つぎに、この発明を図面を参照しながら具体的に説明する。図14は、この発明を適用した車両Veのギヤトレーン図である。図14において、符号1は車両Veの動力源としての内燃機関1であり、この内燃機関1としては、具体的にはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどのエンジンが用いられる。なお、以下の説明においては、動力源1をエンジン1として、便宜上、ガソリンエンジンを用いた場合について説明する。
エンジン1のクランクシャフト2すなわち出力軸2が車両Veの幅方向に配置されている。そして、そのエンジン1の出力軸2に、トルクコンバータ3、および前後進切換機構4を介して、無段変速機5が連結されている。
エンジン1の出力側に連結されたトルクコンバータ3は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン1の出力軸2が連結されたフロントカバー6にポンプインペラー7が一体化されており、そのポンプインペラー7に対向するタービンランナー8が、フロントカバー6の内面に隣接して配置されている。これらのポンプインペラー7とタービンランナー8とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラー7が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナー8に送ることによりタービンランナー8にトルクを与えて回転させるようになっている。
また、ポンプインペラー7とタービンランナー8との間でこれらの内周側の位置には、タービンランナー8から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラー7に流入させるステータ9が配置されている。このステータ9は、一方向クラッチ10および中空軸11を介してケーシング12に固定されている。
またトルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ13を備えている。ロックアップクラッチ13は、ポンプインペラー7とタービンランナー8とステータ9とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー6の内面に対向した状態で前記タービンランナー8に保持されており、油圧によってフロントカバー6の内面に押し付けられて係合状態にされることにより、入力部材であるフロントカバー6から出力部材であるタービンランナー8に直接、言い換えると、機械的にトルクを伝達するようになっている。なお、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ13のトルク容量を制御できる。
トルクコンバータ3と前後進切換機構4との間に、オイルポンプモータ14が設けられている。このオイルポンプモータ14は、外部から動力を受けてポンプとして機能し、また外部から油圧を供給されることによりモータとして機能する流体装置であり、すなわち、エンジン1の出力する動力により駆動されてポンプとして機能して油圧を発生させるとともに、外部から油圧が供給されることによりモータとして機能して動力を出力するポンプモータである。そして、このオイルポンプモータ14は、従来一般的に用いられているオイルポンプに換えて設けられている。
この発明に係る車両のエネルギ回生装置は、既存の装置を大幅に変更することなく、車両Veの運動エネルギを油圧に変換して蓄圧し、その蓄圧した油圧によって動力を発生させてエンジン1の出力に付加する、すなわちエンジン1のトルクをアシストすることを目的として構成されている。そのために、従来一般の自動変速機や無段変速機などで採用されている既存のオイルポンプに換えて、油圧を受けて動力を出力することができるオイルポンプモータ14が設置されている。したがって、このオイルポンプモータ14の設置は、従来のオイルポンプとこのオイルポンプモータ14とを入れ換えることにより容易に行うことができ、既存の装置の構造をほとんど変更することなく容易にオイルポンプモータ14を設置することができる。
上記のオイルポンプモータ14のロータ(もしくは入出力軸)15と、ポンプインペラー7とが円筒形状のハブ16により接続されている。また、オイルポンプモータ14のボデー17は、ケーシング12側に固定されている。さらに、ハブ16と中空軸11とがスプライン嵌合されている。この構成により、エンジン1の動力がポンプインペラー7を介してロータ15に伝達され、オイルポンプモータ14を駆動することができる。
前後進切換機構4は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図14に示す例では、前後進切換機構4としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
すなわち、サンギヤ18と同心円上にリングギヤ19が配置され、これらのサンギヤ18とリングギヤ19との間に、サンギヤ18に噛合したピニオンギヤ20とそのピニオンギヤ20およびリングギヤ19に噛合した他のピニオンギヤ21とが配置され、これらのピニオンギヤ20,21がキャリヤ22によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、2つの回転要素(具体的にはサンギヤ18とキャリヤ22と)を一体的に連結する前進用クラッチ23が設けられ、またリングギヤ19を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ24が設けられている。
無段変速機5は、従来知られているベルト式の無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された入力部材としての駆動(プライマリ)プーリ25と出力部材としての従動(セカンダリ)プーリ26とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ27,28によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリ25,26の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリ25,26に巻掛けた伝動部材としてのベルト29の巻掛け半径(プーリ25,26の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリ25が前後進切換機構4における出力要素であるキャリヤ22に連結されている。これらの各プーリ25,26およびベルト29が無段変速部を構成している。
なお、従動プーリ26における油圧アクチュエータ28には、無段変速機5に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、前記のオイルポンプモータ14および油圧制御装置(図示せず)を介して供給されている。したがって、従動プーリ26における各シーブがベルト29を挟み付けることにより、ベルト29に張力が付与され、各プーリ25,26とベルト29との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対して駆動プーリ25における油圧アクチュエータ27には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
無段変速機5の出力部材である従動プーリ26がギヤ対30およびディファレンシャル31に連結され、さらにそのディファレンシャル31が左右の駆動輪32に連結されている。
上記のエンジン1および無段変速機5を搭載した車両Veの動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサが設けられている。例えば、エンジン1の出力軸回転速度(ロックアップクラッチ13の入力軸回転速度)を検出して信号を出力するエンジン回転速度センサ33、駆動プーリ25の回転速度を検出して信号を出力する入力軸回転速度センサ34、従動プーリ26の回転速度を検出して信号を出力する出力軸回転速度センサ35、従動プーリ26側の油圧アクチュエータ28における油圧を検出して信号を出力する油圧センサ36、駆動輪32の回転速度を検出して信号を出力する車輪速センサ37、運転者によるアクセルペダルの踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み角度)やアクセルスイッチのON・OFFを検出して信号を出力するアクセルペダルセンサ38、運転者によるブレーキペダルの踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み角度)やブレーキスイッチのON・OFFを検出して信号を出力するブレーキペダルセンサ39などが設けられている。
そして、上記の前進用クラッチ23および後進用ブレーキ24の係合・解放の制御、およびベルト29の挟圧力の制御、ならびにロックアップクラッチ13の係合・解放を含むトルク容量の制御、さらには変速比の制御などを行うために、変速機用電子制御装置(TM−ECU)40が設けられている。また、エンジン1を制御するエンジン用電子制御装置(E−ECU)41が設けられている。これらの電子制御装置40,41は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算を行い、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、および変速比の設定、ならびにエンジン1の運転状態の設定などの制御を実行するように構成されている。そして、これらの電子制御装置40,41の間で相互にデータを通信するようになっている。
前述したように、この発明に係る車両のエネルギ回生装置は、既存の変速機の構造を大幅に変更することなく、車両Veの運動エネルギを油圧に変換して蓄圧し、その蓄圧した油圧によって動力を発生させてエンジン1のトルクをアシストすることを目的としていて、そのための油圧制御回路が設けられている。その油圧制御回路の構成例、および制御例を以下に説明する。
(第1の実施例)
図1は、この発明のエネルギ回生装置を構成する油圧制御回路Hの第1の実施例を模式的に示す図である。図1において、エンジン1の出力する動力、あるいは車両Veが有している慣性力などの、外力を受けて駆動されるオイルポンプモータ14が設けられており、このオイルポンプモータ14は、吸入ポート14sおよび吐出ポート14dを有している。そしてこのオイルポンプモータ14は、外部からの動力で入出力軸15を駆動することによりポンプとして作動し、吸入ポート14sからオイルを吸入して吐出ポート14dから圧油を吐出するようになっている。さらに、吸入ポート14sへ圧油を供給することによりモータとして作動し、入出力軸15から動力を出力するようになっている。
このオイルポンプモータ14の吸入ポート14sとオイルパン50とが、油路51により接続されている。また、油路51の途中には、逆止弁(チェック弁)52が設けられている。この逆止弁52は、油路51においてオイルパン50からオイルポンプモータ14側へのオイルの流動を許容し、反対にオイルポンプモータ14側からオイルパン50へのオイルの流動を規制する構成となっている。
オイルポンプモータ14の吐出ポート14dには、油路53の一端が接続されていて、その油路53の他端が、切換弁54を介してアキュムレータ55に接続されている。また、油路53の吐出ポート14dと切換弁54との間に、オリフィスあるいはチョークなどの絞り部56が設けられていて、この絞り部56と吐出ポート14dとの間の部分から油路57および油路58が分岐している。そして、油路57は、無段変速機5の油圧制御装置(図示せず)におけるプライマリレギュレータバルブ59に接続されていて、油路58は、無段変速機5の潤滑必要部位へのオイル供給部(図示せず)に接続されている。一方、油路51の逆止弁52と吸入ポート14sとの間の部分から分岐する油路60が、前記の切換弁54を介してアキュムレータ55に接続されている。
ここで、上記の油路53が、オイルポンプモータ14の吐出ポート14dとアキュムレータ55とに接続され、オイルポンプモータ14で発生させた油圧をアキュムレータ55へ供給する際に用いられるこの発明の第1油路に相当する油路である。また、上記の油路60が、アキュムレータ55とオイルポンプモータ14の吸入ポート14sとに接続され、アキュムレータ55に蓄圧した油圧をオイルポンプモータ14へ供給する際に用いられるこの発明の第2油路に相当する油路である。
切換弁54は、アキュムレータ55と油路53とを連通させた状態、すなわちこの発明の第1油路を開通させた状態である第1油路開通状態(図1で切換弁54の位置は(i))と、アキュムレータ55と油路60とを連通させた状態、すなわちこの発明の第2油路を開通させた状態である第2油路開通状態(図1で切換弁54の位置は(ii))と、アキュムレータ55をいずれの油路53,60にも連通させない遮断状態(図1で切換弁54の位置は(iii))とを選択的に切り換えて設定できる構成となっている。
アキュムレータ55は、オイルポンプモータ14によって発生した油圧を蓄える蓄圧器であって、オイルポンプとしてのオイルポンプモータ14の駆動が停止した場合に、そのオイルポンプモータ14に替わって油圧源となるものである。
つぎに、上記のように構成された、この発明の第1の実施例における油圧制御回路Hの機能および動作を説明する。先ず、エンジン1の動力がオイルポンプモータ14に伝達されると、オイルポンプモータ14がポンプとして駆動される。すると、オイルパン50のオイルが油路51および吸入ポート14sを経由してオイルポンプモータ14に吸い込まれるとともに、そのオイルポンプモータ14の吐出ポート14dから吐出されたオイルが油路53に供給される。
あるいは、車両Veが惰力走行している場合や降坂路を走行している場合など、駆動輪32側から無段変速機5を経由してオイルポンプモータ14に伝達される外力によってオイルポンプモータ14がポンプとして駆動される場合も、同様に、オイルパン50のオイルが油路51および吸入ポート14sを経由してオイルポンプモータ14に吸い込まれるとともに、そのオイルポンプモータ14の吐出ポート14dから吐出されたオイルが油路53に供給される。
このとき、切換弁54が第1油路開通状態に設定されている場合は、油路53に供給されたオイルは、油路57および油路58を経由して、それぞれ無段変速機5の油圧制御装置および潤滑必要部位に供給されるとともに、油路53および切換弁54を経由して、アキュムレータ55に供給されて蓄圧される(図2の(a)に示す動作Aの状態)。すなわち、オイルポンプモータ14が外力を受けてポンプとして駆動されて油圧を発生し、その油圧がアキュムレータ55に蓄圧されるいわゆる油圧エネルギの回生状態となる。
これに対して、切換弁54が第2油路開通状態に設定されて、アキュムレータ55に蓄圧されていた油圧がオイルポンプモータ14に供給されると、オイルポンプモータ14がモータとして駆動される。すると、オイルポンプモータ14はトルクを出力し、そのオイルポンプモータ14の出力トルクが、エンジン1の出力するトルクに付加される。すなわち、オイルポンプモータ14の出力トルクにより、エンジン1の出力トルクがアシストされる(図2の(b)に示す動作Bの状態)。すなわち、オイルポンプモータ14が油圧を受けてモータとして駆動されてトルクを発生するいわゆる油圧エネルギの力行状態となる。
また、切換弁54が遮断状態に設定されている場合は、オイルポンプモータ14で発生して油路53に供給されたオイルは、油路57および油路58を経由して、それぞれ無段変速機5の油圧制御装置および潤滑必要部位に供給される(図2の(c)に示す動作Cの状態)。すなわち、アキュムレータ55は油圧の供給および出力のいずれも行われず、アキュムレータ55の油圧の蓄圧状態が維持されるいわゆる油圧エネルギの遮断状態となる。
そして、エンジン1が停止している状態で切換弁54が第1油路開通状態に設定されている場合、例えば、信号待ちによる一時的な停車時にエンジン1を自動停止させるいわゆるエコラン制御が実行されてエンジン1が停止している場合は、アキュムレータ55に蓄圧されていた油圧が、油路53と、油路57および油路58とを経由して、それぞれ無段変速機5の油圧制御装置および潤滑必要部位に供給される(図2の(d)に示す動作Dの状態)。なお、この場合、アキュムレータ55から供給されるオイルは、油路53を経由する際に絞り部56を通過するため、オイルの流量が抑制され、アキュムレータ55に蓄圧された油圧が必要以上に流出してしまうことが防止される。
図3のフローチャートに、上記の油圧制御回路Hの各動作状態を設定する際の制御例を示す。このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図3において、先ず、油圧エネルギの回生指令の有無について判断される(ステップS11)。油圧エネルギの回生指令とは、オイルポンプモータ14をポンプとして駆動して油圧を発生させ、その油圧をアキュムレータ55に蓄圧するいわゆる油圧エネルギの回生制御を実行させる指令である。そしてその回生指令の有無は、エンジン1の運転状態、車両Veの車速、アクセルペダルの踏み込み状態、ブレーキペダルの踏み込み状態などに基づいて判断される。
例えば、車両Veの制動時、具体的には、車両Veが所定の車速以上で走行中に、アクセルスイッチがOFF、かつブレーキスイッチがONとなった場合に、油圧エネルギの回生指令が出力される。すなわち、車両Veの制動時には、エンジン1の回転速度と車両Veの車速となどから求まるエンジン1の出力による駆動力に対して、アクセルペダルおよびブレーキペダルの踏み込み状態と車両Veの車速となどから決まる要求駆動力が小さくなるため、余剰な駆動力や車両Veの慣性力などによる運動エネルギを油圧に変換してアキュムレータ55に蓄圧すること、すなわち油圧エネルギを回生することが可能になる。またこの場合、エンジン1の出力をアシストする必要もない。したがって、油圧エネルギの回生制御が実行されることになる。
油圧エネルギの回生指令が出力されたことにより、このステップS11で肯定的に判断された場合は、ステップS12へ進み、油圧制御回路Hが動作Aの状態、すなわち油圧エネルギの回生状態にされる。具体的には、切換弁54の位置が第1油路開通状態、すなわち図1での(i)の位置に設定されて、オイルポンプモータ14の吐出ポート14dとアキュムレータ55との間の油路53が開通させられる。なお、このときトルクコンバータ3のロックアップクラッチ13は係合状態に設定される。ロックアップクラッチ13が係合されることにより、駆動輪32側から無段変速機5を経由してトルクコンバータ3に伝達される外力が、ロックアップクラッチ13を介して確実にオイルポンプモータ14へ伝達されるため、その外力による油圧エネルギの回生を効率良く実行することができる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、油圧エネルギの回生指令が出力されていないことにより、ステップS11で否定的に判断された場合には、ステップS13へ進み、油圧エネルギの力行指令の有無について判断される。油圧エネルギの力行指令とは、オイルポンプモータ14をモータとして駆動してトルクを発生させ、そのトルクをエンジン1の出力軸2に付加するいわゆる油圧エネルギの力行制御を実行させる指令である。そしてその力行指令の有無は、エンジン1の運転状態、車両Veの車速、アクセルペダルの踏み込み状態、ブレーキペダルの踏み込み状態などに基づいて判断される。
例えば、車両Veの発進・加速時、具体的には、アクセルスイッチがOFF、かつブレーキスイッチがONの状態から、アクセルスイッチがON、かつブレーキスイッチがOFFの状態に変化し、なおかつアキュムレータ55内の圧力(アキュムレータ55の蓄圧量)が所定の圧力(蓄圧量)以上である場合に、油圧エネルギの力行指令が出力される。すなわち、車両Veの発進・加速時に、エンジン1の出力による駆動力に対して要求駆動力の方が大きくなる場合に、その場合に不足する駆動力をオイルポンプモータ14をモータとして作動させて出力したトルクで補うこと、すなわちオイルポンプモータ14の出力トルクでエンジン1の出力をアシストすることにより、車両Veの動力性能や燃費などの向上を図ることが可能になる。したがって、油圧エネルギの力行制御が実行されることになる。
油圧エネルギの力行指令が出力されたことにより、このステップS13で肯定的に判断された場合は、ステップS14へ進み、油圧制御回路Hが動作Bの状態、すなわち油圧エネルギの力行状態にされる。具体的には、切換弁54の位置が第2油路開通状態、すなわち図1での(ii)の位置に設定されて、アキュムレータ55とオイルポンプモータ14の吸入ポート14sとの間の油路60が開通させられる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、油圧エネルギの力行指令が出力されていないことにより、ステップS13で否定的に判断された場合には、ステップS15へ進み、油圧エネルギの遮断指令の有無について判断される。油圧エネルギの遮断指令とは、アキュムレータ55をいずれの油路53,60にも連通させず、アキュムレータ55に蓄圧されている油圧を維持するいわゆる油圧エネルギの遮断制御を実行させる指令である。そしてその遮断指令の有無は、エンジン1の運転状態、車両Veの車速、アクセルペダルの踏み込み状態、ブレーキペダルの踏み込み状態などに基づいて判断される。
例えば、長時間の車両停止時もしくは定常走行時、具体的には、車両Ve全体のシステムがOFF(メインスイッチがOFF)にされた場合、あるいはアクセルスイッチおよびブレーキスイッチがいずれもOFFの状態が所定時間以上継続された場合、もしくは平坦な良路を中・低速の一定車速で巡航走行するような定常走行時などに、油圧エネルギの遮断指令が出力される。すなわち、長時間の車両停止時、もしくは定常走行時には、エンジン1の出力による駆動力および要求駆動力のいずれも発生せず、もしくはエンジン1の出力による駆動力と要求駆動力とがほぼ均衡する走行状態となり、アキュムレータ55に対しては、アキュムレータ55への油圧の蓄圧、およびアキュムレータ55からの油圧の吐出のいずれも要求されない。そのため、この場合にアキュムレータ55の油圧の出入りを遮断することにより、アキュムレータ55に蓄えられている油圧エネルギを温存することが可能になる。したがって、油圧エネルギの遮断制御が実行されることになる。
油圧エネルギの遮断指令が出力されたことにより、このステップS15で肯定的に判断された場合は、ステップS16へ進み、油圧制御回路Hが動作Cの状態、すなわち油圧エネルギの遮断状態にされる。具体的には、切換弁54の位置が遮断状態、すなわち図1での(iii)の位置に設定されて、アキュムレータ55をいずれの油路53,60にも連通させない状態にされる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、油圧エネルギの遮断指令が出力されていないことにより、ステップS15で否定的に判断された場合には、ステップS17へ進み、エコラン指令の有無について判断される。エコラン指令とは、例えば、信号待ちなどの一時的な停車時にエンジン1を自動停止させるいわゆるエコラン制御を実行させる指令である。そしてそのエコラン指令の有無も、エンジン1の運転状態、車両Veの車速、アクセルペダルの踏み込み状態、ブレーキペダルの踏み込み状態などに基づいて判断される。
エコラン制御が実行されてエンジン1が自動停止した場合には、運転者の加速意志によるエンジン1の再始動および発進時に備えて、無段変速機5の油圧制御装置へ油圧を供給しておく必要がある。そこで、アキュムレータ55に蓄圧された油圧を無段変速機5の油圧制御装置へ供給することにより、エコラン制御によるエンジン1の自動停止時であっても、無段変速機5において必要な油圧を確保することができる。また、この場合の無段変速機5への油圧の供給は、いずれの動力も消費されない状態で行われるため、車両Veの燃費の向上を図ることができる。
したがって、エコラン指令が出力されたことにより、このステップS17で肯定的に判断された場合は、ステップS18へ進み、油圧制御回路Hが動作Dの状態、すなわちアキュムレータ55に蓄圧されていた油圧が、無段変速機5の油圧制御装置および潤滑必要部位に供給される状態にされる。具体的には、切換弁54の位置が第1油路開通状態、すなわち図1での(i)の位置に設定されて、オイルポンプモータ14の吐出ポート14dとアキュムレータ55との間の油路53が開通させられる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。また、エコラン指令が出力されていないことにより、ステップS17で否定的に判断された場合には、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
このように、この発明のエネルギ回生装置の第1の実施例によれば、従来一般に採用されている変速機の構成を大幅に変更することなく、例えば減速時、発進・加速時、停止時、エコラン制御実行時等の車両Veの走行状態に応じて、油圧エネルギの回生制御、油圧エネルギの力行制御、油圧エネルギの遮断制御等を適宜に切り換えて実行することができる。
(第2の実施例)
図4は、この発明のエネルギ回生装置を構成する油圧制御回路Hの第2の実施例を模式的に示す図である。この第2の実施例は、上記の図1に示す第1の実施例に対して、オイルポンプモータ14を、吐出流量を変更することが可能な可変容量型のオイルポンプモータに置き換えた構成の例である。したがって、オイルポンプモータ14以外の構成は図1に示す第1の実施例と同様であり、図1に示す第1の実施例と同様の部分は、図4に図1と同様の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
図4において、上記の図1に示す第1の実施例におけるオイルポンプモータ14に換えて、吐出流量を変更することが可能な可変容量型のオイルポンプモータ61が設けられている。このオイルポンプモータ61は、外部から動力を受けてポンプとして機能し、また外部から油圧を供給されることによりモータとして機能するオイルポンプモータであり、特に押出容積もしくは吐出流量を変化させることのできる可変容量型のものである。この種の可変容量型のオイルポンプモータ61としては、例えば、車軸ポンプや斜板ポンプ、ラジアルピストンポンプなどの油圧ポンプモータ、あるいは吐出ポートを2つ備え、いずれかの吐出ポートからのドレン量を制御することにより吐出流量を変更可能な、いわゆる2ポートポンプモータなどを採用することができる。
したがって、油圧制御回路Hのオイルポンプモータとして、前述のオイルポンプモータ14に換えて、この可変容量型のオイルポンプモータ61が設けられることにより、車両Veの走行状態に応じてオイルポンプモータ61の吐出流量が変化させられて、車両Veの走行状態に応じて変化する必要油圧が適切に発生させられる。
このように、この発明のエネルギ回生装置の第2の実施例によれば、油圧制御回路Hにおいて油圧を発生させるオイルポンプモータを、可変容量型のオイルポンプモータ61とすることにより、車両Veの走行状態、あるいは油圧制御回路Hの負荷に応じてオイルポンプモータ61の吐出流量を変化させることができる。例えば、急減速時には、油圧エネルギの回生を行う時間が短くなり、アキュムレータ55に油圧を充分に蓄圧できない場合があったが、その場合に、通常の減速時よりもオイルポンプモータ61の吐出流量を増加することにより、時間当たりのアキュムレータ55への油圧の蓄圧量が増大し、急減速時における油圧の蓄圧量、すなわち油圧エネルギの回生量を増大することができる。その結果、油圧エネルギの回生効率を向上させ、車両Veとしての燃費を向上させることができる。
また、急発進あるいは急加速時には大きな駆動力が要求されるが、その場合に、通常の発進・加速時よりもオイルポンプモータ61の吐出流量を増加することにより、オイルポンプモータ61の出力トルクを増大させ、エンジン1の出力する動力に付加するトルク、すなわちエンジン1への動力のアシスト量を増大することができる。その結果、急発進あるいは急加速時における駆動力の立ち上がりを良好にして、車両Veの動力性能を向上させることができる。一方、緩やかな発進あるいは加速時などには、オイルポンプモータ61の吐出流量を減少することにより、オイルポンプモータ61の出力トルクを低下させ、小さなトルクを長時間出力してエンジン1の動力をアシストすることができる。
(第3の実施例)
図5は、この発明のエネルギ回生装置を構成する油圧制御回路Hの第3の実施例を模式的に示す図である。この第3の実施例は、上記の図1に示す第1の実施例に対して、オイルポンプモータ14を吐出ポート14dとアキュムレータ55とを接続する油路53に設けられている絞り部56と並列に、逆止弁を設けた構成の例である。したがって、その他の部分の構成は、図1に示す第1の実施例と同様であり、図1に示す第1の実施例と同様の部分は、図5に図1と同様の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
図5において、油路53のオイルポンプモータ14の吐出ポート14dと切換弁54との間に、同様に油路53の吐出ポート14dと切換弁54との間に設けられている絞り部56と並列して、逆止弁(チェック弁)62が設けられている。この逆止弁62は、油路53においてオイルポンプモータ14から切換弁54へのオイルの流動を許容し、反対に切換弁54から無段変速機5へのオイルの流動を規制する構成となっている。
したがって、油路53におけるオイルの流れは、オイルポンプモータ14側から切換弁54へ向かってオイルが流動する場合、すなわちオイルポンプモータ14で発生した油圧がアキュムレータ55で蓄圧される場合、言い換えると、油圧エネルギの回生が行われる場合は、逆止弁62で流動が許容されることにより、オイルはその逆止弁62側を通過することになり、可及的に大きな流量で油圧の蓄圧が行われる。反対に、切換弁54からオイルポンプモータ14側すなわち無段変速機5側へ向かってオイルが流動する場合、すなわちアキュムレータ55で蓄圧された油圧が無段変速機5の油圧制御装置や潤滑必要部位へ供給される場合は、逆止弁62で流動が規制されることにより、オイルは絞り部56側を通過することになり、流量が抑制されて無段変速機5の油圧制御装置および潤滑必要部位への油圧の供給が行われる。
このように、この発明のエネルギ回生装置の第3の実施例によれば、オイルポンプモータ14を吐出ポート14dとアキュムレータ55とを接続する油路53に、オイルの流動を抑制する絞り部56と、オイルポンプモータ14から切換弁54へのオイルの流動を許容し、かつ切換弁54から無段変速機5へのオイルの流動を規制する逆止弁62を設けることにより、車両Veの走行状態、特に油圧エネルギの回生状態もしくは油圧の供給状態に応じて、アキュムレータ55へ供給されるオイルの流量、もしくは無段変速機5の油圧制御装置および潤滑必要部位へ供給されるオイルの流量を、特別な制御を行うことなく、適切に、かつ容易に設定することができる。
例えば、油圧エネルギの回生が行われる場合は、オイルポンプモータ14で発生したオイルは、逆止弁62側を通過することになる。そのため、アキュムレータ55への油圧の供給および蓄圧が大きな流量で行われ、アキュムレータ55への油圧の蓄圧量、すなわち油圧エネルギの回生量を増大することができる。その結果、油圧エネルギの回生効率を向上させ、車両Veとしての燃費を向上させることができる。一方、例えば、エコラン制御が実行されてエンジン1が自動停止されている場合には、アキュムレータ55から吐出されたオイルは、絞り部56側を通過することになる。そのため、エンジン1が停止していてオイルポンプモータ14から油圧を供給できないエコラン運転時に、アキュムレータ55から供給されるオイルの流量が抑制され、アキュムレータ55に蓄圧された油圧が必要以上に流出してしまうことを防止することができる。
(第4の実施例)
図6は、この発明のエネルギ回生装置を構成する油圧制御回路Hの第4の実施例を模式的に示す図である。この第4の実施例は、上記の図1に示す第1の実施例に対して、アキュムレータ55を、温度変化に応じて潜熱の吸収および放熱を生じる相変化が可能な物質が充填されたアキュムレータに置き換えた構成の例である。したがって、アキュムレータ55以外の構成は図1に示す第1の実施例と同様であり、図1に示す第1の実施例と同様の部分は、図6に図1と同様の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
図6において、前述の図1に示す第1の実施例におけるアキュムレータ55に換えて、アキュムレータ63が設けられている。このアキュムレータ63は、温度変化に応じて潜熱の吸収および放熱を生じる相変化が可能な物質が充填されたいわゆる相変化アキュムレータ63である。具体的には、この相変化アキュムレータ63には、例えば、二酸化炭素やアンモニアなどの、一般的な車両Veの使用温度範囲内および使用圧力範囲内において、気相と液相との間の相変化が可能ないわゆる相変化物質が封入されている。
したがって、油圧制御回路Hのアキュムレータとして、前述のアキュムレータ55に換えて、この相変化アキュムレータ63が設けられることにより、相変化アキュムレータ63で蓄圧可能なオイルの量が増加する。すなわち、相変化アキュムレータ63に油圧が蓄圧される場合は、相変化アキュムレータ63内部は圧縮される状態になり、相変化アキュムレータ63内に封入されている前記相変化物質も圧縮される。すると相変化物質は液化し、すなわち気相から液相へ相変化する。そして相変化物質が液化することに伴って、その相変化物質の体積が減少する。そのため、相変化アキュムレータ63に油圧が蓄圧される際には、その相変化アキュムレータ63内に封入されている相変化物質の体積が減少する分、相変化アキュムレータ63内における相変化物質が存在しない空間、すなわち相変化アキュムレータ63内にオイルを蓄圧することが可能な空間の容積が増加する。
このように、この発明のエネルギ回生装置の第4の実施例によれば、油圧制御回路Hにおいて油圧を蓄圧するアキュムレータを、相変化物質が封入された相変化アキュムレータ63とすることにより、相変化アキュムレータ63内に蓄圧できるオイルの量、すなわち相変化アキュムレータ63の容量を増大することができる。その結果、油圧エネルギの回生効率を向上させ、車両Veとしての燃費を向上させることができる。
また、相変化アキュムレータ63での油圧の蓄圧量が増大することにより、相変化アキュムレータ63から供給される油圧によってオイルポンプモータ14を駆動する際のオイルポンプモータ14の出力トルクを増大させ、エンジン1の出力する動力に付加するトルク、すなわちエンジン1への動力のアシスト量を増大することができる。その結果、急発進あるいは急加速時における駆動力の立ち上がりを良好にして、車両Veの動力性能を向上させることができる。
さらに、相変化アキュムレータ63の容量が増大することにより、その相変化アキュムレータ63の体格を小型化することが可能になり、装置全体としての小型化、およびコストの低減を図ることができる。
なお、この図6に示す第4の実施例においては、図7に示すように、前述の図4に示す第2の実施例におけるアキュムレータ55を、上記のように、温度変化に応じて潜熱の吸収および放熱を生じる相変化が可能な物質が充填された相変化アキュムレータ63に置き換えた構成とすることもできる。別な言い方をすれば、前述の図4に示す第2の実施例に対して、アキュムレータ55を、温度変化に応じて潜熱の吸収および放熱を生じる相変化が可能な物質が充填されたアキュムレータに置き換えた構成とすることもできる。
また、この図6に示す第4の実施例においては、図8に示すように、前述の図5に示す第3の実施例におけるアキュムレータ55を、上記のように、温度変化に応じて潜熱の吸収および放熱を生じる相変化が可能な物質が充填された相変化アキュムレータ63に置き換えた構成とすることもできる。別な言い方をすれば、前述の図5に示す第3の実施例に対して、アキュムレータ55を、温度変化に応じて潜熱の吸収および放熱を生じる相変化が可能な物質が充填されたアキュムレータに置き換えた構成とすることもできる。
これら図7および図8に示す構成とした場合も、上記の図6に示す第4の実施例の場合と同様に、相変化アキュムレータ63の容量を増大することができ、油圧エネルギの回生効率を向上させ、車両Veとしての燃費を向上させることができる。また、相変化アキュムレータ63から供給される油圧によってオイルポンプモータ14,61を駆動する際のオイルポンプモータ14,61の出力トルクを増大させ、エンジン1の出力する動力に付加するトルク、すなわちエンジン1への動力のアシスト量を増大することができる。さらに、相変化アキュムレータ63の容量が増大することにより、その相変化アキュムレータ63の体格を小型化することが可能になる。
(第5の実施例)
図9は、この発明のエネルギ回生装置を構成する油圧制御回路Hの第5の実施例を模式的に示す図である。この第5の実施例は、上記の図1,図4,図5,図6に示す第1ないし第4の実施例に対して、アキュムレータ55が膨張・圧縮する際の温度変化を利用して、オイルを昇温もしくは冷却する伝熱回路を設けた構成の例である。したがって、その他の部分の構成は、図1,図4,図5,図6に示す第1ないし第4の実施例と同様であり、それら図1,図4,図5,図6に示す第1ないし第4の実施例と同様の部分は、図9に図1,図4,図5,図6と同様の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。なお、この図9には、前述の図5に示す第3の実施例の構成におけるアキュムレータ55に、伝熱回路を設けた構成の例を示してある。
図9において、アキュムレータ55に、アキュムレータ55の温度を冷却もしくは昇温し、かつオイルを冷却もしくは昇温する伝熱回路Tが設けられている。具体的には、この伝熱回路Tは、アキュムレータ55の外表面に密接して設置された第1熱交換機64と、オイルパン50内のオイルの油面よりも下方に、すなわち常時オイルに浸漬する位置に設置された第2熱交換機65と、外気に開放された位置に設置された第3熱交換機66とが備えられている。これら熱交換機64,65,66は、複数の冷却媒体同士の間で熱交換を行う装置である。
第1熱交換器64と第2熱交換機65とが、流路67、および流路68により接続されている。また、第1熱交換機64と第3熱交換器66とが、流路67、およびその流路67から切換弁69を介して分岐した流路70、および流路68、およびその流路68から分岐した流路71により接続されている。そして、第2熱交換器65と第3熱交換機66とが、流路67、および流路70、および流路68、および流路71により接続されている。そして、各熱交換器64,65,66および各流路67,68,70,71には、伝熱媒体が充填されている。伝達媒体としては、例えば水や冷却用オイルなどを用いることができる。
流路67において、第1熱交換機64と切換弁69との間に、第1熱交換機64側から順に、循環ポンプ72、および逆止弁(チェック弁)73が設けられている。循環ポンプ72は、この伝熱回路T内において伝熱媒体を循環させるための流体ポンプである。また、逆止弁73は、油路67において第1熱交換機64から切換弁69への伝熱媒体の流動を許容し、反対に切換弁69から第1熱交換機64への伝熱媒体の流動を規制する構成となっている。そして、切換弁69と第2熱交換機65とが流路67により直接に接続されている。
また、流路68において、第2熱交換機65と、流路68と流路71との分岐点74との間に、逆止弁(チェック弁)75が設けられている。この逆止弁75は、油路68において第2熱交換機65から第1熱交換機64への伝熱媒体の流動を許容し、反対に第1熱交換機64から第2熱交換機65への伝熱媒体の流動を規制する構成となっている。
また、流路70により、切換弁69と第3熱交換機66とが接続され、流路71において、分岐点74と第3熱交換機66との間に、逆止弁(チェック弁)76が設けられている。この逆止弁76は、油路71において第3熱交換機66から分岐点74への伝熱媒体の流動を許容し、反対に分岐点74から第3熱交換機66への伝熱媒体の流動を規制する構成となっている。
そして、切換弁69は、油路67と油路70とを遮断した状態、すなわち油路67により第1熱交換機64と第2熱交換機65とを連通させた状態と、油路67と油路70とを連通させた状態、すなわち油路67および油路70により第1熱交換機64と第3熱交換機66とを連通させた状態とを選択的に切り換えて設定できる構成となっている。
したがって、この伝熱回路Tにおいては、切換弁69により、油路67と油路70とを遮断した場合には、第1熱交換機64と第2熱交換機65とが、油路67と油路68とによりそれぞれ接続された、第1回路T1が形成される。一方、切換弁69により、油路67と油路70とが連通された場合には、第1熱交換機64と第3熱交換機66とが、油路67および油路70と油路71および油路68とによりそれぞれ接続された、第2回路T2が形成される。すなわち、切換弁69によって選択的に切り換えが可能な第1回路T1と第2回路T2により、伝熱回路Tが構成されていて、この切換弁69は、この発明の伝熱回路切換弁に相当する切換弁である。
上記のように構成されたこの発明の第5の実施例におけるエネルギ回生装置の機能および動作を説明する。先ず、図10を参照して、この第5の実施例における油圧制御回路Hの動作原理について説明する。図10に示すように、アキュムレータ55は、アキュムレータ55へ油圧が蓄圧される場合、すなわちアキュムレータ55が圧縮される場合は、アキュムレータ55内部の気体が圧縮されて発熱することにより、アキュムレータ55の温度が上昇する。一方、アキュムレータ55から油圧が吐出される場合、すなわちアキュムレータ55が膨張する場合は、アキュムレータ55内部の気体が膨張して吸熱することにより、アキュムレータ55の温度が低下する。
この原理を利用することにより、車両Veの始動直後などの無段変速機5の温度が低く、オイルの温度も低い冷間状態の場合に、アキュムレータ55が圧縮される際に発生する熱をオイルパン50へ伝熱させてオイルを昇温するとともに、アキュムレータ55が膨張する際に外気から熱を吸熱させてアキュムレータ55の温度低下を抑制して、無段変速機5の暖機を促進することができる。一方、無段変速機5が十分に暖機されている状態の場合に、アキュムレータ55が圧縮される際に発生する熱を外気に放熱させてアキュムレータ55の温度上昇を抑制するとともに、アキュムレータ55が膨張する際にオイルパン50のオイルから熱を吸熱させてオイルを冷却して、無段変速機5の温度上昇を抑制することができる。
つぎに、図11を参照して、この第5の実施例における伝熱回路Tの機能および動作を説明する。先ず、無段変速機5のオイルの温度が低い冷間状態における伝熱回路Tの機能および動作について説明する。この冷間状態において、アキュムレータ55に油圧が蓄圧される場合、すなわちアキュムレータ55が圧縮される場合は、切換弁69の動作により、伝熱回路Tとして第1回路T1が選択されて設定される。そしてアキュムレータ55が圧縮される際に発生する熱により、アキュムレータ55に接して設置されている第1熱交換機64内の伝熱媒体が昇温される。すなわち、アキュムレータ55と第1熱交換機64内の伝熱媒体との間で熱交換が行われる。アキュムレータ55と熱交換されて第1熱交換機64内で昇温された伝熱媒体は、循環ポンプ72により第1回路T1を、図11での反時計回りの流動方向で循環させられる。
すなわち、第1熱交換機64内で昇温された伝熱媒体は、オイルパン50のオイル内に設置された第2熱交換機65へ圧送される。第2熱交換機65内では、伝熱媒体の熱がオイルパン50内のオイルに伝熱して、オイルパン50内のオイルが昇温される。すなわち第2熱交換機65内の伝熱媒体とオイルパン50内のオイルとの間で熱交換が行われる。そして、オイルパン50内のオイルと熱交換されて冷却された伝熱媒体が第1熱交換機64へ圧送されて、第1熱交換機64内で、再びアキュムレータ55との間で熱交換が行われる(図11の(a)に示す動作Eの状態)。
したがって、冷間状態において、アキュムレータ55に油圧が蓄圧される場合は、伝熱回路Tの伝熱媒体が、第1回路T1内を循環させられることにより、オイルパン50内のオイルがアキュムレータ55で発生する熱によって昇温されて、その結果、無段変速機5の暖機が促進される。
一方、冷間状態において、アキュムレータ55から油圧が吐出される場合、すなわちアキュムレータ55が膨張する場合は、切換弁69の動作により、伝熱回路Tとして第2回路T2が選択されて設定される。そしてアキュムレータ55が膨張する際の吸熱により、アキュムレータ55に接して設置されている第1熱交換機64内の伝熱媒体が冷却されて、外気温よりも低い温度になる。すなわち、アキュムレータ55と第1熱交換機64内の伝熱媒体との間で熱交換が行われる。アキュムレータ55と熱交換されて第1熱交換機64内で冷却された伝熱媒体は、循環ポンプ72により第2回路T2を、図11での反時計回りの流動方向で循環させられる。
すなわち、第1熱交換機64内で冷却された伝熱媒体は、外気に開放された状態で設置された第3熱交換機66へ圧送される。第3熱交換機66内では、外気の熱が第3熱交換機66内の伝熱媒体に伝熱して、第3熱交換機66内の伝熱媒体が外気温並に昇温される。すなわち外気と第3熱交換機66内の伝熱媒体との間で熱交換が行われる。そして、外気と熱交換されて昇温された伝熱媒体が第1熱交換機64へ圧送されて、第1熱交換機64内で、再びアキュムレータ55との間で熱交換が行われる(図11の(b)に示す動作Fの状態)。
したがって、冷間状態において、アキュムレータ55から油圧が吐出される場合は、伝熱回路Tの伝熱媒体が、第2回路T2内を循環させられることにより、伝熱媒体が外気温以下に低下することが抑制されて、膨張することによるアキュムレータ55の温度低下も抑制され、その結果、無段変速機5の暖機が促進もしくは暖機効果の低下が抑制される。
これに対して、無段変速機5のオイルの温度が高く暖機が完了している状態において、アキュムレータ55に油圧が蓄圧される場合、すなわちアキュムレータ55が圧縮される場合は、切換弁69の動作により、伝熱回路Tとして第2回路T2が選択されて設定される。そしてアキュムレータ55が圧縮される際に発生する熱により、アキュムレータ55に接して設置されている第1熱交換機64内の伝熱媒体が昇温されて、外気温よりも高い温度になる。すなわち、アキュムレータ55と第1熱交換機64内の伝熱媒体との間で熱交換が行われる。アキュムレータ55と熱交換されて第1熱交換機64内で昇温された伝熱媒体は、循環ポンプ72により第2回路T2を、図11での反時計回りの流動方向で循環させられる。
すなわち、第1熱交換機64内で昇温された伝熱媒体は、外気に開放された状態で設置された第3熱交換機66へ圧送される。第3熱交換機66内では、第3熱交換機66内の伝熱媒体の熱が外気に放熱されて、第3熱交換機66内の伝熱媒体が外気温並に冷却される。すなわち外気と第3熱交換機66内の伝熱媒体との間で熱交換が行われる。そして、外気と熱交換されて冷却された伝熱媒体が第1熱交換機64へ圧送されて、第1熱交換機64内で、再びアキュムレータ55との間で熱交換が行われる(図11の(c)に示す動作Gの状態)。
したがって、暖機完了状態において、アキュムレータ55に油圧が蓄圧される場合は、伝熱回路Tの伝熱媒体が、第2回路T2内を循環させられることにより、その伝熱媒体の熱が外気に放熱されて、その結果、無段変速機5の冷却が促進もしくは冷却効果の低下が抑制される。
一方、暖機完了状態において、アキュムレータ55から油圧が吐出される場合、すなわちアキュムレータ55が膨張する場合は、切換弁69の動作により、伝熱回路Tとして第1回路T1が選択されて設定される。そしてアキュムレータ55が膨張する際の吸熱により、アキュムレータ55に接して設置されている第1熱交換機64内の伝熱媒体が冷却されて、外気温よりも低い温度になる。すなわち、アキュムレータ55と第1熱交換機64内の伝熱媒体との間で熱交換が行われる。アキュムレータ55と熱交換されて第1熱交換機64内で冷却された伝熱媒体は、循環ポンプ72により第1回路T1を、図11での反時計回りの流動方向で循環させられる。
すなわち、第1熱交換機64内で冷却された伝熱媒体は、オイルパン50のオイル内に設置された第2熱交換機65へ圧送される。第2熱交換機65内では、オイルパン50内のオイルの熱が伝熱媒体に伝熱して、オイルパン50内のオイルが冷却される。すなわち第2熱交換機65内の伝熱媒体とオイルパン50内のオイルとの間で熱交換が行われる。そして、オイルパン50内のオイルと熱交換されて昇温された伝熱媒体が第1熱交換機64へ圧送されて、第1熱交換機64内で、再びアキュムレータ55との間で熱交換が行われる(図11の(d)に示す動作Hの状態)。
したがって、暖機完了状態において、アキュムレータ55に油圧が蓄圧される場合は、伝熱回路Tの伝熱媒体が、第1回路T1内を循環させられることにより、オイルパン50内のオイルの熱がアキュムレータ55で吸熱されて冷却されて、その結果、無段変速機5の冷却効果が向上する。
図12のフローチャートに、上記の伝熱回路Tの各動作状態を設定する際の制御例を示す。このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図12において、先ず、無段変速機5の油温tが、閾値として予め設定された所定の温度t0よりも低いか否かが判断される(ステップS21)。
油温tが所定の温度t0よりも低いことにより、このステップS21で肯定的に判断された場合は、ステップS22へ進み、アキュムレータ55が圧縮動作中であるか否か、すなわちアキュムレータ55へ油圧が蓄圧中であるか否かが判断される。アキュムレータ55が圧縮動作中であることにより、このステップS22で肯定的に判断された場合は、ステップS23へ進み、伝熱回路Tが、上記の図11の(a)に示す動作Eの状態にされる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、アキュムレータ55が圧縮動作中でないことにより、ステップS22で否定的に判断された場合には、ステップS24へ進み、アキュムレータ55が膨張動作中であるか否か、すなわちアキュムレータ55から油圧が吐出中であるか否かが判断される。アキュムレータ55が膨張動作中であることにより、このステップS24で肯定的に判断された場合は、ステップS25へ進み、伝熱回路Tが、上記の図11の(b)に示す動作Fの状態にされる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。また、アキュムレータ55が膨張動作中でないことにより、このステップS24で否定的に判断された場合には、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、油温tが所定の温度t0以上であることにより、前述のステップS21で否定的に判断された場合には、ステップS26へ進み、アキュムレータ55が圧縮動作中であるか否か、すなわちアキュムレータ55へ油圧が蓄圧中であるか否かが判断される。アキュムレータ55が圧縮動作中であることにより、このステップS26で肯定的に判断された場合は、ステップS27へ進み、伝熱回路Tが、上記の図11の(c)に示す動作Gの状態にされる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、アキュムレータ55が圧縮動作中でないことにより、ステップS26で否定的に判断された場合には、ステップS28へ進み、アキュムレータ55が膨張動作中であるか否か、すなわちアキュムレータ55から油圧が吐出中であるか否かが判断される。アキュムレータ55が膨張動作中であることにより、このステップS28で肯定的に判断された場合は、ステップS29へ進み、伝熱回路Tが、上記の図11の(d)に示す動作Hの状態にされる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。また、アキュムレータ55が膨張動作中でないことにより、このステップS28で否定的に判断された場合には、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
このように、この発明のエネルギ回生装置の第5の実施例によれば、アキュムレータ55に油圧が蓄圧される際、すなわちアキュムレータ55内の気体が圧縮される際の発熱作用、およびアキュムレータ55から油圧が吐出される際、すなわちアキュムレータ55内の気体が膨張する際の吸熱作用を利用して、伝熱回路Tにいわゆるヒートポンプを形成することができる。
そして、車両Veが冷間状態の場合に、伝熱回路Tを、伝熱媒体が第1回路T1内を循環する状態にすることにより、オイルパン50内のオイルをアキュムレータ55で発生する熱によって昇温し、もしくは伝熱媒体が外気温以下に低下することを抑制して、無段変速機5の暖機を促進することができる。
また、車両Veが暖機完了状態の場合に、伝熱回路Tを、伝熱媒体が第2回路T2内を循環する状態にすることにより、オイルパン50内のオイルをアキュムレータ55で吸熱させることによって冷却し、もしくは伝熱媒体の熱を外気に放熱させて、無段変速機5の冷却性能を向上させることができる。
(第6の実施例)
図13は、この発明のエネルギ回生装置を構成する油圧制御回路Hの第6の実施例を模式的に示す図である。この第6の実施例は、上記の図9に示す第5の実施例に対して、前記の図6に示す第4の実施例における相変化アキュムレータ63を採用した実施例、すなわち、図9に示す第5の実施例におけるアキュムレータ55を、温度変化に応じて潜熱の吸収および放熱を生じる相変化が可能な物質が充填された相変化アキュムレータ63に置き換えた構成の例である。したがって、アキュムレータ55以外の構成は、図9に示す第5の実施例と同様であり、図9に示す第5の実施例と同様の部分は、図13に図9と同様の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
図13において、前述の図9に示す第5の実施例におけるアキュムレータ55に換えて、アキュムレータ63が設けられている。前述したように、このアキュムレータ63は、温度変化に応じて潜熱の吸収および放熱を生じる相変化が可能な物質が充填されたいわゆる相変化アキュムレータ63である。
したがって、油圧制御回路Hのアキュムレータとして、アキュムレータ55に換えて、この相変化アキュムレータ63が設けられることにより、相変化アキュムレータ63で蓄圧可能なオイルの量が増加する。すなわち、相変化アキュムレータ63に油圧が蓄圧される場合は、相変化アキュムレータ63内部は圧縮される状態になり、相変化アキュムレータ63内に封入されている相変化物質も圧縮される。すると相変化物質は液化し、すなわち気相から液相へ相変化する。そして相変化物質が液化することに伴って、その相変化物質の体積が減少する。そのため、相変化アキュムレータ63に油圧が蓄圧される際には、その相変化アキュムレータ63内に封入されている相変化物質の体積が減少する分、相変化アキュムレータ63内における相変化物質が存在しない空間、すなわち相変化アキュムレータ63内にオイルを蓄圧することが可能な空間の容積が増加する。
さらに、油圧制御回路Hのアキュムレータとして、アキュムレータ55に換えて、この相変化アキュムレータ63が設けられることにより、上記のように、相変化アキュムレータ63に油圧が蓄圧されて、相変化アキュムレータ63内部が圧縮される場合、相変化アキュムレータ63内の相変化物質は気相から液相へ相変化する際に潜熱を発生する。この場合は熱エネルギの発散すなわち発熱が生じることになる。したがって、上記のように、アキュムレータ55に油圧が蓄圧される際の発熱作用が一層増長される。また、相変化アキュムレータ63から油圧が吐出されて、相変化アキュムレータ63内部が膨張する場合、相変化アキュムレータ63内の相変化物質は、液相から気相へ相変化する際に潜熱を発生する。この場合は熱エネルギの吸収すなわち吸熱が生じることになる。したがって、上記のように、アキュムレータ55に油圧から油圧が吐出される際の吸熱作用が一層増長される。
そのため、車両Veが冷間状態の場合における無段変速機5の暖機を、より一層促進することができ、また、車両Veが暖機完了状態の場合における無段変速機5の冷却性能を、より一層向上させることができる。
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、上記の具体例では、変速機としてベルト式の無段変速機を搭載した車両を例に採って説明したが、この発明は、トロイダル型無段変速機などの他の形式の無段変速機、あるいは自動変速機などの変速機を搭載した車両に適用することができる。
1…エンジン(内燃機関)、 5…無段変速機(変速機)、 14,61…オイルポンプモータ(油圧ポンプモータ)、 32…駆動輪、 53…油路(第1油路)、 55…アキュムレータ(蓄圧器)、 60…油路(第2油路)、 56…絞り部、 62…逆止弁、 63…相変化アキュムレータ(相変化蓄圧器)、 69…切換弁(伝熱回路切換弁)、 H…油圧制御回路(油圧回路)、 T…伝熱回路、 T1…第1回路、 T2…第2回路、 Ve…車両。