JP5146149B2 - トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの精製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、有機合成や医農薬、電子材料分野における中間体の製造原料、及びフッ素化試剤として有用なトリフルオロメタンスルホニルフルオリド(CF3SO2F)の精製方法に関する。
トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを初めとする、含フッ素アルカンスルホニルフルオリドの製造方法として、電気化学的フッ素化する方法が従来から知られている。例えば、特許文献1には、無水フッ酸中でメタンスルホニルクロリド(CH3SO2Cl)を電解フッ素化させて製造する方法が開示されている。また、特許文献2においては、無水フッ化水素の存在下で、α,β-ジフルオロアルカン-β-スルトン、及び対応するα-ハロカルボニルフルオロアルカンスルホニルハロゲン化物の電気化学的フッ素化より得られる反応が開示されている。
一方、近年、電気化学的フッ素化を用いない手法として、以下に挙げられる方法で製造がなされてきた。例えば、特許文献3において、パーフルオロオレフィンを出発原料として、無水硫酸と反応させ、パーフルオロアルカンスルトンを経由した後、加水分解させてモノヒドロパーフルオロアルカンスルホニルフルオリド(Rf−CHF−SO2F)に誘導させ、続いてフッ素又はフッ素を含むガスと反応させることによりパーフルオロアルカンスルホニルフルオリド(Rf−CF2−SO2F)を製造する方法が、また特許文献4では、アルカンスルホニルフルオリドとフッ素を含むガスと反応させることで、ペルフルオロアルカンスルホニルフルオリド又はヒドロフルオロアルカンスルホニルフルオリドを製造する方法が開示されている。
また、本発明と関連する技術分野として、特許文献5や特許文献6ではフルオロカーボンスルホン酸フルオリドと水酸化カリウム溶液で加水分解し、さらに酸処理して蒸留することでフルオロカーボンスルホン酸を得る方法が、そして特許文献7ではトリフルオロメタンスルホン酸と5酸化リンとを反応させ、生成した無水トリフルオロメタンスルホン酸(トリフルオロメタンスルホン酸無水物)を蒸留した後、この蒸留液にさらに5酸化リンを加え、還流し、蒸留又は減圧蒸留により、無水トリフルオロメタンスルホン酸を精製する方法が開示されている。また、特許文献8では、トリフルオロメタンスルホン酸と5酸化リンとを反応させ、無水トリフルオロメタンスルホン酸を得る際、フッ素系溶媒中で反応させる方法が、特許文献9−10では5塩化リン、3塩化リン及び塩素等を用いて無水トリフルオロメタンスルホン酸を製造する方法が開示されている。
米国特許第2732398号明細書 特表平8−512095号公報 国際公開第2004−096759号公報 特開2003−206272号公報 特公昭30−4218号公報 特開平1−061452号公報 特開2002−088050号公報 特開平9−227498号公報 特開平11−236365号公報 特開平11−236366号公報
上記に挙げた特許文献1や特許文献2(電解フッ素化)では、反応時に、反応溶液に約20vol%のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドと約80vol%の水素との混合ガスが電解槽より発生する。酸化性ガスが0.1%〜0.2%含有している為、水素ガスが混在している溶液から高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを分離、精製する為には、可燃性ガスを扱うこととなるため、大規模な製造設備(高圧ガス設備)が必要となり、危険を伴うことになる。
一方、電解フッ素化を用いない方法、すなわち特許文献3の方法は、該目的物が88%と良好に得られることから、好ましい製造方法であるが、一方で多段階の工程を要するため、合成方法は煩雑となり、工業的に製造する上ではいくぶん難があった。また、特許文献4の方法は、得られるペルフルオロアルカンスルホニルフルオリドが非常に低収率であるため、工業的に採用するのは難しい。
さらに、水素ガス以外に、電解フッ素化に起因した副生成物が多く反応系内に生成(モノフルオロメタンスルホニルフルオリド、ジフルオロメタンスルホニルフルオリド)していることから、分離精製がさらに難しくなる。電子材料分野において、数ppmレベルの不純物が混在するだけでも電子機器に多大な影響を及ぼすことからも、この製造方法では高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを製造することは非常に困難であった。
これらのことから、高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、簡便かつ短工程で、工業的規模で容易に製造できる方法の確立が望まれていた。
本発明者らは、かかる問題点に鑑み、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを工業的に容易に製造する方法につき、鋭意検討を行った。その結果、短工程かつ高純度で目的物であるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る方法を見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の[発明1]−[発明14]に記載する、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの精製方法を提供する。
[発明1]
以下の3工程を含む、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド(CF3SO2F)の精製方法。
第1工程:トリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)を得る工程。
第2工程:第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、脱水剤を反応させ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物((CF3SO2)2O)を得る工程。
第3工程:第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物に、フッ素化剤を反応させることにより、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
[発明2]
トリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸を得る(第1工程)際、金属水酸化物が水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明1に記載の方法。
[発明3]
第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、脱水剤を反応させ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を得る(第2工程)際、脱水剤が5酸化リン(P25)、又は5塩化リン(PCl5)である、発明1又は2に記載の方法。
[発明4]
第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物に、フッ素化剤を反応させる(第3工程)際、以下の工程の何れかを経由することにより行うことを特徴とする、発明1に記載の方法。
第3工程(a):トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
第3工程(b):トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
[発明5]
トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、トリフルオロメタンスルホン酸無水物とフッ化水素を先に共存させた後に、続けて有機塩基を加えることにより行うことを特徴とする、発明4に記載の方法。
[発明6]
トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、有機塩基とフッ化水素を先に共存させた後に、続けてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を加えることにより行うことを特徴とする、発明4に記載の方法。
[発明7]
トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、有機塩基の量が、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対し0.1〜100モルであることを特徴とする、発明4乃至6の何れかに記載の方法。
[発明8]
トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、フッ素化剤の量が、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対し0.1〜100モルであることを特徴とする、発明4乃至7の何れかに記載の方法。
[発明9]
トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、反応を行う際の温度が−30℃〜90℃であることを特徴とする、発明4乃至8の何れかに記載の方法。
[発明10]
トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させる(第3工程(b))際、金属フッ化物が、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ルビジウム(RbF)、又はフッ化セシウム(CsF)である、発明4に記載の方法。
[発明11]
トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させる(第3工程(b))際、溶媒として水を共存させることにより行うことを特徴とする、発明4乃至10の何れかに記載の方法。
[発明12]
トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させる(第3工程(b))際、反応を行う際の温度が−5〜90℃であることを特徴とする、発明4乃至11の何れかに記載の方法。
[発明13]
トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させる(第3工程(b))際、金属フッ化物の量が、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対し0.1〜100モルであることを特徴とする、発明4乃至12の何れかに記載の方法。
[発明14]
第1工程で用いるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドが、メタンスルホニルクロリドを金属フッ化物でフッ素化し、得られたメタンスルホニルフルオリドを無水フッ化水素中、電解法によりフッ素化することにより得られることを特徴とする、発明1乃至13の何れかに記載の方法。
本発明では、電解法でフッ素化して得られたトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、この時点で精製操作をせずに続けて3つの工程(第1工程〜第3工程)を経ることで、高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを簡便かつ効率的に得ることができるという、実用的に有利な知見を得た。
また、3つの工程のうち、特に第3工程(フッ素化工程)において、反応が良好に進行し、高収率で該目的物を得るという、工業的規模で製造する上できわめて有用な知見を得た。
なかでも、第3工程(a)において、フッ素化剤としてフッ化水素を用いた際、トリフルオロメタンスルホン酸無水物とフッ化水素のみを反応させた場合、反応は全く進行せず(後述の比較例参照)、反応系内に有機塩基存在下でフッ化水素を反応させることで反応が良好に進行し、高純度で該目的物を得られるという知見を見出した。
一方、第3工程(b)においては、溶媒に水を用いることで反応が良好に進行し、高収率で該目的物を得るという、工業的規模で製造する上できわめて有用な知見を得た。本発明者らは溶媒として水を用いた場合、原料であるトリフルオロメタンスルホン酸無水物が、金属フッ化物とではなく水と反応し、加水分解を起こしてしまい、当該目的物を得ることが困難であることを当初予想していた。しかしながら、実際に加水分解は起こらずに、金属フッ化物と優先的に反応して該目的物を良好に得られるという知見を得た。
なお、本出願人は、本発明における第3工程のうち、第3工程(a)及び第3工程(b)の内容について、既に出願している(特願2007−129454号、特願2007−129455号)。本発明ではこれらの工程を組み合わせることで、電解法でフッ素化して得られたトリフルオロメタンスルホニルフルオリドについて、精製操作をせずに容易に製造することが可能であり、大規模な製造設備(高圧ガス設備)の簡略化が可能となった。また、3つの工程を経由することによりトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを繰り返して製造できることから、従来の電解フッ素化法で懸念されていた可燃性ガス(水素ガス)を取り扱う必要もなくなった。
このように、本発明は、工業的かつ経済的に非常に優位性のある方法である。
本発明によれば、電解フッ素化で製造したトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、3工程を経ることにより、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを高選択率かつ高純度で効率良く製造できる。また、該目的物を繰り返して製造することも可能であり、工業的規模で製造する上で非常に優れた方法である。
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明ではトリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸を得(第1工程)、第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、脱水剤と反応させ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を得(第2工程)、第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物に、フッ素化剤を反応させることにより、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る(第3工程)工程によってなる。
スキーム1として以下にまとめる。
Figure 0005146149
なお、第1工程の出発原料のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドについては、特許文献1や2に開示している方法、すなわちトリフルオロメタンスルホニルクロリドを無水フッ化水素中、電解法によりフッ素化する方法、又はメタンスルホニルクロリドを金属フッ化物でフッ素化し、得られたメタンスルホニルフルオリドを無水フッ化水素中、電解法によりフッ素化する(本明細書において、この工程を「A工程」とも言う)ことにより製造することができる(以下、スキーム2参照)。
Figure 0005146149
しかしながら、製造時に反応溶液内において約20vol%のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドと、約80vol%の水素との混合ガスが電解槽より発生する。酸化性ガスが0.1%〜0.2%含有している為、水素ガスが混在している溶液から高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを分離、精製する為には、可燃性ガスを扱うこととなるため、大規模な製造設備(高圧ガス設備)が必要となり、危険を伴うことになる。
そこで、詳細は後述するが、上述した電解フッ素化で得られたトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、この時点で精製等の分離操作を行わずに、混合物のまま次の第1工程における出発原料として使用することにより、第1工程において、収率を損なわずに良好に進行することができ、また、分離操作も非常に簡便に行うことができる。例えば、本実施例において、電解フッ素化にて分離の困難な混合ガスを含むトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、第1工程の出発原料として使用することは、分離操作への工程が削減でき、従来よりも格段に生産性が向上することから、本発明において好ましい態様の一つである。
まず、第1工程について説明する。第1工程はトリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸を得る工程である。ここで本工程の化学反応式を記述すると以下のようになる(以下、スキーム3参照)。
Figure 0005146149
用いる金属水酸化物としては、反応を効率的に進ませる金属水酸化物であれば良く、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)からなる群より選ばれる少なくとも1種が用いられるが、この中で水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムが好ましく、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが特に好ましい。ここで言う金属とはアルカリ金属のことであり、アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が挙げられる。
本工程に使用する金属水酸化物の量は、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド1モルに対して、通常2〜10モルであり、2〜6モルであることが好ましく、2〜4モルであることがさらに好ましい。塩基が2モルより少ないことは、選択率の上では大きな影響はないが、反応変換率が低く、収率の低下につながり、逆に塩基が10モルよりも多いと、先の電解フッ素化において生成ガスに含まれる副生成物と反応し、多量の無機物が副生し、精製が困難になることから、いずれも好ましくない。
本工程で用いる水の使用量は、金属水酸化物の水溶液の濃度を、通常10%〜50%、好ましくは15%〜40%、より好ましくは20%〜30%となるように水を加えると良い。ここで、水の量が多いとき、反応速度の低下を起こす原因となり、水の量が少ないと金属水酸化物が溶解せずに析出する原因となるので好ましくない。
金属水酸化物を加える際の反応温度(内部の液体の温度)は0℃〜90℃の範囲で可能であるが、40℃〜60℃が加熱の負荷がかからず、温度制御も容易であるから好ましい。中でも、40℃〜50℃の範囲で反応を行うことは、本発明の特に好ましい態様の一つである。
0℃未満であると、用いる水が凍結し、さらに金属水酸化物が溶解しにくくなることから、好ましくない。また、一方、90℃を超えると、副生物が生じやすく、また過剰な加熱はエネルギー効率が悪く、経済性の面からも好ましくない。また、反応時間は1〜5時間が好ましい。
本工程において、電解フッ素化にて分離の困難な混合ガスを含むトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを出発原料として用いた場合、電解フッ素化に由来するフッ化水素が含まれている。そこで、電解フッ素化で電解槽から抜き出した生成ガスを、0〜−40℃のコンデンサーを通すことにより同伴するフッ化水素酸を液化して電解槽に戻し、SUS製のスクラバーに導き、10%〜50%の金属水酸化物溶液(本実施例では水酸化カリウム水溶液)と0℃〜90℃の範囲で反応させることで、分離操作も非常に簡便に行うことができる。また、金属水酸化物を2段階に分けて反応させることもでき、当業者が適宜調整することができる。
スキーム3に示すように、金属水酸化物と反応させた後にトリフルオロメタンスルホニルフルオリドの金属塩(CF3SO3M、ここで言う「M」とは、アルカリ金属のことであり、前述の金属水酸化物由来の金属のことを示す)が得られる。ここでCF3SO3Mが得られるのと同時に、金属フッ化物が反応系内に生成するが、濾過、遠心分離等の通常の操作により、容易に金属フッ化物と容易に分離できる。ろ過、遠心分離、温度等については当業者が適宜調整することができる。
反応圧力については特に制限はなく、常圧(大気圧)、加圧条件下で反応を行うことができる。
また、減圧条件下で反応を行うことも可能である。本発明では、上述したように本工程の原料であるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドが室温で気体として発生するために、反応系内の圧力が高くなることがある。そこで、耐圧反応容器を用い、反応系内を予め減圧させた後に、反応試剤を加えることで、圧力がそれほど高くない状態で反応を行うことも可能である。
次に、スキーム3に示すように、得られたCF3SO3Mを酸で処理することで、対応するトリフルオロメタンスルホン酸を得ることができる。本工程で用いられる酸は、ブレンステッド酸であれば特に限定されないが、塩酸、硫酸、発煙硫酸、硝酸、燐酸、珪酸、臭化水素酸、ホウ酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、クロトン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸を例示することができる。その使用量は、使用する酸の価数により変化するが、例えば1価の酸の場合、CF3SO3M1モルに対して、酸の使用量は、1モル以上であり、好ましくは、1〜5モルである。また、2価の酸の場合、CF3SO3M1モルに対して、酸の使用量は、0.5モル以上であり、好ましくは、0.5〜2.5モルである。また、酸の濃度に関して特に限定は無いが、10%〜90%が好ましい。酸の存在下にて加水分解を行う場合の、用いる水の使用量は、基質であるCF3SO3M1モルに対して、1モル以上であれば特に制限はないが、好ましくは1〜1000モルであり、更に好ましくは1〜100モルである。また、上述した酸の中に水が含まれている場合はその水を使用しても良い。反応温度は通常、−30℃〜150℃、好ましくは−10℃〜120℃で、さらに好ましくは0℃〜100℃の範囲である。また、反応時間は1〜4時間程度が好適である。
酸分解した混合物から、蒸留等の通常の手段に付して、トリフルオロメタンスルホン酸を得ることができる。なお、蒸留操作に関し、常圧(大気圧)又は減圧条件下、いずれも可能であるが、トリフルオロメタンスルホン酸の沸点が高い(沸点162℃)ことから、減圧蒸留で行うことが好ましい。減圧蒸留に関しては当業者が適宜調整することができる。
本工程に用いられる反応器は、圧力に耐えるものであれば材質に特に制限はなく、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングした反応器、もしくはガラス容器を使用することができる。
次に第2工程について説明する。第2工程は第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、脱水剤を反応させ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を得る工程である(スキーム4参照)。
Figure 0005146149
本工程で用いる脱水剤としては、5酸化リン、又は5塩化リンが好ましい。その他の脱水に使われる公知の物質、例えば、ギ酸、酢酸無水物、チオニルクロリド、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、シアヌール酸クロリド、塩化チタン(IV)またはベンゼンスルホニルクロリドなども知られており、これらを脱水剤として用いることも可能である。しかしながら、5酸化リン、又は5塩化リンが工業的にも安価であり、取り扱いについても容易であり、好ましく用いられる。
次に、脱水剤として5酸化リン及び5塩化リンを用いた際の反応条件について、以下、詳細に述べる。
i)5酸化リン(P25)を用いた場合
5酸化リンを用いる場合、用いる量としては、トリフルオロメタンスルホン酸1モルに対して、通常0.1〜10モルであり、2〜6モルであることが好ましく、2〜4モルであることがさらに好ましい。0.1モルより少ないと、回収率が低下し、好ましくない。また、10モルより多いと、反応系内が固形化し、攪拌がしにくくなること、また不必要の量の5酸化リンを用いることは経済的な面から見ても、好ましくない。
また、ここで5酸化リンを反応させる際、トリフルオロメタンスルホン酸に対して、最初から多く加えてしまうと、反応系内で固結し攪拌できなくなり、蒸留した場合の回収率が低下してしまうことがある。そのため、5酸化リンを連続的もしくは逐次的に加えることは、反応系内の固結を避けることができることからも、好ましい態様の一つである。
本発明で用いられる溶媒としては、原料および反応生成物に不活性な溶媒が好ましく、中でもフッ素系溶媒が好適に用いられる。例えば、一般式(Cn2n+1SO22O(n=1〜8)で示されるフルオロアルキルスルホン酸無水物、一般式Cn2n+1SO2・Onn2n+1(n=1〜8)で示されるフルオロアルキルスルホン酸エステル、一般式Cn2n+2(n=4〜20)で示されるペルフルオロアルカン、一般式(Cn2n+13N(n=2〜6)で示されるペルフルオロアルキルアミン、およびペルフルオロポリエーテル等が挙げられるが、中でも脱水反応後の生成物の回収の面から、フルオロアルキルスルホン酸無水物(例えばトリフルオロメタンスルホン酸無水物)が特に好ましい。溶媒は、一種類、又は複数を組み合わせても良い。
反応温度は通常、−20℃〜100℃で行うことができる。−20℃より低いと、反応速度も遅くなり、また粘度も高くなるため、好ましくない。また、100℃を超えると分解反応が促進して反応液が固結してしまう。また過剰な加熱はエネルギー効率が悪く、経済性の面からも好ましくない。また、反応時間は1〜6時間程度が好適である。
ii)5塩化リン(PCl5)を用いた場合
5塩化リンを用いる場合、用いる量としては、トリフルオロメタンスルホン酸1モルに対して、通常、1モル以下の量で用いることができ、好ましくは、0.2〜0.6モルであり、より好ましくは0.2〜0.5モルである。1モルより多いと、それに伴い、トリフルオロメタンスルホン酸クロリドが副生成物として生成し、本工程の目的物であるトリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率が低下することがあるので好ましくない。
また、5塩化リンの代わりに3塩化リン(PCl3)及び塩素(Cl2)を用い、反応系内にて5塩化リンとして用いる(PCl3+Cl2→PCl5)ことも可能である。この場合、3塩化リン及び塩素の添加量が、トリフルオロメタンスルホン酸1モルに対して、通常、1モル以下の量で用いるようにすれば良い。
5塩化リンを添加する際、発熱を伴う為に、添加する際の反応温度は40℃以下にすることが好ましく、より好ましくは0℃〜20℃である。添加後の反応温度は、20〜80℃程度にすることが好ましいが、反応を促進させるために、40〜80℃とするのがより好ましい態様である。また、反応時間は1〜6時間程度が好適である。
5塩化リンを用いる場合、溶媒を用いることができる。しかしながら当該反応によりトリフルオロメタンスルホン酸無水物と塩化ホスホリル(POCl3)、トリフルオロメタンスルホニルクロリドが反応系内に生成する場合でも、これらは未反応原料であるトリフルオロメタンスルホン酸を含めて、いずれも常温で液体であり、特に溶媒を必要としない。また、反応終了後に蒸留することにより容易に分離、精製することができる。したがって、本発明においては、目的生成物であるトリフルオロメタンスルホン酸無水物を非常に容易に、かつ、効率よく得ることができる。
また、上記i)、及びii)に関して、常圧又は加圧下で行うことができるが、圧力は反応に影響を及ぼさないので、常圧下でも十分反応が進行する。具体的には0.0001〜1.0MPa(絶対圧基準。以下、明細書にて同じ)、好ましくは0.001〜0.5MPa、特に好ましくは0.01〜0.2MPaにて行うことができる。
本工程に用いられる反応器は、材質に特に制限はなく、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングした反応器、もしくはガラス容器を使用することができる。
反応終了後、濾過、抽出、蒸留、再結晶等の通常の手段により、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を得ることができる。
次に第3工程について説明する。第3工程は、第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物に、フッ素化剤を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程である。
本工程で用いるフッ素化剤としては、フッ化水素、又は金属フッ化物が挙げられる。また、本工程の具体的な態様としては、以下の2つの工程、
第3工程(a):トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
第3工程(b):トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
の何れかを経由することによってなる。
まず、第3工程(a)について説明する。本工程は、トリフルオロメタンスルホン酸無水物((CF3SO22O)に、有機塩基存在下、フッ化水素(HF)を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを製造する工程である。
本工程で用いる有機塩基としては特別な制限はないが、pHが8以上となる強度を有する塩基性物質が好ましい。
本工程の反応に用いる有機塩基として好ましいものは、(a)一級アミン、(b)二級アミン、(c)三級アミン、(d)含窒素芳香族複素環式化合物、(e)次のイミン骨格−C=N−C−
を有する有機塩基(「イミン系塩基」)からなる群より選ばれる有機塩基である。
「含窒素芳香族複素環式化合物」としては、単環化合物の他に、環集合化合物、縮合環化合物も含まれる。芳香環を構成する原子数は、通常5〜30であり、5〜18が好ましく、入手が容易で性能も優れることから原子数が6〜10のものが特に好ましい。これらの単環化合物、環集合化合物、縮合環化合物の環上には、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン(F,Cl,Br,I)、ハロゲン置換アルキル基などがさらに置換していてもよい。
これらの有機塩基の具体例は次の通りである。
(a)一級アミン:メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、グアニジンなど。
(b)二級アミン:ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ピペリジン、ピロリジン、モルホリンなど。
(c)三級アミン:トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−エチルジイソプロピルアミン、ジ−イソプロピルエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリス(2−エチルへキシル)アミン、N,N−ジメチルデシルアミン、N−ベンジルジメチルアミン、N−ブチルジメチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N′−ジメチルピペラジン、N−メチルピペコリン、N−メチルピロリドン、N−ビニル−ピロリドン、ビス(2−ジメチルアミノ−エチル)エーテル、N,N,N,N',N''−ペンタメチル−ジエチレントリアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N,N',N',N''−ペンタメチルジプロピレントリアミン、トリス(3−ジメチルアミノプロピル)アミン、テトラメチルイミノ−ビス(プロピルアミン)、N−ジエチル−エタノールアミンなど。
(d)含窒素芳香族複素環式化合物:ピリジン、2−メチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、2,6−ルチジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、3−(ジメチルアミノ)プロピルイミダゾール、ピラゾール,フラザン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、プリン、1H−インダゾール、キナゾリン、シンノリン、キノキサリン、フタラジン、プテリジン、フェナントリジン、2,6−ジ−t−ブチルピリジン、2,2'−ビピリジン、4,4'−ジメチル−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジメチル−2,2'−ビピリジル、5,5'−ジメチル−2,2'−ビピリジル、6,6'−t−ブチル−2,2'−ジピリジル、4,4'−ジフェニル−2,2'−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、2,7−ジメチル−1,10−フェナントロリン、5,6−ジメチル−1,10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンなど。
(e)イミン系塩基:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンなど。
の有機塩基が挙げられる。
これらの有機塩基のうち、目的とするトリフルオロメタンスルホニルフルオリドの収率を特に高めるためには、(a)〜(e)の有機塩基を使用するのが好ましく、有機塩基の中でも、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−エチルジイソプロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、4−メチルピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンから選ばれる有機塩基が好ましく、これらの中でも経済性及び取り扱いの容易さから、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4−メチルピリジンが特に好ましい。
これらの有機塩基は単独で用いても良いが、2種以上の有機塩基を組み合わせて使用することもできる。
本工程に用いる有機塩基の量に特別の制限はないが、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対して、通常0.1〜100モルであり、0.1〜50モルであることが好ましく、0.1〜10モルであることがさらに好ましい。有機塩基が0.1モルより少ないことは、選択率の上では大きな影響はないが、反応変換率が低く、収率の低下につながり、逆に有機塩基が100モルよりも多いと、経済的に不利になるので、いずれも好ましくない。
本工程に用いるフッ化水素の量に特別の制限はないが、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対して、通常0.1〜100モルであり、0.1〜50モルであることが好ましく、0.1〜10モルであることがさらに好ましい。フッ化水素が0.1モルより少ないことは、選択率の上では大きな影響はないが、反応変換率が低く、収率の低下につながり、逆にフッ化水素が100モルよりも多いと、経済的に不利になるので、いずれも好ましくない。
有機塩基とフッ化水素の混合比に特別な制限は無いが、フッ化水素又は有機塩基のどちらかを当量以上加えて行うことが好ましい。
なお、本工程において、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を用いても反応を行うことができる。その際、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基とフッ化水素のモル比としては特に制限はないが、通常100:1〜1:100の範囲のものを使用すればよく、50:1〜1:50が好ましく、特に25:1〜1:25がより好ましい。「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の調製方法としては特に制限はないが、通常は冷却下に有機塩基とフッ化水素を任意の割合で混合すればよい。またアルドリッチ(Aldrich、2003−2004総合カタログ)から市販されている「トリエチルアミン1モルとフッ化水素3モルからなる錯体」を利用するのが便利である。
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の使用量としては、特に制限はないが、通常はトリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対してフッ素アニオン(F-)として1モル以上を使用すればよく、1〜30モルが好ましく、特に1〜15モルがより好ましい。
また、本工程は別途有機溶媒を共存させて反応を行うこともできる。ここで有機溶媒とは、本工程の反応に直接関与しない不活性な有機化合物のことを言う。具体的な反応溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その中でもn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、特にトルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミドおよびアセトニトリルがより好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて使用することができる。
また、溶媒の量は、試薬が十分量溶解し、反応が円滑に進行するように、当業者によって最適化できるが、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1gに対し、溶媒の量は通常0.5〜5gであり、好ましくは0.8〜3g、さらに好ましくは1〜2gである。
なお、上述の「有機塩基」が液体である場合には、これら有機塩基(例えばトリエチルアミンなど)が溶媒としての役割も兼ねるため(後述の実施例参照)、これらを過剰に用いて溶媒として機能させることもできる。
反応時間については、特に制限はないが、ガスクロマトグラフィー等の手法によって、原料の消費が十分に進み、もはや反応が進行しないことを確認してから終了するのが望ましく、当業者が適宜調整することができる。さらに、本反応を実施する際、反応を効率良く進行させるために攪拌するのが好ましい。
本工程における反応温度は、通常、−30℃〜90℃であるが、−20℃〜70℃が好ましく、−5℃〜50℃が、冷却の負荷がかからず温度制御も容易であることからも、より好ましい温度範囲である。
原料であるトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応試剤の仕込み方法については特に制限はないが、通常、トリフルオロメタンスルホン酸無水物((CF3SO22O)を有機塩基存在下、フッ素化剤を反応させれば良い。
また、本発明者らは、反応系内に試薬を加える順序を適宜変更して行うことにより、さらに高収率で該目的物を得る知見も得た。
例えば、実施例において、
i)トリフルオロメタンスルホン酸無水物とフッ化水素を先に共存させた後に、続けて有機塩基を加える
ii)有機塩基とフッ化水素を先に共存させた後に、続けてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を加える
iii)トリフルオロメタンスルホン酸無水物と有機塩基を先に共存させた後に、続けてフッ化水素を加える
iv)トリフルオロメタンスルホン酸無水物を先に仕込み、続いてフッ化水素及び有機塩基を一度に加えるか、逐次的もしくは連続的に加える
v)有機塩基を先に仕込み、続いてトリフルオロメタンスルホン酸無水物及びフッ化水素を一度に加えるか、逐次的もしくは連続的に加える
等が挙げられる。
i)〜v)のいずれの操作においても該目的物が好適に得られるが、本発明者らは、これらのうち、i)およびii)の仕込みの方法がさらに高選択率かつ高純度で該目的物を得る知見を得た。
例えば、本実施例において、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を反応器に投入し、攪拌しながらフッ化水素を先に加えた後に、続けて有機塩基を滴下する(実施例2−5)ことや、有機塩基を反応器に投入し、攪拌しながらフッ化水素を先に共存させた後に、続けてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を滴下する(実施例1)ことは、本発明において特に好ましい態様の一つである。
次に、第3工程(b)について説明する。本工程は、トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物(MF)を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程である。
本工程で用いる金属フッ化物について、ここで言う金属とはアルカリ金属のことであり、アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)が挙げられる。
金属フッ化物の具体的な化合物は、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウムであるが、これらのうち、比較的入手が容易であることから、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムが好ましく用いられる。これらのフッ化物は単独、又は2種類以上を混合して使用することもできる。
金属フッ化物の量はトリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対して通常、0.1〜100モルであり、好ましくは1〜50モル、より好ましくは1〜25モルである。1モルより少ないと反応収率が低下する原因となる。また、10モルを超える量の金属フッ化物を用いても反応の進行について問題はないが、反応速度や収率の点でも特にメリットはない。
また、本工程は反応系内に溶媒を共存させて反応を行うこともできる。ここで溶媒とは、本工程の反応に直接関与しない不活性なもののことを言う。具体的な溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、フェノール等のアルコール系、ジメチルスルホキシド、そして水等が挙げられる。その中でもn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびジメチルスルホキシドが好ましく、特にトルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールがより好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて使用することができる。
溶媒の量は、試薬が十分量溶解し、反応が円滑に進行するように、当業者によって最適化できるが、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1gに対し、溶媒の量は通常0.1g〜10gであり、好ましくは0.8〜8g、さらに好ましくは1〜6gである。
また、本工程において、溶媒として水を共存させることにより、高純度かつ高収率で当該目的物を得る知見を得た。例えば、実施例6、7において、溶媒として水を用いることにより、高純度(純度99%以上)かつ高収率(88−91%)でトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得ることは特に好ましい態様の一つである。
このように、本工程の工業的な製造方法を考えた場合、水を溶媒とした方法でも充分反応が進行し、好適に目的物を得ることができる。
本工程において反応溶媒として水を用いる場合、金属フッ化物の種類により溶解度が異なるため、それに応じて水の量が大きく変動する。本反応を実施する際、反応を効率良く進行させる程度に、当業者が水の量を適宜調整することができる。
例えば、金属フッ化物としてフッ化カリウムを用いた場合、水溶液の濃度を、通常15%〜50%、好ましくは20%〜40%、より好ましくは25%〜35%となるように水を加えると良い。ここで、水の量が多いとき、反応速度の低下を起こす原因となり、水の量が少ないと金属フッ化物が溶解せずに析出する原因となるので好ましくない。
この場合、水の量はフッ化カリウム1gに対して、0.5g〜10gの範囲で加えることで、上述の濃度を達成することができる。本実施例において、フッ化カリウム1gに対して、水を1〜6gの範囲で加えることは好ましい態様の一つである。
本工程における反応温度は−5℃〜90℃の範囲で可能であるが、−10℃〜70℃が冷却の負荷がかからず、温度制御も容易であるから、好ましい。中でも、0℃〜60℃の範囲で反応を行うことは、冷却の負荷がかからず温度制御も容易であることからも、本発明の特に好ましい態様である。−20℃未満であると、反応の変換率が低下したりする一方、例えば溶媒として水を用いた場合は、反応系中に水を多量に存在すると固化することがあることから、好ましくない。一方、90℃を超えると原料であるトリフルオロメタンスルホン酸無水物が気化しやすくなり、金属フッ化物とうまく反応しないことから好ましくない。
本工程における反応時間については、特に制限はないが、ガスクロマトグラフィー等の手法によって、原料の消費が十分に進み、反応が進行しないことを確認してから終了するのが望ましく、当業者が適宜調整することができる。さらに、本反応を実施する際、反応を効率良く進行させるために攪拌するのが好ましい。
第3工程のうち、第3工程(a)、第3工程(b)何れの場合も反応圧力については特に制限はなく、常圧(大気圧)、加圧、又は減圧条件下で反応を行うことができる。本発明の目的物であるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドの沸点が非常に低く(−23℃)、室温で気体(ガス)として存在する。このため、耐圧反応容器を用いて反応系を密閉させ、加圧条件下で反応を行うことも可能である。
また、第3工程は、減圧条件下で反応を行うことも可能である。本発明では、上述したように目的物が気体として発生するために、反応系内の圧力が高くなることがある。そこで、耐圧反応容器を用い、反応系内を予め減圧させた後に、反応試剤を加えることで、圧力がそれほど高くない状態で反応を行うことも可能である。 また、常圧(大気圧)下で反応を行うことも可能である。本発明では発生した気体(トリフルオロメタンスルホニルフルオリド)を、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの沸点以下に冷却したコンデンサー(凝縮器。冷却器とも言う)に流通させながら反応器に戻しながら反応を行う(この操作を還流とも言う)のと同時に、所定の圧力に達したときに、コンデンサーの一部を開放させてコンデンサーに流通させた気体の一部を捕集器で捕集することにより、反応容器全体の圧力がほとんど上がらずに反応を行うことができる。このことから、本発明は常圧(大気圧)でも十分に実施することができる。
第3工程で用いられる反応器は、常圧で反応を行う際、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂等を使用することができる。また、加圧下で反応を行う際、圧力に耐えるものであれば材質に特に制限はなく、ステンレス鋼、ハステロイ、モネルなどの金属製容器などを用いることができる。
本発明の目的物であるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドは、沸点が非常に低く(沸点−21℃)、室温で気体(ガス)として存在する。そこで本発明者らは反応後に生成した気体を、0℃未満、具体的には−20〜−30℃に冷却したコンデンサーに流通させたのちに、気体を捕集することにより、容易に高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得ることができ、蒸留等の精製操作を必要としないという知見も得た。
例えば、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、有機塩基、フッ化水素を加えた後、発生した気体を−30℃に冷却したコンデンサーに流通させ、流通させた気体を再び反応容器に戻しながら反応液を室温まで昇温させて還流させる。その還流操作を行う一方で、コンデンサーの一部を開放させ、コンデンサーに流通させた気体の一部を捕集器で捕集する。反応終了後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温して、気体の残りを全て捕集容器で捕集することで、蒸留操作を必要とせずに高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得ることができる(後述の実施例参照)。このように、蒸留操作を必要としないことは、本発明を実施する上で特に好ましい態様の一つである。
なお、本発明では、連続的、又は半連続的もしくはバッチ式で行っても良く、当業者が適宜調整することができる。
このようにして、簡便な方法で高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得ることができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(GC、特に記述のない場合、検出器はTCD)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
A工程:トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造(電解フッ素化)
撹拌器、還流管、温度計を備えた四フッ化エチレン樹脂、又はハステロイ製反応器に水363.0kgを投入して、攪拌しながらフッ化ナトリウム130.86kgを加え、5℃に冷却した。そこへメタンスルホニルクロリド(CH3SO2Cl)255.0kgを徐々に加え、次に反応液を室温で1時間攪拌し、攪拌後の反応液を常圧で蒸留することで、メタンスルホニルフルオリド(CH3SO2F)384.8kg及び水176.9kgを含む混合溶液が得られた。次に二層分離させて水を取り除いた後、このメタンスルホニルフルオリドの一部を用いて電解フッ素化を行った。
−34℃に設定したリフラックスコンデンサーを取り付けた電解フッ素化槽に、メタンスルホニルフルオリド2.42kg、無水フッ化水素(HF)10.0kgをそれぞれ8時間毎に4回投入し(計32時間)、槽温度4℃、電圧5.5ボルト(V)、電流500アンペア(A)にて電解フッ素化を行った。
結果、次のような組成のガスが得られた。
Figure 0005146149
この組成ガスを用いて、以下、第1工程の原料として用いた。
[第1工程]トリフルオロメタンスルホン酸の製造
前記A工程で製造した生成ガスを、水スクラバーに導いた後、60℃で12%水酸化カリウム水溶液38.73kgを1時間かけて供給してトリフルオロメタンスルホニルフルオリドと反応させた。
次に、この加水分解液をステンレス製の蒸発缶において蒸気で加熱することにより、沸点下で水を蒸発させた。その後に30℃に冷却したところ、結晶が析出し始めた。そこで遠心分離器によってろ過分離し、120℃で10時間乾燥したところ、次のような組成の結晶18.54kgが得られた。
Figure 0005146149
次に、表2で得られた組成の結晶18.54kgの一部を用いて、酸処理を行った。
表2で得られた組成の結晶3kgと、98%硫酸1.05kg、26%発煙硫酸1.9kgを混合して120℃で攪拌しながら1時間反応させた。1時間後、攪拌を止めて温度を常温に戻し、5.33kPa〜3.33kPa、沸点130℃〜110℃で減圧下、単蒸留してトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)2.32kgを純度99%以上で得た。トリフルオロメタンスルホン酸の一部を用いて、以下、第2工程の原料として用いた。
[第2工程]トリフルオロメタンスルホン酸無水物の製造
トリフルオロメタンスルホン酸無水物498g(1.766mol)、トリフルオロメタンスルホン酸348g(2.320mol)をガラス製の1000mlフラスコに入れ、攪拌しながら5酸化リン(P25)165g(1.162mol)を内温20℃以下に保ちながら添加した。添加後、反応器を15.96kPaに減圧し内温を20℃〜105℃まで64時間かけて上昇させながら受け器へ反応物を流出させた。(攪拌は20時間程度実施しその後は停止。)流出物粗体701g(純度98.2%)。反応終了後、粗体を減圧蒸留15.96kPaにて蒸留し、トリフルオロメタンスルホン酸無水物635gを得た(純度99.9%)。
[第3工程(a)]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
撹拌器、還流管、温度計を備えたステンレス製の反応器(500ml)に無水フッ化水素酸55.8g(2.790mol)を投入し10℃以下に冷却、攪拌しながら、トリエチルアミン94.2g(0.931mol)を30分かけて滴下した。次にトリフルオロメタンスルホン酸無水物114.3g(0.405mol)を攪拌しながら10分間かけて滴下した(その間、反応液の内温は5〜15℃に維持した)。滴下と同時に気体が発生し還流管の先からその気体を液体アルゴンで冷却されたステンレス製ボンベ(200ml)に捕集した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物の滴下が終了した時点で気体の捕集を中止した。ステンレス製ボンベには53.1gの気体が捕集された。ガスクロマトグラフィーにより、この気体の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの純度は97.3%であった(0.349mol)(トリフルオロメタンスルホン酸無水物からの単離収率86%)。
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物を用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程(a)]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
撹拌器、還流管、温度計を備えたステンレス製の反応器(500ml)にトリフルオロメタンスルホン酸無水物169.0g(0.599mol)を投入し攪拌しながら無水フッ化水素酸10.4g(0.520mol)を投入し10℃以下に冷却した。次に攪拌しながら、トリエチルアミン13.2g(0.130mol)を30分かけて滴下した(その間、反応液の内温は5〜15℃に維持した)。滴下と同時に気体が発生し還流管の先からその気体を液体アルゴンで冷却されたステンレス製ボンベ(200ml)に捕集した。トリエチルアミンの滴下が終了した時点で気体の捕集を中止した。ステンレス製ボンベには16.0gの気体が捕集された。ガスクロマトグラフィー(GC)により、この気体の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの純度は99.0%であった(0.105mol)(トリフルオロメタンスルホン酸無水物からの単離収率81%)。
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物を用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程(a)]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
撹拌器、還流管、温度計を備えたステンレス製の反応器(500ml)とステンレス製ボンベ(200ml)を四フッ化エチレン樹脂製のチューブで接続した後、系内を600Paまで減圧しトリフルオロメタンスルホン酸無水物287.7g(1.020mol)を吸引させながら反応器へ投入後、攪拌しながら無水フッ化水素酸26.6g(1.330mol)を吸引で投入し10℃以下に冷却した。次に攪拌しながら、トリブチルアミン191.1g(1.031mol)を30分かけて滴下した(その間、反応液の内温は8〜44℃に維持した)。滴下と同時に気体が発生し還流管の先からその気体をアセトン-ド
ライアイス溶液で冷却されたステンレス製ボンベ(200ml)に捕集した。トリブチルアミンの滴下が終了した時点で気体の捕集を中止した。ステンレス製ボンベには135.8gの気体が捕集された。ガスクロマトグラフィーにより、この気体の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの純度は99.9%であった(0.893mol)(トリフルオロメタンスルホン酸無水物からの単離収率88%)。
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物を用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程(a)]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
撹拌器、還流管、温度計を備えたステンレス製の反応器(500ml)とステンレス製ボンベ(200ml)を四フッ化エチレン樹脂製のチューブで接続した後、系内を600Paまで減圧しトリフルオロメタンスルホン酸無水物285.3g(1.011mol)を吸引させながら反応器へ投入後、攪拌しながら無水フッ化水素酸12.4g(0.620mol)を吸引で投入し10℃以下に冷却した。次に攪拌しながら、ジエチルアミン74.4g(1.017mol)を30分かけて滴下した(その間、反応液の内温は8〜44℃に維持した)。滴下と同時に気体が発生し還流管の先からその気体をアセトン-ドライ
アイス溶液で冷却されたステンレス製ボンベ(200ml)に捕集した。ジエチルアミンの滴下が終了した時点で気体の捕集を中止した。ステンレス製ボンベには42.6gの気体が捕集された。ガスクロマトグラフィーにより、この気体の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの純度は100.0%であった(0.280mol)(トリフルオロメタンスルホン酸無水物からの単離収率45%)。
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物を用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程(a)]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
撹拌器、還流管、温度計を備えたステンレス製の反応器(500ml)とステンレス製ボンベ(200ml)を四フッ化エチレン樹脂製のチューブで接続した後、系内を600Paまで減圧しトリフルオロメタンスルホン酸無水物283.6g(1.005mol)を吸引させながら反応器へ投入後、攪拌しながら無水フッ化水素酸10.3g(0.515mol)を吸引で投入し10℃以下に冷却した。次に攪拌しながら、ピリジン83.1g(1.051mol)を30分かけて滴下した(その間、反応液の内温は12〜34℃に維持した)。滴下と同時に気体が発生し還流管の先からその気体をアセトン-ドライアイ
ス溶液で冷却されたステンレス製ボンベ(200ml)に捕集した。ピリジンの滴下が終了した時点で気体の捕集を中止した。ステンレス製ボンベには20.0の気体が捕集された。ガスクロマトグラフィーにより、この気体の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの純度は99.6%であった(0.132mol)(トリフルオロメタンスルホン酸無水物からの単離収率26%)。
[比較例1]
比較例1では、A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行い、第3工程(a)として、トリフルオロメタンスルホン酸無水物169g(0.6mol)を原料として用い、無水フッ化水素酸15.9g(0.795mol)を滴下し、反応液の内温は8〜10℃に維持して反応系内にトリエチルアミンを加えない他は実施例1と操作、条件とも同様に行った。しかしながら、反応は全く進行せず、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドは生成しなかった(変換率0%、収率0%)。
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行い、第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物を用いて以下の第3工程を行った。
[第3工程(b)]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
撹拌器、還流管、温度計を備えた硝子製の反応器(500ml)に水70gを投入し、攪拌しながら、フッ化カリウム37.2g(0.640mol)を加え5℃に冷却した。次にトリフルオロメタンスルホン酸無水物120.5g(0.427mol)を攪拌しながら10分間かけて滴下した(その間、反応液の内温は5〜20℃に維持した)。滴下と同時に気体が発生し還流管の先からその気体を液体アルゴンで冷却されたステンレス製ボンベ(200ml)に捕集した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物の滴下が終了した時点で気体の捕集を中止した。ステンレス製ボンベには59.1gの気体が捕集された。ガスクロマトグラフィーにより、この気体の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの純度は99.9%であった(0.389mol)(トリフルオロメタンスルホン酸無水物からの単離収率91%)。
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行い、第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物を用いて以下の第3工程を行った。
[第3工程(b)]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
撹拌器、還流管、温度計を備えたステンレス製の反応器(500ml)とステンレス製ボンベ(200ml)を四フッ化エチレン樹脂製のチューブで接続した後、反応器にフッ化カリウム50.2g(0.864mol)を加え系内を600Paまで減圧し水102gを吸引させながら反応器へ投入し5℃に冷却した。次に攪拌しながら、トリフルオロメタンスルホン酸無水物145.4g(0.515mol)を30分かけて滴下した(その間、反応液の内温は5〜18℃に維持した)。滴下と同時に気体が発生し還流管の先からその気体をアセトン−ドライアイス溶液で冷却されたステンレス製ボンベ(200ml)に捕集した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物の滴下が終了した時点で気体の捕集を中止した。ステンレス製ボンベには69.0gの気体が捕集された。ガスクロマトグラフィーにより、この気体の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの純度は99.9%であった(0.454mol)(トリフルオロメタンスルホン酸無水物からの単離収率88%)。
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行い、第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物を用いて以下の第3工程を行った。
[第3工程(b)]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
撹拌器、還流管、温度計を備えたステンレス製の反応器(500ml)とステンレス製ボンベ(200ml)を四フッ化エチレン樹脂製のチューブで接続した後、反応器にフッ化カリウム29.1g(0.501mol)を加え、系内を600Paまで減圧し、アセトニトリル144gを吸引させながら反応器へ投入し5℃に冷却した。次に攪拌しながら、トリフルオロメタンスルホン酸無水物139.2g(0.493mol)を30分かけて滴下した(その間、反応液の内温は5〜18℃に維持した)。滴下と同時に気体が発生し還流管の先からその気体をアセトン−ドライアイス溶液で冷却されたステンレス製ボンベ(200ml)に捕集した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物の滴下が終了した時点で気体の捕集を中止した。ステンレス製ボンベには43.6gの気体が捕集された。ガスクロマトグラフィーにより、この気体の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの純度は99.8%であった(0.287mol)(トリフルオロメタンスルホン酸無水物からの単離収率58%)。

Claims (14)

  1. 以下の3工程を含む、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド(CF3SO2F)の精製方法。
    第1工程:トリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)を得る工程。
    第2工程:第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、脱水剤を反応させ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物((CF3SO2)2O)を得る工程。
    第3工程:第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物に、フッ素化剤を反応させることにより、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
  2. トリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸を得る(第1工程)際、金属水酸化物が水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
  3. 第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、脱水剤を反応させ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を得る(第2工程)際、脱水剤が5酸化リン(P25)、又は5塩化リン(PCl5)である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物に、フッ素化剤を反応させる(第3工程)際、以下の工程の何れかを経由することにより行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
    第3工程(a):トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
    第3工程(b):トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
  5. トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、トリフルオロメタンスルホン酸無水物とフッ化水素を先に共存させた後に、続けて有機塩基を加えることにより行うことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
  6. トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、有機塩基とフッ化水素を先に共存させた後に、続けてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を加えることにより行うことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
  7. トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、有機塩基の量が、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対し0.1〜100モルであることを特徴とする、請求項4乃至6の何れかに記載の方法。
  8. トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、フッ素化剤の量が、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対し0.1〜100モルであることを特徴とする、請求項4乃至7の何れかに記載の方法。
  9. トリフルオロメタンスルホン酸無水物に有機塩基存在下、フッ化水素を反応させる(第3工程(a))際、反応を行う際の温度が−30℃〜90℃であることを特徴とする、請求項4乃至8の何れかに記載の方法。
  10. トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させる(第3工程(b))際、金属フッ化物が、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ルビジウム(RbF)、又はフッ化セシウム(CsF)である、請求項4に記載の方法。
  11. トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させる(第3工程(b))際、溶媒として水を共存させることにより行うことを特徴とする、請求項4乃至10の何れかに記載の方法。
  12. トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させる(第3工程(b))際、反応を行う際の温度が−5〜90℃であることを特徴とする、請求項4乃至11の何れかに記載の方法。
  13. トリフルオロメタンスルホン酸無水物に、金属フッ化物を反応させる(第3工程(b))際、金属フッ化物の量が、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1モルに対し0.1〜100モルであることを特徴とする、請求項4乃至12の何れかに記載の方法。
  14. 第1工程で用いるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドが、メタンスルホニルクロリドを金属フッ化物でフッ素化し、得られたメタンスルホニルフルオリドを無水フッ化水素中、電解法によりフッ素化することにより得られることを特徴とする、請求項1乃至13の何れかに記載の方法。
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