JP5146017B2 - 鉛アノードスライムの塩素浸出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鉛アノードスライムの塩素浸出方法に関し、さらに詳しくは、銀とその他の有価金属を含む鉛アノードスライムを塩素浸出する方法であって、該鉛アノードスライムを塩素浸出して産出される浸出残渣を原料として、後続の湿式法により銀粉を回収する製錬方法において亜硫酸塩水溶液等の浸出液で浸出する際、スラリーのろ過不良を解消することができる鉛アノードスライムの塩素浸出方法に関する。
従来、銀の製錬方法の一つとして、銅、鉛等の製錬プロセスにおいて電解精製工程で発生するアノードスライムから回収することが行われている。例えば、前記アノードスライムから銀を分離精製する方法として、前記アノードスライムを熔錬処理し、粗銀を得て、これを電解精製する方法が広く用いられている。ところが、前記熔錬処理においては、環境面では、粉塵及び排ガスが発生し、作業面では、暑熱作業及び火傷のリスクが潜在するという問題点がある。
このような状況の中で、湿式法による効率的な銀の製錬方法が注目されている。例えば、銅電解スライムから有価金属を回収する方法として、湿式法で塩素ガスを用いて処理し、金、白金族元素、セレン、テルル等の有価金属を溶解して回収する方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されており、その際、前記スライムに含有される銀は、難溶性の塩化銀に変換され浸出残渣に留まることが開示されている。また、このような塩素浸出方法により産出される、塩化銀の形態で銀を含有する浸出残渣から、塩化銀と安定な錯体を生成する亜硫酸塩水溶液等の浸出液を用い、選択的に銀を浸出し、ついで精製工程に付して高純度銀を製造する方法(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
ところで、上記のような方法を組み合わせて、銅電解スライムから高純度銀を回収する方法は、工業的に十分に適用することができることが確認され、乾式精製及び電解による精製処理を行なうことなく湿式法で工業的に高純度の銀を回収することができるという利点が評価されている。ところが、この方法を鉛アノードスライムに応用した場合、塩素浸出法により産出される浸出残渣を原料として、後続の湿式法により銀粉を回収する製錬方法において亜硫酸塩水溶液等の浸出液で浸出する際、浸出後のスラリーがろ過不良となり、操業効率などの面で、工業的に適用することができないという問題点があった。
以上の状況から、鉛アノードスライムを塩素浸出する方法において、特に、得られた浸出残渣を後続の湿式法により銀粉を回収する製錬方法の原料として使用する場合において、浸出時にろ過性の悪い酸化物の生成を抑え、これにより、後続の亜硫酸塩水溶液等の浸出液で浸出する際、スラリーのろ過不良を解消することが求められている。
特開2001−207223号公報(第1頁、第2頁) 再公表特許WO2005/023716号公報(第1頁、第2頁)
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、銀とその他の有価金属を含む鉛アノードスライムを塩素浸出する方法であって、該鉛アノードスライムを塩素浸出して産出される浸出残渣を原料として、後続の湿式法により銀粉を回収する製錬方法において亜硫酸塩水溶液等の浸出液で浸出する際、スラリーのろ過不良を解消することができる鉛アノードスライムの塩素浸出方法を提供することにある。これにより、上記鉛アノードスライムを原料として用いて、高純度の銀粉を高収率で回収することができる。
本発明者らは、上記目的を達成するために、銀とその他の有価金属を含む鉛アノードスライムを塩素浸出する方法について、鋭意研究を重ねた結果、該鉛アノードスライムを特定の温度で焙焼に付し、次いで得られた焙焼物を酸性水溶液中に懸濁させ、続いて得られたスラリーを塩素浸出に付したところ、該鉛アノードスライムを塩素浸出する際、ろ過性の悪い酸化物の生成を抑え、これにより、塩素浸出して産出される浸出残渣を原料として、後続の湿式法により銀粉を回収する製錬方法において亜硫酸塩水溶液等の浸出液で浸出する際、スラリーのろ過不良を解消することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、銀とその他の有価金属を含む鉛アノードスライムを塩素浸出する方法であって、
下記の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする鉛アノードスライムの塩素浸出方法が提供される。
(1)前記鉛アノードスライムを100〜350℃の温度で焙焼に付し、焙焼物を得る。
(2)前記焙焼物を酸性水溶液中に懸濁させたスラリーを形成する。
(3)前記スラリー中に塩素ガスを吹込み、塩素浸出に付し、塩化銀の形態で銀を含む浸出残渣と有価金属を含む浸出液とを得る。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記焙焼物のスラリーを形成する際、事前に、焙焼物を粉砕処理に付し、1mm以下の粒状にすることを特徴する鉛アノードスライムの塩素浸出方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記焙焼物のスラリーを形成する際、スラリー濃度が100〜500g/Lになるように焙焼物を水に懸濁してスラリーを形成し、次いで0.5〜1.5mol/Lの濃度になるように塩酸を添加することを特徴とする鉛アノードスライムの塩素浸出方法が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3いずれかの発明において、前記焙焼物のスラリーを形成する際、焙焼物に未焙焼の鉛アノードスライムを混合することを特徴とする鉛アノードスライムの塩素浸出方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4いずれかの発明において、前記塩素浸出は、温度を75〜85℃に、及び酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)を1000mV以上に調整することを特徴とする鉛アノードスライムの塩素浸出方法が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5いずれかの発明において、前記浸出残渣は、これを原料として、湿式法により銀粉を回収する製錬方法に用いることを特徴とする鉛アノードスライムの塩素浸出方法が提供される。
本発明の鉛アノードスライムの塩素浸出方法は、銀とその他の有価金属を含む鉛アノードスライムを塩素浸出する方法において、該鉛アノードスライムを塩素浸出する際、ろ過性の悪い酸化物の生成を抑え、これにより、例えば、塩素浸出して産出される浸出残渣を原料として、後続の湿式法により銀粉を回収する製錬方法において亜硫酸塩水溶液等の浸出液で浸出する際、スラリーのろ過不良を解消することができる。したがって、この塩素浸出残渣を原料として、乾式精製及び電解による精製処理を行なうことなく湿式法で工業的に、高純度の銀粉を高収率で回収することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
以下、本発明の鉛アノードスライムの塩素浸出方法を詳細に説明する。
本発明の鉛アノードスライムの塩素浸出方法は、銀とその他の有価金属を含む鉛アノードスライムを塩素浸出する方法であって、下記の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする。
(1)前記鉛アノードスライムを100〜350℃の温度で焙焼に付し、焙焼物を得る。
(2)前記焙焼物を酸性水溶液中に懸濁させたスラリーを形成する。
(3)前記スラリー中に塩素ガスを吹込み、塩素浸出に付し、塩化銀の形態で銀を含む浸出残渣と有価金属を含む浸出液とを得る。
本発明において、塩素浸出に先立って、前記鉛アノードスライムを焙焼に付し、得られた焙焼物を浸出することに重要な技術的意義を有する。
すなわち、従来の方法に従い、前記鉛アノードスライムをそのまま塩素浸出の付すと、該鉛アノードスライム中に含有される銀が塩化銀の形態に変換される。このとき、主要成分として含まれるアンチモン、ビスマス等の15属元素の金属は、下記の式(1)に従い、塩素により酸化浸出され溶解され、次いで、それぞれの溶解度により、下記の式(2)に従い、加水分解され酸化物を生成する。なお、下記の式(1)、(2)は、アンチモンの場合を示す。上記のような湿式法により生成した酸化物は、非常に微細であり、かつろ過性が不良なものとなる。
式(1):2Sb+5/2Cl=2SbCl
式(2):2SbCl+5HO=Sb+10HCl
これに対して、本発明では、塩素浸出に先立って、前記鉛アノードスライムを焙焼に付し、鉛アノードスライムに含まれるアンチモン、ビスマス等を酸化物形態に予め変換しておくことにより、得られた焙焼物を浸出する際、難ろ過性の酸化物の生成を抑えることができる。すなわち、式(1)、(2)による塩素との直接反応、及び加水分解反応が起こらないため、微細な酸化物量が減少し、その結果、後続の湿式法により銀粉を回収する製錬方法において亜硫酸塩水溶液等の浸出液で浸出する際、スラリーのろ過不良を解消することができる。
上記(1)の工程は、前記鉛アノードスライムを100〜350℃の温度で焙焼に付し、焙焼物を得る工程である。ここで、前記鉛アノードスライム中に含有されるアンチモン、ビスマス等の15属元素の金属が酸化物に変換される。
上記鉛アノードスライムとしては、特に限定されるものではなく、通常の鉛電解により産出される、鉛とともに、銀、金、アンチモン、ビスマス、ヒ素、銅等の有価金属を含有するものである。
上記焙焼温度としては、100〜350℃であり、180〜350℃が好ましく、250〜350℃がより好ましい。すなわち、焙焼温度が100℃未満では、鉛アノードスライムに含有されるアンチモン等の酸化反応が不十分である。一方、アンチモン等の酸化反応を短時間で完結するためには高温度程好ましく、上限はないが、焙焼温度が350℃を超えると、昇温のためのコストが増加し、それ以上の効果は得られない。
上記焙焼に用いる工業的装置としては、特に限定されるものではないが、空気雰囲気下に加熱されるバンドドライヤー、ロータリーキルン等が好適に使用することができる。
上記(2)の工程は、上記焙焼物を酸性水溶液中に懸濁させたスラリーを形成する工程である。
上記(2)工程において、上記焙焼物のスラリーを形成する際、特に限定されるものではないが、事前に、焙焼物を粉砕処理に付し、1mm以下の粒状にすることができる。
すなわち、上記焙焼物は、凝結が進み砂状になっており、真比重が重く、そのまま塩素浸出の反応槽に投入すると、攪拌羽根及び槽底面が磨耗による損傷を受ける。そのため、磨耗の影響が緩和される粒度、例えば1mm以下の粒度に粉砕することが好ましい。
上記粉砕処理に用いる粉砕装置としては、焙焼物は砂状であり粉砕しやすいものであるので、特に限定されるものではなく、一般に市販されている粉砕機が使用される。
上記焙焼物と酸性水溶液からなるスラリーの形成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、まずスラリー濃度が100〜500g/L、好ましくは300〜400g/Lになるように上記焙焼物を水に懸濁してスラリーを形成し、次いで0.5〜1.5mol/Lの濃度になるように塩酸を添加することが好ましい。すなわち、スラリー濃度が100g/L未満では、生産性が悪く、一方、スラリー濃度が500g/Lを超えると、次工程の塩素浸出後のスラリーの搬送が困難となるためである。
また、塩酸濃度が0.5mol/L未満では、上記焙焼物に含まれる銀を十分に塩化銀に変換することができない。一方、塩酸濃度が高い程、上記焙焼物に含まれる銀を塩化銀に変換し易いが、塩酸濃度が1.5mol/Lを超えると、上記焙焼物に含まれるアンチモン、ビスマス等の酸化物が酸により、一部溶解され、それが加水分解されてろ過性が不良な酸化物を生成させてしまう。なお、塩酸濃度が1.5mol/Lであっても、ろ過性が不良な酸化物の生成は避けられないが、その発生程度はわずかであり、後続の湿式法により銀粉を回収する製錬方法において亜硫酸塩水溶液等の浸出液で浸出する際に、実質的にろ過性の悪化が顕著になることはない。
上記焙焼物と酸性水溶液からなるスラリーの形成方法としては、特に限定されるものではないが、焙焼物に、未焙焼の産出そのままの鉛アノードスライムを混合することができる。すなわち、酸濃度を所定濃度に調整するために、塩酸を用いるのは、上記焙焼物に含まれる各元素は酸化物の形態となるため、塩素浸出反応で塩酸を副生しないためである。このため、コストの高い塩酸の必要量を抑えるため、鉛アノードスライムの一部をそのまま焙焼物と混合し、塩素ガスと鉛アノードスライムとの反応から副生する塩酸を利用することができる。
このとき、焙焼物と鉛アノードスライムとの混合比率としては、特に限定されるものではないが、質量比で焙焼物:鉛アノードスライム=40:60〜60:40が好ましく、48:52〜52:48がより好ましい。この範囲で混合することにより、ろ過性の悪化を極力抑えて、塩酸の使用量を減少することができる。
上記(3)の工程は、上記スラリー中に塩素ガスを吹込み、塩素浸出に付し、塩化銀の形態で銀を含む浸出残渣と有価金属を含む浸出液とを得る工程である。これによって、金、アンチモン、ビスマス、ヒ素、銅等の有価金属を浸出液中に回収する一方、鉛化合物とともに、銀を塩化銀の形態で浸出残渣に濃縮する。
上記塩素浸出の条件としては、特に限定されるものではないが、温度を75〜85℃に、及び酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)を1000mV以上に調整することが好ましい。
すなわち、温度が75℃未満では、銀の塩化銀への変換が不十分であり、一方、温度が85℃を超えると、塩化銀に変換する反応の速度が早くなるが、塩素ガスのスラリーへの
飽和度が低下するため、見掛け上反応速度が変らなくなる。しかも、温度が高いと使用する反応槽の材質が制限される。
また、酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)が1000mV未満では、鉛アノードスライムに微量ながら含有される金の塩素浸出が不十分となる。一方、酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)の上限としては、特に限定されるものではないが、例えば1100mVを超えてもそれ以上の浸出は見込めない。
上記鉛アノードスライムの塩素浸出方法で得られる浸出残渣は、これを原料として、湿式法により銀粉を回収する製錬方法に用いることができる。以下に、前記湿式法により銀粉を回収する製錬方法としては、特に限定されるものではないが、その一例を説明する。
前記湿式法により銀粉を回収する製錬方法としては、例えば、上記浸出残渣から、下記の(イ)〜(ハ)の工程からなる方法により高純度の塩化銀を製造し、得られた塩化銀をアルカリ水溶液中で還元剤により処理する工程で、金属銀粉を得る方法が挙げられる。
(イ)上記浸出残渣を亜硫酸塩水溶液中で浸出し、銀を該液中に抽出して、銀を含む浸出液と不溶解残渣を形成する浸出工程、
(ロ)前記浸出液を中和して酸性にし、塩化銀を析出して、該塩化銀と母液を形成する塩化銀生成工程、及び
(ハ)前記塩化銀を酸性水溶液中で酸化剤を添加して酸化処理し、不純物元素を溶出分離して、精製された塩化銀と不純物元素を含む溶液を形成する塩化銀精製工程
上記(イ)の工程は、亜硫酸塩水溶液中でスルフィト錯塩等の塩化銀と安定な錯体を生成するものである。ここで、上記浸出残渣を用いることにより、浸出液と不溶解残渣からなるスラリーのろ過不良は解消され、不溶解残渣のろ過性は良好である。
上記(イ)の工程で用いる亜硫酸塩水溶液の亜硫酸イオン濃度は、特に限定されるものではないが、70〜160g/Lが好ましく、95〜130g/Lがより好ましい。すなわち、70g/L未満では、亜硫酸塩水溶液中への銀化合物の溶解量が少なく、設備容量が大きくなる。亜硫酸イオン濃度は、高いほど銀化合物の溶解量が増加する。しかし、亜硫酸塩の水溶液への溶解量は、水溶液中の亜硫酸塩以外の塩の存在量にもよるが、工業的に実施可能な範囲としては亜硫酸イオン濃度が160g/L以下である。
上記(イ)の工程で用いる亜硫酸塩としては、特に限定されるものではなく、水溶性の亜硫酸塩であればいずれも使用することができ、例えば、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸セシウム、亜硫酸ルビジウム、アミンの亜硫酸塩等が用いられるが、この中で、特に経済性と入手容易性から亜硫酸ナトリウムが好ましい。
上記(イ)の工程のpHは、8〜12が好ましく、10〜11がより好ましい。すなわち、pHが8未満では、亜硫酸塩が重亜硫酸塩に急速に変化し始め、銀化合物の溶解が不十分となり、一方pHが12を越えると、スルフィト錯塩から金属銀が析出し、銀の見かけ上の浸出率が低下する。
上記(イ)の工程の温度は、20〜80℃が好ましく、30〜60℃がより好ましい。すなわち、20℃未満では、亜硫酸イオンの溶解度が低下するので亜硫酸塩水溶液の亜硫酸塩濃度を70g/L以上にすることが難しい。一方、80℃を超えると、スルフィト錯塩が金属銀に還元される。
上記(ロ)の工程は、上記(イ)の工程で得られる浸出液に塩酸等を添加して酸性にし、粗塩化銀を析出する工程である。
上記(ロ)の工程のpHは、特に限定されるものではないが、0〜4.5が好ましく、1〜2がより好ましい。すなわち、pHを4.5以下に低下することによって、亜硫酸イオンが、順次亜硫酸水素イオン、亜硫酸、二酸化硫黄に変換され、銀との錯形成能力が失われるため、ほぼ全量の銀を塩化銀として回収することが可能である。
以上の上記(イ)の工程と(ロ)の工程とを経過して得られる粗塩化銀からは、上記原料中に含有する大部分の元素が分離されているが、一部亜硫酸塩水溶液に溶解する鉛、ビスマス、鉄等の不純物元素の一部も銀と同時に析出する。
上記(ハ)の工程は、上記(ロ)の工程で得られる粗塩化銀を酸性水溶液中で塩素ガス、過酸化水素水、塩素酸塩等の酸化剤を添加して酸化処理し、不純物元素を溶出分離して、精製された高純度塩化銀を得る。
上記(ハ)の工程の酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)は、特に限定されるものではなく、800〜1200mVに調整することが好ましく、900〜1000mVがより好ましい。すなわち、酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)を800mV以上とすることにより、金属又は金属間化合物として存在し、酸化により酸性水溶液に可溶となる元素、例えばセレン、テルル等を溶解することができる。
上記工程の反応温度は、特に限定されるものではなく、高温ほど反応速度を促進することができるが、40〜80℃が好ましい。すなわち、40℃未満では、不純物の溶解反応が遅い。一方、80℃を超えると、過酸化水素水又は塩素酸塩を用いるときにはこれらの自己分解も促進され、薬品使用量が増加する。
上記の製造方法で得られる高純度塩化銀を、通常の方法により、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液中で、ヒドラジン、糖類、ホルマリン等の還元剤を添加して、70〜100℃の温度で処理することにより、99.99重量%以上の純度の金属銀粉を得ることができる。
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析は、ICP発光分析法で行った。
(実施例1、2、比較例1)
表1に組成を示す鉛アノードスライムを用いた。
Figure 0005146017
まず、乾燥機を使用して、前記鉛アノードスライム500gを焙焼した。焙焼温度は、105℃(実施例1)、180℃(実施例2)で、焙焼時間は16時間とした。なお、105℃で乾燥したもの(実施例1)は、処理前の鉛アノードスライムと比較し変色は見られなかったが、180℃焙焼したもの(実施例2)は、炭火状に着火し褐色に変化していた。
次に、焙焼をしていない湿潤状態の鉛アノードスライム(比較例1)と前記焙焼物(実施例1、実施例2)のそれぞれを、スラリー濃度が300g/Lになるように水に懸濁し、酸濃度が0.5mol/Lになるように塩酸を添加した。
続いて、これらのスラリーの温度を80℃に調整し、酸化還元電位が銀/塩化銀電極で1000mV以上となるまで塩素ガスを吹込んだ。冷却後、ろ過を行い、塩素浸出残渣を得た。
その後、得られた塩素浸出残渣のそれぞれを用いて、亜硫酸ナトリウム水溶液による浸出を行った。ここで、塩素浸出残渣を亜硫酸ナトリウム水溶液に入れ、1時間攪拌し、次いで直径80mmのシンターガラス製のろ過器を用いてろ過を行い、ろ過速度を求めた。結果を図1に示す。図1は、ろ過時間とろ液量の関係を示す。ここで、ろ液量は、シンターガラス(面積:50cm)を通過した回収液量(ml)で表し、これが多いほどろ過速度が速いことを意味する。
図1より、焙焼をしていない湿潤状態の鉛アノードスライム(比較例1)では、非常にろ過速度が遅く、ろ過性が悪いことが分かる。これに対して、焙焼温度が105℃のもの(実施例1)、及び180℃のもの(実施例2)では、ろ過速度が速くなり、特に180℃のもの(実施例2)では、ろ過速度が著しく速くなり、スラリーのろ過不良を解消することができることが分かる。
また、得られた銀浸出後の残渣の銀品位を分析した。その結果、比較例1では0.06質量%、実施例1では0.03質量%、及び実施例2では0.60質量%となり、焙焼条件により若干高くなるが銀の浸出率には大きな差がない。
(実施例3)
工業規模で、図2に示す工程で、鉛アノードスライムの焙焼工程、焙焼物の粉砕工程、及び塩素浸出工程を行い、得られた浸出残渣から銀粉の回収を行なった。
図2は、鉛アノードスライムを原料として用いて、高純度銀を製造する製錬方法の工程図である。
図2において、鉛アノードスライム1は、焙焼工程2で、所定温度に焙焼される。得られた焙焼物は、焙焼物の粉砕工程3で、粉砕機により所定の粒度に粉砕される。粉砕後の焙焼物は、塩素浸出工程4で、塩素ガスの吹込みにより浸出され、塩化銀を含む浸出残渣と有価金属を含む浸出液が得られる。得られた浸出残渣は、浸出残渣の亜硫酸塩浸出工程5で、亜硫酸塩水溶液中で塩化銀が錯体を形成して浸出され、鉛と不純物元素を含む不溶解残渣と分離される。得られた銀を含む浸出液は、塩化銀生成工程6で、酸の添加による塩化銀の沈殿生成反応に付され、粗塩化銀が得られる。得られた粗塩化銀は、塩化銀精製工程7で、酸性水溶液中で酸化剤を添加して酸化処理に付され、不純物元素が溶出され、高純度塩化銀が得られる。得られた高純度塩化銀は、銀生成工程8で、アルカリ水溶液中で還元剤により処理され、高純度の銀粉9が製造される。
(1)焙焼工程
所定温度の熱風を押し込み、加熱する形式のバンドドライヤーを用い、表2に組成を示す鉛アノードスライム(湿量で1407kg)を装入用ホッパーに投入し、連続的かつ定量的にバンドドライヤーへ装入して焙焼を行った。バンドドライヤーの操業条件としては、前記鉛アノードスライムの乾燥、酸化焙焼が行なえるように、滞留時間を40分とし、熱風温度を350℃に調整した。
Figure 0005146017
装入開始から40分後にドライヤーから産出された鉛アノードスライムは、灰色から褐色に変色し、砂状に凝集していた。装入開始から1時間後に炉内を観察すると、鉛アノードスライムから少し白煙が発生していた。その後、鉛アノードスライムの焙焼処理は、7時間継続し終了した。得られた焙焼物を測定すると、1012kgであった。
(2)焙焼物の粉砕工程
FV−200型振動ミルに、焙焼工程で得られた焙焼物と水を、焙焼物220kg当たり水150Lの比率で挿入し5分振動し粉砕した。この操作を5回繰返して、焙焼物のすべてを粉砕した。各操作毎に、粉砕機出口で粉砕スラリーのサンプルを200mL採取し、目開き1mmの篩で処理したところ、粒度は1mm以下を満足していた。
(3)塩素浸出工程
ジャケット付の槽(内面FRPライニング、容量6m)に、得られた粉砕スラリーをポンプで移送し、水で3.5mまで薄めた。その後、酸濃度調整のため濃塩酸を300L添加し、攪拌しながら蒸気を吹込んで液温度を75℃まで上昇させた。
続いて、塩素ガスを30kg/時間の速度で吹込んで、酸化還元電位を1000mVまで上昇させた後、1000mV以上を1時間維持した後、塩素ガスの吹き込みを停止した。その後、60℃まで冷却後、ろ過面積33mのフィルタープレスでろ過した。なお、酸化還元電位が上昇するにつれ、スラリーの色調が白く変色した。また、ろ液の塩酸濃度は、1.11mol/Lであった。
(4)浸出残渣の亜硫酸塩浸出工程と銀粉の製造
塩素浸出工程で得られた残渣を、10m反応槽に投入し、さらに亜硫酸ソーダ濃度230g/Lの溶液を9m受入れた。次いで、pHを9に調整しながら、90分攪拌し塩素浸出残渣に含まれる銀を浸出した。浸出後、50mのろ過面積のフィルタープレスでろ過を行い、不溶解残渣と分離した。スラリーろ過性は良好であり、ろ過作業は、約2時間ほどで終了した。なお、得られた不溶解残渣の銀品位は、0.43%であり、高い銀浸出率であった。
その後、銀を含む浸出液から、塩化銀生成工程、塩化銀精製工程及び銀生成工程からなる上記製錬方法で処理し、高純度の銀粉を回収した。回収した銀粉は、表3の不純物元素組成から、純度99.99質量%以上であり、市場価値のあるものであった。
Figure 0005146017
(比較例2)
(1)塩素浸出工程
ジャケット付の槽に、焙焼をしないで、そのまま鉛アノードスライム(湿量で1200kg)を投入し、水で3.5mまで薄めたこと、及び、酸濃度調節のための塩酸を添加しなかったこと以外は実施例3と同様に塩素浸出処理を行った。
ここで、塩素ガスによる反応で温度が85℃以上に上昇するため、80℃以下になるよう冷却しながら塩素浸出を行なった。酸化還元電位が、1000mVまで上昇後、1000mV以上を1時間維持した後、塩素ガスの吹き込みを停止した。その後、60℃まで冷却後、ろ過面積33mのフィルタープレスでろ過した。ろ液の塩酸濃度は、2.14mol/Lであった。
(2)浸出残渣の亜硫酸塩浸出工程
塩素浸出工程で得られた残渣を、10m反応槽に投入し、さらに亜硫酸ソーダ濃度230g/Lの溶液を9m受入れた。次いで、pHを9に調整しながら、90分攪拌し塩素浸出残渣に含まれる銀を浸出した。浸出後のスラリーは、牛乳状に白濁した、難ろ過性のものであったが、50mのろ過面積のフィルタープレスでろ過を行った。その結果、ろ過は、約12時間実施したが、ろ過できたのは5m程度に留まり、その後のろ過処理が進まなかった。
以上より、実施例1〜3では、鉛アノードスライムを所定温度で焙焼し、本発明の方法に従って行われたので、塩素浸出残渣の亜硫酸塩浸出工程でのスラリーのろ過性は良好であることが分かる。一方、比較例1、2では、焙焼が行われなかったので、塩素浸出残渣の亜硫酸塩浸出工程でのスラリーのろ過性は不良であることが分かる。
また、比較例2で、酸濃度調節のための塩酸を添加しなかったにもかかわらず、高い塩酸濃度が得られることから、産出そのままの鉛アノードスライムを用いると塩素浸出において塩酸が生成されることが分かる。したがって、本発明の(2)の工程で、焙焼物に産出そのままの鉛アノードスライムを所定の割合で混合することによって、塩酸のコストを低減することができることが分かる。
以上より明らかなように、本発明の鉛アノードスライムの塩素浸出方法は、銀とその他の有価金属を含む鉛アノードスライムを塩素浸出する方法において、該鉛アノードスライムを塩素浸出する際、ろ過性の悪い酸化物の生成を抑え、これにより、例えば、塩素浸出して産出される浸出残渣を原料として、後続の湿式法により銀粉を回収する製錬方法において亜硫酸塩水溶液等の浸出液で浸出する際、スラリーのろ過不良を解消することができるので、鉛アノードスライムから高純度銀を製造する方法に好適である。
塩素浸出残渣を用いて、亜硫酸ナトリウム水溶液による浸出を行った際のスラリーのろ過時間とろ液量の関係を表す図である。(実施例1、2、比較例1) 鉛アノードスライムを原料として用いて、高純度銀を製造する製錬方法の工程図である。

Claims (6)

  1. 銀とその他の有価金属を含む鉛アノードスライムを塩素浸出する方法であって、
    下記の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする鉛アノードスライムの塩素浸出方法。
    (1)前記鉛アノードスライムを100〜350℃の温度で焙焼に付し、焙焼物を得る。
    (2)前記焙焼物を酸性水溶液中に懸濁させたスラリーを形成する。
    (3)前記スラリー中に塩素ガスを吹込み、塩素浸出に付し、塩化銀の形態で銀を含む浸出残渣と有価金属を含む浸出液とを得る。
  2. 前記焙焼物のスラリーを形成する際、事前に、焙焼物を粉砕処理に付し、1mm以下の粒状にすることを特徴する請求項1に記載の鉛アノードスライムの塩素浸出方法。
  3. 前記焙焼物のスラリーを形成する際、スラリー濃度が100〜500g/Lになるように焙焼物を水に懸濁してスラリーを形成し、次いで0.5〜1.5mol/Lの濃度になるように塩酸を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の鉛アノードスライムの塩素浸出方法。
  4. 前記焙焼物のスラリーを形成する際、焙焼物に未焙焼の鉛アノードスライムを混合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鉛アノードスライムの塩素浸出方法。
  5. 前記塩素浸出は、温度を75〜85℃に、及び酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)を1000mV以上に調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鉛アノードスライムの塩素浸出方法。
  6. 前記浸出残渣は、これを原料として、湿式法により銀粉を回収する製錬方法に用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の鉛アノードスライムの塩素浸出方法。
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