基板主表面をエッチング処理することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  2. ガラス基板の主表面を粗研磨する粗研磨工程と、
    前記粗研磨工程の後に該粗研磨工程で使用される研磨材と異なる研磨材を用いて前記ガラス基板の主表面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、
    前記粗研磨工程と鏡面研磨工程との間に前記ガラス基板を洗浄する洗浄工程とを含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
    前記粗研磨工程では、フッ素含有量が5重量%以下である希土類酸化物を主成分とする研磨材をガラス基板に供給し、研磨布とガラス基板とを相対的に移動させてガラス基板の主表面を粗研磨し、
    前記洗浄工程では、前記ガラス基板を、アスコルビン酸と、100ppm以上1000ppm以下のフッ素イオンと、3重量%以上の硫酸とを含有する洗浄液に接触させて、前記希土類酸化物を主成分とする研磨材を溶解除去することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  3. 前記洗浄工程では、前記ガラス基板の主表面に存在する希土類酸化物を主成分とする研磨材に含まれる研磨砥粒の数が、2個/cm以下となるように前記希土類酸化物を主成分とする研磨材を溶解除去することを特徴とする請求項2記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
  4. 請求項1から3までのいずれかに記載の方法を用いて製造したガラス基板に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする、磁気ディスク製造方法。
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