JP5127190B2 - ポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム - Google Patents
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Description
ポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを製造するにあたり、広く用いられる製造方法であるインフレーション製膜方法(図1参照)においては、ダイから管状に押し出された樹脂組成物を外側は冷水、ダイ口とピンチロールとに挟まれた内側はミネラルオイル等公知の冷媒中に通して冷却し固化させて成形される。この時の内側のダイ口とピンチロールとに挟まれた筒状の部分をソック、この内部に封入する冷媒をソック液と称する。また、ピンチロールで折り畳まれた環状ダブルプライシートをパリソンと称する。さらにこのパリソンは、再加熱し内部にエアを吹き込むこと(インフレーション)にて延伸される。得られたダブルプライフィルムはスリットされて、1枚のフィルムになるように剥がされる。最終的には、紙管に巻き取られ、紙管巻きラップフィルムが得られる。
このとき用いられる樹脂組成物中の添加剤として、良好な加工性と良好な物性を得るために、ポリ塩化ビニリデン系樹脂に、安定剤として、例えばエポキシ化大豆油(以下、ESO、と称す)等に代表されるエポキシ化植物油、可塑剤として、例えばアセチルトリブチルサイトレート(以下、ATBC、と称す)やアセチル化モノグリセライド(以下、ACGL、と称す)等を添加することは公知である。
リードアウトして密着発現に影響するために、温度履歴が過剰な場合には、フィルムの過剰密着現象やそれに伴う引出性の著しい低下等、物性の経時変化が深刻で、ラップフィルムの使い勝手性の改善のためにこの問題の解決が強く求められていた。
ところが近年、特許文献2に記載されているように、過酸化水素を酸化剤として用いる方法(過酸化水素法)により製造されたESOにおいて、特にESOの過酸化物価を13以下に制限することによって成形後にも臭気を抑えることができるようになった。そのため、食品包装用ラップフィルムにこのESOを用いることが可能になった。このESOを用いて製造されたラップフィルムは従来ESO(過酢酸法)と比較して、画期的にその臭気を抑えることが可能になったが、残念なことに僅かに従来の過酸化水素法特有の臭気が残存し、特に臭気に敏感な消費者に対し、その要求物性を満たすには至らなかった。
[1]安定剤として、過酸化水素法により製造され、過酸化物価が13以下であるエポキシ化大豆油を0.2〜3.0重量%配合してなるポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって、エポキシ化大豆油をポリ塩化ビニリデン系樹脂に添加した後、乾燥させることで、原料ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量を0.01〜1ppmとし、かつ、フィルム製造後のフィルム中のエポキシ化大豆油のエポキシ開環率が50%以内であることを特徴とするポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
[2]ポリ塩化ビニリデン系樹脂に対する添加剤の総添加量が、4.0〜10.0重量%であることを特徴とする[1]記載のポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
本発明が従来技術と最も相違するところは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂に安定剤として、過酸化水素法により製造され、過酸化物価が13以下であるESOを0.2〜3.0重量%配合してなるポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって、原料ポリ塩化ビニ
リデン系樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量を0.01〜1ppmまで乾燥除去され、かつ、フィルム製造後のフィルム中のエポキシ化大豆油のエポキシ開環率が50%以内であることにある。
ESOの添加量が0.2重量%を下回ると、ESOによる樹脂の安定化効果が少なすぎて、押出時の樹脂の熱劣化が進み、フィルムの黄変や脆化が生じ、3.0重量%を上回ると、ESOの樹脂安定化効果は十分なもののESO本体から発生する臭気が問題となる。そのため、ESO添加量は、好ましくは0.2〜3.0重量%、更に好ましくは0.8〜1.5重量%付与される。
これらの条件を満たすことにより、得られるラップフィルムは、臭気を克服し、かつ、熱分解を抑制することを両立し、更にはフィルムの過剰密着現象や引出性の低下等、物性の経時変化も少なく、トルク変動等の押出特性も安定した物性を有する。
図1は、ラップフィルムの製造工程の一例の概略図である。
まず、溶融した塩化ビニリデン系共重合体組成物が押出機(1)により、ダイ(2)から管状に押出され、ソック(4)が形成される。ソック(4)の外側を冷水槽(6)にて冷水に接触させ、ソック(4)の内部にはソック液(5)を注入することにより、内外から冷却して固化させる。固化されたソック(4)は、第1ピンチロール(7)にて折り畳まれ、パリソン(8)が成形される。
ソン(8)の開口剤としての効果を発現する。パリソン(8)は、温水により延伸に適した温度まで再加熱される。パリソン(8)の外側に付着した温水は、第2ピンチロール(9)にて搾り取られる。適温まで加熱された管状のパリソン(8)にエアを注入してバブル(10)を成形し、延伸フィルムが得られる。その後延伸フィルムは、第3ピンチロール(11)で折り畳まれ、ダブルプライフィルム(12)となる。ダブルプライフィルム(12)は、巻き取りロール(13)にて巻き取られる。さらに、このフィルムはスリットされて、1枚のフィルムになるように剥がされる。最終的にこのフィルムは紙管に巻き取られ、紙管巻きのラップフィルムが得られる。
本発明の効果を損なわない範囲であれば、該樹脂に、公知の食品包装材料に用いられる可塑剤、安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS等のポリマー等を添加してもよい。
本発明のフィルムは、例えば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂と種々の添加剤とを、必要に応じてリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等で均一に混合させ、24時間熟成した後、該樹脂組成物を溶融押出し、インフレーション延伸して得られる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、該樹脂に、公知の食品包装材料に用いられる可塑剤、安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS等のポリマー等を添加することもできる。これらは製膜までのいずれの段階で添加してもよい。上述の方法により得られるラップフィルムは、製造直後より良好な密着性を有し、夏と冬との季節間差の少ない安定的な密着性を有し、かつ高い密着性と優れた引出性という背反する特性が両立、かつ向上したラップフィルムが得られる。
実施例および比較例で用いた評価方法は、以下の通りである。
(評価方法)
(1.熱分解性)
製膜直後の20m巻ラップフィルムを切り出し、JIS Z8722に準じて、測色色差計(透過)にて劣化着色の程度(b値)を測定評価する。
評価記号 b値 判定
○ 2.5未満 熱劣化を抑制し着色の程度は小さい
× 2.5以上 熱劣化を抑制できておらず着色の程度は大きい
押出時のトルクの経時(2時間後)における変動を評価する。
評価記号 判定
○ トルク変動の値が一定幅内で安定している
× トルク変動の値が上昇や下降、乱高下している
得られたパリソンの開口性を延伸伝播の観点から評価する。
評価記号 判定
○ 第2ピンチロール出すぐの位置でパリソンが十分開いている
△ 第2ピンチロール出すぐの位置でパリソンの端部が完全に開かずに
融着した部分がある
× 第2ピンチロール出すぐの位置から常時融着してパリソンは全く開か
ない
製膜後のフィルムのESO臭気に関し、官能評価にて評価する。
評価記号 判定
○ 臭気に敏感な人でも全く気にならないレベル
△ 臭気に敏感な人には臭気が感じとられるレベル
× 臭気に敏感な人でなくとも臭気が感じとられるレベル
ラップフィルム中に残存するESO由来の臭気原因となる低沸成分除去の指標として、塩化ビニリデンモノマー残存量を測定する。
ポリマーサンプル5gをバイアル管に入れ、セプタム及びアルミキャップを被せる。加熱装置にバイアル管をセットし、100℃で60分加温保持した。保持条件終了後、バイアル管の気相部を0.8ml採取し、ガスクロマトグラフに打ち込み、FIDにて検出、分析した。
評価記号 モノマー残存量 判定
○ 0.01以上1.0未満 乾燥条件が良好で、樹脂劣化せず低沸成分も
十分除去されている
× 0.01未満 乾燥条件が過酷で、樹脂劣化が進んでいる
1.0 以上 乾燥条件が不十分で、低沸成分が除去できて
いない
ラップフィルム中に添加しているエポキシ化植物油の、樹脂の熱分解時に発生する塩酸を捕捉した指標として、エポキシ化植物油中のエポキシ基の開環率を測定する。
フィルムサンプル3gをTHF/メタノール再沈し、再沈濾液を濃縮・乾固した後、クロロホルムで5mlにメスアップして、大量分取型GPCで、エポキシ化植物油成分を分取した。
分取物を1H−NMR分析(256回積算)し、分取物と標準サンプル(エポキシ化植物油)それぞれの、2.2〜2.4ppm(エステルの横CH2基)と2.8〜3.3ppm(エポキシの付いたCH基)の比からエポキシ基の開環率を求めた。
製膜後のフィルムの28℃1ヶ月保管後の密着仕事量を評価する。まず、底面積25cm2、高さ55mm、重さ400gのアルミ製の円柱形の治具を2個用意し、双方の治具の底面に、底面と同形の濾紙を貼り付けた。双方の濾紙を貼り付けた治具の底面に皺が入らないようにラップフィルムを被せ、輪ゴムで抑えて固定した。このラップフィルムを被せた2個の治具を、ラップフィルムを被せた側の面がピッタリ重なり合うように合わせて、加重500gで1分間圧着した。次いで、引張圧縮試験機にて5mm/分の速度で、そのラップフィルム面同士を相互に面に垂直方向に引き剥がすときに必要な仕事量を測定した(単位 mJ/25cm2)。なおこの測定は、23℃、50%RHの雰囲気中で行なった。
<28℃1ヶ月保管後の密着仕事量>
評価記号 仕事量(mJ) 判定
○ 2.0以上2.5未満 バランスの取れた十分な密着性を有し、
優れたレベルにある
△ 2.5以上3.2未満 密着性が高すぎ、取扱性に劣る
× 3.2以上 密着性が非常に高すぎ、取扱性が著しく
劣る
密着仕事量が2.5mJ以上となると、密着性が高すぎ取扱性に劣る、過剰密着領域にあると判断される。
これら前述の評価結果をもとに、総合的な評価を行なう。
[実施例1]
重量平均分子量9万のポリ塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン成分が90重量%、塩化ビニル成分が10重量%)、ATBC、及び過酸化水素法で製造されたESO(ニューサイザー510R、日本油脂(株))を、それぞれ93.0重量%、5.5重量%及び1.5重量%(総添加量7.0重量%)の割合で混合したポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を乾燥温度約80℃、風量35〜40m3/hr、滞留時間3時間の条件にて流動乾燥機により乾燥(塩化ビニリデンモノマー残存量:0.09ppm)した後、300kg/hrの押出速度で管状に押出し、10℃の水で急冷固化した。この時、形成されたソック内部に、(スモイルP−70S、(株)松村石油研究所)と水との混合物を流し込み、ソック液とした。更に45℃の温水で加熱した後、インフレーション法により延伸して筒状フィルムとし、この筒状フィルムをピンチして扁平に折り畳み、折り幅1,900mm、厚さ10μmの2枚重ねのフィルムを巻取速度100m/分にて巻き取り、延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を、乾燥温度約80℃、滞留時間24時間の条件にて箱型乾燥機により乾燥(塩化ビニリデンモノマー残存量:1.5ppm)した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂の添加剤組成として、実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂、ATBC、及び過酢酸法で製造されたESO(ニューサイザー510RS、日本油脂(株))を、93.0重量%、5.5重量%及び1.5重量%(総添加量7.0重量%)の割合の割合で混合した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂の添加剤組成として、実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂、ATBC、及びELOを、93.0重量%、5.5重量%及び1.5重量%(総添加量7.0重量%)の割合の割合で混合した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂の添加剤組成として、実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂、ATBC、及び過酸化水素法で製造されたESO(ニューサイザー510R、日本油脂(株))を、それぞれ89.5重量%、7.0重量%及び3.5重量%(総添加量10.5重量%)の割合で混合した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを
得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂の添加剤組成として、実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂、ATBC、及び過酸化水素法で製造されたESO(ニューサイザー510R、日本油脂(株))を、それぞれ96.32重量%、3.5重量%及び0.18重量%(総添加量3.68重量%)の割合で混合した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
2 ダイ
3 ダイ口
4 管状の塩化ビニリデン系共重合体組成物(ソック)
5 ソック液
6 冷水槽
7 第1ピンチロール
8 パリソン
9 第2ピンチロール
10 バブル
11 第3ピンチロール
12 ダブルプライフィルム
13 巻き取り原反
Claims (2)
- 安定剤として、過酸化水素法により製造され、過酸化物価が13以下であるエポキシ化大豆油を0.2〜3.0重量%配合してなるポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって、エポキシ化大豆油をポリ塩化ビニリデン系樹脂に添加した後、乾燥させることで、原料ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量を0.01〜1ppmとし、かつ、フィルム製造後のフィルム中のエポキシ化大豆油のエポキシ開環率が50%以内であることを特徴とするポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
- ポリ塩化ビニリデン系樹脂に対する添加剤の総添加量が、4.0〜10.0重量%であることを特徴とする請求項1記載のポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
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