以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
<第1実施形態>
第1実施形態に係るトルク推定装置について、図1から図7を参照して説明する。
先ず、本実施形態に係るトルク推定装置が適用されたハイブリッド車両の構成について、図1から図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るトルク推定装置が適用されたハイブリッド車両の要部を示すブロック図である。
図1において、本実施形態に係るハイブリッド車両10は、エンジン150、第1モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、第2のモータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、動力分割機構120、ダンパ157、駆動軸112、レゾルバ139及び149、クランク角センサ159、回転数センサ169、並びにECU200を備えている。
図2は、図1に示す動力分割機構120と、この動力分割機構120に結合されるエンジン150並びにモータジェネレータMG1及びMG2の拡大図である。
図1及び図2において、エンジン150は、本発明に係る「内燃機関」の一例としてのガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両10の主たる動力源として機能するように構成されている。エンジン150の出力軸であるクランクシャフト156は、後述するダンパ157を介して後述する動力分割機構120のインプットシャフト127に連結されている。クランクシャフト156には、エンジン回転速度を検出するためのクランク角センサ159が設けられている。クランク角センサ159には、内燃機関のみを駆動源とする車両で通常用いられるのと同じ磁気ピックアップセンサが使用されている。クランク角センサ159は、クランクシャフト156の回転角度(即ち、クランク角(CA:Crank Angle))を検出可能に構成されている。
尚、本発明に係る「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランクシャフト等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。クランクシャフト156は、本発明に係る「機関出力軸」の一例であり、インプットシャフト127は、本発明に係る「入力軸」の一例である。クランク角センサ159は、後述する回転数センサ169と共に、本発明に係る「回転角度特定手段」の一例を構成する。
図1及び図2において、第1のモータジェネレータMG1は、本発明に係る「第1モータジェネレータ」の一例たる電動発電機であり、エンジン150からトルクの供給を受けてその回転軸が回転することにより、バッテリ(図示省略)を充電するための、或いは第2のモータジェネレータMG2に電力を供給するための発電を主として行うことが可能に構成されている。
図2に示すように、第1のモータジェネレータMG1は、外周面に複数個の永久磁石135を有するロータ132と、回転磁界を形成する3相コイル134が巻回されたステータ133とを備えている。ロータ132は、後述する動力分割機構120のサンギア121に結合されたサンギア軸125に結合されている。ステータ133は、無方向性電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、ケース119に固定されている。第1のモータジェネレータMG1は、永久磁石135による磁界と3相コイル134によって形成される磁界との相互作用によりロータ132を回転駆動する電動機として動作すると共に、永久磁石135による磁界とロータ132の回転との相互作用により3相コイル134の両端に気電力を生じさせる発電機として動作する。
図1及び図2において、第2のモータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2モータジェネレータ」の一例たる電動発電機であり、エンジン150の動力を補助(即ち、アシスト)する電動機として、或いはバッテリ(図示省略)を充電するための発電機として機能するように構成されている。より具体的には、第2のモータジェネレータMG2は、駆動力或いは制動力をアシストする装置であり、駆動力をアシストする場合には、第1のモータジェネレータMG1及びバッテリ(図示省略)の少なくとも一方から電力が供給されて電動機として機能し、制動力をアシストする場合には、ハイブリッド車両10の車輪側から伝達されるトルクによって回転させられて電力を発電する発電機として機能するように構成されている。第2のモータジェネレータMG2は、駆動軸112に対し動力を供給することが可能となるように、その回転軸が後述する動力分割機構120のリングギア軸126に結合されている。
図2に示すように、第2のモータジェネレータMG2は、外周面に複数個の永久磁石145を有するロータ142と、回転磁界を形成する3相コイル144が巻回されたステータ143とを備えている。ロータ142は、後述する動力分割機構120のリングギア122に結合されたリングギア軸126に結合されている。ステータ143は、無方向性電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、ケース119に固定されている。第2のモータジェネレータMG2は、第1のモータジェネレータMG1と概ね同様に、電動機或いは発電機として動作する。
図1及び図2において、駆動軸112は、ハイブリッド車両10の車輪に連結される車軸に、デファレンシャル等の各種減速ギア装置を含む減速機構を介して連結されている。
動力分割機構120は、プラネタリギア(遊星歯車機構)を含んでおり、エンジン150の動力を第1のモータジェネレータMG1の回転軸及び駆動軸112に分割或いは分配することが可能に構成されている。
図2に示すように、動力分割機構120は、インプットシャフト(キャリア軸)127に軸中心を貫通された中空のサンギア軸125に結合されたサンギア121と、インプットシャフト127と同軸のリングギア軸126に結合されたリングギア122と、サンギア121とリングギア122との間に配置され、サンギア121の外周を自転しながら公転する複数のプラネタリピニオンギア123と、インプットシャフト127の端部に結合され、各プラネタリピニオンギア123の回転軸を軸支するプラネタリキャリア124と、リングギア122に結合された動力取出し用の動力取出ギア128とを備えている。
動力分割機構120では、サンギア121、リングギア122及びプラネタリキャリア124にそれぞれ結合されたサンギア軸125、リングギア軸126及びインプットシャフト127の3軸が動力の入出力軸とされ、3軸のいずれか2軸へ入出力される動力が決定されると、残りの1軸に入出力される動力は、決定された2軸へ入力される動力に基づいて定まる。インプットシャフト127は、エンジン150からの動力が入力される入力軸を構成する。
インプットシャフト127には、その回転角度を検出するための回転数センサ169が設けられている。回転数センサ169は、上述したクランク角センサ159と概ね同様の磁気ピックアップセンサからなり、且つ、クランク角センサ159と同等レベルの角度分解能を有するものが適用されている。
サンギア軸125には、その回転角度を検出するレゾルバ139が設けられている。リングギア軸126には、その回転角度を検出するレゾルバ149が設けられている。
動力取出ギア128は、チェーンベルト129を介して、駆動軸112の一端に接続された動力伝達ギア111に接続されており、動力伝達ギア111(言い換えれば駆動軸112)に動力を伝達可能である。
図1及び図2において、ダンパ157は、クランクシャフト156及びインプットシャフト127に連結されており、クランクシャフト156とインプットシャフト127との相対回転を抑制しながら、クランクシャフト156とインプットシャフト127との間で動力を伝達する機能を有するトーショナルダンパである。言い換えれば、ダンパ157は、クランクシャフト156からの捻れ振動を抑制するトルク変動吸収機構として機能する。
図3は、図2に示すダンパ157の一部切欠き平面図である。
図2及び図3において、ダンパ157は、エンジン150のクランクシャフト156に連結されクランクシャフト156と共に回転駆動する駆動側ホイール160と、駆動側ホイール160と同軸上に相対回転可能に配設され、且つ、インプットシャフト127に連結される従動側ホイール164と、駆動側ホイール160と従動側ホイール164とのそれぞれに対して所定の角度範囲内で相対回転可能に配設される中間部材162とを備えている。更に、ダンパ157は、従動側ホイール164及び中間部材162の窓内に配設され、円周方向に弾縮することで駆動側ホイール160と従動側ホイール164との間の変動トルクが所定値に達すると駆動側ホイール160から従動側ホイール164への動力の伝達を遮断するトルクリミッタ158とを備えている。
ここで、このように構成されたダンパ157の作用について説明する。エンジン150のみが駆動した場合には、駆動側ホイール160がエンジン150の駆動に伴って回転する。このとき、エンジン150の慣性による変動トルクが所定値よりも小さい場合には、トルクリミッタ158を介して中間部材162に回転トルクが伝達され、中間部材162が回転する。中間部材162の回転トルクはトーション部材161を介して従動側ホイール164に伝達され、変動トルクに応じてトーション部材161が弾縮しながら従動側ホイール164が回転する。このようにして、ダンパ157を介してインプットシャフト127にエンジン150の駆動が伝達される。
そして、上記の状態からエンジン150の駆動トルクが大きくなり、駆動側ホイール160と従動側ホイール164との間の変動トルクが所定値に達すると、トルクリミッタ158における摩擦材が滑り出し、中間部材162と従動側ホイール164との間では所定値以上の変動トルクが伝達されなくなる。
このように、ダンパ157は、トーション部材161及びトルクリミッタ158が駆動側ホイール160と従動側ホイール164との相対回転を抑制することにより、複数の動力源(即ち、エンジン150、モータジェネレータMG1及びMG2)によって生じる変動トルクを抑制しながら伝達する。
再び図1において、ECU200は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、ハイブリッド車両10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットである。
本実施形態では特に、ECU200は、第1捻れ角度算出部211、第2捻れ角度算出部212、第1トルク推定部221、第2トルク推定部222、ゼロ点学習部230、トルク補正部240、無効判定部250及び異常判定部260を備えている。
第1捻れ角度算出部211は、本発明に係る「第1捻れ角度算出手段」の一例であり、クランク角センサ159によって検出されたクランクシャフト156の回転角度と、回転数センサ169によって検出されたインプットシャフト127の回転角度との差分を、ダンパ157の捻れ角度(以下、適宜「ダンパ捻れ角度」と称する)として、算出する。
第1トルク推定部221は、本発明に係る「第1トルク推定手段」の一例であり、クランクシャフト156の回転角加速度に基づいてエンジントルク(即ち、機関トルク)を推定する。尚、クランクシャフト156の回転角加速度は、クランク角センサ159によって検出されるクランクシャフト156の回転角度の時間的な変化に基づいて算出される。具体的には、第1トルク推定部221は、クランクシャフト156の回転角加速度dωe/dtとエンジン150のイナーシャIeとを乗算することにより、エンジントルクTeを推定する。
ゼロ点学習部230は、本発明に係る「ゼロ点学習手段」の一例であり、第1捻れ角度算出部211によって算出されたダンパ捻れ角度を、エンジントルクが実質的に零となる運転状態であるときのクランクシャフト156とインプットシャフト127との相対角度をダンパ捻れ角度のゼロ点として修正するゼロ点学習処理を行う。このゼロ点学習処理は、エンジン150の駆動トルク(即ち、エンジントルク)が大きくなってダンパ157のトルクリミッタ158が働いた場合に、クランクシャフト156とインプットシャフト127との間に発生する相対角度のずれを解消するために行われ、「ダンパ捻れ角度の零点補正処理」と呼ぶこともできる。具体的には、ゼロ点学習処理は、ダンパ捻れ角度の零点補正値を算出し、その算出した零点補正値を用いてダンパ捻れ角度をオフセットすることにより行われる。ダンパ捻れ角度の零点補正値は、エンジン150が、エンジントルクが実質的に零とみなせる運転状態である無負荷運転を行っているときのクランクシャフト156とインプットシャフト127との相対角度として算出される。
第2トルク推定部222は、本発明に係る「第2捻れ角度算出手段」の一例であり、第1のモータジェネレータMG1の出力トルク(以下、適宜「MG1トルク」と称する)に基づいて、エンジントルクを推定する。具体的には、第2トルク推定部222は、以下に示す式(1)により、エンジントルクTeを算出する。
Te=−(1+ρ)/ρ×Tg ・・・(1)
ただし、Tgは、MG1トルクであり、ρは、プラネタリギア比(即ち、リングギア122の歯数に対するサンギア121の歯数の比)である。
第2捻れ角度算出部212は、本発明に係る「第2捻れ角度算出手段」の一例であり、第1のモータジェネレータMG1の出力トルク及び第2のモータジェネレータMG2の出力トルク(以下、適宜「MG2トルク」と称する)と、上述した第2トルク推定部222によって推定されたエンジントルクとに基づいて、ダンパ捻れ角度(即ち、クランクシャフト156とインプットシャフト127との相対角度)を算出する。尚、以下では、第2捻れ角度算出部212によって算出されるダンパ捻れ角度を「標準ダンパ捻れ角度」と適宜称する。具体的には、第2トルク推定部222は、以下に示す式(2)により、MG1トルクTg及びMG2トルクTmに基づいて駆動トルク(即ち、駆動軸112に出力されるトルク)Tpを算出し、以下に示す式(3)により、第1のモータジェネレータMG1の回転数(以下、適宜「MG1回転数」と称する)ωg及び第2のモータジェネレータMG2の回転数(以下、適宜「MG2回転数」と称する)ωmに基づいて、エンジン150の回転数(即ち、エンジン回転数)ωeを算出する。この算出した駆動トルクTp、エンジン回転数ωe及び第2トルク推定部222によって推定されたエンジントルクTeに基づいて、標準ダンパ捻れ角度を算出する。
Tp=Tm−1/ρ×Tg=Tm+1/(1+ρ)×Te ・・・(2)
ωe=ρ/(1+ρ)×ωg+1/(1+ρ)×ωm ・・・(3)
無効判定部250は、本発明に係る「無効判定手段」の一例であり、ゼロ点学習部230によるゼロ点学習処理が無効であるか否かを判定する。具体的には、無効判定部250は、(i)第1捻れ角度算出部211によって算出されたダンパ捻れ角度が、ダンパ157のリミット角度に応じて予め定められた基準捻れ角度よりも大きい場合、(ii)エンジン150が始動してから所定期間内である場合及び(iii)ハイブリッド車両10の車輪(即ち、駆動軸112に連結された車輪)が空転又はロックされた場合を、ゼロ点学習処理が無効である場合と判定し、これら以外の場合を、ゼロ点学習処理が有効である場合と判定する。
トルク補正部240は、本発明に係る「トルク補正手段」の一例であり、上述した第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクを、第1捻れ角度算出部211又は第2捻れ角度算出部212によって算出されたダンパ捻れ角度及びこのダンパ捻れ角度に対応するダンパ157のダンパ特性を示すバネ定数(言い換えれば、トーション部材161のバネ定数)に基づいて補正する。即ち、トルク補正部240は、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクTeに対して、ダンパ157で発生する弾性力(即ち、バネ定数に応じて変化する力、以下、適宜「ダンパトルク」と称する)を補正項(或いは補正値)として加算することにより、推定されたエンジントルクTeを補正する。
ここで、ダンパ157のダンパ特性及びトルク補正部240による補正値について、図4を参照して説明する。
図4は、トルク差とダンパ捻れ角度との関係(即ち、バネ定数特性)を示す特性図である。尚、図4中の縦軸の「トルク差」は、クランクシャフト156とインプットシャフト127との間のトルク差(言い換えれば、ダンパトルク)を意味する。
図4に示すように、トルク差は、ダンパ捻れ角度が一定範囲内のとき(つまり、ダンパ捻れ角度が、トルクリミッタ158が働くリミット角度よりも小さいとき、言い換えれば、トルクリミッタ158が働くリミッタ領域に入っていないとき)には、ダンパ捻れ角度に応じて一意に定まるが、その変化の仕方は、ダンパ捻れ角度によって規定される複数の領域(即ち、図4におけるK1領域、K2領域、…)毎に異なる。言い換えれば、ダンパ捻れ角度によって規定される複数の領域(即ち、図4におけるK1領域、K2領域、…)では、ダンパ157のバネ定数が互いに異なる。つまり、ダンパ157のダンパ特性は、ダンパ捻れ角度によって規定される複数の領域毎に異なる。
トルク補正部240は、図4に示したようなトルク差とダンパ捻れ角度との関係を示すマップを参照することにより、ダンパ捻れ角度からトルク差(ダンパトルク)を補正値として算出する。トルク補正部240は、このように算出した補正値を、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクTeに対して加算することにより、推定されたエンジントルクTeを補正する。尚、このようなマップは、実験或いはシミュレーション等によって予め作成され、ECU200が有するメモリ内に記憶されている。
本実施形態によれば、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクを、トルク補正部240によって補正することにより、エンジントルクを推定する。よって、エンジン150の回転状態からモータジェネレータMG1及びMG2の影響を排除することができ、燃焼状態に応じて発生するエンジントルクを高精度に推定することができる。
本実施形態では特に、トルク補正部240は、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクを、第1捻れ角度算出部211又は第2捻れ角度算出部212によって算出されたダンパ捻れ角度及びこのダンパ捻れ角度に対応するダンパ157のダンパ特性を示すバネ定数に基づいて補正する。より具体的には、トルク補正部240は、上述したゼロ点学習部230によるゼロ点学習処理が有効である場合には、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクを、第1捻れ角度算出部211によって算出されたダンパ捻れ角度、及び該ダンパ捻れ角度に対応するバネ定数に基づいて補正し、且つ、上述したゼロ点学習部230によるゼロ点学習処理が無効である場合には、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクを、第2捻れ角度算出部212によって算出されたダンパ捻れ角度、及び該ダンパ捻れ角度に対応するバネ定数に基づいて補正する。尚、ゼロ点学習処理が有効及び無効のいずれであるかを判定する無効判定処理は、上述した無効判定部250によって行われる。言い換えれば、本実施形態では特に、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクを、ダンパ捻れ角度及びこのダンパ捻れ角度に対応するバネ定数に基づいて補正することにより最終的な推定エンジントルクを算出するエンジントルク算出処理を、ゼロ点学習処理が有効である場合には、第1捻れ角度算出部211によって算出されたダンパ捻れ角度に対応して選択されるバネ定数を用いて行い、ゼロ点学習処理が無効である場合には、第2捻れ角度算出部212によって算出されたダンパ捻れ角度に対応して選択されるバネ定数を用いて行う。
図4において、ゼロ点学習部230によって、エンジントルクが実質的に零となる運転状態であるときのクランクシャフト156とインプットシャフト127との相対角度をダンパ捻れ角度のゼロ点として修正するゼロ点学習処理を行う。即ち、ゼロ点学習部230によるゼロ点学習処理は、ダンパ捻じれ角度或いはトルク差がゼロ点学習域内になる場合に行われる。ここで、エンジン150の始動時など、エンジントルクが急激に変化する場合には、ダンパ捻れ角度が大きくなり、トルクリミッタ158が働くことで(即ち、トルクリミッタ158における摩擦材が滑り出すことで)、ゼロ点学習処理によって修正されたゼロ点がずれてしまうおそれがある。言い換えれば、エンジントルクが急激に変化し、ダンパ捻れ角度が一旦リミッタ領域に入ってから、再びK1領域或いはK2領域などリミッタ領域よりも小さい領域に移行した場合には、ゼロ点が不定となるため、第1捻れ角度算出部211によって算出されたダンパ捻れ角度に対応して選択されるバネ定数を用いてエンジントルク算出処理を行うことが困難或いは不可能となってしまう(言い換えれば、第1捻れ角度算出部211によって算出されたダンパ捻れ角度に対応して選択されるバネ定数を用いたエンジントルク算出処理では、エンジントルクを精度良く推定することができない)。更に、ゼロ点学習部230によるゼロ点学習処理は、エンジントルクが実質的に零となる運転状態であるときに行われる。よって、例えば、ハイブリッド車両10の加速時や触媒暖機制御中などには、エンジントルクが実質的に零となる運転状態を作り出すことがでないため、ゼロ点学習処理を行うことができない。
しかるに本実施形態では特に、トルク補正部240は、上述したゼロ点学習部230によるゼロ点学習処理が有効である場合には、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクを、第1捻れ角度算出部211によって算出されたダンパ捻れ角度、及び該ダンパ捻れ角度に対応するバネ定数に基づいて補正し、且つ、上述したゼロ点学習部230によるゼロ点学習処理が無効である場合には、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクを、第2捻れ角度算出部212によって算出されたダンパ捻れ角度、及び該ダンパ捻れ角度に対応するバネ定数に基づいて補正するので、ゼロ点学習処理が無効であり、ダンパ捻れ角度のゼロ点が不定である場合であっても、エンジントルクを精度良く推定することができる。
再び図1において、異常判定部260は、本発明に係る「第1異常判定手段」及び「第2異常判定手段」の一例であり、第1トルク推定部221によって推定されたエンジントルクがトルク補正部260によって補正された補正後推定エンジントルクの絶対値に基づいて絶対値判定処理を行うことにより、或いは、補正後推定エンジントルクの変動量(或いは相対値)に基づいて相対値判定処理を行うことにより、エンジン150の異常(例えばエンジン失火など)の有無を判定する異常判定処理を行う。具体的には、異常判定部260は、補正後推定エンジントルクの絶対値が、基準閾値よりも大きいか否かを判定する絶対値判定処理を行うことにより、例えばエンジン失火等のエンジン150の異常の有無を判定する。更に、異常判定部260は、補正後推定エンジントルクの変動量が、基準変動量よりも大きいか否かを判定する変動量判定処理を行うことにより、エンジン150の異常の有無を判定する。
本実施形態では特に、異常判定手部260は、上述した絶対値判定処理を行う際、ゼロ点学習処理が無効である場合には、基準閾値を、ゼロ点学習処理が有効である場合における値とは異なる値(本実施形態では基準閾値に所定値αを加算した値、即ち、基準閾値+α)として、絶対値判定処理を行う。よって、エンジン150の異常の有無を精度良く判定することができる。つまり、基準閾値に加算する所定値αを、例えば推定されるエンジントルクの推定誤差を考慮して設定することで、エンジン150の異常の有無を判定する判定精度を高めることができる。
更に、本実施形態では特に、異常判定部260は、ゼロ点学習処理が無効であると無効判定部250によって判定された直後には、上述した変動量判定処理を行わず、且つ、ゼロ点学習処理が無効であると無効判定部250によって判定されてから所定期間経過後に、変動量判定処理に係る基準変動量を、ゼロ点学習処理が有効である場合における値と同じ値として、変動量判定処理を行う。よって、エンジン150の異常の有無を精度良く判定することができる。つまり、ゼロ点学習処理が無効であると判定された直後にエンジン150の異常の有無を判定することを回避すると共に、所定期間経過後にエンジン150の異常の有無を判定することで、エンジン150の異常の有無を判定する判定精度を高めることができる。
次に、本実施形態におけるエンジントルクの推定方法について、図5及び図6を参照して説明する。
図5は、本実施形態におけるエンジントルクの推定方法の流れを示すフローチャートである。図6は、本実施形態に係るゼロ点学習処理の無効判定処理の流れを示すフローチャートである。
図5において、本実施形態におけるエンジントルクの推定方法によれば、先ず、ゼロ点学習処理が有効であるか否かが判定される(ステップS110)。即ち、ECU200の無効判定部250によって、ゼロ点学習部230によるゼロ点学習が無効であるか否かが判定される。
具体的には、図6に示すように、先ず、エンジン停止からエンジン起動に切り替わった状態か否かが判定される(ステップS210)。即ち、エンジン150が始動してから所定期間内であるか否かが無効判定処理部250によって判定される。エンジン150が始動してから所定期間内である場合には(ステップS210:No)、ゼロ点学習処理が無効であると無効判定処理部250によって判定される(ステップ260)。
一方、エンジン150が始動してから所定期間内でない場合(言い換えれば、エンジン150が始動してから所定期間以上経過している場合)には(ステップS210:Yes)、タイヤ(即ち、ハイブリッド車両10の車輪)が空転又はロックされているか否かが無効判定処理部250によって判定される(ステップS220)。ハイブリッド車両10の車輪が空転又はロックされている場合には(ステップS220:Yes)、ゼロ点学習処理が無効であると無効判定処理部250によって判定される(ステップ260)。
ハイブリッド車両10の車輪が空転又はロックされてない場合には(ステップS220:Yes)、第1捻れ角度算出部211によって算出されたダンパ捻れ角度が、ダンパ157のリミット角度に応じた基準捻れ角度(本実施形態では、ダンパ157のリミット角度よりも所定角度αだけ小さい角度、即ち、リミット角度−α)よりも大きいか否かが無効判定処理部250によって判定される(ステップS230)。ダンパ捻れ角度が基準捻れ角度よりも大きい場合には(ステップS230:Yes)、ゼロ点学習処理が無効であると無効判定処理部250によって判定される(ステップ260)。
一方、ダンパ捻れ角度が基準捻れ角度以下である場合には(ステップS230:No)、ゼロ点学習部230によってゼロ点学習処理が行われる(ステップS240)。その後、ゼロ点学習処理が有効であると無効判定処理部250によって判定される(ステップ250)。
再び図5において、ゼロ点学習処理が有効である場合には(ステップS110:Yes)、第1捻れ角度算出部211によってダンパ捻れ角度が算出される(ステップS170)。具体的には、基準間隔毎のクランクシャフト156の回転角度、MG1及びMG2の回転角度の変化からダンパ捻れ角度が算出される。
次に、算出されたダンパ捻れ角度に対応するバネ定数がトルク補正部240によって選択される(ステップS180)。即ち、トルク補正部240は、補正値を算出する際のバネ定数を、算出されたダンパ捻れ角度及び図4を参照して上述したマップに基づいて決定する。
次に、選択されたバネ定数を用いたエンジントルク算出処理が行われる(ステップS160)。即ち、第1トルク推定部221によって、クランクシャフト156の回転角加速度に基づいてエンジントルクが推定され、トルク補正部240によって、この推定されたエンジントルクが、選択されたバネ定数に基づいて補正される。
一方、ゼロ点学習処理が無効である場合には(ステップS110:No)、MG1トルクTgからエンジントルクTeが推定される(ステップS120)。即ち、第2トルク推定部222によってエンジントルクTeが推定される。
次に、MG1トルクTg及びMG2トルクTmに基づいて、駆動トルクTpが、第2捻れ角度算出部212によって推定或いは算出される(ステップS130)。続いて、推定されたエンジントルクTe及び駆動トルクTpに基づいて、標準ダンパ捻れ角度が第2捻れ角度算出部212によって推定或いは算出される(ステップS140)。
次に、この推定された標準ダンパ捻れ角度に対応するバネ定数がトルク補正部240によって選択される(ステップS150)。トルク補正部240は、補正値を算出する際のバネ定数を、標準ダンパ捻れ角度及び図4を参照して上述したマップに基づいて決定する。
次に、選択されたバネ定数を用いたエンジントルク算出処理が行われる(ステップS160)。即ち、第1トルク推定部221によって、クランクシャフト156の回転角加速度に基づいてエンジントルクが推定され、トルク補正部240によって、この推定されたエンジントルクが、選択されたバネ定数に基づいて補正される。ここで、本実施形態では特に、ゼロ点学習処理が有効である場合には(ステップS110:Yes)、エンジントルク算出処理(ステップS160)において、第1捻れ角度算出部211によって算出されたダンパ捻れ角度に対応するバネ定数を用いた補正がトルク補正部240によって行われ、ゼロ点学習処理が無効である場合には(ステップS110:No)、エンジントルク算出処理(ステップS160)において、第2捻れ角度算出部212によって算出された標準ダンパ捻れ角度に対応するバネ定数を用いた補正がトルク補正部240によって行われる。よって、ゼロ点学習処理が無効であり、ダンパ捻れ角度のゼロ点が不定である場合であっても、エンジントルクを精度良く推定することができる。従って、ハイブリッド車両10において、エンジン150の停止及び始動が頻繁に行われる運転条件下でも、エンジン150の出力するエンジントルクを精度良く推定することができる。
次に、本実施形態におけるエンジンの異常の有無を判定する異常判定方法について、図7を参照して説明する。
図7は、本実施形態におけるエンジンの異常判定方法の流れを示すフローチャートである。
図7において、本実施形態におけるエンジンの異常判定方法によれば、先ず、ゼロ点学習処理が有効であるか否かが判定される(ステップS310)。即ち、ECU200の無効判定部250によって、ゼロ点学習部230によるゼロ点学習が無効であるか否かが判定される。
ゼロ点学習処理が有効である場合には(ステップS310:Yes)、エンジン150の異常(例えばエンジン失火等、エンジントルクの絶対値により判定可能な異常)の有無を判定するための基準値として、所定の基準閾値が選択される(ステップS320)。続いて、この基準閾値及び補正後推定エンジントルクの絶対値に基づいてエンジン150の異常の有無を判定する異常判定処理(エンジントルク絶対値による異常判定処理)が、異常判定部260によって行われる。
一方、ゼロ点学習処理が無効である場合には(ステップS310:No)、エンジン150の異常(例えばエンジン失火等、エンジントルクの絶対値により判定可能な異常)の有無を判定するための基準値として、ゼロ点学習処理が有効である場合における所定の基準閾値に所定値αを加算した値(即ち、基準閾値+α)が選択される(ステップS330)。続いて、この(基準閾値+α)及び補正後推定エンジントルクに基づいてエンジン150の異常の有無を判定する異常判定処理(エンジントルク絶対値による異常判定処理)が、異常判定部260によって行われる。
ここで、本実施形態では特に、エンジントルク絶対値による異常判定処理における基準値が、ゼロ点学習処理が有効である場合と無効である場合とで異なる値として設定されるので、エンジン150の異常の有無を精度良く判定することができる。尚、ゼロ点学習処理が無効である場合における所定値α(つまり、基準閾値に加算する値)は、例えば、推定されるエンジントルクの推定誤差を考慮して設定するとよい。
エンジントルク絶対値による異常判定処理(ステップS340)が行われた後には、ゼロ点学習処理が無効であると判定(ステップS310:No)されてから所定期間が経過したか否か異常判定部260によって判定される(ステップS360)。
ゼロ点学習処理が無効であると判定されてから所定期間が経過している場合には(ステップS360:Yes)、エンジントルク相対値(変動)による異常判定処理が行われる(ステップS360)。即ち、補正後推定トルクの変動量が基準変動量よりも大きいか否かを判定することにより、エンジン150の異常の有無を判定する異常判定処理が行われる。
ゼロ点学習処理が無効であると判定されてから所定期間が経過していない場合には(ステップS360:No)、エンジントルク相対値(変動)による異常判定処理が行われずに、終了する。
ここで、本実施形態では特に、エンジントルク相対値(変動)による異常判定処理は、ゼロ点学習処理が無効である場合と無効判定部250によって判定された直後には行われず、所定期間経過後に行われる。よって、エンジン150の異常の有無を精度良く判定することができる。
以上説明したように、本実施形態に係るエンジン150のトルク推定装置によれば、ハイブリッド車両10において、エンジン150のエンジントルクを精度良く推定することができる。更に、この推定されたエンジントルクに基づいて、エンジン150の異常の有無を制度良く判定することができる。
<第2実施形態>
第2実施形態に係るトルク推定装置について、図8を参照して説明する。
図8は、第2実施形態における、図5と同趣旨のフローチャートである。尚、図8において、図5に示した第1実施形態に係る処理と同様の処理に同一の参照符合を付し、それらの説明は適宜省略する。
第2実施形態に係るトルク推定装置は、上述した第1実施形態におけるステップS120に係る処理に代えて、ステップS122に係る処理を行うように構成されている点で、上述した第1実施形態に係るトルク推定装置と異なり、その他の点については、上述した第1実施形態に係るトルク推定装置を概ね同様に構成されている。
具体的には、第2実施形態に係るトルク推定装置は、第2トルク推定部222が、上述した第1実施形態に係るトルク推定装置と異なる。
本実施形態では、第2トルク推定部222は、エンジン150の吸入空気量、回転数及び点火時期に基づいて、エンジントルクを推定する。尚、上述した第1実施形態では、第2トルク推定部222は、MG1トルクに基づいてエンジントルクを推定する。
図8において、ゼロ点学習処理が無効である場合には(ステップS110:No)、エンジン150の吸入空気量、回転数及び点火時期に基づいて、エンジントルクTeが第2エンジントルク推定部222によって推定される(ステップS122)。その後、上述した第1実施形態と同様の処理が行われることで、ゼロ点学習処理が無効であり、ダンパ捻れ角度のゼロ点が不定である場合であっても、エンジントルクを精度良く推定することができる。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関のトルク推定装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
112…駆動軸、120…動力分割機構、127…インプットシャフト、139、149…レゾルバ、150…エンジン、156…クランクシャフト、157…ダンパ、158…トルクリミッタ、159…クランク角センサ、161…トーション部材、169…回転数センサ、200…ECU、211…第1捻れ角度算出部、212…第2捻れ角度算出部、221…第1トルク推定部、222…第2トルク推定部、230…ゼロ点学習部、240…トルク補正部、250…無効判定部、260…異常判定部、MG1…第1のモータジェネレータ、MG2…第2のモータジェネレータ