JP5131212B2 - 材料状態推定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車等の鉄鋼材料の解析に好適な材料状態推定方法に関する。
自動車の衝突時変形特性や耐衝突性能特性、強度特性等を解析する分野に、コンピュータシミュレーションを用いた自動車の衝突解析分野がある。自動車の衝突解析分野には、ホワイトボデー部品の材料特性等を基に自動車の衝突解析を行うものがある。特許文献1には、コンピュータシミュレーションにより構造体の特性解析を行う方法が開示されている。
特開2004−325213号公報
ところで、自動車の製造工程において、ホワイトボデーは、プレス成形後、組み立て、電着塗装後、焼付け処理がなされる。こういった製造工程において、各部品は、プレス成形時のひずみ付与により変形抵抗が上昇する。また、焼付け硬化特性を有する焼付硬化型鋼板を用いた場合、焼付け処理時の焼付け硬化により加工ひずみ(予ひずみ)に依存した変形抵抗が上昇する。
しかし、これまで自動車の衝突解析分野では、ホワイトボデー部品の加工ひずみによる変形抵抗の上昇を考慮していなかった。これに対して、近年、CAE解析精度を向上させるために、そのような加工ひずみの影響を考慮する試みもなされている。例えば、特許文献1には、塗装時の焼付けによる材料特性が変化することも考慮すべき点が開示されている。しかし、特許文献1には、考慮すべき点を指摘するだけで具体的な手段の言及はない。
このような加工ひずみに依存した焼付け硬化の変形抵抗を適正に評価できなければ、衝突時の変形抵抗を適正に見積もることはできず、自動車の衝突時変形特性等の解析精度が低くなる。特に、骨格部品等に焼付硬化型鋼板を用いた場合、変形抵抗を過小に見積もることになってしまう。このような場合、例えば、実際の自動車の衝突試験による結果とCAE解析結果とが大きくかけ離れてしまう。
本発明の課題は、加工ひずみに依存した焼付け硬化による材料特性を適正に見積もることである。
前記課題を解決するために、本発明に係る請求項1に記載の材料状態推定方法は、予ひずみを与えた後に焼付け処理して焼付け硬化させた鋼材の応力σとひずみεとの関係を推定する材料状態推定方法において、前記予ひずみεpressを零から増加させたときに塑性域にて得られる鋼材のひずみεに対する応力σの増加量飽和値をσBH1とし、前記増加量飽和値σBH1が得られる予ひずみεpressのうち最小の予ひずみをεBH1とし、関数min(σ BH1 ,(σ BH1 ・ε press )/ε BH1 )をσ BH1 (σ BH1 ・ε press )/ε BH1 のうち小さい方の値を選択する関数としたときに、予ひずみεpressに対応させた塑性域での応力の増分σBHを示す下記式
σBH=min(σBH1,(σBH1・εpress)/εBH1
を基に、鋼材の応力σとひずみεの関係を推定することを特徴とする。
また、本発明に係る請求項2に記載の材料状態推定方法は、請求項1に記載の材料状態推定方法において、k,ε,nをそれぞれ定数として得られる下記Swiftの式
k(ε+εpress+ε)
を用いて、塑性域の鋼材の応力σ(ε)とひずみεとの関係を下記式
σ(ε)=k(ε+εpress+ε)+min(σBH1,(σBH1・εpress)/εBH1
により推定することを特徴とする。
また、本発明に係る請求項3に記載の材料状態推定方法は、請求項1又は2に記載の材料状態推定方法において、ひずみεを増加していくときに通過する降伏段の領域では、εを該降伏段の領域の一定のひずみ値として、σを前記ひずみ値εのときの一定の応力値として与えて、鋼材の応力σ(ε)とひずみεとの関係を下記式
σ(ε)=σexp(ε−ε
により推定することを特徴とする。
また、本発明に係る請求項4に記載の材料状態推定方法は、請求項3に記載の材料状態推定方法において、ε´をひずみ速度とし、b,c,dを材料に応じて設定される定数として、下記式
(σ−σ(ε))(σ−(b・log(ε´)+c))=d
で示される応力σ、ひずみε及びひずみ速度ε´の関係を基に、有限要素法を用いた数値解析により材料の状態を推定することを特徴とする。
本発明によれば、予ひずみを与えた後に焼付け処理して焼付け硬化させた鋼材について、予ひずみεpressに対応させて塑性域での応力の増分σBHを適切に算出でき、加工ひずみに依存した焼付け硬化による材料特性を適正に見積もることができる。
また、本発明によれば、Swiftの式に適用でき、加工ひずみに依存した焼付け硬化による材料特性を適正に見積もることができる。
また、本発明によれば、ひずみεを増加していくときに通過する降伏段の領域での加工ひずみに依存した焼付け硬化による材料特性を適正に見積もることができる。
ここで、降伏段の領域とは、降伏ひずみ(降伏点伸び)が発生している領域のことである。
また、本発明によれば、有限要素法を用いた数値解析により材料の状態を推定でき、加工ひずみに依存した焼付け硬化による材料特性を適正に見積もることができる。
応力−ひずみ線図を示す特性図である。 応力−ひずみ線図を示す他の特性図である。 予ひずみと強度上昇量との関係を示す特性図である。 数式表現される応力−ひずみ線図を示す特性図である。 数式モデルにより得た応力−ひずみ線図の結果を示す特性図である。 焼付硬化型鋼板でない鋼板に予ひずみを与えた場合の応力−ひずみ線図を示す特性図である。 相当塑性ひずみと応力比との関係を示す特性図である。 応力ひずみ関係を得る試験中の相当塑性ひずみとひずみ速度との関係を示す特性図である。 試験で得たひずみ速度ε´と応力σとの関係を示す特性図である。 (7)式により得られるひずみ速度ε´、応力σ及びひずみεとの関係を示す特性図である。 応力演算装置の構成を示すブロック図である。 応力演算装置による応力演算の処理手順を示すフローチャートである。 等方硬化における降伏曲線の変化の説明に使用した図である。 実験で得た応力と(7)式により得られる応力との関係を示す特性図である。 材料をJSC270Dとして得た相当塑性ひずみと応力(相当応力)との関係を示す特性図である。 材料をJSC980Yとして得た相当塑性ひずみと応力(相当応力)との関係を示す特性図である。 実施例で使用した圧潰試験機の構成を示す図である。 実施例の結果を示す図である。 実施例の他の結果を示す図である。
本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(本発明の原理)
本発明の原理となる、焼付硬化型鋼板の応力−ひずみ線図の数式モデル化を説明する。
図1は、応力−ひずみ線図を示す。横軸は相当塑性ひずみ(真ひずみ)であり、縦軸は真応力である。図1では、予ひずみがなく、かつ焼き付けがない原板の特性(点線)と、予ひずみがあり、かつ焼き付けがある鋼板の特性(実線)とを対比している。予ひみずは、プレス成形時に発生するひずみ(加工ひずみ)に相当する。図1(a)は、予ひずみが小さいものを示し、図1(b)は、予ひずみが大きいものを示す。
予ひずみがあり、かつ焼き付けがある鋼板として、予ひずみと焼き付けによるいわゆる時効硬化(高い歪み時効硬化)により引張り強さ(TS)が上昇した焼付硬化型鋼板がある。焼付硬化型鋼板には、例えば、BHT(登録商標、BakeHardenable steel with Tensile strength increase)鋼板がある。BHT鋼板は、ひずみ全域にわたり、予ひずみに依存して強さ(応力)が上昇するといった優れた特性を有する。このことから、BHT鋼板は、自動車ボデーとしても優れた鋼板である。
図1(a)及び(b)に示すように、焼付硬化型鋼板は、原板(予ひずみがなく、かつ焼き付けがない鋼板)と比較して、時効硬化により、降伏強さ及び引張り強さが上昇している(増加している)。また、図1(a)と図1(b)とを比較してもわかるように、焼付硬化型鋼板は、予ひずみが大きくなるほど、降伏強さ及び引張り強さが大きくなる。そして、塑性域(応力が増加するとひずみが増加する領域)では、原板の強度(応力)に対する焼付硬化型鋼板の強度(応力)の上昇量(強度上昇量)は、ひずみの値(横軸の値)に関係なくほぼ同じ値を示す。そして、図1(a)と図1(b)とを比較すると、その上昇量は、予ひずみが大きくなるほど大きくなる。
また、図1(a)及び(b)に示すように、図1に示す領域A,Bのように、ひずみの増加に対して単調増加する領域が存在する。具体的には、その後のほぼ均一な塑性域と比較して、ひずみの増加に対する応力の増加割合が低い領域である。また、ひずみの増加に対して応力が変動しながらも単調増加する領域である。公称応力−公称ひずみ線図に置き換えた場合には、このような領域を、ひずみが増加するのにもかかわらず、応力がある一定値付近を変動する領域として得ることができる。本発明では、このような領域を降伏段の領域と称している。
図2は、前記図1と同様な応力−ひずみ線図を示す。図2では、原板の特性と予ひずみを変化させた焼付硬化型鋼板の特性とを対比している。ここで、原板は、予ひずみがなく、焼き付けがない鋼板(BHなしの鋼板)である。また、図2には、予ひずみが0%、5%、10%、15%の焼付硬化型鋼板の特性を示す。例えば、予ひずみが0%とは、予ひずみを与えることなく、焼き付けのみを行っている条件になる。
図2に示すように、焼付硬化型鋼板の降伏強さ及び引張り強さは、原板(BHなし)のそれに対して上昇する。また、予ひずみが大きくなるほど(本実施形態では0%〜15%)、焼付硬化型鋼板の降伏強さ及び引張り強さは大きくなる。さらに、塑性域における降伏段後の領域では、原板の強度に対する焼付硬化型鋼板の強度の上昇量は、ひずみの値(横軸の値)に関係なくほぼ同じ値を示す。そして、予ひずみがある程度大きくなると、その強度の上昇量に変化が見られなくなる。すなわち、予ひずみの増加に対して強度の上昇量が飽和するようになる、又は予ひずみの値にかかわらず強度の上昇量が一定値(最大値)になる。
図3は、前記図1及び図2から得られる予ひずみと強度上昇量との関係を示す。横軸の予ひずみは、焼付硬化型鋼板の予ひずみである。縦軸の強度上昇量は、原板(BHなし)の引張り強さに対する各予ひずみの焼付硬化型鋼板の引張り強さの上昇量(差分)である。
ここで、前記図1及び図2に示したように、降伏段後の領域では、引張り強さの上昇量は、ひずみの値に関係なくほぼ同じ値になる。すなわち、降伏段後の領域では、どのひずみにでも引張り強さの上昇量がほぼ同じ値になる。このようなことから、図1に示すように所定のひずみ(代表のひずみ)における強度上昇量を図3の縦軸の強度上昇量(引張り強さの差分)としている。例えば、真応力−真ひずみ線図を公称応力−公称ひずみ線図に置き換えた場合、焼付硬化型鋼板の公称応力が最大値となるような公称ひずみが存在する。そのように焼付硬化型鋼板の公称応力が最大値となるような公称ひずみに対応する真ひずみ相当値を、前記所定のひずみ、すなわち図3の縦軸の強度上昇量としている。
この図3に示すように、予ひずみが小さい領域(図3に示す領域C)では、予ひずみが増加すると、強度上昇量もほぼそれに比例して増加する。そして、予ひずみが増加し、ある値(εBH1)に達すると、その値以降(図3に示す領域D)、予ひずみが増加しても、強度上昇量が一定値(σBH1)になる。すなわち、予ひずみにかかわらず強度上昇量が一定値になる(強度上昇量が最大値となる)。
以上のように焼付硬化型鋼板の応力−ひずみ線図を得ることができる。この応力−ひずみ線図における特性をまとめると次のようになる。
(1)降伏段の領域では、ひずみの増加に対して、応力は変動しながらも単調増加する(図1に示すA,Bの領域の特性)。
(2)降伏段の領域では、焼付硬化型鋼板の応力(降伏強さ)は、原板の値に対して上昇する(図1に示すA,Bの領域の特性)。
(3)降伏段の領域では、予ひずみが大きくなるほど、焼付硬化型鋼板の応力(降伏強さ)の上昇量は大きくなる(図1に示すA,Bの領域の特性)。
(4)降伏段後の領域では、原板の引張り強さに対して焼付硬化型鋼板の引張り強さが上昇する(大きい値を示す)。
(5)降伏段後の領域では、予ひずみが大きくなるほど、引張り強さの上昇量は大きくなる(図3に示すCの領域の特定)。
(6)降伏段後の領域では、予ひずみがある程度大きくなると、予ひずみにかかわらず、引張り強さの上昇量が一定値になる(図3に示すDの領域の特定)。
以上の応力σ(ε)とひずみεとの関係を示す特性を数式として表現すると下記式のようになる。
ε≦εの場合
σ(ε)=max(σ,σ) ・・・(1)
ε>εの場合
σ(ε)=σ ・・・(2)
ここで、前記(1)式及び(2)式において、
σ=σexp(ε−ε) ・・・(3)
σ=k(ε+εpress+ε)+σBH(εpress) ・・・(4)
σBH(εpress)=min(σBH1,(σBH1・εpress)/εBH1) ・・・(5)
となる。ここで、εは、ひずみ初期において公称応力が一定となる部分を表すパラメータである。σは、その一定となる公称応力を表すパラメータである。σBH1は、焼付硬化型鋼板の引張り強さの上昇量の最大値である(図3参照)。εBH1は、その引張り強さの上昇量の最大値σBH1が得られる予ひずみのうち最小の予ひずみである(図3参照)。これらε、σ、σBH1及びεBH1を実験により得る。また、εpressは、焼付硬化型鋼板の予ひずみである。すなわち、焼き付け硬化前のプレス加工等を想定して鋼板に与える予ひずみである。k,ε,nは、材料により決定されるパラメータ(材料パラメータ)である。関数max(A,B)は、値Aと値Bのうち大きい方の値を選択する関数である。すなわち、セレクトハイを実現する関数である。関数min(A,B)は、値Aと値Bのうち小さい方の値を選択する関数である。すなわち、セレクトローを実現する関数である。また、前記(4)式の右辺第1項は、Swiftの式に相当する(後述の(9)式参照)。
以上のように、ひずみεに応じて場合分けして、前記(1)式及び(2)式の何れかにより該ひずみεに対応する応力σ(ε)を算出する。
図4は、以上の数式により表現される応力−ひずみ線図を示す。図4に示すように、前記(3)式により得られるσは、前記項目(1)〜項目(3)の特性を表す。すなわち、σは、降伏段の領域(パラメータεの領域)でのひずみεに対応する応力を表す。
また、前記(4)式により得られるσは、前記項目(4)〜項目(6)の特性を表す。すなわち、σは、降伏段後の領域(ε>ε)でのひずみεに対する応力を表す。具体的には、前記(4)式の右辺第2項が、前記項目(5)〜項目(6)の特性を表す。すなわち、前記(4)式の右辺第2項は、前記(5)式に示すように、予ひずみεpressと引張り強さσBHの上昇量との関係を表す。詳しくは、前記図3に示したように、予ひずみεpressがεBH1よりも小さい場合には、引張り強さσBHは、σBH1よりも小さく、予ひずみεpressに応じた値になる(前記項目(5)の特性を表す)。そして、予ひずみεpressがεBH1以上になると、引張り強さσBHは、予ひずみεpressにかかわらず最大値σBH1になる(前記項目(6)の特性を表す)。すなわち、予ひずみεpressが最大値εBH1以上になると、引張り強さσBHは最大値σBH1で飽和する。
また、前記(4)式の右辺第1項を、降伏段後の領域での応力−ひずみ特性を近似的に示すSwiftの式から得ている。これにより、前記(4)式の右辺第1項は、予ひずみεpress及びひずみεに応じて変化する。
また、降伏段の領域では、前記(3)式により得たσを応力σ(ε)にすることも考ることができる(σ(ε)=σ)。しかし、降伏段の領域では、σとσとのうち大きい方の値を選択するようにしている(前記(1)式参照)。これは、数式化した場合に、降伏段の領域では、通常はσがσを下回るので問題はないが、その反対にσがσを下回る場合があるからである。この場合の担保として、大きい方の値を選択するようにした。すなわち、数式化する上で便宜的に選択するようにしている。
図5は、前記数式モデルにより得た応力−ひずみ線図の結果を示す。予ひずみが0%、1%、5%、10%、15%の焼付硬化型鋼板の結果を示す。図5に示すように、降伏段の領域では、ひずみ(相当塑性ひずみ)の増加に対して応力が単調増加する(前記項目(1)の特性を実現)。また、降伏段の領域では、予ひずみが大きくなるほど、焼付硬化型鋼板の応力(降伏強さ)は大きくなる(前記項目(2)及び項目(3)の特性を実現)。また、降伏段後の領域では、予ひずみが大きくなるほど、焼付硬化型鋼板の引張り強さは大きくなる(前記項目(4)及び項目(5)の特性を実現)。また、予ひずみがある程度大きくなると、引張り強さの上昇量は、予ひずみにかかわらず一定値(最大値)になる(前記項目(6)の特性を実現)。この数式モデルの演算結果では、予ひずみの10%と15%とでは、引張り強さの上昇量が一定値になっている。このことから、この数式モデルの演算結果が、少なくとも予ひずみが10%以降で、引張り強さの上昇量が飽和する結果となるのがわかる。
なお、図6には、焼付硬化型鋼板でない鋼板に予ひずみを与えた場合の応力−ひずみ線図を示す。図6に示すように、予ひずみを大きくした場合でも引張り強さが大きくなることはなく、予ひずみの大きさにかかわらずひずみと応力との関係が同じになる。
以上のように、焼付硬化型鋼板の応力−ひずみ線図の特性を数式化することができた。よって、焼付硬化型鋼板の応力−ひずみ線図の特性を数式モデルし、有限要素法による応力解析(例えばCAE解析)の解法に適用することができる。これにより、良好な解析結果を得ることができる。有限要素法による応力解析の解法に適用した例を次に説明する。
(実施形態)
前述の本発明の原理を適用した実施形態を説明する。本実形態では、ひずみ速度を考慮した応力解析の解法に本発明の原理を適用している。
(1)ひずみ速度を考慮した応力演算の従来の技術
従来より、応力ひずみ関係にひずみ速度依存性を考慮した方法が種々提案され、CAE解析に取り込まれている。しかし、そのようなCAE解析の解析結果の精度は十分ではない。例えば、応力ひずみ関係にひずみ速度依存性を考慮するものとして、下記(6)式に示されるCowper−Symondsの式が存在する。
σ=σ(ε)(1+(ε´/C))1/p ・・・(6)
ここで、C,pは定数である。εはひずみ(相当ひずみ又は相当塑性ひずみ)である。ε´はひずみ速度(相当ひずみ速度又は相当塑性ひずみ速度)である。σは降伏応力である。
この(6)式からもわかるように、Cowper−Symondsの式では、ひずみ速度を変化させた場合、ひずみに対して応力は変化する。しかし、異なるひずみ速度で得られる応力について、その比をとった場合、その比がひずみに対して一定値となる。
図7は、JSC270D((社)日本鉄鋼連盟規格による表示)を用いて試験をして得た結果を示す。その結果として、相当塑性ひずみε(ε )と応力比(σ0.002/σ20)との関係を示す。ここで、σ0.002は、ひずみ速度ε´(相当塑性ひずみ速度ε ´)が0.002(1/sec)のときの応力を意味する。σ20は、ひずみ速度ε´(相当塑性ひずみ速度ε ´)が20(1/sec)のときの応力を意味する。
図7に示すように、相当塑性ひずみεに応じて応力比が変化する。この結果は、実際の材料を用いた場合、相当塑性ひずみ速度ε´毎に、相当塑性ひずみεと応力σとの間の関係が格別な関係にあることを示す。しかし、図7に示すように、Cowper−Symondsの式では、相当塑性ひずみに関係なく応力比が一定値となる。すなわち、相当塑性ひずみ速度ε´毎に、相当塑性ひずみεと応力σとの間の関係が格別の関係になっていないことを示す。したがって、Cowper−Symondsの式が応力ひずみ関係にひずみ速度依存性を考慮しているとは言っても、実際には、Cowper−Symondsの式は、実際の材料が示す特性を表現できていない。よって、このようなCowper−Symondsの式をCAE解析等の数値演算に用いた場合、その演算結果が誤差を含むという課題が発生する。
一方、このような課題を解決するものとして、応力ひずみ関係をひずみ速度毎にテーブルを持つ方法が挙げられる。この場合、応力ひずみ関係をひずみ速度毎のテーブルとするには、そのテーブルデータを試験により得なければならない。しかし、試験を行い、ひずみ速度を一定に維持して応力ひずみ関係を得ることは事実上困難であり、試験中、ひずみ速度が大きく変動する場合が多い。また、応力ひずみ関係についてひずみ速度毎にテーブルを持ち、データ(テーブル)のない部分(定義されていない領域)については、その部分のテーブルデータを線形補完等して得る方法も考えられる。しかし、補完する以上、正確な値を導いているとは言い難い。何れにしても、試験を行うことでテーブルを得るため、ひずみ速度を一定に維持して応力ひずみ関係を得ることは事実上困難である。
図8は、応力ひずみ関係を得る試験中の相当塑性ひずみとひずみ速度との関係を示す。図8には、JIS5号引張試験における真ひずみ速度と、比較的小さいひずみ速度(例えば0.002(1/sec))で得た公称ひずみ速度とを示す。図8に示すように、公称ひずみ速度は、相当塑性ひずみの変化に対して振れている。そして、JIS5号引張試験における真ひずみ速度については、相当塑性ひずみの変化に対して大きく変化するようになる。このことから、ひずみ速度を一定にして応力ひずみ関係を試験で得ることが困難であることがわかる。よって、試験により得たデータからなるテーブルデータで補完したとしても、その補完により得た応力ひずみ関係が適切な関係を示しているとは言い難い。
(2)本実施形態におけるひずみ速度を考慮した応力演算(数式モデル化)
先ず、実際の材料を用いて試験を行い、ひずみ速度ε´と応力σとの関係を得た。図9は、その試験で得たひずみ速度ε´と応力σとの関係を示す。図9に示すように、ひずみ速度ε´と応力σとの関係を、ひずみεをパラメータとして得ている。
図9に示すように、ひずみ速度ε´が小さくなると、すなわちlog(ε´)=−∞になると、各ひずみεに対応する応力σがそれぞれ、ある一定の値に漸近する結果を得ることができた。一方、ひずみ速度ε´が大きくなると、すなわちlog(ε´)=∞になると、各ひずみεに対応する応力σが、増加しつつもある値に収束する結果を得ることができた。
さらに、同様な試験を種々の材料を用いて行った。その結果、材料毎に定量的には異なるが、定性的には同様な結果を得た。すなわち、どの材料でも、ひずみ速度ε´が小さくなると、すなわちlog(ε´)=−∞になると、各ひずみεに対応する応力σがそれぞれ、ある一定の値(この値自体は異なるが)に漸近する特性をとなった。一方、どの材料でも、ひずみ速度ε´が大きくなると、すなわちlog(ε´)=∞になると、各ひずみεに対応する応力σが、増加しつつもある値(この値自体は異なるが)に収束する特性となった。そして、このような応力σ、ひずみε及びひずみ速度ε´の間の関係を数式表現として下記(7)式を得た。
(σ−σ)(σ−(b・log(ε´)+c))=d ・・・(7)
ここで、σは、ひずみεを変数とする値である(下記(8)式)。具体的には、σは、ひずみ速度ε´が無限小のときの静的な応力である。b,c,dは材料によって決まる定数である。すなわち、b,c,dは材料固有のパラメータであり、材料毎のひずみ速度依存性を適切に示すパラメータとなる。
σ=σ(ε) ・・・(8)
例えば、前記(8)式を下記(9)式として示すSwiftの式で与えることができる。
σ(=σ(ε))=k(ε+ε) ・・・(9)
ここで、k,ε,nは、ひずみ依存性を表現する定数(材料パラメータ)である。
本来であれば、前記(9)式として示すSwiftの式で前記(8)式を与えることができる。これに対して、本実施形態では、σに、前記(1)式及び(2)式の何れかにより得られる応力σ(ε)を用いている。
図10は、ある材料について、前記(7)式により得られる特性図を示す。図10に示すように、ひずみ速度ε´が小さくなると、すなわちlog(ε´)=−∞になると、各ひずみε(=ε,ε,・・・,ε)に対応する応力σがそれぞれ、ある一定の値に漸近する特性を示す。また、ひずみ速度ε´が大きくなると、すなわちlog(ε´)=∞になると、各ひずみε(=ε,ε,・・・,ε)に対応する応力σが、増加しつつもある値に収束する特性を示す。
この図10の特性図と前記図9の試験結果とを比較してもわかるように、前記(7)式は、試験結果を適切に示す数式モデルとなる。すなわち、前記(7)式は、応力σ、ひずみε及びひずみ速度ε´の間の関係を適切に示す数式モデルとなる。よって、前記(7)式を用いることで、適切なひずみ速度依存性をもって応力ひずみ関係を得ることができる。
以上のように、前記(7)式として、ひずみ速度ε´を適切に考慮した応力ひずみ関係を得ることができる。よって、前記(7)式で示される応力ひずみ関係を、有限要素法による応力解析(例えばCAE解析)の解法に適用すれば、良好な解析結果を得ることもできる。以下に説明する実施形態では、焼付硬化型鋼板の応力−ひずみ線図の数式モデル化とこの(7)式とを用いた応力演算の一例を示す。
(3)応力演算の具体例
応力シミュレーションを行う応力演算装置により演算を行う。応力解析対象の鋼材は、焼付硬化型鋼板である。
図11は、その応力演算装置の構成の一例を示す。図11に示すように、応力演算装置は、操作者の外部操作によりデータが入力される入力部1、各種データを用いて演算を行う演算処理部2、モニター等、演算結果を出力する出力部3、及びデータが記憶される記憶部4を有する。応力演算装置は、例えばパーソナルコンピュータにより構成されている。
図12は、応力演算装置を用いた応力演算の処理手順を示す。本実施形態では、応力演算処理は、有限要素法の動的陽解法を採用して構築されている。
先ず、処理を開始すると、ステップS1において、有限要素法の演算で必要となる節点及び要素データが演算処理部2に入力される。例えば、記憶部4からそのデータが入力される。
続いてステップS2において、材料特性データが演算処理部2に入力される。例えば、入力部1からそのデータが入力される。ここで、材料特性データとは、該応力演算処理の対象となる材料固有のデータであり、すなわち、前記(7)式に示すb,c,d等を含むデータである。
続いてステップS3において、有限要素法の演算で必要となる境界条件が演算処理部2に入力される。例えば、記憶部4からそのデータが入力される。
続いてステップS4において、演算処理部2は、有限要素法の演算で必要となる質量及び減衰マトリックスを作成する。
続いてステップS5において、演算処理部2は、下記(10)式で表現される形状関数を作成する。
{u}=[N]{u} ・・・(10)
続いてステップS6において、演算処理部2は、下記(11)式で表現されるBマトリックスを作成する。
{ε}=[B]{u} ・・・(11)
続いてステップS7において、演算処理部2は、下記(12)式で表現される材料構成方程式のDマトリックスを作成する。
{σ´}=[D]{ε´} ・・・(12)
この(12)式を具体的にプラントル・ロイスの式に基づいた等方硬化の構成式を例として記述すると、下記(13)式のようになる。
Figure 0005131212
ここで、前記(12)式又は(13)式中のD値を下記(14)式のように表現できる。
Figure 0005131212
ここで、Eは縦弾性係数(ヤング率)であり、Gは横弾性係数であり、νはポアソン比である。
さらに、演算では、下記(15)式及び(16)式の条件を満たすことが前提となる。
Figure 0005131212
例えば、演算では、前記(16)式で得られる値dε を時間ステップ間の相当塑性ひずみの増分として、各時間ステップにおける相当塑性ひずみε を得ている。
図13は、等方硬化における降伏曲面の変化のイメージを示す。図13では、せん断応力τの変化を無視できるよう、主応力σ1,σ2の方向(主軸方向)でみた、降伏曲面の変化を示す。等方硬化における降伏曲面は、図13に示すように拡大するものである。そして、以上のように示される等方硬化の構成式である(13)式に応力ひずみ関係を示す前記(7)式を適用する。
例えば、前記(14)式中、H´は、応力(具体的には相当応力)σを相当塑性ひずみε で微分した値であり、下記(17)式として示される。
H´=dσ/dε ・・・(17)
この(17)式中の相当応力σに前記(7)式で得られる応力を適用する。その適用については、具体的には、前記(7)式を下記(18)式に示す表現に変化させて行う。
(σ−σa0)(σ−(b・log(ε ´)+c))=d ・・・(18)
ここで、σは相当ひずみである。ε は相当塑性ひずみである。ε ´は相当塑性ひずみ速度である。σa0は相当塑性ひずみ速度ε ´が0の場合の応力であり、相当塑性ひずみε のみの関数となる。すなわち、σa0を下記(19)式として表せる。
σa0=σa0(ε ) ・・・(19)
ここで、σa0が焼付硬化型鋼板の応力−ひずみ線図の数式モデル化により得られる値になる。すなわち、σa0は、ひずみε に応じて、下記(20)式及び(21)式の何れかにより与えられる。
ε ≦εの場合
σa0=max(σ(ε ),σ(ε )) ・・・(20)
ε >εの場合
σa0=σ(ε ) ・・・(21)
ここで、σ(ε )、σ(ε )は、前記(3)式〜(5)式を用いて得る。
なお、前記(18)式を下記(22)式として示すこともできる。
Figure 0005131212
また、ここで、σa0を下記(23)式に示すSwiftの式を用いるとすれば、焼付硬化型鋼板以外の鋼板を対象として応力解析することができる。
σa0=k(ε+ε ・・・(23)
この場合、例えば、演算対象となる材料がJSC270D((社)日本鉄鋼連盟規格による表示)であるとすれば、定数(材料パラメータ)は、k=602.9、ε=0.00575、n=0.360、b=59.75、c=13.24、d=34195.5になる。また、演算対象となる材料がJSC980Y((社)日本鉄鋼連盟規格による表示)であれば、k=1548.6、ε=0.000392、n=0.172、b=82.43、c=−319.6、d=317604になる。
以上のような関係により、Dマトリックスを作成する。
なお、以上の(18)式及び(22)式は、有限要素法を用いた演算では流動応力曲線の式(流動応力式)をなすものである。そこで、一般化した場合、Cowper−Symondsの式も含めて、下記(24)式のように表現できる。
σ=H(σ ,σ ´) ・・・(24)
続いてステップS8において、演算処理部2は、材料を変形させる節点内力F及び節点外力Pを与え、続くステップS9において、運動方程式の差分計算を行う。そして、演算処理部2は、続くステップS10において、変位増分、ひずみ増分及び応力増分を得る。
続いてステップS11において、演算処理部2は、前記ステップS10で算出した変位増分、ひずみ増分及び応力増分を基に、演算対象の材料について、座標及び応力を更新する。
続いてステップS12において、演算処理部2は、最終時間ステップか否かを判定する。ここで、演算処理部2は、最終時間ステップである場合、該処理を終了し、最終時間ステップでない場合、ステップS13に進む。
ステップS13では、演算処理部2は、演算処理の時間ステップを増加させて、前記ステップS5から処理を再び開始する。すなわち、演算処理部2は、ステップS5〜ステップS11の処理を最終時間ステップになるまで時間ステップを増加させながら実行する。
そして、演算処理部2の演算結果は、記憶部4に記憶されたり、出力部3に出力されたりする。
以上のように、焼付硬化型鋼板の特性及びひずみ速度ε´を考慮した応力ひずみ関係を基に(前記(1)式〜(5)式、(18)式又は(22)式)、有限要素法の応力演算を行っている。例えば、このような応力演算は、自動車等の鉄鋼・金属材料の衝突性能評価の解析に用いることができ、例えば、自動車の衝突安全性を評価するためのシミュレーションに用いることができる。
(本実施形態の作用及び効果)
前述のように、予ひずみを与えた後に焼付け処理して焼付け硬化させた焼付硬化型鋼板について、予ひずみεpressに対応させて降伏段後の領域での応力の増分σBHを適切に算出できる(前記(5)式)。
これにより、加工ひずみに依存した焼付け硬化による材料特性を適正に見積もることができる。
また、前述のように、焼付硬化型鋼板の応力σ(ε)とひずみεとの関係をSwiftの式に適用して得ている(前記(4)式の右辺第1項)。
これにより、加工ひずみに依存した焼付け硬化による材料特性(焼付硬化型鋼板の材料特性)を適正に見積もることができる。
また、前述のように、ひずみεを増加していくときに通過する降伏段の領域では、εを該降伏段の領域の一定のひずみ値として、σを前記ひずみεのときの一定の応力値として与えて、鋼材の応力σ(ε)とひずみεとの関係を適切に算出できる(前記(3)式)。
これにより、加工ひずみに依存した焼付け硬化による材料特性を適正に見積もることができる。
また、前述のように、焼付硬化型鋼板の特性を適切に反映した応力ひずみ関係を示す数式(前記(1)式〜(5)式、前記(20)式〜(21)式)を得て、その数式を用いて応力演算を行っている。すなわち、焼付硬化型鋼板の材料特性を適正に見積もり、真の材料特性を再現した数式を用いて応力演算を行っている。
これにより、高い精度の応力演算を実現できる。また、テーブルデータを使う場合と比較した場合に、データ入力を簡略化できる。
また、前述のように、ひずみ速度依存性を適切に反映した応力ひずみ関係を示す数式((7)式、(18)式又は(22)式)を得て、その数式を用いて応力演算を行っている。すなわち、応力ひずみ関係に実際に発生しているひずみ速度依存性を反映させ、真の材料特性を再現した数式を用いて応力演算を行っている。
これにより、高い精度の応力演算を実現できる。また、テーブルデータを使う場合と比較した場合に、データ入力を簡略化できる。
図14〜図16は、ひずみ速度を考慮した演算を評価するために得た結果である。なお、ここでは、焼付硬化型鋼板以外の鋼板を演算対象としている(例えば前記(23)式に示すSwiftの式を用いて演算している)。
先ず、図14は、前記図12に示す演算処理で得た応力(回帰式推定応力)と、その演算条件と同一条件で実際に試験を行って得た応力との関係を示す。図14の結果は、演算対象の材料をJSC270Dとして得た結果である。図14に示すように、演算処理で得た応力と実験で得た応力とが略一致している。
図15は、前記図12に示す演算処理で得た相当塑性ひずみと応力(相当応力)との関係を示す。図15の結果は、演算対象となる材料をJSC270Dとして得た結果である。図15に示すように、相当塑性ひずみと応力との関係を相当塑性ひずみ速度ε ´毎に格別の特性を有するものとして得ることができる。
図16は、前記図12に示す演算処理により相当塑性ひずみと応力との関係を示す。図16の結果は、演算対象となる材料をJSC980Yとして得た結果である。図16に示すように、材料をJSC980Yとした場合でも同様、相当塑性ひずみと応力との関係を相当塑性ひずみ速度ε ´毎に格別の特性を有するものとして得ることができる。
(本実施形態の変形例)
(1)BH(Bake Hardening)鋼も演算対象とすることもできる。BH 鋼板は、BHT鋼板と異なり、降伏段後の領域での引張り強さが上昇せず、降伏段の領域(前記図1で言えばA,Bの領域)での強さだけが上昇する鋼板である。よって、このBH鋼板を演算対象とする場合には、BHT鋼板で考慮した降伏段後の領域での引張り強さを考慮することなく、その演算を実施する。具体的には、前記(4)式の右辺第2項(σBH(εpress)、前記(5)式)を零として演算を実施する。
(2)この実施形態では、応力演算に用いる有限要素法が動的陽解法のものである場合を説明した。しかし、動的陽解法を用いることに限定されるものではない。
(3)この実施形態では、前記図12を用いて前記(7)式を適用した応力演算処理の処理手順の一例を示した。しかし、前記(7)式が適用される演算処理は、これに限定されるものではない。
(実施例)
適用材に対して圧潰試験を実施した。
(1)適用材
適用材は、590MPa級の焼付け硬化鋼1.2mmの材料である。前記図2は、この適用材に対して予め引張りによる塑性ひずみ(予ひずみ)を与え、その後、170℃で20分間焼付け処理を行い、その後に再度の引張試験で得られる特性である。
(2)圧潰試験
図17は、圧潰試験機の構成を示す。図17に示すように、圧潰試験機は、三点曲げ圧潰試験機である。圧潰試験では、前記適用材から形成した試験片100を2点の支持点201,202で支持して、パンチ203で圧潰する。ここで、前記適用材の板材(590MPa級の焼付け硬化鋼1.2mm)をしわ押さえを用いたドローフォーム成形によりハット材に加工して、スポット溶接を行い、筒状にした。そして、170℃で20分間焼付け処理を行い、試験片100を得ている。また、ハット材の寸法は、フランジ長さを25mmにし、ハット部の形状を60×60mmの断面にしている。
また、異なる圧潰速度で試験を行った。具体的には、低速の0.1m/sと高速の10m/sとで圧潰試験を行った。ここで、ひずみ速度依存性を考慮しない場合の比較のために低速の試験を行った。また、ひずみ速度依存性を考慮する場合の比較のために高速の試験を行った。そして、高速で10m/sとしたのは、自動車の衝突解析では、ひずみ速度が速いところで数百になるために、その条件に近づけるためである。
(3)CAE解析(本発明の適用例と比較例)
前記圧潰試験に対応して本発明の適用例と比較例とでCAE解析を行った。本発明を適用した実施例1〜3として、前述の実施形態で説明した応力シミュレーションを行う応力演算を適用したCAE解析を行った。具体的には、実施例1は、降伏段後の応力式として、Swiftの式を適用して降伏段後の応力σ(前記(4)式及び(5)式)を得る式を用いてCAE解析を行った(請求項1+請求項2の発明に対応)。また、実施例2は、実施例1の演算条件に加えて、降伏段の応力式として前記(3)式によりσを得る式を用いてCAE解析を行った(請求項1+請求項2+請求項3の発明に対応)。また、実施例3は、実施例1,2の演算条件に加えて、ひずみ速度依存性を考慮してCAE解析を行った(請求項1+請求項2+請求項3+請求項4の発明に対応)。
また、比較例1では、予ひずみを0.02(2%)毎に変化させて焼付け処理して得たデータテーブルを用いたCAE解析を行った。すなわち、各メッシュ毎(別層)に適宜データテーブルを割り当ててCAE解析を行った。また、比較例2では、加工ひずみ(予ひずみ)を与えるが、焼付け処理していない条件でCAE解析を行った。また、比較例3では、加工ひずみ(予ひずみ)を与えるとともにひずみ速度依存性を考慮するが、焼付け処理していない条件でCAE解析を行った。
(4)試験結果及びその比較例の結果
パンチ203が50mmストロークするまでに受けた反力の時間積分値、すなわち試験片の吸収エネルギーを試験結果(実験吸収エネルギー)として、その試験結果を評価基準とした。そして、図18及び図19のような、CAE解析結果(CAE吸収エネルギー)との対比結果(CAE吸収エネルギー/実験吸収エネルギー)を得た。図18は、パンチ速度が遅い0.1m/sであるときの評価基準に対するCAE解析の対比結果である。また、図19は、パンチ速度が速い10m/sであるときの評価基準に対するCAE解析の対比結果である。
図18の結果によれば、本実施例1,2はともに、比較例1に比べて、吸収エネルギーが試験結果(評価基準)に近くなっている。また、本実施例2は、降伏段を考慮したものであり、本実施例1よりも吸収エネルギーが試験結果に近くなっている。
また、図19の結果によれば、本実施例3は、比較例3に比べて、吸収エネルギーが試験結果に近くなっている。また、本実施例1と比較すると、パンチ速度が速い(ひずみ速度が速い)場合には、ひずみ速度依存性を考慮する本実施例3の方が試験結果に近くなっている。
1 入力部、2 演算処理部、3 出力部、4 記憶部

Claims (4)

  1. 予ひずみを与えた後に焼付け処理して焼付け硬化させた鋼材の応力σとひずみεとの関係を推定する材料状態推定方法において、
    前記予ひずみεpressを零から増加させたときに塑性域にて得られる鋼材のひずみεに対する応力σの増加量飽和値をσBH1とし、前記増加量飽和値σBH1が得られる予ひずみεpressのうち最小の予ひずみをεBH1とし、関数min(σ BH1 ,(σ BH1 ・ε press )/ε BH1 )をσ BH1 (σ BH1 ・ε press )/ε BH1 のうち小さい方の値を選択する関数としたときに、予ひずみεpressに対応させた塑性域での応力の増分σBHを示す下記式
    σBH=min(σBH1,(σBH1・εpress)/εBH1
    を基に、鋼材の応力σとひずみεの関係を推定することを特徴とする材料状態推定方法。
  2. k,ε,nをそれぞれ定数として得られる下記Swiftの式
    k(ε+εpress+ε)
    を用いて、塑性域の鋼材の応力σ(ε)とひずみεとの関係を下記式
    σ(ε)=k(ε+εpress+ε)+min(σBH1,(σBH1・εpress)/εBH1
    により推定することを特徴とする請求項1に記載の材料状態推定方法。
  3. ひずみεを増加していくときに通過する降伏段の領域では、εを該降伏段の領域の一定のひずみ値として、σを前記ひずみ値εのときの一定の応力値として与えて、鋼材の応力σ(ε)とひずみεとの関係を下記式
    σ(ε)=σexp(ε−ε
    により推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の材料状態推定方法。
  4. ε´をひずみ速度とし、b,c,dを材料に応じて設定される定数として、下記式
    (σ−σ(ε))(σ−(b・log(ε´)+c))=d
    で示される応力σ、ひずみε及びひずみ速度ε´の関係を基に、有限要素法を用いた数値解析により材料の状態を推定することを特徴とする請求項3に記載の材料状態推定方法。
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