JP5447357B2 - 銅電解スライムの塩素浸出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、銅の電解精製工程で発生したアノードスライム(銅電解スライム)から金や白金などの有価金属を回収するための方法に関し、更に詳しくは銅電解スライムの塩素浸出方法に関する。
銅の電解精製においては、カソード上に製品となる電気銅を析出させて回収する。その際、同時に粗銅アノードから分離した金などの貴金属や、鉛、セレン、アンチモンなどの不純物の大部分、更には銅の一部が、アノードスライムとなって電解槽の底に溜まる。このアノードスライムは定期的に電解槽から払い出され、貴金属を回収する処理工程に送られる。
アノードスライム(以下、銅電解スライウムと称する)から貴金属を回収する方法のひとつとして、例えば特開2001−207223号公報(特許文献1)に記載されているように、銅電解スライムのスラリーに塩素ガスを吹き込んで金などの有価金属を浸出し、得られた浸出液から溶媒抽出などの方法を用いて不純物と金や白金などの有価金属とを分離し、更に還元などの方法により有価金属を精製・回収する方法がある。
この銅電解スライムの塩素浸出において、例えば銅電解スライム中の銅、セレン、銀は、吹き込まれた塩素ガスと下記化学式1及び2に示す反応により、塩化物を生成して浸出されると考えられている。
[化1]
Cu+Cl→CuCl
[化2]
AgSe+3Cl+3HO→2AgCl+HSeO+4HCl
上記した銅電解スライムの塩素浸出において、スライム中の銅やセレンなどの含有量は原料となる銅鉱物の組成や塩素浸出以前の処理方法により大きく変動するため、塩素浸出により得られる浸出液の塩化物濃度も大きく変化しやすい。しかも、塩素ガスの吹き込み量が銅、セレン、銀などの量よりも過剰な場合、上記化学式1及び2から分かるように溶存塩素あるいは塩酸が生成されるため、これらが浸出液中に過剰に存在する結果となる。
この塩素浸出の際には、銅電解スライムに含有されるアンチモン(Sb)は浸出されないことが好ましい。その理由は、アンチモンが浸出されると、後工程である溶媒抽出工程で水相と有機相の間にクラッドと称される固形物を生成しやすいためである。また、溶媒抽出を経て金を最終精製する工程においても、還元析出した金にアンチモンが混入して金の品質が低下する懸念があるなど、アンチモンの浸出はプロセスにとって有害なためである。
しかしながら、塩素浸出によって浸出液の塩化物濃度が上昇すると、アンチモンは溶解度が急激に増大する性質がある。このため、塩素浸出が終了した時点での浸出液中の塩化物濃度を低く管理することは非常に重要である。例えば上記特許文献1によると、浸出後の浸出液の塩化物濃度が130g/lを越えるとアンチモンの溶解度が大きく増大するため、浸出液の塩化物濃度を130g/l以下に維持することが必要であり、110g/l以下に維持することが特に望ましいとされている。
浸出液中の塩化物濃度を管理する方法としては、例えば、原料中のセレンや銅の品位から予め計算により求めて塩化物濃度を推定し、同時に塩素浸出で得た浸出液の塩化物濃度を電位差滴定などの方法によってモニタリングしながら、塩化物濃度が目標とする濃度を越えた場合には水を添加して濃度を調整する方法が考えられる。
しかしながら、上記のような方法を実操業で行なうことは容易でない。例えば銅電解スライムの浸出液に水を加えて希釈すると、処理液量も増加してしまうため、その増加に対応した設備の規模が必要となる。更に、増加した液量のバランスを取るために、濃縮あるいは廃水処理など様々な工程の増強も必要となるため、設備コストの増大や運用コストの増加など経済面で非常に不利である。
特開2001−207223号公報
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、銅電解スライムを塩素浸出する際にアンチモンの浸出を抑制して、後の溶媒抽出工程でのクラッド発生や最終的に回収される金の品質低下を防止することができる、銅電解スライムの塩素浸出方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明が提供する銅電解スライムの塩素浸出方法は、銅電解スライムのスラリーに塩素ガスを吹き込み、銅及び金や白金族元素などの有価金属を浸出する方法において、スラリーに塩素ガスを吹き込む前に、スラリー中に空気若しくは酸素を混合して銅を酸化する酸化工程を有することを特徴とするものである。
また、上記本発明による銅電解スライムの塩素浸出方法は、前記酸化工程において、反応温度を40℃以上80℃以下に維持しながら空気若しくは酸素を吹き込むことが好ましい。
本発明によれば、塩素浸出時に銅電解スライムからのアンチモンの溶出を簡単に且つ効果的に抑制することができる。従って、後の溶媒抽出工程においてクラッドの発生を防止することができるため、操業が安定化すると共に、抽出剤交換に伴うコストを低減することができる。しかも、最終的に回収される金へのアンチモンの混入を防止できるため、金の品質を向上させることができると共に、アンチモンを回収できる実収率が向上する。
銅電解スライムの塩素浸出工程における反応温度と銅酸化率の関係を示すグラフである。
前述の特許文献1に示されるように、銅電解スライムからのアンチモンの溶出を防ぐためには、浸出液中の塩化物濃度を130g/l以下、望ましくは110g/l以下とする必要がある。一方、浸出液中の塩化物濃度が低すぎると有価金属の浸出率が低下し、回収すべき有価金属が浸出残渣に残留する恐れがあるため、概ね85g/l以上の塩化物濃度を維持することが好ましい。
従って、浸出液中の塩化物濃度は約85〜130g/lの範囲に制御することが好ましいが、浸出液中には浸出された銅やセレンなどと塩化物を形成して存在する塩素成分も存在する。このため、塩化物濃度を制御する際の主な対象は、それ以外の過剰な塩化物、具体的には溶存塩素や生成した遊離塩酸(以下まとめて塩酸分と称する)となる。しかし、現実の操業において、塩素ガスの吹き込み流量を過不足なく制御して、過剰な塩酸分が生じないように制御することは容易ではない。
このため、本発明においては、銅電解スライムに含有されている銅を塩素浸出に先立って酸化することで酸化物とし、この銅酸化物に塩素浸出に伴って生じる塩酸分を消費させ、同時に塩化銅として銅を浸出させる。この方法によって塩素浸出工程の前に酸化工程を設けるだけで、浸出液中の塩化物濃度を後の溶媒抽出工程で望ましいとされる範囲、即ち約85〜130g/lの範囲に制御することが可能となる。
次に、本発明による銅電解スライムの塩素浸出方法を更に具体的に説明する。まず、本発明を適用する銅電解スライムは特に限定されるものではなく、通常の銅の電解精製において電解槽の底に溜まったスライムをそのまま用いることができる。この銅電解スライムは、スライム中のセレンや銅の品位から計算で求めたスラリー濃度が150g/lから300g/l程度になるように水を加え、撹拌してスラリーとする。
上記スラリーを塩素ガスで浸出する前に、酸化工程において、スラリーに空気又は酸素を吹き込むことにより、スラリー中の銅を酸化して酸化銅とする。この酸化処理で生成された酸化銅は、塩素浸出時に前述した化学式2で生成する塩酸を下記化学式3で示す反応により消費するため、塩化銅として銅が浸出されると同時に、浸出液中の塩酸分の濃度が低下する。
[化3]
CuO+2HCl→CuCl+H
上記化学式3の反応終了後における塩素浸出では、酸化された銅は既に浸出されているので、これに相当する塩素ガスを節減することができる。また、浸出液中の溶存塩素や遊離塩酸などの濃度を管理でき、ひいては塩化物濃度を制御できるため、銅製錬の原料組成が変化して銅電解スライムの組成が変化した場合にも、浸出液中の塩化物濃度を所望の範囲に安定して維持することができる。
上記酸化工程においては、反応温度を40〜80℃の範囲、好ましくは60℃程度に維持し、撹拌しながら酸化処理することが望ましい。反応温度が40℃未満では、酸化反応速度が遅いため実用的ではない。また、反応温度が80℃を超えると、後の塩素浸出工程での塩素ガスの吹き込みに伴う反応熱も加わって更に高温となるため、溶媒抽出を行なうための冷却が必要となるなど、設備規模やコストの面で好ましくない。尚、スラリーを上記反応温度とする手段としては、スラリーへの蒸気吹き込みや、ジャケット式熱交換器などを用いることができる。
上記酸化工程での空気又は酸素の吹き込み量は、処理容器のサイズやスラリーの状態により異なるが、例えば100〜200g程度の銅電解スライムを含む1〜2リットル程度のスラリーの場合、空気を1リットル/分程度の吹き込み量で1時間程度吹き込めば良い。また、空気又は酸素の吹き込みは、加圧下で行なえば酸化反応を促進することができるが、常圧でも充分に酸化反応を進めることができる。
酸化反応の効率を上げるために、スラリーに吹き込む空気や酸素の気泡は微細であることが好ましい。微細な空気や酸素の泡を発生させる方法としては、例えば反応容器内に撹拌羽根や邪魔板を配置して、撹拌羽根に向けて空気又は酸素を吹き込み、更に邪魔板などによって容器内に広く接触する領域を維持する方法などを適宜用いることができる。
このようにして銅の酸化度を調整しながら、銅電解スライムを含むスラリーに空気や酸素スを吹き込むことにより、後の浸出工程での浸出液中の塩化物濃度を任意に調整することができる。従って、塩化物濃度を約85〜130g/lの範囲に制御すると同時にアンチモンの浸出を抑制することができ、その結果、後の溶媒抽出工程でのクラッドの発生や、最終的に回収される金へのアンチモンの混入を防止することが可能となる。
尚、銅電解スライム中の銅を酸化する方法としては、本発明による空気や酸素を吹き込む方法のほかにも、例えば銅電解スライムを管状炉などに入れ、180〜350℃程度の温度で焙焼することでも可能である。しかし、このような方法では、設備が大掛かりになるうえ、廃ガスの処理を考慮する必要があるなど多くの問題がある。
[実施例1]
下記表1に示す組成の銅電解スライムを空気酸化した。具体的には、銅電解スライム150g(水分率約32%;乾燥重量で100g)を分取して容量2リットルのビーカーに入れ、純水1リットルを加えた後、スリーワンモーターと撹拌羽根を用い400rpmの回転速度で均一に撹拌してスラリーとした。
Figure 0005447357
このスラリーを3サンプル用意し、各サンプルのスラリーをそれぞれ40℃、60℃、80℃に加温して維持し、常圧下において毎分1.0リットルの流量で空気を吹き込んで銅を酸化すると同時に、銀塩化銀電極を参照電極としてスラリーの酸化還元電位(ORP)を測定した。空気の吹き込み開始後2時間毎に8時間経過するまで、それぞれ30mlのスラリーを2サンプルずつ採取した。
上記反応温度毎に採取した2サンプルのうちの片方は、濃塩酸を水で1:1に希釈した塩酸溶液を添加し、pHを0.5に調整した。次に、濾過により固液分離し、濾液はICPを用いて成分を分析した。残渣は水で洗浄し、王水を加えて溶解し、得られた溶解液をICPで分析した。これらの分析結果に基づき、銅電解スライムから塩酸溶液中に溶出した銅の割合を銅酸化率とみなした。得られた結果を、ORPと共に、下記表2〜4に示した。また、反応時間と銅酸化率の関係を、上記反応温度毎に図1に示した。
Figure 0005447357
Figure 0005447357
Figure 0005447357
上記表2〜4及び図1から分かるように、40℃で酸化した場合は反応が遅く、8時間の酸化による銅酸化率は17%程度であった。しかし、60及び80℃で酸化した場合には、6時間の酸化によって30%以上の銅を酸化することができた。尚、上記表2〜4から分かるように、銅酸化率はORPによって制御することも可能である。
次に、上記反応温度毎に採取した2サンプルのうちの他方は、塩素浸出試験に供した。即ち、サンプルにスラリー濃度が100g/リットルになるように水を加え、液温を60℃に維持して撹拌した。得られたスラリーに塩素ガスを毎分10mlの流量で吹き込んで1時間保持し、濾過して残渣と濾液を分析し、浸出に有効に使われた塩素ガスの量を算出した。得られた結果を、酸化時の反応温度毎に銅電解スライム1t当たりの塩素ガス使用量として下記表5に示した。
Figure 0005447357
上記表5の結果から分かるように、塩素浸出前に銅電解スライムを空気酸化しなかった場合は、1tの銅電解スライムを浸出するのに塩素ガスが204〜234kg必要であった。一方、本発明により浸出前の酸化工程を実施することによって、酸化工程を実施しない場合に比べて浸出に必要な塩素ガスの量を大幅に削減することができた。
[実施例2]
上記実施例1と同じ組成の銅電解スライムを採取し、水を加えてスラリー濃度を235g/リットルに調整した。このスラリーを容量10mの反応槽に入れ、60℃に加温して空気を毎分4mの流量で吹き込みながら6時間撹拌した。その後、上記実施例1と同様にして銅酸化率を測定すると22%であった。
次に、酸化後の銅電解スライムのスラリーに水を加えて濃度を100g/リットルに調整し、60℃に維持しながら塩素ガスを吹き込んで浸出した。この塩素浸出後のスラリーを濾過し、塩素浸出後の浸出液中のアンチモン濃度を測定したところ1.13g/lであった。また、浸出時の塩素ガスの使用量は、銅電解スライムの1トン当たり150kgであった。
その後、得られた浸出液について、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルを用いて溶媒抽出し、有機相を塩酸で洗浄した後、蓚酸で還元することにより金を回収した。その際、溶媒抽出においてクラッドの生成は認めら得ず、また得られた金へのアンチモンへの混入は見られなかった。
[比較例1]
上記実施例2と同様に調整した銅電解スライムのスラリーについて、空気の吹き込みによる酸化工程を行なわず、塩素浸出のみを上記実施例2と同様に実施した。
塩素浸出後の浸出液のアンチモン濃度は1.3g/lであり、上記実施例2に比べて15%も高くなった。その結果、後工程の溶媒抽出工程においてクラッドの発生が認められ、回収した金へのアンチモンのコンタミも認められた。また、浸出時の塩素ガスの使用量も、上記実施例2に比べて銅電解スライムの1トン当たり239kgと多くなった。

Claims (2)

  1. 銅電解スライムのスラリーに塩素ガスを吹き込み、銅及び有価金属を浸出する方法において、スラリーに塩素ガスを吹き込む前に、スラリー中に空気若しくは酸素を混合して銅を酸化する酸化工程を有することを特徴とする銅電解スライムの塩素浸出方法。
  2. 前記酸化工程において、反応温度を40℃以上80℃以下に維持しながら空気若しくは酸素を吹き込むことを特徴とする、請求項1に記載の銅電解スライムの塩素浸出方法。
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